説明

光CDM伝送システム

【課題】本発明は、廉価な光源を利用でき、簡易な構成で優れた雑音特性を有する光CDM伝送システムを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る光CDM伝送システムは、送信ノード10が送信光を割り当てられた拡散符号に対応する波長分散歪を用いて符号化する符号化手段を備え、受信ノード20が割り当てられた拡散符号に同一又は逆の分散特性を有する拡散符号を用いて受信光を復号化する復号化手段を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光CDM(Code Division Multiple)方式を用いた光多重アクセス伝送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、光CDM方式では、時間軸上或いは波長及び周波数軸上における拡散符号化を行っている。時間軸上の拡散符号化では、拡散による広帯域化に比例し高速な信号処理が必要であった。また、波長及び周波数軸上の拡散符号化では、多くの波長及び周波数のフィルタリング処理が拡散及び逆拡散過程で必要であった。
【0003】
光CDM方式では、信号処理の高速化又はノード数の増大に伴い、長い符号長が求められる。その結果、時間軸上の拡散符号化では、超高速なデバイスを要し、デバイスの実現が困難であり又はデバイスが高価になる問題があった。また、波長及び周波数軸上の拡散符号化では、多くの波長及び周波数成分を有する光源がノード毎にフルセット必要となり、或いは、周波数精度を高めるための制御が必要になるため、デバイスの実現が困難であり又はデバイスが高価になる問題があった。さらに、符号長の増大に伴い不要な信号成分間の干渉雑音(MAI:Multiple Access Interference)が増大してしまう問題があった(例えば、非特許文献1又は2を参照。)。
【0004】
【非特許文献1】Xu Wang and K.Kitayama,J.Lightwave Technol.,vol.22,pp.2226−2235,2004.
【非特許文献2】A.Stok and E.H.Sargent,IEEE Commun.Magazine,pp.83−87,Sep.,2002.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記課題を解決するため、廉価な光源を利用でき、簡易な構成で優れた雑音特性を有する光CDM伝送システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、波長分散歪を拡散符号として用いることによって、非信号成分である光で生じる干渉雑音を抑制できることを見出し、新たに本発明を創作した。すなわち、本発明に係る光CDM伝送システムは、送信ノードが送信光を割り当てられた拡散符号に対応する波長分散歪を用いて符号化する符号化手段を備え、受信ノードが割り当てられた拡散符号に同一又は逆の分散特性を有する拡散符号を用いて受信光を復号化する復号化手段を備えることを特徴とする。
【0007】
具体的には、本発明に係る光CDM伝送システムは、光信号を送信する送信ノードと前記光信号を受信する受信ノードとが光伝送路を介して接続されている光CDM伝送システムにおいて、前記送信ノードは、出射光を出射する光源、前記光源からの前記出射光を情報信号で変調して送信光を出力する変調手段、前記変調手段からの前記送信光を2波に分岐する送信側光分岐手段、光路長が略等しく、かつ、前記送信側光分岐手段で2波に分岐された前記送信光のそれぞれを伝搬させる2本の送信側分岐路、前記2本の送信側分岐路の一方に挿入され、かつ、2波に分岐された前記送信光の一方を割り当てられた拡散符号に対応する波長分散歪を用いて符号化する符号化手段、及び、前記2本の送信側分岐路の端に接続され、かつ、2波に分岐された前記送信光同士を結合させて前記光信号として前記受信ノードに送信する送信側光結合手段、を備え、前記受信ノードは、受信した前記光信号を受信光として2波に分岐する受信側光分岐手段、光路長が略等しく、かつ、前記受信側光分岐手段で分岐された前記受信光のそれぞれを伝搬させる2本の受信側分岐路、前記2本の受信側分岐路の一方に挿入され、かつ、前記割り当てられた拡散符号に同一又は逆の分散特性を有する拡散符号を用いて2波に分岐された前記受信光の一方を復号化する復号化手段、前記2本の受信側分岐路の端に接続され、かつ、2波に分岐された前記受信光の一方に所定の位相差を加え、かつ、2波に分岐された前記受信光同士を結合させ、かつ、結合された前記受信光を電気信号に変換する光電気変換手段、前記電気信号のベースバンド周波数成分を通過させるフィルタ及び前記フィルタを通過した前記電気信号を復調して前記情報信号を出力する復調手段を含む受信回路を1以上備える、ことを特徴とする。
【0008】
上記の光CDM伝送システムは、波長分散歪を拡散符号として用いることによって、廉価な光源を利用でき、簡易な構成で優れた雑音特性を有する。
【0009】
上記課題を解決するため、本発明に係る光CDM伝送システムは、送信ノードが送信光を割り当てられた拡散符号に対応する波長分散歪を用いて符号化する符号化手段を備え、受信ノードが割り当てられた拡散符号に同一又は逆の分散特性を有する拡散符号を用いて受信光を復号化する復号化手段を備えることを特徴とする。
【0010】
具体的には、本発明に係る光CDM伝送システムは、光信号を送信する送信ノードと前記光信号を受信する受信ノードとが光伝送路を介して接続されている光CDM伝送システムにおいて、前記送信ノードは、出射光を出射する光源、前記光源からの前記出射光を情報信号で変調して送信光を出力する変調手段、前記変調手段からの前記送信光を2波に分岐する送信側光分岐手段、光路長が略等しく、かつ、前記送信側光分岐手段で2波に分岐された前記送信光のそれぞれを伝搬させる2本の送信側分岐路、前記2本の送信側分岐路の一方に挿入され、かつ、2波に分岐された前記送信光の一方を割り当てられた拡散符号に対応する波長分散歪を用いて符号化する符号化手段、及び、前記2本の送信側分岐路の端に接続され、かつ、2波に分岐された前記送信光同士を結合させて前記光信号として前記受信ノードに送信する送信側光結合手段、を備え、前記受信ノードは、受信した前記光信号を受信光として2波に分岐する受信側光分岐手段、光路長が略等しく、かつ、前記受信側光分岐手段で分岐された前記受信光のそれぞれを伝搬させる2本の受信側分岐路、前記2本の受信側分岐路の一方に挿入され、かつ、前記割り当てられた拡散符号に同一又は逆の分散特性を有する拡散符号を用いて2波に分岐された前記受信光の一方を復号化する復号化手段、前記2本の受信側分岐路の他方に挿入され、かつ、2波に分岐された前記受信光の他方の周波数を一定量偏移させる周波数偏移手段、前記2本の受信側分岐路の端に接続され、かつ、2波に分岐された前記受信光からビート信号を出力する光電気変換手段、前記ビート信号の周波数成分を通過させるフィルタ及び前記フィルタを通過した前記ビート信号を復調して前記情報信号を出力する復調手段を含む受信回路を1以上備える、ことを特徴とする。
【0011】
上記の光CDM伝送システムは、波長分散歪を拡散符号として用いることによって、廉価な光源を利用でき、簡易な構成で優れた雑音特性を有する。
【0012】
本発明に係る光CDM伝送システムでは、前記光源が、ファブリペロー型半導体レーザであることが好ましい。
【0013】
上記の光CDM伝送システムは、スペクトルが比較的広いファブリペロー型半導体レーザを前記光源として利用するため、経済性に優れる。
【0014】
本発明に係る光CDM伝送システムでは、前記符号化手段が、前記送信光の光強度が一定以上となる前記送信光の波長成分を波長軸上で複数に分割し、波長軸上で複数に分割された前記送信光の波長成分毎に異なる遅延を付与することによって前記送信光を符号化する多段光ファイバブラッグフィルタを含むことが好ましい。
【0015】
前記多段光ファイバブラッグフィルタ内部のそれぞれの光フィルタが反射する波長及び周波数、並びに、それぞれの光フィルタの位置を変更することで、上記の光CDM伝送システムは、前記送信ノードの前記拡散符号を変更でき、ネットワーク設計が柔軟になる。
【0016】
本発明に係る光CDM伝送システムでは、前記復号化手段が、前記受信光の光強度が一定以上となる前記受信光の波長成分を波長軸上で複数に分割し、波長軸上で複数に分割された前記受信光の波長成分毎に異なる遅延を付与することによって前記受信光を復号化する多段光ファイバブラッグフィルタを含むことが好ましい。
【0017】
前記多段光ファイバブラッグフィルタ内部のそれぞれの光フィルタが反射する波長及び周波数、並びに、それぞれの光フィルタの位置を変更することで、上記の光CDM伝送システムは、前記受信ノードの前記拡散符号を変更でき、ネットワーク設計が柔軟になる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、廉価な光源を利用でき、簡易な構成で優れた雑音特性を有する光CDM伝送システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
添付の図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。以下に説明する実施の形態は本発明の構成の例であり、本発明は、以下の実施の形態に制限されるものではない。また、同一部材及び同一部位には同一符号を付した。
【0020】
(第1実施形態)
まず、本発明の基本原理について説明する。図1に、基本原理を説明するための光干渉計の概略図を示した。図1の光干渉計90は、光源91、光分散性媒質92、半透鏡93a,93b、鏡94a、94b及び光検出器95を備える。光源91が出射した出射光は、半透鏡93aで2波に分岐される。2波に分岐された出射光の一方は、光分散性媒質92を透過し、鏡94aで反射され、半透鏡93bに到る。2波に分岐された出射光の他方は、鏡94bで反射され、そのまま半透鏡93bに至る。半透鏡93bでは2波に分岐された出射光同士が結合され、結合された出射光が光検出器95に至る。光検出器95での出射光の強度Iは、光分散性媒質92での光吸収を無視すると、数1で示される。
【0021】
【数1】

【0022】
ここで、Iは光源91が出射した出射光の強度、τは2波に分岐された出射光の伝搬時間差、|γ(τ)|はコヒーレンス度、Φは2波に分岐された出射光の位相差である。τが光源のコヒーレンス時間τ(但し、τ=ΔL/c。ΔLはコヒーレンス長、cは光速。)より十分小さい場合、|γ|が略1となり干渉信号(数1の第2項。)が観測できる。しかし、光分散性媒質92の分散値が大きくなると、光路長差が例え0であっても|γ|が大幅に劣化する。ここで、非特許文献3によれば、その時のコヒーレンス度は、数2で示される。
【0023】
【非特許文献3】ブロードバンド時代の光通信技術、島田他、(株)新技術コミュニケーションズ、p218−235
【0024】
【数2】

【0025】
ここで、λは光源91のスペクトルの中心波長、Δλは出射光のスペクトルの半値半幅、Dは波長分散値、Lは光分散性媒質92の長さである。数2より、Δλ/λの値が10−3単位となる光源91、例えば、レーザーダイオードであれば、波長分散で遅延時間がピコ秒単位であっても|γ|は十分小さくなる。参考として、図2に、参考文献2に記載のコヒーレンス度の理論値及び実験値を示す。図2には、波長分散が無い場合の理論値(計算値)を実線、波長分散が有る場合の理論値を破線、波長分散が無い場合の実験値を黒丸、及び、波長分散が有る場合の実験値を白丸で示した。図2は、光路長差が無い場合でも、2波に分岐された出射光の一方が光分散性媒質を透過すると|γ|が大きく劣化していることを示す。
【0026】
次に、第1実施形態に係る光CDM伝送システムについて説明する。図3に、第1実施形態に係る光CDM伝送システムの全体図を示した。光CDM伝送システム100は、例えば、3個の送信ノード10a,b,cが光方向性結合器20を介して光伝送路30に接続され、光伝送路30が1個の受信ノード40に接続されるPON(Passive Optical Network)ネットワークである。また、送信ノード10a,b,cのそれぞれは、異なる拡散符号が割り当てられている。なお、送信ノード10及び受信ノード40の個数は、特に制限されない。
【0027】
図4に、第1実施形態における送信ノードの概略図を示した。さらに、図5に、第1実施形態における受信ノードの概略図を示した。第1実施形態に係る光CDM伝送システムは、光信号を送信する送信ノード10と光信号を受信する受信ノード40とが光伝送路30を介して接続されている光CDM伝送システムにおいて、送信ノード10は、出射光を出射する光源11、光源11からの出射光を情報信号で変調して送信光を出力する変調手段12、変調手段12からの送信光を2波に分岐する送信側光分岐手段13、光路長が略等しく、かつ、送信側光分岐手段で2波に分岐された送信光のそれぞれを伝搬させる2本の送信側分岐路14、2本の送信側分岐路14の一方に挿入され、かつ、2波に分岐された送信光の一方を割り当てられた拡散符号に対応する波長分散歪を用いて符号化する符号化手段15、及び、2本の送信側分岐路14の端に接続され、かつ、2波に分岐された送信光同士を結合させて光信号として受信ノードに送信する送信側光結合手段16(図4を参照。)、を備え、受信ノード40は、受信した光信号を受信光として2波に分岐する受信側光分岐手段41、光路長が略等しく、かつ、受信側光分岐手段41で分岐された受信光のそれぞれを伝搬させる2本の受信側分岐路42、2本の受信側分岐路42の一方に挿入され、かつ、割り当てられた拡散符号に同一又は逆の分散特性を有する拡散符号を用いて2波に分岐された受信光の一方を復号化する復号化手段43、2本の受信側分岐路42の端に接続され、かつ、2波に分岐された受信光の一方に所定の位相差を加え、かつ、2波に分岐された受信光同士を結合させ、かつ、結合された受信光を電気信号に変換する光電気変換手段44、電気信号のベースバンド周波数成分を通過させるフィルタ48、及び、フィルタ48を通過した電気信号を復調して情報信号を出力する復調手段49を含む受信回路50a,b,cを備える(図5を参照。)。なお、図5では、受信回路50b,cの一部の符号は省略した。
【0028】
図4の送信ノード10について説明する。第1実施形態に係る光CDM伝送システムでは、光源11が、ファブリペロー型半導体レーザであることが好ましい。第1実施形態に係る光CDM伝送システムは、スペクトルが比較的広いファブリペロー型半導体レーザを光源11として利用するため、経済性に優れる。また、送信側光分岐手段13及び送信側光結合手段16としては、例えば、光導波路型方向性結合器及びΔβ型方向性結合器等の光方向性結合器がある。送信側分岐路14としては、例えば、光ファイバ又は光導波路がある。さらに、符号化手段15としては、例えば、多段光ファイバブラッグフィルタがある。なお、多段光ファイバブラッグフィルタの詳細については、後述する。
【0029】
図5の受信ノード40について説明する。受信側光分岐手段41としては、例えば、光方向性結合器がある。受信側分岐路42としては、例えば、光ファイバ又は光導波路がある。復号化手段43aは、例えば、図3の送信ノード10aに割り当てられた拡散符号に同一又は逆の分散特性を有する拡散符号を用いて復号化する。復号化手段43bは、例えば、図3の送信ノード10bに割り当てられた拡散符号に同一又は逆の分散特性を有する拡散符号を用いて復号化する。復号化手段43cは、例えば、図3の送信ノード10cに割り当てられた拡散符号に同一又は逆の分散特性を有する拡散符号を用いて復号化する。また、光電気変換手段44は、例えば、光方向性結合器45、2個のフォトダイオード46a,46b及び差動増幅器47を有する。また、フィルタ48としては、例えば、ベースバンドフィルタがある。さらに、光方向性結合器51は、例えば、一方の側が光伝送路30に接続され、他方が受信回路50a,b,cに接続される。
【0030】
図3の送信ノード10aから受信ノード40に光信号を送信する場合を例に説明する。図4の光源11が出射する光信号(中心波長はλ)は、変調手段12により情報信号で変調されて送信光となる。続いて、送信光は、送信側光分岐手段13で出力が等配分されるように2波に分岐される。2波に分岐された送信光の一方は、符号化手段15で送信ノード10aに割り当てられた拡散符号(C)に対応する波長分散歪を用いて符号化され、送信側光結合手段16に至る。また、2波に分岐された送信光の他方は、送信側分岐路14をそのまま伝搬して送信側光結合手段16に至る。送信側光結合手段16で、2波に分岐された送信光同士が結合され、光信号として受信ノードに送信される。2本の送信側分岐路14は、光路長が略等しく、例えば、光路長差が光源11のコヒーレンス長ΔLよりも十分小さい。なお、コヒーレンス長ΔLは、Δλ/Δλに略等しくなる(Δλは光源11のスペクトル幅。)。変調手段12で変調された送信光の出力をS(t)exp(β10z−2πνt)とすると、送信ノード10aの光信号の出力は、数3で示される。
【0031】
【数3】

【0032】
ここで、β10は伝搬定数、dは符号化手段15の長さ、βc1(ν)は符号化手段15の分散特性である。また、数3を簡易とするため、送信光の分岐比率を1/2とした。さらに、数3では、光伝送路30等における距離zの伝搬に伴う位相項及び損失は共通項なので省略した。
【0033】
図3に示すように、複数の送信ノード10からの光信号は、例えば、光方向性結合器20で合波され、光伝送路30を介して受信ノード40に送信される。
【0034】
図5の受信ノード40において、光信号は、n台の送信ノードに対応した復号及び復調処理のため、光方向性結合器
51でn波に分岐される。図3の光方向性結合器20及び図5の光方向性結合器51の合分岐比率を等配分と仮定して省略すると、図5の受信回路50aに入射する光信号の出力は、n台の送信ノードからの光信号の出力の和、すなわち、数4で示される(第1実施形態では、n=3。)。
【0035】
【数4】

【0036】
光信号は、受信側光分岐手段41aで受信光として2波に分岐される。2波に分岐された受信光の一方は、復号化手段43aで図3の送信ノード10aに割り当てられた拡散符号(C)に同一又は逆の分散特性を有する拡散符号を用いて復号化され、光電気変換手段44に至る。また、2波に分岐された受信光の他方は、受信側分岐路42をそのまま伝搬して光電気変換手段44に至る。光電気変換手段44では、2波に分岐された受信光同士が結合される。2本の受信側分岐路42は、光路長が略等しく、例えば、光路長差が光源のコヒーレンス長ΔLよりも十分小さい。フォトダイオード46aに入射する受信光の出力は数5で示される。また、フォトダイオード46bに入射する受信光の出力は数6で示される。
【0037】
【数5】

【0038】
【数6】

【0039】
ここで、dは復号化手段43aの長さ、β-c1(ν)は図3の送信ノード10aに割り当てられた拡散符号の分散特性βc1(ν)の逆分散特性、Ψは光電気変換手段44で加えられる位相差で、例えば、πである。また、フォトダイオード46a,46bに入射する受信光の強度は2乗平均<|S|>で示されるが、符号化による|γ|の劣化度合いを十分大きくすることで、復号化手段43aにおいて分散が補正される項目以外は干渉に寄与しないので直流成分として除外して扱うことができる。具体的には、2本の受信側分岐路42を伝搬する2波の受信光の干渉は、拡散符号が相殺される数5及び数6の第1項のβck(ν)+β-c1(ν)がk=1の場合のみ、分散が補償される。分散性媒質を通過しない数5及び数6の第4項中のβk0(ν)+β10(ν)の位相をもつ受信光成分の|γ|は略1となり、干渉が観測される。また、その他の光成分による干渉は、|γ|が略0となることによって観測されない。もし、復号化手段43において、図3の送信ノード10aの拡散符号と逆分散特性を有する拡散符号でなく、同一の拡散特性を有する拡散符号(βc1)とした場合には、数5及び数6の第2項中のβk0(ν)+βc1(ν)が第3項中のβck(ν)+β10(ν)と等しくなり、2波に分岐された受信光成分間で|γ|が略1となり、干渉が観測される。当然、2本のうち異なる受信側分岐路でなく、同一の受信側分岐路を伝搬した受信光は、ベースバンド信号として残る。その結果、フォトダイオード46aの電気信号の出力は数7で示される。また、フォトダイオード46bの電気信号の出力は数8で示される。
【0040】
【数7】

【0041】
【数8】

【0042】
数7及び数8が簡素に記載されていることで、差動増幅器47は、数7及び数8の第2項を除外でき、|S|に比例した出力となる。この電気信号は、ベースバンド周波数成分を有しているため、フィルタ48を通過させ、復調手段49で復調させることで、元の情報信号となる。
【0043】
第1実施形態における符号化及び復号化について説明する。図6に、多段光ファイバブラッグフィルタの概念図を示した。第1実施形態に係る光CDM伝送システムでは、符号化手段が、送信光の光強度が一定以上となる送信光の波長成分を波長軸上で複数に分割し、波長軸上で複数に分割された送信光の波長成分毎に異なる遅延を付与することによって送信光を符号化する多段光ファイバブラッグフィルタ60を含むことが好ましい。さらに、図6には、光フィルタ60a、光サーキュレーター61、入力62、出力63、周波数成分Vα〜Vα及び時間遅延T〜Tを図示した。また、周波数成分及び時間遅延のnは、送信ノードの台数に対応する(第1実施形態では、n=3。)。符号化手段に入射する送信光は、光サーキュレーター61を透過し、多段光ファイバブラッグフィルタ60の一端に入射する(入力62を参照。)。多段光ファイバブラッグフィルタ60は、特定の波長及び周波数を有する送信光のみを略100%反射する分布型の光フィルタ60aが多段に、例えば、16個配置されている。また、光フィルタ60aのそれぞれは、反射する送信光の波長及び周波数が異なる。多段光ファイバブラッグフィルタ60に入射した送信光が光フィルタ60aで反射されることにより、時間遅延が加わった複数の波長及び周波数成分が出力される(出力63を参照。)。例えば、周波数成分Vαは、周波数成分Vαに比べ、2(T−T)だけ遅延することになる。このため、それぞれの光フィルタ60aが反射する波長及び周波数、並びに、それぞれの光フィルタ60aの位置を変更することで、波長分散を変更できる。これによって、第1実施形態に係る光CDM伝送システムは、送信ノードの拡散符号を変更でき、ネットワーク設計が柔軟になる。
【0044】
図7は、第1実施形態における符号化を説明するための概念図であり、図7(a)は光源のスペクトルであり、図7(b)は符号化のイメージである。また、説明を簡単にするため、図7(a)は、ガウス分布で近似している。図7(a)に示すように、送信光の光強度が一定以上(図7(a)の一点鎖線を参照。)となる送信光の波長成分を波長軸上で複数に分割し、波長軸上で複数に分割された送信光の波長成分毎に異なる遅延を付与することによって送信光を符号化する。これを実現するのが、例えば、上記の多段光ファイバブラッグフィルタである。光源のスペクトルにおいて、Δλ/λの値が10−3単位(ファブリペロー型半導体レーザのスペクトルの範囲内。)とすると、波長分散歪の数値として、平均で30〜70ピコ秒/mm程度で|γ|が略0となる。図7(b)は、遅延量として、n段階の拡散符号長がnチップ、かつ、拡散符号が{1010・・・1}のパターンを示す。
【0045】
第1実施形態に係る光CDM伝送システムでは、復号化手段が、受信光の光強度が一定以上となる受信光の波長成分を波長軸上で複数に分割し、波長軸上で複数に分割された受信光の波長成分毎に異なる遅延を付与することによって受信光を復号化する多段光ファイバブラッグフィルタを含むことが好ましい。多段光ファイバブラッグフィルタは、受信光が入力及び出力される以外、符号化手段と同様に、復号化手段に適用することができる。多段光ファイバブラッグフィルタ内部のそれぞれの光フィルタが反射する波長及び周波数、並びに、それぞれの光フィルタの位置を変更することで、第1実施形態に係る光CDM伝送システムでは、受信ノードの拡散符号を変更でき、ネットワーク設計が柔軟になる。
【0046】
以上のように、第1実施形態に係る光CDM伝送システムは、廉価な光源を利用でき、簡易な構成で優れた雑音特性を有する。
【0047】
(第2実施形態)
第2実施形態に係る光CDM伝送システムについて、第1実施形態に係る光CDM伝送システムと異なる点を中心に説明する。図8に、第2実施形態における受信ノードの概念図を示した。第2実施形態に係る光CDM伝送システムは、光信号を送信する送信ノードと光信号を受信する受信ノード40とが光伝送路を介して接続されている光CDM伝送システムにおいて、送信ノードは、出射光を出射する光源、光源からの出射光を情報信号で変調して送信光を出力する変調手段、変調手段からの送信光を2波に分岐する送信側光分岐手段、光路長が略等しく、かつ、送信側光分岐手段で2波に分岐された送信光のそれぞれを伝搬させる2本の送信側分岐路、2本の送信側分岐路の一方に挿入され、かつ、2波に分岐された送信光の一方を割り当てられた拡散符号に対応する波長分散歪を用いて符号化する符号化手段、及び、2本の送信側分岐路の端に接続され、かつ、2波に分岐された送信光同士を結合させて光信号として受信ノードに送信する送信側光結合手段、を備え、受信ノード40は、受信した光信号を受信光として2波に分岐する受信側光分岐手段41、光路長が略等しく、かつ、受信側光分岐手段41で分岐された受信光のそれぞれを伝搬させる2本の受信側分岐路42、2本の受信側分岐路42の一方に挿入され、かつ、割り当てられた拡散符号に同一又は逆の分散特性を有する拡散符号を用いて2波に分岐された受信光の一方を復号化する復号化手段43、2本の受信側分岐路42の他方に挿入され、かつ、2波に分岐された受信光の他方の周波数を一定量偏移させる周波数偏移手段52、2本の受信側分岐路42の端に接続され、かつ、2波に分岐された受信光からビート信号を出力する光電気変換手段44、ビート信号の周波数成分を通過させるフィルタ48及びフィルタ48を通過したビート信号を復調して情報信号を出力する復調手段49を含む受信回路50a,b,cを備える。なお、図5では、受信回路50b,cの符号は省略した。
【0048】
光電気変換手段44は、例えば、光方向性結合器45及びフォトダイオード46を有する。フィルタ48としては、例えば、IFフィルタがある。また、周波数偏移手段52としては、例えば、周波数シフターがある。
【0049】
受信回路50aに入射した光信号は、受信側光分岐手段
41で受信光として2波に分岐される。2波に分岐された受信光の一方は、復号化手段43aで図3の送信ノード10a割り当てられた拡散符号に同一又は逆の分散特性を有する拡散符号を用いて復号化され、光電気変換手段44に至る。また、2波に分岐された受信光の他方は、周波数偏移手段52を透過させることで、中心周波数が一定量偏移(Δν)され、光電気変換手段44に至る。光電気変換手段44では、2波に分岐された受信光同士が結合され、その後、光電気変換される。この周波数偏移により、フォトダイオード46の出力は、数9で示される。
【0050】
【数9】

【0051】
数9より、フォトダイオード46から、周波数がΔνのビート信号が出力されることがわかる。その後、ビート信号の周波数成分を透過させるフィルタ48を透過させることで、数9の第2項が除去され、復調手段49で復調させることで、元の情報信号となる。
【0052】
以上のように、第2実施形態に係る光CDM伝送システムは、第1実施形態に係る光CDM伝送システムと同様に、廉価な光源を利用でき、簡易な構成で優れた雑音特性を有する。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明に係る光通信システムは、PON(Passive Optical Network)をはじめとする光ネットワークで利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】基本原理を説明するための光干渉計の概略図である。
【図2】参考文献2に記載のコヒーレンス度の理論値及び実験値を示すグラフである。
【図3】第1実施形態に係る光CDM伝送システムの全体図である。
【図4】第1実施形態における送信ノードの概略図である。
【図5】第1実施形態における受信ノードの概略図である。
【図6】多段光ファイバブラッグフィルタの概念図である。
【図7】第1実施形態における符号化を説明するための概念図であり、図7(a)は光源のスペクトルであり、図7(b)は符号化のイメージである。
【図8】第2実施形態における受信ノードの概念図である。
【符号の説明】
【0055】
100 光CDM伝送システム
10、10a、10b、10c 送信ノード
11、91 光源
12 変調手段
13 送信側光分岐手段
14 送信側分岐路
15 符号化手段
16 送信側光結合手段
20、45、51 光方向性結合器
30 光伝送路
40 受信ノード
41、41a 受信側光分岐手段
42 受信側分岐路
43、43a、43b、43c 復号化手段
44 光電気変換手段
46、46a、46b フォトダイオード
47 差動増幅器
48 フィルタ
49 復調手段
50、50a、50b、50c 受信回路
52 周波数偏移手段
60 多段光ファイバブラッグフィルタ
60a 光フィルタ
61 光サーキュレーター
62 入力
63 出力
90 光干渉計
92 光分散性媒質
93a,93b 半透鏡
94a、94b 鏡
95 光検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光信号を送信する送信ノードと前記光信号を受信する受信ノードとが光伝送路を介して接続されている光CDM伝送システムにおいて、
前記送信ノードは、出射光を出射する光源、前記光源からの前記出射光を情報信号で変調して送信光を出力する変調手段、前記変調手段からの前記送信光を2波に分岐する送信側光分岐手段、光路長が略等しく、かつ、前記送信側光分岐手段で2波に分岐された前記送信光のそれぞれを伝搬させる2本の送信側分岐路、前記2本の送信側分岐路の一方に挿入され、かつ、2波に分岐された前記送信光の一方を割り当てられた拡散符号に対応する波長分散歪を用いて符号化する符号化手段、及び、前記2本の送信側分岐路の端に接続され、かつ、2波に分岐された前記送信光同士を結合させて前記光信号として前記受信ノードに送信する送信側光結合手段、を備え、
前記受信ノードは、受信した前記光信号を受信光として2波に分岐する受信側光分岐手段、光路長が略等しく、かつ、前記受信側光分岐手段で分岐された前記受信光のそれぞれを伝搬させる2本の受信側分岐路、前記2本の受信側分岐路の一方に挿入され、かつ、前記割り当てられた拡散符号に同一又は逆の分散特性を有する拡散符号を用いて2波に分岐された前記受信光の一方を復号化する復号化手段、前記2本の受信側分岐路の端に接続され、かつ、2波に分岐された前記受信光の一方に所定の位相差を加え、かつ、2波に分岐された前記受信光同士を結合させ、かつ、結合された前記受信光を電気信号に変換する光電気変換手段、前記電気信号のベースバンド周波数成分を通過させるフィルタ及び前記フィルタを通過した前記電気信号を復調して前記情報信号を出力する復調手段を含む受信回路を1以上備える、ことを特徴とする光CDM伝送システム。
【請求項2】
光信号を送信する送信ノードと前記光信号を受信する受信ノードとが光伝送路を介して接続されている光CDM伝送システムにおいて、
前記送信ノードは、出射光を出射する光源、前記光源からの前記出射光を情報信号で変調して送信光を出力する変調手段、前記変調手段からの前記送信光を2波に分岐する送信側光分岐手段、光路長が略等しく、かつ、前記送信側光分岐手段で2波に分岐された前記送信光のそれぞれを伝搬させる2本の送信側分岐路、前記2本の送信側分岐路の一方に挿入され、かつ、2波に分岐された前記送信光の一方を割り当てられた拡散符号に対応する波長分散歪を用いて符号化する符号化手段、及び、前記2本の送信側分岐路の端に接続され、かつ、2波に分岐された前記送信光同士を結合させて前記光信号として前記受信ノードに送信する送信側光結合手段、を備え、
前記受信ノードは、受信した前記光信号を受信光として2波に分岐する受信側光分岐手段、光路長が略等しく、かつ、前記受信側光分岐手段で分岐された前記受信光のそれぞれを伝搬させる2本の受信側分岐路、前記2本の受信側分岐路の一方に挿入され、かつ、前記割り当てられた拡散符号に同一又は逆の分散特性を有する拡散符号を用いて2波に分岐された前記受信光の一方を復号化する復号化手段、前記2本の受信側分岐路の他方に挿入され、かつ、2波に分岐された前記受信光の他方の周波数を一定量偏移させる周波数偏移手段、前記2本の受信側分岐路の端に接続され、かつ、2波に分岐された前記受信光からビート信号を出力する光電気変換手段、前記ビート信号の周波数成分を通過させるフィルタ及び前記フィルタを通過した前記ビート信号を復調して前記情報信号を出力する復調手段を含む受信回路を1以上備える、ことを特徴とする光CDM伝送システム。
【請求項3】
前記光源が、ファブリペロー型半導体レーザであることを特徴とする請求項1又は2に記載の光CDM伝送システム。
【請求項4】
前記符号化手段が、前記送信光の光強度が一定以上となる前記送信光の波長成分を波長軸上で複数に分割し、波長軸上で複数に分割された前記送信光の波長成分毎に異なる遅延を付与することによって前記送信光を符号化する多段光ファイバブラッグフィルタを含むことを特徴とする請求項1、2又は3に記載の光CDM伝送システム。
【請求項5】
前記復号化手段が、前記受信光の光強度が一定以上となる前記受信光の波長成分を波長軸上で複数に分割し、波長軸上で複数に分割された前記受信光の波長成分毎に異なる遅延を付与することによって前記受信光を復号化する多段光ファイバブラッグフィルタを含むことを特徴とする請求項1、2、3又は4に記載の光CDM伝送システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−109171(P2008−109171A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−287130(P2006−287130)
【出願日】平成18年10月23日(2006.10.23)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】