説明

全体としてコンパクトな粒状ミクロ構造をもつ材料にチタンおよび窒化物を拡散する方法、およびこの方法によって製造した製品

炭化物などの、全体としてコンパクトな粒状ミクロ構造をもつ基材にチタンおよび窒化物を拡散する方法である。この方法では、全体としてコンパクトな粒状ミクロ構造をもつ基材を用意し、
二酸化ナトリウム、およびシアン酸ナトリウムおよびシアン酸カリウムからなる群から選択した塩を有する塩浴を用意し、
チタン化合物の電解によって形成した金属チタンを上記塩浴に分散し、
約430℃〜約670℃の範囲にある温度に塩浴を加熱し、そして
約10分間〜約24時間の範囲にある時間基材を塩浴に浸漬することからなる。処理した基材は、さらに、通常の表面処理法または表面コーティング法を利用して処理してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は全般的には、基材にチタンおよび窒化物を拡散する方法に関する。具体的には、本発明は、全体としてコンパクトな粒状ミクロ構造をもつ基材(炭化物など)にチタンおよび窒化物を拡散する方法に関する。
【0002】
本発明は、全体としてコンパクトな粒状ミクロ構造をもつ基材に、電解チタンの存在下でチタンおよび窒化物を拡散する低温方法に関する。低温方法は、基材のそりおよび捩れを阻止または小さく抑える点で好ましい方法であるが、従来の表面処理方法には2つの問題がある。チタンについては、全体として不活性な軽量材料である上に、引っ張り強度(靭性)がきわめて高く、耐腐食性もすぐれている材料として考えられている。従って、不活性な性質、高い硬度、強い引っ張り強度や高い耐磨耗性を示すため、チタン含有製品は、各種の用途に利用できる。例示すれば、一般工業、生医学、宇宙工業、自動車工業、防衛産業、宝石産業、工具産業、工具製作産業、銃器製造産業などが挙げられる。
【背景技術】
【0003】
全体としてコンパクトな粒状ミクロ構造をもつ一部の材料は、非常に硬く、耐高温性が高いことが知られている。この種の材料の一つの実例は、炭化物である。限定する意図はないが、ここで公知の炭化物を挙げると、炭化ホウ素(BC)、炭化クロム(Cr)、セメンタイト即ち炭化鉄(FeC)、炭化ニオブ(NbC、NbC)、炭化ケイ素(SiC)、炭化タンタル(TaC)、炭化チタン(TiC)、炭化タングステン(WC、WC)、炭化バナジウム(VC)、炭化ジルコニウム(ZrC)、セラミック炭化物、炭化物を含有する金属合金、および炭化物を含有する金属がある。炭化物の応用分野の一つでは、これらを含有する切削工具が、高速鋼または炭素鋼の代わりに、強靭な材料を加工するために一般に使用されている。事実、炭化物を含有する切削工具は、炭素鋼または他の靭性のある金属を加工するために使用することができる。
【0004】
にもかかわらず、一般的にいって、炭化物は一部の金属材料や合金に比較して脆く、チッピングおよび/または破壊を受けやすい。例えば、図1に示すように、炭化物は、全体としてコンパクトな粒状ミクロ構造をもつ。粒状ミクロ構造は、炭化物の硬度に寄与するものであるが、粒子20間に、炭化物構造の脆弱性を永続化させる小さな空隙22が存在する。即ち、本発明の目的は、全体としてコンパクトな粒状ミクロ構造をもつ材料にチタンおよび窒化物を拡散して、これらに固有のものとして存在する空隙を充填し、これによってチタンの特性(靭性または引っ張り強度)を強化することである。
【0005】
本開示に援用され、かつその一部を構成するUSP6,645,566には、鋼、鋼合金、アルミ、アルミ合金、チタン、チタン合金は始めとする各種の基材にチタンおよび窒化物を拡散する方法が開示されているが、USP6,645,566には、全体としてコンパクトな粒状ミクロ構造をもつ材料にチタンおよび窒化物を拡散する手法は記載されていない。炭化物は、一般的には、他の材料、金属または金属合金とは異なる構造をもつことが知られている。例えば、図2、3および4にそれぞれ示されているように、鋼、アルミおよびチタン(いずれもUSP6,645,566に開示されている基材)は、一般的に、空隙26をもつ無定形基本構造24a、24b、24cを有する無定形ミクロ構造をもつものである。
【0006】
鋼、アルミおよびチタンの無定形ミクロ構造は、炭化物の全体としてコンパクトな粒状ミクロ構造とは著しく相違している。一般的に、全体として粒状を呈するミクロ構造の場合、炭化物が、全体として無定形のミクロ構造をもつ鋼、チタンおよびアルミより硬い。さらに、炭化物ミクロ構造の粒子20は、鋼、アルミおよびチタンの無定形基本構造24a、24b、24cよりも全体としてコンパクトである。従って、炭化物の粒子20間の空隙22は、全体として、鋼、アルミおよびチタンの無定形基本構造24a、24b、24c内部の空隙26a、26b、26cよりも小さい。
【0007】
鋼、アルミやチタンなどの材料の場合、無定形基本構造24a、24b、24cおよび比較的大きい空隙26a、26b、26cは、USP6,645,566の方法において、チタンおよび窒化物の拡散を促進するものである。対照的に、コンパクトな粒状ミクロ構造をもつ炭化物などの材料に任意の物質を拡散させることはより難しく、ほぼ不可能に近いことが一般的に知られている。従って、本発明の目的は、炭化物などの材料にチタンおよび窒化物を拡散して、粒状ミクロ構造に固有な空隙を、そのコンパクトな配向にもかかわらず充填し、チタンの特性を強化することである。
【0008】
また、炭化物を含有する材料には、基材に保護層を与えるか、あるいは材料を強化する従来の他の表面処理方法およびコーティング方法も適用されている。ところが、これら方法は多くの点で欠点がある。一つの実例を挙げれば、従来の表面処理方法および被覆方法は、典型的には、鋼および鋼合金に適用されている。一般に、鋼および鋼合金の場合、鉄の含有率が高いことが知られている。一部の従来表面処理方法の場合、例えば、物理的蒸着(PVD)、化学的蒸着(CVD)やイオン加速コーティング(IAC)のように、鋼または鋼合金の鉄と反応して、硬化した窒化鉄層を形成するように窒素を導入する窒化処理を行う。この反応によって、基材上の好適な保護層として作用する硬化窒化鉄層が形成する。
【特許文献1】USP6,645,566
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、一般的にいえば、これら窒化方法は、炭化物を処理するさいには十分ではない。より具体的にいえば、炭化物の場合、比較的鉄分が低いことが知られている。例えば、このような材料に適用する場合、窒素と反応する鉄が十分にない。従って、従来の窒化表面処理では、一般的にいって、鉄含有率が低いため、基材に硬化窒化鉄層が形成することはない。代わりに、基材表面との接着性が弱い保護層が生成するため、チッピングが発生しやすい。即ち、本発明の目的は、比較的鉄分の少ない材料のチタンおよび窒化物を拡散させることである。また、炭化物を含む基材と、従来の表面処理およびコーティングによって形成した保護層との間の接着性を強化する方法を提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
特許請求の範囲に記載した本発明の上記目的を実現するために、本発明は、全体としてコンパクトな粒状ミクロ構造をもつ基材にチタンおよび窒化物を拡散する手法、およびこの手法によって製造した製品を提供するものである。このような基材の一例は、炭化物を含有する基材である。驚くべきことに、本発明の方法を適用すると、全体としてコンパクトな粒状ミクロ構造をもつ基材に、チタンおよび窒化物を拡散できる。また、本発明は、このような基材のチタンの特性を強化する方法を提供するものである。
【0011】
全体としては、本発明方法は、全体としてコンパクトな粒状ミクロ構造をもつ基材を準備する工程、二酸化ナトリウム、およびシアン酸ナトリウムおよびシアン酸カリウムからなる群から選択した塩を有する塩浴を準備する工程、チタン化合物の電解によって形成した金属チタンを上記塩浴に分散する工程、約430℃〜約670℃の範囲にある温度に塩浴を加熱する工程、および約10分間〜約24時間の範囲にある時間基材を塩浴に浸漬する工程からなる。
【0012】
本発明の別な態様では、基材は、従来の表面処理またはコーティング処理で処理することができる。このような一つの実施態様では、本発明のチタン/窒化物拡散方法を使用して処理してから、従来の表面処理またはコーティング処理によって処理することができる。さらに別な実施態様では、従来の表面処理または表面コーティングで基材を処理してから、本発明のチタン/窒化物拡散方法を使用して処理することも可能である。この実施態様の場合、チタンおよび窒素が保護層の空隙を拡散充填するとともに、基材構造体の空隙を拡散充填する。この場合、保護層から下の基材まで拡散するため、両者の間にチタン界面または網目構造が生成する。この界面または網目構造が、保護層とその下にある基材との接着を良好のものにする。
【0013】
本発明のさらに別な態様の場合、全体としてコンパクトな粒状ミクロ構造をもつ基材からなり、チタン成分がミクロ構造体に拡散し、そして基材に存在するチタンがあればこのチタンに加えてチタン成分が存在する処理製品を提供するものである。
【0014】
本発明のさらに別な態様の場合、特定のミクロ構造体を有する炭化物を含有する基材からなり、チタン成分がミクロ構造体に拡散し、そして基材に存在するチタンがあればこのチタンに加えてチタン成分が存在する処理製品を提供するものである。
【0015】
なお、本発明は、単独でも効果があり、また複数組み合わせても効果がある多数の異なる態様または特徴を有するものである。従って、この発明の開示は、ここで特許請求の範囲に記載し、あるいは今後特許請求の範囲に記載される可能性のあるこのような態様または特徴を含むだけでなく、以下のより詳しい説明を理解するさいに役立つ本発明のその他の態様も含むものである。本発明の範囲は、以下に記載する具体的な実施態様に限定されるものではなく、あくまでも本特許請求の範囲、あるいは今後の特許請求の範囲に記載される範囲によって制限されるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の場合、多くの形態で、かつ各種の組み合わせで実施することが可能であるが、以下、焦点を絞って本発明のいくつかの実施態様を説明する。なお、これら実施態様はいずれも本発明の原理原則を例示するもので、本発明の広い範囲を制限するものではない。例えば、本発明は、コンパクトな粒状ミクロ構造をもつ任意の基材に適用できる。他の適当な基材も対象であるが、基材としては、コンパクトな粒状ミクロ構造をもつ金属基材を使用することができる。このような構造をもつ好適な別な基材は、例示すると、炭化物である。さらに、特定すれば、本発明は、炭化タングステン(WC、WC)、炭化ホウ素(BC)、炭化クロム(Cr)、セメンタイト即ち炭化鉄(FeC)、炭化ニオブ(NbC、NbC)、炭化ケイ素(SiC)、炭化タンタル(TaC)、炭化チタン(TiC)、炭化バナジウム(VC)、炭化ジルコニウム(ZrC)、セラミック炭化物、炭化物を含有する金属合金、および炭化物を含有する金属を対象とするものである。
【0017】
本発明の一つの実施態様では、活性化電解金属チタンを含有する穏やかに加熱した非電解塩浴を使用する。この塩浴中には、二酸化ナトリウム、およびシアン酸ナトリウムおよびシアン酸カリウムからなる群から選択した塩を存在させる。さらに、約20w/w%までのNaCOまたは塩化ナトリウムを添加配合してもよい。この浴に、約2〜約20μgの電解金属チタンを添加する。約430℃〜約670℃の温度で約10分間〜約24時間、コンパクトな粒状ミクロ構造をもつ基材を塩浴に浸漬する。電解チタンの触媒作用によって、チタンおよび窒化物が、この塩浴から約20〜約100μのコンパクトな粒状ミクロ構造をもつ基材に拡散する。
【0018】
このプロセスを通じて、チタンおよび窒化物が、コンパクトな粒状ミクロ構造をもつ基材に拡散する。驚くべきことに、比較的大きな空隙および構造がチタンおよび窒化物の拡散を促進するUSP6,645,566に記載されているように、基材が無定形ミクロ構造をもつ必要はない。対照的に、また驚くべきことに、このプロセスを通じて、電解チタンの触媒作用によって、チタンおよび窒化物が塩浴から約20〜約100μの基材に拡散する。具体的には、塩浴からチタンおよび窒化物が拡散して、基材の粒状ミクロ構造を、そのコンパクトな配向にもかかわらず充填する。従って、炭化物がコンパクトな粒状構造をもつため、これを含有する任意の基材を本発明方法で処理することができる。
【0019】
また、本発明の一つの実施態様は、炭化物を含有する基材にチタンおよび窒化物を拡散する方法であって、炭化物を含有する基材を準備する工程、二酸化ナトリウム、およびシアン酸ナトリウムおよびシアン酸カリウムからなる群から選択した塩を有する塩浴を準備する工程、電解金属チタンを上記塩浴に分散する工程、約430℃〜約670℃の範囲にある温度に塩浴を加熱する工程、および約10分間〜約24時間、好ましくは約2〜約10時間の範囲にある時間基材を塩浴に浸漬する工程からなる拡散方法を提供するものである。好ましくは、塩浴には、約20w/w%までの量の、二酸化炭素ナトリウム、炭酸ナトリウムおよび塩化ナトリウムからなる群から選択した塩を追加配合する。好ましい浸漬温度は、約500℃〜約650℃、特に約530℃〜約630℃である。
【0020】
従って、本発明の一つの実施態様の場合、全体としてコンパクトな粒状ミクロ構造をもつ基材からなり、チタン成分がミクロ構造体に拡散し、そして基材に存在するチタンがあればこのチタンに加えてチタン成分が存在する処理製品を提供するものである。
【0021】
本発明のさらに別な態様の場合、特定のミクロ構造体を有する炭化物を含有する基材からなり、チタン成分がミクロ構造体に拡散し、そして基材に存在するチタンがあればこのチタンに加えてチタン成分が存在する処理製品を提供するものである。
【0022】
USP6,645,566には、約2時間〜約10時間、好ましく約2時間〜約6時間、基材を浸漬することが開示されている。この浸漬時間は、一般的にいって、鋼、アルミおよびチタンの無定形構造体にチタンおよび窒化物を十分に浸漬するためには十分であるが、驚くべきことに、浸漬の早くも10分後には、炭化物への拡散が生じていることが見出された。さらに、炭化物のコンパクトな粒状構造へのチタンおよび窒化物の拡散を促進するためには、塩浴に炭化物を含有する基材を浸漬する時間を延長することが好ましい。
【0023】
本発明の別な態様では、基材は、従来の表面処理またはコーティング処理で処理することができる。このような一つの実施態様では、本発明のチタン/窒化物拡散方法を使用して処理してから、従来の表面処理またはコーティング処理により処理することができる。さらに別な実施態様では、従来の表面処理または表面コーティングで基材を処理してから、本発明のチタン/窒化物拡散方法を使用して処理することも可能である。
【0024】
これら実施態様では、基材を処理またはコーティング処理する任意の従来の方法を使用することができる。例えば、制限するものではないが、これら従来方法には、熱処理、ナノコーティング、セラミックコーティング、物理的蒸着(PVD)、化学的蒸着(CVD)、イオン加速コーティング(IAC)、およびその他の材料または金属に好適な表面処理およびコーティング処理がある。既に詳しく述べたように、これら従来の表面処理方法およびコーティング処理方法は、単独で使用した場合には、炭化物の処理に一般的に十分ではない。これら従来方法で形成した保護層は、炭化物表面との接着が弱く、チッピングを発生しやすい。さらに、これら従来処理方法は、保護層の下にある基材そのものの引っ張り特性を改善または強化するものではない。本発明の一つの実施態様の場合、保護層を形成した基材を本発明方法で以下のように処理することができる。
【0025】
活性化電解金属チタンを含む穏やかに加熱した非電解塩浴に、保護層を形成した基材を浸漬する。この塩浴中には、二酸化ナトリウム、およびシアン酸ナトリウムおよびシアン酸カリウムからなる群から選択した塩を存在させる。さらに、約20w/w%までの塩化ナトリウムNaCOを添加配合してもよい。この浴に、約2〜約20μgの電解金属チタンを添加する。約430℃〜約670℃の温度で約10分間〜約24時間、保護層を形成した基材を塩浴に浸漬する。電解チタンの触媒作用によって、チタンおよび窒化物が、この塩浴から基材およびその上に形成した保護層の両者に拡散する。
【0026】
本発明方法のこの実施態様の場合、チタンおよび窒素が保護層の空隙に拡散充填するとともに、基材の空隙も拡散充填する。このように、保護層からのその下の基材に拡散し、チタン界面またはチタン網を両者の間に形成する。このチタン界面またはチタン網が、保護層とその下の基材との間の接着をすぐれたものにする作用効果をもつ。驚くべきことに、本発明の方法では、チタンおよび窒化物が基材だけではなく、その上の保護層に拡散することになる。
【実施例1】
【0027】
図5は、チタンおよび窒化物を拡散する前の、炭化物を含有する基材30aを示す図である。図示のように、基材30aは、全体として淡い色であり、炭化物の粒状構造を呈するものである。この基材を以下のようにして本発明方法で処理する。
【0028】
活性化電解金属チタンを含有する穏やかに加熱した非電解塩浴に炭化物含有基材30aを浸漬する。この塩浴中には、二酸化ナトリウム、およびシアン酸ナトリウムおよびシアン酸カリウムからなる群から選択した塩を存在させる。さらに、約20w/w%までの量でNaCOまたは塩化ナトリウムを添加配合してもよい。この浴に、約2〜約20μgの電解金属チタンを添加する。約430℃〜約670℃の温度で約10分間〜約24時間、炭化物含有基材を塩浴に浸漬する。電解チタンの触媒作用によって、チタンおよび窒化物が、この塩浴から約20〜約100μの基材30aに拡散する。
【0029】
図6に示すように、チタンおよび窒化物が約35μ以上の基材30bに拡散する。この拡散により、図6の基材30bが、図5に示すように基材30aより暗い色になる。この暗い色の部分は、炭化物構造の粒子間の空隙に充填されたチタンおよび窒素に対応する。即ち、実施例1では、驚くべきことに、チタンおよび窒化物が、本発明方法により、炭化物のコンパクトな粒子構造に拡散していることがわかる。
【実施例2】
【0030】
図7は、本発明の一態様に従ってチタンおよび窒化物を拡散する前の、CVD法で処理した炭化物を示す。既に説明したように、従来の窒化表面処理は、炭化物含有材料をコーティング処理または表面処理する場合に問題がある。CVD法などのこれら従来方法によって形成した保護層は、炭化物表面との接着が弱く、チッピングが発生しやすい。さらに、これら従来処理法は、炭化物そのものの引っ張り特性を改善または強化するものではない。
【0031】
図7は、CVD法によって形成した保護層32cを示す図である。図7に示すように、保護層32cと基材30cの炭化物表面との間に判然とした界面および境界が存在するため、これらの間の接着性が脆弱化する。図7は、さらに、CVD法が炭化物自体の引っ張り特性を強化しないことも説明している。図示のように、図7に示す基材30cの下にある炭化物は、図5に示す基材30aの未処理炭化物と構造および色が同じである。具体的には、いずれも炭化物を含有する基材30a、30cは、全体として淡色であるため、炭化物の粒状構造を呈している。この保護層32cを形成した基材30cを以下のようにして本発明方法で処理する。
【0032】
活性化電解金属チタンを含有する穏やかに加熱した非電解塩浴に保護層32cを形成した炭化物含有基材30cを浸漬する。この塩浴中には、二酸化ナトリウム、およびシアン酸ナトリウムおよびシアン酸カリウムからなる群から選択した塩を存在させる。さらに、約20w/w%までの量でNaCOまたは塩化ナトリウムを添加配合してもよい。この浴に、約2〜約20μgの電解金属チタンを添加する。約430℃〜約670℃の温度で約10分間〜約24時間、保護層32cを形成した炭化物含有基材30cを塩浴に浸漬する。電解チタンの触媒作用によって、チタンおよび窒化物が、この塩浴から基材30cおよび保護層32cの両者に拡散する。
【0033】
図8に示すように、チタンおよび窒化物が保護層32dおよび基材30dの両者に拡散する。この拡散によって、図7の淡い色の材料が、図8に示すようにより暗い色になっている。この暗い部分は、保護層32dおよび基材30dの下にある炭化物の両者に現れている。即ち、チタンおよび窒素は、保護層32dの空隙を拡散充填するとともに、基材30dの炭化物構造の粒子間の空隙にも拡散充填している。このように、保護層32dから基材30dの下にある炭化物まで拡散するため、チタン界面またはチタン網が両者の間に生成する。このチタン界面またはチタン網が、保護層32dとその下にある基材30dとの間の接着を良好なものにする作用効果をもつ。即ち、実施例2では、本発明の方法により、チタンおよび窒化物が炭化物のコンパクトな粒状構造だけでなく、その上の保護層にも拡散していることがわかる。
【実施例3】
【0034】
炭化物からなる金属合金を、旋盤用インサートの基材として使用した。基材は、さらにバナジウムを含有していた。旋盤用インサートをさらにCVD法で処理した。次に、この旋盤用インサートを、2〜20μgの電解金属チタンを添加した加熱塩浴(NaCNOおよび約10w/w%のNaCO)に545℃で2時間浸漬処理した。次に、旋盤用インサートを冷却、乾燥した。次に、旋盤用インサートを洗浄して、拡散プロセス時および拡散プロセス後に加えられた熱の結果として生成した酸化層を除去した。
【0035】
本発明方法で処理した上記旋盤用インサートをCVD法のみで処理した旋盤用インサートとともに同じ加工パラメータの下で試験し、比較した。
加工基材:炭素鋼
加工径:19´´
スピンドル速度(SFPM):330
送り速度IPR:0.04
切断深さ:0.25´´/側面
切断深さ:4´9´´
パス回数:8
【0036】
試験後、本発明方法で処理した旋盤用インサートの磨耗は驚くほど少なかった。対照的に、CVD法でのみ処理した旋盤用インサートはチッピングが激しく、切断工具が壊れた。
【実施例4】
【0037】
炭化物からなる金属合金を、旋盤用インサートの基材として使用した。基材は、さらにバナジウムを含有していた。旋盤用インサートをさらにCVD法で処理した。次に、この旋盤用インサートを、2〜20μgの電解金属チタンを添加した加熱塩浴(NaCNOおよび約10w/w%のNaCO)に545℃で2時間浸漬処理した。次に、旋盤用インサートを冷却、乾燥した。次に、旋盤用インサートを洗浄して、拡散プロセス時および拡散プロセス後に加えられた熱の結果として生成した酸化層を除去した。
【0038】
本発明方法で処理した上記旋盤用インサートをCVD法のみで処理した旋盤用インサートとともに同じ加工パラメータの下で試験し、比較した。
加工基材:炭素鋼
加工径:17´´
スピンドル速度(SFPM):330
送り速度IPR:0.035
切断深さ:0.25´´/側面
切断深さ:5´9´´
パス回数:11
【0039】
試験後、本発明方法で処理した旋盤用インサートの磨耗は驚くほど少なかった。対照的に、CVD法でのみ処理した旋盤用インサートはチッピングが激しく、切断工具が壊れた。
【0040】
上記実施例およびデータから、炭化物からなる基材を本発明に従って処理すると、驚くべきことに、炭化物のコンパクトな粒状構造にチタンおよび窒化物が拡散することが理解できる。さらに、保護層を形成した基材を本発明方法で処理すると、驚くべきことに、チタンおよび窒化物が保護層に拡散した。保護層から下にある炭化物まで拡散するため、これらの間にチタン界面またはチタン網が生成した。このチタン界面またはチタン網が、保護層とその下の基材との間にすぐれた接着性を与える作用効果をもたらした。本発明の方法によって、すぐれた加工結果が得られた。
【0041】
以上、いくつかの例示的な態様について本発明を説明してきたが、説明はいずれも例示のみを目的とするものである。個別的に記載されているか、あるいは特許請求の範囲に記載されている特長の組み合わせを始めとする各種の変更や改変が、本発明の精神、核心となる特徴、範囲から逸脱せずに、本発明の各態様において可能である。さらに、このような変更または改変はいずれも、当業者にとっては、以下の特許請求の範囲における一つかそれ以上の要素に対して等価であり、法律によって許されている最大の範囲まで特許請求の範囲の記載によって保護されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0042】
添付図面は、本発明を説明するための図面であり、同一部分は同一符号で示す。
【図1】炭化物などの、全体としてコンパクトな粒状ミクロ構造をもつ代表的な基材を示す走査電子顕微鏡写真横断面図である。
【図2】全体として無定形な構造をもつ代表的な鋼を示す走査電子顕微鏡写真横断面図である。
【図3】全体として無定形な構造をもつ代表的なアルミを示す走査電子顕微鏡写真横断面図である。
【図4】全体として無定形な構造をもつ代表的なチタンを示す走査電子顕微鏡写真横断面図である。
【図5】本発明の一態様に従ってチタンおよび窒化物を拡散する前の炭化物を示す横断面図である。
【図6】本発明の一態様に従ってチタンおよび窒化物を拡散した後の炭化物を示す横断面図である。
【図7】本発明に従ってチタンおよび窒化物を拡散する前の、CVD法で処理した炭化物の横断面図である。
【図8】本発明に従ってチタンおよび窒化物を拡散した後の、CVD法で処理した炭化物の横断面図である。
【符号の説明】
【0043】
30a、30b、30c、30d:基材、
32c、32d:保護層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材にチタンおよび窒化物を拡散する方法において、
全体としてコンパクトな粒状ミクロ構造をもつ基材を用意し、
二酸化ナトリウム、およびシアン酸ナトリウムおよびシアン酸カリウムからなる群から選択した塩を有する塩浴を用意し、
チタン化合物の電解によって形成した金属チタンを上記塩浴に分散し、
約430℃〜約670℃の範囲にある温度に塩浴を加熱し、そして
約10分間〜約24時間の範囲にある時間上記基材を塩浴に浸漬することからなることを特徴とする拡散方法。
【請求項2】
基材へのチタンおよび窒化物の拡散を促進するために、上記浸漬時間を延長することからなる請求項1記載の方法。
【請求項3】
上記塩浴が、非電解塩浴である請求項1記載の方法。
【請求項4】
上記塩浴に、二酸化炭素ナトリウム、炭酸ナトリウムおよび塩化ナトリウムから選択された塩を約20w/w%までの量で追加配合した請求項1記載の方法。
【請求項5】
浸漬温度が約500℃〜約650℃である請求項1記載の方法。
【請求項6】
上記塩浴に、二酸化炭素ナトリウム、炭酸ナトリウムおよび塩化ナトリウムから選択した塩を約20w/w%までの量を追加配合した請求項3記載の方法。
【請求項7】
基材を塩浴に浸漬する前に、基材を処理することからなる請求項1記載の方法。
【請求項8】
熱処理、ナノコーティング、セラミックコーティング、物理的蒸着(PVD)、化学的蒸着(CVD)およびイオン加速コーティング(IAC)からなる群から選択した処理法を使用して、基材を処理する請求項7記載の方法。
【請求項9】
基材を塩浴に浸漬した後、基材をさらに処理することからなる請求項1記載の方法。
【請求項10】
上記のさらに行う処理が、熱処理、ナノコーティング、セラミックコーティング、物理的蒸着(PVD)、化学的蒸着(CVD)およびイオン加速コーティング(IAC)からなる群から選択した処理法を使用して、基材を処理する請求項9記載の方法。
【請求項11】
基材が、炭化物を含有する請求項1記載の方法。
【請求項12】
上記の炭化物含有基材を、炭化ホウ素、炭化クロム、炭化鉄、炭化二オブ、炭化ケイ素、炭化タンタル、炭化チタン、炭化タングステン、炭化バナジウム、炭化ジルコニウム、セラミック炭化物および炭化物合金からなる群から選択した請求項11記載の方法。
【請求項13】
基材が金属基材である請求項1記載の方法。
【請求項14】
基材にチタンおよび窒化物を拡散する方法において、
炭化物含有基材を用意し、
二酸化ナトリウム、およびシアン酸ナトリウムおよびシアン酸カリウムからなる群から選択した塩を有する塩浴を用意し、
チタン化合物の電解によって形成した金属チタンを上記塩浴に分散し、
約430℃〜約670℃の範囲にある温度に塩浴を加熱し、そして
約10分間〜約24時間の範囲にある時間上記基材を塩浴に浸漬することからなることを特徴とする拡散方法。
【請求項15】
上記の炭化物含有基材を、炭化ホウ素、炭化クロム、炭化鉄、炭化ニオブ、炭化ケイ素、炭化タンタル、炭化チタン、炭化タングステン、炭化バナジウム、炭化ジルコニウム、セラミック炭化物および炭化物合金からなる群から選択した請求項14記載の方法。
【請求項16】
基材へのチタンおよび窒化物の拡散を促進するために、上記浸漬時間を延長することからなる請求項14記載の方法。
【請求項17】
上記塩浴が、非電解塩浴である請求項14記載の方法。
【請求項18】
上記塩浴に、二酸化炭素ナトリウム、炭酸ナトリウムおよび塩化ナトリウムから選択された塩を約20w/w%までの量で追加配合した請求項14記載の方法。
【請求項19】
浸漬温度が約500℃〜約650℃である請求項14記載の方法。
【請求項20】
上記塩浴に、二酸化炭素ナトリウム、炭酸ナトリウムおよび塩化ナトリウムから選択された塩を約20w/w%までの量で追加配合した請求項17記載の方法。
【請求項21】
上記基材を塩浴に浸漬する前に、基材をさらに処理する請求項14記載の方法。
【請求項22】
熱処理、ナノコーティング、セラミックコーティング、物理的蒸着(PVD)、化学的蒸着(CVD)およびイオン加速コーティング(IAC)からなる群から選択した処理法を利用して、基材を処理する請求項21記載の方法。
【請求項23】
上記基材を塩浴に浸漬した後、基材をさらに処理することからなる請求項14記載の方法。
【請求項24】
上記のさらに行う処理が、熱処理、ナノコーティング、セラミックコーティング、物理的蒸着(PVD)、化学的蒸着(CVD)およびイオン加速コーティング(IAC)からなる群から選択した処理法を利用して、基材を処理する請求項23記載の方法。
【請求項25】
上記基材が、金属基材である請求項21記載の方法。
【請求項26】
全体としてコンパクトな粒状ミクロ構造をもつ基材、および上記構造に拡散したチタン成分からなり、このチタン成分に加えて、基材にチタンが存在する場合にチタンを有することを特徴とする処理製品。
【請求項27】
上記基材が、チタンを有する請求項26記載の処理製品。
【請求項28】
上記基材が、チタンを含まない請求項26記載の処理製品。
【請求項29】
上記チタン成分が、各ミクロ構造内の空隙に拡散している請求項26記載の処理製品。
【請求項30】
上記基材が窒化物を有する請求項26記載の処理製品。
【請求項31】
上記炭化物含有基材を、炭化ホウ素、炭化クロム、炭化鉄、炭化ニオブ、炭化ケイ素、炭化タンタル、炭化チタン、炭化タングステン、炭化バナジウム、炭化ジルコニウム、セラミック炭化物および炭化物合金からなる群から選択した請求項30記載の処理製品。
【請求項32】
上記基材が金属基材である請求項26記載の処理製品。
【請求項33】
上記チタン成分がさらに窒化物を有する請求項26記載の処理製品。
【請求項34】
特定のミクロ構造をもつ炭化物を含有する基材、およびこのミクロ構造に拡散したチタン成分からなり、このチタン成分に加えて、基材にチタンが存在する場合にチタンを有することを特徴とする処理製品。
【請求項35】
上記基材が、チタンを有する請求項34記載の処理製品。
【請求項36】
上記基材が、チタンを含まない請求項34記載の処理製品。
【請求項37】
上記チタン成分が、ミクロ構造内の空隙に拡散している請求項34記載の処理製品。
【請求項38】
上記チタン成分がさらに窒化物を有する請求項34記載の処理製品。
【請求項39】
全体としてコンパクトな粒状ミクロ構造をもつ基材を用意し、
二酸化ナトリウム、およびシアン酸ナトリウムおよびシアン酸カリウムからなる群から選択した塩を有する塩浴を用意し、
チタン化合物の電解によって形成した金属チタンを上記塩浴に分散し、
約430℃〜約670℃の範囲にある温度に塩浴を加熱し、そして
約10分間〜約24時間の範囲にある時間基材を塩浴に浸漬することからなる拡散方法
によって製造したことを特徴とする処理製品。
【請求項40】
上記基材が、チタンを有する請求項39記載の処理製品。
【請求項41】
上記基材が、チタンを含まない請求項39記載の処理製品。
【請求項42】
上記チタン成分が、ミクロ構造内の空隙に拡散している請求項39記載の処理製品。
【請求項43】
上記チタン成分がさらに炭化物を有する請求項39記載の処理製品。
【請求項44】
上記炭化物含有基材を、炭化ホウ素、炭化クロム、炭化鉄、炭化ニオブ、炭化ケイ素、炭化タンタル、炭化チタン、炭化タングステン、炭化バナジウム、炭化ジルコニウム、セラミック炭化物および炭化物合金からなる群から選択した請求項43記載の処理製品。
【請求項45】
上記基材が金属基材である請求項39記載の処理製品。
【請求項46】
上記チタン成分がさらに窒化物を有する請求項39記載の処理製品。
【請求項47】
炭化物含有基材を用意し、
二酸化ナトリウム、およびシアン酸ナトリウムおよびシアン酸カリウムからなる群から選択した塩を有する塩浴を用意し、
チタン化合物の電解によって形成した金属チタンを上記塩浴に分散し、
約430℃〜約670℃の範囲にある温度に塩浴を加熱し、そして
約10分間〜約24時間の範囲にある時間基材を塩浴に浸漬することからなる拡散方法
によって製造したことを特徴とする処理製品。
【請求項48】
上記基材が、チタンを有する請求項47記載の処理製品。
【請求項49】
上記基材が、チタンを含まない請求項47記載の処理製品。
【請求項50】
上記チタン成分が、上記基材内の空隙に拡散している請求項47記載の処理製品。
【請求項51】
上記炭化物含有基材を、炭化ホウ素、炭化クロム、炭化鉄、炭化ニオブ、炭化ケイ素、炭化タンタル、炭化チタン、炭化タングステン、炭化バナジウム、炭化ジルコニウム、セラミック炭化物および炭化物合金からなる群から選択した請求項47記載の処理製品。
【請求項52】
上記基材が金属基材である請求項47記載の処理製品。
【請求項53】
上記チタン成分がさらに窒化物を有する請求項47記載の処理製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2009−534533(P2009−534533A)
【公表日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−506685(P2009−506685)
【出願日】平成19年4月10日(2007.4.10)
【国際出願番号】PCT/US2007/066290
【国際公開番号】WO2008/070197
【国際公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(508307377)
【氏名又は名称原語表記】KO,Phiros Jongho
【住所又は居所原語表記】624 Prospect Avenue,Barrington,IL 60010 USA
【出願人】(508307388)
【氏名又は名称原語表記】KO,Bongsub Samuel
【住所又は居所原語表記】624 Prospect Avenue,Barrington,IL 60010 USA
【Fターム(参考)】