光記録媒体
【課題】ジッター特性に優れ、良好な記録再生特性を有する、極めて高密度記録が可能な光記録媒体を提供する。
【解決手段】案内溝が形成された基板21と、前記基板21上に、光反射機能を有する層23と、所定のポルフィリン化合物を主成分とする記録層22と、前記記録層22に入射する記録再生光を透過し得るカバー層24とをこの順に備える光記録媒体20において、記録再生光ビームが前記カバー層24に入射する面から遠い側の案内溝部を記録溝部とするとき、前記記録溝部に形成された記録ピット部の反射光強度が、当該記録溝部における未記録時の反射光強度より高くなることを特徴とする光記録媒体。
【解決手段】案内溝が形成された基板21と、前記基板21上に、光反射機能を有する層23と、所定のポルフィリン化合物を主成分とする記録層22と、前記記録層22に入射する記録再生光を透過し得るカバー層24とをこの順に備える光記録媒体20において、記録再生光ビームが前記カバー層24に入射する面から遠い側の案内溝部を記録溝部とするとき、前記記録溝部に形成された記録ピット部の反射光強度が、当該記録溝部における未記録時の反射光強度より高くなることを特徴とする光記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光記録媒体に関し、より詳しくは、色素を含有する記録層を有する光記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、超高密度の記録が可能となる青色レーザの開発は急速に進んでおり、それに対応した追記型の光記録媒体の開発が行なわれている。中でも、比較的安価のコストで効率的な生産が可能となる色素塗布型の追記型媒体の開発が強く望まれている。従来の色素塗布型追記型の光記録媒体では、色素を主成分とする有機化合物からなる記録層にレーザ光を照射し、有機化合物の分解・変質による光学的(屈折率・吸収率)変化を主に生じさせることで記録ピットを形成させている。記録ピット部は、光学的変化のみならず、通常は、記録層体積変化による変形、発熱による基板と色素の混合部形成、基板変形(主として基板膨張による盛り上がり)等を伴う(例えば特許文献1参照)。
【0003】
記録層に用いられる有機化合物の記録・再生に用いるレーザ波長に対する光学的挙動、分解・昇華及びこれに伴う発熱等の熱的挙動が良好な記録ピットを形成させるための重要な要素となっている。したがって、記録層に用いる有機化合物は、光学的性質、分解挙動の適切な材料を選択する必要がある。
【0004】
そもそも、従来型の追記型媒体、特に、CD−RやDVD−Rでは、Al、Ag、Au等の反射膜を基板上にあらかじめ形成した凹状ピットに被覆してなる再生専用の記録媒体(ROM媒体)との再生互換を維持することを目的とし、概ね60%以上の反射率と、同様に、概ね60%を超える高変調度を実現することを目的としている。先ず、未記録状態で高反射率を得るために、記録層の光学的性質が規定される。通常は、未記録状態で屈折率nが約2以上、消衰係数が0.01〜0.3程度の値が要求されていた(例えば特許文献2参照)。
【0005】
色素を主成分とする記録層では、記録によるかかる光学的性質の変化だけでは、60%以上もの高変調度をえることが困難である。即ち、屈折率nと消衰係数kの変化量が有機物である色素では限りがあるので、平面状態での反射率変化には限りがある。
【0006】
そこで、記録ピット部と未記録部の反射光の位相差による両部分からの反射光の干渉効果を用いて、記録ピット部分での反射率変化(反射率低下)を見かけ上大きくする方法が利用されている。つまり、ROM媒体のような位相差ピットと同様の原理が用いられており、屈折率変化が無機物より小さい有機物記録層の場合、むしろ、位相差による反射率変化を主として用いることが有利であることが報告されている(特許文献3参照)。また、上記の記録原理を総合的に考慮した検討が行われている(非特許文献1参照)。
以下、以上のように記録された部分(記録マーク部と言われることがある。)を、その物理的な形状によらず、記録ピット、記録ピット部あるいは記録ピット部分と称す。
【0007】
図1は、従来構成の色素を主成分とする記録層を有する追記型媒体(光記録媒体10)を説明する図である。図1に示すように、光記録媒体10は、溝を形成した基板11上に少なくとも記録層12と反射層13、保護コート層14をこの順に形成してなり、対物レンズ18を用いて、基板11を介して記録再生光ビーム17を入射し、記録層12に照射する。基板11の厚みは、1.2mm(CD)又は0.6mm(DVD)が通常用いられる。また、記録ピットは、記録再生光ビーム17が入射する面19から見て近い側で、通常の溝と呼ばれる基板溝部16の部分に形成され、遠い側の基板溝間部15には形成されない。
【0008】
前述したこれらの公知文献において、色素を含む記録層12の記録前後の屈折率変化もできる限り大きくする一方で、記録ピット部の形状変化、即ち、溝内に形成された記録ピット部で、局所的に溝形状が変化する(基板11が膨らむ、あるいは、陥没することで溝深さが等価的に変化する)、膜厚が変化する(記録層12の膨張、収縮による膜厚の透過的な変化)効果が位相差変化に寄与することも報告されている。
【0009】
上記のような記録原理においては、未記録時の反射率を高め、またレーザの照射によって有機化合物が分解し、大きな屈折率変化が生じるようにするため(これによって大きな変調度が得られる)、通常は、記録再生光波長は大きな吸収帯の長波長側の裾に位置するように選択される。これは、大きな吸収帯の長波長側の裾では、適度な消衰係数を有し、かつ大きな屈折率が得られる波長領域となるためである。
【0010】
しかしながら、青色レーザ波長に対する光学的性質が従来並みの値を有する材料は見出されていない。特に、現在実用化されている青色半導体レーザの発振波長の中心である405nm近傍においては、従来の追記型光記録媒体の記録層に要求される光学定数と同程度の光学定数を有する有機化合物がほとんど存在せず、いまだ、探索の段階である。さらに、従来の色素記録層を有する追記型光記録媒体では、記録再生光波長近傍に色素の主吸収帯が存在するため、その光学定数の波長依存性が大きくなり(波長によって光学定数が大きく変動する)、レーザの個体差や、環境温度の変化等による記録再生光波長の変動に対し、記録感度や変調度、ジッター(Jitter)やエラー率等の記録特性や、反射率等が大きく変化するという問題がある。
【0011】
例えば、405nm近傍に吸収を有する色素記録層を用いた記録のアイデアが報告されているが、そこに用いられる色素は、従来と同じ光学特性及び機能が要求されており、ひとえに、高性能な色素の探索発見に依存している(例えば特許文献4参照)。次いで、図1に示すような、従来の色素を主成分とする記録層12を用いた追記型の光記録媒体10では、溝形状及び記録層12の基板溝部16と基板溝間部15の厚みの分布も適正に制御しなければならないこと等が報告されている(例えば特許文献5参照)。
【0012】
即ち、上述のように高反射率の確保の点から、記録再生光波長に対し、比較的小さな消衰係数(0.01〜0.3程度)を持つ色素しか使用することができない。そのため、記録層12において記録に必要な光吸収を得るために、また、記録前後の位相差変化を大きくするために、記録層12の膜厚を薄膜化することが不可能である。その結果、記録層12の膜厚は、通常、λ/(2ns)(nsは基板11の屈折率)程度の厚みが用いられ、記録層12に用いる色素を溝に埋め込み、クロストークを低減するために、深い溝を持った基板11を使用する必要がある。色素を含む記録層12は、通常スピンコート法(塗布法)によって形成されるため、色素を深い溝に埋めて、溝部の記録層12を厚膜化することは、かえって都合がよい。他方、塗布法では、基板溝部16と基板溝間部15の記録層膜厚に差が生じるが、かかる記録層膜厚の差が生じることは、深い溝を用いても安定してトラッキングサーボ信号を得ることに有効である。
【0013】
つまり、図1の基板11表面で規定される溝形状と、記録層12と反射層13との界面で規定される溝形状とは、これら双方を適正な値に保たなければ、記録ピット部での信号特性とトラッキング信号特性の両方を良好に保つことができない。溝の深さは、通常、λ/(2ns)(λは記録再生光ビーム17の波長、nsは基板11の屈折率)近くとする必要があり、CD−Rでは200nm程度、DVD−Rでは150nm程度の範囲としている。このような、深い溝を有する基板11の形成が非常に難しくなり、光記録媒体10の品質を低下させる要因になっている。
【0014】
特に、青色レーザ光を用いる光記録媒体では、λ=405nmとすれば、100nm近い深い溝が必要となる一方で、高密度化のためにトラックピッチを0.2μm〜0.4μmとすることが多い。かかる狭トラックピッチで、そのように深い溝を形成することは尚さら困難が伴い、実際上、従来のポリカーボネート樹脂では量産は不可能に近い。即ち、青色レーザ光を用いる媒体では、従来構成では、量産化が困難となる可能性が高い。
【0015】
さらに、上記公報における実施例の多くは、従来のディスク構成を示した図1での例であるが、青色レーザを用いた高密度記録を実現するために、いわゆる膜面入射と呼ばれる構成が注目されており、相変化型記録層等の無機材料記録層を用いた構成が報告されている(非特許文献2参照)。膜面入射と呼ばれる構成においては、従来とは逆に、溝を形成された基板上に、少なくとも反射膜、記録層、カバー層をこの順に形成してなり、カバー層を介して記録・再生用の集束レーザ光を入射し、記録層に照射する。カバー層の厚みは、いわゆるブルーレイ・ディスク(Blu−Ray)では、100μm程度が通常用いられる(非特許文献3)。このような薄いカバー層側から、記録再生光を入射するのは、その集束のための対物レンズに従来より高NA(開口数、通常は0.7〜0.9、ブルーレイ・ディスクでは0.85)のものを用いるためである。高NAの対物レンズを用いた場合、カバー層の厚みによる収差の影響を小さくするために、100μm程度という薄さが必要となる。このような青色波長記録、膜面入射層構成をとりあげた例は数多く報告されている(非特許文献4参照、例えば特許文献6参照)。また、関連する技術についても多くの報告がある(非特許文献5〜非特許文献8参照、例えば特許文献7〜9参照)。
【0016】
【非特許文献1】「プロシーディングス・オブ・インターナショナル・シンポジウム・オン・オプチカル・メモリ(Proceedings of International Symposium on Optical Memory)」、(米国)、第4巻、1991年、p.99−108
【非特許文献2】「プロシーディングス・オブ・エスピーアイイー(Proceedings of SPIE)」、(米国)、第4342巻、2002年、p.168−177
【非特許文献3】「光ディスク解体新書」、日経エレクトロニクス編、日経BP社、2003年、第3章
【非特許文献4】「ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス(Japanese Journal of Applied Physics)」、(日本国)、第42巻、2003年、p.1056−1058
【非特許文献5】中島平太郎・小川博共著、「コンパクトディスク読本」改訂3版、オーム社、平成8年、p.168
【非特許文献6】「ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス(Japanese Journal of Applied Physics)」、(日本国)、第42巻、2003年、p.914−918
【非特許文献7】「ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス(Japanese Journal of Applied Physics)」、(日本国)、第39巻、2000年、p.775−778
【非特許文献8】「ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス(Japanese Journal of Applied Physics)」、(日本国)、第42巻、2003年、p.912−914
【特許文献1】特開平3−63943号公報
【特許文献2】特開平2−132656号公報
【特許文献3】特開昭57−501980号公報
【特許文献4】特開2002−301870号公報
【特許文献5】特開平4−182944号公報
【特許文献6】特開2004−30864号公報
【特許文献7】特開2003−266954号公報
【特許文献8】特開2001−331936号公報
【特許文献9】特表2005−504649号公報
【特許文献10】国際公開06/009107号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
ところで、開発の先行する膜面入射型の相変化型媒体では、入射光側から見たカバー層溝部に記録マークを形成する。これは、入射光側から見れば、従来の基板上の基板溝部への記録と同じであり、CD−RW、DVD−RWとほとんど同じ層構成で実現できることを意味し、実際、良好な特性が得られている。他方、色素を主成分とする記録層、特に塗布型の場合、カバー層溝部への記録は容易ではない。通常、基板上のスピンコートでは、基板における溝部に、色素がたまりやすいからである。たとえ、基板溝間部に色素が適当な膜厚塗布されたとしても、通常は、基板溝部にも相当量の色素がたまる為、カバー層溝部に形成した記録ピット(記録マーク)が、カバー層溝間部にもはみ出しやすく、このため、クロストークが大きくなりトラックピッチが詰められないため、高密度化に限度がある。
【0018】
しかし、前述した公知文献においては、ほとんどが、従来どおり、入射光側からみて近い側のカバー層溝部への記録により反射光強度が低下することを主眼としている。あるいは、溝部の段差による反射光の位相の変化を考慮しない単に平面状態でおきる反射率低下に注目している。あるいは、位相差を極力使わない平面状態での反射率変化を利用することを前提としている。このような前提条件では、カバー層溝部記録でのクロストークの問題は解決できず、溶液塗布による記録層形成プロセスになじまない。つまり、位相変化を有効に活用してカバー層溝間部への良好な記録特性を実現しているとはいえない。特に、マーク長変調記録において、最短マーク長から最長マーク長までの全マーク長に対して、実用的な記録パワーマージンを有し、良好なジッター(Jitter)特性を実現した例はなかった。本発明者等の一部は、特許文献10において、入射光側から見て遠い側の基板溝部への記録により反射光強度が増加する光記録媒体を開発したが、ジッターや記録感度など、すべての特性を満足するためには、更なる改善が必要な状況であった。
【0019】
このように、いまだ、従来のCD−R、DVD−Rに匹敵する高性能、低コストの色素を主成分とする記録層を有する青色レーザ対応、膜面入射型追記型媒体は知られていないのが現状である。
【0020】
また、消衰係数が0.5〜1.3程度と大きなポルフィリン色素を主成分とする記録層を有する青色レーザ対応の膜面入射型媒体について検討された結果(特開2004−160742号公報)があるが、記録の特性について、実用的な指標であるジッターやプッシュプル信号については良好な値を実現した例はない。その理由は以下の通りである。
【0021】
ここで、記録再生光波長λにおける記録層の未記録状態(記録前)の光学特性は、複素屈折率nd*=nd−i・kdで表し、実部ndを屈折率、虚部kdを消衰係数と呼ぶ。記録ピット部、即ち、記録後には、ndがnd’=nd−δndに、kdがkd’=kd−δkdに変化するものとする。
【0022】
さらに、以下で用いる反射率と反射光強度という2つの言葉の区別を説明する。反射率とは、平面状態で2種の光学特性の異なる物質間で生じる光の反射において、入射エネルギー光強度に対する、反射エネルギー光強度の割合である。記録層が平面状であっても、光学特性が変化すれば、反射率が変化する。一方、反射光強度は、集束された記録再生光ビームと対物レンズを介して記録媒体面を読んだときに、ディテクター上に戻ってくる光の強度のことである。
【0023】
ROM媒体において、ピット部、未記録部(ピット周辺部)は同一の反射層で覆われているから、反射膜の反射率は、ピット部、未記録部で同じである。一方、ピット部で生じる反射光と未記録部の反射光との位相差のために、干渉効果によって、記録ピット部で反射光強度が変化して見える(通常は、低下して見える)のである。このような干渉効果は、記録ピットが局所的に形成され、記録再生光ビーム径内部に、記録ピット部とその周辺の未記録部が含まれている場合に、記録ピット部と周辺部との反射光が位相差によって干渉して起きる。一方、記録ピット部でなんらかの光学的変化を生じる記録媒体においては、凹凸がない平面状態であっても記録膜それ自体の複素屈折率変化によって、反射率変化が生じる。これを、本実施の形態においては「平面状態で生じる反射率変化」という。言い換えると、記録膜平面全体が記録前の複素屈折率か記録後の複素屈折率かによって、記録膜に生じる反射率変化のことであり、記録ピットとその周辺部の反射光の干渉を考慮しなくても生じる反射光強度変化である。一方、記録層の光学的変化が局所的ピット部である場合、記録ピット部の反射光の位相と、その周辺部の反射光の位相が異なる場合に、反射光の2次元的干渉が生じて反射光強度が記録ピット周辺部で局所的に変化して見える。
【0024】
このようにして、本実施の形態では、位相の異なる反射光の2次元的干渉を考慮しない反射光強度変化を「平面状態で生じる反射光強度変化」あるいは「平面状態の反射光強度変化」とし、記録ピットとその周辺部の位相の異なる反射光の2次元的干渉を考慮した反射光強度変化を「位相差によって生じる(局所的)反射光強度変化」、あるいは、「位相差による反射光強度変化」として、両者を区別して考える。
一般的に、「位相差による反射光強度変化」によって、十分な反射光強度変化、つまり、記録信号の振幅(あるいは、光学的コントラスト)を得ようとすると、記録層22自体の屈折率変化が、非常に大きくなければならない。例えば、CD−RやDVD−Rでは、色素記録層の記録前屈折率の実部が2.5〜3.0であり、記録後には、1〜1.5程度になることが求められる。また、色素記録層の記録前複素屈折率の虚部kdは0.1程度よりは小さいことが未記録状態でのROM互換の高反射率を得る上で好ましいとされていた。また、記録層22の膜厚が50nm〜100nmと厚めであることが必要であった。その程度の厚みが無いと大部分の光が記録層22内を通過してしまい、十分な反射光強度変化とピット形成に必要な光吸収が起こり得ないからである。このように厚い色素記録層ではピット部での変形による局所的位相変化は、補助的に用いられているに過ぎない。他方、前述のROM媒体では、記録ピット部での局所的屈折率変化はなく、「位相差による反射光強度変化」のみが検出されていると考えられる。良好な記録品質を得るためには、記録ピット部での反射光強度変化が、上記2種類の反射光強度変化が混合して起きる場合、両者が強めあうことが望ましい。2種類の反射光強度変化が強めあうとは、それぞれで生じる反射光強度の変化の方向、つまり、反射光強度が増加するか低下するか、が、そろっているということである。
【0025】
さて、記録層の複素屈折率のうち、消衰係数kdの低下は、「平面状態の反射光強度変化」において、反射率の増加、よって、反射光強度の増加をもたらす。従来のCD−R,DVD−Rでは、上記のようにこの消衰係数の変化は、記録ピット部での反射光強度の低下を利用して記録(以下、HtoL記録と呼ぶことがある)しているので好ましいものではなかった。このため、未記録でのndが大きくてkdが小さくなる傾向にある、主吸収帯の長波長側に記録再生光波長がくるようにして利用していたのである。このような色素の利用方法では、前述のようなndが2.5〜3程度という大きな値が必要となるが、400nm近傍でこのような大きなndを有する色素は実際上得がたく、従来の記録原理をそのまま利用していては、良好な記録特性が得られないという問題があった。
【0026】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものである。
即ち、本発明の目的は、ジッター特性やトラッキング特性に優れ、良好な記録再生特性を有する、極めて高密度記録が可能な光記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明者等は上記課題に鑑みて、特定の構造を有するポルフィリン色素を主成分とする記録層を有する青色レーザ対応の膜面入射型媒体について鋭意検討を行なった。その結果、記録再生光ビームが前記カバー層に入射する面から遠い側の案内溝部を記録溝部とし、この記録溝部に形成された記録ピット部の反射光強度を、当該記録溝部における未記録時の反射光強度より高くなるように記録(以下、LtoH記録と呼ぶことがある)すれば、良好な記録特性を有する膜面入射型媒体を得ることができることを見出した。
【0028】
即ち、本発明の趣旨は、案内溝が形成された基板と、
前記基板上に、光反射機能を有する層と、
下記一般式[I]で表されるポルフィリン化合物を主成分とする記録層と、
前記記録層に入射する記録再生光を透過し得るカバー層とをこの順に備える光記録媒体において、
前記記録再生光波長λが350nm〜450nmであり、
前記記録再生光を集束して得られる記録再生光ビームが前記カバー層に入射する面から遠い側の案内溝部を記録溝部とするとき、
前記記録溝部に形成された記録ピット部の反射光強度が、当該記録溝部における未記録時の反射光強度より高くなることを特徴とする光記録媒体に存する(請求項1)。
【化1】
(一般式[I]中、Ara1〜Ara4は各々独立に芳香環を表し、それぞれ複数の置換基を有していてもよい。
Ra1〜Ra8は各々独立に水素原子もしくは任意の置換基を表し、
Maは2価以上の金属カチオンを表す。但し、Maが3価以上の場合、分子全体が中性となるように該分子は更にカウンターアニオンを有していても良い。)
【0029】
また、当該記録ピット部において、前記記録層の内部または当該記録層に隣接する層との界面に空洞を形成し、かつ、前記記録層が前記カバー層側へ膨らむ形状変化を伴うことが好ましい(請求項2)。
【0030】
また、前記記録層が一般式[II]で表されるテトラアリールポルフィリン化合物を主成分とすることが好ましい(請求項3)。
【化2】
([II]式中、X1〜X4は各々独立に価数が4以上の原子を表し、X1〜X4が価数5以上の原子の場合、X1〜X4は更に任意の置換基を有していてもよく、X1〜X4が価数6以上の原子の場合、各々=Q1〜=Q4を2個有していてもよく、その場合において、該2個のQ1〜Q4は同一のものであってもよく、異なるものであってもよい。
Q1〜Q4は、各々独立に周期律表第16族原子を表す。
Ar1〜Ar4は各々独立に芳香環を表し、それぞれX1〜X4以外の置換基を有していてもよい。
R1〜R8は各々独立に炭素数20以下の有機基を表し、
R9〜R16は各々独立に水素原子もしくは電子吸引性置換基を表し、
Mは、2価以上の金属カチオンを表す。但し、Mが3価以上の場合、分子全体が中性となるように該分子は更にカウンターアニオンを有していても良い。
なお、R1およびR2、R3およびR4、R5およびR6、R7およびR8はそれぞれ結合して環を形成していてもよい。)
【0031】
また、前記記録層と前記カバー層との間に、当該記録層の材料と当該カバー層の材料との混合を防止する界面層を更に設けることが好ましい。(請求項4)
【0032】
また、前記光反射機能を有する層と前記記録層との間に中間層を更に設けることが望ましい。(請求項5)
【0033】
さらに、前記中間層は、Ta、Nb、V、W、Mo、Cr、及びTiからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含有することが望ましい。(請求項6)
【0034】
また、前記光反射機能を有する層の前記記録層側の界面を反射基準面とし、前記記録ピット部を形成しない案内溝部を記録溝間部とした時、前記反射基準面で規定される前記記録溝部と前記記録溝間部との段差dGLは、30〜70nmであることが好ましい(請求項7)。
【発明の効果】
【0035】
かくして本発明によれば、良好なジッター特性を有する、極めて高密度記録が可能な光記録媒体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、発明の実施の形態)について説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することが出来る。
図2は、本発明の実施の形態に係る光記録媒体の層構成を模式的に示す部分断面図である。図2に示す光記録媒体20(本実施形態の光記録媒体)は、膜面入射構成の追記型光記録媒体であって、案内溝を形成した基板21上に、少なくとも反射機能を有する層(反射層23)と、図2において後述するように、未記録(記録前)状態において記録再生光に対して吸収を有する色素を主成分とする光吸収機能を有する記録層22、及びカバー層24が順次積層された構造を有し、記録再生を、カバー層24側から対物レンズ28を介して集光された記録再生光ビーム27を入射して行う。即ち、光記録媒体20は、「膜面入射構成」(Reverse stackともいう)をとる。以下においては、反射機能を有する層を単に「反射層23」、色素を主成分とする光吸収機能を有する記録層を単に「記録層22」と呼ぶ。前述したように、図1を用いて説明した従来構成を「基板入射構成」と呼ぶ。
【0037】
図2で説明する膜面入射構成のカバー層24側に記録再生光ビーム27を入射するに当たり、高密度記録のために、通常、開口数(以下、NAと記載)=0.6〜0.9程度の高NAの対物レンズが用いられる。記録再生光波長λは、本発明においては、特に、350nm〜450nmの波長域を用いることが好ましい。
【0038】
本実施の形態においては、図2において、記録再生光ビーム27のカバー層24への入射面(記録再生光ビームが入射する面29)から見て遠い側の案内溝部(記録再生光ビームが入射する面から遠い側の案内溝部)を記録溝部とし、記録溝部に形成した記録ピット部の反射光強度が記録溝部の未記録時の反射光強度より高くなるような記録を行う。その主たるメカニズムは、反射光強度の増加が前記記録ピット部での消衰係数の減少と反射光の位相変化による。反射光の位相変化とは、記録溝部における反射光の往復光路長の記録前後での変化のことである。
【0039】
ここで、膜面入射型の光記録媒体20では、記録再生光ビーム27のカバー層24への入射面(記録再生光ビームが入射する面29)から遠い案内溝部(基板21の溝部と一致)をカバー層溝間部(in−groove)25、記録再生光ビーム27が入射する面29から近い案内溝間部(基板21の溝間部と一致)をカバー層溝部(on−groove)26と呼ぶことにする(on−groove、in−grooveの呼称は、非特許文献2による。)。
【0040】
より具体的には、以下のような工夫をすることにより、本発明を実現することができる。
(1)未記録状態のカバー層溝間部からの反射光とカバー層溝部からの反射光の位相の差Φが、概ねπ/2〜πとなるような深さの溝を基板21に形成し、カバー層溝間部(in−groove)での記録層膜厚を該溝深さより薄くなるような薄膜とし、他方、カバー層溝部(on−groove)での膜厚がほとんどゼロとなる非常に薄い色素を主成分とする記録層22を設ける。該カバー層溝間部に、カバー層側から記録再生光ビームを照射して、該記録層に変質を生じさせ、記録ピットにおいて、位相変化による反射光強度の増加を利用する。これにより、膜面入射構造において、従来のon−groove、HtoL記録に比べ、塗布型色素媒体の性能が大幅に改善される。また、クロストークの小さな高トラックピッチ密度(例えば、0.2μm〜0.4μm)での記録が可能となる。また、そのような高トラックピッチの溝の形成が容易となる。
なお、塗布型(スピンコート)による色素媒体では、色素が基板溝部に優先的にたまるという特徴があるので、カバー層溝間部(in−groove)での記録層膜厚を該溝深さより薄くなるような薄膜とし、他方、カバー層溝部(on−groove)での膜厚がほとんどゼロとなる非常に薄い色素記録層が自然と形成されやすいというプロセス上の利点もある。
【0041】
(2)記録ピット部での屈折率の変化に、記録層22内部もしくはその界面部での空洞形成を利用する。空洞内部においては、nd’≒1、kd’≒0とみなせる。また、記録層22がカバー層24方向に膨らむ変形をあわせて用いるのが好ましく、カバー層24の少なくとも記録層22側には、ガラス転移点が室温以下の粘着剤等からなる柔らかい変形促進層を形成して、前記変形を助長する。これにより、記録により反射光強度が増加するような位相変化の方向がそろい(記録信号波形の歪が無くなる)、かつ、比較的小さな屈折率変化でも位相変化量(記録信号振幅)を大きくできる。さらに、記録層の消衰係数の減少を積極的に利用し平面状態で生じる反射率変化による反射光強度の増加も合わせて用いることができる。
以上により、案内溝が形成された基板と、前記基板上に、少なくとも、光反射機能を有する層と、未記録状態において記録再生光波長に対して光吸収機能を有する色素を主成分として含有する記録層と、前記記録層に対して記録再生光が入射するカバー層と、をこの順に具え、前記記録再生光を集束して得られる記録再生光ビームが前記カバー層に入射する面から遠い側の案内溝部を記録溝部とするとき、前記記録溝部に形成された記録ピット部の反射光強度が、当該記録溝部における未記録部の反射光強度より高くなっている光記録媒体が実現でき、該記録ピット部から高変調度かつ歪みの無いLtoH極性の記録信号を得られるという特徴がある。
【0042】
(3)記録層の主成分となる光吸収機能を有する色素として、前記一般式[I]で表されるポルフィリン化合物を用いる。
本ポルフィリン化合物は、記録再生光波長である400nm近傍より長波長側に非常に急峻で大きな主吸収帯を有するため、記録再生波長が400nm近傍の光記録媒体として用いる場合に、以下のような利点がある。本ポルフィリン化合物は、記録前の消衰係数が0.5−1.3程度と比較的大きく、記録後には効率よく分解されて空洞を形成するのでほぼゼロ近くまで低下する。すなわち、記録前後における消衰係数の減少変化量が非常に大きい。このため、記録ピット部で吸収光量が大幅に減少し、他方、反射光強度が顕著に増加するので、記録後に記録ピット部で反射光強度が増加する記録方式において、大きな信号振幅が得られやすい。さらに、消衰係数が大きいために記録時に光がよく吸収されるため、記録時のパワーを効率よく使用できることになり、記録感度を良好に出来るという利点もある。他方、屈折率が0.5−1程度と比較的小さい色素を選択できる特徴がある。記録溝部に色素がうまった場合に計算される光学的な溝深さは、溝の絶対的な深さと屈折率の積できまり、この値は同じ溝の深さを用いた場合は、屈折率の値で変動する。屈折率が小さい場合、光学的な溝深さは小さくすることが可能で、このため、ジッター特性が良好にえられるように工夫した構成においても、トラッキング信号をトラッキングが外れない範囲でコントロールしやすいので、すでに発売されているたとえば無機材料記録層を用いたブルーレイ・ディスクのトラッキング信号と比べた場合、同程度の信号特性が得られ、光記録再生装置で本願発明の記録媒体を使用する場合に互換性を確保しやすい。
本願の構成を有するポルフィリン化合物は、また、フッ素アルコール等に可溶化しやすく、スピンコート法による量産プロセスに適している。
【0043】
ここで、以下の説明のために、反射基準面を定義する。反射基準面としては、主反射面となる反射層の記録層側界面(表面)をとる。主反射面とは、再生反射光に寄与する割合が最も高い反射界面をさす。本実施の形態が適用される光記録媒体20を示す図2において、主反射面は記録層22と反射層23との界面にある。なぜなら、本実施の形態が適用される光記録媒体20において対象とする記録層22は、比較的薄く、且つその吸収率が低いために、大部分の光エネルギーは記録層22をただ通過し、反射面との境界に達しうるからである。尚、他にも反射を起こしうる界面があり、再生光の反射光強度は、各界面からの反射光強度と位相の全体の寄与で決まる。本実施の形態が適用される光記録媒体20では、主反射面での反射の寄与が大部分であるため、主反射面で反射する光の強度と位相だけを考慮すればよい。このため、主反射面を反射基準面とするのである。
【0044】
本実施の形態においては、先ず、図2において、カバー層溝間部25へピット(マーク)を形成する。それは、主として製造が容易なスピンコート法で形成された記録層22を利用するためである。逆に、塗布法を利用することで、自然に、カバー層溝間部(基板溝部)25の記録層膜厚がカバー層溝部(基板溝間部)26の記録層膜厚より厚くなるとはいえ、その厚みが「平面状態の反射光強度変化」のみで、十分な反射光強度変化を得られるほどは厚くなく、「干渉を考慮した反射光強度変化」をあわせ用いることにより、比較的薄い記録層膜厚でカバー層溝間部25に形成されたピット部で大きな反射光強度変化(高変調度)が実現できるのである。
【0045】
本実施の形態においては、記録ピット部における反射光の位相の変化を利用するにあたっては、図2の反射基準面で構成されるカバー層溝間部25とカバー層溝部26の段差が、記録後には記録前より光学的に浅く見えるような変化を生じさせることを特徴とする。その際に、トラッキングサーボを安定化させるために、先ず、プッシュプル信号の反転を生じさせず、かつ、記録前の反射光強度にくらべて記録後の反射光強度が増加するような位相変化を記録ピットにおいて生じさせる。
【0046】
図2に示す本実施の形態が適用される膜面入射構成の光記録媒体20の層構成を、従来構成として説明した図1における基板入射構成の光記録媒体10と比較しながら説明する。ここで、図1に示す光記録媒体10及び図2に示す光記録媒体20の層構成を、反射基準面で反射される光の位相に注目して区別して説明するために、図1で基板溝部16へ記録する場合、図2でカバー層溝間部25、カバー層溝部26に記録する場合のそれぞれに対応して、図3、図4、図5を用いて検討を行う。
【0047】
図3は、従来構成である図1の基板入射構成の基板11側から入射する記録再生光ビーム17の反射光を説明するための図である。
図4は、膜面入射型媒体(光記録媒体20)の層構成とカバー層溝間部25に記録する場合の位相差を説明する図である。
図5は、膜面入射型媒体(光記録媒体20)の層構成とカバー層溝部26に記録する場合の位相差を説明する図である。
即ち、図4及び図5は、図2の膜面入射構成の光記録媒体20において、膜面入射構成のカバー層24の入射面28側から入射する記録再生光ビーム27の反射光を説明するための図である。図4が、本実施の形態が適用される光記録媒体20におけるカバー層溝間部(基板溝部)25にピットを形成する。図5は、本発明効果の対比説明のために、同じ膜面入射構成でありながら、カバー層溝部(基板溝間部)26にピットを形成する。
【0048】
図3、図4、図5では、それぞれ、(a)が記録前、(b)が記録後の記録ピットを含む断面図である。以下において、記録ピットを形成するほうの溝ないし溝間部を、「記録溝部」、その間を「記録溝間部」と称する。即ち、従来構成の図3においては、基板溝部16が「記録溝部」であり、記録溝間部15が「記録溝間部」である。また、本発明に係る図4においては、カバー層溝間部25が「記録溝部」であり、カバー層溝部26が「記録溝間部」となる。他方、対比説明である図5においては、カバー層溝部26が「記録溝部」であり、カバー層溝間部25が「記録溝間部」となる。
【0049】
先ず、記録溝部の反射光と記録溝間部の反射光の位相差を求めるに当たり、位相の基準面をA−A’で定義する。図3,図4,図5において、それぞれの未記録状態の図(a)においては、A−A’は、それぞれ、記録溝部における記録層12/基板11界面(図3(a))、記録溝間部における記録層22/カバー層24界面(図4(a))、記録溝部における記録層22/カバー層24界面(図5(a))に対応している。一方、図3,図4,図5の記録後状態の図(b)においては、A−A’は、それぞれ、記録溝部における記録層12(混合層16m)/基板11界面(図3(b))、記録溝間部における記録層22/カバー層24界面(図4(b))、記録溝部における記録層22(混合層26m)/カバー層24界面(図4(b))に対応している。A−A’面より手前(入射側)では、光路によって光学的な差は生じない。また、記録前の記録溝部における反射基準面をB−B’、記録前の基板21(図3)もしくはカバー層24(図4)の記録溝部底面(記録層12/基板11、記録層22/カバー層24界面)をC−C’で定義する。図3及び図5の記録前においては、A−A’とC−C’は一致する。
【0050】
記録前の基板溝部での記録層厚みをdG、基板溝間部での厚みをdLとし、反射基準面での記録溝部と記録溝間部の段差をdGL、基板表面での記録溝間部の段差をdGLSとする。図3の場合には、dGLは、記録層12の記録溝部での埋り方に依存し、dGLSと異なる値となる。図4、図5の場合には、反射層23の記録溝部と記録溝間部での被覆具合によるが、通常は、反射層23は、記録溝部と記録溝間部でほぼ同じ膜厚となるので、基板21表面での段差がそのまま反映されるので、dGL=dGLSである。
【0051】
基板11,21の屈折率をns、カバー層24の屈折率をncとする。記録ピットの形成により、一般的には、以下のような変化が生じる。記録ピット部16p,25p,26pにおいて記録層12,22の屈折率は、ndからnd’=nd−δndに変化する。また、記録ピット部16p,25p,26pにおいて、記録層12,22その入射側界面において、記録層12と基板11もしくは基板21とカバー層24材料との間に混合が生じ、混合層が形成される。さらに、記録層12,22が体積変化を起こして、反射基準面(記録層/反射層界面)の位置が移動する。尚、通常は、有機物である基板11,21もしくはカバー層24材料と金属である反射層材料との間での混合層形成は無視できる程度である。そこで、記録層12/基板11(図1)、記録層22/カバー層24(図2)間で記録層12と基板11もしくは記録層22とカバー層24材料の混合がおき、厚さdmixの混合層16m,25m,26mが形成されるものとする。また、混合層16m,25m,26mの屈折率を、ns’=ns−δns(図3(b))、nc’=nc−δnc(図4(b)、図5(b))とする。
【0052】
この際、記録層12/基板11あるいは、記録層22/カバー層24界面は、C−C’を基準として、記録後は、dbmpだけ移動する。dbmpは図3,図4,図5に示すように、記録層12,22内部へ移動する方向を正とする。逆にdbmpが負であれば、記録層12,22がC−C’面を超えて、膨張することを意味する。また、もし、図3の記録層12/基板11、図4、図5の記録層22/カバー層24間に両者の混合を妨げる界面層を設けた場合には、dmix=0となりうる。但し、記録層12,22の体積変化によりdbmpの変形は生じうる。色素混合が起きない場合の基板21またはカバー層24のdbmp変形に伴う屈折率変化の影響は、小さく無視できると考えられる。
【0053】
他方、記録溝部での反射基準面の移動量を記録前の反射基準面の位置B−B’を基準としてdpitとする。dpitは、図3,図4,図5に示すように、記録層12,22が収縮する方向(反射基準面が記録層12,22内部へ移動する方向)を正とする。逆にdpitが負であれば、記録層12,22がB−B’面を超えて、膨張することを意味する。記録後の記録層膜厚は、
dGa=dG−dpit−dbmp (1)
となる。尚、dGL、dG、dL、dmix、nd、nc、ns、dGaは、その定義及び、物理的特性から負の値をとらない。
このような記録ピットのモデル化や、以下で述べる位相の見積もり方法は公知の方法を用いた(非特許文献1)。
【0054】
さて、位相の基準面A−A’における記録溝部と記録溝間部の再生光(反射光)の位相差を記録前と記録後で求める。記録前における記録溝部と記録溝間部の反射光の位相差をΦb、記録後、記録ピット部16p,25p,26pと記録溝間部の反射光の位相差をΦaとし、Φで総称する。いずれも、
Φ=Φb又はΦa
=(記録溝間部の反射光位相)−(記録溝部(記録後はピット部を含む)の位相) (2)
Φ=Φb又はΦa
=(2π/λ)・2・{(記録溝間部光路長)−(記録溝部(記録後はピット部を含む)の光路長)} (3)
として定義する。
【0055】
ここで、(3)式において係数2が掛かっているのは、往復の光路長を考えるためである。
図3においては、
Φb1=(2π/λ)・2・(ns・dGL+nd・dL−nd・dG)
=(4π/λ)・{ns・dGL−nd・(dG−dL)} (4)
Φa1=(2π/λ)・2・{ns・dGL+ns・(dmix−dbmp)+nd・dL−〔(nd−δnd)・(dG−dpit−dbmp)+(ns−δns)・dmix〕}
=Φb1+ΔΦ (5)
但し、
ΔΦ=(4π/λ){(nd−ns)・dbmp+nd・dpit+δns・dmix+δnd・(dG−dpit−dbmp)} (6)
である。また、記録溝部が入射側から見て記録溝間部より手前にあるから、Φb1>0である。
【0056】
一方、図4においては、
Φb2=(2π/λ)・2・{nd・dL−〔nd・dG+nc・(dL+dGL−dG)〕}
=(4π/λ)・{(nc−nd)・(dG−dL)−nc・dGL} (7)
Φa2=(2π/λ)・2・{(nd・dL−〔nc・(dL+dGL−dG+dbmp−dmix)+(nd−δnd)・(dG−dpit−dbmp)+(nc−δnc)・dmix〕)
=Φb2+ΔΦ (8)
但し、
ΔΦ=(4π/λ){(nd−nc)・dbmp+nd・dpit+δnc・dmix+δnd・(dG−dpit−dbmp)} (9)
である。また、記録溝部が入射側から見て記録溝間部より奥にあるから、Φb2<0である。
【0057】
さらに、図5においては、
Φb3=(2π/λ)・2・{nd・dG+nc・(dL+dGL−dG)−nd・dL}
=(4π/λ)・{(nd−nc)・(dG−dL)+nc・dGL} (10)
Φa3=(2π/λ)・2・{nd・dG+nc・(dL+dGL−dG)+nc・(dmix−dbmp)−〔(nd−δnd)・(dL−dpit−dbmp)+(nc−δnc)・dmix〕}
=Φb3+ΔΦ (11)
但し、
ΔΦ=(4π/λ){(nd−nc)・dbmp+nd・dpit+δnc・dmix+δnd・(dL−dpit−dbmp)} (12)
である。また、記録溝部のほうが入射側から見て記録溝間部より手前にあるから、Φb3>0である。
【0058】
ΔΦが、記録により生じたピット部での位相変化であり、(12)式でdLとdGが入れかわっていることを除けば、いずれの場合も同じ式で表現できる。また、以後、Φb1、Φb2、Φb3を総称してΦbで表し、Φa1、Φa2、Φa3を総称してΦaであらわす。
ΔΦによって生じる信号の変調度mは、
m∝1−cos(ΔΦ)=sin2(ΔΦ/2) (13)
≒(ΔΦ/2)2 (14)
となる。最右辺(14)はΔΦが小さい場合の近似である。
【0059】
|ΔΦ|が大きければ、変調度は大きくなるのであるが、通常は、記録による位相の変化|ΔΦ|は、0からπの間にあり、通常はπ/2程度以下であると考えられる。実際上、従来のCD−R、DVD−Rをはじめとする従来の色素系記録層では、そのような大きな位相変化は報告されておらず、また、前述のように青色波長域では、色素の一般的特性から尚さら位相変化は小さくなる傾向にあるからである。逆に、|ΔΦ|がπを超える変化は、記録前後でプッシュプルの強制を反転させる可能性、プッシュプル信号の変化が大きくなりすぎる可能性があり、トラッキングサーボの安定性維持の面から好ましくない。
【0060】
ここで、図6は、記録溝部と記録溝間部の位相差と反射光強度の関係を説明する図である。図6では、|Φ|と記録前後の記録溝部における反射光強度の関係が示されている。ここでは、簡単のため、記録層12,22の吸収の影響は無視している。図3、図5の構成では、通常、Φb>0となるので、ΔΦ>0なる場合が、図6の|Φ|が増加する方向である。つまり、Φbが増加してΦaとなることを示す。
【0061】
一方、図4の構成では、通常、Φb<0となるので、ΔΦ<0なる場合が、図6の|Φ|が増加する方向である。つまり、図6における横軸に(−1)を乗じたものに相当する。よって、|Φb|が増加して|Φa|となることを示す。
【0062】
平面状態(dGL=0)での記録溝部の反射率をR0とすると、|Φ|が大きくなるにつれ、記録溝部と記録溝間部の反射光の位相差Φbから干渉効果が生じ、反射光強度が低下していく。そして、位相差|Φ|がπ(半波長)と等しくなると、反射光強度は極小値となる。さらに、|Φ|がπを超えて増大すると、反射光強度は増加に転じ、|Φ|=2πで極大値をとる。
【0063】
ここで、プッシュプル信号強度は、位相差|Φ|が、π/2の時に最大となり、πのときに極小となって、極性が反転する。以後、再び増加・減少し、2πにおいて極小となって再び極性が逆転する。以上の関係は、位相ピットによるROM媒体における、ピット部の深さ(dGLに相当)と反射率の関係とまったく同様である(非特許文献5)。
【0064】
以下に、プッシュプル信号について若干の説明をする。
図7は、記録信号(和信号)とプッシュプル信号(差信号)を検出する4分割ディテクターの構成を説明するための図である。4分割ディテクターは、4つの独立した光検出器からなり、それぞれの出力をIa、Ib、Ic、Idとする。図7の記録溝部及び記録溝間部からの0次回折光及び1次回折光は、4分割ディテクターにて受光され、電気信号に変換される。4分割ディテクターからの信号から、下記の演算出力を得る。
Isum=(Ia+Ib+Ic+Id) (15)
IPP=(Ia+Ib)−(Ic+Id) (16)
なる演算出力が得られる。
【0065】
また、図8は、実際に、複数の溝部、溝間部を横断しながら得られる出力信号を低周波通過フィルター(カットオフ周波数30kHz程度)を通過させた後に検出する信号を示す図である。
図8において、Isump-pは、Isum信号のpeak−to−peakでの信号振幅である。IPPp-pは、プッシュプル信号のPeak−to−peakの信号振幅である。プッシュプル信号強度とは、IPPp-pのことをいい、プッシュプル信号IPPそのものとは区別する。
トラッキングサーボは、図8(b)のプッシュプル信号(IPP)を誤差信号として、フィードバック・サーボを行う。図8(b)で、たとえば、IPP信号の極性が、+から−に変化する0クロス点を、記録溝部中心に対応させ、−から+に変化する0クロス点を、記録溝間部に対応させるとき、プッシュプルの極性が反転するとは、この符号の変化が逆になることである。符号が逆になると、記録溝部にサーボがかかった(即ち、集光ビームスポットが記録溝部に照射される)つもりが、逆に記録溝間部にサーボがかかるような不都合を起こす。
【0066】
記録溝部にサーボがかかったときのIsum信号が、記録信号であり、本実施の形態では、記録後に増加する変化を示す。
ここで、
IPPactual=[{(Ia+Ib)(t)−(Ic+Id)(t)}/{(Ia+Ib)(t)+(Ic+Id)(t)}]p-p
={IPP(tb)/Isum(tb)}−{IPP(ta)/Isum(ta)}
(ここで、taはIPPが最小値となる時間であり、tbはIPPが最大値となる時間である。) (17)
なる演算出力は、規格化プッシュプル信号強度(IPPactual)という。
実際に光記録再生装置がトラッキングサーボをかけるためのプッシュプル信号は、瞬時、瞬時に測定された、Isum、IPPの値から計算した信号である規格化プッシュプル信号を使用することが多い。
【0067】
図6に示すような位相差と反射光強度の関係は、上記(13)式からも分かるように、周期的である。記録前後での|Φ|の変化、即ち|ΔΦ|は、色素を主成分とする媒体では、通常、(π/2)程度より小さい。逆に、本実施の形態では、記録による|Φ|の変化は、最大でもπ以下であるとする。そのために、必要なら、記録層膜厚を適宜薄くすればよい。
【0068】
ここで、位相基準面A−A’からみて、記録ピット部16p,25p,26pの形成により記録溝部の反射光の位相(あるいは光路長)が記録前より小さくなった場合(記録前より位相が遅れた場合)、即ち、ΔΦ>0である場合、入射側から見て反射基準面の光学的距離(光路長)は減少し、光源に(あるいは、位相の基準面A−A’に)近寄ったことになる。したがって、図3においては、記録溝部の反射基準面が下方に移動した(dGLが増加)と同等の効果があり、結果として記録ピット部16pの反射光強度は減少する。図4では、逆に記録溝部の反射基準面が上方に移動した(dGLが減少)と同等の効果があり、結果として、記録ピット部25pの反射光強度は増加する。図5では、記録溝部の反射基準面が上方に移動した(dGLが増加)と同等の効果があり、結果として、記録ピット部26pの反射光強度は減少する。
【0069】
一方、位相基準面A−A’からみて、記録ピット部16p,25p,26pの反射光の位相(あるいは光路長)が記録前より大きくなった場合(記録前より位相が遅れた場合)、ΔΦ<0である場合、入射側から見て反射基準面の光学的距離(光路長)は増加し、光源に(あるいは、位相基準面A−A’に)から遠ざかったことになる。図3においては、記録溝部の反射基準面が上方に移動した(dGLが減少)と同等の効果があり、結果として記録ピット部16pの反射光強度は増加する。図4では、逆に記録溝部の反射基準面が下方に移動した(dGLが増加)と同等の効果があり、結果として、記録ピット部25pの反射光強度は減少する。図5では、記録溝部の反射基準面が下方に移動した(dGLが減少)と同等の効果があり、結果として、記録ピット部26pの反射光強度は増加する。ここで、記録ピット部の反射光強度が記録後に減少するか、増加するかという、反射光強度の変化の方向を記録(信号)の極性という。
【0070】
したがって、記録ピット部16p,25p,26pでΔΦ>0となる位相変化がおきるならば、図3、図5の記録溝部においては、記録により反射光強度が低下する「High to Low」(以下、単に、HtoLと記す)となる信号の極性の変化を利用することが好ましく、図4の記録溝部においては、記録により反射光強度が増加する「Low to High」(以下、単に、LtoHと記す)となる極性を利用することが好ましい。他方、ΔΦ<0となる位相変化がおきるならば、図3、図5の記録溝部においてはLtoHとなる極性を利用することが好ましく、図4の記録溝部においてはHtoLとなる極性を利用することが好ましい。以上の関係を表1にまとめて示す。表1は、ΔΦの符号に対して、図3、図4、図5の構成と記録溝部において、HtoL、LtoHいずれの極性の反射光強度変化が好ましいかを示す。
【0071】
【表1】
【0072】
(位相変化ΔΦの好ましい態様について)
本発明においては、図4の場合において、消衰係数の減少による反射光強度と矛盾しないようなLtoH記録を目的としているので、ΔΦ>0であることが好ましい。
つまり、記録信号の極性が、記録パワーや記録ピットの長さ、大きさに寄らず一定であるためには、「平面状態の反射光強度変化」と「干渉を考慮した反射光強度変化」のそれぞれの反射光強度変化がそろっていることが好ましい。
以下において、色素記録層媒体で図4のカバー層溝間部25に記録を行う場合に、ΔΦ>0を実現するための好ましい態様について述べる。
ΔΦにおいて、
Φbmp=(nd−nc)・dbmp (18)
Φpit=nd・dpit (19)
Φmix=δnc・dmix (20)
Φn=δnd・(dG−dpit−dbmp)=δnd・dGa (21)
とすると、Φbmpは、記録層入射側界面の変形(移動)による位相変化、Φpitは記録層22/反射層23界面の変形(移動)による位相変化、Φmixは混合層25m形成による位相変化、Φnは記録層22の屈折率変化による位相変化に対応する。これらの位相変化が大きくて、変化の方向、即ち、Φbmp、Φpit、Φmix、Φnの符号がそろっていることが、変調度を大きくし、かつ、特定の信号極性の信号波形をひずませずに、良好な記録特性を得るために重要なことである。
【0073】
このうち、位相変化の方向をそろえるためには、上記、Φbmp、Φpit、Φmix、Φnに係る複数の物理パラメーターをすべて正確に制御するよりは、できるだけ少ない要素に限定して制御することが望ましい。
先ず、記録層入射側界面に界面層を設けるなどして、dmix=0とすることも好ましい。dmixによる位相差変化は、あまり大きくできないので積極的に利用しにくいだけでなく、その厚みの制御が難しいからである。よって、記録層入射側界面に界面層を設けるなどして、dmix=0とすることが好ましい。
【0074】
次いで、変形に関しては、一箇所に集中し、かつ、一方向に限定されることが好ましい。複数の変形部位よりも、一箇所の変形部位をより正確に制御するほうが良好な信号品質が得られやすいからである。
従って、本実施の形態においては、ΦbmpとΦpitのうちのいずれかと、Φnを主として利用することが好ましい。
【0075】
dpitに関しては、通常は、基板またはカバー層の膨張あるいは、記録層の体積収縮が主要因であるから、dpit>0となることが多い。これは、Φpitには有利ではあるが、dGa、すなわち、Φnには不利である。一方、記録層の吸収は、記録層の厚みの中間部から入射側界面側で最も高くなるので、その部分で最も高温となり、反射層の界面側は、発熱量が相対的に小さい。また、反射層に高放熱性材料を用いれば、その記録層の発熱の影響は、大部分記録層の入射側界面に集中する。発熱が集中するのは、図4では、記録層22のカバー層24側の界面である。したがって図4の構成では、色素の入射側界面、即ちカバー層24との界面に変形が生じる。このため、dpitは自然と小さくなるので寄与は小さい。従来構成とは異なり、基板21側変形の影響は少ないと考えられ、実際上、dpit≒0とみなせる。このことは、むしろ、制御すべき変形要素をdbmpに集約したことがよいことを示唆している。
【0076】
また、Φnに色素の屈折率変化δnd、変形dbmpが寄与している。
この場合、Φnは、(21)式から分かるように、色素の屈折率変化δnd、変形dbmpが寄与しており、ΔΦの大きさと符号に最も重要な要素である。
以下においては、Φpit≒0、Φmax≒0の場合を考察するが、その場合、(18)、(21)式より、
ΔΦ≒Φbmp+Φn=(nd−nc)・dbmp+δnd・(dG−dbmp)
=(nd’−nc)・dbmp+δnd・dG (22)
と表記できる。
【0077】
まず、Φbmpについて考察すると、nd’≒1であり、ncは通常樹脂材料で1.5前後であるから、nd’−nc<0である。したがって、Φbmp>0とするために、dbmp<0でなければならない。これは、カバー層側24側にふくれを生じさせることが好ましいになる。
【0078】
続いて、Φnに係る物理現象のうち、記録層屈折率変化δndの影響を先ず考察する。記録後の記録層膜厚dGaは、その定義上dGa>0であるから、δndの符号が、Φnの符号を支配すると考えられる。本発明においては、色素を主成分とする記録層を用いるが、色素の主吸収帯は、そのもっとも強い吸収波長(吸収のピーク)が、可視光域(概ね400−800nm)にある吸収帯であるとする。主成分となる色素の主吸収端近傍の波長で記録再生を行った場合、通常は、記録層の発熱により、記録層は分解され、吸収が大きく減少するものと考えられる。少なくとも、未記録状態では主吸収帯では、いわゆるクラマース・クローニッヒ型の異常分散が存在し、屈折率n及び消衰係数kの波長依存性が存在すると考えられている。
【0079】
他方、本発明における、記録層主成分とする色素の分解温度は、500℃以下であり、記録光による発熱によって、記録層主成分の色素は、主吸収端を維持できないまでに分解され空洞を形成する。その場合、クラマース・クローニッヒ型の異常分散は存在せず、nd’≒1、kd’≒0とみなせる。
【0080】
ここで、本願で使用しているポルフィリン化合物では、記録再生光波長λの長波長側に急峻で大きな主吸収帯がある。このため、クラマース・クローニッヒの関係により、ndが0.5〜1.2程度となる。記録ピット部での空洞形成で記録後の屈折率nd’≒1となるからδnd<0となる場合が生じることがある。この場合、Φn=δnd・dG<0となる。すなわち、Φn<0というΦbmp>0と位相変化の方向がそろわない項が少し残ってしまう。しかしここで、積極的にdbmp<0を大きくすることで、ΦbmpをΔΦの主成分とすることで、Φnの悪影響を実際上排除して、ΔΦ>0を実現できる。
【0081】
Φbmp>0を大きくするために、dbmp<0なる変形を促進するためには、記録層22の熱変質に熱膨張、分解、昇華による体積膨張圧力が生じることが望ましい。また、記録層22とカバー層24の界面に界面層をもうけて、前記圧力を閉じ込めて、他の層にリークしないようにすることが好ましい。界面層は、ガスバリア性が高く、カバー層24よりも変形しやすいことが望ましい。特に、昇華性の強い色素を主成分として用いると、記録層22部分に局所的に体積膨張圧力が生じ、大きな空洞を形成しやすくする。
【0082】
他方、Φnの寄与を有利にすることを考えると、ndが0.5〜1.2なので、以下のような条件が考えられる。まず、nd<1で、Φn<0の場合は、Φnの寄与を少しでも小さくするには、dGを小さめにするように、色素膜厚は記録できる範囲で薄いほうが望ましい。また、|δnd|=|nd−nd’|≒|nd−1|の値を小さくするためには、ndが1に近いことが望ましい。具体的には、0.7以上であることが望ましく、0.8以上がより望ましい。nd>1で、Φn>0の場合は、位相変化の方向がそろうので、|δnd|=|nd−nd’|≒|nd−1|の値は、大きいほうがよい。本願で使用しているポルフィリン化合物では、ndの上限は、おおむね2程度である。
【0083】
このように、nd’、ncの大小関係とdbmpの符号(変形の方向)の組み合わせを特定の関係に保つこと、ndを特定の範囲にすることが、マーク長によって、記録信号極性(HtoLかLtoH)が逆転したり、混合したりする(微分波形が得られる)現象を防ぐ上で有効である。
【0084】
ここで、ΔΦ>0なる位相変化とプッシュプル信号の関係について考察しておく。従来のCD−RやDVD−Rの類推からカバー層溝部26(図5参照)に対するHtoL記録を行う場合、プッシュプル信号極性が反転しないようにしたければ、dGLとして、往復の光路長が1波長より大きくなる(|Φb3|>2πとなる)ような深い溝段差(「深溝」と称する)か、Φb3がほとんどゼロであり、かろうじてプッシュプル信号が出るような溝段差(「浅溝」と称する)に限られる。深溝の場合、図6の|Φb|>2πなる斜面で、矢印αの方向の位相変化を利用し、光学的に溝が深くなるようにする。この場合、矢印の始点となる溝深さは、400nm前後の青色波長では100nm程度が必要で、前述のように狭トラックピッチでは、成形時に不良転写がおきやすく、量産に困難を伴う。また、たとえ、所望の溝形状が得られても、溝壁の微小な表面粗さによるノイズが信号に混入しやすい。さらに、溝底部、側面の壁に反射層23を均等に形成するのが困難である。反射層23自体の溝壁への密着性も悪く、剥離等の劣化が起こりやすい。このように、「深溝」を用いた従来方式でΔΦ>0なる位相変化を利用して、HtoL記録を行おうとすると、トラックピッチを詰めるのに困難が伴う。
【0085】
一方、浅溝の場合は、図6の|Φ|=0〜πの間の斜面で矢印βの方向の位相変化を使用し、光学的に溝が深くなるようにすることで、HtoL記録となる。未記録状態である程度のプッシュプル信号強度を得ようとすれば、溝深さは、青色波長では、20nm〜30nm程度となる。このような状態で記録層22を形成した場合、平面状態と同じく、記録溝部(この場合、カバー層溝部26)にも溝間部にも同等に記録層膜厚が形成されやすく、記録ピットが記録溝部からはみ出しやすいし、記録ピットからの回折光が隣接記録溝に漏れこんで、クロストークが非常に大きくなってしまう。同様に、従来方式でΔΦ>0なる位相変化を利用して、HtoL記録を行おうとすると、トラックピッチを詰めるのに困難が伴うのである。
【0086】
本発明者等は、膜面入射型色素媒体に好ましい構成は、従来の、「深溝」を用いたHtoL記録ではなく、図6において、矢印γの方向の位相変化、従って、後述の「中間溝」を用いたLtoHなる記録極性の信号を得るものであることを見出したのである。即ち、記録再生をカバー層24側から記録再生光を入射して行う光記録媒体20であって、記録再生光ビーム27がカバー層24に入射する面(記録再生光ビーム27が入射する面29)から遠い側の案内溝部を記録溝部とするとき、記録溝部に形成した記録ピット部の反射光強度が記録溝部の未記録時の反射光強度より高くなるような媒体及び記録方法である。
【0087】
尚、本実施の形態において重要なことは、上記、記録層屈折率の変化、空洞の形成等によるピット部での屈折率変化、記録層22内部もしくはその界面での変形が、すべて、主反射面である反射層23の記録再生光入射側で起きているということである。
【0088】
図4に示すような膜面入射構成で、記録再生光ビーム27(図2)の入射する面29(図2)から遠い側の案内溝部を記録溝部とするとき、ΔΦ>0となるような位相変化を利用してLtoH記録を行う。
そのためには、先ず、前記記録ピット部25pにおいて、前記記録層が前記カバー層側へ膨らむ形状変化を伴い、前記記録層の内部または当該記録層に隣接する層との界面に空洞を形成し位相変化が生じることが望ましい。
そして、記録前において、各種サーボの安定性を維持するために、溝部及び溝間部ともに少なくとも3%〜30%の反射率を維持することが好ましい。
ここでいう未記録状態の記録溝部反射率(Rg)は、反射率既知(Rref)の反射膜のみを、図2に示す光記録媒体20と同様な構成で成膜し、集束光ビームを記録溝部に焦点が合うように照射して得られた反射光強度をIref、図2に示す光記録媒体20において同様に、集束光ビームを記録溝部に照射して得られた反射光強度をIsとするとき、Rg=Rref・(Is/Iref)として得られたものである。同様に、記録後において、記録信号振幅の、記録ピット間(スペース部)の低反射光強度ILに対応する記録溝部反射率をRL、記録ピット(マーク部)の高反射光強度IHに対応する記録溝部反射率をRHと呼ぶ。
以下では、慣用に従って、記録溝部の反射光強度変化を定量化する際には、この、記録溝部反射率を用いて表す。
【0089】
本実施の形態では、記録による位相変化を利用するため、記録層22自体の透明性を高くすることが好ましい。記録層22を単独で透明なポリカーボネート樹脂基板に形成した場合の透過率は、40%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、60%以上であることがさらに好ましい。透過率が高すぎると十分記録光エネルギーが吸収できないから、95%以下であることが好ましく、90%以下であることがより好ましい。
一方、このような高透過率が維持されていることは、図2の構成のディスク(未記録状態)において、平坦部(鏡面部)で平面状態の反射率R0を測定し、その反射率が、記録層膜厚をゼロとした、同一構成を有するディスクの平面状態での反射率の40%以上、好ましくは、50%以上、より好ましくは70%以上あることで概ね確認できる。
このように、適度な透過性を維持するためには、kdは、2以下であることが好ましく、1.5以下であることがより好ましい。
【0090】
(記録溝深さdGL,記録溝部の記録層厚みdGと記録溝間部の記録層厚みdLの好ましい態様について)
ΔΦ>0なる位相変化を利用し、カバー層溝間部25にLtoH記録する場合、光学的にピット部で溝深さが変化するので、溝深さに強く依存するプッシュプル信号が、記録前後で変化しやすくなる。特に問題になるのは、プッシュプル信号の極性が反転するような位相変化である。
【0091】
LtoH記録を行って、かつ、プッシュプル信号の極性変化を起こさないためには、図6において、0<|Φb|、|Φa|<πなる斜面で矢印γの方向の位相変化により、光学的な溝が浅くなる現象を利用することが好ましい。つまり、図4において、位相差基準面A−A’からみて、記録溝部の反射基準面までの光路長が小さくなるような変化が記録ピット部25pで起きるようにする。図4の場合、Φb=Φb2<0、Φa=Φa2<0であり、ΔΦ>0であるから、|Φb|>|Φa|である。尚、式(2)のように位相差を定義した関係で、Φb、Φaが図4の場合には負となるので、絶対値で表記した。
【0092】
特に、プッシュプル信号として、式(17)の規格化されたプッシュプル信号強度IPPactualを用いる場合、本実施の形態では、記録後の平均反射率は増加するから、式(17)の分母が増加する。
記録後の規格化プッシュプル信号強度IPPactualを十分な大きさに保つには、式(17)の分子であるプッシュプル信号強度IPPp-pが記録後に増加するか、少なくとも、大きな値を保つことが好ましい。つまり、|Φa|が記録後にπ/2近傍にあることが好ましい。一方、記録前にも十分なプッシュプル信号を確保するためには|Φb|は、πよりも(1/16)π程度は小さいことが望ましい。そのため、|Φb|が、経路γにおいて、π/2〜(15/16)πの範囲にあることが好ましいこととなる。
【0093】
具体的には、図4において、|Φb2|=(4π/λ)|ψb2|をπ/2〜(15/16)πの範囲にするためには、
|ψb2|=|(nc−nd)・(dG−dL)−nc・dGL|
=|(nd−nc)・(dG−dL)+nc・dGL|
を、λ/8〜(15/64)・λの範囲にすることが好ましい。
その際の溝深さdGLは、dG=dL、記録再生光波長λ=350〜450nmの青色波長とした場合、式(7)より、
|ψb2|=nc・dGL (7a)
となる。同様の式は、nd≒ncでも得られる。ncを一般的な高分子材料の値、1.4〜1.6程度とすると、溝深さdGLは、通常30nm以上、好ましくは35nm以上とする。一方、溝深さdGLは、通常70nm以下、好ましくは65nm以下、より好ましくは60nm以下とする。このような深さの溝を「中間溝」と呼ぶこととする。上述の図3や図5で「深溝」を用いる場合に比べ、溝形成及びカバー層溝間部25への反射膜の被覆が格段に容易になるという利点を有する。
【0094】
一般に、スピンコートで塗布法により記録層を成膜したときには、基板溝部に記録層が溜まりやすいという性質を考慮すると、自然とdG>dLとなる。さらには、塗布する色素量を少なくして、全体として記録層膜厚を薄くすると、実質上dL≒0とでき、記録層をほぼ完全に記録溝内(この場合、カバー層溝間部25)に閉じ込めることが可能になる。
【0095】
この場合、式(7)は、
|ψb2|=|(nc−nd)・dG−nc・dGL|
=|(nd−nc)・dG+nc・dGL| (7b)
となり、(7a)に対する、上記、溝深さの好ましい範囲に対して、|(nc−nd)・dG|分だけ補正が必要になる。本願では、nd<ncであるから、若干深めが好ましいことになる。逆に、nd・dGLなる溝形状が与えられれば、ndがncに比べて小さいほど|Φb2|は小さくなり、図6から、溝部の反射光強度が増加する。これは、クロストークを抑制するため、色素記録層を記録溝部に閉じ込めようとする場合、40〜60nmの深めの溝を使っても、光学的な溝深さを浅めにできることを意味する。
【0096】
また、記録層膜厚は、溝深さに比べて薄くし、dG<dGLとするのが好ましい。記録ピットがたとえ後述のような変形を伴っていても、少なくともその幅が溝幅内に抑制される効果が得られ、クロストークを低減できるためである。このため、(dG/dGL)≦1とすることが好ましく、(dG/dGL)≦0.8とすることがより好ましく、(dG/dGL)≦0.7とすることがさらに好ましい。
【0097】
つまり、本実施の形態が適用される光記録媒体20では、記録層22を塗布によって形成し、dGL>dG>dLとするのが好ましい。さらに好ましくは、dL/dG≦0.5として、実際上、記録溝間部上に記録層22がほとんど堆積しないようにする。一方、後述するように、dLは実質的にゼロであることが好ましいので、dL/dGの下限値は、理想的にはゼロである。
【0098】
前述のようにdGLが30〜70nmである場合には、dGは、5nm以上とすることが好ましく、10nm以上とすることがより好ましい。これは、dGを5nm以上とすることによって、位相変化を大きくでき、記録ピット形成に必要な光エネルギーの吸収が可能となるからである。一方、dGは、50nm未満とすることが好ましく、45nm以下とすることがより好ましく、40nm以下とすることがさらに好ましい。前述のように再生時の反射率を3〜30%にたもつため、記録層に適度な透過性を保つためである。
さらに、記録層22が薄いほうが、記録ピット部での変形が大きくなりすぎたり、記録溝間部へはみ出したりすることを抑制できる。
【0099】
カバー層溝間部に記録ピットを形成する本発明において、前述のような「中間溝」深さを用いること、及び、dG/dL≦1として、記録層22を薄くして「中間溝」深さの記録溝内に閉じ込めることは、後述のように記録ピット部での空洞形成及びカバー層方向への膨れ変形を積極的に用いる場合には、なおさら、好ましいこととなる。この点においても、本発明は、カバー層溝部に記録を行い、空洞を形成してHtoL記録を行う場合より、クロストークを抑制する効果に優れている。さらに、本発明色素は、kdが1程度と大きくできるので、記録層膜厚が薄くても、十分な光吸収が行われ、記録ピット形成に要する記録光パワーを低く保つことができる。また、一般に、記録層膜厚が薄いと「平面状態で生じる反射光強度変化」が小さくなりがちであるが、本記録層では、kdとkd’の差が大きいので、十分な反射光強度変化が得られるのである。このため、kdとしては、1以上が望ましい。
【0100】
かくして、記録ピットは、記録溝内にほぼ完全に閉じ込められ、かつ、図4における記録ピット部25pの回折光の隣接記録溝への漏れこみ(クロストーク)も非常に小さくできるという利点がえられる。つまり、カバー層溝間部25への記録でLtoH記録を志向することは、単にΔΦ>0なる位相変化とカバー層溝間部25へ記録の有利な組み合わせとなるだけではなく、狭トラックピッチ化による高密度記録により適した構成が得られやすくなるのである。さらに、dLをほぼゼロとすると、(7b)式の|ψb2|において、(nc−nd)・dGの項の寄与を最大とでき、dGLを若干ではあるが浅くすることができ、溝形成がより容易となる。
【0101】
(具体的な層構成及び材料の好ましい態様について)
以下において、図2及び図4で示す層構成の具体的材料・態様について、青色波長レーザの開発が進んでいる状況を考慮して、特に、記録再生光ビーム27の波長λが405nm近傍の場合を想定して説明する。
【0102】
(基板)
基板21は、膜面入射構成では、適度な加工性と剛性を有するプラスチック、金属、ガラス等を用いることができる。従来の基板入射構成と異なり、透明性や複屈折に対する制限はない。表面に案内溝を形成するのであるが、金属、ガラスでは、表面に光や熱硬化性の薄い樹脂層を設け、そこに、溝を形成する必要がある。この点、プラスチック材料を用い、射出成型によって、基板21形状、特に円盤状、と表面の案内溝を一挙に形成するほうが製造上は好ましい。
【0103】
射出成型できるプラスチック材料としては、従来CDやDVDで用いられたポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等を用いることができる。基板21の厚みとしては0.5mm〜1.2mm程度とするのが好ましい。基板厚とカバー層厚を合わせて、従来のCDやDVDと同じ1.2mmとすることが好ましい。従来のCDやDVDで使われるケース等をそのまま用いることができるからである。基板厚を1.1mm、カバー層厚みを0.1mmとすることが、ブルーレイ・ディスクでは規定されている。(非特許文献3)
【0104】
基板21にはトラッキング用の案内溝が形成されている。本実施の形態では、カバー層溝間部25が記録溝部となるトラックピッチは、CD−R、DVD−Rより高密度化を達成するためには、0.1μm〜0.6μmとするのが好ましく、0.2μm〜0.4μmとするのがより好ましい。溝深さは、前述のように、記録再生光波長λ、dGL、dG、dL等に依存するが、概ね30nm〜70nmの範囲にあることが好ましい。溝深さは、前記範囲内で、未記録状態の記録溝部反射率Rg、記録信号の信号特性、プッシュプル信号特性、記録層の光学特性等を考慮して適宜最適化される。本実施の形態では、記録溝部と記録溝間部とにおけるそれぞれの反射光の位相差による干渉を利用しているから、両方が集束光スポット内に存在することが必要である。このため、記録溝幅(カバー層溝間部25の幅)は、記録再生光ビーム27の記録層22面におけるスポット径(溝横断方向の直径)より小さくするのが好ましい。記録再生光波長λ=405nm、NA(開口数)=0.85の光学系で、トラックピッチを0.32μmとする場合、0.1μm〜0.2μmの範囲とするのが好ましい。これらの範囲外では、溝または溝間部の形成が困難となる場合が多い。
【0105】
案内溝の形状は、通常、矩形となる。特に、後述の塗布による記録層形成時に、色素を含む溶液の溶剤がほとんど蒸発するまでの数十秒間に、基板溝部上に、色素が選択的に溜まることが望ましい。このため、矩形溝の基板溝間の肩を丸くして色素溶液が、基板溝部に落下して溜まりやすくすることも好ましい。このような丸い肩を有する溝形状は、プラスチック基板もしくは、スタンパの表面を、プラズマやUVオゾン等に数秒から数分さらしてエッチングすることで得られる。プラズマによるエッチングでは、基板の溝部の肩(溝間部のエッジ)のようなとがった部分が選択的に削られる性質があるので、丸まった溝部の肩の形状を得るのに適している。
【0106】
案内溝は、通常は、アドレスや同期信号等の付加情報を付与するために、溝蛇行、溝深さ変調等の溝形状の変調、記録溝部あるいは記録溝間部の断続による凹凸ピット等による付加信号を有する。例えば、ブルーレイ・ディスクでは、MSK(minimum−shift−keying)とSTW(saw−tooth−wobbles)という2変調方式を用いたウォブル・アドレス方式が用いられている。(非特許文献3)
【0107】
(光反射機能を有する層)
光反射機能を有する層(反射層23)には、記録再生光波長に対する反射率が高く、記録再生光波長に対して70%以上の反射率を有するものが好ましい。記録再生用波長として用いられる可視光、特に、青色波長域で高反射率を示すものとして、Au、Ag、Al及びこれらを主成分とする合金が挙げられる。より好ましくは、λ=405nmでの反射率が高く、吸収が小さいAgを主成分とする合金である。Agを主成分として、Au、Cu、希土類元素(特に、Nd)、Nb、Ta、V、Mo、Mn、Mg、Cr、Bi、Al、Si、Ge等を0.01原子%〜10原子%添加することで、水分、酸素、硫黄等に対する耐食性を高めることができ好ましい。この他に、誘電体層を複数積層した誘電体ミラーを用いることも可能である。
【0108】
反射層23の膜厚は、基板21表面の溝段差を保持するために、dGLと同等かそれより薄いことが好ましい。同様に、記録再生光波長λ=405nmとする場合、前述のように、dGLは70nm以下とするのが好ましいから、反射層の膜厚は、70nm以下が好ましく、より好ましくは65nm以下とする。後述の、2層媒体を形成する場合を除いて、反射層膜厚の下限は、30nm以上が好ましく、より好ましくは40nm以上とする。反射層23の表面粗さRaは、5nm以下であることが好ましく、1nm以下であることがより好ましい。Agは添加物の添加によって平坦性が増す性質があり、この意味でも、上記の添加元素を0.1原子%以上が好ましく、さらに好ましくは、0.5原子%以上とするのが好ましい。反射層23はスパッタリング法、イオンプレーティング法や、電子ビーム蒸着法などで形成することができる。
【0109】
反射基準面の段差で規定される溝深さdGLは、ほぼ基板21表面の溝深さdGLSに等しい。溝深さは、断面を電子顕微鏡で観察すれば直接測定できる。あるいは、原子間力顕微鏡(AFM)などの探針法によって測定できる。溝や溝間部が完全に平坦でない場合は、溝と溝間のそれぞれの中心での高さの差でdGLを定義する。溝幅は、同様に、反射層23成膜後の実際に記録層22が存在する溝部の幅をいうが、反射層23形成後も基板21表面の溝形状をほぼ保持するならば、基板21表面の溝幅値を用いることができる。また、溝幅は、溝深さの半分の深さにおける幅を採用する。溝幅は、同様に、断面を電子顕微鏡で観察すれば直接測定できる。あるいは、原子間力顕微鏡(Atomic force microprobe、AFM)などの探針法によって測定できる。なお、光記録媒体10において規定されるいずれの溝の深さ及び幅も、ここで説明したのと同様に測定することができる。
【0110】
(中間層)
反射層23と記録層22との間には、中間層が設けられることが好ましい。中間層を設けることにより、ジッター特性の向上を図ることができる。
【0111】
中間層は、ジッター特性を向上させる観点から、通常、Ta、Nb、V、W、Mo、Cr、及びTiからなる群より選ばれる元素を含有する。中でも、Ta、Nb、Mo及びVのうち何れかを含有することが好ましく、Ta及びNbのうち何れかを含有することが好ましい。なお、中間層は、これらの元素のうち何れか一種のみを単独で含有していてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び組成で含有していてもよい。上記元素は、広く反射層として使用される銀又は銀合金との反応性及び固溶度が低いことから、これらの元素を中間層として使用すれば、保存安定性の優れた光記録媒体を得ることが可能となる。
【0112】
上記元素を中間層の主成分として含有することが好ましい。なお、本明細書において「中間層の主成分」とは、中間層を構成する元素のうち、上記元素が50原子%以上含有されるようにすることを意味する。中でも、上記元素は、70原子%以上含有されることが好ましく、90原子%以上含有されることがより好ましく、95原子%以上含有されること更に好ましく、99原子%以上含有されることが特に好ましい。理想的には、上記元素が100原子%含有されることである。なお、中間層が上記元素を二種以上含有している場合には、その合計割合が上記範囲を満たしていることが好ましい。
【0113】
中間層を挿入することによって、ジッターが改善される効果が得られるメカニズムは明らかではない。しかしながら、本発明者等の検討によれば、反射層23の材料として通常使用されるAgやAlと比較して硬度が高い元素で中間層を構成すること、及び/又は、記録再生波長における光吸収が大きい元素を中間層として使用することにより、ジッターが改善される傾向となることがわかった。このため、特に上記元素を用いて中間層を形成することにより、上記条件が満たされやすくなるのではないかと推測される。
【0114】
なお、中間層には、所望の特性を付与するために、添加元素或いは不純物元素として、上記元素以外の元素を含有させてもよい。このような添加元素或いは不純物元素の例としては、Mg、Si、Ca、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Y、Zr、Pd、Hf、Pt等が挙げられる。これらの添加元素或いは不純物元素は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。これらの添加元素或いは不純物元素の中間層における含有濃度の上限は、通常5原子%以下程度である。
【0115】
中間層の膜厚は、少なくとも膜として形成されればその効果を発揮することが可能であるが、その膜厚の下限は通常1nm以上である。一方、中間層の膜厚は、厚くなりすぎると中間層の光吸収が大きくなり、記録感度低下と反射率低下を引き起こすため、通常15nm以下、好ましくは10nm以下、より好ましくは5nm以下とする。上記の膜厚範囲内とすれば、ジッター改善効果と適正な反射率及び記録感度を同時に得ることが出来る。
【0116】
中間層は、スパッタリング法、イオンプレーティング法や、電子ビーム蒸着法などで形成することができる。
【0117】
(記録層)
記録層22は、未記録(記録前)状態において記録再生光波長に対して光吸収機能を有する色素を主成分として含有する。記録層22に主成分として含有される色素は、具体的には、400nm〜800nmの可視光(及びその近傍)波長領域にその構造に起因した顕著な吸収帯を有する有機化合物であって、記録再生光波長λよりも長波長側に吸収帯のピークがある有機化合物である。このような、未記録(記録前)の状態において記録再生光ビーム27の波長λに吸収を有し、記録により変質して記録層22に再生光の反射光強度の変化として検出されうる光学的変化を起こす色素を、本明細書においては「主成分色素」と呼ぶ。主成分色素は一種であってもよいが、複数の色素の混合物として、上記の機能を発揮するものであってもよい。
【0118】
記録層22における主成分色素の含有量は、通常50重量%以上、中でも80重量%以上、更には90重量%以上の範囲が好ましい。主成分色素は、単独の色素が記録再生光ビーム27の波長λに対して吸収があり、記録によって変質して上記光学的変化を生じることが好ましいが、記録再生光ビーム27の波長λに対する吸収を有し、発熱することで、間接的に他方の色素を変質させ光学的変化を起こさせるように機能分担されていてもよい。主成分色素にはこの他、光吸収機能を有する色素の経時安定性(温度、湿度、光に対する安定性)を改善するためのいわゆるクエンチャーとしての色素が混合されていてもよい。主成分色素以外の記録層22の含有物としては、低・高分子材料からなる結合剤(バインダー)、誘電体等が挙げられる。
【0119】
記録層22の記録溝部の膜厚は、通常70nm以下、好ましくは50nm以下、より好ましくは40nm以下、さらに好ましくは30nm以下である。
なお、記録溝間部の未記録時における記録層膜厚は、通常0nm以上、また、通常10nm以下、好ましくは7nm以下、より好ましくは5nm以下である。記録溝間部の未記録時における記録層膜厚を上記範囲とすれば、記録ピットの横方向の幅が記録溝幅を超えてはみ出しにくくなり、クロストークへの影響を少なくできるからである。従って、記録溝間部の未記録時における記録層膜厚は、実質的にゼロとみなせる範囲である10nm以下であることが特に好ましい。
【0120】
なお、後述する界面層を用いた場合において、記録溝間部の未記録時における記録層膜厚を上記の範囲とすると、界面層と反射層23とが記録溝間部において接する状態が発生する。このとき、例えば、界面層に硫黄を含有する材料(例えばZnS)を用い、かつ反射層23にAgを用いた場合に、硫黄と反射層23とが反応して反射層23の腐食が起きることがある。このような腐食が起き得る場合においては、中間層により界面層と反射層23とが直接接することを抑制されるために、上記腐食の現象を抑制できる効果が奏される。
【0121】
(記録層の主成分となる色素化合物)
本発明の光学記録媒体の記録層の主成分となる色素化合物は下記一般式[I]で表されるポルフィリン化合物である。
【化3】
一般式[I]中、Ara1〜Ara4は各々独立に芳香環を表し、それぞれ複数の置換基を有していてもよい。
また、一般式[I]中、Ra1〜Ra8は各々独立に水素原子もしくは任意の置換基を表し、中でも水素原子であることが好ましい。
さらに、一般式[I]中、Maは2価以上の金属カチオンを表す。但し、Maが3価以上の場合、分子全体が中性となるように該分子は更にカウンターアニオンを有していても良い。
【0122】
このポルフィリン化合物は好ましくは下記一般式[II]で表されるテトラアリールポルフィリン化合物である。
【化4】
([II]式中、X1〜X4は各々独立に価数が4以上の原子を表し、X1〜X4が価数5以上の原子の場合、X1〜X4は更に任意の置換基を有していてもよく、X1〜X4が価数6以上の原子の場合、各々=Q1〜=Q4を2個有していてもよく、その場合において、該2個のQ1〜Q4は同一のものであってもよく、異なるものであってもよい。
Q1〜Q4は、各々独立に周期律表第16族原子を表す。
Ar1〜Ar4は各々独立に芳香環を表し、それぞれX1〜X4以外の置換基を有していてもよい。
R1〜R8は各々独立に炭素数20以下の有機基を表し、
R9〜R16は各々独立に水素原子もしくは電子吸引性置換基を表し、
Mは、2価以上の金属カチオンを表す。但し、Mが3価以上の場合、分子全体が中性となるように該分子は更にカウンターアニオンを有していても良い。
なお、R1およびR2、R3およびR4、R5およびR6、R7およびR8はそれぞれ結合して環を形成していてもよい。)
【0123】
なお、本発明の記録層形成用色素中には、本発明に係るテトラアリールポルフィリン化合物の1種が単独で含まれていても良く、2種以上が混合して含まれていてもよい。
以下に、上記一般式[II]で表されるテトラアリールポルフィリン化合物について詳細に説明する。
【0124】
{X1(=Q1)〜X4(=Q4)}
[II]式中、N−X1(=Q1)〜N−X4(=Q4)は、本発明のポルフィリン化合物の溶剤への溶解性を著しく向上させる理由から各々独立にアミド構造を表す。
アミド構造を構成するX1(=Q1)〜X4(=Q4)の、X1〜X4は各々独立に価数が4以上の原子を表し、X1〜X4が価数5以上の原子の場合、X1〜X4は更に任意の置換基を有していてもよく、X1〜X4が価数6以上の原子の場合、各々=Q1〜=Q4を2個有していてもよく、その場合において、該2個のQ1〜Q4は同一のものであってもよく、異なるものであってもよい。
X1〜X4としては、各々独立に例えばC、S、P等が挙げられ、特にC、Sが好ましい。X1〜X4が価数5以上の原子の場合、X1〜X4が更に有していてもよい置換基としては、後述のR9〜R16の具体例に相当する。
アミド構造を構成するX1(=Q1)〜X4(=Q4)のQ1〜Q4は、各々独立に周期律表第16族原子を表し、好ましくはO又はSである。
X1(=Q1)〜X4(=Q4)の具体例としては、例えば以下の様なものが挙げられる。なお、これらの構造は、aの部位でそれぞれAr1〜Ar4に結合しており、bの部位で窒素原子に結合している。また、R17は置換基を表し、その具体例は後述のR9〜R16の具体例に相当する。
【化5】
【0125】
これらのうち、X1(=Q1)〜X4(=Q4)はそれぞれカルボニル基(すなわちN−X1(=Q1)〜N−X4(=Q4)がカルバモイル基N−C(=O))もしくはスルホニル基(すなわちN−X1(=Q1)〜N−X4(=Q4)がスルファモイル基N−C(=S))であることが合成上の理由および化合物の取り扱いやすさの面で好ましい。さらに、X1(=Q1)〜X4(=Q4)はそれぞれカルボニル基である方が溶解性向上の面で好ましいが、スルホニル基である方が熱分解温度低下による感度向上の面で好ましい。また、X1(=Q1)〜X4(=Q4)はそれぞれ異なっている方が化合物の膜性向上の面で好ましいが、同じである方が合成上の理由から好ましい。
X1(=Q1)〜X4(=Q4)のAr1〜Ar4に対する置換位置については、ポルフィリン環により重なるような位置に置換する方が溶解性および膜性向上の面で好ましいが、離れている方が合成上の理由から好ましい。
【0126】
{Ar1〜Ar4}
〈Ar1〜Ar4の骨格構造〉
[II]式中、Ar1〜Ar4は、各々独立に置換基を有していてもよい芳香環を表す。本発明において芳香環とは、芳香族性を有する環、すなわち(4n+2)π電子系(nは自然数)を有する環を意味する。その骨格構造は、通常、5または6員環の、単環または2〜6縮合環からなる芳香環であり、該芳香環には、芳香族炭化水素環、芳香族複素環の他、アントラセン環、カルバゾール環、アズレン環のような縮合環も含まれる。
Ar1〜Ar4の骨格構造の具体例としては、5員環単環としてフラン環、チオフェン環、ピロール環、イミダゾール環、チアゾール環、オキサジアゾール環、6員環単環としてベンゼン環、ピリジン環、ピラジン環、縮合環としてナフタレン環、フェナンスレン環、アズレン環、ピレン環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、ベンゾフラン環、カルバゾール環、ジベンゾチオフェン環、アントラセン環等が挙げられる。これらのうち、合成上の理由から単環が好ましく、さらに好ましくは6員環の単環であり、特に好ましくはベンゼン環である。
なお、Ar1〜Ar4はそれぞれ異なる方が溶解性および記録層形成時の膜性向上の点で好ましいが、同じである方が合成上の点から好ましい。
【0127】
〈Ar1〜Ar4が有する置換基〉
Ar1〜Ar4はそれぞれX1〜X4以外に置換基を有していてもよい。Ar1〜Ar4がX1〜X4以外に有する置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、炭化水素環基、複素環基、アルコキシ基、アルキルカルボニル基、(ヘテロ)アリールオキシ基、(ヘテロ)アラルキルオキシ基、更に置換基を有していてもよいアミノ基、ニトロ基、シアノ基、エステル基、ハロゲン原子、水酸基などが挙げられる。好ましくは、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数2〜20のアルキニル基、炭素数3〜20の炭化水素環基、5または6員環の単環または2〜6縮合環由来の複素環基、炭素数1〜9のアルコキシ基、炭素数2〜18のアルキルカルボニル基、炭素数2〜18の(ヘテロ)アリールオキシ基、炭素数3〜18の(ヘテロ)アラルキルオキシ基、アミノ基、炭素数2〜20のアルキルアミノ基、炭素数2〜30の(ヘテロ)アリールアミノ基、ニトロ基、シアノ基、炭素数2〜6のエステル基、ハロゲン原子、水酸基などである。
【0128】
炭素数1〜20のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基などが挙げられる。
炭素数2〜20のアルケニル基の例としては、ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、2−メチル−1−プロペニル基、ヘキセニル基、オクテニル基などが挙げられる。
炭素数2〜20のアルキニル基の例としては、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基、2−メチル−1−プロピニル基、ヘキシニル基、オクチニル基などが挙げられる。
炭素数3〜20の炭化水素環基としてはシクロプロピル基、シクロヘキシル基、シクロヘキセニル基、テトラデカヒドロアントラニル基、フェニル基、アントラニル基、フェナンスリル基、フェロセニル基などが挙げられる。
【0129】
5または6員環の単環または2〜6縮合環由来の複素環基としては、ピリジル基、チエニル基、ベンゾチエニル基、カルバゾリル基、キノリニル基、2−ピペリジニル基、2−ピペラジニル基、オクタヒドロキノリニル基などが挙げられる。
炭素数1〜9のアルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、iso−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基などが挙げられる。
炭素数2〜18のアルキルカルボニル基としては、メチルカルボニル基、エチルカルボニル基、イソプロピルカルボニル基、tert−ブチルカルボニル基、シクロヘキシルカルボニル基などが挙げられる。
【0130】
炭素数2〜18の(ヘテロ)アリールオキシ基の例としては、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等のアリールオキシ基や、2−チエニルオキシ基、2−フリルオキシ基、2−キノリルオキシ基等のヘテロアリールオキシ基などが挙げられる。
炭素数3〜18の(ヘテロ)アラルキルオキシ基の例としては、ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基、ナフチルメトキシ基等のアラルキルオキシ基や、2−チエニルメトキシ基、2−フリルメトキシ基、2−キノリルメトキシ基等のヘテロアラルキルオキシ基などが挙げられる。
炭素数2〜20のアルキルアミノ基の例としては、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、メチルエチルアミノ基、ジブチルアミノ基、ピペリジル基などが挙げられる。
【0131】
炭素数2〜30の(ヘテロ)アリールアミノ基の例としては、ジフェニルアミノ基、ジナフチルアミノ基、ナフチルフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基等のアリールアミノ基や、ジ(2−チエニル)アミノ基、ジ(2−フリル)アミノ基、フェニル(2−チエニル)アミノ基等のヘテロアリールアミノ基などが挙げられる。
炭素数2〜6のエステル基の例としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基などが挙げられる。
ハロゲン原子の例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、沃素原子などが挙げられる。
【0132】
Ar1〜Ar4がそれぞれX1〜X4以外に2つ以上の置換基を有する場合、該置換基同士が結合して環状構造をなしてもよい。例えば、Ar1〜Ar4がベンゼン環由来の基である場合、該ベンゼン環が有する置換基同士が結合して環状構造を形成している例として以下の(a−1),(a−2),(a−3)に示す構造が挙げられる。なお、以下において、aの部分がポルフィリン環への結合位置であり、bの部分がX1〜X4への結合位置である。
【化6】
なお、Ar1〜Ar4はX1〜X4以外にこれらの置換基を有している方が膜性向上の観点から好ましいが、置換基を有していない方が合成上の観点から好ましい。
【0133】
〈Ar1〜Ar4の分子量〉
Ar1〜Ar4の分子量は吸光度低下による記録感度低下を防止する観点から、N,N−二置換アミド構造基およびその他の置換基を有する場合はその置換基も含めて、合計3,000以下であることが好ましい。
{N,N−二置換アミノ基}
【0134】
〈R1〜R8の有機基〉
N,N−二置換アミド構造基に含まれるN,N−二置換アミノ基部分の置換基であるR1〜R8は各々独立に炭素数20以下の有機基を表す。
R1〜R8の有機基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、炭化水素環基、複素環基、アルコキシ基、アルキルカルボニル基、(ヘテロ)アリールオキシ基、(ヘテロ)アラルキルオキシ基、エステル基などが挙げられる。好ましくは、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数2〜20のアルキニル基、炭素数3〜20の炭化水素環基、5または6員環の単環または2〜6縮合環由来の複素環基、炭素数1〜9のアルコキシ基、炭素数2〜18のアルキルカルボニル基、炭素数2〜18の(ヘテロ)アリールオキシ基、炭素数3〜18の(ヘテロ)アラルキルオキシ基、炭素数2〜6のエステル基などである。
【0135】
なお、それらの具体例としては、上述のAr1〜Ar4が有していてもよい置換基として挙げられた、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数2〜20のアルキニル基、炭素数3〜20の炭化水素環基、5または6員環の単環または2〜6縮合環由来の複素環基、炭素数1〜9のアルコキシ基、炭素数2〜18のアルキルカルボニル基、炭素数2〜18の(ヘテロ)アリールオキシ基、炭素数3〜18の(ヘテロ)アラルキルオキシ基、炭素数2〜6のエステル基などの具体例が相当する。
【0136】
R1およびR2、R3およびR4、R5およびR6,R7およびR8は、それぞれ結合して環状構造をなしていてもよい。例えば、R1およびR2が結合して6員環を形成するN,N−二置換アミノ基として以下の(R−1),(R−2),(R−3)の構造が挙げられる。
【化7】
R1〜R8はそれぞれ異なっている方が溶解性向上および膜性向上の面で好ましいが、同一である方が合成上の理由から好ましい。また、R1〜R8は各アミド構造基の窒素原子に対して立体的に嵩高くない方が化合物の溶解度低下防止の面で好ましく、具体的にはn−アルキル基、n−アルケニル基、n−アルキニル基、アルコキシ基、アルキルカルボニル基などが好ましく、特にn−アルキル基、アルコキシ基などが好ましい。
【0137】
〈R1〜R8の分子量〉
吸光度低下による記録感度低下を防止するために、R1〜R8の分子量は合計で3,000以下であることが好ましい。
【0138】
{R9〜R16}
R9〜R16は合成上の理由および化合物の安定性の理由から各々独立に水素原子もしくは電子吸引性置換基を表す。
電子吸引性置換基の例としては、炭素数2〜18のアルキルカルボニル基、炭素数2〜6のエステル基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基などが挙げられ、それらの具体例としては、上述のAr1〜Ar4が有していてもよい置換基として挙げられた、炭素数2〜18のアルキルカルボニル基、炭素数2〜6のエステル基、ハロゲン原子などの具体例が相当する。
【0139】
なお、これらのうち、合成上の理由からR9〜R16はそれぞれ水素原子もしくはハロゲン原子であることが好ましく、R9〜R16がそれぞれハロゲン原子であることが耐光性向上の面で特に好ましいが、合成上の観点からはR9〜R16はそれぞれ水素原子であることが特に好ましい。
R9〜R16の分子量は吸光度低下による記録感度低下を防止する観点から、合計で1,000以下であることが好ましい。
【0140】
{M}
Mは、2価以上の金属カチオンを表す。Mとして挙げられる金属元素はポルフィリン環中央に配位し得るものであれば何でもよく、具体例としてはMg,Al,Si,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Mo,Ru,Rh,Pd,Ag,Pt,Au,Er等が挙げられる。
Mが2価以上の金属カチオンであることが化合物の安定性向上に効果が有り、Mにあたる金属が反磁性を示さないことが化合物の記録感度向上の面で好ましく、合成上の理由から特にCo,Ni,Cuが好ましい。
【0141】
Mが3価以上の金属イオンである場合、Mはさらにカウンターアニオンと結合していてもよい。これにより、一般式[II]で表される化合物の分子全体が中性となる。このカウンターアニオンの種類としては、アルコキシイオン、(ヘテロ)アリールオキシイオン、(ヘテロ)アラルキルオキシイオン、更に置換基を有していてもよいシアノイオン、エステルイオン、ハロゲンイオン、ヒドロキシイオン、酸素イオンなどが挙げられ、例えば、炭素数1〜9のアルコキシイオン、炭素数2〜18の(ヘテロ)アリールオキシイオン、炭素数3〜18の(ヘテロ)アラルキルオキシイオンなどであり、それらの具体例としては、上述のAr1〜Ar4が有していてもよい置換基として挙げられた炭素数1〜9のアルコキシ基、炭素数2〜18の(ヘテロ)アリールオキシ基、炭素数3〜18の(ヘテロ)アラルキルオキシ基などの具体例をそれぞれイオンに置き換えたものに相当する。
なお、カウンターアニオンはその分子量が小さい方が化合物の感度向上の面で好ましく、特にアセトキシイオン、シアノイオン、塩素イオン、酸素イオンのような分子量200以下のものが好ましい。
【0142】
{分子量}
以上に説明した一般式[II]で表される化合物は、吸光度低下による感度低下防止の点から、通常分子量6,000以下、中でも3,000以下であることが好ましい。
尚、一般式[II]で表される化合物は、通常水不溶性であることが好ましい。
【0143】
{具体例}
一般式[II]で表わされる化合物の具体例を以下に例示するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下において、Etはエチル基である。
【0144】
【化8】
【0145】
【化9】
【0146】
【化10】
【0147】
【化11】
【0148】
【化12】
【0149】
【化13】
【0150】
{合成法}
一般式[II]で表わされる化合物は、例えば、“Bioorg.Med.Chem.,2002年(10巻)、3013−3021頁”に記載の方法により容易に合成することができる。
例えば、X1(=Q1)〜X4(=Q4)が全てカルボニル基(すなわちN−X1(=Q1)〜N−X4(=Q4)がカルバモイル基N−C(=O))の場合、市販のカルボキシル基を有するテトラアリールポルフィリン化合物を塩化チオニル混合条件で加熱し、さらに二置換アミンを作用させることによってN,N−二置換カルバモイル基を有するテトラアリールポルフィリン化合物を得ることができる。得られたテトラアリールポルフィリン化合物と金属塩を溶媒の存在または非存在下で室温もしくは加熱条件で反応させることにより、N,N−二置換カルバモイル基を有するテトラアリールポルフィリン金属錯体を得ることができる。
カルボニル基以外のX1(=Q1)〜X4(=Q4)を有するテトラアリールポルフィリン化合物についても、出発原料のテトラアリールポルフィリン化合物等を変更することにより、同様の方法で合成することができる。
【0151】
(記録層の形成法)
記録層22の形成方法としては、塗布法、真空蒸着法等が挙げられるが、特に、塗布法で形成することが好ましい。即ち、上記色素を主成分として、結合剤、クエンチャー等の他の成分とともに適当な溶剤に溶解して記録層22の塗布液を調製し、前述の反射層23または反射層上の中間層上に塗布する。溶解液中の主成分色素の濃度は、通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、更に好ましくは0.2重量%以上、また、通常10重量%以下、好ましくは5重量%以下、更に好ましくは2重量%以下の範囲とする。これにより、通常1nm〜100nm程度の厚みに記録層22が形成される。その厚みを50nm以下(好ましくは50nm未満)とするために、上記色素濃度を1重量%未満とするのが好ましく、0.8重量%未満とするのがより好ましい。また、塗布の回転数を更に調整することも好ましい。
【0152】
主成分色素等の材料を溶解する溶剤としては、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール;テトラフルオロプロパノール(TFP)、オクタフルオロペンタノール(OFP)等のフッ素化炭化水素系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類;酢酸ブチル、乳酸エチル、セロソルブアセテート等のエステル;ジクロルメタン、クロロホルム等の塩素化炭化水素;ジメチルシクロヘキサン等の炭化水素;テトラヒドロフラン、エチルエーテル、ジオキサン等のエーテル;メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン等のケトン等を挙げることができる。これらの溶剤は、溶解すべき主成分となる色素材料等の溶解性を考慮して、適宜選択することができる。また、これらの溶剤は何れか一種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0153】
結合剤としては、セルロース誘導体、天然高分子物質、炭化水素系樹脂、ビニル系樹脂、アクリル樹脂、ポリビニールアルコール、エポキシ樹脂等の有機高分子等を使うことができる。更に、記録層22には、耐光性を向上させるために、種々の色素又は色素以外の褪色防止剤を含有させることができる。褪色防止剤としては、一般的に一重項酸素クエンチャーが用いられる。一重項クエンチャー等の褪色防止剤の使用量は、前記記録層材料に対して、通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上、更に好ましくは5重量%以上、また、通常50重量%以下、好ましくは30重量%以下、更に好ましくは25重量%以下の範囲である。
塗布方法としては、スプレー法、スピンコート法、ディップ法、ロ−ルコート法等が挙げられるが、特に、ディスク状の光記録媒体においては、膜厚の均一性を確保し、且つ、欠陥密度を低減することができるので、スピンコート法が好ましい。
【0154】
(界面層)
本実施の形態においては、特に、記録層22とカバー層24の間に界面層を設けることで、記録層22のカバー層24側への膨れ、dbmp<0、を有効に利用することができる。界面層の厚みは、1nm〜50nmであることがより好ましい。さらに好ましくは、上限は30nmとすることである。また、下限は5nm以上とすることが好ましい。界面層における反射は、できるだけ小さいことが望ましい。主反射面である反射層23からの反射光の位相変化を選択的に利用するためである。界面層に主反射面があることは、本実施の形態においては好ましいことではない。このため、界面層と記録層22、あるいは界面層とカバー層24の屈折率の差が小さいことが望ましい。その差は、いずれも、1以下が好ましく、より好ましくは、0.7以下、さらに好ましくは0.5以下である。
【0155】
尚、界面層を用いて、図4に示すような混合層25mの形成を抑制することや、逆構成で記録層22上にカバー層24を貼り付ける際の接着剤による腐食防止や、カバー層24を塗布するときの溶剤による記録層22の溶出を防止する効果が知られており、本実施の形態においても、そのような効果を併せて利用することは適宜可能である。界面層として用いられる材料は、記録再生光波長に対して透明で、かつ、化学的、機械的、熱的に安定なものが好ましい。ここで、透明とは、記録再生光ビーム27に対する透過率が80%以上となることであるが、90%以上であることがより好ましい。透過率の上限は100%である。
【0156】
界面層は、金属、半導体等の酸化物、窒化物、炭化物、硫化物、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)等のフッ化物等の誘電体化合物やその混合物が好ましい。界面層の屈折率は、前述のように、記録層やカバー層の屈折率との差が1以下のものが好ましく、値としては1〜2.5の範囲にあることが望ましい。界面層の硬度や厚みにより、記録層22の変形、特に、カバー層24側へのふくらみ変形(dbmp<0)を促進したり、抑制したりすることができる。ふくらみ変形を有効に活用するためには、比較的、硬度の低い誘電体材料が好ましく、特に、ZnO、In2O3、Ga2O3、ZnSや希土類金属の硫化物に、他の金属、半導体の酸化物、窒化物、炭化物を混合した材料が好ましい。また、プラスチックのスパッタ膜、炭化水素分子のプラズマ重合膜を用いることもできる。尚、界面層が設けられても、その厚みや屈折率が、記録溝部及び溝間部において均一で、記録により顕著に変化しなければ、式(2)、式(3)の光路長、式(7)〜式(9)はそのまま成り立つ。
【0157】
(カバー層)
カバー層24は、記録再生光ビーム27に対して透明で複屈折の少ない材料が選ばれ、通常は、プラスチック板(シートと呼ぶ)を接着剤で貼り合せるか、塗布後、光、放射線、または熱等で硬化して形成する。カバー層24は、記録再生光ビーム27の波長λに対して透過率70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。
【0158】
シート材として用いられるプラスチックは、ポリカーボネート、ポリオレフィン、アクリル、三酢酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート等である。接着には、光、放射線硬化、熱硬化樹脂や、感圧性の接着剤が用いられる。感圧性接着剤としては、また、アクリル系、メタクリレート系、ゴム系、シリコン系、ウレタン系の各ポリマーからなる粘着剤を使用できる。
【0159】
例えば、接着層を構成する光硬化性樹脂を適当な溶剤に溶解して塗布液を調整した後、この塗布液を記録層22または界面層上に塗布して塗布膜を形成し、塗布膜上にポリカーボネートシートを重ね合わせる。その後、必要に応じて重ね合わせた状態で、媒体を回転させるなどして塗布液をさらに延伸展開した後、UVランプで紫外線を照射して硬化させる。あるいは、感圧性接着剤をあらかじめシートに塗布しておき、シートを記録層22あるいは界面層上に重ね合わせた後、適度な圧力で押さえつけて圧着する。
【0160】
前記粘着剤としては、透明性、耐久性の観点から、アクリル系、メタクリレート系のポリマー粘着剤が好ましい。より具体的には、2−エチルヘキシルアクリレート、n−ブチルアクリレート、iso−オクチルアクリレートなどを主成分モノマーとし、これらの主成分モノマーを、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド誘導体、マレイン酸、ヒドロキシルエチルアクリレート、グリシジルアクリレート等の極性モノマーを共重合させる。主成分モノマーの分子量調整、その短鎖成分の混合、アクリル酸による架橋点密度の調整により、ガラス転移温度Tg、タック性能(低い圧力で接触させたときに直ちに形成される接着力)、剥離強度、せん断保持力等の物性を制御することができる(アィフォンス ブイ ポシウス(Alphonsus V.Pocius)著、水町浩、小野拡邦訳「接着剤と接着技術入門」、日刊工業新聞社、1999、第9章)。アクリル系ポリマーの溶剤としては、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、メチルエチルケトン、シクロヘキサン等が用いられる。上記粘着剤は、さらに、ポリイソシアネート系架橋剤を含有することが好ましい。
【0161】
また、粘着剤は、前述のような材料を用いるが、カバー層シート材の記録層側に接する表面に所定量を均一に塗布し、溶剤を乾燥させた後、記録層側表面(界面層を有する場合はその表面)に貼り合わせローラー等により圧力をかけて硬化させる。該粘着剤を塗布されたカバー層シート材を記録層を形成した記録媒体表面に接着する際には、空気を巻き込んで泡を形成しないように、真空中で貼り合せるのが好ましい。
また、離型フィルム上に上記粘着剤を塗布して溶剤を乾燥した後、カバー層シートを貼り合わせ、さらに離型フィルムを剥離してカバー層シートと粘着剤層を一体化した後、記録媒体と貼りあわせても良い。
【0162】
塗布法によってカバー層24を形成する場合には、スピンコート法、ディップ法等が用いられるが、特に、ディスク状媒体に対してはスピンコート法を用いることが多い。塗布によるカバー層24材料としては、同様に、ウレタン、エポキシ、アクリル系の樹脂等を用い、塗布後、紫外線、電子線、放射線を照射し、ラジカル重合もしくは、カチオン重合を促進して硬化する。
【0163】
ここで、dbmp<0なる変形を利用するためには、カバー層24の少なくとも記録層22あるいは、上記界面層に接する側の層(少なくとも、dGLと同程度かより厚めの範囲)が、膨れ変形に追従しやすいことが望ましい。そうして、dbmpがdGの1倍から3倍の範囲にあることが好ましい。むしろ、1.5倍以上の大きな変形を積極的に利用することが望ましい。カバー層24は、適度なやわらかさ(硬度)を有することが好ましく、例えば、カバー層24が厚み50μm〜100μmの樹脂のシート材からなり、感圧性の接着剤で貼り合せた場合は、接着剤層のガラス転移温度が−50℃〜50℃と低く、比較的やわらかいので、dbmp<0なる変形が比較的大きくなる。特に好ましいのは、ガラス転移温度が室温以下となっていることである。接着剤からなる接着層の厚みは、通常1μm〜50μmであることが好ましく、5μm〜30μmであることがより好ましい。接着層材料の厚み、ガラス転移温度、架橋密度を制御してかかる膨れ変形量を積極的に制御する変形促進層を設けることが好ましい。あるいは、塗布法で形成するカバー層24においても、1μm〜50μm、より好ましくは、5μm〜30μmの厚みの比較的低硬度の変形促進層と、残りの厚みの層に分けて多層に塗布することも、変形量dbmpの制御のためには好ましい。
【0164】
このように、カバー層の記録層(界面層)側に粘着剤、接着剤、保護コート剤等からなる変形促進層を形成する場合、一定の柔軟性を付与するため、ガラス転移温度Tgが25℃以下であることが好ましく、0℃以下であることがより好ましく、−10℃以下であることがさらに好ましい。ここでいうガラス転移温度Tgは、粘着剤、接着剤、保護コート剤等の硬化後において測定した値とする。Tgの簡便な測定方法は、示差走査熱分析(DSC)である。また、動的粘弾性率測定装置により、貯蔵弾性率の温度依存性を測定しても得られる(アィフォンス ブイ ポシウス(Alphonsus V.Pocius)著、水町浩、小野拡邦訳「接着剤と接着技術入門」、日刊工業新聞社、1999、第5章)。
【0165】
dbmp<0なる変形を促進することは、LtoHの信号振幅を大きくできるのみならず、記録に必要な記録パワーを小さくできる利点もある。他方、変形が大きすぎるとクロストークが大きくなったり、プッシュプル信号が小さくなりすぎたりするので、変形促進層はガラス転移温度以上においても適度な粘弾性を保持していることが好ましい。
【0166】
カバー層24は、さらにその入射光側表面に耐擦傷性、耐指紋付着性といった機能を付与するために、表面に厚さ0.1μm〜50μm程度の層を別途設けることもある。カバー層24の厚みは、記録再生光ビーム27の波長λや対物レンズ28のNA(開口数)にもよるが、0.01mm〜0.3mmの範囲が好ましく、0.05mm〜0.15mmの範囲がより好ましい。接着層やハードコート層等の厚みを含む全体の厚みが、光学的に許容される厚み範囲となるようにするのが好ましい。たとえば、いわゆるブルーレイ・ディスクでは、100μm±3μm程度以下に制御するのが好ましい。
なお、変形促進層を設ける場合のように、カバー層の記録層側に屈折率の異なる層を設けた場合、本発明におけるカバー層屈折率ncとしては、記録層側の層の値を参照する。
【0167】
(その他の構成)
なお、本実施形態の光記録媒体は、上述の各層の他に、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、任意の層を有していてもよい。例えば、前述の記録層22とカバー層24との界面の他に、基板21と反射層23との間に、相互の層の接触・拡散防止や、位相差及び反射率の調整のために、界面層を挿入することができる。
【実施例】
【0168】
以下、本発明について、実施例を挙げて更に詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
トラックピッチ0.32μmで、溝幅約0.18μm、溝深さ約55nmの案内溝を形成したポリカーボネート樹脂の基板上に、Ag98.1Nd1.0Cu0.9の組成を有する合金ターゲット(前記組成は原子%で表わしている。)をスパッタすることにより、厚さ約70nmの反射層を形成した。この反射層上にNbをスパッタすることにより、厚さ約2nmの中間層を形成した。更に、下記構造式で表される色素をオクタフルオロペンタノール(OFP)に溶解し、得られた溶液を上記中間層の上にスピンコート法で成膜した。
この構造式の屈折率は1.08、消衰係数は1.15であった。この屈折率、消衰係数は日本分光社製エリプソメーター「MEL−30S」を用いて、エリプソメトリー(偏光解析)によって測定した(特許文献45、藤原裕之著、「分光エリプソメトリー」、丸善出版社、平成15年、第5章)。また、ポリカーボネート樹脂基板上に塗布された、記録層単独の塗膜状態での吸収スペクトルは、分光光度計(株式会社島津製作所製、UV−3150)を用いて測定した。
【0169】
さらに、基板の溝深さ及び溝幅は原子間力顕微鏡(AFM:Digital Instruments社製 NanoScopeIIIa)を用いて測定した。
図9にポリカーボネート樹脂基板上に塗布された、記録層単独の塗膜状態での吸収スペクトルおよびnd,kdの波長依存性を示した。
【化14】
【0170】
スピンコート法の条件は以下の通りである。即ち、上記色素を0.66重量%の濃度でOFPに溶解させた溶液を、ディスク(上記基板上に反射層及び中間層を形成したもの)の中央付近に1.5g環状に塗布し、ディスクを120rpmで約4秒間、1200rpmで約3秒間回転させ色素溶液を延伸し、その後、9200rpmで3秒間回転させ色素溶液を振り切ることにより塗布を行なった。尚、塗布後にディスクを100℃の環境下に1時間保持し、溶媒であるOFPを蒸発除去することにより、記録層を形成した。
その後、上記記録層上に、スパッタ法により、ZnS−SiO2(モル比80:20)からなる界面層を、約16nmの厚みに形成した。その上に、厚さ75μmのポリカーボネート樹脂のシートと厚さ25μmの感圧接着剤層とからなる合計の厚さ100μmの透明なカバー層を貼り合わせることにより、光記録媒体(実施例1の光記録媒体)を作製した。
【0171】
(実施例2)
トラックピッチ0.32μmで、溝幅約0.18μm、溝深さ約60nmの案内溝を形成したポリカーボネート樹脂の基板上に、Ag98.1Nd1.0Cu0.9の組成を有する合金ターゲット(前記組成は原子%で表わしている。)をスパッタすることにより、厚さ約65nmの反射層を形成した。反射膜上に下記構造式で表される色素をオクタフルオロペンタノール(OFP)に溶解し、得られた溶液を上記中間層の上にスピンコート法で成膜した。
【0172】
この構造式の屈折率は0.98、消衰係数は1.22であった。図10にポリカーボネート樹脂基板上に塗布された、記録層単独の塗膜状態での吸収スペクトルおよびnd,kdの波長依存性を示した。
【化15】
【0173】
スピンコート法、記録層の形成の方法など以降は実施例1と同様である。
その後、上記記録層上に、スパッタ法により、ZnS−SiO2(モル比80:20)からなる界面層を、約16nmの厚みに形成した。その上に、厚さ75μmのポリカーボネート樹脂のシートと厚さ25μmの感圧接着剤層とからなる合計の厚さ100μmの透明なカバー層を貼り合わせることにより、光記録媒体(実施例1の光記録媒体)を作製した。
【0174】
(比較例1)
トラックピッチ0.32μmで、溝幅約0.18μm、溝深さ約60nmの案内溝を形成したポリカーボネート樹脂の基板上に、Ag98.1Nd1.0Cu0.9の組成を有する合金ターゲット(前記組成は原子%で表わしている。)をスパッタすることにより、厚さ約65nmの反射層を形成した。反射膜上に下記構造式で表されるアゾ系色素をオクタフルオロペンタノール(OFP)に溶解し、得られた溶液を上記中間層の上にスピンコート法で成膜した。
【化16】
【0175】
上記構造式の色素材料の屈折率は1.24、消衰係数は0.24であった。スピンコート法、記録層の形成の方法など以降は実施例1と同様である。
その後、上記記録層上に、スパッタ法により、ZnS−SiO2(モル比80:20)からなる界面層を、約20nmの厚みに形成した。その上に、厚さ75μmのポリカーボネート樹脂のシートと厚さ25μmの感圧接着剤層とからなる合計の厚さ100μmの透明なカバー層を貼り合わせることにより、光記録媒体(比較例1の光記録媒体)を作製した。
【0176】
(評価条件)
実施例1、2の光記録媒体に対する記録再生評価は、記録再生光波長λ=406nm、NA(開口数)=0.85、集束ビームスポットの径約0.42μm(中心強度の1/e2となる範囲)の光学系を有するパルステック社製ODU1000テスターを用いて行なった。記録再生は基板溝部(in−groove)に対して行なった。
【0177】
記録は、線速度4.92m/sを1倍速とし、1倍速又はその2倍速となるように回転させ、(1,7)RLL−NRZI変調されたマーク長変調信号(17PP)を記録した。基準クロック周期Tは、1倍速では15.15nsec.(チャネルクロック周波数66MHz)とし、2倍速では7.58nsec.(チャネルクロック周波数132MHz)とした。記録パワー、記録パルス等の記録条件は、下記ジッターが最小になるように調整を行なった。再生は1倍速で行ない、ジッター及び反射率を測定した。
【0178】
ジッター(Jitter)の測定は、以下の手順で行なった。つまり、記録信号をリミット・イコライザーにより波形等化した後、2値化を行なった。その後、2値化した信号の立ち上がりエッジ及び立ち下がりエッジと、チャネルクロック信号の立ち上がりエッジとの時間差の分布σを、タイムインターバルアナライザにより測定した。そして、チャネルクロック周期をTとして、σ/Tによりジッター(%)を測定した(データ・トゥー・クロック・ジッター:Data to Clock Jitter)。
反射率は再生ディテクターの電圧出力値に比例するので、この電圧出力値を既知の反射率Rrefで規格化することで値を求めた。実施例及び比較例ともに、記録を行なうことで反射率は上昇した。
【0179】
記録信号の中で反射率の最も高い部分(9Tマーク)、反射率の最も低い部分(9Tスペース)の各反射率をRH、RLとし、更に
m=(RH−RL)/RH
によって変調度mを計算した。
プッシュプル信号は、規格化プッシュプル信号強度(IPPactual)の値を測定した。
【0180】
(評価結果)
図11は、実施例1に用いたディスクの断面の透過電子顕微鏡写真である。図11(a)は未記録状態のディスクの断面の透過電子顕微鏡(TEM)写真であり、図11(b)は、記録状態のディスクの断面の透過電子顕微鏡(TEM)写真である。断面試料は以下のようにして作製した。カバー層に粘着テープを貼り付けて引っ張った際、部分的に露出する界面層/カバー層界面での剥離面を取り出す。剥離面上に保護のためにW(タングステン)を蒸着する。さらに、Wで被覆された剥離面上部から、真空中で高速イオンを照射してスパッタし、穴を形成する。穴の側面に断面が形成されたものを、透過電子顕微鏡で観察を行った。
【0181】
図11(a)、図11(b)の断面像において、記録層は有機物であるため電子を透過するので白っぽく見える。記録溝間部(カバー層溝部)では、記録層膜厚dLはほぼゼロであり、記録溝部では、記録層膜厚dGは約29nmであることが分かる。また、反射基準面の段差で規定される溝深さdGLは、AFMで基板表面で測定したのとほぼ同等の約53nmである。記録ピット部では、界面層形状から、記録層がカバー層に向かって膨らんだ変形(即ち、図4において、dbmp<0)をしていることが分かる。さらに未記録の記録層にくらべ、白っぽくなっていることから、空洞(即ち、nd’=1)が形成されていると考えられる。また、記録ピットが記録溝部からはみださずに溝内に閉じ込められていることも分かる。
【0182】
尚、反射基準面からの記録後の空洞の高さは約88nmであり、dbmp=59nmである。また、反射層/基板界面に変質、変形は見られないので、dpit≒dmix≒0となっていることも確認できた。さて、これらの値及びnd=1.08、nc=1.5、δnd=1.08−1=0.08(但し、空洞内の屈折率を1とした)、λ=406nm、dG≒29nm、dL≒0nm、dGL≒53nmを用いて、本実施の形態における各位相の値を見積もると、以下のとおりである。
【0183】
式(7)におけるΦbは、
Φb=(4π/406)×(0.42×29−1.5×53)≒−0.66π
故に、|Φb2|<πである。
式(9)におけるΔΦは、
ΔΦ=(4π/406)×(0.42×59+0.08×88)≒0.31π
となり、ΔΦは、通常、(π/2)以下となるという想定を満足している。
また、式(8)におけるΦaは、
Φa≒(−0.66+0.31)π=−0.35π
となり、|Φb|>|Φa|となる。
【0184】
上記位相変化が記録ピット部による空洞形成をともなう屈折率変化に依存しており、かつ、記録ピット部で記録層がカバー層側に膨らむ変形を伴っていることが明らかとなった。δnd<0であるものの、dbmp<0を積極的に利用し、ΔΦ>0の位相変化を利用した記録が実施できていることがわかる。
また、プッシュプル信号の極性は変化しなかったので、0<|Φa|<|Φb|<πなる位相変化によるLtoH記録となっているといえる。
実施例2においても同様に記録ピット部における空洞形成とカバー層側に膨らむ変形が確認された。
【0185】
実施例1の光記録媒体におけるジッターσ、反射率RH、RL、及び変調度mは、1倍速記録ではσ=5.1%、RH=34.2%、RL=17.5%、m=0.49であり、2倍速記録ではσ=6.1%、RH=33.4%、RL=17.4%、m=0.48であった。
また、規格化プッシュプル強度は、記録前0.54、1倍速の記録後0.26、2倍速記録後は0.32であった。記録時のパワーは、1倍速で5.6mW、2倍速で7.0mWであった。
本発明者等は検討の結果、ブルーレイ・ディスクにおいてジッターが7.0%以下であり、記録時のパワーが7.0mW以下であり、規格化プッシュプル信号強度が0.21〜0.60の範囲であれば、実用的に十分な特性であると考えている。実施例1の上記数値は、これらの基準をクリアしていることが判る。
【0186】
実施例2の光記録媒体におけるジッターσ、反射率RH、RL、及び変調度mは、1倍速記録ではσ=6.1%、RH=38.8%、RL=21.9%、m=0.44であった。また、規格化プッシュプル信号強度は、記録前0.50、1倍速の記録後0.32であった。実施例2においては、1倍速記録ながら、前記ブルーレイ・ディスクの基準をほぼ満足している。
比較例1の光記録媒体におけるジッターσ、反射率RH、は、1倍速記録ではσ=7.8%、RH=30.8%、であり、2倍速記録ではσ=11.8%、RH=31.2%であった。記録時のパワーは、1倍速で6.6mW、2倍速で8.0mWであった。比較例1の光記録媒体では、ジッター値及び2倍速での記録パワーの値が、前記ブルーレイ・ディスクの基準を満足できないことがわかる。
以上の結果から、本発明により1倍速記録、2倍速記録ともにブルーレイ・ディスクの規格を満足する、優れた光記録媒体を得ることができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0187】
本発明は、膜面入射型の青色レーザ対応光記録媒体等などに用いて特に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0188】
【図1】従来構成の色素を主成分とする記録層を有する追記型媒体(光記録媒体)を説明する図である。
【図2】本実施の形態が適用される色素を主成分とする記録層を有する膜面入射構成の追記型媒体(光記録媒体)を説明する図である。
【図3】従来構成である図1の基板入射構成の基板側から入射する記録再生光ビームの反射光を説明するための図である。
【図4】膜面入射型媒体の層構成とカバー層溝間部に記録する場合の位相差を説明する図である。
【図5】膜面入射型媒体の層構成とカバー層溝部に記録する場合の位相差を説明する図である。
【図6】記録溝部と記録溝間部の位相差と反射光強度の関係を説明する図である。
【図7】記録信号(和信号)とプッシュプル信号(差信号)を検出する4分割ディテクターの構成を説明する図である。
【図8】実際に、複数の溝部、溝間部を横断しながら得られる出力信号を低周波通過フィルター(カットオフ周波数30kHz程度)を通過させた後に検出する信号を示す図である。
【図9】実施例1の記録層色素の吸収スペクトルとnd,kdの波長依存性を示すグラフである。
【図10】実施例2の記録層色素の吸収スペクトルとnd,kdの波長依存性を示すグラフである。
【図11】実施例1に用いたディスクの断面の透過電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0189】
10、20…光記録媒体、11、21…基板、12、22…記録層、13、23…反射層、14…保護コート層、15…基板溝間部、16…基板溝部、16m、25m、26m…混合層、16p、25p、26p…記録ピット部、17、27…記録再生光ビーム、18、28…対物レンズ、24…カバー層、25…カバー層溝間部、26…カバー層溝部、19,29…記録再生光ビームが入射する面
【技術分野】
【0001】
本発明は光記録媒体に関し、より詳しくは、色素を含有する記録層を有する光記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、超高密度の記録が可能となる青色レーザの開発は急速に進んでおり、それに対応した追記型の光記録媒体の開発が行なわれている。中でも、比較的安価のコストで効率的な生産が可能となる色素塗布型の追記型媒体の開発が強く望まれている。従来の色素塗布型追記型の光記録媒体では、色素を主成分とする有機化合物からなる記録層にレーザ光を照射し、有機化合物の分解・変質による光学的(屈折率・吸収率)変化を主に生じさせることで記録ピットを形成させている。記録ピット部は、光学的変化のみならず、通常は、記録層体積変化による変形、発熱による基板と色素の混合部形成、基板変形(主として基板膨張による盛り上がり)等を伴う(例えば特許文献1参照)。
【0003】
記録層に用いられる有機化合物の記録・再生に用いるレーザ波長に対する光学的挙動、分解・昇華及びこれに伴う発熱等の熱的挙動が良好な記録ピットを形成させるための重要な要素となっている。したがって、記録層に用いる有機化合物は、光学的性質、分解挙動の適切な材料を選択する必要がある。
【0004】
そもそも、従来型の追記型媒体、特に、CD−RやDVD−Rでは、Al、Ag、Au等の反射膜を基板上にあらかじめ形成した凹状ピットに被覆してなる再生専用の記録媒体(ROM媒体)との再生互換を維持することを目的とし、概ね60%以上の反射率と、同様に、概ね60%を超える高変調度を実現することを目的としている。先ず、未記録状態で高反射率を得るために、記録層の光学的性質が規定される。通常は、未記録状態で屈折率nが約2以上、消衰係数が0.01〜0.3程度の値が要求されていた(例えば特許文献2参照)。
【0005】
色素を主成分とする記録層では、記録によるかかる光学的性質の変化だけでは、60%以上もの高変調度をえることが困難である。即ち、屈折率nと消衰係数kの変化量が有機物である色素では限りがあるので、平面状態での反射率変化には限りがある。
【0006】
そこで、記録ピット部と未記録部の反射光の位相差による両部分からの反射光の干渉効果を用いて、記録ピット部分での反射率変化(反射率低下)を見かけ上大きくする方法が利用されている。つまり、ROM媒体のような位相差ピットと同様の原理が用いられており、屈折率変化が無機物より小さい有機物記録層の場合、むしろ、位相差による反射率変化を主として用いることが有利であることが報告されている(特許文献3参照)。また、上記の記録原理を総合的に考慮した検討が行われている(非特許文献1参照)。
以下、以上のように記録された部分(記録マーク部と言われることがある。)を、その物理的な形状によらず、記録ピット、記録ピット部あるいは記録ピット部分と称す。
【0007】
図1は、従来構成の色素を主成分とする記録層を有する追記型媒体(光記録媒体10)を説明する図である。図1に示すように、光記録媒体10は、溝を形成した基板11上に少なくとも記録層12と反射層13、保護コート層14をこの順に形成してなり、対物レンズ18を用いて、基板11を介して記録再生光ビーム17を入射し、記録層12に照射する。基板11の厚みは、1.2mm(CD)又は0.6mm(DVD)が通常用いられる。また、記録ピットは、記録再生光ビーム17が入射する面19から見て近い側で、通常の溝と呼ばれる基板溝部16の部分に形成され、遠い側の基板溝間部15には形成されない。
【0008】
前述したこれらの公知文献において、色素を含む記録層12の記録前後の屈折率変化もできる限り大きくする一方で、記録ピット部の形状変化、即ち、溝内に形成された記録ピット部で、局所的に溝形状が変化する(基板11が膨らむ、あるいは、陥没することで溝深さが等価的に変化する)、膜厚が変化する(記録層12の膨張、収縮による膜厚の透過的な変化)効果が位相差変化に寄与することも報告されている。
【0009】
上記のような記録原理においては、未記録時の反射率を高め、またレーザの照射によって有機化合物が分解し、大きな屈折率変化が生じるようにするため(これによって大きな変調度が得られる)、通常は、記録再生光波長は大きな吸収帯の長波長側の裾に位置するように選択される。これは、大きな吸収帯の長波長側の裾では、適度な消衰係数を有し、かつ大きな屈折率が得られる波長領域となるためである。
【0010】
しかしながら、青色レーザ波長に対する光学的性質が従来並みの値を有する材料は見出されていない。特に、現在実用化されている青色半導体レーザの発振波長の中心である405nm近傍においては、従来の追記型光記録媒体の記録層に要求される光学定数と同程度の光学定数を有する有機化合物がほとんど存在せず、いまだ、探索の段階である。さらに、従来の色素記録層を有する追記型光記録媒体では、記録再生光波長近傍に色素の主吸収帯が存在するため、その光学定数の波長依存性が大きくなり(波長によって光学定数が大きく変動する)、レーザの個体差や、環境温度の変化等による記録再生光波長の変動に対し、記録感度や変調度、ジッター(Jitter)やエラー率等の記録特性や、反射率等が大きく変化するという問題がある。
【0011】
例えば、405nm近傍に吸収を有する色素記録層を用いた記録のアイデアが報告されているが、そこに用いられる色素は、従来と同じ光学特性及び機能が要求されており、ひとえに、高性能な色素の探索発見に依存している(例えば特許文献4参照)。次いで、図1に示すような、従来の色素を主成分とする記録層12を用いた追記型の光記録媒体10では、溝形状及び記録層12の基板溝部16と基板溝間部15の厚みの分布も適正に制御しなければならないこと等が報告されている(例えば特許文献5参照)。
【0012】
即ち、上述のように高反射率の確保の点から、記録再生光波長に対し、比較的小さな消衰係数(0.01〜0.3程度)を持つ色素しか使用することができない。そのため、記録層12において記録に必要な光吸収を得るために、また、記録前後の位相差変化を大きくするために、記録層12の膜厚を薄膜化することが不可能である。その結果、記録層12の膜厚は、通常、λ/(2ns)(nsは基板11の屈折率)程度の厚みが用いられ、記録層12に用いる色素を溝に埋め込み、クロストークを低減するために、深い溝を持った基板11を使用する必要がある。色素を含む記録層12は、通常スピンコート法(塗布法)によって形成されるため、色素を深い溝に埋めて、溝部の記録層12を厚膜化することは、かえって都合がよい。他方、塗布法では、基板溝部16と基板溝間部15の記録層膜厚に差が生じるが、かかる記録層膜厚の差が生じることは、深い溝を用いても安定してトラッキングサーボ信号を得ることに有効である。
【0013】
つまり、図1の基板11表面で規定される溝形状と、記録層12と反射層13との界面で規定される溝形状とは、これら双方を適正な値に保たなければ、記録ピット部での信号特性とトラッキング信号特性の両方を良好に保つことができない。溝の深さは、通常、λ/(2ns)(λは記録再生光ビーム17の波長、nsは基板11の屈折率)近くとする必要があり、CD−Rでは200nm程度、DVD−Rでは150nm程度の範囲としている。このような、深い溝を有する基板11の形成が非常に難しくなり、光記録媒体10の品質を低下させる要因になっている。
【0014】
特に、青色レーザ光を用いる光記録媒体では、λ=405nmとすれば、100nm近い深い溝が必要となる一方で、高密度化のためにトラックピッチを0.2μm〜0.4μmとすることが多い。かかる狭トラックピッチで、そのように深い溝を形成することは尚さら困難が伴い、実際上、従来のポリカーボネート樹脂では量産は不可能に近い。即ち、青色レーザ光を用いる媒体では、従来構成では、量産化が困難となる可能性が高い。
【0015】
さらに、上記公報における実施例の多くは、従来のディスク構成を示した図1での例であるが、青色レーザを用いた高密度記録を実現するために、いわゆる膜面入射と呼ばれる構成が注目されており、相変化型記録層等の無機材料記録層を用いた構成が報告されている(非特許文献2参照)。膜面入射と呼ばれる構成においては、従来とは逆に、溝を形成された基板上に、少なくとも反射膜、記録層、カバー層をこの順に形成してなり、カバー層を介して記録・再生用の集束レーザ光を入射し、記録層に照射する。カバー層の厚みは、いわゆるブルーレイ・ディスク(Blu−Ray)では、100μm程度が通常用いられる(非特許文献3)。このような薄いカバー層側から、記録再生光を入射するのは、その集束のための対物レンズに従来より高NA(開口数、通常は0.7〜0.9、ブルーレイ・ディスクでは0.85)のものを用いるためである。高NAの対物レンズを用いた場合、カバー層の厚みによる収差の影響を小さくするために、100μm程度という薄さが必要となる。このような青色波長記録、膜面入射層構成をとりあげた例は数多く報告されている(非特許文献4参照、例えば特許文献6参照)。また、関連する技術についても多くの報告がある(非特許文献5〜非特許文献8参照、例えば特許文献7〜9参照)。
【0016】
【非特許文献1】「プロシーディングス・オブ・インターナショナル・シンポジウム・オン・オプチカル・メモリ(Proceedings of International Symposium on Optical Memory)」、(米国)、第4巻、1991年、p.99−108
【非特許文献2】「プロシーディングス・オブ・エスピーアイイー(Proceedings of SPIE)」、(米国)、第4342巻、2002年、p.168−177
【非特許文献3】「光ディスク解体新書」、日経エレクトロニクス編、日経BP社、2003年、第3章
【非特許文献4】「ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス(Japanese Journal of Applied Physics)」、(日本国)、第42巻、2003年、p.1056−1058
【非特許文献5】中島平太郎・小川博共著、「コンパクトディスク読本」改訂3版、オーム社、平成8年、p.168
【非特許文献6】「ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス(Japanese Journal of Applied Physics)」、(日本国)、第42巻、2003年、p.914−918
【非特許文献7】「ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス(Japanese Journal of Applied Physics)」、(日本国)、第39巻、2000年、p.775−778
【非特許文献8】「ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス(Japanese Journal of Applied Physics)」、(日本国)、第42巻、2003年、p.912−914
【特許文献1】特開平3−63943号公報
【特許文献2】特開平2−132656号公報
【特許文献3】特開昭57−501980号公報
【特許文献4】特開2002−301870号公報
【特許文献5】特開平4−182944号公報
【特許文献6】特開2004−30864号公報
【特許文献7】特開2003−266954号公報
【特許文献8】特開2001−331936号公報
【特許文献9】特表2005−504649号公報
【特許文献10】国際公開06/009107号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
ところで、開発の先行する膜面入射型の相変化型媒体では、入射光側から見たカバー層溝部に記録マークを形成する。これは、入射光側から見れば、従来の基板上の基板溝部への記録と同じであり、CD−RW、DVD−RWとほとんど同じ層構成で実現できることを意味し、実際、良好な特性が得られている。他方、色素を主成分とする記録層、特に塗布型の場合、カバー層溝部への記録は容易ではない。通常、基板上のスピンコートでは、基板における溝部に、色素がたまりやすいからである。たとえ、基板溝間部に色素が適当な膜厚塗布されたとしても、通常は、基板溝部にも相当量の色素がたまる為、カバー層溝部に形成した記録ピット(記録マーク)が、カバー層溝間部にもはみ出しやすく、このため、クロストークが大きくなりトラックピッチが詰められないため、高密度化に限度がある。
【0018】
しかし、前述した公知文献においては、ほとんどが、従来どおり、入射光側からみて近い側のカバー層溝部への記録により反射光強度が低下することを主眼としている。あるいは、溝部の段差による反射光の位相の変化を考慮しない単に平面状態でおきる反射率低下に注目している。あるいは、位相差を極力使わない平面状態での反射率変化を利用することを前提としている。このような前提条件では、カバー層溝部記録でのクロストークの問題は解決できず、溶液塗布による記録層形成プロセスになじまない。つまり、位相変化を有効に活用してカバー層溝間部への良好な記録特性を実現しているとはいえない。特に、マーク長変調記録において、最短マーク長から最長マーク長までの全マーク長に対して、実用的な記録パワーマージンを有し、良好なジッター(Jitter)特性を実現した例はなかった。本発明者等の一部は、特許文献10において、入射光側から見て遠い側の基板溝部への記録により反射光強度が増加する光記録媒体を開発したが、ジッターや記録感度など、すべての特性を満足するためには、更なる改善が必要な状況であった。
【0019】
このように、いまだ、従来のCD−R、DVD−Rに匹敵する高性能、低コストの色素を主成分とする記録層を有する青色レーザ対応、膜面入射型追記型媒体は知られていないのが現状である。
【0020】
また、消衰係数が0.5〜1.3程度と大きなポルフィリン色素を主成分とする記録層を有する青色レーザ対応の膜面入射型媒体について検討された結果(特開2004−160742号公報)があるが、記録の特性について、実用的な指標であるジッターやプッシュプル信号については良好な値を実現した例はない。その理由は以下の通りである。
【0021】
ここで、記録再生光波長λにおける記録層の未記録状態(記録前)の光学特性は、複素屈折率nd*=nd−i・kdで表し、実部ndを屈折率、虚部kdを消衰係数と呼ぶ。記録ピット部、即ち、記録後には、ndがnd’=nd−δndに、kdがkd’=kd−δkdに変化するものとする。
【0022】
さらに、以下で用いる反射率と反射光強度という2つの言葉の区別を説明する。反射率とは、平面状態で2種の光学特性の異なる物質間で生じる光の反射において、入射エネルギー光強度に対する、反射エネルギー光強度の割合である。記録層が平面状であっても、光学特性が変化すれば、反射率が変化する。一方、反射光強度は、集束された記録再生光ビームと対物レンズを介して記録媒体面を読んだときに、ディテクター上に戻ってくる光の強度のことである。
【0023】
ROM媒体において、ピット部、未記録部(ピット周辺部)は同一の反射層で覆われているから、反射膜の反射率は、ピット部、未記録部で同じである。一方、ピット部で生じる反射光と未記録部の反射光との位相差のために、干渉効果によって、記録ピット部で反射光強度が変化して見える(通常は、低下して見える)のである。このような干渉効果は、記録ピットが局所的に形成され、記録再生光ビーム径内部に、記録ピット部とその周辺の未記録部が含まれている場合に、記録ピット部と周辺部との反射光が位相差によって干渉して起きる。一方、記録ピット部でなんらかの光学的変化を生じる記録媒体においては、凹凸がない平面状態であっても記録膜それ自体の複素屈折率変化によって、反射率変化が生じる。これを、本実施の形態においては「平面状態で生じる反射率変化」という。言い換えると、記録膜平面全体が記録前の複素屈折率か記録後の複素屈折率かによって、記録膜に生じる反射率変化のことであり、記録ピットとその周辺部の反射光の干渉を考慮しなくても生じる反射光強度変化である。一方、記録層の光学的変化が局所的ピット部である場合、記録ピット部の反射光の位相と、その周辺部の反射光の位相が異なる場合に、反射光の2次元的干渉が生じて反射光強度が記録ピット周辺部で局所的に変化して見える。
【0024】
このようにして、本実施の形態では、位相の異なる反射光の2次元的干渉を考慮しない反射光強度変化を「平面状態で生じる反射光強度変化」あるいは「平面状態の反射光強度変化」とし、記録ピットとその周辺部の位相の異なる反射光の2次元的干渉を考慮した反射光強度変化を「位相差によって生じる(局所的)反射光強度変化」、あるいは、「位相差による反射光強度変化」として、両者を区別して考える。
一般的に、「位相差による反射光強度変化」によって、十分な反射光強度変化、つまり、記録信号の振幅(あるいは、光学的コントラスト)を得ようとすると、記録層22自体の屈折率変化が、非常に大きくなければならない。例えば、CD−RやDVD−Rでは、色素記録層の記録前屈折率の実部が2.5〜3.0であり、記録後には、1〜1.5程度になることが求められる。また、色素記録層の記録前複素屈折率の虚部kdは0.1程度よりは小さいことが未記録状態でのROM互換の高反射率を得る上で好ましいとされていた。また、記録層22の膜厚が50nm〜100nmと厚めであることが必要であった。その程度の厚みが無いと大部分の光が記録層22内を通過してしまい、十分な反射光強度変化とピット形成に必要な光吸収が起こり得ないからである。このように厚い色素記録層ではピット部での変形による局所的位相変化は、補助的に用いられているに過ぎない。他方、前述のROM媒体では、記録ピット部での局所的屈折率変化はなく、「位相差による反射光強度変化」のみが検出されていると考えられる。良好な記録品質を得るためには、記録ピット部での反射光強度変化が、上記2種類の反射光強度変化が混合して起きる場合、両者が強めあうことが望ましい。2種類の反射光強度変化が強めあうとは、それぞれで生じる反射光強度の変化の方向、つまり、反射光強度が増加するか低下するか、が、そろっているということである。
【0025】
さて、記録層の複素屈折率のうち、消衰係数kdの低下は、「平面状態の反射光強度変化」において、反射率の増加、よって、反射光強度の増加をもたらす。従来のCD−R,DVD−Rでは、上記のようにこの消衰係数の変化は、記録ピット部での反射光強度の低下を利用して記録(以下、HtoL記録と呼ぶことがある)しているので好ましいものではなかった。このため、未記録でのndが大きくてkdが小さくなる傾向にある、主吸収帯の長波長側に記録再生光波長がくるようにして利用していたのである。このような色素の利用方法では、前述のようなndが2.5〜3程度という大きな値が必要となるが、400nm近傍でこのような大きなndを有する色素は実際上得がたく、従来の記録原理をそのまま利用していては、良好な記録特性が得られないという問題があった。
【0026】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものである。
即ち、本発明の目的は、ジッター特性やトラッキング特性に優れ、良好な記録再生特性を有する、極めて高密度記録が可能な光記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明者等は上記課題に鑑みて、特定の構造を有するポルフィリン色素を主成分とする記録層を有する青色レーザ対応の膜面入射型媒体について鋭意検討を行なった。その結果、記録再生光ビームが前記カバー層に入射する面から遠い側の案内溝部を記録溝部とし、この記録溝部に形成された記録ピット部の反射光強度を、当該記録溝部における未記録時の反射光強度より高くなるように記録(以下、LtoH記録と呼ぶことがある)すれば、良好な記録特性を有する膜面入射型媒体を得ることができることを見出した。
【0028】
即ち、本発明の趣旨は、案内溝が形成された基板と、
前記基板上に、光反射機能を有する層と、
下記一般式[I]で表されるポルフィリン化合物を主成分とする記録層と、
前記記録層に入射する記録再生光を透過し得るカバー層とをこの順に備える光記録媒体において、
前記記録再生光波長λが350nm〜450nmであり、
前記記録再生光を集束して得られる記録再生光ビームが前記カバー層に入射する面から遠い側の案内溝部を記録溝部とするとき、
前記記録溝部に形成された記録ピット部の反射光強度が、当該記録溝部における未記録時の反射光強度より高くなることを特徴とする光記録媒体に存する(請求項1)。
【化1】
(一般式[I]中、Ara1〜Ara4は各々独立に芳香環を表し、それぞれ複数の置換基を有していてもよい。
Ra1〜Ra8は各々独立に水素原子もしくは任意の置換基を表し、
Maは2価以上の金属カチオンを表す。但し、Maが3価以上の場合、分子全体が中性となるように該分子は更にカウンターアニオンを有していても良い。)
【0029】
また、当該記録ピット部において、前記記録層の内部または当該記録層に隣接する層との界面に空洞を形成し、かつ、前記記録層が前記カバー層側へ膨らむ形状変化を伴うことが好ましい(請求項2)。
【0030】
また、前記記録層が一般式[II]で表されるテトラアリールポルフィリン化合物を主成分とすることが好ましい(請求項3)。
【化2】
([II]式中、X1〜X4は各々独立に価数が4以上の原子を表し、X1〜X4が価数5以上の原子の場合、X1〜X4は更に任意の置換基を有していてもよく、X1〜X4が価数6以上の原子の場合、各々=Q1〜=Q4を2個有していてもよく、その場合において、該2個のQ1〜Q4は同一のものであってもよく、異なるものであってもよい。
Q1〜Q4は、各々独立に周期律表第16族原子を表す。
Ar1〜Ar4は各々独立に芳香環を表し、それぞれX1〜X4以外の置換基を有していてもよい。
R1〜R8は各々独立に炭素数20以下の有機基を表し、
R9〜R16は各々独立に水素原子もしくは電子吸引性置換基を表し、
Mは、2価以上の金属カチオンを表す。但し、Mが3価以上の場合、分子全体が中性となるように該分子は更にカウンターアニオンを有していても良い。
なお、R1およびR2、R3およびR4、R5およびR6、R7およびR8はそれぞれ結合して環を形成していてもよい。)
【0031】
また、前記記録層と前記カバー層との間に、当該記録層の材料と当該カバー層の材料との混合を防止する界面層を更に設けることが好ましい。(請求項4)
【0032】
また、前記光反射機能を有する層と前記記録層との間に中間層を更に設けることが望ましい。(請求項5)
【0033】
さらに、前記中間層は、Ta、Nb、V、W、Mo、Cr、及びTiからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含有することが望ましい。(請求項6)
【0034】
また、前記光反射機能を有する層の前記記録層側の界面を反射基準面とし、前記記録ピット部を形成しない案内溝部を記録溝間部とした時、前記反射基準面で規定される前記記録溝部と前記記録溝間部との段差dGLは、30〜70nmであることが好ましい(請求項7)。
【発明の効果】
【0035】
かくして本発明によれば、良好なジッター特性を有する、極めて高密度記録が可能な光記録媒体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、発明の実施の形態)について説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することが出来る。
図2は、本発明の実施の形態に係る光記録媒体の層構成を模式的に示す部分断面図である。図2に示す光記録媒体20(本実施形態の光記録媒体)は、膜面入射構成の追記型光記録媒体であって、案内溝を形成した基板21上に、少なくとも反射機能を有する層(反射層23)と、図2において後述するように、未記録(記録前)状態において記録再生光に対して吸収を有する色素を主成分とする光吸収機能を有する記録層22、及びカバー層24が順次積層された構造を有し、記録再生を、カバー層24側から対物レンズ28を介して集光された記録再生光ビーム27を入射して行う。即ち、光記録媒体20は、「膜面入射構成」(Reverse stackともいう)をとる。以下においては、反射機能を有する層を単に「反射層23」、色素を主成分とする光吸収機能を有する記録層を単に「記録層22」と呼ぶ。前述したように、図1を用いて説明した従来構成を「基板入射構成」と呼ぶ。
【0037】
図2で説明する膜面入射構成のカバー層24側に記録再生光ビーム27を入射するに当たり、高密度記録のために、通常、開口数(以下、NAと記載)=0.6〜0.9程度の高NAの対物レンズが用いられる。記録再生光波長λは、本発明においては、特に、350nm〜450nmの波長域を用いることが好ましい。
【0038】
本実施の形態においては、図2において、記録再生光ビーム27のカバー層24への入射面(記録再生光ビームが入射する面29)から見て遠い側の案内溝部(記録再生光ビームが入射する面から遠い側の案内溝部)を記録溝部とし、記録溝部に形成した記録ピット部の反射光強度が記録溝部の未記録時の反射光強度より高くなるような記録を行う。その主たるメカニズムは、反射光強度の増加が前記記録ピット部での消衰係数の減少と反射光の位相変化による。反射光の位相変化とは、記録溝部における反射光の往復光路長の記録前後での変化のことである。
【0039】
ここで、膜面入射型の光記録媒体20では、記録再生光ビーム27のカバー層24への入射面(記録再生光ビームが入射する面29)から遠い案内溝部(基板21の溝部と一致)をカバー層溝間部(in−groove)25、記録再生光ビーム27が入射する面29から近い案内溝間部(基板21の溝間部と一致)をカバー層溝部(on−groove)26と呼ぶことにする(on−groove、in−grooveの呼称は、非特許文献2による。)。
【0040】
より具体的には、以下のような工夫をすることにより、本発明を実現することができる。
(1)未記録状態のカバー層溝間部からの反射光とカバー層溝部からの反射光の位相の差Φが、概ねπ/2〜πとなるような深さの溝を基板21に形成し、カバー層溝間部(in−groove)での記録層膜厚を該溝深さより薄くなるような薄膜とし、他方、カバー層溝部(on−groove)での膜厚がほとんどゼロとなる非常に薄い色素を主成分とする記録層22を設ける。該カバー層溝間部に、カバー層側から記録再生光ビームを照射して、該記録層に変質を生じさせ、記録ピットにおいて、位相変化による反射光強度の増加を利用する。これにより、膜面入射構造において、従来のon−groove、HtoL記録に比べ、塗布型色素媒体の性能が大幅に改善される。また、クロストークの小さな高トラックピッチ密度(例えば、0.2μm〜0.4μm)での記録が可能となる。また、そのような高トラックピッチの溝の形成が容易となる。
なお、塗布型(スピンコート)による色素媒体では、色素が基板溝部に優先的にたまるという特徴があるので、カバー層溝間部(in−groove)での記録層膜厚を該溝深さより薄くなるような薄膜とし、他方、カバー層溝部(on−groove)での膜厚がほとんどゼロとなる非常に薄い色素記録層が自然と形成されやすいというプロセス上の利点もある。
【0041】
(2)記録ピット部での屈折率の変化に、記録層22内部もしくはその界面部での空洞形成を利用する。空洞内部においては、nd’≒1、kd’≒0とみなせる。また、記録層22がカバー層24方向に膨らむ変形をあわせて用いるのが好ましく、カバー層24の少なくとも記録層22側には、ガラス転移点が室温以下の粘着剤等からなる柔らかい変形促進層を形成して、前記変形を助長する。これにより、記録により反射光強度が増加するような位相変化の方向がそろい(記録信号波形の歪が無くなる)、かつ、比較的小さな屈折率変化でも位相変化量(記録信号振幅)を大きくできる。さらに、記録層の消衰係数の減少を積極的に利用し平面状態で生じる反射率変化による反射光強度の増加も合わせて用いることができる。
以上により、案内溝が形成された基板と、前記基板上に、少なくとも、光反射機能を有する層と、未記録状態において記録再生光波長に対して光吸収機能を有する色素を主成分として含有する記録層と、前記記録層に対して記録再生光が入射するカバー層と、をこの順に具え、前記記録再生光を集束して得られる記録再生光ビームが前記カバー層に入射する面から遠い側の案内溝部を記録溝部とするとき、前記記録溝部に形成された記録ピット部の反射光強度が、当該記録溝部における未記録部の反射光強度より高くなっている光記録媒体が実現でき、該記録ピット部から高変調度かつ歪みの無いLtoH極性の記録信号を得られるという特徴がある。
【0042】
(3)記録層の主成分となる光吸収機能を有する色素として、前記一般式[I]で表されるポルフィリン化合物を用いる。
本ポルフィリン化合物は、記録再生光波長である400nm近傍より長波長側に非常に急峻で大きな主吸収帯を有するため、記録再生波長が400nm近傍の光記録媒体として用いる場合に、以下のような利点がある。本ポルフィリン化合物は、記録前の消衰係数が0.5−1.3程度と比較的大きく、記録後には効率よく分解されて空洞を形成するのでほぼゼロ近くまで低下する。すなわち、記録前後における消衰係数の減少変化量が非常に大きい。このため、記録ピット部で吸収光量が大幅に減少し、他方、反射光強度が顕著に増加するので、記録後に記録ピット部で反射光強度が増加する記録方式において、大きな信号振幅が得られやすい。さらに、消衰係数が大きいために記録時に光がよく吸収されるため、記録時のパワーを効率よく使用できることになり、記録感度を良好に出来るという利点もある。他方、屈折率が0.5−1程度と比較的小さい色素を選択できる特徴がある。記録溝部に色素がうまった場合に計算される光学的な溝深さは、溝の絶対的な深さと屈折率の積できまり、この値は同じ溝の深さを用いた場合は、屈折率の値で変動する。屈折率が小さい場合、光学的な溝深さは小さくすることが可能で、このため、ジッター特性が良好にえられるように工夫した構成においても、トラッキング信号をトラッキングが外れない範囲でコントロールしやすいので、すでに発売されているたとえば無機材料記録層を用いたブルーレイ・ディスクのトラッキング信号と比べた場合、同程度の信号特性が得られ、光記録再生装置で本願発明の記録媒体を使用する場合に互換性を確保しやすい。
本願の構成を有するポルフィリン化合物は、また、フッ素アルコール等に可溶化しやすく、スピンコート法による量産プロセスに適している。
【0043】
ここで、以下の説明のために、反射基準面を定義する。反射基準面としては、主反射面となる反射層の記録層側界面(表面)をとる。主反射面とは、再生反射光に寄与する割合が最も高い反射界面をさす。本実施の形態が適用される光記録媒体20を示す図2において、主反射面は記録層22と反射層23との界面にある。なぜなら、本実施の形態が適用される光記録媒体20において対象とする記録層22は、比較的薄く、且つその吸収率が低いために、大部分の光エネルギーは記録層22をただ通過し、反射面との境界に達しうるからである。尚、他にも反射を起こしうる界面があり、再生光の反射光強度は、各界面からの反射光強度と位相の全体の寄与で決まる。本実施の形態が適用される光記録媒体20では、主反射面での反射の寄与が大部分であるため、主反射面で反射する光の強度と位相だけを考慮すればよい。このため、主反射面を反射基準面とするのである。
【0044】
本実施の形態においては、先ず、図2において、カバー層溝間部25へピット(マーク)を形成する。それは、主として製造が容易なスピンコート法で形成された記録層22を利用するためである。逆に、塗布法を利用することで、自然に、カバー層溝間部(基板溝部)25の記録層膜厚がカバー層溝部(基板溝間部)26の記録層膜厚より厚くなるとはいえ、その厚みが「平面状態の反射光強度変化」のみで、十分な反射光強度変化を得られるほどは厚くなく、「干渉を考慮した反射光強度変化」をあわせ用いることにより、比較的薄い記録層膜厚でカバー層溝間部25に形成されたピット部で大きな反射光強度変化(高変調度)が実現できるのである。
【0045】
本実施の形態においては、記録ピット部における反射光の位相の変化を利用するにあたっては、図2の反射基準面で構成されるカバー層溝間部25とカバー層溝部26の段差が、記録後には記録前より光学的に浅く見えるような変化を生じさせることを特徴とする。その際に、トラッキングサーボを安定化させるために、先ず、プッシュプル信号の反転を生じさせず、かつ、記録前の反射光強度にくらべて記録後の反射光強度が増加するような位相変化を記録ピットにおいて生じさせる。
【0046】
図2に示す本実施の形態が適用される膜面入射構成の光記録媒体20の層構成を、従来構成として説明した図1における基板入射構成の光記録媒体10と比較しながら説明する。ここで、図1に示す光記録媒体10及び図2に示す光記録媒体20の層構成を、反射基準面で反射される光の位相に注目して区別して説明するために、図1で基板溝部16へ記録する場合、図2でカバー層溝間部25、カバー層溝部26に記録する場合のそれぞれに対応して、図3、図4、図5を用いて検討を行う。
【0047】
図3は、従来構成である図1の基板入射構成の基板11側から入射する記録再生光ビーム17の反射光を説明するための図である。
図4は、膜面入射型媒体(光記録媒体20)の層構成とカバー層溝間部25に記録する場合の位相差を説明する図である。
図5は、膜面入射型媒体(光記録媒体20)の層構成とカバー層溝部26に記録する場合の位相差を説明する図である。
即ち、図4及び図5は、図2の膜面入射構成の光記録媒体20において、膜面入射構成のカバー層24の入射面28側から入射する記録再生光ビーム27の反射光を説明するための図である。図4が、本実施の形態が適用される光記録媒体20におけるカバー層溝間部(基板溝部)25にピットを形成する。図5は、本発明効果の対比説明のために、同じ膜面入射構成でありながら、カバー層溝部(基板溝間部)26にピットを形成する。
【0048】
図3、図4、図5では、それぞれ、(a)が記録前、(b)が記録後の記録ピットを含む断面図である。以下において、記録ピットを形成するほうの溝ないし溝間部を、「記録溝部」、その間を「記録溝間部」と称する。即ち、従来構成の図3においては、基板溝部16が「記録溝部」であり、記録溝間部15が「記録溝間部」である。また、本発明に係る図4においては、カバー層溝間部25が「記録溝部」であり、カバー層溝部26が「記録溝間部」となる。他方、対比説明である図5においては、カバー層溝部26が「記録溝部」であり、カバー層溝間部25が「記録溝間部」となる。
【0049】
先ず、記録溝部の反射光と記録溝間部の反射光の位相差を求めるに当たり、位相の基準面をA−A’で定義する。図3,図4,図5において、それぞれの未記録状態の図(a)においては、A−A’は、それぞれ、記録溝部における記録層12/基板11界面(図3(a))、記録溝間部における記録層22/カバー層24界面(図4(a))、記録溝部における記録層22/カバー層24界面(図5(a))に対応している。一方、図3,図4,図5の記録後状態の図(b)においては、A−A’は、それぞれ、記録溝部における記録層12(混合層16m)/基板11界面(図3(b))、記録溝間部における記録層22/カバー層24界面(図4(b))、記録溝部における記録層22(混合層26m)/カバー層24界面(図4(b))に対応している。A−A’面より手前(入射側)では、光路によって光学的な差は生じない。また、記録前の記録溝部における反射基準面をB−B’、記録前の基板21(図3)もしくはカバー層24(図4)の記録溝部底面(記録層12/基板11、記録層22/カバー層24界面)をC−C’で定義する。図3及び図5の記録前においては、A−A’とC−C’は一致する。
【0050】
記録前の基板溝部での記録層厚みをdG、基板溝間部での厚みをdLとし、反射基準面での記録溝部と記録溝間部の段差をdGL、基板表面での記録溝間部の段差をdGLSとする。図3の場合には、dGLは、記録層12の記録溝部での埋り方に依存し、dGLSと異なる値となる。図4、図5の場合には、反射層23の記録溝部と記録溝間部での被覆具合によるが、通常は、反射層23は、記録溝部と記録溝間部でほぼ同じ膜厚となるので、基板21表面での段差がそのまま反映されるので、dGL=dGLSである。
【0051】
基板11,21の屈折率をns、カバー層24の屈折率をncとする。記録ピットの形成により、一般的には、以下のような変化が生じる。記録ピット部16p,25p,26pにおいて記録層12,22の屈折率は、ndからnd’=nd−δndに変化する。また、記録ピット部16p,25p,26pにおいて、記録層12,22その入射側界面において、記録層12と基板11もしくは基板21とカバー層24材料との間に混合が生じ、混合層が形成される。さらに、記録層12,22が体積変化を起こして、反射基準面(記録層/反射層界面)の位置が移動する。尚、通常は、有機物である基板11,21もしくはカバー層24材料と金属である反射層材料との間での混合層形成は無視できる程度である。そこで、記録層12/基板11(図1)、記録層22/カバー層24(図2)間で記録層12と基板11もしくは記録層22とカバー層24材料の混合がおき、厚さdmixの混合層16m,25m,26mが形成されるものとする。また、混合層16m,25m,26mの屈折率を、ns’=ns−δns(図3(b))、nc’=nc−δnc(図4(b)、図5(b))とする。
【0052】
この際、記録層12/基板11あるいは、記録層22/カバー層24界面は、C−C’を基準として、記録後は、dbmpだけ移動する。dbmpは図3,図4,図5に示すように、記録層12,22内部へ移動する方向を正とする。逆にdbmpが負であれば、記録層12,22がC−C’面を超えて、膨張することを意味する。また、もし、図3の記録層12/基板11、図4、図5の記録層22/カバー層24間に両者の混合を妨げる界面層を設けた場合には、dmix=0となりうる。但し、記録層12,22の体積変化によりdbmpの変形は生じうる。色素混合が起きない場合の基板21またはカバー層24のdbmp変形に伴う屈折率変化の影響は、小さく無視できると考えられる。
【0053】
他方、記録溝部での反射基準面の移動量を記録前の反射基準面の位置B−B’を基準としてdpitとする。dpitは、図3,図4,図5に示すように、記録層12,22が収縮する方向(反射基準面が記録層12,22内部へ移動する方向)を正とする。逆にdpitが負であれば、記録層12,22がB−B’面を超えて、膨張することを意味する。記録後の記録層膜厚は、
dGa=dG−dpit−dbmp (1)
となる。尚、dGL、dG、dL、dmix、nd、nc、ns、dGaは、その定義及び、物理的特性から負の値をとらない。
このような記録ピットのモデル化や、以下で述べる位相の見積もり方法は公知の方法を用いた(非特許文献1)。
【0054】
さて、位相の基準面A−A’における記録溝部と記録溝間部の再生光(反射光)の位相差を記録前と記録後で求める。記録前における記録溝部と記録溝間部の反射光の位相差をΦb、記録後、記録ピット部16p,25p,26pと記録溝間部の反射光の位相差をΦaとし、Φで総称する。いずれも、
Φ=Φb又はΦa
=(記録溝間部の反射光位相)−(記録溝部(記録後はピット部を含む)の位相) (2)
Φ=Φb又はΦa
=(2π/λ)・2・{(記録溝間部光路長)−(記録溝部(記録後はピット部を含む)の光路長)} (3)
として定義する。
【0055】
ここで、(3)式において係数2が掛かっているのは、往復の光路長を考えるためである。
図3においては、
Φb1=(2π/λ)・2・(ns・dGL+nd・dL−nd・dG)
=(4π/λ)・{ns・dGL−nd・(dG−dL)} (4)
Φa1=(2π/λ)・2・{ns・dGL+ns・(dmix−dbmp)+nd・dL−〔(nd−δnd)・(dG−dpit−dbmp)+(ns−δns)・dmix〕}
=Φb1+ΔΦ (5)
但し、
ΔΦ=(4π/λ){(nd−ns)・dbmp+nd・dpit+δns・dmix+δnd・(dG−dpit−dbmp)} (6)
である。また、記録溝部が入射側から見て記録溝間部より手前にあるから、Φb1>0である。
【0056】
一方、図4においては、
Φb2=(2π/λ)・2・{nd・dL−〔nd・dG+nc・(dL+dGL−dG)〕}
=(4π/λ)・{(nc−nd)・(dG−dL)−nc・dGL} (7)
Φa2=(2π/λ)・2・{(nd・dL−〔nc・(dL+dGL−dG+dbmp−dmix)+(nd−δnd)・(dG−dpit−dbmp)+(nc−δnc)・dmix〕)
=Φb2+ΔΦ (8)
但し、
ΔΦ=(4π/λ){(nd−nc)・dbmp+nd・dpit+δnc・dmix+δnd・(dG−dpit−dbmp)} (9)
である。また、記録溝部が入射側から見て記録溝間部より奥にあるから、Φb2<0である。
【0057】
さらに、図5においては、
Φb3=(2π/λ)・2・{nd・dG+nc・(dL+dGL−dG)−nd・dL}
=(4π/λ)・{(nd−nc)・(dG−dL)+nc・dGL} (10)
Φa3=(2π/λ)・2・{nd・dG+nc・(dL+dGL−dG)+nc・(dmix−dbmp)−〔(nd−δnd)・(dL−dpit−dbmp)+(nc−δnc)・dmix〕}
=Φb3+ΔΦ (11)
但し、
ΔΦ=(4π/λ){(nd−nc)・dbmp+nd・dpit+δnc・dmix+δnd・(dL−dpit−dbmp)} (12)
である。また、記録溝部のほうが入射側から見て記録溝間部より手前にあるから、Φb3>0である。
【0058】
ΔΦが、記録により生じたピット部での位相変化であり、(12)式でdLとdGが入れかわっていることを除けば、いずれの場合も同じ式で表現できる。また、以後、Φb1、Φb2、Φb3を総称してΦbで表し、Φa1、Φa2、Φa3を総称してΦaであらわす。
ΔΦによって生じる信号の変調度mは、
m∝1−cos(ΔΦ)=sin2(ΔΦ/2) (13)
≒(ΔΦ/2)2 (14)
となる。最右辺(14)はΔΦが小さい場合の近似である。
【0059】
|ΔΦ|が大きければ、変調度は大きくなるのであるが、通常は、記録による位相の変化|ΔΦ|は、0からπの間にあり、通常はπ/2程度以下であると考えられる。実際上、従来のCD−R、DVD−Rをはじめとする従来の色素系記録層では、そのような大きな位相変化は報告されておらず、また、前述のように青色波長域では、色素の一般的特性から尚さら位相変化は小さくなる傾向にあるからである。逆に、|ΔΦ|がπを超える変化は、記録前後でプッシュプルの強制を反転させる可能性、プッシュプル信号の変化が大きくなりすぎる可能性があり、トラッキングサーボの安定性維持の面から好ましくない。
【0060】
ここで、図6は、記録溝部と記録溝間部の位相差と反射光強度の関係を説明する図である。図6では、|Φ|と記録前後の記録溝部における反射光強度の関係が示されている。ここでは、簡単のため、記録層12,22の吸収の影響は無視している。図3、図5の構成では、通常、Φb>0となるので、ΔΦ>0なる場合が、図6の|Φ|が増加する方向である。つまり、Φbが増加してΦaとなることを示す。
【0061】
一方、図4の構成では、通常、Φb<0となるので、ΔΦ<0なる場合が、図6の|Φ|が増加する方向である。つまり、図6における横軸に(−1)を乗じたものに相当する。よって、|Φb|が増加して|Φa|となることを示す。
【0062】
平面状態(dGL=0)での記録溝部の反射率をR0とすると、|Φ|が大きくなるにつれ、記録溝部と記録溝間部の反射光の位相差Φbから干渉効果が生じ、反射光強度が低下していく。そして、位相差|Φ|がπ(半波長)と等しくなると、反射光強度は極小値となる。さらに、|Φ|がπを超えて増大すると、反射光強度は増加に転じ、|Φ|=2πで極大値をとる。
【0063】
ここで、プッシュプル信号強度は、位相差|Φ|が、π/2の時に最大となり、πのときに極小となって、極性が反転する。以後、再び増加・減少し、2πにおいて極小となって再び極性が逆転する。以上の関係は、位相ピットによるROM媒体における、ピット部の深さ(dGLに相当)と反射率の関係とまったく同様である(非特許文献5)。
【0064】
以下に、プッシュプル信号について若干の説明をする。
図7は、記録信号(和信号)とプッシュプル信号(差信号)を検出する4分割ディテクターの構成を説明するための図である。4分割ディテクターは、4つの独立した光検出器からなり、それぞれの出力をIa、Ib、Ic、Idとする。図7の記録溝部及び記録溝間部からの0次回折光及び1次回折光は、4分割ディテクターにて受光され、電気信号に変換される。4分割ディテクターからの信号から、下記の演算出力を得る。
Isum=(Ia+Ib+Ic+Id) (15)
IPP=(Ia+Ib)−(Ic+Id) (16)
なる演算出力が得られる。
【0065】
また、図8は、実際に、複数の溝部、溝間部を横断しながら得られる出力信号を低周波通過フィルター(カットオフ周波数30kHz程度)を通過させた後に検出する信号を示す図である。
図8において、Isump-pは、Isum信号のpeak−to−peakでの信号振幅である。IPPp-pは、プッシュプル信号のPeak−to−peakの信号振幅である。プッシュプル信号強度とは、IPPp-pのことをいい、プッシュプル信号IPPそのものとは区別する。
トラッキングサーボは、図8(b)のプッシュプル信号(IPP)を誤差信号として、フィードバック・サーボを行う。図8(b)で、たとえば、IPP信号の極性が、+から−に変化する0クロス点を、記録溝部中心に対応させ、−から+に変化する0クロス点を、記録溝間部に対応させるとき、プッシュプルの極性が反転するとは、この符号の変化が逆になることである。符号が逆になると、記録溝部にサーボがかかった(即ち、集光ビームスポットが記録溝部に照射される)つもりが、逆に記録溝間部にサーボがかかるような不都合を起こす。
【0066】
記録溝部にサーボがかかったときのIsum信号が、記録信号であり、本実施の形態では、記録後に増加する変化を示す。
ここで、
IPPactual=[{(Ia+Ib)(t)−(Ic+Id)(t)}/{(Ia+Ib)(t)+(Ic+Id)(t)}]p-p
={IPP(tb)/Isum(tb)}−{IPP(ta)/Isum(ta)}
(ここで、taはIPPが最小値となる時間であり、tbはIPPが最大値となる時間である。) (17)
なる演算出力は、規格化プッシュプル信号強度(IPPactual)という。
実際に光記録再生装置がトラッキングサーボをかけるためのプッシュプル信号は、瞬時、瞬時に測定された、Isum、IPPの値から計算した信号である規格化プッシュプル信号を使用することが多い。
【0067】
図6に示すような位相差と反射光強度の関係は、上記(13)式からも分かるように、周期的である。記録前後での|Φ|の変化、即ち|ΔΦ|は、色素を主成分とする媒体では、通常、(π/2)程度より小さい。逆に、本実施の形態では、記録による|Φ|の変化は、最大でもπ以下であるとする。そのために、必要なら、記録層膜厚を適宜薄くすればよい。
【0068】
ここで、位相基準面A−A’からみて、記録ピット部16p,25p,26pの形成により記録溝部の反射光の位相(あるいは光路長)が記録前より小さくなった場合(記録前より位相が遅れた場合)、即ち、ΔΦ>0である場合、入射側から見て反射基準面の光学的距離(光路長)は減少し、光源に(あるいは、位相の基準面A−A’に)近寄ったことになる。したがって、図3においては、記録溝部の反射基準面が下方に移動した(dGLが増加)と同等の効果があり、結果として記録ピット部16pの反射光強度は減少する。図4では、逆に記録溝部の反射基準面が上方に移動した(dGLが減少)と同等の効果があり、結果として、記録ピット部25pの反射光強度は増加する。図5では、記録溝部の反射基準面が上方に移動した(dGLが増加)と同等の効果があり、結果として、記録ピット部26pの反射光強度は減少する。
【0069】
一方、位相基準面A−A’からみて、記録ピット部16p,25p,26pの反射光の位相(あるいは光路長)が記録前より大きくなった場合(記録前より位相が遅れた場合)、ΔΦ<0である場合、入射側から見て反射基準面の光学的距離(光路長)は増加し、光源に(あるいは、位相基準面A−A’に)から遠ざかったことになる。図3においては、記録溝部の反射基準面が上方に移動した(dGLが減少)と同等の効果があり、結果として記録ピット部16pの反射光強度は増加する。図4では、逆に記録溝部の反射基準面が下方に移動した(dGLが増加)と同等の効果があり、結果として、記録ピット部25pの反射光強度は減少する。図5では、記録溝部の反射基準面が下方に移動した(dGLが減少)と同等の効果があり、結果として、記録ピット部26pの反射光強度は増加する。ここで、記録ピット部の反射光強度が記録後に減少するか、増加するかという、反射光強度の変化の方向を記録(信号)の極性という。
【0070】
したがって、記録ピット部16p,25p,26pでΔΦ>0となる位相変化がおきるならば、図3、図5の記録溝部においては、記録により反射光強度が低下する「High to Low」(以下、単に、HtoLと記す)となる信号の極性の変化を利用することが好ましく、図4の記録溝部においては、記録により反射光強度が増加する「Low to High」(以下、単に、LtoHと記す)となる極性を利用することが好ましい。他方、ΔΦ<0となる位相変化がおきるならば、図3、図5の記録溝部においてはLtoHとなる極性を利用することが好ましく、図4の記録溝部においてはHtoLとなる極性を利用することが好ましい。以上の関係を表1にまとめて示す。表1は、ΔΦの符号に対して、図3、図4、図5の構成と記録溝部において、HtoL、LtoHいずれの極性の反射光強度変化が好ましいかを示す。
【0071】
【表1】
【0072】
(位相変化ΔΦの好ましい態様について)
本発明においては、図4の場合において、消衰係数の減少による反射光強度と矛盾しないようなLtoH記録を目的としているので、ΔΦ>0であることが好ましい。
つまり、記録信号の極性が、記録パワーや記録ピットの長さ、大きさに寄らず一定であるためには、「平面状態の反射光強度変化」と「干渉を考慮した反射光強度変化」のそれぞれの反射光強度変化がそろっていることが好ましい。
以下において、色素記録層媒体で図4のカバー層溝間部25に記録を行う場合に、ΔΦ>0を実現するための好ましい態様について述べる。
ΔΦにおいて、
Φbmp=(nd−nc)・dbmp (18)
Φpit=nd・dpit (19)
Φmix=δnc・dmix (20)
Φn=δnd・(dG−dpit−dbmp)=δnd・dGa (21)
とすると、Φbmpは、記録層入射側界面の変形(移動)による位相変化、Φpitは記録層22/反射層23界面の変形(移動)による位相変化、Φmixは混合層25m形成による位相変化、Φnは記録層22の屈折率変化による位相変化に対応する。これらの位相変化が大きくて、変化の方向、即ち、Φbmp、Φpit、Φmix、Φnの符号がそろっていることが、変調度を大きくし、かつ、特定の信号極性の信号波形をひずませずに、良好な記録特性を得るために重要なことである。
【0073】
このうち、位相変化の方向をそろえるためには、上記、Φbmp、Φpit、Φmix、Φnに係る複数の物理パラメーターをすべて正確に制御するよりは、できるだけ少ない要素に限定して制御することが望ましい。
先ず、記録層入射側界面に界面層を設けるなどして、dmix=0とすることも好ましい。dmixによる位相差変化は、あまり大きくできないので積極的に利用しにくいだけでなく、その厚みの制御が難しいからである。よって、記録層入射側界面に界面層を設けるなどして、dmix=0とすることが好ましい。
【0074】
次いで、変形に関しては、一箇所に集中し、かつ、一方向に限定されることが好ましい。複数の変形部位よりも、一箇所の変形部位をより正確に制御するほうが良好な信号品質が得られやすいからである。
従って、本実施の形態においては、ΦbmpとΦpitのうちのいずれかと、Φnを主として利用することが好ましい。
【0075】
dpitに関しては、通常は、基板またはカバー層の膨張あるいは、記録層の体積収縮が主要因であるから、dpit>0となることが多い。これは、Φpitには有利ではあるが、dGa、すなわち、Φnには不利である。一方、記録層の吸収は、記録層の厚みの中間部から入射側界面側で最も高くなるので、その部分で最も高温となり、反射層の界面側は、発熱量が相対的に小さい。また、反射層に高放熱性材料を用いれば、その記録層の発熱の影響は、大部分記録層の入射側界面に集中する。発熱が集中するのは、図4では、記録層22のカバー層24側の界面である。したがって図4の構成では、色素の入射側界面、即ちカバー層24との界面に変形が生じる。このため、dpitは自然と小さくなるので寄与は小さい。従来構成とは異なり、基板21側変形の影響は少ないと考えられ、実際上、dpit≒0とみなせる。このことは、むしろ、制御すべき変形要素をdbmpに集約したことがよいことを示唆している。
【0076】
また、Φnに色素の屈折率変化δnd、変形dbmpが寄与している。
この場合、Φnは、(21)式から分かるように、色素の屈折率変化δnd、変形dbmpが寄与しており、ΔΦの大きさと符号に最も重要な要素である。
以下においては、Φpit≒0、Φmax≒0の場合を考察するが、その場合、(18)、(21)式より、
ΔΦ≒Φbmp+Φn=(nd−nc)・dbmp+δnd・(dG−dbmp)
=(nd’−nc)・dbmp+δnd・dG (22)
と表記できる。
【0077】
まず、Φbmpについて考察すると、nd’≒1であり、ncは通常樹脂材料で1.5前後であるから、nd’−nc<0である。したがって、Φbmp>0とするために、dbmp<0でなければならない。これは、カバー層側24側にふくれを生じさせることが好ましいになる。
【0078】
続いて、Φnに係る物理現象のうち、記録層屈折率変化δndの影響を先ず考察する。記録後の記録層膜厚dGaは、その定義上dGa>0であるから、δndの符号が、Φnの符号を支配すると考えられる。本発明においては、色素を主成分とする記録層を用いるが、色素の主吸収帯は、そのもっとも強い吸収波長(吸収のピーク)が、可視光域(概ね400−800nm)にある吸収帯であるとする。主成分となる色素の主吸収端近傍の波長で記録再生を行った場合、通常は、記録層の発熱により、記録層は分解され、吸収が大きく減少するものと考えられる。少なくとも、未記録状態では主吸収帯では、いわゆるクラマース・クローニッヒ型の異常分散が存在し、屈折率n及び消衰係数kの波長依存性が存在すると考えられている。
【0079】
他方、本発明における、記録層主成分とする色素の分解温度は、500℃以下であり、記録光による発熱によって、記録層主成分の色素は、主吸収端を維持できないまでに分解され空洞を形成する。その場合、クラマース・クローニッヒ型の異常分散は存在せず、nd’≒1、kd’≒0とみなせる。
【0080】
ここで、本願で使用しているポルフィリン化合物では、記録再生光波長λの長波長側に急峻で大きな主吸収帯がある。このため、クラマース・クローニッヒの関係により、ndが0.5〜1.2程度となる。記録ピット部での空洞形成で記録後の屈折率nd’≒1となるからδnd<0となる場合が生じることがある。この場合、Φn=δnd・dG<0となる。すなわち、Φn<0というΦbmp>0と位相変化の方向がそろわない項が少し残ってしまう。しかしここで、積極的にdbmp<0を大きくすることで、ΦbmpをΔΦの主成分とすることで、Φnの悪影響を実際上排除して、ΔΦ>0を実現できる。
【0081】
Φbmp>0を大きくするために、dbmp<0なる変形を促進するためには、記録層22の熱変質に熱膨張、分解、昇華による体積膨張圧力が生じることが望ましい。また、記録層22とカバー層24の界面に界面層をもうけて、前記圧力を閉じ込めて、他の層にリークしないようにすることが好ましい。界面層は、ガスバリア性が高く、カバー層24よりも変形しやすいことが望ましい。特に、昇華性の強い色素を主成分として用いると、記録層22部分に局所的に体積膨張圧力が生じ、大きな空洞を形成しやすくする。
【0082】
他方、Φnの寄与を有利にすることを考えると、ndが0.5〜1.2なので、以下のような条件が考えられる。まず、nd<1で、Φn<0の場合は、Φnの寄与を少しでも小さくするには、dGを小さめにするように、色素膜厚は記録できる範囲で薄いほうが望ましい。また、|δnd|=|nd−nd’|≒|nd−1|の値を小さくするためには、ndが1に近いことが望ましい。具体的には、0.7以上であることが望ましく、0.8以上がより望ましい。nd>1で、Φn>0の場合は、位相変化の方向がそろうので、|δnd|=|nd−nd’|≒|nd−1|の値は、大きいほうがよい。本願で使用しているポルフィリン化合物では、ndの上限は、おおむね2程度である。
【0083】
このように、nd’、ncの大小関係とdbmpの符号(変形の方向)の組み合わせを特定の関係に保つこと、ndを特定の範囲にすることが、マーク長によって、記録信号極性(HtoLかLtoH)が逆転したり、混合したりする(微分波形が得られる)現象を防ぐ上で有効である。
【0084】
ここで、ΔΦ>0なる位相変化とプッシュプル信号の関係について考察しておく。従来のCD−RやDVD−Rの類推からカバー層溝部26(図5参照)に対するHtoL記録を行う場合、プッシュプル信号極性が反転しないようにしたければ、dGLとして、往復の光路長が1波長より大きくなる(|Φb3|>2πとなる)ような深い溝段差(「深溝」と称する)か、Φb3がほとんどゼロであり、かろうじてプッシュプル信号が出るような溝段差(「浅溝」と称する)に限られる。深溝の場合、図6の|Φb|>2πなる斜面で、矢印αの方向の位相変化を利用し、光学的に溝が深くなるようにする。この場合、矢印の始点となる溝深さは、400nm前後の青色波長では100nm程度が必要で、前述のように狭トラックピッチでは、成形時に不良転写がおきやすく、量産に困難を伴う。また、たとえ、所望の溝形状が得られても、溝壁の微小な表面粗さによるノイズが信号に混入しやすい。さらに、溝底部、側面の壁に反射層23を均等に形成するのが困難である。反射層23自体の溝壁への密着性も悪く、剥離等の劣化が起こりやすい。このように、「深溝」を用いた従来方式でΔΦ>0なる位相変化を利用して、HtoL記録を行おうとすると、トラックピッチを詰めるのに困難が伴う。
【0085】
一方、浅溝の場合は、図6の|Φ|=0〜πの間の斜面で矢印βの方向の位相変化を使用し、光学的に溝が深くなるようにすることで、HtoL記録となる。未記録状態である程度のプッシュプル信号強度を得ようとすれば、溝深さは、青色波長では、20nm〜30nm程度となる。このような状態で記録層22を形成した場合、平面状態と同じく、記録溝部(この場合、カバー層溝部26)にも溝間部にも同等に記録層膜厚が形成されやすく、記録ピットが記録溝部からはみ出しやすいし、記録ピットからの回折光が隣接記録溝に漏れこんで、クロストークが非常に大きくなってしまう。同様に、従来方式でΔΦ>0なる位相変化を利用して、HtoL記録を行おうとすると、トラックピッチを詰めるのに困難が伴うのである。
【0086】
本発明者等は、膜面入射型色素媒体に好ましい構成は、従来の、「深溝」を用いたHtoL記録ではなく、図6において、矢印γの方向の位相変化、従って、後述の「中間溝」を用いたLtoHなる記録極性の信号を得るものであることを見出したのである。即ち、記録再生をカバー層24側から記録再生光を入射して行う光記録媒体20であって、記録再生光ビーム27がカバー層24に入射する面(記録再生光ビーム27が入射する面29)から遠い側の案内溝部を記録溝部とするとき、記録溝部に形成した記録ピット部の反射光強度が記録溝部の未記録時の反射光強度より高くなるような媒体及び記録方法である。
【0087】
尚、本実施の形態において重要なことは、上記、記録層屈折率の変化、空洞の形成等によるピット部での屈折率変化、記録層22内部もしくはその界面での変形が、すべて、主反射面である反射層23の記録再生光入射側で起きているということである。
【0088】
図4に示すような膜面入射構成で、記録再生光ビーム27(図2)の入射する面29(図2)から遠い側の案内溝部を記録溝部とするとき、ΔΦ>0となるような位相変化を利用してLtoH記録を行う。
そのためには、先ず、前記記録ピット部25pにおいて、前記記録層が前記カバー層側へ膨らむ形状変化を伴い、前記記録層の内部または当該記録層に隣接する層との界面に空洞を形成し位相変化が生じることが望ましい。
そして、記録前において、各種サーボの安定性を維持するために、溝部及び溝間部ともに少なくとも3%〜30%の反射率を維持することが好ましい。
ここでいう未記録状態の記録溝部反射率(Rg)は、反射率既知(Rref)の反射膜のみを、図2に示す光記録媒体20と同様な構成で成膜し、集束光ビームを記録溝部に焦点が合うように照射して得られた反射光強度をIref、図2に示す光記録媒体20において同様に、集束光ビームを記録溝部に照射して得られた反射光強度をIsとするとき、Rg=Rref・(Is/Iref)として得られたものである。同様に、記録後において、記録信号振幅の、記録ピット間(スペース部)の低反射光強度ILに対応する記録溝部反射率をRL、記録ピット(マーク部)の高反射光強度IHに対応する記録溝部反射率をRHと呼ぶ。
以下では、慣用に従って、記録溝部の反射光強度変化を定量化する際には、この、記録溝部反射率を用いて表す。
【0089】
本実施の形態では、記録による位相変化を利用するため、記録層22自体の透明性を高くすることが好ましい。記録層22を単独で透明なポリカーボネート樹脂基板に形成した場合の透過率は、40%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、60%以上であることがさらに好ましい。透過率が高すぎると十分記録光エネルギーが吸収できないから、95%以下であることが好ましく、90%以下であることがより好ましい。
一方、このような高透過率が維持されていることは、図2の構成のディスク(未記録状態)において、平坦部(鏡面部)で平面状態の反射率R0を測定し、その反射率が、記録層膜厚をゼロとした、同一構成を有するディスクの平面状態での反射率の40%以上、好ましくは、50%以上、より好ましくは70%以上あることで概ね確認できる。
このように、適度な透過性を維持するためには、kdは、2以下であることが好ましく、1.5以下であることがより好ましい。
【0090】
(記録溝深さdGL,記録溝部の記録層厚みdGと記録溝間部の記録層厚みdLの好ましい態様について)
ΔΦ>0なる位相変化を利用し、カバー層溝間部25にLtoH記録する場合、光学的にピット部で溝深さが変化するので、溝深さに強く依存するプッシュプル信号が、記録前後で変化しやすくなる。特に問題になるのは、プッシュプル信号の極性が反転するような位相変化である。
【0091】
LtoH記録を行って、かつ、プッシュプル信号の極性変化を起こさないためには、図6において、0<|Φb|、|Φa|<πなる斜面で矢印γの方向の位相変化により、光学的な溝が浅くなる現象を利用することが好ましい。つまり、図4において、位相差基準面A−A’からみて、記録溝部の反射基準面までの光路長が小さくなるような変化が記録ピット部25pで起きるようにする。図4の場合、Φb=Φb2<0、Φa=Φa2<0であり、ΔΦ>0であるから、|Φb|>|Φa|である。尚、式(2)のように位相差を定義した関係で、Φb、Φaが図4の場合には負となるので、絶対値で表記した。
【0092】
特に、プッシュプル信号として、式(17)の規格化されたプッシュプル信号強度IPPactualを用いる場合、本実施の形態では、記録後の平均反射率は増加するから、式(17)の分母が増加する。
記録後の規格化プッシュプル信号強度IPPactualを十分な大きさに保つには、式(17)の分子であるプッシュプル信号強度IPPp-pが記録後に増加するか、少なくとも、大きな値を保つことが好ましい。つまり、|Φa|が記録後にπ/2近傍にあることが好ましい。一方、記録前にも十分なプッシュプル信号を確保するためには|Φb|は、πよりも(1/16)π程度は小さいことが望ましい。そのため、|Φb|が、経路γにおいて、π/2〜(15/16)πの範囲にあることが好ましいこととなる。
【0093】
具体的には、図4において、|Φb2|=(4π/λ)|ψb2|をπ/2〜(15/16)πの範囲にするためには、
|ψb2|=|(nc−nd)・(dG−dL)−nc・dGL|
=|(nd−nc)・(dG−dL)+nc・dGL|
を、λ/8〜(15/64)・λの範囲にすることが好ましい。
その際の溝深さdGLは、dG=dL、記録再生光波長λ=350〜450nmの青色波長とした場合、式(7)より、
|ψb2|=nc・dGL (7a)
となる。同様の式は、nd≒ncでも得られる。ncを一般的な高分子材料の値、1.4〜1.6程度とすると、溝深さdGLは、通常30nm以上、好ましくは35nm以上とする。一方、溝深さdGLは、通常70nm以下、好ましくは65nm以下、より好ましくは60nm以下とする。このような深さの溝を「中間溝」と呼ぶこととする。上述の図3や図5で「深溝」を用いる場合に比べ、溝形成及びカバー層溝間部25への反射膜の被覆が格段に容易になるという利点を有する。
【0094】
一般に、スピンコートで塗布法により記録層を成膜したときには、基板溝部に記録層が溜まりやすいという性質を考慮すると、自然とdG>dLとなる。さらには、塗布する色素量を少なくして、全体として記録層膜厚を薄くすると、実質上dL≒0とでき、記録層をほぼ完全に記録溝内(この場合、カバー層溝間部25)に閉じ込めることが可能になる。
【0095】
この場合、式(7)は、
|ψb2|=|(nc−nd)・dG−nc・dGL|
=|(nd−nc)・dG+nc・dGL| (7b)
となり、(7a)に対する、上記、溝深さの好ましい範囲に対して、|(nc−nd)・dG|分だけ補正が必要になる。本願では、nd<ncであるから、若干深めが好ましいことになる。逆に、nd・dGLなる溝形状が与えられれば、ndがncに比べて小さいほど|Φb2|は小さくなり、図6から、溝部の反射光強度が増加する。これは、クロストークを抑制するため、色素記録層を記録溝部に閉じ込めようとする場合、40〜60nmの深めの溝を使っても、光学的な溝深さを浅めにできることを意味する。
【0096】
また、記録層膜厚は、溝深さに比べて薄くし、dG<dGLとするのが好ましい。記録ピットがたとえ後述のような変形を伴っていても、少なくともその幅が溝幅内に抑制される効果が得られ、クロストークを低減できるためである。このため、(dG/dGL)≦1とすることが好ましく、(dG/dGL)≦0.8とすることがより好ましく、(dG/dGL)≦0.7とすることがさらに好ましい。
【0097】
つまり、本実施の形態が適用される光記録媒体20では、記録層22を塗布によって形成し、dGL>dG>dLとするのが好ましい。さらに好ましくは、dL/dG≦0.5として、実際上、記録溝間部上に記録層22がほとんど堆積しないようにする。一方、後述するように、dLは実質的にゼロであることが好ましいので、dL/dGの下限値は、理想的にはゼロである。
【0098】
前述のようにdGLが30〜70nmである場合には、dGは、5nm以上とすることが好ましく、10nm以上とすることがより好ましい。これは、dGを5nm以上とすることによって、位相変化を大きくでき、記録ピット形成に必要な光エネルギーの吸収が可能となるからである。一方、dGは、50nm未満とすることが好ましく、45nm以下とすることがより好ましく、40nm以下とすることがさらに好ましい。前述のように再生時の反射率を3〜30%にたもつため、記録層に適度な透過性を保つためである。
さらに、記録層22が薄いほうが、記録ピット部での変形が大きくなりすぎたり、記録溝間部へはみ出したりすることを抑制できる。
【0099】
カバー層溝間部に記録ピットを形成する本発明において、前述のような「中間溝」深さを用いること、及び、dG/dL≦1として、記録層22を薄くして「中間溝」深さの記録溝内に閉じ込めることは、後述のように記録ピット部での空洞形成及びカバー層方向への膨れ変形を積極的に用いる場合には、なおさら、好ましいこととなる。この点においても、本発明は、カバー層溝部に記録を行い、空洞を形成してHtoL記録を行う場合より、クロストークを抑制する効果に優れている。さらに、本発明色素は、kdが1程度と大きくできるので、記録層膜厚が薄くても、十分な光吸収が行われ、記録ピット形成に要する記録光パワーを低く保つことができる。また、一般に、記録層膜厚が薄いと「平面状態で生じる反射光強度変化」が小さくなりがちであるが、本記録層では、kdとkd’の差が大きいので、十分な反射光強度変化が得られるのである。このため、kdとしては、1以上が望ましい。
【0100】
かくして、記録ピットは、記録溝内にほぼ完全に閉じ込められ、かつ、図4における記録ピット部25pの回折光の隣接記録溝への漏れこみ(クロストーク)も非常に小さくできるという利点がえられる。つまり、カバー層溝間部25への記録でLtoH記録を志向することは、単にΔΦ>0なる位相変化とカバー層溝間部25へ記録の有利な組み合わせとなるだけではなく、狭トラックピッチ化による高密度記録により適した構成が得られやすくなるのである。さらに、dLをほぼゼロとすると、(7b)式の|ψb2|において、(nc−nd)・dGの項の寄与を最大とでき、dGLを若干ではあるが浅くすることができ、溝形成がより容易となる。
【0101】
(具体的な層構成及び材料の好ましい態様について)
以下において、図2及び図4で示す層構成の具体的材料・態様について、青色波長レーザの開発が進んでいる状況を考慮して、特に、記録再生光ビーム27の波長λが405nm近傍の場合を想定して説明する。
【0102】
(基板)
基板21は、膜面入射構成では、適度な加工性と剛性を有するプラスチック、金属、ガラス等を用いることができる。従来の基板入射構成と異なり、透明性や複屈折に対する制限はない。表面に案内溝を形成するのであるが、金属、ガラスでは、表面に光や熱硬化性の薄い樹脂層を設け、そこに、溝を形成する必要がある。この点、プラスチック材料を用い、射出成型によって、基板21形状、特に円盤状、と表面の案内溝を一挙に形成するほうが製造上は好ましい。
【0103】
射出成型できるプラスチック材料としては、従来CDやDVDで用いられたポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等を用いることができる。基板21の厚みとしては0.5mm〜1.2mm程度とするのが好ましい。基板厚とカバー層厚を合わせて、従来のCDやDVDと同じ1.2mmとすることが好ましい。従来のCDやDVDで使われるケース等をそのまま用いることができるからである。基板厚を1.1mm、カバー層厚みを0.1mmとすることが、ブルーレイ・ディスクでは規定されている。(非特許文献3)
【0104】
基板21にはトラッキング用の案内溝が形成されている。本実施の形態では、カバー層溝間部25が記録溝部となるトラックピッチは、CD−R、DVD−Rより高密度化を達成するためには、0.1μm〜0.6μmとするのが好ましく、0.2μm〜0.4μmとするのがより好ましい。溝深さは、前述のように、記録再生光波長λ、dGL、dG、dL等に依存するが、概ね30nm〜70nmの範囲にあることが好ましい。溝深さは、前記範囲内で、未記録状態の記録溝部反射率Rg、記録信号の信号特性、プッシュプル信号特性、記録層の光学特性等を考慮して適宜最適化される。本実施の形態では、記録溝部と記録溝間部とにおけるそれぞれの反射光の位相差による干渉を利用しているから、両方が集束光スポット内に存在することが必要である。このため、記録溝幅(カバー層溝間部25の幅)は、記録再生光ビーム27の記録層22面におけるスポット径(溝横断方向の直径)より小さくするのが好ましい。記録再生光波長λ=405nm、NA(開口数)=0.85の光学系で、トラックピッチを0.32μmとする場合、0.1μm〜0.2μmの範囲とするのが好ましい。これらの範囲外では、溝または溝間部の形成が困難となる場合が多い。
【0105】
案内溝の形状は、通常、矩形となる。特に、後述の塗布による記録層形成時に、色素を含む溶液の溶剤がほとんど蒸発するまでの数十秒間に、基板溝部上に、色素が選択的に溜まることが望ましい。このため、矩形溝の基板溝間の肩を丸くして色素溶液が、基板溝部に落下して溜まりやすくすることも好ましい。このような丸い肩を有する溝形状は、プラスチック基板もしくは、スタンパの表面を、プラズマやUVオゾン等に数秒から数分さらしてエッチングすることで得られる。プラズマによるエッチングでは、基板の溝部の肩(溝間部のエッジ)のようなとがった部分が選択的に削られる性質があるので、丸まった溝部の肩の形状を得るのに適している。
【0106】
案内溝は、通常は、アドレスや同期信号等の付加情報を付与するために、溝蛇行、溝深さ変調等の溝形状の変調、記録溝部あるいは記録溝間部の断続による凹凸ピット等による付加信号を有する。例えば、ブルーレイ・ディスクでは、MSK(minimum−shift−keying)とSTW(saw−tooth−wobbles)という2変調方式を用いたウォブル・アドレス方式が用いられている。(非特許文献3)
【0107】
(光反射機能を有する層)
光反射機能を有する層(反射層23)には、記録再生光波長に対する反射率が高く、記録再生光波長に対して70%以上の反射率を有するものが好ましい。記録再生用波長として用いられる可視光、特に、青色波長域で高反射率を示すものとして、Au、Ag、Al及びこれらを主成分とする合金が挙げられる。より好ましくは、λ=405nmでの反射率が高く、吸収が小さいAgを主成分とする合金である。Agを主成分として、Au、Cu、希土類元素(特に、Nd)、Nb、Ta、V、Mo、Mn、Mg、Cr、Bi、Al、Si、Ge等を0.01原子%〜10原子%添加することで、水分、酸素、硫黄等に対する耐食性を高めることができ好ましい。この他に、誘電体層を複数積層した誘電体ミラーを用いることも可能である。
【0108】
反射層23の膜厚は、基板21表面の溝段差を保持するために、dGLと同等かそれより薄いことが好ましい。同様に、記録再生光波長λ=405nmとする場合、前述のように、dGLは70nm以下とするのが好ましいから、反射層の膜厚は、70nm以下が好ましく、より好ましくは65nm以下とする。後述の、2層媒体を形成する場合を除いて、反射層膜厚の下限は、30nm以上が好ましく、より好ましくは40nm以上とする。反射層23の表面粗さRaは、5nm以下であることが好ましく、1nm以下であることがより好ましい。Agは添加物の添加によって平坦性が増す性質があり、この意味でも、上記の添加元素を0.1原子%以上が好ましく、さらに好ましくは、0.5原子%以上とするのが好ましい。反射層23はスパッタリング法、イオンプレーティング法や、電子ビーム蒸着法などで形成することができる。
【0109】
反射基準面の段差で規定される溝深さdGLは、ほぼ基板21表面の溝深さdGLSに等しい。溝深さは、断面を電子顕微鏡で観察すれば直接測定できる。あるいは、原子間力顕微鏡(AFM)などの探針法によって測定できる。溝や溝間部が完全に平坦でない場合は、溝と溝間のそれぞれの中心での高さの差でdGLを定義する。溝幅は、同様に、反射層23成膜後の実際に記録層22が存在する溝部の幅をいうが、反射層23形成後も基板21表面の溝形状をほぼ保持するならば、基板21表面の溝幅値を用いることができる。また、溝幅は、溝深さの半分の深さにおける幅を採用する。溝幅は、同様に、断面を電子顕微鏡で観察すれば直接測定できる。あるいは、原子間力顕微鏡(Atomic force microprobe、AFM)などの探針法によって測定できる。なお、光記録媒体10において規定されるいずれの溝の深さ及び幅も、ここで説明したのと同様に測定することができる。
【0110】
(中間層)
反射層23と記録層22との間には、中間層が設けられることが好ましい。中間層を設けることにより、ジッター特性の向上を図ることができる。
【0111】
中間層は、ジッター特性を向上させる観点から、通常、Ta、Nb、V、W、Mo、Cr、及びTiからなる群より選ばれる元素を含有する。中でも、Ta、Nb、Mo及びVのうち何れかを含有することが好ましく、Ta及びNbのうち何れかを含有することが好ましい。なお、中間層は、これらの元素のうち何れか一種のみを単独で含有していてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び組成で含有していてもよい。上記元素は、広く反射層として使用される銀又は銀合金との反応性及び固溶度が低いことから、これらの元素を中間層として使用すれば、保存安定性の優れた光記録媒体を得ることが可能となる。
【0112】
上記元素を中間層の主成分として含有することが好ましい。なお、本明細書において「中間層の主成分」とは、中間層を構成する元素のうち、上記元素が50原子%以上含有されるようにすることを意味する。中でも、上記元素は、70原子%以上含有されることが好ましく、90原子%以上含有されることがより好ましく、95原子%以上含有されること更に好ましく、99原子%以上含有されることが特に好ましい。理想的には、上記元素が100原子%含有されることである。なお、中間層が上記元素を二種以上含有している場合には、その合計割合が上記範囲を満たしていることが好ましい。
【0113】
中間層を挿入することによって、ジッターが改善される効果が得られるメカニズムは明らかではない。しかしながら、本発明者等の検討によれば、反射層23の材料として通常使用されるAgやAlと比較して硬度が高い元素で中間層を構成すること、及び/又は、記録再生波長における光吸収が大きい元素を中間層として使用することにより、ジッターが改善される傾向となることがわかった。このため、特に上記元素を用いて中間層を形成することにより、上記条件が満たされやすくなるのではないかと推測される。
【0114】
なお、中間層には、所望の特性を付与するために、添加元素或いは不純物元素として、上記元素以外の元素を含有させてもよい。このような添加元素或いは不純物元素の例としては、Mg、Si、Ca、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Y、Zr、Pd、Hf、Pt等が挙げられる。これらの添加元素或いは不純物元素は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。これらの添加元素或いは不純物元素の中間層における含有濃度の上限は、通常5原子%以下程度である。
【0115】
中間層の膜厚は、少なくとも膜として形成されればその効果を発揮することが可能であるが、その膜厚の下限は通常1nm以上である。一方、中間層の膜厚は、厚くなりすぎると中間層の光吸収が大きくなり、記録感度低下と反射率低下を引き起こすため、通常15nm以下、好ましくは10nm以下、より好ましくは5nm以下とする。上記の膜厚範囲内とすれば、ジッター改善効果と適正な反射率及び記録感度を同時に得ることが出来る。
【0116】
中間層は、スパッタリング法、イオンプレーティング法や、電子ビーム蒸着法などで形成することができる。
【0117】
(記録層)
記録層22は、未記録(記録前)状態において記録再生光波長に対して光吸収機能を有する色素を主成分として含有する。記録層22に主成分として含有される色素は、具体的には、400nm〜800nmの可視光(及びその近傍)波長領域にその構造に起因した顕著な吸収帯を有する有機化合物であって、記録再生光波長λよりも長波長側に吸収帯のピークがある有機化合物である。このような、未記録(記録前)の状態において記録再生光ビーム27の波長λに吸収を有し、記録により変質して記録層22に再生光の反射光強度の変化として検出されうる光学的変化を起こす色素を、本明細書においては「主成分色素」と呼ぶ。主成分色素は一種であってもよいが、複数の色素の混合物として、上記の機能を発揮するものであってもよい。
【0118】
記録層22における主成分色素の含有量は、通常50重量%以上、中でも80重量%以上、更には90重量%以上の範囲が好ましい。主成分色素は、単独の色素が記録再生光ビーム27の波長λに対して吸収があり、記録によって変質して上記光学的変化を生じることが好ましいが、記録再生光ビーム27の波長λに対する吸収を有し、発熱することで、間接的に他方の色素を変質させ光学的変化を起こさせるように機能分担されていてもよい。主成分色素にはこの他、光吸収機能を有する色素の経時安定性(温度、湿度、光に対する安定性)を改善するためのいわゆるクエンチャーとしての色素が混合されていてもよい。主成分色素以外の記録層22の含有物としては、低・高分子材料からなる結合剤(バインダー)、誘電体等が挙げられる。
【0119】
記録層22の記録溝部の膜厚は、通常70nm以下、好ましくは50nm以下、より好ましくは40nm以下、さらに好ましくは30nm以下である。
なお、記録溝間部の未記録時における記録層膜厚は、通常0nm以上、また、通常10nm以下、好ましくは7nm以下、より好ましくは5nm以下である。記録溝間部の未記録時における記録層膜厚を上記範囲とすれば、記録ピットの横方向の幅が記録溝幅を超えてはみ出しにくくなり、クロストークへの影響を少なくできるからである。従って、記録溝間部の未記録時における記録層膜厚は、実質的にゼロとみなせる範囲である10nm以下であることが特に好ましい。
【0120】
なお、後述する界面層を用いた場合において、記録溝間部の未記録時における記録層膜厚を上記の範囲とすると、界面層と反射層23とが記録溝間部において接する状態が発生する。このとき、例えば、界面層に硫黄を含有する材料(例えばZnS)を用い、かつ反射層23にAgを用いた場合に、硫黄と反射層23とが反応して反射層23の腐食が起きることがある。このような腐食が起き得る場合においては、中間層により界面層と反射層23とが直接接することを抑制されるために、上記腐食の現象を抑制できる効果が奏される。
【0121】
(記録層の主成分となる色素化合物)
本発明の光学記録媒体の記録層の主成分となる色素化合物は下記一般式[I]で表されるポルフィリン化合物である。
【化3】
一般式[I]中、Ara1〜Ara4は各々独立に芳香環を表し、それぞれ複数の置換基を有していてもよい。
また、一般式[I]中、Ra1〜Ra8は各々独立に水素原子もしくは任意の置換基を表し、中でも水素原子であることが好ましい。
さらに、一般式[I]中、Maは2価以上の金属カチオンを表す。但し、Maが3価以上の場合、分子全体が中性となるように該分子は更にカウンターアニオンを有していても良い。
【0122】
このポルフィリン化合物は好ましくは下記一般式[II]で表されるテトラアリールポルフィリン化合物である。
【化4】
([II]式中、X1〜X4は各々独立に価数が4以上の原子を表し、X1〜X4が価数5以上の原子の場合、X1〜X4は更に任意の置換基を有していてもよく、X1〜X4が価数6以上の原子の場合、各々=Q1〜=Q4を2個有していてもよく、その場合において、該2個のQ1〜Q4は同一のものであってもよく、異なるものであってもよい。
Q1〜Q4は、各々独立に周期律表第16族原子を表す。
Ar1〜Ar4は各々独立に芳香環を表し、それぞれX1〜X4以外の置換基を有していてもよい。
R1〜R8は各々独立に炭素数20以下の有機基を表し、
R9〜R16は各々独立に水素原子もしくは電子吸引性置換基を表し、
Mは、2価以上の金属カチオンを表す。但し、Mが3価以上の場合、分子全体が中性となるように該分子は更にカウンターアニオンを有していても良い。
なお、R1およびR2、R3およびR4、R5およびR6、R7およびR8はそれぞれ結合して環を形成していてもよい。)
【0123】
なお、本発明の記録層形成用色素中には、本発明に係るテトラアリールポルフィリン化合物の1種が単独で含まれていても良く、2種以上が混合して含まれていてもよい。
以下に、上記一般式[II]で表されるテトラアリールポルフィリン化合物について詳細に説明する。
【0124】
{X1(=Q1)〜X4(=Q4)}
[II]式中、N−X1(=Q1)〜N−X4(=Q4)は、本発明のポルフィリン化合物の溶剤への溶解性を著しく向上させる理由から各々独立にアミド構造を表す。
アミド構造を構成するX1(=Q1)〜X4(=Q4)の、X1〜X4は各々独立に価数が4以上の原子を表し、X1〜X4が価数5以上の原子の場合、X1〜X4は更に任意の置換基を有していてもよく、X1〜X4が価数6以上の原子の場合、各々=Q1〜=Q4を2個有していてもよく、その場合において、該2個のQ1〜Q4は同一のものであってもよく、異なるものであってもよい。
X1〜X4としては、各々独立に例えばC、S、P等が挙げられ、特にC、Sが好ましい。X1〜X4が価数5以上の原子の場合、X1〜X4が更に有していてもよい置換基としては、後述のR9〜R16の具体例に相当する。
アミド構造を構成するX1(=Q1)〜X4(=Q4)のQ1〜Q4は、各々独立に周期律表第16族原子を表し、好ましくはO又はSである。
X1(=Q1)〜X4(=Q4)の具体例としては、例えば以下の様なものが挙げられる。なお、これらの構造は、aの部位でそれぞれAr1〜Ar4に結合しており、bの部位で窒素原子に結合している。また、R17は置換基を表し、その具体例は後述のR9〜R16の具体例に相当する。
【化5】
【0125】
これらのうち、X1(=Q1)〜X4(=Q4)はそれぞれカルボニル基(すなわちN−X1(=Q1)〜N−X4(=Q4)がカルバモイル基N−C(=O))もしくはスルホニル基(すなわちN−X1(=Q1)〜N−X4(=Q4)がスルファモイル基N−C(=S))であることが合成上の理由および化合物の取り扱いやすさの面で好ましい。さらに、X1(=Q1)〜X4(=Q4)はそれぞれカルボニル基である方が溶解性向上の面で好ましいが、スルホニル基である方が熱分解温度低下による感度向上の面で好ましい。また、X1(=Q1)〜X4(=Q4)はそれぞれ異なっている方が化合物の膜性向上の面で好ましいが、同じである方が合成上の理由から好ましい。
X1(=Q1)〜X4(=Q4)のAr1〜Ar4に対する置換位置については、ポルフィリン環により重なるような位置に置換する方が溶解性および膜性向上の面で好ましいが、離れている方が合成上の理由から好ましい。
【0126】
{Ar1〜Ar4}
〈Ar1〜Ar4の骨格構造〉
[II]式中、Ar1〜Ar4は、各々独立に置換基を有していてもよい芳香環を表す。本発明において芳香環とは、芳香族性を有する環、すなわち(4n+2)π電子系(nは自然数)を有する環を意味する。その骨格構造は、通常、5または6員環の、単環または2〜6縮合環からなる芳香環であり、該芳香環には、芳香族炭化水素環、芳香族複素環の他、アントラセン環、カルバゾール環、アズレン環のような縮合環も含まれる。
Ar1〜Ar4の骨格構造の具体例としては、5員環単環としてフラン環、チオフェン環、ピロール環、イミダゾール環、チアゾール環、オキサジアゾール環、6員環単環としてベンゼン環、ピリジン環、ピラジン環、縮合環としてナフタレン環、フェナンスレン環、アズレン環、ピレン環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、ベンゾフラン環、カルバゾール環、ジベンゾチオフェン環、アントラセン環等が挙げられる。これらのうち、合成上の理由から単環が好ましく、さらに好ましくは6員環の単環であり、特に好ましくはベンゼン環である。
なお、Ar1〜Ar4はそれぞれ異なる方が溶解性および記録層形成時の膜性向上の点で好ましいが、同じである方が合成上の点から好ましい。
【0127】
〈Ar1〜Ar4が有する置換基〉
Ar1〜Ar4はそれぞれX1〜X4以外に置換基を有していてもよい。Ar1〜Ar4がX1〜X4以外に有する置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、炭化水素環基、複素環基、アルコキシ基、アルキルカルボニル基、(ヘテロ)アリールオキシ基、(ヘテロ)アラルキルオキシ基、更に置換基を有していてもよいアミノ基、ニトロ基、シアノ基、エステル基、ハロゲン原子、水酸基などが挙げられる。好ましくは、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数2〜20のアルキニル基、炭素数3〜20の炭化水素環基、5または6員環の単環または2〜6縮合環由来の複素環基、炭素数1〜9のアルコキシ基、炭素数2〜18のアルキルカルボニル基、炭素数2〜18の(ヘテロ)アリールオキシ基、炭素数3〜18の(ヘテロ)アラルキルオキシ基、アミノ基、炭素数2〜20のアルキルアミノ基、炭素数2〜30の(ヘテロ)アリールアミノ基、ニトロ基、シアノ基、炭素数2〜6のエステル基、ハロゲン原子、水酸基などである。
【0128】
炭素数1〜20のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基などが挙げられる。
炭素数2〜20のアルケニル基の例としては、ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、2−メチル−1−プロペニル基、ヘキセニル基、オクテニル基などが挙げられる。
炭素数2〜20のアルキニル基の例としては、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基、2−メチル−1−プロピニル基、ヘキシニル基、オクチニル基などが挙げられる。
炭素数3〜20の炭化水素環基としてはシクロプロピル基、シクロヘキシル基、シクロヘキセニル基、テトラデカヒドロアントラニル基、フェニル基、アントラニル基、フェナンスリル基、フェロセニル基などが挙げられる。
【0129】
5または6員環の単環または2〜6縮合環由来の複素環基としては、ピリジル基、チエニル基、ベンゾチエニル基、カルバゾリル基、キノリニル基、2−ピペリジニル基、2−ピペラジニル基、オクタヒドロキノリニル基などが挙げられる。
炭素数1〜9のアルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、iso−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基などが挙げられる。
炭素数2〜18のアルキルカルボニル基としては、メチルカルボニル基、エチルカルボニル基、イソプロピルカルボニル基、tert−ブチルカルボニル基、シクロヘキシルカルボニル基などが挙げられる。
【0130】
炭素数2〜18の(ヘテロ)アリールオキシ基の例としては、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等のアリールオキシ基や、2−チエニルオキシ基、2−フリルオキシ基、2−キノリルオキシ基等のヘテロアリールオキシ基などが挙げられる。
炭素数3〜18の(ヘテロ)アラルキルオキシ基の例としては、ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基、ナフチルメトキシ基等のアラルキルオキシ基や、2−チエニルメトキシ基、2−フリルメトキシ基、2−キノリルメトキシ基等のヘテロアラルキルオキシ基などが挙げられる。
炭素数2〜20のアルキルアミノ基の例としては、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、メチルエチルアミノ基、ジブチルアミノ基、ピペリジル基などが挙げられる。
【0131】
炭素数2〜30の(ヘテロ)アリールアミノ基の例としては、ジフェニルアミノ基、ジナフチルアミノ基、ナフチルフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基等のアリールアミノ基や、ジ(2−チエニル)アミノ基、ジ(2−フリル)アミノ基、フェニル(2−チエニル)アミノ基等のヘテロアリールアミノ基などが挙げられる。
炭素数2〜6のエステル基の例としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基などが挙げられる。
ハロゲン原子の例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、沃素原子などが挙げられる。
【0132】
Ar1〜Ar4がそれぞれX1〜X4以外に2つ以上の置換基を有する場合、該置換基同士が結合して環状構造をなしてもよい。例えば、Ar1〜Ar4がベンゼン環由来の基である場合、該ベンゼン環が有する置換基同士が結合して環状構造を形成している例として以下の(a−1),(a−2),(a−3)に示す構造が挙げられる。なお、以下において、aの部分がポルフィリン環への結合位置であり、bの部分がX1〜X4への結合位置である。
【化6】
なお、Ar1〜Ar4はX1〜X4以外にこれらの置換基を有している方が膜性向上の観点から好ましいが、置換基を有していない方が合成上の観点から好ましい。
【0133】
〈Ar1〜Ar4の分子量〉
Ar1〜Ar4の分子量は吸光度低下による記録感度低下を防止する観点から、N,N−二置換アミド構造基およびその他の置換基を有する場合はその置換基も含めて、合計3,000以下であることが好ましい。
{N,N−二置換アミノ基}
【0134】
〈R1〜R8の有機基〉
N,N−二置換アミド構造基に含まれるN,N−二置換アミノ基部分の置換基であるR1〜R8は各々独立に炭素数20以下の有機基を表す。
R1〜R8の有機基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、炭化水素環基、複素環基、アルコキシ基、アルキルカルボニル基、(ヘテロ)アリールオキシ基、(ヘテロ)アラルキルオキシ基、エステル基などが挙げられる。好ましくは、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数2〜20のアルキニル基、炭素数3〜20の炭化水素環基、5または6員環の単環または2〜6縮合環由来の複素環基、炭素数1〜9のアルコキシ基、炭素数2〜18のアルキルカルボニル基、炭素数2〜18の(ヘテロ)アリールオキシ基、炭素数3〜18の(ヘテロ)アラルキルオキシ基、炭素数2〜6のエステル基などである。
【0135】
なお、それらの具体例としては、上述のAr1〜Ar4が有していてもよい置換基として挙げられた、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数2〜20のアルキニル基、炭素数3〜20の炭化水素環基、5または6員環の単環または2〜6縮合環由来の複素環基、炭素数1〜9のアルコキシ基、炭素数2〜18のアルキルカルボニル基、炭素数2〜18の(ヘテロ)アリールオキシ基、炭素数3〜18の(ヘテロ)アラルキルオキシ基、炭素数2〜6のエステル基などの具体例が相当する。
【0136】
R1およびR2、R3およびR4、R5およびR6,R7およびR8は、それぞれ結合して環状構造をなしていてもよい。例えば、R1およびR2が結合して6員環を形成するN,N−二置換アミノ基として以下の(R−1),(R−2),(R−3)の構造が挙げられる。
【化7】
R1〜R8はそれぞれ異なっている方が溶解性向上および膜性向上の面で好ましいが、同一である方が合成上の理由から好ましい。また、R1〜R8は各アミド構造基の窒素原子に対して立体的に嵩高くない方が化合物の溶解度低下防止の面で好ましく、具体的にはn−アルキル基、n−アルケニル基、n−アルキニル基、アルコキシ基、アルキルカルボニル基などが好ましく、特にn−アルキル基、アルコキシ基などが好ましい。
【0137】
〈R1〜R8の分子量〉
吸光度低下による記録感度低下を防止するために、R1〜R8の分子量は合計で3,000以下であることが好ましい。
【0138】
{R9〜R16}
R9〜R16は合成上の理由および化合物の安定性の理由から各々独立に水素原子もしくは電子吸引性置換基を表す。
電子吸引性置換基の例としては、炭素数2〜18のアルキルカルボニル基、炭素数2〜6のエステル基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基などが挙げられ、それらの具体例としては、上述のAr1〜Ar4が有していてもよい置換基として挙げられた、炭素数2〜18のアルキルカルボニル基、炭素数2〜6のエステル基、ハロゲン原子などの具体例が相当する。
【0139】
なお、これらのうち、合成上の理由からR9〜R16はそれぞれ水素原子もしくはハロゲン原子であることが好ましく、R9〜R16がそれぞれハロゲン原子であることが耐光性向上の面で特に好ましいが、合成上の観点からはR9〜R16はそれぞれ水素原子であることが特に好ましい。
R9〜R16の分子量は吸光度低下による記録感度低下を防止する観点から、合計で1,000以下であることが好ましい。
【0140】
{M}
Mは、2価以上の金属カチオンを表す。Mとして挙げられる金属元素はポルフィリン環中央に配位し得るものであれば何でもよく、具体例としてはMg,Al,Si,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Mo,Ru,Rh,Pd,Ag,Pt,Au,Er等が挙げられる。
Mが2価以上の金属カチオンであることが化合物の安定性向上に効果が有り、Mにあたる金属が反磁性を示さないことが化合物の記録感度向上の面で好ましく、合成上の理由から特にCo,Ni,Cuが好ましい。
【0141】
Mが3価以上の金属イオンである場合、Mはさらにカウンターアニオンと結合していてもよい。これにより、一般式[II]で表される化合物の分子全体が中性となる。このカウンターアニオンの種類としては、アルコキシイオン、(ヘテロ)アリールオキシイオン、(ヘテロ)アラルキルオキシイオン、更に置換基を有していてもよいシアノイオン、エステルイオン、ハロゲンイオン、ヒドロキシイオン、酸素イオンなどが挙げられ、例えば、炭素数1〜9のアルコキシイオン、炭素数2〜18の(ヘテロ)アリールオキシイオン、炭素数3〜18の(ヘテロ)アラルキルオキシイオンなどであり、それらの具体例としては、上述のAr1〜Ar4が有していてもよい置換基として挙げられた炭素数1〜9のアルコキシ基、炭素数2〜18の(ヘテロ)アリールオキシ基、炭素数3〜18の(ヘテロ)アラルキルオキシ基などの具体例をそれぞれイオンに置き換えたものに相当する。
なお、カウンターアニオンはその分子量が小さい方が化合物の感度向上の面で好ましく、特にアセトキシイオン、シアノイオン、塩素イオン、酸素イオンのような分子量200以下のものが好ましい。
【0142】
{分子量}
以上に説明した一般式[II]で表される化合物は、吸光度低下による感度低下防止の点から、通常分子量6,000以下、中でも3,000以下であることが好ましい。
尚、一般式[II]で表される化合物は、通常水不溶性であることが好ましい。
【0143】
{具体例}
一般式[II]で表わされる化合物の具体例を以下に例示するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下において、Etはエチル基である。
【0144】
【化8】
【0145】
【化9】
【0146】
【化10】
【0147】
【化11】
【0148】
【化12】
【0149】
【化13】
【0150】
{合成法}
一般式[II]で表わされる化合物は、例えば、“Bioorg.Med.Chem.,2002年(10巻)、3013−3021頁”に記載の方法により容易に合成することができる。
例えば、X1(=Q1)〜X4(=Q4)が全てカルボニル基(すなわちN−X1(=Q1)〜N−X4(=Q4)がカルバモイル基N−C(=O))の場合、市販のカルボキシル基を有するテトラアリールポルフィリン化合物を塩化チオニル混合条件で加熱し、さらに二置換アミンを作用させることによってN,N−二置換カルバモイル基を有するテトラアリールポルフィリン化合物を得ることができる。得られたテトラアリールポルフィリン化合物と金属塩を溶媒の存在または非存在下で室温もしくは加熱条件で反応させることにより、N,N−二置換カルバモイル基を有するテトラアリールポルフィリン金属錯体を得ることができる。
カルボニル基以外のX1(=Q1)〜X4(=Q4)を有するテトラアリールポルフィリン化合物についても、出発原料のテトラアリールポルフィリン化合物等を変更することにより、同様の方法で合成することができる。
【0151】
(記録層の形成法)
記録層22の形成方法としては、塗布法、真空蒸着法等が挙げられるが、特に、塗布法で形成することが好ましい。即ち、上記色素を主成分として、結合剤、クエンチャー等の他の成分とともに適当な溶剤に溶解して記録層22の塗布液を調製し、前述の反射層23または反射層上の中間層上に塗布する。溶解液中の主成分色素の濃度は、通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、更に好ましくは0.2重量%以上、また、通常10重量%以下、好ましくは5重量%以下、更に好ましくは2重量%以下の範囲とする。これにより、通常1nm〜100nm程度の厚みに記録層22が形成される。その厚みを50nm以下(好ましくは50nm未満)とするために、上記色素濃度を1重量%未満とするのが好ましく、0.8重量%未満とするのがより好ましい。また、塗布の回転数を更に調整することも好ましい。
【0152】
主成分色素等の材料を溶解する溶剤としては、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール;テトラフルオロプロパノール(TFP)、オクタフルオロペンタノール(OFP)等のフッ素化炭化水素系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類;酢酸ブチル、乳酸エチル、セロソルブアセテート等のエステル;ジクロルメタン、クロロホルム等の塩素化炭化水素;ジメチルシクロヘキサン等の炭化水素;テトラヒドロフラン、エチルエーテル、ジオキサン等のエーテル;メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン等のケトン等を挙げることができる。これらの溶剤は、溶解すべき主成分となる色素材料等の溶解性を考慮して、適宜選択することができる。また、これらの溶剤は何れか一種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0153】
結合剤としては、セルロース誘導体、天然高分子物質、炭化水素系樹脂、ビニル系樹脂、アクリル樹脂、ポリビニールアルコール、エポキシ樹脂等の有機高分子等を使うことができる。更に、記録層22には、耐光性を向上させるために、種々の色素又は色素以外の褪色防止剤を含有させることができる。褪色防止剤としては、一般的に一重項酸素クエンチャーが用いられる。一重項クエンチャー等の褪色防止剤の使用量は、前記記録層材料に対して、通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上、更に好ましくは5重量%以上、また、通常50重量%以下、好ましくは30重量%以下、更に好ましくは25重量%以下の範囲である。
塗布方法としては、スプレー法、スピンコート法、ディップ法、ロ−ルコート法等が挙げられるが、特に、ディスク状の光記録媒体においては、膜厚の均一性を確保し、且つ、欠陥密度を低減することができるので、スピンコート法が好ましい。
【0154】
(界面層)
本実施の形態においては、特に、記録層22とカバー層24の間に界面層を設けることで、記録層22のカバー層24側への膨れ、dbmp<0、を有効に利用することができる。界面層の厚みは、1nm〜50nmであることがより好ましい。さらに好ましくは、上限は30nmとすることである。また、下限は5nm以上とすることが好ましい。界面層における反射は、できるだけ小さいことが望ましい。主反射面である反射層23からの反射光の位相変化を選択的に利用するためである。界面層に主反射面があることは、本実施の形態においては好ましいことではない。このため、界面層と記録層22、あるいは界面層とカバー層24の屈折率の差が小さいことが望ましい。その差は、いずれも、1以下が好ましく、より好ましくは、0.7以下、さらに好ましくは0.5以下である。
【0155】
尚、界面層を用いて、図4に示すような混合層25mの形成を抑制することや、逆構成で記録層22上にカバー層24を貼り付ける際の接着剤による腐食防止や、カバー層24を塗布するときの溶剤による記録層22の溶出を防止する効果が知られており、本実施の形態においても、そのような効果を併せて利用することは適宜可能である。界面層として用いられる材料は、記録再生光波長に対して透明で、かつ、化学的、機械的、熱的に安定なものが好ましい。ここで、透明とは、記録再生光ビーム27に対する透過率が80%以上となることであるが、90%以上であることがより好ましい。透過率の上限は100%である。
【0156】
界面層は、金属、半導体等の酸化物、窒化物、炭化物、硫化物、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)等のフッ化物等の誘電体化合物やその混合物が好ましい。界面層の屈折率は、前述のように、記録層やカバー層の屈折率との差が1以下のものが好ましく、値としては1〜2.5の範囲にあることが望ましい。界面層の硬度や厚みにより、記録層22の変形、特に、カバー層24側へのふくらみ変形(dbmp<0)を促進したり、抑制したりすることができる。ふくらみ変形を有効に活用するためには、比較的、硬度の低い誘電体材料が好ましく、特に、ZnO、In2O3、Ga2O3、ZnSや希土類金属の硫化物に、他の金属、半導体の酸化物、窒化物、炭化物を混合した材料が好ましい。また、プラスチックのスパッタ膜、炭化水素分子のプラズマ重合膜を用いることもできる。尚、界面層が設けられても、その厚みや屈折率が、記録溝部及び溝間部において均一で、記録により顕著に変化しなければ、式(2)、式(3)の光路長、式(7)〜式(9)はそのまま成り立つ。
【0157】
(カバー層)
カバー層24は、記録再生光ビーム27に対して透明で複屈折の少ない材料が選ばれ、通常は、プラスチック板(シートと呼ぶ)を接着剤で貼り合せるか、塗布後、光、放射線、または熱等で硬化して形成する。カバー層24は、記録再生光ビーム27の波長λに対して透過率70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。
【0158】
シート材として用いられるプラスチックは、ポリカーボネート、ポリオレフィン、アクリル、三酢酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート等である。接着には、光、放射線硬化、熱硬化樹脂や、感圧性の接着剤が用いられる。感圧性接着剤としては、また、アクリル系、メタクリレート系、ゴム系、シリコン系、ウレタン系の各ポリマーからなる粘着剤を使用できる。
【0159】
例えば、接着層を構成する光硬化性樹脂を適当な溶剤に溶解して塗布液を調整した後、この塗布液を記録層22または界面層上に塗布して塗布膜を形成し、塗布膜上にポリカーボネートシートを重ね合わせる。その後、必要に応じて重ね合わせた状態で、媒体を回転させるなどして塗布液をさらに延伸展開した後、UVランプで紫外線を照射して硬化させる。あるいは、感圧性接着剤をあらかじめシートに塗布しておき、シートを記録層22あるいは界面層上に重ね合わせた後、適度な圧力で押さえつけて圧着する。
【0160】
前記粘着剤としては、透明性、耐久性の観点から、アクリル系、メタクリレート系のポリマー粘着剤が好ましい。より具体的には、2−エチルヘキシルアクリレート、n−ブチルアクリレート、iso−オクチルアクリレートなどを主成分モノマーとし、これらの主成分モノマーを、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド誘導体、マレイン酸、ヒドロキシルエチルアクリレート、グリシジルアクリレート等の極性モノマーを共重合させる。主成分モノマーの分子量調整、その短鎖成分の混合、アクリル酸による架橋点密度の調整により、ガラス転移温度Tg、タック性能(低い圧力で接触させたときに直ちに形成される接着力)、剥離強度、せん断保持力等の物性を制御することができる(アィフォンス ブイ ポシウス(Alphonsus V.Pocius)著、水町浩、小野拡邦訳「接着剤と接着技術入門」、日刊工業新聞社、1999、第9章)。アクリル系ポリマーの溶剤としては、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、メチルエチルケトン、シクロヘキサン等が用いられる。上記粘着剤は、さらに、ポリイソシアネート系架橋剤を含有することが好ましい。
【0161】
また、粘着剤は、前述のような材料を用いるが、カバー層シート材の記録層側に接する表面に所定量を均一に塗布し、溶剤を乾燥させた後、記録層側表面(界面層を有する場合はその表面)に貼り合わせローラー等により圧力をかけて硬化させる。該粘着剤を塗布されたカバー層シート材を記録層を形成した記録媒体表面に接着する際には、空気を巻き込んで泡を形成しないように、真空中で貼り合せるのが好ましい。
また、離型フィルム上に上記粘着剤を塗布して溶剤を乾燥した後、カバー層シートを貼り合わせ、さらに離型フィルムを剥離してカバー層シートと粘着剤層を一体化した後、記録媒体と貼りあわせても良い。
【0162】
塗布法によってカバー層24を形成する場合には、スピンコート法、ディップ法等が用いられるが、特に、ディスク状媒体に対してはスピンコート法を用いることが多い。塗布によるカバー層24材料としては、同様に、ウレタン、エポキシ、アクリル系の樹脂等を用い、塗布後、紫外線、電子線、放射線を照射し、ラジカル重合もしくは、カチオン重合を促進して硬化する。
【0163】
ここで、dbmp<0なる変形を利用するためには、カバー層24の少なくとも記録層22あるいは、上記界面層に接する側の層(少なくとも、dGLと同程度かより厚めの範囲)が、膨れ変形に追従しやすいことが望ましい。そうして、dbmpがdGの1倍から3倍の範囲にあることが好ましい。むしろ、1.5倍以上の大きな変形を積極的に利用することが望ましい。カバー層24は、適度なやわらかさ(硬度)を有することが好ましく、例えば、カバー層24が厚み50μm〜100μmの樹脂のシート材からなり、感圧性の接着剤で貼り合せた場合は、接着剤層のガラス転移温度が−50℃〜50℃と低く、比較的やわらかいので、dbmp<0なる変形が比較的大きくなる。特に好ましいのは、ガラス転移温度が室温以下となっていることである。接着剤からなる接着層の厚みは、通常1μm〜50μmであることが好ましく、5μm〜30μmであることがより好ましい。接着層材料の厚み、ガラス転移温度、架橋密度を制御してかかる膨れ変形量を積極的に制御する変形促進層を設けることが好ましい。あるいは、塗布法で形成するカバー層24においても、1μm〜50μm、より好ましくは、5μm〜30μmの厚みの比較的低硬度の変形促進層と、残りの厚みの層に分けて多層に塗布することも、変形量dbmpの制御のためには好ましい。
【0164】
このように、カバー層の記録層(界面層)側に粘着剤、接着剤、保護コート剤等からなる変形促進層を形成する場合、一定の柔軟性を付与するため、ガラス転移温度Tgが25℃以下であることが好ましく、0℃以下であることがより好ましく、−10℃以下であることがさらに好ましい。ここでいうガラス転移温度Tgは、粘着剤、接着剤、保護コート剤等の硬化後において測定した値とする。Tgの簡便な測定方法は、示差走査熱分析(DSC)である。また、動的粘弾性率測定装置により、貯蔵弾性率の温度依存性を測定しても得られる(アィフォンス ブイ ポシウス(Alphonsus V.Pocius)著、水町浩、小野拡邦訳「接着剤と接着技術入門」、日刊工業新聞社、1999、第5章)。
【0165】
dbmp<0なる変形を促進することは、LtoHの信号振幅を大きくできるのみならず、記録に必要な記録パワーを小さくできる利点もある。他方、変形が大きすぎるとクロストークが大きくなったり、プッシュプル信号が小さくなりすぎたりするので、変形促進層はガラス転移温度以上においても適度な粘弾性を保持していることが好ましい。
【0166】
カバー層24は、さらにその入射光側表面に耐擦傷性、耐指紋付着性といった機能を付与するために、表面に厚さ0.1μm〜50μm程度の層を別途設けることもある。カバー層24の厚みは、記録再生光ビーム27の波長λや対物レンズ28のNA(開口数)にもよるが、0.01mm〜0.3mmの範囲が好ましく、0.05mm〜0.15mmの範囲がより好ましい。接着層やハードコート層等の厚みを含む全体の厚みが、光学的に許容される厚み範囲となるようにするのが好ましい。たとえば、いわゆるブルーレイ・ディスクでは、100μm±3μm程度以下に制御するのが好ましい。
なお、変形促進層を設ける場合のように、カバー層の記録層側に屈折率の異なる層を設けた場合、本発明におけるカバー層屈折率ncとしては、記録層側の層の値を参照する。
【0167】
(その他の構成)
なお、本実施形態の光記録媒体は、上述の各層の他に、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、任意の層を有していてもよい。例えば、前述の記録層22とカバー層24との界面の他に、基板21と反射層23との間に、相互の層の接触・拡散防止や、位相差及び反射率の調整のために、界面層を挿入することができる。
【実施例】
【0168】
以下、本発明について、実施例を挙げて更に詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
トラックピッチ0.32μmで、溝幅約0.18μm、溝深さ約55nmの案内溝を形成したポリカーボネート樹脂の基板上に、Ag98.1Nd1.0Cu0.9の組成を有する合金ターゲット(前記組成は原子%で表わしている。)をスパッタすることにより、厚さ約70nmの反射層を形成した。この反射層上にNbをスパッタすることにより、厚さ約2nmの中間層を形成した。更に、下記構造式で表される色素をオクタフルオロペンタノール(OFP)に溶解し、得られた溶液を上記中間層の上にスピンコート法で成膜した。
この構造式の屈折率は1.08、消衰係数は1.15であった。この屈折率、消衰係数は日本分光社製エリプソメーター「MEL−30S」を用いて、エリプソメトリー(偏光解析)によって測定した(特許文献45、藤原裕之著、「分光エリプソメトリー」、丸善出版社、平成15年、第5章)。また、ポリカーボネート樹脂基板上に塗布された、記録層単独の塗膜状態での吸収スペクトルは、分光光度計(株式会社島津製作所製、UV−3150)を用いて測定した。
【0169】
さらに、基板の溝深さ及び溝幅は原子間力顕微鏡(AFM:Digital Instruments社製 NanoScopeIIIa)を用いて測定した。
図9にポリカーボネート樹脂基板上に塗布された、記録層単独の塗膜状態での吸収スペクトルおよびnd,kdの波長依存性を示した。
【化14】
【0170】
スピンコート法の条件は以下の通りである。即ち、上記色素を0.66重量%の濃度でOFPに溶解させた溶液を、ディスク(上記基板上に反射層及び中間層を形成したもの)の中央付近に1.5g環状に塗布し、ディスクを120rpmで約4秒間、1200rpmで約3秒間回転させ色素溶液を延伸し、その後、9200rpmで3秒間回転させ色素溶液を振り切ることにより塗布を行なった。尚、塗布後にディスクを100℃の環境下に1時間保持し、溶媒であるOFPを蒸発除去することにより、記録層を形成した。
その後、上記記録層上に、スパッタ法により、ZnS−SiO2(モル比80:20)からなる界面層を、約16nmの厚みに形成した。その上に、厚さ75μmのポリカーボネート樹脂のシートと厚さ25μmの感圧接着剤層とからなる合計の厚さ100μmの透明なカバー層を貼り合わせることにより、光記録媒体(実施例1の光記録媒体)を作製した。
【0171】
(実施例2)
トラックピッチ0.32μmで、溝幅約0.18μm、溝深さ約60nmの案内溝を形成したポリカーボネート樹脂の基板上に、Ag98.1Nd1.0Cu0.9の組成を有する合金ターゲット(前記組成は原子%で表わしている。)をスパッタすることにより、厚さ約65nmの反射層を形成した。反射膜上に下記構造式で表される色素をオクタフルオロペンタノール(OFP)に溶解し、得られた溶液を上記中間層の上にスピンコート法で成膜した。
【0172】
この構造式の屈折率は0.98、消衰係数は1.22であった。図10にポリカーボネート樹脂基板上に塗布された、記録層単独の塗膜状態での吸収スペクトルおよびnd,kdの波長依存性を示した。
【化15】
【0173】
スピンコート法、記録層の形成の方法など以降は実施例1と同様である。
その後、上記記録層上に、スパッタ法により、ZnS−SiO2(モル比80:20)からなる界面層を、約16nmの厚みに形成した。その上に、厚さ75μmのポリカーボネート樹脂のシートと厚さ25μmの感圧接着剤層とからなる合計の厚さ100μmの透明なカバー層を貼り合わせることにより、光記録媒体(実施例1の光記録媒体)を作製した。
【0174】
(比較例1)
トラックピッチ0.32μmで、溝幅約0.18μm、溝深さ約60nmの案内溝を形成したポリカーボネート樹脂の基板上に、Ag98.1Nd1.0Cu0.9の組成を有する合金ターゲット(前記組成は原子%で表わしている。)をスパッタすることにより、厚さ約65nmの反射層を形成した。反射膜上に下記構造式で表されるアゾ系色素をオクタフルオロペンタノール(OFP)に溶解し、得られた溶液を上記中間層の上にスピンコート法で成膜した。
【化16】
【0175】
上記構造式の色素材料の屈折率は1.24、消衰係数は0.24であった。スピンコート法、記録層の形成の方法など以降は実施例1と同様である。
その後、上記記録層上に、スパッタ法により、ZnS−SiO2(モル比80:20)からなる界面層を、約20nmの厚みに形成した。その上に、厚さ75μmのポリカーボネート樹脂のシートと厚さ25μmの感圧接着剤層とからなる合計の厚さ100μmの透明なカバー層を貼り合わせることにより、光記録媒体(比較例1の光記録媒体)を作製した。
【0176】
(評価条件)
実施例1、2の光記録媒体に対する記録再生評価は、記録再生光波長λ=406nm、NA(開口数)=0.85、集束ビームスポットの径約0.42μm(中心強度の1/e2となる範囲)の光学系を有するパルステック社製ODU1000テスターを用いて行なった。記録再生は基板溝部(in−groove)に対して行なった。
【0177】
記録は、線速度4.92m/sを1倍速とし、1倍速又はその2倍速となるように回転させ、(1,7)RLL−NRZI変調されたマーク長変調信号(17PP)を記録した。基準クロック周期Tは、1倍速では15.15nsec.(チャネルクロック周波数66MHz)とし、2倍速では7.58nsec.(チャネルクロック周波数132MHz)とした。記録パワー、記録パルス等の記録条件は、下記ジッターが最小になるように調整を行なった。再生は1倍速で行ない、ジッター及び反射率を測定した。
【0178】
ジッター(Jitter)の測定は、以下の手順で行なった。つまり、記録信号をリミット・イコライザーにより波形等化した後、2値化を行なった。その後、2値化した信号の立ち上がりエッジ及び立ち下がりエッジと、チャネルクロック信号の立ち上がりエッジとの時間差の分布σを、タイムインターバルアナライザにより測定した。そして、チャネルクロック周期をTとして、σ/Tによりジッター(%)を測定した(データ・トゥー・クロック・ジッター:Data to Clock Jitter)。
反射率は再生ディテクターの電圧出力値に比例するので、この電圧出力値を既知の反射率Rrefで規格化することで値を求めた。実施例及び比較例ともに、記録を行なうことで反射率は上昇した。
【0179】
記録信号の中で反射率の最も高い部分(9Tマーク)、反射率の最も低い部分(9Tスペース)の各反射率をRH、RLとし、更に
m=(RH−RL)/RH
によって変調度mを計算した。
プッシュプル信号は、規格化プッシュプル信号強度(IPPactual)の値を測定した。
【0180】
(評価結果)
図11は、実施例1に用いたディスクの断面の透過電子顕微鏡写真である。図11(a)は未記録状態のディスクの断面の透過電子顕微鏡(TEM)写真であり、図11(b)は、記録状態のディスクの断面の透過電子顕微鏡(TEM)写真である。断面試料は以下のようにして作製した。カバー層に粘着テープを貼り付けて引っ張った際、部分的に露出する界面層/カバー層界面での剥離面を取り出す。剥離面上に保護のためにW(タングステン)を蒸着する。さらに、Wで被覆された剥離面上部から、真空中で高速イオンを照射してスパッタし、穴を形成する。穴の側面に断面が形成されたものを、透過電子顕微鏡で観察を行った。
【0181】
図11(a)、図11(b)の断面像において、記録層は有機物であるため電子を透過するので白っぽく見える。記録溝間部(カバー層溝部)では、記録層膜厚dLはほぼゼロであり、記録溝部では、記録層膜厚dGは約29nmであることが分かる。また、反射基準面の段差で規定される溝深さdGLは、AFMで基板表面で測定したのとほぼ同等の約53nmである。記録ピット部では、界面層形状から、記録層がカバー層に向かって膨らんだ変形(即ち、図4において、dbmp<0)をしていることが分かる。さらに未記録の記録層にくらべ、白っぽくなっていることから、空洞(即ち、nd’=1)が形成されていると考えられる。また、記録ピットが記録溝部からはみださずに溝内に閉じ込められていることも分かる。
【0182】
尚、反射基準面からの記録後の空洞の高さは約88nmであり、dbmp=59nmである。また、反射層/基板界面に変質、変形は見られないので、dpit≒dmix≒0となっていることも確認できた。さて、これらの値及びnd=1.08、nc=1.5、δnd=1.08−1=0.08(但し、空洞内の屈折率を1とした)、λ=406nm、dG≒29nm、dL≒0nm、dGL≒53nmを用いて、本実施の形態における各位相の値を見積もると、以下のとおりである。
【0183】
式(7)におけるΦbは、
Φb=(4π/406)×(0.42×29−1.5×53)≒−0.66π
故に、|Φb2|<πである。
式(9)におけるΔΦは、
ΔΦ=(4π/406)×(0.42×59+0.08×88)≒0.31π
となり、ΔΦは、通常、(π/2)以下となるという想定を満足している。
また、式(8)におけるΦaは、
Φa≒(−0.66+0.31)π=−0.35π
となり、|Φb|>|Φa|となる。
【0184】
上記位相変化が記録ピット部による空洞形成をともなう屈折率変化に依存しており、かつ、記録ピット部で記録層がカバー層側に膨らむ変形を伴っていることが明らかとなった。δnd<0であるものの、dbmp<0を積極的に利用し、ΔΦ>0の位相変化を利用した記録が実施できていることがわかる。
また、プッシュプル信号の極性は変化しなかったので、0<|Φa|<|Φb|<πなる位相変化によるLtoH記録となっているといえる。
実施例2においても同様に記録ピット部における空洞形成とカバー層側に膨らむ変形が確認された。
【0185】
実施例1の光記録媒体におけるジッターσ、反射率RH、RL、及び変調度mは、1倍速記録ではσ=5.1%、RH=34.2%、RL=17.5%、m=0.49であり、2倍速記録ではσ=6.1%、RH=33.4%、RL=17.4%、m=0.48であった。
また、規格化プッシュプル強度は、記録前0.54、1倍速の記録後0.26、2倍速記録後は0.32であった。記録時のパワーは、1倍速で5.6mW、2倍速で7.0mWであった。
本発明者等は検討の結果、ブルーレイ・ディスクにおいてジッターが7.0%以下であり、記録時のパワーが7.0mW以下であり、規格化プッシュプル信号強度が0.21〜0.60の範囲であれば、実用的に十分な特性であると考えている。実施例1の上記数値は、これらの基準をクリアしていることが判る。
【0186】
実施例2の光記録媒体におけるジッターσ、反射率RH、RL、及び変調度mは、1倍速記録ではσ=6.1%、RH=38.8%、RL=21.9%、m=0.44であった。また、規格化プッシュプル信号強度は、記録前0.50、1倍速の記録後0.32であった。実施例2においては、1倍速記録ながら、前記ブルーレイ・ディスクの基準をほぼ満足している。
比較例1の光記録媒体におけるジッターσ、反射率RH、は、1倍速記録ではσ=7.8%、RH=30.8%、であり、2倍速記録ではσ=11.8%、RH=31.2%であった。記録時のパワーは、1倍速で6.6mW、2倍速で8.0mWであった。比較例1の光記録媒体では、ジッター値及び2倍速での記録パワーの値が、前記ブルーレイ・ディスクの基準を満足できないことがわかる。
以上の結果から、本発明により1倍速記録、2倍速記録ともにブルーレイ・ディスクの規格を満足する、優れた光記録媒体を得ることができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0187】
本発明は、膜面入射型の青色レーザ対応光記録媒体等などに用いて特に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0188】
【図1】従来構成の色素を主成分とする記録層を有する追記型媒体(光記録媒体)を説明する図である。
【図2】本実施の形態が適用される色素を主成分とする記録層を有する膜面入射構成の追記型媒体(光記録媒体)を説明する図である。
【図3】従来構成である図1の基板入射構成の基板側から入射する記録再生光ビームの反射光を説明するための図である。
【図4】膜面入射型媒体の層構成とカバー層溝間部に記録する場合の位相差を説明する図である。
【図5】膜面入射型媒体の層構成とカバー層溝部に記録する場合の位相差を説明する図である。
【図6】記録溝部と記録溝間部の位相差と反射光強度の関係を説明する図である。
【図7】記録信号(和信号)とプッシュプル信号(差信号)を検出する4分割ディテクターの構成を説明する図である。
【図8】実際に、複数の溝部、溝間部を横断しながら得られる出力信号を低周波通過フィルター(カットオフ周波数30kHz程度)を通過させた後に検出する信号を示す図である。
【図9】実施例1の記録層色素の吸収スペクトルとnd,kdの波長依存性を示すグラフである。
【図10】実施例2の記録層色素の吸収スペクトルとnd,kdの波長依存性を示すグラフである。
【図11】実施例1に用いたディスクの断面の透過電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0189】
10、20…光記録媒体、11、21…基板、12、22…記録層、13、23…反射層、14…保護コート層、15…基板溝間部、16…基板溝部、16m、25m、26m…混合層、16p、25p、26p…記録ピット部、17、27…記録再生光ビーム、18、28…対物レンズ、24…カバー層、25…カバー層溝間部、26…カバー層溝部、19,29…記録再生光ビームが入射する面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
案内溝が形成された基板と、
前記基板上に、光反射機能を有する層と、
下記一般式[I]で表されるポルフィリン化合物を主成分とする記録層と、
前記記録層に入射する記録再生光を透過し得るカバー層とをこの順に備える光記録媒体において、
前記記録再生光波長λが350nm〜450nmであり、
前記記録再生光を集束して得られる記録再生光ビームが前記カバー層に入射する面から遠い側の案内溝部を記録溝部とするとき、
前記記録溝部に形成された記録ピット部の反射光強度が、当該記録溝部における未記録時の反射光強度より高くなる
ことを特徴とする光記録媒体。
【化1】
(一般式[I]中、Ara1〜Ara4は各々独立に芳香環を表し、それぞれ複数の置換基を有していてもよい。
Ra1〜Ra8は各々独立に水素原子もしくは任意の置換基を表し、
Maは2価以上の金属カチオンを表す。但し、Maが3価以上の場合、分子全体が中性となるように該分子は更にカウンターアニオンを有していても良い。)
【請求項2】
当該記録ピット部において、前記記録層の内部または当該記録層に隣接する層との界面に空洞を形成し、かつ、前記記録層が前記カバー層側へ膨らむ形状変化を伴う
ことを特徴とする請求項1に記載の光記録媒体。
【請求項3】
前記ポルフィリン化合物が、下記一般式[II]で表されるテトラアリールポルフィリン化合物である
ことを特徴とする請求項1または2に記載の光記録媒体。
【化2】
([II]式中、X1〜X4は各々独立に価数が4以上の原子を表し、X1〜X4が価数5以上の原子の場合、X1〜X4は更に任意の置換基を有していてもよく、X1〜X4が価数6以上の原子の場合、各々=Q1〜=Q4を2個有していてもよく、その場合において、該2個のQ1〜Q4は同一のものであってもよく、異なるものであってもよい。
Q1〜Q4は、各々独立に周期律表第16族原子を表す。
Ar1〜Ar4は各々独立に芳香環を表し、それぞれX1〜X4以外の置換基を有していてもよい。
R1〜R8は各々独立に炭素数20以下の有機基を表し、
R9〜R16は各々独立に水素原子もしくは電子吸引性置換基を表し、
Mは、2価以上の金属カチオンを表す。但し、Mが3価以上の場合、分子全体が中性となるように該分子は更にカウンターアニオンを有していても良い。
なお、R1およびR2、R3およびR4、R5およびR6、R7およびR8はそれぞれ結合して環を形成していてもよい。)
【請求項4】
前記記録層と前記カバー層との間に、当該記録層の材料と当該カバー層の材料との混合を防止する界面層を更に設けた
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載の光記録媒体。
【請求項5】
前記光反射機能を有する層と前記記録層との間に中間層を更に設けた
ことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の光記録媒体。
【請求項6】
前記中間層は、Ta、Nb、V、W、Mo、Cr、及びTiからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含有する
ことを特徴とする、請求項5に記載の光記録媒体。
【請求項7】
前記光反射機能を有する層の前記記録層側の界面を反射基準面とし、 前記記録ピット部を形成しない案内溝部を記録溝間部とした時、前記反射基準面で規定される前記記録溝部と前記記録溝間部との段差dGLが、30〜70nmである
ことを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の光記録媒体。
【請求項1】
案内溝が形成された基板と、
前記基板上に、光反射機能を有する層と、
下記一般式[I]で表されるポルフィリン化合物を主成分とする記録層と、
前記記録層に入射する記録再生光を透過し得るカバー層とをこの順に備える光記録媒体において、
前記記録再生光波長λが350nm〜450nmであり、
前記記録再生光を集束して得られる記録再生光ビームが前記カバー層に入射する面から遠い側の案内溝部を記録溝部とするとき、
前記記録溝部に形成された記録ピット部の反射光強度が、当該記録溝部における未記録時の反射光強度より高くなる
ことを特徴とする光記録媒体。
【化1】
(一般式[I]中、Ara1〜Ara4は各々独立に芳香環を表し、それぞれ複数の置換基を有していてもよい。
Ra1〜Ra8は各々独立に水素原子もしくは任意の置換基を表し、
Maは2価以上の金属カチオンを表す。但し、Maが3価以上の場合、分子全体が中性となるように該分子は更にカウンターアニオンを有していても良い。)
【請求項2】
当該記録ピット部において、前記記録層の内部または当該記録層に隣接する層との界面に空洞を形成し、かつ、前記記録層が前記カバー層側へ膨らむ形状変化を伴う
ことを特徴とする請求項1に記載の光記録媒体。
【請求項3】
前記ポルフィリン化合物が、下記一般式[II]で表されるテトラアリールポルフィリン化合物である
ことを特徴とする請求項1または2に記載の光記録媒体。
【化2】
([II]式中、X1〜X4は各々独立に価数が4以上の原子を表し、X1〜X4が価数5以上の原子の場合、X1〜X4は更に任意の置換基を有していてもよく、X1〜X4が価数6以上の原子の場合、各々=Q1〜=Q4を2個有していてもよく、その場合において、該2個のQ1〜Q4は同一のものであってもよく、異なるものであってもよい。
Q1〜Q4は、各々独立に周期律表第16族原子を表す。
Ar1〜Ar4は各々独立に芳香環を表し、それぞれX1〜X4以外の置換基を有していてもよい。
R1〜R8は各々独立に炭素数20以下の有機基を表し、
R9〜R16は各々独立に水素原子もしくは電子吸引性置換基を表し、
Mは、2価以上の金属カチオンを表す。但し、Mが3価以上の場合、分子全体が中性となるように該分子は更にカウンターアニオンを有していても良い。
なお、R1およびR2、R3およびR4、R5およびR6、R7およびR8はそれぞれ結合して環を形成していてもよい。)
【請求項4】
前記記録層と前記カバー層との間に、当該記録層の材料と当該カバー層の材料との混合を防止する界面層を更に設けた
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載の光記録媒体。
【請求項5】
前記光反射機能を有する層と前記記録層との間に中間層を更に設けた
ことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の光記録媒体。
【請求項6】
前記中間層は、Ta、Nb、V、W、Mo、Cr、及びTiからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含有する
ことを特徴とする、請求項5に記載の光記録媒体。
【請求項7】
前記光反射機能を有する層の前記記録層側の界面を反射基準面とし、 前記記録ピット部を形成しない案内溝部を記録溝間部とした時、前記反射基準面で規定される前記記録溝部と前記記録溝間部との段差dGLが、30〜70nmである
ことを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の光記録媒体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−87476(P2008−87476A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−230171(P2007−230171)
【出願日】平成19年9月5日(2007.9.5)
【出願人】(501495237)三菱化学メディア株式会社 (105)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月5日(2007.9.5)
【出願人】(501495237)三菱化学メディア株式会社 (105)
【Fターム(参考)】
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