説明

光触媒の分解活性の評価方法、及びそれに用いる試料

【課題】 既存の物の表面に設けられた光触媒層に含まれる光触媒の分解活性の評価を行うための技術を提供する。
【解決手段】 光触媒層に、光触媒の分解活性によって分解される色素を含む試料を塗布し、その色素の分解に基づくその試料の色彩の変化に基づいて、光触媒層に含まれる光触媒の分解活性を評価する。試料が含む色素は、フッ素樹脂とアナターゼ型酸化チタン光触媒粉が重量比で3:1になるようにされた光触媒層に試料を塗布して、2500μW/cmの紫外線を1時間照射した場合における紫外線照射前後の色差ΔEの変化率が20%以上となるように脱色されるものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存の評価対象物が有する光触媒層に含まれる光触媒の分解活性の評価を行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
TiO、ZnO、ZrO、WO、Fe、FeTiO、SrTiOなどの光触媒は、バンドギャップ以上のエネルギーを有する波長の光(例えば、紫外線)を照射すると、強い酸化力を生じ、それに基づく、汚れの分解、脱臭、抗菌などの機能を発揮する。また、光触媒は、NOx、SOx等を分解する機能も有する。このような優れた性質を有する光触媒を含有する光触媒層を有する膜材などの物が、例えば建材などに利用されている。
【0003】
ところで、既存の物の表面に設けられた光触媒層に含まれる光触媒の分解活性の評価を行いたい場合が存在する。例えば、建材の表面に光触媒層が設けられている場合において、その光触媒層に含まれる光触媒の分解活性があるレベルよりも落ちたのであれば、その建材を交換するなどの何らかのメンテナンスが必要となるので、そのメンテナンスのタイミングを図るために、上述の如き評価が必要となる。
【0004】
しかしながら、既存の物の表面に設けられた光触媒層に含まれる光触媒の分解活性の評価を行うための技術は、実験室レベルのものは存在するが、実用可能な技術は存在しない。
それは、以下の理由による。
まず、第1に、光触媒の分解活性の評価に用いることができる薬品として知られている硝酸銀などは、それを光触媒層に塗布した状態で紫外線を放射すると茶褐色等に発色し、評価後においても光触媒層上にその痕跡を残すので、上述の評価後における既存の物の美観を損ねることがある。
第2に、光触媒の分解活性の評価に用いられている試薬は、粘度が低い液状のものとされているので、光触媒層の水平置きが可能な実験室での評価にはともかく、垂直や、傾斜した光触媒層に塗布しなければならない既存の物の表面に設けられた光触媒層には対応できない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、既存の物の表面に設けられた光触媒層に含まれる光触媒の分解活性の評価を行うための技術を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決するための本願発明として、本願発明者は、以下の2つの発明を提案する。
【0007】
第1発明は、既存の評価対象物が有する光触媒層のうち、その光触媒層に含まれる光触媒の分解活性の評価を行いたい部分である評価部分に、光触媒の分解活性によって分解される色素を含む試料を塗布し、色素の分解に基づくその試料の色彩の変化に基づいて、光触媒層に含まれる光触媒の分解活性を評価する、光触媒の分解活性の評価方法(以下、これを単に『評価方法』という場合がある。)である。
そして、この評価方法では、前記試料として、フッ素樹脂とアナターゼ型酸化チタン光触媒粉が重量比で3:1になるようにされた光触媒層の前記評価部分にそれを塗布して、2500μW/cmの紫外線を1時間照射した場合における前記紫外線照射前後の色差の変化率が20%以上となるように脱色される色素を前記色素として含んだものを用いる。なお、色差は、光触媒層の評価部分のうち試料の塗布されていない部分と試料が塗布されている部分の色の差である。
この評価方法で用いられる試薬は、上述のように、フッ素樹脂とアナターゼ型酸化チタン光触媒粉が重量比で3:1になるようにされた光触媒層(好ましくは、この光触媒層は、生成間もないものである。また、この光触媒層は、当然に分解活性を有している。)に塗布した状態で2500μW/cmの紫外線を照射すると、紫外線照射前後の色差の変化率が20%以上となるように脱色される。つまり、この評価方法で用いる試薬は、評価を行う際に脱色されるので、既存の物に設けられた光触媒層に含まれる光触媒の分解活性の評価に用いた場合に、評価後の光触媒層上にその痕跡を残すおそれが少ない。したがって、第1発明の評価方法によれば、評価後における既存の物の美観を損ねるおそれを小さくできるので、既存の物の表面に設けられた光触媒層に含まれる光触媒の分解活性の評価に実用化することができる。
試薬を、上述の条件で紫外線を照射した場合に、紫外線照射前後の色差の変化率が20%以上となるようなものとするのは、その程度の変化があれば、光触媒層に含まれる光触媒の分解活性の評価を肉眼で行えるからである。特に、上述の条件で紫外線を照射した場合に、紫外線照射前後の色差の変化率が60%以上となるような試薬であれば、光触媒層に含まれる光触媒の分解活性の肉眼での評価をより行い易くなる。なお、上述の条件で色差が大きいほど、評価後の光触媒層に残る痕跡は少なくなるが、痕跡を少なくする目的で大きな色差を生じる試薬を選択する必要はない。既存の物に設けられた光触媒層は、その機能を発揮させるため、一般的に、太陽光などの光の照射を受ける場所に置かれているので、試料を塗布して評価を行った後も、脱色は勝手に進行するからである。
【0008】
第1発明の方法には、例えば、以下のような試料を用いることができる。
この試料は、既存の評価対象物が有する光触媒層のうち、その光触媒層に含まれる光触媒の分解活性の評価を行いたい部分である評価部分に塗布して用いられる、光触媒の分解活性によって分解される色素を含み、且つその色素の分解に基づくその試料の色彩の変化に基づいて、光触媒層に含まれる光触媒の分解活性を評価することができるようにされてなる。そして、この試料に含まれる前記色素は、フッ素樹脂とアナターゼ型酸化チタン光触媒粉が重量比で3:1になるようにされた光触媒層の前記評価部分に前記試料を塗布して、2500μW/cmの紫外線を1時間照射した場合における前記紫外線照射前後の前記試料の色差の変化率が20%以上となるように脱色されるようなものとされてなる。
【0009】
第2発明は、既存の評価対象物が有する光触媒層のうち、その光触媒層に含まれる光触媒の分解活性の評価を行いたい部分である評価部分に、光触媒の分解活性によって分解される色素を含む試料を塗布し、色素の分解に基づくその試料の色彩の変化に基づいて、光触媒層に含まれる光触媒の分解活性を評価する、光触媒の分解活性の評価方法である。
この評価方法では、前記試料として、増粘剤を含んだものを用い、前記試料を、斜面、或いは垂直面である前記評価部分に、垂れ落ちないような量、厚さで塗布する。
第2発明における評価方法では、増粘剤を含んだ試料を用いる。そのような試料は、斜面、或いは垂直面である前記評価部分に、垂れ落ちないような量、厚さで塗布することが可能であり、第2発明ではそうすることとしている。それにより、第2発明による評価方法は、垂直、或いは傾斜した光触媒層にも適用できるものであるから、既存の物の表面に設けられた光触媒層に含まれる光触媒の分解活性の評価に実用化することができるものとなる。
【0010】
第2発明の方法には、例えば、垂直面である前記評価部分に塗布した場合であっても垂れ落ちないようにされている試料を用いることができる。試料の粘度は、例えば、3〜42mPa・sである。
なお、本願発明における粘度は、「JIS K 5600−2−3 塗料一般試験法−第2部:塗料の正常・安定性−第3節:粘度(コーン・プレート粘度計法)」に準拠して測定した場合の粘度である。より詳細には、B型回転粘度計を用い、液温25℃、ローター♯1、60rpmの条件における測定開始から1分後の測定値を、本願発明における粘度とする。
【0011】
第1発明、第2発明に係る評価方法では、試料を光触媒層の評価部分に塗布することが必要となる。試料の評価部分への塗布の仕方には特に制限はない。
例えば、前記試料をスタンプの印面に塗布し、その印面を前記評価部分に押接させることで、前記試料を前記評価部分に塗布することができる。このようにしてスタンプを用いれば、評価部分へ、評価を行うたびに同一の状態で試料を塗布できることになる。特に、第2発明では、前記試料を、斜面、或いは垂直面である前記評価部分に、垂れ落ちないような量、厚さで塗布することが必要となるので、評価部分へ、同一の状態で試料を塗布できる上述の方法を用いることにより、その実施の容易化を図ることができることになる。
或いは、前記試料を、その一方の面の少なくとも一部に接着剤の塗布された透光性を有するシート乃至テープの前記一方の面に塗布し、前記試料を塗布した前記シート乃至テープを前記評価部分に貼り付けることで、前記試料を前記評価部分に塗布することも可能である。このようにシート乃至テープを用いることで、試料の垂れ落ちを効果的に防止できるようになる。
なお、シート乃至テープが透光性を有することが必要なのは、シート乃至テープを通過した光によって生じる光触媒の分解活性によって、評価部分とシート乃至テープとの間に存在する試料に色彩の変化を生じさせられるようにするとともに、その色彩の変化をシート乃至テープを通して目視できるようにするためである。シート乃至テープは、透明又は半透明な材料のみで構成されていてもよいが(例えば、透明な樹脂で形成されたシート乃至テープによって構成されていてもよい。)、メッシュ状の素材を用いた場合などは不透明な材料によって構成されていても構わない。また、シート乃至テープは、透明又は半透明な材料と、不透明な材料とを組合わせて構成されていてもよい。
この方法を実施する場合には、光触媒の分解活性の評価方法を実施する現場でシート乃至テープに試料を塗布してから、そのシート乃至テープを評価部分に貼り付けてもよい。或いは、透光性を有するシート乃至テープと、前記シート乃至テープの一方の面の少なくとも一部に塗布された接着剤と、前記シート乃至テープの前記一方の面に塗布された試料と、を備えており、前記接着剤により、前記シート乃至テープの前記一方の面を前記評価部分に貼り付けられるようにされてなる、光触媒の分解活性の評価具を予め準備しておき、それを評価部分に貼り付けることにより、光触媒の分解活性の評価方法を現場での手間を省いて実施することもできる。
【0012】
第1発明で使用される試料に含まれる色素の例として、以下のものを挙げることができる。
即ち、メチルオレンジ、メチルレッド、コンゴーレッド等のアゾ系色素、3,3ジエチルチアシアニン、ピナシアノール等のシアニン系色素、トルイレンブルー、インドフェノールブルー、チオニン、メチレンブルー、ブリリアントクレシレンブルー、ガラミンブルー、ニュートラルレッド、サフランO等のキノン−イミン系色素、マラカイトグリーン、ブリリアントグリーン、クリスタルバイオレッド、メチルバイオレッド等のフェニルメタン系色素、ローダミンB、ローダミン6G、フルオレセイン、ローズベンガル、アクリジンオレンジ、アクリフラビン等のキサンテン系色素、チオフラビンT等のチアゾール系色素、オキソノール系色素、メロシアニン系色素、スチリル系色素、中性色素(インジゴカルミン、クマリン系色素等)、及びクロロフィル、ベータカロチン等の天然色素などを、第1発明の試料に含める色素として用いることができる。これらの色素はいずれも、光触媒の分解活性により脱色されるものである。
なお、以上の色素は、第2発明でも用いることができる。
【0013】
また、第1発明の場合と第2発明の場合に共通するが、色素は、所定の溶媒に溶解させて用いるのが一般的である。試薬中の色素の濃度は特に限定されない。例えば、色素は、その濃度が、0.1〜3重量%或いは、それ以下にすることができる。この程度に色素の濃度が低ければ、光触媒の分解活性の評価に要する時間を短縮し易い。
色素を溶かす溶媒は、色素を溶かすことができるのであれば、特に限定はないが、水、水溶性有機溶媒或いはこれらの混合物とすることができる。水溶性有機溶媒としては、アルコール類、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル等を利用することができる。これらのうちの2以上を混合したものを水溶性有機溶媒として用いることも可能である。なお、アルコール類は、エタノール、メタノール等の1価アルコール、エチレングリコール、イソプロピルグリコール等の多価アルコールのいずれを用いることもでき、これらの混合物を用いることもできる。試料中における溶媒の濃度は、40〜99.9重量%とすることができる。
なお、試料を評価部分に塗布するにあたって上述の如きスタンプを用いるのであれば、溶媒を、水と水溶性有機溶媒の混合物とすると、評価部分に塗布された試料のムラを小さくできる。この場合における水と水溶性有機溶媒の混合比率は、重量比で1:3〜3:1とすることができる。
【0014】
第1発明、第2発明で用いる試料に共通するが、試料には、増粘剤を含めることができる。増粘剤は、試料の粘度を増せるものであればどのようなものでもよいが、例えば、グリセリン、天然でんぷん類、ポリエチレングリコールを増粘剤として利用できる。
増粘剤は、試料が評価部分から垂れ落ちるのを防止する機能の他、スタンプを用いて試料を評価部分に塗布した場合にその試料を鮮明にする機能を発揮する。
溶媒と増粘剤の比率は、重量比で4:1〜1:4とすることができる。また、試料をスタンプを用いて塗布する場合には、溶媒と増粘剤の比率を4:1〜2:3にすると試料を評価部分へ均一に塗布できるようになるので好ましい。試料中における増粘剤は、試料の粘度が、例えば、3〜42mPa・sとなるような量に調整することができる。
【0015】
第1発明、第2発明で用いる試料に共通するが、試料は、他に、界面活性剤を含んでいてもよい。界面活性剤は、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム、脂肪酸アルカノールアミド、アルキルベタイン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、或いはこれらを混合したものが利用できるが、これに限定されない。界面活性剤の濃度は、これには特に限定されないが、試料の0.1〜2.0重量%とすることができる。
試料に界面活性剤を用いると、評価部分へ試料を塗布した場合における試料の評価部分へのなじみを良くすることができる。特に、評価部分が合成樹脂やゴムを含有する場合、試料に界面活性剤を含有させるのが効果的である。
【0016】
なお、第1発明及び第2発明における光触媒の分解活性の評価方法でその分解活性の評価を行える光触媒層は、光触媒を含み、層状とされているものであれば、その素材、製法を問わない。例えば、合成樹脂及びまたはゴムに光触媒粉を含有させて形成した光触媒層に含まれる光触媒の分解活性の評価を、第1発明、第2発明に係る方法によって行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい第1実施形態及び第2実施形態について説明する。各実施形態の説明で重複する部分は省略するものとする。
【0018】
≪第1実施形態≫
この実施形態では、まず、分解活性を評価すべき光触媒層を有する物として、光触媒層を有する以下のようなシートを作成した。
このシートは、以下のようにして作成する。
まず、アナターゼ型酸化チタン光触媒(石原産業株式会社製、品番ST−01、1次粒子径:7nm、表面積:300m/g、表面処理:無し)の水系分散体50g、精製水75g、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)からなる水系ディスパージョンを77.8g生成し、この水系ディスパージョンにシリコン系界面活性剤を2.1g(全体の約1重量部)加えてから攪拌して光触媒溶液を調整する。なお、この光触媒溶液は、FEPと、アナターゼ型酸化チタン光触媒の比率が重量比で3:1になっている。
次いで、この光触媒溶液を、シート基材の片面に、バーコート法によって塗布する。なお、シート基材は、ガラス繊維をシート状に織って形成された芯材の両面をテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)で層状に被覆し、さらにそのPTFEによる層の両面をFEPで被覆したものである。
次いで、光触媒溶液を塗布したシート基材を常温で乾燥させた後、60℃で5分間加熱乾燥し、さらに360℃で3分間焼成してから自然冷却する。
次に、漂白処理として、低温サイクルキセノンウェザーメーターを用いて、放射照度180W/m(300〜400nm)で24時間紫外線照射する。
これにより、分解活性を評価すべき光触媒層を有するシートを完成させた。
【0019】
次いで、試料を生成した。
この実施形態における試料は、色素と、溶媒と、増粘剤と、界面活性剤とを含んでいる。この実施形態における試料は、色素と、溶媒と、増粘剤と、界面活性剤とを混合し、攪拌して生成する。
この実施形態における色素と、溶媒と、増粘剤と、界面活性剤の組成及び濃度は、これには限られないが、以下のようにした。
色素は、メチルオレンジ、メチルレッド、コンゴーレッド等のアゾ系色素、3,3ジエチルチアシアニン、ピナシアノール等のシアニン系色素、トルイレンブルー、インドフェノールブルー、チオニン、メチレンブルー、ブリリアントクレシレンブルー、ガラミンブルー、ニュートラルレッド、サフランO等のキノン−イミン系色素、マラカイトグリーン、ブリリアントグリーン、クリスタルバイオレッド、メチルバイオレッド等のフェニルメタン系色素、ローダミンB、ローダミン6G、フルオレセイン、ローズベンガル、アクリジンオレンジ、アクリフラビン等のキサンテン系色素、チオフラビンT等のチアゾール系色素、オキソノール系色素、メロシアニン系色素、スチリル系色素、中性色素(インジゴカルミン、クマリン系色素等)、及びクロロフィル、ベータカロチン等の天然色素から選択する。
色素は、試料中の濃度が、0.1〜3重量%或いは、それ以下とする。
溶媒は、水、水溶性有機溶媒、或いはこれらの混合物とする。水溶性有機溶媒は、アルコール類(1価アルコール、多価アルコール、或いはその混合物)、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、或いはこれらの混合物とする。
増粘剤としては、グリセリン、天然でんぷん類、ポリエチレングリコールを利用する。溶媒と増粘剤の重量比は、4:1〜1:4とする。試料中における増粘剤の濃度は、試料の粘度が3〜42mPa・sとなるように調整する。
界面活性剤は、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム、脂肪酸アルカノールアミド、アルキルベタイン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、或いはこれらを混合したものとする。界面活性剤の濃度は、これには特に限定されないが、試料の0.1〜2.0重量%とする。
【0020】
この実施形態では、具体的に、表1に示す試料1〜試料6の試料を調整した。
【表1】


試料1は、色素としてオレンジIIを含み、また、溶媒としての水及びアルコール(より詳細には、エチレングリコール(EG))、グリセリンである増粘剤(G)、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウムである界面活性剤を含んでいる。また、試料1では、色素、水、アルコール(EG)、増粘剤(G)、界面活性剤をそれぞれ、1重量部、10重量部、30重量部、10重量部、1重量部含んでいる。なお、試料2〜試料6においても、アルコール(EG)はエチレングリコールであり、増粘剤(G)はグリセリンであり、界面活性剤は、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウムである。
試料2は、色素としてのブリリアントグリーンと、水、アルコール(EG)、増粘材(G)、界面活性剤とをそれぞれ、1重量部、40重量部、0重量部、10重量部、1重量部含んでいる。
試料3は、色素としてのインジゴカルミンと、水、アルコール(EG)、増粘材(G)、界面活性剤とをそれぞれ、1重量部、40重量部、0重量部、10重量部、1重量部含んでいる。
試料4は、色素としてのメチレンブルーと、水、アルコール(EG)、増粘材(G)、界面活性剤とをそれぞれ、1重量部、20重量部、20重量部、10重量部、1重量部含んでいる。
試料5は、色素としてのローダミンBと、水、アルコール(EG)、増粘材(G)、界面活性剤とをそれぞれ、1重量部、40重量部、0重量部、10重量部、1重量部含んでいる。
試料6は、色素としてのベータ(β)カロチンと、水、アルコール(EG)、増粘材(G)、界面活性剤とをそれぞれ、1重量部、40重量部、0重量部、10重量部、1重量部含んでいる。
【0021】
次に、上述のシートを、紫外線強度が2500μW/cmの屋外に設置して、光触媒層の表面の適当な部分に、試料1〜試料6を別々に塗布した。なお、上述のシートは、斜面、或いは垂直面を構成するように配することにした。
試料1〜試料6の光触媒層への塗布は、試料1〜試料6のそれぞれを含浸させた押印用スタンプ台(シャチハタ株式会社製、型番:HGUー2EC)を準備し、そのスタンプ台に直径60mmの丸ゴム印の印面を押し当てることでその印面に試料1〜試料6のいずれかを塗布し、次いでそのゴム印の印面を光触媒層の適当な位置に押接させて転写することにより行う。
このようにしたところ、試料1〜試料6は、光触媒層が垂直面をなす部分に塗布した場合であっても、垂れ落ちることはなかった。
【0022】
次いで、光触媒層のうち少なくとも試料1〜試料6が塗布された部分に、強度が2500μW/cmの紫外線が照射される状態を1時間保ち、紫外線照射前後の色差ΔEの変化率を試料1〜試料6のそれぞれについて測定した。
その結果を、表2に示す。
【表2】


色差ΔEの変化率は、試料1〜試料6を光触媒層に塗布した直後と、それから1時間経過した後のそれぞれに測定した色差から求めた。
色差ΔEは、この実施形態では、色差計(コニカミノルタ株式会社製、品番:CR210、測定径:50mm)を用いて測定した。色差ΔEは、光触媒層のうちの試料が塗布されていない部分と試料が塗布された部分の色の差である。
試料1〜試料6のいずれの場合にも、試料を光触媒層に塗布した直後よりも、1時間経過後の色差ΔEの方が小さくなっている。これは、試料1〜試料6の脱色が進んだことを示している。また、試料1〜試料6のいずれの場合にも、色差ΔEの変化率は20%を超えていた。
これにより、試料1〜試料6のすべてにより、シートが有する光触媒層に含まれる光触媒が分解活性を有することが明らかになった。
なお、この実施形態では、色差計を用いて色差ΔEの変化率を測定したが、色差ΔEの変化率が20%以上あるのであれば、肉眼でその変化を確認することができ、またその変化率が60%を超えるのであれば、肉眼でその変化を確認することは容易である。
したがって、この実施形態のように調整した試料を用いて光触媒の分解活性の評価を行う場合には、分解活性の定量的な評価が特に必要とされるなどの事情がない限り、色差計を用いる必要は必ずしもない。
また、事前に、基準となる適当な光触媒層により色差ΔEの変化率の測定を行い、各試料についての色見本を作成しておけば、色差ΔEの変化を肉眼で確認するに便利である。
【0023】
なお、比較例として、上述の試料1〜試料6を上述のシートの光触媒層に上述の場合と同様に塗布し、紫外線を照射しない状態で1時間置いた場合における試料を光触媒層に塗布した直後と、それから1時間経過後の色差ΔEを測定した結果を表3に示す。
【表3】


表3からわかるように、この場合には、色差ΔEの変化率は、試料1〜試料6のいずれの場合にも20%を下回っている。紫外線を照射しない場合には、光触媒層中の光触媒は分解活性を呈さない。つまり、光触媒層中の光触媒が分解活性を呈さない場合には色差ΔEの変化率が20%を下回るという表3で示された結果は、試料の色差ΔEの変化率が20%を上回らない場合であれば、試料の塗布された光触媒層に含まれた光触媒の分解活性がないという評価を下せることを示している。
【0024】
≪第2実施形態≫
第2実施形態では、第1実施形態と同様のシートを作成し、そのシートが有する光触媒層中の光触媒の分解活性の評価を行った。
第2実施形態でも、第1実施形態で説明した試料1〜試料6を作成した。
第2実施形態では、第1実施形態で説明した試料1〜試料6を、以下に説明するようなテープに塗布してシートの光触媒層に貼り付けた。
この実施形態におけるテープは、透明な樹脂によって形成されておりその一方の面の全面に接着剤が塗られたものとされている。この実施形態におけるテープは、例えば、市販されているセロハンテープである。
この実施形態では、試料をシートの光触媒層に塗布するにあたって上述のテープを用いた。即ち、テープを適当な長さで6つに切断し、切断したそれらテープの接着剤が塗布されている面の一部に試料1〜試料6のいずれかを塗布し、試料1〜試料6がその一方の面に塗布されたテープをシートの光触媒層に貼り付けることによって、試料1〜試料6を光触媒層に塗布した。
試料は、シートの光触媒層にテープを貼り付けることが不可能にならない程度に接着剤を露出させた状態で、テープの接着剤の塗布されている面に塗布した。この実施形態では、必ずしもそうする必要はないが、テープを長さ方向に3等分したその真中部分に試料1〜試料6を塗布した。
その状態で、試料1〜試料6のそれぞれが塗布されたテープをシートの光触媒層に貼り付け、紫外線強度が2500μW/cmの屋外に1時間放置した。そのようにしたところ、テープ越しに照射される紫外線により、試料1〜試料6の色彩は、色彩が消える方向に変化した。この場合、色差ΔEの変化率は、試料1〜試料6のいずれについても20%を超え、そのうちの幾つかはその変化率が60%を超えた。色差ΔEの変化率が60%を超えたものは、テープ越しにでもその色彩の変化を容易に肉眼で確認できた。
なお、試料1〜試料6は、光触媒層が垂直面をなす部分にテープを貼り付けた場合であっても、垂れ落ちることはなかった。
【0025】
なお、この実施形態では、市販のテープの接着剤の塗布されている面に試料を事後的に塗布することとしたが、その一方の面に接着剤と上述の如き試料が予め塗布されているテープを準備しておき、それをシートの光触媒層に貼り付けることで試料の光触媒層への塗布を行うことも可能である。
この場合、テープは、その接着剤が塗布されている面の全面を覆うことのできる所定の台紙に貼り付けておくことができる。このようにすることで、テープの携帯性が向上する。
接着剤は、テープの一方の面の全面に塗布されている必要はない。例えば、テープは、その一方の面の周縁部分に接着剤が、中心部分に試料が塗布されているようなものとすることができる。
また、透明なテープの一方の面に、試料を保持させるための、例えばガーゼによって構成される手段を設けてもよい。試料を保持させるための手段に試料を染み込ませておくことで、試料の垂れ落ちの可能性をより低くすることができる。この場合、試料を保持させるための手段に染み込ませた試料の色彩の変化がテープ越しに見えるようにする必要がある。例えば、試料を保持させるための手段としてのガーゼを、その背面側から試料の色彩を確認できる程度に薄くしておく必要がある。
以上のようなテープを用いても、光触媒層中の光触媒の分解活性の評価を行うことができる。
なお、第2実施形態で説明したテープの形状は自由である。テープが矩形であり、その縦横の比の差が小さい場合などには、そのテープは、テープというよりもシートと呼ぶべき形状となるが、そのようにしても当然問題はない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存の評価対象物が有する光触媒層のうち、その光触媒層に含まれる光触媒の分解活性の評価を行いたい部分である評価部分に、光触媒の分解活性によって分解される色素を含む試料を塗布し、
色素の分解に基づくその試料の色彩の変化に基づいて、光触媒層に含まれる光触媒の分解活性を評価する、光触媒の分解活性の評価方法であって、
前記試料として、フッ素樹脂とアナターゼ型酸化チタン光触媒粉が重量比で3:1になるようにされた光触媒層の前記評価部分にそれを塗布して、2500μW/cmの紫外線を1時間照射した場合における前記紫外線照射前後の色差の変化率が20%以上となるように脱色される色素を前記色素として含んだものを用いる、
光触媒の分解活性の評価方法。
【請求項2】
既存の評価対象物が有する光触媒層のうち、その光触媒層に含まれる光触媒の分解活性の評価を行いたい部分である評価部分に、光触媒の分解活性によって分解される色素を含む試料を塗布し、
色素の分解に基づくその試料の色彩の変化に基づいて、光触媒層に含まれる光触媒の分解活性を評価する、光触媒の分解活性の評価方法であって、
前記試料として、増粘剤を含んだものを用い、
前記試料を、斜面、或いは垂直面である前記評価部分に、垂れ落ちないような量、厚さで塗布する、
光触媒の分解活性の評価方法。
【請求項3】
前記試料をスタンプの印面に塗布し、その印面を前記評価部分に押接させることで、前記試料を前記評価部分に塗布する、
請求項1又は2記載の光触媒の分解活性の評価方法。
【請求項4】
前記試料を、その一方の面の少なくとも一部に接着剤の塗布されたシート乃至テープの前記一方の面に塗布し、
前記試料を塗布した前記シート乃至テープを前記評価部分に貼り付けることで、前記試料を前記評価部分に塗布する、
請求項1又は2記載の光触媒の分解活性の評価方法。
【請求項5】
前記試料として、界面活性剤を含んだものを用いる、
請求項1〜4のいずれかに記載の光触媒の分解活性の評価方法。
【請求項6】
既存の評価対象物が有する光触媒層のうち、その光触媒層に含まれる光触媒の分解活性の評価を行いたい部分である評価部分に塗布して用いられる、光触媒の分解活性によって分解される色素を含み、且つその色素の分解に基づくその試料の色彩の変化に基づいて、光触媒層に含まれる光触媒の分解活性を評価することができるようにされてなる試料であって、
前記色素は、フッ素樹脂とアナターゼ型酸化チタン光触媒粉が重量比で3:1になるようにされた光触媒層の前記評価部分に前記試料を塗布して、2500μW/cmの紫外線を1時間照射した場合における前記紫外線照射前後の前記試料の色差の変化率が20%以上となるように脱色されるようなものとされてなる、
試料。
【請求項7】
既存の評価対象物が有する光触媒層のうち、その光触媒層に含まれる光触媒の分解活性の評価を行いたい部分である評価部分に塗布して用いられる、光触媒の分解活性によって分解される色素を含み、且つその色素の分解に基づくその試料の色彩の変化に基づいて、光触媒層に含まれる光触媒の分解活性を評価することができるようにされてなる試料であって、
増粘剤を含んでおり、
前記試料は、垂直面である前記評価部分に塗布した場合に垂れ落ちないようにされている、
試料。
【請求項8】
粘度が、3〜42mPa・sである、
請求項7記載の試料。
【請求項9】
前記色素を溶かす溶媒が、水と水溶性有機溶媒の混合物である、
請求項6、7又は8記載の試料。
【請求項10】
界面活性剤を含んでいる、
請求項6〜9のいずれかに記載の試料。
【請求項11】
透光性を有するシート乃至テープと、
前記シート乃至テープの一方の面の少なくとも一部に塗布された接着剤と、
前記シート乃至テープの前記一方の面に塗布された請求項6〜10のいずれかに記載の試料と、
を備えており、
前記接着剤により、前記シート乃至テープの前記一方の面を前記評価部分に貼り付けられるようにされてなる、
光触媒の分解活性の評価具。

【公開番号】特開2006−329889(P2006−329889A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−156351(P2005−156351)
【出願日】平成17年5月27日(2005.5.27)
【出願人】(000204192)太陽工業株式会社 (174)
【Fターム(参考)】