説明

光走査装置、画像形成装置及びレーザ描画装置

【課題】走査光の走査位置に関わりなくノイズ光を抑制することができ、小型で、ゴースト光の発生を安定して抑制することができる光走査装置、画像形成装置及びレーザ描画装置を得る。
【解決手段】直線偏光よりなる光束を出力する光源ユニットと、光源ユニットからの光束を偏向する偏向器14と、偏向器で偏向された光束を走査する毎に、(1)電界ベクトルが偏向面と平行な第一の偏光状態と、(2)電界ベクトルが偏向角に応じて変化する第二の偏光状態と、の間で切り換える液晶素子411,412よりなる偏光切り換え手段、および偏光状態に応じて光束の出射方向を切り換える偏光分離手段161,162を含み、偏向器14で偏向された光束を対応する被走査面上に個別に集光する走査光学系と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光走査装置、画像形成装置及びレーザ描画装置に係り、更に詳しくは、光束により被走査面を走査する光走査装置、及び該光走査装置を備える画像形成装置及びレーザ描画装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式による画像記録では、レーザを用いた画像形成装置が広く用いられている。この場合、画像形成装置は光走査装置を備え、感光性を有するドラム(以下「感光体ドラム」という)の軸方向に光偏向器(例えば、ポリゴンミラー)を用いてレーザ光を走査しつつ、感光体ドラムを回転させ、感光体ドラム表面に潜像を形成する方法が一般的である。
【0003】
近年、画像形成装置において、カラー化、高速化が進み、感光体ドラムを複数(通常は4つ)有するタンデム方式の画像形成装置が普及してきている。上記複数の感光体ドラムは、例えば、それぞれ4色(ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー)に対応していて、各感光体ドラムは、光走査装置によって、それぞれの色に対応する画像信号で変調された光ビームで走査され、静電潜像が形成されるようになっている。これらの静電潜像はそれぞれに対応する色のトナーで現像され、各トナー画像が転写紙に重ねて転写されることにより、フルカラー画像を形成することができるようになっている。上記光走査装置の従来例として以下のようなものがある。
【0004】
例えば、特許文献1には、互いに直角を成す方向に直線偏光され、記録すべき信号によって輝度変調されたレーザ光を放射する2つのレーザ光源と、これらレーザ光源から放射される2つのレーザ光を合成する偏光光合成手段と、この合成されたレーザ光を主走査方向に偏向する偏向手段と、この偏向手段により偏向された合成レーザ光を走査記録面で別々のスポットに分離する偏光光分離手段とを具える記録装置が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、単一のレーザ光源と、この光源からのレーザ光の2つの偏光光にそれぞれ異なる情報を与える情報制御手段と、情報制御手段からの情報に基づいて偏光量を制御する偏光制御手段と、偏光制御された光を所定の照射面に走査照射するための走査手段と、走査された光を偏光状態に応じて2つの光に分光する分離手段と、走査手段からの光を分離手段に入射する入射角に応じてレーザ光を旋光制御する旋光制御手段とを有する光走査装置が開示されている。
【0006】
また、特許文献3には、光源と、複数の偏向反射面を副走査方向に備えた光偏向器と、光源からの光束を複数の偏向反射面のそれぞれに入射する複数の光束に分割する光束分割用回折光学素子と、光偏向器により偏向される光束を被走査面上に集光する走査光学系とを備える光走査装置が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開昭60−32019号公報
【特許文献2】特開平7−144434号公報
【特許文献3】2007−279670号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示されている記録装置では、偏光光分離手段を透過すべきP偏光の電界ベクトルが、偏光分離面の透過軸と平行にならない場合があり、この場合には、入射光の一部が偏光光分離手段で反射されてしまうという不都合があった。
【0009】
特許文献2に開示されている光走査装置では、旋光制御手段として磁気光学素子を用いる場合には、高コスト化を招くという不都合があった。また、旋光制御に伴って消費電力が増加し、発熱を生じるという不都合があった。さらに、旋光角が温度等の環境が変化することで変化しやすく、性能を安定に管理するのが困難であった。
【0010】
また、特許文献3に開示されている光走査装置では、多段の偏向反射面を有しているため、ポリゴンミラーなどの光変更器の薄型化が困難であるという不都合があった。
【0011】
本発明は、かかる事情の下になされたもので、その第1の目的は、走査範囲全域においてP偏光からのノイズを等しく抑制することにより、走査光の走査位置に関わりなくノイズ光を抑制することができ、小型で、ゴースト光の発生を安定して抑制することができる光走査装置を提供することにある。
【0012】
本発明の第2の目的は、本発明にかかる光走査装置を搭載することにより、コストを抑えながら、小型で、高品質の画像を形成することができる画像形成装置を提供することにある。
【0013】
本発明の第3の目的は、本発明にかかる光走査装置を搭載することにより、コストを抑えながら、小型で、高品質の画像を描画することができるレーザ描画装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る光走査装置は、直線偏光よりなる光束を出力する光源ユニットと、
前記光源ユニットからの光束を偏向する偏向器と、
前記偏向器で偏向された光束を走査する毎に、(1)電界ベクトルが偏向面と平行な第一の偏光状態と、(2)電界ベクトルが偏向角に応じて変化する第二の偏光状態と、の間で切り換える液晶素子よりなる偏光切り換え手段、および前記偏光状態に応じて光束の出射方向を切り換える偏光分離手段を含み、前記偏向器で偏向された光束を対応する被走査面上に個別に集光する走査光学系と、を備えていることを特徴としている。
【0015】
本発明に係る画像形成装置は、複数の像担持体と、これら複数の像担持体を画像情報が含まれる光束により走査する少なくとも1つの光走査装置を備え、この光走査装置は本発明に係る光走査装置であることを特徴としている。
【0016】
本発明に係るレーザ描画装置は、レーザ光により対象物を走査する光走査装置と、光走査装置を制御する描画制御装置とを備え、上記対象物に画像を描画するレーザ描画装置であって、上記光走査装置は本発明に係る光走査装置であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る光走査装置によれば、小型であるにもかかわらず、走査光の走査位置に関わりなくノイズ光を抑制することができ、ゴースト光の発生を安定して抑制することができる。
【0018】
本発明に係る画像形成装置によれば、本発明に係る光走査装置を備えているため、小型で低コストであるにも関わらず、結果として、高品質の画像を形成することができる。
【0019】
本発明に係るレーザ描画装置によれば、本発明に係る光走査装置を備えているため、小型で低コストであるにも関わらず、結果として、高品質の画像を描画することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係る光走査装置、画像形成装置及びレーザ描画装置の実施例について、図1〜図25を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0021】
図1には、本発明の実施例に係る画像形成装置として、カラープリンタ2000の概略構成が示されている。このカラープリンタ2000は、4色(ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー)の画像を重ね合わせてフルカラーの画像を形成するタンデム方式の多色カラープリンタであり、平行に配列された4つの感光体ドラム(2030a、2030b、2030c、2030d)を備え、各感光体ドラムの周囲には、クリーニングユニット(2031a、2031b、2031c、2031d)、帯電チャージャ(2032a、2032b、2032c、2032d)、現像ローラ(2033a、2033b、2033c、2033d)、トナーカートリッジ(2034a、2034b、2034c、2034d)など、電子写真プロセスを実行するための各ユニットが配置されている。
【0022】
4つの感光体ドラムの上方には光走査装置2010が配置され、各感光体ドラムをそれぞれの色に対応した画像信号で変調されたレーザ光で走査するようになっている。したがって、各感光体ドラムの表面は、レーザ光による被走査面となっている。光走査装置2010は、電子写真プロセスのうち露光プロセスを実行する装置である。各感光体ドラムの下方には、転写ベルト2040、定着ローラ2050、給紙トレイ2060、給紙コロ2054、レジストローラ対2056が配置されている。光走査装置2010の上方には、排紙ローラ2058、排紙トレイ2070が配置され、また、通信制御装置2080及び上記各部を統括的に制御するプリンタ制御装置2090などを備えている。
【0023】
通信制御装置2080は、ネットワークなどを介した上位装置(例えばパソコン)との双方向の通信を制御する。
【0024】
感光体ドラム2030a、帯電チャージャ2032a、現像ローラ2033a、トナーカートリッジ2034a、及びクリーニングユニット2031aは、一つのユニットになっていて、ブラックの画像を形成する画像形成ステーション(以下では、便宜上「Kステーション」ともいう)を構成する。
【0025】
感光体ドラム2030b、帯電チャージャ2032b、現像ローラ2033b、トナーカートリッジ2034b、及びクリーニングユニット2031bは、別のユニットになっていて、シアンの画像を形成する画像形成ステーション(以下では、便宜上「Cステーション」ともいう)を構成する。
【0026】
感光体ドラム2030c、帯電チャージャ2032c、現像ローラ2033c、トナーカートリッジ2034c、及びクリーニングユニット2031cは、さらに別のユニットになっていて、マゼンタの画像を形成する画像形成ステーション(以下では、便宜上「Mステーション」ともいう)を構成する。
【0027】
感光体ドラム2030d、帯電チャージャ2032d、現像ローラ2033d、トナーカートリッジ2034d、及びクリーニングユニット2031dは、さらに別のユニットになっていて、イエローの画像を形成する画像形成ステーション(以下では、便宜上「Yステーション」ともいう)を構成する。
【0028】
各感光体ドラムはいずれも、その表面に感光層が形成されている。すなわち、各感光体ドラムの表面がそれぞれ被走査面であり、各感光体ドラムは像担持体としても機能する。なお、各感光体ドラムは、不図示の回転機構により、図1において紙面に平行な面内で矢印方向(時計方向)に回転するようになっている。また、本明細書では、XYZ3次元直交座標系において、各感光体ドラムの長手方向に沿った方向をY軸方向、4つの感光体ドラムの配列方向に沿った方向をX軸方向として説明する。
【0029】
各帯電チャージャは、対応する感光体ドラムの表面をそれぞれ均一に帯電させる。光走査装置2010は、上位装置からの多色の画像情報(ブラック画像情報、シアン画像情報、マゼンタ画像情報、イエロー画像情報)に基づいて、色毎に変調された光束を、対応する帯電された感光体ドラムの表面にそれぞれ照射する。これにより、各感光体ドラムの表面では、光が照射された部分だけ電荷が消失し、画像情報に対応した潜像が各感光体ドラムの表面にそれぞれ形成される。ここで形成された潜像は、感光体ドラムの回転に伴って対応する現像ローラの方向に移動する。なお、この光走査装置2010の構成については後述する。
【0030】
トナーカートリッジ2034aにはブラックトナーが格納されており、このトナーは現像ローラ2033aに供給される。トナーカートリッジ2034bにはシアントナーが格納されており、このトナーは現像ローラ2033bに供給される。トナーカートリッジ2034cにはマゼンタトナーが格納されており、このトナーは現像ローラ2033cに供給される。トナーカートリッジ2034dにはイエロートナーが格納されており、このトナーは現像ローラ2033dに供給される。
【0031】
各現像ローラの表面には、各現像ローラの回転に伴って、対応するトナーカートリッジからのトナーが、薄く均一に塗布される。そして、各現像ローラの表面のトナーは、対応する感光体ドラムの表面に接すると、その表面において光が照射された部分にだけ移行し、そこに付着する。すなわち、各現像ローラは、対応する感光体ドラムの表面に形成された潜像にトナーを付着させて顕像化させる。ここでトナーが付着した像(以下、便宜上「トナー画像」という)は、感光体ドラムの回転に伴って転写ベルト2040の方向に移動する。
【0032】
イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの各トナー画像は、所定のタイミングで転写ベルト2040上に順次転写され、重ね合わされてカラー画像が形成される。
【0033】
給紙トレイ2060には記録紙が格納されている。この給紙トレイ2060の近傍には給紙コロ2054が配置されており、この給紙コロ2054は、記録紙を給紙トレイ2060から1枚ずつ取り出し、レジストローラ対2056に搬送する。レジストローラ対2056は、所定のタイミングで記録紙を転写ベルト2040に向けて送り出す。これにより、転写ベルト2040上のカラー画像が記録紙に転写される。画像が転写された記録紙は、定着ローラ2050に送られ、定着ローラ2050では、熱と圧力とが記録紙に加えられ、これによってトナーが記録紙上に定着される。トナー画像が定着された記録紙は、排紙ローラ2058を介して排紙トレイ2070に送られ、排紙トレイ2070上に順次スタックされる。
【0034】
各クリーニングユニットは、対応する感光体ドラムの表面に残ったトナー(残留トナー)を除去する。残留トナーが除去された感光体ドラムの表面は、再度対応する帯電チャージャに対向する位置に戻る。
【0035】
次に、前記光走査装置2010の構成について説明する。
この光走査装置2010は、一例として図2及び図3に示されるように、2つの光源ユニット(LU1、LU2)、2つのシリンドリカルレンズ(121、122)、ポリゴンミラー14、2つのfθレンズ(151、152)、2つの液晶素子(411、412)、2つの偏光ビームスプリッタ(161、162)、2つの反射ミラー(171、172)、複数の折り返しミラー(18a、18b1、18b2、18c1、18c2、18d)、4つのアナモフィックレンズ(19a、19b、19c、19d)及び不図示の走査制御装置を有している。なお、以下では、便宜上、主走査方向に対応する方向を「主走査対応方向」と略述し、副走査方向に対応する方向を「副走査対応方向」と略述する。
【0036】
光源ユニットLU1は、一例として図4に示されるように、レーザ光源101、コリメートレンズ111を有している。光源101からは、光偏向器としてのポリゴンミラー14の偏向反射面で反射された後の電界ベクトルが偏向面と平行となる偏光(S偏光)が出力されるものとする。コリメートレンズ111は、光源101からの光束(LB1)の光路上に配置され、光源101からの光束を略平行光とする。
【0037】
光源ユニットLU2は、一例として図5に示されるように、レーザ光源102、コリメートレンズ112を有している。光源102からは光源101と同様にS偏光が出力されるものとする。コリメートレンズ112は、光源10bからの光束(LB2)の光路上に配置され、光源102からの光束を略平行光とする。
【0038】
図2に戻り、シリンドリカルレンズ121は、光源ユニットLU1からの光束を、Z軸方向に収束させ、ポリゴンミラー14の偏向反射面近傍に主走査方向に長い線像を結像する。シリンドリカルレンズ122は、光源ユニットLU2からの光束を、Z軸方向に収束させ、ポリゴンミラー14の偏向反射面近傍に主走査方向に長い線像を結像する。
【0039】
ポリゴンミラー14は、この実施例では側面の4面に鏡を有し、各鏡面がそれぞれ偏向反射面となっている。このポリゴンミラー14は、Z軸方向に平行な軸の周りに等速回転し、各シリンドリカルレンズからの光束をX軸とY軸を含む平面に平行な面内で等角速度的に偏向する。図2に示す配置例では、シリンドリカルレンズ121からの光束はポリゴンミラー14の−X側に偏向され、シリンドリカルレンズ122からの光束はポリゴンミラー14の+X側に偏向される。なお、ポリゴンミラー14の偏向反射面で偏向された光束が経時的に形成する光線束面は、「偏向面」と呼ばれている(特開平11−202252参照)。
【0040】
fθレンズ151は、ポリゴンミラー14の−X側にあって、ポリゴンミラー14で偏向されたシリンドリカルレンズ121からの光束の光路上に配置されている。
【0041】
図3において、fθレンズ151の−X側には液晶素子411が配置されている。液晶素子411は、fθレンズ151を介した光束(ここでは、光束LB1)の光路上に配置され、液晶素子411には、図6に示すように光束LB1のS偏光が入射するようになっている。液晶素子411は、時間軸において、電界ベクトルが偏向面と平行な第一の偏光状態(LBb:S偏光)と、電界ベクトルが偏向角に応じて変化する第二の偏光状態(LBa:P偏光)との間で電界ベクトルの方向を切り換えるように構成されている。ここで述べる第一の偏光状態は、入射するS偏光をそのままの状態で出射するため、液晶素子411は積極的に偏光状態を制御することはない。第二の偏光状態におけるP偏光は、電界ベクトルが、偏光ビームスプリッタ161の偏光分離面の法線と入射光のつくる平面と平行な方向の直線偏光を指す。偏光ビームスプリッタ161への入射角に応じて、電界ベクトル面がX軸とZ軸を含む面内から傾斜することに注意を要する。
【0042】
図3において、液晶素子411の−X側には偏光ビームスプリッタ161が、液晶素子411を介した光束の光路上に配置されている。この偏光ビームスプリッタ161は、前述のP偏光を透過させ、S偏光を−Z方向に反射する偏光分離面を有している。この実施例では、図6に示されているように、液晶素子411を介してP偏光として出射される光束LBaは偏光ビームスプリッタ161を透過し、S偏光として出射される光束LBbは偏光ビームスプリッタ161で−Z方向に反射される。
【0043】
図3において、偏光ビームスプリッタ161を透過した光束(ここでは、光束LBa)は、折り返しミラー18aとアナモフィックレンズ19aを介して感光体ドラム2030aの表面に照射され、光スポットが形成される。この光スポットは、ポリゴンミラー14の回転に伴って感光体ドラム2030aの長手方向に移動する。すなわち、感光体ドラム2030a上を走査する。このときの光スポットの移動方向が、感光体ドラム2030aでの「主走査方向」であり、感光体ドラム2030aの回転方向が、感光体ドラム2030aでの「副走査方向」である。
【0044】
このように、fθレンズ151と液晶素子411と偏光ビームスプリッタ161と折り返しミラー18aとアナモフィックレンズ19aは、「Kステーション」すなわちブラックの画像を形成するためのステーションに対応する走査光学系である。
【0045】
一方、偏光ビームスプリッタ161で−Z方向に反射された光束(ここでは、光束LBb)は、反射ミラー171で−X方向に反射された後、折り返しミラー18b1と折り返しミラー18b2とアナモフィックレンズ19bを介して感光体ドラム2030bの表面に照射され、光スポットが形成される。この光スポットは、ポリゴンミラー14の回転に伴って感光体ドラム2030bの長手方向に移動する。すなわち、感光体ドラム2030b上を走査する。このときの光スポットの移動方向が、感光体ドラム2030bでの「主走査方向」であり、感光体ドラム2030bの回転方向が、感光体ドラム2030bでの「副走査方向」である。
【0046】
fθレンズ151と液晶素子411と偏光ビームスプリッタ161と反射ミラー171と折り返しミラー18b1と折り返しミラー18b2とアナモフィックレンズ19bは、「Cステーション」すなわちシアンの画像を形成するためのステーションに対応する走査光学系である。
このように、fθレンズ151と液晶素子411と偏光ビームスプリッタ161は、2つの画像形成ステーションで共有されている。
【0047】
図2に戻り、fθレンズ152は、ポリゴンミラー14の+X側において、ポリゴンミラー14で偏向されたシリンドリカルレンズ122からの光束の光路上に配置されている。fθレンズ152のX側には液晶素子412が、fθレンズ152を介した光束(ここでは、光束LB2)の光路上に配置されている。液晶素子412には、図7に示されるとおり光束LB2のS偏光が入射する。液晶素子412は、時間軸において、電界ベクトルが偏向面と平行な第一の偏光状態(LBd:S偏光)と、電界ベクトルが偏向角に応じて変化する第二の偏光状態(LBc:P偏光)との間で電界ベクトルの方向を切り換えるように構成されている。ここでLBcのP偏光は、LBaの場合と同様に偏光ビームスプリッタ162への入射角に応じて電界ベクトル面がX軸とZ軸を含む面内から傾斜することに注意を要する。
【0048】
液晶素子412のX側には、液晶素子412を介した光束の光路上に偏光ビームスプリッタ162が配置されている。この偏光ビームスプリッタ162は、P偏光を透過させ、S偏光を−Z方向に反射する偏光分離面を有している。ここでは、図7に示されるように、液晶素子412を介してP偏光として出射される光束LBcが偏光ビームスプリッタ162を透過し、S偏光として出射される光束LBdは偏光ビームスプリッタ162で−Z方向に反射される。
【0049】
図3に戻り、偏光ビームスプリッタ162で−Z方向に反射された光束(ここでは、光束LBc)は、反射ミラー172で+X方向に反射された後、折り返しミラー18c1と折り返しミラー18c2とアナモフィックレンズ19cを介して感光体ドラム2030cの表面に照射され、光スポットが形成される。この光スポットは、ポリゴンミラー14の回転に伴って感光体ドラム2030cの長手方向に移動する。すなわち、感光体ドラム2030c上を走査する。このときの光スポットの移動方向が、感光体ドラム2030cでの「主走査方向」であり、感光体ドラム2030cの回転方向が、感光体ドラム2030cでの「副走査方向」である。
【0050】
このように、fθレンズ152と液晶素子412と偏光ビームスプリッタ162と反射ミラー172と折り返しミラー18c1と折り返しミラー18c2とアナモフィックレンズ19cは、「Mステーション」すなわちマゼンタの画像を形成するためのステーションに対応する走査光学系の走査光学系である。
【0051】
一方、偏光ビームスプリッタ162を透過した光束(ここでは、光束LBd)は、折り返しミラー18dとアナモフィックレンズ19dを介して感光体ドラム2030dの表面に照射され、光スポットが形成される。この光スポットは、ポリゴンミラー14の回転に伴って感光体ドラム2030dの長手方向に移動する。すなわち、感光体ドラム2030d上を走査する。このときの光スポットの移動方向が、感光体ドラム2030dでの「主走査方向」であり、感光体ドラム2030dの回転方向が、感光体ドラム2030dでの「副走査方向」である。
【0052】
fθレンズ152と液晶素子412と偏光ビームスプリッタ162と折り返しミラー18dとアナモフィックレンズ19dは、「Yステーション」すなわちイエローの画像を形成するためのステーションに対応する走査光学系の走査光学系である。
このように、fθレンズ152と液晶素子412と偏光ビームスプリッタ162は、2つの画像形成ステーションで共有されている。また、各折り返しミラーは、各画像形成ステーションでの光路長が互いに等しくなるように設けられている。
【0053】
本実施例では、fθレンズ151,152が、ポリゴンミラー14と液晶素子の間に設けられている。そして、P偏光の光路とS偏光の光路は、Z軸方向に関してほぼ重なっているため、上記fθレンズを薄くすることができる。
ところで、図8には、偏光ビームスプリッタ及びこの偏光ビームスプリッタに入射する光束が示されている。光束LB(L)及び光束LB(R)は、感光体ドラムにおける有効走査領域の端部に向かう光束であり、光束LB(C)は、感光体ドラムにおける有効走査領域の中央部に向かう光束である。
【0054】
表1には、市販の偏光ビームスプリッタ(メレスグリオ社製、広帯域偏光キューブビームスプリッタ)に対して、P偏光とS偏光を、それぞれ偏向角を変えて入射させたときのノイズ光を測定した結果を示す。ノイズ光の定義は、P偏光の入射については、偏光ビームスプリッタからの反射光の入射光に対する強度比、S偏光入射については、偏光ビームスプリッタからの透過光の入射光に対する強度比としている。ノイズ光強度は、偏光ビームスプリッタの偏光分離面の膜設計により異なるが、一般的には表1の通り、s偏光入射時に比較してp偏光入射時に、特に高偏向角側で顕著である。

【0055】
図9には、偏光分離面が偏向面に対して45°傾斜している偏光ビームスプリッタにおいて(図8参照)、偏向角に対して入射面(偏光分離面と入射光線の形成する面)とP偏光の電界ベクトルのなす角(偏光回転角)の関係がグラフで示されている。偏向角0°においては、電界ベクトルは入射面内にあるため偏光回転角は0°であり、偏向角35°では偏光回転角20.7°である。すなわち、偏向角が0°の光束(図8の光束LB(C)に相当)では偏光分離による反射成分は発生しないが、図8における光束LB(L)やLB(R)のように像高の高い位置に入射する光束では、偏光回転により、一部が反射される。これがノイズ光の一因である。これを回避するためには、偏光ビームスプリッタに入射する偏光をあらかじめ逆側に回転させておけばよい。この偏光回転量は、例えば偏向角35°の場合は上述の20.7°となることが容易に予測される。
【0056】
図10はこれを検証した結果を示すグラフである。偏向角35°時に偏光方向を回転させた場合、20.7°で最も反射率が低下するのが、計算上も、実測した結果からも確認された。そこで、S偏光をそのまま透過させ、P偏光に対しては上記偏光回転角を補償して、偏光を逆方向に回転させる偏光切り換え手段を用意すればよい。
【0057】
図13には、本実施形態に用いられる偏光切り換え手段としての液晶素子41(液晶素子411および412共通)の構成と入射する光束が示されている。液晶素子41は、一対の透明基板4101a、4101bと、各透明基板上に形成された透明電極4102a、4102bと、基板間に挟持されたネマティック液晶層4104と、液晶層の両側界面に設けられた配向膜4103a、4103bと、から構成されている。
上記液晶素子は、入射光束を、ポリゴンミラー14の回転に伴う各回の走査毎に、(1)電界ベクトルが偏向面と平行な第一の偏光状態と、(2)電界ベクトルが偏向角に応じて変化する第二の偏光状態と、の間で切り換える。この切り換えは、ポリゴンミラー14の回転に同期して、ドライバ4105により駆動電圧を制御制御することによって行われる。
【0058】
図14は、配向膜に施される配向処理(ラビング)の方向を示す。光束入射側の配向膜4103aの配向処理は、図中Y方向すなわち偏向面と平行に設定されている。光束出射側の配向膜4103bは、光束が配向膜面の法線方向と平行な位置付近(図中Cと記載)では、Z方向すなわち偏向面と垂直方向にラビング処理がなされる。この位置から+Y側(図中Rと記載)に位置が離れるにつれ、+Z方向から時計方向にラビング方向が回転し、−Y側(図中Lと記載)に位置が離れるにつれ、+Z方向から反時計方向にラビング方向が回転する。この回転方向は、配向膜の当該位置を出射し偏光ビームスプリッタ162に入射する光束が、偏光ビームスプリッタ162内で、偏光分離面法線との間で形成する入射面に平行な方向である。
【0059】
図15は、配向膜4103aおよび4103bに挟まれる液晶分子4104の分子方向を模式的に表した図であり、電圧を印加していない状態を示している。図15の(L)、(C)、(R)は、配向膜の構成を概略的に示す上記図15中のL、C、Rに相当する位置を示している。横方向の点線は液晶層の厚さ方向(X方向)の目安位置を示す線である。液晶分子4104は、配向膜4103a、4103bの間でツイストしているが、そのツイスト角は(L)、(C)、(R)の各場所により異なっている。ツイスト角は、図14に示すラビング方向の変化により、場所によって連続的に変化させることができる。
【0060】
この液晶分子のツイスト構造により、液晶に電圧を印加しない状態では入射光束は所定の旋光をうけ出射する。これが前記(2)「電界ベクトルが偏向角に応じて変化する第二の偏光状態」である。図17は、偏向角に対して設定すべき電界ベクトル方向を計算した例を示すグラフである。電界ベクトル方向はZ軸方向からの回転角で示している。なおここで示す液晶分子は配向膜面に平行な状態であるが、若干のプレチルトを設けることは光学機能上問題なく、電界印加時の動作性により適宜設定すべきである。
【0061】
図16は、液晶に電圧を印加した状態の液晶分子方向を模式的に示した図である。すべての場所で、液晶分子は分子長軸方向を電界方向に向ける。この状態においては、入射光束は旋光を受けることなく透過する。これが、前記(1)「電界ベクトルが偏向面と平行な第一の偏光状態」である。
【0062】
このように、液晶素子に印加する電圧を制御することで、図15に示す状態と図16に示す状態との間で液晶分子方向を切り換えることができ、偏光方向も、(1)電界ベクトルが偏向面と平行な第一の偏光状態と、(2)電界ベクトルが偏向角に応じて変化する第二の偏光状態と、の間で切り換えることができる。
【0063】
図18は液晶素子の透明電極構造を示し、図19はこれら電極のオン、オフ動作のタイミングを示す。図18に示す透明電極4102aは常時接地されており、透明電極4102bが走査に同期して電圧制御される。
【0064】
偏向分離手段としての前記偏光ビームスプリッタは、例えば、誘電体多層膜やワイヤグリッド等で構成することができるが、作製工程が大面積化に有利なことから誘電体多層膜で構成することがより好ましい。
偏光ビームスプリッタを上記のような構成にすることによって、従来、誘電体多層膜による光走査装置で課題となっていたノイズ光を効率的に除去することができる。
偏光分離面を支持する基体はガラス又は透明樹脂で構成することができる。なお、偏光分離面を両側から基体で挟む構造にすることにより、偏光分離面を汚れや傷から保護することができる。
【0065】
前記走査制御装置は、各光源に対応した光源制御回路を有している。そして、図4に示す光源101に対応した光源制御回路は、光源ユニットLU1の回路基板上に実装されている。また、図5に示す光源102に対応した光源制御回路は、光源ユニットLU2の回路基板上に実装されている。
【0066】
以上の説明から明らかなように、本実施例に係る光走査装置2010では、偏光ビームスプリッタによって偏光分離素子が構成されている。また、fθレンズ(151、152)と液晶素子(411、412)と偏光ビームスプリッタ(161、162)と反射ミラー(171、172)と折り返しミラー(18a、18b1、18b2、18c1、18c2、18d)とアナモフィックレンズ(19a、19b、19c、19d)とによって走査光学系が構成されている。
【0067】
以上説明したように、本実施形態に係る光走査装置2010は、S偏光の光束を出力する光源ユニットと、光源ユニットからの各光束を偏向面内で等角速度的に偏向するポリゴンミラー14と、ポリゴンミラー14で偏向された光束を、各回の走査毎に、(1)電界ベクトルが偏向面と平行な第一の偏光状態と、(2)電界ベクトルが偏向角に応じて変化する第二の偏光状態と、の間で切り換える液晶素子と、偏光ビームスプリッタを含み、ポリゴンミラー14で偏向された各光束を対応する感光体ドラムの表面に個別に集光する走査光学系とを備えている。このように構成された本実施例によれば、高コストになることを回避しながら、ゴースト光の発生を安定的に抑制することが可能な光走査装置を得ることができる。
【0068】
また、fθレンズと偏光ビームスプリッタは、2つの画像形成ステーションで共有されているため、タンデム方式の画像形成装置に対応した光走査装置として小型化を図ることができる。
【0069】
本実施例に係る画像形成装置としてのカラープリンタ2000によると、光走査装置として、高コストになることを回避しながら、ゴースト光の発生を安定的に抑制することが可能な上記実施例にかかる光走査装置2010を備えているため、高コストになることを回避しながら、小型で、高品質の画像を形成することが可能な画像形成装置を得ることができる。
【0070】
なお、上記実施形態において、偏光切り換え手段としての液晶素子の一例として、前記配向膜の配向処理方向が、無電界下で液晶分子がベンド配向をなし、かつ、少なくとも片側の配向膜において、配向膜の位置を出射し偏光分離手段に入射する光束が、偏光分離手段内で、偏光分離面の法線との間で形成する入射面に平行な方向である液晶素子を用いることができる。この液晶素子の全体構成は図13の構成と等価であるためここでは省略する。
【0071】
図23は、配向膜に施される配向処理(ラビング)を説明する図である。図23において、光束入射側の配向膜4103a’、光束出射側の配向膜4103b’ともに、図14に示す配向膜4103bと同様に、光束が配向膜面の法線方向と平行な位置付近(図中Cと記載)では、Z方向すなわち偏向面と垂直方向にラビング処理がなされ、この位置から+Y側(図中Rと記載)に位置が離れるにつれ、+Z方向から時計方向にラビング方向が回転し、−Y側(図中Lと記載)に位置が離れるにつれ、+Z方向から反時計方向にラビング方向が回転する。この回転方向は、それぞれの配向膜の位置を出射し偏光ビームスプリッタ162に入射する光束が、偏光ビームスプリッタ162内で、偏光分離面法線との間で形成する入射面に平行な方向である。
【0072】
図24は、配向膜4103a’および4103b’に挟まれる液晶分子4104の分子方向を模式的に表した図であり、電圧を印加していない状態を示している。図24において、(L)、(C)、(R)は、ほぼ図23内に示すL、C、Rに相当する位置を示している。横方向の点線は、液晶層の厚さ方向(X方向)の目安位置を示す線である。液晶分子4104は配向膜4103a’、4103b’の間でベンド配向しているが、その平均的方向がその位置における液晶の光軸方向である。この光軸方向は(L)、(C)、(R)の各場所により異なっており、図23に示すラビング方向の変化によって、連続的に変化させている。
【0073】
ベンド配向により、液晶に電圧を印加しない状態では、入射光束はλ/2の位相変調を受け電界ベクトル方向が回転した状態で出射する。λ/2の位相は液晶層厚、液晶材料の常光屈折率および異常光屈折率、入射角度に応じて設計することができる。電界ベクトル方向の回転角は、入射する電気ベクトル方向に対する前記光軸方向を、前記ラビング方向によって決定すればよい。これが(2)「電界ベクトルが偏向角に応じて変化する第二の偏光状態」である。偏向角に対して設定すべき電界ベクトル方向は図17に示す計算結果と同じである。
【0074】
図25は、液晶素子に電圧を印加した状態の液晶分子方向を模式的に示した図である。この場合の液晶分子の方向は図16の場合と同様であり、機能も同じであるため説明を省略する。
【0075】
片側の配向膜を垂直配向膜で構成し、逆側の配向膜を面内の一定方向に配向処理した液晶素子の配向状態はいわゆるOCBモードとして知られている(例えば特開平08−328045号公報参照)。OCBモードは、液晶分子が弓なり状態に配向(ベンド配向)する点が一つの特徴である。OCBモードでは、通常のツイストネマティックモードと比較し高速動作が可能である。本発明の液晶素子はOCBモードと異なり、面内の配向処理方向を場所によって変化させた構造をとっているが、OCBモードと同様、高速動作が可能である。
【0076】
なお、上記実施例において、一例として、電圧印加タイミングが、走査位置により異なるように設定してもよい。図20は、かかる設定で駆動するための透明電極構造を示している。図20において、入射光側の透明電極は走査方向に5分割されている。符号4102b1〜4102b5は、分割された5つの透明電極を示している。図21は、これら電極のオン、オフ動作のタイミングを示す。少なくとも光束が通過するタイミング、例えば、図21中に丸で示す時点において、液晶分子は、所定の配向状態をとっている必要があるが、それ以外の期間はその必要がない。従って、光束が通過する時点以外の時間を使って液晶の配向状態を切り換えればよい。かかる構成にすることにより、液晶材料として例えば強誘電性液晶のような高速応答性を有する液晶を用いることなく、安価なネマティック液晶を用いることが可能となる。なお、上記分割電極に対向する電極4102aは、常時共通電極として接地状態に保持されている。
【0077】
また、上記実施例において、一例として、偏光ビームスプリッタと液晶素子を一体化してもよい。図22にその構成例を示す。図22における透明基板41が、偏光ビームスプリッタ16によって代用されている。これにより、光走査装置内への組み付け工程及び調整工程を簡略化することが可能となる。
【0078】
上記実施例によって得ることができる効果を以下に列挙する。
偏向器から反射された直線偏光を各回の走査毎に偏光分離手段で分離することで、1つの回転多面鏡式光偏向器で異なる位置に2つ以上の光走査を行うことができ、小型化および低コスト化に有用である。
従来の偏光分離手段は、偏向角が大きい状態で光束が入射する位置ではP偏光の電界ベクトルが偏光分離面の透過軸と平行でなくなり、完全に透過することなく一部が反射されノイズ光となってしまう不具合があったが、本発明の上記実施例によれば、液晶素子よりなる偏光切り換え手段で補正することでノイズ光を低減できる。
1つの光源で2つの感光体に潜像を形成することができるため、光源を減らすことができる。
【0079】
走査光全体にわたり偏光分離性能を改善することができる。
光束入射側での液晶配向方向を偏向面と垂直もしくは平行に設定することで、楕円偏光化することを防ぎながら効果的に旋光させることができる。
光束入射側での液晶配向方向を偏向面と垂直もしくは平行に設定することで、楕円偏光化することを防ぎながら効果的にλ/2の位相を形成し、電界ベクトル方向を所定方向に回転させることができる。
液晶応答時間を低く設定できるため、印加電圧を低減でき材料寿命を高めることができる。
【0080】
偏光切り換え手段を設けない従来の光走査装置にあっては、ノイズ光が少ないことから誘電体多層膜偏向ビームスプリッタよりも、例えばワイヤグリッド偏向ビームスプリッタが好ましかった。しかし、ワイヤグリッド偏向ビームスプリッタは反射波面収差が大きく、被走査面上で結像性能を確保することは困難であった。本発明の実施例におけるような偏光切り換え手段を設けることで、誘電体多層膜偏向ビームスプリッタを用いても十分なノイズ抑制が可能となり、波面収差の改善を図ることができる。
【0081】
複数の走査光の光路長を等しくすることで、同一の光走査レンズを用いることができ、光学系レイアウト設計が容易になり、部品コストを低減することもできる。また光走査装置から感光体までの距離を短縮できるため、光走査装置の小型化を図ることができる。
1つの光源および1つの偏向器を用いて複数の感光体に画像を書き込むことができ、光走査装置、画像形成装置などの小型化、低コスト化を図ることができる。
【0082】
液晶素子と偏光ビームスプリッタを一体化構造にしたものによれば、界面数を減らすことができるため、波面収差を低減できる。部品共用化でコストダウンを図ることができる。光走査装置に組み込むときの位置合せが容易になる。
【実施例2】
【0083】
図11は、本発明に係る光走査装置の第2の実施例を示す。図11において、fθレンズはポリゴンミラー14を挟んで両側にそれぞれ2つずつ重ねて配置されている。ポリゴンミラー14と片側のfθレンズ15a,15bとの間およびポリゴンミラー14と反対側のfθレンズ15c,15dとの間に、液晶素子411,412および偏光ビームスプリッタ171,172が配置されている。したがって、この実施例では、光束LBa用のfθレンズ15aと、光束LBb用のfθレンズ15bと、光束LBc用のfθレンズ15cと、光束LBd用のfθレンズ15dが必要となる。この実施例によれば、各fθレンズの形状を、光束の偏光状態、光路長、結像位置、走査長に適したレンズ形状とすることができる。
【0084】
ここまで説明してきた画像形成装置の実施例は、4つの感光体ドラムを有するカラープリンタ2000となっていたが、これに限定されるものではない。例えば、2つの感光体ドラムを有するプリンタであってもよい。この場合には、1つの光源ユニットが用いられることとなる。
【実施例3】
【0085】
図12には、実施例3に係るレーザ描画装置3000の概略構成が示されている。このレーザ描画装置3000は、上記光走査装置2010、描画対象物3100が載置されるテーブルを有し、このテーブルをXY平面内で移動させることができるテーブル装置3010、上位装置(例えば、パソコン)からの画像情報に基づいて、光走査装置2010及びテーブル装置3010を制御する描画制御装置3020などを備えている。光走査装置2010は、画像信号で変調されたレーザ光束を描画対象物3100の面上で走査する。この走査を行いながらテーブル装置3010で描画対象物3100をXY平面内で移動させることにより、描画対象物3100の面に画像を書き込むことができる。書き込まれた画像を顕像化するか否かは任意であり、顕像化する場合、その手段は任意である。
【0086】
このように、上記実施例に係るレーザ描画装置は、本発明にかかる光走査装置を備えていて、その光走査によって描画するため、結果として、本発明にかかる光走査装置によって得られる効果を得ることができる。すなわち、高コストになることを回避しながら、小型で、高品質の画像を描画することが可能なレーザ描画装置を得ることができる。
【0087】
また、本発明にかかる光走査装置は複数の光束で同時に走査することができるため、複数の光束を用いて、高速度で描画することができる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
以上説明したように、本発明の光走査装置によれば、高コストになることを回避しながら、小型で、ゴースト光の発生を安定して抑制することにより、高精度の光走査を行うことができる。
また、本発明の画像形成装置によれば、本発明にかかる光走査装置を備えていて、その光走査によって画像を形成するため、高コストになることを回避しながら、小型で、高品質の画像を形成することができる。
本発明のレーザ描画装置によれば、本発明にかかる光走査装置を備えていて、その光走査によって描画するため、高コストになることを回避しながら、小型で、高品質の画像を描画することができる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明に係る画像形成装置の例であるカラープリンタの概略構成を示す正面図である。
【図2】本発明に係る光走査装置の実施例を示す平面図である。
【図3】上記光走査装置の正面図である。
【図4】上記光走査装置中の一つの光源ユニットを示す平面図である。
【図5】上記光走査装置中の別の光源ユニットを示す平面図である。
【図6】上記光走査装置に用いられている液晶素子、偏光ビームスプリッタ及び反射ミラーを示す正面図である。
【図7】上記光走査装置に用いられている別の液晶素子、偏光ビームスプリッタ及び反射ミラーを示す正面図である。
【図8】上記光走査装置に用いられている偏光ビームスプリッタとこの偏光ビームスプリッタへの光束入射を示す斜視図である。
【図9】偏向面に垂直な電界ベクトルを有する偏光を偏光ビームスプリッタに入射させた場合の偏向角と変更回転角との関係を示すグラフである。
【図10】上記偏光を偏光ビームスプリッタに入射させた場合の偏向角と反射光の光強度との関係を示すグラフである。
【図11】本発明に係る光走査装置の別の実施例を示す平面図である。
【図12】本発明に係るレーザ描画装置の実施例を概略的に示す正面図である。
【図13】本発明に適用可能な液晶素子の例を示す模式図である。
【図14】本発明に用いられる液晶素子の配向膜のラビング方向の例を示す模式図である。
【図15】本発明に用いられる液晶素子の一例における液晶分子状態の一例を示す模式図である。
【図16】上記液晶素子の一例における液晶分子状態の別の例を示す模式図である。
【図17】液晶素子の偏向角に対して設定すべき電界ベクトル方向を計算した例を示すグラフである。
【図18】本発明適用可能な液晶素子の透明電極の概略構成と液晶駆動用ドライバの例を示す模式図である。
【図19】上記液晶素子の透明電極のオン、オフ動作の時間変化を示すタイミングチャートである。
【図20】本発明適用可能な液晶素子の透明電極の概略構成と液晶駆動用ドライバの別の例を示す模式図である。
【図21】上記液晶素子の透明電極のオン、オフ動作の時間変化を示すタイミングチャートである。
【図22】本発明に適用することができる液晶素子と偏光ビームスプリッタの一体化構造の例を示す摸式図である。
【図23】本発明に用いられる液晶素子の配向膜のラビング方向の別の例を示す模式図である。
【図24】本発明に用いられる液晶素子の別の例における液晶分子状態の一例を示す模式図である。
【図25】上記液晶素子の別の例における液晶分子状態の別の例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0090】
10a〜10d 光源
14 ポリゴンミラー(光偏向器)
151,152 fθレンズ(走査光学系の一部)
161,162 偏光ビームスプリッタ(偏光分離素子)
171,172 反射ミラー
19a〜19d アナモフィックレンズ(走査光学系の一部)
2000 カラープリンタ(画像形成装置)
2030a〜2030d 感光体ドラム
2010 光走査装置
3000 レーザ描画装置
3010 テーブル装置
3020 描画制御装置
LU1 光源ユニット
LU2 光源ユニット
41 液晶素子
4101a,4101b 透明基板
4102a,4102b 透明電極
4103a,4103b 配向膜
4104 液晶分子
4105 液晶素子駆動用ドライバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光束により複数の被走査面を走査する光走査装置であって、
直線偏光よりなる光束を出力する光源ユニットと、
前記光源ユニットからの光束を偏向する偏向器と、
前記偏向器で偏向された光束を走査する毎に、(1)電界ベクトルが偏向面と平行な第一の偏光状態と、(2)電界ベクトルが偏向角に応じて変化する第二の偏光状態と、の間で切り換える液晶素子よりなる偏光切り換え手段、および前記偏光状態に応じて光束の出射方向を切り換える偏光分離手段を含み、前記偏向器で偏向された光束を対応する被走査面上に個別に集光する走査光学系と、を備えている光走査装置。
【請求項2】
前記液晶素子は、一対の透明基板と、各透明基板上に形成された透明電極と、これらの基板間に挟持されたネマティック液晶層と、液晶層の両側界面に設けられた配向膜と、を有し、
前記配向膜は、光束の偏向角に対応し、光束入射位置毎に異なる方向の配向処理がなされ、第一の偏光状態設定時には液晶飽和電圧以上の電圧を印加し、第二の偏光状態設定時には電圧を印加せずもしくは配向膜の配向方向に液晶が揃う範囲内の電圧を印加することを特徴とする請求項1記載の光走査装置。
【請求項3】
前記配向膜の配向処理方向は、無電界下で液晶分子が略配向膜面と平行となる方向であり、かつ、光束入射側の液晶層界面に設けられた配向膜は、偏向面と平行もしくは垂直な方向であり、光束出射側の液晶層界面に設けられた配向膜は、この配向膜の位置を出射し偏光分離手段に入射する光束が、偏光分離手段内で、偏光分離面法線との間で形成する入射面に平行な方向であることを特徴とする請求項2記載の光走査装置。
【請求項4】
前記配向膜の配向処理方向が、無電界下で液晶分子がベンド配向をなし、かつ、少なくとも片側の配向膜において、その配向膜の位置を出射し偏光分離手段に入射する光束が、偏光分離手段内で、偏光分離面法線との間で形成する入射面に平行な方向であることを特徴とする請求項2記載の光走査装置。
【請求項5】
配向膜への電圧印加タイミングが、走査位置により異なるように設定されていることを特徴とする請求項2記載の光走査装置。
【請求項6】
偏光分離手段が、誘電体多層膜偏向ビームスプリッタである請求項1乃至5のいずれかに記載の光走査装置。
【請求項7】
走査光学系は、偏向器から複数の被走査面までの各光路長を互いに等しくする少なくとも1つの折り返しミラーを含むことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の光走査装置。
【請求項8】
液晶素子の片側基板が偏光分離手段によって構成されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の光走査装置。
【請求項9】
像担持体を有し、この像担持体に対し電子写真プロセスを実行することによって画像を形成する画像形成装置において、上記電子写真プロセスのうち露光プロセスを実行する装置として請求項1乃至8のいずれかに記載の光走査装置を備えていることを特徴とする画像形成装置。
【請求項10】
複数の像担持体を有し、光走査装置は上記複数の像担持体を画像情報が含まれる複数の光束により走査することができ、各像担持体に形成される画像を重ねることによってカラー画像を形成することができる請求項9記載の画像形成装置。
【請求項11】
レーザ光により対象物を走査する光走査装置と、光走査装置を制御する描画制御装置とを備え、上記対象物に画像を描画するレーザ描画装置において、上記レーザ光束で走査する装置として請求項1乃至8のいずれかに記載の光走査装置を備えていることを特徴とする描画装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2010−134358(P2010−134358A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−312287(P2008−312287)
【出願日】平成20年12月8日(2008.12.8)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】