説明

光触媒粒子含有薄層体の製造方法

【課題】 生産性が良好であり、かつ抗菌性のバラツキが少ない光触媒粒子含有薄層体の製造方法を提供すること。
【解決手段】 ロール状に巻かれた薄層体1は、図示左側から右側に送られることにより、噴霧室3の内部で噴霧器4による噴霧工程、ヒータ6の熱処理による乾燥工程、および成型機7・プレス機8による加工工程が順次に実施される。こうして、表面に光触媒粒子2Bが固着された薄層体1からなる食品用カップ2が製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒粒子を含有する薄層体であるシートまたはフィルムなどの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化チタン(TiO2)などの光触媒粒子を含有する薄層体、およびその製造方法を開示した技術文献が多く認められる。例えば、特開2003−535688号公報(特許文献1)、および特開平11−47610号公報(特許文献2)には、関連する技術が開示されている。
【0003】
光触媒においては、そのバンドギャップよりも高いエネルギーを持つ光を照射すると、励起によって電子及び正孔が生成される。励起された電子及び正孔は表面に移動してラジカルを生成し、このラジカルが、光触媒の原子価エネルギーよりも低い結合エネルギーを有する周囲のポリマー及び他の有機材料を分解する。この特性を利用することにより、光触媒粒子でコーティングされた材料の表面付近に存在する有機物質及び微生物を分解させ、抗菌効果を有する薄層体を提供することができる。
【0004】
従来、タイル・陶磁器などの耐火性の高い物質の表面に光触媒粒子を付着させる方法としては、光触媒粒子をスプレー等でコーティングした後に、500℃以上の高温で焼成処理するという方法がある。しかしながら、この方法は、耐火性の高い物質にしか応用できず、例えばビニールシート・プラスチック製食品用パック或いは食品用カップなどのような耐火性の低い薄層体には用いることができない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記した問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、生産性が良好であり、かつ抗菌性能のバラツキが少ない光触媒粒子含有薄層体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、第1の発明に係る光触媒粒子含有薄層体の製造方法は、薄層体の表面に光触媒粒子をコートするコーティング工程、および前記光触媒粒子を薄層体の表面に固着させる固定化工程を含むことを特徴とする。
「薄層体」とは、シート、またはフィルム(特に、プラスチックフィルム)のように薄い物体を意味している。そのような薄層体を構成する材料としては、合成樹脂、例えばポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、セルロースエステル、ポリスチレン、ポリビニル樹脂、ポリスルホンアミド、ポリエーテル、ポリイミド、フルオロポリマー、ビニルポリマー、ビニリデンポリマー、ポリウレタン、ポリフェニレンスルフィド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアセタール、ポリスルホネート、ポリエステルイオノマー、ポリオレフィンイオノマー、ポリメタクリレート、ポリメチルアクリレート、及びポリエチルアクリレートを含む熱可塑性ポリマー種が例示される。
【0007】
ポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリシクロヘキシルエチレン、ポリオクテン、およびポリノネンが例示される。また、エチレンおよびプロピレンのコポリマーを含むポリオレフィンコポリマー、並びにこれらの混合物(例えば、ヘキセン、ブテン及びオクテン、シクロオレフィン及びスチレン)を用いることもできる。一酸化炭素エチレン、スチレン−アクリロニトリル、エチレンビニルアセテート、アクリル酸、メタクリル酸、及びスチレン−アクリロニトリルを含む他のコポリマーが例示される。
【0008】
ビニル及びビニリデンポリマーとしては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール、及びエチレンビニルアルコールのようなコポリマーが例示される。
フルオロポリマーとしては、例えば、ポリ弗化ビニル、ポリ弗化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、エチレンとテトラフルオロエチレンのコポリマー、ポリクロロトリフルオロエチレン及びそのエチレン又はテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレンとのコポリマーが例示される。
【0009】
「表面」とは、薄層体の二つの面のうち、少なくともいずれか一方の面を意味している。本発明によれば、表裏両面に光触媒粒子を含む溶剤をコートすることもできる。
「光触媒粒子」とは、所定のバンドギャップ以上のエネルギーを持つ波長の光を照射することにより、光触媒機能を発現する粒子を意味している。例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化タングステン、酸化鉄、チタン酸ストロンチウムなどの公知の金属化合物半導体を単一または任意の2種以上で組み合わせて用いることができる。これらの光触媒粒子のうち、高い光触媒粒子機能を有し、化学的に安定であり、かつ無害である酸化チタンを用いることが好ましい。
【0010】
本発明においては、光触媒粒子の表面に、第2成分として、V、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ru、Rh、Pd、Ag、Pt及びAuからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属及び/または金属化合物を含有させることが好ましい。これらの金属化合物には、酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、硫酸塩、ハロゲン化物、硝酸塩、さらには金属イオンなどを含むことができる。第2成分の含有量はその物質により適宜設定できる。これらの金属及び/または金属化合物を含有させる光触媒粒子としては、酸化チタンを用いることが好ましい。また、第2成分として、Agを用いることが好ましい。このとき、酸化チタンとAgの質量比としては、Ag/酸化チタン=0.1%〜30%であることが好ましく、0.3%〜10%であることが最も好ましい。その理由は、光のない所でも殺菌作用を有し、光のある所では、酸化チタンとAgとの複合効果によって、より強力な殺菌力を有するからである。
【0011】
また、光触媒粒子の含有量は、薄層体の表面積に対して、0.05μg/cm〜5μg/cmであることが好ましく、0.05μg/cm〜1μg/cmであることが更に好ましい。
なお、光触媒粒子としては、例えば特開平11−349423号公報に開示されたものを用いることができる。
「コーティング工程」とは、薄層体の表面に光触媒粒子を配する工程であり、例えば、(1)圧着などの物理的方法により付着させる方法(物理的付着法)、(2)薄層表面に結合剤(バインダー)をコーティングした後に、その結合剤を利用して付着させる方法(結合剤利用法)、(3)蒸着法、(4)ドクターナイフによる掻き取り方法、或いは(5)後述の噴霧方法などが含まれる。
「固定化工程」とは、光触媒粒子を薄層体の表面に固定するために必要な工程であり、例えば、コーティング工程として、結合剤利用法或いは噴霧方法を用いた場合には、適当な温度をかけて、結合剤或いは溶剤を乾燥させる工程(乾燥工程)がある。
第1の発明によれば、抗菌性に優れた薄層体を容易に製造することができる。
【0012】
第1の発明において、前記コーティング工程は、薄層体の表面に光触媒粒子を含む溶剤を噴霧する噴霧工程であり、かつ前記固定化工程は、薄層体に熱処理を施して溶剤を乾燥させ、前記光触媒粒子を薄層体の表面に固着させる乾燥工程であることが好ましい。
「溶剤」とは、光触媒粒子を分散させる液体のことを意味しており、主として水あるいは有機溶剤を用いることができる。乾燥工程において、溶剤の乾燥を促進させるためには、有機溶剤を用いることが好ましい。そのような有機溶剤としては、メタノール、エタノール、ブタノール、アセトン、クロロホルム、ヘキサン、ジエチルエーテルなどが例示される。光触媒粒子含有薄層体として、食品用パック或いは食品用カップを製造する場合には、これらの溶剤のうち、安全性の観点から、水またはエタノールを用いることが好ましい。更に、乾燥工程を促進させ、生産性を向上させるためには、特にエタノールを用いることが好ましい。エタノールには、殺菌効果があり、食品関連材料については品質保証ともなる。
【0013】
乾燥工程における「熱処理」とは、薄層体を構成する材料の溶融点よりも低く、かつ溶剤を乾燥させることのできる程度の熱をかける処理を意味している。本発明においては、タイル・陶磁器などの耐火性の高い物質に用いられる程の高熱(例えば、500℃)を用いることは困難である。具体的には、薄層体を構成する材料に依るが、例えば薄層体が食品用パック或いは食品用カップの場合には、約200℃〜約300℃程度の温度になる。但し、乾燥工程を行う際の温度は、薄層体を乾燥させる時間にも依存するため、温度だけの条件により決定することは困難である。これらの条件は、当業者であれば、容易に決定することができるだろう。
【0014】
前記コーティング工程のうち、物理的付着法または結合剤利用法では、光触媒粒子の一部が薄層体あるいは結合剤の内部に必要以上に埋没してしまい、抗菌効果にバラツキが生じる可能性がある。また、結合剤を用いた場合には、その結合剤を乾燥させる工程が必要となり、生産性を上げることに困難が予想される。
そこで、コーティング工程として噴霧工程を、固定化工程として乾燥工程を実施する方法が好ましい。このようにすれば、薄層体の表面に光触媒粒子を固着させたものを効率良く製造することができる。また、この製造方法では、光触媒粒子を含む溶剤を噴霧し、乾燥させるので、光触媒粒子が必要以上に薄層体の内部に埋没してしまうことがなく、その光触媒活性を有効に発揮させることができる。
なお、光触媒粒子は、噴霧により薄層体の表面に固着するので、必ずしも薄層体の全面に光触媒粒子を存在させる必要はなく、その噴霧のタイミング等を変化させることにより、必要な箇所のみに光触媒粒子を固着させることができる。従来のように、塗布により光触媒粒子を薄層体の表面に固着させる場合には、そのような工夫は困難である。光触媒粒子の値段は、必ずしも安価ではないため、そのような工夫を行えば、必要な程度の光触媒活性を保持させつつ、少量の光触媒粒子を用いれば良いので、経済的な方法となる。
【0015】
第1の発明においては、前記薄層体がパック、カップ、またはトレイのうちの一種であり、前記固定化工程の後に、更に成型およびプレスによる加工工程、を含むことが好ましい。
「パック」とは、その内部に他のものを含む空間を備えた箱体のことを意味している。パックは、ヒンジ部位を備えた一つの部材であって、そのヒンジ部位を折り曲げることにより、内部に空間を形成するように構成されたものを意味している。
「カップ」とは、二つ以上の部材(例えば、下側カップ及び蓋側カップ)が組み合わせられて、内部に空間を形成するように構成されたものを意味している。
「トレイ」とは、フタを備えない一つの部材であって、皿状のものを意味している。
【0016】
本発明によれば、パック、カップ、またはトレイの内部または/および外部に光触媒粒子を固着させたものを効率良く製造することができる。
なお、パック、カップ、またはトレイとしては、特に食品用のものであることが好ましい。「パック、カップ、またはトレイが食品用のもの」であるとは、その内部空間に食品(例えば、弁当・サンドイッチ・総菜など)を含有させるための薄層体(パック、パック、またはトレイのうちの一種)を意味している。そのような薄層体を用いれば、内部の食品の保存性を飛躍的に高めることが可能となる。
また、第2の発明に係る光触媒粒子含有薄層体の製造方法は、合成樹脂に熱をかけて溶解させ、この合成樹脂を所定の厚さに成形した後、巻取機に巻き取ることによって製造される薄層体において、前記巻取機に巻き取られる前に、前記薄層体の表面に光触媒粒子をコートするコーティング工程、および前記光触媒粒子を薄層体の表面に固着させる固定化工程を実施することを特徴とする。
溶解した合成樹脂から薄層体を製造する方法としては、例えばインフレーション法、Tダイ法(2軸延伸法を含む)、カレンダー法などの一般的な方法を例示することができる。このうち、例えばインフレーション法の場合には、(A)押出機から溶解した合成樹脂を押出し、(B)中間層に圧縮空気を送り込みながらパイプ状に膨らませ、(C)ローラで薄層とした後に、(D)コーティング工程、及び固定化工程を実施し、(E)巻取機によって薄層体を巻き取るという製造方法を実施する。また、カレンダー法の場合には、(F)加熱された合成樹脂を複数本の回転ローラで溶かしつつ圧延し、(G)コーティング工程、及び固定化工程を実施し、(H)更に複数本のローラで冷却しつつ圧延し、(I)巻取機によって薄層体を巻き取るという製造方法を実施する。また、Tダイ法の場合には、(J)加熱溶解した合成樹脂を口金(ダイ)から押出し、(K)コーティング工程、及び固定化工程を実施し、(L)冷却固化させ、(M)巻取機によって薄層体を巻き取るという製造方法を実施する。
上記製造方法では、合成樹脂から薄層体を製造する際に、コーティング工程、及び固定化工程を実施することにより、巻取機に巻き取られる前に、薄層体の表面に光触媒粒子を固着させる。このため、この薄層体を更に加工して、パック、カップ、またはトレイとするときには、これまでの設備に変更を加えることなく実施することができる。
第2の発明において、前記コーティング工程は、前記薄層体の表面に光触媒粒子を含む溶剤を噴霧する噴霧工程であり、かつ前記固定化工程は、薄層体に熱処理を施して溶剤を乾燥させ、前記光触媒粒子を薄層体の表面に固着させる乾燥工程であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、生産性が良好であり、かつ抗菌性に優れた光触媒粒子含有薄層体を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの実施形態によって限定されるものではなく、発明の要旨を変更することなく様々な形態で実施することができる。また、本発明の技術的範囲は、均等の範囲にまで及ぶものである。
<コーティング工程>
本実施形態においては、まず薄層体の表面に、光触媒粒子をコーティングするコーティング工程を実施する。このコーティング工程では、従来用いられているコーティング方法を用いることができるが、これらのうち噴霧工程を用いた方法について説明する。
薄層体としては、例えばシートまたはフィルムが例示される。薄層体の材料としては、前述の合成樹脂などから、適当な材料を選択することができる。
【0019】
この薄層体は、例えば、農業用、工業用、土木作業用、建築作業用、食品用(包装用、または展示用)、医療器具・医薬品の包装用などに用いることができる。なお、薄層体は、単層でもよく、二層以上の多層であってもよい。
薄層体は、ロール状に巻き取られたもの、或いは所定の長さに切断されたものなどの形状のものを用いることができる。但し、好ましくは、ロール状に巻き取られたものを用いる。そのようにすれば、作業効率の観点から良好だからである。
【0020】
薄層体の厚さとしては、特に限定されないが、例えば100μm〜1000μmのものに適用することができる。
光触媒粒子の材料としては、SrTiO3、TiO2、ZnO、SnO2、WO3、Fe2O3、及びBi2O3からなる群から一つまたはそれ以上が選択される。これらの材料のうち、TiO2のアナターゼ形を好適に用いることができる。
光触媒粒子の表面には、第2成分を含有させることが好ましい。第2成分としては、前述のものがあるが、特にAgを好適に用いることができる。
【0021】
光触媒粒子を分散させる溶剤としては、前述のように水系のもの、或いは有機溶剤系のものが用いられる。薄層体の用途が、食品用の場合には、水、エタノール、或いはこれらの混合物を用いることが好ましい。溶剤に適量の光触媒粒子を分散させておき、この溶剤を薄層体の表面に噴霧する。なお、表面としては、いずれか一方側の面のみ、あるいは両面に噴霧を行うことができる。
こうして、コーティング工程(噴霧工程)を完了する。
【0022】
<固定化工程>
本発明においては、いろいろな固定化工程を実施することが可能であるが、本実施形態においては、これらのうち乾燥工程について説明する。
溶剤を乾燥させるには、薄層体に適当な熱をかける。熱のかけ方としては、バッチ方式あるいは連続的な方式があり得るが、連続的な方式を用いることが、生産効率の点から好ましい。乾燥工程の温度および時間については、薄層体の材料・厚さ、および溶剤の種類・量などによって適宜に変更され得る。そのような変更は、当業者であれば容易に行うことができる。
【0023】
薄層体の形状、あるいは用途によっては、上記コーティング工程(噴霧工程)および固定化工程(乾燥工程)の2工程の完了によって、最終製品とすることができる。
また、場合に応じて、上記2工程の後に、次のようにして加工工程を実施することができる。
【0024】
<加工工程>
薄層体をパック、カップ、またはトレイとする場合には、乾燥工程の後に、成型、およびプレスにより加工を行う加工工程を実施することができる。
この場合には、薄層体は、初期にはロール状に巻き取られた形状をしている。このため、噴霧工程、乾燥工程、および加工工程は、従来の加工技術を利用して実施することができるので、設備的にも良好な実施形態となる。
【0025】
乾燥工程が実施されて、その表面に光触媒粒子が固着された薄層体を所定の形状に成型する。成型方法としては、例えば押出成型、中空成型、圧縮成型、FRP成型、熱成型、ロールシート成型、キャレンダ成型、積層成型、2軸延伸フィルム成型などのように、一般に薄層体の成型に用いられる方法が選択できる。これらのうち、熱成型(例えば、真空成型、圧空成型、機械的成型など)に対して、好適に用いることができる。
【0026】
また、適当に成型された薄層体について、プレスにより、所定の位置で切断する。このようにすれば、薄層体からなるパックを好適に製造することができる。なお、パック、カップ、またはトレイが食品用のものである場合には、本実施形態の方法により、更に好適に製造することができる。
次に、図1および図2を参照しつつ、本実施形態を説明する。図1では、薄層体1から食品用カップ2を製造する方法について説明する。薄層体1としては、ロール状に連続的に巻き取られたもの(図示、左端側)が用いられる。図中の矢印は、薄層体1の進行方向(左側から右側)を示している。
【0027】
薄層体1は、まず噴霧室3に導入される。この噴霧室3の内部には、噴霧器4が設けられている。噴霧器4の基端側には、光触媒粒子を分散させた溶剤が貯留されたタンク5が設けられている。このタンク5から、噴霧用の溶剤が供給される。なお、別の噴霧器4を薄層体1の下方側に設けることにより、薄層体1の表裏両面に光触媒粒子を噴霧することもできる。
また、噴霧室4の右隣には、ヒータ6が設けられている。このヒータ6により、適当な熱を加えて熱処理することにより、薄層体1の表面に噴霧された溶剤を乾燥させ、薄層体1の表面に光触媒粒子を固着させる。同時に、この熱処理により、薄層体1は加工に適した柔らかさを持つこととなり、次の成型機7に送られる。
【0028】
成型機7は、真空成型用のものであり、薄層体1を所定の形状に成型することができる。こうして、成型された薄層体1は、プレス機8によって、所定の大きさにプレス切断される。
上記のようにして、薄層体1は、図示左側から右側に送られることにより、噴霧室3の内部で噴霧器4による噴霧工程、ヒータ6の熱処理による乾燥工程、および成型機7・プレス機8による加工工程が順次に実施される。こうして、表面に光触媒粒子が固着された薄層体からなる食品用カップ2が製造される。図2には、食品用カップ2の拡大断面図を示す。食品用カップ2を構成する基体2Aの表面には、光触媒粒子2Bが固着されている。
【0029】
このように本実施形態によれば、従来のようにバインダー(結合剤)を用いることなく、噴霧工程および乾燥工程を経て、光触媒粒子2Bを食品用カップ2の表面に固着させることができるので、生産性を向上させた製造方法となる。また、バインダーを用いないので、光触媒粒子2Bが必要以上に食品用カップ2の内部に埋没してしまうことが回避され、抗菌性のバラツキがなく、強い抗菌性を保持させた製造方法とできる。
特に、食品用カップ2に適用した場合には、カップ内の食品の腐敗速度を遅らせ、賞味期限を延長させることができるので、物流コストの低減化を図ることができる。
【0030】
また、食品用カップ2を使用する際には、従来に必要であったアルコールなどの殺菌剤を用いたパック自体の噴霧処理が不要となる。このため、食品用カップ2の保管段階での手間を省くことが可能となり、コストの低減化を図れる。
更に、食品用カップ2の内部に収容された内容物から放出される臭気化合物を分解するので、保存室内の脱臭効果を図ることができる。
次に、実施例を参照しつつ、本発明を更に詳細に説明するが、本発明の要旨はこれらの実施例によって限定されない。
【0031】
<実施例1> 食品用カップの製造
図1に示す装置を用いて、食品用カップを製造した。このとき、薄層体として、ロール状に巻き取られたA−PETを用いた。その薄層体の厚さは、約600μm〜450μmであった。
光触媒粒子としては、二酸化チタンにAgを付着させたもの(二酸化チタンの一次粒子系が約7nmの光ギンテック(アスカテック株式会社製))を用いた。この銀担持光触媒粒子の約100gを約1リットルのエタノールに分散させたものを用いた。
【0032】
薄層体を約0.14m/秒程度の速度で移動させつつ、上記光触媒粒子を分散させた溶剤を約23mL/分程度の量で噴霧させながら、噴霧工程を実施した。この条件では、理論上、薄層体の表面積に対して、約48μg/cm程度の光触媒粒子が固着されていることになる。なお、光触媒粒子の噴霧は、食品用カップにおいて、食品が保存される側(内部側)の一面にのみ行った。
ヒータの温度調節は、薄層体がヒータを通過する際に、上記溶剤が乾燥すると共に、薄層体が真空成型に適した柔らかさとなる程度に設定した。
【0033】
次に、成型およびプレス加工を行い、食品用カップを製造した。
食品用カップとしては、上下一対で一つの食品用カップを製造できる2部品からなるものを製造し、光触媒粒子を固着させていないブランクと、光触媒粒子を固着させた試験体とを製造した。また、ブランク、および試験体とを適当に組み合わせて、食品用カップを構成し、評価試験を行った。
【0034】
<実施例2> 評価試験
1.試験方法
各食品用カップの内部に食パンを投入して、光の当たる場所に保存し、カビの有無について評価を行った。
食品用カップとして、(1)ブランク(上側)とブランク(下側)、(2)試験体(上側)とブランク(下側)、(3)ブランク(上側)と試験体(下側)、(3)試験体(上側)と試験体(下側)との組合せで、四種類のものを構成した。
保存から、21日後の食パンの様子を観察し、カビの有無を観察した。
【0035】
2.試験結果
上記(1)の食品用カップに保存された食パンにおいては、カビが発生していることが認められた。一方、上記(2)〜(4)の食品用カップに保存された食パンには、肉眼では、カビの発生は認められなかった。
このことより、上下少なくとも一方側に光触媒粒子が固着されていれば、食品の保存作用が発揮されることが判明した。
このように、本実施形態によれば、生産性が良好であり、かつ抗菌性に優れた光触媒粒子含有食品用カップを製造することができた。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本実施形態において、食品用カップを製造する際の概要を示す図である。
【図2】食品用カップの断面を模式的に示した拡大図である。
【符号の説明】
【0037】
1…薄層体
2…食品用カップ
2A…基体
2B…光触媒粒子
4…噴霧器
6…ヒータ
7…成型機
8…プレス機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄層体の表面に光触媒粒子をコートするコーティング工程、および前記光触媒粒子を薄層体の表面に固着させる固定化工程を含むことを特徴とする光触媒粒子含有薄層体の製造方法。
【請求項2】
前記コーティング工程は、薄層体の表面に光触媒粒子を含む溶剤を噴霧する噴霧工程であり、かつ前記固定化工程は、薄層体に熱処理を施して溶剤を乾燥させ、前記光触媒粒子を薄層体の表面に固着させる乾燥工程であることを特徴とする請求項1に記載の光触媒粒子含有薄層体の製造方法。
【請求項3】
前記薄層体がパック、カップ、またはトレイのうちの一種であり、前記固定化工程の後に、更に成型およびプレスによる加工工程、を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の光触媒粒子含有薄層体の製造方法。
【請求項4】
前記薄層体が食品用のものであることを特徴とする請求項3に記載の光触媒粒子含有薄層体の製造方法。
【請求項5】
合成樹脂に熱をかけて溶解させ、この合成樹脂を所定の厚さに成形した後、巻取機に巻き取ることによって製造される薄層体において、前記巻取機に巻き取られる前に、前記薄層体の表面に光触媒粒子をコートするコーティング工程、および前記光触媒粒子を薄層体の表面に固着させる固定化工程を実施することを特徴とする光触媒粒子含有薄層体の製造方法。
【請求項6】
前記コーティング工程は、前記薄層体の表面に光触媒粒子を含む溶剤を噴霧する噴霧工程であり、かつ前記固定化工程は、薄層体に熱処理を施して溶剤を乾燥させ、前記光触媒粒子を薄層体の表面に固着させる乾燥工程であることを特徴とする請求項5に記載の光触媒粒子含有薄層体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−346651(P2006−346651A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−179256(P2005−179256)
【出願日】平成17年6月20日(2005.6.20)
【出願人】(000144061)株式会社三栄工業 (3)
【出願人】(504199770)アスカテック株式会社 (5)
【Fターム(参考)】