説明

免疫介在性疾患の治療および/または予防におけるアデニル酸シクラーゼ

アデニル酸シクラーゼ毒素(CyaA)、またはその誘導体、変異体、断片、変種もしくはペプチドは、炎症性および/または免疫介在性の障害および/または自己免疫疾患の治療および/または予防に使用することができる。アデニル酸シクラーゼ毒素(CyaA)は、自己抗原もしくは外来抗原、またはそのペプチドと併用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(イントロダクション)
本発明は、アデニル酸シクラーゼ毒素(CyaA)、またはその誘導体、変異体、断片、変種もしくはペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
アデニル酸シクラーゼ毒素(CyaA)は、呼吸器疾患である百日咳を引き起こすグラム陰性菌、すなわち百日咳菌(B.pertussis)の病原因子である。CyaAを欠失した細菌はマウスにおける病原性が弱く、また、CyaAは、超生理学的レベルのcAMP産生を介して宿主細胞の走化性、食作用、および超酸化物産生を妨害することによって、百日咳菌に対する免疫反応を妨害することが示されている。さらに、CyaAは、様々な細胞で溶解および細胞毒性を引き起こし、マクロファージのアポトーシスを引き起こす。CyaAは、cyaA遺伝子によってコードされており、cyaC遺伝子産物によるK983のパルミトイル化を介して、翻訳後に活性化される。C末端の1306アミノ酸は、カルシウム結合に関与する一連のノナペプチドリピートを含有し、これは、溶血能および免疫刺激能を有する外毒素の毒素(RTX)ファミリーにある反復配列に類似している。ヒツジ赤血球に対する結合およびその溶血、ならびに、マクロファージおよびT細胞を溶解するその能力には、CyaAのアクセサリータンパク質であるCyaCによるCyaAのアシル化またはパルミトイル化が必要である(1、2)。N末端の400アミノ酸は、ATPをcAMPに変換する触媒ドメインを含有する。細胞に結合したときに、この酵素ドメインは細胞質ゾル中に輸送されるが、酵素的に活性になるには、そこで、真核細胞のカルモジュリンに結合しなければならない。
【0003】
CyaAが有するこの侵入性の性質は、抗原性ペプチドをMHCクラスI限定CD8T細胞に提示するための抗原プロセシングの内在性経路に送達するのに利用されている(3)。酵素活性を持たないCyaAは、CD4細胞を活性化するMHCクラスIIプロセシング経路に、エピトープを送達できることが最近示された(4)。加えて、CyaAは、同時投与されたオボアルブミンに対する抗体レベルを向上させることが示されている(5)。この研究は、大腸菌(E.coli)中でcyaC遺伝子の非存在下に発現された非活性型のCyaAが、非侵入性であって、かつ溶血活性および細胞毒活性を欠失しており、活性の毒素と比較した場合、限定的ではあるが、抗体反応のアジュバント活性を有することも示した(5)。CyaAは、発現されたウイルスエピトープに対するTh1反応を促進することも示されている(6)。 CyaAのアジュバント活性は、cAMPの上方制御を介して先天免疫系の細胞を活性化する能力(7)、ならびに/または、マクロファージおよび樹状細胞(DC)を含めた先天免疫細胞の表面に発現されたCD11b/CD18 αβインテグリンへの結合(8)によるものかもしれない。
【0004】
先天免疫系の細胞(特にDC)は、ナイーブなCD4T細胞から、機能的に識別されるTh1、Th2、または制御性T(Tr)細胞サブタイプへの分化を指示する。Toll様受容体(TLR)およびインテグリンなどの病原体認識受容体(PRR)に対する、保存されている微生物分子の結合を介した、未成熟DCの活性化には、成熟と、リンパ節へのホーミングとが伴い、このリンパ節で、成熟したDCがナイーブなT細胞に抗原を提示する。病原体由来の分子によるDCの活性化は、ナイーブなCD4T細胞から、異なったT細胞サブタイプへの分化を調節する上で重要な役割を演じている(10、11、12)。Th1細胞は、細胞内感染に対する防御を与えるが、炎症反応および自己免疫疾患にも関連しており、一方、Th2細胞は、アレルギー反応に関与している。Tr細胞は、Th1反応およびTh2反応を抑制することができる(10、11、12)。
【0005】
in vivoで炎症活性を調節するか、あるいは制御性T細胞を誘導するいかなる方法も、貴重な治療効果を有することは明らかである。
【発明の開示】
【0006】
本発明は、アデニル酸シクラーゼ毒素(CyaA)、またはその誘導体、変異体、断片、変種もしくはペプチドを含む薬剤を投与するステップを含む、炎症性および/または免疫介在性の障害を治療および/または予防する方法を提供する。
【0007】
本発明は、アデニル酸シクラーゼ毒素(CyaA)、またはその誘導体、変異体、断片、変種もしくはペプチドを含む薬剤を投与するステップを含む、免疫介在性障害を治療および/または予防する方法も提供する。
【0008】
本発明は、アデニル酸シクラーゼ毒素(CyaA)、またはその誘導体、変異体、断片、変種もしくはペプチドを含む薬剤を投与するステップを含む、自己免疫疾患を治療および/または予防する方法を提供する。
【0009】
本発明は、アデニル酸シクラーゼ毒素(CyaA)、またはその誘導体、変異体、断片、変種もしくはペプチドを含む薬剤の、炎症性および/または免疫介在性の障害を治療および/または予防するための使用も提供する。
【0010】
本発明は、アデニル酸シクラーゼ毒素(CyaA)、またはその誘導体、変異体、断片、変種もしくはペプチドを含む薬剤の、免疫介在性障害を治療および/または予防するための使用をさらに提供する。
【0011】
本発明は、アデニル酸シクラーゼ毒素(CyaA)、またはその誘導体、変異体、断片、変種もしくはペプチドを含む薬剤の、自己免疫疾患を治療および/または予防するための使用も提供する。
【0012】
一実施形態では、上記薬剤が、アデニル酸シクラーゼ毒素(CyaA)、またはその誘導体、変異体、断片、変種もしくはペプチド、あるいはこれらの物質によって活性化された細胞の生成物を含みうる。
【0013】
本発明の一実施形態では、上記アデニル酸シクラーゼ毒素(CyaA)が、自己抗原もしくは外来抗原、またはその断片、変異体、変種もしくはペプチドと併用される。
【0014】
一実施形態では、上記自己抗原が、グルタミン酸デカルボキシラーゼ65(GAD65)、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)、天然DNA、ミエリン塩基性タンパク質、ミエリンプロテオリピドタンパク質、アセチルコリン受容体コンポーネント、チログロブリン、甲状腺刺激ホルモン(TSH)受容体、スギ花粉抗原、ブタ草花粉抗原、ライ麦草花粉抗原、動物のチリダニ抗原およびネコ抗原、組織適合抗原、移植拒絶に関与する抗原、ならびに改変ペプチドリガンドのうちのいずれか1つまたは複数から選択される。上記移植拒絶に関与する抗原は、移植片レシピエントの心臓、肺、肝臓、膵臓、腎臓に移植する移植片、および神経移植コンポーネントの抗原成分を含む。好ましい実施形態では、上記自己抗原が、ミエリンタンパク質、ベータアミロイドタンパク質、アミロイド前駆体タンパク質、コラーゲン、ならびにこれらのペプチドおよび断片のうちのいずれか1つまたは複数から選択される。上記ミエリンタンパク質は、ミエリン塩基性タンパク質またはそのペプチドでありうる。上記ミエリン塩基性タンパク質は、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)合成ペプチド、またはその断片、変異体もしくは変種であることが好ましい。上記ミエリン塩基性タンパク質はMOGペプチド(35〜55)であることが最も好ましい。
【0015】
一実施形態では、上記アデニル酸シクラーゼ毒素(CyaA)が、百日咳菌(Bordetella pertussis)、気管支敗血症菌(Bordetella bronchisepetica)、またはパラ百日咳菌(Bordetella parapertussis)由来であるか、あるいは他の細菌由来の関連分子である。関連分子には、CyaAの配列に対して配列相同性を有する、他の細菌由来のタンパク質が含まれることがある。
【0016】
本発明の一実施形態では、上記薬剤が炎症性サイトカイン産生を調節する。
【0017】
本発明の一実施形態では、先天免疫系の細胞に対するCyaAの前記免疫調節効果が、LPS、または、CpGモチーフ、dsRNA、ポリ(I:C)、およびリポペプチドPam3Cysのいずれか1つまたは複数から選択された別のToll様受容体リガンドなどのToll様受容体リガンドによる同時活性化に依存する。
【0018】
本発明の一実施形態では、CyaAが、マクロファージおよび樹状細胞によるIL−10およびIL−6の産生を促進する。
【0019】
本発明の別の実施形態では、CyaAが、LPSと相乗的に作用して、マクロファージおよび樹状細胞によるIL−10およびIL−6の産生を促進する。
【0020】
本発明の一実施形態では、CyaAが、炎症性サイトカイン、炎症性ケモカイン、または他の炎症仲介物質を抑制する。上記炎症性サイトカインは、IL−12またはTNF−α、IFN−γ、IL−1、IL−23、および1L−27のいずれか1つまたは複数から選択されたものでありうる。上記炎症性ケモカインは、マクロファージ炎症タンパク質−1αまたはマクロファージ炎症タンパク質−1βでありうる。
【0021】
本発明の一実施形態では、CyaAが、TLR−リガンドによる同時活性化に続いて、樹状細胞の成熟を促進する。ある場合には、CyaAが、樹状細胞によるCD80発現を促進する。
【0022】
本発明の一実施形態では、CyaAが、TLRリガンドで誘導された、樹状細胞の活性化を抑制する。ある場合には、CyaAが、CD40およびICAM−1の発現を抑制する。
【0023】
本発明の一実施形態では、CyaAが、同時投与された抗原に対するTh2細胞またはTr細胞の誘導を促進するアジュバントとしてin vivoで作用する。
【0024】
別の実施形態では、CyaAが、同時投与された抗原に対するIgG1抗体を促進するアジュバントとしてin vivoで作用する。
【0025】
上記の同時投与された抗原は、自己抗原または外来抗原を含みうる。
【0026】
本発明の一実施形態では、CyaAが、非パルミトイル化形態で存在する。
【0027】
本発明の一実施形態では、CyaAがエンドトキシンを実質的に含まない。上記CyaAは、1μgタンパク質当たり300pg未満のエンドトキシンを含みうる。
【0028】
本発明の別の実施形態では、CyaAが、免疫調節物質、アジュバント、免疫療法または抗炎症性薬剤の形態にある。
【0029】
本発明の一実施形態では、上記薬剤が、感染または外傷によって誘導された炎症性サイトカイン産生を調節する。
【0030】
本発明の一実施形態では、上記障害が、感染、外傷、または損傷によって誘導された敗血症または急性炎症である。
【0031】
本発明の別の実施形態では、上記障害が、クローン病、炎症性腸疾患、多発性硬化症、1型糖尿病、関節リウマチ、および乾癬のうちのいずれか1つまたは複数から選択される。他の免疫介在性障害には、糖尿病、関節炎(関節リウマチ、若年性関節リウマチ、変形性関節炎、乾癬性関節炎が含まれる)、重症筋無力症、全身性エリテマトーデス、自己免疫性甲状腺炎、皮膚炎(アトピー性皮膚炎および湿疹性皮膚炎が含まれる)、シェーグレン症候群に二次的な乾性結膜炎を含めたシェーグレンの症候群、円形脱毛症、節足動物咬傷反応によるアレルギー反応、慢性再発性アフタ、虹彩炎、結膜炎、角結膜炎、潰瘍性大腸炎、喘息、アレルギー性喘息、皮膚エリテマトーデス、強皮症、腟炎、直腸炎、薬疹、癩病反転反応、結節性紅斑癩、自己免疫性ブドウ膜炎、アレルギー性脳脊髄炎、急性壊死性出血性脳症、特発性両側性感音難聴、再生不良性貧血、赤芽球癆、特発性血小板減少症、多発性軟骨炎、ヴェゲナー肉芽腫症、慢性活動性肝炎、スチーブンスジョンソン症候群、特発性スプルー、扁平苔癬、グレーヴス眼症、類肉腫症、原発性胆汁性肝硬変、後部ブドウ膜炎、間質性肺線維症、アルツハイマー病、または腹腔疾患のうちのいずれか1つまたは複数が含まれる。
【0032】
本発明の別の実施形態では、上記障害が、喘息またはアトピー性疾患である。
【0033】
本発明の一実施形態では、上記薬剤が、経口投与用、鼻腔内投与用、静脈内投与用、皮内投与用、皮下投与用、または筋肉内投与用の形態にある。上記薬剤は、反復投与してもよい。
【0034】
本発明は、アデニル酸シクラーゼ毒素(CyaA)、またはその誘導体、変異体、断片、変種もしくはペプチドを含む製品も提供する。上記製品は、抗原と組み合わせてもよく、前記抗原は、自己抗原または外来抗原である。上記CyaAは、その誘導体、変異体、断片、変種もしくはペプチド、またはこれらの物質によって活性化された細胞の生成物を含みうる。
【0035】
本発明は、CyaA、またはその誘導体、変異体、断片、変種もしくはペプチドを含む医薬組成物も提供する。
【0036】
本発明は、CyaA、またはその誘導体、変異体、断片、変種もしくはペプチドを、自己抗原または外来抗原による免疫処置のためのアジュバントとして含む医薬組成物をさらに提供する。
【0037】
本発明は、CyaA、またはその誘導体、変異体、断片、変種もしくはペプチドを、抗原と併せて含む医薬組成物をさらに提供し、その際、前記抗原は、自己抗原および外来抗原から選択される。
【0038】
一実施形態では、CyaAが、その誘導体、変異体、断片、変種もしくはペプチド、またはこれらの物質によって活性化された細胞の生成物を含む。
【0039】
一実施形態では、上記自己抗原が、グルタミン酸デカルボキシラーゼ65(GAD65)、天然DNA、ミエリン塩基性タンパク質、ミエリンプロテオリピドタンパク質、アセチルコリン受容体コンポーネント、チログロブリン、甲状腺刺激ホルモン(TSH)受容体、スギ花粉抗原、ブタ草花粉抗原、ライ麦草花粉抗原、チリダニ抗原およびネコ抗原、組織適合抗原、移植拒絶に関与する抗原、ならびに改変ペプチドリガンドのうちのいずれか1つまたは複数から選択される。
【0040】
上記の移植拒絶に関与する抗原は、移植片レシピエントの心臓、肺、肝臓、膵臓、腎臓に移植する移植片、および神経移植コンポーネントの抗原成分を含みうる。
【0041】
上記組成物は、非アシル化CyaA、またはその誘導体、変異体、断片、変種もしくはペプチドを含みうる。
【0042】
本発明は、アデニル酸シクラーゼ毒素(CyaA)を含む免疫調節物質も提供する。
【0043】
本発明は、免疫調節効果を有する組換え非アシル化CyaAをさらに提供する。
【0044】
本発明は、アデニル酸シクラーゼ毒素(CyaA)、またはその誘導体、変異体、断片、変種もしくはペプチドを含むワクチンも提供する。上記ワクチンは抗原を含みうる。
【0045】
本発明の一実施形態では、CyaAおよび抗原が重量比0.01:1から100:1までの範囲で存在する。
【0046】
本発明の別の実施形態では、CyaAおよび抗原が1:10から10:1までのモル比で存在する。
【0047】
本発明は、アデニル酸シクラーゼ毒素(CyaA)、またはその誘導体、変異体、断片、変種もしくはペプチドに対する抗体も提供する。
【0048】
本発明は、配列番号3または4のいずれか1つまたは複数から選択されたアミノ酸配列も提供する。
【0049】
本発明は、アデニル酸シクラーゼ毒素(CyaA)、またはその誘導体、変異体、断片、変種もしくはペプチドを含む薬剤、あるいは上記薬剤で活性化された細胞の生成物の、炎症性および/または免疫介在性の障害を治療および/または予防するための使用をさらに提供する。
【0050】
本発明は、アデニル酸シクラーゼ毒素(CyaA)、またはその誘導体、変異体、断片、変種もしくはペプチドを含む薬剤、あるいは上記薬剤で活性化された細胞の生成物の、Toll様受容体(TLR)依存性シグナル伝達に関連した疾患または状態を予防および/または治療するための使用を提供する。
【0051】
本発明は、アデニル酸シクラーゼ毒素(CyaA)、またはその誘導体、変異体、断片、変種もしくはペプチド、あるいは上記薬剤で活性化された細胞の生成物を含む薬剤の、喘息またはアレルギーを予防および/または治療するための使用をさらに提供する。
【0052】
本明細書で使用する場合、誘導体もしくは変異体もしくは断片もしくは変種もしくはペプチドという用語は、CyaAの非アシル化もしくは非パルミトイル化誘導体、または、アシル化もしくは非アシル化CyaAの機能性部分からなるいかなる分子または高分子も含むものと理解される。断片もしくは変種もしくはペプチドは、当技術分野で当業者に一般的に知られている技法によって調製することができる。これらには、CD11b/CD18と相互作用するCyaAの領域に対応するペプチドまたは断片が含まれる。
【0053】
抗原という用語は、抗原のレシピエント体内における、体液性および/または細胞性の免疫応答を開始させることのできる分子を意味する。抗原という用語は、抗体またはT細胞受容体によって認識されるいかなる物質も意味するものと理解される。自己抗原または自家抗原という用語は、体内の自己組織または自己細胞にある、外来性ではなく、内在性の抗原を意味するものと理解される。外来抗原という用語は、病原体(細菌、ウイルス、真菌、または寄生生物)由来の抗原を意味するものと理解される。
【0054】
本発明の組成物および方法には、自己免疫疾患、アレルギー、および移植拒絶に関与する抗原を用いることができる。自己免疫疾患に関与する抗原の例には、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)、グルタミン酸デカルボキシラーゼ65(GAD65)、天然DNA、ミエリン塩基性タンパク質、ミエリンプロテオリピドタンパク質、アセチルコリン受容体コンポーネント、チログロブリン、および甲状腺刺激ホルモン(TSH)受容体が含まれる。アレルギーに関与する抗原の例には、スギ花粉抗原、ブタ草花粉抗原、ライ麦草花粉抗原などの花粉抗原、チリダニ抗原およびネコ抗原などの、動物由来の抗原、または組織適合抗原が含まれる。移植拒絶に関与する抗原には、心臓、肺、肝臓、膵臓、腎臓、および神経移植コンポーネントなど、移植片レシピエントに移植されるべきで移植片の抗原成分が含まれる。抗原は、自己免疫疾患を治療するのに有用な改変ペプチドリガンドである場合もある。本発明の組成物および方法で使用できる種々の抗原の例には、ベータアミロイドタンパク質またはアミロイド前駆体タンパク質が含まれる。
【0055】
アジュバントという用語は、抗原と併せて使用されて、この抗原に対する免疫応答をin vivoで促進する物質を含むものと理解される。
【0056】
免疫調節物質という用語は、細菌、ウイルス、寄生生物、または真菌病原体に由来する分子であって、免疫系の細胞の反応を調節、すなわち増強および/または低減する分子のいかなるものも含むものと理解される。
【0057】
本発明は、添付図面を参照することにより、以下に示す本発明の説明から、より明確に理解されよう。
(詳細な説明)
【0058】
本発明者らは、百日咳菌(Bordetella pertussis)由来のアデニル酸シクラーゼ毒素(CyaA)または非アシル化誘導体CyaA(NA−CyaA)が、Toll様受容体(TLR)リガンドと連合して、先天免疫系の細胞によるインターロイキン(IL)−10およびIL−6産生の誘導を促進することを見出した。さらに、本発明者らは、CyaAおよびNA−CyaAが、抗炎症性サイトカイン、または、同時投与された抗原に対する制御性T(Tr)細胞の誘導を促進することを見出した。in vivoでのTr細胞の誘導は、炎症性疾患、自己免疫疾患、またはアレルギーの治療可能性を有する。
【0059】
本発明者らは、上記毒素のアシル化が、細胞毒性には必要であるが、免疫調節には必要でないことも見出した。非アシル化または非パルミトイル化CyaA分子では、細胞毒性が低下していたが、免疫調節機能を保持していた。したがって、百日咳菌アデニル酸シクラーゼ毒素、またはその誘導体、変異体、断片、変種もしくはペプチド、あるいはこれらの物質によって活性化された細胞の生成物は、免疫調節物質、アジュバント、免疫療法薬または抗炎症薬としての貴重な可能性を有する。非アシル化CyaAを含む組成物は、免疫調節物質、アジュバント、免疫療法薬または抗炎症薬として特に貴重であろう。
【0060】
CyaAは宿主免疫応答を妨害し、それによって、気道における百日咳菌のコロニー形成および存続に寄与することがある。以前の研究では、野生型毒素のアジュバント活性が実証されたが、リポ多糖(LPS)が比較的高濃度で存在していたため、これらの新知見は単純に解釈できないものであった。LPSは、精製されたCyaAに密接に付随することが知られている。本発明者らは、CyaAの免疫調節特性と、LPSの潜在的寄与とを検査した。LPSは、精製CyaA調製物中に存在することが知られている。
【0061】
CyaAは、IL−5およびIL−10の産生と、同時投与された抗原に対するIgG1抗体とをin vivoで促進した。免疫処置されたマウスから産生された抗原特異的CD4T細胞クローンは、Th2細胞およびタイプ1 Tr(Tr1)細胞に特徴的なサイトカインプロフィールを有していた。先天免疫細胞によってT細胞サブタイプの誘導が指示されるため、本発明者らは、樹状細胞(DC)およびマクロファージの活性化に対するCyaAの影響を検査した。CyaAは、有意に、LPS誘導性のIL−6およびIL−10を増大させ、かつ、骨髄由来のDCおよびマクロファージからの、TNF−αおよびIL−12p70の、LPSによって駆動された産生を抑制した。CyaAは、未成熟のDCにおいて、細胞表面へのCD80、CD86、およびMHCクラスIIの発現も促進した。IL−10産生、CD80、CD86、およびMHCクラスII発現に対する、CyaA調製物の刺激活性は、ポリミキシンB添加の後、または、TLR 4欠損マウスからのDCの存在下で減衰した。CyaA調製物中に存在している濃度(0、2ng/ml)のLPS単独でDCを処理した場合には、in vitroでのDCの活性化が起こらなかった。本発明者らは、CyaAによるin vitroでの先天免疫細胞の活性化が、TLR4を介したセカンドシグナルに依存していること、および、CyaAは、DCおよびマクロファージによるIL−12産生の抑制およびIL−10産生の促進によって、Th2/Tr1細胞応答を促進できることを見出した。
【0062】
CyaAは、哺乳類細胞における細胞毒性を引き起こすので、ヒトでの臨床使用には適していないかもしれない。しかし、本発明者らは、免疫調節活性を保持する非毒性の誘導体および変異体を調製した。
【0063】
CyaAは、毒素のRTXファミリーに属し、その活性化には、翻訳後のアシル化を必要とする。CyaAによるマクロファージの溶解には、この毒素のアシル化またはパルミトイル化が必要である。アシル化CyaA(A−CyaA)分子および非アシル化CyaA(NA−CyaA)分子を大腸菌(E.Coli)で発現させ、細胞毒性機能および免疫調節機能を検査した。両タンパク質とも、マクロファージおよびDCにおける、LPS駆動のIL−10およびIL−6産生を促進し、LPSによって刺激されたIL−12産生、TNF産生、およびケモカインCCL3(MlP−1)産生を抑制した。低用量では、アシル化CyaAの方が、非アシル化CyaAより効率的にこれらの効果を表した。NA−CyaAおよびA−CyaAの両方が、CpG(TLR−9リガンド)およびポリ(I:C)(TLR3リガンド)を調節し、また、DCおよびマクロファージにおけるLPS駆動のサイトカイン産生も調節した。加えて、アシル化の欠損にもかかわらず、CyaAは、マクロファージおよびDCにおけるcAMP蓄積を刺激した。両タンパク質とも、DCの成熟を刺激し、それによって、細胞表面へのCD80およびMHC−IIの発現の増大を導き、また、LPSによって刺激されたCD86、CD40、およびICAM−1の発現を低下させた。非アシル化CyaAは、免疫調節を引き起こした用量の10倍の用量でもマクロファージまたは赤血球を溶解させることができなかった。両タンパク質とも同様のアジュバント活性をin vivoで有し、同時投与された抗原に特異的なIgG1抗体、ならびにTh2細胞およびTr細胞を誘導した。これらの結果は、組換え非アシル化CyaA分子は細胞毒性を欠失しているが免疫調節作用を保持していることを示す。
【0064】
アシル化とは異なり、酵素活性は、CyaAの免疫調節活性に必須であった。機能的なアデニル酸シクラーゼ活性を欠失したCyaA変異体は、それらのアシル化状態にかかわらず、細胞内cAMP濃度の増大を引き起こすことができず、また、LPSによって誘導されたTNFの放出の抑制も、先天免疫細胞によるIL−10産生の促進も、行うことができなかった。これは、細胞内cAMP濃度の増大が、先天免疫細胞活性化の、CyaAによる調節を引き起こすシグナルの1つであることを示唆する。
【0065】
CyaAは、孔形成タンパク質のRTXファミリーのメンバーであるが、酵素ドメインがNH末端に位置し、RTXドメインがCOOH末端に位置するという独特の二機能性の特性を有する。このドメイン配置は、CyaAによる細胞溶解、cAMP蓄積、免疫調節、およびアポトーシスという別々の活性の検査を、他のいかなるRTX毒素でも不可能な方法で行うことを可能にした。RTX毒素による真核細胞の溶解は、翻訳後のアシル化に依存する。CyaAのRTXドメインのアシル化が、その溶血活性および細胞毒活性に必要であることは、他の研究者によって報告された(1、2、13)。
【0066】
アシル化は、CyaAがマクロファージにおけるcAMP蓄積を誘導するのにも、マクロファージおよびDCの活性化を調節するのにも必須ではないことを本発明者らは見出した。A−CyaAと同様に、NA−CyaAは、LPSと協同してIL−10の分泌を促進し、一方、TNF産生およびIL−12 p70産生を抑制した。先天免疫細胞のサイトカイン産生に対するA−CyaAおよびNA−CyaAの免疫調節作用は、CyaAに密接に付随したTLR4リガンドであるLPSに限定されず、TLR9リガンドであるCpG−ODNでも観察された。NA−CyaAおよびA−CyaAは、DCの成熟には同様の効果を有し、CD80発現を上方制御したが、CD40およびICAM−1の発現は下方制御した。さらに、NA−CyaAは、A−CyaAと同様に、in vivoで効果的なアジュバントであり、外来抗原と同時注入された際に、T細胞による、抗原特異的なIgGI抗体の産生、ならびにIL−4、IL−5、およびIL−10の産生を刺激した。
【0067】
RTX毒素は、βインテグリンを介して白血球に結合し、CD11b/CD18がCyaAの受容体として同定されている(14、13)。赤血球はβインテグリンを持たず、赤血球に結合するためには、CyaAおよび他のRTXタンパク質はアシル化を必要とする(1)。
【0068】
アシル化は、CD11b/CD18を発現する先天免疫細胞でのcAMP蓄積をCyaAが誘導するのに影響を与えることはあっても、必須ではないことを本発明者らは見出した。以前の研究では、真核細胞におけるcAMP濃度上昇の誘導に、CyaAのアシル化が必要であることが示唆された。しかし、これらの研究は先天免疫細胞を用いたものではなく、赤血球およびJurkat T細胞を用いたもの、ならびに、CD11bで形質移入されたCHO細胞を用いたものであり(13、1)、赤血球およびJurkat T細胞は、それぞれ、CD11b/CD18を発現しないか、もしくは低レベルでしか発現しない。CyaAにおける、CD11bと結合する部位は、RTXドメインの残基1166および1281の間にあるグリシン/アスパラギン酸リッチ領域に局在することが明らかにされた(13)。この領域内に変異を含有するCyaAタンパク質は、赤血球には結合するが、CD11bを発現する細胞では結合しない。逆に、アミノ酸926にFLAGエピトープの挿入を有するCyaAタンパク質は、CD11bを発現する細胞には結合したが、赤血球には結合しなかった。これは、隣接しているLys983のアシル化に必要な構造が破壊されたためであると筆者は示唆した。
【0069】
本発明者らは、マクロファージにおいてCyaAで誘導されたcAMP蓄積および免疫調節にアシル化が必要でないこと、ならびに、抗CD11b抗体が、A−CyaAおよびNA−CyaAの調節作用を阻止することを見出した。これは、宿主細胞表面のβインテグリン受容体CD11b/CD18とのCyaAの相互作用に、翻訳後修飾が必須でないことを示す。CD11b/CD18は主としてマクロファージおよび骨髄DCで発現されており、CD11b/CD18とのCyaAの相互作用は、先天免疫系の主要細胞におけるサイトカインシグナル伝達経路を標的として破壊するために、この細菌が進化させたストラテジーであるかもしれない。
【0070】
アシル基は、真核細胞膜とも結合する可能性が高く、それによってCyaA−宿主細胞相互作用の効率を増大させ、膜を貫通した、標的細胞中へのアデニル酸シクラーゼドメインの輸送を促進する。この相互作用は、CD11b/CD18を持たない細胞でより大きな重要性を有するであろう。また、NA−CyaAが、アデニル酸シクラーゼドメインを赤血球、Jurkat T細胞、および、CD11bで形質移入されたCHO細胞の中に輸送できなかったことを説明しうる。細胞質ゾルアデニル酸シクラーゼドメインによって引き起こされた細胞内cAMPの増大は、マクロファージおよびDCによって放出される宿主サイトカインおよびケモカインの改変を含めた、宿主細胞機能の調節を導く。CyaAは細胞膜中でオリゴマー形成して、孔を形成し、それによって、膜分解を引き起こす。これは、DCおよびマクロファージなど、CyaA受容体であるCD11b/CD18を発現する細胞では、アシル化が細胞毒性に重要であることを示す。
【0071】
CyaAがマクロファージの細胞死を誘導することは、in vitroでCyaA処理された細胞で観察されたDNA断片化によって示される(2)。CyaAを欠失した百日咳菌は、J774マクロファージの溶解を誘導しないし、また、in vivoで肺胞マクロファージのアポトーシスを引き起こす能力が低減しており、マウスにおける病原性がかなり低下している(2、15)。本発明者らは、A−CyaAまたは酵素が不活性なA−CyaAと共にインキュベートされたマクロファージで細胞死を観察した。対照的に、NA−CyaAでは、検査された中で最も高用量を用いたときにのみ細胞溶解が観察された。この効果は、一部のA−CyaAの分解活性と同様に、ポリミキシンBと共に同時インキュベーションすることによって無効になった。LPS、およびLPSによって誘発されたTNF−αはアポトーシスに関連付けられており(16)、したがって、観察された細胞死に寄与しているかもしれない。
【0072】
本発明者らは、CyaAが、アポトーシスの主要エフェクター分子であるカスパーゼ−3の活性化も誘導することを見出した。カスパーゼ−3の活性化は、野生型毒素(A−CyaA)で処理されたマクロファージ、および酵素的に不活性な変異体(A−iAC−CyaA)で処理されたマクロファージでは観察されたが、NA−CyaAで処理されたものでは観察されなかった。高濃度(10μg/ml)のNA−iAC−CyaAはカスパーゼ−3を活性化した。cAMPの誘導には、カスパーゼ−3の活性化およびアポトーシスの一時的抑制が伴うことが、以前に実証されている(17、18)。したがって、NA−iAC−CyaAによるカスパーゼ−3の誘導は、cAMP誘導の抑制作用を除去して、それによって、NA−CyaAを用いた際に見られたカスパーゼ−3活性化の閾値を低下させたことを反映しているのかもしれない。CyaAによって誘導される細胞死には、アデニル酸シクラーゼ活性ではなく、アシル化が必要であると思われる。
【0073】
本発明者らは、RTXドメインのアシル化が細菌毒素の免疫調節活性およびアポトーシス促進活性に重要であることを見出した。非アシル化された、酵素的に活性な毒素は、野生型毒素よりわずかに低い効率ではあるが、cAMPを増大させる能力を保持している。細胞内cAMPの上昇は、CyaAの免疫調節活性における重要因子であると思われるが、細胞溶解、またはカスパーゼ−3の活性化を引き起こすのに必須でなく、これらの作用を抑制することさえある。この非アシル化された誘導体は、野生型の毒素と同様に、CA11b/CD18を発現するマクロファージおよびDCを特異的な標的として、炎症誘発性のサイトカインの放出を抑制し、IL−10産生を促進し、かつ、Th2およびIL−10を生成するTr1細胞の誘導を指示する表現型にDCが成熟するのを促進する。したがって、NA−CyaAは、先天免疫および適応免疫におけるIL−10産生を両方とも促進することができ、その結果、炎症性疾患、およびTh1によって媒介された自己免疫疾患の予防用および/または治療用のアジュバントまたは免疫療法薬としてかなりの可能性する。
【0074】
アシル化CyaAおよび非アシル化CyaA、またはそれらの誘導体もしくは変異体もしくは変種もしくはペプチドは、炎症性疾患または免疫介在性疾患の治療に供する免疫調節物質および治療薬として用いることができる。多数の免疫介在性疾患が、炎症、および過剰なT細胞応答を特徴としている。多発性硬化症、関節リウマチ、I型糖尿病、およびクローン病を含めた自己免疫疾患には、タイプ1Tヘルパー(Th1)細胞と呼ばれる、インターフェロン(IFN)−γを分泌するT細胞と、自己抗原に対する炎症反応とが関与する。対照的に、アトピー性疾患および喘息は、反対のTh2サブタイプのT細胞によって媒介される。
【0075】
上記に詳述した疾患の多くには満足できる治療が存在しない。炎症性疾患および免疫介在性疾患の伝統的な治療は、ステロイド性および非ステロイド性の抗炎症薬に大きく依存しているが、これらは非特異的であり、副作用を有するものである。より最近では、主要な炎症性サイトカイン、詳細には腫瘍壊死因(TNF)−αを抑制する薬物が開発されている。これらには、ある特定の自己免疫疾患に対して効果的な抗体または可溶性TNF受容体が含まれるが、副作用(再発性結核が含まれる)を伴い、また、TNF−αが病態の主要な媒介因子である疾患に限定されたものである。別の治療方法は、抗炎症性サイトカイン(例えば、IL−10)の直接投与であるが、これは、このサイトカインのin vivoでの半減期が短いことによって有用性が損なわれている。
【0076】
これらに代わるストラテジーは、IL−10などの抗炎症性サイトカインを誘導する薬剤を利用するものであるが、これは、in vivoで直接的免疫抑制効果を有するであろうし、また、抗原の存在下では、IL−10分泌性の抗原特異的Tr細胞のプライミングを行い、このTr細胞がIL−10産生および免疫抑制効果を増幅するであろう。
【0077】
本発明者らは、CyaAおよびその誘導体が、先天性および適応性のIL−10を駆動する能力を有し、それによって、抗炎症薬として、免疫療法薬として、または、免疫介在性疾患を予防するワクチンの成分として作用することを見出した。本発明者らは、多発性硬化症(MS)のマウスモデル系である実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)の疾患重度を、CyaAが軽減できることを示した。CyaAの存在下において、マウスをMOGペプチドで免疫処置したところ、多発性硬化症のマウスモデル系であるEAEの進行を遅延させ、また、EAEにおける疾患の発症率を低下させた。CyaAおよび非毒性NP−CyaAは、炎症性疾患または自己免疫疾患の予防における抗炎症薬、免疫療法薬および免疫調節物質、ならびにワクチン用のアジュバントとしてかなりの可能性を有する。
【0078】
本発明は、以下の実施例から、より明確に理解されるであろう。
【実施例】
【0079】
本研究の基礎となるタンパク質は、百日咳菌のCyaAタンパク質である(21)。野生型のタンパク質の配列は、以下のNCBIオンラインデータベースに見出すことができる:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/viewer.fcgi?db=protein&val=33591934
【0080】
プラスミドの構築
百日咳菌(W28株)のゲノムDNAは、対数増殖中期培養物から調製した。cyaAの5’末端はPCRにより増幅し、オリゴヌクレオチド(MWG Biotech、Germany)には、PAB5 5’−CGCCGGTACCATGCAGCAATCGCATCAGGCT−3’、およびPAB6 5’−TGGTGAATTCGCTCTTGCCCG−3’を用いた。得られた生成物を、KpnIとEcoRI(Invitrogen CA、USA)で消化し、クローニングベクターpBluescript SK−(Stratagene、CA、USA)の対応する部位に挿入し、このプラスミドを、pAPB4と命名した。百日咳菌ゲノムDNAからのcyaAの3’末端をPCRで、オリゴヌクレオチド PAB7 5’−AAGAGCGAATTCACCACATTCGTCG−3’、およびPAB2 5’−CGCGGATCCTCAGCGCCAGTTGACAGCCA−3’を用いて増幅した。生成物を、EcoRIとBamHIで消化し、同じ制限酵素部位でpBluescript SK−と連結した。このプラスミドをpAPB5と命名し、次いでEcoRIとBamHIで消化し、3’cyaAフラグメントを、pAPB4の対応する部位にサブクローニングして完全な長さのcyaA遺伝子にした。このプラスミドを、pAPB6と命名した。百日咳菌のゲノムDNAからのcyaCを、オリゴヌクレオチドPAB3 5’−CGCGGATCCGAGGGCATGTCATGCTTCCGTCCGCC−3’、およびPAB4 5’−CGCGGCGAAGCTTTCAGGCGGTGCCCCGGC−3’を用いてPCRで増幅した。このPCRフラグメントを、BamHIとHinDIIIで消化し、同じ制限酵素で開裂したpASK−IAB6(IBA GmbH、Germany)発現ベクターにクローニングした。この新規のプラスミドは、pAPB1と名付けた。完全なcyaA遺伝子を、KpnIとBamHIで消化したpAPB6から分離し、KpnIとBamHI部位を用いて、pAPB1のcyaC遺伝子の上流にクローニングし、このプラスミドをpAPB8と名付けた。pAPB8をKpnIとHinDIIIで消化し、cyaAおよびcyaCを含む5.9kbの生成物を、同じ制限部位で開裂した市販のHisで標識されたベクターpQE−80(Qiagen、UK)にクローニングした。クローン化遺伝子の配列および方向は、制限消化および塩基配列決定(MWG Biotech)により確認した。Hisで標識しパルミトイル化したCyaAが大腸菌で発現し得るこのプラスミドを、pJR2(配列番号8)と命名した。
【0081】
プラスミド発現CyaAおよびCyaA誘導体の構築
プラスミドpJRl(配列番号5)は、以下の方法で構築した。cyaAは、pAPB6(cyaAを含むpBluescript SK−)由来のKpnI/BamHIフラグメントとして、pASK−IBA6(IBA)にサブクローニングして、プラスミドpAPB7を構築した。次いでpAPB7由来のcyaAを含むKpnI/HinDIIIフラグメントを、pPQE−80(Qiagen)の対応部位にクローニングし、pJR1を構築した。cyaAの5’末端をコードする、3.5kbのSstIフラグメントを、pBluescript SK−の対応する部位に挿入して、プラスミドpAPB9を構築した。テンプレートとしてpAPB9を使用して、オリゴヌクレオチドpUC Forward(CCCAGTCACGACGTTGTAAAACG)−(Stratagene、CA、USA)、およびPAB27(CAACCCCCAATCGGATCCCGCGGCGGCCACGCCCAATCCTTTG−導入したBamHI部位に下線、変異した塩基はイタリックで)を用いて、0.4kbのPCR生成物を構築し、ならびにオリゴヌクレオチドPAB17(CAAAGGATTGGGCGTGGCCGCCGCGGGATCCGATTGGGGGTTG−導入したBamHI部位に下線)、およびPAB29(CGTAGATCTCCATGGGACTGAGC− NcoI部位に下線)を用いて、1.7kbの生成物を構築した。前者のPCR生成物は、XbaI/BamHIで消化し、後者はBamHI/NcoIで消化し、次いでXbaI/NcoIで消化したpAPB9と連結してpNM1を構築した。pNM1の2.5kb ClaI/KpnIフラグメントを、pJR1およびpJR2の対応部位に挿入して、それぞれpAPB22(配列番号7)およびpNM2(配列番号1)を構築した。これらのプラスミドは、単独で(pAPB22)またはCyaC(pNM2)と共にHis−CyaAのH63A/K65A/S66G変異体をコードしている。クローニングした遺伝子の配列と方向は、制限消化と塩基配列決定(MWG Biotech)により確認した。
【0082】
CyaAの精製
37℃で強く振盪し、アンピシリン150μg/mlを補ったLuria−Bertani(LB)培地中で指数増殖期の細菌培養に、イソプロピル−β−チオガラクトピラノシド(IPTG、Bioline、UK)を添加して、大腸菌XL−1 Blue(pJR2)に、CyaAおよびCyaCを発現するように誘導した。菌液を遠心分離し、細菌ペレットをプロテアーゼ阻害剤カクテル(P−8465 Sigma、UK)を補った50mMのトリス−塩酸、0.2mMCaCl、pH8.0に再懸濁した。FastPrep器械で20秒間、速度6で、ファーストプレププロテインブルービーズ(FastPrep Protein Blue beads)(QbioGene、CA、USA)を用いて細菌を破壊した。CyaAを含む不溶性物質は、遠心で分離し、50mMのトリス−塩酸、0.2mMCaCl、0.2%トリトンX−100、pH8.0で洗浄し、50mMのトリス−塩酸、0.2mMCaCl、8M尿素、pH8.0(緩衝A)中で、攪拌しながら1時間室温でインキュベートした。遠心後、可溶化されたCyaAを集めた。NaClを終濃度0.1Mになるように添加後、0.1MNaClを補った緩衝液Aで平衡化したDEAEセルロース(Sigma)カラムにCyaAをロードし、0.2MNaClを補った緩衝液Aで溶出した。このタンパク質を、製造業者の推奨するpHに調整することにより変性条件下でNi++カラム(Qiagen)でさらに精製し、100mMのNaHPO、10mMトリス−塩酸、8M尿素、0.2mMCaCl、pH4.5で溶出した。製造業者のプロトコルに従い、Detoxigelエンドトキシン除去カラム(ポリミキシンB結合カラム、Pierce、IL、USA)を用いて、LPSの除去を試みた。最初にダルベッコのPBS(Sigma)、1mMEDTA、1M尿素、pH4.6に対して透析し、次いでダルベッコのPBS、0.1mMCaCl、2M尿素pH8.0に対して透析して、LPSをCyaAから分離した。精製したタンパク質を一定分量にして、−20℃で保存した。LPSは、比色カブトガニ細胞分解産物分析(QCL−1000;Biowhittaker、MD、USA)で測定し、タンパク質濃度は、Bradford(Bio−Rad)で測定した。タンパク質は、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)によって分離し、クーマシーブルー(GelCode Blue Stain Reagent、Pierce)で可視化した。これとは別に、SDS−PAGE後タンパク質をニトロセルロース膜へ移し、抗His標識抗体(Santa Cruz Biotechnologies)および抗CyaA抗体(Erik Hewlettからの贈呈品)で探査した。ホースラデイツシユペルオキシダーゼ結合抗ウサギIgG2次抗体(Sigma)および化学発光スーパーシグナル検出システム(Pierce)と共にインキュベートし、バンドを可視化した。
【0083】
CyaAおよびCyaA誘導体の精製
プラスミドpJK1(単独でHis−CyaAを発現する(配列番号4))、pJR2(His−CyaAおよびCyaCを共に発現する(配列番号8))、pNM2(酵素的に不活性なHis−CyaAおよびCyaCを発現する(配列番号1))か、もしくはpAPB22(酵素的に不活性なHis−CyaAを発現する(配列番号7))を持つ大腸菌XL−1 Blueで、CyaAタンパク質を発現させ、精製した。N末端His標識タンパク質を、ジエチルアミノエチル−セファロースおよびNi++−アガロースクロマトグラフィーにより封入体から精製し、低pHのEDTAを含む緩衝液に対して透析して、混入したLPSを除去した。特に指示しない限り、すべての化学薬品はSigmaからのものを使用した。LPSは、非常に高感度の比色カブトガニ細胞分解産物分析(Cape Cod Associates)で測定し、タンパク質濃度は、Bradford分析(Bio−Rad)で測定した。タンパク質はSDS−PAGEで分離し、クーマシーブルーで可視化した。クーマシー染色したSDS−PAGEゲルで、タンパク質は、95%以上の純度であると評価された。これとは別に、SDS−PAGB後タンパク質をニトロセルロース膜へ移し、抗His抗体(Santa Cruz Biotechnologies)および抗CyaA抗体(Erik Hewlettからの贈呈品)で探査した。ホースラデイツシユペルオキシダーゼ結合抗ウサギIgG2次抗体、および化学発光検出システム(Pierce)と共にインキュベートし、バンドを可視化した。それぞれのタンパク質が、両抗体で認められた。
【0084】
CyaAのパルミトイル化
大腸菌でのcyaCとcyaAの同時発現で、Lys983とLys860の部位でパルミトイル脂肪酸でアシル化されたCyaAタンパク質を生成する。同じシステムでのcyaAの単独発現では、この翻訳後修飾を欠くCyaAタンパク質を生じる。NA−CyaAおよびA−CyaAの試料のアシル化状態を確かめるために、放射能標識法を使用した。プラスミドpJR1(cyaAをコードする)ならびにpJR2(cyaAおよびcyaCをコードする)を持つ大腸菌XL1−blue株を、アンピシリン(150μg/ml)添加LB平板にグリセロールストックから画線接種し、37℃で終夜培養した。単一コロニーを、5mlのLB+Amp液体培地に接種し37℃で終夜、振盪培養した。次いでこの培養を、OD600=0.2になるように5mlの培地に希釈し、OD=0.4〜0.6まで増殖した。この培養物1mlの細菌を、卓上小型遠心器で10分間、800gで遠心し、5μCiの[14C(U)]パルミチン酸(0.1mCi/ml;Perkin Elmer、MA USA)を添加した、アンピシリン(150のμg/ml)を含むLB培地1mlに再懸濁して、1時間室温で激しく振盪した。タンパク質発現は、15分間1mMのIPTGで誘導した。細胞を採取して、新しい培地で洗浄し、ペレット化して、SDS−PAGEローディング色素中に再懸濁し、菌液300μl当量を7%SDS−PAGEゲルで電気泳動を行い、次いでGel Code(登録商標)Blue試薬(Pierce)で染色して、タンパク質を可視化して、CyaAタンパク質バンドを同定した。高度に精製した組換えA−CyaA(放射性標識なし;2μg)も、同じゲルで泳動して溶菌液中の組換えタンパク質を同定した。次いで蛍光光度法を用いてゲル上の放射性標識されたパルミトイル化タンパク質を可視化した。
【0085】
In vitroでのCyaA酵素活性
50μl 50mMトリス−塩酸で、100μg/ml BSA、0.1μMカルモジュリン、0.12mMCaCl、6mM MgCl、2mM ATP、pH8.0中で、0.1μgのタンパク質を、30℃、5分間インキュベートした。この反応混合物を、Amersham Biosciences Biotrak酵素免疫測定法システムの溶解試薬1Bと混合し、5分の間沸騰した。cAMPは、Amershamキットで競合ELISA法で測定した。単位は、30℃、pH 8.0で、1分当たり産生されたcAMPのμmolである。
【0086】
cAMPの定量
細胞内のcAMP蓄積を定量するために、CyaAまたはCyaA誘導体を、0.1〜10g/mlの濃度で、J774マクロファージまたは樹状細胞に加えた。cAMPは、Amersharn Biosctenees Biotrak酵素免疫測定法キットを用いた競合ELISA法で測定した。試料を連続的に希釈して、濃度曲線の直線範囲内で測定値を得た。
【0087】
乳酸脱水素酵素(LDH)の定量
J774マクロファージの溶解は、培養上清へのLDHの放出で測定した。指示された濃度で毒素を細胞に加え、37℃で6時間、プレートをインキュベートした。上清のLDH活性は、CytoTox 96アッセイ(Promega)で定量した。パーセンテージ溶解=[(試料のOD−未処理細胞のOD)/(100%溶解細胞のOD−未処理細胞のOD)]*100。
【0088】
CyaA処理J774細胞の形態学的評価
J774細胞を、処置の1日前にカバーグラス上に蒔いた。細胞を、1〜10μg/mlのCyaAまたはNA−CyaA、1μMシクロヘキサミド、または培地のみで6時間処理した。処理後、カバーガラスを取り除き、細胞を、PBS中3%パラホルムアルデヒドで固定し、洗浄して、分析のためにスライドガラス上に載置した。カメラを装着したBX51顕微鏡(Olympus)で、細胞を白色光下で可視化し、AnalySIS(登録商標)ソフトウェアを用いて、画像を取得した。
【0089】
カスパーゼ−3活性化アッセイ
胎仔牛血清を欠くcDMEM中で6時間、J774細胞を、CyaAまたはCyaA誘導体(0.1〜10μg/ml)で処理した。細胞を洗浄し、300μlの溶解緩衝液(150mM NaCl、20mMトリス(pH7.5)、1%トリトンX−100、100μMフェニルメチルスルホニル弗化物、ロイペプチン10μg/ml、アプロチニン5μg/ml)中で溶解し、タンパク質濃度を分析した。50lの試料を、50lの2X反応緩衝液(100mMEPES(pH7.4)、150mMNaC、10.2%CHAPS、4mMDTT)、および50μMカスパーゼ−3基質(Ac−DEVD−AFC、Alexis Corp.)に加え、37℃でインキュベートした。フリーAFCの遊離に起因する蛍光を、60分にわたり観察した(励起、390nm;発光、510nm)。
【0090】
マクロファージおよびDC
J774マウスマクロファージ株細胞を、完全DMEM(cDMEM;8%胎仔牛血清を補ったDMEM、100mM L−グルタミン、100U/mlのペニシリン、100g/mlのストレプトマイシン)中で培養し、3〜4日ごとに継代した。顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)を発現している株化細胞(J558−GM−CSF)からの上清(10%)を補った、完全RPMI−1640(cRPMI;8%胎仔牛血清を補ったRPMI、100mM L−giutamine、100U/mlのペニシリン、100g/mlのストレプトマイシン)中で、マウスの大腿骨および脛骨から得た骨髄細胞を培養して、骨髄由来未熟DCを調製した。3日目に、10%GM−CSF細胞上清入りの新鮮な培地を、付着細胞に加えた。7日目に、細胞を採取し、洗浄し、cRPMI中に再培養して、アッセイに用いた。J774細胞とDCを、1×10細胞/mlの濃度で実験に用いた。
【0091】
マクロファージおよびDCのサイトカイン放出に及ぼすCyaAの効果
CyaAを指示された濃度でマクロファージおよびDCに加えた。表示がある場合は、精製抗マウスCD11b抗体(M1/70)または、精製ラットIgG2b、アイソタイプ対照(双方ともPharMingen製)を、10g/mlの濃度で、CyaA添加より30分前に添加した。CyaAによる刺激2時間後に、ポリミキシンBを10g/mlの濃度で、該当するウェルに添加した。LPSまたはホスホロチオネート−安定化オリゴデオキシヌクレオチドを含むCpGのモチーフ(CpG−ODN;5’−GCTAGACGTTAGCGT−3’;Sigma−Genosys Ltdが合成)を、指示された濃度で添加した。IL−10、IL−12p70、TNF−、IL−6およびCCL3濃度をELISA(R&D DuoSet ELISA kits)で分析するために、2、4、24または28時間後に上清を採取した。
【0092】
DCの成熟に及ぼすCyaAの効果
DCを、CyaA(1g/ml)およびポリミキシンB(10g/ml)と共に培養した。2時間後に、10ng/mlまたは1μg/mlのLPSを添加した。24時間培養後、細胞を採取し、0.05%ウシ血清アルブミンおよび0.02%NaN入りのPBSで洗浄した。マウスCD80(ハムスターIgG2、クローン16−10A1)、CD86(ラットIgG2a、クローンGL1)、CD11c(ハムスターIgG1、クローンHL3)、MHCクラスII(マウスIgG2b、I−A、クローンAMS−32.1)、CD40(ラットIgG2a、クローン3/23)または、ICAM−I(ハムスターIgG1、クローン3E2)に特異的な抗体で、細胞を4℃で30分間インキュベート後、洗浄して、ビオチン標識一次抗体の場合には、ストレプトアビジン−PerCPと共にインキュベートした。対照の働きをする無関係な特異性を持つ適切なアイソタイプ適合抗体で、細胞を標識化した。FACScaliberフローサイトメータで、1試料につき30,000個の細胞を解析した。CellQuest V3.3ソフトウェア(Becton Dickinson Immunocytmetery Systems San Jose、CA)を用いて、CD11cにゲートされた細胞に対し分析を行った。
【0093】
動物および免疫処置
特定病原非感染メスBALB/c、C3H/HeNおよびC3H/HeJマウスを、Harlan Olac(Bicester、UK)から購入し、1グループ当たり4匹または5匹で、6〜8週齢のマウスを用いた。マウスを、それぞれ換気されたケージに収容し、アイルランド保健省、EUおよびTrinity College Dublin倫理委員会の規定に従ってすべての実験を実施した。
【0094】
発熱物質を除いたキーホールリンペットヘモシアニン(KLH;5μg;Calbiochem、La Jolla、CA、USA)、CyaAもしくはNA−CyaA(1μg)と共にKLH(5μg)、または最終容量50μlでダルベッコPBS(Sigma、Poole、UK)で、1度か2度(0日および21日)マウスの後足蹠皮下(s.c.)に免疫した。最初または2回目の免疫投与の7日後に、頚椎脱臼によりマウスを屠殺にし、血清と膝窩リンパ節を採取した。
【0095】
抗原特異的T細胞系統およびクローンの生成
免疫したマウスからの膝窩リンパ節細胞(1×10/ml)を、KLH(50μg/ml)と共に培養した。2回の抗原刺激後、(37)に記載のように限界希釈法により、T細胞系統をクローニングした。T細胞系統とクローンは、抗原(KLH、50μg/ml)および脾臓のAPCと共に4〜5日間培養後、放射線照射フィーダー細胞およびIL−2で5〜7日培養して維持した。飢餓状態周期の終わりに、T細胞のサイトカイン産生を調べた。
【0096】
抗原特異性サイトカインの産生
免疫したマウス、またはT細胞系統、またはクローン、およびAPC(放射線照射脾臓細胞、2×10/ml)からのリンパ節細胞(1×10細胞/ml)を、37℃、5%CO、RPMI培地で、KLH(2〜50μg/ml)、またはホルボール12−ミリスチン酸エステル13−アセテート(PMA;25ng/ml;Sigma)、および抗CD3(0.5μg/ml;BD、Pharmingen)、または培地のみ、と共に培養した。3日後に、上清をサイトカイン検出のために採取し、培地交換した。次の日にH−チミジン(950μCi/ウェル;Amersham Pharmacia、UK)を添加し、細胞をさらに5時間培養した。その後細胞を採取し、増殖をH−チミジン取込みにより評価した。抗体および標準物質として組換えサイトカイン(BD Pharmingen、San Diego、CA)の組合せを用いて、IL−4、IL−5およびIFN−γの濃度をイムノアッセイにより測定した。市販のDuo−Setキット(R&D Systems、Minneapolis、U.S.A.)を用いて、IL−10の濃度を測定した。
【0097】
抗体アッセイ。免疫したマウス血清中のKLHに特異的なIgG、IgG1およびIgG2aのタイターをELISAで測定した。
【0098】
統計
サイトカインおよびケモカイン濃度は、一元配置分散分析法(ANOVA)により比較した。有意差が見いだされた場合、Tukey Kramer多重比較検定を、それぞれのグループ間で相違を同定するために用いた。
【0099】
CyaAのクローニング、発現および精製
CyaAをコードする遺伝子cyaA、およびその生成物がCyaAの翻訳後の活性化に必要な遺伝子cyaCが、百日咳菌W28のゲノムDNAからpQE−80にクローニングされ、大腸菌でこれらの遺伝子が誘導発現できるようにした。6xHis標識CyaAを発現するこのプラスミドpJR2を、エレクトロコンピテント大腸菌XL1−blue細胞に導入した。組換えプラスミド含む細菌を回収し、クローニングした遺伝子の正しい配向および位置を、制限消化および塩基配列決定により確かめた。
【0100】
活性なCyaAを、細菌封入体から可溶化し、DEAEとNi++カラムで精製した。ゲル電気泳動後のクーマシー染色の評価で、200kDaのCyaAタンパク質の純度は、95%よりも高く、抗His抗体および抗CyaA抗体の両方でこのバンドが認められた(データは示さず)。CyaAタンパク質のLPS含有量を、全精製過程でモニターした。この段階で、タンパク質試料は、かなりの量のLPSを含んでいた(>2ngLPS/μgタンパク質)。多くの方法を使って、LPSの除去を試みた。タンパク質試料をポリミキシンB結合カラムを通過させると、LPSは減少するが、除去はできなかった。これは、CyaAがLPSと緊密な複合体を形成していることを示唆していた。EDTAを添加してカルシウムイオンをキレートすることにより、および本タンパク質のpI以下にpHを低下させることにより、LPSをタンパク質から分離できる。この状況でタンパク質を透析後、CyaAの試料は、220pgLPS/μgタンパク質を含んでいた。このLPS濃度は、in vitroでマクロファージまたはDCを刺激しなかった(データは示さず;さらに図4、5および7)。以下に記載するアジュバントおよび免疫調節剤の研究に、この試料を使った。
【0101】
CyaAの生化学的特性
CyaA試料を生化学的に分析して、CyaAの酵素および膜移行特性の両方が活性であることを確認した。アデニル酸シクラーゼ酵素機能のin vitroアッセイでは、タンパク質は酵素的に活性であることを示した(26.6±0.8単位/mg)。1μg/ml濃度のCyaAで、J774マクロファージのcAMP細胞内濃度を80倍上昇させることができ(72.8±2.9対0.9±0.1pmolcAMP/10細胞)、本タンパク質は、真核生物細胞を標的にして侵入する能力を持つことを示していた。最大cAMP濃度に30分以内に達し、少なくとも24時間維持された。LDH放出で計測して、この濃度のCyaAは、24時間後に1%未満の細胞溶解を誘起したが、5〜10μg/ml濃度のCyaAで溶解(10%までの)が認められた(データは示さず)。したがって、CyaAの免疫調節性機能を評価するために、細胞生存度に影響を及ぼすことなく、細胞内のcAMPの大きな増加を引き起こす濃度、1μg/mlでCyaAを使用した。
【0102】
CyaAは、同時に注入した抗原に対してTh2およびTr1細胞を産生する
CyaAのアジュバント特性を調べるために、KLH(5μg)単独で、またはCyaA(1μg)と共に、マウス後足蹠皮下に免疫した。7日後にマウスを屠殺し、リンパ節細胞をin vitroで抗原(KLH 2〜50μg/ml)で再刺激した。サイトカイン濃度を、3日後に取り出した上清で測定し、増殖は4日後に評価した。KLH単独での免疫は、弱い細胞性免疫応答を誘発した;PBSで免疫したマウスで認められる以上に、IL−4産生のみが増強した(図1)。対照的に、KLHおよびCyaAで免疫したマウスの再刺激したリンパ節細胞からの細胞では、有意な抗原特異的増殖が認められた。さらにまた、KLH単独で免疫したマウスと比較して、CyaAおよびKLHで免疫したマウスのリンパ節細胞で、KLHに特異的なIL−10およびIL−5が有意に高い濃度で検出された。IL−4およびIFN−γも増強したが、KLH単独、ならびにKLHおよびCyaAを投与したマウス間の相違は、ほとんどの場合有意ではなかった。サイトカイン分泌の類似のパターンが、追加抗原免疫後の7日目に認められた(データは示さず)。
【0103】
抗原刺激したリンパ節細胞のサイトカインプロフィールは、CyaAが同時投与した抗原に対して、Th2および/またはTr1細胞を増強することを示唆していた。この発見を確かめるために、CyaAの存在下でKLHで免疫したマウスから、KLHに特異的なCD4T細胞系統およびクローンを構築した。調べたそれぞれ10個のT細胞系統が高濃度のIL−10および低濃度のIL−5を分泌し、これより少数の細胞がIL−4も分泌していた(図2A)。IFN−γ産生は、調べた10個のT細胞系統のうちの6個で検出可能であり、これらのうち1個の細胞だけから高濃度で検出された(図2A)。対照的に、CpGオリゴデオキシヌクレオチド存在下で、KLHで免疫したマウス由来のすべてのT細胞系統が、IFN−γを50ng/mlを上回る濃度で産生した(未発表の観察)。KLHおよびCyaAで免疫したマウスから作製した多数のT細胞系統をクローニングし、代表的なT細胞系統由来のT細胞クローンのサイトカイン産生を、図2Bに示す。これらKLHに特異的なT細胞クローンは、IL−5およびIL−10、または、IL−4、IL−5およびIL−10は分泌するがIFN−γは検出不可能であり、これはTr1およびTh2細胞それぞれに特徴的なプロフィールである。同時投与した抗原に特異的なTh2およびTr1型細胞の誘導を、CyaAが促進することをこれらの所見は示している。
【0104】
CyaAは、同時投与した抗原に対するIgG1応答を増強する
KLH単独で、またはCyaAと共に免疫したマウスで、KLH特異的IgGおよびIgGサブクラスを評価することにより、同時に注射した抗原に対する抗体産生応答に対するCyaAのアジュバント効果を調べた。抗原を単独で投与したマウスと比べて、KLHおよびCyaAで免疫したマウスの血清では、KLH特異的IgG1が有意に高濃度で見いだされた。対照的に、KLH単独で免疫したマウスで認められる濃度以上に、CyaAはIgG2a濃度を増強しなかった(図3A)。2回目の免疫投与後、血清IgGタイターは、1回目の免疫投与後に認められたタイター以上に増加し、CyaA存在下でKLHに対する応答は、KLH単独で免疫したマウスでの応答より有意に大きかった(図3B)。1回目の免疫投与後のデータと同等に、IgG1が抗体産生応答の優性なサブクラスであった。in vivoでのT細胞応答と同様に、CyaAは抗体産生でアジュバントとして作用することを、これらのデータは明らかに示している。
【0105】
CyaAは、先天性細胞でサイトカイン産生を調節する
DCとマクロファージを含む先天免疫系の細胞は、抗原を提示し、調節性サイトカインを分泌することにより適応免疫応答を導く。CyaAの効果をこれらの細胞で検討するために、J774マクロファージおよび骨髄由来の未成熟DCを、CyaA(1μg/ml)、LPS(1〜1000ng/ml)またはCyaAおよびLPSと共にインキュベートした。精製の間にLPSは減少はするが、完全には除去できなくて、CyaAタンパク質とLPSは関連しているので、CyaAの免疫調節性効果におけるこのLPSの役割を、もしあるならば決定することは重要であった。したがって、ポリミキシンB存在下で、同様にCyaAで細胞を刺激した。上清を、刺激後2、4および28時間で採取し、サイトカインを定量した。残留LPS(220pg/ml)を含む精製したCyaAは、J774細胞でIL−6、IL−10およびTNF−αの低濃度の産生を促進し(図4)、DCでIL−6およびTNF−α(しかしIL−10の分泌なし)を低濃度で分泌した(図5)。このサイトカイン産生は、ポリミキシンBの存在下で抑制された。しかし、CyaA試料中に存在する量(220pg/ml)のLPS単独での刺激では、これらのサイトカインの産生を誘導しなかった(図4および5)。CyaAは、LPS存在下でのみ、先天性細胞を活性化することを、これらのデータは示唆している。したがって、LPSの増量に応じたサイトカイン産生に及ぼす、CyaAの効果を調べた。マクロファージおよびDCからのIL−6およびIL−10の産生促進において、CyaAはLPSと相乗効果を示す。CyaAおよびLPS(1〜1000ng/ml)で促進されるマクロファージのIL−10産生は、調べたすべての時間点で、LPS単独に対応する量で促進されるマクロファージのIL−10産生より有意に大きかった(図4)。LPS単独(1〜1000ng/ml)刺激での4時間後のDC上清では、IL−10は検出できなかったが、CyaA添加後かなりの濃度のIL−10が産生された(図5)。マクロファージおよびDCでのLPS誘発性のIL−6産生は、CyaAの添加によっても有意に増強したが、これは初期の時間点でのみ認められた。IL−6およびIL−10産生に対する正の効果とは対照的に、マクロファージおよびDCでのTNF−α分泌、ならびにDCでのIL−12p70産生をCyaAは抑制する。調べた3つの時点およびある範囲のLPS量にわたって、これらの抑制効果が認められた。CyaA単独では、生得的な免疫系の細胞でサイトカイン産生に及ぼす効果をほとんど増強しないが、IL−6およびIL−10産生促進において、非常に低濃度でもLPSと乗効果を示すことができるばかりでなく、TNF−αおよびIL−12産生を阻害することを、これらのデータは示している。
【0106】
DCの成熟に及ぼすCyaAの効果
TLRと結合するいくつかの病原体由来の分子が、未成熟なDCの成熟を誘導し、それによって、ナイーブなT細胞を活性化するDCの能力を増強する。したがって、DCの成熟を促進するCyaAの能力および/またはLPS誘発性の成熟を調節する能力を調べた。未成熟なDCを、CyaA、LPS、またはCyaAと共にLPSで刺激し、成熟に関連する表面マーカーの発現を、24時間後に免疫蛍光検査分析により調べた。予想通り、LPS(1μg/ml)は、CD80、CD86、ICAM−I、CD40およびMHCクラスIIの表面発現を増強した(図6)。CyaAによる未成熟なDC(ポリミキシンBの存在下で)の刺激もまた、CD80およびMHCクラスII、およびわずかながらCD86の表面発現のアップレギュレーションをもたらした。対照的に、CyaAと共に培養後のCD40およびI−CAM Iの発現は、ダウンレギュレートされていた。さらにまた、CyaAは、CD40、ICAM−IおよびCD86のLPS誘発性のアップレギュレーションを阻害した。対照的に、CyaA試料に存在する濃度(220pg/ml)のLPSでの細胞処理では、DC表面マーカーの発現に及ぼす効果は認められなかった(データは示さず)。CyaA処理により、DCの部分的な成熟、CD80およびMHC−IIのアップレギュレーションを引き起こすが、Tr1細胞を分化させる表現型であるCD40およびICAM−1を阻害することを、これらの所見は示している。
【0107】
TLR−4欠損マウス由来のDCに及ぼすCyaAの効果
アジュバントおよび免疫修飾物質としてのCyaAの作用機序で、さらにLPSの役割に取り組むために、生得的なサイトカインおよびケモカイン産生、ならびにTLR4欠損マウスでのDCの成熟を調べた。C3H/HeNおよびC3H/HeJマウスのDCを、CyaA、LPS、LPSおよびCyaA、またはCyaAおよびポリミキシンBで処理し、4時間後に上清回収した。C3H/HeJマウス由来ではなくC3H/HeN由来のDCで、CyaA(220pg/mlの残存LPS含有)が、IL−10産生を促進した(図7)。さらにまた、C3H/HeNマウスのDCによるIL−10産生は、ポリミキシンBによって阻害された。しかし、CyaA試料に存在する濃度のLPS単独(220pg/μg)では、C3H/HeNマウスのDCで、IL−10、IL−12p70、TNF−αまたはMIP−lαの産生を誘導しなかった。高用量の外来のLPS(10ng/ml)の添加では、4時間の時間点で、IL−10を誘導しなかったが、IL−10産生の促進ではCyaAと相乗効果を示した。さらにまた、CyaAはC3H/HeNマウスのDCで、LPS誘導のIL−12p70、TNF−αおよびMIP1−αの産生を抑制したが(図7)、C3H/HeJマウスのDCで、サイトカイン産生に及ぼす効果は認められなかった(図7)。対照的に、同じ様式でC3H/HeNおよびC3H/HeJのDCで、CpG、TLR9リガンドは、サイトカイン産生を活性化した(図7)。これらのデータは、DCでサイトカイン産生に及ぼす直接的な効果がないにもかかわらず、CyaAはLPS誘発性の応答を調節し、IL−10の誘導でLPSと相乗効果を示し、LPS誘発性IL−12p70、TNF−αおよびMIP−lαの産生を抑制するというより詳細な証拠を提供している。
【0108】
さらにC3H/HeNおよびC3H/HeJマウス由来のDCの成熟に及ぼすCyaAの効果を調べた。BALB/cマウスで見られるように、CyaAは、C3H/HeNマウスのDCの成熟を誘導し、特にCyaAは、CD80、CD86、MHCクラスII、CD40およびICAM−1の発現を増強した(図8A)。ポリミキシンBの存在下で、これらの効果は減少し、特にCD40、ICAM−1およびMHCクラスIIでは減少して、培地処理の対照DCで見られる濃度よりも低濃度で発現した。LPS誘発性CD86、CD40およびICAM−1の発現も、BALB/cマウスのDCで観察されるのと同程度ではないが、CyaAにより阻害された。C3H/HeNマウスにおける調節的な効果と対照的に、LPS、CyaA、またはCyaAを伴うLPSのCD86、MHCクラスII、CD40またはICAM−1に及ぼす増強効果はなく、C3H/HeJマウス由来のDCのCD80に及ぼす軽度の効果が見られた(図8B)。しかし、ポリミキシンBの存在下で、CyaAはC3H/HeJマウス由来DCでCD40およびICAM−1の発現をわずかに減少させた。CyaAによるDCの成熟マーカーのアップレギュレーションは、非常に低用量でさえもLPSに依存するが、CD40およびICAM−1の内在性の発現抑制は、LPSがなくても起りうることをこれらの所見は示唆している。
【0109】
アシル化されたCyaA、非アシル化されたCyaAおよび、酵素的に不活性なCyaAの精製と生化学的解析
以下の研究では、免疫応答を調節するCyaAの能力に対する、アシル化の役割および酵素活性の役割を調べた。アシル化は、CyaAが赤血球と相互作用するために必要であり、アデニル酸シクラーゼ活性は、宿主細胞でcAMPの蓄積の原因となる。CyaAのアジュバントおよび免疫調節性効果によるアシル化およびアデニル酸シクラーゼ活性の役割を調べるために、アシル化の欠如および/またはアデニル酸シクラーゼ活性を欠損したCyaAとCyaA誘導体を生成して精製した。組換え型のN末端His標識CyaAおよびCyaA誘導体の融合タンパク質を発現させて、大腸菌から精製した。アシル化CyaA(A−CyaA)を、IPTG誘導性プロモーターPlacのコントロール下にあるHis−CyaAおよびCyaCを同時発現する大腸菌XL−1 Blue(pJR2)から精製した。非アシル化CyaA(NA−CyaA)は、cyaCが欠如した同様のプラスミドであるpJR1をもつ大腸から精製した。CyaAタンパク質の触媒活性が含まれることが知られているアミノ酸をコードする遺伝子領域のcyaA遺伝子の部位特異的変異誘発により、不活性のアデニル酸シクラーゼドメインをもつCyaAタンパク質(iAC−CyaA)を生成した。H63A、K65AおよびS66G置換−Lys65をもつ変異タンパク質は、ATPの結合にとって重要であり、His63が、その環化に関与している(21、22)。アシル化iAC−CyaA(A−iAC−CyaA SEQおよび非アシル化iAC−CyaA(NA−iAC−CyaA)(配列番号3)それぞれを、CyaCの存在または不在下で大腸菌に発現させて精製した。LPSは、CyaAと複合体を作るようであり、本研究で使用された精製試料中のLPS含有量は、124〜217pgLPS/gCyaAの範囲内にわたっていた。野生型cyaAおよびcyaA誘導体のDNA配列は、クローニングした遺伝子の塩基配列決定により確かめた。
【0110】
A−CyaAおよびNA−CyaAそれぞれの、パルミチン酸脂肪酸アシル化の存在および欠如は、[14C(U)]パルミチン酸存在下で生育した大腸菌で、タンパク質の発現を誘導して確かめた。同時発現する付属タンパク質CyaCにより、A−CyaA試料は、翻訳後のパルミトイル化により修飾されるが、CyaC(NA−CyaA)がない場合、発現したCyaAはパルミトイル化されないことを、図9の結果は示している。
【0111】
試料1は、それぞれ47および31モルcAMP産生/分/mgの特異的活性をもち、試料2は、それぞれ105および121モルcAMP産生/分/mgの特異的活性もち、A−CyaAおよびNA−CyaAは共に酵素的に活性であったが、アシル化も非アシル化もされていないiAC−CyaAタンパク質は酵素活性を示さなかった(図11A)。
【0112】
赤血球の溶血、ならびにマクロファージの溶解およびカスパーゼ−3活性化に、CyaAのアシル化が必要である。アシル化は、CyaAが結合し、細胞内のcAMPを増加し、赤血球の溶血を引き起こすために必要であることが以前に示されている(1)。さらにまた、非アシル化されたCyaAは、J774マクロファージまたはJurkatT細胞を溶解することができなかったが、これらの細胞で結合するNA−CyaAの能力、またはcAMPの蓄積を生じるNA−CyaAの能力は報告されていない(1、2)。NA−CyaAは、CD11bでトランスフェクトしたCHO細胞で溶解またはcAMF濃度を上昇させることができなかったが、NA−CyaAは、CD11bに依存する様式で、しかしA−CyaAより低親和性で、これらの細胞に効率的に結合することができることが最近報告された(14)。CD11b/CD18を発現するJ774マクロファージで、CyaA誘発性cAMPの蓄積における、アシル化と酵素活性の役割を調べた。酵素的に活性なA−CyaAおよびNA−CyaAは、J774細胞で細胞内のcAMP濃度を約1000倍上昇させたが、A−iAC−CyaAおよびNA−iACCyaAはcAMP濃度を変化させなかった(図11B)。細胞内のcAMPの増加は、A−CyaAよりもNA−CyaAでより少なかった。それにもかかわらず、大きな濃度範囲にわたりNA−CyaAが、細胞内のcAMPを増強したので、アシル化が細胞内cAMPの誘導に必須でないことを、結果は明らかに示している(図12)。
【0113】
CyaAは赤血球の溶血を引き起こしたが、NA−CyaAには効果が認められなかった(図10)。マクロファージの溶解を引き起こすこれらのタンパク質の能力も評価した。濃度10g/mlで、アシル化されたCyaAタンパク質の両方が、J774マクロファージで細胞死を誘導したが、NA−CyaAまたはNA−iAC−CyaAでは、軽微な溶解のみを検出した(図11C)。ポリミキシンBでインキュベート後、NA−CyaA10μg/mlで検出された低い溶解レベルは抑制され、A−CyaAで誘導される溶解は減少した(図12Cと図12Dを比較)。したがって、他のRTX毒素の場合のように、アシル化は、CyaAが細胞を溶解するために必要であり、さらにLPSはこの溶解効果を増強できる。これとは対照的に、酵素活性および細胞間のcAMP濃度の増強は、細胞溶解を引き起こすCyaAの能力とわずかに関連するだけである。
【0114】
A−CyaAおよびNA−CyaA間の細胞毒性の差異は、CyaAで処理したマクロファージの形態を検討して決定した。NA−CyaA処理した細胞の形態は、未処理の細胞の形態と同様であった(図13)。対照的に、3または5μg/mlの濃度のA−CyaAで処理したJ774細胞(図13BおよびC)は、細胞断片化の他に原形質と核が収縮して、アポトーシスの形態を帯びる(ヘキスト染色による細胞核染色で、明白な染色質凝縮を示した;データは示さず)。これは、シクロヘキシミドによって誘導される明らかなアポトーシスの形態に匹敵する(図13E)。さらに高濃度のCyaA(図13D)で、細胞質および核膨張が見られ、原形質の明らかな空胞化を伴う壊死による特徴的な表現型が明瞭である。アポプトーシスにおける重要なステップは、プロテアーゼであるカスパーゼ−3の活性化である。したがって、A−CyaAおよびNA−CyaAで処理した細胞で、カスパーゼ−3の活性化を調べた。濃度5および10μg/mlのA−CyaAは、高濃度のカスパーゼ−3を誘導し、3μg/mlでは低濃度の活性化を誘導した(図11Dおよび3B)。同様に、A−iAC−CyaAは、カスパーゼ−3活性化を誘導した(図11D)が、NA−CyaAは、濃度範囲0.3〜10μg/mlで有意なカスパーゼ−3の活性化を誘導しなかった(図11DおよびB)。カスパーゼ−3活性化は、調べた高濃度のNA−iAC−CyaA(10μg/ml)でのみ検出された。アシル化は、CyaA誘発性アポプトーシスを促進し、酵素活性の欠如は、アシル化の欠乏を部分的に補うかもしれないこと、おそらくはカスパーゼ−3活性化に対するcAMPの抑制効果の除去によって補うかもしれないことを、これらの結果は示している。
【0115】
アシル化は、CyaA処理マクロファージで、cAMPによって与えられるサイトカイン放出の調節に必要でない
マクロファージおよびDCの活性化を調節するCyaAの能力に及ぼすアシル化と酵素活性の影響を調べた。J774マクロファージを、CyaA単独(1μg/ml)、CyaAと共にLPS(10ng/ml)、または、CyaAおよびポリミキシンB(10μg/ml)のいずれかで処理して、タンパク質試料中に残留する低濃度のLPSの効果を打ち消した。分泌されたIL−10およびTNF−の濃度を、4時間後の上清で定量した。LPSはNA−CyaAと相乗作用して、A−CyaAに対してと同様にIL−10の分泌を誘導する(図5)。A−CyaAおよびNA−CyaAタンパク質(LPSの添加ありまたはなしで)は、マクロファージでのIL−10産生を誘導した。LPSをキレートするポリミキシンBの添加により、IL−10の産生が抑制された。CyaAタンパク質試料中に存在する濃度のLPS単独では、IL−10産生を誘導できなかったので、このサイトカインは、それぞれのタンパク質試料中のLPSおよびCyaA間の相乗作用の結果として分泌されたことがわかった。このLPSとの相乗効果は、タンパク質試料中に存在する濃度(これらの試料中、約200pg/mlのLPS)で明らかであり、さらに外来のLPS(10ng/ml)を添加しても、有意に変化しなかった。NA−CyaAおよびA−CyaAは、LPS誘発性TNF分泌を同程度に阻害した。対照的に、iAC−CyaAタンパク質のどちらも、IL−10産生の増強も、TNF−産生の阻害もしなくて(図14)、アデニル酸シクラーゼ活性は、CyaAがマクロファージでサイトカイン産生を調節するために必須であることがわかった。酵素的に不活性な毒素試料(NA−iAC−CyaAおよびNA−iAC−CyaA)は、添加された外来のLPSがない場合、TNF−α産生を誘導する。ポリミキシンBでベースライン濃度までこのTNF−αが減少するので、これは、広範囲にわたる精製後も、タンパク質と複合体を作ってまだ残っているLPSのためである。この効果は、TNF−α産生に対するcAMPの抑制効果のため、酵素的に活性な毒素では見られない。
【0116】
CyaAの免疫調節性活性における、アシル化の役割をさらに検討するために、所定の範囲にわたる濃度(0.1〜3g/ml)のタンパク質のLPS誘発性サイトカイン産生に及ぼす効果を調べた(図15)。1g/mlおよびそれ以上の濃度で、NA−CyaAおよびA−CyaAは同様の効果を及ぼし、IL−10を増強し、マクロファージによるTNF−α産生を阻害するが、より低濃度では、NA−CyaAは、A−CyaAよりもはるかに調節的活性が低かった。マクロファージのサイトカイン放出調節のために、アシル化はCyaAの絶対条件ではないが、その効率を増すことをこれらのデータは示している。同様にアシル化は、BALB/cまたはC3H/HeNマウスの骨髄由来DCでのサイトカインおよびケモカイン産生を調節するCyaAの能力に影響しなかった(データは示さず;図16も参照)。
【0117】
NA−CyaAは、Toll−様受容体(TLR)−9を介して、CpG−ODNシグナル伝達効果を調節する
IL−10に対するCyaAの相乗的および抑制的な効果と炎症誘発性のサイトカイン産生が、タンパク質と密接に関連するLPSに限られるのか、または他のTLRリガンドまで広がるかどうかを決定するために、TLR−9リガンドであるCpG−ODNにより誘導されるサイトカイン産生に及ぼすCyaAの効果を調べた。LPSの考えられる影響を取り除くために、これらの研究は、マウスをLPSに低反応性にするTLR−4に点突然変異をもつC3H/HeJマウスから生成したDCを用いて実施した。C3H/HeJDCによるCpG−ODN−活性化されたTNF−、IL−12p70およびCCL3産生は、A−CyaAおよびNA−CyaAによりダウンレギュレートされていた(図16)。さらに、両タンパク質によりIL−10の分泌が増強された。CpG−ODNシグナル伝達の及ぼすCyaAの効果をさらに検討するために、C3H/HeNおよびBALB/c由来のJ774マクロファージおよびDCを、A−CyaAまたはNA−CyaAと共に、ポリミキシンBとCpG−ODNの存在下でインキュベートした。A−CyaAおよびNA−CyaAはどちらも、TNF−の産生を阻害し、CpG−ODNで刺激した細胞でのIL−10産生を増強した(データは示さず)。総合すると、これらの所見は、CyaAの免疫調節性効果は、TLR−4を介するLPSのシグナル伝達に限られず、依存していないが、その受容体への他のTLRリガンド、例えばCpG−ODNの結合で媒介できることを明らかにするものである。さらにまた、これらの効果は、CyaAのアシル化に依存しないが、CyaAのアシル化により増強される。
【0118】
免疫調節性効果は、CD11bにより媒介される
CD11b/CD18を介してA−CyaAおよびNA−CyaAが細胞に結合することにより、これらのサイトカイン調節性効果が媒介されているかどうかを決定するために、宿主細胞へのA−CyaAの結合を妨げることがすでに明らかにされている、抗CD11b抗体M1/70の存在下で、タンパク質およびCpG−ODNで細胞を処理した(14)。抗CD11b抗体の添加により、CpG−ODN誘発性TNF−産生を阻害するA−CyaAおよびNA−CyaAの能力が抑制され、またIL−10の分泌増強でCpG−ODNと相乗作用するこれらの能力も抑制された(図17)。CpG−ODNをLPSで置換した場合にも、同様の結果が得られた(データは示さず)。CyaAまたはNA−CyaAの存在下で、CpG−ODN誘発性TNF−αに及ぼす抗CD11bの増強効果(またはLPS誘発性TNF−α;データは示さず)は、CyaAの抑制的効果の除去(もはやその受容体と結合できない)、およびCyaA試料で同時に精製されたLPSの効果の残留をおそらく反映している。したがって、A−CyaAおよびNA−CyaAによるマクロファージサイトカイン放出調節には、CD11b/CD18との相互作用が含まれ、細胞表面レセプターを介した、これらの2つのタンパク質の生得的免疫細胞への特異的な取込みを示唆している。
【0119】
CyaAによるDC成熟調節に及ぼすアシル化の影響
病原体由来の分子、例えばLPSおよびCpG−ODNに反応したDCの成熟は、同時に刺激される分子の細胞表面発現の変化により検出できる。ここで、未熟な骨髄由来DCの成熟を誘導するCyaAの能力、またはLPSもしくはDCのCpG−ODN誘発性の成熟を調節するCyaAの能力に及ぼすCyaAのアシル化の効果を検討した。TLR−4シグナル伝達がない場合の、A−CyaAおよびその非アシル化誘導体の効果を検討するために、ポリミキシンBの存在下で、これら2つの効果を調べた。ポリミキシンBの存在下で、NA−CyaAおよびA−CyaAはどちらも、CD80のDC表面発現を増強し、内在性のCD40発現を抑制した。さらにまた、NA−CyaAおよびA−CyaAと共にDCをプレインキュベーションすると、LPSに応答するCD40およびICAM−1の表面発現の増加が抑制された(図18)。調節性効果は、A−CyaAでより著しく、アシル化は、CyaA誘導性の免疫調節性効果の効率を増強するという我々の仮説を支持していた。CyaAも、他のTLRリガンドに対する応答を調節することを確かめるために、DCでCpG−ODN誘導性の成熟に及ぼすCyaAの効果を検討した。CpG−ODNは、CD80およびCD40の表面発現を増強した。一方、A−CyaAおよびNA−CyaAは、CD80の表面発現を増強したが、ポリミキシンBの存在下で、C3H/HeJマウス由来のDC上およびBALB/cマウス由来のDC上で、CpG−ODN誘導性CD40を抑制した(データは示さず)。TLR−4およびTLR−9リガンドに反応してCyaAは、DCの成熟を調節し、アシル化はこれらの効果に必須でないことをこれらのデータは示している。
【0120】
アシル化は、CyaAのアジュバント活性には必須でない
NA−CyaAおよびA−CyaAは、in vitroで生得的な細胞に対して同様な効果を及ぼすことを実証した後に、in vivoでのCyaAのアジュバント活性に及ぼすアシル化の影響を検討した。マウスを、A−CyaAまたはNA−CyaAの存在または不在下でKLHで免疫した。膝窩リンパ節をドレーンして、抗原特異的T細胞の増殖およびサイトカイン産生を、7日後に調べた。この結果から、2つのタンパク質どちらにも匹敵するアジュバント活性があることが明らかになった。KLH特異的T細胞の増殖およびサイトカイン産生は、KLH単独で免疫したマウスのリンパ節細胞では、低いかあるいは検知できなかった(図19)。しかし、PMAおよび抗CD3に反応して、これらのマウスのリンパ節細胞は増殖し、IL−4、IL−5、IL−10およびIFN−γを分泌した。対照的に、抗原特異的IL−4、IL−5およびIL−10産生(図19A)ならびに増殖(図19B)が、A−CyaAまたはNA−CyaAの存在下でKLHで免疫したマウスのリンパ節細胞で検出された。A−CyaAまたはNA−CyaAの存在下でKLHで免疫したマウスのリンパ節細胞で、IFN−が産生された(図19A)が、CpG−OPN存在下でKLHで免疫したマウスで観察されるIFN−と比較すると、その濃度は低かった(未発表の観察)。このサイトカインプロフィールは、CyaAは、Th2およびTr1細胞を優先的に増強することを示している図1のデータと一致している。抗体価の分析で、NA−CyaAおよびA−CyaAは、KLHに応答するIgGを増強することが明らかになった(図19C)。IgG1は、IgG2aよりも大幅に増強され、これはTh2応答の選択的増強と一致している。したがって、アシル化の欠如は、CyaAのアジュバント特性を弱めなし、またin vivoでTh2およびTr1細胞の誘導を指令する能力も弱めない。
【0121】
多発性硬化症のマウスモデル
実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)は、多発性硬化症のマウスモデルである。1mgの結核菌を補った完全フレンドアジュバントで乳化させたMOGペプチド150μgをs.c.投与し、500ngの百日咳毒素を腹腔内(i.p.)に注射し、2日後に2回目の500ngの百日咳毒素を腹腔内に注射することにより、EAEがC57BL/6マウスで誘導される。マウスは、麻痺症状を呈する。自己免疫疾患に対するワクチンのアジュバントとしてのCyaAの効果を評価する実験で、リン酸緩衝生理食塩水中、50μgMOGペプチド(残基35〜55)および1.0μgCyaAでマウスを皮下(s.c.)免疫した。この操作を21日後に、繰り返し実施した。対照マウスには、MOGペプチドまたは食塩水のみを投与し、2回目の免疫の7日後、上述のように、MOG、フロイントアジュバントおよび百日咳毒素でEAEを誘導した。マウスを、EAEの臨床徴候に関して毎日評価した。スコアは以下の通りとした:1=尾の麻痺、2=不安定な歩行、3=後肢の衰弱、4=後肢の麻痺、5=後肢および前肢の完全な麻痺、6=死亡。
【0122】
実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)の症病進行(平均疾患指数)に対する、CyaAを伴うミエリンオリゴデンドロサイト(MOG)ペプチドによる免疫処置の効果を図20に示す。図21は、EAEモデルで経時的な平均疾患スコアを示す。組織学的結果は、MOGおよびCyaAによる免疫処置の効果を明らかに示している(図22)。
【0123】
表1は、疾患スコアおよび疾患指数の結果を示す。この結果は、アジュバントとしてCyaAの投与で、症病進行をかなり抑制できることを示している。
【0124】
【表1】

【0125】
発生率は、試験したマウス数中、EAEの何らかの臨床的症状が見られたマウス数である。疾患指数は、すべての毎日の平均疾患スコアを加え、平均発症日で割り、100倍して算出した。
【0126】
投与量、投与方法および医薬組成物
本発明は、選択された抗原に対する哺乳類における免疫応答を調節する方法を含み、方法は、哺乳類に治療量の、CyaA、またはその誘導体、変異体、断片、変種もしくはペプチド、あるいはこれらの物質により活性化された細胞の生成物を含む物質を投与すること、あるいは治療量の、CyaA、またはその誘導体、変異体、断片、変種もしくはペプチド、および抗原、あるいはCyaAおよび薬剤学的に許容可能なtoll様受容体(TLR)リガンドを投与することを含む。
【0127】
投与のための組成物は、液体の溶液または懸濁液の注射液として調製できる;注射に先立ち液体に溶解または懸濁するのに適した固体の形状も調製することもできる。製剤は、乳化も可能であり、または組成物をリポソーム中にカプセル化することもできる。活性な免疫原性成分は、薬剤学的に許容可能でかつ活性成分と適合性の担体と混合されることが多い。「薬剤学的に許容可能な担体」という用語は、投与された対象にアレルギー反応、または他の副作用を引き起こさない担体を指している。好都合な薬剤学的に許容可能な担体には、例えば1種または複数の水、食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、ブドウ糖、グリセロール、エタノール、または同等物およびそれらの組合せが含まれる。これに加え必要に応じて、免疫修飾物質/製剤は、湿潤剤または乳化剤、pH緩衝薬、および/または製剤/免疫修飾物質の効果を増強するアジュバント等の補助的な物質を少量含むことができる。
【0128】
本発明の組成物は、非経口的に注射で、例えば、皮下、皮膚上、または筋肉内のいずれかに投与できる。好都合な他の投与法のさらなる剤形には、坐薬、および場合によっては、経口剤形、鼻腔内用製剤、またはエアゾールとして分布させるのに好都合な剤形が含まれる。坐薬には、従来の結合剤および担体、例えばポリアルキレングリコールまたはトリグリセリドを含む;このような坐薬は、0.5%〜10%の範囲で、好ましくは1%−2%範囲で活性成分を含む混合物から作られる。経口剤形は、例えば医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、澱粉、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウム等の通常使用される賦形剤を含む。これらの組成物は、溶液、懸濁液、錠剤、ピル、カプセル、遅延放出製剤または粉末の形態をとり、活性成分を10%〜95%、好ましくは25〜70%含む。
【0129】
本発明の組成物は、中性のまたは塩形態で免疫調節剤組成物に製剤化できる。薬剤学的に許容可能な塩類は、酸添加塩(ペプチドの遊離アミノ基で形成される)を含み、無機酸、例えば塩酸またはリン酸で形成されるか、または有機酸、例えば酢酸、蓚酸、酒石酸、マレイン酸等で形成される。遊離カルボキシル基で形成される塩類は、例えば、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウムまたは水酸化第2鉄等の無機塩基から、およびイソプロピルアミン、トリメチルアミン、2−エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどの有機塩基から誘導することもできる。
【0130】
組成物は、製剤の用量に適用可能な方法で、および予防的および/または治療的に効果が得られる量で投与できる。投与されるべき量は、例えば、個体の免疫系の抗炎症性サイトカインを合成する能力、または調節性T細胞を誘導する能力、および所望の防御の程度を含む、処置される対象に依存する。適切な用量範囲は、約0.1ng/g〜1000μg/gの好適な範囲でのワクチン接種当たり数百マイクログラムの活性成分のオーダー、例えば約0.1μg〜100mgの範囲である。初回投与および追加免疫注射に適切な投薬計画はまた変化し得るが、初回投与、それに続く接種または他の投与により特徴づけられる。投与されるべき必要な活性成分の正確な量は、実施者の判断に依存し、それぞれの対象に特有である。
【0131】
当業者にとっては、明白なことではあるが、CyaA組成物の治療的有効量は、とりわけ投与計画、投与される抗原の単位/用量、CyaAと他の治療薬との組合せ投与の有無、免疫状態、よび投与患者の健康状態、および特定のCyaA/抗原複合体の治療上の活性に依存する。
【0132】
組成物を、1回の投与スケジュールで与えるか、あるいは好ましくは複数回の投与スケジュールで与えることができる。投与の最初コースで1〜10の独立した用量を含むことができる複数回投与形式であり、次に引き続く時間間隔で、免疫応答に及ぼす効果の維持、または、増強に必要な別の用量が投与される、例えば、1〜4カ月時点で2回目の投与、必要に応じて数カ月後に引き続き(複数回)投与する。1〜5年間隔の定期的な、通常3年間隔の投与が、所望の予防レベルを維持するために望ましい。
【0133】
一連のワクチン接種を、例えば、接種間隔を3カ月、または、4カ月、または6カ月の間隔で行ってもよい。このようなシリーズでは、例えば全体で3回または4回または5回のワクチン接種が含まれる。乳児に投与するワクチン接種では、一連のワクチン接種は、例えば出生時、または誕生後の第1週以内に、次いで6、10および14週に投与してもよい。一連のワクチン接種は、出生時および誕生後の1、3、6カ月に投与してもよい。
【0134】
組成物を、1週間に複数回、例えば1週間に2回、毎週、1カ月当たり複数回、毎月、数週間あるいは数カ月当たり複数回、1年間、または数年間、治療的使用ために投与してもよい。治療的使用の組成物は、単独で、または自己抗原との組合せで活性成分を含むことができる。本治療には、同時に他の薬剤(同一の製剤で、または、別々に)の投与か、もしくは時間間隔をおいた投与を含むこともある。
【0135】
治療的有効用量は、投与経路および剤形によって変わることもある。個々の投与量は、対象の病状、年齢、体重、全身健康状態、性別、食事習慣、用量間隔、投与経路、排出速度、および薬剤の組合せによって調整することができる。有効量を含む任意の投薬形態が、十分に通常の実験の限度内である。本発明の組成物は、自己免疫疾患の治療に使用される薬剤を含む他の薬剤と共に投与することもできる。また組成物は、自己免疫疾患の他の治療に対して使用するものと同じ用量を用いて単独で投与することができる。「治療」という用語は、疾病もしくは疾患を伴う諸症状の緩和、または更なる進行もしくはそれら諸症状の悪化の停止、または疾病もしくは疾患の予防もしくは阻止を包含するものである。
【0136】
治療過程に次いで、in vitroの刺激、例えばLPSによる刺激のある場合およびない場合の免疫系細胞によるex vivoでのサイトカイン産生(血液試料から回収された)を調べることができる。分析は、細胞培養の通常の試薬を用い、抗体などを用いるサイトカインの定量で実施できる。これらの技術は、当業者には一般的に知られている。
【0137】
本発明は、細部にわたっては変更することができる前記の実施態様に限定されない。
【0138】
(参考文献)
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【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】PBSおよびKLHのみ、またはCyaAで免疫処置された後のマウスのリンパ節細胞によって産生されたIFN−γ、IL−4、IL−5、およびIL−10のレベルを示すグラフである。BALB/cマウスを、後肢足蹠s.c.において、PBSおよびKLH(5μg)のみ、またはCyaA(1μg)で免疫処置した。7日後にマウスを屠殺し、膝窩リンパ節細胞を調製し、KLH(2〜50μg/ml)、または培地のみで刺激した。3日後に、IFN−γ、IL−4、IL−5、およびIL−10に関して、ELISAによって上清を試験した。増殖は、4日目にH−チミジン取込みによってアッセイした。結果は、1グループ当たり5匹のマウスの平均(+SD)を表し、3回の実験を代表するものである。、P<0.05;***、P<0.001、KLH対KLH+CyaA。
【図2】CyaAの存在下にKLHで免疫処置されたマウスから調製されたT細胞系およびT細胞クローンによって産生されたIL−4、IL−5、IL−10、およびIFN−γを示すグラフである。A)CD4T細胞系は、KLHおよびCyaAで免疫処置された10匹のマウス個体のリンパ節から調製した。B)T細胞系7.2を限界希釈によってクローニングした。T細胞系またはT細胞クローンは、自家APCの存在下に、KLH(50μg/ml)で刺激し、3日後に上清中のサイトカイン濃度を試験した。IFN−γは、各T細胞クローンでバックグラウンドレベルであった。
【図3】後肢足蹠s.c.において、PBSおよびKLH(5μg)のみ、またはCyaA(1μg)で免疫処置され、さらに21日後にブーストされた後のマウスにおける、抗原特異的なIgG、すなわちIgG1およびIgG2aのレベルを示すグラフである。1回(A)または2回(B)の免疫処置を行った7日後に血清試料を採取し、KLH特異的なIgG、すなわちIgG1およびIgG2aの力価をELISAによって測定した。結果は、1グループ当たり5匹のマウスの平均(+SD)力価であり、2つの実験を代表するものである。***、P<0.001、KLH対KLH+CyaA。
【図4】LPS、CyaA、リポ多糖(LPS)およびCyaA、あるいは、ポリミキシンBの存在下または非存在下におけるCyaAと共にインキュベートされたマクロファージによって産生されたIL−10、IL−6、およびTNF−αのレベルを示すグラフである。CyaAは、LPSによって誘導される抗炎症性サイトカインを増大させ、マクロファージによる炎症誘発性サイトカインを抑制する。J774マクロファージ(1×10/ml)を、示されている濃度のLPS(0〜1000ng/ml)と共に、あるいは、ポリミキシンB(PB;10μg/ml)の存在下または非存在下において、CyaA(1μg/ml)と共にインキュベートした。上清を、示されている時間に採集し、IL−10、1L−6、およびTNF−αに関して免疫アッセイによって試験した。結果は、3つ組みアッセイの平均(+SD)であり、3回の実験を代表するものである。**、P<0.01;***、P<0.001、対CyaA;++、P<0.01、+++、P<0.001:同濃度のLPS単独に対するもの。
【図5】LPS、CyaA、LPSおよびCyaA、あるいはポリミキシンBの存在下または非存在下においてCyaAと共にインキュベートされた後の樹状細胞(DC)におけるIL−10、IL−6、TNF−α、およびIL−12p70のレベルを示すグラフである。CyaAは、LPSによって誘導される抗炎症性サイトカインを増大させ、LPSによって誘導される、DCからの炎症誘発性サイトカインを抑制する。マウス骨髄由来の未成熟DC(1×10/ml)を、示されている濃度のLPS(0〜1000ng/ml)と共に、あるいは、ポリミキシンB(PB;10μg/ml)の存在下または非存在下において、CyaA(1μg/ml)と共にインキュベートした。上清を、示されている時間に採集し、IL−10、1L−6、TNF−α、およびIL−12p70に関して免疫アッセイによって試験した。結果は、3つ組みアッセイの平均(±SD)であり、3回の実験を代表するものである。**、P<0.01;***、P<0.001、対CyaA;+、P<0.05;++、P<0.01;+++、P<0.01、同濃度のLPS単独に対するもの。
【図6】DCにおける、CD80、CD86、MHC−II、CD40、およびICAM−Iの発現を示す免疫蛍光グラフである。CyaAは、DCにおける、CD80、CD86、およびMHC−IIの発現を促進するが、CD40およびICAM−Iの発現を抑制する。DCを、ポリミキシンB(10μg/ml)の存在下におけるCyaA(1μg/ml)、LPS(1μg/ml)、CyaAおよびLPS、または培地のみで刺激した。24hのインキュベーションの後に、細胞を洗浄し、CD80、CD86、MHC−II、CD40、およびICAM−Iに特異的な抗体、またはアイソタイプが一致している対照で染色した。処理されたDC(黒線)の免疫蛍光分析の結果を、未処理のDC(灰色のヒストグラム)と比較して示す。プロフィールは、単一の実験のものが示されており、2回の別々の実験を代表するものである。
【図7】免疫処置されたTLR4欠損マウスのリンパ節細胞によるサイトカイン産生を示すグラフである。C3H/HeNマウスまたはC3H/HeJマウスの骨髄由来DC(1×10/ml)を、示されている濃度のLPS(0〜10ng/ml)と共に、あるいは、ポリミキシンB(PB;10μg/ml)の存在下または非存在下において、CyaA(1μg/ml)と共に培養した。上清を採集し、IL−10およびMIP1−a(4h)およびIL−12p70およびTNF−α(24h)に関して、免疫アッセイによって試験した。結果は、3つ組みアッセイの平均(±SD)であり、3回の実験を代表するものである。+++、P<0.01、対CyaA;P<0.001、同濃度のLPSのみに対するもの。
【図8】CyaAによって誘導されるDC活性化が、TLR4欠損マウスで変化していることを示す免疫蛍光グラフである。C3H/HeN(A)マウスまたはC3H/HeJ(B)マウスの骨髄由来DC(1×10/ml)を、CyaA(1μg/ml)と共に、単独で、またはポリミキシンB(PB;10μg/ml)もしくはLPS(10ng/ml)と併せて、あるいは培地のみで培養した。24hのインキュベーションの後に、細胞を洗浄し、CD80、CD86、MHC−II、CD40、およびICAM−Iに特異的な抗体、またはアイソタイプが一致している対照抗体で染色した。処理されたDC(黒線)の免疫蛍光分析を、未処理のDC(灰色のヒストグラム)と比較して示す。各ヒストグラムの右側の数は、処理された細胞の平均蛍光強度を示す。培地のみで処理された細胞の値が、各ケースにおける第1のヒストグラムの左側に示されている。プロフィールは、単一の実験のものが示されており、3回の実験を代表するものである。
【図9】A−CyaAおよびNA−CyaAのパルミトイル化状態を示すゲルイメージである。CyaA、およびCyaA+CyaCをそれぞれコードするプラスミドpJR1およびpJR2を保持する大腸菌XL1−Blueを、[14C(U)]パルミチン酸で補足された選択培地中で増殖させた。1mM IPTGで、15分間、タンパク質発現を誘導した。細菌をペレットにし、新しい培地で洗浄した後、7%SDS−PAGEゲルで分離し(A)、GelCode(登録商標)Blue試薬で可視化した後、放射線標識されたタンパク質を蛍光画像分析によって可視化した(B)。レーン1、NA−CyaA;レーン2、A−CyaA;レーン3、高純度に精製された組換えA−CyaA(放射線標識されていない)。250kdの分子量マーカーの位置が示されている。
【図10】様々な条件下で赤血球(RBC)が溶血した割合を示すグラフである。5×10RBC/ml、100μlを、示されている量(μg/ml)の非アシル化CyaA(NA−CyaA)またはアシル化CyaA(A−CyaA)で16h処理した。50lの上清を採集し、OD541の吸光度を測定し、溶血の割合を計算するのに用いた。結果は、Tukeyのポストテストを伴った、一元配置ANOVAによって比較した。**P<0.01:処理された試料対培地。結果は、3つ組で3回行われた代表的な実験の平均±SDである。
【図11】細胞溶解およびカスパーゼ−3活性化の誘導が、アデニル酸シクラーゼ活性および細胞内cAMP上昇に関連するが、アシル化には依存していないことを示すグラフである。(A)CyaAまたはCyaA誘導体の無細胞アデニル酸シクラーゼ活性。(B)CyaAまたはCyaA誘導体(10g/ml)に反応した、J774マクロファージにおける細胞内cAMP蓄積。(C)LDH放出アッセイによって測定された、10g/ml CyaAまたはCyaA誘導体に反応したJ774細胞の溶解。(D)相対蛍光単位(RFU)として経時的に表された、J774マクロファージにおける、CyaAまたはCyaA誘導体(10g/ml)によって誘導されたカスパーゼ−3活性化。結果は、少なくとも2回反復された実験を代表するものである。P<0.05、**P<0.01、培地対照に対するもの。
【図12】アシル化CyaAおよび非アシル化CyaAによって誘導される細胞内cAMP蓄積、カスパーゼ−3活性化、および細胞溶解に対する、毒素濃度の影響を示すグラフである。(A)A−CyaAまたはNA−CyaAの濃度の増大に反応した、J774マクロファージにおける細胞内cAMP蓄積。(B)相対蛍光単位(RFU)として経時的に表された、J774マクロファージにおける、A−CyaAまたはNA−CyaA(0.3〜10g/ml)によって誘導されたカスパーゼ−3活性化。(C)LDH放出アッセイによって測定された、ポリミキシンBの非存在下(C)または存在下(D)でA−CyaA、NA−CyaA(0.3〜10g/ml)、LPS(0.2μg/ml)、または培地(Med)のみに反応したJ774細胞の溶解。結果は、少なくとも2回反復された実験を代表するものである。***P<0.01、培地対照に対するもの。
【図13】CyaAによって誘導される、マクロファージの形態変化にアシル化が必要であることを示すグラフである。J774マクロファージは、未処理(A)とするか、あるいは、3g/ml(B)、5g/ml(C)、もしくは10g/ml(D)のA−CyaA、または1Mシクロヘキシミド(E)、または、3g/ml(F)、5g/ml(G)、または10g/ml(H)のNA−CyaAで6h処理した。A−CyaAおよびシクロヘキシミドで処理された後の形態は、未処理またはNA−CyaA処理の細胞の正常な形態と比較して変化していた。
【図14】マクロファージによるサイトカイン産生の調節にはCyaAのアシル化が必要でないことを示すグラフである。J774マクロファージを、10g/mlポリミキシンBの存在下または非存在下に、A−CyaAまたはNA−CyaA(1g/ml)と共にインキュベートした。図に示されている通り、2h後に10ng/mlのLPSを添加した。さらに4hのインキュベーションの後、上清を採集し、IL−10およびTNF− 濃度をELISAによって決定した。結果は、Tukeyのポストテストを伴った、一元配置ANOVAによって比較した。***P<0.001:CyaAおよびLPS対LPS。結果は、3つ組みアッセイの平均±SDであり、3回の実験を代表するものである。
【図15】様々な濃度のA−CyaAおよびNA−CyaAによる、マクロファージサイトカイン産生の調節を示すグラフである。示されている濃度(g/ml)のA−CyaAおよびNA−CyaAでJ774マクロファージを処理し、これに伴って、2h後に10ng/ml LPSの添加を行うか、あるいは無添加とした。さらに4hのインキュベーションの後、上清を採集し、IL−10およびTNF−濃度をELISAによって決定した。結果は、Tukeyのポストテストを伴った、一元配置ANOVAによって比較した。P<0.05、**P<0.01、***P<0.001:CyaAおよびLPS対LPS。+P<0.05、++P<0.01、+++P<0.001:A−CyaA対、同濃度のNA−CyaA。結果は、3つ組で2回行われた代表的な実験の平均±SDである。
【図16】CpG−ODNによって刺激された、DCからのサイトカインおよびケモカインの放出を、非アシル化CyaAが調節することを示すグラフである。C3H/HeJマウスのDCを、1g/ml A−CyaAまたはNA−CyaAと共に2hインキュベートし、その後、10g/ml CpG−ODNを添加した。上清におけるIL−10、TNF−、およびCCL3の存在を4h後に、IL−12 p70を24h後に試験した。結果は、Tukeyのポストテストを伴った、一元配置ANOVAによって比較した。P<0.05、**P<0.01、P<0.001:CpG−ODN対CyaAおよびCpG−ODN。結果は、3つ組で2回行われた代表的な実験の平均±SDである。
【図17】CyaAによって誘導されるマクロファージ活性化の調節が、CD11bとの相互作用に依存していることを示すグラフである。J774マクロファージを、1μg/ml A−CyaAまたはNA−CyaAと共に2hインキュベートし、その後、10g/ml CpG−ODNを添加した。細胞を10g/ml抗CD11bまたはアイソタイプ対照抗体と共にインキュベートし、その後、CyaAを添加した。結果は、Tukeyのポストテストを伴った、一元配置ANOVAによって比較した。P<0.05、**P<0.01、***P<0.001:抗CD11b対、対照抗体。+++P<0.001:CpG−ODN+毒素対CpGのみ。結果は、3つ組で2回行われた代表的な実験の平均±SDである。
【図18】CyaAによる、DC成熟の調節には、アシル化が必須でないことを示すグラフである。BALB/cマウスのDCを、10g/mlポリミキシンB(PB)の存在下または非存在下に、1g/ml NA−CyaAまたはA−CyaAで処理した。2h後に、1g/ml LPSまたは培地のみを添加した。24h後に、細胞を採集し、ビオチン結合の抗CD11cハムスターIgG、およびストレプトアビジン−PerCP、またはアイソタイプ対照で標識した。細胞は、FITCまたはフィコエリトリンで標識された抗CD80、抗CD86、抗MHCクラスII、抗CD40、もしくは抗ICAM−1、または適切なアイソタイプ対照抗体で染色した。免疫蛍光分析の結果は、処理されたDC(黒線)を、未処理のDC(黒で塗りつぶされたヒストグラム)と比較して示されており、2回の実験を代表するものである。
【図19】NA−CyaAが、A−CyaAと同程度に効果的なアジュバントであり、Th2/Tr1型の反応をin vivoで選択的に促進することを示すグラフである。BALB/cマウスを、足蹠において、PBSおよびKLHのみ、またはNA−CyaAもしくはA−CyaAで免疫処置した。7日後に、膝窩リンパ節懸濁液を調製し、KLH特異的サイトカインの放出(A)および増殖(B)を測定した。血清を、KLH特異的なIgG、すなわちIgG1およびIgG2aに関して、ELISAによって試験し、最終力価(C)として表した。結果は、試料を三つ組で試験した、5匹のマウスの平均±SDであり、2回の実験を代表するものである。
【図20】多発性硬化症のマウスモデル系である実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)における疾病進行に対する、CyaAと共に行ったミエリンオリゴデンドロサイト(MOG)ペプチドによる免疫処置の効果を示すグラフである。マウスを、リン酸緩衝生理食塩水中のMOGペプチド(残基35〜55)50μgおよびCyaA 1.0μgで、皮下に(s.c.)免疫処置した。21日後に、これを反復した。対照マウスには、MOGペプチドまたは食塩水のみを投与した。2回目の免疫処置の7日後に、1mgの結核菌(Mycobacteria tuberculosis)を補った完全フロイントアジュバント中に乳化させたMOGペプチド150μgをs.c.投与し、500ngの百日咳毒素を腹腔内(i.p)注射することによってEAEを誘導し、その2日後に、500ngの百日咳毒素の2回目のi.p.注射を行った。EAEの臨床徴候に関して、マウスの評価を毎日行い、以下の通りにスコアを与えた。すなわち、1=尾の麻痺、2=不安定な歩行、3=後肢の衰弱、4=後肢の麻痺、5=後肢および前肢の完全な麻痺、6=死亡である。疾患指数は、毎日の平均疾患スコアをすべて加算し、開始の平均日数で割り、100をかけることによって計算した。
【図21】CyaAと共に行ったミエリンオリゴデンドロサイト(MOG)ペプチドによる免疫処置の、EAEの平均疾患スコアに対する効果を経時的に示すグラフである。
【図22】EAEを誘導した(無処置)後、あるいはミエリンオリゴデンドロサイトペプチド(MOG)またはMOGペプチド+CyaA(MOG+CyaA)で免疫処置した後のマウス脊髄の組織病理学切片の図である。EAEを誘導し、図16における記載の通りにマウスを免疫処置し、EAE誘導の19〜23日後に、マウス脊髄切片を摘出し、ヘマトイリン(haematoylin)およびエオシンで染色した。無処置マウスおよびMOGで免疫処置されたマウスでは、重度のEAEが誘導され、顕著な単核細胞浸潤を伴った。これは、MOGおよびCyaAで免疫処置されたマウスでは、かなり軽減されていた。
【図23】pNM2(pQE80+TMCyaA+CyaC)用のプラスミド発現ベクターの図である。
【図24】pJR2(pQE80+CyaA+CyaC)用のプラスミド発現ベクターの図である。
【図25】pJR1(pQE80+CyaA)用のプラスミド発現ベクターの図である。
【図26】pArB22(pQE80+TMCyaA)用のプラスミド発現ベクターの図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アデニル酸シクラーゼ毒素(CyaA)、またはその誘導体、変異体、断片、変種もしくはペプチドを含む薬剤の、炎症性および/または免疫介在性の障害を治療および/または予防するための使用。
【請求項2】
アデニル酸シクラーゼ毒素(CyaA)、またはその誘導体、変異体、断片、変種もしくはペプチドを含む薬剤の、免疫介在性障害を治療および/または予防するための使用。
【請求項3】
アデニル酸シクラーゼ毒素(CyaA)、またはその誘導体、変異体、断片、変種もしくはペプチドを含む薬剤の、自己免疫疾患を治療および/または予防するための使用。
【請求項4】
前記薬剤がアデニル酸CyaA、またはその誘導体、変異体、断片、変種もしくはペプチド、あるいはこれらの物質によって活性化された細胞の生成物を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記アデニル酸シクラーゼ毒素(CyaA)が、自己抗原もしくは外来抗原、またはその断片、変異体、変種もしくはペプチドと併用される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記自己抗原が、グルタミン酸デカルボキシラーゼ65(GAD65)、天然DNA、ミエリン塩基性タンパク質、ミエリンプロテオリピドタンパク質、アセチルコリン受容体コンポーネント、チログロブリン、甲状腺刺激ホルモン(TSH)受容体、スギ花粉抗原、ブタ草花粉抗原、ライ麦草花粉抗原、動物のチリダニ抗原およびネコ抗原、組織適合抗原、移植拒絶に関与する抗原、ならびに改変ペプチドリガンドのうちのいずれか1つまたは複数から選択される、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
前記移植拒絶に関与する抗原が、移植片レシピエントの心臓、肺、肝臓、膵臓、腎臓に移植する移植片、および神経移植コンポーネントの抗原成分を含む、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
前記自己抗原が、ミエリンタンパク質、ベータアミロイドタンパク質、アミロイド前駆体タンパク質、コラーゲン、およびこれらのペプチドのうちのいずれか1つまたは複数から選択される、請求項5〜7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
前記ミエリンタンパク質が、ミエリン塩基性タンパク質またはそのペプチドである、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
前記ミエリン塩基性タンパク質が、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)合成ペプチド、またはその断片、変異体もしくは変種である、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
前記ミエリン塩基性タンパク質がMOGペプチド(35〜55)である、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
前記アデニル酸シクラーゼ毒素(CyaA)が、百日咳菌、気管支敗血症菌、またはパラ百日咳菌由来であるか、あるいは他の細菌由来の関連分子である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
前記薬剤が炎症性サイトカイン産生を調節する、請求項1〜12のいずれか一項に記載の使用。
【請求項14】
先天免疫系の細胞に対するCyaAの前記免疫調節効果が、Toll様受容体リガンドによる同時活性化に依存する、請求項1〜13のいずれか一項に記載の使用。
【請求項15】
前記Toll様受容体リガンドが、LPSであるか、あるいは、CpGモチーフ、dsRNA、ポリ(I:C)、およびリポペプチドPam3Cysのいずれか1つまたは複数から選択された別のToll様受容体リガンドである、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
CyaAが、マクロファージおよび樹状細胞によるIL−10およびIL−6の産生を促進する、請求項1〜15のいずれか一項に記載の使用。
【請求項17】
CyaAが、LPSと相乗的に作用して、マクロファージおよび樹状細胞によるIL−10およびIL−6の産生を促進する、請求項1〜16のいずれか一項に記載の使用。
【請求項18】
CyaAが、炎症性サイトカイン、炎症性ケモカイン、または他の炎症仲介物質を抑制する、請求項1〜17のいずれか一項に記載の使用。
【請求項19】
前記炎症性サイトカインが、IL−12またはTNF−α、IFN−γ、IL−1、IL−23、および1L−27のいずれか1つまたは複数から選択される、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
前記炎症ケモカインが、マクロファージ炎症性タンパク質1αまたはマクロファージ炎症タンパク質1βである、請求項18に記載の使用。
【請求項21】
CyaAが、TLR−リガンドによる同時活性化に続いて、樹状細胞の成熟を促進する、請求項1〜20のいずれか一項に記載の使用。
【請求項22】
CyaAが、樹状細胞によるCD80発現を促進する、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
CyaAが、TLRリガンドで誘導された樹状細胞の活性化を抑制する、請求項1〜22のいずれか一項に記載の使用。
【請求項24】
CyaAが、CD40およびICAM−1の発現を抑制する、請求項23に記載の使用。
【請求項25】
CyaAが、同時投与された抗原に対するTh2細胞またはTr細胞の誘導を促進するアジュバントとしてin vivoで作用する、請求項1〜24のいずれか一項に記載の使用。
【請求項26】
前記同時投与された抗原が、自己抗原または外来抗原を含む、請求項25に記載の使用。
【請求項27】
CyaAが、同時投与された抗原に対するIgG1抗体を促進するアジュバントとしてin vivoで作用する、請求項1〜26のいずれか一項に記載の使用。
【請求項28】
前記同時投与された抗原が、自己抗原または外来抗原を含む、請求項27に記載の使用。
【請求項29】
前記CyaAが、非パルミトイル化形態または非アシル化形態で存在する、請求項1〜28のいずれか一項に記載の使用。
【請求項30】
前記CyaAがエンドトキシンを実質的に含まない、請求項1〜29のいずれか一項に記載の使用。
【請求項31】
前記CyaAが、免疫調節物質、アジュバント、免疫療法または抗炎症性薬剤の形態にある、請求項1〜30のいずれか一項に記載の使用。
【請求項32】
前記薬剤が、感染または外傷によって誘導された炎症性サイトカイン産生を調節する、請求項1〜31のいずれか一項に記載の使用。
【請求項33】
前記障害が、感染、外傷、または損傷によって誘導された敗血症または急性炎症である、請求項1〜32のいずれか一項に記載の使用。
【請求項34】
前記障害が、クローン病、炎症性腸疾患、多発性硬化症、1型糖尿病、関節リウマチ、および乾癬のうちのいずれか1つまたは複数から選択される、請求項1〜33のいずれか一項に記載の使用。
【請求項35】
前記障害が、喘息またはアトピー性疾患である、請求項1〜34のいずれか一項に記載の使用。
【請求項36】
前記薬剤が、経口投与用、鼻腔内投与用、静脈内投与用、皮内投与用、皮下投与用、または筋肉内投与用の形態にある、請求項1〜35のいずれか一項に記載の使用。
【請求項37】
前記薬剤の反復投与を含む、請求項1〜36のいずれか一項に記載の使用。
【請求項38】
CyaA、またはその誘導体、変異体、断片、変種もしくはペプチドを、抗原と併せて含み、前記抗原が、自己抗原および外来抗原から選択される、製品。
【請求項39】
前記CyaAが、その誘導体、変異体、断片、変種もしくはペプチド、またはこれらの物質によって活性化された細胞の生成物を含む、請求項38に記載の製品。
【請求項40】
前記自己抗原が、グルタミン酸デカルボキシラーゼ65(GAD65)、天然DNA、ミエリン塩基性タンパク質、ミエリンプロテオリピドタンパク質、アセチルコリン受容体コンポーネント、チログロブリン、甲状腺刺激ホルモン(TSH)受容体、スギ花粉抗原、ブタ草花粉抗原、ライ麦草花粉抗原、動物のチリダニ抗原およびネコ抗原、組織適合抗原、移植拒絶に関与する抗原、ならびに改変ペプチドリガンドのうちのいずれか1つまたは複数から選択される、請求項38または39に記載の製品。
【請求項41】
前記移植拒絶に関与する抗原が、移植片レシピエントの心臓、肺、肝臓、膵臓、腎臓に移植する移植片、および神経移植コンポーネントの抗原成分を含む、請求項40に記載の製品。
【請求項42】
前記自己抗原が、ミエリンタンパク質、ベータアミロイドタンパク質、アミロイド前駆体タンパク質、コラーゲン、およびこれらのペプチドのうちのいずれか1つまたは複数から選択される、請求項38〜41のいずれか一項に記載の製品。
【請求項43】
前記ミエリンタンパク質が、ミエリン塩基性タンパク質またはそのペプチドである、請求項42に記載の製品。
【請求項44】
前記ミエリン塩基性タンパク質が、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質合成ペプチドである、請求項43に記載の製品。
【請求項45】
前記ミエリン塩基性タンパク質がMOGペプチド(35〜55)である、請求項44に記載の製品。
【請求項46】
CyaA、またはその誘導体、変異体、断片、変種もしくはペプチドを含む医薬組成物。
【請求項47】
CyaA、またはその誘導体、変異体、断片、変種もしくはペプチドを、自己抗原または外来抗原による免疫処置のためのアジュバントとして含む医薬組成物。
【請求項48】
CyaA、またはその誘導体、変異体、断片、変種もしくはペプチドを、抗原と併せて含み、前記抗原が自己抗原および外来抗原から選択される、医薬組成物。
【請求項49】
前記CyaAが、その誘導体、変異体、断片、変種もしくはペプチド、またはこれらの物質によって活性化された細胞の生成物を含む、請求項46〜48のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項50】
前記自己抗原が、グルタミン酸デカルボキシラーゼ65(GAD65)、天然DNA、ミエリン塩基性タンパク質、ミエリンプロテオリピドタンパク質、アセチルコリン受容体コンポーネント、チログロブリン、甲状腺刺激ホルモン(TSH)受容体、スギ花粉抗原、ブタ草花粉抗原、ライ麦草花粉抗原、チリダニ抗原およびネコ抗原、組織適合抗原、移植拒絶に関与する抗原、ならびに改変ペプチドリガンドのうちのいずれか1つまたは複数から選択される、請求項46〜49のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項51】
前記移植拒絶に関与する抗原が、移植片レシピエントの心臓、肺、肝臓、膵臓、腎臓に移植する移植片、および神経移植コンポーネントの抗原成分を含む、請求項50に記載の医薬組成物。
【請求項52】
前記自己抗原が、ミエリンタンパク質、ベータアミロイドタンパク質、アミロイド前駆体タンパク質、コラーゲン、およびこれらのペプチドのうちのいずれか1つまたは複数から選択される、請求項46〜51のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項53】
前記ミエリンタンパク質が、ミエリン塩基性タンパク質またはそのペプチドである、請求項52に記載の医薬組成物。
【請求項54】
前記ミエリン塩基性タンパク質がミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質合成ペプチドである、請求項53に記載の医薬組成物。
【請求項55】
前記ミエリン塩基性タンパク質がMOGペプチド(35〜55)である、請求項54に記載の医薬組成物。
【請求項56】
非アシル化CyaA、またはその誘導体、変異体、断片、変種もしくはペプチドを含む医薬組成物。
【請求項57】
アデニル酸シクラーゼ毒素(CyaA)を含む免疫調節物質。
【請求項58】
免疫調節効果を有する組換え非アシル化CyaA。
【請求項59】
アデニル酸シクラーゼ毒素(CyaA)、またはその誘導体、変異体、断片、変種もしくはペプチドを含むワクチン。
【請求項60】
CyaA、またはその誘導体、変異体、断片、変種もしくはペプチドと、抗原とを含む、請求項59に記載のワクチン。
【請求項61】
CyaAおよび抗原が重量比0.01:1から100:1までの範囲で存在する、請求項60に記載のワクチン。
【請求項62】
CyaAおよび抗原が1:10から10:1までのモル比で存在する、請求項60に記載のワクチン。
【請求項63】
アデニル酸シクラーゼ毒素(CyaA)、またはその誘導体、変異体、断片、変種もしくはペプチドに対する抗体。
【請求項64】
配列番号3または4のいずれか1つまたは複数から選択されたアミノ酸配列。
【請求項65】
炎症性および/または免疫介在性の障害を治療および/または予防する方法であって、アデニル酸シクラーゼ毒素(CyaA)、またはその誘導体、変異体、断片、変種もしくはペプチドを含む薬剤を投与するステップを含む方法。
【請求項66】
免疫介在性障害の治療および/または予防する方法であって、アデニル酸シクラーゼ毒素(CyaA)、またはその誘導体、変異体、断片、変種もしくはペプチドを含む薬剤を投与するステップを含む方法。
【請求項67】
自己免疫疾患の治療および/または予防のための方法であって、アデニル酸シクラーゼ毒素(CyaA)、またはその誘導体、変異体、断片、変種もしくはペプチドを含む薬剤を投与するステップを含む方法。
【請求項68】
前記薬剤がアデニル酸CyaA、またはその誘導体、変異体、断片、変種もしくはペプチド、あるいはこれらの物質によって活性化された細胞の生成物を含む、請求項65〜67のいずれか一項に記載の方法。
【請求項69】
前記アデニル酸シクラーゼ毒素(CyaA)が、自己抗原もしくは外来抗原、またはその断片、変異体、変種もしくはペプチドと併用される、請求項65〜68のいずれか一項に記載の方法。
【請求項70】
前記自己抗原が、グルタミン酸デカルボキシラーゼ65(GAD65)、天然DNA、ミエリン塩基性タンパク質、ミエリンプロテオリピドタンパク質、アセチルコリン受容体コンポーネント、チログロブリン、甲状腺刺激ホルモン(TSH)受容体、スギ花粉抗原、ブタ草花粉抗原、ライ麦草花粉抗原、動物のチリダニ抗原およびネコ抗原、組織適合抗原、移植拒絶に関与する抗原、ならびに改変ペプチドリガンドのうちのいずれか1つまたは複数から選択される、請求項69に記載の方法。
【請求項71】
前記移植拒絶に関与する抗原が、移植片レシピエントの心臓、肺、肝臓、膵臓、腎臓に移植する移植片、および神経移植コンポーネントの抗原成分を含む、請求項70に記載の方法。
【請求項72】
前記自己抗原が、ミエリンタンパク質、ベータアミロイドタンパク質、アミロイド前駆体タンパク質、コラーゲン、およびこれらのペプチドのうちのいずれか1つまたは複数から選択される、請求項69〜71のいずれか一項に記載の方法。
【請求項73】
前記ミエリンタンパク質が、ミエリン塩基性タンパク質またはそのペプチドである、請求項72に記載の方法。
【請求項74】
前記ミエリン塩基性タンパク質が、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)合成ペプチド、またはその断片、変異体もしくは変種である、請求項73に記載の方法。
【請求項75】
前記ミエリン塩基性タンパク質がMOGペプチド(35〜55)である、請求項74に記載の方法。
【請求項76】
前記アデニル酸シクラーゼ毒素(CyaA)が、百日咳菌、気管支敗血症菌、またはパラ百日咳菌由来であるか、あるいは他の細菌由来の関連分子である、請求項65〜75のいずれか一項に記載の方法。
【請求項77】
前記薬剤が炎症性サイトカイン産生を調節する、請求項65〜76のいずれか一項に記載の方法。
【請求項78】
先天免疫系の細胞に対するCyaAの前記免疫調節効果が、Toll様受容体リガンドによる同時活性化に依存する、請求項65〜77のいずれか一項に記載の方法。
【請求項79】
前記Toll様受容体リガンドが、LPS、または、CpGモチーフ、dsRNA、ポリ(I:C)、およびリポペプチドPam3Cysのいずれか1つまたは複数から選択された別のToll様受容体リガンドである、請求項78に記載の方法。
【請求項80】
CyaAが、マクロファージおよび樹状細胞によるIL−10およびIL−6の産生を促進する、請求項65〜79のいずれか一項に記載の方法。
【請求項81】
CyaAが、LPSと相乗的に作用して、マクロファージおよび樹状細胞によるIL−10およびIL−6の産生を促進する、請求項65〜80のいずれか一項に記載の方法。
【請求項82】
CyaAが、炎症性サイトカイン、炎症性ケモカイン、または他の炎症仲介物質を抑制する、請求項65〜81のいずれか一項に記載の方法。
【請求項83】
前記炎症性サイトカインが、IL−12またはTNF−α、IFN−γ、IL−1、IL−23、および1L−27のいずれか1つまたは複数から選択される、請求項82に記載の方法。
【請求項84】
前記炎症ケモカインが、マクロファージ炎症性タンパク質−1αまたはマクロファージ炎症タンパク質−1βである、請求項82に記載の方法。
【請求項85】
CyaAが、TLR−リガンドによる同時活性化に続いて、樹状細胞の成熟を促進する、請求項65〜84のいずれか一項に記載の方法。
【請求項86】
CyaAが、樹状細胞によるCD80発現を促進する、請求項85に記載の方法。
【請求項87】
CyaAが、TLRリガンドで誘導された、樹状細胞の活性化を抑制する、請求項65〜86のいずれか一項に記載の方法。
【請求項88】
CyaAが、CD40およびICAM−1の発現を抑制する、請求項87に記載の方法。
【請求項89】
CyaAが、同時投与された抗原に対するTh2細胞またはTr細胞の誘導を促進するアジュバントとしてin vivoで作用する、請求項65〜88のいずれか一項に記載の方法。
【請求項90】
前記同時投与された抗原が、自己抗原または外来抗原を含む、請求項89に記載の方法。
【請求項91】
CyaAが、同時投与された抗原に対するIgG1抗体を促進するアジュバントとしてin vivoで作用する、請求項65〜90のいずれか一項に記載の方法。
【請求項92】
前記同時投与された抗原が、自己抗原または外来抗原を含む、請求項91に記載の方法。
【請求項93】
前記CyaAが、非パルミトイル化形態または非アシル化形態で存在する、請求項65〜92のいずれか一項に記載の方法。
【請求項94】
前記CyaAがエンドトキシンを実質的に含まない、請求項65〜93のいずれか一項に記載の方法。
【請求項95】
前記CyaAが、免疫調節物質、アジュバント、免疫療法または抗炎症性薬剤の形態にある、請求項65〜94のいずれか一項に記載の方法。
【請求項96】
前記薬剤が、感染または外傷によって誘導された炎症性サイトカイン産生を調節する、請求項65〜95のいずれか一項に記載の方法。
【請求項97】
前記障害が、感染、外傷、または損傷によって誘導された敗血症または急性炎症である、請求項65〜96のいずれか一項に記載の方法。
【請求項98】
前記障害が、クローン病、炎症性腸疾患、多発性硬化症、1型糖尿病、関節リウマチ、および乾癬のうちのいずれか1つまたは複数から選択される、請求項65〜97のいずれか一項に記載の方法。
【請求項99】
前記障害が、喘息またはアトピー性疾患である、請求項65〜98のいずれか一項に記載の方法。
【請求項100】
前記薬剤が、経口投与用、鼻腔内投与用、静脈内投与用、皮内投与用、皮下投与用、または筋肉内投与用の形態にある、請求項65〜99のいずれか一項に記載の方法。
【請求項101】
前記薬剤の反復投与を含む、請求項65〜100のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公表番号】特表2008−500271(P2008−500271A)
【公表日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−534904(P2006−534904)
【出願日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【国際出願番号】PCT/IE2004/000140
【国際公開番号】WO2005/035557
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(599049945)ザ・プロウボウスト・フェロウズ・アンド・スカラーズ・オブ・ザ・カレッジ・オブ・ザ・ホリー・アンド・アンデバイデッド・トリニティ・オブ・クイーン・エリザベス・ニア・ダブリン (9)
【氏名又は名称原語表記】The Provost Fellows and Scholars of the College of the Holy and Undivided Trinity of Queen Elizabeth Near Dublin
【Fターム(参考)】