説明

免震位置任意設定可能な免震装置

【課題】平常時には壁面に面する位置など空間の有効活用が図れる位置に免震対象物を配置し、地震発生時には、4方向で障害物のない位置へ移動して免震動作を発揮する免震装置である。
【解決手段】固定ベース3と、免震対象物が載置される移動テーブル5と、その間に設置される免震機構部6とを有する免震装置において、第1に、移動テーブル5に原点設定バネポスト7を設け、固定ベース3に固定バネポスト7を複数箇所設ける。第2に、複数箇所の固定バネポスト17、18と原点設定バネポスト7とをスプリング15、16で接続する。第3に、スプリング15,16の付勢力の強さと、各バネポスト17,18の位置の設定で、移動テーブル5が安定停止する位置である原点位置を固定ベース3の位置と偏心する位置に設定する。第4に、移動テーブル5と固定テーブルとをズレのない位置で地震感知時にのみ解除されるストッパー19で固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震位置を任意に設定可能な免震装置に関するもので、主として屋内に設置される器具備品である試験機器、ショーケース、薬品棚などの下に用いて、これらの器具備品等を地震の揺れから守り、転倒や破損を防止する免震装置を主眼に開発されたものである。
【背景技術】
【0002】
従来、地震対策というと建造物の耐震がその中心であったが、建造物が倒れないだけでは十分ではなく、地震の揺れを建造物に与えず受け流すという免震技術が注目されだした。近年では高層住宅を始め戸建て住宅でも免震化住宅が普及してきた。
【0003】
免震技術の活用は、住宅のような建造物が中心であったが、試験場や大学その他の研究機関などからは、試験機器、ショーケース、薬品棚などの器具備品においても、地震の揺れから守る必要があるとの認識により、その活用が望まれるようになった。
【0004】
建造物に比べると小型軽量機器用免震装置、特にスプリングを用いた免震装置は、特許文献1及び特許文献2に示されるように何種類か提案されているが、数が少なく、社会的要望に応えられるものではなかった。さらに、特許文献1及び2等で提供される免震装置は、支承・復元・減衰という免震機能そのものをテーマにするものであった。
【0005】
しかし、薬品棚などの器具備品は、壁面や他の器具備品に接して配置されることが多い。例えば薬品棚の背面と側面が壁に接している場合がある。このような状態であると、前後左右4方向に動作する免震装置を利用したとしても、背面方向と側面方向への免震は機能できないものであった。しかし、この種の器具備品を、壁などの障害物のない位置に配置することは、施設や住居内の空間の有効利用から無理であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−329191号公開特許公報
【特許文献2】特開2008−138751号公開特許公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、免震動作の中心位置(原点位置)を前後左右4方向で障害物のない位置に設定し、その後、所望位置、例えば壁面に面する位置に移動テーブルを移動させ、該移動テーブル上に、免震対象物を配置し、平常時は壁面に面する位置など空間の有効活用を図れる位置に免震対象物を配置して利用し、地震発生時には、4方向で障害物のない位置へ移動して免震動作を発揮できる免震位置を任意に設定可能な免震装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、第1の発明は、下面側に床面等への設置部が形成された固定ベースと、該固定ベース上方に移動可能に配置され、上面側に免震対象物が載置される天板部が形成された移動テーブルと、両者の間に設置される免震機構部とを有する免震装置に次の手段を採用する。
【0009】
第1に、前記移動テーブルに原点設定バネポストを設け、固定ベースに固定バネポストを複数箇所設ける。
第2に、該複数箇所の固定バネポストと原点設定バネポストとをスプリングで接続する。
第3に、該スプリングの付勢力の強さと、原点設定バネポスト及び固定バネポストの位置の設定により、前記移動テーブルが安定停止する位置である原点位置を前記固定ベースの位置と偏心する位置に設定する。
第4に、前記移動テーブルと前記固定テーブルとをズレのない位置で地震感知時にのみ解除されるストッパーで該移動テーブルと前記固定ベースとを固定したことを特徴とする免震位置任意設定可能な免震装置とする。
【0010】
第2の発明は、第1の発明に、上記固定バネポストが二カ所設けられ、該二カ所の固定バネポストと原点設定バネポストとを第1及び第2のスプリングで接続したものであることを付加した免震位置任意設定可能な免震装置とする。
【0011】
第3の発明は、第1または第2の発明に、上記移動テーブルの移動範囲が、水平面での縦方向とそれと直交する横方向の範囲であることを付加した免震位置任意設定可能な免震装置とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、スプリングの付勢力の強さ(スプリングの長さ及びバネ乗数などで決定される)と、原点設定バネポスト及び固定バネポストの位置の設定により、前記移動テーブルが安定停止する位置である原点位置を前記固定ベースの位置と偏心する位置に設定してあるため、地震感知時にストッパーが解除されれば、該移動テーブルは、前記固定ベースと偏心した原点位置に移動し免震動作を行う。
【0013】
従って、平常時は壁面に面する位置などに免震対象物を置くことができ、空間の有効活用を図れるとともに、地震発生時には、4方向で障害物のない位置へ移動して免震作用を発揮できる免震位置任意設定可能な免震装置となった。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】免震位置任意設定可能な免震装置の正面説明図
【図2】移動テーブルの裏面図
【図3】固定ベースの上面図
【図4】免震動作前の状態を示す側面説明図
【図5】免震動作時の状態を示す側面説明図
【図6】免震動作前の移動テーブルに薬品棚が載置された状態を示す説明図で、(A)は正面図で、(B)は平面図である。
【図7】免震動作中の移動テーブルに薬品棚が載置された状態を示す説明図で、(A)は正面図で、(B)は平面図である。
【図8】免震原点位置の移動に伴う免震動作範囲の変化説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に従って、実施例と共に本発明の実施の形態について説明する。
免震位置任意設定可能な免震装置1は、図1に示されるように、下面側に床面等への設置部2が形成された固定ベース3と、該固定ベース3上方に移動可能に配置され、上面側に免震対象物が載置される天板部4が形成された移動テーブル5と、両者の間に設置される免震機構部6とを有する。
【0016】
移動テーブル5は、上面が免震対象物、例えば図6及び図7では薬品棚20が載置される天板部4が形成されており、裏面側には図2に示されるようにスライダー14、原点設定バネポスト7及び固定穴金具21が取り付けられている。
【0017】
原点設定バネポスト7は、後述する第1及び第2の固定バネポスト17、18と対応する高さに設定される。スライダー14は、後述する中間接続枠11に固定されるY軸用スライドレール13に装着される部材であり、固定穴金具21は、移動テーブル5を固定ベース3に固定するためのストッパー19を構成する部材である。
【0018】
固定ベース3は、図3に示されるように、中央部に原点設定バネポスト7の移動を可能とする切欠窓8が形成された枠体である。固定ベース3は、設置部2により固定ベース3の裏面側に一定の高さを有する空部26が形成されている。
【0019】
固定ベース3の枠体部分の上面には、X軸方向(図1及び図3中左右方向、図4及び図5中前後方向)へ移動テーブル5を移動させるためのX軸用スライドレール9を取付ねじ10で固定してある。尚、固定ベース3の上面で移動テーブル5に取り付けられた固定穴金具21の位置に対応する所に、ストッパー19を取り付けている。
【0020】
固定ベース3の裏面側には第1の固定バネポスト17と第2の固定バネポスト18が固定ベース3の裏面側の空部26に納まる大きさで取り付けられている。尚、図4及び図5に示されるように第1の固定バネポスト17と原点設定バネポスト7とが第1のスプリング15で接続されており、第2の固定バネポスト18と原点設定バネポスト7が第2のスプリング16で接続されている。本実施例で固定バネポストは2個であるが、複数個であればよく、2個に限定されるものではない。
【0021】
移動テーブル5と固定ベース3の間には、免震機構部6を形成するための中間接続枠11が配置されている。中間接続枠11も固定ベース3の切欠窓8と同様に中央部に原点設定バネポスト7の移動を可能とする切欠窓が形成された枠体である。
【0022】
中間接続枠11の上面にはY軸用スライドレール13が固定されている。Y軸とは図4及び図5における左右方向のことでX軸と直交する方向である。該Y軸用スライドレール13に、移動テーブル5のスライダー14が摺動自在に装着されている。
【0023】
中間接続枠11の裏面には、取付ねじ10でスライダー12が取り付けられており、該スライダー12は、固定ベース3の上面に固定されているX軸用スライドレール9に摺動自在に装着されている。
【0024】
このようにして固定ベース3に対し移動テーブル5はX軸及びY軸方向に範囲内で自在に動作することができる構造となる。
【0025】
実施例では、同一形状、同一バネ定数の第1のスプリング15と第2のスプリング16、即ち同一の強さのスプリングを用意し、第1のスプリング15を固定ベース3に取り付けた第1の固定バネポスト17と原点設定バネポスト7と接続し、第2のスプリング16を固定ベース3に取り付けた第2の固定バネポスト18と原点設定バネポスト7と接続する。勿論、本発明においては第1のスプリング15及び第2のスプリング16の強さは同一である必要はない。
【0026】
同一の強さのスプリングを用いると第1のスプリング15と第2のスプリング16の付勢力は等しいため、原点設定バネポスト7は、原点位置(図5で原点設定バネポスト7の位置する所)で静止状態となる。原点位置は、この実施例では、第1の固定バネポスト17から第2の固定バネポスト18の中間位置に存在することになる。
【0027】
図4及び図5における実施例では、原点設定バネポスト7は、移動テーブル5の中心より左寄りに設けられているため、原点位置では移動テーブル5は固定ベース3に対して右寄りに偏心した位置で安定停止している。即ち、移動テーブル5の原点位置を固定ベース3の位置と偏心する位置に設定してある。
【0028】
移動テーブル5の原点位置と固定ベース3の中心位置を偏心する位置に設定するには、スプリングの付勢力の強さと、原点設定バネポスト7及び固定バネポストの位置の設定により行うのである。実施例では、原点設定バネポスト7の位置を移動テーブル5の中心よりずらすことで行っている。固定バネポストの位置設定の変更やスプリングの強さ設定の変更で行ってもよい。
【0029】
固定ベース3と移動テーブル5とは、ズレのない位置、即ち、両者の中心位置を合わせた位置で、地震感知時にのみ解除されるストッパー19で、図4に示されるように固定される。固定された状態で、移動テーブル5は、図4中符号LLで示される距離分の付勢力を受けて固定されている。
【0030】
ストッパー19は、移動テーブル5に固定穴金具21の穴に嵌め込まれる固定ピン22と、固定ピン22を押し込むための固定バネ23と引きソレノイドなどの解除装置24とで構成される。地震発生時には地震検知器25の信号で、解除装置24が作動し、固定ピン22を引き下げ、移動テーブル5の動作を自由にする。
【0031】
ストッパー19が解除されると第1のスプリング15と第2のスプリング16の力により、安定位置である原点位置まで距離LLだけ原点設定バネポスト7が移動する。この原点位置で第1のスプリング15と第2のスプリング16により免震動作が確保されるのである。
【0032】
以上の実施例は、図3及び図4の固定位置から、図5の解除時に、上方向距離LL移動して免震動作を行うことになる。勿論、薬品棚20を載置した移動テーブル5を、図6から図7に示されるように、右前方に移動させて免震動作を確保することで、左側と奥側に壁などの免震動作の障害物があった場合にも、移動テーブル5を障害のない位置に移動させて、免震動作を行いうる。
【0033】
また図8に示されるように、免震対象物の後に障害物があり、後方に免震動作をとることができない免震動作範囲31の場合や、後と左側、後と右側に障害物があってそれらの方向に免震動作をとることができない免震動作範囲32、33の場合にも、移動テーブル5の移動により、免震対象物の4方向への免震動作範囲34を確保することができる。
【符号の説明】
【0034】
1・・・・・・・・免震装置
2・・・・・・・・設置部
3・・・・・・・・固定ベース
4・・・・・・・・天板部
5・・・・・・・・移動テーブル
6・・・・・・・・免震機構部
7・・・・・・・・原点設定バネポスト
8・・・・・・・・切欠窓
9・・・・・・・・X軸用スライドレール
10・・・・・・・取付ねじ
11・・・・・・・中間接続枠
12、14・・・・スライダー
13・・・・・・・Y軸用スライドレール
15・・・・・・・第1のスプリング
16・・・・・・・第2のスプリング
17・・・・・・・第1の固定バネポスト
18・・・・・・・第2の固定バネポスト
19・・・・・・・ストッパー
20・・・・・・・薬品棚
21・・・・・・・固定穴金具
22・・・・・・・固定ピン
23・・・・・・・固定バネ
24・・・・・・・解除装置
25・・・・・・・地震検知器
26・・・・・・・空部
31、32、33、34・・・・・・・免震動作範囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下面側に床面等への設置部が形成された固定ベースと、該固定ベース上方に移動可能に配置され、上面側に免震対象物が載置される天板部が形成された移動テーブルと、両者の間に設置される免震機構部とを有する免震装置において、
前記移動テーブルに原点設定バネポストを設け、固定ベースに固定バネポストを複数箇所設け、
該複数箇所の固定バネポストと原点設定バネポストとをスプリングで接続し、
該スプリングの付勢力の強さと、原点設定バネポスト及び固定バネポストの位置の設定により、
前記移動テーブルが安定停止する位置である原点位置を前記固定ベースの位置と偏心する位置に設定し、
前記移動テーブルと前記固定テーブルとをズレのない位置で地震感知時にのみ解除されるストッパーで該移動テーブルと前記固定ベースとを固定したことを特徴とする免震位置任意設定可能な免震装置。
【請求項2】
上記固定バネポストが二カ所設けられ、
該二カ所の固定バネポストと原点設定バネポストとを第1及び第2のスプリングで接続したものである請求項1記載の免震位置任意設定可能な免震装置。
【請求項3】
上記移動テーブルの移動範囲が、水平面での縦方向とそれと直交する横方向の範囲である請求項1または2記載の免震位置任意設定可能な免震装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−64431(P2013−64431A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−202675(P2011−202675)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(510232566)株式会社 測機器 (2)
【Fターム(参考)】