説明

免疫分析方法及びバイオチップ

【課題】 希釈工程を省略して一連の分析工程を簡略化することができ、正確かつ迅速な分析を実現することができる免疫分析方法及びこの免疫分析方法を、小型で安価に実現することができるバイオチップを提供することを目的とする。
【解決手段】 被検物質を含むサンプルと、前記被検物質と反応する標識物質と、該標識物質と競合的に前記被検物質と反応する非標識物質と、固定化抗原/抗体とを、任意の順序で混合して反応させ、前記固定化抗原/抗体との反応生成物と、固定化抗原/抗体との未反応物とを分離し、該分離された前記反応生成物又は未反応物のいずれかを分析することにより被検物質を検出する免疫分析方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫分析方法及びバイオチップに関し、より詳細には、高濃度で存在する被検物質を検出するための免疫分析方法及びこの方法を実施するためのバイオチップに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、高濃度又は高分子量の被検物を定量するためには、その被検物の操作性を考慮し、また、適用する検出器の特性などによって、被検物の検出値を適切に検出レンジに収めるために、被検物を含むサンプルを、適当な倍率で希釈する。これにより、正確な測定を行うことができる。
【0003】
例えば、高濃度の生物学的サンプルを免疫測定法で測定するためには、まずはじめに、被検物を含むサンプルを任意の倍率に希釈し、次いで、その希釈物を免疫反応に付し、比色定量法などによる測定し、その結果から、希釈倍率等を考慮して、サンプルに含まれていた被検物を算出する。
【0004】
しかし、サンプルの希釈は、近年の種々の測定系での態様、例えば、極微量のサンプルを、小さな基板上で混合し、反応させるなどして検出等を行うバイオチップを用いる測定系においては、必しも容易に実現できない場合がある。つまり、数センチの大きさの基板において、所定量の希釈液を正確に加え、短時間に均一にサンプルと混合することは困難である。また、希釈工程を行うことに伴って、バイオチップ上に、希釈混合槽、希釈液の導入路などを追加形成しなければならず、限られたサイズで一連工程の完結を実現するバイオチップでは、希釈工程を組み合わせることは困難である。
【0005】
一方、高濃度又は高分子量の被検物を希釈することなく免疫測定法で定量等する方法が提案されている(例えば、特許文献1)。
この方法では、例えば、被検物として高濃度の抗原を測定するために、この抗原に対して低い親和性を有する抗体を標識して用いる。そして、これら抗原及び抗体の間で免疫反応を行わせ、標識抗体と結合した抗原を測定することにより、得られた標識抗体の測定結果に基づいて、本来の被検物質濃度を算出することができる。
【特許文献1】特開2002−40024号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、この方法によれば、抗原に対して低い親和性を有する抗体を準備するために、まずマウスを免疫化し、次いで、クローニングするなどによる相当に煩雑な作業を伴う。しかも、このような煩雑な工程には、通常、数ヶ月もの時間を要する。
また、抗体は、クローニング等により実際に得られた抗体からスクリーニングして用いるため、所望の親和性を自由に設定するには至っていない。
【0007】
本発明は、上記課題を鑑みなされたものであって、希釈工程を省略して一連の分析工程を簡略化することができ、正確かつ迅速な分析を実現することができる免疫分析方法を提供することを目的とし、さらにこの免疫分析方法を、小型で安価に実現することができるバイオチップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の免疫分析方法は、被検物質を含むサンプルと、前記被検物質と反応する標識物質と、該標識物質と競合的に前記被検物質と反応する非標識物質と、固定化抗原/抗体とを、任意の順序で混合して反応させ、前記固定化抗原/抗体との反応生成物と、固定化抗原/抗体との未反応物とを分離し、該分離された前記反応生成物又は未反応物のいずれかにおける標識物質を分析することにより被検物質を検出することを特徴とする。
【0009】
このように非標識物質を標識物質と組み合わせて用いることにより、被検物質に反応する標識物質の一部が非標識物質に置き換えられることになるため、被検物質の測定濃度を見かけ上低減させることができる。そして、これは被検物質を希釈した場合と同様の作用を示すため、従来必要とされていた稀釈工程を省略することができる。これにより一連の分析工程を簡略化することができ、正確かつ迅速な分析を実現することが可能となる。
【0010】
この免疫分析方法においては、標識物質と非標識物質とを、所定比率の混合物として用いることが好ましい。
これにより、被検物質の見かけ上の測定結果から、正確に被検物質の定量を実現することができるとともに、用いる測定系の種類及び性能等に応じて、測定値を適切な検出レンジに収めることが可能となり、より精度の高い被検物質の定量を行うことができる。
【0011】
また、標識物質及び非標識物質を、被検物質に対して過剰量添加することが好ましい。
これによって、被検物質をもれなく確実に抗体と結合させることができ、非常に精度の高い被検物質の分析が可能になる。しかも、被検物質と反応しなかった残余の標識物質又は非標識物質は、固定化抗原/抗体を用いることによって、確実に分離することができるため、より高精度な分析を実現することができる。
【0012】
さらに、固定化抗原/抗体との反応生成物が、固定化抗原/抗体と標識物質又は非標識物質とが抗原抗体反応によって結合したものであるか、固定化抗原/抗体と被検物質とが抗原抗体反応によって結合し、さらに該被検物質に抗原抗体反応によって標識物質又は非標識物質が結合したものであることが好ましい。
これにより、被検物質の定量のために機能しない標識物質の誤検出を防止することができる。
【0013】
また、被検物質の検出を電気化学的又は光学的に行うことが好ましい。
これにより、本発明の免疫分析方法に対して特別な設定や工程変更を行うことなく、従来から当該分野で用いられている装置等をそのまま利用して、分析することができる。特に電気化学的に被検物質の検出を行う場合には、光学的に検出を行う場合に比較して、簡便、小型かつ安価な測定装置を利用することが可能となる。
【0014】
さらに、分離された反応生成物を、電子伝達メディエータ又は発色物質をさらに反応させて分析することが好ましい。
これによって、光学的又は電気化学的手法により、被検物質のより正確な分析を行うことができる。
【0015】
本発明の免疫分析方法の一実施形態では、被検物質を含むサンプル、標識物質及び非標識物質とを予め混合して、反応させ、次いで、これらの混合物を固定化抗原/抗体と混合して、被検物質と反応していない標識物質及び非標識物質を固定化抗原/抗体と反応させ、得られた固定化抗原/抗体との反応生成物と、固定化抗原/抗体との未反応物とを分離し、該分離された前記反応生成物又は未反応物のいずれかを分析することにより、被検物質を検出することが好ましい。
【0016】
この方法においては、(1)被検物質が抗原、標識物質及び非標識物質が抗体であり、固定化抗原/抗体が抗イディオタイプ抗体又は標識物質及び非標識物質の抗体に対する抗原であるか、あるいは(2)被検物質が抗体、標識物質及び非標識物質が抗原又は抗イディオタイプ抗体であり、固定化抗原/抗体が標識物質及び非標識物質の抗原に対する抗体であることが好ましい。
このような組み合わせを選択することにより、免疫分析を確実に行うことができる。
【0017】
また、本発明の免疫分析方法の別の実施形態では、被検物質を含むサンプルと、固定化抗原/抗体とを予め混合して、前記被検物質と固定化抗原/抗体とを反応させ、次いで、これらの混合物を、標識物質及び非標識物質と混合し、得られた固定化抗原/抗体との反応生成物と、固定化抗原/抗体との未反応物とを分離し、該分離された前記反応生成物又は未反応物のいずれかを分析することにより、被検物質を検出することが好ましい。
【0018】
この方法においては、(1)被検物質が抗原、標識物質及び非標識物質が抗体であり、固定化抗原/抗体が被検物質の抗原に対する抗体であるか、あるいは(2)被検物質が抗体、標識物質及び非標識物質が抗原であり、固定化抗原/抗体が抗イディオタイプ抗体又は被検物質の抗体に対する抗原であることが好ましい。
このような組み合わせを選択することにより、免疫分析を確実に行うことができる。
【0019】
さらに本発明のバイオチップは、標識物質及び非標識物質が保持された保持槽と、抗原又は抗体を固定するための固定手段が収容された反応槽とを含むことを特徴とする。
このように、保持槽を設けることにより、標識物質と非標識物質との組み合わせを確保することができ、上述した免疫分析方法を、容易に実現することができる。また、標識及び非標識物質又は固定化抗原/抗体と混合された(反応した)状態での被検物質を、任意に捕捉又は通過させることができるため、測定対象である標識された被検物質のみを分離することが可能となり、より正確な分析を実現することができる。しかも、非標識物質を利用し得る保持槽の存在によって、従来行われていた抗原−抗体反応の後の洗浄工程を省略することが可能になり、バイオチップ自体の占有面積を小型化することができる。
【0020】
このバイオチップにおいては、固定手段が、抗原又は抗体を担持する微粒子であることが好ましい。
これにより、反応槽に抗原又は抗体を簡便かつ確実に固定することが可能となる。
【0021】
また、固定手段には、(1)被検物質と抗原抗体反応によって結合するが、標識物質及び非標識物質とは直接結合しない抗原又は抗体が担持されてなるか、あるいは(2)固定手段には、標識物質及び非標識物質と抗原抗体反応によって結合するが、被検物質とは直接結合しない抗原又は抗体が担持されてなることが好ましい。
このような組み合わせを選択することにより、免疫分析を確実に行うことができる。
【0022】
さらに、反応槽に又は反応槽の下流に基質保持槽が連結されてなることが好ましい。
これにより、標識物質と結合した被検物質を、基質を利用して、より確実に定量することができ、精度よく被検物質の分析をすることが可能になる。
【0023】
また、被検物質を検出するための検出部をさらに含むことが好ましい。
これにより、測定対象となる被検物質のみを検出部に導入して分析することができることとなり、他の物質に干渉されることなく、バックグラウンドを低減することができる。よって、より精度の高い分析を行うことが可能となる。
【0024】
さらに、検出部に一対の電極が形成されてなることが好ましい。
このような構成により、従来の光学的検出装置のような大掛かりで、高価かつ大型の装置を用いることなく、電流又は電圧等の検出という簡便な方法によって、被検物質の分析を行うことができる。従って、分析にかかる費用を低減させることができるとともに、より小型のバイオチップ及びより小型で安価な分析装置の使用を実現することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の方法によれば、非標識物質を用いることにより、被検物質の測定濃度を見かけ上低減させることができるために、稀釈工程を省略することができ、これによって一連の分析工程を簡略化することができ、正確かつ迅速な分析を実現することが可能となる。加えて、この方法を実現するために、バイオチップ自体をシンプルな構造とすることにより、チップの占有面積を低減し、より小型で安価なバイオチップを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の免疫分析方法においては、まず、サンプル、標識物質、非標識物質、固定化抗原/抗体を、任意の順序で混合して、反応させる。
【0027】
ここでサンプルとは、被検物質を含有するサンプルを意味し、生物学的サンプル、例えば、全血、赤血球、白血球、血小板、血清、プラスマ、尿、脳脊髄液、腹水、その他の生物学的試料等が挙げられる。被検物質とは、特定の化合物又は成分であれば特に限定されないが、抗原又は抗体のいずれかであることが好ましい。抗原としては、例えば、細菌、ウィルス、寄生虫、タンパク質、ペプチド、DNA等が挙げられる。また、抗体としては、例えば、抗IgG抗体、抗IgM抗体、抗IgD抗体、抗IgE抗体、抗IgA抗体等が挙げられる。これらの抗体は、抗体分子がそのまま含まれているものであってもよいし、抗体を酵素処理等して得られる抗原結合部位を含む抗体フラグメントであるFab、Fab’、F(ab’)2等であってもよい。なかでも、抗原であることがより好ましい。
【0028】
標識物質は、被検物質と反応する部位、好ましくは抗原抗体反応により結合する部位を備える物質(例えば、被検物質に対する抗体、抗原、抗体フラグメント等)に、被検物質を定量するための標識化合物が結合して構成されるものである。
【0029】
標識化合物としては、酵素(例えば、グルコース・オキシダーゼ等のオキシダーゼ;ホースラディッシュ・ペルオキシダーゼ等のペルオキシダーゼ;アルカリホスファターゼ;ガラクトシダーゼ等)、色素、酸化還元物質、蛍光物質(例えば、フルオレセイン、ダンシル等)、放射性物質(例えば、125I、14C等を含む化合物)、金属粒子、磁性体等、当該分野で通常使用される標識化合物のいずれをも用いることができる。標識化合物と、被検物質に対する結合部位を備える物質との組み合わせは、標識抗体又は標識抗原であることが好ましい。標識化合物は、予め当該分野で通常使用される方法によって、上述した被検物質と反応、結合等する物質に結合させておくことが適している。
【0030】
非標識物質は、上述した標識抗体と競合的に被検物質と反応する物質であって、被検物質と反応する部位、好ましくは抗原抗体反応により結合する部位を備える物質を意味する。非標識物質は、標識化合物が結合していないことを除いて、上述した標識物質と同様のものを用いることができる。ただし、被検物質と反応する部位の種類等は、必ずしも、同じ測定において使用される標識物質を構成するものと同じものでなくてもよい。
【0031】
なお、標識物質と非標識物質とは、所定比率で用いることが適当であり、さらに均一な混合物として用いることが好ましい。このように標識物質と非標識物質とを用いることにより、従来の希釈液による希釈工程を省略することができる。つまり、標識物質及び非標識物質を被検物質と混合、反応させることにより、被検物質が高濃度で存在していたとしても、後工程で検出される被検物質は、標識物質と反応したもののみとして分析することができる。従って、非標識物質を被検物質と反応させることにより、見かけ上の被検物質の希釈が可能となり、被検物質を測定するために用いる検出装置の特性などを考慮して、被検物質の検出値を適切に検出レンジに収めることが可能となる。その結果、正確な測定を行うことができる。
【0032】
例えば、標識物質:非標識物質は、0.1:10〜10:0.1程度が適当であり、1:10〜10:1程度が好ましく、1:10〜5:1程度がより好ましい。
また、標識及び非標識物質は、被検物質の量に対して、過剰量で反応させることが好ましい。これによって、被検物質の全てに標識又は非標識物質を反応させることが可能となり、より正確な被検物質の分析を行うことができる。ここで、被検物質自体の量は、通常は不明であるため、過剰量の標識及び非標識物質を導入するために、例えば、予め測定可能な被検物質濃度又はその範囲を予備測定等により設定し、その設定した濃度又は範囲上限の1〜100倍(モル比)を過剰量として導入することが適している。
【0033】
なお、標識物質と非標識物質とが、被検物質と反応する部位について、同じものであるとすると、通常、被検物質との反応性は同等であると考えられるが、標識化合物の種類、反応時の種々の条件等によっては異なることも考えられる。したがって、予め、両者の被検物質への反応性、例えば結合係数等を得ておくことにより、後述する分析の際に、その結合係数に基づいて実測値を換算するなどの手法を用いて、より正確な検出を行うことができる。なお、標識物質と非標識物質とが、被検物質と反応する部位について、異なるものを用いる場合についても同様である。
【0034】
固定化抗原/抗体は、固定化抗原/抗体としては、固定手段に担持された抗原又は抗体を意味し、これらの種類は、被検物質、標識及び非標識物質の種類、これらとの混合順序等によって、適宜選択することができる。例えば、被検物質、あるいは標識及び非標識物質と抗原抗体反応によって結合し得る抗原又は抗体であることが適している。
【0035】
固定手段としては、抗原又は抗体を固定し得るものであり、抗原又は抗体等の活性に影響を与えないものであれば特に限定されるものではなく、その形状、材質、量等は、被検物質及び標識物質の種類、用いる抗原又は抗体等の種類等によって適宜調整することができる。例えば、固定の方法は、抗原及び抗体等の活性に影響を与えないものであれば、物理的吸着、共有結合、イオン結合、架橋、静電相互作用等公知の方法のいずれかを利用することができる。
【0036】
また、固定手段の形状は、フィルター状、微粒子状等の形状の、多孔質体等、表面積を増大させ得る種々のもの、一般にバイオリアクター及びクロマトグラフィー等用の担体として使用されているもの等が挙げられる。微粒子状のものとしては、ガラスビーズ、ポリスチレン等のポリマービーズ、アガロース、デキストラン、キトサン、タンパク等の高分子化合物(ゲル)の微粒子、シリカ、金属等のビーズ、さらに市販されている微粒子状の固体担体等のいずれかを用いることができる。その直径は、1mm程度以下のもの、10〜1mm程度のもの、100〜800μm程度のもの、200〜600μm程度のもの、200〜1mm程度のもの等が挙げられる。なお、固定手段は、例えば、後述するように、バイオチップ内に収められる場合には、上述したような固定手段とともに又はそれに代えて、バイオチップ内の流路又は槽自体が、必要な表面積を確保する(つまり表面積を増大する)ように形成されているものを利用することもできる。例えば、流路又は槽を構成する壁面表面が粗いもの、壁面自体に凹凸が形成されたもの等が挙げられる。
【0037】
固定化抗原/抗体は、被検物質に対して過剰量であることが好ましく、さらに、標識及び非標識物質の総量に対しても過剰量であることが好ましい。
ここでの任意の順序は、特に限定されるものではなく、被検物質の種類、用いる標識及び非標識物質の種類、固定化抗原/抗体の種類、後述する被検物質の検出方法等に応じて適宜決定することができる。例えば、
(i)まず、サンプルと、標識及び非標識物質とを混合し、その後、これらの混合物を、固定化抗原/抗体と混合する、
(ii)まず、サンプルと固定化抗原/抗体とを混合し、その後、これらの混合物を、標識及び非標識物質と混合する、又は
(iii)サンプルと、標識及び非標識物質と、固定化抗原/抗体とを同時に混合すること等が挙げられる。
【0038】
なお、標識及び非標識物質を他の成分と混合する場合には、これらを予め混合して均一にし、これとその他の成分とを混合することが好ましい。
上述した(i)の混合方法を採用する場合には、被検物質と固定化抗原/抗体とは、直接反応しない、結合しない、つまり、抗原抗体反応を行わないものであることが好ましい。言い換えると、固定化抗原/抗体と被検物質とは、標識及び非標識物質への結合に対して競合的に反応し得るものが好ましい。
【0039】
(ii)及び(iii)の混合方法を採用する場合には、標識及び非標識物質と固定化抗原/抗体とは、直接反応しない、結合しない、つまり、抗原抗体反応を行わないものであることが好ましい。
【0040】
混合して反応させる場合の条件は、特に限定されるものではなく、測定しようとする被検物質、標識及び非標識物質の種類等により適宜設定することができるが、これらの物質の活性に影響を与えない条件で、例えば、20〜40℃程度の温度で、30秒間〜30分間程度が挙げられる。また、これら物質が液体中に浮遊又は懸濁している場合には、各成分の濃度比(被検物質、標識物質、非標識物質、固定化抗原/抗体のバランス)、液体の組成、pH、液量等を、適切に設定することが好ましい。これにより、測定感度を変動させずに、正確に被検物質を検出することができる。
【0041】
本発明では、サンプル、標識物質、非標識物質、固定化抗原/抗体を混合して反応させる具体的な態様として、以下に示すものが適している。
【0042】
【表1】

【0043】
上述のA及びBの場合には、(i)の混合方法により、まず、被検物質を標識物質及び非標識物質と反応させ、その後、これらを固定化抗原/抗体と混合することにより、被検物質と反応していない標識物質及び非標識物質を、固定化抗原/抗体と反応させることができる。言い換えると、サンプル中の被検物質はすべて標識又は非標識物質のいずれかと結合し、混合された標識及び非標識物質のうち、被検物質と結合しなかったものが全て又はほぼ全て固定化抗原/抗体に結合されることとなる。
【0044】
一方、上述のC及びDの場合には、(ii)の混合方法により、まず、サンプルと固定化抗原/抗体とを混合して、反応させて、サンプル中の全部の又はほぼ全部の被検物質を固定化することができる。その後、これに標識物質及び非標識物質を混合することにより、固定化された被検物質が、さらに標識物質及び非標識物質と反応して結合することにより、固定化手段と、抗原/抗体と、被検物質と、標識又は非標識物質とが一連に結合した反応生成物が得られることとなる。なお、(iii)の混合方法においては、同様の反応生成物が得られることとなる。
【0045】
次いで、固定化抗原/抗体との反応生成物及び未反応物を分離する。ここでの反応生成物は、固定化抗原/抗体と反応して得られたものの全てを指し、例えば、固定化抗原/抗体−標識又は非標識物質、固定化抗原/抗体−被検物質、固定化抗原/抗体−被検物質−標識又は非標識物質が挙げられる。未反応物とは、固定化抗原/抗体と反応していないものの全てを指し、例えば、標識又は非標識物質自体、標識又は非標識物質−被検物質、被検物質自体(好ましくは、これは存在しないが)が挙げられる。
【0046】
分離は、上述したA及びBの態様の場合には、被検物質と反応した標識及び非標識物質は、固定化抗原/抗体には固定されず、自由に移動することができるため、この移動によって、固定化抗原/抗体と反応していない未反応物のみを取り出すことができる。
【0047】
また、上述したC及びDの様態の場合には、固定化抗原/抗体と反応した被検物質は、その部位に固定化されており、自由に移動することはできないが、一方、未反応の標識物質及び非標識物質は、固定化抗原/抗体には固定されておらず、自由に移動することができる。この移動によって、未反応の標識物質及び非標識物質を、被検物質と結合した標識物質及び非標識物質から(固定化抗原/抗体にも結合)分離することができ、被検物質と結合した標識物質及び非標識物質のみを取り出すことができる。
【0048】
最後に、分離された反応生成物及び未反応物の少なくとも一方を分析することにより、被検物質を検出することができる。
分離された反応生成物又は未反応物を分析するとは、反応生成物中に結合している標識化合物、あるいは未反応物中に存在する標識化合物を直接、間接に検出し得る方法を用いることにより、測定することを意味する。これによって、見かけ上、被検物質又は標識化合物の検出値を減少させることができ、適当な倍率で希釈液を用いて希釈した場合と同様に、被検物質又は標識化合物の検出値を適切に検出レンジに収めることができる。
【0049】
なお、標識化合物の種類によっては、反応生成物を分析する前に、その反応生成物を、基質と反応させてもよい。ここで、基質とは、例えば、色素、染料、蛍光物質等、有機酸又は無機酸、電極と被検物質との間で電子を授受し得る電子移動媒体として機能し得る電子伝導メディエータ等の1種又は2種以上の組み合わせが挙げられる。
【0050】
色素、染料、蛍光物質としては、OPD(オルトフェニレンジアミン)、TMBZ(3,3',5,5',-テトラメチルビンジジン)、チラミン(Tyramin)、ルミノール、ルシフェリン等が挙げられる。
有機酸又は無機酸としては、過酸化水素、蟻酸、酢酸等が挙げられる。
【0051】
電子伝達メディエータとしては、例えば、フェロセン、フェリシアン化アルカリ金属(フェリシアン化カリウム、フェリシアン化リチウム、フェリシアン化ナトリウム等)又はこれらのアルキル置換体(メチル、エチル、プロピル置換体等)、p−ベンゾキノン、2,6−ジクロロフェノールインドフェノール、フェナジンメトサルフェート、メチレンブルー、β−ナフトキノン−4−スルホン酸カリウム、フェナジンエトサルフェート、ビオローゲン、ビタミンK等の酸化還元性の化合物の1種又は2種以上の組み合わせが挙げられる。なかでも、フェロセン、フェリシアン化カリウム等が好ましい。
【0052】
ここでの分析又は検出方法は、特に限定されず、被検物質、標識化合物、固定化抗原/酵素等の種類及び量、基質を用いるか否か等に応じて適宜選択することができる。例えば、標識化合物の定量法として、色素の発色強度を測定する光学的方法(比色法、蛍光法、散乱光法等)、電子の授受による電流値又は電圧値用を測定する電気化学的方法、電気的方法、放射性同位元素の強度を測定するラジオイムノアッセイ法、磁気による方法(例えば、標識に磁気ビーズを用いた場合)等の当該分野で公知のいずれの方法によっても行うことができる。
【0053】
例えば、検出方法が光学的方法である場合には、被検物質、標識化合物又は基質からの生成物に光を照射し、その光(透過光、反射光、散乱光等)を検出することができる。また、電気化学的方法である場合には、被検物質を含む溶液の電荷を検出し得るように、この溶液に接触する導電性材料による一対の電極を用いて検出することができる。
【0054】
本発明のバイオチップは、少なくとも標識物質及び非標識物質が保持された保持槽と、抗原又は抗体を固定するための固定手段が収容された反応槽とを含む。
【0055】
保持槽は、標識物質と非標識物質とが保持されている限り、大きさは特に限定されるものではなく、この目的を実現するために十分な大きさを有していることが必要であり、標識物質と非標識物質との種類、量などに応じて適宜設定することができる。形状は、保持の目的に適切なものであれば特に限定されるものではなく、平面及び断面形状ともに、例えば、四角形、台形等の多角形及びこれらの角部分が丸みを帯びた形状、円形、だ円形、ドーム形状あるいは左右非対称の不均一形等どのような形状であってもよい。なお、保持槽は、標識及び非標識物質を保持する目的のみならず、流路、混合槽等として機能し得るものとしてもよい。
【0056】
また、上述した(i)の混合方法の場合には、保持槽の下流にサンプルとの混合槽を有していてもよく、保持槽の上流又は保持槽自体に、あるいはさらに混合槽を有する場合には混合槽の上流又は混合槽自体に、サンプルの導入口を有していることがより好ましい。これにより、予め、サンプルと標識及び非標識物質の混合を簡便に行うことができる。
【0057】
上述した(ii)及び(iii)の混合方法の場合には、後述する反応槽の上流であって、保持槽とは直列に連結しない位置又は反応槽自体に、サンプルの導入口を有することが好ましい。これにより、サンプルと固定化抗原/抗体とを簡便に混合させ、反応させることができる。
【0058】
反応槽は、抗原又は抗体を固定するための固定手段がその内部に収容されている。したがって、反応槽は、固定手段を保持するための十分な空間を有していることが必要であるが、その形状等は、固定手段の種類、量等に応じて適宜設定することができる。反応槽は、ここに含まれる固定手段が反応槽外に移行しないように、反応槽の上流及び下流直近に、チャネル部が形成されていることが好ましい。
【0059】
チャネル部は、反応槽内に存在する固定手段の径よりも小さい径を有するなどして、反応槽に存在する固定手段を、反応槽内にのみ止めるために、反応槽の出口(好ましくは入口にも)に、固定手段を通過させない機能又は形状を与える。これにより、上述した混合物等が反応槽を通過する際、固定手段に担持された抗原又は抗体と、これに結合した被検物質、標識または非標識化合物、あるいは被検物質−標識又は非標識物質結合体とが、チャネル部によって反応槽から槽外へ移動することができない、一方、固定手段に結合されていない成分のみが、チャネル部を通り抜けて、反応槽外、例えば、後述する検出部に移動させ、いわゆるB/F分離を行うことができる。このように、反応槽での処理により、分析の際に所望しない標識化合物の存在を、測定結果の精度に影響しない程度に抑えることにより、より正確な分析、検出が可能となる。
【0060】
なお、反応槽は、反応させるのみならず、後述するような検出部としての機能を兼ね備えていてもよい。また、上述した(ii)及び(iii)の混合方法に用いる場合には、反応槽と、保持槽との両機能を備える槽としてもよい。この場合には、固定化抗原/抗体と、標識物質及び非標識物質とは、接触しない状態が保持・収容されていることが好ましい。
【0061】
また、本発明のバイオチップには、例えば、反応槽又は反応槽の下流に、あるいは、後述するような検出部を備える場合には検出部の上流に、直接に又は付加的に、基質保持槽が連結されていることが好ましい。これにより、標識化合物の種類によっては、より正確に被検物質の測定をすることができる。
【0062】
さらに、本発明のバイオチップは、検出部を備えることが好ましい。検出部は、被検物質、標識化合物又は基質からの生成物を検出するための空間であって、反応槽自体、つまり、固定手段が収容された空間であってもよいし、反応槽とは別の空間として形成されていてもよい。検出部の大きさ及び形状は特に限定されず、例えば、検出方法(手法)、被検物質の種類及び量等に応じて適宜設定することができる。
【0063】
特に、反応槽とは別の空間として形成されている場合には、1〜103mm3程度が大きさが挙げられ、その形状は、種々の形状に設定することができる。また、例えば、検出方法が光学的方法である場合には、検出部において、被検物質、標識化合物又は基質からの生成物等に光を照射し、その光を検出し得るように、所定長さの光路を確保することができる形状及び大きさであることが必要である。また、電気化学的方法である場合には、検出部において、被検物質を含む溶液の電荷を検出し得るように、導電性材料による一対の電極がこの溶液に接触するように形成されていることが好ましい。
【0064】
ここで、一対の電極は、通常、電極として機能することができる材料、大きさ及び形状であれば特に限定されることはなく、どのようなものでも用いることができる。例えば、グラファイト、カーボン、カーボンファブリック等;アルミニウム等の金属又は合金、TiO2等導電性酸化物等の単層又は2以上の積層構造が挙げられる。この電極は、導電材料片をバイオチップに貼り付けるか、一部を埋設するなどして形成してもよいし、導電剤ペーストを用いたスクリーン印刷法等の印刷法を用いて形成してもよい。
【0065】
検出部は、反応槽と、流路を通して又は流路を介さないで直接、直列で連結されていることが好ましい。いずれの場合にも、反応槽に含まれる固定手段が流路及び/又は検出部側に移行しないように、検出部と反応槽との間に、チャネル部が形成されており、両者が分離されていることが適している。
【0066】
上述したバイオチップは、通常、従来のチップと同様の材料で形成することができる。例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PDMS(ポリジメチルシロキサン)、PMMA(ポリメチルメタクリレート)、PC(ポリカーボネイト)、PP(ポリプロピレン)、PS(ポリスチレン)、PVC(ポリ塩化ビニル)、ポリエチレン、ポリシロキサン、アリルエステル樹脂、シクロオレフィンポリマーなどの有機化合物、あるいは、ゼオノア、シリコン、石英、ガラス、セラミック等の無機化合物等が挙げられる。
【0067】
また、例えば、主として、一方又は双方に凹部による種々の形状のパターンを有する第1基板と第2基板とを、例えば、溶着、接着剤、超音波処理等によって、貼り合わせることにより、簡便に製造することができる。具体的には、所望の反応槽等に対応する形状を有する金型を準備する。この金型は、機械的加工により形成することができる。次に、この金型に、樹脂をモールド等して反応槽等の形状が転写された基板を得る。最後に、この基板を、パターン同士が対向するように、2枚張り合わせる。なお、混合槽等に対応するパターンを有する基板を一方のみとし、他方を平板基板としてもよい。また、金型を用いたモールディングに代えて、射出成型法あるいはインプリント法等を利用してもよい。
【0068】
さらに、平板基板の一方又は双方に、フォトリソグラフィー工程、機械的加工等を直接施して、混合槽等に対応するパターンが転写された基板を得てもよい。
【0069】
実験例
まず、被検物質としてC反応性タンパク(CRP)、標識物質としてホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)標識抗CRP抗体、非標識物質として非標識の抗CRP抗体IgG、固定化抗原/抗体として、固定手段である直径約0.4mmの球状のキトパール(富士紡績製)に抗CRP抗体に対する抗イディオタイプ抗体を固定したものを準備した。なお、標識物質は、例えば、一般的な架橋剤を用いて調製した。
【0070】
次いで、種々の濃度(0.1から50mg/dl程度の範囲)のCRP1μlに対して、
(Q)20μg/dlのHRP標識抗CRP抗体のみ50μl、
(R)20μg/dlのHRP標識抗CRP抗体と1.74μg/dlの非標識の抗CRP抗体IgGとの10:1混合物、
(X)20μg/dlのHRP標識抗CRP抗体と17.44μg/dlの非標識の抗CRP抗体IgGとの1:1混合物、又は
(Y)20μg/dlのHRP標識抗CRP抗体と174.42μg/dlの非標識の抗CRP抗体IgGlとの1:10混合物
250μlをそれぞれ添加し、10分間攪拌して混合し、反応させた。
【0071】
続いて、得られた混合物の5μlを採取し、これを、キトパールに固定した10μlの抗イディオタイプ抗体と混合し、室温にて10分間上下攪拌して反応させ、いわゆるB/F分離を行って、上清を回収した。
【0072】
得られた上清から2μlを採取して、これに色素(SAT−Blue)18μlを加えて混合し、それぞれのサンプルについて670nmにて吸光度変化率(単位時間当たりの吸光度変化量)を測定した。
【0073】
その結果を図1に示す。なお、図1においてQ〜Yの曲線は、上述したサンプル(Q)〜(Y)にそれぞれ対応する。
【0074】
図1の結果から、例えば、CRP10mg/dlの場合、非標識物質を用いない場合には、吸光度変化率の測定値が適切な検出レンジに収まらず、判別することができない。一方、標識物質及び非標識物質の双方を用いた場合には、吸光度変化率の測定値が検出レンジに収まっており、判別することができる。また、非標識物質を、非標識物質/標識物質比が大きくなるように用いるほど、被検物質の吸光度変化率が小さくなり、見かけ上、被検物質が希釈されているのと同様になる。
【0075】
さらに、非標識物質/標識物質の値が大きくなるほど、高濃度の被検物質を測定するのに有利であることが分かった。
【0076】
実施例1
本発明のバイオチップ10は、図2(a)及び(b)に示したように、保持槽11と、反応槽12と、チャネル部15と、検出部14とが直列に配設されて構成されている。
【0077】
保持槽11は、標識物質及び非標識物質とが保持されている槽であって、例えば、50mm2(平面積)×1mm(深さ)程度の空間を有する。ここには、例えば、標識物質としてホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)標識抗CRP抗体、非標識物質として非標識の抗CRP抗体IgGが1:1で保持されている。
【0078】
反応槽12は、例えば、50mm2(平面積)×1mm(深さ)程度の空間を有し、その中に、抗原又は抗体を固定するための固定手段13が含まれている。固定手段13としては、直径0.4mm程度の球状のキトパール(富士紡績製)が、例えば、反応槽12の70%程度の空間を占める程度収容されている。この固定手段13には、標識及び非標識物質と抗原抗体反応によって結合し得る物質として、抗CRP抗体に対する抗イディオタイプ抗体が固定されている。
【0079】
反応槽12の直近の上下流にはチャネル部15が形成されている。チャネル部15は、幅が100μm程度で、深さが0.2mm程度に設定されており、上記のキトパールの直径よりも小さい径を有し、キトパールが反応槽12から他の部位に移動しないように形成されている。
【0080】
検出部14は、例えば、光学的検出として吸光度を測定するために、長さ100mm程度で、断面積が1mm2程度の一定形状を有している。
なお、保持槽11には、被検物質を含むサンプルを注入するための注入口が連結されている。
【0081】
このような構成のバイオチップ10では、まず、図3に示したように、S1において、被検物質を含むサンプル3μlを、この被検物質に対して過剰量(予めバイオチップを用いて被検物質濃度を設定し、その設定濃度の1〜100倍程度のモル比)の標識及び非標識物質(1:1モル比)が保持された保持槽に導入する。
【0082】
導入されたサンプルは、S2において、保持槽11で混合され、被検物質と標識物質及び非標識物質とが反応する。ここで、被検物質のほぼ全てが標識物質または非標識物質のいずれかと結合し、過剰量の標識物質及び非標識物質が被検物質と結合しないまま残存する。
【0083】
続いて、S3において、バイオチップ10を回転させて得られる遠心力等によって、得られた混合物を反応槽12に移動させ、混合する。ここでの固定手段13の抗体は、被検物質であるCRPと競合的に標識物質及び非標識物質における抗CRP抗体と反応する。従って、標識物質及び非標識物質のうち、被検物質と結合していないもののみが全部又はほぼ全部、固定手段13における抗体と結合する。なお、固定手段13への抗体固定化法は、供給元の推奨方法に従った。
【0084】
これによって、S4に示したように、チャネル部15によって、固定手段13と結合した標識物質及び非標識物質は反応槽12内に留まり、標識物質及び非標識物質と結合した被検物質のみが、固定手段13に結合することなく、検出部に移動することができ、いわゆるB/F分離が行われる。
【0085】
その後、S5に示したように、検出部に導入された標識物質と結合した被検物質について、予め検出部に導入しておいた発色物質(SAT−Blue((株)同仁化学研究所)を標識物質におけるHRPの活性によって発色させる。そして、例えば、670nmにおけるサンプルの吸光度の変化を測定する。得られた結果を、用いた標識物質及び非標識物質の量及び比、被検物質への反応性等を考慮して換算することにより、サンプル中の被検物質を定量することができる。
【0086】
なお、被検物質の反応及び測定は、すべて室温で行った。
この方法によれば、固定手段に被検物質を結合させることを要しないため、測定対象となる物質のみを検出部に導入して分析することができ、バックグラウンドを低減することができ、より精度の高い分析を行うことが可能となる。
【0087】
実施例2
実施例1におけるB/F分離の後、反応槽12の固定手段13に結合した標識化合物に対して発色物質を添加して発色させ、反応槽において実施例1と同様に吸光度変化を測定する。得られた結果を換算することにより、サンプル中の被検物質を定量することができる。
【0088】
実施例3
実施例1において、図2(a)及び(b)のバイオチップ10に代えて、検出部14内に一対の電極が形成されたバイオチップを用いる。
これにより、B/F分離の後、図3のS51に示したように、基質として加えたフェロセンを、標識化合物である酵素によってフェリシニウムイオン(Fc+)に変換し、さらにこれを電極上で還元するという酸化還元反応を行わせることにより、その際に生じる電流値を測定する。
この電流値は、被検物質の量、つまり、被検物質と標識物質との反応生成物の濃度に比例した値となり、被検物質の測定を定量的に行うことができる。
【0089】
実施例4
この実施例のバイオチップ20は、図4に示したように、固定化手段13が収容された反応槽12に、標識物質及び非標識物質が保持された保持槽11が接続されている。また、反応槽12の上流に試料の導入口が接続されており、反応槽12直近の上下流部分にチャネル15が形成されている。
【0090】
このような構成のバイオチップ20では、まず、図5に示したように、S1において、被検物質を含むサンプル3μlを、導入口から反応槽12に導入し、S2において、反応槽12で、サンプルと固定化手段13に固定された抗体とを反応させる。これにより、被検物質のほぼ全てが固定化抗体と結合する。
【0091】
続いて、S3において、反応槽12の固定化抗体と結合した被検物質に対して過剰量(予めバイオチップを用いて被検物質濃度を設定し、その設定濃度の1〜100倍程度のモル比)の標識及び非標識物質(1:1モル比)が保持された保持槽11から、反応槽12に、標識物質及び非標識物質を導入し、S4において、反応させる。これにより、被検物質のほぼ全てに標識物質または非標識物質のいずれかが結合し、過剰量の標識物質及び非標識物質が被検物質と結合しないまま残存する。
【0092】
続いて、S5に示したように、チャネル部15によって、固定手段13と結合した被検物質にさらに結合した標識物質及び非標識物質が反応槽12内に留まり、被検物質と結合していない標識物質及び非標識物質が、固定手段13に結合することなく、反応槽12の下流に移動し、いわゆるB/F分離が行われる。
【0093】
その後、S6に示したように、反応槽12の固定化手段13によって保持された、標識物質と結合した被検物質について、発色物質と混合して、標識物質におけるHRPの活性によって発色させる。そして、実施例1と同様に吸光度変化を測定する。得られた結果を換算することにより、サンプル中の被検物質を定量することができる。
【0094】
実施例5
この実施例におけるバイオチップは、図4のバイオチップ40の下流に、図2のバイオチップ10における検出部14を備えたものを用いる。
実施例4におけるB/F分離の後、反応槽の下流に移動した被検物質と結合していない標識物質及び非標識物質を、検出部に導入し、標識化合物に対して発色物質を添加して発色させ、実施例1と同様に吸光度変化を測定する。得られた結果を換算することにより、サンプル中の被検物質を定量することができる。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明の免疫分析方法における結果を示すグラフである。
【図2】本発明のバイオチップの実施形態を示す平面図及び断面図である。
【図3】図2のバイオチップを用いた免疫分析方法を説明するためのフローチャートである。
【図4】本発明のバイオチップの別の実施形態を示す平面図である。
【図5】図4のバイオチップを用いた免疫分析方法を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0096】
10、20 バイオチップ
11 保持槽
12 反応槽
13 固定手段
14 検出部
15 チャネル部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検物質を含むサンプルと、前記被検物質と反応する標識物質と、該標識物質と競合的に前記被検物質と反応する非標識物質と、固定化抗原/抗体とを、任意の順序で混合して反応させ、
前記固定化抗原/抗体との反応生成物と、固定化抗原/抗体との未反応物とを分離し、
該分離された前記反応生成物又は未反応物のいずれかにおける標識物質を分析することにより被検物質を検出することを特徴とする免疫分析方法。
【請求項2】
標識物質と非標識物質とを、所定比率の混合物として用いる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
標識物質及び非標識物質を、被検物質に対して過剰量添加する請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
固定化抗原/抗体との反応生成物が、固定化抗原/抗体と標識物質又は非標識物質とが抗原抗体反応によって結合したものであるか、固定化抗原/抗体と被検物質とが抗原抗体反応によって結合し、さらに該被検物質に抗原抗体反応によって標識物質又は非標識物質が結合したものである請求項1〜3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
被検物質の検出を電気化学的又は光学的に行う請求項1〜3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
分離された反応生成物を、電子伝達メディエータ又は発色物質をさらに反応させて分析する請求項1〜5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
被検物質を含むサンプル、標識物質及び非標識物質とを予め混合して、反応させ、
次いで、これらの混合物を固定化抗原/抗体と混合して、被検物質と反応していない標識物質及び非標識物質を固定化抗原/抗体と反応させ、
得られた固定化抗原/抗体との反応生成物と、固定化抗原/抗体との未反応物とを分離し、
該分離された前記反応生成物又は未反応物のいずれかを分析することにより、被検物質を検出する請求項1の方法。
【請求項8】
被検物質が抗原、標識物質及び非標識物質が抗体であり、固定化抗原/抗体が抗イディオタイプ抗体又は標識物質及び非標識物質の抗体に対する抗原である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
被検物質が抗体、標識物質及び非標識物質が抗原又は抗イディオタイプ抗体であり、固定化抗原/抗体が標識物質及び非標識物質の抗原に対する抗体である請求項7に記載の方法。
【請求項10】
被検物質を含むサンプルと、固定化抗原/抗体とを予め混合して、前記被検物質と固定化抗原/抗体とを反応させ、
次いで、これらの混合物を、標識物質及び非標識物質と混合し、
得られた固定化抗原/抗体との反応生成物と、固定化抗原/抗体との未反応物とを分離し、
該分離された前記反応生成物又は未反応物のいずれかを分析することにより、被検物質を検出する請求項1の方法。
【請求項11】
被検物質が抗原、標識物質及び非標識物質が抗体であり、固定化抗原/抗体が被検物質の抗原に対する抗体である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
被検物質が抗体、標識物質及び非標識物質が抗原であり、固定化抗原/抗体が抗イディオタイプ抗体又は被検物質の抗体に対する抗原である請求項10に記載の方法。
【請求項13】
標識物質及び非標識物質が保持された保持槽と、
抗原又は抗体を固定するための固定手段が収容された反応槽とを含むことを特徴とするバイオチップ。
【請求項14】
固定手段が、抗原又は抗体を担持する微粒子である請求項13に記載のバイオチップ。
【請求項15】
固定手段には、被検物質と抗原抗体反応によって結合するが、標識物質及び非標識物質とは直接結合しない抗原又は抗体が担持されてなる請求項14に記載のバイオチップ。
【請求項16】
固定手段には、標識物質及び非標識物質と抗原抗体反応によって結合するが、被検物質とは直接結合しない抗原又は抗体が担持されてなる請求項14に記載のバイオチップ。
【請求項17】
さらに、反応槽に又は反応槽の下流に基質保持槽が連結されてなる請求項13〜16のいずれか1つに記載のバイオチップ。
【請求項18】
さらに、被検物質を検出するための検出部を含む請求項13〜17のいずれか1つに記載のバイオチップ。
【請求項19】
検出部に、一対の電極が形成されてなる請求項13〜18のいずれか1つに記載のバイオチップ。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−24498(P2007−24498A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−202410(P2005−202410)
【出願日】平成17年7月12日(2005.7.12)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】