説明

全国合成レーダ雨量情報提供システム

【課題】隣接するレーダ雨量計の観測結果と合成する場合、個々のレーダ雨量計における観測特性の差を補正しきれないため、互いの接合部に段差が現れてしまうといった問題があり、連続的なレーダ雨量を精度良く求めることができない。
【解決手段】レーダ雨量計の全国合成手段1と、災害履歴検索手段2と、全国合成手段1より得られた精度の高い実況のオンライン合成レーダ雨量を用いる流出予測手段3と、レーダ雨量計補正手段4とを備える。全国合成手段1は、オンラインデータ、記録データを用いて、個別のレーダ雨量計が観測した雨量と地上雨量とを基に1kmメッシュ単位で、日本全土の連続的な雨量として定量的精度を高めた雨量値を算出し、雨量分布画像を作成表示する。全国26基のレーダ雨量計の観測値を収集し、時々刻々、地上雨量を用いた定量的補正と連続的な合成を行い、全国の3次メッシュ毎の合成レーダ雨量を作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として地上雨量を用いてレーダ雨量計間の観測レベルを調整し、直交1kmメッシュ単位で全国合成して、そのデータと地上雨量を使用してメッシュ毎の補正を行うことにより、日本全土の連続的なレーダ雨量を高精度で求めて、有用な雨量情報を提供することができる全国合成レーダ雨量情報提供システムに関する。
【背景技術】
【0002】
レーダ雨量計は、電波が雨滴に当たって戻ってくるまでの時間と、その反射波の強さによって、降雨の位置(雨滴の分布)と雨量強度を観測する装置であり、昭和51年に第1号機が赤城山頂に設置されて以来、順次、全国に設置され、また、機器の更新が行われてきた結果、現在では、26基が稼動している。
【0003】
従来、斯かるレーダ雨量計は、個々のレーダ雨量計の観測データをそのまま地方単位で合成するなどして利用されているのが現状である。
【0004】
また、レーダ雨量計の運用方法や雨滴定数の検討等は、個々のレーダ雨量計毎に行われており、全国的に統一された運用方法、適切な補正方法、精度管理手法等を満たすシステムは未だ確立されていない(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平6−214024
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来の個々のレーダ雨量計の観測データにあっては、地上雨量と比較して観測精度にばらつきがあるため、合成されたレーダ雨量は、主として降雨の傾向を定性的に捉えるといった形態での利用にとどまっていた。
【0006】
すなわち、従来のレーダ雨量計では、各地方で合成、補正を実施してきたが、雨量表示の精度も低く、水文データとしてのレーダ雨量の活用が進まない等の支障が生じている。
【0007】
しかも、従来のレーダ雨量計を用いた配信システムにあっては、レーダ雨量計単体でしか雨量分布を補正することができないため、換言すれば、単体レーダ雨量計の局所的な雨量分布を補正することはできても、隣接するレーダ雨量計の観測結果と合成する場合、個々のレーダ雨量計における観測特性の差を補正しきれないため、互いの接合部に段差が現れてしまうといった問題があり、連続的なレーダ雨量を精度良く求めることができない。
【0008】
また、レーダ雨量計による雨量値を簡易型の全国合成レーダ雨量として表示する手法もあるが、この従来の手法では、上述したように隣接するレーダとレーダとの境界で雨量が連続せず、また、精度の向上にも難点があった。
【0009】
更に、従来の災害履歴検索手段にあっては、雨域の移動のみに着目して現況降雨と過去降雨のパターンマッチングを行っているが、雨量強度の変化を考慮にいれてないため、未だ精度に難点があった。
【0010】
また、従来のXバンドを使用する小型レーダ雨量計にあっては、レーダサイト近傍で強雨がある場合、レドーム水膜及び途中降雨による減衰を受け、観測精度が著しく悪くなる場合があるなどの問題がある。
【0011】
一方、昨今では、(a)一般市民へ分かり易い防災情報の提供を行うため、全国統一したレーダ雨量表示が必要になったこと、(b)水文観測業務規定において、レーダ雨量計で観測した雨量が水文データとして位置づけられ、(c)レーダ雨量計解析処理データとしてレーダ雨量データの保存が決められたこと、(d)気象庁とのレーダ雨量データが共有になることなどにより、より精度の高い全国合成の観測データが要望されている。
【0012】
本発明はこのような従来の問題点及び要望に鑑みてなされたもので、地上雨量を用いてレーダ雨量計間の観測レベルを調整し、直交1kmメッシュ単位で全国合成して、そのデータと地上雨量を使用してメッシュ毎の補正を行うことにより、日本全土の連続的なレーダ雨量を高精度で求め、それを使用して有用な情報が提供できる全国合成レーダ雨量情報提供システムを提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の如き従来の問題点を解決し、初期の目的を達成するための本発明の要旨とする構成は、レーダ雨量計の全国合成手段と、レーダ雨量計のデータを用いて災害履歴の検索を行う災害履歴検索手段と、前記全国合成手段より得られた精度の高い実況のオンライン合成レーダ雨量を用いる流出予測手段と、Cバンドレーダ雨量計で観測されたデータとの比較によって得られる補正率によりXバンドレーダの観測データを補正するレーダ雨量計補正手段との全て又は何れかを選択又は組み合わせてなるレーダ雨量計情報提供システムに存する。
【0014】
また、前記全国合成手段は、オンラインデータ、記録データを用いて個別のレーダ雨量計が観測した雨量分布と地上雨量とを基に、1kmメッシュ単位で、日本全土の連続的な雨量分布として、定量的精度を高めた雨量値(以下、単に合成レーダ雨量という)を算出し、雨量分布画像を作成・表示するのが良い。
【0015】
更に、前記災害履歴検索手段は、レーダ雨量計の全国合成手段より得られた精度の高い雨量計のデータを用い、実況のレーダ雨量データと予め保存されている過去のレーダ雨量データとを比較することによって、現況降雨と類似している過去の降雨及びその際の関連水文情報・災害履歴情報を検索し表示するのが良い。
【0016】
また、前記流出予測手段は、レーダ雨量計の全国合成手段より得られた精度の高い実況のオンライン合成レーダ雨量と、運動学的手法若しくは気象学的手法により得られる予測雨量とを入力値とし、分布型或いは集中型の流出モデルを介して、予測対象地点における数分若しくは数時間先の流量或いは水位を計算し表示するのが良い。
【0017】
更に、前記レーダ雨量計補正手段は、電波伝搬経路上にある降雨或いはレドームに形成される水膜により減衰を受け易いXバンドレーダ雨量計の観測データに対して地上雨量データで補正すると共に、Cバンドレーダ雨量計の観測データを使用して減衰を受けた観測データを補正し、適切な雨量の測定を行うのが良い。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、個別レーダ観測範囲全域を対象として均質化補正処理を施し、更に近接する複数レーダのうち、精度の高いデータを全国合成に使用する手順を加えた上で、局所的にメッシュ毎の補正を行うため、従来の如き境界付近でのデータの段差が生じることなく、複数レーダ雨量計が観測する日本全土の連続的なレーダ雨量を精度良く求めることができるといった効果を奏する。
【0019】
また、従来のシステムでは、オンラインにより送信されるレーダ雨量及び地上テレメータ雨量を基にリアルタイムで処理するため、補正係数として直前の時間帯の雨量比を使用しているのに対し、本発明の全国合成レーダ雨量情報提供システムでは、記録媒体に保存された雨量データを事後的に(オフラインで)解析する場合において、当該時間帯における雨量比を補正係数として採用することにより、補正後、雨量値の精度を更に向上させることもできるといった効果も奏するものである。
【0020】
また、本システムでは、雨域の移動のみならず、雨量強度の変化をも考慮にいれてパターンマッチングを行うため、より精度の高い降雨検索ができるといった効果を奏するものである。
【0021】
このように本発明は、地上雨量を用いてレーダ雨量計間の観測レベルを調整し、直交1kmメッシュ単位で全国合成して、そのデータと地上雨量を使用してメッシュ毎の補正を行うことにより、日本全土の連続的なレーダ雨量を高精度で求めることができるものであり、本発明を実施することはその実益的価値が甚だ大である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
レーダ雨量計間の観測レベルを調整し、直交1kmメッシュ単位で全国合成して、そのデータと地上雨量を使用してメッシュ毎の補正を行うことにより、日本全土の連続的なレーダ雨量を高精度で求めるレーダ雨量計全国合成手段と、レーダ雨量計を用いる災害履歴検索手段と、流出予測手段と、Cバンドレーダ雨量計を用いるXバンドのレーダ雨量計補正手段とを備える。
【実施例】
【0023】
次に、本発明の実施の一例を図面を参照しながら説明する。図中Aは、本発明に係る全国合成レーダ雨量情報提供システムであり、この全国合成レーダ雨量情報提供システムAは、図1に示すように、レーダ雨量計の全国合成手段1と、レーダ雨量計を用いた災害履歴検索手段2と、前記全国合成手段1より得られた精度の高い実況のオンライン合成レーダ雨量を用いる流出予測手段3と、Cバンドレーダ雨量計を用いたXバンドのレーダ雨量計補正手段4とを備えている。
【0024】
前記レーダ雨量計の全国合成手段1は、オンラインデータ、記録データを用いて個別のレーダ雨量計が観測した雨量と地上雨量とを基に、1kmメッシュ単位で、日本全土の連続的な雨量分布として、定量的精度を高めた雨量値を算出し、雨量分布画像を作成し表示するものである。
【0025】
全体構成としては、図2に示すように、レーダ雨量計観測記録機能1aと、地上雨量計観測記録機能1bと、均質化補正処理機能1cと、全国合成処理機能1dと、メッシュ補正処理機能1eと、配信・表示・計算処理機能1fとから構成されている。
【0026】
また、レーダ雨量計全国合成手段1について、更に詳しく説明すれば、全国26基のレーダ雨量計の観測値を収集し、時々刻々、地上雨量を用いた定量的補正と連続的な合成を行い、全国の第3次地域区画(以下、単に3次メッシュという)毎の合成レーダ雨量を作成するものであり、図3に示すように、(1)観測局、(2)解析処理局、(3)全国合成局とに大別され、それぞれを結ぶ伝送系統を含め、一体のシステムとして統一的な運用管理がなされている。
【0027】
(1)観測局
(a)レーダ雨量計受信電力の観測
レーダ雨量計観測記録機能1aは、個別の雨量計により観測された受信電力に基づいて算出される雨量値であり、レーダサイトからの距離と方向に応じた極座標メッシュ毎に求められる。
【0028】
尚、複数の仰角により観測されている場合には、メッシュ毎にレーダ雨量計個有の仰角合成テーブルに定められた仰角における観測値を以て仰角合成雨量値とするものであり、オンラインで配信されるデータ(以下、単にオンラインデータという)或いはこれを記録媒体に保存したデータ(以下、単に記録データという)としてシステムに入力される。
【0029】
斯かるレーダ雨量観測記録機能1aでは、個々のレーダ雨量計で降雨観測を行い、仰角毎に極座標メッシュの5分間平均受信電力値Pr(レーダ雨量計受信電力1a )を求めるものである(図3参照)。
【0030】
一方、図2に示す地上雨量計観測記録機能1bは、地上の固定点に設置した口径20cmの受水口内に落下した雨滴を集め、その単位時間内総量を計測する雨量計装置によって観測された雨量値である。テレメータ化されたオンラインデータ、前記記録データ或いは自記記録された値から読み取ったデータとしてシステムに入力される。
【0031】
(2)解析処理局
(a)レーダ雨量の算出
Pr・Rr変換部1a では、レーダ方程式より受信電力値Prをレーダ反射因子Zに変換し、Zと地上雨量Rgから統計的に求めたZ〜R関係を用いて、レーダ雨量Rr(レーダ雨量データ1a )を算出する(図3参照)。
(b)仰角合成処理
仰角合成処理部1a において、複数仰角による観測結果を仰角合成マップ1a を介して合成する。レーダ雨量計はできるだけ低高度で観測することを原則としているが、遮蔽率の大きい範囲では仰角を上げて観測が行われる等、複数仰角で運用されることが多い。
【0032】
(3)全国合成局
(a)均質化補正
均質化補正処理機能1cは、全国合成されたレーダ雨量データ1e に不連続等が生じることを防ぐため、レーダ雨量計の観測値を予め均質化する補正を行うものであり、個別のレーダ雨量計によって観測された極座標メッシュ単位の雨量値を基に、レーダ雨量計の観測範囲全域を対象として均質化の補正処理を行う。
【0033】
具体的には、図3に示すように、(i)遮蔽率データ1a を介して補正される遮蔽補正処理1c と、(ii)レーダ雨量計別距離補正テーブル1a を介して補正される距離補正処理1c と、(iii)レーダ雨量定量観測範囲内の地上雨量データ1d を介して補正される一様補正処理1c とが挙げられる。
【0034】
ここに、(i)遮蔽補正処理とは、個別のレーダ雨量計の設置位置と周囲の地形状況とレーダ雨量計観測仰角とに基づいて算出される各方向別の山岳遮蔽等による電力損失率により、レーダ雨量計の観測雨量値を補正する処理である(図4参照)。
【0035】
また、(ii)距離補正処理は、個別のレーダ雨量計の観測範囲内の地上雨量計地点における雨量比(レーダ雨量/地上雨量)を距離方向に解析した距離方向観測特性に基づき、補正係数を乗じて距離方向の観測特性を平坦化する処理である。
【0036】
尚、この距離補正処理は、図5に示すように、レーダ雨量計の近傍では、レーダ雨量計が降雨を少なめに観測する傾向があるため、雨量計近傍で観測されているレーダデータは降雨強度に応じて補正する必要がある。
【0037】
(iii)一様補正処理とは、個別のレーダ雨量計の定量観測範囲(半径120km)内における地上雨量計観測雨量値と、同地上雨量計地点に対応するレーダ雨量計極座標メッシュにおけるレーダ雨量計観測雨量値との間の雨量比を基に、地上雨量値を基準として個別レーダ雨量計の観測範囲内のレーダ雨量を補正する処理である。
【0038】
因に、一様補正の基本式は、次のとおりである。
R’=F×R
F=Rgsum/Rrsum
ここに、
R’ :一様補正後のレーダ雨量(mm/hr)
Rr :一様補正前のレーダ雨量(mm/hr)
※レーダ雨量は遮蔽補正及び距離補正後のレーダ雨量である。
F :一様補正係数
Rgsum:レーダ雨量計定量観測範囲内の地上雨量の総和(一定時間内雨量)
Rrsum:レーダ雨量計定量観測範囲内地上雨量計対応メッシュのレーダ雨量の総和
(一定時間内雨量)
【0039】
例えば、図6に示すように、未補正の複数レーダ雨量計を合成すると、レーダ雨量計間に段差が生じてしまうのに対し(図6(a)参照)、レーダAの平均観測レベルと、レーダBの平均観測レベルと、レーダの平均観測レベルを一様補正後のレベルに補正(均質化処理)すれば、斯かる(均質化処理)後に複数レーダ雨量計を連続的に合成することができる(一様補正効果)。
【0040】
(b)全国合成
全国合成処理機能1dは、日本全国に配置された複数の個別レーダ雨量計観測結果に均質化補正を施したものと欠測情報等とを基に、3次メッシュ毎に定められた全国合成テーブルに基づいて雨量値を選択し、日本全域の合成レーダ雨量を作成するものである。
【0041】
具体的には、図3に示すように、全国合成処理機能1dでは、予め定められた合成マップに従い、均質化補正を行った26基のレーダ雨量計のレーダ雨量を全国合成する。この全国合成処理1c は、合成ルールに基づき作成された全国合成テーブル1d に基づき処理される。
【0042】
尚、ここに全国合成テーブルとは、任意の3次メッシュを観測範囲に含む複数のレーダ雨量計同士を遮蔽率、ビーム高度、相関係数により比較し、当該メッシュにおけるレーダ雨量計観測値の採用順位を定めたものである。以下、斯かる全国合成テーブル作成の手順を、図7に示すフローチャートを参考にしながら簡単に説明する。
【0043】
全国合成テーブルは、精度の高いレーダ雨量計の観測値から順に採用するという基本的な考え方に基づき、次の手順により作成される。すなわち、全国合成ルールは、以下の通り全国の全ての3次メッシュについて、雨量データを採用するレーダ雨量計の順位付けを行うのである。
【0044】
すなわち、図7に示すように、任意の3次メッシュ1−1について、当該メッシュに対応する全レーダ雨量計の極座標メッシュ1−2を抽出した後、
(1)3次メッシュをカバーするレーダサイトの全てを対象に、当該メッシュにおける ビーム高度(観測高度)と遮蔽率を算定する。
(2)遮蔽率が60%以下のレーダ雨量計1−3を優先する。
(3)ビーム高度(観測高度)が3000m以下のレーダ雨量計1−4を優先する。
(4)上記(2)(3)を満足するレーダ雨量計を対象として、当該メッシュに対応するレ ーダ雨量計の相関関係とレーダサイトからの距離との関係を求める。その求め方は 次の通りである。
A:各レーダ雨量計について地上雨量計データと仰角毎の対応するメッシュのレー ダ雨量との相関係数を算定し、レーダ雨量計からの距離に対してプロットする 。
B:距離区間10km毎に平均相関係数を求め、区間の中心にプロットする。
C:上記Bのプロットから相関係数と距離の関係(相関係数の距離特性)を得る。
D:この関係を用いて、各レーダ雨量計の全メッシュの相関係数を比較評価する。
(5)相関係数0.8以上のレーダ雨量計1−5を最優先し、その中ではビーム高度( 観測高度)の最も低いレーダ雨量計1−6から順位をつける(第1優先ルール)。
(6)相関係数0.8未満のレーダ雨量計のうち、相関係数が最も高いレーダ雨量計1 −7から順位をつける(第2優先ルール)。
(7)遮蔽率が60%以下で観測高度が3000m以上のレーダ雨量計のうち、ビーム 高度(観測高度)が最も低いレーダ雨量計1−8から順位をつける(第3優先ルー ル)。
(8)遮蔽率が60%以上のレーダ雨量計のうち、遮蔽率が最も低いレーダ雨量計1− 9から順位をつける(第4優先ルール)。
(9)優先順位が一位のレーダ雨量計を用い、合成境界の調整を行うことにより全国合 成テーブル1−10を作成し、図8に示す全国合成マップを得ることができる。
【0045】
(c)メッシュ補正
メッシュ補正処理機能1eは、全国の任意の3次メッシュにおいて、全国合成処理機能1dによって作成された合成レーダ雨量を基に、当該メッシュ周辺に位置する地上雨量計観測値と対応する合成レーダ雨量との間の単位時間における雨量比を補正係数とし、合成レーダ雨量を補正するものである。
【0046】
また、補正対象メッシュの周辺に位置する地上雨量計のうち、補正計算に用いる地上雨量計の数は雨量強度に基づく信頼度により決定される(図9参照)。
【0047】
具体的には、図3に示すように、全国合成したレーダ雨量を、3次メッシュ毎に地上雨量(補正メッシュから半径30km内の地上雨量)の観測値を求めてダイナミックウインドウ法1e により補正することで、合成レーダ雨量(約1km×1kmメッシュのレーダ雨量)1e を得ることができる。
【0048】
一方、配信・表示・計算処理機能1f(図2参照)は、以下に示す(a)配信装置、(b)表示装置、(c)計算処理装置から構成されている。
【0049】
(a)配信装置は、レーダ雨量計全国合成手段1によって作成された日本全土の3次メッシュ単位の合成レーダ雨量を、ネットワークを通じて他のシステムに送信する機能を有する。
【0050】
(b)表示装置は、レーダ雨量計全国合成手段1によって作成された日本全土の3次メッシュ単位の合成レーダ雨量とメッシュ位置情報と地図情報等を基に、雨量強度値別に色区分し、地図上に表示する機能である。
【0051】
(c)計算処理装置は、レーダ雨量計全国合成手段1によって作成された日本全土の3次メッシュ単位の合成レーダ雨量及び雨量分布画像を用いて、流域単位の流出計算、画像認識による過去類似降雨検索、雨域移動解析による雨量予測計算、合成レーダ雨量を用いたXバンドレーダ雨量計の観測データに対する補正を行う機能を有する。
【0052】
このように構成されるレーダ雨量全国合成手段1は、全国に配置される26基のレーダ雨量計が観測する5分毎のレーダ雨量を、10分乃至60分毎に得られる地上雨量を用いて、オンライン又は記録データで補正を行い、5分間隔で全国の雨量分布を表す3次メッシュ毎の連続的な合成レーダ雨量を作成することができるのである。
【0053】
例えば、図10に示すように、レーダ雨量計の全国合成手段1によって合成される雨量図を各段階別に示すと、まず、従来の中国地方の合成マップによる複数基のレーダ雨量計を合成し(図10(a)参照)、次いで、合成マップにより複数基のレーダ雨量計を合成し(図10(b)参照)、次いで、複数基のレーダ雨量計の合成とメッシュ補正をし(図10(c)参照)、次いで、均質化処理と複数基のレーダ雨量計を合成し(図10(d)参照)、次いで、均質化処理と複数基のレーダ雨量計の合成とメッシュ補正をすることで(図10(e)参照)、連続的な雨量観測結果を得ることができるのである。
【0054】
因に、地上雨量を基準とした定量的補正は、レーダ雨量を地上雨量値に地点毎に直接整合させるのではなく、個々のレーダ雨量計の観測範囲内にある地上雨量を用いて全体の観測レベルを調整するための前述した均質化補正と、各3次メッシュを中心とする一定範囲内の地上雨量を用いて算出した補正係数(信頼度の重い平均値)により行う前述のメッシュ補正とからなるが、これらの2種類の面的補正は、雨量分布を観測するというレーダ雨量計の特長を活かすため、降雨の分布特性を維持しながら、河川流域等に降る雨量と地上雨量との整合を図ることで、災害危険度や流出量等の算定精度を確保することができるのである。
【0055】
次に、本発明の災害履歴検索手段2について簡単に説明する。斯かる災害履歴検索手段2は、レーダ雨量計の全国合成手段1より得られた精度の高い雨量計のデータを用い、実況のレーダ雨量データと予め保存されている過去のレーダ雨量データとを比較することによって、現況降雨と類似している過去の降雨及びその際の関連水文情報・災害履歴情報を検索し表示するものである。また、現況降雨を自動学習し、以下の検索対象降雨となる機能を持つこともできる。
【0056】
具体的には、図11に示すように、合成レーダ雨量をリアルタイムで降雨検索システム内に取り込む機能(以下、合成レーダ雨量のリアルタイム取得機能という)2aと、該リアルタイム取得機能2aで取り込んだデータを、後述の類似降雨検索機能2dで行う降雨検索用に最適化処理(例えば、データメッシュサイズの変更、時間雨量の算出などを)行う機能(以下、合成レーダ雨量最適化処理機能という)2bと、該合成レーダ雨量最適化処理機能2bで作成されたデータと、過去降雨データ2cに予め保存されていた過去の降雨データとを使用し、現況の降雨パターンと前記過去降雨データのパターン比較により、現況の降雨に類似する過去降雨を検索する機能(以下、類似降雨検索機能という)2dとを備える。
【0057】
尚、斯かる類似降雨の検索は、現況の一定時間前からの降雨の変遷と、過去降雨データに保存されている過去降雨データ中の一定時間の降雨とを比較することとする。また、比較の方法は、一連の降雨の変遷がどれだけ似ているかという認識をすることによって行う。認識方法は、主としてニューラルネットワークの手法を用いるが、ファジィ推論、ベイズ識別方法等の様々の方法を単独で或いは組み合わせた手法を用いても構わない。
【0058】
次いで、斯かる類似降雨検索機能2dで検索された結果を表示する機能(以下、検索結果表示機能という)2eと、類似降雨検索機能2dで検索された過去降雨の際の水位、流量等の関連水文情報及び災害履歴情報などを表示させる機能(以下、関連水文情報・災害履歴情報等の提供機能という)2fとを備えている。
【0059】
すなわち、合成レーダ雨量のリアルタイム取得機能2aは、データサーバに保存されている合成レーダ雨量を5分毎にシステム内に取り込むもので、回線の不具合、データサーバの不具合などによって、データが取得できない時間があった場合は、過去に遡って取得する機能を持つものである。また、データが取得できなかった場合は、前後の時間で補完する機能をも併せ持つものである。
【0060】
合成レーダ雨量最適化処理機能2bは、上記リアルタイム取得機能2aで取り込んだデータを、類似降雨検索機能2dで行う降雨検索用に最適化処理を行う機能であり、具体的には、下述の(1)比較対象範囲の切り出し、(2)空間スケールの最適化、(3)時間スケールの最適化が挙げられる。
【0061】
(1)比較対象範囲の切り出し
類似降雨検索を行うのに最適と決定された範囲にレーダデータを切り出す。
(2)空間スケールの最適化
類似降雨検索を行うのに最適とされた空間スケールの大きさに合成レーダ雨量の整理を行う。因に、合成レーダ雨量は、1kmメッシュ単位で観測データが存在する。降雨検索を行う際には、何kmメッシュ毎にデータをまとめて検索を行うのが良いのか若しくは1kmメッシュ毎に行うのが良いのかを決定する必要がある。
(3)時間スケールの最適化
類似降雨検索を行うのに最適とされた時間スケールサイズに、合成レーダ雨量の整理を行う。降雨は3時間の降雨を1纏まりとする。因に、合成レーダ雨量は、5分毎に観測されているが、降雨の類似性は時間毎の変化とも密接に関連している。例えば、現況の降雨との類似降雨を検索する場合、現在から3時間前までの降雨で検索を行うのか、6時間前まで遡るのかによって、類似降雨が異なることが考えられる。
【0062】
類似降雨検索機能2dは、合成レーダ雨量最適化処理機能2bにおいて最適化された合成レーダ雨量を用いて、類似降雨検索を行う機能であり、類似降雨検索は、現況の一定時間前からの降雨の変遷と、過去降雨データ2cに保存されている過去降雨データの一定時間の降雨を比較することとする。
【0063】
比較の方法は、一連の降雨の変遷がどれだけ似ているかという認識をニューラルネットワークを用いて行う。現況の降雨データは3時間毎にまとめられているが、類似降雨を検索する際は過去3時間を比べるだけでは短すぎると考えられるため、過去12時間の降雨と、過去降雨データ2cに保存されている12時間分の降雨とを比較する。
【0064】
しかしながら、例えば、現在から前2時間の降雨の類似度と、前9時間から前11時間の降雨の類似度を比較すると、現在から前2時間の降雨の類似度が相対的に重要であることは明らかである。
【0065】
よって、現在に近い時間の類似度が、現在から遠い時間の類似度よりも重要視される検索機能を持つ。検索された降雨と、現況降雨の類似度を表すために、適合係数という係数を使用するが、その適合係数に時間の重みの係数を付けていくものとする。
【0066】
例えば、現在から前2時間の類似性には1、前3時間から5時間の類似性には0.5等、直近の時間に重い係数をかけることによって、現在の類似度を重要視することができる。
【0067】
降雨検索のためのニューラルネットワークの入力値には、最適化されたメッシュサイズで、各時間の各メッシュの雨量強度値を用いる。これらの手法によって、降雨の広がり、強度及び降雨の移動情報を考慮した過去降雨検索を行うことができる。
【0068】
検索結果表示機能2eは、類似降雨検索機能2dにおいて検索された類似降雨を表示する機能であり、検索結果の降雨は、一番似ていると判断されたものだけではなく、似ていると判断された上位の複数降雨を表示する。尚、検索された類似降雨及び現況降雨は、動画で見ることができる。
【0069】
関連水文情報・災害履歴情報等の提供機能2fは、検索された類似降雨の際のの水位・流量等の水文情報及び災害履歴情報を表示させる機能である。
【0070】
次に、本発明の流出予測手段3について詳細に説明する。斯かる流出予測手段3は、レーダ雨量計の全国合成手段1より得られる精度の高い実況のオンライン合成レーダ雨量と、運動学的手法若しくは気象学的手法により得られる予測雨量とを入力値とし、分布型或いは集中型の流出モデルを介して、予測対象地点における数分若しくは数時間先の流量或いは水位を計算し表示するものである。
【0071】
尚、斯かる流出予測手段3に組み込む流出予測モデルについては、実降雨による検証を実施し、モデル定数の最適化を図る。流出モデルには、以下の(a)集中型モデルと(b)分布型モデルとの二種類が挙げられる。
【0072】
(a)集中型モデル
降雨や流域特性の空間分布を単一流域に集約したモデル化であり、時間分布のみを考慮して流出計算する方式である。河川流域を数十km 〜数百km へ分割し、分割流域毎に流出のモデル定数を設定する。入力降雨は、レーダ雨量計で得られる1kmメッシュの雨量分布を、分割流域で平均したものを用い、各分割流域の代表地点(下流端)における水の流れを解析するものである。集中型モデルの流出計算には、一般的に貯留関数法が用いられている。
【0073】
(b)分布型モデル
降雨や流域特性の空間分布を複数流域(1kmメッシュ)で構成して分布モデル化したものであり、時間分布も考慮して流出計算する方式である。対象流域を1kmメッシュ単位に細分し、個々のメッシュへ地盤高や降雨の浸透特性等の物理条件により流出のモデル定数を設定する。入力降雨は、レーダ雨量計で観測した1kmメッシュの雨量分布を各メッシュに直接入力し、全メッシュの水の流れを解析するものである。分布型モデルの流出計算には、後述するKinematic Waveモデルを採用している。
【0074】
尚、図12は、斯かる集中型モデルと分布型モデルの降雨から流出への変換過程の比較を示すものであり、分布型の洪水予測モデルは、同図の右側に示すように、細かく分割した斜面毎に流量が計算されるため任意地点の流量が算出できる。分布型の洪水予測モデルのうち、本システムで採用するkinematic waveモデルについて以下に概説する。
【0075】
kinematic waveモデルは、流域をいくつかの矩形断面と流路が組み合わされたものとし、斜面や流路における雨水流下現象を水理学的に追跡するものである。
【0076】
斜面の単位幅あたり流量qと水深hとの関係は、次式で表わされる。
h=kqp
ここで、k、pは流域によって決まる定数である。連続の式は、
(∂h/∂t)+(∂q/∂x)=r
ここで、rは有効雨量である。
これらの式より、逐時、任意地点のhとqを求めていく。
【0077】
図13は、レーダ雨量を用いた流出予測手段(分布型流出モデル)のフローチャートであり、以下の手順に従って簡単に説明する。
パラメータ入力S101は、斜面や河道等の流れを表現するために必要なモデル定数を入力するものであり、レーダ雨量(実況)S102は、レーダ雨量計の全国合成手段1で合成されたオンライン合成レーダ雨量を用いる。
【0078】
予測雨量の計算(雨域移動解析手法)S103は、S102により得られた実況雨量を基に、過去の雨域移動を予測時刻まで外挿して予測雨量を算出する。ここで、移動ベクトルの計算は、雨域の移動を適切に表現するため、対象となる流域周辺で最適化し、この移動ベクトルを予測雨量の全計算範囲へ適用する方法もある。これにより、対象流域の予測雨量精度が向上する。次いで、1kmメッシュ単位S104毎に、S101〜S103をセットする。
【0079】
斜面流(表面流)の計算S105は、Kinematic Waveモデルにより、斜面の流れを追跡計算し、河道流の計算S106は、Kinematic Waveモデルにより、河道の流れを追跡計算し、浸透流の計算S107は、地表から地下へ浸透した流れを追跡計算する。
貯水池、内水、遊水地等の計算関連施設モデルS108は、対象流域内にダム、内水地域等がある場合は、実際のダムや排水機場の操作ルールに基づき、関連施設の放流量や排水量等の追跡計算を実施する。これらの各モデルを上流から下流へ追跡計算し、対象とする地点の流出量を算定する。
【0080】
流出計算結果のフィードバック補正S109は、現時刻(予測初期)において、実測値と予測計算値の誤差を補正し、予測時刻の流量を補正値により修正する。繰返しS110は、対象流域の1kmメッシュの数だけを繰り返し計算する。計算結果の出力S111は、流出予測計算結果を出力するものであり、計算結果の表示S112は、流域平均雨量、流出予測計算結果等について、数値やグラフを用いて表示する。
【0081】
図14は、同流出予測手段(集中型流出モデル)のフローチャートであり、以下の手順に従って簡単に説明する。尚、理解を容易にするため、前述した図13と同一部分は同一符号で示し、異なる処のみを新たな番号を付して以下に説明する。
【0082】
パラメータ入力S101は、斜面や河道等の流れを表現するために必要なモデル定数を入力し、レーダ雨量(実況)S102は、レーダ雨量計全国合成手段1で合成されたオンライン合成レーダ雨量を用いる。
【0083】
予測雨量の計算(雨域移動解析手法)S103は、S102により得られた実況雨量を基に、過去の雨域移動を予測時刻まで外挿して予測雨量を算出する。ここで、移動ベクトルの計算は、雨域の移動を適切に表現するため、対象となる流域周辺で最適化し、この移動ベクトルを予測雨量の全計算範囲へ適用する方法もある。これにより、対象流域の予測雨量精度が向上する。
【0084】
S114は、分割モデル単位毎にS101〜S103をセットする。但し、S102及びS103は分割モデル単位の流域平均雨量を与える。斜面流(表面流)の計算S105は貯留関数法により、斜面の流れを追跡計算する。河道流の計算S106は、貯留関数法により、河道の流れを追跡計算する。
貯水池、内水、遊水地等の計算関連施設モデルS108は、対象流域内にダム、内水地域等がある場合は、実際のダムや排水機場の操作ルールに基づき、関連施設の放流量や排水量等の追跡計算を実施する。これらの各モデルを上流から下流へ追跡計算し、対象とする地点の流出量を算定する。
【0085】
流出計算結果のフィードバック補正S109は、現時刻(予測初期)において、実測値と予測計算値の誤差を補正し、予測時刻の流量を補正値により修正する。繰返しS110は、対象流域の1kmメッシュの数だけを繰り返し計算する。繰返しS110は対象流域の分割数分を繰り返し計算し、計算結果の出力S111は、流出予測計算結果を出力する。計算結果の表示S112は、流域平均雨量、流出予測計算結果等について、数値やグラフを用いて表示する。
【0086】
図15は、分布型流出予測モデルの構築フローである。フローの説明は、以下(1)乃至(6)のとおりである。
(1)各種入力データAを一次設定する。
(2)計算の時間刻みBを設定する。
(3)1kmメッシュ単位毎Cに、各モデルの流出計算Dを対象流域のメッシュの数だけ 繰り返しEを行い、検証地点の計算結果を出力Fする。
(4)この計算結果と実測流量を比較Gし、波形誤差が最小となった場合は、Aで設定し たパラメーターが最適化されたものと判断して、モデル定数を確定する。
(5)波形誤差が大きい場合は、この誤差が最小となるまで、最初から同じ手順で繰返す 。
(6)国土数値情報を用い自動設定ツールHを使用することにより、全メッシュ計算順序 に従い、縦断傾斜、流下方向、土地利用面積率といった地画セル情報を確定するこ とができる。
【0087】
次に、本発明のレーダ雨量計補正手段4について簡単に説明する。斯かるレーダ雨量計補正手段4は、電波伝搬経路上にある降雨或いはレドームに形成される水膜により減衰を受け易いXバンドレーダ雨量計の観測データに対して、地上雨量及び地上雨量により補正処理が施されたCバンドレーダ雨量計の観測データ(合成レーダ雨量)を併用して減衰を受けた観測データを補正し、適切な雨量の測定を行うのである。
【0088】
換言すれば、Xバンドレーダ雨量計及びCバンドレーダ雨量計で観測されたデータは、両方とも地上雨量による補正処理を施すものである。各々の補正雨量を同じ位置で比較し、一定の基準に従って、Xバンドレーダ雨量計が精度良く降雨観測できていると判断された場合には、Xバンドレーダ雨量計の観測データをそのまま使うか或いはCバンドレーダ雨量計の観測データとの比較によって得られる補正率によりXバンドレーダ雨量計の観測データの補正処理を行うものである。一方、Xバンドレーダ雨量計により降雨が観測できていない場合には、Xバンドレーダ雨量計の観測データをCバンドレーダ雨量計の観測データに置き換える処理を行うものである。
【0089】
例えば、Cバンドレーダ雨量計を用いたXバンドレーダ雨量計補正手段4は、図16に示すように、Xバンドレーダサイト4aによる受信強度データを降雨強度変換処理機能4bで変換し、次いで、近距離で減衰している降雨強度を近距離補正処理機能4cで補正し、次いで、一様補正比算出処理機能4fで10分雨量若しくは60分雨量4eの地上雨量4dと直上合成レーダ雨量との平均雨量化を算出し、次いで、補正比算出処理機能4gでダイナミックウインドウ法の地上雨量観測所3点限定法により補正比を算出し、次いで、合成レーダ雨量算出処理機能4hで一様補正比・3点法補正比をXバンドレーダ雨量計の観測データに乗じることにより補正後のレーダ雨量を算出し、次いで、斯かる合成レーダ雨量による補正4iが必要か否かを判断する。
【0090】
必要な場合は、キャリブレーション後のCバンドデータ4kを用いて合成レーダ雨量による補正4lを行った後、利活用のためのデータ作成4mを行うものである。因に、図17は、補正前、地上雨量による補正後、合成レーダ雨量との合成後を示すものである。
【0091】
尚、本発明の全国合成レーダ雨量情報提供システムは、本実施例に限定されることなく、本発明の目的の範囲内で自由に設計変更し得るものであり、本発明はそれらの全てを包摂するものである。
【0092】
例えば、本実施例では、レーダ雨量計全国合成手段1と、レーダ雨量計を用いた災害履歴検索手段2と、流出予測手段3と、Cバンドレーダ雨量計を用いたXバンドのレーダ雨量計補正手段4との全てを用いているが、これに限定されることなく、これらの一つを単独で若しくは何れかを選択又は組み合わせてシステム化しても良く、本発明はこれらの全てを包摂するものである。
【0093】
また、本発明の全国合成レーダ雨量情報提供システムは、地理情報システム:Geographic Information System(以下、単にGISという)のエンジン上に構築しても良く、また、種々な補正情報を基にGIS支援ツールを介して標高データ等の補正を行うことで、より精度の高い地形モデル(以下、単にシミュレーションモデルという)を作成しても良い。
【0094】
因に、GISエンジンのシステム構成としては、エンジンにMapinfo Professionalを用い、標高値の補正及び等深線図の作成にVertical Mapperを用いる。また、GIS支援ツールとしては、例えば、数値地図70mメッシュ(標高)の抽出ツール、土地利用の設定ツール、道路等の連続盛土条件設定ツール、破堤条件設定ツール、データ交換フォーマット入出力ツール、結果表示ツールなどが挙げられる。
【0095】
尚、GIS支援ツールは、氾濫解析を行う上でGIS基本機能に不足している機能を補うことを基本とするものであり、斯かる補足機能としては、例えば、(1)メッシュ作成機能、(2)粗度係数設定支援機能、(3)盛土条件設定支援機能、(4)計算結果の読込機能が挙げられる。
【0096】
(1)メッシュ作成機能は、計算メッシュの作成を支援するものでり、ユーザは、作成する範囲の座標及びメッシュサイズを入力することで自動的にメッシュを作成でき、同時に、メッシュの面積、辺の長さを計算できる。また、標高データを用意することにより、高さデータを与えることができる。
【0097】
(2)粗度係数設定支援機能は、土地利用データをもとにメッシュに粗度係数を設定し、(3)盛土条件設定支援機能は、メッシュの境界上に盛土条件を設定するものであり、(4)計算結果の読込機能は、データ交換フォーマットデータをGISエンジンに取り込むものである。
【0098】
また、本発明の全国合成レーダ雨量情報提供システムを、河川情報に関するデータベース(河川情報データベース)、氾濫原データベース、流出解析手段、河道水位予測手段、破堤点流入量計算手段、フィードバック補正手段、地図情報、住所・ランドマーク情報、雨に関する河川情報及び洪水ハザードマップ関連情報と、配信サーバより自動的に発信させるデータ配信手段などと組み合わせてインターネット、パソコン通信、ネットワークが利用できるプラットフォームに自動的に配信できるようにプログラムしても良い。
【0099】
また、プラットフォームは、インターネット、パソコン通信、携帯電話網などの通信ネットワークやGPSを介して利用できる固定端末(例えば、パソコン、カーナビゲーション、その他、メールやインターネットができる情報家電等)、モバイル・携帯情報端末(携帯電話機/PHSを含む)等の何れかを選択又は組み合わせたものからなる。
【0100】
尚、プラットフォームと配信サーバとを接続する高速ネットワークは、公衆回線、専用回線、光ファイバ回線、マイクロ波回線、衛星通信、衛星放送、CATVネットワーク等の全て又は選択されたものを使用することが可能であり、例えば、カーナビであればGPS、衛星通信を利用して、目的地方向の道路情報、道路冠水情報等を得ることができる。
【0101】
更に、国土地理院発行の国土数値情報或いは最新の数値地図(KS-270,KS-271,KS-272,KS-273 )データを元に単位流域を画面表示することもできるため、統合された流域の情報は一元管理され、流域情報のファイルへの出力や画面上での情報表示が可能になる。
【0102】
因に、斯かる数値地図データは単位流域の境界線の座標を数値化したものであり、ポリゴンとはなっておらず、このままでは結合或いは分離処理ができなかったため、本システムで、全国約37,000個の単位流域のポリゴン化を実施しすれば、必要不可欠な流域界を容易に作成でき、かつ、国土地理院の数値地図を基データに、一流域あたり10〜30分あれば作業できるなど、全国規模で展開できることになる。
【0103】
また、本発明の全国合成レーダ雨量情報提供システムは、それぞれの市町村、特別区などの地域にとって洪水災害の危険度を判断するのに必要な大流域界、中流域界、小流域界を作成或いは変更するにあたり、夫々の流域規模に適した縮尺の地図或いは地形図を表示する地図操作機能を付加させても良く、更には、マップを開くマップ開示機能、マップ上に単位流域界や河川などの属性情報を表示する属性表示機能、背景として地形図を表示する地形表示機能、市販の地図データを背景として読み込む背景表示機能を兼備させても良い。
【0104】
尚、本明細書で言及している「河川情報」とは、少なくとも下述する(1)乃至(6)の全て又は何れかの情報を選択又は組み合わせてなるものである。
(1)流域に降る雨を流域内に樹枝状に分布する水系網に集水し、その集めた水を周辺地形 より連続的に凹地となっていたり、堤防等で囲まれた空間としての河道によって海域 まで流下させる現象或いは平水時、洪水時等の全ての時間帯においてその降雨現象、 流出現象、流下現象について、それらの現象を物理的に数量として観測する各種施設 (レーダ雨量計、雨量観測所、水位観測所等)で得られる全ての情報。
(2)ダム、堤防、集水堰などの流出現象、流下現象に影響を与える人為的な行為の所産と しての各種施設に関する諸元や時系列的に変化する全ての情報。
(3)施設の機能不全や破壊によって発生する洪水氾濫現象の分布状況等についての空間的 ・時系列的に変化する全ての情報。
(4)流域内の降雨量とその流域の地形的な特性によって円滑に排除されずに滞留すること によって発生する湛水や浸水現象の分布や状況等についての空間的・時系列的に変化 する全ての情報。
(5)洪水氾濫現象や湛水・浸水現象の抑止、抑制を目的として行われる水防活動等につい ての空間的・時系列的に変化する全ての情報。
(6)洪水氾濫現象や湛水・浸水現象によって、流域内の居住及び存在する人間及び生物の 生命の保護及び社会活動の所産として蓄積される財産やその仕組みの毀損を軽減する ことを目的として行われる警戒行動・避難行動やその行動を惹起するための報道など を含む被害軽減行動に関する全ての情報。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本発明に係る全国合成レーダ雨量情報提供システムの全体構成を示す説明図である。
【図2】同全国合成レーダ雨量情報提供システムで使用するレーダ雨量計の全国合成手段の全体構成を示すフローチャートである。
【図3】同レーダ雨量計全国合成手段の詳細を示すフローチャートである。
【図4】同全国合成レーダ雨量情報提供システムの遮蔽補正効果を示す説明図である。
【図5】同全国合成レーダ雨量情報提供システムでの雨量比の距離特性を示す説明図である。
【図6】同全国合成レーダ雨量情報提供システムの一様補正効果を示す説明図である。
【図7】同全国合成レーダ雨量情報提供システムの全国合成テーブルの作成を示すフローチャートである。
【図8】同全国合成レーダ雨量情報提供システムの全国合成マップを示す説明図である。
【図9】同全国合成レーダ雨量情報提供システムのメッシュ補正手段を示す説明図である。
【図10】レーダ雨量計全国合成手段によって合成される図を各段階別に示す説明図である。
【図11】同全国合成レーダ雨量情報提供システムの災害履歴検索手段を示すフローチャートである。
【図12】集中型モデルと分布型モデルとの降雨から流出への変換過程を示す比較図である。
【図13】流出予測手段(分布型流出モデル)を示すフローチャートである。
【図14】流出予測手段(集中型流出モデル)を示フローチャートである。
【図15】分布型流出予測モデルを示すフローチャートである。
【図16】Cバンドレーダ雨量計を用いたXバンドレーダ雨量計補正手段を示すフローチャートである。
【図17】図17(a)は、補正前を示す時間雨量図であり、図17(b)は地上雨量データによる補正後を示す時間雨量図であり、図17(c)はCバンドレーダ雨量データとの合成後を示す時間雨量図である。
【符号の説明】
【0106】
A 全国合成レーダ雨量情報提供システム
1 レーダ雨量計全国合成手段
1a レーダ雨量計観測記録機能
1b 地上雨量計観測記録機能
1c 均質化補正処理機能
1d 全国合成処理機能
1e メッシュ補正処理機能
1f 配信・表示・計算処理機能
2 災害履歴検索手段
2a リアルタイム取得機能
2b 合成レーダ雨量最適化処理機能
2c 過去降雨データ
2d 類似降雨検索機能
2e 検索結果表示機能
2f 関連水文情報等の提供機能
3 流出予測手段
4 レーダ雨量計補正手段
4a Xバンドレーダサイト
4b 降雨強度変換処理機能
4c 近距離補正処理機能
4d 地上雨量
4e 雨量
4f 一様補正比算出処理機能
4g 補正比算出処理機能
4h レーダ雨量算出処理機能
4i 合成レーダ雨量による補正
4k Cバンドデータ
4l 合成レーダ雨量による補正
4m 利活用データ作成機能

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダ雨量計の全国合成手段と、前記レーダ雨量計のデータを用いて災害履歴の検索を行う災害履歴検索手段と、前記全国合成手段より得られた精度の高い実況のオンライン合成レーダ雨量を用いる流出予測手段と、Cバンドレーダ雨量計で観測されたデータとの比較によって得られる補正率によりXバンドレーダの観測データを補正するレーダ雨量計補正手段との全て又は何れかを選択又は組み合わせてなることを特徴とする全国合成レーダ雨量情報提供システム。
【請求項2】
前記全国合成手段は、オンラインデータ、記録データを用いて個別のレーダ雨量計が観測した雨量と地上雨量とを基に、日本全土の連続的な雨量分布として定量的精度を高めた雨量値を算出し、雨量分布画像を作成し又は表示することを特徴とする請求項1に記載の全国合成レーダ雨量情報提供システム。
【請求項3】
前記災害履歴検索手段は、レーダ雨量計の全国合成手段より得られた精度の高いレーダ雨量計のデータを用い、実況のレーダ雨量データと予め保存されている過去のレーダ雨量データとを比較することによって、現況降雨と類似している過去の降雨及びその際の関連水文情報・災害履歴情報を検索し表示することを特徴とする請求項1に記載の全国合成レーダ雨量情報提供システム。
【請求項4】
前記流出予測手段は、レーダ雨量計の全国合成手段より得られた精度の高い実況のオンライン合成レーダ雨量と、運動学的手法若しくは気象学的手法により得られる予測雨量とを入力値とし、分布型或いは集中型の流出モデルを介して、予測対象地点における数分若しくは数時間先の流量或いは水位を計算し表示することを特徴とする請求項1に記載の全国合成レーダ雨量情報提供システム。
【請求項5】
前記レーダ雨量計補正手段は、電波伝搬経路上にある降雨或いはレドームに形成される水膜により減衰を受け易いXバンドレーダ雨量計の観測データに対して地上雨量で補正すると共に、Cバンドレーダ雨量計の観測データを使用して減衰を受けた観測データを補正し、適切な雨量の測定を行うことを特徴とする請求項1に記載の全国合成レーダ雨量情報提供システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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