説明

免震建物の基礎構造及びその構築方法

【課題】 低コストで施工可能で、且つ必要な免震効果を得るための十分な強度を有するとともに免震ピットでの作業を行い易い免震建物の基礎構造およびその構築方法を提供する。
【解決手段】 杭2と、その杭2を施工した地盤41に構築される基礎スラブ7と、杭2の直上に構築される架台4と、架台4と上部構造物8との間に設置される免震装置6とからなる免震建物の基礎構造1において、杭2をその頭部3上端が基礎スラブ7の下端面以上の高さまで延出するように形成し、基礎スラブ7の、杭頭部3との接合部分にハンチ9を設けて、杭頭部3の回転を拘束するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震装置を備えた免震建物の基礎構造及びその構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地震時の地盤の揺れを建物に直接伝えないために、基礎と上部構造物とを切り離す免震構造が実用化されている。一般的に、免震構造は、基礎と上部構造物との間に、積層ゴムやすべり支承等の免震装置を介装し、上部構造物への入力加速度を制限して地震時水平力を低減するとともに、上部構造物の固有周期を長周期化することで免震効果を上げている。
【0003】
このような免震建物の基礎の構造は、例えば図11及び図12に示すように、免震層となるピット51のスラブ52と一体にフーチングを繋ぐ基礎梁53を縦横に設け、その上に免震装置54を設置し、この免震装置54の上に上部構造物55を水平変位可能に支持するように設計されている。このように免震層を剛強な基礎で構築して、免震装置に変形を集中させる構造が、必要な減衰や固有周期を制御する上で有利だとされている。
【0004】
その他の免震建物の基礎構造としては、ピットにマットのように厚い直接基礎を設けて、その上に免震装置を設置し、この免震装置の上に上部構造物を水平変位可能に支持するように設計されているものもあった。
【0005】
一方で、図13に示すように、施工コスト低減を目的として、杭頭部56でスラブ(直接基礎)59及び免震装置54をピン支承するとともに、上部構造物の底部57に基礎梁58を設けて、スラブ59の基礎梁を省略した基礎構造も提案されている(例えば特許文献1参照)。この構造によれば、杭頭部56がスラブ59に対してピン支承の形態で結合されることとなり、杭頭部56のスラブ59に対する回転を拘束することなく許容することとなる。そのため、杭頭部59の最大モーメントを低減できる。また、従来設けられていたスラブ59上の基礎梁を省略することで施工コストを削減している。
【特許文献1】特開平9−273162号公報(段落0007〜0009)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記従来の免震建物の基礎構造では、以下に示すような問題があった。
【0007】
図11及び図12に示す免震建物の基礎構造では、ピット51内に基礎梁53を設けているために、構造が複雑になり、配筋や型枠設置等の施工手間が大幅に増大しコスト高になるとともに、水平移動の妨げとなって、免震装置54の設置等のスラブ52上(免震ピット)での作業性が悪いといった問題があった。
【0008】
マット状の直接基礎を設ける免震建物の基礎構造では、縦横の基礎梁を設けることなく必要な強度を得られるものの、直接基礎が非常に大型且つ大重量のものとなり、その分コスト高の原因となっていた。
【0009】
一方、図13に示す免震建物の基礎構造では、スラブ59の基礎梁を省略したことで、スラブ52上での作業性が改善されて次工程が行い易いものの、スラブ59の剛性が低下するとともに、杭頭部56とスラブ59とをピン支承としているため、杭頭部56とスラブ59とのずれや回転変形が大きくなり、免震効果が下がってしまう傾向があった。
【0010】
そこで、本発明は前記の問題を解決すべく、低コストで施工可能で、且つ必要な免震効果を得るための十分な強度と剛性を有するとともに免震ピットでの作業を行い易い免震建物の基礎構造及びその構築方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、杭と、当該杭を施工した地盤に構築される基礎スラブと、前記杭の直上に構築される架台と、当該架台と上部構造物との間に設置される免震装置とからなる免震建物の基礎構造において、前記杭をその頭部上端が前記基礎スラブの下端面以上の高さまで延出するように形成し、前記基礎スラブの、前記杭頭部との接合部分にハンチを設けて、前記杭頭部の回転を拘束するように構成したことを特徴とする免震建物の基礎構造である。
【0012】
ここで、杭の頭部上端とは、杭に設けられた主筋やその上方にかぶせる鉄筋の上端より所定のコンクリートかぶり厚分、上方の位置をいう。また、杭の直上に構築される架台は、基礎スラブ上端面から所定高さ突出して構築した方が免震装置の据付に都合がよいが、杭頭部の頂部を掘り下げて、基礎スラブ上端面と面一で構築してもよい。
【0013】
請求項1に係る発明によれば、杭頭部上端を前記基礎スラブの下端面以上の高さまで延出させるとともに、杭頭部との接合部分にハンチを設けて、杭頭部の周囲を補強及び補剛したことによって、基礎スラブ全体の厚さを抑えつつ、杭頭部と基礎スラブとを十分な強度と剛性で接合することができる。これにより、杭頭部の回転が拘束されて地震時の変形が免震装置に集中し、免震効果が高まるとともに、コンクリートや鉄筋の数量及びピットの深さ等を低減できるので施工の低コスト化が達成される。さらに、基礎スラブの剛性が高まるので、基礎梁を設ける必要がなく、次工程の支障となることもない。
【0014】
請求項2に係る発明は、前記ハンチの下部にベンド筋を配するとともに、該ベンド筋を前記杭頭部に定着させ、前記杭頭部の回転拘束を高めるように構成したことを特徴とする請求項1に記載の免震建物の基礎構造である。
【0015】
請求項2に係る発明によれば、ハンチにベンド筋を配して、杭頭部に定着させることによって、杭頭部の曲げ耐力や回転剛性を高めることができる。また、杭頭部にスラブ上端筋や水平筋を定着するとさらに固定度が高まって、ハンチの小型化が達成され、さらなる施工の低コスト化を図ることができる。
【0016】
請求項3に係る発明は、前記基礎スラブの所定の位置に補助杭を設置し、前記基礎スラブの、前記補助杭の頭部との接合部分にハンチを設けたことを特徴とする請求項1または請求項2いずれか1項に記載の免震建物の基礎構造である。
【0017】
ここで、補助杭を設置する所定の位置とは、杭からの離間距離が長い箇所で、そこに基礎スラブの変位を拘束する補助杭を設け、基礎スラブとの接合部分にハンチを設けることで、基礎スラブの剛性が高まり、基礎スラブに生じる応力を低減することができる位置をいう。
【0018】
請求項3に係る発明によれば、杭と杭との間隔が広い場合に補助杭を設け、補助杭の頭部にハンチを設けることで、地震時に基礎スラブに生じる応力を低減することができ、杭や基礎スラブの小型化が達成される。
【0019】
請求項4に係る発明は、前記補助杭は、沈下抑止杭にて構成されることを特徴とする請求項3に記載の免震建物の基礎構造である。
【0020】
請求項4に係る発明によれば、小型で施工が容易である沈下抑止杭を補助杭として採用したことによって、施工期間の短縮及び施工の低コスト化を図ることができる。
【0021】
請求項5に係る発明は、下記の工程を含むことを特徴とする免震建物の基礎の構築方法である。
(1)地盤に杭を施工する杭施工工程。
(2)前記杭の頭部の周囲の地盤をテーパー状に掘削する掘削工程。
(3)前記杭頭部とその上部に形成される免震装置の架台とを固定する固定筋の配筋と、前記杭を施工した地盤の表面に構築される基礎スラブの配筋と、前記基礎スラブの、前記杭頭部との接続部分に設けられるハンチの配筋とを行う配筋工程。
(4)前記杭頭部と前記基礎スラブのコンクリートを打設するコンクリート打設工程。
(5)前記杭頭部上部の前記架台に免震装置を設置する免震装置設置工程。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、必要な免震効果を得るための十分な強度と剛性を有するとともに免震ピットでの作業を行い易い免震建物の基礎構造を低コストで施工できるといった優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
次に、本発明を実施するための最良の形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本実施の形態では、積層ゴムによる免震装置を備えた基礎構造を例に挙げて説明する。
【0024】
図1は本発明に係る免震建物の基礎構造を実施するための最良の形態を示した断面図、図2は図1のA−A線断面図、図3は図1のB−B線断面図、図4は図1のC−C線断面図、図5は図1のD−D線断面図、図6は杭及び補助杭の配置の一例を示した平面図、図7は図6のE通りの断面図を示す。なお、図1は、図面中、左側に杭と基礎スラブとの接合部分を示し、右側に補助杭と基礎スラブとの接合部分を示す。
【0025】
まず、本実施の形態に係る免震建物の基礎構造の構成を説明する。
【0026】
図1に示すように、かかる免震建物の基礎構造1は、杭2の頭部(以下杭頭部と称する)3の上部に形成されたコンクリート製の架台4上に積層ゴム5による免震装置6が固定されている。杭頭部3の周囲には、所定の厚さの基礎スラブ7がピット10内の基礎部一面に亘って形成されている(図7参照)。免震装置6は、複数設置された各杭(図6参照)2上部にそれぞれ設置されており、それらの免震装置6の上部に建物の上部構造物8を固定し、上部構造物8の地震時水平力を低減するとともに、上部構造物8の固有周期を長周期化することで免震効果を上げるようになっている。
【0027】
図1乃至図4に示すように、杭2は、所定ピッチで配置された主筋11と、この主筋11の周囲を囲むフープ筋12とを備えている。主筋11は、円環状に複数立設され、その上端が基礎スラブ7の下端面以上の高さ(本実施の形態では基礎スラブ7の上端面近傍)まで延出するように配筋されている。杭頭部3には、架台4を杭頭部3に固定するための固定筋14が配筋されている。固定筋14は、U字状に屈曲形成された複数の鉄筋を、架台4の平面形状(本実施の形態では正方形)に合わせて所定のコンクリートかぶり厚を確保できるように平面視格子状に配設し、杭2の主筋11とフープ筋12とを上部から覆うように逆U字状に配筋して構成されている。固定筋14の下端は、後述するハンチ9の下端部近傍まで延出するように配筋されている。複数配筋された固定筋14の外周には、正方形状に屈曲されたフープ筋15が縦方向に所定ピッチで設けられている。なお、本実施の形態では、架台4は、基礎スラブ7の上端面から所定高さ突出して構築されているが、基礎スラブ7上端面と面一で構築されるものであってもよい。
【0028】
ここでは、杭2に設けられた主筋11に重ねて上方からかぶせた鉄筋(固定筋14およびフープ筋15)が、架台4の主筋と補強筋を兼ねて配され、杭頭部3を構成している。このように、主筋11を、基礎スラブ7の下端面以上の高さに定着することで、杭頭接合部の固定度を上げ、基礎スラブ7の剛性を高めている。なお、主筋11の上端面が基礎スラブ7の下端面以下の高さであっても、上方からかぶせる鉄筋14,15や架台4の主筋が、杭主筋11と重なっている場合は、本発明の実施の範囲に含まれる。
【0029】
架台4上には、免震装置6を固定するための下部ベースプレート16がアンカーボルト(図示せず)を介して固定されている。下部ベースプレート16には、袋ナット(図示せず)が設けられており、免震装置6を下部ベースプレート16の所定位置に載置して、免震装置6のフランジのボルト穴(図示せず)を通してボルトを袋ナットに螺合させることで、免震装置6が架台4に固定される。免震装置6の上部には、下部ベースプレート16と同様の構成の上部ベースプレート17が設けられており、この上部ベースプレート17を介して免震装置6と上部構造物8とが固定される。
【0030】
ところで、本発明は、図1及び図7に示すように、基礎スラブ7の、杭頭部3との接合部分にハンチ9を設けたことを特徴とする。ハンチ9は、基礎スラブ7の下部に杭頭部3を囲う逆円錐台状または逆四角錘台状(本実施の形態では逆円錐台状)に形成され、基礎スラブ7と杭2との接合面積を増大させることで剛域を広げ、杭頭部3の回転拘束とともに曲げやせん断耐力も高めている。
【0031】
基礎スラブ7には、所定のコンクリートかぶり厚が得られる位置に、例えば200mm角ピッチのメッシュ状に形成された水平筋(図3中、破線にて示す)18が配筋されている。水平筋18は、基礎スラブ7の上部に設けられる上端筋21と、下部に設けられる下端筋22とで構成されている。
【0032】
ハンチ9の下部には、図1及び図4に示すように、ハンチ9と杭頭部3とを接合するためのベンド筋23が配筋されている。ベンド筋23は、ハンチ9の下端から所定のコンクリートかぶり厚が得られる位置に、例えば90度ピッチの放射状に4本配筋されている。なお、ベンド筋23の配置は、放射状に限られるものではなく、必要な耐力や剛性に応じて、材料、径、本数等が適宜決定される。
【0033】
ベンド筋23の杭側端部は、杭2に対して所定の定着長さを確保できるように杭2内部に円環状に立設された主筋11の内側まで延出されている。ベンド筋23の基礎スラブ側端部は、基礎スラブ7に対して所定の定着長さを確保できるように基礎スラブ7の上端筋21と下端筋22との間まで延出されている。ベンド筋23の基礎スラブ7側端部は、水平方向に屈曲され、定着長さを長く確保するように構成されている。
【0034】
ベンド筋23の上側には、リング状の帯筋24が所定ピッチで配筋されている。帯筋24は、上側の帯筋24になるにしたがってその加工径が大きくなる。なお、ハンチ9が逆四角錘台状に形成された場合は、ベンド筋が十字状(格子状)に配筋され、帯筋は四角形に形成されて、格子状の配筋となる。
【0035】
図1及び図3に示すように、ハンチ9の上部には、基礎スラブ7の水平筋18を構成する上端筋21と下端筋22とが位置している。この水平筋18と杭頭部3には、杭2に対して基礎スラブ7が上下方向にずれるのを防止すべく、L字状に屈曲されたずれ止め筋25が設けられている。ずれ止め筋25は、逆L字状に配置され、杭2内部の主筋11の内側に垂直部25aが位置し、水平部25bが基礎スラブ7に対して所定の定着長さを確保できるように上端筋21と下端筋22との間に延出している。ずれ止め筋25は複数設けられ、各水平部25bが放射状になるように配筋されている。
【0036】
なお、図1中、26は敷砂利、27は捨てコンクリートをそれぞれ示す。
【0037】
図6に示すように、隣接する杭2間の距離が長い場合には、基礎スラブ7の所定の位置に補助杭31が設けられている。ここで、補助杭31を設置する所定の位置とは、杭2からの離間距離が長く(例えば、6500mm)、そこに補助杭31を設け、基礎スラブ7の補助杭31の頭部(以下補助杭頭部と称する)34との接合部分にハンチ35を設けることで、基礎スラブ7にかかるせん断力を低減することができる位置をいう。図1に示すように、補助杭31は、杭2と比較して小型で簡易な構造で且つ施工が容易な沈下抑止杭32が採用されている。本実施の形態では、地盤に掘削された杭穴にH型鋼33を挿入して、このH型鋼33を中心としてコンクリートを打設することで補助杭31が形成されている。補助杭31は、その外周面と地盤との摩擦によって荷重を支持する。なお、H型鋼33の周囲に鉄筋を配筋して、杭頭部3の固定度を上げることもある。
【0038】
基礎スラブ7の、補助杭頭部34との接合部分にもハンチ35が設けられている。このハンチ35もハンチ9と同様に、上部に水平筋18が配され、下部にベンド筋36が配されている。ベンド筋36は、その補助杭側端部がH型鋼33に当接するように延出され、基礎スラブ側端部は基礎スラブ7に対して所定の定着長さを確保できるように上端筋21と下端筋22との間に延出している。ベンド筋36は、図5に示すように、放射状に配筋されている。ベンド筋36の上部には、所定ピッチで帯筋37が配筋されている。なお、H型鋼33の上端には基礎スラブ7の自重をH型鋼33に伝達するために、水平方向に広がる鋼板38が溶接固定されている。
【0039】
次に、本実施の形態に係る免震建物の基礎の構築方法を図8及び図9に示す工程説明図に沿って説明する。なお、本実施の形態では、杭2が場所打ちコンクリート杭である場合を例に挙げて説明する。
【0040】
(1)杭施工工程
図8(a)に示すように、まず、地盤41に杭2用の穴を支持層まで掘削する。そして、主筋11とフープ筋(図8では図示せず)とを予め配筋してなる鉄筋かごを前記の穴に挿入した後、コンクリートを打設する。主筋11は、後の工程で形成する基礎スラブの上端近傍まで延出するように配筋しておく。コンクリートは地盤表面近傍まで打設する。
【0041】
なお、杭が既製杭である場合は、次工程で掘削するテーパー面の底面となる深さよりも若干上方となる位置まで打ち込み、杭頭部に架台を接合するための鉄筋を設けておく。
【0042】
(2)掘削工程
図8(b)に示すように、杭頭部3の周囲の地盤をオープンカットでテーパー状に掘削する。掘削面は、斜面部28の傾斜角αが45度程度の逆円錐台状または逆四角錘台状(本実施の形態では逆円錐台状)になるように掘削する。なお、傾斜角αは、必要な免震効果に応じて設定され、より多くの免震効果を得たい場合には45度より小さい傾斜角となる。その後、杭頭部3のコンクリートをはつって主筋11を露出させる。コンクリートは、はつり面が掘削したテーパー面の底面より若干上方に位置するところまではつる。その後、テーパー面の表面と地盤41の表面に敷砂利26を敷設し、捨てコンクリート27を打設する。
【0043】
(3)配筋工程
図8(c)に示すように、基礎スラブ7の水平筋18である上端筋21、下端筋22と、ハンチ9のベンド筋23、帯筋24と、杭2に対して基礎スラブ7が上下方向にずれるのを防止するためのずれ止め筋25の配筋を行った後、免震装置6の架台4の固定筋14、フープ筋15の配筋を行う。なお、図8(c)では、本工程で配筋する鉄筋を、他の鉄筋と区別するために太線で表示している。
【0044】
(4)コンクリート打設工程
図9(a)に示すように、基礎スラブ7部分と杭頭部3部分とハンチ9部分にコンクリートを同時に打設し、基礎スラブ7と杭頭部3とハンチ9とを一体的に形成する。或いは、一旦基礎スラブ7の下端でコンクリートを打ち止めて、基礎スラブ7の配筋後に基礎スラブ7部分のコンクリートを打設してもよい。
【0045】
(5)免震装置設置工程
図9(b)に示すように、杭頭部3上部に下部ベースプレート16を設置する。下部ベースプレート16は、略正方形状に形成され、その四隅下側には、例えば高さ調整ネジ等の高さ調整具43が取り付けられており、これによって、下部ベースプレート16の水平度を確保する。その後、下部ベースプレート16を囲むように型枠44を設置する。下部ベースプレート16には、コンクリート等注入用穴45と空気抜き用穴46とが形成されている。
【0046】
なお、構築される架台4の高さが高い場合には、下部ベースプレート16を設置する前に、上部からかぶせ筋(図示せず)をさらに配筋して高さを確保した後に、前記工程を行うようにする。
【0047】
図9(c)に示すように、下部ベースプレート16のコンクリート等注入用穴45から型枠44内にコンクリート(グラウト、モルタルでもよい)を注入して架台4を形成する。このとき、空気抜き用穴46から型枠44内の空気が抜けるので、コンクリートの打設が円滑に行える。下部ベースプレート16下側の高さ調整具43は、架台4に一体的に埋め殺される。その後、型枠44を除去して、下部ベースプレート16上に免震装置6を設置する。
【0048】
そして、免震装置6上に、上部ベースプレート17を介して上部構造物8を固定して図1の状態となる。
【0049】
なお、補助杭31部分のハンチ35についても、免震装置6や架台の有無や配筋の差異はあるものの、基本的には同様の構築方法で構築される。
【0050】
次に、本実施の形態に係る免震建物の基礎構造及びその構築方法の作用について説明する。
【0051】
本実施の形態によれば、基礎スラブ7下側の、杭頭部3との接合部分にハンチ9を形成したことによって、杭頭部3と基礎スラブ7の接合強度を高め、杭頭部3の回転を拘束することができる。これによって、薄い基礎スラブ7でも所望の免震効果を確保することが可能となる。特に、杭頭部3が基礎スラブ7の下端部以上の高さ(本実施の形態では基礎スラブ7の上端)まで延出していることと、杭頭部3が基礎スラブ7と同時に打設されて、一体的に形成されていることによって、杭頭部3と基礎スラブ7の接合強度と杭頭部3の回転拘束を大幅に高めることができる。
【0052】
また、ハンチ9にベンド筋23を配して、杭頭部3に定着させることによって、杭頭部3の曲げ耐力や回転剛性を高めることができる。さらに、ハンチ9の上部に水平筋18が設けられているので固定度が高まって、ハンチ9の小型化が達成され、さらなる施工の低コスト化を図ることができる。また、ずれ止め筋25によって杭頭部3と基礎スラブ7とを定着・固定させるとともに、下部にベンド筋23を放射状に設けて杭頭部3に定着させて、ハンチ9を逆円錐台状または逆四角錘台状に形成したことによって、地震のあらゆる方向の揺れに対して、有効な免震効果が得られる。
【0053】
さらに、ハンチ9を設けて、杭頭部3と基礎スラブ7の接合強度や剛性を重点的に高めていることで、従来のように基礎スラブ7全体の厚さを厚くすることなく、必要な基礎の剛性を得ることができる。よって、コンクリートの打設量、鉄筋の数量やピットの深さ等を低減でき、施工の低コスト化が達成される。
【0054】
また、ハンチ9によって十分な接合強度と剛性を得られるので、従来のように基礎スラブ7上に基礎梁を設ける必要がなく、基礎スラブ7上面は平坦になり、免震装置6の設置等の免震ピットでの次工程の作業が非常に行い易くなる。
【0055】
さらに、離間距離の長い複数の杭2間に補助杭31を設け、ハンチ35を設けたことによって、基礎スラブ7に生じる応力を低減することができる。また、補助杭31においてもハンチ35の上部に水平筋18が位置するとともに、下部にベンド筋36が放射状に設けられているので、補助杭頭部34と基礎スラブ7とを強固に接合することができる。そして、杭2と比較して小型且つ簡単な構造で施工が容易である沈下抑止杭を補助杭31として採用したことによって、施工期間の短縮及び施工の低コスト化を図ることができる。
【0056】
図10は、本発明に係る免震建物の基礎構造を実施するための他の形態を示した断面図である。かかる実施の形態の免震建物の基礎構造47は、基礎スラブ7の水平筋18が、杭頭部3の内部まで連続的に通して形成されている点で、図1の基礎構造1と相違する。この場合、水平筋18が杭頭部3内部に通して配筋されているので、水平筋18は杭頭部3に定着される。よって、図1で示したずれ止め筋25は省略することができる。なお、その他の構成については、図1の基礎構造1と同様であるので、同じ符号を付して説明を省略する。本実施の形態によれば、基礎スラブ7と杭頭部3との接合強度をさらに強くできるので、一層大きい免震効果を得ることができる。
【0057】
本発明は前記実施の形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更が可能である。例えば、前記実施の形態では、積層ゴムを備えた免震装置6を備えた基礎構造について説明したが、免震装置6の形態はこれに限られるものではない。例えば、高減衰の免震装置やすべり支承式の免震装置等、他の免震装置であってもよい。
【0058】
また、杭2の構造は、場所打ちコンクリート杭に限らず、コンクリート製や鋼管製の既製杭であってもよいのは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明に係る免震建物の基礎構造を実施するための最良の形態を示した断面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】図1のB−B線断面図である。
【図4】図1のC−C線断面図である。
【図5】図1のD−D線断面図である。
【図6】杭及び補助杭の配置の一例を示した平面図である。
【図7】図6のE通りの断面図を示す。
【図8】本発明に係る免震建物の基礎の構築方法を実施するための最良の形態を示した(a)は杭施工工程説明図、(b)は掘削工程説明図、(c)は配筋工程説明図である。
【図9】本発明に係る免震建物の基礎の構築方法を実施するための最良の形態を示した(a)はコンクリート打設工程説明図、(b)は免震装置設置工程第一説明図、(c)は免震装置設置工程第二説明図である。
【図10】本発明に係る免震建物の基礎構造を実施するための他の形態を示した断面図である。
【図11】従来の免震建物の基礎構造を示した断面図である。
【図12】従来の免震建物の基礎構造を示した平面図である。
【図13】従来の他の免震建物の基礎構造を示した断面図である。
【符号の説明】
【0060】
1 基礎構造
2 杭
3 杭頭部
4 架台
6 免震装置
7 基礎スラブ
8 上部構造物
9 ハンチ
18 水平筋
23 ベンド筋
31 補助杭
32 沈下抑止杭
34 補助杭頭部
35 ハンチ
36 ベンド筋
41 地盤
47 基礎構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
杭と、当該杭を施工した地盤に構築される基礎スラブと、前記杭の直上に構築される架台と、当該架台と上部構造物との間に設置される免震装置とからなる免震建物の基礎構造において、
前記杭をその頭部上端が前記基礎スラブの下端面以上の高さまで延出するように形成し、前記基礎スラブの、前記杭頭部との接合部分にハンチを設けて、前記杭頭部の回転を拘束するように構成したことを特徴とする免震建物の基礎構造。
【請求項2】
前記ハンチの下部にベンド筋を配するとともに、該ベンド筋を前記杭頭部に定着させ、前記杭頭部の回転拘束を高めるように構成したことを特徴とする請求項1に記載の免震建物の基礎構造。
【請求項3】
前記基礎スラブの所定の位置に補助杭を設置し、前記基礎スラブの、前記補助杭の頭部との接合部分にハンチを設けたことを特徴とする請求項1または請求項2いずれか1項に記載の免震建物の基礎構造。
【請求項4】
前記補助杭は、沈下抑止杭にて構成されることを特徴とする請求項3に記載の免震建物の基礎構造。
【請求項5】
下記の工程を含むことを特徴とする免震建物の基礎の構築方法。
(1)地盤に杭を施工する杭施工工程。
(2)前記杭の頭部の周囲の地盤をテーパー状に掘削する掘削工程。
(3)前記杭頭部とその上部に形成される免震装置の架台とを固定する固定筋の配筋と、前記杭を施工した地盤の表面に構築される基礎スラブの配筋と、前記基礎スラブの、前記杭頭部との接続部分に設けられるハンチの配筋とを行う配筋工程。
(4)前記杭頭部と前記基礎スラブのコンクリートを打設するコンクリート打設工程。
(5)前記杭頭部上部の前記架台に免震装置を設置する免震装置設置工程。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−249784(P2006−249784A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−67948(P2005−67948)
【出願日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】