説明

免震状態解除装置及びこの免震状態解除装置を用いた免震構造物

【課題】対応可能な地震の振幅ストロークに一定の範囲又は限界を有する免震構造物に対して、その範囲又は限界を越える振幅ストロークの地震が発生した場合であっても、免震装置が破損することを防止する等のフェイルセーフ機能を有する画期的な免震状態解除装置等を提供する。
【解決手段】構造物2側から地盤1側に向けて固定され内部には鉛直方向に軸挿通空間が形成された軸支持部材28と、この軸支持部材28に形成された軸挿通空間内に挿通された軸状部材27と、この軸状部材27の下方に水平に固定されるとともに、通常時においては上面で該軸状部材27を下方から支持してなる円盤状の摺接プレート23と、この摺接プレート23の外周側に固定されてなるリング部材24と、上記摺接プレート23とリング部材24との間には軸状部材27が落下する落下空間26が形成され、上記軸状部材27が落下することにより、免震装置4,5による免震状態が解除される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震構造物に対して、所定の周期を上回る長周期の地震動が発生した場合において、それまでの免震状態を解除するために用いられる免震状態解除装置及びこの免震状態解除装置を用いた免震構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知の通り、これまで地震による振動から構造物を保護するために設けられる免震装置の種類としては、例えば(1)ゴム板を重ね合わせた(又は間に鉄板を介在させた)積層ゴムにより上部構造物を下方から支持するもの(積層ゴム免震)や、(2)地震による震動をダンパー装置により吸収するもの、(3)地盤と上部構造物との間を絶縁するもの等が提案されている。そして、例えば上記(3)の絶縁方法としては、液体や磁力で上部構造物を浮上させるものや、地盤と上部構造物とを滑らせるもの(滑り支承又は滑り免震)、或いはロールベアリング等の球体を転動させるもの(コロ免震)等がそれぞれ提案され、一部では実用化されているものもある。また、従来の免震装置又は免震構造では、上述した(1)の装置又は構造と(3)の装置又は構造を併用させたもの等も提案されている。したがって、これらの免震装置又は免震構造を採用することにより、地震の震動から構造物を保護することができ、地震による被害を回避することが可能となる。
【0003】
ところで、上述した各免震装置又は免震構造を採用する場合であっても、あらゆる地震の規模又は程度にも対応することができる構造とすることは事実上不可能である。例えば、上述した(1)の所謂積層ゴムを利用した免震装置又は免震構造とする場合では、地震による地盤側と構造物側との相対的変位長さをどの程度まで許容するか否か(最大許容範囲)は、設計上当然に決定されるべき事項である。また、上述した所謂滑り支承又は滑り免震と称される免震装置又は免震構造を採用する場合において決定されるべき滑り面を形成する部材の上面又は下面の径の長さは、振幅ストロークが長い場合でも常に効果的に免震機能を期待する場合には、それに応じた径とすることで理論上足りるが、建物の敷地面積は通常限られているとともに、施工する建物と隣接する家屋や塀その他の構造物との距離を考慮すると、無制限に広い径とすることは事実上不可能である。このことは、上述した所謂コロ免震と称される免震装置又は構造を採用する場合においても同様であり、地盤側に固定された下部支承板や構造物側に固定された上部支承板の面積を無制限に広いものとすることは、コスト面から考慮しても事実上不可能である。したがって、具体的に採用される免震装置又は免震構造は、施工する建物の敷地面積や周辺の構造物等の環境に応じて、免震可能な振幅ストロークに一定の範囲又は限界を設け、その範囲又は限界以上の振幅ストロークを有する地震(長周期地震動)が発生した場合には、該免震装置が破壊されたり、又はそれまで支承していた上部構造物が支承できなくなり該上部構造物のみが所定の部材上から脱落してしまう等の事態を回避するための構造又は装置を設けなければならない(所謂フェイルセーフ機能を有する技術が要求される。)。
【0004】
そこで、このように免震可能な振幅ストロークに一定の範囲又は限界を設け、その範囲や限界以上の振幅ストロークを有する地震が発生した場合を考慮して、上記フェイルセーフ機能を有する構造を備えた免震装置や、免震装置とは別体として、こうしたフェイルセーフ機能を備えた装置が提案されている。例えば、特開平6−158912号公報(特許文献1)記載の免震装置は、下部支承板(球体ケース1B)の上面外周縁と上部支承板(球体ケース1A)の下面外周縁とからそれぞれ起立し又は垂下してなるストッパ部(内壁10)が形成され、また、該下部支承板と上部支承板とが相対的に水平移動するのを一定の範囲で規制する多数の引っ張りバネ6が構成要素とされている。この免震装置によれば、地震の振動により、間に備えた球体の転動を介して相対的に下部支承板と上部支承板とが水平移動を開始し、やがて球体がストッパ部まで到ると、該ストッパ部によりそれ以上下部支承板と上部支承板との水平移動が規制される。また、こうした下部支承板と上部支承板との水平移動は、上記多数の引っ張りバネの弾性力によっても規制されるとともに、該引っ張りバネは、この免震装置が地震発生以前の状態に復帰させる復元力としても作用する。また、上述したように、免震可能な地震の振幅ストロークに一定の範囲又は限界を設け、その範囲又は限界以上の振幅ストロークを有する地震が生じた場合には、免震効果を制限する装置として、免震装置の設置位置とは離れた位置に、ダンパーやストッパ等を設けたものも提案されている。ダンパーに関しては、実公平7−23442号公報(特許文献2)に開示された鋼棒ダンパーのように、地震によるあらゆる方向の揺れに対し、鋼棒5に曲げ、捩じれ等の変形を与えることによって得られる復元力により地震による震動や衝撃を吸収するものがある。また、オイルダンパーに代表される粘性ダンパーは、シリンダとピストンと、を備え、ピストンに設けられたオリフィスをシリンダ内の流体が通過する際の粘性抵抗により地震による震動や衝撃を吸収するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−158912号公報
【特許文献2】実公平7−23442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1に開示された免震装置では、免震可能な範囲を越える振幅ストロークの地震(長周期地震動)が発生した場合には、球体がストッパに衝突することとなり、衝撃の度に大きな衝撃力と衝撃音が繰り返し発生することとなり、構造物をより破壊してしまうこととなる。また、この免震装置では、多数の引っ張りバネによっても下部支承板と上部支承板との相対的な水平移動を規制する作用を有するが、引っ張りバネの弾性率をどのように設定するかは技術的に困難であり、取替え作業にも手間がかかることとなる。また、特許文献2に開示された鋼棒ダンパーでは、地震が強く、地盤の振幅ストロークが大きい場合には、鋼棒に残留変形が残り、地震の発生の度に交換が必要になりコスト高となる。また、粘性ダンパーを設ける場合には、あらゆる方向の地震動に対応しなければならない。すなわち、こうしたダンパーを用いる場合には、例えば東西南北に一か所ずつ設置したとしても全部で4つのダンパーが必要となる。こうしたことを考慮すると、一つの構造物に対して極めて多く設置する必要があるとともに、施工上も工期が大幅に延長され又コスト高となることから、一般の戸建住宅を対象とした場合には現実的には採用することが難しい。
【0007】
さらに、上述したこれまでの装置や構造は、特定の方向に地盤側が振れ、その振れ幅が予め設定された免震可能な変位長さ以上である場合(長周期地震動である場合)、構造物側の部材と地盤側の部材とが(場合によっては緩やかに)衝突するように構成したものであることから、特定の方向(例えばXのプラス方向)に地盤側が振れ、その後に衝突ないし接触した状態のままで更に同じ方向に振れた直後に、今度はそれまでの方向とは逆方向(Xのマイナス方向)に地盤側が振れると、(木造ないし軸組み工法によるものである場合は特に)構造物が撓み、一時的には構造物の上部側がさらにXのプラス方向に移動した後にXのマイナス方向に(言わばムチが戻るように)Xのマイナス方向に移動する。そして、また同じように、Xのマイナス方向においても上述したプロセスを踏みながら(言わばムチが戻るように)Xのプラス方向に移動する。すなわち、その振れ幅が予め設定された免震可能な変位長さ以上の長周期地震動である場合、構造物全体が撓むこととも相俟ってその周期が大きく増幅され、被害が大きくなるケースがある。
【0008】
そこで、本発明は、上述した従来の免震装置又はダンパー等が有する種々の課題を解決するために提案されたものであって、対応可能な地震の振幅ストロークに一定の範囲又は限界を有する免震構造物に対して、その範囲又は限界を越える振幅ストロークの地震が発生した場合であっても、免震装置が破損することを防止することができるとともに、上記等のフェイルセーフ機能を有するばかりではなく、地震の振動による大きな衝撃力や衝撃音の発生を有効に低減することができるとともに上部構造物への影響も低減することができる画期的な免震状態解除装置及びこの免震状態解除装置を用いた免震構造物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものであって、第1の発明(請求項1記載の発明)は、免震装置により免震される免震構造物に配置されるものであって、構造物側から地盤側に向けて固定され内部には鉛直方向に軸挿通空間が形成された軸支持部材と、この軸支持部材に形成された軸挿通空間内に挿通された軸状部材と、この軸状部材の下方に水平に固定されるとともに、通常時においては上面で該軸状部材を下方から支持してなる円盤状の摺接プレートと、この摺接プレートの外周側に固定されてなるリング部材と、上記摺接プレートとリング部材との間には軸状部材が落下する落下空間が形成され、上記軸状部材が落下することにより、上記免震装置による免震状態が解除されることを特徴とするものである。
【0010】
上記第1の発明に係る免震状態解除装置は、免震装置により免震される免震構造物に配置されるものである。この免震装置は、先に説明した(1)積層ゴム免震、又は(3)滑り支承又は滑り免震若しくはコロ免震等を単体として、又は複合的に使用することができる。そして、この第1の発明に係る免震状態解除装置によれば、地震による振動が発生し、構造物と地盤とが相対的に変位すると、上記軸状部材の下端は上記摺接プレートの上面と摺接しながら往復動する。そして、その変位量が大きな長周期の地震が発生する(摺接プレートの半径よりも長い距離に亘って摺接プレート(地盤側)が移動する)と、上記軸状部材は、摺接プレートとリング部材との間に形成された落下空間に至り、上記軸支持部材に支持された状態で落下し、それまで上記免震装置による(免震構造物の)免震状態が解除される。すなわち、地盤の移動(振動)とともに構造物も移動(振動)することとなる。なお、上記軸状部材の落下は、該軸状部材の自重による場合以外に、例えば、該軸状部材の上方に該軸状部材を下方に押圧する弾性材を配置し、この弾性材の弾性力により落下する構造を採用しても良い。
【0011】
したがって、この第1の発明に係る免震状態解除装置によれば、対応可能な地震の振幅ストロークに一定の範囲又は限界を有する免震構造物に対して、その範囲又は限界を越える振幅ストロークの地震が発生した場合であっても、免震装置が破損することを防止することができる等のフェイルセーフ機能を有するばかりではなく、地震の振動による大きな衝撃力や衝撃音の発生を有効に低減することができるとともに上部構造物への影響も低減することができる。換言すれば、この第1の発明によれば、先に説明したように、免震機能を維持したままの状態で、(言わばムチが戻るように)構造物が大きく変位し揺れることにより、(免震されず地盤と共に構造物が揺れた場合における被害よりも)大きな被害が発生することを有効に防止することができる。
【0012】
また、第2の発明(請求項2記載の発明)は、上記第1の発明において、前記リング部材の高さは、前記摺接プレートの高さよりも高くされてなることを特徴とするものである。
【0013】
この第2の発明に係る免震状態解除装置は、前記リング部材の高さは、前記摺接プレートの高さよりも高くされてなることから、地盤側の移動に伴って、軸状部材が落下空間に落下せずリング部材を飛び越してしまう危険性を有効に防止することができる。
【0014】
また、第3の発明(請求項3記載の発明)は、上記第1又は第2の発明の何れかにおいて、前記軸支持部材と軸状部材との何れか一方又は双方には、該軸状部材の下面を前記摺接プレートの上面よりも上方位置において保持する保持手段が形成されてなることを特徴とするものである。
【0015】
この第3の発明に係る免震状態解除装置には、前記保持手段が形成されていることから、前記軸状部材が落下空間内に落下した後に、構造物をジャッキ等の機械器具を用いて上昇させるとともに、該軸状部材が前記摺接プレートの中央に位置するよう水平移動させる等、本来の位置に戻す作業を行う際、軸状部材を作業者が常に落下しないよう保持する等が不要となり、作業効率を高めることができる。
【0016】
なお、上記保持手段は、少なくとも、軸状部材の下面を前記摺接プレートの上面よりも上方位置において保持することができるものであれば良く、その手段は、軸支持部材と軸状部材との何れか一方又は双方に配置又は形成されていれば良い。
【0017】
また、第4の発明(請求項4記載の発明)は、前記免震状態解除装置を備えた免震構造物であって、内部には鉛直方向に軸挿通空間が形成された軸支持部材が構造物側から地盤側に向けて固定され、この軸支持部材に形成された軸挿通空間内には、軸状部材が挿通され、この軸状部材の下方には、通常時においては上面で該軸状部材を下方から支持してなる円盤状の摺接プレートが水平に固定され、この摺接プレートの外周側には、リング部材が固定されてなり、上記摺接プレートとリング部材との間には軸状部材が落下する落下空間が形成され、上記軸状部材が落下することにより、上記免震装置による免震状態が解除されることを特徴とするものである。
【0018】
上記第4の発明に係る免震構造物による場合であっても、上記第1の発明と同じ作用効果を奏する。
【発明の効果】
【0019】
上記第1の発明(請求項1記載の発明)に係る免震状態解除装置や第4の発明に係る免震構造物によれば、対応可能な地震の振幅ストロークに一定の範囲又は限界を有する免震構造物に対して、その範囲又は限界を越える振幅ストロークの地震が発生した場合であっても、免震装置が破損することを防止することができる等のフェイルセーフ機能を有するばかりではなく、地震の振動による大きな衝撃力や衝撃音の発生を有効に低減することができるとともに上部構造物への影響も低減することができる。換言すれば、この第1の発明によれば、先に説明したように、免震機能を維持したままの状態で、(言わばムチが戻るように)構造物が大きく変位し揺れることにより、(免震されず地盤と共に構造物が揺れた場合における被害よりも)大きな被害が発生することを有効に防止することができる。
【0020】
また、第2の発明(請求項2記載の発明)に係る免震状態解除装置によれば、地盤側の移動に伴って、軸状部材が落下空間に落下せずリング部材を飛び越してしまう危険性を有効に防止することができる。
【0021】
また、第3の発明(請求項3記載の発明)によれば、前記軸状部材が落下空間内に落下した後に、構造物をジャッキ等の機械器具を用いて上昇させるとともに、該軸状部材が前記摺接プレートの中央に位置するよう水平移動させる等、本来の位置に戻す作業を行う際、軸状部材を作業者が常に落下しないよう保持する等が不要となり、作業効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】免震状態解除装置が免震構造物に配置されている状態を模式的に示す側面図である。
【図2】図1に示す免震状態解除装置の主要な構成を示す分解斜視図である。
【図3】図1に示す免震状態解除装置を拡大して示す側面図である。
【図4】図1に示す免震状態解除装置を拡大して示す平面図である。
【図5】免震構造物に対して地盤が図中左側に変位した後の状態を模式的に示す平面図である。
【図6】免震構造物に対して地盤が図中右側に変位した後の状態を模式的に示す平面図である。
【図7】免震構造物に対して地盤が図中下側に変位した後の状態を模式的に示す平面図である。
【図8】免震構造物に対して地盤が図中上側に変位した後の状態を模式的に示す平面図である。
【図9】軸状部材が落下空間内に落下した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る免震構造物の免震状態解除装置及びこの免震状態解除装置を備えた免震構造物に係る実施をするための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。先ず、免震構造物の免震構造について簡単に説明し、次いで、この免震構造に用いられる免震規制装置について詳細に説明する。
【0024】
この免震構造は、図1に示すように、基礎コンクリート(以下、これを地盤という場合がある。)1と免震構造物2を構成する土台3との間に、第1の免震装置4と、第2の免震装置5とが配置されている。上記第1の免震装置4は、上記基礎コンクリート1の上面に水平に設けられた第1の支持プレート7上に固定された下部円盤プレート8と、この下部円盤プレート8と同じ形状からなる上部円盤プレート9と、上記下部円盤プレート8と上部円盤プレート9とにより挟持され図示しない多数の円盤状のゴムが積層された円柱状の積層体10とから構成されている。なお、この例では、上記土台3の下面には、固定部材11が固定され、この固定部材11の下面に固定された固定プレート12に対して上記上部円盤プレート9が図示しないボルト・ナットからなる複数の締結具により固定されている。
【0025】
また、上記第2の免震装置5は、上記基礎コンクリート1上に形成され、上面は平滑な滑り面とされた支承プレート14と、上端は上記土台3の下面に固定され該土台3から垂下してなるスライダー15とから構成されている。上記支承プレート14は、円盤状に成形されてなるものであり、上面には図示しないフッ素樹脂等の滑材が塗布されている。また、上記スライダー15の下面は上記支承プレート14の上面に載置されてなるものであり、地震動の発生により、該支承プレートとの間で互いに摺接するように構成されている。これら第1及び第2の免震装置4,5は、それぞれ複数配置されてなるとともに、免震構造物2全体の荷重は、これら第1及び第2の免震装置4,5により支持されている。したがって、地震の発生により地盤側が振動すると、その加速度は大きく減衰されて免震構造物2側に伝達される(すなわち、免震される)。
【0026】
そして、上記基礎コンクリート1上には、本発明に係る免震状態解除装置21が配置されている。この実施の形態に係る免震状態解除装置21は、図1又は図2に示すように、上記基礎コンクリート1上に水平に固定された固定プレート22と、この固定プレート22の上面の中央に固定され円盤状に成形された摺接プレート23と、上記固定プレート2上であってこの摺接プレート23の外側に固定されたリング部材24と、を備えている。上記固定プレート22は、正方形状に成形された鉄板であり、外周側端部には、上記基礎コンクリート1の表面に埋設された図示しないナットに螺着される図示しないボルトの軸が挿通される複数の貫通穴22aが穿設されている。また、上記摺接プレート23も鉄又はステンレススチール等の金属材料により円盤状に成形されてなるものであり、上記固定プレート22の中央に溶接などの固定手段により固定されている。なお、この摺接プレート23の直径は略上記支承プレート14の直径と同じか又は若干短い長さとされている。
【0027】
そして、上記摺接プレート23の外周側に固定された上記リング部材24は、鉄又はステンレススチール等の金属材料によりリング状に成形されてなるものであり、上記固定プレート22には溶接などの固定手段により固定されている。また、このリング部材24は、図1に示すように、上記摺接プレート23の高さよりも高い高さとされている。そして、このリング部材24と上記摺接プレート23との間の空間は、後述する軸状部材27が落下する落下空間26とされている。
【0028】
他方、上記土台3の下面には、図1に示すように、軸支持部材28が下向きに固定されおり、この軸支持部材28には、軸状部材27が下側から上側に挿通されており、(平常時においては)該軸状部材27の下端は、自重により上記摺接プレート23の中央(中心)に当接し、該軸状部材27の荷重の殆どはこの摺接プレート23に支持されている。上記軸支持部材28は、図2に示すように、上記土台3の下面に固定される固定板部30と、この固定板部30の中央に形成された円形状の開口30aと、上記固定板部30の下面から垂下してなる筒状部31と、この筒状部31の外周及び上記固定板部30の下面とに溶接され、該筒状部31の外周面から放射状に配置された補強リブ32とから構成されている。上記固定板部30であって上記補強リブ32が溶接された部位とは対応しない部位には、該固定板部30を上記土台3の下面に固定するために使用されるボルト34(の軸)が挿通される貫通穴30bが全部で8つ形成されている。また、上記筒状部31は、上記軸状部材27が挿通されるものであるから、該軸状部材27の直径よりもやや長い内径を有してなるものである。そしてさらに、この筒状部31には、図3に示すように、その上端から下端側にかけて長さを有する直線状の切欠き31aが形成され、この直線状の切欠き31aの上端側中途部には、該直線状の切欠き31aと連通してなり該筒状部31の周回り方向に長さを有する円弧状の切欠き31bがそれぞれ形成されている。同時に、上記固定板部30にも、後述する係止用凸部27aが挿通される切欠き30cが形成されている(図4参照)。
【0029】
一方、上記軸状部材27は、鉄又はステンレススチール等の金属材料により、円柱状に成形されてなるものであり、図2に示すように、上記筒状部31内に上方から挿入されてなるものであって、上端側の中途部の外周面には、係止用凸部27aが水平方向に突設されている。この係止用凸部27aの外径寸法は、上記直線状の切欠き31aと円弧状の切欠き31bとの双方に挿通される寸法とされており、通常時においては、図3に示すように、上記直線状の切欠き31aの中途部内であって、円弧状の切欠き31bの形成位置よりも下方位置にて挿通されている。
【0030】
以下、上述した構成に係る免震状態解除装置21を備えた免震構造物2の作用効果、すなわち、地震が発生した際の作用効果を説明する。
【0031】
先ず、図1に示すように、第1及び第2の免震装置4,5が配置され、上記軸状部材27が摺接プレート23の中央に位置している状態において、長周期ではない地震(すなわち、上記摺接プレート23上において移動する地震であり、上記第2の免震装置5を構成する支承プレート14上においてスライダー15が移動する地震)が発生した場合には、依然として上記第1及び第2の免震装置4,5により該免震構造物2は、免震状態とされる。
【0032】
しかしながら、上記地震が長周期の振動である場合には、地盤(基礎コンクリート)1側が構造物2から大きく変位し、例えば、図5に示すように、同図中左側(図5中矢印側)に変位すると、支承プレート14は左側に移動する。この結果、上記免震構造物2側に固定された第2の免震装置5を構成するスライダー15は、支承プレート14の右側に位置するとともに、該スライダー15が支承プレート14から脱落する前段階において、上記軸状部材27は先に説明した落下空間26上に移動する。このように、軸状部材27が移動すると、その自重により該軸状部材27は、摺接プレート23とリング部材24との間に落下する(図9参照)ことから、それ以上地盤1側が移動すると、構造物2も追随して移動し、また反対方向に地盤1が移動した場合も構造物2も追随する。すなわち、それまで免震状態であった免震構造物2は、その免震状態が解除され非免震構造物となる。こうした動作は、図6に示すように、地盤1が右側に移動した場合、図7に示すように、地盤1が同図中下側に移動した場合、図8に示すように、同図中地盤1が上側に移動した場合も同様である。
【0033】
したがって、この実施の形態に係る免震状態解除装置21及びこの免震状態解除装置21を備えた免震構造物2によれば、上記第1の免震装置4又は第2の免震装置5による免震可能な振幅ストロークを越える振幅ストロークの地震(長周期地震動)が発生した場合であっても、これらの免震装置4,5が破損することを防止することができる等のフェイルセーフ機能を有するばかりではなく、地震の振動による大きな衝撃力や衝撃音の発生を有効に低減することができるとともに構造物2への影響も低減することができる。換言すれば、この免震構造物によれば、先に説明したように、免震機能を維持したままの状態で、(言わばムチが戻るように)構造物2が大きく変位し揺れることにより、(免震されず地盤と共に構造物が揺れた場合における被害よりも)大きな被害が発生することを有効に防止することができる。
【0034】
特に、上記免震状態解除装置21では、リング部材24の高さは摺接プレート23の高さよりも高くされていることから、上記落下空間26内に軸状部材27が落下することなく、該リング部材24上を跨いで該リング部材24の外側に移動してしまう危険性を有効に防止することができる。
【0035】
またさらに、上記免震状態解除装置21では、先に説明したように、軸支持部材28を構成する筒状部31には、上記直線状の切欠き31aと円弧状の切欠き31bとが互いに連通した状態で形成され、この直線状の切欠き31aに係止用凸部27aが挿通されていることから、長周期の振動の発生により、図9に示すように、それまでの免震状態が解除され、その後に地震が終息し、図1に示すように元の状態に構造物2を戻すため該構造物2を、ジャッキ等を用いて上昇させその後に水平に移動させる際、上記軸状部材27を作業者が上昇させ、上記係止用凸部27aを円弧状の切欠き31bに挿通させ係止させることができる。こうして軸状部材27の係止用凸部27aを円弧状の切欠き31bに係止させることにより、該軸状部材27は上昇した状態を保持できるため、上記構造物2を図9に示す状態から図1に示す状態に復帰させる作業が極めて効率的に行うことができる。
【0036】
なお、上記筒状部31に直線状の切欠き31aと円弧状の切欠き31bとが互いに連通した状態で形成され、この直線状の切欠き31aに挿通されていた係止用凸部27aを円弧上の切欠き31bに挿通させることにより、軸状部材27を所定の位置で保持させる構成は、本発明を構成する「軸状部材の下面を前記摺接プレートの上面よりも上方位置において保持する保持手段」である。したがって、上記実施の形態に係る免震状態解除装置21では、上記保持手段として、軸状部材27と軸支持部材28との双方にその構成を設け、それらが共同して「軸状部材の下面を前記摺接プレートの上面よりも上方位置において保持する」ものであるが、こうした保持手段としての構成は、上記軸状部材27にのみ、又は軸支持部材28にのみに設けられたものであっても良い。
【符号の説明】
【0037】
1 (基礎コンクリート)地盤
2 免震構造物
4 第1の免震装置
5 第2の免震装置
21 免震状態解除装置
23 摺接プレート
24 リング部材
26 落下空間
27 軸状部材
27a 係止用凸部
28 軸支持部材
31a 直線状の切欠き
31b 円弧状の切欠き

【特許請求の範囲】
【請求項1】
免震装置により免震される免震構造物に配置されるものであって、構造物側から地盤側に向けて固定され内部には鉛直方向に軸挿通空間が形成された軸支持部材と、
この軸支持部材に形成された軸挿通空間内に挿通された軸状部材と、
この軸状部材の下方に水平に固定されるとともに、通常時においては上面で該軸状部材を下方から支持してなる円盤状の摺接プレートと、
この摺接プレートの外周側に固定されてなるリング部材と、
上記摺接プレートとリング部材との間には軸状部材が落下する落下空間が形成され、上記軸状部材が落下することにより、上記免震装置による免震状態が解除されることを特徴とする免震状態解除装置。
【請求項2】
前記リング部材の高さは、前記摺接プレートの高さよりも高くされてなることを特徴とする請求項1記載の免震状態解除装置。
【請求項3】
前記軸支持部材と軸状部材との何れか一方又は双方には、該軸状部材の下面を前記摺接プレートの上面よりも上方位置において保持する保持手段が形成されてなることを特徴とする請求項1又は2記載の何れかの免震状態解除装置。
【請求項4】
前記免震状態解除装置を備えた免震構造物であって、内部には鉛直方向に軸挿通空間が形成された軸支持部材が構造物側から地盤側に向けて固定され、
この軸支持部材に形成された軸挿通空間内には、軸状部材が挿通され、
この軸状部材の下方には、通常時においては上面で該軸状部材を下方から支持してなる円盤状の摺接プレートが水平に固定され、
この摺接プレートの外周側には、リング部材が固定されてなり、
上記摺接プレートとリング部材との間には軸状部材が落下する落下空間が形成され、上記軸状部材が落下することにより、上記免震装置による免震状態が解除されることを特徴とする免震構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−44409(P2013−44409A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183679(P2011−183679)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(502025473)エイチ・アール・ディー・シンガポール プライベート リミテッド (8)
【Fターム(参考)】