説明

光触媒体層の下地層用プレコート液、光触媒体層付壁紙中間体および光触媒体層付壁紙

【課題】発泡処理のような機械的衝撃を受けても破断されない機械的強度と柔軟性を有し、かつ、低沸点有機溶剤の拡散を抑制する機能を持つ、光触媒体層の下地層用プレコート液、光触媒体層付壁紙中間体および発泡処理がなされた光触媒体層付壁紙を提供する。
【解決手段】本発明の光触媒体層の下地層用プレコート液は、カプセル発泡剤を含む樹脂層の表面に光触媒体層を形成するために、あらかじめ、前記樹脂層の表面に下地層を形成するための下地層用プレコート液であって、少なくとも粘土化合物を含有し、さらに有機酸またはリン酸もしくはその塩を含有するのがよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光触媒体層の下地層用プレコート液、光触媒体層付壁紙中間体および光触媒体層付壁紙に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体にバンドギャップ以上のエネルギーを持つ光を照射すると、価電子帯の電子が伝導体に励起され、価電子帯に正孔が生成する。このようにして生成した正孔は強い酸化力を有し、励起した電子は強い還元力を有することから、半導体に接触した物質に酸化還元作用を及ぼす。この酸化還元作用は光触媒作用と呼ばれており、かかる光触媒作用を示し得る半導体は光触媒体と呼ばれている。このような光触媒体としては粒子状の酸化チタンや酸化タングステンなどが知られている。
【0003】
このような粒子状の光触媒体は、例えば悪臭の原因となる有機物を分解できることから、粒子状の光触媒体からなる光触媒体層を壁紙の表面に形成し、この光触媒体層が形成された壁紙を室内の内装に使用することにより、室内空間の悪臭防止が期待できる。このような光触媒体層は粒子状の光触媒体を分散媒中に分散させて分散液とし、これを壁紙表面に塗布することにより形成できる。
【0004】
一方、壁紙としては、一般に基材シート単独からなるものが知られているが、クッション性を持たせたり、高級感を演出したりする目的で、壁紙に発泡処理により凹凸模様を形成したものが知られている。この壁紙は、一般に基材シート上にカプセル発泡剤を含む樹脂層を形成し、そのカプセル発泡剤を発泡させる発泡処理をして、レリーフ状の凹凸模様を形成したものである[特許文献1]。カプセル発泡剤は低沸点有機溶剤を熱可塑性樹脂の中空粒子内に封入した粒子である。発泡処理は樹脂層を加熱することにより行われる。カプセル発泡剤は、加熱することにより膨張して弾力性のある発泡処理後カプセル発泡剤となる。
【0005】
このような発泡処理が施された壁紙においても最表面を光触媒体層とすることによって、悪臭防止が期待できる。このような悪臭防止効果を有し、発泡処理された壁紙を得るには、発泡処理前カプセル発泡剤を含む樹脂層の上に光触媒体層を設けた後にそのカプセル発泡剤を発泡させる方法が考えられる。
【0006】
また、発泡処理前カプセル発泡剤を含む樹脂層と光触媒体層の接着性を増すために、前記樹脂層上にプレコート液を予め塗布して下地層を形成しておき、この下地層の上に光触媒体分散液を塗布して光触媒体層を形成することも考えられる。このような目的で使用されるプレコート液としてはシリコン変性樹脂、ポリシロキサン含有樹脂、又はコロイダルシリカ含有樹脂を含むものが知られている[特許文献2]。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−13397号公報
【特許文献2】国際公開第97/00134号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、このようにして形成される従来の光触媒体層では、悪臭防止の効果が不十分であった。その原因として発泡処理時における衝撃で前記下地層が破断してしまい、その破断部分を通じて膨張したカプセル発泡剤が光触媒体層に露出し、加熱、加圧などによってカプセル発泡剤が潰れて中に含まれている低沸点有機溶剤が光触媒体層に移動し分解されることから、見かけ上、室内の悪臭成分に対する光触媒活性が低下するという問題が新たに見出された。
【0009】
本発明は前記問題点を解決するものであって、発泡処理のような機械的衝撃を受けても光触媒体層の下地層が破断されない機械的強度と柔軟性を有し、かつ、低沸点有機溶剤の拡散を抑制する機能を持つ、光触媒体層の下地層用プレコート液、そのプレコート液を用いて形成された光触媒体層付壁紙中間体およびその光触媒体層付壁紙中間体に発泡処理がなされた光触媒体層付壁紙を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、粘土化合物を含有する下地層が機械的強度と柔軟性を有し、膨張したカプセル発泡剤の露出を抑制するため、光触媒体活性の低下を抑制できることを見出し本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明の光触媒体層の下地層用プレコート液は、カプセル発泡剤を含む樹脂層の表面に光触媒体層を形成するために、あらかじめ、前記樹脂層の表面に下地層を形成するための下地層用プレコート液であって、少なくとも粘土化合物を含有することを特徴とする。
本発明の前記プレコート液は、さらに有機酸またはリン酸もしくはその塩を含有する。
【0012】
本発明の光触媒体層付壁紙中間体は、基材シートと、該基材シートの一方の面上に形成された発泡処理前カプセル発泡剤を含む樹脂層と、該樹脂層の上に形成された下地層と、該下地層の上に形成された光触媒体層とを備えたものであって、前記下地層は、前記プレコート液を前記樹脂層上に塗布して形成されたものであり、前記光触媒体層は、光触媒体分散液を前記下地層上に塗布して形成されたものであることを特徴とする。
本発明の光触媒体層付壁紙は、前記光触媒体層付壁紙中間体の発泡処理前カプセル発泡剤に対して発泡処理を施されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、発泡処理前カプセル発泡剤を含む樹脂層に、粘土化合物を含有する下地層用プレコート液を塗布して下地層を形成し、次いで該下地層上に光触媒体分散液を塗布して形成することにより、発泡後における下地層の破断によるカプセル発泡剤の露出を抑制することができ、その結果、カプセル発泡剤に含まれる低沸点有機溶剤によって、光触媒体層の有する光触媒活性が低下するのを阻止することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1で得られた壁紙の表面を拡大したSEM(走査電子顕微鏡、以下同じ)写真(倍率;100倍、以下同じ)である。
【図2】実施例2で得られた壁紙の表面を拡大したSEM写真
【図3】実施例3で得られた壁紙の表面を拡大したSEM写真
【図4】実施例4で得られた壁紙の表面を拡大したSEM写真
【図5】比較例1で得られた壁紙の表面を拡大したSEM写真
【発明を実施するための形態】
【0015】
(プレコート液)
本発明のプレコート液は、光触媒体層の下地層を形成するためのプレコート液であって、少なくとも粘土化合物を含有する。プレコート液は流動性のある液体状でもよいし、ゾル状やゲル状のいずれでもよい。プレコート液は塗布後、光触媒体層を形成するための下地層となる。
【0016】
(粘土化合物)
本発明において用いる粘土化合物は、少なくとも水中で分散できるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト、スメクタイト、カオリナイト、セリサイト、パイロフィライト、ディッカイト、タルク、ハロサイト、アタパルジャイト、セピオライト、ハイドロタルサント、及びノントロナイトが挙げられる。なお、これら粘土化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよく、プレコート液中の粘土化合物の濃度は、プレコート液100質量部あたり全粘土化合物として0.01質量部以上、10質量部以下である。
【0017】
本発明のプレコート液は、上記粘土化合物に加えて、有機酸またはリン酸もしくはその塩(以下、リン酸(塩)という)を含有することができる。有機酸やリン酸(塩)は、粘土化合物の分散剤として働くため、これによりプレコート液中での粘土化合物の分散性が向上し、プレコート液を樹脂層に塗布したときに、前記樹脂層を覆う粘土化合物からなる均一な膜を得ることができ、これにより、樹脂層中の発泡剤の光触媒体層への拡散をより効果的に抑制できる。
【0018】
(有機酸)
本発明のプレコート液で用いる有機酸としては、後述するプレコート液の溶媒に溶解するものであれば特に制限はなく、例えば、蓚酸、蓚酸アンモニウム、マロン酸、クエン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ポリカルボン酸アンモニウム等の、多価カルボン酸及びその塩があげられる。なお、これら有機酸は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよく、有機酸の全添加量としては、粘土化合物100質量部あたり1質量部以上、100質量部以下である。
【0019】
(リン酸(塩))
本発明のプレコート液で用いるリン酸(塩)としては、例えば、リン酸、ピロリン酸、ポリリン酸もしくはこれらのアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられるが、これらの中でも特に、リン酸、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウムが好ましい。なお、リン酸(塩)は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらリン酸(塩)の全添加量としては、粘土化合物100質量部あたり1質量部以上、100質量部以下である。
【0020】
(プレコート液用の溶媒)
本発明のプレコート液の溶媒は、通常、水溶性有機溶媒、水、水と水溶性有機溶媒との混合媒体などが用いられる。水溶性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの水溶性アルコール、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。なお、水溶性有機溶媒は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。水溶性アルコールとしては通常、エタノールが使用される。
【0021】
(プレコート液の調製)
本発明のプレコート液は、前記粘土化合物を前記プレコート液用の溶媒に添加し、そこに前記有機酸もしくはリン酸(塩)を溶解した液を添加することにより得ることが出来る。これらの工程は必要に応じて撹拌しながら行ってもよいし、加熱しながら行ってもよい。
【0022】
(プレコート液の用途)
このようにして得られた本発明のプレコート液は、本発明の光触媒体層付壁紙中間体および光触媒体層付壁紙における光触媒体層の下地層を形成するために用いることができる。
【0023】
(光触媒体層付壁紙中間体)
本発明の光触媒体層付壁紙中間体は、前記のとおり、樹脂層と、光触媒体層用の下地層と、光触媒体層とを含む。
【0024】
(樹脂層)
樹脂層は、基材シートの一方の面上に形成され、発泡処理前カプセル発泡剤を含有したものである。
基材シートは、壁紙用の難燃紙(パルプ主体のシート、スルファミン酸グアニジン、リン酸グアニジン等の難燃剤で処理したシート)、水酸化アルミニウム紙、無機質紙等の一般紙である。
樹脂層は樹脂からなる層である。樹脂としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル樹脂、エチレン−メタクリル酸共重合体樹脂、エチレン−メチルメタクリレート共重合体樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。樹脂層には、発泡処理前カプセル発泡剤が含まれている。発泡処理前カプセル発泡剤は低沸点有機溶剤を熱可塑性樹脂の中空粒子内に封入した、粒径10〜30μmの微小球である。熱可塑性樹脂としては、塩化ビニリデン・アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル・アクリル系共重合体、ニトリル系共重合体等が使用され、低沸点有機溶剤としては、イソブタン、ブタン、ペンタン、イソペンタン、ヘキサン等が使用される。
【0025】
(下地層)
本発明における下地層は、前記樹脂層の上に本発明のプレコート液を塗布し、乾燥することにより形成される。プレコート液の塗布は、印刷法、シート形成法、スプレー吹き付け法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、バーコート法等で行うことができる。プレコート液の塗布後の乾燥条件としては、乾燥圧力は通常、0.008〜0.12MPa、好ましくは0.009〜0.11MPaであり、乾燥温度は通常、0〜120℃、好ましくは60〜100℃であり、乾燥時間は通常、1〜20分である。下地層の厚さは、通常0.5〜10μm、好ましくは1〜5μmである。
【0026】
(光触媒体層)
本発明における光触媒体層は、前記下地層に光触媒体分散液を塗布し、乾燥することにより形成されたものである。
【0027】
(光触媒体分散液)
光触媒体分散液は、少なくとも粒子状の光触媒体と光触媒体分散媒とを有し、電子吸引性物質またはその前駆体を含有することが好ましく、本発明の効果を損なわない範囲で公知の各種の添加剤を含んでいてもよい。
【0028】
(光触媒体)
光触媒体とは、例えば、紫外線や可視光線の照射により光触媒作用を発現する半導体であり、具体的には、特定の結晶構造を示す金属元素と酸素、窒素、硫黄、フッ素との化合物等が挙げられる。金属元素としては、例えば、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Ga、In、Tl、Ge、Sn、Pb、Bi、La、Ceが挙げられる。その化合物としては、これら金属の1種類または2種類以上の酸化物、窒化物、硫化物、酸窒化物、酸硫化物、窒弗化物、酸弗化物、酸窒弗化物などが挙げられる。なかでも、Ti、W、Nbの酸化物が好ましく、とりわけメタチタン酸、酸化チタン、酸化タングステンなどが好ましい。なお、光触媒体は単独で用いてもよいし2種類以上を併用してもよい。
【0029】
(メタチタン酸)
メタチタン酸(HTiO、TiO(OH)、βー水酸化チタン)は、例えば硫酸チタニルの水溶液を加熱して加水分解することにより得ることが出来る。
メタチタン酸の粒子径は、特に制限されないが、光触媒作用の観点からは、平均分散粒子径で、通常20〜150nm、好ましくは40〜100nmである。前記メタチタン酸のBET比表面積は、特に制限されないが、光触媒作用の観点からは、通常100〜500m/g、好ましくは300〜400m/gである。
【0030】
(酸化チタン)
酸化チタン(TiO)は、例えば、(i)硫酸チタニルまたは塩化チタンの水溶液を加熱することなく、これに塩基を加えることにより沈殿物を得、この沈殿物を焼成する方法、(ii)チタンアルコキシドに水、酸性水溶液、塩基性水溶液等を加えて沈殿物を得、この沈殿物を焼成する方法、(iii)メタチタン酸を焼成する方法等によって得ることができる。これらの方法で得られる酸化チタンは、焼成する際の焼成温度や焼成時間を調整することにより、アナターゼ型、ブルッカイト型、ルチル型など所望の結晶型にすることができる。
また酸化チタンとしては、前記の他にも、特開2001−72419号公報、特開2001−190953号公報、特開2001−316116号公報、特開2001−322816号公報、特開2002−29749号公報、特開2002−97019号公報、WO01/10552パンフレット、特開2001−212457公報、特開2002−239395号公報)、WO03/080244パンフレット、WO02/053501パンフレット、特開2007−69093号公報、Chemistry Letters, Vol.32, No.2, P.196-197(2003)、Chemistry Letters, Vol.32, No.4, P.364-365(2003)、Chemistry Letters, Vol.32, No.8, P.772-773(2003)、Chem. Mater., 17, P.1548-1552(2005)等に記載の酸化チタンを用いてもよい。また、特開2001−278625号公報、特開2001−278626号公報、特開2001−278627号公報、特開2001−302241号公報、特開2001−335321号公報、特開2001−354422号公報、特開2002−29750号公報、特開2002−47012号公報、特開2002−60221号公報、特開2002−193618号公報、特開2002−249319号公報などに記載の方法により得ることもできる。
酸化チタンの粒子径は、特に制限されないが、光触媒作用の観点からは、平均分散粒子径で、通常20〜150nm、好ましくは40〜100nmである。前記酸化チタンのBET比表面積は、特に制限されないが、光触媒作用の観点からは、通常100〜500m/g、好ましくは300〜400m/gである。
【0031】
(酸化タングステン)
酸化タングステン(WO)は、例えば、(i)タングステン酸塩の水溶液に酸を加えることにより、沈殿物としてタングステン酸を得、このタングステン酸を焼成する方法、(ii)メタタングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸アンモニウムを加熱することにより熱分解する方法、等によって得ることができる。
酸化タングステンの粒子径は、特に制限されないが、光触媒作用の観点からは、平均分散粒子径で、通常50〜200nm、好ましくは80〜170nmである。前記酸化タングステンのBET比表面積は、特に制限されないが、光触媒作用の観点からは、通常5〜100m/g、好ましくは20〜50m/gである。
【0032】
(光触媒体分散媒)
光触媒体分散液を構成する光触媒体分散媒は、前記粒子状の光触媒体が分散できれば特に制限はなく、通常、水を主成分とする水性溶媒が用いられる。具体的には、水単独であってもよいし、水と水溶性有機溶媒との混合溶媒であってもよい。水と水溶性有機溶媒との混合媒体を用いる場合には、水の含有量が50質量%以上であることが好ましい。水溶性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの水溶性アルコール、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。なお、水溶性有機溶媒は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、公知の分散剤を含有してもよい。
【0033】
(分散剤)
本発明で用いる光触媒体分散液は、必要に応じて、光触媒体粒子の分散媒中での分散安定性を向上させる目的で、分散剤を用いることができる。該分散剤としては、例えば、ジカルボン酸、トリカルボン酸などのような多価カルボン酸、リン酸(塩)が挙げられる。ジカルボン酸としては、例えば蓚酸が、トリカルボン酸としては、例えばクエン酸が挙げられる。多価カルボン酸およびリン酸として遊離酸を用いてもよいし、塩を用いてもよい。塩としては、例えば、アンモニウム塩が挙げられる。かかる分散剤として、好ましくは蓚酸、蓚酸アンモニウム、リン酸二水素アンモニウムなどが挙げられる。
前記分散剤の使用量は、例えば光触媒体として酸化チタンを使用する場合、TiO換算の光触媒体酸化チタン1モルに対して通常、0.001モル倍以上、好ましくは、0.02モル倍以上であり、経済性の点で通常、0.5モル倍以下、好ましくは0.3モル倍以下である。
【0034】
(電子吸引性物質またはその前駆体)
光触媒体分散液を構成する電子吸引性物質とは、光触媒体の表面に担持されて電子吸引性を発揮しうる化合物であり、光触媒体分散液を構成する電子吸引性物質の前駆体とは、光触媒体の表面で電子吸引性物質に遷移しうる化合物(例えば光照射により電子吸引性物質に還元されうる化合物)である。電子吸引性物質が光触媒体の表面に担持されて存在すると光の照射により伝導体に励起された電子と価電子帯に生成した正孔との再結合が抑制され、光触媒作用をより高めることができる。
【0035】
前記電子吸引性物質の前駆体を添加した場合には、添加後に光照射を行うことが好ましい。照射する光としては、光触媒体のバンドギャップ以上のエネルギーを持つ光であれば特に制限はない。光の照射を行うことにより、光励起によって生成した電子によって前駆体が還元されて電子吸引性物質となり光触媒体の表面に担持される。なお光の照射は、光触媒体分散液に対して行ってもよいが、光触媒体層の形成後に行ってもよい。より好ましくは複数の光触媒体を混合する場合は、混合前におこなうのがよい。
さらに、より効率的に電子吸引性物質を担持する目的で光の照射する前に犠牲剤としてメタノール、エタノール、蓚酸等を加えることもできる。
【0036】
前記電子吸引性物質またはその前駆体は、Cu、Pt、Au、Pd、Ag、Fe、Nb、Ru、Ir、RhおよびCoからなる群より選ばれる1種以上の金属原子を含有してなるものであることが好ましい。より好ましくは、Cu、Pt、AuおよびPdのうちの1種以上の金属原子を含有してなるものである。例えば、前記電子吸引性物質としては、前記金属原子からなる金属、もしくは、これらの金属の酸化物や水酸化物等が挙げられ、電子吸引性物質の前駆体としては、前記金属原子からなる金属の硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、有機酸塩、炭酸塩、リン酸塩等が挙げられる。
【0037】
電子吸引性物質の好ましい具体例としては、Cu、Pt、Au、Pdの金属が挙げられる。また、電子吸引性物質の前駆体の好ましい具体例としては、Cuを含む前駆体として、硝酸銅〔Cu(NO3)2〕、硫酸銅〔CuSO4〕、塩化銅〔CuCl2、CuCl〕、臭化銅〔CuBr2、CuBr〕、沃化銅〔CuI〕、沃素酸銅〔CuI26〕、塩化アンモニウム銅〔Cu(NH4)2Cl4〕、オキシ塩化銅〔Cu2Cl(OH)3〕、酢酸銅〔CH3COOCu、(CH3COO)2Cu〕、蟻酸銅〔(HCOO)2Cu〕、炭酸銅〔CuCO3)、蓚酸銅〔CuC24〕、クエン酸銅〔Cu2647〕、リン酸銅〔CuPO4〕が;Ptを含む前駆体として、塩化白金〔PtCl2、PtCl4〕、臭化白金〔PtBr2、PtBr4〕、沃化白金〔PtI2、PtI4〕、塩化白金カリウム〔K2(PtCl4)〕、ヘキサクロロ白金酸〔H2PtCl6〕、亜硫酸白金〔H3Pt(SO3)2OH〕、酸化白金〔PtO2〕、塩化テトラアンミン白金〔Pt(NH3)4Cl2〕、炭酸水素テトラアンミン白金〔C21446Pt〕、テトラアンミン白金リン酸水素〔Pt(NH3)4HPO4〕、水酸化テトラアンミン白金〔Pt(NH3)4(OH)2〕、硝酸テトラアンミン白金〔Pt(NO3)2(NH3)4〕、テトラアンミン白金テトラクロロ白金〔(Pt(NH3)4)(PtCl4)〕、ジニトロジアミン白金〔(Pt(NO2)2 (NH3)2)〕が;Auを含む前駆体として、塩化金〔AuCl〕、臭化金〔AuBr〕、沃化金〔AuI〕、水酸化金〔Au(OH)2〕、テトラクロロ金酸〔HAuCl4〕、テトラクロロ金酸カリウム〔KAuCl4〕、テトラブロモ金酸カリウム〔KAuBr4〕、酸化金〔Au23〕が;Pdを含む前駆体として、例えば、酢酸パラジウム〔(CH3COO)2Pd〕、塩化パラジウム〔PdCl2〕、臭化パラジウム〔PdBr2〕、沃化パラジウム〔PdI2〕、水酸化パラジウム〔Pd(OH)2〕、硝酸パラジウム〔Pd(NO3)2〕、酸化パラジウム〔PdO〕、硫酸パラジウム〔PdSO4〕、テトラクロロパラジウム酸カリウム〔K2(PdCl4)〕、テトラブロモパラジウム酸カリウム〔K2(PdBr4)〕、テトラアンミンパラジウム塩化物〔Pd(NHCl〕、テトラアンミンパラジウム臭化物〔Pd(NHBr〕、テトラアンミンパラジウム硝酸塩〔Pd(NH(NO〕、テトラアンミンパラジウムテトラアンミンパラジウム酸テトラアンミンパラジウム塩化物〔(Pd(NH)(PdCl)〕、テトラクロロパラジウム酸アンモニウム〔(NHPdCl〕が;それぞれ挙げられる。なお、電子吸引性物質またはその前駆体は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、1種以上の電子吸引性物質と1種以上の前駆体とを併用してもよいことは勿論である。
【0038】
前記電子吸引性物質またはその前駆体をも含有させる場合、金属原子換算で、光触媒体粒子の合計量100質量部に対して、通常0.005〜0.6質量部、好ましくは0.01〜0.4質量部で含有する。電子吸引性物質またはその前駆体が光触媒体粒子の合計量100質量部に対して0.005質量部未満であると、電子吸引性物質による光触媒活性の向上効果が充分に得られないおそれがあり、一方、光触媒体粒子の合計量100質量部に対して0.6質量部を超えると、却って光触媒作用が低下するおそれがある。
【0039】
(添加剤)
光触媒体分散液を構成する添加剤としては、例えば、光触媒作用を向上させる目的で添加されるものが挙げられる。このような光触媒作用向上効果を目的とした添加剤としては、具体的には、非晶質シリカ、シリカゾル、水ガラス、アルコキシシラン、オルガノポリシロキサンなどの珪素化合物;非晶質アルミナ、アルミナゾル、水酸化アルミニウムなどのアルミニウム化合物;ゼオライト;酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属酸化物またはアルカリ土類金属水酸化物;リン酸カルシウム、モレキュラーシーブ、活性炭、有機ポリシロキサン化合物の重縮合物、リン酸塩、フッ素系ポリマー、シリコン系ポリマー、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂;等が挙げられる。
さらに、前記添加剤としては、光触媒体分散液を基材表面に塗布した際に光触媒体(酸化チタン、酸化タングステン等)をより強固に基材の表面に保持させるためのバインダー等を用いることもできる(例えば、特開平8−67835号公報、特開平9−25437号公報、特開平10−183061号公報、特開平10−183062号公報、特開平10−168349号公報、特開平10−225658号公報、特開平11−1620号公報、特開平11−1661号公報、特開2004−059686号公報、特開2004−107381号公報、特開2004−256590号公報、特開2004−359902号公報、特開2005−113028号公報、特開2005−230661号公報、特開2007−161824号公報参照)。
添加剤はそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0040】
(光触媒体分散液の調製)
光触媒体層を構成する光触媒体分散液は、前記光触媒体を前記光触媒体分散媒に添加し、分散することにより得ることができる。分散処理は、例えば、媒体撹拌式分散機を用いる通常の方法により行うことができる。光触媒体分散媒は、光触媒体に対して通常、5〜200質量倍、好ましくは10〜100質量倍で含有する。
【0041】
(光触媒体分散液の塗布および乾燥)
このようにして得られた光触媒体分散液を前記下地層上に塗布し、乾燥することにより光触媒体層付壁紙中間体が得られる。塗布は、印刷法、シート形成法、スプレー吹き付け法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、バーコート法等で行うことができる。乾燥の条件としては、乾燥圧力は通常、0.008〜0.12MPa、好ましくは0.009〜0.11MPaであり、乾燥温度は通常、0〜120℃、好ましくは60〜100℃であり、乾燥時間は通常、1〜20分である。
【0042】
(光触媒体付壁紙)
本発明の光触媒体層付壁紙は、前記壁紙中間体を構成する樹脂層内に含有される前記発泡処理前カプセル発泡剤に発泡処理を施すことによって得られる。ここで発泡処理とは、前記発泡処理前カプセル発泡剤が発泡すればどのような方法でもよいが、通常、加熱することにより発泡させる。発泡処理の条件としては、温度は通常、100〜250℃、好ましくは120〜200℃であり、圧力は通常、0.008〜0.12MPa、好ましくは0.009〜0.11MPaであり、時間は通常、1〜300秒である。また本発明の光触媒体層付壁紙は、必要に応じてエンボス加工を施してもよい。発泡処理後カプセル発泡剤は、上記発泡処理によって体積が膨張して粒径が30〜200μmの球状になる。
このようにして得られた本発明の光触媒体層付壁紙は、発泡処理が施されているにもかかわらず、適宜光触媒体を選択することによって、蛍光灯やナトリウムランプのような可視光源からの光しか受けない屋内環境でも、光照射によって高い触媒作用を示す。したがって、この光触媒体層付壁紙を、例えば病院の天井材、タイル、ガラスなどに塗布して乾燥させると、屋内照明による光照射によって、ホルムアルデヒドやアセトアルデヒドなどの揮発性有機物、アルデヒド類、メルカプタン類、アンモニアなどの悪臭物質、窒素酸化物の濃度を低減させ、さらには黄色ブドウ球菌や大腸菌、炭疽菌、結核、コレラ菌、ジフテリア菌、破傷風菌、ペスト菌、赤痢菌、ボツリヌス菌、およびレジオネラ菌等の病原菌等や、インフルエンザウィルスやノロウィルス等のウィルスを死滅、分解、除去することができる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0044】
なお、実施例および比較例における各物性の測定およびその光触媒活性の評価については、以下の方法で行った。
【0045】
(結晶型)
X線回折装置(リガク社製「RINT2000/PC」)を用いてX線回折スペクトルを測定し、そのスペクトルから結晶型を決定した。
【0046】
(BET比表面積)
比表面積測定装置(湯浅アイオニクス社製「モノソーブ」)を用いて窒素吸着法により測定した。
【0047】
(平均分散粒子径)
サブミクロン粒度分布測定装置(コールター社製「N4Plus」)を用いて粒度分布を測定し、この装置に付属のソフトにより自動的に単分散モード解析して得られた結果を、平均分散粒子径(nm)とした。
【0048】
(走査型電子顕微鏡)
走査型電子顕微鏡(SEM、S-2600N、日立製作所製)を用いて、下地層と光触媒体層とを形成した壁紙の表面を観察した。
【0049】
<光触媒活性の評価(高照度)>
測定対象の壁紙を5cm×10cmに切り出し、紫外線強度が2mW/cm(トプコン社製紫外線強度計「UVR−2」に同社製受光部「UD−36」を取り付けて測定)となるようにブラックライトからの紫外線を16時間照射して、これを光触媒活性測定用試料とした。
次に、この光触媒活性測定用試料をガスバッグ(内容積1L)の中に入れて密閉し、次いで、このガスバッグ内を真空にした後、酸素と窒素との体積比が1:4である混合ガス460mLを封入し、さらにその中に1容量%でアセトアルデヒドを含む窒素ガスを、ガスバック内のアセトアルデヒドの濃度が20ppmとなるように封入して、暗所で室温下1時間保持した。その後、市販の白色蛍光灯を光源とし、測定サンプル近傍での照度が6000ルクス〔照度計「T−10」(ミノルタ社製)で測定〕になるようにガスバッグを設置し、アセトアルデヒドの分解反応を行った。測定サンプル近傍の紫外光の強度は40μW/cm〔トプコン社製紫外線強度計「UVR−2」に、同社製受光部「UD−36」を取り付けて測定〕であった。蛍光灯照射後よりガスバッグ内のガスを1.5時間毎にサンプリングして、アセトアルデヒドの濃度をガスクロマトグラフ(島津製作所製「GC−14A」)にて測定し、光照射後3時間までの照射時間に対するアセトアルデヒドの濃度から一次反応速度定数を算出し、これをアセトアルデヒドの分解能とした。一次反応速度定数が大きいほど、アセトアルデヒドの分解能は大きい。
【0050】
<光触媒活性の評価(低照度)>
測定サンプル近傍での照度を1000ルクスに変えた他は、上記と同様に行った。このとき測定サンプル近傍の紫外光の強度は6.5μW/cm〔トプコン社製紫外線強度計「UVR−2」に、同社製受光部「UD−36」を取り付けて測定〕であった。
【0051】
(製造例1−光触媒体分散液の調製)
イオン交換水4kgに、粒子状の光触媒体である酸化タングステン(日本無機化学製)1kgを加えて混合して混合物を得た。この混合物を、媒体攪拌式分散機(コトブキ技研社製「ウルトラアペックスミル UAM−1」)を用いて下記の条件で分散処理して、酸化タングステン分散液を得た。
分散媒体:直径0.05mmのジルコニア製ビーズ1.85kg
攪拌速度:周速12.6m/秒
流速:0.25L/分
合計処理時間:約50分
【0052】
得られた酸化タングステン分散液における酸化タングステンの平均分散粒子径は118nmであった。また、この分散液の一部を真空乾燥して固形分を得たところ、得られた固形分のBET比表面積は40m/gであった。なお、分散処理の前の混合物についても同様に真空乾燥して固形分を得、分散処理前の混合物の固形分と分散処理後の分散液の固形分について、X線回折スペクトルをそれぞれ測定して比較したところ、どちらも結晶型はWO3であり、分散処理による結晶型の変化は見られなかった。この時点で、得られた分散液を20℃で3時間保管したところ、保管中に固液分離は見られなかった。
【0053】
この酸化タングステン分散液に、ヘキサクロロ白金酸(HPtCl)の水溶液を、ヘキサクロロ白金酸が白金原子換算で酸化タングステンの使用量100質量部に対して0.12質量部となるように加え、さらに、メタノールを、その濃度が全溶媒の6.25質量%となるように加えて、ヘキサクロロ白金酸を含有した酸化タングステン分散液を得た。この分散液100質量部中に含まれる固形分(酸化タングステンの量)は11.4質量部(固形分濃度11.4質量%)であった。
【0054】
次いで、上記ヘキサクロロ白金酸を含有した酸化タングステン分散液480gを1Lビーカーに移し、攪拌しながら、高圧水銀灯(ウシオ電機製、高圧水銀灯:「UM−102」、高圧水銀ランプ点灯装置:「UM−103B−B」)にて光照射(紫外線照射)を3時間行うことにより、分散液中のヘキサクロロ白金酸を白金に還元して、白金担持酸化タングステン分散液を得た。この光照射後の光触媒体分散液のpHは2.4であった。この時点で、得られた分散液を20℃で3時間保管したところ、保管中に固液分離は見られなかった。
【0055】
(実施例1)
<プレコート液の調製>
モンモリロナイト(商品名:クニピアF、クニミネ工業製)12gを水388gに添加し、ホモジナイザーを用いて回転数10,000rpmで1時間分散処理を施した。得られたモンモリロナイト分散液(固形分濃度3質量%)6gに水3gを添加した。その後この液1.6gにエタノール0.4gを添加して、プレコート液を得た。該プレコート液のpHは9.3であった。
【0056】
(光触媒体層付壁紙の作成)
エチレン−酢酸ビニル共重合体からなり、カプセル発泡剤を含有した樹脂層(7cm×15cm)に、得られたプレコート液をバーコーター(20番)で塗布し、70℃で15分間乾燥した。この工程を同一壁紙に5回行った後、更にその上に光触媒体分散液を同様にバーコーター(6番)で塗布して70℃で15分間乾燥した。その後180℃で1.5分間乾燥することにより発泡処理して、光触媒体層付壁紙を作成した。この壁紙の表面のSEM写真を図1に示す。図1から明らかなように発泡球の露出は見られなかった。また、この壁紙の光触媒活性を測定したところ、アセトアルデヒドの一次反応速度定数は高照度では0.238h-1で、低照度はで0.0160h-1であった。
【0057】
(実施例2)
モンモリロナイト(商品名:クニピアF、クニミネ工業製)12gを水388gに添加し、ホモジナイザーを用いて回転数10,000rpmで1時間分散処理を施した。得られたモンモリロナイト分散液(固形分濃度3質量%)6gに、蓚酸水溶液(蓚酸二水和物として固形分濃度5質量%)0.72gと水2.28gを添加した。その後この液1.6gにエタノール0.4gを添加して、プレコート液を得た。プレコート液のpHは2.4であった。モンモリロナイト100質量部に対する蓚酸の含有量は14.3質量部であった。
【0058】
実施例1と同様にして、得られたプレコート液を樹脂層に塗布、乾燥して下地層を形成し、この下地層の上に製造例1で得られた光触媒体分散液を塗布して光触媒体層を形成し、その後に発泡処理することにより光触媒体層付壁紙を作成した。この壁紙の表面のSEM写真を図2に示す。図2から明らかなように発泡球の露出は見られなかった。また、この壁紙の光触媒活性を測定したところ、アセトアルデヒドの一次反応速度定数は高照度では1.42h-1で、低照度はで0.275h-1であった。
【0059】
(実施例3)
モンモリロナイト(商品名:クニピアF、クニミネ工業製)12gを水388gに添加し、ホモジナイザーを用いて回転数10,000rpmで1時間分散処理を施した。得られたモンモリロナイト分散液(固形分濃度3質量%)6gに、蓚酸水溶液(蓚酸二水和物として固形分濃度5質量%)0.72gと水2.28gを添加した。その後この液1.6gにエタノール0.4gを添加し、さらに10%アンモニア水0.036gを添加してプレコート液を得た。プレコート液のpHは5.1であった。モンモリロナイト100質量部に対する蓚酸の含有量は14.3質量部であった。
【0060】
実施例1と同様にして、得られたプレコート液を樹脂層に塗布、乾燥して下地層を形成し、この下地層の上に製造例1で得られた光触媒体分散液を塗布して光触媒体層を形成し、その後に発泡処理することにより光触媒体層付壁紙を作成した。この壁紙の表面のSEM写真を図3に示す。図3から明らかなように発泡球の露出は見られなかった。また、この壁紙の光触媒活性を測定したところ、アセトアルデヒドの一次反応速度定数は高照度では1.37h-1で、低照度はで0.242h-1であった。
【0061】
(実施例4)
モンモリロナイト(商品名:クニピアF、クニミネ工業製)12gを水388gに添加し、ホモジナイザーを用いて回転数10,000rpmで1時間分散処理を施した。得られたモンモリロナイト分散液(固形分濃度3質量%)6gに、リン酸(H3PO4)0.059gと水2.94gを添加した。その後この液1.6gにエタノール0.4gを添加してプレコート液を得た。プレコート液のpHは2.1であった。モンモリロナイト100質量部に対するリン酸の含有量は32.8質量部であった。
【0062】
実施例1と同様にして、得られたプレコート液を樹脂層に塗布、乾燥して下地層を形成し、この下地層の上に製造例1で得られた光触媒体分散液を塗布して光触媒体層を形成し、その後に発泡処理することにより光触媒体層付壁紙を作成した。この壁紙の表面のSEM写真を図4に示す。図4から明らかなように発泡球の露出は見られなかった。また、この壁紙の光触媒活性を測定したところ、アセトアルデヒドの一次反応速度定数は高照度では1.02h-1で、低照度はで0.0874h-1であった。
【0063】
(比較例1)
プレコート液をエチレン−酢酸ビニル共重合体からなる壁紙(7cm×15cm)に、塗布せずに、樹脂層に製造例1で得られた光触媒体分散液を塗布、乾燥して光触媒体層を形成し、その後に発泡処理することにより壁紙を作成した。この壁紙の表面のSEM写真を図5に示す。図5から明らかなように発泡球の露出が見られた。また、この壁紙の光触媒活性を測定したところ、アセトアルデヒドの一次反応速度定数は高照度では0.00602h-1で、低照度はで0.00240h-1であった。
【0064】
以上の実施例、比較例の評価結果をまとめて表1に示す。
【表1】

【0065】
図1〜4では、図5と比較して壁紙に含まれる発泡処理後カプセル発泡剤の露出を抑制しており、発泡処理後カプセル発泡剤に含まれる低沸点有機溶剤の光触媒体層への拡散を遮断していることがわかった。さらに実施例1と実施例2〜4を比較すると、蓚酸やリン酸を添加したプレコート液では、発泡剤の拡散をより抑制でき、低照度でも高い光触媒活性を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カプセル発泡剤を含む樹脂層の表面に光触媒体層を形成するために、あらかじめ、前記樹脂層の表面に下地層を形成するための下地層用プレコート液であって、少なくとも粘土化合物を含有することを特徴とする光触媒体層の下地層用のプレコート液。
【請求項2】
さらに有機酸またはリン酸もしくはその塩を含有する請求項1に記載のプレコート液。
【請求項3】
基材シートと、該基材シートの一方の面上に形成された発泡処理前カプセル発泡剤を含む樹脂層と、該樹脂層の上に形成された下地層と、該下地層の上に形成された光触媒体層とを含む光触媒体層付壁紙中間体であって、前記下地層は請求項1または請求項2に記載のプレコート液を前記樹脂層上に塗布して形成されたものであり、前記光触媒体層は光触媒体分散液を前記下地層上に塗布して形成されたものであることを特徴とする光触媒体層付壁紙中間体。
【請求項4】
請求項3に記載の光触媒体層付壁紙中間体に、発泡処理前カプセル発泡剤を発泡させる処理が施されてなることを特徴とする光触媒体層付壁紙。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−38060(P2011−38060A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−189485(P2009−189485)
【出願日】平成21年8月18日(2009.8.18)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】