説明

光触媒コーティングを備えた基材

【課題】基材に対して顕著な汚れ防止作用を示し、工業的に製造可能な、基材上の光触媒コーティングを提供する。
【解決手段】本発明は、光触媒特性を有するコーティングが少なくとも1つの面の少なくとも一部に施された、ガラス、セラミック、又はガラス質セラミックであり、少なくとも部分的に結晶質であるアナターゼ形の酸化チタンを含み、薄層が基材から生じるアルカリ金属の移動に対するバリヤを形成するように該基板と該コーティングの間に設けられ、そして結晶質酸化チタンは0.5〜60nmの平均サイズを有する結晶子の形態である、コーティングした基材に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーティリティ用ガラス、又は輸送機関やビルディング用のガラスのような各種の用途のガラスを製造するための光触媒特性を有するコーティングを施されたガラス、セラミック、又はガラス質セラミックを主成分とする特にガラス基材、とりわけ透明なガラス基材に関する。
【背景技術】
【0002】
目的とする用途に応じ、特殊な性質を与えるべく、ガラスの表面上に薄層を堆積させてガラスを機能化する検討が重ねられている。例えば、交互に高い及び低い屈折率を有する層の積層からなるいわゆる防反射層(anti-glare layer)のような光学機能を有する層が存在する。帯電防止機能や、氷結防止タイプの加熱機能に関し、例えば金属又はドープト金属酸化物を主成分にした導電性の薄層を設けることができる。日除け又は低輻射の熱的機能に関し、例えば、銀タイプの金属又は金属酸化物又は金属窒化物を主成分とする薄層が使用可能である。「撥雨性」作用を得るため、例えばフッ化有機シランなどを主成分にした疎水性を有する層を提供することができる。
【0003】
ここで、基材の特にガラスについて「汚れ防止(dirt-repellent)」と称されるニーズが依然として存在しており、即ち、外観や表面特性が経時的に変化しないことを目標とするものであり、例えば指の跡、大気中に存在する浮遊性有機物質、凝固性の汚れなど、基材表面に徐々に堆積する汚れを、発生と同時に逐次除去し、洗浄頻度を少なくする及び/又は視覚性を改良するニーズが存在している。
【0004】
事実として、適切な波長の照射を行うと、有機物の酸化を生じさせるラジカル反応を開始することができる、金属酸化物を主成分にした特定の半導体材料が存在することが知られており、これらは、一般に、「光触媒(photocatalytic)」あるいは「光反応性(photoreactive) 」材料と称される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、基材に対して顕著な「汚れ防止」作用を示し、工業的に製造可能な、基材上の光触媒コーティングを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するために以下の発明を提供する。
(1)光触媒特性を有するコーティングが少なくとも1つの面の少なくとも一部に施された、ガラス、セラミック、又はガラス質セラミックであり、少なくとも部分的に結晶質であるアナターゼ形の酸化チタンを含み、結晶質酸化チタンは0.5〜60nmの平均サイズを有する結晶子の形態であり、該コーティングは高い屈折率と低い屈折率の交互の薄層からなる防反射層の積層の最終層を構成するコーティングした基材;ならびに
(2)コーティングが5〜100nmの厚さを有する(1)に記載のコーティングした基材、である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、基材に対して顕著な汚れ防止作用を示し、工業的に製造可能な、基材上の光触媒コーティングを提供しうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の対象は、ガラス、セラミック、又はガラス質セラミックを主成分にした基材であり、とりわけ透明なガラスであり、その少なくとも1つの表面の少なくとも一部に、結晶質酸化チタンを少なくとも部分的に含む、光触媒性を有するコーティングが施される。酸化チタンは、基材上にコーティングを形成する際、「その場」で結晶化されることが好ましい。
【0009】
酸化チタンは、事実として、その表面上に堆積した有機物を、可視光又は紫外線の作用下で分解する半導体の1種である。このため「汚れ防止」作用のガラスを製造するのに酸化チタンを選択することが特に行われているが、この理由は、主としてこの酸化物が、長期間の有効性のための良好な機械的強度と耐薬品性を呈するからである。当然ながら、コーティングが多くの攻撃に直接曝されたときでも、特に、ガラスを建築箇所(ビルディングなど)や製造ライン(自動車など)に装着する際でも、コーティングがその完全性を保持することが重要である。これらの攻撃には、機械的又は空気圧による把持手段によって行われる繰り返しのハンドリングがあり、また、ガラスが適所に装置されると、磨耗(窓ガラスのワイパー、磨耗性の布)や攻撃的な化学物質(SiO2 のような大気中の汚染物質、洗浄用薬剤など)に曝されることが挙げられる。
【0010】
また、少なくとも部分的に結晶質の酸化チタンが選択されており、これは、アモルファス酸化チタンよりも光触媒特性がかなり良好であることが実証されているためである。好ましくは、アナターゼ形、ルチル形、又はアナターゼとルチルの混合形の結晶であり、少なくとも25%の結晶化度を有し、特に、約30〜80%であり、表面付近に存在する(この特性は主として表面特性である)。(結晶化度とは、コーティング中のTiO2 の全重量に対する結晶TiO2 の重量を意味すると理解すべきである。)
また、特に、アナターゼ形の結晶の場合、基材上で成長するTiO2 結晶の向きは、酸化チタンの触媒挙動に影響を有し、光触媒を顕著に促進する好適な配向(1,1,0)が存在する。
【0011】
このコーティングは、少なくともその表面に近いこのコーティングに含まれる結晶質酸化チタンが、0.5〜100nm、好ましくは1〜50nm、より好ましくは10〜40nm、さらに好ましくは20〜30nmの平均サイズを有する単一結晶としての「結晶子」の形態を有して製造されることが有利である。事実として、このサイズ範囲においては、酸化チタンは最適な光触媒作用を有するように観察され、これは、このサイズの結晶子が高活性の表面領域を形成するためであろう。
【0012】
以下に詳しく述べるように、酸化チタンを主成分とするコーティングはいろいろな方法によって得ることができ、例えば、
1.チタン前駆体の分解
1)熱分解法の液体熱分解、粉末熱分解、化学蒸着(CVD)として知られる気相中での熱分解など
2)ゾルゲルを用いた技術の浸漬、セルコーティングなど
2.真空技術
反応性又は非反応性の陰極スパッタリングなどが挙げられる。
【0013】
また、コーティングは、結晶質酸化チタンに加え、少なくとも1種の別なタイプの無機物質、特に、アモルファス又は部分結晶質の酸化物の形態の例えば酸化ケイ素(又は酸化物の混合物)、酸化チタン、酸化錫、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウムを含むことができる。この無機物質は、それ自身がある程度の光触媒作用を示すことにより、結晶質酸化チタンの光触媒作用に加わることができるが、酸化錫やアモルファス酸化チタンの場合のように、結晶質TiO2 に比較してかなり弱い作用のこともある。
【0014】
このような、少なくとも部分的に結晶質の酸化チタンに少なくとも1種の別な酸化物を混合した「複合」酸化物の層は、光学的な観点から有利なことがあり、特に、TiO2よりも屈折率の低い別な1種以上の酸化物を選択した場合がそうであり、コーティングの全体的な屈折率を下げることにより、コーティングに設けられた基材の光の反射を変えることができ、特に、この反射を抑えることができる。これは、例えば特許EP−0465309に記載の製造方法によるTiO2/Al23からなる層、あるいはTiO2/SiO2からなる層が選択された場合にあてはまる。ここで、当然ながら、十分な光触媒活性を保持するのに十分なTiO2含有率をコーティングが有することが必要である。即ち、コーティング中の酸化物の全重量に対して、コーティングが少なくとも40重量%、とりわけ少なくとも50重量%のTiO2を含むことが好ましいと考えられる。 また、光触媒に対して安定な又は抵抗性のある付着した(grafted) 疎油性及び/又は疎水性の層をコーティングに積層することも選択可能であり、例えば、米国特許第5368892号や米国特許第5389427号に記載のフッ化オルガノシランを主成分にしたもの、1994年7月13日出願の特許出願FR−94/08734(特許番号FR−2722493号、欧州特許EP−0692463号に対応)に記載のペルフルオロアルキルシランの、特には次の式:
CF3−(CF2n−(CH2m−SiX3
(式中nは0〜12、mは2〜5、Xは加水分解基)のシランを主成分にしたものの層が挙げられる。
【0015】
本発明によるコーティングの酸化チタンの光触媒作用を増大させるためには、コーティング中に別な粒子、特にはカドミウム、錫、タングステン、亜鉛、セリウム、ジルコニウムを主成分とする金属粒子や粒子を混和することによって、コーティングの吸収帯を拡大させることが先ず第1に可能である。
【0016】
また、ニオブ、タンタル、鉄、ビスマス、コバルト、ニッケル、銅、ルテニウム、セリウム、又はモリブデンの金属元素を酸化チタンの結晶格子の中に挿入することによるドーピングによって電荷キャリヤーの数を増やすこともできる。
【0017】
また、このドーピングは、酸化チタン又は複合コーティングの表面ドーピングのみによって行うこともでき、表面ドーピングはコーティングの少なくとも一部を金属の酸化物又は塩で覆うことによって行われ、金属は、鉄、銅、ルテニウム、セリウム、モリブデン、バナジウム、ビスマスから選択される。
【0018】
最後に、光触媒現象は、金属酸化物を又はそれを含むコーティングの少なくとも一部を、白金、ロジウム、銀又はパラジウムの薄層の形態の貴金属で覆うことにより、収率及び/又は光触媒の反応速度を高めることにより増強させることもできる。
【0019】
このような触媒、例えば真空技術によって堆積させた触媒は、事実として、酸化チタンによって生じたラジカルの数及び/又は寿命を改善し、連鎖反応を促進し、有機物の分解をもたらすことができる。
【0020】
極めて驚くべきことであるが、このコーティングは、1つのみの特性ではなくて2つ以上の特性を示し、日光のような可視光及び/又は紫外線の適当な照射に曝されると、直ちに、光触媒の酸化チタンの存在によって、前述のように、有機物の汚れの蓄積を徐々に消失させ、この分解はラジカル酸化プロセスによって生じる。無機物の汚れは、そのものはこのプロセスによっては分解せず、したがって、表面上に残留するが、光触媒によって結合性の有機物が分解するため、もはや表面に付着する原因がなく、それらは容易に除去されることになる。
【0021】
ここで、恒久的な自己洗浄性コーティングは、好ましくは、顕著な親水性及び/又は親油性の外面を示し、これは次の3つの非常に有益な効果をもたらす。
1.親水性は、コーティング上に堆積し得る水の完全な濡れを可能にする。水の凝縮現象が生じると、視界を妨げる曇り状の水滴を堆積させず、コーティングの表面上に生成した完全に透明な水の連続的薄膜が存在する。この「曇り防止(anti-condensation) 」作用は、光に曝されたとき、5°未満の水との接触角が測定される場合に特に顕著である。
2.光触媒層で処理していない表面の上を水(特には雨水)が走ると、多数の雨水の滴が表面に付着して残り、蒸発すると、主に無機物に由来する見た目の悪い汚れ跡が残る。実際には、周りの空気に曝された表面は、汚れの層で直ぐに覆われ、水によって濡れるのを制限する。これらの汚れは、その他の汚れ(特に、結晶化の跡などの無機物的痕跡)に加え、ガラスが存在する雰囲気に影響される。光触媒表面の場合、これらの無機物の汚れは、光触媒によっては直接に分解されない。実際には、光触媒活性によってもたらされる親水性により、殆どが除去される。この親水性は、事実として、雨の滴の完全な広がりを生じさせる。したがって、蒸発の跡はもはや存在しない。また、その他の無機物の汚れが表面上に存在すると、水膜によって洗浄されあるいは結晶の場合は再溶解され、このため殆どが除去される。特に雨によって誘引される「無機物汚れ防止」作用が得られる。
3.水性と相まって、コーティングは、親油性を呈することができ、これにより、水と同様に、極めて局所的な「染み」よりも見えにくい連続的膜の形態で、コーティング上に堆積した有機物の汚れを「濡れ」させることができる。「有機物の汚れ防止」効果は、2つの仕方の作用によって得られ、即ち、コーティング上に堆積すると、直ぐにそれが目に見え難くなり、さらに、光触媒によって開始されるラジカル分解によって徐々に消失する。
【0022】
コーティングは、どちらかと言えば滑らかな表面を有するものが選択されることができる。実際には、次の理由により、ある程度の粗さが有益なことがある。
1.より高活性な光触媒表面積を形成することができ、したがって、より高い光触媒活性を誘起することができる。
2.濡れに直接的効果を有する。粗さは実際に濡れ性を高める。滑らかな親水性表面は、粗くされるとより一層親水性になることができる。この場合、「粗さ」とは、表面の粗さと、層の厚さの少なくとも一部における層の多孔性によって生じる粗さの双方を意味するものと理解すべきである。
【0023】
上記の効果はいずれも、コーティングが多孔質で且つ粗ければより顕著であり、粗い光反応性表面は、際立った親水性効果をもたらす。しかしながら、あまりに過度であると、粗さは、汚れの被覆又は蓄積及び/又は光学的に許容できないレベルの不明瞭な外観をもたらすことにより、不利益になることがある。
【0024】
即ち、TiO2を主成分にしたコーティングは、約2〜20nmの粗さ、好ましくは5〜15nmの粗さを有するような堆積方法が有利であることが実証されており、この粗さは、原子間力顕微鏡を用い、1平方μmの表面積について自乗平均平方根(RMS)の値を求めることにより評価される。このような粗さにおいて、コーティングは、水との接触角に反映される親水性を呈し、この接触角は1°未満であることもできる。また、コーティングの厚み全体の気孔率を高めることが有益なことも見出されている。即ち、コーティングがTiO2のみからなる場合、65〜99%、とりわけ70〜90%のオーダーの気孔率を呈することが好ましく、この気孔率は、この場合、約3.8であるTiO2の理論密度に対する百分率として間接的に定義される。このような気孔率を高める1つの手段は、例えば、有機金属タイプの材料の堆積を含むゾルゲルタイプの技術によるコーティングの堆積であり、ポリエチレングリコール(PEG)タイプの有機ポリマーが、有機金属前駆体の溶液中に添加され、加熱によって層を硬化させた後、PEGを焼失させ、層の厚み全体で気孔率を高くさせる。
【0025】
本発明によるコーティングの厚さは様々であることができ、好ましくは5nm〜1μm、とりわけ5〜100nm、中でも10〜80nm、特には20〜50nmである。実際には、厚みの選択は、種々のパラメーターによって決まり、基材ガラスの目的とする用途、コーティング中のTiO2結晶子のサイズ、基材中のアルカリ金属の高い割合の存在などによって決まる。
【0026】
本発明において、基材とコーティングの間に、コーティングの機能と異なる又は補助する機能を有する1以上の別な薄層を配置することもできる。具体的には、帯電防止機能、熱的又は光学的機能、アナターゼ又はルチル形のTiO2の結晶成長を促進する機能、又は基材から発生する特定の元素の移動に対するバリヤを形成する層としての機能であり、後者に関しては、特に、アルカリ金属に対するバリヤ、中でも基材がガラスからなる場合にナトリウムイオンに対するバリヤとしての機能が挙げられる。
【0027】
また、高い屈折率と低い屈折率の交互の薄層からなる「防反射(anti-glare)」層の積層を設けることもでき、本発明によると、このコーティングは積層の最終層を構成する。この場合、このコーティングは割合に低い屈折率を有することが好ましく、例えば、チタンとケイ素の複合酸化物が挙げられる。
【0028】
帯電防止及び/又は熱的機能(例えば、電力用リード線を設けることによる加熱、低輻射率、日除けなど)を有する層は、金属タイプの伝導性材料を主成分にして選択することができ、例えば、銀、金属をドーピングした酸化物のタイプの例えば錫をドーピングした酸化インジウムのITO、フッ素種のハロゲンをドーピングした酸化錫のSnO2:F、アンチモンを含むSnO2:Sb、インジウムをドーピングした酸化亜鉛のZnO:In、フッ素を含むZn:F、アルミニウムを含むZnO:Al、錫を含むZnO:Snが挙げられる。また、化学量論的に酸素が不足した特定の金属酸化物のSnO2-xやZnO2-x(x<2)が挙げられる。
【0029】
帯電防止機能を有する層は、20〜1000Ωの表面抵抗値を有することが好ましい。これを分極させるため、電力リード線を設けることができる(例えば、5〜100Vの印加電圧)。このコントロールされた分極は、コーティング上に堆積し得るmmのオーダーのサイズのダストの堆積を抑制することができ、特に、静電気の作用のみによって付着したドライダストを、層の分極を突然に逆転させることにより、このダストを排除する。
【0030】
光学的機能を有する薄層は、光の反射を低下させる及び/又は基材の反射色をより無色にさせるために選択することができる。この場合、コーティングの屈折率と基材の屈折率の中間の屈折率と適切な光学的厚さを有することが好ましく、また、酸化アルミニウムAl23、酸化錫SnO2、酸化インジウムIn23の酸化物又は複合酸化物、又は炭酸化ケイ素若しくは酸窒化ケイ素からなることができる。反射色の最大の抑制を得るため、この薄層は、それを囲む2つの材料、即ち、基材と本発明のコーティングの屈折率の積の平方根に近いことが好ましい。同様に、λ/4に近い光学的厚さ(即ち、幾何学的厚さと屈折率の積)を選択することが有利であり、ここでλはほぼ可視光の平均波長であり、約500〜550nmである。
【0031】
アルカリ金属に対してバリヤ機能を有する薄層は、特にはケイ素の酸化物、窒化物、酸窒化物、炭窒化物、又はフッ素含有酸化アルミニウムAl23:F若しくは窒化アルミニウムを主成分にして選択することができる。実際には、基材がガラスからなる場合に有用であることが証明されており、これは、本発明によるコーティングの中にナトリウムイオンが移動することがその光触媒特性に悪影響するためである。
【0032】
基材又は下層(sublayer)の性質は、特にCVD堆積の場合、堆積される層の結晶化を促進するといった付加的長所を有する。
【0033】
即ち、CVDによるTiO2の堆積の際、結晶質のSnO2:Fの下層は、特に400〜500℃のオーダーの堆積温度の場合、殆どルチル形の成長を促進し、これに対して、ソーダ石灰ガラスや酸炭化ケイ素の下層の表面は、特に400〜600℃のオーダーの堆積温度において、アナターゼの成長を誘発する。
【0034】
これらの随意の薄層はいずれも、真空陰極スパッタリング技術、又は固相、液相若しくは気相熱分解のようなその他の技術による公知の仕方で堆積させることができる。上記の各層は複数の機能を兼備することもできるが、それぞれが機能を付加することもできる。
【0035】
本発明のもう1つの目的は「汚れ防止」(有機物及び/又は無機物の汚れ)及び/又は「曇り防止(anti-condensation) 」ガラスであり、ここで、上記のコーティング基材を取り入れた、一体式、又は二重ガラス若しくはラミネート式の複数ユニットであることができる。
【0036】
このように、本発明は、ガラス、セラミック、又はガラス質セラミック生産品の製造、特には「自己洗浄性」ガラスの製造を目的とする。この後者は、二重ガラスのようなビルディング用ガラスに有益である(次いで「内側」及び/又は「外側」にコーティングを配置することができ、即ち、面1及び/又は面4の上である。)。これは、非常に洗浄し難いガラス及び/又は屋根ガラスや空港用ガラスなどの極めて頻繁に洗浄することが必要なガラスに特に有益なことが分っている。また、視界性の保持が本質的な安全基準である輸送機関の窓にも関係する。このコーティングは、車の前面窓、側面窓、後面窓に施すことができ、特には座席に面する側の窓面上である。このコーティングは、曇りの発生を防ぐことができ、また、汚い指の跡、ニコチンその他の有機物の汚れを除去することができ、有機物には車内のプラスチック内装の特にダッシュボードから放出される揮発性可遡剤がある(場合により「フォギング」として知られる放出物)。航空機や汽車のようなその他の輸送機関も、本発明のコーティングを備えた窓を使用することが有益な用途を見出すことができる。
【0037】
この他の多数の用途も可能性があり、とりわけ水槽(aquarium)のガラス、店頭の窓、グリーンハウス、ベランダ、インテリア家具、街頭設備、さらにはミラー、テレビスクリーン、スペクタクル分野、あるいは、装美材料の表面材料、クラッド材料、外装材料のタイルなどが挙げられる。
【0038】
このように、本発明は、これらの公知の製品に耐紫外線性、汚れ防止性、滅菌性、防反射性、帯電防止性、抗菌性などを付与することにより、それらを機能化させることができる。
【0039】
本発明によるコーティングのもう1つの重要な用途は、エレクトロクロミックガラス、液晶ガラス(所望によりジクロロ染料を含む)、懸濁粒子の系を含むガラス、ビオロゲンガラスなど、電気制御可能な吸収可変性ガラスと組み合わせる用途である。これらのガラスは、一般に、複数の透明な基材を備え、それらの間に「活性」エレメントが配置され、これらの基材の少なくとも1つの外側表面上にコーティングを有益に配置することができる。
【0040】
特にエレクトロクロミックガラスの場合、このガラスが着色状態のとき、その吸収が表面のある程度の加熱をもたらし、本発明のコーティングの上に堆積した炭素質物質の光触媒分解を促進することができる。エレクトロクロミックガラスの構造のさらなる詳細は、エレクトロクロミックのラミネート式二重ガラスを記載した欧州特許出願EP−A−0575207を参照することができ、本発明のコーティングを面1の上に配置することができる。
【0041】
本発明のもう1つの目的は、本発明のコーティングを形成するための種々のプロセスである。熱分解方式の堆積技術を用いることができ、これは、ガラス基材が使用される場合、フロートガラスのストリップの上にコーティングを直接に連続的に堆積させることができるため有利である。
【0042】
熱分解は、有機金属タイプの1種以上の前駆体の1種以上の粉末より、固相で行うことができる。
【0043】
また、熱分解は、チタンキレート及び/又はチタンアルコラートの有機金属チタン前駆体を含む溶液より、液相で行うこともできる。このような前駆体は、少なくとも1種の別な有機金属前駆体を混合される。チタン前駆体の性質や堆積条件のさらなる詳細は、特許FR−2310977、EP−0465309を参照することができる。
【0044】
また、熱分解は、CVD(化学蒸着)として知られる技術によって、TiCl4のようなハライド種又はチタンテトライソプロポキシド種Ti(OiPr)4のチタンアルコラートのような少なくとも1種のチタン前駆体より、気相で行うこともできる。また、層の結晶化は、前述のように下層の種類によってコントロールすることもできる。
【0045】
さらに、その他の技術、特には「ゾルゲル」と組み合せた技術によってコーティングを堆積させることもできる。「ディッピング」(「ディップコーティング」としても知られる)や「セルコーティング」として知られるセルを用いた堆積のような種々の堆積法も可能である。また、スプレーコーティングやラミネート式(laminar)コーティングによる方法も可能であり、後者の技術は、国際特許出願WO−94/01598に詳しく記載されている。これらの堆積方法はいずれも、一般に、特にアルコラート種のチタンの少なくとも1種の有機金属前駆体を含む溶液を使用し、その溶液で基材の1つの面又は両面をコーティングした後、熱分解する。
【0046】
また、いずれの堆積技術においても、1回のみの工程ではなく少なくとも2回の順次の工程でコーティングすることが有利なことがあり、このことは、割合に厚いコーティングが採用された場合、コーティングの厚さの全体で酸化チタンの結晶化を促進するように観察される。
【0047】
同様に、光触媒特性を有するコーティングを、堆積の後、アニーリングの熱処理に供することが有益である。熱処理は、基材がコーティングされた後、1種以上の有機金属前駆体を酸化物に熱分解するのに、また、耐磨耗性を改良するのに、ゾルゲル又はラミネート式コーティングの技術にとって基本的であり、但し、前駆体が基材に接触すると直ぐに熱分解する熱分解技術の場合にはあてはまらない。ここで、前者の場合及び後者の場合において、TiO2が生成した後の堆積後の熱処理は、その結晶化度を改良する。また、選択の熱処理温度は、酸化物の結晶化度、アナターゼ及び/又はルチルの結晶性の適切なコントロールを可能にすることがある。
【0048】
ここで、ソーダ灰ガラスからなる基材の場合、複数の長期間にわたるアニーリングは、基材から光触媒層へ過度にアルカリ金属を移動させるため、光触媒活性の低下をもたらすことがある。基材(標準ガラスからなる場合)とコーティングの間にバリヤ層を使用すること、適切な組成のガラスからなる基材を選択すること、あるいはアルカリ金属が除去された表面を有するソーダ灰ガラスを使用することは、この危険性を解消することができる。
【0049】
本発明のこの他の有益な詳細と特長は、添付の図面を参照しながら以下の限定されない例によって明らかになるであろう。図1は、本発明によるコーティングを備えたガラス基材の横断面である。図2は、いわゆる「ディップコーティング」によるゾルゲル堆積法の図である。図3は、いわゆる「セルコーティング」堆積法の図である。図4は、いわゆる「スプレーコーティング」堆積法の図である。図5は、ラミネート式コーティングによる堆積技術の図である。
【0050】
図1に概略的に示したように、下記の例はいずれも、透明基材1の上の基本的に酸化チタンを主成分にしたいわゆる「汚れ防止」コーティング3の堆積に関係する。
【0051】
基材1は、厚さ4mm×長さ50cm×幅50cmの透明なソーダ灰シリカガラスからなる。本発明はこの特定の種類のガラスに限定されないことは言うまでもない。また、このガラスは平らではなく曲っていてもよい。コーティング3と基材1の間に随意の薄層2が存在し、これは、アルカリ金属の拡散に対するバリヤを構成するため及び/又は光の反射を低下させることを目的とした酸炭化ケイ素(SiOC)を主成分にした層であるか、あるいは、帯電防止及び/又は低輻射層を目的とした層(それ程顕著に低い輻射効果を有しなくてもよい)及び/又は特に反射色を低下させる層を構成することを目的としたフッ素でドーピングされた酸化錫SnO2:Fを主成分にした層である。
【実施例】
【0052】
例1〜3
例1〜3は、液相熱分解法を用いて堆積させたコーティング3に関する。この操作は、フロートバス式チャンバーの出口のフロートガラスの横と上に配置した適切な分配ノズルを用い、連続的に行うことができる。この例においては、既に所定の寸法に切断した基材に相対して配置した可動性ノズルを用いて操作を非連続的に行い、この基材は、適切な溶液を噴霧するノズルを一定速度で通過させる前に、予め400〜650℃の温度までオーブンで加熱する。
例1
この例において、随意の層は存在しない。コーティング3は、2種類の溶媒の酢酸エチルとイソプロパノールの混合溶媒中に溶解させた、2種類の有機金属チタン前駆体のチタンジイソプロポキシドジアセチルアセトネートとチタンテトラオクチレングリコレートを含む溶液を用いて堆積させた。
【0053】
全ての前駆体を同じ種類の別な前駆体に代えることも可能であることを認識すべきであり、具体的には、別なチタンキレートのチタンアセチルアセトネート、チタン(メチルアセトアセテート)、チタン(エチルアセトアセテート)、あるいはチタントリエタノールアミネート若しくはチタンジエタノールアミネートのタイプが挙げられる。
【0054】
基材1がオーブンの中で所望の温度、即ち、約500℃に達すると、直ぐに基材を、圧縮空気を用いて前記の混合物を室温でスプレーするノズルの下を通過させた。
【0055】
約90nmの厚さを有するTiO2層が得られたが、ノズルに対する基材1の通過速度及び/又は基材の前記温度を変えることにより、厚さをコントロールすることができる。
【0056】
この層は優れた機械的挙動を示す。その耐磨耗テストは、無垢のガラスの表面について得られるものと同等である。
【0057】
これを曲げ加工し、ディップコーティングを施すことができる。これはブルームを呈さず、即ち、コーティングされた基材の散乱光透過率は0.6%未満であった(560nmのD65光源によって測定)。
例2
例1を踏襲したが、但し、基材1とコーティング3の間に厚さ73nmのSnO2:F層2を挿入した。この層は、ジブチル錫ジフロリドDBTF粉末の熱分解によって得られた。また、特許出願EP−A−0648196に記載のように、液相又は気相における熱分解による公知の方法によっても得ることができる。気相において、モノブチル錫トリクロリドとフッ化物前駆体(所望により、H2Oタイプの「マイルド」な酸化剤と組み合わせる)の混合物を使用することもできる。得られる層の屈折率は約1.9であった。その表面抵抗は約50Ωであった。
【0058】
先の例1において、二重ガラスとして装着したコーティングされた基材1は、コーティングが面1の上にあり(もう1つの基材1′は、コーティングされていないが、12mmの空気層によって基材1と同じ性質と寸法を有する)、26%の反射における色飽和値と6.8%の透過における色飽和値を呈した。
【0059】
この例2において、反射における色飽和(金色の)はわずか3.6%であり、透過の1.1%であった。
【0060】
即ち、SnO2:Fの下層は、その導電性によって基材に帯電防止性を与えることができ、またその色調を透過と反射の双方において顕著により中間色にすることにより、基材の色調に好適な作用を与え、この色は、割合に高い屈折率を示す酸化チタンコーティングの存在によって生じる。mmのオーダーの割合に大きいサイズのダストの堆積を防ぐため、適切な給電を施してそれを分極させることができる。
【0061】
また、この下層は、光触媒TiO2層の中にアルカリ金属が拡散するのを抑える。こうして光触媒活性が改良される。
例3
例2を踏襲したが、但し、この例では、約1.75の屈折率と約50nmの厚さを有する酸炭化ケイ素を主成分とする層2を基材1とコーティング3の間に挿入し、この層は、特許出願EP−A−0518755に記載のように、窒素で希釈したSiH4とエチレンの混合物よりCVDによって得られる。この層は、基材1から生じるアルカリ金属(Na+,K+)やアルカリ土類金属(Ca++)がコーティング3の方に拡散する性向を防ぐのに特に有効であり、このため、光触媒活性が顕著に改良される。また、SnO2:Fと同様に、基材(1.52)とコーティング3(約2.30〜2.35)の中間の屈折率を有するため、反射と透過の双方において基材の着色強さを低下させることができ、この基材の光反射値RL を全体として低下させることができる。
【0062】
以下の例4〜7はCVDによる堆積に関するものである。
例4〜7
例4
この例は、前述の特許出願EP−A−0518755に記載されているような、標準的ノズルを用いて基材1の上にCVDにより直接コーティング3を堆積させることに関する。前駆体として、有機金属化合物又は金属ハロゲン化物のいずれでも使用される。この例では、有機金属化合物としてチタンテトライソプロピレートを選んだが、この化合物は、高い揮発性と300〜650℃の広い使用可能温度のため有利である。この例において、約425℃で堆積を行い、TiO2の厚さは15nmであった。
【0063】
また、テトラエトキシチタンTi(O−Et4も適切であり、ハロゲン化物としてはTiCl4が挙げられる。
例5
例4と同様にして行い、但し、この例では、15nmのTiO2層をガラス上に直接堆積させず、例3と同様にして堆積させた50nmのSiOC下層の上に堆積させた。
例6
例4と同様にして行い、但し、この例では、TiO2層の厚さは65nmであった。
例7
例5と同様にして行い、但し、この例ではTiO2層の厚さは60nmであった。
【0064】
これらの例4〜7より、このようにしてコーティングした基材は、磨耗テストについて良好な機械的挙動を呈した。特に、TiO2層の剥離は全く観察されなかった。
例8
この例では、「ディッピング」(「ディップコーティング」としても知られる)による堆積法を用いるゾルゲルを組合せた技術を使用した。この原理は図2に示されており、コーティング3の適切な1種以上の前駆体を含む液体溶液4の中に基材1を浸し、モーター装置5を用いてコントロールされた速度で基材1を引き上げた。引上速度の選定は、基材の2つの側の表面に残る溶液の厚さを調節することができ、したがって、溶媒を蒸発させて次いで前駆体を酸化物に分解させる熱処理の後のコーティングの厚さを調節することができる。
【0065】
コーティング3を堆積させるため、1リットルのエタノールあたり0.2モルのテトラブトキシドを含むエタノール溶液中の、1:1のモル比でチタンテトラブトキシドTi(O−Bu)4と安定化用ジエタノールアミンDEAを含む溶液4、又は例1に記載の前駆体と溶媒の混合物を使用した(チタン(ジエタノールアミネート)ジブトキシドのような別な前駆体も使用可能である)。
【0066】
基材1はSiOC下層を備えることができる。それぞれの溶液4から引き上げた後、基材1を100℃で1時間加熱し、次いで温度を徐々に高めて550℃で約3時間加熱した。
【0067】
コーティング3が各面上に得られ、このコーティングは、両方の場合とも、アナターゼ形の高い結晶性のTiO2であった。
【0068】
例9
この例は、「セルコーティング」として知られる技術を使用し、その原理を図3に示した。これは、2つの実質的に平行な面の6と7、及び2つのシール8と9によって画定された狭いキャビティを形成することを含み、これらの面6と7の少なくとも1つは処理される基材1の面からなる。次いでキャビティが、コーティングの1種以上の前駆体の溶液4で満たされ、次いで濡れたメニスカスを形成するように、コントロールされた仕方で溶液4が抜き出され、例えばぜん動式ポンプ10を用い、この溶液が抜き出されたときに、基材1の面上に溶液の膜を残存させる。
【0069】
次いでキャビティ5は、少なくとも乾燥に必要な時間まで保持される。膜は熱処理によって硬化させる。「ディップコーティング」と比較したこの技術の長所は、特には基材1の2つの面の1つのみを処理できることであり、マスキング系が採用されなければ系統的な必要がないことである。
【0070】
基材1は、酸炭化ケイ素SiOCを主成分にした薄層2を備えた。
【0071】
例6は、それぞれ例8に記載の溶液4を使用した。次いでTiO2コーティング3を得るため、同じ熱処理が行われた。
【0072】
コーティング3は、良好な機械的耐久性を示した。
【0073】
SEM(走査型電子顕微鏡写真)において、電界効果が、約30nmの直径を有する単結晶の粒の形態を示した。このコーティングの粗さは、粗くないコーティングに比較して高い濡れ性を生じさせる。
【0074】
また、これらの同じ溶液4を、図4に示したような「スプレーコーティング」によってコーティングを堆積させるために使用することができ、溶液4は、静的な基材1に対して霧状にスプレーされ、あるいは、図5に示したような層状コーティングによって行うこともできる。後者の場合において、ステンレス鋼とテフロン(商標)からなる支持体11に真空サクションで支持された基材1が、溶液を入れたタンク12の上を通過し、溶液が溝付シリンダー14を部分的に満たし、統合されたタンク12とシリンダー14が基材1の全長にわたって移動し、マスク13は、溶液4から溶媒が温度に蒸発するのを防ぐ。この技術についての詳細は、前述の国際特許出願WO−94/01598を参照することができる。
【0075】
堆積したコーティングで特徴づけ、「曇り防止性(anti-condensation) 」と「汚れ防止性(dirt-repellent)」を評価するため、上記の例で得られた基材についてテストを行った。
−テスト1−
これは曇りについてのテストである。これは、濡れの後、光触媒とコーティングの構造(ヒドロキシル基、気孔率、粗さのレベル)の変化を観察することからなる。表面が光触媒性であると、コーティング上に付着した含炭素微細汚れ物質は継時的に分解され、表面は親水性であり、このため曇り防止性である。また、先にコーティングした基材を突然に再加熱し、冷間に置き又は単に基材に息を吹きつけ、曇りが現われるかどうかを観察し、現われるのであればその時間を測定し、その曇りが消えるまでに要する時間を測定する。
−テスト2−
これは、無垢のガラス表面に比較したコーティング3の表面の親水性と親油性の評価に関するものであり、自然光、暗闇の下で外界雰囲気に基材を1週間放置し、次いで紫外線に20分間曝した後、その表面での水滴とDOP(ジオフチルフタレート)の滴を測定することによる。
−テスト3−
これは、評価すべき基材の上に、オルガノシランの層を堆積し、紫外線(UVA)で照射し、光触媒によって分解させることからなる。オルガノシランは濡れ性を改良するため、照射の際の基材と水との接触角は、付着層の分解の状態を示す。この層の消失速度は、基材の光触媒活性に関係する。
【0076】
付着のオルガノシランはトリフロロシランのオクタデシルトリクロロシラン(OTS)である。付着は浸漬によって行う。
【0077】
テスト装置は、低圧紫外線ランプを備えた1〜6で回転するターンテーブルを含んでなる。評価すべき試験片をターンテーブルに置き、評価する面を紫外線照射の側に向ける。それらの位置と点灯するランプの数により、各試験片は、0.5W/cm2〜50W/m2の紫外線照射を受ける。例1,2,3,8,9について、照射パワーは1.8W/m2とし、例4〜7については0.6W/m2とした。
【0078】
接触角のそれぞれの測定の時間は、曇り下の試験片の光触媒活性に応じ、20分間〜3時間の中で変化させた。測定はゴニオメーターを用いて行った。照射の前、ガラスは、約100°の接触角を示した。照射の後にこの角度が20°未満になれば、層が破壊したと考えられる。
【0079】
テストした各試験片は、nm/hとして求められる層の平均消失速度によって特徴づけられ、即ち、これは堆積させたオルガノシラン層の厚さを、20°未満の最終的定常値に到達させ得る照射時間(オルガノシランを消失させる時間)で割算した値である。
【0080】
上記の例は全てテスト1を合格し、即ち、コーティングを施した基材に息を吹きつけても完全に透明なままであるが、これに対し、コーティングしていない基材の上には非常に目に映る曇った層が付着した。
【0081】
各例のサンプルをテスト2に供し、コーティングした基材は、紫外線照射の後、5°以下の水及びジオクチルフタレートとの接触角を示した。これに対し、無垢のガラスは、同じ条件下で40°の水との接触角、20°のジオフチルフタレートとの接触角を示した。
【0082】
上記の例においてコーティングした基材のテスト3の結果を下記の表1および表2にまとめた。
【0083】
【表1】

【0084】
【表2】

【0085】
上記の表に関し、とりわけSiOCの下層が存在すると、ガラスから移動し得るアルカリ金属やアルカリ土類金属に対するバリヤ効果により、TiO2を含むコーティングの光触媒活性を高めることが分る(例4と5、又は例6と7の比較)。
【0086】
また、TiO2を含むコーティングの厚さがある役割をすることが分り(例1と3の比較)、即ち、単結晶又は「結晶子」の平均サイズよりも大きい厚さを有するTiO2コーティングで、より良好な光触媒効果が得られることが分かる。
【0087】
事実として、CVDによって得られるTiO2コーティングは、20〜30nmのオーダーの結晶サイズの、極めて発達した結晶化を示す。例6(65nmのTiO2)の光触媒活性は、例4(15nmのTiO2のみ)のそれよりも顕著に高いことが分る。したがって、含まれる結晶子の平均直径の少なくとも2倍のTiO2コーティングを施すことが有利である。あるいは、例5の場合のように、薄い厚さのTiO2コーティングに留めるが、適切な性質と適切な厚さの下層を選択し、結晶子の第1層から出来るだけTiO2を結晶成長させることもできる。
【0088】
TiO2の結晶化は、CVD以外の方法によって堆積させたコーティングについては若干劣ることが観察された。しかしながら、前述のように、若干劣る結晶化などの全ての因子は最適化の対象であり、割合に低い触媒活性は、割合に安価で複雑さの少ない堆積プロセスの使用できるといった利点との調和でもある。また、必要により適切な下層がTiO2のドーピングを使用し、触媒活性の性能を高めることもできる。また、例2と3の比較より、下層の性質は結晶形態と、事実として、コーティングの光触媒活性に影響を及ぼすことが確認されている。
【0089】
本発明の好適な態様は次のとおりである。
【0090】
(1)少なくとも部分的な結晶質の酸化チタンを含む光触媒特性を有するコーティングが、少なくとも1つの面の少なくとも一部に施された、ガラス、セラミック、又はガラス質セラミックを主成分にした基材;
(2)結晶質の酸化チタンが、アテターゼ形、ルチル形、又はアテターゼとルチルの混合形であることを特徴とする(1)に記載の基材;
(3)酸化チタンが、少なくとも25%、特に、30〜80%の結晶化度を有する結晶質であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の基材;
(4)結晶質の酸化チタンが、0.5〜60nm、好ましくは1〜50nm、特に、10〜40nmの平均サイズを有する結晶子の形態であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の基材;
(5)コーティングが無機物質、特に、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化錫、酸化ジルコニウム、又は酸化アルミニウムのアモルファス又は部分結晶質の酸化物又は混合酸化物の形態の無機物質をさらに含むことを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の基材;
(6)コーティングが、酸化チタンによる光触媒効果を増強できる添加剤を含み、特に、結晶格子のドーピング又はコーティングの表面ドーピングによってコーティングの吸収帯を広げる及び/又は酸化物の電荷キャリヤーの数を増やす、及び/又はコーティングの少なくとも一部を触媒で覆うことにより表面触媒反応の収率と反応速度を高める添加剤を含むことを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の基材;
(7)酸化チタンの結晶格子が、特に、ニオブ、タンタル、鉄、ビスマス、コバルト、ニッケル、銅、ルテニウム、セリウム、及びモリブデンからなる群の金属元素の少なくとも1種でドーピングされたことを特徴とする(6)に記載の基材;
(8)酸化チタン又はその全体のコーティング が、触媒、特に、薄層の形態の白金、ロジウム、銀、又はパラジムの貴金属でコーティングされたことを特徴とする(6)に記載の基材;
(9)コーティングが金属元素を含み、特に、吸収帯の拡大を目的とし、錫、カドミウム、タングステン、セリウム、又はジルコニウムから選択された元素を粒子の形態で含むことを特徴とする(6)に記載の基材;
(10)酸化チタン、又は酸化チタンを含むコーティングの表面ドーピングが、金属酸化物又は金属塩の層でそのコーティングの少なくとも一部を被覆することによって行われ、その金属が、鉄、銅、ルテニウム、セリウム、モリブデン、ビスマス、又はバナジウムから選択されたことを特徴とする(6)に記載の基材;
(11)コーティングの表面が親水性であり、特に、光照射に曝された後に5°未満の水との接触角を有する及び/又は親油性であることを特徴とする(1)〜(10)のいずれかに記載の基材;
(12)コーティングの厚さが5nm〜1μmであり、特に、5〜100nm、好ましくは10〜80nm、とりわけ20〜50nmであることを特徴とする(1)〜(11)のいずれかに記載の基材;
(13)コーティングの自乗平均平方根の粗さが2〜20nm、特に、5〜20nmであることを特徴とする(1)〜(12)のいずれかに記載の基材;
(14)帯電防止機能、熱的又は光学的機能、又は基材から生じるアルカリ金属の移動に対するバリヤを形成する機能を有する少なくとも1つの薄層が、光触媒特性を有するコーティングの下に配置されたことを特徴とする(1)〜(13)のいずれかに記載の基材;
(15)帯電防止機能と随意の制御された分極機能及び/又は熱的機能及び/又は光学的機能を有する薄層が、金属、ITO、SnO2:F、ZnO:In、ZnO:F、ZnO:Al、ZnO:Snのようなドーピングされた金属酸化物、又はSnO2-x又はZnO2-x(x<2)のような酸素が化学量論的に不足した金属酸化物を主成分としたことを特徴とする(14)に記載の基材;
(16)光学的機能を有する薄層が、コーティングの屈折率と基材の屈折率の中間の屈折率を有する酸化物又は複合酸化物を主成分とし、特に、Al23、SnO2、In23、酸炭化ケイ素、酸窒化ケイ素から選択されたことを特徴とする(14)に記載の基材;
(17)アルカリ金属に対するバリヤ機能を有する薄層が、ケイ素の酸化物、窒化物、酸炭化物、酸窒化物、又はAl23:F若しくは窒化アルミニウムを主成分とすることを特徴とする(14)に記載の基材;
(18)コーティングが、防反射層の積層の最終層を構成することを特徴とする(14)に記載の基材;
(19)(1)〜(18)のいずれかに記載の基材を備えた二重ガラス式又はラミネート式の汚れ防止及び/又は曇り防止ガラスの単一又は複数ユニット;
(20)曇り防止及び/又は汚れ防止用の自己洗浄性ガラスの作成において(1)〜(18)のいずれかに記載の基材を使用することであって、汚れ跡が有機物及び/又は無機物であり、特に、二重ガラス式のビルディング用ガラス、自動車の前方窓、後方窓、側面窓用のガラス、汽車又は航空機用ガラス、水槽用ガラス、ウィンドショップ用ガラス、グリーンハウス用ガラス、インテリア家具用ガラス、街頭設備用ガラス、又はミラー、テレビスクリーン用ガラス、又は電気制御式の吸収可変性ガラスである基材の使用;
(21)液相の熱分解、特に、チタンキレート及び/又はチタンアルコラートの少なくとも1種の有機金属チタン前駆体を含む溶液の熱分解によって光触媒特性を有するコーティングを堆積させることを特徴とする(1)〜(18)のいずれかに記載の基材の製造方法;
(22)光触媒特性を有するコーティングを、ディッピング又はディップコーティング、セルコーティング、スプレーコーティング、又はラミネートコーティングの堆積方法を用い、チタンアルコラートの少なくとも1種の有機金属チタン前駆体を含む溶液よりゾルゲル技術によって堆積させることを特徴とする(1)〜(18)のいずれかに記載の基材の製造方法;
(23)光触媒特性を有するコーティングを、ハロゲン化物又は有機金属種の少なくとも1種のチタン前駆体を用い、気相熱分解(CVD)によって堆積させることを特徴とする(1)〜(18)のいずれかに記載の基材の製造方法;
(24)光触媒特性を有するコーティングを、少なくとも2つの順次の工程で堆積させることを特徴とする(21)〜(23)のいずれかに記載の基材の製造方法;ならびに
(25)光触媒特性を有するコーティングを、堆積の後、アニーリング方式の少なくとも1種の熱処理に供することを特徴とする(21)〜(24)のいずれかに記載の基材の製造方法、
である。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明は、基材に対して顕著な「汚れ防止」作用を示し、工業的に製造可能な、基材上の光触媒コーティングを提供しうる。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明によるコーティングを備えたガラス基材の横断面である。
【図2】いわゆる「ディップコーティング」によるゾルゲル堆積法の図である。
【図3】いわゆる「セルコーティング」堆積法の図である。
【図4】いわゆる「スプレーコーティング」堆積法の図である。
【図5】ラミネート式コーティングによる堆積技術の図である。
【符号の説明】
【0093】
1 基材
2 薄層
3 コーティング
4 溶液
5 キャビティ
11 支持体
12 タンク
13 マスク
14 溝付シリンダー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒特性を有するコーティングが少なくとも1つの面の少なくとも一部に施された、ガラス、セラミック、又はガラス質セラミックであり、少なくとも部分的に結晶質であるアナターゼ形の酸化チタンを含み、結晶質酸化チタンは0.5〜60nmの平均サイズを有する結晶子の形態であり、該コーティングは高い屈折率と低い屈折率の交互の薄層からなる防反射層の積層の最終層を構成するコーティングした基材。
【請求項2】
コーティングが5〜100nmの厚さを有する請求項1に記載のコーティングした基材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−247652(P2006−247652A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−79677(P2006−79677)
【出願日】平成18年3月22日(2006.3.22)
【分割の表示】特願平9−511722の分割
【原出願日】平成8年9月13日(1996.9.13)
【出願人】(500374146)サン−ゴバン グラス フランス (388)
【Fターム(参考)】