説明

免疫関連性疾患およびその他の疾患の治療および診断に使用するための二重特異性分子

T細胞免疫応答cDNA7(TIRC7)に結合する第1の結合ドメインと、HLA−(ヒト白血球関連抗原)に結合する第2の結合ドメインとを少なくとも持ち、および任意に更なる機能的ドメインを含む二重特異性分子が提供される。さらに、前記二重特異性分子を含む組成物、ならびに免疫応答に関連する疾患および腫瘍を含むその他の疾患の診断および治療におけるそれらの使用が記載されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、T細胞免疫応答cDNA7(TIRC7)に結合する第1の結合ドメインと、HLA−(ヒト白血球関連抗原)に結合する第2の結合ドメインとを少なくとも有すること、および、さらなる機能的ドメインを任意に含むことを特徴とする二重特異性分子に関する。さらに本発明は、前記二重特異性分子を含む組成物、ならびに免疫応答に関連する疾患および腫瘍を含むその他の疾患を診断および治療する方法に関する。
【0002】
本明細書のテキストを通じていくつかの書類が引用される。本明細書中で引用する書類(製造元の仕様書、説明書などを含む)のそれぞれを、ここに引用によって援用する。しかしながら、引用したいずれの書類も実際に本発明に関する先行技術であることを認容するものではない。
【0003】
T細胞活性化は、遺伝子発現における多数のシグナリング経路および連続的な変化を含み、T細胞を明確なサブ集団、すなわち、サイトカイン産生のパターンによって区別可能であり、細胞性免疫応答の様式を特徴付けるTh1およびTh2に分化させる一連のプロセスである。T細胞応答は、抗原特異性T細胞受容体(TCR)と、抗原提示細胞(APC)の表面上の主要な組織適合性複合体(MHC)分子によって提示されるペプチドとの相互作用によって開始する。さらなるシグナルは、集合的に共刺激性シグナルと呼ばれるCD28/CTLA4およびB7、CD40/CD40L、LFA−1およびICAM−1(Lenschow、Science 257(1992)、789-792;Linsley、Annu. Rev. Immunol. 11(1993)、191-212;Xu、Immunity 1 (1994)、423-431;Bachmann、Immunity 7(1997)、549-557;Schwartz、Cell 71(1992)、1065-1068)(Perez、Immunity 6(1997)、411)などの多くの膜蛋白質によって媒介される受容体−リガンド相互作用のネットワークによって提供される。これらの膜蛋白質は、明確な方法でT細胞活性化を変更することができ(Bachmann、Immunity 7(1997)、549-557)、これらの分子によって提供される正のおよび負のシグナルの統合によって免疫応答を調節することができる(Bluestone、Immunity 2(1995)、555-559;Perez、Immunity 6(1997)、411)。細胞性免疫応答を調整するのに有効な物質の多くは、T細胞受容体(Cosimi、Transplantation 32 (1981)、535-539)ブロック共刺激シグナリングを妨害するか(Larsen、Nature 381(1996)、434-438;Blazar J. Immuno. 157(1996)、3250-3259;Kirk、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94(1997)、8789-8794;Linsley、Science 257(1992)、792-95;Turka、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89(1992)、11102-11105)、またはこれらの一次細胞膜トリガーの下流の細胞間活性化シグナルを阻害する(SchreiberおよびCrabtree、Immunology Today 13(1992)、136-42)。臓器移植および自己免疫疾患におけるT細胞活性化の治療的予防は、現在、下流の細胞間事象を妨害する汎免疫抑制薬物に依存している。免疫応答の特異的調節は、免疫学的研究における長年の目標である。さらに、近年免疫応答の基礎的なメカニズムに対する理解が進んだことで、腫瘍成長のメカニズムが明確になりつつある。腫瘍拡大の免疫学的局面の理解は、免疫系を刺激して腫瘍により有効な応答を起こさせるための新たな方法の開発を導くものである(例えば、Bouraら、Hepatogastroenterology 48(2001)、1040-1044参照)。
【発明の開示】
【0004】
人体の免疫応答に関連する疾患の治療のための治療的手段の必要性に鑑み、本発明の技術的課題は、対象における免疫応答を調節するための手段および方法を提供することである。前記技術的課題の解決法は、請求項において特徴を記載した態様を提供することによって達成されるものである。以下にさらに記載する。
【0005】
したがって、本発明は、T細胞免疫応答cDNA7(TIRC7)に結合する第1の結合ドメインと、HLA−(ヒト白血球関連抗原)に結合する第2の結合ドメインとを含む二重特異性分子に関する。
【0006】
本発明によれば、驚くべきことに、T細胞免疫応答cDNA7(TIRC7)は、T細胞および抗原提示細胞上で、HLA−(ヒト白血球関連抗原)、特にHLAクラスIIと共局在化することがわかった(図1参照)。さらに、本発明者による近年の研究では、2001年10月29日に出願された国際特許出願PCT/EP01/12485号に記載のように、TIRC7とHLAクラスIIアルファ鎖の間の有り得る反応を明らかにしている。両方の蛋白質はともに免疫応答において大きな役割を果たし、また、本発明者らによってその両方の蛋白質は互いに相互作用すること、および、細胞の特異的なサブセットにおいて発現することがわかったので、それらの相互作用および/または活性を調節する物質が、いずれかまたは両方の蛋白質が関与する疾患および状態の治療に対する、有益、付加的および相乗的な効果を有するであろうと想定することは妥当である。さらに、いずれかまたは両方の蛋白質の存在または不存在が前記疾患または状態に関与する場合、そのような物質は診断において有用であることが期待される。したがって、本発明は、TIRC7およびHLAに対する結合特異性を持つ新規な二重特異性分子を提供する。本発明の特定の二重特異性分子は、抗原に対する結合のため、または蛋白質とそのリガンドとの相互作用をブロックするために使用される。しかしながら、免疫細胞と標的細胞の間の相互作用を促進するためのそれらの使用が好ましい。最後に、本発明の抗原結合分子は、免疫細胞、腫瘍細胞、抗腫瘍剤、標的部分、レポーター分子または検出可能なシグナル生成物質を、関連する抗原に局在化するために使用される。
【0007】
HLA−(ヒト白血球関連抗原)蛋白質は、免疫応答において重要な役割を果たす。HLAクラスIIアルファ2鎖は、TIRC7と相互作用すること、およびいくつかのin vitroアッセイにおいて、TIRC7およびそれに由来するペプチドが有意に増殖を調節することが本発明者によって示されたので、HLAクラスIIアルファ2鎖は、HLAに結合する結合ドメインに対する抗原として好ましい。HLA結合ドメインの抗原として用いることが好ましいかもしれないHLAクラスIIペプチドとしては、例えば、2002年9月17日に出願され(シリアル番号60/322,896)、その後PCT出願においてフォローアップされた米国仮特許出願「免疫応答を調節することが可能なペプチド」の図1に示されているように、HLAクラスIIアルファ2鎖(aおよびb)に由来するペプチド、およびアルファ1鎖(アルファ1)に由来するペプチドがある。さらに、HLAクラスII分子アルファ1鎖を含むHLAのアミノ酸配列は、本明細書中に引用した文献を始めとした文献および公的なデータベース、例えば、NCBIから取得することができる。例えば、アクセッションナンバーU77589参照。
【0008】
本発明に関して用いられている「TIRC7」という用語は、T細胞免疫レギュレータ(TCIRG1)としても知られているが、T細胞の活性化および/または増殖のシグナル変換に関与し、好ましくは、可溶型において、混合リンパ球培養においてアロ活性化に応答して、または、培養液に外因的に添加された場合にはマイトジェンに応答して、T細胞増殖を阻害または抑制することができる蛋白質を意味する。In vitro翻訳されたTIRC7蛋白質は、混合リンパ球培養におけるアロ活性化に応答して、または、マイトジェンに応答して、T細胞の増殖を用量依存的に効率的に抑制することができる。TIRC7は、当業者に知られており、とりわけ、PCT国際公開第99/11782号、Utkuら、Immunity 9 (1998)、509-518およびHeinemannら、Genomics 57(1999)、398-406に記載されている。TIRC7の主要な細胞外ドメイン(W099/11782の図1参照)またはそれに由来するペプチドは、本発明の二重特異性分子のTIRC7特異性結合ドメインによって結合することが好ましい。
【0009】
TIRC7およびHLA抗原結合部位は、例えば、モノクローナル抗体から、またはVおよびVドメインのランダムコンビネーションのライブラリーからなど、任意の手段によって取得することができる。
【0010】
「二重特異性分子」という語は、物理的または化学的手段によって直接的または間接的に結合している、前記2つの結合ドメインを少なくとも有する分子を含む。しかしながら、本発明の二重特異性分子は、付加結合ドメイン、および/または、部分例えば、細胞毒もしくは標識などのような更なる機能的ドメインを含んでもよい。望ましい抗原に対する少なくとも1つの特異性を有する、多価、多重特異性分子を調製するための手段および方法は当業者に知られている。例えば、PCT国際公開第99/59633号は、HLAクラスII不変鎖(Ii)に対する少なくとも1つの特異性を有する多量体分子、ならびに治療薬もしくは診断薬、自己抗体、抗移植片抗体、およびその他の望ましくない化合物のクリアランスのためのそれらの使用を記載している。他に特に明記されていない限り、または文脈から明らかでない限り、本明細書において用いられているところの抗体または結合ドメイン、領域およびフラグメントは、当該技術分野において既知の標準的な定義に一致するものとする(例えば、Abbasら、Cellular and Molecular Immunology(1991)、W. B. Saunders Company、Philadelphia、PA参照)。
【0011】
本発明の二重特異性分子は、標的細胞上の抗原と免疫系エフェクタ細胞上の抗原とを架橋結合することができる。これは、例えば、特定の関連のある抗原を細胞表面にもつ細胞に対する免疫応答を促進するのに有用でありうる。本発明によれば、免疫系のエフェクタ細胞は、細胞性免疫応答を活性化するT細胞のような抗原特異性細胞、および細胞性免疫応答を媒介するマクロファージ、好中球、ナチュラルキラー(NK)細胞などの非特異的細胞を含む。したがって、本発明の二重特異性分子は、免疫系のエフェクタ細胞の任意の細胞表面抗原に対するさらなる結合部位を持つことができる。そのような細胞表面抗原としては、例えば、サイトカインおよびリンフォカイン受容体、Fc受容体、CD3、CD16、CD28、CD32およびCD64があげられる。通常、抗原結合部位は、前記抗原に対する抗体に由来し、当該技術分野においてよく知られているscFvsによって提供される。サイトカインおよびリンフォカイン受容体に対して特異的な本発明の抗原結合部位は、該受容体の天然のリガンドの全てまたは一部に対応するアミノ酸の配列であることもできる。例えば、細胞表面抗原が、IL−2受容体である場合、本発明の抗原結合蛋白質は、IL−2に対応するアミノ酸の配列を含む抗原結合部位を持つことができる。他のサイトカインおよびリンフォカインとしては、例えば、インターロイキン−4(IL−4)およびインターロイキン−5(IL−5)などのインターロイキン、ならびに顆粒球−マクロファージCSF(GM−CSF)および顆粒球CSF(G−CSF)などのコロニー刺激因子(CSF)が挙げられる。
【0012】
実施例において証明され、図1に示されているように、CD86は、TIRC7およびHLAが発現される細胞上でも検出可能である。したがって、さらなる局面において、本発明は、CD86(B7−2)に結合するさらなる結合ドメインを有する二重特異性分子に関する。CD80およびCD86(それぞれB7−1およびB7−2としても知られている)は、両方ともT細胞共刺激受容体CD28およびCD152に対するリガンドである。CD80およびCD86は両方ともT細胞共刺激を媒介する。そのため、他家移植拒絶を促進する際のそれらの役割についての研究がなされてきた。CD80および/またはCD86共刺激分子に対する一本鎖Fv抗体、単一特異性および二重特異性ダイアボディ(diabodies)、ならびに二重特異性の四価抗体分子が、Dincqら、Protein Expr. Purif. 22 (2001)、11-24に記載されている。
【0013】
代替として、本発明の二重特異性分子は、CD86(B7−2)ドメインを含有する。最小化されたCD86(B7−2)ドメインと、腫瘍を標的化するための一本鎖抗体フラグメントとを含有する二重特異性共刺激分子の構成と特徴付けは、Rohrbach、Clin. Cancer Res. 6(2000)、4314-4322に記載されている。
【0014】
さらに、前記二重特異性分子のいずれか1つは、活性化されたエフェクタ細胞上においてFcガンマRIに結合する結合ドメインを含有してもよい。悪性のB細胞などの腫瘍を治療するための、このアプローチの臨床的潜在性は最も魅力的であると思われる。癌細胞表面上で抗FcガンマR scFγを発現させることによって、抗腫瘍免疫を引き起こすことは、Gruelら、Gene Ther. 8 (2001)、1721-1728に記載されている。
【0015】
付加的に又は代替的に、本発明の二重特異性分子は、CD3と結合する結合ドメインを含んでもよい。この態様は、癌腫の治療に特に有用である。例えば、三官能二重特異性抗体(アルファEpCAM x アルファCD3)による前立腺癌細胞の溶解を報告しているRiesenbergら、J. Histochem. Cytochem、49 (2001)、911-917参照。
【0016】
本発明の二重特異性分子における、これらおよび他の機能的ドメインの組み合わせ、ならびにそれらの使用は、本発明に含まれる。
【0017】
多重特異性分子の一般的な調製方法は、当該技術分野において既知である(例えば、Tomlinsonら、Methods Enzymol. 326 (2000)、461-479参照)。例えば、Fab鎖への融合を介しての一本鎖可変ドメインの効率的なヘテロ二量体化による、中間分子量体組換え二重特異性および三重特異性抗体は、Schoonjansら、Biomol. Eng. 17 (2001)、193-202に記載されている。癌標的化に対する高い結合活性を持つ二量体性および三量体性抗体は、Korttら、Biomol. Eng. 18 (2001)、95-108に記載されている。CD2、CD3およびCD28に対する、リウマチ性関節炎T細胞を刺激してTh1サイトカインを産生する三重特異性抗体は、Wongら、Scand. J. Rheumatol. 29 (2000)、282-287に記載されている。上記公報に記載されているあらゆる手段、方法および用途は、本発明の二重特異性分子に応用され、適用されることができ、そこに記載されている教示にしたがって使用することができる。
【0018】
本発明にしたがって、二重特異性分子を作製した後、本発明の二重特異性分子の二価または多価特異性を証明するために、種々のアッセイ、例えば、直接的および定量的結合アッセイなどが利用可能である。例えば、PCT国際公開第94/13804号、01/80883号、01/90192号および上記公報参照。生物学的に活性の二重特異性分子、例えば、抗腫瘍効果を持つと想定されているものを公知のin vitro試験セットアップ、およびマウス腫瘍モデルにおいて試験することができる。例えば、Beunら、Immunol. Today 21 (1994)、2413参照。
【0019】
本発明の二重特異性分子は、第1の結合ドメインが第1の免疫グロブリン可変領域であり、第2の結合ドメインが第2の免疫グロブリン可変領域であり、各領域はそれぞれTIRC7およびHLAを認識する二重特異性免疫グロブリンであることが好ましい。そのような免疫グロブリン可変領域は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体から、ならびに結合蛋白質のような免疫グロブリンのファージディスプレイおよび他のスクリーニング技法から取得することができる。記載したように、抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体であることができるが、合成抗体であることもでき、ならびにFab、FvまたはscFvフラグメントのような抗体のフラグメントでもよい。抗体またはそのフラグメントは、例えば、Harlow およびLane "Antibodies、A Laboratory Manual"、CSH Press、Cold Spring Harbor、1988または欧州特許第A 0 451 216号およびそこに引用されている文献に記載されている方法を用いて取得することができる。例えば、BIAcore systemに採用されているような表面プラスモン共鳴を用いて、TIRC7またはHLAのエピトープに結合するファージ抗体の効率を高めることができる(Schier、Human Antibodies Hybridomas 7 (1996)、97-105; Malmborg、J. Immunol. Methods 183 (1995)、7-13)。キメラ抗体の作製は、例えば、PCT国際公開第89/09622号に記載されている。ヒト化抗体の作製方法は、例えば、欧州特許第A1 0 239 400号およびPCT国際公開第90/07861号に記載されている。本発明に関して用いられる抗体の更なるソースは、いわゆる、異種抗体である。マウス中のヒト抗体などのような異種抗体作製の一般的な原理は、例えばPCT国際公開第91/10741号、94/02602号、96/34096号および96/33735号に記載されている。
【0020】
TIRC7に対するポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体は、PCT国際公開第99/11782号およびUtkuら、Immunity 9(1998)、509-518に記載されている。本発明の二重特異性分子の作製のためのTIRC7結合ドメインのソースとして特に有用な抗体は、2001年12月21日に出願され、その後のPCT出願にフォローアップされている欧州特許出願第0113 0730.3号に記載されている。
【0021】
HLAクラスIIアルファ鎖に特異的なもののようなHLAに対する抗体は、例えば、Abcam Ltd、Cambridge、UKから市販されている。さらに、本発明において用いることができるHLAクラスII抗体は、Valeriusら、Leuk. Lymphoma、26 (1997)、261-269に記載されている。
【0022】
前記したように、本発明の二重特異性分子は、二量体分子、多量体分子または一本鎖分子であることができる。一本鎖二重特異性分子においては、結合ドメイン、好ましくは、Fv領域は、ドメインどうしを会合させて機能的な抗原結合部位を形成する、ペプチドリンカーで結合されている(例えば、PCT国際公開第88/09344号、第92/01047号参照)。scFvsを作製するために使用されるペプチドリンカーは、VドメインとVドメインの適切な3次元折り畳みおよび会合、ならびに標的分子結合特異性の維持を確実にするために選択されたフレキシブルなペプチドである。一般的に、VまたはV配列のカルボキシ末端は、そのようなペプチドリンカーによって相補的なVまたはV配列のアミノ末端に共有結合している。該リンカーは、一般的に、10〜50のアミノ酸残基であるが、抗原結合部位を作製し得るのに十分なあらゆる長さが意図される。該リンカーは、10〜30のアミノ酸残基であることが好ましい。該リンカーは、12〜30のアミノ酸残基であることがより好ましい。15〜25のアミノ酸残基のリンカーが最も好ましい。そのようなリンカーペプチドの例としては、(Gly-Gly-Gly-Gly-Ser)の3回繰り返しが含まれる。
【0023】
好ましい態様において、本発明の二重特異性分子は、二重特異性抗体である。二重特異性抗体は、例えば、結合ドメインを含むポリペプチド鎖の会合のためのFc定常領域を含んでもよい。ポリペプチド鎖の会合を提供することに加えて、Fc定常ドメインは、他の免疫グロブリン機能に貢献する。該機能としては、補体媒介性の細胞毒性の活性化、抗体依存性の細胞媒介性細胞毒性の活性化およびFc受容体結合が含まれる。本発明の抗原結合蛋白質が、治療または診断目的で投与される場合、Fc定常ドメインは、血清半減期にも貢献することができる。Fc定常ドメインは、あらゆる哺乳動物または鳥類種からのものであることができる。本発明の抗原結合蛋白質をヒトの治療に使用する場合、可変ドメインは非ヒトであってもよいが、定常ドメインはヒト起源が好ましい。ヒト可変ドメインが好ましい場合、キメラscFvsを使用することができる。二重特異性抗体を作製するための更なる手段および方法が当該技術分野において記載されている。例えば、2つのポリペプチド鎖を含有する結合錯体からなる二重特異性または二価の二重ヘッド(double head)抗体フラグメントの作製方法を記載したPCT国際公報第97/14719号、およびPCT国際公報第01/80883号参照。さらに本発明の二重特異性分子は、補体媒介性の細胞毒性および抗体依存性細胞毒性を活性化する能力を含む天然の抗体として機能する能力を維持しながら、それらの抗原に対する結合活性について最適化することができる。例えば、PCT国際公報第01/90192号参照。
【0024】
本発明の二重特異性分子は、特にTIRC7刺激が望ましい場合、TIRC7またはHLA蛋白質の天然のリガンドまたは結合パートナーの結合特異性と少なくとも実質的に同一の特異性を持つことが好ましい。TIRC7またはHLAに結合する結合ドメインは、少なくとも10−5M、好ましくは10−7Mより大きい、有利には最大10−10Mの結合アフィニティーを持つことができる。好ましい態様において、二重特異性分子は、TIRC7およびHLAのいずれかまたは双方に対して、少なくとも約10−7M、好ましくは、少なくとも約10−9M、最も好ましくは、少なくとも約10−11Mの結合アフィニティーを持つ。別の態様において、二重特異性分子は、TIRC7およびHLAのいずれか、または双方に対して、約10−7M未満、好ましくは約10−6M未満、最も好ましくは10−5M程度の結合アフィニティーを持つ。
【0025】
さらに、本発明は、本発明の二重特異性分子をコードする核酸分子または核酸分子の組成物に関する。特に前記核酸分子は、少なくとも結合ドメイン、例えば、先に述べた抗体のうちいずれか1つの免疫グロブリン鎖の可変領域をコードする。該核酸分子は、発現制御配列に作用可能に結合することが好ましい。通常、核酸分子は、ベクター、好ましくは遺伝子工学において従来から用いられている発現ベクター、例えば、プラスミドの一部であろう。本明細書中に引用されている参考文献参照。さらに、本発明は、上記核酸分子またはその組成物を含む細胞に関する。該細胞は、例えば、大腸菌(E. coli)、ネズミチフス菌(S. typhimurium)、セラチア・マルッセンス(Serratia marcescens)、および枯草菌(Bacillus subtillis)といった、グラム陰性菌ならびにグラム陽性菌を含む原核宿主細胞、または酵母、高等植物、昆虫および好ましくは哺乳動物細胞、最も好ましくはNSOおよびCHO細胞を含む真核細胞または細胞系列であってもよい。好ましくは、前記細胞は、二重特異性分子またはそのサブユニットが細胞膜を介して分泌されるように、本発明の二重特異性分子を発現することが可能である。DNA配列のための好適なソース細胞およびイムノグロブリン発現および分泌のための宿主細胞は、American Type Culture Collection ("Catalogue of Cell Lines and Hybridomas"、第5版(1985) Rockville、Maryland、U. S. A.、それを本明細書に引用によって援用する)などの多くのソースから入手可能である。本発明はまた、本発明の二重特異性分子またはその結合ドメインを、それらが細胞膜上に局在化するように発現する細胞も想定する。本態様において、本発明の二重特異性分子またはその結合ドメインは、例えば、補体細胞誘引のための細胞膜受容体としても機能する。
【0026】
本発明はまた、TIRC7と結合する第1の結合ドメインとHLAに結合する第2の結合ドメインとを架橋結合することを含む本発明の二重特異性分子を作製する方法を含む。二重特異性蛋白質、好ましくは抗体フラグメントを作製するための従来の技法は、当該技術分野において既知である。例えば、PCT国際公開第98/04592号およびそこに引用されている文献参照。インタクトな抗体のような開始物質は、当該技術分野において知られている方法によって取得することができる。上掲書およびCurrent Protocols in Immunology、J. E. Codigan、A. M. Krvisbeck、D. H.Margulies、E. M. Shevack、W. Strober eds.、John Wiley + Sons参照。個別の反応および精製工程をどのようにして行うかについても当該技術分野において既知である。例えば、Brennanら、Science 229 (1985)、81-83;Jungら、Eur. J. Immunol. 21 (1991)、2491-2495参照。
【0027】
本発明はまた、上記細胞を適切な条件下で培養すること、および二重特性分子またはその部分を単離することを含む、二重特異性分子の作製方法に関する。抗体フラグメントなどの二重特異性分子および/または多価分子を作製するために、種々の化学的および組換え方法が開発されている。参考として、HolligerおよびWinter、Curr. Opin. Biotechnol. 4 (1993)、446-449;Carterら、J. Hematotherapy 4 (1995)、463-470;PluckthunおよびPack、Immunotechnology 3 (1997)、83-105参照。例えば、二重特異性および/または多価性は、フレキシブルなリンカー、ロイシンジッパーモチーフ、CHCL−ヘテロダイマー化を介して2つのscFv分子を融合することによって、およびscFv分子を会合して二価の単一特異性ダイアボディ(diabodies)および関連する構造を作製することによって達成することができる。多重特異性または多価性は、例えば、p53、ストレプトアビジンおよびへリックス‐ターン‐へリックスモチーフを用いて、scFvまたはFabフラグメントのカルボキシ末端またはアミノ末端に多量体配列を付加することによって達成されてきた。例えば、(scFvl)−ヒンジ-ヘリックス-タム(tum)-ヘリックス-(scFv2)の形態のscFv融合蛋白質のへリックスーターン‐へリックスモチーフを介しての多量体化によって、四価二重特異性ミニ抗体が、2つの標的抗原のそれぞれのための2つのscFv結合部位を備えて作製される。それらが多かれ少なかれ、完全なIgG定常ドメイン構造を有しているという点でIgGと類似している、IgG型二重特異性抗体の作製は、2つの異なるIgG分子の化学的架橋によって、または同じ細胞からの2つの抗体の共発現によって達成された。化学的架橋については、例えば、Merchantら、Nat. Biotechnology 16 (1998)、677-681に記載されている。さらに、1つの端部において1つの抗原に結合し、他の端部において第2の抗原に結合する二価、二重特性分子のホモジーニアスポピュレーションの作製は、ColonnaおよびMorrison、Nat. Biotechnology 15(1997)、159-163に記載されている。抗体に由来する二重特異性組換え抗体のフラグメントのような二重特異性分子を発現および精製するための、さらなる手段および方法は当該技術分野において既知である(例えば、Dincqら、Protein Expr. Purif. 22(2001)、11-24参照)。
【0028】
さらに、本発明は、本発明の二重特異性分子またはその化学的誘導体、核酸分子または上記組成物または細胞を1以上の区画に含む組成物に関する。本発明の組成物は、医薬上許容される担体をさらに含んでもよい。用語「化学的誘導体」は、通常は基剤分子の一部ではない付加的な化学的部分を含有する分子を表す。そのような部分は、基剤分子の溶解性、半減期、吸収性などを向上させることができる。あるいは、該部分は、基剤分子の望ましくない副作用を弱め、または基剤分子の毒性を減少させることができる。そのような部分の例は、Remington's Pharmaceutical Sciencesのような様々なテキストに記載されている。好適な医薬的担体の例は、当該技術分野においてよく知られており、それらは、リン酸緩衝生理食塩水、水、油/水型エマルジョンのようなエマルジョン、種々のタイプの湿潤剤、無菌溶液等を含む。そのような担体を含む組成物は、公知の常法によって製剤することができる。これらの医薬組成物は、好適な用量で対象に投与することができる。好適な組成物の投与は、種々の方法によって、例えば、静脈内、腹腔内、皮下、筋肉内、局所または皮内投与によって行うことができる。鼻スプレー製剤のようなエアロゾル製剤は、他の精製された水溶性または活性物質と保存物質および等張物質との溶液を含む。そのような製剤は、pHおよび等張性を鼻粘膜に適合するように調節されることが好ましい。直腸または膣投与のための製剤としては、好適な担体を含む坐剤があげられる。
【0029】
用量投与計画は、担当医および臨床的因子によって決定されるであろう。医学分野では公知であるが、いずれの患者についての用量も、患者の大きさ、体表面積、年齢、投与される特定の化合物、性別、投与の時間および経路、全体的な健康状態、および同時に投与される他の薬物を含む多くの因子に依存する。典型的な用量は、例えば、0.001〜1000μgとすることができる(または発現のため、または発現を阻害するための核酸の用量はこの範囲内)。しかしながら、特に、上記要因を考慮して、この例示の範囲を下回る、または上回る用量も含まれる。一般的に、医薬組成物の定期的な投与としての投与計画は、1日当たり1μg〜10mgユニットとすべきである。投与計画が連続的な点滴注入である場合には、1分間に体重1kgあたり1μg〜10mgユニットの範囲にそれぞれすべきである。進行は周期的評価を行うことによってモニターすることができる。用量は変化するが、DNAの静脈内投与の好ましい用量は、DNA分子約10〜1012コピーである。本発明の組成物は、局所的または全身的に投与してもよい。投与は一般的に、非経口、例えば、静脈内とする、DNAはまた、例えば、標的の内部もしくは外部に対する遺伝子銃送達によって、または、動脈内部位へのカテーテルによって、標的部位に直接投与することもできる。非経口投与用製剤は、無菌水溶性もしくは非水溶性溶液、懸濁液、およびエマルジョンを含む。非水溶性溶媒の例としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油のような植物油、オレイン酸エチルのような注射可能な有機エステルである。水溶性担体には、生理食塩液および緩衝液を含む、水、アルコール/水溶液、エマルジョンまたは懸濁液が含まれる。非経口溶媒には、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳酸リンゲル液、または固定油が含まれる。静脈内投与用溶媒には流体および栄養補給液、電解質補給液(リンゲルデキストロースを基礎とするものなど)等が含まれる。抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤および不活性ガス等の保存剤およびその他の添加剤が存在してもよい。さらに、本発明の医薬組成物は、該医薬組成物の目的とする用途に応じて、インターロイキンまたはインターフェロンのような物質をさらに含んでもよい。
【0030】
好ましい態様において、本発明の医薬組成物は、少なくとも1つのさらなる治療上有効な物質、好ましくは免疫抑制剤、例えば、ATG、ALG、OKT3、アザチオプリン、ミコフェニレート、モフェチル、シクロスポリンA、FK506、シロリムス(Sirolimus)(Rapamune)および/またはコルチコステロイドを含む。さらに、本発明の医薬組成物が受動免疫化のために上記の二重特性性分子を含む場合、該医薬組成物はワクチンとして製剤することもできる。
【0031】
本発明の治療的または診断的組成物は、異常の治療または診断にとって十分な治療上有効な量が個体に投与される。該有効量は、個人の状態、体重、性別および年齢などの種々の要因にしたがって、変更することができる。他の要因としては、投与様式が含まれる。医薬組成物は、冠内、腹腔内、皮下、静脈内、経皮、滑液内、筋肉内または経口投与などの種々の経路で個体に提供され得る。さらに、他の薬剤の共投与または連続投与も望ましいことがある。治療上有効な量とは、本発明の二重特異性抗体が、徴候または状態を回復させるのに有効な量を言う。そのような化合物の治療的有効性および毒性は、細胞培養液または実験動物において標準的な医薬的手順によって決定することができる。例えば、ED50(母集団の50%において治療上有効な量)およびLD50(母集団の50%が死に至る用量)。治療的効果と毒性効果との間の用量比は、治療的指標であり、それはLD50/ED50として表すことができる。
【0032】
診断で用いるために、生物分子を標識する種々の技法が利用可能であり、当業者にはよく知られており、そしてそれらは、本発明の範囲に属すると考えられる。そのような技法は、例えば、Tijssen、"Practice and theory of enzyme immuno assays"、Burden, RH and von Knippenburg(Eds)、Volume 15(1985)、"Basic methods in molecular biology" ; Davis LG, Dibmer MD; Battey Elsevier(1990)、Mayerら、(Eds) "Immunochemical methods in cell and molecular biology"Academic Press、London(1987)、またはseries"Methods in Enzymology"、Academic Press、Inc.に記載されている。当業者によく知られている多くの異なる標識および標識方法がある。通常用いられる標識は、とりわけ、蛍光色素(フルオロセイン、ローダミン、Texas Redなど)、酵素(西洋ワサビペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、アルカリホスファターゼなど)、放射性同位体(32Pまたは125Iなど)、ビオチン、ジゴキシゲニン、コロイド性金属、化学的もしくは生物的発光化合物(ジオキセタン、ルミノール、またはアクリジニウム)である。酵素またはビオチニル基の共有結合、ヨウ素化、リン酸化、ビオチニル化、ランダムプライミング、ニックトランスレーション、テーリング(末端トランスフェラーゼを使用)の共有結合のような標識化手順が当該技術分野において既知である。検出方法は、限定されるものではないが、オートラジオグラフィー、蛍光顕微鏡、直接的および間接的酵素反応などを含む。
【0033】
加えて、上記化合物などは、固相に付着されていてもよい。固相は、当業者に既知であり、ポリスチレンビーズ、ラテックスビーズ、磁性ビーズ、コロイド金属粒子、ガラスおよび/またはシリコンチップおよび面、ニトロセルロースストリップ、膜、シート、動物赤血球、または赤血球ゴースト、デュラサイト(duracytes)および反応トレイのウェルの壁、プラスチックチューブ、またはその他の試験管を含むことができる。固相上の本発明の二重特異性分子を固定する好適な方法は、限定されるものではないが、イオン性、疎水性、共有結合的相互作用などを含む。固相は、上で定義した領域を引き付け固定する能力を有する1以上のさらなるレセプターを保持することができる。このレセプターは、試薬それ自体または捕獲試薬に結合した荷電物質に対して逆に荷電した荷電物質を含むことができるか、または、該レセプターは、固相に固定化された(付着した)、かつ前記定義の試薬を固定することができる、あらゆる特異的な結合パートナーでもあり得る。
【0034】
一般に使用される検出アッセイは、放射性同位体または非放射性同位体方法を含むことができる。これらは、とりわけ、RIA(放射性同位体アッセイ)およびIRMA(免疫ラジオイムノメトリックアッセイ)、EIA(酵素免疫アッセイ)、ELISA(酵素連結イムノアッセイ)、FIA(蛍光免疫アッセイ)およびCLIA(ケミルミネセント免疫アッセイ)を含む。当該分野で用いられる他の検出方法としては、トレーサー分子を用いないものがある。これらの方法の1つのプロトタイプは、少なくとも2つの粒子を架橋する、所与の分子の特性に基づく凝集アッセイである。
【0035】
本発明はまた、本発明の二重特異性分子を含むキットに関する。そのようなキットは、限定されるものではないが、法医学分析、診断的用途、および上記疾患および異常に関する疫学的研究を含む種々の目的で有用である。そのようなキットは、典型的には、少なくとも1つの容器を密接な封じ込めにて保持するのに適した区画化キャリアを含む。該キャリアはさらに、標識抗原または酵素基質などの検出用の手段を含むこともできる。
【0036】
前記したように、本発明の組成物は、診断、予防法、ワクチン接種または治療に有用である。したがって、本発明は、免疫応答の異常に関連する疾患の治療、好ましくは、移植片対宿主病、自己免疫疾患、アレルギー性疾患、感染症、敗血症、糖尿病の治療、腫瘍の治療、創傷治癒の改善、または対象における免疫不応答の誘発もしくは維持用の、医薬組成物または診断用組成物を調製するための二重特異性分子、核酸分子もしくは組成物、または細胞の使用に関する。好ましくは、治療または診断されるべき腫瘍は、神経膠芽細胞腫、神経髄芽細胞腫、星状膠細胞腫、未分化神経外胚葉性腫瘍(primitive neuroectoderma)、脳幹神経膠腫癌、結腸癌、気管支癌、扁平上皮癌、サルコーマ、乳癌、頭部/頚部の癌、T細胞リンパ腫、B細胞リンパ腫、中皮腫、白血病、髄膜腫からなる群から選択される。
【0037】
これらの態様において、本発明の二重特異性分子は、抗腫瘍剤または検出可能なシグナル生成物質に化学的または生合成的に結合することができる。上掲書も参照。二重特異性分子、例えば、二重特異性抗体に結合した抗腫瘍剤は、抗体が結合した腫瘍、または抗体が結合した細胞の周辺を破壊または損傷するあらゆる物質を含む。例えば、抗腫瘍剤は、化学療法剤または放射性同位体のような毒性物質である。好適な抗腫瘍剤は、当該技術分野において知られており、アントラサイクリン(例えば、ダウノマイシン、ドキソルビシンを含む)、メトトレキサート、ビンデシン、ネオカルチノスタチン、シスプラチナム、クロラムブシル、シトシンアラビノシド、5−フルオロウリジン、メルファラン、リシンおよびカリケアマイシンを含む。化学療法剤は、従来の方法を用いて抗体に結合する(例えば、HermentinおよびSeiler、Behring Inst. Mitt. 82(1988)、197-215参照)。
【0038】
検出可能なシグナル生成物質は、診断目的では、in vivoおよびin vitroで有用である。該シグナル生成物質は、外的手段、通常は電磁放射測定によって検出可能な測定可能なシグナルを生成する。大部分は、シグナル生成物質は、酵素もしくはクロモホアであり、または蛍光発光、燐光もしくは化学ルミネセンスにより発光する。クロモホアは、紫外線もしくは可視光波長の範囲の光を吸収する色素を含み、基質または酵素触媒反応の基質または分解産物であることができる。
【0039】
本発明はさらに、標的またはレポーター部分が結合する本発明の二重特性分子を意図している。標的部分は、結合対の第1の部材である。例えば、抗腫瘍剤は、そのような対の第2の部材に結合し、それによって抗原結合蛋白質が結合する部位に方向付けられる。そのような結合対の一般的な例としては、アビジン(adivin)とビオチンがある。好ましい態様において、ビオチンは、本発明の二重特異性分子に結合することによって、アビジンもしくはストレプトアビジンに結合する抗腫瘍剤またはその他の部分のための標的となる。あるいは、ビオチンもしくは別のそのような部分は、例えば、検出可能なシグナル生成物質がアビジンもしくはストレプトアビジンに結合している診断系においては、本発明の二重特異性分子に結合し、レポーターとして使用される。抗腫瘍剤として使用される好適な放射性同位体も当該技術分野において既知である。例えば、131Iまたは211Atが用いられる。これらの同位元素は、従来の技法を用いて抗体に付着される。例えば、Pedleyら、Br. J. Cancer 68(1993)、69-73参照。あるいは、抗体に付着する抗腫瘍剤は、プロドラッグを活性化する酵素である。このように、プロドラッグは、抗体の複合体が投与された時、その細胞毒素の形態に変換される場合、腫瘍部位と反応するまで不活性の形態のまま投与される。実際には、抗体−酵素コンジュゲートが患者に投与され、治療される組織の領域に局在化される。次いで、治療される組織の領域において、細胞毒への変換が起こるようにプロドラッグが患者に投与される。あるいは、抗体に結合した抗腫瘍剤は、インターロイキン−2(IL−2)、インターロイキン−4(IL−4)または腫瘍壊死因子アルファ(TNF−α)などのサイトカインである。抗体は、サイトカインがその他の組織に影響を及ぼすことなく、腫瘍の損傷または破壊を媒介するように、サイトカインを腫瘍に対する標的とする。該サイトカインは、従来の組換えDNA技法を用いてDNAレベルで抗体に融合される。
【0040】
本発明はさらに、上記疾患に関連する望ましくない状態を持つ哺乳動物を治療する方法であって、前記哺乳動物に対して、前記本発明の二重特異性分子のいずれか1つの治療上有効な量を投与することを含む方法に関する。
【0041】
本明細書において、用語「治療」、「治療する」などは、一般的に所望の薬理学的および/または生理学的効果を得ることを意味するのに用いられている。その効果は、疾患もしくはその徴候を完全もしくは部分的に防ぐという意味において、予防的であるかもしれない、ならびに/または、疾患および/もしくはその疾患に付随する有害作用を完全もしくは部分的に治療するという意味において治療的であるかもしれない。本明細書で用いられている用語「治療」は、哺乳動物、特にヒトにおける疾患のあらゆる治療を包含し、(a)その疾患に罹患する素因があるが、罹患しているといまだ診断されていない患者において発症を防ぐこと、(b)該疾患を阻害すること、すなわち、その進展を抑止すること、または(c)疾患を緩和すること、すなわち、その疾患の退行を引き起こすことを含む。
【0042】
本発明の二重特異性分子を含む組成物は培養物に添加することができる(in vitro)、または哺乳動物などの患者を治療する(in vivo)ために用いることができる。患者を治療するために該二重特異性分子を用いる場合、該二重特異性分子は、例えば、安定性を促進するためのより大きな分子などの医薬上許容される担体と、または単一のエンティティーに結合される複数のユニットをもつ二重特異性分子のための担体として機能する医薬上許容される緩衝剤と、医薬組成物に組み合わせることが好ましい。本発明の方法は、患者、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトに対して、本発明の組成物の望ましい効果を生成するのに有効な量を投与することを含む。二重特異性分子は、単回用量としてまたは多数回用量として投与することができる。活性剤の有用な用量は、動物モデルにおいて、それらのin vitroでの活性とin vivoでの活性を比較して決定することができる。例えば、異種(heterologous)のインタクトの二重特異性および/または三重特異性抗体のex vivoの免疫化の方法については、欧州特許第A-885 614号に記載されている。三官能性二重特異性抗体による持続性の長い抗腫瘍免疫化の誘導はRuf and Lindhofer、Blood 98 (2001)、2526-2534において報告されている。
【0043】
マウスおよび他の動物における効果的な用量のヒトへの外挿の方法は、当該技術分野において既知である。本発明はまた、免疫細胞(例えば、T細胞、B細胞、NK細胞、LAK細胞または樹状細胞)の活性化、増殖、および/または免疫細胞と上記二重特異性分子とを接触させることを含む分化を調整する方法を提供する。
【0044】
これらおよび他の態様は、本発明の明細書および実施例によって開示されており、それらに含まれる。本発明に従って用いられる抗体、方法、使用および化合物のいずれか一つに関するさらなる文献は、公共の図書館およびデータベースから、例えば電子機器を用いて検索してもよい。例えば、公共のデータベースである「Medline」を用いることができる。これは、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/PubMed/medline.html から、インターネット上で入手することができる。さらに、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/、 http://www.infobiogen.fr/、http://www.fmi.ch/biology/research_tools.html、 http://www.tigr.org/のようなデータベースおよびアドレスは、当業者に既知であり、また、例えば、http://www.lycos.comなどを用いて取得することもできる。バイオテクノロジーの特許情報の概要ならびに遡及的サーチで、および現在の認識で有用な特許情報の関連ソースは、Berks、TIBTECH 12(1994)、352-364に提供されている。
【0045】
本明細書に開示されている本発明の原理の変形例は、当該技術分野の当業者によってなされることが可能であることが理解され、期待されるものであり、そのような変形は本発明の範囲に含まれるものであることが意図される。
【0046】
本発明を以下の実施例においてさらに説明するが、本発明の範囲を限定するものであると決して解釈されるべきではない。ベクターやプラスミドの構築、ポリペプチドをコードする遺伝子のそのようなベクターやプラスミドへの挿入、プラスミドの宿主細胞への導入、および遺伝子および遺伝子産物の発現および発現の確認に採用されるものなどの従来の方法の詳細な説明は、Sambrookら(1989)Molecular Cloning: A Laboratory Manual、2nd ed.、Cold Spring Harbor Laboratory Pressを始めとした多数の文献から取得することができる。二重特異性分子の組換え的作製に特に有用な手段および方法は、PCT国際公開第94/13804号、第01/80883号および第01/90192号に記載されている。全ての文献の完全な開示を本発明に引用によって援用する。
【0047】
本発明を実施例によって説明する。
【実施例】
【0048】
実施例1:TIRC7およびHLAの共局在化
ヒトPBMCをPHAによって3日間活性化し、Utkuら、Immunity、1998に記載のように、さらなる共焦顕微鏡分析を行うためにスライドに貼り付けた。TIRC7蛋白質の染色には、特異的な抗TIRC7ポリクローナル抗体Ab79を用い、PEで間接的に染色した。HLAクラスIIについては、mAb CHL10(Santa Cruz)、CD86については、mAb(Santa Cruz)を用い、FITCを用で間接的に染色を行った。
【0049】
実施例2:二重特異性F(ab')抗体フラグメントの作製
原則的に、インタクトなポリクローナルまたはモノクローナル抗TIRC7および抗HLA抗体(それぞれ上掲参照)を用いて、二重特異性抗体フラグメントを調製することができる。例えば、Brennanら、Science 229(1985)、81-83参照。例えば、実施例1で使用されるインタクトな抗TIRC7および抗HLA抗体は、ペプシン消化(pH4.0のアセテート緩衝剤中、37℃で3時間、Sigma製ペプシン)によって断片化してF(ab')フラグメントとし、抗体のFc部分を切断する。Tris緩衝剤を用いてpH値を8まで上昇させることによって、その反応を終了させ、得られたF(ab')フラグメントをカラムクロマトグラフィー(例えば、Superdex 200カラム)によって精製する。次に、精製したF(ab')分子のヒンジ領域のジスルフィド結合を、亜ヒ酸の存在下で還元することによって消化し、このようにして得られたF(ab')−SHフラグメントを再びカラムクロマトグラフィーによって精製し、その還元されたSH基をエルマン試薬(DTNB)を用いて修飾し、F(ab')−TNB(5,5’−ジチオビス−2−ニトロ安息香酸(DTNB;Sigma)とチオニトロベンゾエート(TNB)の等体積混合物(DTNB−TNB混合物のモル比20:30)を室温で20時間インキュベートし、40mM DTNB溶液と10 mM DTT溶液で数分インキュベートすることによって調節を行う)とする。カラムクロマトグラフィーによってさらに精製した後、2つの抗体フラグメントのうちの1つをF(ab')−SHに還元し(0.1 mM DTT(Sigma)、25℃で1時間)、カラムクロマトグラフィーによって精製し、他のF(ab')−TNBフラグメントにハイブリダイズし(25℃で1時間)、二重特異性F(ab')フラグメントを得る。最終的に、このようにして得た二重特異性抗体フラグメントをゲルクロマトグラフィーによって精製する。
【0050】
二重特異性分子をさらに修飾し、例えば、蛍光着色剤によって標識し、とりわけ、ヒト腫瘍物質との結合、リンパ球増殖および細胞毒性試験における活性ならびにin vivo条件下での安定性を、例えば、37℃で、ヒト血清中でインキュベートすることによって調べることができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】抗TIRC7、HLAおよびCD86抗体で活性化されたT細胞のFITC染色。 TIRC7(a)およびHLA(b)は、(c)に示す72時間活性化したヒトT細胞の細胞膜上に共局在化している。一方、TIRC7は、CD86(TIRC+CD86)とは共局在化しない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
T細胞免疫応答cDNA7(TIRC7)に結合する第1の結合ドメインと、HLA−(ヒト白血球関連抗原)に結合する第2の結合ドメインとを含む二重特異性分子。
【請求項2】
前記第1の結合ドメインが第1の免疫グロブリン可変領域であり、前記第2の結合ドメインが第2の免疫グロブリン可変領域である二重特異性免疫グロブリンである、請求項1に記載の二重特異性分子。
【請求項3】
一本鎖分子または二量体分子または多量体分子である、請求項1または2に記載の二重特異性分子。
【請求項4】
少なくとも1つのさらなる機能的ドメインを有する、請求項1または2に記載の二重特異性分子。
【請求項5】
二重特異性抗体である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の二重特異性分子。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の二重特異性分子をコードする核酸分子または核酸分子の組成物。
【請求項7】
前記核酸分子のいずれか1つは、発現制御配列に作用可能に結合する、請求項6に記載の核酸分子または組成物。
【請求項8】
請求項6または7の核酸分子または組成物によって形質転換された細胞。
【請求項9】
TIRC7に結合する第1の結合ドメインと、HLAに結合する第2の結合ドメインとを架橋結合させることを含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の二重特異性分子を作製する方法。
【請求項10】
請求項8に記載の前記細胞を適切な条件下で培養すること、および二重特性分子またはその部分を単離することを含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の二重特異性分子を作製する方法。
【請求項11】
請求項1〜5のいずれかに1項に記載の二重特異性分子、請求項6または7に記載の核酸分子若しくは組成物、又は請求項8に記載の細胞を1以上の区画に含み、および任意に医薬上許容される担体を含む組成物。
【請求項12】
診断、予防法、ワクチン接種または治療に使用される、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
免疫応答の異常に関連する疾患の治療用の、好ましくは、移植片対宿主病、自己免疫疾患、アレルギー性疾患、感染症、敗血症、糖尿病の治療、腫瘍の治療、創傷治癒の改善、または対象における免疫不応答の誘発もしくは維持用の、医薬組成物を調製するための、請求項1〜5のいずれか1項に記載の二重特異性分子、請求項6または7に記載の核酸分子または組成物、または請求項8に記載の細胞の使用。
【請求項14】
非ヒト哺乳動物に、請求項1〜5のいずれか1項に記載の二重特異性分子の治療上有効な量を投与することを含む、請求項13に記載の疾患に関連する望ましくない状態を持つ非ヒト哺乳動物を治療する方法。

【図1】
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【公表番号】特表2006−500007(P2006−500007A)
【公表日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−587842(P2003−587842)
【出願日】平成15年4月25日(2003.4.25)
【国際出願番号】PCT/EP2003/004339
【国際公開番号】WO2003/091285
【国際公開日】平成15年11月6日(2003.11.6)
【出願人】(504235768)ゲンパト77 ファーマコジェネティクス エージー (2)
【氏名又は名称原語表記】GENPAT77 PHARMACOGENETICS AG
【住所又は居所原語表記】Robert−Koch−Platz 4, Luisencarree, 10115 Berlin (DE)
【Fターム(参考)】