説明

光触媒を利用した水浄化装置

【課題】光触媒を利用した水浄化装置において、処理水のpHを低下させ、光触媒の活性低下を抑制することを目的とする。
【解決手段】本発明の水浄化装置202は、光触媒を利用した水中の有機物分解ユニットとしての光触媒ユニット204の前段に、処理水のpHを低下させるpH調整ユニットとしての処理水酸性化ユニット203を設け、処理水のpHが低下した後で、処理水が光触媒を利用した水中の光触媒ユニット204に投入される構成となることで、光触媒の有機物分解活性低下の抑制や、メンテナンス回数の低減が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒を利用した水浄化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光触媒の有機物分解作用は約30年前に見出された。酸化チタンなどある種の半導体は光照射で励起電子と、正孔を生成し、その電荷担体が半導体表面でスパーオキサイドアニオンやヒドロキシラジカルを生成する。これらが有機分子を攻撃し、有機物を分解する。
【0003】
この種の作用をもつ半導体材料を光触媒と呼んでいる。特に酸化チタンは、光触媒の代表的な材料の一つである。
【0004】
今までにこの光触媒による有機分解作用を利用した製品やデバイスの提案が数多くされており、多様な、フィルタ、デバイス、装置が開発されている。
【0005】
特に水浄化に用いる場合においては、多孔質材料に光触媒を担持する方法(例えば特許文献1参照)や、光触媒を担持した充填材を用い、水の流れを制御する方法(例えば特許文献2参照)など、光触媒に加えて多様な手法で水浄化の効率を向上させているものもある。
【0006】
また、水浄化に限らなければ、例えば光触媒の表面にフッ素を化学結合させること(例えば特許文献3参照)で、OHラジカルのような活性酸素種の放出を促すことで有機物分解活性を向上させる方法などが知られており、それ以外にも多種多様な方法で、光触媒そのものの有機物分解活性の向上がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−148434号公報
【特許文献2】特開平8−47687号公報
【特許文献3】国際公開第2008/132824号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記従来例のような光触媒水処理装置は、処理水の水質によって水浄化性能が大きく異なる。
【0009】
特に塩基性溶液中では、無機イオンは水酸化物となり、溶解度が低下するものが多く、結果スケール成分として付着し、光触媒の有機物分解性能を低下させる恐れがある。
【0010】
また、光触媒の中には、塩基性溶液中で性能が低下する材料があり、特にフッ素を化学結合させることで表面にフッ素を含有する酸化チタン光触媒は、フッ化物イオンと、水酸化物イオンとが交換反応することから、塩基性領域においてフッ化物イオンの脱離が生じる。
【0011】
他にも、光触媒として酸化タングステンを利用する場合は、酸化タングステンが塩基性水溶液中にて溶解するため使用できない。
【0012】
このように、処理水の液性が塩基性であることは、光触媒を利用した水浄化装置において、性能低下につながるという課題を有していた。
【0013】
そこで本発明では、処理水のpHを低下させることで光触媒の性能低下を抑制し、従来利用が困難であった水質の処理水であっても光触媒を利用することができる、水浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前期従来の課題を解決するため、本発明の水浄化装置は、光触媒を利用した水中の有機物分解ユニットの前段に、未処理水のpHを低下させるユニットを設け、未処理水のpHを低下させた後、その未処理水が光触媒を利用した水中の有機物分解ユニットに投入される構成となる、光触媒を利用した水浄化装置である。
【0015】
本構成により、例えば、光触媒上に化学結合したフッ素の脱離量低下を抑制することができ、光触媒の有機物分解活性低下の抑制や、メンテナンス回数の低減が可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の光触媒を利用した水浄化装置によれば、光触媒を利用した有機物分解ユニットの前段に、処理水のpHを低下させるユニットを設けることで、pHが低下した処理水を、光触媒を利用した水中の有機物分解ユニットに投入させることができるため、pHが高いときに生じる、スケールの付着やフッ素を含有する酸化チタンのフッ素の脱離を抑制することができ、光触媒の有機物分解活性低下の抑制やメンテナンス回数の低減といった効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の光触媒を利用した水浄化試験の試験系概略図
【図2】本発明の光触媒を利用した水浄化装置の系統図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0019】
(比較例1)
図1に水中有機物分解試験装置の概略図を示した。
【0020】
光触媒20mg、ジメチルスルホキシド(和光純薬製)10g/L水溶液3mLを、蓋付2面透明石英セル101に入れ、スターラー102とスターラーチップ103にて撹拌しながら、254nmのバンドパスフィルタをはさんだキセノンランプ光源104(朝日分光製:MAX−302)から照射された光を集光ロッド105で集光し、2.00mW/cm2となる位置で、10分間照射した。
【0021】
このときの光強度は、紫外線積算光量計(ウシオ電機製:UIT−250)に受光器(ウシオ電機製:UVD−S254)を取り付けて測定した。
【0022】
今回用いた光触媒は、光触媒酸化チタンとして市販されている、堺化学工業製のSSP−25並びに、堺化学工業製のSSP−25の表面をフッ酸処理することで、表面の水酸基の一部をフッ素に置き換えた、重量比3.5%のフッ素を含有する、フッ素含有酸化チタンである。
【0023】
表1に、結果を示した。このとき、未処理水のpHは、6.5であった。
【0024】
【表1】

【0025】
フッ素含有酸化チタンは、10分間当たりのジメチルスルホキシド分解量において、約30%活性が向上しており、フッ素を含有することによる有機物分解活性の向上が確認された。
【0026】
(実施例1)
次に、図1に示した試験方法と同様の方法にて、ジメチルスルホキシド水溶液のpHを変化させて実験を行った。
【0027】
pHの調整は、塩酸または水酸化ナトリウムを用い、事前に所定のpHに調整した水にジメチルスルホキシドを溶解させて10mg/Lとした。
【0028】
pHの測定は、コンパクトpHメータ(堀場製作所製:B−212)にて測定した。
【0029】
表2に、結果を示した。
【0030】
【表2】

【0031】
ジメチルスルホキシド水溶液のpHが6.5以下のとき、フッ素含有酸化チタンの優位性は保たれているが、pHが12.0より大きい領域において、低下が見られる。
【0032】
これはフッ素が水酸化物イオンと置換することで、フッ化物イオンとして溶液中に放出されることで、フッ素含有酸化チタンのフッ素が減少するものと考えており、pHが7より大きい領域において、その効果が顕著に現れた結果だと考えられる。
【0033】
フッ素含有酸化チタンのフッ素含有量は、重量比3.5%であることは、JIS K0102 34.1によるランタンアリザリンコンプレキソン吸光光度法にて求めた。
【0034】
本実施例では、フッ素含有酸化チタンを用いたが、酸性溶液中と比較して塩基性溶液中にて10分間当たりのジメチルスルホキシド分解量が低下する光触媒であれば、酸化タングステンなどに代表される、アルカリ溶液中にて溶出することが知られている他の光触媒材料などでもよく、フッ素含有酸化チタンに限定されない。
【0035】
(実施例2)
次に、図1に示した試験方法と同様の方法にて以下の実験を行った。
【0036】
ジメチルスルホキシド水溶液のpHを12.0にした後、塩酸(和光純薬製)を加えてpHを2.3にしてから実験を行った。
【0037】
表3に、結果を示した。
【0038】
【表3】

【0039】
塩酸を加えることで、初期の濃度が若干低下したものの、10分後の分解量は3.5mg/Lから3.3mg/Lへと、約6%の低下にとどめることができた。比較例として、塩酸を加えなかった場合、すなわち表2のpHが12.0の場合において、10分後の分解量が3.1mg/L、約11%に低下したことから、本実施例2に示すように、塩酸を有機物分解処理前に追加することで、塩基性溶液による有機物分解性能の低下を抑制できることが確認された。
【0040】
本実施例では塩酸を用いたが、酸性物質であれば、硝酸や硫酸、酢酸、リン酸などでもよく、塩酸に限定されない。
【0041】
また、酢酸などの有機酸は、それ自体が光触媒の分解対象物であることから、光触媒の分解の妨げになる。このため、用いる酸性物質としては、無機酸が好ましい。
【0042】
(実施例3)
次に、図1に示した試験方法と同様の方法にて以下の実験を行った。
【0043】
ジメチルスルホキシド水溶液のpHを12.0にした後、陽イオン交換樹脂を加えて撹拌し、ろ液を用いて実験を行った。このときpHは3.0であった。
【0044】
表4に、結果を示した。
【0045】
【表4】

【0046】
陽イオン交換樹脂を加えることで、初期の濃度が若干低下したものの、10分後の分解量は3.5mg/Lのまま変化しなかった。このことから、陽イオン交換樹脂を有機物分解処理前に利用することで、塩基性溶液による有機物分解性能の低下を抑制できることが確認された。
【0047】
(実施例4)
図2に、本発明の水浄化装置におけるユニット構成図を示した。
【0048】
未処理水201が本発明の水浄化装置202によって処理され、処理済水207として排出されるような水処理装置構成において、未処理水201は、まずpH調整ユニットとしての処理水酸性化ユニット203によって、所定のpHに低下する。
【0049】
その後、有機物分解ユニットとしての光触媒ユニット204によって有機物が分解された後、中和ユニット205によって、所定のpHにまで高められ、処理済水207として排出される。
【0050】
中和ユニット205は、処理水のpHが低下したことで、排出が困難となる場合において有効である。
【0051】
具体的には、水酸化ナトリウムやアンモニア水といった塩基性物質を用いるか、陰イオン交換樹脂を用いることが好ましい。特に陰イオン交換樹脂は、光触媒ユニット204で完全分解しきれずに生成した有機酸の回収も可能になり、TOCを下げられることも期待でき、特に好ましい。
【0052】
上記の中和方法は一例であり、中和方法を限定するものではない。
【0053】
また、中和の必要がない場合は、中和ユニット205を取り付けなくてもかまわない。
【0054】
光触媒として、フッ素を含有する酸化チタンを用いた場合には、光触媒ユニット204の後段に、フッ化物イオン濃度測定装置206を取り付け、モニタリングしておくことで、光触媒に残存するフッ素量の経時変化を追いかけることができ、触媒交換のタイミングを知ることができるようになる。
【0055】
フッ化物イオン濃度を知る必要がない場合においては、フッ化物イオン濃度測定装置206を取り付けなくてもかまわない。
【0056】
本実施例1乃至3では、光触媒を粉末で用い、懸濁させることで実験を行ったが、光触媒の利用方法は粉末を懸濁させて利用する方法に限定されるものではなく、ガラスクロスやセラミックペーパーなど多様な基材に光触媒を担持させ、フィルタとして利用することや、セラッミクボールや、多孔性の触媒担体などに光触媒を担持させ、充填させて利用する方法など、その利用の仕方を限定するものではない。
【0057】
また、本実施例1乃至3では、バッチ式で処理を行ったが、装置の形態によっては、フローで連続的に行う方法でもよく、その処理方式を限定するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明にかかる光触媒を利用した水浄化装置は、利用する光触媒に適さないpHの処理水であっても処理できるようになるものであり、飲料水、工業用水、海水等の浄化に使用される水浄化装置として有用である。
【符号の説明】
【0059】
101 蓋付2面透明石英セル
102 スターラー
103 スターラーチップ
104 キセノンランプ光源
105 集光ロッド
201 未処理水
202 水浄化装置
203 処理水酸性化ユニット
204 光触媒ユニット
205 中和ユニット
206 フッ化物イオン濃度測定装置
207 処理済水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒を利用して処理水中の有機物分解を行う水浄化装置であって、光触媒を利用して有機物分解を行う有機物分解ユニットの前段に、処理水のpHを調整するpH調整ユニットを設け、このpH調整ユニットで処理水のpHを調整した後、処理水が前記有機物分解ユニットに投入されることを特徴とする水浄化装置。
【請求項2】
光触媒が、フッ素を含有する酸化チタンであることを特徴とする、請求項1記載の水浄化装置。
【請求項3】
pH調整ユニットから排出される処理水のpHが、7以下であることを特徴とする、請求項1または2記載の水浄化装置。
【請求項4】
pH調整ユニットが、酸性物質を投入する機構を有することを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の水浄化装置。
【請求項5】
酸性物質が、無機酸であることを特徴とする、請求項4記載の水浄化装置。
【請求項6】
pH調整ユニットが、陽イオン交換樹脂を有することを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の水浄化装置。
【請求項7】
有機物分解ユニットの後段に、処理水の中和ユニットを設けた、請求項1乃至6のいずれかに記載の水浄化装置。
【請求項8】
中和ユニットが、塩基性物質を投入する機構を利用したユニットであることを特徴とする、請求項7記載の水浄化装置。
【請求項9】
中和ユニットが、陰イオン交換樹脂を利用したユニットであることを特徴とする、請求項8記載の水浄化装置。
【請求項10】
有機物分解ユニットの後段に、フッ化物イオン濃度測定装置を備えた、請求項1乃至9のいずれかに記載の水浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−217923(P2012−217923A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−86044(P2011−86044)
【出願日】平成23年4月8日(2011.4.8)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】