説明

光電変換素子及びその製造方法

【課題】 高効率、長期安定性に優れた光電変換素子及びその製造方法を目的とする。
【解決手段】 基材上に形成された導電性層の少なくとも一部に色素担持された酸化物半導体多孔質膜層を有した作用極と、該作用極に対向して配置されて基材上に導電性層が形成された対極と、前記作用極と前記対極の間に電解質層とを備えてなる光電変換素子であって、前記作用極及び/又は対極の導電性層が、水溶性導電性ポリマー(A)及びカーボンナノチューブ(B)を含む組成物から形成されるカーボンナノチューブ含有層を有する光電変換素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
色素増感太陽電池などの光電変換素子は、高い光電変換効率が発現できる光電変換素子として期待されている。色素増感太陽電池の構造は、ITOなどの透明電極基板上に、光増感色素が担持された二酸化チタンなどの酸化物半導体多孔質膜層からなる作用極と、この作用極に対向して配置されたスズ含有酸化インジウム(ITO)やカーボンを有する対極とを備え、それら作用極と対極との間に電解質層を有する構造である。
【0003】
しかし、色素増感太陽電池の作用極や対極を構成するITO等の金属酸化物を成膜した電極は蒸着による成膜プロセスが必要となり製造コストが高価になるという問題がある。
特に、従来のように対極に白金を担持させたガラスやフィルム等の導電性電極基板、または金属基板を用いた場合、白金は高価であり、また成膜方法の一つとしてスパッタ法など真空プロセスを用いる場合もあり、製造コストが非常に高くなってしまう。また、白金膜を有する電極を対極として用いた場合、長期使用中に白金膜が脱離、溶解し、発電特性が低下してしまうことがある。
【0004】
一方、カーボン粉末を含むペーストを基板に塗布し焼成させて対極を作製する場合、高温で焼成するとカーボンが酸化してしまう、あるいは基板の劣化を招くことがあるため、低温で焼成させなければならない。そのため基板とカーボン、カーボン粒子とカーボン粒子同士の密着力が低いという欠点がある。密着力を上げるために有機バインダー等を含むペーストを用いる場合もあるが、作製された多孔質カーボン電極内にバインダーが残ってしまうため、電極反応に有効なカーボンの面積が減ってしまうという問題がある(特許文献1)。
【0005】
また、カーボンナノチューブ溶液を基板上に電着することにより、長期安定な対極を製造する提案がなされている(特許文献2)。しかしながら、単にカーボンナノチューブを有機溶剤に混合しているため、カーボンナノチューブの分散が十分ではなく、そのため十分な導電性が発現しないという問題がある。また、電着プロセスが必要であり、製造プロセスが煩雑であり高価となる。
【0006】
カーボンナノチューブは、1991年に飯島等によって発見されて以来(非特許文献1)、その物性評価、機能解明が行われており、その応用に関する研究開発も盛んに実施されている。しかしながら、カーボンナノチューブは、絡まった状態で製造されるため、取扱いが非常に煩雑となるという問題がある。樹脂や溶液に混合した場合は、カーボンナノチューブがさらに凝集し、カーボンナノチューブ本来の特性が発現できないという問題もある。
【0007】
このようなカーボンナノチューブの分散性を改善するために、カーボンナノチューブ及び水溶性導電性ポリマーを含む組成物、並びに該組成物から製造される導電体が提案されており、このような組生物を含む溶液が分散性に優れ、溶液状態下での長期保存安定性に優れることが示されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−127849号公報
【特許文献2】特開2008−66018公報
【特許文献3】国際公開第2004/039893号パンフレット
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】S.Iijima,Nature,354,56(1991)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記文献3に記載の組成物を色素増感太陽電池などの光電変換素子に用いることは何ら提案されていない。また、高効率であって、光電変換効率の長期安定性に優れた光電変換素子が求められている。
【0011】
本発明は、本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、高効率、長期安定性に優れた光電変換素子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために、本発明の第一は、基材上に形成された導電性層の少なくとも一部に色素担持された酸化物半導体多孔質膜層を有した作用極と、該作用極に対向して配置されて基材上に導電性層が形成された対極と、前記作用極と前記対極の間に電解質層とを備えてなる光電変換素子であって、前記作用極及び/又は対極の導電性層が、水溶性導電性ポリマー(A)及びカーボンナノチューブ(B)を含む組成物から形成されるカーボンナノチューブ含有層を有する光電変換素子に関する。
【0013】
本発明の第二は、基材上に形成された導電性層の少なくとも一部に色素担持された酸化物半導体多孔質膜層を有した作用極と、該作用極に対向して配置されて基材上に導電性層が形成された対極と、前記作用極と前記対極の間に電解質層とを備えてなる光電変換素子であって、前記作用極、前記対極及び前記電解質層から選ばれた少なくとも一つの面上に、水溶性導電性ポリマー(A)、カーボンナノチューブ(B)及び溶媒(C)を含有するカーボンナノチューブ含有組成物を塗工してカーボンナノチューブ含有層を形成する光電変換素子の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の光電変換素子は、高効率で発電し、長期安定性に優れる。また、本発明の光電変換素子の製造方法によれば、塗工プロセスで製造可能であり、安価に製造可能である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下本発明について詳細を説明する。
<光電変換素子(色素増感太陽電池)>
本発明の光電変換素子は、基材上に形成された導電性層の少なくとも一部に色素担持された酸化物半導体多孔質膜層を有した作用極と、該作用極に対向して配置されて基材上に導電性層が形成された対極と、前記作用極と前記対極の間に電解質層とを備えてなる光電変換素子である。
【0016】
上記対極の導電性層としては、基板の表面に導電性を持たせるために、水溶性導電性ポリマー(A)、カーボンナノチューブ(B)及び溶媒(C)を含有するカーボンナノチューブ含有組成物から形成されたカーボンナノチューブ含有層を用いることができる。また、この層は、ITOやフッ素ドープ酸化錫(Fluorine-doped-Tin-Oxide:FTO)、酸化スズ[SnO ]などから形成された透明導電膜を介して設けることもできる。
【0017】
上記カーボンナノチューブ含有層は、上記カーボンナノチューブ含有組成物を用いて、塗布プロセスにより形成可能なため、成膜が容易かつ製造コストが安価である。また、導電性層は、カーボンナノチューブ含有層と金属酸化物を積層してもよく、金属酸化物としてはITO、FTOが好ましく、ITOのみからなる単層の膜、またはITO膜にFTO膜を積層させた積層膜としても良い。このような透明導電膜を使用すれば、可視域における光の吸収量が少なく、導電率が高い透明導電膜を構成することができる。
【0018】
一方、上記作用極には光透過性の基板が用いられ、導電性を持たせるための透明導電膜(層)を介して増感色素を担持させた多孔質半導体膜が設けられている。この透明導電膜(層)として、上記カーボンナノチューブ含有層を用いることができる。この層は、塗布プロセスにより形成可能なため、成膜が容易かつ製造コストが安価である。
【0019】
上記作用極に使用される透明な基材としては、光透過性の素材からなる基板が用いられ、ガラス、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホンなど、通常、太陽電池の透明基材として用いられるものであればいかなるものでも用いることができる。透明な基材はこれらの中から電解液への耐性などを考慮して適宜選択される。また、用途上できる限り光透過性に優れる基板が好ましく、透過率が90%以上の基板がより好ましい。
【0020】
上記対極に使用される基材としては、上記作用極に用いられる基材の他に、チタンなどの金属基板を用いることもできる。
【0021】
上記作用極は、上記基板の透明導電膜上に酸化チタンなどの酸化物半導体微粒子からなり、光増感色素を担持させた酸化物半導体多孔質膜を形成する。酸化物半導体多孔質膜は、酸化チタン(TiO)、酸化スズ(SnO)、酸化タングステン(WO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ニオブ(Nb) などの1種または2種以上を複合させた平均粒径1〜1000nmの酸化物半導体微粒子を主成分とし、厚さが0.5〜50μm程度の多孔質の薄膜である。
【0022】
上記酸化物半導体多孔質膜を形成する方法としては、例えば、市販の酸化物半導体微粒子を所望の分散媒に分散させた分散液、あるいはゾル−ゲル法により調整できるコロイド溶液に、必要に応じて所望の添加剤を添加した後、スクリーンプリント法、インクジェットプリント法、ロールコート法、ドクターブレード法、スピンコート法、スプレー塗布法など公知の方法により塗布するほか、コロイド溶液中に電極基板を浸漬して電気泳動により酸化物半導体微粒子を電極基板上に付着させる泳動電着法、コロイド溶液や分散液に発泡剤を混合して塗布した後、焼結して多孔質化する方法、ポリマーマイクロビーズを混合して塗布した後、このポリマーマイクロビーズを加熱処理や化学処理により除去して空隙を形成させ多孔質化する方法などを適用することができる。
【0023】
上記酸化物半導体多孔質膜に担持される増感色素は、特に制限されるものではなく、例えば、ビピリジン構造、ターピリジン構造などを含む配位子を有するルテニウム錯体や鉄錯体、ポルフィリン系やフタロシアニン系の金属錯体をはじめ、エオシン、ローダミン、メロシアニン、クマリンなどの有機色素などから用途や酸化物半導体多孔質膜の材料に応じて適宜選択して用いることができる。
【0024】
上記対極と上記作用極の間に封入する電解質層は公知の電解質層が利用でき、例えば、多孔質酸化物半導体層内に電解液を含浸させてなるもの、または酸化物半導体多孔質膜内に電解液を含浸させた後に、この電解液を適当なゲル化剤を用いてゲル化(擬固体化)して多孔質酸化物半導体層と一体に形成されてなるもの、あるいはイオン性液体の酸化物半導体粒子および導電性粒子を含むゲル状の電解質等が挙げられる。上記電解液としては、ヨウ素、ヨウ化物イオン、ターシャリーブチルピリジンなどの電解質成分が、エチレンカーボネートやメトキシアセトニトリルなどの有機溶媒に溶解されてなるものが用いられる。この電解液をゲル化する際に用いられるゲル化剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンオキシド誘導体、アミノ酸誘導体などが挙げられる。
【0025】
また、上記イオン性液体としては、特に限定されるものではないが、室温で液体であり、四級化された窒素原子を有する化合物をカチオンまたはアニオンとした常温溶融性塩が挙げられる。常温溶融塩のカチオンとしては、四級化イミダゾリウム誘導体、四級化ピリジニウム誘導体、四級化アンモニウム誘導体などが挙げられる。常温溶融塩のアニオンとしては、BF4−、PF6−、F(HF)n− 、ビストリフルオロメチルスルホニルイミド[N(CFSO2−]、ヨウ化物イオンなどが挙げられる。イオン性液体の具体例としては、四級化イミダゾリウム計カチオンとヨウ化物イオンまたはビストリフルオロメチルスルホニルイミドイオンなどからなる塩類を挙げることができる。
【0026】
[水溶性導電性ポリマー(A)]
水溶性導電性ポリマー(A)は、スルホン酸基及び/又はカルボキシ基からなる酸性基を有する導電性ポリマーである。該水溶性導電性ポリマー(A)は、カーボンナノチューブ(B)の溶解性・分散性を向上させ、安定なカーボンナノチューブ含有組成物が得られるため、結果として、該カーボンナノチューブを含有する組成物から形成される層の強度、硬度等の物性や導電性等を更に向上させる役割を果たす。
【0027】
上記水溶性導電性ポリマー(A)としては、フェニレンビニレン、ビニレン、チエニレン、ピロリレン、フェニレン、イミノフェニレン、イソチアナフテン、フリレン、カルバゾリレン等を繰り返し単位として含むπ共役系高分子を用いることができる。この中でも、特にチエニレン、ピロリレン、イミノフェニレン、フェニレンビニレン、カルバゾリレン、イソチアナフテンを含む骨格を有する導電性ポリマーであることが好ましい。
【0028】
上記水溶性導電性ポリマー(A)は、溶解性、導電性、成膜性等の観点から、酸性基を有するπ共役系の水溶性導電性ポリマーあるいはその塩として用いることができ、前者として用いることが好ましい。ここで、上記水溶性導電性ポリマー(A)としては、π共役系高分子の骨格又は該高分子中の窒素原子上に、酸性基、酸性基で置換されたアルキル基、又は酸性基で置換された、エーテル結合を含むアルキル基を有している導電性ポリマーが挙げられる。
【0029】
また、上記水溶性導電性ポリマー(A)の塩としては、水溶性導電性ポリマー(A)とアンモニウム塩類及び/又はアミン類と反応させることにより、酸性基をスルホン酸基のアンモニウム塩(−SO)及び/又はカルボキシ基のアンモニウム塩(−COO)としたものを用いることができる。ここで、前記アンモニウム塩のアンモニウムイオン(M)は、下記一般式(1)で示されるものである。
【0030】
【化1】

(式(1)中、R〜Rは各々独立に水素、炭素数1〜24のアルキル、アリール又はアラルキル基、フェニル基、ベンジル基、ROH、CONH又はNHであり、R〜Rのうち少なくとも一つが炭素数5以上の基である。なお、Rは炭素数1〜24のアルキレン、アリーレン又はアラルキレン基である。)
【0031】
上記水溶性導電性ポリマー(A)としては、特開昭61−197633号公報、特開昭63−39916号公報、特開平01−301714号公報、特開平05−504153号公報、特開平05−503953号公報、特開平04−32848号公報、特開平04−328181号公報、特開平06−145386号公報、特開平06−56987号公報、特開平05−226238号公報、特開平05−178989号公報、特開平06−293828号公報、特開平07−118524号公報、特開平06−32845号公報、特開平06−87949号公報、特開平06−256516号公報、特開平07−41756号公報、特開平07−48436号公報、特開平04−268331号公報、特開平09−59376号公報、特開2000−172384号公報、特開平06−49183号公報、特開平10−60108号公報に示された水溶性導電性ポリマーが好ましく用いられる。
【0032】
また、好ましい水溶性導電性ポリマー(A)としては、下記一般式(2)〜(10)から選ばれた少なくとも一種以上の繰り返し単位を、ポリマー全体の繰り返し単位の総数中に20〜100%含有する導電性ポリマーが挙げられる。
【0033】
【化2】

【0034】
(式(2)中、R、Rは各々独立に、H、−SO、−SO3、−SO
、−RSO、−RSO、−RSOH、−OCH、−CH、−C、−F、−Cl、−Br、−I、−N(R、−NHCOR、−OH、−O、−SR、−OR、−OCOR、−NO、−COO、−COOH、−RCOOH、−RCOO、−COOR、−COR、−CHO及び−CNからなる群より選ばれ、ここで、Mは前記式(1)で表されるアンモニウムイオンであり、Rは炭素数1〜24のアルキル、アリールもしくはアラルキル基又はアルキレン、アリーレンもしくはアラルキレン基であり、かつR、Rのうち少なくとも一つが−SO、−SOH、−RSO、−RSOH、−COOH、−RCOOH、及び−SO、−RSO、−COO、−RCOOからなる群より選ばれた基である。)
【0035】
【化3】

【0036】
(式(3)中、R、R10は各々独立に、H、−SO、−SO、−SOH、−R11SO、−R11SO、−R11SOH、−OCH、−CH、−C、−F、−Cl、−Br、−I、−N(R11、−NHCOR11、−OH、−O、−SR11、−OR11、−OCOR11、−NO、−COO、−COOH、−R11COOH、−R11COO、−COOR11、−COR11、−CHO及び−CNからなる群より選ばれ、ここで、Mは前記式(1)で表されるアンモニウムイオンであり、R11は炭素数1〜24のアルキル、アリール又はアラルキル基あるいはアルキレン、アリーレン又はアラルキレン基であり、かつR、R10のうち少なくとも一つが−SO、−SOH、−R11SO、−R11SOH、−COOH、−R11COOH、及び−SO、−R11SO、−COO、−R11COOからなる群より選ばれた基である。)
【0037】
【化4】

【0038】
(式(4)中、R12〜R15は各々独立にH、−SO、−SO、−SOH、−R16SO、−R16SO、−R16SOH、−OCH、−CH、−C、−F、−Cl、−Br、−I、−N(R16、−NHCOR16、−OH、−O、−SR16、−OR16、−OCOR16、−NO、−COO、−COOH、−R16COOH、−R16COO、−COOR16、−COR16、−CHO及び−CNからなる群より選ばれ、ここで、Mは前記式(1)で表されるアンモニウムイオンであり、R16は炭素数1〜24のアルキル、アリール又はアラルキル基あるいはアルキレン、アリーレン又はアラルキレン基であり、かつR12〜R15のうち少なくとも一つが−SO、−SOH、−R16SO、−R16SOH、−COOH、−R16COOH、及び−SO、−R16SO、−COO、−R16COOからなる群より選ばれた基である。)
【0039】
【化5】

【0040】
(式(5)中、R17〜R21は各々独立に、H、−SO、−SO、−SOH、−R22SO、−R22SO、−R22SOH、−OCH、−CH、−C、−F、−Cl、−Br、−I、−N(R22、−NHCOR22、−OH、−O、−SR22、−OR22、−OCOR22、−NO、−COO、−COOH、−R22COOH、−R22COO、−COOR22、−COR22、−CHO及び−CNからなる群より選ばれ、ここで、Mは前記式(1)で表されるアンモニウムイオンであり、R22は炭素数1〜24のアルキル、アリール又はアラルキル基あるいはアルキレン、アリーレン又はアラルキレン基であり、かつR17〜R21のうち少なくとも一つが−SO、−SOH、−R22SO、−R22SOH、−COOH、−R22COOH、及び−SO、−R22SO、−COO、−R22COOからなる群より選ばれた基である。)
【0041】
【化6】

【0042】
(式(6)中、R23は、−SO、−SOH、−R24SO、−R24SOH、−COOH、−R24COOH、及び−SO、−R25SO、−COO及び−R25COOからなる群より選ばれ、ここで、Mは前記式(1)で表されるアンモニウムイオンであり、R24は炭素数1〜24のアルキル、アリール又はアラルキル基あるいはアルキレン、アリーレン又はアラルキレン基であり、R25は炭素数1〜24のアルキレン、アリーレン又はアラルキレン基である。)
【0043】
【化7】

【0044】
(式(7)中、R26〜R31は各々独立に、H、−SO、−SO、−SOH、−R32SO、−R32SO、−R32SOH、−OCH、−CH、−C、−F、−Cl、−Br、−I、−N(R32、−NHCOR32、−OH、−O、−SR32、−OR32、−OCOR32、−NO、−COO、−COOH、−R32COOH、−R32COO、−COOR32、−COR32、−CHO及び−CNからなる群より選ばれ、ここで、Mは前記式(1)で表されるアンモニウムイオンであり、R32は炭素数1〜24のアルキル、アリール又はアラルキル基あるいはアルキレン、アリーレン又はアラルキレン基であり、かつR26〜R31のうち少なくとも一つが−SO、−SOH、−RSO、−R32SOH、−COOH、−R32COOH、及び−SO、−R32SO、−COO、−R32COOからなる群より選ばれた基であり、Htは、NR33、S、O、Se及びTeよりなる群から選ばれたヘテロ原子基であり、R33は水素及び炭素数1〜24の直鎖又は分岐のアルキル基、もしくは置換、非置換のアリール基を表し、R26〜R31の炭化水素鎖は互いに任意の位置で結合して、かかる基により置換を受けている炭素原子と共に少なくとも1つ以上の3〜7員環の飽和又は不飽和炭化水素の環状構造を形成する二価鎖を形成してもよく、このように形成される環状結合鎖にはカルボニル、エーテル、エステル、アミド、スルフィド、スルフィニル、スルホニル、イミノの結合を任意の位置に含んでもよく、nはヘテロ環と置換基R27〜R30を有するベンゼン環に挟まれた縮合環の数を表し、0又は1〜3の整数である。)
【0045】
【化8】

【0046】
(式(8)中、R34〜R42は各々独立に、H、−SO、−SO、−SOH、−R43SO、−R43SO、−R43SOH、−OCH、−CH、−C、−F、−Cl、−Br、−I、−N(R43、−NHCOR43、−OH、−O、−SR43、−OR43、−OCOR43、−NO、−COO、−COOH、−R43COOH、−R43COO、−COOR43、−COR43、−CHO及び−CNからなる群より選ばれ、ここで、Mは前記式(1)で表されるアンモニウムイオンであり、R43は炭素数1〜24のアルキル、アリール又はアラルキル基あるいはアルキレン、アリーレン又はアラルキレン基であり、かつR34〜R42のうち少なくとも一つが−SO、−SOH、−R43SO、−R43SOH、−COOH、−R43COOH、及び−SO、−R43SO、−COO、−R43COOからなる群より選ばれた基であり、nは置換基R34及びR35を有するベンゼン環と置換基R37〜R40を有するベンゼン環に挟まれた縮合環の数を表し、0又は1〜3の整数である。)
【0047】
【化9】

【0048】
(式(9)中、R44〜R53は各々独立に、H、−SO、−SO、−SOH、−R54SO、−R54SO、−R54SOH、−OCH、−CH、−C、−F、−Cl、−Br、−I、−N(R54、−NHCOR54、−OH、−O、−SR54、−OR54、−OCOR54、−NO、−COO、−COOH、−R54COOH、−R54COO、−COOR54、−COR54、−CHO及び−CNからなる群より選ばれ、ここで、Mは前記式(1)で表されるアンモニウムイオンであり、R54は炭素数1〜24のアルキル、アリール又はアラルキル基あるいはアルキレン、アリーレン又はアラルキレン基であり、かつR44〜R53のうち少なくとも一つが−SO、−SOH、−R54SO、−R54SOH、−COOH、−R54COOH、及び−SO、−R54SO、−COO、−R54COOからなる群より選ばれた基であり、nは置換基R44〜R46を有するベンゼン環とベンゾキノン環に挟まれた縮合環の数を表し、0又は1〜3の整数である。)
【0049】
【化10】

【0050】
(式(10)中、R55〜R59は各々独立に、H、−SO、−SO、−SOH、−R60SO、−R60SO、−R60SOH、−OCH、−CH、−C、−F、−Cl、−Br、−I、−N(R60、−NHCOR60、−OH、−O、−SR60、−OR60、−OCOR60、−NO、−COO、−COOH、−R60COOH、−R60COO、−COOR60、−COR60、−CHO及び−CNからなる群より選ばれ、ここで、Mは前記式(1)で表されるアンモニウムイオンであり、R60は炭素数1〜24のアルキル、アリール又はアラルキル基あるいはアルキレン、アリーレン又はアラルキレン基であり、かつR55〜R59のうち少なくとも一つが−SO、−SOH、−R60SO、−R60SOH、−COOH、−R60COOH、及び−SO、−R60SO、−COO、−R60COOからなる群より選ばれた基であり、Xa−は、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、フッ素イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、硫酸水素イオン、リン酸イオン、ほうフッ化イオン、過塩素酸イオン、チオシアン酸イオン、酢酸イオン、プロピオン酸イオン、メタンスルホン酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、及びトリフルオロメタンスルホン酸イオンよりなる1〜3価の陰イオン群より選ばれた少なくとも一種の陰イオンであり、aはXのイオン価数を表し、1〜3の整数であり、pはドープ率であり、その値は0.001〜1である。)
【0051】
また、その他の好ましい水溶性導電性ポリマー(A)として、ポリエチレンジオキシチオフェンポリスチレンスルフェートが挙げられる。この水溶性導電性ポリマーは、導電性ポリマーの骨格にはスルホン酸基は導入されていないが、ドーパントとしてポリスチレンスルホン酸が付加されている構造を有している。また、酸性基(a)のアンモニウム塩を有する水溶性導電性ポリマー(A)としては、ポリエチレンジオキシチオフェンポリスチレンスルホン酸アンモニウム又は置換アンモニウム塩を用いることもできる。この水溶性導電性ポリマーは、導電性ポリマーの骨格にはスルホン酸アンモニウム塩基は導入されていないが、ドーパントとしてポリスチレンスルホン酸アンモニウム塩が付加されている構造を有している。
【0052】
これらの水溶性導電性ポリマー(A)の具体例としては、3,4−エチレンジオキシチオフェン(バイエル社製 Baytron M)をトルエンスルホン酸鉄(バイエル社製
Baytron C)等の酸化剤で重合することにより製造されるポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸の付加体、あるいはこの付加体にアミン類又はアンモニアと反応させたものが挙げられる。また、Baytron P(バイエル社製)、又はBaytron Pとアミン類及び/又はアンモニウム類とを反応させて得られたものが挙げられる。
【0053】
また、これらの他の好ましい水溶性導電性ポリマー(A)のなかでも、下記一般式(11)で表される繰り返し単位を、ポリマー全体の繰り返し単位の総数中に20〜100%含むものがより好ましい。
【0054】
【化11】

【0055】
(式(11)中、yは0<y<1の任意の数を示し、R61〜R78は各々独立に、H、−SO、−SO、−SOH、−R79SO、−R79SO、−R79SOH、−OCH、−CH、−C、−F、−Cl、−Br、−I、−N(R79、−NHCOR79、−OH、−O、−SR79、−OR79、−OCOR79、−NO、−COO、−COOH、−R79COOH、−R79COO、−COOR79、−COR79、−CHO及び−CNからなる群より選ばれ、ここで、Mは前記式(1)で表されるアンモニウムイオンであり、R79は炭素数1〜24のアルキル、アリール又はアラルキル基あるいはアルキレン、アリーレン又はアラルキレン基であり、R61〜R78のうち少なくとも一つが−SO、−SOH、−R79SO、−R79SOH、−COOH、−R79COOH、及び−SO、−R79SO、−COO、−R79COOからなる群より選ばれた基である。)
【0056】
前記水溶性導電性ポリマー(A)のなかでも、有機溶媒、含水有機溶媒等の溶媒への溶解性が非常に良好である点から、ポリマーの繰り返し単位の総数に対する酸性基(a)を有する繰り返し単位の含有量が50%以上のものが好ましい。酸性基(a)を有する繰り返し単位の含有量は、70%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましく、100%であることが特に好ましい。
【0057】
また、芳香環に付加している置換基は、導電性及び溶解性の点から、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基が好ましく、特に、電子供与性を有するアルコキシ基が好ましい。これらの組み合わせの中で最も好ましい水溶性導電性ポリマー(A)を下記一般式(12)に示す。
【0058】
【化12】

【0059】
(式(12)中、R80〜R83は、スルホン酸基、カルボキシ基、及びこれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩及び置換アンモニウム塩からなる群より選ばれた1つの基であり、R80〜R83のうち少なくとも一つがスルホン酸基、カルボキシ基、及びこれらのアンモニウム塩からなる群より選ばれた基であり、R84は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ドデシル基、テトラコシル基、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、iso−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ヘプトキシ基、ヘクソオキシ基、オクトキシ基、ドデコキシ基、テトラコソキシ基、フルオロ基、クロロ基及びブロモ基からなる群より選ばれた1つの基を示し、xは0<x<1の任意の数を示し、mは重合度を示し3以上である。) R80〜R83としては、中でも、導電性が高い点で、スルホン酸基並びにスルホン酸基のアルカリ金属塩、アンモニウム塩及び置換アンモニウム塩が好ましい。
【0060】
本発明における水溶性導電性ポリマー(A)は、化学重合又は電解重合等の各種合成法により得ることができる。例えば、本発明者らが提案した特開平7−196791号公報、特開平7−324132号公報に記載の合成方法が適用できる。すなわち、下記一般式(13)で表される酸性基置換アニリン、そのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、置換アンモニウム塩からなる群から選ばれる1つの化合物を、塩基性化合物を含む溶液中で酸化剤により重合させることにより水溶性導電性ポリマー(A)を得ることができる。
【0061】
【化13】

【0062】
(式(13)中、R85〜R90は各々独立に、H、−SO、−SO、−SOH、−R91SO、−R91SO、−R91SOH、−OCH、−CH、−C、−F、−Cl、−Br、−I、−N(R91、−NHCOR91、−OH、−O、−SR91、−OR91、−OCOR91、−COO、−COOH、−R91COOH、−R91COO、−COOR91、−COR91、−CHO及び−CNからなる群より選ばれ、ここで、Mは前記式(1)で表されるアンモニウムイオンであり、R91は炭素数1〜24のアルキル、アリール又はアラルキル基あるいはアルキレン、アリーレン又はアラルキレン基であり、R85〜R90のうち少なくとも一つが−SO、−SOH、−R91SO、−R91SOH、−COOH、−R91COOH、及び−SO、−R91SO、−COO、−R91COOからなる群より選ばれた基である。)
【0063】
特に好ましい水溶性導電性ポリマー(A)は、アルコキシ基置換アミノベンゼンスルホン酸、そのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、置換アンモニウム塩を、塩基性化合物を含む溶液中で酸化剤により重合させることにより得られる水溶性導電性ポリマーである。
【0064】
また、水溶性導電性ポリマー(A)から、スルホン酸基のアンモニウム塩及び/又はカルボキシ基のアンモニウム塩を有する水溶性導電性ポリマーを合成する簡便な方法としては、下記一般式(14)で示されるアンモニウム塩類及び/又は下記一般式(15)で示されるアミン類と水溶性導電性ポリマー(A)とを、溶液中で反応させる方法が挙げられる。
【0065】
【化14】

【0066】
(式(14)中、R101〜R104は各々独立に水素、R105OH、炭素数1〜24のアルキル、アリール又はアラルキル基あるいはフェニル基、ベンジル基、CONH又はNHであり、かつR101〜R104のうち少なくとも一つが炭素数5以上の基であり、R105は炭素数1〜24のアルキレン、アリーレン又はアラルキレン基であり、Yb−は水酸化物イオン、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、フッ素イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、硫酸水素イオン、アミド硫酸イオン、亜硫酸イオン、ホスフィン酸イオン、リン酸イオン、ピロリン酸イオン、トリポリリン酸イオン、ほうフッ化イオン、過塩素酸イオン、チオシアン酸イオン、酢酸イオン、プロピオン酸イオン、メタンスルホン酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン、吉草酸イオン、ドデシルベンゼンスルホン酸イオン、カンファースルホン酸イオン、酪酸イオン、蟻酸イオン、トリメチル酢酸イオン、ブロモ酢酸イオン、乳酸イオン、クエン酸イオン、コハク酸イオン、シュウ酸イオン、酒石酸イオン、フマル酸イオン、マレイン酸イオン、マロン酸イオン、アスコルビン酸イオン、アニス酸イオン、アントラニル酸イオン、安息香酸イオン、ケイ皮酸イオン、フェニル酢酸イオン、フタル酸イオン、アニリンスルホン酸イオン、チオカルボン酸イオン、メチルスルフィン酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、及びトリフルオロメタンスルホン酸イオンよりなる1〜3価の陰イオン群より選ばれた少なくとも1種の陰イオンを示す。また、bはYのイオン価数であり、1〜3の整数を示し、jは1〜3の整数を示す。)
【0067】
【化15】

【0068】
(式(15)中、R106〜R108は各々独立に水素、炭素数1〜24のアルキル、アリール又はアラルキル基あるいは、フェニル基、ベンジル基、R105OH、CONH又はNHであり、かつR106〜R108のうち少なくとも一つが炭素数5以上の基である。なお、R105は炭素数1〜24のアルキレン、アリーレン又はアラルキレン基である。)
【0069】
アンモニウム塩類としては、塩化ベンザルコニウム、塩化トリメチルベンジルアンモニウム等のハロゲン化アルキルジメチルベンジルアンモニウム、塩化アルキルジエチルベンジルアンモニウム、臭化トリエチルベンジルアンモニウム等のハロゲン化アルキルジエチルベンジルアンモニウム、塩化トリオクチルメチルアンモニウム等のハロゲン化テトラアルキルアンモニウム、水酸化トリメチルベンジルアンモニウムが好ましい。
【0070】
また、アミン類としては、ベンジルアミン、トリ−n−オクチルアミン、ジ−n−オクチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン、アニリン、ジメチルアニリン、ジエチルアニリン、ジ−n−プロピルアニリン、ジ−iso−プロピルアニリン等のアニリン類が好ましい。
【0071】
上記水溶性導電性ポリマー(A)の質量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)のポリエチレングリコール換算で、2,000〜3,000,000であることが好ましく、3,000〜1,000,000であることがより好ましく、5,000〜500,000であることが特に好ましい。水溶性導電性ポリマー(A)の質量平均分子量が2,000以上であれば、十分な膜強度、成膜性、導電性が得られやすい。また、水溶性導電性ポリマー(A)の質量平均分子量が3,000,000以下であれば、優れた溶解性が得られやすい。
【0072】
上記水溶性導電性ポリマー(A)は、そのままでも使用できるが、公知の方法の酸によるドーピング処理方法を実施して、外部ドーパントを付与したものを用いてもよい。例えば、酸性溶液中に、水溶性導電性ポリマー(A)を浸漬させる等の処理によりドーピング処理を行うことができる。
ドーピング処理に用いる酸性溶液は、具体的には、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸;p−トルエンスルホン酸、カンファスルホン酸、安息香酸及びこれらの骨格を有する誘導体等の有機酸;ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパン)スルホン酸、ポリビニル硫酸及びこれらの骨格を有する誘導体等の高分子酸を含む水溶液、あるいは、水−有機溶媒の混合溶液が挙げられる。これらの無機酸、有機酸、高分子酸は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を任意の割合で混合して用いてもよい。
【0073】
[カーボンナノチューブ(B)]
本発明におけるカーボンナノチューブ(B)としては、例えば、フラーレン、金属内包フラーレン、玉葱状フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノファイバー、ピーポッド、気相成長カーボン(VGCF)、グラファイト、グラフェン、カーボンナノ粒子、ケッチェンブラック等が挙げられる。これらの中でも実用上は、導電性、透明性の点から、カーボンナノチューブが好ましい。
【0074】
上記カーボンナノチューブ(B)は、特に限定されず、通常のカーボンナノチューブを用いることができ、例えば、単層カーボンナノチューブ、何層かが同心円状に重なった多層カーボンナノチューブ、これらがコイル状になったもの等を用いることができる。
【0075】
また、上記カーボンナノチューブ(B)としては、厚さ数原子の層のグラファイト状炭素原子面を丸めた円筒が、単層あるいは複数個入れ子構造になったもので、nmオーダーの外径の極めて微小な物質が挙げられる。その他、カーボンナノチューブの片側が閉じた形をしたカーボンナノホーンやその頭部に穴があいたコップ型のナノカーボン物質等も用いることができる。
【0076】
上記カーボンナノチューブ(B)の製造方法は、特に限定されるものではない。具体的には、二酸化炭素の接触水素還元、アーク放電法、レーザー蒸発法、CVD法、気相成長法、気相流動法、一酸化炭素を高温高圧化で鉄触媒と共に反応させて気相で成長させるHiPco法等が挙げられる。
【0077】
上記カーボンナノチューブ(B)としては、これらの製造方法によって得られる単層カーボンナノチューブ及び多層カーボンナノチューブであることが好ましく、各種機能をより発現しやすい点から、更に洗浄法、遠心分離法、ろ過法、酸化法、クロマトグラフ法等の種々の精製法によって、より高純度化されたカーボンナノチューブであることがより好ましい。
【0078】
また、上記カーボンナノチューブ(B)としては、前述の材料を、ボールミル、振動ミル、サンドミル、ロールミル等のボール型混練装置等を用いて粉砕しているものや、化学的、物理的処理によって短く切断されているものを用いることもできる。
【0079】
[溶媒(C)]
本発明における溶媒(C)は、上記水溶性導電性ポリマー(A)及び上記カーボンナノチューブ(B)の分散性をより向上させ、塗工性、操作性等を向上させる役割を果たす。溶媒(C)は、上記カーボンナノチューブ(B)を溶解又は分散するものであれば特に限定されないが、上記水溶性導電性ポリマー(A)を溶解又は分散するものが好ましい。
【0080】
上記溶媒(C)としては、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、プロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、エチルイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジアセトンアルコール等のケトン類;酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸n−アミル、セロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル類;エチレングリコール、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル等のエチレングリコール類;プロピレングリコール、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコールブチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のプロピレングリコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン等のピロリドン類;ジメチルスルオキシド、γ−ブチロラクトン、乳酸メチル、乳酸エチル、β−メトキシイソ酪酸メチル、α−ヒドロキシイソ酪酸メチル等のヒドロキシエステル類等;アニリン、N−メチルアニリン等のアニリン類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、m−クレゾール、アセトニトリル、テトラハイドロフラン、1,4−ジオキサン、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、メトキシプロパノールが好ましい。
なかでも、上記水溶性導電性ポリマー(A)の溶解性、上記カーボンナノチューブ(B)の分散性の点から、水又は含水有機溶剤がより好ましい。
【0081】
[塩基性化合物(D)]
本発明におけるカーボンナノチューブ含有組成物は、前述の水溶性導電性ポリマー(A)、カーボンナノチューブ(B)、溶媒(C)以外に、塩基性化合物(D)をさらに含有することが好ましい。塩基性化合物(D)は、カーボンナノチューブ含有組成物に添加することで、構成成分である水溶性導電性ポリマー(A)を脱ドープし、組成物中への溶解性をより向上させるとともに、カーボンナノチューブ(B)の組成物への可溶化あるいは分散化を促進させる。
【0082】
上記塩基性化合物(D)は、特に限定されないが、アンモニア、脂式アミン類、環式飽和アミン類、環式不飽和アミン類、アンモニウム塩類、無機塩基が好ましい。
アンモニア及び脂式アミン類の構造式を下記一般式(16)に示す。また、アンモニウム塩類の構造式を下記一般式(17)に示す。
【0083】
【化16】

【0084】
(式(16)中、R201〜R203は各々互いに独立に、水素、炭素数1〜4のアルキル基、CHOH、CHCHOH、CONH又はNHを表す。)
【0085】
【化17】

【0086】
(式(17)中、R204〜R207は各々互いに独立に、水素、炭素数1〜4のアルキル基、CHOH、CHCHOH、CONH又はNHを表し、ZはOH、1/2・SO2−、NO、1/2CO2−、HCO、1/2・(COO)2−、又はR208COOを表し、R208は炭素数1〜3のアルキル基である。)
【0087】
環式飽和アミン類としては、ピペリジン、ピロリジン、モリホリン、ピペラジン及びこれらの骨格を有する誘導体及びこれらのアンモニウムヒドロキシド化合物が好ましい。
環式不飽和アミン類としては、ピリジン、α−ピコリン、β−ピコリン、γ−ピコリン、キノリン、イソキノリン、ピロリン及びこれらの骨格を有する誘導体及びこれらのアンモニウムヒドロキシド化合物が好ましい。
無機塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等の水酸化物塩が好ましい。
【0088】
上記塩基性化合物(D)は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。例えば、アミン類とアンモニウム塩類を混合して用いることにより、得られるカーボンナノチューブ含有層の導電性をさらに向上させることができる。具体的には、NH/(NHCO、NH/(NH)HCO、NH/CHCOONH、NH/(NHSO、N(CH/CHCOONH、N(CH/(NHSO等の併用が挙げられる。また、これらの混合比(質量比)は任意の割合とすることができるが、アミン類/アンモニウム塩類=1/10〜10/1であることが好ましい。
【0089】
[高分子化合物(E)]
また、本発明におけるカーボンナノチューブ含有組成物は、高分子化合物(E)をさらに含有することが好ましい。高分子化合物(E)を含有させることにより、耐水性導電体の基材密着性、強度を更に向上させることができる。
高分子化合物(E)としては、本発明におけるカーボンナノチューブ含有組成物に溶解又は分散できるものであれば特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルコール類;ポリアクリルアマイド、ポリ(N−t−ブチルアクリルアマイド)、ポリアクリルアマイドメチルプロパンスルホン酸等のポリアクリルアマイド類;ポリビニルピロリドン類、ポリスチレンスルホン酸及びそのソーダ塩類、セルロース、アルキド樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリブタジエン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ビニルエステル樹脂、ユリア樹脂、ポリイミド樹脂、マレイン酸樹脂、ポリカーボネート樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、スチレン樹脂、アクリル/スチレン共重合樹脂、酢酸ビニル/アクリル共重合樹脂、ポリエステル樹脂、スチレン/マレイン酸共重合樹脂、フッ素樹脂及びこれらの共重合体等が用いられる。
これらの高分子化合物(E)は、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0090】
これら高分子化合物(E)の中でも、水溶性導電性ポリマー(A)としてスルホン酸基のアンモニウム塩及び/又はカルボキシ基のアンモニウム塩を有する導電性ポリマーを用いる場合は、溶媒への溶解性、組成物の安定性、導電性の点から、アルキド樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリブタジエン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ビニルエステル樹脂、ユリア樹脂、ポリイミド樹脂、マレイン酸樹脂、ポリカーボネート樹脂、酢酸ビニル樹脂、スチレン樹脂、アクリル/スチレン共重合樹脂、酢酸ビニル/アクリル共重合樹脂、ポリエステル樹脂、スチレン/マレイン酸共重合樹脂が好ましく、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリブタジエン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル/スチレン共重合樹脂、酢酸ビニル/アクリル共重合樹脂、ポリエステル樹脂のうちの1種又は2種以上を混合して使用することが特に好ましい。
【0091】
また、アンモニウム塩を形成させていない酸性基(a)を有する水溶性導電性ポリマー(A)を用いる場合は、水溶性高分子化合物又は水系でエマルジョンを形成する高分子化合物の溶媒への溶解性、組成物の安定性、導電性の点から、アニオン基を有する高分子化合物が好ましく、水系アクリル樹脂、水系ポリエステル樹脂、水系ウレタン樹脂、水系塩素化ポリオレフィン樹脂及び四フッ化エチレン樹脂等の水系フッ素樹脂のうちの1種又は2種以上を混合して使用することがより好ましい。
【0092】
[界面活性剤(F)]
また、本発明におけるカーボンナノチューブ含有組成物には、界面活性剤(F)をさらに含有させてもよい。界面活性剤(F)を含有させることにより、カーボンナノチューブ(B)の可溶化あるいは分散化をさらに促進させるとともに、カーボンナノチューブ含有層の平坦性、塗工性及び導電性等が向上する。
【0093】
上記界面活性剤(F)としては、例えば、アルキルスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルカルボン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、α−オレフィンスルホン酸、ジアルキルスルホコハク酸、α−スルホン化脂肪酸、N−メチル−N−オレイルタウリン、石油スルホン酸、アルキル硫酸、硫酸化油脂、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸、アルキルリン酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物及びこれらの塩等のアニオン系界面活性剤;第一〜第三脂肪アミン、四級アンモニウム、テトラアルキルアンモニウム、トリアルキルベンジルアンモニウムアルキルピリジニウム、2−アルキル−1−アルキル−1−ヒドロキシエチルイミダゾリニウム、N,N−ジアルキルモルホリニウム、ポリエチレンポリアミン脂肪酸アミド、ポリエチレンポリアミン脂肪酸アミドの尿素縮合物、ポリエチレンポリアミン脂肪酸アミドの尿素縮合物の第四級アンモニウム及びこれらの塩等のカチオン系界面活性剤;N,N−ジメチル−N−アルキル−N−カルボキシメチルアンモニウムベタイン、N,N,N−トリアルキル−N−スルホアルキレンアンモニウムベタイン、N,N−ジアルキル−N,N−ビスポリオキシエチレンアンモニウム硫酸エステルベタイン、2−アルキル−1−カルボキシメチル−1−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン等のベタイン類、N,N−ジアルキルアミノアルキレンカルボン酸塩等のアミノカルボン酸類等の両性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、多価アルコール脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン化ヒマシ油、脂肪酸ジエタノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルアミン、トリエタノールアミン脂肪酸部分エステル、トリアルキルアミンオキサイド等の非イオン系界面活性剤;及びフルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルベンゼンスルホン酸、パーフルオロアルキルポリオキシエチレンエタノール等のフッ素系界面活性剤が挙げられる。ここで、アルキル基は炭素数1〜24が好ましく、炭素数3〜18がより好ましい。 これらの界面活性剤(F)は、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0094】
[粒状物質(G)]
また、本発明におけるカーボンナノチューブ含有組成物には、粒状物質(G)をさらに含有させてもよい。粒状物質(G)を含有させることにより、カーボンナノチューブ含有層の導電性をさらに向上させることができる。
上記粒状物質(G)は、導電性を有する粒子状の物質であれば特に限定されず、例えば、有機系粒子、無機系粒子、セラミックス系粒子、金属酸化物粒子、金属粒子、染料、顔料等が挙げられる。
【0095】
具体的には、アクリル系等の樹脂粒子、シリカ、コロイダルシリカ、板状アルミナ、繊維状アルミナ、ジルコニア、スピネル、タルク、ムライト、コージエライト、炭化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化イットリウム、酸化セリウム、酸化サマリウム、酸化ランタン、酸化テルビウム、酸化ユーロピウム、酸化ネオジム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化錫、酸化銅、酸化ホルミニウム、酸化ビスマス、酸化コバルト、フッ化グネシウム、酸化スズ、酸化インジウム、アンチモン含有酸化スズ(ATO)、スズ含有酸化インジウム(ITO)、アンチモ酸亜鉛、五酸化アンチモン、金、銀、銅、ニッケル等の金属粒子、ヘマタイト、コバルトブルー、コバルトバイオレット、コバルトグリーン、マグネタイト、Mn−Znフェライト、Ni−Znフェライト、チタン酸バリウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。
【0096】
これら粒状物質(G)の中でも、より導電性に優れる点から、酸化イットリウム、酸化セリウム、酸化サマリウム、酸化ランタン、酸化テルビウム、酸化ユーロピウム、酸化ネオジム、酸化亜鉛、酸化チタン、フッ化マグネシウム、酸化スズ、酸化インジウム、アンチモン含有酸化スズ(ATO)、スズ含有酸化インジウム(ITO)、アンチモ酸亜鉛、五酸化アンチモン、金、銀、銅、ニッケル等の金属粒子が好ましい。
また、溶媒(C)に対する分散性に優れる点で、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウム、アンチモン含有酸化スズ(ATO)、スズ含有酸化インジウム(ITO)、アンチモ酸亜鉛、五酸化アンチモン、金、銀、銅、ニッケル等の金属粒子が好ましい。
【0097】
また、本発明におけるカーボンナノチューブ含有組成物には、必要に応じて、さらに可塑剤、分散剤、塗面調整剤、流動性調整剤、紫外線吸収剤、保存安定剤、接着助剤、増粘剤、前記水溶性導電性ポリマー(A)以外の熱可塑性ポリマー、スリップ剤、レベリング剤、紫外線吸収剤、重合禁止剤、帯電防止剤、無機フィラー、有機フィラー、表面有機化処理した無機フィラー等の公知の各種物質を含有させてもよい。
また、カーボンナノチューブ含有組成物から形成される層の導電性をさらに向上させるために、カーボンナノチューブ含有組成物に導電性物質を含有させることもできる。該導電性物質としては、炭素繊維、導電性カーボンブラック、黒鉛等の炭素系物質等が挙げられる。
【0098】
本発明におけるカーボンナノチューブ含有組成物は、以上説明したような水溶性導電性ポリマー(A)、カーボンナノチューブ(B)、及び溶媒(C)を含有する組成物であり、必要に応じて、塩基性化合物(D)、高分子化合物(E)、界面活性剤(F)、粒状物質(G)を含有させることができる。
以下、これらの組成比について説明する。
【0099】
上記水溶性導電性ポリマー(A)と上記溶媒(C)との使用割合は、溶媒(C)100質量部に対して、水溶性導電性ポリマー(A)が0.001〜50質量部であることが好ましく、0.01〜30質量部であることがより好ましい。水溶性導電性ポリマー(A)が0.001質量部以上であれば、十分な導電性が得られやすく、カーボンナノチューブ(B)の可溶化あるいは分散化の効率がより向上する。また、水溶性導電性ポリマー(A)が50質量部以下であれば、高粘度化によるカーボンナノチューブ(B)の可溶化あるいは分散化の効率の低下を抑制しやすい。また、水溶性導電性ポリマー(A)が50質量部を超えても導電性はそれ以上大きく増加することはない。
【0100】
上記カーボンナノチューブ(B)と上記溶媒(C)の使用割合は、上記溶媒(C)100質量部に対して、上記カーボンナノチューブ(B)が0.0001〜20質量部であることが好ましく、0.001〜10質量部であることがより好ましい。上記カーボンナノチューブ(B)が0.0001質量部以上であれば、導電性等のカーボンナノチューブ(B)による性能が十分に得られやすい。また、カーボンナノチューブ(B)が20質量部以下であれば、カーボンナノチューブ(B)の可溶化あるいは分散化の効率が低下することを抑制しやすい。
【0101】
上記塩基性化合物(D)と上記溶媒(C)の使用割合は、溶媒(C)100質量部に対して、塩基性化合物(D)が0.00001〜10質量部であることが好ましく、0.00005〜5質量部であることがより好ましい。塩基性化合物(D)が0.00001質量部以上であれば、水溶性導電性ポリマー(A)の溶解性が高くなり、カーボンナノチューブ(B)の溶媒(C)への可溶化あるいは分散化が促進され、カーボンナノチューブ含有組成物から形成される層の導電性がより向上する。また、塩基性化合物(D)が10質量部を超えると、水溶性導電性ポリマーの導電性が低下するおそれがある。
【0102】
上記高分子化合物(E)と上記溶媒(C)の使用割合は、溶媒(C)100質量部に対して、高分子化合物(E)が0.1〜400質量部であることが好ましく、0.5〜300質量部であることがより好ましい。高分子化合物(E)が0.1質量部以上であれば、成膜性、成形性、強度がより向上する。また、高分子化合物(E)が400質量部以下であれば、水溶性導電性ポリマー(A)やカーボンナノチューブ(B)の溶解性の低下が少なく、優れた導電性を維持しやすい。
【0103】
上記界面活性剤(F)と上記溶媒(C)の使用割合は、溶媒(C)100質量部に対して、界面活性剤(F)が0.0001〜10質量部であることが好ましく、0.01〜5質量部であることがより好ましい。界面活性剤(F)が0.0001質量部以上であれば、塗工性、導電性、カーボンナノチューブ(B)の可溶化あるいは分散化がより向上する。また、界面活性剤(F)が10質量部を超えると、塗工性は向上するが、導電性が劣る等の現象が生じるとともに、カーボンナノチューブ(B)の可溶化あるいは分散化の効率が低下するおそれがある。
【0104】
上記粒状物質(G)と上記溶媒(C)の使用割合は、溶媒(C)100質量部に対して、粒状物質(G)が0.0001〜50質量部であることが好ましく、0.001〜30質量部であることがより好ましい。粒状物質(G)が0.0001質量部以上であれば、カーボン含有複合体中のカーボンナノチューブ(B)に効率良く導通パスを形成しやすく、導電性、透明性を向上させやすい。また、粒状物質(G)が50質量部以下であれば、カーボンナノチューブ(B)及び粒状物質(G)の可溶化あるいは分散化の効率の低下を抑制しやすい。
【0105】
[カーボンナノチューブ含有組成物の製造方法]
本発明におけるカーボンナノチューブ含有組成物の必須成分である水溶性導電性ポリマー(A)、カーボンナノチューブ(B)、溶媒(C)、及び、必要に応じて塩基性化合物(D)、高分子化合物(E)、界面活性剤(F)、粒状物質(G)等を混合する際には、超音波、ホモジナイザー、スパイラルミキサー、プラネタリーミキサー、ディスパーサー、ハイブリットミキサー等の撹拌又は混練装置が用いられる。なかでも、水溶性導電性ポリマー(A)、カーボンナノチューブ(B)、溶媒(C)、あるいは更に他の成分を混合し、これに超音波を照射することが好ましく、この際、超音波照射とホモジナイザーを併用(超音波ホモジナイザー)して処理をすることが特に好ましい。
【0106】
超音波照射処理の条件は、特に限定されるものではなく、カーボンナノチューブ(B)又は粒状物質(G)を溶媒(C)中に均一に分散あるいは溶解させるのに十分な超音波の強度と処理時間であればよい。例えば、超音波発振機における定格出力は、超音波発振機の単位底面積当たり0.1〜500ワット/cmが好ましい。発振周波数は、10〜200kHzが好ましく、20〜100kHzがより好ましい。また、超音波照射処理の時間は、1分〜48時間が好ましく、5分〜48時間がより好ましい。また、超音波照射処理を行う際のカーボンナノチューブ含有組成物の温度は、分散性向上の点から、60℃以下が好ましく、40℃以下がより好ましい。
また、この超音波照射処理の後、さらにボールミル、ビーズミル、振動ミル、サンドミル、ロールミル等のボール型混練装置を用いて分散あるいは溶解を徹底化することが好ましい。
【0107】
所定の構成成分を混合する際には、すべての成分を一括添加してもよいし、溶媒(C)のうち、その少量を用いて、濃厚なカーボンナノチューブ含有組成物を調製した後、残りの溶媒(C)で所定の濃度に希釈してもよい。また、溶媒(C)を2種類以上混合して用いる場合には、使用する溶媒(C)のうち1成分以上を用いて、濃厚なカーボンナノチューブ含有組成物を調製し、その後、その他の溶媒(C)成分で希釈してもよい。
【0108】
<カーボンナノチューブ含有層の製造方法>
本発明のカーボンナノチューブ含有層の製造方法は、前述のカーボンナノチューブ含有組成物を基材の少なくとも一方の面上に塗工して塗膜を形成する
【0109】
本発明の光電変換素子に用いることのできる基材としては、高分子化合物、プラスチック、木材、紙材、セラミックス、繊維、不織布、炭素繊維、炭素繊維紙、及びこれらのフィルム、発泡体、多孔質膜、エラストマー、そしてガラス板、金属板等が挙げられる。
【0110】
高分子化合物、プラスチック及びフィルムの具体例としては、例えば、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)樹脂、AS(アクリロニトリル−スチレン)樹脂、メタクリル樹脂、ポリブタジエン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリアラミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルニトリル、ポリアミドイミド、ポリエーテルサルホン、ポリサルホン、ポリエーテルイミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリウレタン、これらのフィルム、発泡体及びエラストマー等が挙げられる。
これらのフィルムは、少なくともその一つの面上にカーボンナノチューブ含有層を形成させ、かつ該層の密着性を向上させる目的で、その表面にコロナ表面処理又はプラズマ処理が施されていることが好ましい。
【0111】
基材にカーボンナノチューブ含有組成物を塗工してカーボンナノチューブ含有層を形成する方法は、所望のカーボンナノチューブ含有層を形成でできる方法であればよく、例えば、グラビアコーター、ロールコーター、カーテンフローコーター、スピンコーター、バーコーター、リバースコーター、キスコーター、ファンテンコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、キャストコーター、スクリーンコーター等の塗布方法、エアスプレー、エアレススプレー等のスプレーコーティング等の噴霧方法、ディップ等の浸漬方法等を用いられる。
【0112】
カーボンナノチューブ含有層の膜厚は、0.01〜100μmであることが好ましく、0.1〜50μmであることがより好ましい。
カーボンナノチューブ含有層の膜厚が0.01μm以上であれば、成膜性がよい均一なカーボンナノチューブ含有層が得られやすい。また、カーボンナノチューブ含有層の膜厚が100μm以下であれば、カーボンナノチューブ含有層の柔軟性が保持される。
【0113】
カーボンナノチューブ含有層の導電性を更に向上させるための酸によるドーピング処理方法は、特に限定されず公知の方法を用いることができる。例えば、酸性溶液中に基材に塗工したカーボンナノチューブ含有層を浸漬させる等の処理によりドーピング処理を行うことができる。酸性溶液は、具体的には、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸や、p−トルエンスルホン酸、カンファスルホン酸、安息香酸及びこれらの骨格を有する誘導体等の有機酸や、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパン)スルホン酸、ポリビニル硫酸及びこれらの骨格を有する誘導体等の高分子酸を含む水溶液、あるいは、水−有機溶媒の混合溶液である。なお、これらの無機酸、有機酸、高分子酸はそれぞれ単独で用いても、また2種以上を任意の割合で混合して用いてもよい。
【実施例】
【0114】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によっては限定されない。
(製造例1)水溶性導電性ポリマー(A−1)
ポリ(2−スルホ−5−メトキシ−1,4−イミノフェニレン)の合成:
2−アミノアニソール−4−スルホン酸100mmolを25℃で4mol/Lのトリエチルアミン水溶液40mLに攪拌溶解し、これにペルオキソ二硫酸アンモニウム100mmolの水溶液を滴下した。滴下終了後、25℃で12時間更に攪拌した後に、反応生成物を濾別洗浄後、乾燥し、ポリマー粉末(水溶性導電性ポリマー(A−1))15gを得た。この水溶性導電性ポリマー(A−1)の体積抵抗値は9.0Ω・cmであった。
【0115】
カーボンナノチューブ(B)は、以下に示すものを使用した。
カーボンナノチューブ(B):ナノシル社によりCVD法(化学的気相成長法)にて製造された多層カーボンナノチューブ「商品名:NC7000」。
以下、カーボンナノチューブを「CNT」と略記することもある。
【0116】
<カーボンナノチューブ含有組成物>
(製造例2)組成物1〜4
表1に示す組成で上記製造例1の水溶性導電性ポリマー(A)、カーボンナノチューブ(B)、塩基性化合物(D)および高分子化合物(E)を、溶媒(C)である水100質量部に室温にて混合し、超音波ホモジナイザー処理(SONIC社製 vibra cell 20kHz)を1時間実施し、組成物1〜4を調製した。
【0117】
【表1】

【0118】
<実施例1>
(対極)
カーボンナノチューブ含有組成物1をチタン基板上に適量滴下し、スピンコート法(塗布条件:350rpm×10秒⇒1500rpm×60秒)にて塗布してカーボンナノチューブ含有層を形成後、ホットプレート上で80℃、2分で加熱処理をして対極を作成した。
【0119】
(作用極)
透明電極基板として、フッ素ドープSnO(FTO)膜付きガラス基板を用い、この透明電極基板のFTO膜(導電層)側の表面に、平均粒径20nmの酸化チタンがスラリー状の分散水溶液を塗布し、乾燥後、450℃にて1時間加熱処理することにより、厚さ7μmの酸化物半導体多孔質膜を形成した。さらにルテニウム錯体(N3色素またはブラックダイ色素)のエタノール溶液中に1晩浸漬して色素を担持させ、作用極を作製した。
【0120】
(電解質)
電解液には、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウム ヨウ化物(HMIm−I)中に所定量のヨウ化リチウム、ヨウ素、4−t−ブチルピリジンを溶解させたものを用いた。
なお、対極中に電解液を十分に浸透させるため、予め、同組成の電解液中に1晩以上浸漬しておいた。
【0121】
対極を挟んだ形で、所定厚さのポリプロピレンスペーサと熱可塑性樹脂シートを用いて2枚の作用極を貼り合わせ、予め設けた注液孔より電解液を充填し、孔を塞いだ。このとき、電流取り出し端子を確保するため、2枚の作用極は互いに数mmずらした形で貼り合わせた。
また、対極からの電流取り出し端子を確保するために、作用極の短辺方向から対極の一部をはみ出させた形で封止した。対極はみ出し部からの液漏れを防止するため、封止部周辺を更にUV硬化性のアクリルベース樹脂層を形成した。
以上のようにして、両面に受光部を有する光電変換素子の試験セルを作製した。
【0122】
<実施例2>
カーボンナノチューブ含有組成物1に替えてカーボンナノチューブ含有組成物2を用いたこと以外は、実施例1と同様にして対極を作製した。
この対極を用いて、実施例1と同様にして光電変換素子を作製した。
【0123】
<実施例3>
カーボンナノチューブ含有組成物3をガラス基板上に適量滴下し、スピンコート法(塗布条件:350rpm×10秒⇒1500rpm×60秒)にて塗布してカーボンナノチューブ含有層を形成後、ホットプレート上で80℃、2分で加熱処理をして透明電極基板を作製した。この透明電極基板のカーボンナノチューブ含有複合体側の表面に、平均粒径20nmの酸化チタンがスラリー状の分散水溶液を塗布し、乾燥後、450℃にて1時間加熱処理することにより、厚さ7μmの酸化物半導体多孔質膜を形成した。さらにルテニウム錯体(N3色素またはブラックダイ色素)のエタノール溶液中に1晩浸漬して色素を担持させ作製した作用極を用いたこと以外は、実施例1と同様にして光電変換素子を作製した。
【0124】
<比較例1>
チタン基板上に、白金からなる導電膜を蒸着法により形成して対極を作製した。このようにして得られた対極を用いたこと以外は、実施例1と同様にして光電変換素子を作製した。
【0125】
<比較例2>
カーボンナノチューブ含有組成物1に替えてカーボンナノチューブ含有組成物4を用いたこと以外は、実施例1と同様にして対極を作製した。
この対極を用いて、実施例1と同様にして光電変換素子を作製した。
【0126】
以上のようにして作成された、各実施例および比較例の光電変換素子について評価試験を行った。
【0127】
(光電変換効率)
各実施例および比較例の光電変換素子について、光電変換効率を測定した。
(長期安定性)
作製直後のセルと1000時間光照射後のセルの光電変換効率の変化を調べた。1000時間光照射後の光電変換効率が初期変換効率に対して低下率が10%以内の場合を「変化なし」とした。以上の評価結果を表2に示す。
【0128】
【表2】

【0129】
比較例2では、カーボンナノチューブ含有組成物におけるカーボンナノチューブの分散性が低いため、チタン基板上でカーボンナノチューブが均一に分散されたカーボンナノチューブ含有層が得られなかった。そのため、長期安定性評価は実施しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明は、光電変換素子および光電変換素子の製造方法に適用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に形成された導電性層の少なくとも一部に色素担持された酸化物半導体多孔質膜層を有した作用極と、該作用極に対向して配置されて基材上に導電性層が形成された対極と、前記作用極と前記対極の間に電解質層とを備えてなる光電変換素子であって、
前記作用極及び/又は対極の導電性層が、水溶性導電性ポリマー(A)及びカーボンナノチューブ(B)を含む組成物から形成されるカーボンナノチューブ含有層を有する光電変換素子。
【請求項2】
前記作用極の導電性層が、水溶性導電性ポリマー(A)及びカーボンナノチューブ(B)を含む組成物から形成されるカーボンナノチューブ含有層を有する請求項1記載の光電変換素子。
【請求項3】
前記対極の導電性層が、水溶性導電性ポリマー(A)及びカーボンナノチューブ(B)を含む組成物から形成されるカーボンナノチューブ含有層を有する請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項4】
基材上に形成された導電性層の少なくとも一部に色素担持された酸化物半導体多孔質膜層を有した作用極と、該作用極に対向して配置されて基材上に導電性層が形成された対極と、前記作用極と前記対極の間に電解質層とを備えてなる光電変換素子の製造方法であって、前記作用極、前記対極及び前記電解質層から選ばれた少なくとも一つの面上に、水溶性導電性ポリマー(A)、カーボンナノチューブ(B)及び溶媒(C)を含有するカーボンナノチューブ含有組成物を塗工してカーボンナノチューブ含有層を形成する光電変換素子の製造方法。
【請求項5】
前記カーボンナノチューブ含有組成物が、塩基性化合物(D)をさらに含有する請求項4に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項6】
前記カーボンナノチューブ含有組成物が、高分子化合物(E)をさらに含有する請求項4又は5に記載の光電変換素子の製造方法。

【公開番号】特開2011−14411(P2011−14411A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−158216(P2009−158216)
【出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】