説明

光触媒体及びその製造方法、ならびに光触媒体を用いたエネルギー変換素子

【課題】 高い光触媒機能を有する光触媒体を簡易かつ生産性良く製造し、これを用いた高変換効率の光−電気エネルギー変換素子や光−化学エネルギー変換素子を提供すること。
【解決手段】 光触媒体は、金属と窒素との化学結合および金属と酸素との化学結合を有するとともに酸素欠損を有する金属酸化物から成ることから、電子の伝導性を向上させるとともにエネルギーギャップの狭幅化を成すことが可能となるため、優れた光触媒効果を発現するものとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒体およびその製造方法、ならびに太陽電池、光センサー、光電変換原理に基づく光−電気エネルギー変換素子や、水素発生装置等の光−化学エネルギー変換素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、光触媒体を用いる試みが盛んとなり、大気浄化、防汚、抗菌、浄水および脱臭等の機能を有する商品から、エネルギー分野では水素発生装置や色素増感太陽電池の構成部材としてまで、幅広い応用展開が図られている。
【0003】
光触媒反応では、光触媒が光を吸収して励起状態となり、その上に吸着した分子が活性化状態となることから、結果として様々な機能が発現する。この機能の大小は光触媒体の材料および照射光強度等の違いによって変化するが、照射光強度に対する依存性が太陽光に対する依存性である場合、光触媒体の材料を如何に設計するかが高機能化の鍵となる。
【0004】
従来、光触媒体として用いられてきた代表的な材料は、化学的安定性が高く、かつ無毒性である酸化チタンであり、さらに本来のバンドギャップを狭幅化することによって可視光応答型とする試みが数多くなされている。一つの手法として、窒素原子を酸化チタン中に配位せしめる手法が挙げられ、この場合、窒素原子の存在により酸素原子の2p軌道よりも負側のポテンシャルを持つ価電子帯またはそれに準じる準位が形成されることにより、バンドギャップが狭幅化すると考えられている。具体的には、まずスパッタリング法により酸化チタン等の金属酸化物の酸素サイトの一部を窒素原子で置換、または格子間に窒素原子をドーピング、あるいは結晶粒界に窒素原子を含有させる方法が挙げられる(例えば、下記の特許文献1〜4参照)。
【0005】
また、含窒素有機化合物を金属チタンに配位させたチタン錯体を焼成して得る手法がある(例えば、下記の特許文献5参照)。他には、水素と窒素を含むイオンビームまたは交流プラズマに酸化チタンを暴露することにより、窒素をドープした極薄層を形成する手法がある(例えば、下記の特許文献6参照)。また、エマルジョン燃焼法を用いたTi−O−N構成を有する酸化チタンの作製方法もある(例えば、下記の特許文献7参照)。さらには、四塩化チタンおよび酸素の混合ガスを気相において燃焼させて四塩化チタンの加水分解により酸化チタンを製造する方法において、上記混合ガスにNO、NO、またはNOおよびNOを共存させることにより、窒素含有酸化チタンを作製する手法がある(例えば、下記の特許文献8参照)。また、窒素含有ガス雰囲気中でランプ加熱によって窒素を含有する可視光応答型の酸化チタンを作製する手法がある(例えば、下記の特許文献9参照)。
【0006】
また、可視光応答型の酸化チタンとするための手法として、金属酸化物内に酸素欠陥を形成せしめる方法がある。酸素欠陥が生じた際に、電気的中性を保つために酸素イオン空孔が生成するが、これによって4価のチタンイオンが3価イオンに還元され、これによって可視光を吸収するようになると考えられている。このような酸素欠陥含有型の酸化チタンの形成方法としては、還元性ガスを含む還元雰囲気にて酸化チタンを焼成する手法がある(例えば、下記の特許文献10参照)。また、酸化チタンに、水素プラズマ処理、希ガス類元素プラズマ処理、希ガス類元素イオン注入、または真空加熱のいずれかの処理を施すことによって、酸素欠損型とする手法がある(例えば、下記の特許文献11参照)。
【0007】
また、酸化チタンにCrやV等の金属元素をイオン注入することによって、光吸収端を長波長側にシフトさせ、可視光応答型とする手法もある。(例えば、下記の特許文献12参照)。
【特許文献1】特開2001−207082号公報
【特許文献2】特開2001−205103号公報
【特許文献3】特開2001−205094号公報
【特許文献4】特開2003−231966号公報
【特許文献5】特開2004−141739号公報
【特許文献6】特開2003−265966号公報
【特許文献7】特開2004−988号公報
【特許文献8】特開2004−49969号公報
【特許文献9】特開2003−40621号公報
【特許文献10】特開2002−361097号公報
【特許文献11】特開2001−212457号公報
【特許文献12】特開平9−262482号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述の各例においては、光触媒体の機能性および作製プロセスに関して、それぞれ下記の問題を有していた。
【0009】
すなわち、特許文献1〜9に記載の光触媒体では、酸化チタン等の金属酸化物の酸素サイトの一部を窒素原子で置換、または格子間に窒素原子をドーピング、あるいは結晶粒界に窒素原子を含有させることによって可視光応答型としているが、挿入された窒素不純物によって形成された準位の状態密度が高くないことから、光吸収に伴うキャリアの励起形態は母材となる金属酸化物材料自体のバンド間遷移が支配的であり、窒素含有のみで可視光応答性は大きく向上しないといった問題を有している。
【0010】
また、窒素を含有させる手法として上記のような様々な例があるが、各手法において下記の問題がある。すなわち、特許文献1〜4に記載のスパッタリングでは低製膜速度、プラズマによる基材へのダメージ、量産性の低さ等が問題となり、特許文献5に記載の含窒素有機化合物を金属チタンに配位させたチタン錯体を焼成して得る手法では、炭素混入によってストイキオメトリ制御が困難となることや、有機化合物中の不純物混入による品質低下が問題となる。また、特許文献6に記載の水素と窒素を含むイオンビームまたは交流プラズマに酸化チタンを暴露する手法では、イオンビームでは量産性の低さと均一形成の困難さ、交流プラズマへの暴露はプラズマによる基材へのダメージ、また大面積、大量処理の困難さが問題となる。さらに、特許文献7〜9に記載の形成方法では、特に高温プロセスであり、生産性が著しく劣るといった問題を有している。
【0011】
また、特許文献10,11に記載の光触媒体は、金属酸化物内に酸素欠陥を有するタイプのものであるが、酸素欠陥の存在は吸収端波長を低エネルギー側にシフトさせ、電子伝導性を向上させる反面、過度に含有された場合にはキャリアライフタイムの低下を招くといった問題を有している。また、形成プロセスについても高温処理が必要であることから、生産性が著しく劣るといった問題を有する。
【0012】
また、特許文献12に記載の光触媒体は、酸化チタンにCrやV等の金属元素をイオン注入することによって、光吸収端を長波長側にシフトさせるものであるが、イオン注入を用いていることから製造コストが高く、生産性に劣るといった問題を有している。
【0013】
したがって、本発明は上述の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、高い光触媒機能を有する光触媒体を簡易かつ生産性良く製造し、これを用いた高変換効率の光−電気エネルギー変換素子や、光−化学エネルギー変換素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の光触媒体は、金属と窒素との化学結合および金属と酸素との化学結合を有するとともに酸素欠損を有する金属酸化物から成ることを特徴とする。
【0015】
本発明の光触媒体において好ましくは、前記金属酸化物が酸化チタンまたは酸化亜鉛であることを特徴とする。
【0016】
本発明の光触媒体の製造方法は、加熱触媒体と少なくとも分子内に窒素原子を有するガスとの接触によって形成された還元雰囲気において、金属酸化物を還元および窒化処理することにより請求項1記載の光触媒体を製造することを特徴とする。
【0017】
本発明の光触媒体の製造方法において好ましくは、前記還元雰囲気がアンモニアを含んでいることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の光触媒体の製造方法において好ましくは、前記還元雰囲気が200℃以下であることを特徴とする。
【0019】
本発明の光−電気エネルギー変換素子は、一方電極となる導電性基体と、該導電性基体上に形成した光触媒体と、該光触媒体に電気的に接続された光電変換体と、該光電変換体に電気的に接続され正孔を輸送する正孔輸送体と、該正孔輸送体に電気的に接続された他方電極とを備えたことを特徴とする。
【0020】
本発明の光−化学エネルギー変換素子は、上記本発明の光触媒体を水または水溶液中に入れて、水素ガスを発生するようになしたことを特徴とする。
【0021】
本発明の光発電装置は、上記本発明の光−電気エネルギー変換素子の発電電力を負荷に供給するように成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明の光触媒体は、金属と窒素との化学結合および金属と酸素との化学結合を有するとともに酸素欠損を有する金属酸化物から成ることから、窒素原子の存在により酸素原子の2p軌道よりも負側(真空準位側)のポテンシャルを持つ価電子帯またはそれに準じる準位が形成されることにより、バンドギャップが狭幅化すると考えられ、また、酸素欠陥が生じた際に電気的中性を保つために酸素イオン空孔が生成するが、これによって金属イオンが還元され、可視光を吸収するようになると考えられる。したがって、エネルギーギャップの狭幅化を成すとともに電子の伝導性を向上させることが可能となるため、可視光領域において優れた光触媒効果を発現するものとなる。また、本発明の光触媒体を、加熱触媒体とガスとの接触分解反応により生成された活性種を用いて低温形成することによって、基材への熱履歴が軽減され、変換効率に優れた光−電気エネルギー変換素子や光−化学エネルギー変換素子の作製が可能となる。
【0023】
本発明の光触媒体は好ましくは、金属酸化物が酸化チタンまたは酸化亜鉛であることから、チタンおよび亜鉛は易酸化性の光触媒体用の金属であり、それらの酸化物は化学的に安定しているため、光触媒体が耐候性に比較的優れたものとなり、長期間安定して使用できるという利点がある。
【0024】
本発明の光触媒体の製造方法は、加熱触媒体と少なくとも分子内に窒素原子を有するガスとの接触によって形成された還元雰囲気において、金属酸化物を還元および窒化処理することにより上記本発明の光触媒体を製造することから、金属酸化物の周囲の気相中に生成された高密度の還元性ラジカルおよび窒化に寄与するラジカルの存在により、金属酸化物の還元と窒化の両反応が極めて迅速かつ急激に進行するため、短時間でかつ確実に金属酸化物を還元および窒化処理することが可能となる。
【0025】
本発明の光触媒体の製造方法は好ましくは、還元雰囲気がアンモニア(NH)を含んでいることから、ガスと加熱触媒体との接触分解反応によりアンモニアが容易に分解されて、還元反応に寄与する水素ラジカルおよび窒化反応に寄与する窒素−水素複合ラジカルが同時に生成され、金属酸化物の還元および窒化反応の制御性と再現性の確保を容易に行なうことが可能である。
【0026】
また、本発明の光触媒体の製造方法は好ましくは、還元雰囲気が200℃以下と従来に比べてきわめて低温であることから、光触媒体の母材やこれを担持した基材への熱履歴の影響が低減され、母材や基材の変質を抑制することができる。
【0027】
本発明の光−電気エネルギー変換素子は、一方電極となる導電性基体と、導電性基体上に形成した光触媒体と、光触媒体に電気的に接続された光電変換体と、光電変換体に電気的に接続され正孔を輸送する正孔輸送体と、正孔輸送体に電気的に接続された他方電極とを備えたことから、電子輸送部となる光触媒体において、窒素原子の存在によりバンドギャップが狭幅化するとともに、酸素欠陥によって生じた酸素イオン空孔による電子密度変化によって可視光を吸収するようになるため、可視光領域において電子の伝導性を向上させることが可能となる。したがって、このような光吸収特性および電子輸送特性の向上に伴って光電変換特性が向上するものとなる。
【0028】
本発明の光−化学エネルギー変換素子は、上記本発明の光触媒体を水または水溶液中に入れて、水素ガスを発生するようになしたことから、従来に比して長波長領域における光触媒体の光吸収係数が増大することにより、光吸収部となる光触媒体の光吸収特性および電子輸送特性の向上に伴って、水素発生効率が向上する。
【0029】
本発明の光発電装置は、上記本発明の光−電気エネルギー変換素子の発電電力を負荷に供給するように成したことから、光吸収特性および電子輸送特性に優れた本発明の光−電気エネルギー変換素子を用いているため、特に光電変換後の電圧値および電流値の向上した光発電装置となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明の光触媒体、光触媒体の製造方法、光−電気エネルギー変換素子、光−化学エネルギー変換素子および光発電装置の実施の形態を以下に詳細に説明する。
【0031】
本発明の光触媒体は、金属と窒素との化学結合および金属と酸素との化学結合を有するとともに酸素欠損を有する金属酸化物から成る。また、金属酸化物は好ましくは、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫、酸化ハフニウム、酸化ジルコニウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸亜鉛、酸化タングステン、チタン酸バリウム、チタン酸鉄、酸化ビスマス、酸化鉄、酸化インジウムまたはこれらの複合物からなるが、特に強い光触媒作用を示すものとして、酸化チタンまたは酸化亜鉛が好ましい。以下、酸化チタンを例に用いて説明する。
【0032】
図1は、本発明の光触媒体をX線光電子分光法(XPS)により測定して得られたスペクトルであり、比較する従来例として二酸化チタン粉末(日本アエロジル(株)製「P25」)をアンモニア雰囲気中で600℃×10時間(hr)処理したサンプルのスペクトル結果を併せて記す。XPS測定にはX線光電子分光装置(PHI社製「Quantum2000」)を用いた。なお、図1は、チタンの2p電子に帰属されるピーク近傍を示しており、ケミカルシフト量よりTi−N結合、Ti−O結合等の有無を確認することができる。従来例においては、アンモニア処理によって生じたTi−N結合の存在が確認され、窒化されていることが分かる。これに対して、本発明例では、Ti−N結合、Ti−O結合およびTi原子に由来するピークが高レベルで出現しており、窒化とともに還元作用を受けて酸素欠陥が生成していることが分かる。特にTi原子に由来するピークは強度的には微弱であるが、アナターゼ型酸化チタンにおいてチタンに配位している酸素原子との4本の結合が実質的に切れていることを示しており、局所的に強い還元作用を受けたものと考えられる。
【0033】
図2は、上記従来例および本発明の酸化チタンを、フッ素ドープした酸化錫膜を形成したガラス基板上に塗布、焼成を行なった試料の光の透過率を示す線図である。なお、塗布時には、酸化チタン粒子を界面活性剤を添加した蒸留水に分散させたペーストを用いて行なった。図2から、本発明の試料では、特に短波長(400nm程度)から中波長(800nm程度)の範囲において、従来例よりも透過率が減少しており、酸化チタン層での光吸収量が増大していることが分かる。
【0034】
特に短波長での吸収率増大は、酸化チタン中に窒素がドープされたことによって、酸化チタンが狭エネルギーギャップ化し、これに伴って吸収端波長がシフトしたことに起因しており、一方中波長での吸収率増大は、酸素欠陥の存在により生じた禁制帯中のエネルギー準位の存在と酸化チタン中のキャリア濃度増大によるフリーキャリア吸収に起因したものであると考えられる。このことから、単に窒化した酸化チタン、または単に酸素欠陥が存在する酸化チタンとは異なり、短波長から中波長にかけて光吸収率の高い酸化チタンが得られたといえる。これにより、光照射時における酸化チタンの正孔生成密度が増大し、結果として高い光触媒機能が得られる。
【0035】
図3は、本発明の光触媒体を製造するための製造装置の例を示したものである。まず、チャンバー1はSUS(ステンレススチール)、石英等からなる真空容器であり、内部にガスを導入するためのガス導入口2が形成され、さらに電源3に接続された加熱触媒体4を具備している。電源3は、図3では直流電源を用いているが、交流電源を用いても何ら問題はない。加熱触媒体4は高融点かつ加工性に優れている材料を用いることが好ましく、W、Ta、C、Mo、Tiまたはこれらの化合物を用いることが好ましい。また、チャンバー1の底面に、ヒーター5上に金属酸化物層7を形成した基板6を固定し、本発明の光触媒体の形成を行なう。以下、形成方法について詳細を説明する。
【0036】
まず、基板6は支持体としての機能を有するものであればよく、金属基板、ガラス基板、樹脂基板、セラミック基板等を用いることができる。この基板6上に、酸化チタンまたは酸化亜鉛等の金属酸化物層7を形成する。具体的には、金属酸化物粉末を溶媒中に分散させたスラリーやゾルゲル法を用いて作製したペーストを塗布し、乾燥および焼成を行なう手法、気相成長法によって形成する方法、金属基板の表面を酸化して金属酸化物層7とする手法等が挙げられる。
【0037】
この基板6をヒーター5上に設置し、200℃以下の温度に基板6温度を調整する。次に、チャンバー1内にガス導入口2から、水素原子および窒素原子を有するガスを導入して圧力調整を行なった後、電源3により加熱触媒体4を通電加熱する。導入ガスとしては、水素と窒素、水素とアンモニア、アンモニアのみ、三フッ化窒素と水素等が挙げられるが、少なくともアンモニアガスを含有することで、加熱触媒体4によって水素ラジカルとNHラジカルに一次反応として解離され、各々が金属酸化物に対して還元効果および窒化効果を有するため、簡易に処理が行なえるといったメリットがある。
【0038】
ここで、加熱触媒体4の温度としては700〜1800℃が好ましく、700℃以下ではガスの分解効率が低下して金属酸化物の還元反応および窒化反応の進行が抑制されてしまう。また、1800℃以上の温度では、加熱触媒体4の成分が飛散して基板6上に付着、混入し金属酸化物層7の膜質を低下させてしまうという問題が生じる。
【0039】
本発明の形成方法における大きな特徴は、加熱触媒体4の高いガス分解効率によって還元性ラジカルと窒化に寄与するラジカルがともに多量に生成される点にあり、これによって、200℃以下という低温においても金属酸化物の還元と窒化が迅速に行われる。本発明の光触媒体を以下に記すような受光型電子デバイスに用いる場合には、透明電極と合わせて処理する場合が多々考えられるが、ITO等の耐熱性を考慮すると200℃以下でかつ短時間で処理が可能な本発明の製造方法においては、透明電極の品質を低下させることなく高機能を有する光触媒体を形成することが可能となる。金属酸化物の還元および窒化は200℃よりも高い基板6温度においても可能であるが、透明電極の抵抗値の上昇や透過率の低下を招来し、結果としてデバイス特性を低下させてしまう。
【0040】
一方、粉末状の金属酸化物のみを容器に入れて、上記の製造装置および条件を用いて処理を行なってもよい。容器は攪拌機能を有しているものが好ましく、処理中に攪拌を行なうことで均質な光触媒体を得ることが可能となる。
【0041】
次に、本発明の光触媒体を光−電気エネルギー変換素子に適用した例について図4に基づいて説明する。
【0042】
まず、基板8は支持体としての機能を有するものであればよく、例えば透明なガラス基板、ガラス基板表面にテクスチャー構造を形成して光の反射を防止したもの、半透明ガラス基板、透明プラスチック板、透明プラスチック膜、無機物透明結晶体などの光を透過する透光性材料、金属基板、金属フィルム、セラミック基板等の有色材料の基板を用いることができる。
【0043】
基板8の上面に形成された電極9は、低抵抗材料からなり、例えば錫酸化物、インジウム酸化物またはその複合酸化物である。より具体的には、F(フッ素)またはSb(アンチモン)をドープしたSnO、SnOやMnやMoをドープしたIn、InSn12のようなIn−SnO複合酸化物が挙げられる。錫酸化物、インジウム酸化物またはその複合酸化物は、透明導電性材料の中でも可視光域における透過率が高く、低抵抗のものが得られやすいために、光−電気エネルギー変換素子(光電変換装置)の受光面側の電極材料として特に好適に用いられる。また、電極9のシート抵抗は20Ω/□以下、好ましくは10Ω/□以下であり、これを達成するために、平面視形状が網目状の金属層等からなる取り出し電極を付加形成してもよい。取り出し電極の材料としては、Ag、Al、Cu、Ti、Ni、Fe、Zn、Mo、Wまたはその化合物を用いることができる。
【0044】
なお、電極9の形成はスパッタリング法、蒸着法、イオンプレーティング法、CVD法等の真空成膜技術を用いる他、スプレー熱分解法、ペースト法、ディップコート法等によっても容易に形成することができる。
【0045】
また、基板8が充分に低抵抗材料である場合、電極9を省いて基板8に電極機能を持たせてもよい。
【0046】
電子輸送層10となるとともに光触媒体の母材となる金属酸化物としては、SnO、ZnO、TiO等が用いられる。また、上記の材料にバンドギャップ調整材、あるいは電荷輸送特性を向上させる目的で微量の不純物をドープしたものを用いてもよい。さらに、上記の材料を複合して用いてもよい。特に上記の材料の中では酸化チタン(TiO)または酸化亜鉛(ZnO)を用いることが好ましい。これは、電子輸送層10として利用される金属酸化物の中において、特にキャリアの輸送特性に優れ、かつ製造プロセスが簡易であり、大面積の成膜が容易であるといった特長を有しているからである。
【0047】
上記光触媒体は、母材となる金属酸化物を還元および窒化処理したものを電極9上に層状に形成してもよいし、母材となる金属酸化物を電極9上に層状に形成した後に還元および窒化処理してもよい。後者において、電極9が耐還元性の低い材料である場合、還元処理時に電極9の露出部にマスク等により被覆を施すことが好ましい。
【0048】
以上のようにして形成した光−電気エネルギー変換素子は、本発明の光触媒体が上記のように特に中波長から短波長にかけて高い光吸収率を有するため、光触媒体内で励起されるキャリアの密度が増大し、結果として短絡電流密度が増加する。また、適度に存在する酸素欠陥(1×1018/cm〜1×1022/cm程度の濃度)により金属酸化物層のキャリア濃度が従来のものに比して増加しているため、同層における内部抵抗の低下と、光励起体との間の内部電界の増大に寄与し、結果として素子の短絡電流密度、開放電圧および曲線因子が向上する。
【0049】
なお、電極9および電子輸送層10間に緻密な層状の酸化物半導体層を挿入させてもよい。これによって素子のリーク電流が低減され開放電圧値が向上する。
【0050】
光励起体11は光照射によってキャリアが励起される部位を指し示すものである。例えば、光励起体11は、ルテニウム錯体、フタロシアニン色素、シアニン色素、メロシアニン色素、ポルフィリン色素、ペリレン色素、アントラキノン色素、アゾ色素、キノフタロン色素、ナフトキノン色素、キナクリドン色素、トリフェニルメタン色素、キサンテン色素、ベリレン色素、インジゴ色素等の有機色素、または無機色素から構成されることが好ましい。
【0051】
また、電子輸送層10との吸着性および電荷輸送性を考慮すると、光励起体11の分子中にカルボキシル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、スルホン酸基、エステル基、ホスホニル基、ヒドロキシアルキル等のインターロック基を備えていることが好ましい。また、無機材料としてSi、Ge等の単体半導体、CdSe、CdS、InP、Bi、PbS、ZnS、CuInS、CuInSe等の化合物半導体やこれらに不純物を適宜ドープしたものを用いてもよい。さらに、有機−無機ハイブリッド材料も同様に適用することが可能である。
【0052】
対向基板12は支持体としての機能を有するものであればよく、例えばガラス基板、プラスチック基板、プラスチック膜、無機物透明結晶体など光を透過する透光性材料や金属基板、金属フィルム、セラミック基板等の有色材料の基板等を用いることができる。
【0053】
対向電極13は高い導電性を有する材料から構成されることが好ましく、金属や透明導電層が好適に用いられる。具体的には、金属ではAg、Al、Cu、Ti、Ni、Fe、Zn、Mo、Wまたはその化合物、透明導電層ではFまたはSbをドープしたSnO、SnOやMnやMoをドープしたIn、InSn12のようなIn−SnO複合酸化物が挙げられる。
【0054】
また、電解液を正孔輸送層14として用いる場合、電解液中のレドックスイオンの還元反応を充分な速度で行わせるために、対向電極13上に白金、カーボン、ロジウム、ルテニウム等の触媒層を形成することが好ましい。
【0055】
なお、対向電極13のシート抵抗は20Ω/□以下、好ましくは10Ω/□以下であり、これを達成するために、網目状金属等からなる取り出し電極を付加形成してもよい。取り出し電極の材料としては、Ag、Al、Cu、Ti、Ni、Fe、Zn、Mo、Wまたはその化合物を用いることができる。
【0056】
また、対向基板12が充分に低抵抗材料である場合、対向電極13を省いて対向基板12に電極機能を持たせてもよい。
【0057】
正孔輸送層14は、電解液としては、例えば塩化カリウムまたは水酸化ナトリウムと、硫化ナトリウムまたは硫黄とを含有する材料を水溶液としたものが用いられる。また、他にはアセトニトリル、またはメトキシプロピオニトリルなどに、ヨウ化テトラプロピルアンモニウム、ヨウ化リチウム、ヨウ素などを混合し調製したものを用いることができる。
【0058】
上記に代わる正孔輸送層14の材料としては、透明導電性酸化物、ゲル電解質や固体電解質などの電解質、有機正孔輸送剤、極薄膜金属などが挙げられる。
【0059】
透明導電性酸化物としては、CuI、CuO、CuS、CuInSe、CuInS、CuSCN、CoO、NiO、FeO、MoOおよびCr等が挙げられる。
【0060】
ゲル電解質は、大別して化学ゲルと物理ゲルに分けられる。化学ゲルは、架橋反応などにより化学結合でゲルを形成しているものであり、物理ゲルは、物理的な相互作用により室温付近でゲル化しているものである。ゲル電解質としては、アセトニトリル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、またはそれらの混合物に対し、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミドなどのホストポリマーを混入して重合させたゲル電解質が好ましい。なお、ゲル電解質や固体電解質を使用する場合、低粘度の前駆体を酸化物半導体層に含有させ、加熱、紫外線照射、電子線照射などの手段で二次元、三次元の架橋反応をおこさせることによってゲル化または固体化できる。
【0061】
イオン伝導性の固体電解質としては、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンオキサイドもしくはポリエチレンなどの高分子鎖にスルホンイミダゾリウム塩、テトラシアノキノジメタン塩、ジシアノキノジイミン塩などの塩をもつ固体電解質が好ましい。ヨウ化物の溶融塩としてはイミダゾリウム塩、第4級アンモニウム塩、イソオキサゾリジニウム塩、イソチアゾリジニウム塩、ピラゾリジウム塩、ピロリジニウム塩、ピリジニウム塩などのヨウ化物を用いることができる。
【0062】
上述のヨウ化物の溶融塩としては、例えば、1,1−ジメチルイミダゾリウムアイオダイド、1,メチル−3−エチルイミダゾリウムアイオダイド、1−メチル−3−ペンチルイミダゾリウムアイオダイド、1−メチル−3−イソペンチルイミダゾリウムアイオダイド、1−メチル−3−ヘキシルイミダゾリウムアイオダイド、1−メチル−3−エチルイミダゾリウムアイオダイド、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾールアイオダイド、1−エチル−3−イソプロピルイミダゾリウムアイオダイド、ピロリジニウムアイオダイド等を挙げることができる。
【0063】
有機正孔輸送剤としては、トリフェニルジアミンやOMeTAD(2,2’,7,7’−tetrakis(N,N−di−p−methoxyphenyl−amine)9,9’−spirobifluorene)などが挙げられる。イミダゾリウム塩、トリアゾリウム塩およびピリジニウム塩等の溶融塩電解質や、LiI、NaI、KIおよびCaIとIの混合物、またはLiBr、NaBr、KBrおよびCaBrとBrの混合物をアルコール類、ニトリル化合物、カーボネート化合物に溶解させた電解液、有機ポリシランが好適に用いられる。
【0064】
封止材15は、正孔輸送層材料に対する腐食耐性、吸湿防止機能を有し充分な接着強度を有するものがよく、EVA(エチレン酢酸ビニル共重合樹脂)、エチレン−アクリル酸エチル共重合体(EEA)、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、飽和ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、フェノール樹脂、ポリアミドイミド樹脂、UV硬化樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ウレタン樹脂またはその複合物などを用いることができる。
【0065】
以上によって、高光電変換効率を有する光−電気エネルギー変換素子を作製することができるが、さらにこの素子の発電電力を負荷に供給するように成した太陽電池等の光発電装置を構成することも可能である。この光発電装置は、本発明の光−電気エネルギー変換素子を用いていることから、特に光電変換されて得られた電圧および電流の値の向上した光電変換装置とすることが可能となる。
【0066】
次に、本発明の光触媒体を電気−化学エネルギー変換素子に適用した例として、水素発生装置について図5に基づいて説明する。まず、少なくとも一部に透光窓(不図示)を有した容器16内に支持電解質の添加等によって溶液抵抗を低下させた水溶液17を満たす。容器16の材質としては金属、セラミックス、ガラス、樹脂等を用いることができ、水溶液17と化学反応を起こさない材料を選定することが好ましい。水溶液17は、例えばNaHCO水溶液、NaSO水溶液、NaOH水溶液、KOH水溶液、KCl水溶液、Ba(OH)水溶液、HNO水溶液、HSO水溶液等が挙げられる。これらの材料は、イオンの解離度が高く、イオン自体も比較的高い移動度を有するため好ましい。このときイオン濃度としては3〜4mol/L(リットル)程度とすると溶液抵抗が小さくなる。
【0067】
次に、陽極18と陰極19とを接続し、水溶液17中に浸漬させる。陽極18には本発明の光触媒体を用いることが好ましく、母材となる材料としては酸化チタン、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウムが主として用いられる。光触媒体は、母材となる材料を還元処理および窒化処理したものを焼結させてもよいし、母材となる金属酸化物を板状に形成した後に還元処理および窒化処理してもよい。陰極19としては、白金、白金黒等の金属やp型半導体等を用いることができる。さらに、陽極18の上部には酸素収集容器20を、陰極19の上部には水素収集容器21をそれぞれ配設し、各々の電極によって発生したガスを収集する。なお、水溶液の酸化還元電位および電極の仕事関数との電位差を調整するために外部電源22によってバイアス電圧を印加してもよい。
【0068】
以上のようにして構成される水素発生装置では、上記のように特に中波長から短波長にかけて高い光吸収率を有するため、光触媒体内での正孔生成密度が増大し、結果として水素および酸素の単位時間当たりの発生量が増加する。これは、窒化された金属酸化物の価電子帯が母材と比して高エネルギー側にシフトしたことに対応しており、酸化チタンのように水の還元電位と比較的近い位置にある伝導帯を有する金属酸化物に関しては、伝導帯の位置を大きくシフトさせることなく狭ギャップ化による光吸収量の増加を図れるため、効果的である。さらに、適度に存在する酸素欠陥により金属酸化物層のキャリア濃度が従来のものに比して増加しているため、同層における内部抵抗の低下に寄与し、上記と同様に水素および酸素の単位時間当たりの発生量が増加する。
【0069】
さらに、以上の装置において発生した水素を燃料電池の水素供給源等として用いることにより、光−化学−電気エネルギー変換の機能を有するハイブリッドシステムを構築することも可能である。
【実施例1】
【0070】
アナターゼ型二酸化チタン粉末(日本アエロジル(株)製「P25」)5gを、10mlの水、0.1mlのアセチルアセトン、および0.1mlのポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルと混合し、攪拌装置によって攪拌し、二酸化チタン粒子が分散されたペーストを作製した。これをドクターブレード法によって、シート抵抗が10Ω/□程度のフッ素ドープ酸化錫膜が形成されたガラス基板上に塗布し、その後450℃、30分の熱処理を行なった。このとき、焼成後の二酸化チタン層は多孔質層となっており、その膜厚は9μmであった。
【0071】
これを加熱触媒体を内部に配設した装置のチャンバー内にセットし、還元処理および窒化処理を行なった。この際、加熱触媒体としては0.5mmφ(直径)のW線をコイル状の形状に加工したものを用いた。チャンバー内にアンモニアガスを導入して、圧力は10Paに保持した後、加熱触媒体を通電加熱によって1650℃に加熱した。なお、基板温度は200℃以下となるように調整を行なった。基板と加熱触媒体との間のシャッターを開としてから約30秒で二酸化チタン層の表面が黄色化し始め、30分間まで処理を行なうと黒色化した。
【0072】
図1には3分間の処理を行なったサンプルのXPSスペクトルを示しており、比較例(従来例)として、同じく二酸化チタン粉末(日本アエロジル(株)製「P25」)をアンモニア雰囲気にて600℃、10hr処理したサンプルのスペクトル結果を併せて示している。上述したように、本発明の二酸化チタンはTi−N結合、Ti−O結合およびTi原子に由来するピークが出現しており、窒化作用とともに還元作用を受けて酸素欠陥が生成していることが分かる。一方、従来例では、わずかにTi−N結合の存在が確認され、窒化されていることが分かる。
【0073】
本発明の窒化処理および還元処理の処理時間は、他の手法に比べて圧倒的に短時間(他の手法が2〜10時間程度で本発明の手法が5秒〜1分程度)であり、本発明の処理法の特徴である高いガス分解効率によってアンモニアが効果的に還元性ラジカルと窒化に寄与するラジカルに分解されたことが大きく寄与している。また図2に示したように、本発明の実施例では従来例に比して中波長から短波長にかけての領域において光吸収量が増大していることが分かる。この光吸収量増大に伴う光触媒機能の向上を確認するため、本発明の実施例と従来例の光触媒体をそれぞれメチレンブルーの水溶液に浸漬し、光照射を行なってメチレンブルーの分解能力を評価した。この際、メチレンブルー水溶液の濃度は5ppmとし、人工太陽照明灯(セリック(株)製「XC-100」)によって光照射を行なった。その結果、660nmにおける吸光度の変化量は本発明の実施例が従来例に比して約1.4倍程度であり、光触媒活性が大きく向上していることが確認された。
【実施例2】
【0074】
酸化亜鉛粒子(和光純薬工業(株)製、粒径0.02μm、純度95.0%)5gを、10mlの水、0.2mlのアセチルアセトン、および0.1mlのポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルと混合し、攪拌装置によって攪拌し、酸化亜鉛粒子が分散されたペーストを作製した。これをドクターブレード法によって、シート抵抗が10Ω/□程度のフッ素ドープ酸化錫が形成されたガラス基板上に塗布し、その後400℃、30分の熱処理を行なった。このとき、焼成後の酸化亜鉛層は多孔質層となっており、その膜厚は6μmであった。
【0075】
これを実施例1と同様の装置のチャンバー内にセットし、還元処理および窒化処理を行なった。加熱触媒体を通電加熱によって1500℃に加熱し、その後チャンバー内にアンモニアガスを導入して、圧力は10Paに保持した。なお、基板温度は150℃となるように調整した。基板と加熱触媒体との間のシャッターを開としてから約25秒で酸化亜鉛層の表面が黄色化し始め、20分間まで処理を行なうと黒色化した。
【0076】
以上によって形成された酸化亜鉛層の光吸収量増大に伴う光触媒機能の向上を確認するため、上述の条件で25秒間の処理を行なった本実施例2の酸化亜鉛層付きの基板と、処理を行なわなかった酸化亜鉛層付きの基板をそれぞれメチレンブルーの水溶液に浸漬し、光照射を行なってメチレンブルーの分解能力を評価した。なお、評価条件は実施例1と同様である。その結果、660nmにおける吸光度の変化量は本実施例2が従来例に比して約1.3倍程度であり、光触媒活性が大きく向上していることが確認された。
【実施例3】
【0077】
ルテニウム−トリス型の遷移金属錯体色素をアセトニトリルおよびt−ブタノールの溶媒に溶解させたものに、実施例1に記載の手法で3分間の処理を行なって形成した酸化チタン層付き基板を約15時間浸漬して、色素を酸化チタン層上に形成した。この間、溶液の温度は60℃〜80℃に保持した。
【0078】
次に、対向基板となるガラス基板上に、対向電極となるフッ素ドープ酸化錫膜およびPt層をパターン形成したものを、上記色素層まで形成した基板と、封止材となる熱可塑性エポキシ樹脂を介して対向配置させ、電解液注入孔を残して局部加熱により周囲を封止した。引き続き、対向基板に設けた注入孔より、ヨウ素0.1M、ヨウ化リチウム0.1M、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムアイオダイド0.7M、4−tertブチルピリジン8Mを混合し、メトキシアセトニトリルを溶媒として調製したものを用いた。最後に、電解液注入孔をエポキシ樹脂により封止した。
【0079】
以上の方法で作製した素子について、入射光強度が100mW/cm2に調整された擬似太陽光(人工太陽照明灯のセリック(株)製「XC-100」)の光)を照射し、特性評価を行なった。比較例として触媒CVD法によって処理を行なわなかった酸化チタン層についても同様の素子を作製し、特性評価を行なった。その結果、本発明の手法にて作製した素子は、従来型の素子に比して短絡電流値で1.27倍、開放電圧値で1.14倍、曲線因子が1.01倍に上昇し、変換効率として1.46倍に向上した。これは、本発明の光触媒体が高い光吸収率を有し、光触媒体内で励起されるキャリアの密度が増大したことや、適度に存在する酸素欠陥により同じく光触媒体内のキャリア濃度が増加して、酸化チタン層における内部抵抗が低下し、さらに色素との間の内部電界が増大したこと等が寄与しているものと考えられる。
【実施例4】
【0080】
光触媒体の準備として、まずアナターゼ型二酸化チタン粉末(日本アエロジル(株)製「P25」)5gをSUS容器に入れ、これを実施例1と同様の装置のチャンバー内にセットし、還元処理および窒化処理を行なった。この際、処理条件は実施例1に記載の条件で3分間の処理を行なった。次に、同粉末を10mlの水、0.1mlのアセチルアセトン、および0.1mlのポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルと混合し、攪拌装置によって攪拌し、二酸化チタン粒子が分散されたペーストを作製した。
【0081】
次に、アノードの準備として、白金メッキを施したガラス基板上に、上記の方法で作製した二酸化チタン粒子が分散されたペーストを塗布し、28GHzのマイクロ波にて5分間の焼結処理を行なった。このとき、焼結後の二酸化チタン層は多孔質層となっており、その膜厚は12μmであった。次に、二酸化チタン層を一部メカニカルエッチングして白金を露出させ、同部に白金リード線を固定した。白金リード線の他方の先にはカソードとなる白金板を接続し、電解液中に浸漬した。なお、アノード側の白金線を含む白金露出部には、エポキシ樹脂によって電解液と接触しないようにコーティングを行なった。また、電解液には1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を用いた。さらに、アノードおよびカソードの直上には石英製の円柱状ガス捕集容器を配設した。
【0082】
以上のようにして構成した水素発生装置において、アノードの二酸化チタン層が形成された面側より500Wのキセノンランプを用いて光照射を行なったところ、ガス捕集容器にガスが収集された。このとき、質量分析法にてガスの組成を分析したところ、アノード側には酸素、カソード側には水素が発生していることが確認された。ここで、アノード側に用いる二酸化チタンを上記の手法によって作製した本実施例4の光触媒体と、窒素雰囲気中で600℃、10時間の熱処理を行なった二酸化チタン粉末を光触媒体として用いた従来例とを比較した場合、各ガス捕集容器に収集されたガスの体積は本実施例4が従来例に比して約1.2倍大きいことが確認された。このことは、本発明の光触媒体が高い光吸収率を有し、光触媒体内で励起されるキャリアの密度が増大したことが大きく寄与しているものと考えられる。
【0083】
なお、本発明は上記の実施の形態および実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変更を施すことは何等差し支えない。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の光触媒体のXPSスペクトルを示す線図である。
【図2】本発明の光触媒体の透過スペクトルを示す線図である。
【図3】本発明の光触媒体の製造装置の概略を示す断面図である。
【図4】本発明の光−電気エネルギー変換素子の概略を示す断面図である。
【図5】本発明の光−化学エネルギー変換素子の概略を示す断面図である。
【符号の説明】
【0085】
4:加熱触媒体
6:基板
7:金属酸化物層
8:基板
9:電極
10:電子輸送層
11:光励起体
12:対向基板
13:対向電極
14:正孔輸送層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属と窒素との化学結合および金属と酸素との化学結合を有するとともに酸素欠損を有する金属酸化物から成ることを特徴とする光触媒体。
【請求項2】
前記金属酸化物が酸化チタンまたは酸化亜鉛であることを特徴とする請求項1記載の光触媒体。
【請求項3】
加熱触媒体と少なくとも分子内に窒素原子を有するガスとの接触によって形成された還元雰囲気において、金属酸化物を還元および窒化処理することにより請求項1記載の光触媒体を製造することを特徴とする光触媒体の製造方法。
【請求項4】
前記還元雰囲気がアンモニアを含んでいることを特徴とする請求項3記載の光触媒体の製造方法。
【請求項5】
前記還元雰囲気の温度が200℃以下であることを特徴とする請求項3または請求項4記載の光触媒体の製造方法。
【請求項6】
一方電極となる導電性基体と、該導電性基体上に形成した請求項1または請求項2記載の光触媒体と、該光触媒体に電気的に接続された光電変換体と、該光電変換体に電気的に接続され正孔を輸送する正孔輸送体と、該正孔輸送体に電気的に接続された他方電極とを備えたことを特徴とする光−電気エネルギー変換素子。
【請求項7】
請求項1または請求項2記載の光触媒体を水または水溶液中に入れて、水素ガスを発生するようになしたことを特徴とする光−化学エネルギー変換素子。
【請求項8】
請求項6記載の光−電気エネルギー変換素子の発電電力を負荷に供給するように成したことを特徴とする光発電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−224043(P2006−224043A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−43378(P2005−43378)
【出願日】平成17年2月21日(2005.2.21)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】