説明

光電変換素子

【課題】封止する際の熱工程による電解質や半導体への熱による劣化を防止し、優れた発電特性を有する光電変換素子を提供すること。
【解決手段】本発明に係る光電変換素子は、導電性の第一基材からなる対極と、絶縁性の透明な第二基材と、該第二基材の一面に透明導電膜を介して配され、少なくとも一部に色素を担持した多孔質酸化物半導体層とを備え、該多孔質酸化物半導体層が前記第一基材の一面と対向して配される作用極と、前記対極と前記作用極との間の少なくとも一部に配された電解質層と、から構成され、前記第一基材は、前記第二基材よりも狭い面積を有し、前記電解質層と前記第一基材の側面部を少なくとも被覆するように光硬化性樹脂を配したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子に係る。より詳しくは、新しい封止構造により、優れた発電特性を有する光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
環境問題、資源問題などを背景に、クリーンエネルギーとしての太陽電池が注目を集めている。太陽電池としては単結晶、多結晶あるいはアモルファスのシリコンを用いたものがある。しかし、従来のシリコン系太陽電池は製造コストが高い、原料供給が不充分などの課題が残されており、大幅普及には至っていない。
【0003】
また、Cu−In−Se系(CIS系とも呼ぶ)などの化合物系太陽電池が開発されており、極めて高い光電変換効率を示すなど優れた特徴を有しているが、コストや環境負荷などの問題があり、やはり大幅普及への障害となっている。
【0004】
これらに対して、色素増感型太陽電池は、スイスのグレッツェルらのグループなどから提案されたもので、安価で高い光電変換効率を得られる光電変換素子として着目されている(非特許文献1を参照)。
【0005】
図4は、従来の色素増感型太陽電池の一例を示す断面図である。
この色素増感型太陽電池100は、増感色素を担持させた多孔質半導体層103が一方の面に形成された第一基板101と、透明導電層104が形成された第二基板105と、これらの間に封入された例えばゲル状電解質からなる電解質層を主な構成要素としている。
【0006】
第一基板101としては、光透過性の板材が用いられ、第一基板101の色素増感半導体層103と接する面には導電性を持たせるために透明導電層102が配置されており、第一基板101、透明導電層102および多孔質半導体層103により作用極108をなす。
第二基板105としては、電解質層106と接する側の面には導電性を持たせるために例えば炭素や白金などからなる導電層104が設けられ、第二基板および導電層104により対極109を構成している。
【0007】
多孔質半導体層103と導電層104が対向するように、第一基板101と第二基板105を所定の間隔をおいて配置し、両基板間の周辺部に熱硬化性樹脂からなる封止剤107を設ける。
そして、この封止剤107を介して2つの基板101、105を貼り合わせてセルを組み上げ、電解液の注入口110を介して、両極108、109間にヨウ素・ヨウ化物イオンなどの酸化・還元対を含む有機電解液を充填し、電荷移送用の電解質層106を形成したものが挙げられる。
【0008】
しかしながら、上記のような構造の従来の光電変換素子では、熱硬化性樹脂を用いて封止していたため、封止の際の熱工程により電解質や増感色素が劣化し、発電特性が低下してしまうという問題があった。
【0009】
また、従来の光電変換素子では、対極への電気的接触を確立するために、対極の基板自体を、導電性を有するものとし、そこへさらに別の導電性を有するもの(取り出し電極)を物理的に接触させることにより、対極側の端子を取り出していた。
【0010】
しかしながら、セルサイズが大型化するに伴い、流れる電流量が増加し、対極基板と取り出し電極との接触部分におけるIRドロップの影響が無視できなくなってきた。対極に使用する基板としては、電解液によって溶解などを起こさない耐食性が必要であり、金属チタン板が用いられている。しかし、チタンへは直接リード線をはんだ付けできないために、外部との電気的接続は、物理的接触に頼らざるを得ない状態であった。
【非特許文献1】O’ Regan B, Gratzel M. A low cost, high-efficiency solar cell based on dye-sensitized colloidal TiO2 films, Nature 1991;353:737-739
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、封止する際の熱工程による電解質や増感色素への熱による劣化を防止し、優れた発電特性を有する光電変換素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の請求項1に記載の光電変換素子は、導電性の第一基材からなる対極と、絶縁性の透明な第二基材と、該第二基材の一面に透明導電膜を介して配され、少なくとも一部に色素を担持した多孔質酸化物半導体層とを備え、該多孔質酸化物半導体層が前記第一基材の一面と対向して配される作用極と、前記対極と前記作用極との間の少なくとも一部に配された電解質層と、から構成され、前記第一基材は、前記第二基材よりも狭い面積を有し、前記電解質層と前記第一基材の側面部を少なくとも被覆するように硬化性樹脂を配したことを特徴とする。
本発明の請求項2に記載の光電変換素子は、請求項1において、前記硬化性樹脂は、前記対極の前記作用極と反対側の面上であって、外縁部も被覆するように配されていることを特徴とする。
本発明の請求項3に記載の光電変換素子は、請求項1または2において、前記対極は、導電部材から構成され、前記作用極と反対側の面には、該導電部材と異なる金属からなる被膜が配されていることを特徴とする。
本発明の請求項4に記載の光電変換素子は、請求項3において、前記導電部材はチタン基板であり、前記被膜は、はんだ付け可能な単一金属、または該金属を主成分とする合金からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、作用極よりも狭い面積を有する対極と電解質層との側面部を少なくとも被覆するように硬化性樹脂を配することで封止しているので、封止の際の熱工程が不要となるので、電解質や増感色素の熱による劣化を防止し、優れた発電特性を有する光電変換素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る光電変換素子10の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
図1は、本発明に係る光電変換素子10A(10)の一実施形態を示す概略断面図である。
本発明の光電変換素子10は、導電性の第一基材11からなる対極12と、絶縁性の透明な第二基材13と、該第二基材13の一面に透明導電膜14を介して配され、少なくとも一部に色素を担持した多孔質酸化物半導体層15とを備え、該多孔質酸化物半導体層15が前記第一基材11の一面と対向して配される作用極16と、前記対極11と前記作用極16との間の少なくとも一部に配された電解質層17と、から構成される。
【0016】
そして、本発明の光電変換素子10は、前記第一基材11は、前記第二基材13よりも狭い面積を有し、前記電解質層17と前記第一基材11の側面部を少なくとも被覆するように硬化性樹脂18を配したことを特徴とする。
作用極16よりも狭い面積を有する対極12と電解質層17との側面部を少なくとも被覆するように硬化性樹脂18を配することで封止しているので、封止の際の熱工程が不要となるので、電解質や増感色素の熱による劣化を防止し、優れた発電特性を有することができる。
【0017】
図2に示す光電変換素子10B(10)のように、前記硬化性樹脂18は、前記対極12の前記作用極16と反対側の面上であって、外縁部も被覆するように配されていることが好ましい。これにより、封止性が向上し、電解質の液漏れを確実に防止することができる。
【0018】
作用極16は、透明基材(第二基材)13、および、その一方の面に形成された透明導電膜14と、増感色素を担持させた多孔質酸化物半導体層15とから概略構成されている。
【0019】
透明基材13としては、光透過性の素材からなる基板が用いられ、ガラス、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホンなど、通常、光電変換素子10の透明基材として用いられるものであればいかなるものでも用いることができる。透明基材13は、これらの中から電解液への耐性などを考慮して適宜選択される。また、透明基材13としては、用途上、できる限り光透過性に優れる基板が好ましく、透過率が90%以上の基板がより好ましい。
【0020】
透明導電膜14は、透明基材13に導電性を付与するために、その一方の面に形成された薄膜である。透明導電性基板の透明性を著しく損なわない構造とするために、透明導電膜14は、導電性金属酸化物からなる薄膜であることが好ましい。
透明導電膜14を形成する導電性金属酸化物としては、例えば、スズ添加酸化インジウム(ITO)、フッ素添加酸化スズ(FTO)、酸化スズ(SnO)などが用いられる。これらの中でも、成膜が容易かつ製造コストが安価であるという観点から、ITO、FTOが好ましい。また、透明導電膜14は、ITOのみからなる単層の膜、または、ITOからなる膜にFTOからなる膜が積層されてなる積層膜であることが好ましい。
【0021】
透明導電膜14を、ITOのみからなる単層の膜、または、ITOからなる膜にFTOからなる膜が積層されてなる積層膜とすることにより、可視域における光の吸収量が少なく、導電率が高い透明導電性基板を構成することができる。
【0022】
多孔質酸化物半導体層15は、透明導電膜14の上に設けられており、その表面には増感色素が担持されている。多孔質酸化物半導体層15を形成する半導体としては特に限定されず、通常、光電変換素子用の多孔質酸化物半導体を形成するのに用いられるものであれば、いかなるものでも用いることができる。このような半導体としては、例えば、酸化チタン(TiO)、酸化スズ(SnO)、酸化タングステン(WO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ニオブ(Nb)などを用いることができる。
【0023】
多孔質酸化物半導体層15を形成する方法としては、例えば、市販の酸化物半導体微粒子を所望の分散媒に分散させた分散液、あるいは、ゾル−ゲル法により調製できるコロイド溶液を、必要に応じて所望の添加剤を添加した後、スクリーンプリント法、インクジェットプリント法、ロールコート法、ドクターブレード法、スプレー塗布法など公知の塗布方法により塗布した後、このポリマーマイクロビーズを加熱処理や化学処理により除去して空隙を形成させ多孔質化する方法などを適用することができる。
【0024】
増感色素としては、ピピリジン構造、ターピリジン構造などを配位子に含むルテニウム錯体、ポリフィリン、フタロシアニンなどの含金属錯体、エオニン、ローダミン、メロシアニンなどの有機色素などを適用することができ、これらの中から、用途、使用半導体に適した挙動を示すものを特に限定なく選ぶことができる。
【0025】
電解質層17は、多孔質酸化物半導体層15内に電解液を含浸させてなるものか、または、多孔質酸化物半導体層15内に電解液を含浸させた後に、この電解液を適当なゲル化剤を用いてゲル化(擬固体化)して、多孔質酸化物半導体層15と一体に形成されてなるもの、あるいは、イオン性液体、酸化物半導体粒子若しくは導電性粒子を含むゲル状の電解質が用いられる。
【0026】
上記電解液としては、ヨウ素、ヨウ化物イオン、ターシャリ−ブチルピリジンなどの電解質成分が、エチレンカーボネートやメトキシアセトニトリルなどの有機溶媒に溶解されてなるものが用いられる。
この電解液をゲル化する際に用いられるゲル化剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンオキサイド誘導体、アミノ酸誘導体などが挙げられる。
【0027】
上記イオン性液体としては、特に限定されるものではないが、室温で液体であり、四級化された窒素原子を有する化合物をカチオンまたはアニオンとした常温溶融性塩が挙げられる。
常温溶融性塩のカチオンとしては、四級化イミダゾリウム誘導体、四級化ピリジニウム誘導体、四級化アンモニウム誘導体などが挙げられる。
常温溶融塩のアニオンとしては、BF、PF、F(HF)、ビストリフルオロメチルスルホニルイミド[N(CFSO]、ヨウ化物イオンなどが挙げられる。
イオン性液体の具体例としては、四級化イミダゾリウム系カチオンとヨウ化物イオンまたはビストリフルオロメチルスルホニルイミドイオンなどからなる塩類を挙げることができる。
【0028】
上記酸化物半導体粒子としては、物質の種類や粒子サイズなどが特に限定されないが、イオン性液体を主体とする電解液との混和製に優れ、この電解液をゲル化させるようなものが用いられる。また、酸化物半導体粒子は、電解質の導電性を低下させることがなく、電解質に含まれる他の共存成分に対する化学的安定性に優れることが必要である。特に、電解質がヨウ素/ヨウ化物イオンや、臭素/臭化物イオンなどの酸化還元対を含む場合であっても、酸化物半導体粒子は、酸化反応による劣化を生じないものが好ましい。
このような酸化物半導体粒子としては、TiO、SnO、WO、ZnO、Nb、In、ZrO、Ta、La、SrTiO、Y、Ho、Bi、CeO、Alからなる群から選択される1種または2種以上の混合物が好ましく、二酸化チタン微粒子(ナノ粒子)が特に好ましい。この二酸化チタンの平均粒径は2nm〜1000nm程度が好ましい。
【0029】
上記導電性微粒子としては、導電体や半導体など、導電性を有する粒子が用いられる。この導電性粒子の比抵抗の範囲は、好ましくは1.0×10−2Ω・cm以下であり、より好ましくは、1.0×10−3Ω・cm以下である。また、導電性粒子の種類や粒子サイズなどは特に限定されないが、イオン性液体を主体とする電解液との混和性に優れ、この電解液をゲル化するようなものが用いられる。このような導電性微粒子には、電解質中において導電性が低下しにくく、電解質に含まれる他の共存成分に対する化学的安定性に優れることが求められる。特に、電解質がヨウ素/ヨウ化物イオンや、臭素/臭化物イオンなどの酸化還元対を含む場合でも、酸化反応などによる劣化を生じないものが好ましい。
このような導電性微粒子としては、カーボンを主体とする物質からなるものが挙げられ、具体例としては、カーボンナノチューブ、カーボンファイバ、カーボンブラックなどの粒子を例示できる。これらの物質の製造方法はいずれも公知であり、また、市販品を用いることもできる。
【0030】
対極12は、図3に示す光電変換素子10C(10)のように、導電性の第一基材11と、この一方の面上(前記作用極16と反対側の面)に配された、第一基材11と異なる金属からなる被膜19とから構成されていることが好ましい。
第一基材11としては、導電性を有する金属板が用いられるが、チタン板から構成されることが好ましい。
前記被膜19は、Cu等のはんだ付け可能な単一金属、または該金属を主成分とする合金から構成されることが好ましい。
【0031】
以上のような構成とすることにより、前記被膜19は、はんだとチタン基板との接合層として機能する。これにより、対極12の被膜19上にリード線をはんだ付けすることが可能となり、対極12と外部配線との電気的接続性を向上することができる。
また、前記被膜19の膜厚は、10nm〜10μmであることが好ましい。前記被膜19の膜厚を前記範囲とすることにより、折り曲げなどに対して剥離しない十分な密着性を有するものとなり、外部配線との電気的接続性をさらに向上することができる。
前記被膜19は、リード線のはんだ付けを可能とすればよく、第一基材11の全面に形成されていてもよいし、一部にのみ形成されていても構わない。
【0032】
硬化性樹脂18としては、対極12をなす第一基材11に対する接着性に優れるものであれば特に限定されないが、例えば、紫外線硬化性アクリル系樹脂に代表される光硬化型樹脂や、エポキシ接着剤に代表される二液硬化型樹脂、ポリウレタン樹脂に代表される湿気硬化型樹脂などが挙げられる。
【0033】
次に、この実施形態の光電変換素子10Cの製造方法について説明する。
まず、透明基材(第二基材)13の一方の面の全域を覆うように透明導電膜14を形成し、透明導電性基板を作製する。
透明導電膜14を形成する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、スパッタリング法、CVD(化学気相成長)法、スプレー熱分解法(SPD法)、蒸着法などの薄膜形成法が挙げられる。
【0034】
その中でも、前記透明導電膜14は、スプレー熱分解法により形成されたものであることが好ましい。透明導電膜14を、スプレー熱分解法により形成することで、容易にヘーズ率を制御することができる。また、スプレー熱分解法は、真空システムが不要なため、製造工程の簡素化低コスト化を図ることができるので好適である。
【0035】
次いで、透明導電膜14を覆うように、多孔質酸化物半導体層15を形成する。この多孔質酸化物半導体層15の形成は、主に塗布工程と乾燥・焼成工程からなる。
塗布工程とは、例えばTiO粉末と界面活性剤および増粘剤を所定の比率で混ぜ合わせてなるTiOコロイドのペーストを、親水性化を図った透明導電膜14の表面に塗布するものである。その際、塗布法としては、加圧手段(例えば、ガラス棒)を用いて前記コロイドを透明導電膜14上に押し付けながら、塗布されたコロイドが均一な厚さを保つように、加圧手段を透明導電膜14の上空を移動させる方法が挙げられる。
【0036】
乾燥・焼成工程とは、例えば大気雰囲気中におよそ30分間、室温にて放置し、塗布されたコロイドを乾燥させた後、電気炉を用いおよそ60分間、450℃の温度にて焼成する方法が挙げられる。
【0037】
次に、この塗布工程と乾燥・焼成工程により形成された多孔質酸化物半導体層15に対して色素担持を行う。
色素担持用の色素溶液は、例えばアセトニトリルとt−ブタノールを容積比で1:1とした溶媒に対して極微量のN3色素粉末を加えて調整したものを予め準備しておく。
シャーレ状の容器内に入れた色素溶媒に、別途電気炉にて120〜150℃程度に加熱処理した多孔質酸化物半導体層15を浸した状態とし、暗所にて一昼夜(およそ20時間)浸漬する。その後、色素溶液から取り出した多孔質酸化物半導体層15は、アセトニトリルとt−ブタノールからなる混合溶液を用い洗浄する。
上述した工程により、色素担持したTiO薄膜からなる多孔質酸化物半導体層15を透明基板上に設けてなる作用極16(窓極とも呼ぶ)を得る。
【0038】
一方、チタン板等の金属板からなる第一基材11の一方の面(前記作用極と反対側の面)に、Cu等のはんだ付け可能な単一金属、または該金属を主成分とする合金から構成される被膜19をスパッタリング法等により形成して対極12を得る。
【0039】
色素担持させたTiO薄膜からなる多孔質酸化物半導体層15が上方をなすように作用極16を配置し、電解質を塗布した後、この多孔質酸化物半導体層15と第一基材11が対向するように、対極12を作用極16に重ねて設ける。その後、すなわち作用極16と対極12の重なった外周付近に、硬化性樹脂18として未硬化(未重合)の光硬化性樹脂をディスペンサ等により供給し、紫外光を照射して光硬化性樹脂を硬化させて封止する。
このとき、光硬化性樹脂18を、前記対極12の前記作用極16と反対側の面上であって、外縁部も被覆するように供給することが好ましい。これにより、封止性が向上し、電解質の液漏れを確実に防止することができる。
【0040】
光照射の方法としては、特に限定されるものではないが、外周部に配された光硬化性樹脂18の部分のみ選択的に照射してもよいし、素子全体に照射してもよい。
対極12の第一基板11が不透明な材料からなるので、素子全体に光を照射しても、対極側から照射すれば素子内部には光は入射せず、電解質等が光によって劣化することはない。
【0041】
このようにして得られる光電変換素子は、作用極よりも狭い面積を有する対極と電解質層との側面部を少なくとも被覆するように光硬化性樹脂を配することで封止しているので、封止の際の熱工程が不要となる。これにより電解質や半導体の熱による劣化を防止し、優れた発電特性を有するものとなる。
【0042】
さらに、この光電変換素子では、対極の、作用極反対側の面に金属からなる被膜19が配されているので、対極にリード線をはんだ付けすることが可能となり、外部配線との接続性を向上することができる。
【実施例】
【0043】
(実施例1)
ガラス基板(410mm×140mm)上に、スプレー熱分解法によりITO透明導電膜を700nmの厚さに成膜した。
透明導電性基板の透明導電層上に、酸化チタン微粒子多孔質層を約6μmの厚さに形成した。そして該酸化チタン微粒子多孔質膜にN3色素(Ru(2,2’-bipyridine-4,4’-dicarboxylic acid)(NCS))を担持させることで多孔質酸化物半導体層を形成し、作用極を得た。
【0044】
対極は、金属チタン基板上に、銅からなる被膜をスパッタリング法により200nmの厚みに成膜することで作製した。
得られた作用極と対極との間に電解質を介在させて積層し、対極と電解質層との側面部に硬化性樹脂として紫外線硬化性アクリル系樹脂を配して封止することで色素増感型の光電変換素子を作製した。電解質には、メトキシアセトニトリルを溶媒とした揮発系電解液を用いた。
【0045】
(実施例2)
金属チタン基板上に、ニッケルからなる被膜をスパッタリング法により200nmの厚みに成膜することで対極を作製した。この対極を用いる他は、実施例1と同様にして光電変換素子を作製した。
【0046】
(比較例1)
実施例1と同様にして対極および作用極を作製した。
多孔質酸化物半導体層が上方をなすように作用極を配置し、この多孔質酸化物半導体層と金属チタン基板が対向するように、対極を作用極に重ねて設けることにより積層体が形成される。その後、積層体の側部、すなわち作用極と対極の重なった外周付近を、熱硬化性樹脂からなる封止部材で封止した。
封止部材が固化した後、積層体の空隙、すなわち作用極と対極と封止部材で囲まれた空間内に、対極に設けた注入口から電解質溶液を注入することにより光電変換素子を作製した。
【0047】
(比較例2)
ガラス基板上にFTO(フッ素ドープ酸化スズ)を成膜し、さらにその上に白金をスパッタリング法により成膜することで対極を作製した。この対極を用いる他は、比較例1と同様にして光電変換素子を作製した。
【0048】
以上のようにして得られた実施例および比較例の光電変換素子について発電特性を測定した。その結果を表1に示す。なお、実施例1にて作製したセルを用い、4端子法にて接触抵抗をキャンセルして測定した特性を、参考例として表1に併せて示す。
【0049】
【表1】

【0050】
表1から明らかなように、光硬化性樹脂を用いて封止した実施例1および実施例2の光電変換素子では、熱硬化性樹脂を用いて封止した比較例1の光電変換素子に比べて、優れた光電変換効率が得られた、これは、封止の際の熱工程が不要となったため、電解質や半導体の熱による劣化が防止されたためと考えられる。
【0051】
また、対極に金属被膜を形成した実施例1および実施例2の光電変換素子では、いずれも金属チタン基板にリード線を直接はんだ付けすることが可能となり、4端子法にて接触抵抗をキャンセルして測定した特性と遜色ない結果となった。一方、基板が大型化したことで流れる電流量が増加し、物理的接触によりリード接続した比較例2ではIRドロップが大きくなり特性が大幅に低下してしまった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、色素増感型太陽電池に代表される光電変換素子に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明に係る光電変換素子の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明に係る光電変換素子の他の一例を示す概略断面図である。
【図3】本発明に係る光電変換素子の他の一例を示す概略断面図である。
【図4】従来の光電変換素子の一例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0054】
10 光電変換素子、11 第一基材、12 対極、13 第二基材、14 透明導電膜、15 多孔質酸化物半導体層、16 作用極、17 電解質層、18 硬化性樹脂、19 被膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の第一基材からなる対極と、
絶縁性の透明な第二基材と、該第二基材の一面に透明導電膜を介して配され、少なくとも一部に色素を担持した多孔質酸化物半導体層とを備え、該多孔質酸化物半導体層が前記第一基材の一面と対向して配される作用極と、
前記対極と前記作用極との間の少なくとも一部に配された電解質層と、から構成され、
前記第一基材は、前記第二基材よりも狭い面積を有し、前記電解質層と前記第一基材の側面部を少なくとも被覆するように硬化性樹脂を配したことを特徴とする光電変換素子。
【請求項2】
前記硬化性樹脂は、前記対極の前記作用極と反対側の面上であって、外縁部も被覆するように配されていることを特徴とする請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項3】
前記対極において、前記作用極と反対側の面には、該導電部材と異なる金属からなる被膜が配されていることを特徴とする請求項1または2に記載の光電変換素子。
【請求項4】
前記導電部材はチタン基板であり、前記被膜は、はんだ付け可能な単一金属、または該金属を主成分とする合金からなることを特徴とする請求項3に記載の光電変換素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−280849(P2007−280849A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−107810(P2006−107810)
【出願日】平成18年4月10日(2006.4.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「太陽光発電技術研究開発革新的次世代太陽光発電システム技術研究開発 大面積・集積型色素増感太陽電池の研究開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】