説明

光記録媒体及びアゾ系金属キレート色素添加剤

【課題】700nm以下の波長の光で情報の記録・再生を行なう光記録媒体であって、耐光性に優れ、良好な高速記録や良好な高密度記録が実現された光記録媒体を提供する。
【解決手段】基板と、前記基板上に設けられ、700nm以下の波長の光が照射されることにより情報の記録又は再生が可能な母体色素を含有する記録層と、反射層とを有する光記録媒体において、記録層に、少なくとも、Cu2+、Fe2+及びCo2+のうち何れかを中心金属イオンとするアゾ系金属キレート色素添加剤を含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光記録媒体及びアゾ系金属キレート色素添加剤に関する。より詳しくは、赤色レーザ或いは青色レーザ対応の光記録媒体、及び、その光記録材料として使用されるアゾ系金属キレート色素添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、CD−R/RW、DVD−R/RW、MO等の各種光記録媒体は、大容量の情報を記憶でき、ランダムアクセスが容易であるために、コンピュータのような情報処理装置における外部記憶装置として広く認知され普及している。これらの中でも、CD−RやDVD−Rに代表される有機色素系光記録媒体は、低コスト、且つ、製造が容易であるという点で、優位性を有するものと考えられている。現在主流となりつつあるDVD−R、DVD+R(以下、これらをまとめて「DVD−R」と称す場合がある。)については、より高速での記録において、具体的には、DVDの基準再生速度(3.5m/s)の8倍以上の高速での記録において、良好な記録特性を有することが求められている。
【0003】
ところで、上記CD−Rにおいて使用されているシアニン系色素は、耐光性があまり良くない色素である。そのため、耐光性を向上させる方法が研究されてきた。例えば、一重項酸素クエンチャーとしてニッケルジチオール錯体やアゾ系色素のニッケル錯体やカロチノイド化合物を添加したり、シアニン色素と前記クエンチャーとの塩を形成する方法が多数報告されている(特許文献1〜3参照)。
【0004】
また、取り扱う情報量の増大により、媒体の記録密度を高めることが望まれている。近年、開発が著しい青色レーザ等の発振波長の短い(以下「短波長」という。)レーザ光を用いた高密度の記録再生可能な光記録媒体が提唱されつつある。
【0005】
【特許文献1】特開昭59−55794号公報
【特許文献2】特開平9−323478号公報
【特許文献3】特開2000−190641号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、本発明者らの検討によれば、かかる高速記録用の記録特性と耐光性とは相反する特性である場合が多く、また、高密度記録用の青色レーザ用有機色素は、耐光性が悪い色素が数多い(例えば特願2005−131925号及び特願2005−051719号各明細書等参照)。
【0007】
また、多くの一重項酸素クエンチャーが報告されてきた800nm近傍の記録光用のシアニン系色素とは異なり、短波長記録用の色素に対する耐光性向上用の添加剤の知見はあまり多くはない。
【0008】
本発明は、高密度・高速記録用の光記録媒体を開発する際の課題を解決すべくなされたものである。特に、本発明は、耐光性の劣化についての知見があまり多くない金属錯体や金属キレート色素に対して効力を発揮する添加剤に関するものである。かかる金属錯体や金属キレート色素は、従来の一重項酸素クエンチャー(例えば、特許文献1にその多くが記載されている。)がその耐光性向上にあまり効果がないと考えられるものである。本発明は特に、かかる有機金属錯体や金属キレート色素に対して効力を発揮する、700nm以下で記録する光記録媒体用の添加剤を提供するべくなされたものである。かかる添加剤は、耐光性の劣化のメカニズムが長年研究されてきた、シアニン系色素等のπ−π*遷移を有する有機色素の耐光性向上にも有効なのである。
【0009】
即ち、本発明の目的は、700nm以下の波長の光で情報の記録・再生を行なう光記録媒体であって、耐光性に優れ、良好な高速記録や良好な高密度記録が実現された光記録媒体を提供すること、並びに、母体色素とともに記録層に含有させることにより、光記録媒体の耐光性を向上させることが可能な、新規な添加剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記実情に鑑み鋭意検討した結果、特定の中心金属イオンを有する金属キレート色素を添加剤として、母体色素とともに記録層に含有させることにより、特に優れた耐光性向上効果が得られることを見出して、本発明に到達した。
【0011】
即ち、本発明の要旨は、基板と、前記基板上に設けられ、700nm以下の波長の光が照射されることにより情報の記録又は再生が可能な母体色素を含有する記録層と反射層とを有する光記録媒体において、該記録層が、少なくとも、Cu2+、Fe2+及びCo2+のうち何れかを中心金属イオンとするアゾ系金属キレート色素添加剤を含有することを特徴とする、光記録媒体に存する(請求項1)。
【0012】
なお、「700nm以下の波長の光が照射されることにより情報の記録又は再生が可能な母体色素を含有する光記録媒体」とは、記録層の400〜800nmの波長範囲での最も吸光度の大きい吸収極大が630nm以下である光記録媒体、或いは、言い換えれば、最も吸光度の大きい吸収極大波長に近い700nm以下の波長の半導体レーザー光において、反射率が10%を超える光記録媒体を意味する。
【0013】
ここで、前記アゾ系金属キレート色素添加剤の中心金属イオンがFe2+又はCo2+であることが好ましい(請求項2)。
【0014】
また、前記アゾ系金属キレート色素添加剤の中心金属イオンがFe2+であることが好ましい(請求項3)。
【0015】
また、前記アゾ金属キレート色素添加剤が、膜あるいは溶液の状態で、400nm〜800nmの波長範囲において、630nm以下に吸収極大を有し、更に、680nm以上にも吸収極大を有することが好ましい(請求項4)。
【0016】
また、前記記録層が、400nm〜800nmの波長範囲において、630nm以下の吸収極大の他に、680nm以上にも吸収極大を有することが好ましい(請求項5)。
【0017】
また、前記母体色素が、下記一般式(I)で表わされるアゾ化合物からXの有する活性水素が脱離した配位子と、Zn2+とから形成されるアゾ系金属キレート色素であることが好ましい(請求項6)。
【化1】

(一般式(I)中、環Aは、置換基を有しても良い芳香族複素環を表わし、Xは、活性水素を有する有機基を表わし、環Bは、Xの他に置換基を有しても良い芳香環又は芳香族複素環を表わす。)
【0018】
また、前記母体色素が、下記一般式(II)で表わされるシアニン系色素であることも好ましい(請求項7)。
【化2】

(一般式(II)中、環C及び環Dは各々独立に、インドレニン環、ベンゾインドレニン環、又はジベンゾインドレニン環を表わし、Lは、モノメチン基又はトリメチン基を表わし、R1及びR2は各々独立に、置換基を有しても良いアルキル基を表わす。)
【0019】
また、本発明の別の要旨は、下記一般式(III)で表わされるアゾ化合物からXの有する活性水素が脱離した配位子が2つと、Fe2+とから形成されることを特徴とする、アゾ系金属キレート色素添加剤に存する(請求項8)。
【化3】

(一般式(III)中、環Eは、置換基を有しても良い芳香族複素環を表わし、Xは、活性水素を有する有機基を表わし、R3及びR4は各々独立に、置換基を有しても良いアルキル基を表わす。但し、R3とR4同士が結合して環を形成していても良く、また、R3及びR4の一方又は両方がベンゼン環と結合して、ベンゼン環に縮合する4〜7員環を形成しても良い。なお、2つの配位子が有する環E、X、R3及びR4は何れも、互いに同じであってもよく、異なっていてもよい。)
【0020】
また、本発明の別の要旨は、下記一般式(IV)で表わされるアゾ化合物からXの有する活性水素が脱離した配位子が2つと、Co2+とから形成され、膜あるいは溶液の状態で、400〜800nmの波長範囲において、630nm以下に吸収極大を有し、更に、680nm以上にも吸収極大を有することを特徴とする、アゾ系金属キレート色素添加剤に存する。
【化4】

(一般式(IV)中、環Eは、置換基を有しても良い芳香族複素環を表わし、Xは、活性水素を有する有機基を表わし、R3及びR4は各々独立に、置換基を有しても良いアルキル基を表わす。但し、R3とR4同士が結合して環を形成していても良く、また、R3及びR4の一方又は両方がベンゼン環と結合して、ベンゼン環に縮合する4〜7員環を形成しても良い。なお、2つの配位子が有する環E、X、R3及びR4は何れも、互いに同じであってもよく、異なっていてもよい。)
【0021】
尚、本発明において、添加剤として用いられるアゾ金属キレート色素(以下、これを「アゾ金属キレート色素添加剤」或いは単に「添加剤」という。)は、従来の一重項酸素クエンチャーであるニッケルジチオール錯体等の誘起金属錯体とは区別されるものとする。その区別の定義については後述する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の光記録媒体は、耐光性に優れており、また、良好な高速記録や良好な高密度記録が実現される。
また、本発明のアゾ系金属キレート色素添加剤は、母体色素とともに記録層に含有させることにより、光記録媒体の耐光性を向上させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、その要旨の範囲内において種々に変更して実施することができる。
【0024】
[I.本発明の基本概念]
本発明の光記録媒体は、基板と、前記基板上に設けられ、700nm以下の波長の光が照射されることにより情報の記録又は再生が可能な母体色素を含有する記録層とを有し、該記録層が、少なくとも、Cu2+、Fe2+及びCo2+のうち何れかを中心金属イオンとするアゾ系金属キレート色素添加剤を含有するものである。
【0025】
700nm以下の波長の記録光を用いる、例えば8倍速以上、或いは、10倍速以上の高速記録用DVD−Rや、青色レーザなど高密度記録用の記録層に使用される有機色素として、より分解の速度の大きいものが好ましい。その分解速度と耐光性が両立しない場合があり、その場合には、記録層に含まれる色素の耐光性を補う工夫をすることが好ましい。ところで、耐光性の向上については前述のように、多くの報告がある。その多くが、赤色レーザ記録用のπ−π*遷移を有する有機色素の耐光性の向上に関するものである。
【0026】
特に、CD−R用のシアニン系色素にニッケルジチオール錯体やβ−カロチン等のカロチノイド等の一重項酸素クエンチャーを混合することが知られている。一重項酸素は、シアニン系色素等の光励起により発生し、炭素−炭素二重結合を開裂させ、色素の褪色を起こすとされている。上記ニッケル錯体やカロチノイドは、1000nm近傍の長波長域の吸収帯を介して、一重項酸素を消光(クエンチ:quench)することにより、耐光性を向上するとされているのである。
【0027】
以上のように、例えば、トリメチン系シアニン色素等の長いメチン鎖に由来する、π−π*遷移を有する有機色素の耐光性の劣化が、一重項酸素の発生に起因するということが知られている。
【0028】
その一方で、一重項酸素クエンチャーであるニッケルジチオール錯体等の有機金属錯体或いは、アゾ系色素のニッケル錯体等の金属キレート色素は、上記シアニン系色素のように、耐光性の悪いものが一般に知られていなかった。
【0029】
本発明者らは、前述の出願において、金属キレート色素の中にも、耐光性の十分でないものがあることを見出した。そして、本発明において以下に示すように、このような金属キレート色素の耐光性向上には、従来知られてきた紫外線吸収剤や一重項酸素クエンチャーはあまり効果がないことがわかった。
【0030】
本発明者らは鋭意検討の末、特定の中心金属イオンを有する金属キレート色素添加剤、より好ましくは、特定の配位子を有し、且つ、特定の特定の中心金属イオンを有する金属キレート色素添加剤が、700nm以下の波長の光により情報の記録又は再生が可能な上記耐光性の十分でない金属キレート色素の耐光性を向上させることができることを見出した。
【0031】
そして本発明は、700nm以下で情報の記録又は再生が可能な、π−π*遷移を有する有機色素の耐光性をも向上させることができるのである。
【0032】
本発明は、CD−Rとして知られてきた、780nm近傍の記録光波長用の有機色素よりも、堅牢であると一般には考えられている、より短波長の記録光波長用の有機色素への耐光性向上用添加剤に関するものである。ここでいう「添加剤」とは、記録層を構成する主成分である有機色素(これを以下「母体色素」とよぶことがある。)に対して、最大で50重量%分加えられる成分であることを意味する。具体的には、母体色素のうち耐光性が70%未満である母体色素の重量に対して、最大で50重量%分加えられる成分であることを意味する。
【0033】
尚、母体色素としては、700nm以下の波長の光で8m/s以上の高速記録、或いは、最短マーク長0.4μm未満の高密度記録において、再生上問題の無い記録部が形成される色素であれば、特に限定されない。このような高速での良好な記録特性という要件を満たす母体色素としては、その母体色素の膜の色素保持率(色素残存率ともいう。)、即ち、耐光性が70%未満である成分を、母体色素として含むことが好ましい。
【0034】
耐光性が70%未満という値は、耐光性が十分ではないと見なせる値である。かかる耐光性が十分でない母体色素は、記録光波長での記録部形成の速度が速く、そのために、記録時に過度の変形が起こりにくい場合がある。そのような場合には特に、高速記録や高密度記録が可能となる傾向がある(特願2005−131925号明細書等参照)。
【0035】
従って、本発明の添加剤は、記録層の母体色素とはしない。何故ならば、母体色素の高速記録或いは高密度記録の特性を損なわせることがないようにするためである。
【0036】
尚、母体色素としては、下記一般式(I)で表わされるアゾ化合物から水素イオンが脱離した配位子と、Zn2+とから形成されるアゾ系金属キレート色素、又は、下記一般式(II)で表わされるシアニン系色素が好ましい。
【0037】
【化5】

【0038】
一般式(I)中、環Aは、置換基を有しても良い芳香族複素環を表わす。例としては、チアゾール、チアジアゾール、イミダゾール、トリアゾール、ピリジン、ピリミジン等が挙げられる。中でもチアジアゾール、イミダゾール、ピリジンが好ましい。
【0039】
一般式(I)中、Xは、活性水素を有する基を表わす。例としては、スルホン酸、カルボン酸、水酸基、スルホンアミド、カルボキシアミド等が挙げられる。中でも、スルホンアミド、カルボキシアミドが好ましい。
【0040】
一般式(I)中、環Bは、Xの他に置換基を有しても良い芳香環又は芳香族複素環を表わす。例としては、ベンゼン、ナフタレン、ピリジン、キノリン等が挙げられる。中でも、ベンゼンが好ましい。また、置換基の例としてはアミノ基、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子等が挙げられる。中でも、アミノ基が好ましい。
【0041】
【化6】

【0042】
一般式(II)中、環C及び環Dは各々独立に、インドレニン環、ベンゾインドレニン環、又はジベンゾインドレニン環を表わす。中でも、ベンゾインドレニン環が好ましい。
【0043】
一般式(II)中、Lは、モノメチン基又はトリメチン基を表わす。中でも、トリメチン基が好ましい。
【0044】
一般式(II)中、R1及びR2は各々独立に、置換基を有しても良いアルキル基を表わす。例としては、メチル基、エチル基、ヘキシル基等が挙げられる。中でも、メチル基、エチル基が好ましい。また、置換基の例としてはアルキル基、アリール基、ハロゲン原子、アルコキシ基、アミノ基等が挙げられる。中でも、アルキル基、アルコキシ基が好ましい。
【0045】
尚、上記色素保持率の評価を行なうための「所定の耐光性試験」は、ISO−105−B02に示されるWool scale 5級の耐光性試験条件で行なうことが好ましい。
【0046】
以下で説明するように、かかる耐光性が十分でないアゾ系金属キレート色素を母体色素とする光記録媒体において、本発明の効果の差がより明確となるのである。
【0047】
本発明が適用される光記録媒体において、記録層が、少なくとも、Cu2+、Fe2+、Co2+の何れかを中心金属イオンとする金属キレート色素添加剤を含む。色素化合物を配位子とし、更に、Cu2+、Fe2+、Co2+を中心金属イオンとすることにより、従来のニッケル錯体よりも、より強力な耐光性向上効果を得ることができるのである。これは特に、Fe2+、Co2+は、Ni2+よりもd電子が少ないことから、Fe2+、Co2+を中心金属イオンとする金属キレート色素の安定化エネルギーが大きいこと、また、吸収帯がNi2+を中心金属イオンとする金属キレート色素よりも長波長側に吸収ピークが存在することに起因するものと考えられる。更に、それら中心金属イオンと配位子との組み合わせを最適化することにより、より優れた耐光性向上効果を有する添加剤となりうるのである。即ち、耐光性に劣る母体色素が吸収した光エネルギーを、母体色素よりも低いエネルギーレベルを有する添加剤がより効率よくquench或いは失活することにより、母体色素の褪色が起こりにくくなると考えられる等、添加剤の吸収波長や励起状態を調整することにより、その添加剤の有する耐光性の向上効果をより高めることができるのである。
【0048】
具体的には、まず、上記中心金属イオンの差による吸収帯の波長の差については、配位子場理論において説明できる場合がある。例えば、後述する[実施例]の[表5]に示す通り、Co2+を中心金属イオンとする場合には、吸光度の大きい吸収帯(主吸収帯と呼ぶことがある。)がNi2+よりも長波長側に存在することが多い。また、Fe2+を中心金属イオンとする場合には、680nm以上の長波長側に、吸収帯が存在する。また、通常は波長680nm以上に吸収を有さないことが多いCo2+を中心金属イオンとする場合に、実験群で例示するような特定の配位子を用いることにより、680nm以上の長波長側に吸収帯を有するアゾ系コバルトキレート色素添加剤を得ることができる。かかるアゾ系コバルトキレート色素添加剤は、耐光性の向上効果にも優れている。
【0049】
特に、上記波長680nm以上に吸収帯を有するもののうちで、配位子が、例えば以下で例示するような構造式を有する化合物の場合には、添加剤が上記波長680nm以上の吸収帯に加えて、波長630nm以下の強い吸収極大を有する。このため、波長700nm以下の光で情報の記録再生が可能な多くの母体色素が有する波長630nm以下の母体色素の吸収極大の吸収端との吸収の重なり、或いは、エネルギー準位が近い、母体色素の振電準位を介しての母体色素からのエネルギー移動が起こりやすくなり、母体色素の耐光性向上により効果的であると考えられる。
【0050】
特に、本発明の添加剤は、680nm以上の長波長側の吸収帯の短波長側の吸収端と、630nm以下の短波長側の吸収帯(主吸収帯)の長波長側の吸収端とが重なりを持つ、通常の有機色素としては好まれない傾向の吸収スペクトルを有するものが、耐光性向上用の添加剤としてより好ましい(例えば後述の図12(a),(b)参照)。
【0051】
尚、本発明の耐光性向上の効果は、母体色素がシアニン系色素である場合よりも、アゾ系金属キレート色素である場合において、より差が明確となった。即ち、波長700nm以下の光による記録用のシアニン系色素は、アゾ系金属キレート色素よりは、遷移金属中心イオンによるquench効果或いは失活効果が上がりやすいのである。このことから、アゾ系金属キレート色素には、特に耐光性が向上しにくい要因があるものと考えられる。従って、耐光性試験におけるアゾ系金属キレート色素の劣化のメカニズムには、シアニン系色素の劣化のメカニズムとは異なる要素が存在する可能性がある。
【0052】
尚、より耐光性向上効果が現れにくいアゾ系キレート色素を母体色素とする場合には、本発明の添加剤を添加することにより、添加しない場合と比べて耐光性が20%以上向上すれば、単なる吸収のマスキング効果を超える、明確な耐光性向上効果であることがいえると考えられる。中でも、本発明の添加剤を添加することにより、添加しない場合と比べて耐光性が30%以上増加することがより好ましく、40%以上増加することが更に好ましい。
【0053】
一方、耐光性向上効果が現れやすいシアニン系色素などのπ−π*遷移を有する色素に対しては、本発明の添加剤を添加することにより60%以上の耐光性の増加があれば、十分有効であると考えられる。
【0054】
以上説明したように、アゾ系金属キレート色素には、シアニン系色素よりもより強力な耐光性向上用の添加剤が必要とされるのである。
【0055】
上述のように、耐光性向上の効果は、添加剤の中心金属イオンにより異なるが、添加剤自体の耐光性は、添加剤の中心金属イオンによる差が見られない(例えば後述する図11参照)。このことから、Fe2+、Co2+又はCu2+を中心金属イオンとする本発明の添加剤には、従来知られてきたように、単に中心金属イオンを変えることにより添加剤自体の耐光性を向上させたり、耐光性の悪い色素に耐光性の良い色素を吸収マスキング用に添加して、耐光性を向上させたりすることとは異なる、格段の効果を示唆するものである。本発明の添加剤によって得られるこの格段の効果は、中でも中心金属イオンがFe2+又はCo2+である場合、特に中心金属イオンがFe2+の場合又は中心金属イオンCo2+と特定の配位子との組み合わせの場合に、より顕著となる。
【0056】
更に、先に説明した理由により、本発明の添加剤を有する記録層が、400nm〜800nmの波長範囲において、630nm以下の吸収極大の他に、680nm以上にも吸収極大を有することが好ましい。特に、添加剤そのものが、記録光波長近傍に、モル吸光係数εが2×104、好ましくは5×104を超えるような、非常に吸光度が大きい主吸収帯の吸収端を有する場合、更に、波長680nm以上の高エネルギー側の吸収端が記録光波長近傍にも有する場合には、記録層の母体色素が吸収した励起エネルギーが、前記吸収端を通して、効率よく添加剤の励起バンドから失活過程に伝播されるために、より大きなquench効果或いは失活効果があり、耐光性向上効果が大きくなると考えられる。更に、添加剤分子内での波長630nm以下の吸収帯の吸収端と波長680nm以上の吸収帯の吸収端との重なりが大きいほど、2つの吸収帯間でのエネルギー移動が起こりやすくなるため、より耐光性向上の効果が生じると考えられる。従って、例えば、従来知られてきたニッケル等のジチオール金属錯体においては、可視部には弱い吸収しかないので、本発明の添加剤ほどの効果がないと考えられる。以上のように、本発明における「金属キレート色素」は、かかる大きな吸収を、少なくとも可視部に有する金属キレート色素をいうのである。
【0057】
また、従来は、記録光波長近傍の吸収帯と1000nm近傍の長波長側の吸収帯とを、別の化合物で担う(添加する)、或いは、塩を形成して、異分子間よりはやや近い部分でエネルギー移動を起こさせることが知られてきた。それに対し、本発明では、より好ましくは、1つの化合物が強い吸収帯を上記2つの領域に有するのである。1つの化合物内にそのような吸収帯をあわせ持つことにより、吸収した記録再生光或いは耐光性試験光のより効率良いエネルギー移動、そしてquench効果或いは失活効果が可能となり、より大きな耐光性向上効果が得られると考えられる。その吸収帯は吸光度が大きいほど有効であり、かかる大きな吸光度を得るために、配位子の選択がポイントとなる。もちろん、上記吸収帯の波長には、配位子と中心金属イオンとの組み合わせが関与すると考えられる。
【0058】
また、塩を形成する方法に比べて、添加剤を用いる本発明の方法は、添加剤の添加量を自由に設定できるため、記録特性や記録層の膜質の劣化を防ぐことが可能となりやすい。
【0059】
かかる、より好ましい添加剤として、より具体的には、一部のアゾ色素化合物を配位子として有するCo2+を中心金属イオンとするアゾ系金属キレート色素か、Fe2+を中心金属イオンとするアゾ系金属キレート色素が該当する。
【0060】
なお、上記好ましいアゾ系金属キレート色素添加剤である、一分子内に波長630nm以下の吸収極大と波長680nm以上の長波長側の吸収極大とを有するアゾ系金属キレート色素においては、その吸収スペクトルが、溶液状態と塗布膜の状態とで吸収ピーク波長に10nm未満の小さな差しか見られない。これも耐光性向上用の添加剤としての安定な添加効果と関連すると考えられる。
【0061】
本発明の添加剤の配位子を構成するアゾ系色素化合物の例として、具体的には、以下の化合物が挙げられる。
【0062】
【化7】

【0063】
【化8】

【0064】
【化9】

【0065】
【化10】

【0066】
【化11】

【0067】
【化12】

【0068】
【化13】

【0069】
【化14】

【0070】
【化15】

【0071】
【化16】

【0072】
尚、上記アゾ系色素化合物は、カップラー成分の−NHSO2CF3基又は−NHCOCF3基が、活性水素の脱離によって−N-(SO2CF3)基又は−N-COCF3基となり、中心金属イオンに配位する。なお、かかるアゾ系色素化合物は、母体色素の配位子としても好ましい。
【0073】
かかるアゾ系色素化合物を配位子として有する添加剤が好ましい理由は、可視部に非常に強い吸収帯が得られるからであると考えている。これは、先に述べたように、母体色素が添加剤に、より効率よく光エネルギーを伝播することができるからである。
【0074】
同様の理由により、母体色素とエネルギー移動が生じやすい構造を有する添加剤の配位子も好ましい。かかる意味においては、母体色素も上記添加剤の配位子を有することが好ましい場合がある。
【0075】
一方、本発明は、下記一般式(III),(IV)で示される化合物を配位子として有することを特徴とする添加剤として捉えられる。
即ち、本発明における耐光性向上用の添加剤としては、1つは、下記一般式(III)で表わされるアゾ化合物からXの有する活性水素が脱離した配位子が2つと、Fe2+とから形成されるアゾ系金属キレート色素添加剤である。
【0076】
【化17】

【0077】
一般式(III)中、環Eは、置換基を有しても良い芳香族複素環を表わす。例としては、チアゾール、チアジアゾール、イミダゾール、トリアゾール、ピリジン、ピリミジン等が挙げられる。中でも、チアジアゾール、イミダゾール、ピリジンが好ましい。置換基を有する場合、その例としては、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子、エステル基、シアノ基、ニトロ基、アルコキシ基、アルキルチオ基等が挙げられる。中でも、アルキル基、エステル基、シアノ基が好ましい。
【0078】
一般式(III)中、R3及びR4は各々独立に、置換基を有しても良いアルキル基を表わす。例としては、メチル基、エチル基、イソブチル基等が挙げられる。中でも、エチル基、イソブチル基が好ましい。置換基を有する場合、その例としては、アリール基、アルコキシ基、エステル基、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0079】
なお、一般式(III)において、R3とR4同士が結合して環を形成していても良い。例としては、アジリジン、アゼチジン、ピロリジン、ピペリジン、アゼパン、モルフォリン等が挙げられる。中でも、ピロリジン、ピペリジンが好ましい。
【0080】
また、一般式(III)において、R3及びR4の一方又は両方がベンゼン環と結合して、ベンゼン環に縮合する4〜7員環を形成しても良い。例としては、インドリン、テトラヒドロキノリン、ベンズアゼピン、カルバゾール等が挙げられる。中でも、インドリン、テトラヒドロキノリンが好ましい。
【0081】
一般式(III)中、Xは、活性水素を有する有機基を表わす。例えば、スルホンアミド基、カルボキシアミド基、スルホン酸基、カルボン酸基、水酸基等が挙げられる。カルボキシアミド基やスルホンアミド基が好ましい。中でも、−NHSO2CF3等のスルホンアミド基は、鉄錯体が安定して得られるため、特に好ましい。
【0082】
なお、上記一般式(III)において、2つの配位子の環E、X、R3及びR4は、何れも、互いに同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0083】
上記一般式(III)で表わされる配位子の1分子あたりの分子量は、通常100以上、好ましくは300以上、また、通常1000以下、好ましくは600以下の範囲である。配位子の分子量が小さ過ぎると、吸収波長や溶解性などの調整範囲が狭くなる可能性があるという理由で好ましくなく、また、配位子の分子量が大き過ぎると、グラム吸光係数が小さくなり、光学特性が悪化するという理由でやはり好ましくない。
【0084】
特に、アゾ系鉄キレート色素添加剤の場合には、その配位子としてはニッケル錯体などの記録色素で記録特性の良い配位子を用いると、より好ましい。具体的には、先に述べたような「本発明の添加剤の配位子を構成するアゾ系色素化合物」の例として挙げたものが使用できる。しかしながら、耐光性を向上させる添加剤としては、記録特性に特に関与する必要は無い。
【0085】
本発明における耐光性向上用の添加剤として、もう1つは、下記一般式(IV)で表わされるアゾ化合物からXの有する活性水素が脱離した配位子が2つと、Co2+とから形成され、膜あるいは溶液の状態で、400〜800nmの波長範囲において、630nm以下に吸収極大を有し、更に、680nm以上にも吸収極大を有する、アゾ系金属キレート色素添加剤である。
【0086】
【化18】

【0087】
なお、本アゾ系コバルトキレート色素添加剤の「680nm以上の吸収極大」には、明確な吸収極大の他に、吸収帯の吸収端に別の吸収帯が含まれていると認識できる、いわゆる「吸収肩」も含まれる。
【0088】
一般式(IV)中、環Eは、置換基(アルキル基、アリール基、ハロゲン原子、エステル基、シアノ基、ニトロ基、アルコキシ基、アルキルチオ基等。中でも、アルキル基、エステル基、シアノ基が好ましい。)を有しても良い芳香族複素環を表わす。
【0089】
一般式(IV)中、R3及びR4は各々独立に、置換基を有しても良いアルキル基を表わす。例としては、メチル基、エチル基、イソブチル基等が挙げられる。中でも、エチル基、イソブチル基が好ましい。置換基を有する場合、その例としては、アリール基、アルコキシ基、エステル基、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0090】
なお、一般式(IV)において、R3とR4同士が結合して環を形成していても良い。例としては、アジリジン、アゼチジン、ピロリジン、ピペリジン、アゼパン、モルフォリン等が挙げられる。中でも、ピロリジン、ピペリジンが好ましい。
【0091】
また、一般式(IV)において、R3及びR4の一方又は両方がベンゼン環と結合して、ベンゼン環に縮合する4〜7員環を形成しても良い。例としては、インドリン、テトラヒドロキノリン、ベンズアゼピン、カルバゾール等が挙げられる。中でも、インドリン、テトラヒドロキノリンが好ましい。
【0092】
一般式(IV)中、Xは、活性水素を有する有機基を表わす。例えば、スルホンアミド基、カルボキシアミド基、スルホン酸基、カルボン酸基、水酸基等が挙げられる。カルボキシアミド基やスルホンアミド基が好ましい。中でも、−NHSO2CF3等のスルホンアミド基は、鉄錯体が安定して得られるため、特に好ましい。
【0093】
なお、一般式(IV)において、2つの配位子の環E、X、R3及びR4は、何れも、互いに同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0094】
上記一般式(IV)で表わされる配位子の分子量は、通常100以上、好ましくは300以上、また、通常1000以下、好ましくは600以下の範囲である。配位子の分子量が小さ過ぎると、吸収波長や溶解性などの調整範囲が狭くなる可能性があるという理由で好ましくなく、また、配位子の分子量が大き過ぎると、グラム吸光係数が小さくなり、光学特性が悪化するという理由でやはり好ましくない。
【0095】
なお、中心金属イオンがCo2+であるアゾ系金属キレート色素添加剤は、理由は明らかではないが、680nm以上の吸収極大の有無が、配位子によって分かたれる場合がある。
好ましい配位子の例としては、下記のものが挙げられる。
【0096】
【化19】

【0097】
本発明の添加剤は、先に述べたように、記録層の母体色素の0.1重量%〜50重量%加えることが好ましいのであるが、具体的には、「添加剤」の添加量の下限は通常0.1重量%以上であり、好ましくは0.5重量%以上である。一方、添加量の上限は、通常50重量%以下であり、好ましくは40重量%以下、更に好ましくは15重量%以下の範囲である。この範囲であれば、記録特性に添加剤の影響をあまり与えることなく、耐光性を向上させることが可能であると考えられる。
【0098】
上記のように、記録層が本発明の添加剤を含み、記録層単層での紫外・可視吸収スペクトル(400nm〜800nmの波長範囲)において、波長630nm以下の吸収の他に、波長680nm以上にも吸収極大を有することが好ましい。これは、すでに説明したように、例えばFe2+を中心金属イオンとする金属キレート色素において顕著な吸収極大を有する添加剤を、記録層が適量含むことを意味する。
【0099】
添加剤を含有する記録層の吸収スペクトルから、添加剤自体の波長680nm以上の吸収帯がどの程度強い吸収であるか、そして、そのような添加剤をどの程度の量添加するかを判断するには、吸収極大波長での吸光度をb、その吸収帯が無いと仮定した場合における吸収スペクトルのベースラインの吸光度をaとして、b/aの値を求めればよい。
【0100】
ここで、添加剤を含有する記録層の吸収スペクトルからb/a値を求めるための手法について、図7(a),(b)を用いて説明する。
【0101】
波長680nm以上の領域に吸収極大(ピーク)が存在する場合において、図7(a)に示すように、記録層の、波長630nm以下の吸収帯よりも波長680nm以上の長波長側の吸収帯の方が吸光度がはるかに低く、或いは、両者の吸収帯の吸収端の重なりがそれほど大きくなく、ベースラインがなだらかに減衰している場合には、ピークの両側の吸収スペクトルに沿ってペースラインの外挿線(図中の点線)を作成することにより、ベースラインを補間することができる。
【0102】
一方、図7(b)に示すように、ピークの高波長側の吸光度が低波長側の吸光度と同じかそれより高い場合には、上述の手法だとベースラインを補完することは困難である。よってこの場合は、ピークの低波長側の立ち上がり部分の吸光度を求め、吸光度がこの値で一定となる直線(図中の点線)を作成し、これをペースラインの外挿線とする。
【0103】
なお、図7(b)に示すような吸収スペクトルが現われる場合としては、例えば、添加剤の波長630nm以下の吸収極大に対して、波長680nm以上の長波長側の吸収極大が極端に強い場合が挙げられる。
【0104】
本発明においては、前述のエネルギー移動がより効率的に行える図7(a)の方が図7(b)よりも好ましいと考えられる。
【0105】
以上のことから、b/a>1の場合、つまり、波長630nm以下の吸収極大の他に、680nm以上の長波長側に、弱いながらも吸収帯があると認識できる場合には、波長700nm以下の光が照射されることにより情報の記録又は再生が可能な有機色素を含有する記録層に対して、より顕著な耐光性の向上が見られるといえる。明確な添加効果を得るためには、b/aは、1.05以上がより好ましく、1.1以上が更に好ましい。
【0106】
尚、b/aは、1.5以下が好ましい。それは先に述べたように、本発明の添加剤が必ずしも記録特性を重視したものではないため、適当な添加量が好ましいからである。
【0107】
尚、本発明におけるCu2+、Fe2+、Co2+を中心金属イオンとする添加剤の検出は、例えば、以下の(1)〜(4)の方法で行なうことができる。
【0108】
・方法(1):
記録層を有する光ディスクを切り出し、記録層を適切な有機溶媒に溶解して得た溶液に対して、イオンクロマト法を行なう。その場合には、ポストカラムにより発色剤を混合し、イオンを分離して検出する。より詳しくは、発色剤で各イオンの吸収領域を広げ、それぞれのイオンをカラムで分離し、各イオンを、ピークの生じる時間として検出し、同時にその強度も検出できる。
【0109】
一方、以下の(2)〜(4)の方法は、固層(膜)サンプル、或いは、固体(色素粉末)サンプルを用いて行なうことができる。即ち、記録層やディスクより抽出した色素、或いは、色素そのものを対象として行なうことができる。
【0110】
・方法(2)(XAFS法):
上記サンプルのX線吸収スペクトルで、吸収端よりも高エネルギー側約30eV〜1KeVにわたる領域で、各イオンがそれぞれ固有の波長でX線吸収し励起されるので、各イオンを識別できる。
【0111】
・方法(3)(XPS法):
上記サンプルにX線を照射すると、各イオンにより、スペクトルの運動エネルギー分布が異なるため、各イオンを識別できる。
【0112】
・方法(4)(メスバウワー法):
鉄イオンのみの検出に有効な方法である。ドップラー効果により、共鳴吸収の位置や幅、或いはドップラー速度を横軸にした吸収曲線が得られる。鉄イオンに対しては、2価、3価はスペクトルが異なるため、それらの識別ができる。
【0113】
その他には、例えば、Trends in Analytical Chemistry, 24(3), 2005, pp.192-198に記載の方法により各イオンの識別ができる。
【0114】
[II.本発明の実施の形態]
続いて、本発明の実施の形態について、図1(a),(b)、図2(a),(b)、図3(a),(b)を用いて説明する。なお、図1(a),(b)、図2(a),(b)、図3(a),(b)は各々、本発明の実施の形態に係る光記録媒体100〜600の層構成の例を模式的に表わす部分断面図である。
【0115】
尚、以下の記載では説明の便宜上、図1(a),(b)、図2(a),(b)、図3(a),(b)の各図において、図の上方及び下方をそれぞれ光記録媒体100〜600の上方及び下方とし、これらの方向に対応する、光記録媒体100〜600を構成する各層の各面を、それぞれ各層の上面及び下面とする。
【0116】
本発明の光記録媒体は少なくとも、基板と、記録層と、反射層とを備えて構成される。そして上述の様に、記録層が、700nm以下の光が照射されることにより情報の記録又は再生が可能な有機色素と、Cu2+、Fe2+、Co2+の何れかを中心金属イオンとするアゾ系金属キレート色素である添加剤(本発明の添加剤)とを含有する。尚、必要に応じて、下引き層、保護層等、その他の各種の層を設けても良い。
【0117】
まず、本発明の第1実施形態について説明する。
図1(a)は、本発明の第1実施形態に係る光記録媒体の層構成を模式的に示す図である。図1(a)に示される光記録媒体100は、光透過性材料からなる基板101と、基板101上に設けられた記録層102と、記録層102上に順に積層された反射層103及び保護層104とを備えている。そして、この光記録媒体100は、基板101側から照射されるレーザ光110により、情報の記録・再生が行なわれる。
以下、これら各層について順に説明する。
【0118】
基板101は、基本的に記録光及び再生光の波長において透明な材料であれば、様々な材料を使用することができる。具体的には、例えば、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン系樹脂(特に、非晶質ポリオレフィン)、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂;ガラスが挙げられる。また、ガラス上に光硬化性樹脂等の放射線硬化性樹脂からなる樹脂層を設けた構造が挙げられる。中でも、高生産性、コスト、耐吸湿性等の観点からは、射出成型法にて使用されるポリカーボネート樹脂、耐薬品性及び耐吸湿性等の観点からは、非晶質ポリオレフィンが好ましい。更に、高速応答等の観点からは、ガラスが好ましい。
【0119】
樹脂製の基板101を使用した場合、又は、記録層と接する側(上側)に樹脂層を設けた基板101を使用した場合には、上面に、記録再生光の案内溝やピットを形成してもよい。案内溝の形状としては、光記録媒体100の中心を基準とした同心円状の形状やスパイラル状の形状が挙げられる。スパイラル状の案内溝を形成する場合には、溝ピッチが0.2μm〜0.8μm程度であることが好ましい。
【0120】
記録層102は、基板101の上側に直接、又は必要に応じて基板1上に設けた下引き層等の上側に形成され、700nm以下の光が照射されることにより情報の記録又は再生が可能な有機色素(母体色素)と、少なくとも、Cu2+、Fe2+、Co2+の何れかを中心金属イオンとするアゾ系金属キレート色素である添加剤(本発明の添加剤)とを含有する。母体色素及び本発明の添加剤は何れも、一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0121】
記録層102には、母体色素及び本発明の添加剤以外の色素として、必要に応じてベンゾフェノン系色素、フタロシアニン系色素、ナフタロシアニン系色素、アゾ系金属キレート色素、スクアリリウム系色素、トリアリールメタン系色素、メロシアニン系色素、アズレニウム系色素、ナフトキノン系色素、アントラキノン系色素、インドフェノール系色素、キサンテン系色素、オキサジン系色素、ピリリウム系色素等の有機色素や、更に、必要に応じて、バインダー、レベリング剤、消泡剤等を併用することもできる。これらの成分は、何れか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。但し、これらの成分の使用量は、本発明の目的である高速或いは高密度記録の特性を損なうことがない範囲内に抑えるようにする。
【0122】
記録層102の成膜方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、ドクターブレード法、キャスト法、スピンコート法、浸漬法等、一般に行なわれている様々な薄膜形成法が挙げられる。量産性やコストの観点からは、スピンコート法が好ましく、均一な厚みの記録層102が得られるという観点からは、塗布法よりも真空蒸着法等の方が好ましい。スピンコート法による成膜の場合、回転数は500rpm〜15000rpmが好ましい。また、場合によっては、スピンコートの後に、加熱する、溶媒蒸気にあてる等の処理を施しても良い。
【0123】
ドクターブレード法、キャスト法、スピンコート法、浸漬法等の塗布法により記録層102を形成する場合には、母体色素及び本発明の添加剤、並びに必要に応じて用いられる他の成分を溶媒に溶解させて塗布液を作製し、これを基板101に塗布することにより記録層102を形成する。塗布液の作製に使用する塗布溶媒は、基板101を侵食せず、分光光度計で吸収が検出可能な濃度の溶液を作製できうる程度に、母体色素及び本発明の添加剤に対して溶解性を示す溶媒であれば、その種類は特に限定されない。具体的には、例えばジアセトンアルコール、3−ヒドロキシ−3−メチル−2−ブタノン等のケトンアルコール系溶媒;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のセロソルブ系溶媒;n−ヘキサン、n−オクタン等の鎖状炭化水素系溶媒;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、n−ブチルシクロヘキサン、tert−ブチルシクロヘキサン、シクロオクタン等の環状炭化水素系溶媒;テトラフルオロプロパノール、オクタフルオロペンタノール、ヘキサフルオロブタノール等のパーフルオロアルキルアルコール系溶媒;乳酸メチル、乳酸エチル、2−ヒドロキシイソ酪酸メチル等のヒドロキシカルボン酸エステル系溶媒等が挙げられる。
【0124】
一方、真空蒸着法を用いる場合には、例えば、必要に応じて他の色素や各種添加剤等の記録層成分を、真空容器内に設置されたるつぼに入れ、この真空容器内を適当な真空ポンプで10-2〜10-5Pa程度にまで排気した後、るつぼを加熱して記録層成分を蒸発させ、るつぼと向き合って置かれた基板上に蒸着させることによって、記録層102を形成する。
【0125】
記録層102の膜厚は、記録方法等により適した膜厚が異なる為、特に限定するものではないが、記録を可能とするためにはある程度の膜厚が必要とされるため、通常1nm以上、好ましくは5nm以上である。但し、あまり厚すぎても記録が良好に行なえなくなるおそれがあるため、通常300nm以下、好ましくは200nm以下、より好ましくは100nm以下である。
【0126】
また、記録層102は、記録再生光波長における消衰係数(複素屈折率の虚部)kが通常0.01以上、0.6以下であることが好ましい。また、記録再生光波長における屈折率(複素屈折率の実部)nが通常0.5以上、3以下であることが好ましい。
【0127】
反射層103は、記録層102の上に形成されている。反射層103の膜厚は、好ましくは30nm以上、より好ましくは50nm以上、また、好ましくは300nm以下、より好ましくは200nm以下の範囲である。反射層103の材料としては、再生光の波長において十分高い反射率を有する材料、例えば、Au、Al、Ag、Cu、Ti、Cr、Ni、Pt、Ta、Pd等の金属を、単独或いは合金にして用いることができる。これらの中でもAu、Al、Agは反射率が高く、反射層103の材料として適している。
【0128】
また、これらの金属を主成分とした上で、加えて他の材料を含有させても良い。ここで「主成分」とは、含有率が50%以上のものをいう。主成分以外の他の材料としては、例えば、Mg、Se、Hf、V、Nb、Ru、W、Mn、Re、Fe、Co、Rh、Ir、Cu、Zn、Cd、Ga、In、Si、Ge、Te、Pb、Po、Sn、Bi、Ta、Ti、Pt、Pd、Nd等の金属及び半金属を挙げることができる。中でもAgを主成分とするものは、コストが安い点、高反射率が出やすい点、後述する印刷受容層を設けた場合に地色が白く美しいものが得られる点等から、特に好ましい。例えば、Agを主成分として、更にAu、Pd、Pt、Cu、及びNdから選ばれる一種以上を通常0.1原子%以上、5原子%以下程度含有させた合金は、高反射率、高耐久性、高感度且つ低コストであり好ましい。具体的には、例えば、AgPdCu合金、AgCuAu合金、AgCuAuNd合金、AgCuNd合金等である。金属以外の材料としては、低屈折率薄膜と高屈折率薄膜を交互に積み重ねて多層膜を形成し、これを反射層103として用いることも可能である。
【0129】
反射層103を形成する方法としては、例えば、スパッタリング法、イオンプレーティング法、化学蒸着法、真空蒸着法等が挙げられる。また、基板101の上や反射層103の下に、反射率の向上、記録特性の改善、密着性の向上等のために、公知の無機系又は有機系の中間層、接着層を設けることもできる。
【0130】
保護層104は、反射層103の上に形成される。保護層104の材料は、反射層103を外力から保護することが可能なものであれば、特に限定されない。具体的に、有機物質の材料の例としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂、UV硬化性樹脂等を挙げることができる。また、無機物質の例としては、酸化ケイ素、窒化ケイ素、フッ化マグネシウム(MgF2)、二酸化スズ(SnO2)等が挙げられる。これらの材料は、何れか一種を単独で用いても、複数種を混合して用いても良い。
【0131】
熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等を用いる場合は、適当な溶剤に溶解して調製した塗布液を反射層103の上に塗布して乾燥させれば、保護層104を形成することができる。
また、UV硬化性樹脂を用いる場合は、そのまま反射層103の上に塗布するか、又は適当な溶剤に溶解して調製した塗布液を反射層103の上に塗布し、UV光を照射して硬化させることによって、保護層104を形成することができる。なお、UV硬化性樹脂としては、例えば、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート等のアクリレート系樹脂を用いることができる。
【0132】
保護層104の形成方法としては、記録層102と同様に、スピンコート法やキャスト法等の塗布法や、スパッタリング法や化学蒸着法等の方法が用いられるが、中でもスピンコート法が好ましい。
【0133】
保護層104の膜厚は、その保護機能を果たすためにはある程度の厚みが必要とされるため、通常0.1μm以上、好ましくは3μm以上である。但し、あまり厚すぎると、効果が変わらないだけでなく、保護層104の形成に時間がかかったりコストが高くなる虞があるので、通常100μm以下、好ましくは30μm以下である。
なお、保護層104は、単層として形成してもよく、多層として形成してもよい。
【0134】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
図1(b)は、本発明の第2実施形態に係る光記録媒体の層構成を模式的に示す図である。図1(b)に示される光記録媒体200は、光透過性材料からなる基板201と、基板201上に設けられた反射層202と、反射層202上に順に積層された記録層203及び保護層204とを備えている。そして、この光記録媒体200は、保護層204側から照射されるレーザ光210により、情報の記録・再生が行なわれる。
以下、これら各層について順に説明する。
【0135】
基板201は、第1実施形態における基板101と基本的に同様であるが、必ずしも透明である必要はない。従って、基板101について前述した材料以外にも、不透明な樹脂、セラミック、金属(合金を含む)等を用いることができる。
【0136】
反射層202及び記録層203は、それぞれ第1実施形態における反射層103及び記録層102と同様である。
【0137】
保護層204は、50μm〜100μmの厚さのフィルム又はシート状のものを接着剤によって貼り合わせてもよく、また、第1実施形態における保護層104と同様の材料を用い、成膜用の塗液を塗布し硬化又は乾燥する工程を繰り返して積層することにより形成しても良い。保護層204は、ピックアップの焦点深度等を考慮して光学的に許容される厚み範囲とするのが好ましく、通常は全体としての膜厚が100μm±3μm程度である。
【0138】
ところで、光記録媒体100,200の記録密度を上げるための一つの手段として、対物レンズの開口数を上げることがある。これにより情報記録面に集光される光スポットを微小化できる。しかしながら、対物レンズの開口数を上げると、記録・再生を行なうためにレーザ光を照射した際に、光記録媒体100,200の反り等に起因する光スポットの収差が大きくなりやすいため、良好な記録再生信号が安定して得られない場合がある。
【0139】
このような収差は、レーザ光が透過する透明な基板101や保護層204の膜厚が厚いほど大きくなりやすいので、収差を小さくするためには基板101や保護層204をできるだけ薄くするのが好ましい。ただし、通常、基板101は光記録媒体100の強度を確保するためにある程度の厚みを要するので、この場合、光記録媒体200の層構成(基板201、反射層202、記録層203、保護層204からなる基本的層構成)を採用するのが好ましい。光記録媒体100の基板101を薄くするのに比べると、光記録媒体200の保護層204は薄くしやすいため、高密度記録媒体には、光記録媒体200を用いることが好ましい。
【0140】
但し、光記録媒体100の層構成(基板101、記録層102、反射層103、保護層104からなる基本的層構成)であっても、記録・再生用レーザ光が通過する透明な基板101の厚さを50μm〜300μm程度にまで薄くすることにより、収差を小さくして使用できるようになる。
【0141】
続いて、本発明の第3〜第6実施形態について説明する。
図2(a)は、本発明の第3実施形態に係る光記録媒体の層構成を模式的に示す図である。図2(a)に示される光記録媒体300は、基板(1)301と、記録層(1)302と、反射層(1)303と、保護層(1)304と、接着層305と、保護層(2)306と、反射層(2)307と、記録層(2)308と、基板(2)309とがこの順に積層された層構成を有する。この光記録媒体300では、基板(2)309側からレーザー光310を照射することにより、記録層(1)302において、また、基板(1)301側からレーザー光311を照射することにより、記録層(2)308において、それぞれ情報の記録・再生が行なわれる。
【0142】
このような光記録媒体300は、基板(1)301、記録層(1)302、反射層(1)303、保護層(1)304をこの順に積層した貼り合わせ用ディスク312と、基板(2)309、記録層(2)308、反射層(2)307、保護層(2)306をこの順に積層した貼り合わせ用ディスク313とを、保護層(1)304及び保護層(2)306を対向させて接着層305で貼り合わせることにより構成される。
【0143】
上述の光記録媒体300の各層のうち、基板(1)301及び基板(2)309は、第1実施形態における基板101と基本的に同様である。
また、記録層(1)302及び記録層(2)308は、第1実施形態における記録層102と基本的に同様である。
また、反射層(1)303及び反射層(2)307は、第1実施形態における反射層104と基本的に同様である。
また、保護層(1)304及び保護層(2)306は、第2実施形態における保護層204と基本的に同様である。
また、接着層305の材料としては、貼り合わせ用ディスク312の保護層(1)304と貼り合わせ用ディスク313の保護層(2)306とを接着することが出来る透明な材料であれば、任意の材料を用いることが可能である。具体的には、第1実施形態における保護層104と同様の材料や、第2実施形態における保護層204と同様の材料を用いることができる。
【0144】
図2(b)は、本発明の第4実施形態に係る光記録媒体の層構成を模式的に示す図である。図2(b)に示される光記録媒体400は、基板(1)401と、反射層(1)402と、保護層(1)403と、接着層404と、保護層(2)405と、反射層(2)406と、記録層407と、基板(2)408とが順に積層された層構成を有する。この光記録媒体400は、基板(2)408側からレーザー光410を照射することにより、記録層207で情報の記録・再生が行なわれる。
【0145】
この光記録媒体400は、基板(1)401、反射層(1)402、保護層(1)403をこの順に積層したダミーディスク411と、基板(2)408、記録層407、反射層(2)406、保護層(2)405をこの順に積層した貼り合わせ用ディスク412とを、保護層(1)403及び保護層(2)405を対向させて接着層404で貼り合わせることにより構成される。
また、保護層(1)及び保護層(2)を省略し、反射層(1)402と反射層(2)406とを対向させて接着層404で貼り合わせてもよい。
【0146】
上述の光記録媒体400の各層のうち、基板(1)401及び基板(2)408は、第1実施形態における基板101と、基本的に同様である。但し、基板(1)401は必ずしも透明である必要は無いため、第2実施形態における基板201と同様の材料も使用できる。また、基板(1)401には記録再生光の案内溝やピットを形成する必要は無い。
また、反射層(1)402及び反射層(2)406は、第1実施形態における反射層104と基本的に同様である。
また、保護層(1)403及び保護層(2)405は、第2実施形態における保護層204と基本的に同様である。
また、接着層404は、第3実施形態における接着層305と基本的に同様である。
また、記録層407は、第1実施形態における記録層102と基本的に同様である。
【0147】
図3(a)は、本発明の第5実施形態に係る光記録媒体の層構成を模式的に示す図である。図3(a)に示される光記録媒体500は、基板(1)501と、記録層(1)502と、反射層(1)503と、中間層504と、記録層(2)505と、反射層(2)506と、接着層507と、基板(2)508とがこの順に積層された層構成を有する。この光記録媒体500は、基板(1)501側からレーザー光510を照射することにより、記録層(1)502及び記録層(2)505のそれぞれにおいて、情報の記録・再生が行なわれる。
【0148】
この光記録媒体500は、基板(1)501、記録層(1)502、反射層(1)503、中間層504、記録層(2)505、反射層(2)506をこの順に積層して形成し、反射層(2)506に基板(2)508を対向させて接着層507で貼り合わせることにより構成される。但し、記録層(2)505の記録再生光のための案内溝やピットを中間層504表面に形成し、その上に記録層(2)505を形成する必要がある。中間層504表面に案内溝やピットを形成する手法としては、樹脂スタンパを用いる方法等が挙げられる(例えば、特開2003−67990号公報参照)。
【0149】
上述の光記録媒体500の各層のうち、基板(1)501及び基板(2)508は、第1実施形態における基板101と基本的に同様である。但し、基板(2)508は必ずしも透明である必要は無いため、第2実施形態における基板201と同様の材料も使用できる。また、基板(2)508には記録再生光の案内溝やピットを形成する必要は無い。
また、記録層(1)502及び記録層(2)505は、第1実施形態における記録層102と基本的に同様である。
【0150】
また、反射層(1)503及び反射層(2)506は、第1実施形態における反射層104と基本的に同様である。但し、反射層(1)503は、記録層(2)505の記録再生光を透過させる必要があるため、記録層(2)505の記録再生波長に対して40%以上の透過性を確保するために、膜厚を通常50nm以下、好ましくは30nm以下、更に好ましくは25nm以下とする。但し、記録層(1)502が中間層504にしみ出さないように、また、十分な反射率が得られるように、膜厚を通常3nm以上、好ましくは5nm以上とする。
また、中間層504の材料としては、第3実施形態における接着層305と同様の材料であって、透明性を有する材料が用いられる。
また、接着層507は、第3実施形態における接着層305と基本的に同様である。
【0151】
図3(b)は、本発明の第6実施形態に係る光記録媒体の層構成を模式的に示す図である。図3(b)に示される光記録媒体600は、基板(1)601と、記録層(1)602と、反射層(1)603と、接着層(中間層)604と、バリア層608と、記録層(2)605と、反射層(2)606と、基板(2)607とがこの順に積層された層構成を有する。この光記録媒体600は、基板(2)607側からレーザー光610を照射することにより、記録層(1)602及び記録層(2)605において、それぞれ情報の記録・再生が行なわれる。
【0152】
この光記録媒体600は、基板(1)601、記録層(1)602、反射層(1)603をこの順に積層した貼り合わせ用ディスク611と、基板(2)607、反射層(2)606、記録層(2)605、バリア層608をこの順に積層した貼り合わせ用ディスク612とを、反射層(1)603及びバリア層608を対向させて接着層(中間層)604で貼り合わせることにより構成される。
【0153】
上述の光記録媒体600の各層のうち、基板(1)601は、第1実施形態における基板101と基本的に同様である。また、基板(2)607は、第2実施形態における基板201と基本的に同様である。
また、記録層(1)602及び記録層(2)605は、第1実施形態における記録層102と基本的に同様である。
また、反射層(1)603及び反射層(2)606は、第1実施形態における反射層104と基本的に同様である。但し、反射層(1)603は、記録層(2)605の記録再生光を透過させる必要があるため、第5実施形態における反射層(1)503と同様に形成される。
また、接着層(中間層)604は、第5実施形態における接着層504と同様の材料が用いられる。
【0154】
また、バリヤ層608は、記録層(2)605が接着層(中間層)604にしみだすのを防ぐために設けられるものである。バリヤ層608の材料としては、特に規定はないが、例えばSi、Zn、Ag、Al、Ti、Sn、W、Cu、Ge、Mn、Sb、Zr等の単体又は化合物(酸化物、窒化物、硫化物など)が挙げられる。これらの材料は、融点や剛性などの諸物性を考慮することで、適宜、選択して使用することができるため、単独で使用してもよいし、あるいは二種以上を組合せて使用してもよい。
【0155】
バリヤ層608は、記録及び再生に使用されるレーザ光を、通常70%以上、中でも90%以上透過させることが好ましい。従って、バリヤ層608の層厚は、通常1nm以上、好ましくは2nm以上、更に好ましくは3nm以上、また、通常80nm以下、好ましくは50nm以下、更に好ましくは20nm以下の範囲である。
【0156】
以上説明した本発明の各実施形態に係る光記録媒体100,200,300,400,500,600において、情報の記録・再生のために使用するレーザ光は、高密度記録を実現する観点から波長が短いほど好ましいが、特に波長350nm〜680nmのレーザ光が好ましい。かかるレーザ光の代表例として、中心波長約405nm、約410nm、約515nm、約635nm、約660nm、約680nmのレーザ光が挙げられる(ここで「約」とは、±5nm程度の波長シフトを許容することを意味する。)。
【0157】
高速記録に用いる波長としては、660nm近傍の赤色半導体レーザが供給されている。この波長を用いる場合には、母体色素の膜としての660nmに最も近い吸収極大は、580nm〜620nmの範囲にあることが好ましい。
【0158】
記録再生に用いる波長としては、高密度化に有利な短波長で、かつ、実用的な半導体レーザが供給されている波長405nmを用いることが最も好ましい。この波長を用いる場合は、母体色素の最大吸収波長は、300〜600nmにあることが好ましい。
【0159】
本発明の各実施形態に係る光記録媒体100,200,300,400,500,600において、情報の記録を行なう際には、記録層(記録層(1)及び記録層(2)を含む。)102,202,302,308,407,502,505,602,605に対して(各実施形態において説明した方向から)、通常0.4μm以上0.6μm以下程度に集束したレーザ光を照射する。記録層102,202,302,308,407,502,505,602,605のレーザ光が照射された部分は、レーザ光のエネルギーを吸収することによって分解、発熱、溶解等の熱的変形、屈折率の変化を起こすため、光学的特性が変化する。
【0160】
一方、記録層102,202,302,308,407,502,505,602,605に記録された情報の再生を行なう際には、同じく記録層102,202,302,308,407,502,505,602,605に対して(通常は、記録時と同じ方向から)、よりエネルギーの低いレーザ光を照射する。記録層102,202,302,308,407,502,505,602,605において、光学的特性の変化が起きた部分(すなわち、情報が記録された部分)の反射光量と、変化が起きていない部分の反射光量との差を読みとることにより、情報の再生が行なわれる。
【0161】
なお、以上説明した光記録媒体100,200,300,400,500,600の構成に、種々の変形を加えることも可能である。例えば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述の各層の他に別の層を設けたり、一部の層を省略したり、一部の層を複数層に分けて形成したり、各層の積層順を変更したりしてもよい。
【0162】
例えば、上述の各層の形成後に、記録・再生レーザ光の入射面に、表面の保護やゴミ等の付着防止の目的で、紫外線硬化樹脂層や無機系薄膜等を成膜形成してもよく、記録・再生レーザ光の入射面ではない面に、インクジェット、感熱転写等の各種プリンタ、或いは各種筆記具を用いて記入や印刷が可能な印刷受容層を設けてもよい。
【実施例】
【0163】
以下、本発明について、実施例を用いて更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0164】
[実験群1:アゾ系金属キレート色素(添加剤)の合成]
後述の各実験群において添加剤として使用するアゾ系金属キレート色素添加剤を、以下の方法により合成した。
【0165】
尚、以下の記載では、アゾ化合物由来の配位子について、対応するアゾ化合物の番号を付して表わす場合がある。例えば、アゾ化合物(I−1)由来の配位子は、「配位子(I−1)」のように表わすものとする。
【0166】
また、以下の記載では、アゾ系金属キレート色素添加剤を、その配位子の番号と金属イオンの原子記号とを併記して表わす場合がある。例えば、2つの配位子(I−1)と2価の鉄イオンからなるアゾ系金属キレート色素添加剤は、「(I−1)2(Fe2+)色素添加剤」のように表わすものとする。
【0167】
また、例えば配位子(I−1)と配位子(I−2)と配位子(I−A)のように、同じローマ数字を含む番号を付した配位子は、その基本骨格が共通し、配位子単独での性質が類似していると考えられる配位子を示している。
【0168】
〔合成例1:(I−1)2(Fe2+)色素添加剤の合成〕
下記構造式で表わされるアゾ化合物(I−1)2.63gをTHF(tetrahydrofuran)100mlに溶解させ、ろ過により残渣を除去した。別に、塩化鉄(II)4水和物0.69gをメタノール10mlに溶解させ、ろ過により残渣を除去した後、この溶液を先のアゾ化合物(I−1)のTHF溶液に滴下した。その後、水90mlを更に滴下し、析出した結晶を濾別し、THF、水、メタノールで順に洗浄し、乾燥することにより、下記構造式で表わされる目的化合物(配位子(I−1)の鉄(2価)色素添加剤:(I−1)2(Fe2+)色素添加剤)1.99gを得た。
【0169】
【化20】

【0170】
【化21】

【0171】
得られた(I−1)2(Fe2+)色素添加剤のクロロホルム中での吸収極大波長は558nm、グラム吸光係数は75であった。
【0172】
〔合成例2:(II−2)2(Fe2+)色素添加剤の合成〕
下記構造式で表わされるアゾ化合物(II−2)2.00gをTHF70mlに溶解させ、ろ過により残渣を除去した。別に、塩化鉄(II)4水和物0.53gをメタノール7mlに溶解させ、ろ過により残渣を除去した後、この溶液を先のアゾ化合物(II−2)のTHF溶液に滴下した。その後、メタノール70mlを更に滴下し、析出した結晶を濾別し、THF、メタノールで順に洗浄し、乾燥することにより、下記構造式で表わされる目的化合物(配位子(II−2)の鉄(2価)色素添加剤:(II−2)2(Fe2+)色素添加剤)1.12gを得た。
【0173】
【化22】

【0174】
【化23】

【0175】
得られた(II−2)2(Fe2+)色素添加剤のクロロホルム中での吸収極大波長は741nm、グラム吸光係数は64であった。
【0176】
〔合成例3:(I−A)2(Fe2+)色素添加剤の合成〕
下記構造式で表わされるアゾ化合物(I−A)1.05gを、THF30mlとDMF(N,N-dimethylformamide)30mlとの混合溶媒に溶解させ、ろ過により残渣を除去した。別に、塩化鉄(II)4水和物0.27gをメタノール4mlに溶解させ、ろ過により残渣を除去した後、この溶液を先のアゾ化合物(I−A)のTHF/DMF溶液に滴下した。その後、水60mlを更に滴下し、析出した結晶を濾別し、THF、水、メタノールで順に洗浄し、乾燥することにより、下記構造式で表わされる目的化合物(配位子(I−A)の鉄(2価)色素添加剤:(I−A)2(Fe2+)色素添加剤)0.38gを得た。
【0177】
【化24】

【0178】
【化25】

【0179】
得られた(I−A)2(Fe2+)色素添加剤のクロロホルム中での吸収極大波長は564nm、グラム吸光係数は83であった。
【0180】
〔合成例4:(II−2)2(Cu2+)色素添加剤の合成〕
下記構造式で表わされるアゾ化合物(II−2)2.00gをTHF30mlに溶解させ、ろ過により残渣を除去した。別に、塩化銅(II)0.49gをメタノール5mlに溶解させ、ろ過により残渣を除去した後、この溶液を先のアゾ化合物(II−2)のTHF溶液に滴下した。析出した結晶を濾別、THF、水、メタノールで順に洗浄し、乾燥することにより、下記構造式で表わされる目的化合物(配位子(II−2)の銅(2価)色素添加剤:(II−2)2(Cu2+)色素添加剤)1.90gを得た。
【0181】
【化26】

【0182】
【化27】

【0183】
得られた(II−2)2(Cu2+)色素添加剤のクロロホルム中での吸収極大波長は586nm、グラム吸光係数は117であった。
【0184】
〔合成例5:(II−2)2(Co2+)色素添加剤の合成〕
上述のアゾ化合物(II−2)2.00gをTHF26mlに溶解させ、ろ過により残渣を除去した。別に、酢酸コバルト(II)4水和物0.67gをメタノール7mlに溶解させ、ろ過により残渣を除去した後、この溶液を先のアゾ溶液に滴下した。メタノール20mlを更に滴下し、析出した結晶を濾別、メタノールで洗浄し、乾燥することにより、下記構造式で表わされる目的化合物(配位子(II−2)のコバルト(2価)色素添加剤:(II−2)2(Co2+)色素添加剤)1.88gを得た。
【0185】
【化28】

【0186】
得られた(II−2)2(Co2+)色素添加剤のクロロホルム中での吸収極大波長は556nm、グラム吸光係数は80であった。
【0187】
〔比較合成例1:(II−1)2(Ni2+)色素添加剤の合成〕
上述のアゾ化合物(II−1)5.58gをTHF610mlに溶解させ、ろ過により残渣を除去した。別に、酢酸ニッケル(II)4水和物1.98gをメタノール28mlに溶解させ、ろ過により残渣を除去した後、この溶液を先のアゾ化合物(II−1)のTHF溶液に滴下した。その後、水327mlを更に滴下し、析出した結晶を濾別し、THF、水、メタノールで順に洗浄し、乾燥することにより、下記構造式で表わされる目的化合物(配位子(II−1)のニッケル(2価)色素添加剤:(II−1)2(Ni2+)色素添加剤)5.29gを得た。
【0188】
【化29】

【0189】
得られた(II−1)2(Ni2+)色素添加剤のクロロホルム中での吸収極大波長は587nm、グラム吸光係数は139であった。
【0190】
[実験群2:添加剤単膜の評価]
〔サンプルの作製〕
下記の表1〜4に示すアゾ系金属キレート色素添加剤(1)〜(17)を添加剤として用いた。
【0191】
【表1】

【0192】
【表2】

【0193】
【表3】

【0194】
【表4】

【0195】
上記表1〜4に記載の添加剤(1)〜(17)各20mgを、TFP(2,2,3,3,-tetrafluoro-1-propanol)2gに溶解し、45℃で60分超音波分散した。放冷後、得られた分散液を、可能な場合には0.2μmのフィルターでろ過した上で、厚さ0.6mmの鏡面基板上に、回転数800rpmで3分間スピンコートし、80℃で乾燥させることにより、各添加剤の単膜サンプルを作製した。
【0196】
〔吸光スペクトルの測定〕
各添加剤単膜サンプルを適当な小片にカットし、基板側から試料光を照射し、空気をリファレンスとして、波長400〜800nmの領域における吸収スペクトルを測定した。測定には日立製作所製分光光度計U−3300を用い、波長スキャンスピード300nm/min、サンプリング周期0.5nmの吸光度モードで測定を行なった。
【0197】
〔耐光性試験(色素保持率の測定)〕
各添加剤単膜サンプルを適当な小片にカットし、東洋精機製耐光性試験機サンテストXLS+を用いて、Xeランプ(550W/m2、ブラックパネル温度63℃)を40時間照射した。上記Xeランプの照射前の吸収極大の吸光度I0と、Xeランプの照射後の吸収極大の吸光度I1とをそれぞれ測定し、(I1/I0)×100(%)により算出される値を、添加剤の色素保持率とし、耐光性の判定の目安とした。この色素保持率の数値が大きいほど、耐光性が良好であることを示す。
【0198】
〔結果及び評価〕
上記手順により得られた各添加剤(1)〜(17)の単膜サンプルの吸収極大波長及び色素保持率の結果を下記表5及び表6に示す。
【0199】
【表5】

【0200】
【表6】

【0201】
表5及び表6より、中心金属イオンがCo2+の添加剤は、Ni2+の添加剤よりも吸光度の大きい吸収帯(主吸収帯と呼ぶことがある。)が長波長側に存在することが多く、また、中心金属イオンがFe2+の添加剤は、680nm以上の長波長側に吸収帯が存在することが多いことがわかる。
【0202】
例えば、配位子(I−1)を有する添加剤について、その主吸収帯波長を比較すると、中心金属イオンがNi2+の場合(添加剤(1))は598nmであるのに対して、Co2+の場合(添加剤(3))は605nmである。また、中心金属イオンがFe2+の場合(添加剤(2))は、主吸収帯の波長は577.2nmと短いが、波長727.5nmにやや強い吸収帯が存在する。
【0203】
また、キレート化しない状態での吸収への寄与は同等と考えられる配位子(II−1),(II−2)を有する添加剤を比較すると、キレート後の中心金属イオンがNi2+の場合(添加剤(6))は主吸収帯が波長607.5nmであり、Cu2+の場合(添加剤(9))は主吸収帯が波長609nmである。また、中心金属イオンがCo2+の場合(添加剤(8))は、波長571.8nmと波長607.8nmに非常に強い吸収帯があり、更に、波長681.3nmにもやや強い吸収が存在する。中心金属イオンがFe2+の場合(添加剤(7))は、主吸収帯は波長754.4nmの長波長領域に存在するが、それよりもはるかに短波長側の波長584.2nmにも強い吸収帯を有する。
【0204】
また、図8(a),(b)に、各添加剤単膜の主吸収帯に対する波長680nm以上の吸収帯の強度比を表わすグラフを示す。図8(a),(b)より、各中心金属イオンについて比較すると、一部のアゾ色素化合物を配位子として有するCo2+及びFe2+では、Ni2+、Cu2+の場合とは異なり、波長680nm以上の吸収帯が存在することがわかる。
【0205】
更に、図11に、表5の(1)〜(13)までの各添加剤の単膜の色素保持率をその中心金属イオン毎に表わすグラフを示す。図11より、先に述べたように、Ni2+、Cu2+、Co2+、Fe2+を中心金属イオンとする場合には、添加剤自体には耐光性の差が見られないことがわかる。
【0206】
[実験群3(1):記録層の評価1]
〔記録層サンプルの作製〕
母体色素として、下記構造式で表わされるアゾ系金属キレート色素(色素A)を用い、添加剤として、上記表1〜3に示す添加剤(1)〜(13)を用いて、以下の手順により記録層サンプルを作製した。
【0207】
【化30】

【0208】
母体色素(色素A)20mgと各添加剤2mgとをTFP2gに溶解し、45℃で60分超音波分散した。放冷後、得られた分散液を、可能な場合には0.2μmのフィルターでろ過した上で、厚さ0.6mmの鏡面基板上に、回転数800rpmで3分間スピンコートし、80℃で乾燥させることにより、母体色素及び各添加剤を含有する記録層サンプルを作製した(後述の表7における比較例1,2及び実施例1〜11)。
【0209】
また、対照用サンプルとして、添加剤を加えない他は上と同様の手順により、母体色素のみからなる単膜のサンプルを作製した(後述の表7における対照例1)。
【0210】
〔吸光スペクトルの測定及びb/a値の算出〕
得られた記録層サンプル及び対照用サンプルについて、前記[実験群2]と同様の方法により、波長400〜800nmの領域における吸収スペクトルを測定した。得られた吸収スペクトルから、先に図7を用いて説明した手法により、b/a値を算出した。
【0211】
〔耐光性試験(色素保持率の測定)〕
各記録層サンプル及び対照用サンプルについて、前記[実験群2]と同様の方法により、耐光性の目安となる色素保持率の測定を行なった。
【0212】
〔結果及び評価〕
上記手順により得られた各記録層サンプルのb/a値及び色素保持率の結果を、下記表7に示す。
【0213】
【表7】

【0214】
また、図5(a),(b)に、各記録層サンプルの耐光性(色素保持率)に対する、添加剤の中心金属イオンの効果の差を表わすグラフを示す。
【0215】
表7及び図5(a),(b)より、添加剤の配位子の種類によらず、中心金属イオンがNi2+の場合よりもCu2+、Co2+、又はFe2+の場合の方が、一貫してより大きな耐光性の向上効果が得られていることがわかる。そして、添加剤を加えない母体色素(色素A)単独の色素保持率が0%であるのに対して、中心金属イオンがCo2+の添加剤を加えた場合には25%〜50%へ、中心金属イオンがFe2+の添加剤を加えた場合には45%〜50%へと大きく変化し、耐光性が非常に向上したことがわかる。この結果から、中心金属イオンがCu2+、Co2+、又はFe2+である上述の添加剤(本発明の添加剤)は、耐光性の効果が得られにくいとされてきたアゾ系金属キレート色素である色素Aに対しても、優れた耐光性の向上効果を発揮することがわかる。
【0216】
[実験群3(2):記録層の評価2]
〔サンプルの作製〕
母体色素として、下記構造式で表わされるシアニン系金属錯体(色素B)を用い、添加剤として、添加剤として、上記表1〜3に示す添加剤(1)〜(13)を用いて、上記[実験群3(1)]と同様の手順により、記録層サンプルを作製した(後述の表8における比較例3,4及び実施例12〜22)。
【0217】
【化31】

【0218】
また、対照用サンプルとして、添加剤を加えない他は上と同様の手順により、母体色素Bのみからなる単膜のサンプルを作製した(後述の表8における対照例2)。
【0219】
〔b/a値の算出、色素保持率の測定、結果及び評価〕
得られた記録層サンプル及び対照用サンプルについて、前記[実験群3(1)]と同様の手順により、吸収スペクトルの測定及びb/a値の算出、並びに耐光性の指標となる色素保持率の測定を行なった。得られた結果を下記表8に示す。
【0220】
【表8】

【0221】
また、図6(a),(b)に、記録層の耐光性(色素保持率)に対する、添加剤の中心金属イオンの効果の差を表わすグラフを示す。
【0222】
表8及び図6(a),(b)から、母体色素としてシアニン系色素である色素Bを用いた場合、本発明の添加剤による効果は、前記[実験群3(1)]に示すように母体色素としてアゾ系金属キレート色素を用いた場合よりも、非常に高いことがわかる。しかし、中心金属イオンの違いによる効果の差の傾向は、これら両者の間でも同様である。つまり、前記記録層が、少なくとも、Cu2+、Fe2+、Co2+の何れかを中心金属イオンとする金属キレート色素添加剤を含むことにより、大きな耐光性向上効果が得られることがわかる。
【0223】
[実験群3(1)及び実験群3(2)に関する検討]
図4及び図5(a),(b)は何れも、実験群3(1)及び実験群3(2)における記録層サンプルの色素保持率を表わすグラフである。具体的に、図4では、異なる色素A,Bに対する中心金属イオンの差に着目するために、配位子(I−1)を有する添加剤を用いた場合の結果を示している。また、図5(a),(b)では、色素Aに対する中心金属イオンの差に着目するために、配位子(I−1),(I−2)を有する添加剤を用いた場合の結果を図5(a)に、配位子(II−1),(II−2)を有する添加剤を用いた場合の結果を図5(b)に、それぞれ分けて示している。
【0224】
耐光性の効果が出にくい色素Aに対する効果に注目すると、図4及び図5(a)より、配位子が(I−1)のアゾ系色素化合物の場合には、Fe2+をを中心金属イオンとする添加剤(添加剤(2))の効果が、また、図5(b)により、配位子が(II−1)、(II−2)のアゾ系色素化合物の場合には、Co2+、Fe2+を中心金属イオンとする添加剤(添加剤(3)、添加剤(7))の効果が、それぞれ極めて高いことがわかる。
【0225】
また、実験群3(1)及び実験群3(2)の記録層サンプルのb/a値と耐光性との関係を表わすグラフを、それぞれ図9及び図10として示す。図9及び図10より、前述のように、b/a値が1より大きい場合には、耐光性が安定して向上する傾向が見られることが分かる。
【0226】
[実験群3(3):記録層の評価3]
〔サンプルの作製〕
母体色素として、下記構造式で表わされる青色レーザ記録用の色素(色素C)を用い、添加剤として、上記表2に示す添加剤(8)及び上記表4に示す添加剤(14)〜(17)を用い、上記[実験群3(1)]と同様の手順により記録層サンプルを作製した(後述の表9における実施例23〜27)。
【0227】
【化32】

【0228】
また、対照用サンプルとして、添加剤を加えない他は上と同様の手順により、母体色素Cのみからなる単膜のサンプルを作製した(後述の表9における対照例3)。
【0229】
〔b/a値の算出、色素保持率の測定、結果及び評価〕
得られた各記録層サンプル及び対照用サンプルについて、前記[実験群3(1)]と同様の手順により、吸収スペクトルの測定及びb/a値の算出、並びに耐光性の指標となる色素保持率の測定を行なった。得られた結果を下記表9に示す。
【0230】
【表9】

【0231】
表9に示す結果から、青色レーザ用色素である色素Cは、色素保持率が63.2%と比較的良好であり、添加剤の使用による耐光性の向上効果がでにくいと思われるにもかかわらず、本発明のFe2+、Co2+を中心金属イオンとする添加剤(8)及び(14)〜(17)を加えると、色素保持率が70%〜90%強へと向上し、明らかな効果が得られることが分かった。その中でも特に、添加剤(8)[(II−2)2(Co2+)色素添加剤]、添加剤(14)[(VII)2(Fe2+)色素添加剤]、添加剤(16)[(IX)2(Fe2+)色素添加剤]及び添加剤(17)[(X)2(Fe2+)色素添加剤]の効果が優れていると言える。
【0232】
[実験群3(4):記録層の評価4]
〔サンプルの作製〕
母体色素として、下記構造式で表わされる色素(色素D)を用い、添加剤として、上記表2に示す添加剤(8)及び上記表4に示す添加剤(14)〜(17)を用い、上記[実験群3(1)]と同様の手順により記録層サンプルを作製した(後述の表10における実施例28〜32)。
【0233】
【化33】

【0234】
また、対照用サンプルとして、添加剤を加えない他は上と同様の手順により、母体色素Dのみからなる単膜のサンプルを作製した(後述の表10における対照例4)。
【0235】
〔b/a値の算出、色素保持率の測定、結果及び評価〕
得られた各記録層サンプル及び対照用サンプルについて、前記[実験群3(1)]と同様の手順により、吸収スペクトルの測定及びb/a値の算出、並びに耐光性の指標となる色素保持率の測定を行なった。得られた結果を下記表10に示す。
【0236】
【表10】

【0237】
表10の結果から、本発明のFe2+,Co2+を中心金属イオンとする添加剤(8)及び(14)〜(17)を用いると、色素保持率が70%〜90%強へと向上することから、極めて良好な耐光性向上効果を有することがわかる。その中でも特に、添加剤(8)[(II−2)2(Co2+)色素添加剤]、添加剤(16)[(IX)2(Fe2+)色素添加剤]及び添加剤(17)[(X)2(Fe2+)色素添加剤]の効果が優れていると言える。
【0238】
なお、添加剤(8)及び添加剤(17)の色素単膜の吸収スペクトルをそれぞれ図12(a),(b)に示す。何れも通常の記録層のアゾ系金属キレート色素としては通常見られない極めてブロードな吸収帯の重なりが見られることが分かる。
【0239】
[実験群4:光記録媒体の評価]
〔光記録媒体の作製〕
前記[実験群3(4)]に記載の色素D(母体色素)を35重量%、及び、前記[実験群2]の表1の色素(1)を60重量%、また、添加剤として、前記[実験群2]の表1の色素(2)を5重量%の割合で用いた。これらの色素D、色素(1)、及び色素(2)を、その合計の濃度が1.3重量%となるようにTFPに溶解させ、記録層形成用の塗布液を作製した。
【0240】
得られた塗布液を、トラックピッチ0.74μm、溝幅320nm、溝深さ60nmの案内溝を有する厚さ0.6mmの支持基板上に、スピンコート法(回転数1000rpm〜6000rpm)により、吸光度(空気をリファレンスとして測定した波長598nmにおける吸光度)0.65を示す厚みとなるように成膜し、記録層を設けた。得られた記録層の溝部膜厚は50nmであった。
【0241】
次いで、その記録層の上にスパッタリング法で銀を堆積させ、厚さ120nmの銀反射膜を設けた。更に、日本化薬(株)製KAYARAD SPC−920を10μmの厚さとなるよう塗布して保護層を形成した。
【0242】
以上の手順で作製した積層体を2枚用意し、UV硬化型接着剤(ソニーケミカル製SK7100)を用いて、基板が外側になるように貼り合わせることにより、光ディスク(光記録媒体)を作製した。
【0243】
〔記録試験〕
得られた光ディスクに対し、波長650nm、開口数0.65の記録再生装置を用いて、DVD-R Specification for General Ver.2.1やDVD+R Specification Ver.1.20に準拠した記録パルスストラテジー条件に基づいて、記録速度28.0m/s(DVD−Rの8倍速)において、最短マーク長が0.4μmであるEFMプラス変調のランダム信号記録を行なった。そして、同じ評価機を用いて記録した部分の信号を再生したところ、良好な再生信号を得た。
【0244】
〔耐光性試験〕
また、この光ディスクに対して、東洋精機製耐光性試験機サンテストXLS+を用いて、Xeランプ(550W/m2、ブラックパネル温度63℃)を40時間照射(Wool scale 5級に相当)した後、上述の評価機を用いて上記記録部分の信号の再生を行なったところ、良好な再生信号が得られたことから、耐光性が改善されていることがわかった。
【0245】
[比較実験群1]
前記の[実験群3(1)]において、前記表1〜3記載の添加剤(1)〜(13)の代わりに、一重項酸素クエンチャーとして従来知られてきた、下記構造式で表わされる化合物(Q1)〜(Q5)を添加した以外は、[実験群3(1)]と同じ手順で記録層サンプルを作製し、耐光性試験(色素保持率の測定)を行なった(後述の表11の比較例5〜9)。
【0246】
【化34】

【0247】
【化35】

【0248】
【化36】

【0249】
【化37】

【0250】
【化38】

【0251】
得られた結果を下記の表11に示す。表11から明らかなように、何れの一重項酸素クエンチャー(Q1)〜(Q5)を用いた場合も、良好な結果は得られなかった。
【0252】
【表11】

【0253】
[比較実験群2]
前記の[実験群3(2)]において、前記表1〜3記載の添加剤(1)〜(13)の代わりに、上述の化合物(Q4)(一重項酸素クエンチャー)を添加した以外は、[実験群3(2)]と同じ手順で記録層サンプルを作製し、耐光性試験(色素保持率の測定)を行なった(比較例10)。
【0254】
得られた結果を表12に示す。表12から明らかなように、耐光性向上の効果は見られなかった。
【0255】
【表12】

【産業上の利用可能性】
【0256】
本発明は、DVD±R等の赤色半導体レーザー用の光記録媒体や、青色半導体レーザー用の光記録媒体等の用途において、好適に利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0257】
【図1】(a)は、本発明の第1実施形態に係る光記録媒体の層構成の一例を模式的に表わす部分断面図であり、(b)は、本発明の第2実施形態に係る光記録媒体の層構成の一例を模式的に表わす部分断面図である。
【図2】(a)は、本発明の第3実施形態に係る光記録媒体の層構成の一例を模式的に表わす部分断面図であり、(b)は、本発明の第4実施形態に係る光記録媒体の層構成の一例を模式的に表わす部分断面図である。
【図3】(a)は、本発明の第5実施形態に係る光記録媒体の層構成の一例を模式的に表わす部分断面図であり、(b)は、本発明の第6実施形態に係る光記録媒体の層構成の一例を模式的に表わす部分断面図である。
【図4】実験群3(1)及び実験群3(2)における配位子(I−1)を有する添加剤を用いた記録層サンプルの色素保持率を表わすグラフである。
【図5】(a),(b)は何れも、実験群3(1)における記録層サンプルの、耐光性(色素保持率)に対する添加剤の中心金属イオンの効果の差を表わすグラフである。
【図6】(a),(b)は何れも、実験群3(2)における記録層サンプルの、耐光性(色素保持率)に対する添加剤の中心金属イオンの効果の差を表わすグラフである。
【図7】(a),(b)は何れも、添加剤を含有する記録層の吸収スペクトルからb/a値を求めるための手法を説明するための図である。
【図8】(a),(b)は何れも、実験群2における各添加剤単膜サンプルの主吸収帯に対する680nm以上の吸収帯の強度比を表わすグラフである。
【図9】実験群3(1)における記録層サンプルのb/a値と耐光性との関係を表わすグラフである。
【図10】実験群3(2)における記録層サンプルのb/a値と耐光性との関係を表わすグラフである。
【図11】実験群2における各添加剤単膜サンプルの色素保持率を、その中心金属イオン毎に示すグラフである。
【図12】(a),(b)はそれぞれ、実験群2の添加剤(8)及び添加剤(17)の単膜サンプルの吸収スペクトルである。
【符号の説明】
【0258】
100,200,300,400,500,600 光記録媒体
101,201 基板
102,202,407 記録層
103,203 反射層
104,204 保護層
301,401,501,601 基板(1)
302,502,602 記録層(1)
303,402,503,603 反射層(1)
304,403 保護層(1)
305,404,507 接着層
306,405 保護層(2)
307,406,506,606 反射層(2)
308,505,605 記録層(2)
309,408,508,607 基板(2)
312,313,412,611,612 貼り合わせ用ディスク
411 ダミーディスク
504 中間層
604 接着層(中間層)
608 バリア層
110,210,310,410,510,610 レーザー光


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板上に設けられ、700nm以下の波長の光が照射されることにより情報の記録又は再生が可能な母体色素を含有する記録層と、反射層とを有する光記録媒体において、
該記録層が、少なくとも、Cu2+、Fe2+及びCo2+のうち何れかを中心金属イオンとするアゾ系金属キレート色素添加剤を含有する
ことを特徴とする、光記録媒体。
【請求項2】
前記アゾ系金属キレート色素添加剤の中心金属イオンがFe2+又はCo2+である
ことを特徴とする、請求項1記載の光記録媒体。
【請求項3】
前記アゾ系金属キレート色素添加剤の中心金属イオンがFe2+である
ことを特徴とする、請求項2記載の光記録媒体。
【請求項4】
前記アゾ金属キレート色素添加剤が、膜あるいは溶液の状態で、400nm〜800nmの波長範囲において、630nm以下に吸収極大を有し、更に、680nm以上にも吸収極大を有する
ことを特徴とする、請求項1記載の光記録媒体。
【請求項5】
前記記録層が、400nm〜800nmの波長範囲において、630nm以下の吸収極大の他に、680nm以上にも吸収極大を有する
ことを特徴とする、請求項1記載の光記録媒体。
【請求項6】
前記母体色素が、下記一般式(I)で表わされるアゾ化合物からXの有する活性水素が脱離した配位子と、Zn2+とから形成されるアゾ系金属キレート色素である
ことを特徴とする、請求項1〜5の何れか一項に記載の光記録媒体。
【化1】

(一般式(I)中、
環Aは、置換基を有しても良い芳香族複素環を表わし、
Xは、活性水素を有する有機基を表わし、
環Bは、Xの他に置換基を有しても良い芳香環又は芳香族複素環を表わす。)
【請求項7】
前記母体色素が、下記一般式(II)で表わされるシアニン系色素である
ことを特徴とする、請求項1〜6の何れか一項に記載の光記録媒体。
【化2】

(一般式(II)中、
環C及び環Dは各々独立に、インドレニン環、ベンゾインドレニン環、又はジベンゾインドレニン環を表わし、
Lは、モノメチン基又はトリメチン基を表わし、
1及びR2は各々独立に、置換基を有しても良いアルキル基を表わす。)
【請求項8】
下記一般式(III)で表わされるアゾ化合物からXの有する活性水素が脱離した配位子が2つと、Fe2+とから形成される
ことを特徴とする、アゾ系金属キレート色素添加剤。
【化3】

(一般式(III)中、
環Eは、置換基を有しても良い芳香族複素環を表わし、
Xは、活性水素を有する有機基を表わし、
3及びR4は各々独立に、置換基を有しても良いアルキル基を表わす。但し、R3とR4同士が結合して環を形成していても良く、また、R3及びR4の一方又は両方がベンゼン環と結合して、ベンゼン環に縮合する4〜7員環を形成しても良い。
なお、2つの配位子が有する環E、X、R3及びR4は何れも、互いに同じであってもよく、異なっていてもよい。)
【請求項9】
下記一般式(IV)で表わされるアゾ化合物からXの有する活性水素が脱離した配位子が2つと、Co2+とから形成され、
膜あるいは溶液の状態で、400〜800nmの波長範囲において、630nm以下に吸収極大を有し、更に、680nm以上にも吸収極大を有する
ことを特徴とする、アゾ系金属キレート色素添加剤。
【化4】

(一般式(IV)中、
環Eは、置換基を有しても良い芳香族複素環を表わし、
Xは、活性水素を有する有機基を表わし、
3及びR4は各々独立に、置換基を有しても良いアルキル基を表わす。但し、R3とR4同士が結合して環を形成していても良く、また、R3及びR4の一方又は両方がベンゼン環と結合して、ベンゼン環に縮合する4〜7員環を形成しても良い。
なお、2つの配位子が有する環E、X、R3及びR4は何れも、互いに同じであってもよく、異なっていてもよい。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−44995(P2007−44995A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−231901(P2005−231901)
【出願日】平成17年8月10日(2005.8.10)
【出願人】(501495237)三菱化学メディア株式会社 (105)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】