説明

光触媒体分散液およびそれを用いた光触媒機能製品

【課題】本発明の課題は、粒子の凝集が抑制されて固液分離を起こしにくい光触媒体分散液を提供することにある。
【解決手段】本発明は、硫酸法により得られ、硫酸分のS元素換算の含有量が乾燥重量基準で1000ppm以下である酸化チタン粒子と、酸化タングステン粒子と、これらの粒子を分散させる分散媒とを少なくとも有し、前記酸化チタン粒子と前記酸化タングステン粒子の含有量が質量比で1:8〜8:1である光触媒体分散液と該光触媒体分散液を用いて形成されてなる光触媒体層を備える光触媒機能製品を提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子とを含有する光触媒体分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体にバンドギャップ以上のエネルギーを持つ光を照射すると、価電子帯の電子が伝導帯に励起され、価電子帯に正孔が、伝導帯に電子がそれぞれ生成する。かかる正孔および電子は、それぞれ強い酸化力と還元力を有することから、半導体に接触した物質に酸化還元作用を及ぼす。この酸化還元作用は光触媒作用と呼ばれており、かかる光触媒作用を示し得る半導体は、光触媒体と呼ばれている。このような光触媒体としては、酸化チタン粒子や酸化タングステン粒子が挙げられ、それらを互いに接触させて使用することにより、光励起における相乗効果が発現し、光触媒作用が向上することが知られている(特許文献1)。
しかし、酸化チタン粒子や酸化タングステン粒子は、通常、それぞれ単独で分散媒中に分散させ、それぞれ単独の光触媒体分散液として単独の光触媒体層の形成に利用されているに留まっており、未だに酸化チタン粒子や酸化タングステン粒子が共存する光触媒体分散液は得られていない。その理由として、酸化チタン粒子および酸化タングステン粒子を分散媒中に分散させても、酸化チタン粒子および酸化タングステン粒子の等電点の相違から、粒子が互いに凝集して固液分離し易いという欠点を有するためである。
【0003】
そこで、酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子との混合は、通常、ゾル中に分散させ、光触媒体分散ゾルとして光触媒体層の形成に利用されており、例えば、酸化チタン粒子および酸化タングステン粒子をゾル中に分散させた光触媒体分散ゾルが開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−265954号公報
【特許文献2】特開2005−231935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、光触媒体分散ゾルを基材の表面に塗布することにより、基材表面に、酸化チタン粒子および酸化タングステン粒子を含み、光触媒作用を示す光触媒体層を形成することができるが、光触媒体分散ゾルはチキソ性が高く、分散ゾルを基材に塗布するなどして光触媒体層を形成する際に、良好な膜を形成することができず、その結果、充分な光触媒作用を付与できない、といった問題を招くことになる。
【0006】
そこで、本発明の課題は、粒子の凝集が抑制されて固液分離を起こしにくい光触媒体分散液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を重ねた。その結果、硫酸分のS元素換算の含有量が乾燥重量基準で1000ppm以下である酸化チタン粒子と、酸化タングステン粒子を分散媒中に分散させた分散液において、粒子の凝集が抑制され、チキソ性を示さないことを見出した。本発明は、これらの知見に基づき完成されたものである。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)硫酸法により得られ、硫酸分のS元素換算の含有量が乾燥重量基準で1000ppm以下である酸化チタン粒子と、酸化タングステン粒子と、これらの粒子を分散させる分散媒とを少なくとも有し、前記酸化チタン粒子と前記酸化タングステン粒子との含有量が質量比で1:8〜8:1であることを特徴とする光触媒体分散液。
(2)前記酸化チタン粒子がメタチタン酸粒子である前記(1)に記載の光触媒体分散液。
(3)電子吸引性物質またはその前駆体を含む前記(1)または(2)に記載の光触媒体分散液。
(4)光を照射されてなる前記(3)に記載の光触媒体分散液。
(5)前記電子吸引性物質またはその前駆体は、Cu、Pt、Au、Pd、Ag、Fe、Nb、Ru、Ir、RhおよびCoからなる群より選ばれる1種以上の金属またはその化合物である前記(1)〜(4)のいずれかに記載の光触媒体分散液。
(6)表面に光触媒体層を備える光触媒機能製品であって、前記光触媒体層が前記(1)〜(5)のいずれかに記載の光触媒体分散液を用いて形成されていることを特徴とする光触媒機能製品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、粒子の凝集が抑制されて固液分離を起こしにくい光触媒体分散液を得ることができる。そして、この光触媒体分散液を用いれば、分散剤等を含ませることなく、高い光触媒作用を示す光触媒体層を容易に形成することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(光触媒体分散液)
本発明の光触媒体分散液は、光触媒作用を有する光触媒体である酸化チタン粒子および酸化タングステン粒子が、分散媒中に分散したものである。このとき前記酸化チタン粒子は、硫酸分のS元素換算の含有量が1000ppm以下である。硫酸分は通常硫酸イオンとして、粒子間隙等に存在しており、硫酸分のS元素換算の含有量が1000ppmを越える場合、この硫酸イオンが例えば凝集剤のような働きをして、得られる光触媒体分散液の粘度が高くなってチキソ性を示し、分散粒子径が増大して取り扱いが困難となる。
【0011】
本発明の酸化チタン粒子は、光触媒作用を示す粒子状の酸化チタンであれば、特に制限はされないが、例えば、メタチタン酸粒子、結晶型がアナターゼ型、ブルッカイト型、ルチル型などである二酸化チタン〔TiO2〕粒子等が挙げられる。なお、酸化チタン粒子は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよいが、これらの中でも特にメタチタン酸粒子を用いるのが好ましい。
【0012】
本発明の酸化チタン粒子として使用されるメタチタン酸粒子は、例えば以下の方法により得ることができる。
チタン鉱石、イルメナイト鉱石、天然ルチル等を濃硫酸中で加熱することにより溶解して硫酸チタンを含む反応混合物を得、これを加熱加水分解する方法により得ることができる。加熱加水分解後の反応混合物は通常、スラリー状であるので、これを濾過することによりメタチタン酸粒子を取り出すことができる。この段階で硫酸分のS元素換算の含有量が乾燥重量基準で通常1〜3%程度含まれている。得られたメタチタン酸粒子を苛性ソーダ水溶液等に添加することによりアルカリ性にして硫酸分を洗浄し、メタチタン酸粒子を濾取する。濾取するにあたり硝酸を加えて中性にしてもよく、これにより濾過操作を容易にすることができる。濾取されたメタチタン酸粒子は通常、純水等で洗浄される。この段階で硫酸分のS元素換算の含有量が乾燥重量基準で通常1200〜2000ppm程度含まれている。硫酸分のS元素換算の含有量が乾燥重量基準で1000ppm以下にするためには再度、メタチタン酸粒子を苛性ソーダ水溶液等に添加することによりアルカリ性にして硫酸分を洗浄し、メタチタン酸粒子を濾取する。濾取するにあたり硝酸を加えて中性にしてもよく、これにより濾過操作を容易にすることができる。濾取されたメタチタン酸粒子は通常、純水等で洗浄される。このようにして得られるメタチタン酸粒子はS元素換算の含有量が乾燥重量基準で通常1000ppm以下にすることができる。
本発明の酸化チタン粒子として使用される二酸化チタン粒子は、前記で得られたメタチタン酸粒子を焼成することにより得ることができる。得られる二酸化チタン粒子は、焼成する際の焼成温度や焼成時間を調整することにより、アナターゼ型、ブルッカイト型またはルチル型など、所望の結晶型にすることができる。
本発明の酸化チタン粒子としては、好ましくはメタチタン酸粒子を用いることが好ましい。メタチタン酸粒子の方が表面積が大きいため、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド等の揮発性有機物の反応基質の吸着性に優れる。また微粒子であるため、ビーズミル等での分散処理で分散されやすく、結晶への損傷が軽減できる。これにより、分散処理による光触媒作用の低下を軽減でき、分散処理で細かく粉砕しやすく、酸化タングステン粒子の表面に該酸化チタン粒子を担持させ、または接触させて使用することにより、光励起における相乗効果が発現し、従来よりも高い光触媒作用を得ることができる。
【0013】
前記酸化チタン粒子のBET比表面積は、光触媒作用および分散性の観点から、40〜500m2/g、好ましくは250〜400m2/gである。
【0014】
本発明の酸化タングステン粒子は、光触媒作用を示す粒子状の酸化タングステンであれば、特に制限はされないが、例えば、三酸化タングステン〔WO3〕粒子等が挙げられる。なお、酸化タングステン粒子は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0015】
三酸化タングステン粒子は、例えば、(i)タングステン酸塩の水溶液に酸を加えることにより、沈殿物としてタングステン酸を得、得られたタングステン酸を焼成する方法、(ii)メタタングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸アンモニウムを加熱することにより熱分解する方法、などによって得ることができる。
【0016】
前記酸化タングステン粒子のBET比表面積は、光触媒作用の観点から、2〜100m2/g、好ましくは5〜50m2/gである。
【0017】
本発明の光触媒体分散液の中に含まれる粒子(酸化チタン粒子および酸化タングステンテン粒子)の平均分散粒子径は、分散性作用の観点からは、50nm〜3μm、好ましくは60〜500nm、より好ましくは80〜150nmである。
【0018】
本発明の光触媒体分散液において、前記酸化チタン粒子と前記酸化タングステン粒子との比率(酸化チタン粒子:酸化タングステン粒子)は、質量比で、1:8〜8:1、好ましくは2:3〜3:2で含有する。
【0019】
本発明の光触媒体分散液の分散媒は、酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子が分散すれば特に制限はなく、通常、水を主成分とする水性溶媒が用いられる。具体的には、分散媒は、水単独であってもよいし、水と水溶性有機溶媒との混合溶媒であってもよい。水と水溶性有機溶媒との混合溶媒を用いる場合には、水の含有量が50質量%以上であることが好ましい。水溶性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの水溶性アルコール溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。なお、分散媒は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
前記分散媒の含有量は、酸化チタン粒子および酸化タングステン粒子の合計量に対して、通常5〜200質量倍、好ましくは10〜100質量倍である。分散媒が前記粒子の合計量に対して5質量倍未満であると、酸化チタン粒子および酸化タングステン粒子が沈降し易くなり、一方、前記粒子の合計量に対して200質量倍を超えると、容積効率の点で不利となるので、いずれも好ましくない。
【0021】
本発明の光触媒体分散液は、電子吸引性物質またはその前駆体をも含有することが好ましい。電子吸引性物質とは、光触媒体(すなわち、酸化チタン粒子および酸化タングステン粒子)の表面に担持されて電子吸引性を発揮しうる化合物であり、電子吸引性物質の前駆体とは、光触媒体の表面で電子吸引性物質に遷移しうる化合物(例えば、光の照射により電子吸引性物質に還元されうる化合物)である。電子吸引性物質が光触媒体の表面に担持されて存在すると、光の照射により伝導帯に励起された電子と価電子帯に生成した正孔との再結合が抑制され、光触媒作用をより高めることができる。
【0022】
前記電子吸引性物質またはその前駆体は、Cu、Pt、Au、Pd、Ag、Fe、Nb、Ru、Ir、RhおよびCoからなる群より選ばれる1種以上の金属またはその化合物であることが好ましい。より好ましくは、Cu、Pt、AuおよびPdのうちの1種以上の金属またはその化合物である。例えば、前記電子吸引性物質としては、前記金属またはその化合物である酸化物や水酸化物等が挙げられ、電子吸引性物質の前駆体としては、前記金属の硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、有機酸塩、炭酸塩、リン酸塩等が挙げられる。
【0023】
電子吸引性物質の好ましい具体例としては、Cu、Pt、Au、Pdの金属が挙げられる。また、電子吸引性物質の前駆体の好ましい具体例としては、Cuを含む前駆体として、硝酸銅〔Cu(NO3)2〕、硫酸銅〔CuSO4〕、塩化銅〔CuCl2、CuCl〕、臭化銅〔CuBr2、CuBr〕、沃化銅〔CuI〕、沃素酸銅〔CuI26〕、塩化アンモニウム銅〔Cu(NH4)2Cl4〕、オキシ塩化銅〔Cu2Cl(OH)3〕、酢酸銅〔CH3COOCu、(CH3COO)2Cu〕、蟻酸銅〔(HCOO)2Cu〕、炭酸銅〔CuCO3)、蓚酸銅〔CuC24〕、クエン酸銅〔Cu2647〕、リン酸銅〔CuPO4〕が;Ptを含む前駆体として、塩化白金〔PtCl2、PtCl4〕、臭化白金〔PtBr2、PtBr4〕、沃化白金〔PtI2、PtI4〕、塩化白金カリウム〔K2(PtCl4)〕、ヘキサクロロ白金酸〔H2PtCl6〕、亜硫酸白金〔H3Pt(SO3)2OH〕、酸化白金〔PtO2〕、塩化テトラアンミン白金〔Pt(NH3)4Cl2〕、炭酸水素テトラアンミン白金〔C21446Pt〕、テトラアンミン白金リン酸水素〔Pt(NH3)4HPO4〕、水酸化テトラアンミン白金〔Pt(NH3)4(OH)2〕、硝酸テトラアンミン白金〔Pt(NO3)2(NH3)4〕、テトラアンミン白金テトラクロロ白金〔(Pt(NH3)4)(PtCl4)〕、ジニトロジアミン白金〔(Pt(NO2)2(NH3)2〕が;Auを含む前駆体として、塩化金〔AuCl〕、臭化金〔AuBr〕、沃化金〔AuI〕、水酸化金〔Au(OH)2〕、テトラクロロ金酸〔HAuCl4〕、テトラクロロ金酸カリウム〔KAuCl4〕、テトラブロモ金酸カリウム〔KAuBr4〕、酸化金〔Au23〕が;Pdを含む前駆体として、例えば、酢酸パラジウム〔(CH3COO)2Pd〕、塩化パラジウム〔PdCl2〕、臭化パラジウム〔PdBr2〕、沃化パラジウム〔PdI2〕、水酸化パラジウム〔Pd(OH)2〕、硝酸パラジウム〔Pd(NO3)2〕、酸化パラジウム〔PdO〕、硫酸パラジウム〔PdSO4〕、テトラクロロパラジウム酸カリウム〔K2(PdCl4)〕、テトラブロモパラジウム酸カリウム〔K2(PdBr4)〕、テトラアンミンパラジウム塩化物〔Pd(NH34Cl2〕、テトラアンミンパラジウム臭化物〔Pd(NH34Br2〕、テトラアンミンパラジウム硝酸塩〔Pd(NH34(NO32〕、テトラアンミンパラジウムテトラアンミンパラジウム酸テトラアンミンパラジウム塩化物〔(Pd(NH34)(PdCl4)〕、テトラクロロパラジウム酸アンモニウム〔(NH42PdCl4〕が;それぞれ挙げられる。なお、電子吸引性物質またはその前駆体は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、1種以上の電子吸引性物質と1種以上の前駆体とを併用してもよいことは勿論である。
【0024】
前記電子吸引性物質またはその前駆体をも含有させる場合、その含有量は、金属原子換算で、酸化チタン粒子および酸化タングステン粒子の合計量100質量部に対して、通常0.005〜0.6質量部、好ましくは0.01〜0.4質量部である。電子吸引性物質またはその前駆体の含有量が、前記粒子の合計量100質量部に対して0.005質量部未満であると、電子吸引性物質による光触媒作用の向上効果が充分に得られないおそれがあり、一方、0.6質量部を超えると、却って光触媒作用が低下するおそれがある。
【0025】
本発明の光触媒体分散液は、本発明の効果を損なわない範囲で、従来公知の各種添加剤を含んでいてもよい。なお、添加剤は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
前記添加剤としては、例えば、光触媒作用を向上させる目的で添加されるものが挙げられる。このような光触媒作用向上効果を目的とした添加剤としては、具体的には、非晶質シリカ、シリカゾル、水ガラス、オルガノポリシロキサンなどの珪素化合物;非晶質アルミナ、アルミナゾル、水酸化アルミニウムなどのアルミニウム化合物;ゼオライト、カオリナイトのようなアルミノ珪酸塩;酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属酸化物またはアルカリ度類金属水酸化物;リン酸カルシウム、モレキュラーシーブ、活性炭、有機ポリシロキサン化合物の重縮合物、リン酸塩、フッ素系ポリマー、シリコン系ポリマー、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂;等が挙げられる。
さらに、前記添加剤としては、光触媒体分散液を基材表面に塗布した際に光触媒体(酸化チタン粒子および酸化タングステン粒子)をより強固に基材の表面に保持させるためのバインダー等を用いることもできる(例えば、特開平8−67835号公報、特開平9−25437号公報、特開平10−183061号公報、特開平10−183062号公報、特開平10−168349号公報、特開平10−225658号公報、特開平11−1620号公報、特開平11−1661号公報、特開2004−059686号公報、特開2004−107381号公報、特開2004−256590号公報、特開2004−359902号公報、特開2005−113028号公報、特開2005−230661号公報、特開2007−161824号公報など参照)。
【0027】
本発明の光触媒体分散液は、その水素イオン濃度が、通常pH2〜pH7、好ましくはpH3〜pH6である。水素イオン濃度がpH2未満であると、酸性が強すぎて取扱いが面倒であり、一方、pH7を超えると、酸化タングステン粒子が溶解するおそれがあるので、いずれも好ましくない。光触媒体分散液の水素イオン濃度pHは、通常、酸を加えることにより調整すればよい。水素イオン濃度pHの調整に用いることのできる酸としては、例えば、硝酸、塩酸、硫酸、リン酸、ギ酸、酢酸、蓚酸等が挙げられる。
【0028】
(光触媒体分散液の製造方法)
本発明の光触媒体分散液の製造方法は、分散媒中に酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子を分散させるものである。酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子の分散は、両者を混合した後に分散処理を施す。分散処理には、例えば、媒体撹拌式分散機を用いるなど、従来公知の方法を採用することができる。
【0029】
酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子とを混合するに際しては、両者の使用量は、酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子との質量比は前記したように1:8〜8:1、好ましくは2:3〜3:2で含有すればよい。
【0030】
本発明の光触媒体分散液の製造方法は、電子吸引性物質またはその前駆体を添加する工程を含むことが好ましい。ここで、電子吸引性物質またはその前駆体の添加は、前記酸化チタン粒子をあらかじめ分散した分散液に対して行ってもよいし、前記酸化タングステン粒子分散液をあらかじめ分散した分散液に対して行ってもよいし、前記酸化チタン粒子と前記酸化タングステン粒子を分散した分散液に対して行ってもよい。
なお、電子吸引性物質またはその前駆体を添加する場合、その添加量は、最終的に得られる光触媒体分散液における電子吸引性物質またはその前駆体の含有量が(光触媒体分散液)の項で前述した範囲となるようにすればよい。
【0031】
前記電子吸引性物質の前駆体を添加した場合には、その添加後に光を照射されてなることが好ましい。照射する光としては、特に制限はなく、可視光線でもよいし、紫外線でもよい。光を照射することにより、光励起によって生成した電子によって前駆体が還元されて電子吸引性物質となり、光触媒体粒子(酸化チタン粒子および酸化タングステン粒子)の表面に担持される。なお、前記前駆体を添加した場合に、たとえ光の照射を行なわなくても、得られた光触媒体分散液により形成された光触媒体層に光が照射された時点で電子吸引性物質へ変換されることになるので、その光触媒能が損なわれることはない。
【0032】
前記光の照射は、前記電子吸引性物質の前駆体の添加後であれば、どの段階で行なってもよい。
また、前記電子吸引性物質の前駆体を添加した場合には、より効率よく電子吸引性物質を得る目的で、光の照射の前に、本発明の効果を損なわない範囲で、適宜、メタノールやエタノールや蓚酸等を加えることもできる。
【0033】
なお、本発明の光触媒体分散液の製造方法においては、(光触媒体分散液)の項で前述した各種添加剤を添加することもできる。その場合、それら添加剤の添加はどの段階で行なってもよいが、例えば、酸化チタン粒子分散液と酸化タングステン粒子分散液もしくは酸化タングステン粒子との混合後に行なうことが好ましい。
【0034】
(光触媒機能製品)
本発明の光触媒機能製品は、本発明の光触媒体分散液を用いて形成された光触媒体層を表面に備えるものである。ここで、光触媒体層は、光触媒作用を示す光触媒体、すなわち酸化チタン粒子および酸化タングステン粒子からなる。そして、本発明の光触媒体分散液が電子吸引性物質またはその前駆体を含む場合には、当該電子吸引性物質またはその前駆体は、酸化チタン粒子および酸化タングステン粒子の表面に担持される。なお、担持された該前駆体は、例えば光が光触媒体層に照射されることなどによって、電子吸引性物質に遷移する。
【0035】
前記光触媒体層は、例えば、本発明の光触媒体分散液を基材(製品)の表面に塗布した後、分散媒を揮発させるなど、従来公知の成膜製造方法によって形成することができる。光触媒体層の膜厚は、特に制限されるものではなく、通常、その用途等に応じて、数百nm〜数mmまで適宜設定すればよい。光触媒体層は、基材(製品)の内表面または外表面であれば、どの部分に形成されていてもよいが、例えば、光(可視光線)が照射される面であって、かつ悪臭物質が発生する箇所と連続または断続して空間的につながる面に形成されていることが好ましい。なお、基材(製品)の材質は、形成される光触媒体層を実用に耐えうる強度で保持できる限り、特に制限されるものではなく、例えば、プラスチック、金属、セラミックス、木材、コンクリート、紙など、あらゆる材料からなる製品を対象にすることができる。
【0036】
本発明の光触媒機能製品の具体例としては、例えば、天井材、タイル、ガラス、壁紙、壁材、床等の建築資材、自動車内装材(自動車用インストルメントパネル、自動車用シート、自動車用天井材)、冷蔵庫やエアコン等の家電製品、衣類やカーテン等の繊維製品などが挙げられる。
【0037】
本発明の光触媒機能製品は、屋外においては勿論のこと、蛍光灯やナトリウムランプのような可視光源からの光しか受けない屋内環境においても、光の照射によって高い触媒作用を示す。したがって、本発明の光触媒体分散液を、例えば病院の天井材、タイル、ガラスなどに塗布して乾燥させると、屋内照明による光の照射によって、ホルムアルデヒドやアセトアルデヒドなどの揮発性有機物、アルデヒド類、メルカプタン類、アンモニアなどの悪臭物質、窒素酸化物の濃度を低減させ、さらには黄色ブドウ球菌や大腸菌、炭疽菌、結核、コレラ菌、ジフテリア菌、破傷風菌、ペスト菌、赤痢菌、ボツリヌス菌、およびレジオネラ菌等の病原菌等や、インフルエンザウィルスやノロウィルス等のウィルスを死滅、分解、除去することができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
なお、実施例および比較例における各物性の測定およびその光触媒作用の評価については、以下の方法で行った。
【0040】
<結晶型>
X線回折装置(リガク社製「RINT2000/PC」)を用いてX線回折スペクトルを測定し、そのスペクトルから結晶型を決定した。
【0041】
<BET比表面積>
比表面積測定装置(湯浅アイオニクス社製「モノソーブ」)を用いて窒素吸着法により測定した。
【0042】
<硫酸分のS元素換算の含有量の定量>
ICP発光分析装置[Thermofisherscientific社製「i CAP6500 Duo View」]を用いて発光スペクトルを測定し、そのスペクトルから酸化チタンに含まれる硫酸分のS元素換算の含有量を分析した。
【0043】
<平均分散粒子径>
サブミクロン粒度分布測定装置(コールター社製「N4Plus」)を用いて粒度分布を測定し、この装置に付属のソフトにより自動的に単分散モード解析して得られた結果を、平均分散粒子径(nm)とした。
【0044】
<光触媒作用の評価:アセトアルデヒドの分解>
光触媒作用は、蛍光灯の光の照射下でのアセトアルデヒドの分解反応における一次反応速度定数を測定することにより評価した。
まず、光触媒作用測定用の試料を作製した。すなわち、ガラス製シャーレ(外径70mm、内径66mm、高さ14mm、容量約48mL)に、得られた光触媒体分散液を、底面の単位面積あたりの固形分換算の滴下量が1g/m2となるように滴下し、シャーレの底面全体に均一となるように展開した。次いで、このシャーレを110℃の乾燥機内で大気中1時間保持することにより乾燥させて、ガラス製シャーレの底面に光触媒体層を形成した。この光触媒体層に、紫外線強度が2mW/cm2となるようにブラックライトからの紫外線を16時間照射して、これを光触媒作用測定用試料とした。
【0045】
次に、この光触媒作用測定用試料をシャーレごとガスバッグ(内容積1L)の中に入れて密閉し、次いで、このガスバッグ内を真空にした後、酸素と窒素との体積比が1:4である混合ガス0.6Lを封入し、さらにその中に1容量%でアセトアルデヒドを含む窒素ガス3mLを封入して、暗所で室温下1時間保持した。その後、市販の白色蛍光灯を光源とし、測定用試料近傍での照度が1000ルクス(ミノルタ社製照度計「T−10」で測定)となるようにガスバッグの外から蛍光灯の光を照射し、アセトアルデヒドの分解反応を行った。このとき、測定試料近傍の紫外光の強度は6.5μW/cm2(トプコン社製紫外線強度計「UVR−2」に、同社製受光部「UD−36」を取り付けて測定)であった。蛍光灯の光の照射を開始してから1.5時間毎にガスバッグ内のガスをサンプリングし、アセトアルデヒドの濃度をガスクロマトグラフ(島津製作所社製「GC−14A」)にて測定した。そして、照射時間に対するアセトアルデヒドの濃度から一次反応速度定数を算出し、これをアセトアルデヒド分解能として評価した。この一次反応速度定数が大きいほど、アセトアルデヒドの分解能(すなわち光触媒作用)が高いと言える。
【0046】
<光触媒作用の評価:ホルムアルデヒドの分解>
光触媒作用は、蛍光灯の光の照射下でのホルムアルデヒドの分解反応における一次反応速度定数を測定することにより評価した。
まず、光触媒作用測定用の試料を作製した。すなわち、ガラス製シャーレ(外径70mm、内径66mm、高さ14mm、容量約48mL)に、得られた光触媒体分散液を、底面の単位面積あたりの固形分換算の滴下量が1g/m2となるように滴下し、シャーレの底面全体に均一となるように展開した。次いで、このシャーレを110℃の乾燥機内で大気中1時間保持することにより乾燥させて、ガラス製シャーレの底面に光触媒体層を形成した。この光触媒体層に、紫外線強度が2mW/cm2となるようにブラックライトからの紫外線を16時間照射して、これを光触媒作用測定用試料とした。
【0047】
次に、この光触媒作用測定用試料をシャーレごとガスバッグ(内容積1L)の中に入れて密閉し、次いで、このガスバッグ内を真空にした後、酸素と窒素との体積比が2:3で相対湿度が約100%である混合ガス0.3Lを封入し、さらにその中に濃度100ppmでホルムアルデヒドを含む窒素ガス0.3Lを封入して、暗所で室温下30分保持した。その後、市販の白色蛍光灯を光源とし、測定用試料近傍での照度が6000ルクス(ミノルタ社製照度計「T−10」で測定)となるようにガスバッグの外から蛍光灯の光を照射し、アセトアルデヒドの分解反応を行った。このとき、測定試料近傍の紫外光の強度は40μW/cm2(トプコン社製紫外線強度計「UVR−2」に、同社製受光部「UD−36」を取り付けて測定)であった。蛍光灯の光の照射を開始してから10分毎にガスバッグ内のガスをサンプリングし、ホルムアルデヒドの濃度をガスクロマトグラフ(アジレントテクノロジー社製「Agilent3000マイクロGC」)にて測定した。そして、照射時間に対するホルムアルデヒドの濃度から一次反応速度定数を算出し、これをホルムアルデヒド分解能として評価した。この一次反応速度定数が大きいほど、ホルムアルデヒドの分解能(すなわち光触媒活性)が高いと言える。
【0048】
<チキソ性>
B型粘度計[TOKIMEC社製「モデル BL」]を用いて粘度を測定することによって行われる。110mlのサンプル瓶にメタチタン酸粒子分散液を約100ml入れ、B型粘度計に取り付けられているローターの上面まで前記メタチタン酸粒子分散液を満たすように調節する。上記分散液の液温は25℃±1℃の環境下で測定した。
このようにして得られる粘度値が100mPa・sec以下であればチキソ性がないものと評価した。
【0049】
(実施例1)
内容量が25Lの攪拌器付反応器の攪拌速度を159rpmで一定に維持し、これに分散媒として純水2.5Lに、25重量%の苛性ソーダ水溶液を400g加え、ここに硫酸チタンを加水分解することにより得られるスラリー状のメタチタン酸6500g(乾燥重量として1600g)を添加し、1分程度攪拌した。このときのpHは6.3で、反応容器内の温度は室温と同じであった。その後、反応容器内の温度を40℃に昇温させた。
【0050】
ここであらかじめ反応器に取り付けてあるpHコントローラを稼動させた。このpHコントローラは25重量%の苛性ソーダ水溶液および68重量%の硝酸水溶液を供給してpHを調節する。
【0051】
まず、pHコントローラのpH設定値を9.8とし、25重量%の苛性ソーダ水溶液380gを、10分間で供給し、4時間保持した。
【0052】
次にpHコントローラのpH設定値を6.1とし、68重量%硝酸水溶液170gを、30分間で供給し、1時間保持した。これにより洗浄されたスラリー状のメタチタン酸が得られた。得られた脱硫されたスラリー状のメタチタン酸を遠心脱水機[コクサン社製「小型遠心分離機H−122」]に入れ、遠心脱水機を560Gに設定して稼動させ、スラリー状のメタチタン酸を濾過しそのまま純水(〜1μS/cm)を用いて100ml/minの流速で6時間注水洗浄を行い、注水終了後、遠心脱水機を1260Gに設定して20分間、そのまま遠心脱水機を稼動させることによりケーキ状のメタチタン酸を得た(以下、「1次洗浄ケーキ」という)。この1次洗浄ケーキの一部を採取し、120℃で乾燥した後、ICP発光分析装置で分析したところ、NaのNa元素換算の含有量が乾燥重量基準で60ppm、硫酸分のS元素換算の含有量が乾燥重量基準で1400ppmであった。
【0053】
次に内容量が25Lの攪拌器付反応器の攪拌速度を159rpmで一定に維持し、分散媒として純水2Lを加え、ここに1次洗浄ケーキを1800g加えた。このときのpHは5.7で、反応容器内の温度は室温と同じであった。ここに25重量%の苛性ソーダ水溶液200gを加えた。このときのpHは12であった。その後、反応容器内の温度を40℃に昇温させ、4時間保持した。
【0054】
ここであらかじめ反応器に取り付けてあるpHコントローラを稼動させた。このpHコントローラは68重量%の硝酸水溶液を供給してpH調整する。
【0055】
pHコントローラのpH設定値を6.1とし、68重量%硝酸水溶液を103g、10分間で供給し、1時間保持した。これによりさらに洗浄されたスラリー状のメタチタン酸が得られた。得られたより脱硫されたスラリー状のメタチタン酸を遠心脱水機[コクサン社製「小型遠心分離機H−122」]に入れ、遠心脱水機を560Gに設定して稼動させ、スラリー状のメタチタン酸を濾過しそのまま純水(〜1μS/cm)を用いて100ml/minの流速で6時間注水洗浄を行い、注水終了後、遠心脱水機を1260Gに設定して20分間、そのまま遠心脱水機を稼動させることによりケーキ状のメタチタン酸を得た(以下、「2次洗浄ケーキ」という)。この2次洗浄ケーキの一部を採取し、120℃で乾燥した後、ICP発光分析装置で分析したところ、NaのNa元素換算の含有量が乾燥重量基準で4000ppm、硫酸分のS元素換算の含有量が乾燥重量基準で400ppmであった。
このようにして得られたケーキ状のメタチタン酸(TiO2として固形分濃度44.58質量%、BET比表面積347m2/g、硫酸分のS元素換算の含有量400ppm)13.46gと酸化タングステン粉末(日本無機化学製、BET比表面積6.3m2/g)6gと水40.54gを混合し、得られた混合物を、媒体攪拌式粉砕機(五十嵐機械製作所製「4TSG−1/8」)を用いて下記の条件で分散処理して、光触媒体分散液を得た。
媒体:直径0.05mmのジルコニア製ビーズ190g
処理温度:20℃
処理時間:4時間
回転数:2000rpm
【0056】
得られた光触媒体分散液の平均分散粒子径は108nmであり、分散液のpHは4.8であった。この光触媒体分散液にチキソ性や固液分離は見られなかった。なお、分散処理前の混合物と分散処理後の分散液との一部を真空乾燥して固形分を得、各固形分のX線回折スペクトルをそれぞれ測定して比較したところ、結晶型はアナターゼ型酸化チタンと酸化タングステンの混合相であり、分散処理による結晶型の変化は見られなかった。
【0057】
得られた光触媒体分散液に水とヘキサクロロ白金酸〔H2PtCl6〕水溶液を加えて、光触媒体分散液とした。この光触媒体分散液100質量部中の固形分は5質量部であった(固形分濃度5質量%)。またヘキサクロロ白金酸の使用量は、白金原子換算で、酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子との合計使用量100質量部に対して0.06質量部であった。
【0058】
次に、ヘキサクロロ白金酸を含む光触媒分散液10gを50mLビーカーに移し、攪拌しながら超高圧水銀灯(ウシオ電機製、ランプハウス:MPL―25101、超高圧水銀灯:USH―250BY、ランプ電源:HB−25103BY)にて紫外線照射を0.5時間行った。その後メタノールを0.5g添加し、さらに光の照射を1時間行った。これによりヘキサクロロ白金酸は白金還元されて、分散液の色はクリーム色から灰色に変化した。紫外線照射後も白金含有光触媒体分散液にチキソ性や固液分離は見られなかった。
【0059】
また、得られた白金含有光触媒体分散液を用いて形成した光触媒体層の光触媒作用(アセトアルデヒドの分解)を評価したところ、一次反応速度定数は0.76h-1であった。
【0060】
(比較例1)
実施例1で得たメタチタン酸の固形物(ケーキ)(TiO2として固形分濃度43.0質量%, BET比表面積338m2/g、硫酸分のS元素換算の含有量1800ppm)13.95gと酸化タングステン粉末(日本無機化学製、BET比表面積6.3m2/g)6gと水40.05gを混合し、得られた混合物を、媒体攪拌式粉砕機(五十嵐機械製作所製「4TSG−1/8」)を用いて下記の条件で分散処理して、光触媒体分散液を得た。
媒体:直径0.05mmのジルコニア製ビーズ190g
処理温度:20℃
処理時間:4時間
回転数:2000rpm
【0061】
得られた光触媒体分散液の平均分散粒子径は163nmであり、分散液のpHは4.7であった。この光触媒体分散液に固液分離は見られなかったが、粘度が高くチキソ性を示し、取り扱いが困難であった。なお、分散処理前の混合物と分散処理後の分散液との一部を真空乾燥して固形分を得、各固形分のX線回折スペクトルをそれぞれ測定して比較したところ、結晶型はアナターゼ型酸化チタンと酸化タングステンの混合相であり、分散処理による結晶型の変化は見られなかった。
【0062】
(比較例2)
実施例1で得たメタチタン酸の固形物(ケーキ)(TiO2として固形分濃度42.7質量%,BET比表面積336m2/g、硫酸分のS元素換算の含有量3100ppm)14.04gと酸化タングステン粉末(日本無機化学製、BET比表面積6.3m2/g)6gと水39.96gを混合し、得られた混合物を、媒体攪拌式粉砕機(五十嵐機械製作所製「4TSG−1/8」)を用いて下記の条件で分散処理して、光触媒体分散液を得た。
媒体:直径0.05mmのジルコニア製ビーズ190g
処理温度:20℃
処理時間:4時間
回転数:2000rpm
【0063】
得られた光触媒体分散液の平均分散粒子径は662nmであり、分散液のpHは4.4であった。この光触媒体分散液では固液分離が見られ、取り扱いが困難であった。なお、分散処理前の混合物と分散処理後の分散液との一部を真空乾燥して固形分を得、各固形分のX線回折スペクトルをそれぞれ測定して比較したところ、結晶型はアナターゼ型酸化チタンと酸化タングステンの混合相であり、分散処理による結晶型の変化は見られなかった。
【0064】
(実施例2)
実施例1で得られた白金含有光触媒体分散液を用いて形成した光触媒体層の光触媒作用(ホルムアルデヒドの分解)を評価したところ、一次反応速度定数は2.22h-1であった。
【0065】
(実施例3)
実施例1で得られたケーキ状のメタチタン酸(TiO2として固形分濃度44.58質量%, BET比表面積347m2/g、硫酸分のS元素換算の含有量400ppm)10.77gと酸化タングステン粉末(日本無機化学製、BET比表面積6.3m2/g)7.2gと水42.03gを混合し、得られた混合物を、媒体攪拌式粉砕機(五十嵐機械製作所製「4TSG−1/8」)を用いて下記の条件で分散処理して、光触媒体分散液を得た。
媒体:直径0.05mmのジルコニア製ビーズ190g
処理温度:20℃
処理時間:4時間
回転数:2000rpm
【0066】
得られた光触媒体分散液の平均分散粒子径は102nmであり、分散液のpHは4.1であった。この光触媒体分散液にチキソ性や固液分離は見られなかった。なお、分散処理前の混合物と分散処理後の分散液との一部を真空乾燥して固形分を得、各固形分のX線回折スペクトルをそれぞれ測定して比較したところ、結晶型はアナターゼ型酸化チタンと酸化タングステンの混合相であり、分散処理による結晶型の変化は見られなかった。
【0067】
得られた光触媒体分散液に水とヘキサクロロ白金酸〔H2PtCl6〕水溶液を加えて、光触媒体分散液とした。この光触媒体分散液100質量部中の固形分は5質量部であった(固形分濃度5質量%)。またヘキサクロロ白金酸の使用量は、白金原子換算で、酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子との合計使用量100質量部に対して0.06質量部であった。
【0068】
次に、ヘキサクロロ白金酸を含む光触媒分散液10gを50mLビーカーに移し、攪拌しながら超高圧水銀灯(ウシオ電機製、ランプハウス:MPL−25101、超高圧水銀灯:USH−250BY、ランプ電源:HB−25103BY)にて紫外線照射を0.5時間行った。その後メタノールを0.5g添加し、さらに光の照射を1時間行った。これによりヘキサクロロ白金酸は白金還元されて、分散液の色はクリーム色から灰色に変化した。紫外線照射後も白金含有光触媒体分散液にチキソ性や固液分離は見られなかった。
【0069】
また、得られた白金含有光触媒体分散液を用いて形成した光触媒体層の光触媒作用(ホルムアルデヒドの分解)を評価したところ、一次反応速度定数は1.86h-1であった。
【0070】
(実施例4)
実施例1で得られたケーキ状のメタチタン酸(TiO2として固形分濃度44.58質量%, BET比表面積347m2/g、硫酸分のS元素換算の含有量400ppm)16.15gと酸化タングステン粉末(日本無機化学製、BET比表面積6.3m2/g)4.8gと水39.05gを混合し、得られた混合物を、媒体攪拌式粉砕機(五十嵐機械製作所製「4TSG−1/8」)を用いて下記の条件で分散処理して、光触媒体分散液を得た。
媒体:直径0.05mmのジルコニア製ビーズ190g
処理温度:20℃
処理時間:4時間
回転数:2000rpm
【0071】
得られた光触媒体分散液の平均分散粒子径は101nmであり、分散液のpHは4.9であった。この光触媒体分散液にチキソ性や固液分離は見られなかった。なお、分散処理前の混合物と分散処理後の分散液との一部を真空乾燥して固形分を得、各固形分のX線回折スペクトルをそれぞれ測定して比較したところ、結晶型はアナターゼ型酸化チタンと酸化タングステンの混合相であり、分散処理による結晶型の変化は見られなかった。
【0072】
得られた光触媒体分散液に水とヘキサクロロ白金酸〔H2PtCl6〕水溶液を加えて、光触媒体分散液とした。この光触媒体分散液100質量部中の固形分は5質量部であった(固形分濃度5質量%)。またヘキサクロロ白金酸の使用量は、白金原子換算で、酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子との合計使用量100質量部に対して0.06質量部であった。
【0073】
次に、ヘキサクロロ白金酸を含む光触媒分散液10gを50mLビーカーに移し、攪拌しながら超高圧水銀灯(ウシオ電機製、ランプハウス:MPL−25101、超高圧水銀灯:USH−250BY、ランプ電源:HB−25103BY)にて紫外線照射を0.5時間行った。その後メタノールを0.5g添加し、さらに光の照射を1時間行った。これによりヘキサクロロ白金酸は白金還元されて、分散液の色はクリーム色から灰色に変化した。紫外線照射後も白金含有光触媒体分散液にチキソ性や固液分離は見られなかった。
【0074】
また、得られた白金含有光触媒体分散液を用いて形成した光触媒体層の光触媒作用(ホルムアルデヒドの分解)を評価したところ、一次反応速度定数は1.55h-1であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸法により得られ、硫酸分のS元素換算の含有量が乾燥重量基準で1000ppm以下である酸化チタン粒子と、酸化タングステン粒子と、これらの粒子を分散させる分散媒とを少なくとも有し、前記酸化チタン粒子と前記酸化タングステン粒子との含有量が質量比で1:8〜8:1であることを特徴とする光触媒体分散液。
【請求項2】
前記酸化チタン粒子がメタチタン酸粒子である請求項1に記載の光触媒体分散液。
【請求項3】
電子吸引性物質またはその前駆体を含む請求項1または2に記載の光触媒体分散液。
【請求項4】
光を照射されてなる請求項3に記載の光触媒体分散液。
【請求項5】
前記電子吸引性物質またはその前駆体は、Cu、Pt、Au、Pd、Ag、Fe、Nb、Ru、Ir、RhおよびCoからなる群より選ばれる1種以上の金属またはその化合物である請求項1〜4のいずれかに記載の光触媒体分散液。
【請求項6】
表面に光触媒体層を備える光触媒機能製品であって、前記光触媒体層が請求項1〜5のいずれかに記載の光触媒体分散液を用いて形成されていることを特徴とする光触媒機能製品。

【公開番号】特開2011−5475(P2011−5475A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−214931(P2009−214931)
【出願日】平成21年9月16日(2009.9.16)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】