説明

光素子

【課題】
支持基板と単結晶薄板とを熱可塑性接着剤を介して貼り合せて構成される光素子に対し、光波の位相を容易に調整でき、かつ、調整状態を元の状態に復元可能な光素子を提供すること。
【解決方法】
支持基板4と単結晶薄板1とを熱可塑性接着剤3を介して貼り合せて構成される光素子において、該光素子を加熱することによって該熱可塑性接着剤を軟化させた状態で、該薄板の少なくとも一部に弾性限界以内の応力を加え、さらに、該薄板に凹凸部10を形成した後、該光素子を冷却することによって凹凸部を固定化することにより、光学特性が調整されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光素子に関し、特に、支持基板と単結晶薄板とを熱可塑性接着剤を介して貼り合せて構成される光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光通信分野や光計測分野において、光波の強度や位相を制御する各種の光素子が利用されている。
光ファイバー通信系又は計測系において必要とされる光処理の中で、集積化の容易性、制御の高効率性などの観点から、光導波路を有する光素子が利用され、中でもマッハツェンダ型光導波路を有する光素子は、光波の変調動作の高速性や安定性にも優れている。
【0003】
また、ニオブ酸リチウムなどの電気光学効果を有する基板を利用した光素子では、光素子の駆動周波数を広帯域化し、あるいは光素子の駆動電圧を低減するため、基板自体を50μm以下の薄板で形成することが行われている。
なお、薄板化した基板は機械的強度が弱いため、通常、基板の裏面に接着層を介して支持基板が接合されている。(特許文献1参照)
【特許文献1】特開2002−337274号公報
【0004】
他方、光導波路を用いた光素子において、製造された光素子が製造誤差などが原因で所期の特性が達成できない場合や、光素子の特性を積極的に変更する場合などでは、光導波路内を伝搬する光波の位相を調整することが行われている。
光波の位相調整方法は、基本的に、光導波路自体又はその周辺(伝搬する光波が反応する領域)の屈折率を調整するものであり、具体的には、特許文献2のような基板上に溝を形成する方法、フォトリフラクティブ効果や光弾性効果を利用する方法、光導波路上に光導波路と屈折率が異なる材料を形成する方法などがある。
【特許文献2】特開平11−271552号公報
【0005】
しかしながら、従来の位相調整方法では、調整時に複雑で高価な調整装置を必要としたり、一度調整すると、調整された状態を元に戻し、再度調整し直すことが困難であった。このため、調整作業は一層複雑化し、極めて煩雑なものとなっていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、上述した問題を解決し、支持基板と単結晶薄板とを熱可塑性接着剤を介して貼り合せて構成される光素子に対し、光波の位相を容易に調整でき、かつ、調整状態を元の状態に復元可能な光素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、支持基板と単結晶薄板とを熱可塑性接着剤を介して貼り合せて構成される光素子において、該光素子を加熱することによって該熱可塑性接着剤を軟化させた状態で、該薄板の少なくとも一部に弾性限界以内の応力を加え、さらに、該薄板に凹凸部を形成した後、該光素子を冷却することによって凹凸部を固定化することにより、光学特性が調整されていることを特徴とする。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の光素子において、該単結晶薄板に形成された凹凸部の形状を維持するための固定手段を有し、該固定手段が、該熱可塑性接着剤より熱可塑性の小さい材料又は熱可塑性を有しない材料で構成されていることを特徴とする。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の光素子において、該固定手段は、該凹凸部に接して又は該凹凸部上に設けられていることを特徴とする。
【0010】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の光素子において、該単結晶薄板には光導波路が形成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項5に係る発明は、請求項4に記載の光素子において、該凹凸部は、光導波路上又は近傍に形成され、光学特性を調整することを特徴とする。
【0012】
請求項6に係る発明は、請求項5に記載の光素子において、該光導波路は、マッハツェンダ型光導波路であることを特徴とする。
【0013】
請求項7に係る発明は、請求項6に記載の光素子において、該凹凸部は、該マッハツェンダ型光導波路を構成する2本の分岐導波路を伝搬する光の位相を調整するため、該分岐導波路の近傍又は上に配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明では、支持基板と単結晶薄板とを熱可塑性接着剤を介して貼り合せて構成される光素子において、該光素子を加熱することによって該熱可塑性接着剤を軟化させた状態で、該薄板の少なくとも一部に弾性限界以内の応力を加え、さらに、該薄板に凹凸部を形成した後、該光素子を冷却することによって凹凸部を固定化することにより、光学特性が調整されている。このため、熱可塑性接着剤の全部又は一部を加熱しながら薄板を局所的に押圧し、押圧した状態で熱可塑性接着剤を硬化温度まで下げることにより、容易に薄板に凹凸部が形成でき、該凹凸部により光導波路などの光波を導波する部分が湾曲し、結果として空間的な光路長が変化したり、あるいは、当該部分の屈折率が変化して実質的な光路長が変化するため、光波の位相を容易に調整することが可能となる。
【0015】
また、一旦形成した凹凸部は、熱可塑性接着剤を加熱することにより、容易に元の状態に復元することができ、繰り返し何度も凹凸部を形成し、光波の位相調整を行うことが可能となる。
【0016】
請求項2に係る発明により、単結晶薄板に形成された凹凸部の形状を維持するための固定手段を有し、該固定手段が、熱可塑性接着剤より熱可塑性の小さい材料又は熱可塑性を有しない材料で構成されているため、仮に、光素子を駆動している際に、光素子が加熱し、熱可塑性接着剤が軟化する温度になった場合でも、該固定手段により凹凸部が元の状態に戻ることが阻止される。しかも、光素子や周りの環境温度が変化し、熱可塑性接着剤が軟化しても、固定手段の軟化する温度が高い、あるいは、固定手段が軟化しないため、安定的に凹凸部の形状を維持することが可能となる。
【0017】
請求項3に係る発明により、固定手段は、凹凸部に接して又は該凹凸部上に設けられているため、凹凸部が元の状態に復元することを、効果的に抑制することが可能となる。
【0018】
請求項4に係る発明により、単結晶薄板には光導波路が形成されているため、光導波路に対して凹凸部を形成する場所や凹凸部の大きさ、及び凹凸部の数を種々選択することにより、光導波路を伝搬する光波の位相を多様に調整することが可能となる。
【0019】
請求項5に係る発明により、凹凸部は、光導波路上又は近傍に形成され、光学特性を調整するため、より効果的に光波の位相を調整することが可能となる。
【0020】
請求項6に係る発明により、光導波路は、マッハツェンダ型光導波路であるため、マッハツェンダ型光導波路を用いた光変調器などの動作点を、本発明を用いて容易、かつ、繰り返し調整することが可能となる。
【0021】
請求項7に係る発明により、凹凸部は、マッハツェンダ型光導波路を構成する2本の分岐導波路を伝搬する光の位相を調整するため、該分岐導波路の近傍又は上に配置されているため、2つの分岐導波路を伝搬する光波の位相差をより効果的に調整することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明に係る光素子について、詳細に説明する。
図1は、本発明の光素子の平面図であり、図2に図1の矢印X−Xにおける断面図を示す。
本発明の光素子は、支持基板4と単結晶薄板1とを熱可塑性接着剤3を介して貼り合せて構成される光素子において、該光素子を加熱することによって該熱可塑性接着剤を軟化させた状態で、該薄板の少なくとも一部に弾性限界以内の応力を加え、さらに、該薄板に凹凸部10を形成した後、該光素子を冷却することによって凹凸部を固定化することにより、光学特性が調整されていることを特徴としている。
【0023】
薄板1は、押圧力に対する復元性がある基板であることが必要であり、具体的には、単結晶で形成された基板を利用し、好ましくは、電気光学効果を有する材料で構成されている。例えば、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、PLZT(ジルコン酸チタン酸鉛ランタン)、及び石英系の材料及びこれらの組み合わせが利用可能である。特に、電気光学効果の高いニオブ酸リチウム(LN)やタンタル酸リチウム(LT)結晶が好適に利用される。
また、薄板1の厚みは、50μm以下、好ましくは30μm以下であり、重要な点は、熱可塑性接着剤の接着力が、凹凸部における薄板1の復元力より大きくなるように、薄板1の厚みを設定することである。
【0024】
薄板1のように基板を薄板化するには、基板の一方の面を研磨する。なお、基板表面に予めリッジ導波路などを形成している場合には、基板裏面側を研磨する。
基板の研磨方法としては、基板表面に熱可塑性樹脂を塗布し、研磨冶具を貼り付け、ラップ盤研磨機で、基板の裏面を研磨する。
【0025】
薄板1に対し、支持基板4を接着層3を介して接合する。
支持基板4に使用される材料としては、種々のものが利用可能であり、例えば、薄板と同様の材料を使用する他に、石英、ガラス、アルミナなどのように薄板より低誘電率の材料を使用したり、薄板と異なる結晶方位を有する材料を使用することも可能である。ただし、線膨張係数が薄板と同等である材料を選定することが、温度変化に対する光導波路型変調器などの光素子の動作特性を安定させる上で好ましい。
【0026】
接着層3としては、熱可塑性接着剤(商品名:NOA61,ノーランド社製)を使用する。より好ましくはガラス転移温度が60℃以上の熱可塑性接着剤が好ましい。
また、接着層に低誘電率材料を使用すると、光導波路型変調器などの光素子を広帯域化などにも寄与する。
【0027】
基板を薄板化する前又は薄板化した基板に支持基板4を接合する前に、光導波路を形成する。
光導波路2の形成方法としては、Tiなどを熱拡散法やプロトン交換法などで基板(薄板)表面に拡散させることにより形成することができる。
また、図示していないが、光導波路を伝搬する光波を変調するため光導波路に電界を印加するため、信号電極や接地電極などの制御電極を薄板1に設けることが可能である。制御電極の形成は、薄板1に対してTi・Auの電極パターンの形成及び金メッキ方法などにより形成することができる。
【0028】
本発明の光素子の主な特徴は、薄板1の少なくとも一部に弾性限界以内の応力を加えて、該薄板に凹凸部10を形成することにより、薄板内を伝播する光波の位相などを調整し、光素子の種々の光学特性の調整(光路長、旋光性、複屈折誘起など調整。光変調器の場合にはバイアス点などの調整)を行っていることである。
【0029】
図1では、マッハツェンダ型光導波路2を例示しているが、本発明はこれに限定されるものではない。また、凹凸部を形成する場所は、図1では、マッハツェンダ型光導波路を構成する分岐導波路22上に形成されているが、これに限らず、図3のように、凹凸部による光導波路の変形(湾曲)や光導波路への応力付与が可能な範囲で、分岐導波路の近傍に凹凸部11を形成することも可能である。
【0030】
図4が示すように、凹凸部の深さdや半径rについては、種々のサイズのものが形成可能であるが、光導波路あるいは薄板内を伝搬する光波に対して、凹凸部による位相変化が光波の1周期分(すなわち位相変化量δ≦1)もあれば、例えば、光変調器のバイアス点制御には十分である。
「数1」欄に示すように、凹凸部により空間的に増加した光路長(式(1))を計算し、式(2)の位相変化量δを1以下とする条件を満たすd,rの関係を求めると、式(3)に示すような条件式を満足することが必要である。なお、kは真空中の波数、nは屈折率、δは位相変化量(=Δλ/λ)を意味する。
【0031】
【数1】

【0032】
次に、薄板に形成された凹凸部を維持する方法について説明する。
図5に示すように、薄板に形成された凹凸部の形状維持するための固定手段5を設ける。仮に、光素子を駆動している際に、光素子が加熱し、熱可塑性接着剤が軟化する温度になった場合でも、該固定手段5により凹凸部が元の状態に戻ることが阻止される。
【0033】
固定手段5は、熱可塑性接着剤より熱可塑性の小さい材料又は熱可塑性を有しない材料で構成することが好ましく、熱可塑性接着剤が軟化しても、固定手段の軟化する温度が高い又は軟化しないため、安定的に凹凸部の形状を維持することが可能となる。
【0034】
また、固定手段5は、凹凸部の近傍又は図5のように凹凸部上に設けられているため、凹凸部が元の状態に復元することを、効果的に抑制することが可能となる。
【0035】
次に、薄板1状に凹凸部を形成する方法について説明する。
先ず最初に、光素子を全体的又は局所的に加熱し、熱可塑性接着剤の全体又は一部を軟化させる。光素子全体を加熱する方法としては、光素子全体を加温室に入れたり、光素子を保持する部材にヒーターを設け加熱する方法がある。光素子を局所的に加熱する方法としては、後述する薄板を押圧する針にヒータを設け、針の先端を通じて加熱する方法や、レーザーを別途照射し、加熱する方法などがある。
【0036】
次に、先端が球状となった針で薄板を押圧し、薄板1に局所的な凹凸部を形成する。
そして、薄板を針で押圧した状態で接着剤の温度を下げ、凹凸形状を維持する状態で接着剤を硬化させる。
【0037】
本発明の光素子の特徴は、一旦形成した凹凸部を、熱可塑性接着剤を加熱することにより、容易に元の状態に復元することができることであり、これにより、繰り返し何度も凹凸部を形成し、光波の位相調整を行うことが可能となる。
【0038】
また、目的の調整が完了した際には、図5のように固定手段を凹凸部上又はその付近に配置し、凹凸部の復元を阻止するよう構成する。
【産業上の利用可能性】
【0039】
以上のように本発明によれば、支持基板と単結晶薄板とを熱可塑性接着剤を介して貼り合せて構成される光素子に対し、光波の位相を容易に調整でき、かつ、調整状態を元の状態に復元可能な光素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の光素子の平面図である。
【図2】図1に示す矢印X−Xにおける断面図である。
【図3】図2に対応する本発明の他の実施例である。
【図4】凹凸部の適正なサイズを説明するための図である。
【図5】凹凸部に固定手段を配置した様子を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
1 薄板
2 光導波路
3 接着層(熱可塑性接着剤)
4 支持基板
5 固定手段
10〜12 凹凸部
21,22 分岐導波路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板と単結晶薄板とを熱可塑性接着剤を介して貼り合せて構成される光素子において、
該光素子を加熱することによって該熱可塑性接着剤を軟化させた状態で、
該薄板の少なくとも一部に弾性限界以内の応力を加え、
さらに、該薄板に凹凸部を形成した後、
該光素子を冷却することによって凹凸部を固定化することにより、
光学特性が調整されていることを特徴とする光素子。
【請求項2】
請求項1に記載の光素子において、
該単結晶薄板に形成された凹凸部の形状を維持するための固定手段を有し、
該固定手段が、該熱可塑性接着剤より熱可塑性の小さい材料又は熱可塑性を有しない材料で構成されていることを特徴とする光素子。
【請求項3】
請求項2に記載の光素子において、
該固定手段は、該凹凸部に接して又は該凹凸部上に設けられていることを特徴とする光素子。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の光素子において、
該単結晶薄板には光導波路が形成されていることを特徴とする光素子。
【請求項5】
請求項4に記載の光素子において、該凹凸部は、
光導波路上又は近傍に形成され、光学特性を調整することを特徴とする光素子。
【請求項6】
請求項5に記載の光素子において、該光導波路は、マッハツェンダ型光導波路であることを特徴とする光素子。
【請求項7】
請求項6に記載の光素子において、該凹凸部は、該マッハツェンダ型光導波路を構成する2本の分岐導波路を伝搬する光の位相を調整するため、該分岐導波路の近傍又は上に配置されていることを特徴とする光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−86335(P2009−86335A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−256578(P2007−256578)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】