説明

免疫センサおよび免疫測定方法

【課題】低温環境下であっても試料中の被測定物質の濃度を正確に定量することができる免疫センサおよび免疫測定方法を提供する。
【解決手段】中空の基体101と、基体101の内部に設けられ、被測定物質を含む試料を保持するための試料保持部と、基体101に設けられ、試料保持部に連通する試料供給口103と、基体101に設けられ、試料保持部の外部から内部に入射光を入射させるための光入射部107と、基体101に設けられ、試料保持部の内部から外部に出射光を出射させるための光出射部108と、試料保持部に設けられ、被測定物質に対して特異的に結合する特異結合物質、ならびに硝酸塩および臭化物塩のうち少なくとも1つを含む塩を保持する試薬保持部とを備える免疫センサ100。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中の被測定物質である抗原または抗体の含有量を測定するための免疫センサおよび免疫測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、医療において、さまざまな疾患の診断や病状の経過を調べるために、人間の体液中に存在する各疾患に特徴的なタンパク質の含有量を測定することが広く行われている。これらのタンパク質の含有量の測定には、主に標的とするタンパク質を抗原として、それと特異的に結合する反応、すなわち抗原抗体反応を利用した免疫反応測定方法が広く用いられている。
【0003】
免疫反応では、抗原と抗体が特異的に結合することで抗原抗体複合体の凝集体(以下、「凝集複合体」と称する。)が生成される。この凝集複合体は不溶性であるため、反応系には濁りが生じるが、当然、このときの濁度は凝集複合体の量に対応している。免疫反応は平衡反応であるため、用いる抗体あるいは抗原の濃度が既知であれば、凝集複合体の濃度から、未知の抗原あるいは抗体の濃度を求めることができる。つまり、反応系の濁度の測定により、未知の抗原または抗体の濃度を求めることができるのである。
【0004】
この濁度を測定する手法として一般的なのが、光学系を用いた免疫比濁法や免疫比朧法である。免疫比濁法とは、反応系に入射した光の透過光強度を測定し、その透過率から濁度を計測するものであり、免疫比朧法とは、反応系に入射した光の散乱光強度から濁度を計測するものである。
【0005】
このような手法を用いた免疫反応測定方法やそれに用いる試薬として、例えば特許文献1においては、ヒトアルブミンを被測定物質(抗原)として、ヒトアルブミンと特異的に結合する特異結合物質(抗体)をpHが5程度のフタル酸水素カリウム緩衝液中に溶解させた試薬を用い、それらを免疫反応させることで凝集複合体を生成し、系の濁度を免疫比朧法により測定することが提案されている。
【特許文献1】国際公開第03/056333号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の測定方法を用いた免疫センサでは、試料中の被測定物質の濃度が0の場合における散乱光強度の値(以下、「ブランク値」と略称する。)は0にはならない。これは、抗体の自己凝集体による散乱が生じているためであると考えられる。
【0007】
これに対し、本発明者らは、上記従来の測定方法を用いた免疫センサにおいて、20℃以下の低温環境下になるとブランク値が増大することを見出し、試料中の被測定物質の濃度が0に近づくにつれて、抗体の自己凝集体の数が増大し、それによる散乱が凝集複合体による散乱と同程度になってしまい、試料中の被測定物質の濃度の正確な定量を阻害してしまうという問題に直面した。
【0008】
そこで、本発明は、低温環境下であっても試料中の被測定物質の濃度を正確に定量することができる免疫センサおよび免疫測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の免疫測定方法は、
(A)被測定物質を含む試料と、前記被測定物質に対して特異的に結合する特異結合物質と、硝酸塩および臭化物塩のうち少なくとも1つを含む塩と、を混合して混合液を得る工程、
(B)前記混合液に入射光を照射する工程、
(C)前記工程Bにおける入射光の照射に起因して、前記混合液中を透過または前記混合液中において散乱することにより、前記混合液から出射した出射光を受光する工程、ならびに
(D)前記工程Cにおいて受光された前記出射光の強度に基づき、前記試料中の前記被測定物質の含有量を求める工程を含む。
【0010】
また、本発明の免疫センサは、中空の基体と、前記基体の内部に設けられ、被測定物質を含む試料を保持するための試料保持部と、前記基体に設けられ、前記試料保持部に連通する試料供給口と、前記基体に設けられ、前記試料保持部の外部から前記試料保持部の内部に入射光を入射させるための光入射部と、前記基体に設けられ、前記試料保持部の内部から前記試料保持部の外部に出射光を出射させるための光出射部と、前記試料保持部に設けられ、前記被測定物質に対して特異的に結合する特異結合物質、ならびに硝酸塩および臭化物塩のうち少なくとも1つを含む塩を保持する試薬保持部とを備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明の免疫センサおよび免疫測定方法によれば、低温環境下であっても試料中の被測定物質の濃度を正確に定量することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の免疫測定方法は、
(A)被測定物質を含む試料と、前記被測定物質に対して特異的に結合する特異結合物質と、硝酸塩および臭化物塩のうち少なくとも1つを含む塩と、を混合して混合液を得る工程、
(B)前記混合液に入射光を照射する工程、
(C)前記工程Bにおける入射光の照射に起因して、前記混合液中を透過または前記混合液中において散乱することにより、前記混合液から出射した出射光を受光する工程、ならびに
(D)前記工程Cにおいて受光された前記出射光の強度に基づき、前記試料中の前記被測定物質の含有量を求める工程を含む。
【0013】
このような構成によれば、混合液中における特異結合物質の自己凝集が抑制されることによりブランク値が低減するため、20℃以下の低温環境下であっても、試料中の被測定物質の濃度を正確に定量することができる。
【0014】
本発明によるブランク値の低減は、カオトロピックイオンの添加により、抗体の水溶性が増したためであると考えられる。カオトロピックイオンとは、イオン半径の大きい1価の陰イオンの総称であり、このようなイオンが水溶液中に存在すると、水分子の構造が破壊され、疎水性分子の水溶性が増大すると考えられている。
【0015】
したがって、本発明によるブランク値低減効果において支配的であるのは、陰イオンである硝酸イオンおよび臭化物イオンであると考えられるため、対になる陽イオン種については特に限定なく、いずれの陽イオンであっても本発明による効果が得られると考えられる。
【0016】
本発明において用いる硝酸塩としては、例えば硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸リチウムなどが挙げられる。ここで、それぞれの塩の室温における溶解度は、硝酸ナトリウムが11mol/l、硝酸カリウムが3.5mol/l、硝酸リチウムが0.29mol/lであるため、溶解度が高いという観点から、硝酸塩として硝酸ナトリウムまたは硝酸カリウムを用いることが好ましい。このなかでも、特に溶解度が高いという観点から、硝酸塩として硝酸ナトリウムを用いることがさらに好ましい。
【0017】
本発明において用いる臭化物塩としては、例えば臭化カリウム、臭化ナトリウム、臭化リチウムなどが挙げられる。ここで、それぞれの塩の室温における溶解度は、臭化カリウムが5.6mol/l、臭化ナトリウムが8.8mol/l、臭化リチウムが0.069mol/lであるため、溶解度が高いという観点から、臭化物塩として臭化カリウムまたは臭化ナトリウムを用いることが好ましい。このなかでも、臭化物塩として臭化カリウムを用いることがさらに好ましい。
【0018】
また、本発明の免疫測定方法においては、工程Aにおいて試料および特異結合物質と混合される塩が硝酸ナトリウムであって、混合液中における硝酸ナトリウムの濃度が0.1〜4mol/lであることが好ましい。
また、本発明の免疫測定方法は、工程Aにおいて試料および特異結合物質と混合される塩が臭化カリウムであって、混合液中における臭化カリウムの濃度が0.1〜3mol/lであってもよい。
【0019】
本発明における試料としては、血清、血漿、血液、尿、間質液、リンパ液などの体液、培地の上清液などの液体の試料が挙げられる。これらのなかで、試料として尿が好ましい。試料が尿であると、非侵襲的に在宅での日常の健康管理を行うことができる。
被測定物質としては、アルブミン、hCG、LH、CRP、IgGなどが挙げられる。
【0020】
健康管理の最初の段階で行われる尿の定性検査では、pH、比重、蛋白、糖、潜血、ケトン体、ビリルビン、ウロビリノーゲン、亜硝酸塩、白血球、アスコルビン酸、アミラーゼ、食塩の12項目について検査が行われる。また、腎機能を分析するという目的では微量アルブミンが、妊娠検査・排卵検査等のマーカーとしてはhCG、LHなどのホルモンがある。
【0021】
これらの検査項目を大別すると、蛋白や、微量アルブミン、hCG、LHなどのホルモンは、抗原抗体反応に基づいた光学測定が適している。抗原抗体反応に基づいた光学測定としては、免疫比ろう法、免疫比濁法、ラテックス免疫凝集法などの、抗原抗体反応に基づいて試料中に生じた濁りを測定するものが挙げられる。
【0022】
本発明において用いる特異結合物質としては、抗体、酵素などが挙げられる。このなかで、特異結合物質が抗体であることが好ましい。抗体は公知の方法により産生させることができるので、試薬を作製しやすいという点で有利である。例えば、アルブミンなどの蛋白や、hCG、LHなどのホルモンを抗原として、マウス・ウサギなどに免疫することにより、前記抗原に対する抗体を得ることができる。
【0023】
本発明において用いる抗体としては、アルブミン等の尿中に含まれる蛋白に対する抗体や、hCG、LHなどの尿中に含まれるホルモンに対する抗体などが挙げられる。必要に応じて抗原と抗体による凝集反応を促進させるポリエチレングリコールなどの化合物を混合液中に共存させてもよい。
【0024】
次に、本発明の免疫センサは、中空の基体と、前記基体の内部に設けられ、被測定物質を含む試料を保持するための試料保持部と、前記基体に設けられ、前記試料保持部に連通する試料供給口と、前記基体に設けられ、前記試料保持部の外部から前記試料保持部の内部に入射光を入射させるための光入射部と、前記基体に設けられ、前記試料保持部の内部から前記試料保持部の外部に出射光を出射させるための光出射部と、前記試料保持部に設けられ、前記被測定物質に対して特異的に結合する特異結合物質、ならびに硝酸塩および臭化物塩のうち少なくとも1つを含む塩を保持する試薬保持部とを備える。
【0025】
このようにすると、試料保持部内に供給された試料中に溶解した特異結合物質の自己凝集が抑制されることによりブランク値が低減するため、20℃以下の低温環境下であっても、試料中の被測定物質の濃度を正確に定量することができる。
ここで、上述のように、上記硝酸塩としては硝酸ナトリウムであることが好ましい。また、上記臭化物塩としては臭化カリウムであることが好ましい。
【0026】
光入射部および光出射部は、光学的に透明な材料または可視光の吸収を実質的に有していない材料で形成されていることが好ましい。例えば、石英、ガラス、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチルなどが挙げられる。センサを使い捨てにする場合には、コストの観点からポリスチレンが好ましい。
【0027】
本発明の免疫センサにおいて、被測定物質に対して特異的に結合する特異結合物質と、硝酸塩および臭化物塩のうち少なくとも1つを含む塩とを含む試薬は、試料保持部内に乾燥状態で備えられ、試料保持部内に試料が供給されたときに、試料に溶解するように配置されていることが好ましい。
【0028】
例えば、ガラス繊維や濾紙などの多孔性の担体に試薬の溶液を含浸させた後、乾燥させることにより試薬を上記担体に担持させ、当該担体を試料保持部内に設ければよい。また、試料保持部を構成する壁面に、試薬の溶液を直接塗布した後乾燥することにより試薬を配置してもよい。
【0029】
また、本発明の測定装置は、上記免疫センサを取付けるための免疫センサ取付け部と、前記免疫センサの前記光入射部に入射する入射光を出射するための光源と、前記光出射部から出射した出射光を受光するための受光器と、前記受光器により受光された前記出射光に基づき、前記試料中に含まれる前記被測定物質を検出または定量するための演算部とを備える。
【0030】
ここで、上記免疫センサは着脱可能な状態で上記測定装置に取付けられることが好ましい。また、免疫センサは使い捨てであることが好ましい。
また、本発明の測定装置は、前記免疫センサ取付け部に取付けられた前記免疫センサの前記試料保持部内に吸引により前記試料を供給するための吸引部をさらに備えることが好ましい。
【0031】
したがって、本発明の免疫センサは、前記試料供給口から前記試料保持部内に試料を吸引するための吸引口をさらに備えていることが好ましい。このような構成によれば、免疫センサ取付け部に免疫センサの吸引口が接続されるように免疫センサを取付けた状態で、吸引部を用いて、免疫センサの試料保持部内に試料供給口から容易に試料を供給することができる。
【0032】
吸引部は、手動によるものであっても自動によるものであってもよく、例えば、従来のシリンジ、ディスペンサーなどと同様のピストン機構が挙げられる。これらのピストン機構においてピストンを作動させる方法は、手動であっても、自動であってもよいが、自動化することが、作業者の負担を軽減することができるので好ましい。自動化する方法としては、ピストンをモーターで作動させる方法がある。モーターとしては、ステップモーター、直流モーターなどがある。
【0033】
ステップモーターは、入力された1パルス信号あたりに特定の回転角を回転するモーターであり、パルス数で回転角度を決定できるため、位置決めのためのエンコーダーを必要としない。即ち、入力パルス数により、ピストンの動作距離を制御することができる。
【0034】
モーターの回転運動は、歯車機構と雄ネジおよび雌ネジを組み合わせた直進機構などとを用いて直進運動へ変換することにより、ピストンを作動させる。直流モーターの場合も回転運動を直進運動へ変換する方法は同様であるが、直流モーターの場合は、ピストンの動作距離を制御するために、モーターの回転位置を検出するエンコーダーを用いる。また、リニア型のステップモーターもあり、このタイプのモーターは、モーター内に雄ネジと雌ネジを組み合わせた直進機構が組み入れられており、入力パルス数に依存して、棒状の可動部が直進運動するように構成されている。このため、この棒に直接ピストンを連結すればよく、構成が簡単となる。
【0035】
1.免疫センサ
以下、図面を用いて、本発明の免疫センサの好ましい一実施の形態をさらに詳細に説明する。本実施の形態では、試料が尿で、被測定物質がヒトアルブミンである場合について説明する。まず、本実施の形態に係る免疫センサの構造について図1を用いて説明する。図1は、本実施の形態に係る免疫センサを示す斜視図であり、図2は図1におけるA−A線部分の断面図である。
【0036】
本実施の形態の免疫センサ100は、透明のポリスチレン製である中空の基体101を備えている。基体101の両端部は外部に開放され、基体101の内部には空間が設けられており、その空間が試料保持部102として機能する。また、試料保持部102として機能する空間の一方の開放端部が試料供給口103、他方の開放端部が吸引口104としてそれぞれ機能する。
【0037】
より具体的には、基体101は中空四角柱部分101aと中空四角錐部分101bとを有し、中空四角柱部分101aの一方の端部に吸引口104が設けられ、中空四角柱部分101aの他方の端部に中空四角錐部分101bが一体化されている。そして、中空四角錐部分101bの、中空四角柱部分101aとは反対側の端部に、試料供給口103が設けられている。
【0038】
基体101の中空四角柱部分101aを構成する4つの面のうち、第1の面105の内側の壁面には試薬保持部109が設けられている。中空四角柱部分101aの外面を構成する残りの3つの面のうち、第1の面105と対向する位置にある第2の面107が光入射部(以下、「光入射部107」とも表記する。)として機能し、第1の面と隣接する第3の面108が光出射部(以下、「光出射部108」とも表記する。)して機能する。これら第2の面107からなる光入射部と第3の面108からなる光出射部とが本実施の形態における光学測定部に相当する。
【0039】
以下に、本実施の形態の免疫センサの作製方法について図3を用いて説明する。図3は本実施の形態に係る免疫センサの分解斜視図である。免疫センサ100を構成する第1の部材201および第2の部材202はそれぞれ透明のポリスチレン製であり凹部を有する。これら第1の部材201と第2の部材202とが互いに組み合わされることにより、中空四角柱部分101aおよび中空四角錐部分101bを有する基体101が構成される。
【0040】
第1の部材201および第2の部材202は、金型を用いた成型によって得ることができる。成型には、公知の樹脂成型技術を用いればよい。第1の部材201および第2の部材202の寸法は、適宜調整することが可能であるが、例えば幅Aが10mm、長さBが84mm、高さCが6mmである。
【0041】
次に、第2の部材202の凹部の底面、即ち第1の面105の内壁面に試薬保持部109を形成する。例えば、ヒトアルブミンに対して特異的に結合する特異結合物質である抗ヒトアルブミン抗体と、硝酸塩および臭化物塩のうち少なくとも1つを含む塩とを含む試薬の水溶液を、マイクロシリンジなどを用いて第2の部材202の凹部の底面に一定量滴下することにより塗布し、これを室温〜30℃程度の環境に静置して水分を蒸発させることにより、試薬を乾燥状態で担持することができる。例えば、濃度が8mg/dLの上記抗体と濃度が2mol/Lの上記塩とを含む水溶液を用い、0.7mLの滴下量で、面積が5cm2の滴下部分に滴下すればよい。
【0042】
塗布する試薬を含む水溶液の濃度および量は、必要とするデバイスの特性や第2の部材202における形成位置の空間的な制限に応じて適切に選択することができる。また、第2の部材202における試薬保持部の位置や面積は、試薬の試料に対する溶解性や光学測定部の位置などを鑑みて適宜適切に選択することができる。
【0043】
なお、ヒトアルブミンに対する抗体は従来公知の方法により得ることができる。例えば、ヒトアルブミンを免疫したウサギの抗血清を、プロテインAカラムクロマトグラフィーにより精製した後、透析チューブを用いて透析することにより、抗ヒトアルブミン抗体が得られる。
【0044】
上記のようにして得られる第1の部材201および第2の部材202を、図3に記した破線で示す位置関係をもって接合し、免疫センサ100を組み立てる。第1の部材201と第2の部材202との接合部分に、例えばエポキシ樹脂などの接着剤を塗布した後、第1の部材201と第2の部材202とを張り合わせて静置して乾燥させることにより免疫センサ100を組み立てる。
【0045】
また、接着剤を塗布せずに第1の部材201と第2の部材202とを張り合わせた後、市販の溶着機を用いて第1の部材201と第2の部材202との接合部分を熱または超音波によって溶着させてもよい。以上のようにして図1および2に示す免疫センサ100を得ることができる。
【0046】
2.測定装置
以下、図面を用いて、本発明の測定装置の実施の形態を説明する。本実施の形態に係る測定装置の構造について図4および5を用いて説明する。図4は本実施の形態の測定装置を示す斜視図であり、図5は本実施の形態の測定装置の構成を示すブロック図である。
【0047】
図4に示すように、本実施の形態の測定装置300は、測定装置300に免疫センサ100を取付けるための免疫センサ取付け部301を有し、免疫センサ取付け部301には、免疫センサ100の吸引口104に着脱可能に接合するためのセンサ装着口(図示せず)を有する。また、測定結果が表示される表示部302であるディスプレイ、試料吸引開始ボタン303、および免疫センサ取外しボタン304が設けられている。
【0048】
センサ装着口の内側には凸部が設けられて、免疫センサ100を取り付ける際に凸部が吸引口104に挿入される。このとき、接合部における空気の漏れが発生しないよう、例えばテフロン(登録商標)などのフッ素樹脂やイソプレンゴムなどの弾性を有する樹脂製のリング状の封止材等を上記凸部の周囲に設け、凸部と吸引口104との密着性を高めることが好ましい。上記封止材は線状であってもよく、また、上記凸部そのものがテフロンやイソプレンゴムなどの弾性を有する樹脂で構成されていてもよい。
【0049】
図5に示すように、測定装置300の内部には、免疫センサ取付け部301に取り付けられた免疫センサ100の光入射部に入射する入射光を出射するための光源407と、光出射部から出射した出射光を受光するための受光器408とが設けられている。
【0050】
さらに測定装置300の内部には、受光器408により受光された出射光に基づき、試料中に含まれる被測定物質を検出または定量するための演算部であるCPU401と、免疫センサ100の試料保持部102内に試料を吸引するための吸引部であるピストン機構404とが設けられている。
【0051】
本実施の形態における光源407としては、例えば650nmの波長の光を出射する半導体レーザを用いることができる。これに代えて、ライトエミッティングダイオード(LED)などを用いてもよい。
【0052】
なお、本実施の形態においては免疫比濁法による測定を適用することを想定して650nmの照射および受光波長を選択するが、この波長は測定法や測定対象に応じて適宜選択することができる。
【0053】
本実施の形態における受光器408としては、例えばフォトダイオードを用いることができる。これに代えて、受光器408としては、電荷結合型素子(CCD)、フォトマルチメーターなどを用いてもよい。また、本実施の形態におけるピストン機構404は、ピストンをリニア型のステップモーターで作動させる構成となっている。
【0054】
さらに、測定装置300の内部には、被測定物質であるヒトアルブミンの濃度と受光器408により受光される出射光強度との関係を表す検量線に関するデータが格納されている記憶部であるメモリ409が設けられている。
【0055】
3.測定方法
次に、本実施の形態の免疫センサ100および測定装置300を用いて試料中の被測定物質を測定する方法を、図4および5を参照しながら説明する。以下に、試料として尿を用いる例について述べる。
【0056】
まず、免疫センサ100の吸引口104を、測定装置300の免疫センサ取付け部301内のセンサ装着口(図示せず)に接合し、免疫センサ取付け部301に免疫センサ100を取付ける。
【0057】
次に、例えば便器内に設けられた受尿容器または紙コップ等の運搬可能な容器内に採取された尿に、免疫センサ100を浸漬させる。試料吸引開始ボタン303を押してピストン機構404を作動させると、ピストン機構404内のピストンが動き、免疫センサ100の試料供給口103から試料保持部102内に所定量(例えば、3mL)の尿が吸引される。
【0058】
試料保持部109内に供給された尿は、試薬保持部109に担持された乾燥状態の試薬を溶解する。これにより、試薬中に含まれる、抗ヒトアルブミン抗体と、硝酸塩および臭化物塩のうち少なくとも1つを含む塩とが尿中に溶解し、尿中の抗原であるヒトアルブミンと抗ヒトアルブミン抗体との免疫反応が進行する。このとき、試料である尿中には硝酸塩および臭化物塩のうち少なくとも1つを含む塩も溶解するため、抗ヒトアルブミン抗体の自己凝集を抑制することができる。
【0059】
試料保持部102内への試料の供給が完了すると、CPU401が計時部406であるタイマーによる計時を開始させる。一方、計時部406からの信号によって、試料保持部102内への試料の供給完了から所定時間(例えば、2分)経過したことをCPU401が判断すると、CPU401は光源407による光照射を実行させる。
【0060】
光源407から出射して免疫センサ100の光入射部107を通して試料保持部102内に入射し、尿中を透過および散乱し、光出射部108から出射した光を、所定時間の間(例えば、3分間)、測定装置300内に設けられた受光器408により受光する。
【0061】
CPU401はメモリ409に格納されている出射光強度とヒトアルブミン濃度との関係を表す検量線を読み出し、当該検量線を参照することによりCPU401が受光器408により受光された出射光強度をヒトアルブミン濃度に換算する。
【0062】
得られたヒトアルブミン濃度は表示部302に表示される。これにより、ユーザはヒトアルブミン濃度測定の完了を知ることができる。好ましくは、得られたヒトアルブミン濃度は、計時部406により計時された時刻とともにメモリ409に保存される。
【0063】
さらに、得られたヒトアルブミン濃度は、記録部411によりSDカードなどの記憶媒体に記録することができる。取り外し可能な記憶媒体に保存することにより、測定結果を測定装置300から容易に取り出すことができるので、前記記憶媒体を分析専門業者に持参もしくは郵送して、分析を依頼することができる。
【0064】
また、得られたヒトアルブミン濃度は、送信部412により測定装置300外に送信することができる。これにより、測定結果を、病院内の分析関連部門または分析関連業者等に送信し、それを前記分析関連部門または分析関連業者などにおいて分析することができるので、測定から分析までの時間を短縮することができる。
【0065】
さらにまた、前記分析関連部門または分析関連業者などにおいて分析した結果を受信するための受信部413を備えている。これにより、分析結果を迅速にユーザにフィードバックすることができる。
【0066】
最後に、ユーザが免疫センサ取外しボタン304を押すことにより、免疫センサ取外し機構410が作動して、ピストン機構404内のピストンを動かすことにより、試料保持部102内の尿が試料供給口103から便器内や紙コップ等の容器内に排出された後、免疫センサ100が測定装置300から自動的に取り外される。
なお、このようなセンサ取外しおよび試料排出の機構を免疫センサに設けずに、ユーザが手動で免疫センサ100を免疫センサ取付け部301から取り外してもよい。
【0067】
以上においては、本発明の実施の形態の一例について説明したが、免疫センサ100の形状は、本発明の構成要件を満たし、かつ本発明の効果を得られるものであれば、上記実施の形態において述べたものに限定されない。
以下、本発明の実施例について説明する。
【実施例】
【0068】
本実施例では、特異結合物質として、5種類の抗ヒトアルブミンモノクローナル抗体を重量比1:1:1:1:1で混合したものを用いた。5種類の抗ヒトアルブミンモノクローナル抗体としては、以下の表1に示す産生細胞株からそれぞれ産生された第1の抗体〜第5の抗体を用いた。第1〜第5の抗体をそれぞれ0.4mg/ml含む、pH5.0の50mmol/lフタル酸水素カリウム水溶液600μlを凍結乾燥させることにより抗体試薬を調製した。
【0069】
【表1】

【0070】
次に、4重量%のポリエチレングリコール(以下、「PEG」と略称する)および硝酸ナトリウムをそれぞれ0.1mol/l、0.2mol/l、0.3mol/l、0.5mol/l、0.7mol/l、1mol/l、2mol/l、3mol/l、4、5mol/l含む10種類のPEG水溶液と、4重量%のPEGおよび臭化カリウムをそれぞれ0.1mol/l、0.2mol/l、0.3mol/l、0.5mol/l、0.7mol/l、1mol/l、2mol/l、3mol/l、4、5mol/l含む10種類のPEG水溶液と、4重量%のPEGを含み塩を添加してないPEG水溶液を作製した。
【0071】
ここで、PEGとしては、平均分子量が7300〜9300であるポリエチレングリコール(和光純薬工業株式会社製のポリエチレングリコール6000(商品名))を用いた。
【0072】
次に、23℃環境下で、抗体試薬にPEG水溶液600μlを注入し、十分に撹拌することにより混合水溶液を作製した。得られた混合水溶液のうち500μlを石英セルに注入し、光学測定を行った。
【0073】
測定には、分光蛍光光度計(島津製作所製、RF−5300PC)を用い、免疫比朧法により行った。分光蛍光光度計の励起、蛍光波長をともに640nmに設定することで、試料に対して90°の散乱光を測定した。また、分光光度計の測定室には、恒温セルホルダを設置し、それを恒温水槽と接続することで、セル内の試料を一定の温度に保った。
【0074】
次に、5℃に設定した恒温水槽内に、混合水溶液を30〜60分放置することで、混合水溶液を冷却した。このとき、同時に分光蛍光光度計の恒温セルホルダにも5℃の水を循環させ、セルを冷却しておいた。混合水溶液を冷却した後、23℃のときと同様の手順で、各混合水溶液の散乱光強度を測定した。
【0075】
23℃および5℃における散乱光強度の測定結果を図6および図7に示す。図6は硝酸ナトリウムが添加された混合水溶液、図7は臭化カリウムが添加された混合水溶液における、塩濃度と散乱光強度との関係をそれぞれ示している。図6および図7において、破線および白丸(○)が23℃、実線および黒丸(●)が5℃のときの測定結果を示す。また、塩濃度0のときの散乱光強度は、4重量%のPEGを含み塩を添加してないPEG水溶液を用いて測定した。いずれの混合水溶液もヒトアルブミンを含んでいないため、図6および図7における散乱光強度はブランク値に相当する。
【0076】
図6および図7からわかるように、硝酸ナトリウムを0.1〜4mol/lまたは臭化カリウムを0.1〜4mol/l含む混合水溶液では、塩を添加していない混合水溶液に比べて散乱光強度が低くなった。また、硝酸ナトリウムを0.1〜4mol/lまたは臭化カリウムを0.1〜3mol/l含む混合水溶液では、23℃における散乱光強度と5℃における散乱光強度との差はほとんどみられなかった。以上の結果から、試料に硝酸ナトリウムや臭化カリウムを添加することによりブランク値を低減する効果の得られることがわかる。
【0077】
なお、本実施例では、緩衝液としてフタル酸水素カリウム水溶液を用いたが、本発明はこれに限るものではない。他に用いることができる緩衝液としては、酢酸等のモノカルボン酸またはモノカルボン酸塩の水溶液、フタル酸等のジカルボン酸またはジカルボン酸塩の水溶液、クエン酸等のトリカルボン酸またはトリカルボン酸塩の水溶液、リン酸またはリン酸塩の水溶液等が挙げられる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明によれば、低温環境下においても正確な免疫反応測定が可能となるので、測定が可能な環境温度を大幅に拡大することができる。本発明は、医療および医療関連の検査分野で、特に尿検体を測定する場合に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の免疫センサの一実施の形態の構成を示す斜視図
【図2】同免疫センサの構成を示す断面図
【図3】同免疫センサの構成を示す分解斜視図
【図4】本発明の測定装置の一実施の形態の構成を示す斜視図
【図5】同測定装置の構成を示すブロック図
【図6】本発明の実施例において得られた、硝酸ナトリウムが添加された混合水溶液における硝酸ナトリウムの添加量とブランク値との関係を示すグラフ
【図7】本発明の実施例において得られた、臭化カリウムが添加された混合水溶液における臭化カリウムの添加量とブランク値との関係を示すグラフ
【符号の説明】
【0080】
100 免疫センサ
101 基体
101a 中空四角柱部分
101b 中空四角錐部分
102 試料保持部
103 試料供給口
104 吸引口
105 第1の面
107 光入射部(第2の面)
108 光出射部(第3の面)
109 試薬保持部
300 測定装置
301 免疫センサ取付け部
302 表示部
303 試料吸引開始ボタン
304 免疫センサ取外しボタン
401 CPU
404 ピストン機構
406 計時部
407 光源
408 受光器
409 メモリ
410 免疫センサ取外し機構
411 記録部
412 送信部
413 受信部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)被測定物質を含む試料と、前記被測定物質に対して特異的に結合する特異結合物質と、硝酸塩および臭化物塩のうち少なくとも1つを含む塩と、を混合して混合液を得る工程、
(B)前記混合液に入射光を照射する工程、
(C)前記工程Bにおける前記入射光の照射に起因して、前記混合液中を透過または前記混合液中において散乱することにより、前記混合液から出射した出射光を受光する工程、ならびに
(D)前記工程Cにおいて受光された前記出射光の強度に基づき、前記試料中の前記被測定物質の含有量を求める工程
を含む免疫測定方法。
【請求項2】
前記塩が硝酸ナトリウムであって、
前記混合液中における硝酸ナトリウムの濃度が0.1〜4mol/lである、
請求項1記載の免疫測定方法。
【請求項3】
前記塩が臭化カリウムであって、
前記混合液中における臭化カリウムの濃度が0.1〜3mol/lである、
請求項1記載の免疫測定方法。
【請求項4】
中空の基体と、
前記基体の内部に設けられ、被測定物質を含む試料を保持するための試料保持部と、
前記基体に設けられ、前記試料保持部に連通する試料供給口と、
前記基体に設けられ、前記試料保持部の外部から前記試料保持部の内部に入射光を入射させるための光入射部と、
前記基体に設けられ、前記試料保持部の内部から前記試料保持部の外部に出射光を出射させるための光出射部と、
前記試料保持部に設けられ、前記被測定物質に対して特異的に結合する特異結合物質、ならびに硝酸塩および臭化物塩のうち少なくとも1つを含む塩を保持する試薬保持部と
を備える免疫センサ。
【請求項5】
前記塩が硝酸ナトリウムである、請求項4記載の免疫センサ。
【請求項6】
前記塩が臭化カリウムである、請求項4記載の免疫センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−82729(P2008−82729A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−260170(P2006−260170)
【出願日】平成18年9月26日(2006.9.26)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】