説明

光電式エンコーダ

【課題】格子に姿勢変動が生じたとしても可動体の変位を表す信号を正確に生成することのできる光電式エンコーダを提供する。
【解決手段】光電式エンコーダは、照明光源11と、格子線と交差する方向に変位可能な移動格子15と、移動格子(15)の変位の基準となるインデックス格子(13)と、前記移動格子(15)及び前記インデックス格子(13)を経由した前記照明光を受光する受光素子(16)と、前記インデックス格子(13)から射出する光を周期的に変化させる変調装置(17)と、前記受光素子(16)で受光した前記照明光の強度の時間変化に基づいて、前記移動格子の変位を検出する変位検出装置(22,23)とを有する。格子に姿勢変動が生じたとしても可動体の変位を表す信号を正確に生成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電式エンコーダに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、可動体の変位を信号化する光電式エンコーダが開示されている。この光電式エンコーダは、可動体と共に移動する移動格子(特許文献1の図1の符号15)と、固定されたインデックス格子(特許文献1の図1の符号14)とに照明光を投光し、両者の格子のずれ量を示す情報として、両者を透過した照明光の強度を受光素子(特許文献1の図1の符号16)で検出するものである。この受光素子からの出力信号は、移動格子の移動に伴って周期的に変化する。よって、この信号の強度から、可動体の微小な移動量を検知することができる。
【0003】
一般に、この種の光電式エンコーダには、次のような工夫が施されている。すなわち、移動格子及びインデックス格子上の各領域を個別に透過した各照明光の強度を受光素子の複数の受光面にて個別に検出すると共に、移動格子及びインデックス格子の格子パターンの配列を、前述した格子のずれ量が領域間で少しずつずれるように設定している。このとき、各受光面からの出力信号は、可動体の移動に伴って互いに異なる位相でそれぞれ周期的に変化する。よって、これらの信号の強度から、可動体の移動量と移動方向(つまり変位)を検知することができる。
【特許文献1】特開2002−243503号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、この光電式エンコーダでは、互いに異なる位相の信号を生成するために、移動格子上の互いに異なる領域を透過した照明光を用いているので、その移動格子の姿勢が変動すると、それら信号の位相関係が変動し、変位の検知精度が悪くなるという問題がある。
そこで本発明は、格子に姿勢変動が生じたとしても可動体の変位を表す信号を正確に生成することのできる光電式エンコーダを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の態様に従う光電式エンコーダは、照明光を出射する光源と、格子線を有し、前記格子線と交差する方向に変位可能な移動格子と、前記移動格子の変位の基準となるインデックス格子と、前記移動格子及び前記インデックス格子を経由した前記照明光を受光する受光器と、前記インデックス格子から射出する光を周期的に変化させる変調装置と、前記受光器で受光した前記照明光に基づいて、前記移動格子の変位を検出する変位検出装置とを有することを特徴とする。
【0006】
なお、この光電式エンコーダにおいて、前記変調装置は、前記インデックス格子と該インデックス格子に入射する前記照明光との相対的な位置関係を周期的に変調させてもよい。また、この光電式エンコーダにおいて、前記変調装置は、前記インデックス格子の位置を周期的に変化させてもよい。また、この光電式エンコーダにおいて、前記変調装置は、前記光源から前記インデックス格子又は前記移動格子へ入射する前記照明光の角度を、周期的に変化させてもよい。
【0007】
また、この光電式エンコーダにおいて、前記光源は、互いに異なる角度の複数の前記照明光を出射することが可能であり、前記変調装置は、前記複数の前記照明光を周期的に切り替えてもよい。また、この光電式エンコーダにおいて、前記移動格子及び前記インデックス格子は、回折格子であり、前記インデックス格子で生じた1対の回折光で前記移動格子上に前記インデックス格子の格子像を形成する光学系が配置されていてもよい。
【0008】
また、この光電式エンコーダにおいて、前記変調装置は、前記移動格子上の前記インデックス格子の格子像または投影像の位置を周期的に変化させてもよい。また、この光電式エンコーダにおいて、前記光学系は、前記1対の回折光を前記移動格子上の同じ領域で重ねあわせるために、前記一対の回折光をそれぞれ偏向する反射部材を有してもよい。また、この光電式エンコーダにおいて、前記変調装置は、前記1対の回折光の間の位相差を周期的に変化させてもよい。また、この光電式エンコーダにおいて、前記変調装置は、立ち上がりと立ち下がりとが対称な波形で周期的な変化を行い、前記変位検出装置は、前記受光器で受光した前記照明光の強度の時間的な変化の特定周波数成分を、前記変位の信号として抽出してもよい。
【0009】
また、この光電式エンコーダにおいて、前記変調装置は、立ち上がりと立ち下がりとが非対称な波形で前記周期的な変化を行い、前記変位検出装置は、前記受光器で受光した前記照明光の強度の時間的な変化の位相を、前記変位の信号として抽出してもよい。また、この光電式エンコーダにおいて、前記変位検出装置は、前記変位の信号と共に、前記周期的な変化の振幅の信号を生成し、前記振幅の信号をモニタし、それが一定になるように前記変調装置を制御する制御装置をさらに備えてもよい。
【0010】
また、この光電式エンコーダにおいて、前記変位検出装置は、前記変位の信号と共に、前記照明光の光量の信号を生成し、前記光量の信号をモニタし、それが一定になるように前記光源を制御する制御装置をさらに備えてもよい。
本発明の第2の態様に従う光電式エンコーダは、照明光を出射する光源と、
所定方向に配列されたパターンを有するスケールと、前記スケールに対して相対的に変位し、該変位の基準となる基準部材と、前記スケール及び前記基準部材を経由した前記照明光を受光する受光器と、前記スケールと前記基準部材とが相対的に変位する間、前記照明光を前記変位方向に周期的に変調させる変調装置と、前記受光器で受光した前記照明光に基づいて、前記スケールと前記基準部材との相対的な変位を検出する変位検出装置とを有することを特徴とする。この光電式エンコーダにおいて、前記変調装置は、前記基準部材と該基準部材に入射する照明光との相対的な位置関係を周期的に変調させてもよい。また、この光電式エンコーダにおいて、前記変調装置は、前記基準部材に対する前記照明光の入射角度を周期的に変調させてもよい。
【0011】
本発明の第1及び第2の態様の光電式エンコーダにおいて、前記変調装置が、前記インデックス格子またはインデックス格子に対する照明光を変動させるアクチュエータであってもよい。また、前記照明光源が点光源アレイであり、前記変調装置が点光源アレイの点光源を駆動してもよい。この光電式エンコーダでは、前記インデックス格子に照明光が照射されて移動格子上に、インデックス格子の格子像または投影像が形成され得る。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、格子に姿勢変動が生じたとしても可動体の変位を表す信号を正確に生成することのできる光電式エンコーダが実現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
[第1実施形態]
以下、第1実施形態を説明する。本実施形態は、回折光干渉方式の光電式リニアエンコーダの実施形態である。
先ず、本エンコーダの構成を説明する。図1は、本エンコーダの構成図である。本エンコーダの光学系部分には、光源11、コリメータレンズ12、基準部材としてのインデックス回折格子13、ミラー14A、14B、スケールとしての移動回折格子15、受光素子16などが備えられる。インデックス回折格子13は、光源11から射出した光を複数の光に分離する光分離素子と機能する。本エンコーダの光学系部分には、インデックス回折格子13を振動させるためのアクチュエータ17が備えられる。インデックス回折格子13が振動する方向は、インデックス回折格子13の格子の形成面と平行であり格子線に垂直な方向である。
【0014】
光源11は、例えば、波長λ=850nmのレーザ光を出射するレーザ光源である。インデックス回折格子13及び移動回折格子15は、透過型の回折格子であり、例えば、位相型の回折格子である。これらインデックス回折格子13と移動回折格子15の格子ピッチpは互いに同じであり、50μm以下、例えば、8μm程度に設定されている。変調装置としてのアクチュエータ17は、例えば、ピエゾ素子からなり、振動幅:数μm、周波数:20〜30kHz程度で振動可能である。
【0015】
このうち、光源11、コリメータレンズ12、ミラー14A、14B、受光素子16、アクチュエータ17は、互いの位置が固定されている。それに対し、移動回折格子15は、不図示の可動体(測定対象物)と共に変位する。その変位する方向は、移動回折格子15の格子の形成面と平行であり格子線に垂直な方向である。なお、図1中には、この移動回折格子15の移動方向をX方向とし、移動回折格子15の格子線方向をY方向とし、移動回折格子15の法線方向をZ方向とした右手系のXYZ直交座標系を示した。以下、必要に応じてこの直交座標系を用いて説明する。
【0016】
また、本エンコーダには、その他に、回路部分として、受光回路21、1次成分検出回路22、2次成分検出回路23、3次成分検出回路24、4次成分検出回路25、クロック回路26、エンコーダ信号処理回路27、変調度制御回路28、アクチュエータ駆動回路29、光源駆動回路30、0次成分検出回路31、光量制御回路32などが備えられる。
【0017】
次に、本エンコーダの光学系部分の動作を説明する。光源11は、照明光を出射する。その照明光は、コリメータレンズ12で平行光となり、インデックス回折格子13に入射し、インデックス回折格子13の回折作用により各次数の回折光を生起させる。インデックス回折格子13は、入射した光に基づいて±1次回折光を発生する。なお、インデックス回折格子13は、±1次回折光以外の光、例えば0次光や±2次以上の回折光を発生しない、あるいは±1次回折光の強度に比べて極めて弱い0次光や±2次以上の回折光を発生する位相型の回折格子で形成される。インデックス回折格子13で生じた±1次回折光は、ミラー14A、14Bで個別に偏向された後、移動回折格子15の同じ領域に重ね合わせられ、この領域にインデックス回折格子13の格子像を形成する。すなわち、±1次回折光は、移動回折格子15の同じ位置に入射し、この位置に入射した±1次回折光は、さらに移動回折格子15の回折作用によって再び回折され、互いに干渉した状態で受光素子16に入射する。言い換えれば、格子像から射出した±1次回折光は、移動回折格子15の回折作用によって統合された状態で、受光素子16に入射する。受光素子16は、入射した±1次回折光の干渉強度を示す信号(以下、「干渉信号I」と称す。)を出力する。
【0018】
以上の本エンコーダにおいては、インデックス回折格子13に対して、移動回折格子15が変位する間、アクチュエータ17が駆動される。アクチュエータ17が駆動されると、インデックス回折格子13の位置がX方向に周期的に変調され、±1次回折光の位相差が周期的に変調される。この位相差が周期的に変調されると、移動回折格子15上の格子像の位相が周期的に変調される(これによって格子像の明暗パターンがX方向に周期的に変調される。)。したがって、干渉信号Iが時間的に変化する。以下、詳しく説明する。
【0019】
先ず、アクチュエータ17が駆動されていないときを考える。このとき、インデックス回折格子13を基準とした移動回折格子15のX方向の変位をxとおくと、受光素子16に入射する+1次回折光の複素振幅I+、−1次回折光の複素振幅I-は、次式(1),(2)のとおり表される。なお、ここでは、各回折光の照明光の光量(振幅)を1に規格化して表す。また、「j」は、単位複素数である。
【0020】
+=exp[2jπx/p] ・・・(1)
-=exp[−2jπx/p] ・・・(2)
よって、干渉信号Iは、次式(3)のとおり移動回折格子15の変位xの関数で表される。
I=1/2|exp[2jπx/p]+exp[−2jπx/p]| ・・・(3)
次に、アクチュエータ17が駆動されているときを考える。このとき、インデックス回折格子13は、所定位置を基準としてX方向に振動する(周期的に変調する)。この変調中のインデックス回折格子13の位置の時間的に変化する波形(以下、「変調波形」という。)は、角周波数ω、振幅ε(片振幅はε/2)の正弦波(sinωt)である。以下、格子ピッチpを基準とした振幅εの広さを示す指標として、変調度2d=2πε/pを定義する。このような周期的な変調によると、+1次回折光の位相と−1次回折光の位相とは、互いに反対方向に変調される。つまり、+1次回折光と−1次回折光との位相差が変調される。
【0021】
よって、本エンコーダでは、+1次回折光の複素振幅I+、−1次回折光の複素振幅I-は、次式(4),(5)のとおり表される。
+=exp[2jπx/p−jπε/p・sin(ωt)] ・・・(4)
-=exp[−2jπx/p+jπε/p・sin(ωt)] ・・・(5)
式(4),(5)は、変調度2d=2πε/pによって式(6),(7)のとおり表される。
【0022】
+=exp[2jπx/p−jd・sin(ωt)] ・・・(6)
-=exp[−2jπx/p+jd・sin(ωt)] ・・・(7)
よって、干渉信号Iは、次式(8)のとおり移動回折格子15の変位xと時間tとの関数で表される。
I=1/2|exp[2jπx/p−jd・sin(ωt)]
+exp[−2jπx/p+jd・sin(ωt)]|
=1+cos[4πx/p−2d・sin(ωt)]
=1+cos(4πx/p)・cos[2d・sin(ωt)]
+sin(4πx/p)・sin[2d・sin(ωt)] ・・・(8)
式(8)を時間tに関して整理(ベッセル級数展開)すると、次式(9)のとおりになる。
【0023】
I=1+J0(2d)・cos(4πx/p)
+2J1(2d)・sin(4πx/p)・sin(ωt)
+2J2(2d)・cos(4πx/p)・cos(2ωt)
+2J3(2d)・sin(4πx/p)・sin(3ωt)
+2J4(2d)・cos(4πx/p)・cos(4ωt)
+・・・ ・・・(9)
但し、Jnは、n次のベッセル展開係数であり、変調度2dが一定である限り一定値をとる。因みに、変調度2dとベッセル展開係数Jn(n=1,2,・・・)との関係は、図2に示すとおりである。
【0024】
式(9)より、干渉信号Iの時間変化の0次成分I0、1次成分I1、2次成分I2、3次成分I3、4次成分I4、・・・は、それぞれ次式(10)のとおり表される。なお、0次成分I0は、時間的に変化しない周波数成分の強度であり、n次成分Inは、角周波数nωで時間的に変化する周波数成分の強度である。
0=1+J0(2d)・cos(4πx/p),
1=2J1(2d)・sin(4πx/p),
2=2J2(2d)・cos(4πx/p),
3=2J3(2d)・sin(4πx/p),
4=2J4(2d)・cos(4πx/p),・・・ ・・・(10)
したがって、本エンコーダでは、干渉信号Iの時間的な変化の特定周波数成分(例えば、1次成分I1)と、別の特定周波数成分(例えば、2次成分I2)とを、90°ずれた位相で変位xを表すサイン信号とコサイン信号として用いることができる。つまり、本エンコーダでは、受光素子16を1つしか備えていないにも拘わらず、受光素子16からの干渉信号Iを時間的に変化させるので、その時間的な変化からサイン信号とコサイン信号との双方を得ることが可能になる。
【0025】
因みに、従来は、サイン信号とコサイン信号とを得るために別の受光素子を使用していたので、移動回折格子15が傾くと、サイン信号とコサイン信号との位相関係にずれ(測定誤差の要因)が生じていた。それに対し、本実施形態のエンコーダでは、サイン信号とコサイン信号とを得るために同じ受光素子16を使用しているので、移動回折格子15が傾いても、サイン信号とコサイン信号との位相関係にずれ(測定誤差の要因)が生じないという効果を奏する。
【0026】
なお、本エンコーダにおいて、移動回折格子15の変位xが各値にあるときの干渉信号Iの時間的に変化する波形は、図3に示すとおりである。図3(a),(b),(c),(d),(e)の点線枠内には、移動回折格子15の変位x(変位xの角度表現)が−81°,−36°,0°,36°,81°であるときの干渉信号Iの時間的に変化する波形をそれぞれ示した。図3(a),(b),(c),(d),(e)のそれぞれの図の左上の図は、移動回折格子15の変位を示し、下の図は変調波形、つまりインデックス回折格子13に加える変調の波形を示し、右上の点線で囲まれた図は、その場合の干渉信号Iの波形である。
【0027】
図3に明らかなように、本エンコーダにおいては、変位xが異なると、干渉信号Iの時間的に変化する波形に含まれる各周波数成分の強度バランスが異なる。特に、変位xが0°であるときには、2次成分(cos(2ωt))の強度が高くなる。また、変位xがプラス方向に大きいほど、1次成分(sin(ωt))の強度が高くなり、変位xがマイナス方向に大きいほど、1次成分(−sin(ωt))の強度が高くなる。
【0028】
因みに、変位xが−81°であるときの干渉信号Iの時間的に変化する波形(図3(a)の右上)は、無変調中の干渉信号Iの変位xによる波形(図3(a)の左上)に対し、変調波形(図3(a)の左下)を、x=−81°の位置で重ね合わせてできる波形に相当する。また、変位xが−36°であるときの干渉信号Iの時間的に変化する波形(図3(b)の右上)は、無変調中の干渉信号Iの変位xによる波形(図3(b)の左上)に対し、変調波形(図3(b)の左下)を、x=−36°の位置で重ね合わせてできる波形に相当する。
【0029】
また、変位xが0°であるときの干渉信号Iの時間変化波形(図3(c)の右上)は、無変調中の干渉信号Iの変位xによる波形(図3(c)の左上)に対し、変調波形(図3(c)の左下)を、x=0°の位置で重ね合わせてできる波形に相当する。また、変位xが+36°であるときの干渉信号Iの時間的に変化する波形(図3(d)の右上)は、無変調中の干渉信号Iの変位xによる波形(図3(d)の左上)に対し、変調波形(図3(d)の左下)を、x=+36°の位置で重ね合わせてできる波形に相当する。
【0030】
また、変位xが+81°であるときの干渉信号Iの時間的に変化する波形(図3(e)の右上)は、無変調中の干渉信号Iの変位xによる波形(図3(e)の左上)に対し、変調波形(図3(e)の左下)を、x=+81°の位置で重ね合わせてできる波形に相当する。
次に、本エンコーダの回路部分の動作を説明する。光量制御回路32は、光源駆動回路30を介して光源11を駆動制御する。この制御では、照明光の光量を一定に保つ制御が行われる。
【0031】
変調度制御回路(制御装置)28は、クロック回路26から与えられる角周波数ωの正弦波信号(sinωt)に応じて、アクチュエータ駆動回路29に対し正弦波からなる変調信号を与え、アクチュエータ17を駆動制御する。これによって、インデックス回折格子13のX方向の位置が周期的に変調される。また、この制御では、周期的変調の変調度2dを一定値に保つ制御も行われる。その変調度2dの目標値は、「2.3」に設定される。このとき、ベッセル展開係数「J0」は、図2中に矢印で示すように0となる。
【0032】
受光回路21は、受光素子16を連続的に駆動すると共に、受光素子16から出力される干渉信号Iを連続的に取り込み、0次成分検出回路31、1次成分検出回路22、2次成分検出回路23、3次成分検出回路24、4次成分検出回路25にそれぞれ与える。それらの検出回路の少なくとも二つは、移動回折格子15の変位検出装置として機能する。0次成分検出回路31は、与えられた干渉信号Iの時間的な変化から、その0次成分I0を抽出する。1次成分検出回路22は、干渉信号Iの時間的な変化から、その1次成分I1を抽出する。2次成分検出回路23は、干渉信号Iの時間的な変化から、その2次成分I2を抽出する。3次成分検出回路24は、干渉信号Iの時間的な変化から、その3次成分I3を抽出する。4次成分検出回路25は、干渉信号Iの時間的な変化から、その4次成分I4を抽出する。
【0033】
このうち、1次成分検出回路22、2次成分検出回路23、3次成分検出回路24、4次成分検出回路25による抽出動作は、クロック回路26から与えられるパルス信号に同期した同期検波からなる。図4には、これらの回路を代表して、1次成分検出回路22、2次成分検出回路23による抽出動作の概念を示した。図4に示すように、1次成分検出回路22には、クロック回路26から角周波数ωのパルス信号(図4中「sinωt」と示した。)が入力される。1次成分検出回路22は、このパルス信号と、受光回路21からの干渉信号Iとを合成し、それをローパスフィルタ(LPF)で平滑化して、1次成分I1を抽出する。
【0034】
一方、2次成分検出回路23には、クロック回路26から角周波数2ω、前記パルス信号とは位相の90°ずれたパルス信号(図4中「cos2ωt」と示した。)が入力される。2次成分検出回路23は、このパルス信号と、受光回路21からの干渉信号Iとを合成し、それをローパスフィルタ(LPF)で平滑化して、2次成分I2を抽出する。そして、図1のエンコーダ出力処理回路27は、抽出された1次成分I1、2次成分I2を取り込み、それらの成分I1,I2と、ベッセル展開係数J1,J2(定数)と、式(10)とに基づき、sin(4πx/p)の値を示すサイン信号Ssと、cos(4πx/p)の値を示すコサイン信号Scとを生成する。これらのサイン信号Ss、コサイン信号Scは、同一の受光素子16からの干渉信号Iによって生成されたもの(移動回折格子15の同一領域を通過した照明光によって生成されたもの)なので、移動回折格子15の姿勢が仮に変動しても、両者の位相関係は変動しない。
【0035】
また、変調度制御回路28は、抽出された1次成分I1、2次成分I2、3次成分I3、4次成分I4を取り込み、それらの成分I1,I2,I3,I4と、式(10)とに基づき、本エンコーダで実際に行われている周期的変調の変調度2d(つまり変調度2dの実測値)をモニタする(因みに、この変調度2dは、「I1/I3」,「I2/I4」によって表される。)。さらに、変調度制御回路28は、モニタした変調度2dが前述した目標値「2.3」に近づく方向にアクチュエータ駆動回路29を制御する。これによって、変調度2dが一定値(2.3)に保たれる(フィードバック制御される。)。
【0036】
また、光量制御回路32は、抽出された0次成分I0を取り込み、その0次成分I0の変動が抑えられる方向に光源駆動回路30を制御する。これによって、照明光の光量が一定値に保たれる(フィードバック制御される。)。このように簡単に光量を制御できるのは、変調度2dの目標値を「2.3」としたからである。変調度2dが「2.3」であるときには、ベッセル展開係数J0=0となり、0次成分I0が光量(振幅)それ自体を示す。このようなフィードバック制御によると、周期的に変調される間、光学系部分の測定条件が一定に保たれるので、本エンコーダで必要とされる信号(つまり干渉信号Iの時間的な変化)を高精度に検出することができる。したがって、本エンコーダで生成される上述したサイン信号Ss、コサイン信号Scは、移動回折格子15の変位xを正確に表すことになる。
【0037】
本実施形態では、インデックス回折格子13で生じた±1次回折光をミラー14A、14Bで個別に偏向していたが、ミラー14A、14Bの代わりに、インデックス回折格子13の格子ピッチに対して、例えば、1/2ピッチの格子ピッチを有するインデックス回折格子を用いてもよい。
[第2実施形態]
以下、第2実施形態を説明する。本実施形態は、影絵方式(スリットシャッター型)の光電式エンコーダの実施形態である。ここでは、第1実施形態(図1)との相違点のみ説明する。相違点は、光学系部分にある。図5(a)は、本エンコーダの光学系部分の構成図である。図5(a)に示すとおり、本エンコーダの光学系部分には、光源11、コリメータレンズ12、インデックス格子13’、移動格子15’、受光素子16、及びインデックス格子13’を振動させるためのアクチュエータ17などが備えられる。インデックス格子13’のX方向の位置は、第1実施形態と同じ変調波形で周期的に変調される。
【0038】
但し、本エンコーダの原理は、光の干渉作用を利用しないので、移動格子15’上に形成される像は、インデックス格子13’の格子像ではなく、インデックス格子13’の単なる投影像(所謂「影」)でよい。よって、1対の回折光を偏向するためのミラー14A,14Bは不要である。また、光源11としては、可干渉性の低いもの(LEDなど)を用いることができる。また、インデックス格子13’及び移動格子15’としては、格子ピッチの十分に大きな明暗格子(遮光部と透過部とからなる格子)が用いられる。
【0039】
次に、本エンコーダの動作を説明する。光源11から射出した照明光はコリメータレンズ12で平行光となり、インデックス格子13’に入射し、その格子の明部を透過する。インデックス格子13’を透過した照明光は、移動格子15’に入射し、インデックス格子13’の投影像を形成する。これらのインデックス格子13’と移動格子15’との双方を透過した照明光は、受光素子16に入射する。受光素子16は、この照明光の入射強度を示す信号(以下、「強度信号f」と称す。)を出力する。
【0040】
以上の本エンコーダにおいては、アクチュエータ17が駆動されると、インデックス格子13’の位置がX方向に周期的に変調され、移動格子15’上の投影像の位置が周期的に変調される(これによって移動格子15’上の投影像の明暗パターンが周期的に変調される。)。したがって、受光素子16からの強度信号fが時間的に変化する。本エンコーダでは、この強度信号fが、第1実施形態の干渉信号Iと同様に、不図示の回路部分で処理され、その0次成分f0,1次成分f1,2次成分f2,・・・などが抽出される。
【0041】
ここで、本エンコーダにおいて、インデックス格子13’を基準とした移動格子15’のX方向の変位をxとおき、無変調中の強度信号fの変位xによって変化する波形をf(x)とおくと、周期的な変調中の強度信号fの時間的な変化は、次式(11)のとおりテイラー展開される。なお、本エンコーダの変調波形を、dsin(ωt)とした。
f[x,dsin(ωt)]
=f(x)+f’(x)・d・sin(ωt)+f”(x)/2・d2・sin2(ωt)+・・・
=f(x)+f’(x)・d・sin(ωt)+f”(x)・d2/4・[1−cos(2ωt)]+・・・ ・・・(11)
式(11)より、強度信号fの時間的な変化の1次成分f1の強度は、f'(x)に比例し、2次成分f2の強度は、f”(x)に比例することがわかる。
【0042】
仮に、無変調中の強度信号fの変位xによって変化する波形「f(x)」が三角関数で表されるとき(例えば、f(x)=cos(x)と表されるとき)には、f’(x)=sin(x),f”(x)=−cos(x)となるので、本エンコーダの強度信号fの時間的な変化は、第1実施形態の干渉信号Iの時間的な変化と同様の波形を描くことになる。そこで、本エンコーダでは、例えば、無変調中の強度信号fの変位xによって変化する波形「f(x)」が、疑似サイン信号としてf(x)=sin(x)−1/18・sin(3x)となるように、光学系部分が設計される。
【0043】
このとき、本エンコーダで抽出される1次成分f1は、図5(b)に示すとおりとなる。なお、図5(b)には、1次成分f1の変位xによって変化する波形と共に、無変調中の強度信号fの変位xによって変化する波形を同一座標で表した。したがって、本エンコーダにおいても、第1実施形態と同様に、互いに異なる位相で変位xを正確に表すサイン信号Ssとコサイン信号Scとを生成することができる。
【0044】
なお、本実施形態では、インデックス格子13’を透過した光が移動格子15’に入射したが、インデックス格子13’を移動格子15’の後に配置して、インデックス格子13’の位置をアクチュエータ17で変調しても構わない。
[第3実施形態]
以下、第3実施形態を説明する。本実施形態は、回折干渉方式の光電式リニアエンコーダの実施形態である。ここでは、第1実施形態(図1)との相違点のみ説明する。相違点は、回路部分にある。
【0045】
図6は、本エンコーダの構成図である。本エンコーダの回路部分においては、クロック回路26、1次成分検出回路22、2次成分検出回路23、3次成分検出回路24、4次成分検出回路25が省略され、その代わりに鋸歯状波発生回路40が備えられる。変調度制御回路(制御装置)28は、鋸歯状波発生回路40から与えられる信号に応じた変調信号をアクチュエータ駆動回路29に与え、アクチュエータ17を駆動制御する。これによって、インデックス回折格子13のX方向の位置は、鋸歯状の変調波形で周期的に変調される。この周期的変調の変調度2dは、2πに設定される。
【0046】
このような本エンコーダにおいて、移動回折格子15の変位xが各値にあるときの干渉信号Iの時間的な変化の波形は、図7に示すとおりである。図7(a),(b),(c)の点線枠内には、移動回折格子15の変位x(変位xの角度表現)が−81°,−36°,0°であるときの干渉信号Iの時間的な変化の波形をそれぞれ示した。なお、図7の表記方法は、図3のそれと同じである。
【0047】
図7に明らかなように、本エンコーダにおいては、変位xが如何なる値であっても、干渉信号Iの時間的な変化の波形は同じになり、変位xが異なると、その位相のみが異なる。そして、図6の受光回路21は、受光素子16を連続的に駆動すると共に、受光素子16から出力される干渉信号Iを連続的に取り込み、エンコーダ信号処理回路27、変調度制御回路28、0次成分検出回路31にそれぞれ与える。
【0048】
エンコーダ信号処理回路27は、与えられた干渉信号Iの時間的な変化から、その波形の位相を抽出する。この位相は、移動回折格子15の変位xそれ自体を表す。
変調度制御回路28は、与えられた干渉信号Iの時間的な変化から、その波形の変極点の有無をモニタする。そして、その変極点が低減されるようにアクチュエータ駆動回路29を制御する。これによって、変調度2dが一定値(2π)に保たれる(フィードバック制御される。)。
【0049】
0次成分検出回路31は、与えられた干渉信号Iの時間的な変化から、その0次成分I0を抽出する。光量制御回路32は、この0次成分I0を取り込み、その0次成分I0の変動が抑えられる方向に光源駆動回路30を制御する。これによって照明光の光量が一定値に保たれる(フィードバック制御される。)。
以上のとおり、本エンコーダによれば、比較的シンプルな回路構成でありながら、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0050】
なお、本実施形態は、第1実施形態の回路部分を変更したものであるが、同様に第2実施形態の回路部分を変更してもよい。また、本実施形態では、変調度2dを2πに設定したが、2πの整数倍に設定しても、同様の効果を得ることができる。
[その他の実施形態]
また、上述した第1実施形態又は第3実施形態(回折光干渉方式のエンコーダ)では、±1次回折光の位相差を周期的に変調するため(格子像の位相を周期的に変調するため)に、アクチュエータ17でインデックス回折格子13の位置を周期的に変調したが、図8に示すように、アクチュエータ17を省略し、かつ±1次回折光の光路の一方に電気光学素子(EOM)等を挿入して±1次回折光の一方の光路長を周期的に変調してもよい。この場合、電気光学素子がインデックス格子から射出する光を周期的に変化させる変調装置に相当する。この場合も、±1次回折光の位相差が周期的に変調されるので、上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0051】
また、第1実施形態又は第3実施形態においては、+1次回折光と−1次回折光との位相差を周期的に変調するため(格子像の位相を周期的に変調するため)に、他の方法または変調装置が採用されてもよい。例えば、+1次回折光の光路長と−1次回折光の光路差とに予め差を設けておき、光源11の波長を周期的に変調する方法などである。因みに、2つの光路の光路長に差を設ける方法は様々あるが、例えば、一方の光路にのみ平行平板を挿入する方法などがある。
【0052】
また、第1実施形態、第2実施形態の1次成分検出回路22、2次成分検出回路23、3次成分検出回路24、4次成分検出回路25による抽出動作には、同期検波法が適用されたが、他の方法、例えば、AC測定のような振幅計測方法、特定位相または特定時間における振幅計測手法などが適用されてもよい。
また、上述した各実施形態では、インデックス回折格子13(又はインデックス格子13’)の位置の変調方向をX方向に一致させた(つまり、移動回折格子15又は移動格子15’の移動方向に一致させた)が、少なくともX方向の成分を有している方向であれば、他の方向であってもよい。また、インデックス回折格子13(又はインデックス格子13’)を直線的に振動させる代わりに、所定軸の周りに周期的に揺動させる(例えば、Y軸と平行な軸の周りに周期的に回動させる)ことによっても、同様の効果が得られる。
【0053】
また、第1実施形態又は第2実施形態のエンコーダでは、変調波形が正弦波に設定されたが、立ち上がりと立ち下がりとが対称な別の波形に設定されてもよい。例えば、三角波などに設定されてもよい。また、第3実施形態のエンコーダでは、変調波形が鋸歯状に設定されたが、立ち上がりと立ち下がりとが非対称な別の波形に設定されてもよい。
また、上述した何れかの実施形態のエンコーダには、変位の検出精度を向上させるための工夫が施されてもよい。例えば、周期的な変調の中心位置(オフセット)を検出する光学系(補正用の固定されたインデックス格子)を追加し、その光学系の出力信号を変調度制御回路28に与え、オフセットを一定に保つような制御を変調度制御回路28に行わせてもよい。
【0054】
また、上述した何れかの実施形態のリニアエンコーダを応用して、ロータリーエンコーダを構成してもよい。
「第4実施形態]
以下、第4実施形態を説明する。本実施形態は、回折光干渉方式の光電式リニアエンコーダの実施形態である。ここでは、第1実施形態(図1)との相違点のみ説明する。相違点は、光学系部分にある。
【0055】
図9は、本エンコーダの光学系部分の構成図である。図9に示すように、本エンコーダの変調装置としてのアクチュエータ17は、インデックス回折格子13の代わりに光源11を振動させる。この振動によって光源11の位置は、第1実施形態のインデックス回折格子13と同様に、所定位置を基準としてX方向(=移動回折格子15の移動方向)に周期的に変調される。このとき、コリメータレンズ12からインデックス回折格子13へと入射する照明光の入射角度は、図9中に矢印で示す方向に周期的に変調される。その変調方向は、Y軸(=格子線方向)と平行な軸の周りである。
【0056】
この方向に入射角度が変調されると、移動回折格子15上の格子像の位相は、第1実施形態と略同様に変調され、受光素子16からの干渉信号Iも、第1実施形態と略同様に時間変化する。したがって、本エンコーダにおいても、第1実施形態と略同様の効果を得ることができる。
なお、本実施形態は、第1実施形態(回折光干渉方式)の光学系部分を変更したものであるが、原理の異なる他の実施形態(影絵方式)や、回路部分の異なる他の実施形態の光学系部分を、同様に変更してもよい。
【0057】
因みに、影絵方式のエンコーダ(図5)においては、移動格子15’上に形成される像が、インデックス格子13’の格子像ではなく単なる投影像(影)であるが、本実施形態と同様に照明光の入射角度を変調すると、その投影像の位置が変調されるので、受光素子16からの強度信号fを第2実施形態と同様に時間的に変化させることができる。また、本実施形態では、光源11の位置の変調方向を、X方向(=移動回折格子15の移動方向)に一致させたが、少なくともX方向の成分を有している方向であれば、必ずしもX方向に一致していなくてよい。
【0058】
また、本実施形態では、光源11の位置を変調したが、図9の右上枠内に示すように、コリメータレンズ12とインデックス回折格子13との間に折り曲げミラーMを配置し、そのミラーMをアクチュエータ17で矢印の方向に揺動すれば、照明光の入射角度を同様に変調することができる。なお、揺動の支点は、例えば、図中の点Aである。また、本実施形態では、光源11の位置を変調したが、エンコーダから離れた位置に光源11を配置すると共に、その光源11からの射出光を光ファイバで導光し、その出射端の位置を変調すれば、照明光の入射角度を同様に変調することができる。
【0059】
なお、上記ミラーMとして、例えば、水晶振動子の表面に反射膜をコーティングしたものを用い、水晶振動子自身を振動させることによって、照明光を変調させてもよい。
[第5実施形態]
以下、第5実施形態を説明する。本実施形態は、回折光干歩方式の光電式リニアエンコーダの実施形態である。ここでは、第1実施形態(図1)との相違点のみ説明する。相違点は、光学系部分にある。図10は、本エンコーダの光学系部分の構成図である。図10に示すように、本エンコーダにおいては、アクチュエータ17が省略されると共に、光源11の代わりに点光源アレイ11’が備えられる。
【0060】
点光源アレイ11’は、複数の点光源をX方向(=移動回折格子15の移動方向)に配列してなる所謂「面発光レーザ」である。これら複数の点光源の見かけ上の配置ピッチp’(インデックス回折格子13側から見たときの配置ピッチ)は、格子ピッチpよりも十分に小さく設定される。例えば、p=8μmに対し、p’≦数μmである。この点光源アレイ11’は、不図示の光源駆動回路によって駆動される。光源駆動回路は、点光源アレイ11’の複数の点光源のうち点灯する光源(つまり点灯位置)を切り替える。その点灯位置の時間変化パターンに周期性を持たせれば、第4実施形態において光源11の位置を周期的に変調したときと同様に、照明光の入射角度を周期的に変調することができる。それゆえ、この実施形態では、光源駆動回路はインデックス格子から射出する光を周期的に変化させる変調装置として機能する。
【0061】
このような点灯位置の切り替えは、物体の位置を変調するよりも高速化可能なので、本エンコーダでは、変調の変調周波数を、第1実施形態のそれよりも高めることができる。例えば、MHzオーダーにすることも可能である。
したがって、本エンコーダにおいては、複数の点光源の見かけ上の配置ピッチp’さえ十分に小さく設定されていれば、第1実施形態と同じ効果と、信号生成までの時間短縮の効果とが得られる。
【0062】
しかも、本エンコーダは、物体の位置を変調しないので、第1実施形態のようなフィードバック制御をしなくとも、変調度2dや、周期的な変調の中心位置(オフセット)などを一定に保つことができる。したがって、本エンコーダでは、第1実施形態と同じ効果を得ながら回路部分を簡略化することができる。
なお、本エンコーダにおいては、複数の点光源の見かけ上の配置ピッチp’を小さく設定するために、コリメータレンズ12に対する点光源アレイ11’の姿勢を傾斜させてもよい。
【0063】
なお、本実施形態は、第1実施形態(回折干渉方式)の光学系部分を変更したものであるが、原理の異なる他の実施形態(影絵方式)や、回路部分の異なる(つまり変調波形の異なる)他の実施形態の光学系部分を、同様に変更してもよい。また、本エンコーダにおいて各種の変調波形を実現する方法は、例えば以下のとおりである。
仮に、点光源アレイ11’の点光源の個数が7であり、それらの7つの点光源の位置を並び順に「1」,「2」,「3」,「4」,「5」,「6」,「7」と称する場合には、点灯位置の時間的な変化パターンを、「1」→「2」→「3」→「4」→「5」→「6」→「7」→「1」→「2」→「3」→「4」→「5」→「6」→「7」→「1」→「2」→「3」→「4」→「5」→「6」→「7」→「1」→・・・とすれば、鋸歯状の変調波形を実現することができる。
【0064】
また、図11(a)に示すような時間的な変化パターン(「4」→「3」→「2」→「1」→「2」→「3」→「4」→「5」→「6」→「7」→「6」→「5」→「4」→・・・)を採用すれば、三角波状の変調波形を実現することができる。また、図11(b)に示すような時間的な変化パターンを採用すれば、正弦波状の変調波形を実現することができる。この時間的な変化パターンにおいては、点灯位置によって点灯時間に差がつけられている。なお、図11(a),(b)において、横軸は時間、縦軸は点灯位置(点光源の番号)である。
【0065】
上記実施形態では、インデックス格子から射出する光を周期的に変化させる変調装置は、アクチュエータやEOMなどを用いたがそれらに限定されず、インデックス格子から射出する光を周期的に変化させることができる装置やデバイスであれば任意のもの用いることができる。別の観点からすれば、前記インデックス格子とインデックス格子に入射する照明光の相対的位置関係を周期的に変調させる変調装置であってもよい。前述のアクチュエータやEOMもそのような作用を有するが、それ以外に、例えば、照明光源及びインデックス格子を変位または移動させずに照明光源からインデックス格子に向かう光の入射位置または方向のみを周期的に偏向させるミラーやプリズムなどの光学素子を用いてもよい。
【0066】
さらに、インデックス格子自体がそこから射出する光を周期的に変化させる機能を備えていてもよい。また、上記実施形態では、移動格子の変位を検出する変位検出装置として、1次及び2次成分検出回路または0次成分検出回路を用いたが、それらに限らず、移動格子の変位を検出することができる装置やデバイスであれば任意のものを用いることができる。例えば、受光素子自体がそのような機能を備えていてもよい。
【0067】
上記実施形態において、エンコーダの光学系部分に対して、移動回折格子15が変位する構成について説明したが、移動回折格子15を固定(固定された移動回折格子は、固定回折格子として扱えばよい)し、この固定回折格子に対して、エンコーダの光学系部分を不図示の可動体(測定対象物)と共に変位させてもよい。
また、上記実施形態では、光分離素子として、回折格子を用いて説明したが、この構成に限定されるものではない。例えば、光分離素子として、光源から射出されるコヒーレントな光を2つに分割するビームスプリッタを用いてもよい。ビームスプリッタを用いた場合にも、ビームスプリッタで分割された2つの光の各々を移動回折格子15上の同じ領域で重ね合わせて干渉させればよい。
また、上記実施形態では、スケールとして、回折格子を用いて説明したが、透明なスケール基板上に、透光部と遮光部(例えば、クロムで形成された領域)とが交互に配列されたパターンを有するものを用いてもよい。
【0068】
また、上記実施形態では、インデックス回折格子13と、移動回折格子15とを、位相格子としたが、振幅型の回折格子としてもよい。
さらに、上記実施形態では、移動回折格子15として、透過型の回折格子を例に説明したが、移動回折格子15を反射型の回折格子としてもよい。この場合には、受光素子16を、インデックス回折格子13側に配置すればよい。
【0069】
上記実施形態において、インデックス回折格子13と移動回折格子15との配置関係は逆であってもよい。すなわち、光源11から射出された照明光が入射する回折格子を移動回折格子とし、その回折格子で生じた回折光を入射する回折格子をインデックス回折格子としてもよい。すなわち、光源11、コリメータレンズ12、移動回折格子15、インデックス回折格子13、受光素子16の順に配列してもよい。
【0070】
また、インデックス回折格子13と移動回折格子15のピッチを必ずしも同一とする必要はない。すなわち、インデックス回折格子13と移動回折格子15とのピッチを互いに異ならせてもよい。この場合は、インデックス回折光13、移動回折格子15で発生する回折光の射出方向は、光の波長λと、これらのピッチによって決定されるため、インデックス回折格子13と移動回折格子15との間の光学系、受光素子16などの互いの配置関係を各回折格子のピッチによって適宜決定すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】第1実施形態のエンコーダの構成図である。
【図2】変調度2dとベッセル展開係数Jn(n=1,2,・・・)との関係を示す図である。
【図3】(a)〜(e)は、第1実施形態の移動回折格子15の変位xが各値にあるときの干渉信号Iの時間変化波形を示す図である。
【図4】1次成分検出回路22、2次成分検出回路23による抽出動作の概念を示す図である。
【図5】(a)及び(b)は、第2実施形態のエンコーダを説明する図である。
【図6】第3実施形態のエンコーダの構成図である。
【図7】(a)〜(c)は、第3実施形態の移動回折格子15の変位xが各値にあるときの干渉信号Iの時間変化波形を示す図である。
【図8】第1実施形態又は第3実施形態のエンコーダの変形例を説明する図である。
【図9】第4実施形態のエンコーダを説明する図である。
【図10】第5実施形態のエンコーダを説明する図である。
【図11】(a)及び(b)は、第5実施形態のエンコーダにおいて各種の変調波形を実現する方法を説明する図である。
【符号の説明】
【0072】
11 光源、11’ 点光源アレイ、12 コリメータレンズ、13 インデックス回折格子、13’ インデックス格子、14A,14B ミラー、15 移動回折格子、15’ 移動格子、16 受光素子、17 アクチュエータ、
21 受光回路、22 1次成分検出回路、23 2次成分検出回路、24 3次成分検出回路、25 4次成分検出回路、26 クロック回路、30 光源駆動回路、31 0次成分検出回路、32 光量制御回路、40 鋸歯状波発生回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
照明光を出射する光源と、
格子線を有し、前記格子線と交差する方向に変位可能な移動格子と、
前記移動格子の変位の基準となるインデックス格子と、
前記移動格子及び前記インデックス格子を経由した前記照明光を受光する受光器と、
前記インデックス格子から射出する光を周期的に変化させる変調装置と、
前記受光器で受光した前記照明光に基づいて、前記移動格子の変位を検出する変位検出装置とを有する光電式エンコーダ。
【請求項2】
前記変調装置は、前記インデックス格子と該インデックス格子に入射する前記照明光との相対的な位置関係を周期的に変調することを特徴とする請求項1に記載の光電式エンコーダ。
【請求項3】
前記変調装置は、前記インデックス格子の位置を周期的に変化させることを特徴とする請求項1に記載の光電式エンコーダ。
【請求項4】
前記変調装置は、前記光源から前記インデックス格子又は前記移動格子へ入射する前記照明光の角度を、周期的に変化させることを特徴とする請求項1に記載の光電式エンコーダ。
【請求項5】
前記光源は、互いに異なる角度の複数の前記照明光を出射することが可能であり、前記変調装置は、前記複数の前記照明光を周期的に切り替えることを特徴とする請求項1〜請求項4の何れか一項に記載の光電式エンコーダ。
【請求項6】
前記変調装置は、前記移動格子上の前記インデックス格子の格子像または投影像の位置を周期的に変化させることを特徴とする請求項1〜請求項5の何れか一項に記載の光電式エンコーダ。
【請求項7】
前記移動格子及び前記インデックス格子は、回折格子であり、前記インデックス格子で生じた1対の回折光で前記移動格子上に前記インデックス格子の格子像を形成する光学系が配置されていることを特徴とする請求項1〜請求項5の何れか一項に記載の光電式エンコーダ。
【請求項8】
前記光学系は、前記1対の回折光を前記移動格子上の同じ領域で重ねあわせるために、前記一対の回折光をそれぞれ偏向する反射部材を有することを特徴とする請求項7に記載の光電式エンコーダ。
【請求項9】
前記変調装置は、
前記1対の回折光の間の位相差を周期的に変化させることを特徴とする請求項7または請求項8に記載の光電式エンコーダ。
【請求項10】
前記変調装置は、立ち上がりと立ち下がりとが対称な波形で前記周期的な変化を行い、
前記変位検出装置は、前記受光器で受光した前記照明光の強度の時間的な変化の特定周波数成分を、前記変位の信号として抽出することを特徴とする請求項1〜請求項10の何れか一項に記載の光電式エンコーダ。
【請求項11】
前記変調装置は、立ち上がりと立ち下がりとが非対称な波形で前記周期的な変化を行い、
前記変位検出装置は、前記受光器で受光した前記照明光の強度の時間的な変化の位相を、前記変位の信号として抽出することを特徴とする請求項1〜請求項10の何れか一項に記載の光電式エンコーダ。
【請求項12】
前記変位検出装置は、前記変位の信号と共に、前記周期的な変化の振幅の信号を生成し、前記振幅の信号をモニタし、それが一定になるように前記変調装置を制御する制御装置をさらに備えたことを特徴とする請求項1〜請求項11の何れか一項に記載の光電式エンコーダ。
【請求項13】
前記変位検出装置は、前記変位の信号と共に、前記照明光の光量の信号を生成し、前記光量の信号をモニタし、それが一定になるように前記光源を制御する制御装置をさらに備えたことを特徴とする請求項1〜請求項12の何れか一項に記載の光電式エンコーダ。
【請求項14】
前記受光器は、単一の受光素子を有することを特徴とする請求項1〜請求項13の何れか一項に記載の光電式エンコーダ。
【請求項15】
前記変調装置が、前記インデックス格子及び前記光源の一方をアクチュエートするアクチュエータを有することを特徴とする請求項1〜請求項14の何れか一項に記載の光電式エンコーダ。
【請求項16】
前記光源は、点光源アレイを有し、
前記変調装置は、前記点光源アレイを駆動することを特徴とする請求項1〜15の何れか一項に記載の光電式エンコーダ。
【請求項17】
照明光を出射する光源と、
所定方向に配列されたパターンを有するスケールと、
前記スケールに対して相対的に変位し、該変位の基準となる基準部材と、
前記スケール及び前記基準部材を経由した前記照明光を受光する受光器と、
前記スケールと前記基準部材とが相対的に変位する間、前記照明光を前記変位方向に周期的に変調させる変調装置と、
前記受光器で受光した前記照明光に基づいて、前記スケールと前記基準部材との相対的な変位を検出する変位検出装置とを有する光電式エンコーダ。
【請求項18】
前記変調装置は、前記基準部材と該基準部材に入射する照明光との相対的な位置関係を周期的に変調させることを特徴とする請求項17に記載の光電式エンコーダ。
【請求項19】
前記変調装置は、前記基準部材に対する前記照明光の入射角度を周期的に変調することを特徴とする請求項17に記載の光電式エンコーダ。
【請求項20】
前記光源は、点光源アレイであり、前記変調装置は、前記点光源アレイを駆動することを特徴とする請求項17〜請求項19の何れか一項に記載の光電式エンコーダ。
【請求項21】
前記スケールは、前記所定方向に配列された複数の格子線を有する透過型の回折格子で形成されることを特徴とする請求項17〜請求項20の何れか一項に記載の光電式エンコーダ。
【請求項22】
前記受光器は、単一の受光素子を有することを特徴とする請求項17〜請求項21の何れか一項に記載の光電式エンコーダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−343314(P2006−343314A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−357658(P2005−357658)
【出願日】平成17年12月12日(2005.12.12)
【出願人】(593152661)株式会社仙台ニコン (63)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】