説明

光通信のための方法及び光受信機

本発明によると、光ファイバ伝送路により伝送された信号光を受信する光受信機が提供される。この光受信機は、実質的にそれよりも大きなパワーの光が入力したときにブリユアン散乱を生じさせる閾値を有し、信号光が入力されるリミッタファイバと、リミッタファイバから出力された信号光を電気信号に変換する光/電気変換器とを備えている。この構成によると、大きなパワーの光入力があったときに、リミッタファイバ内でブリユアン散乱が生じて、リミッタファイバを通過する光のパワーが減少するので、光/電気変換器等の部品が破壊されることが防止される。リミッタファイバとしては、光ファイバ伝送路の実効コア面積よりも小さな実効コア面積を有している光ファイバや、ファイバ伝送路の損失よりも小さな損失を有している光ファイバを用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、一般的に光通信のための方法及び光受信機に関し、更に詳しくは高いパワーの信号光に適用可能な光通信のための方法及びその方法の実施に使用する光受信機に関する。
【背景技術】
近年、低損失(例えば0.2dB/km)な石英系の光ファイバの製造技術及び使用技術が確立され、光ファイバを伝送路とする光通信システムが実用化されている。また、光ファイバにおける損失を補償して長距離の伝送を可能にするために、光信号又は信号光を増幅するための光増幅器が実用に供されている。
従来知られているのは、増幅されるべき信号光が供給される光増幅媒体と、光増幅媒体が信号光の波長を含む利得帯域を提供するように光増幅媒体をポンピング(励起)するポンピングユニットとから構成される光増幅器である。
例えば、石英系ファイバで損失が小さい波長1.55μm帯の信号光を増幅するために、エルビウムドープファイバ増幅器(EDFA)が開発されている。EDFAは、光増幅媒体としてエルビウムドープファイバ(EDF)と、予め定められた波長を有するポンプ光をEDFに供給するためのポンプ光源とを備えている。0.98μm帯あるいは1.48μm帯の波長を有するポンプ光を用いることによって、波長1.55μmを含む利得帯域が得られる。
光ファイバによる伝送容量を増大させるための技術として、波長分割多重(WDM)がある。WDMが適用されるシステムにおいては、異なる波長を有する複数の光キャリアが用いられる。各光キャリアを独立に変調することによって得られた複数の光信号が光マルチプレクサにより波長分割多重され、その結果得られたWDM信号光が光ファイバ伝送路に送出される。受信側では、受けたWDM信号光が光デマルチプレクサによって個々の光信号に分離され、各光信号に基づいて伝送データが再生される。従って、WDMを適用することによって、多重数に応じて1本の光ファイバにおける伝送容量を増大させることができる。
光ファイバ通信システムへの光増幅及びWDMの適用に伴い、光ファイバ伝送路を伝搬する信号光のパワーが大きくなり、これに対処することが実用上要求される。例えば、光増幅やWDMが適用されない従来タイプのシステムでは、光受信機への光入力パワーが最大でも数dBmであり、それにより光受信機の部品が破壊されることは無かったのであるが、WDM用の装置やラマン増幅による光増幅器の性能向上等に伴い光受信機への光入力パワーが10数dBmを超えるようになると、光受信機の部品の耐力を考慮する必要がある。
具体的には、光受信機において光/電気変換器として用いられるアバランシェ・フォトダイオードが耐え得る光入力パワーの上限は概ね5dBmであるので、10dBmを超える信号光が入力すると、部品破壊により光受信機が使用不能になるのである。
この問題に対処するために、大きなパワーを有する信号光を所定レベルまで減衰させる光減衰器を光受信機に設けることが提案され得るが、こうすると小さなパワーの信号光を受信することができなくなり、光受信機のダイナミックレンジが著しく劣化する。
【発明の開示】
よって、本発明の目的は、大きな光入力パワーがあっても光/電気変換器等の部品が破壊されるおそれのない光通信のための方法及び光受信機を提供することである。
本発明の他の目的は以下の説明から明らかになる。
本発明によると、信号光を伝送する光ファイバ伝送路を提供するステップと、実質的にそれよりも大きなパワーの光が入力したときにブリユアン散乱を生じさせる閾値を有するリミッタファイバを提供するステップと、光ファイバ伝送路により伝送された信号光をリミッタファイバに入力するステップと、リミッタファイバから出力された信号光を電気信号に変換するステップとを備えた方法が提供される。
この方法によると、大きなパワーの光入力があったときに、リミッタファイバ内でブリユアン散乱が生じて、リミッタファイバを通過する光のパワーが減少するので、光/電気変換器等の部品が破壊されることが防止され、本発明の目的が達成される。
本発明の他の側面によると、光ファイバ伝送路により伝送された信号光を受信する光受信機が提供される。この光受信機は、実質的にそれよりも大きなパワーの光が入力したときにブリユアン散乱を生じさせる閾値を有し、信号光が入力されるリミッタファイバと、リミッタファイバから出力された信号光を電気信号に変換する光/電気変換器とを備えている。
例えば、リミッタファイバとしては、光ファイバ伝送路の実効コア面積よりも小さな実効コア面積を有している光ファイバや、ファイバ伝送路の損失よりも小さな損失を有している光ファイバを用いることができる。
【図面の簡単な説明】
図1は本発明を適用可能な光ファイバ伝送システムのブロック図;
図2は本発明による光受信機の第1実施形態を示すブロック図;
図3は光ファイバにおける散乱パワー(左縦軸)及び出力パワー(右縦軸)と入力パワー(横軸)との関係の例を示すグラフ;
図4は本発明による光受信機の第2実施形態を示すブロック図;
図5は本発明による光受信機の第3実施形態を示すブロック図;
図6は本発明による光受信機の第4実施形態を示すブロック図;そして
図7は本発明による光受信機の第5実施形態を示すブロック図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、添付図面を参照して本発明の望ましい実施形態を詳細に説明する。
図1を参照すると、本発明を適用可能な光ファイバ伝送システムが示されている。このシステムは、送信側のWDM装置2と受信側のWDM装置4の間を光ファイバ伝送路6で結び、受信側のWDM装置4を複数の光ファイバ伝送路8により電気的処理ユニット10に接続して構成されている。
送信側のWDMユニット2は、複数の光ファイバ伝送路12を介して受けた光信号を波長分割多重してWDM信号光を得るための光マルチプレクサ(MUX)14と、得られたWDM信号光を増幅する光増幅器(AMP)16とを含む。光増幅器16により増幅されたWDM信号光は光ファイバ伝送路6により受信側のWDM装置4に伝送される。
受信側のWDM装置は、光ファイバ伝送路6により伝送されて減衰したWDM信号光を増幅する光増幅器18と、光増幅器18により増幅されたWDM信号光を波長に従って複数の光信号に分ける光デマルチプレクサ(DMUX)20とを含む。光デマルチプレクサ20から出力された光信号は、複数の光ファイバ伝送路8により電気的処理ユニット10に送られる。
電気的処理ユニット10は、光ファイバ伝送路8により伝送された光信号をそれぞれ電気信号に変換する複数の光/電気(O/E)変換器22と、光/電気変換器22により変換された電気信号に関して予め定められた処理を行う図示しない回路と、処理を完了した電気信号をそれぞれ光信号に変換する複数の電気/光(E/O)変換器24とを含む。電気/光変換器24により変換された光信号は複数の光ファイバ伝送路26によって下流側の装置に伝送される。
このように構成されるシステムにおいては、WDM及び光増幅の適用により、光ファイバ伝送路6での信号光のパワーは10数dB以上になることがある。このように大きなパワーの信号光が装置の立ち上げに際してやメンテナンス時の誤接続等により各光ファイバ伝送路8を通って電気的処理ユニット10に供給されると、光/電気変換器22等が破壊するおそれがある。そこで、光ファイバ伝送路8及び光/電気変換器22を含む符号28で示される部分に本発明を適用することで、このような部品の破壊を未然に防止することができる。具体的には以下の通りである。
図2を参照すると、本発明による光受信機の第1実施形態が示されている。以下の説明では、図1に符号28で示される部分を光受信部と称することにする。この実施形態では、光ファイバ伝送路8の下流側、即ち光ファイバ伝送路8と光受信部28との間にリミッタファイバ30を接続し、光ファイバ伝送路8及びリミッタファイバ30をこの順に通過した光信号(信号光)を光減衰器(ATT)32により予め定められたレベルまで減衰して光/電気変換器22に入力するようにしている。
図3を参照すると、一般的なシングルモードファイバの誘導ブリユアン散乱によるリミッタ効果が示されている。横軸はファイバに入力する信号光のパワー(dBm)、縦軸は信号光の入力方向と逆向きに生じる散乱光のパワー(dBm)及び信号光の入力方向と同じ向きに通過して出力される光のパワー(dBm)である。入力する信号光のパワーが5dBmを超えるあたりから出力光のパワーが飽和してくると共に散乱光のパワーが急激に増大してきていることがわかる。
従って、図2に示されるようにリミッタファイバ30を光ファイバ伝送路8の下流側に挿入することによって、概ね5dBmのパワーでのリミッタ機能が得られることになり、過剰なパワーの信号光が光受信部28に入力することが防止される。また、物理現象としての誘導ブリユアン散乱効果の応答性は極めて高速であるので、光サージ等の急激な光パワーの変化にも容易に対応することができる。
次に、リミッタファイバ30がリミッタとして作動する閾値について考察する。誘導ブリユアン散乱の閾値Pthは次の式で近似される。
th=21KAeff/gLeff
ここで、Kは偏波状態の自由度に依存する定数、Aeffはファイバの有効コア面積、gはブリユアン利得係数、Leffは次式で定義されるファイバの有効長さである。
eff=(1−exp(−αL)/α)
ここで、αはファイバの減衰係数、Lはファイバの長さである。
従って、ファイバの有効コア面積Aeffを小さくするか、ファイバの減衰係数αを小さくするか、ファイバ長さLを長くすることによって、閾値を小さくすることができる。換言すれば、これらのパラメータを適切に設定することで、所望の閾値を得ることができるのである。例えば、リミッタファイバ30の有効コア面積Aeff及び減衰係数αは光ファイバ伝送路8のそれよりそれぞれ小さく設定され、それにより誘導ブリユアン散乱の閾値が小さくなるようにされる。
図2の実施形態では、リミッタファイバ30に入力する光のパワーが誘導ブリユアン散乱の閾値を越えると、通過する光はそれ以上パワーが増大しなくなり、約10GHz周波数シフトした散乱光(反射光)が生じる。光/電気変換器22のダイナミックレンジが−5dBm〜−10dBmであるとすると、リミッタファイバ30を通過する光の最大パワーは5dBmであるので、光減衰器32での減衰を10dB程度に設定しておくことによって、アバランシェフォトダイオード等を用いて構成される光/電気変換器32が過大入力で破壊されることを未然に防止することができる。
図4は本発明による光受信機の第2実施形態を示すブロック図である。この実施形態は、図2に示される実施形態と対比して、光ファイバ伝送路8とリミッタファイバ30の間に光アイソレータ34を付加的に設けている点で特徴付けられる。光アイソレータ34は図示された向き、即ち光ファイバ伝送路8からリミッタファイバ30に向かう方向にのみ光を通すように機能する。
この構成によると、リミットファイバ30で信号光伝搬方向と反対向きに導波された散乱光が光ファイバ伝送路8を通って上流側に伝わらなくなるので、上流側に設けられている他の装置に対する散乱光の悪影響を排除することができる。
図5は本発明による光受信機の第3実施形態を示すブロック図である。ここでは、図4に示される実施形態における光アイソレータ34に代えて光サーキュレータ36が用いられている。光サーキュレータ36は3つのポート36A、36B及び36Cを有しており、ポート36Aに供給された光をポート36Bから出力し、ポート36Bに供給された光をポート36Cから出力し、ポート36Cに供給された光をポート36Aから出力するように機能する。従って、図示されるように、ポート36Aを光ファイバ伝送路8に接続し、ポート36Bをリミッタファイバ30に接続しておくことによって、図4に示される実施形態と同様の効果を得ることができる。
図6は本発明による光受信機の第4実施形態を示すブロック図である。ここでは、図5に示される実施形態と同様の光サーキュレータ36を用い、リミッタファイバ30内で生じた散乱光を光サーキュレータ36により取り出すようにしている。また、光減衰器32に代えて、可変光減衰器(VATT)38が用いられている。光サーキュレータ36のポート36Cから出力された散乱光は、フォトディテクタ(PD)40によりそのパワーに応じた電気信号に変換され、制御回路42に供給される。制御回路42は、供給された電気信号に基いて可変光減衰器38を制御する。例えば、散乱光のパワーが小さいときには可変光減衰器38の減衰が零に又は小さくされ、散乱光のパワーが大きいときには同減衰が大きくされる。この制御により、光受信機の耐力が更に向上すると共に、可変光減衰器38による減衰の変化の分だけ光受信機のダイナミックレンジが拡大される。
図7は本発明による光受信機の第5実施形態を示すブロック図である。この実施形態では、信号光の波長と異なる波長を有するリバース光をリミッタファイバ30に信号光伝搬方向と逆の向きに供給するために、その光源としてレーザダイオード(LD)44を付加的に設けられている。レーザダイオード44は、例えば、光ファイバ伝送路8からリミッタファイバ30に入力した信号光がリミッタファイバ30内でラマン増幅されるような波長に設定されている。レーザダイオード44から出力されたリバース光は光カプラ46を介してリミッタファイバ30に供給される。
一般的に、1550nmの帯域では、ラマン効果は+13THz(波長換算では約100nm)シフトした周波数にピークがあり、40THzを超える帯域に渡って広く増幅効果が得られる。従って、信号光がリミッタファイバ30内でラマン増幅されることにより、リミッタファイバ30の見かけ上の損失を限りなく零に近づけることができ、前述した原理に従って誘導ブリユアン散乱の閾値を下げることができる。
レーザダイオード44の波長は、上述の実施形態では例えば約1650nmに設定されるが、誘導ブリユアン散乱で生じる光の波長に一致させてもよい。こうしておくと、リミッタファイバ30内で信号光から散乱光へのパワーシフトが大きくなるので、同じく誘導ブリユアン散乱の閾値を下げることができる。
【産業上の利用可能性】
以上詳述したように、本発明によると、大きな光入力パワーがあっても光/電気変換器等の部品が破壊されるおそれのない光通信のための方法及び光受信機の提供が可能になるという効果が生じる。これにより高性能で寿命の長い光通信システム及び光受信機の提供が可能になり、光ファイバ通信の分野の発展に寄与するところが大きい。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号光を伝送する光ファイバ伝送路を提供するステップと、
実質的にそれよりも大きなパワーの光が入力したときにブリユアン散乱を生じさせる閾値を有するリミッタファイバを提供するステップと、
前記光ファイバ伝送路により伝送された信号光を前記リミッタファイバに入力するステップと、
前記リミッタファイバから出力された信号光を電気信号に変換するステップとを備えた方法。
【請求項2】
前記光ファイバ伝送路と前記リミッタファイバの間に接続される光アイソレータを提供するステップを更に備えた請求の範囲第1項記載の方法。
【請求項3】
前記リミッタファイバから出力された信号光を減衰させるステップを更に備えた請求の範囲第1項記載の方法。
【請求項4】
前記光ファイバ伝送路と前記リミッタファイバの間に光サーキュレータを接続するステップと、
前記光サーキュレータを介して前記ブリユアン散乱により生じた散乱光を取り出すステップと、
前記散乱光のパワーに応じて前記信号光の減衰を制御するステップとを更に備えた請求の範囲第3項記載の方法。
【請求項5】
前記リミッタファイバに前記信号光の波長と異なる波長を有するリバース光を前記信号光の伝搬方向と逆の方向に供給するステップを更に備えた請求の範囲第1項記載の方法。
【請求項6】
前記リバース光は前記信号光が前記リミッタファイバ内でラマン増幅されるように設定される波長を有している請求の範囲第5項記載の方法。
【請求項7】
前記リバース光は前記ブリユアン散乱により生じる散乱光の波長と同じ波長を有している請求の範囲第5項記載の方法。
【請求項8】
光ファイバ伝送路により伝送された信号光を受信する光受信機であって、
実質的にそれよりも大きなパワーの光が入力したときにブリユアン散乱を生じさせる閾値を有し、前記信号光が入力されるリミッタファイバと、
前記リミッタファイバから出力された信号光を電気信号に変換する光/電気変換器とを備えた光受信機。
【請求項9】
前記光ファイバ伝送路と前記リミッタファイバの間に接続される光アイソレータを更に備えた請求の範囲第8項記載の光受信機。
【請求項10】
前記リミッタファイバから出力された信号光を減衰させる光減衰器を更に備えた請求の範囲第8項記載の光受信機。
【請求項11】
前記光ファイバ伝送路と前記リミッタファイバの間に接続される光サーキュレータと、
前記光サーキュレータを介して取り出された前記ブリユアン散乱による散乱光を電気信号に変換するフォトディテクタと、
前記フォトディテクタの出力に基いて前記光減衰器を制御する制御回路とを更に備えた請求の範囲第10項記載の光受信機。
【請求項12】
前記リミッタファイバに前記信号光の波長と異なる波長を有するリバース光を前記信号光の伝搬方向と逆の方向に供給する光源を更に備えた請求の範囲第8項記載の光受信機。
【請求項13】
前記リバース光は前記信号光が前記リミッタファイバ内でラマン増幅されるように設定される波長を有している請求の範囲第12項記載の光受信機。
【請求項14】
前記リバース光は前記ブリユアン散乱により生じる散乱光の波長と同じ波長を有している請求の範囲第12項記載の光受信機。
【請求項15】
前記リミッタファイバは前記光ファイバ伝送路の実効コア面積よりも小さな実効コア面積を有している請求の範囲第8項記載の光受信機。
【請求項16】
前記リミッタファイバは前記光ファイバ伝送路の損失よりも小さな損失を有している請求の範囲第8項記載の光受信機。

【国際公開番号】WO2004/054140
【国際公開日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【発行日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−558378(P2004−558378)
【国際出願番号】PCT/JP2002/012986
【国際出願日】平成14年12月11日(2002.12.11)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】