説明

全方位踏切警報灯

【課題】見る角度によって警報灯の形状に変化を生じさせない。
【解決手段】多面発光体を有する全方位踏切警報灯である。多面発光体1は、多面体を構成する赤色発光のLED実装基板5の組立体であり、LED実装基板5は、多面立体構造の基板取付枠3に取付けられたものであり、少なくとも長方形のセグメント5aを有し、基板取付枠3の多面立体構造は少なくとも胴部形成部分3aの組合せによって多角形に形成されているものであり、長方形のセグメント5aは、基板取付枠3の各胴部形成部分3aの各面に取付けられてせん光灯の発光面として多角形の全方位に向けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道の踏切に設置される踏切警報灯に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道の踏切に設置される踏切警報灯は、踏切を渡る通行者、車両あるいは踏切を横切る道路上の通行者、車両に対して列車の接近を点滅発光によって報知する灯器であり、踏切警報機柱に交互に点滅する2灯を1組として設置される。
【0003】
踏切警報機は、踏切の線路の両側で原則として道路から踏切に向かって左側に設けられることになっている。また、踏切の取り付け道路が2以上に分岐している箇所における踏切警報機には、必要に応じて1方向に対して交互に点滅する警報灯(2灯)の組をさらに増設することになっている。
【0004】
特許文献1においては、踏切近くの道路が複雑に交錯している場合は、各道路に向けて必要な数の警報灯を腕木の両端に一組ずつ取りつけてそれぞれの腕木を多方向に向ける必要がある。また、警報灯のランプユニットに使用する発光ダイオードは、視認性の良好な範囲が狭いため、線路片側のすべての方向より視認するにはランプユニットの数を相当多くしなければならないという欠点があった、という問題点を指摘し、その解決策として「それぞれが異なる方向に正対する複数の発光ユニットを一つの灯体のハウジングにまとめて配置した多面表示警報灯」を提案している。
【0005】
また、特許文献2においては、前記特許文献1に記載された多面表示警報灯では、180度の範囲で多方面から視認できるようにするものであるので、背面方向にもう一つの踏切警報灯を設置する必要があるという問題点を指摘し、その解決策として、「発光ダイオード基板の両面に半円形に多数の発光ダイオードを取り付け、該発光ダイオード基板の4枚を、半円形の直径部分が灯体の中心位置で垂直になって合わさるように、90度間隔で固定した全方向踏切警報灯」を提案している。
【0006】
ところで、特許文献1に記載された多面表示警報灯は、要するに、互いに向きを異ならせて3個のランプユニットを1つの灯体のハウジングに収めたというものであって、その問題点は、多方面から視認できるようにするためには、背面方向にもう一つの踏切警報機を設置する必要があるということではなく、見る方向によっては2個または3個のランプユニットが見えるということである。
【0007】
踏切警報機には、2個以上の赤色せん光灯を設けること、赤色せん光灯は、警報装置の動作中は交互に点滅し、そのせん光の見通し距離が45メートル以上であること、といった規定がある(普通鉄道の施設に関する技術上の基準の細目を定める告示(旧運輸省告示第177号、第2条の2参照))。
【0008】
ところが、特許文献1に記載された多面表示警報灯は、互いに隣接して設置された2〜3灯が同時点滅となって、この規定を満たさない虞がある。今一つの問題は、警報灯の発光形状の問題である。警報灯の発光形状は円形であり、従来の警報灯は1方向表示のため、正面から見た形状が円形であれば格別の問題はなかったが、特許文献1のように多面表示を目的とする警報灯の場合には、その形状が問題となる。
【0009】
つまり、特許文献1に記載の多面表示警報灯は、灯体ハウジングの正面から見たときにランプユニットが円形であっても、見る方向によっては、これが楕円形に見えるだけでなく、しかも見る角度によって楕円形の形状が異なり、正面から見たときには、中央の円形のランプユニットの両側に細い楕円形のランプユニットが視認され、また斜め方向から見たときには、2個のランプユニットが同時に見えることとなり、しかも見る角度によってその形状が変化するという問題がある。
【0010】
この問題は、特許文献2に記載の全方向踏切警報灯においても解決されているわけではない。特許文献2に記載の全方向踏切警報灯によれば、LED実装基板を十字形に配置したときには、LED実装基板に直交する方向から見たときにのみ、その発光面は円形に見えるものの、斜め方向から見たときに、発光面は楕円形となる。1台で360度全ての方向からの視認が可能であることは理解できるが、見る角度によって警報灯の形状が変化するのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】実開平6−37047号公報
【特許文献2】特許公開2005−247133
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
解決しようとする問題点は、特許文献2に記載された全方向踏切警報灯によるときには、見る角度、方向によって警報灯の発光形状が円形から楕円形に変形するという点である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明による全方位踏切警報灯は、LED実装基板を多面体の立体構造に配列した発光体を用い、見る角度によって警報灯の発光形状に変化を生じさせない点をもっとも主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明による全方位踏切警報灯によれば、踏切の取付道路が2以上に分岐している箇所においても、交互に点滅する1組の警報灯(2灯)を設置するだけでよく、従来の警報灯のように1方向に対して交互に点滅する警報灯(2灯)の組をさらに増設する必要がなくなる。しかも、従来は踏切に対する道路の交差角に合わせて警報灯の取付角を調整していたが、本発明の警報灯は、全方位に対して均等に発光するため、2以上の道路が交差する踏切であっても、踏切に対する道路の交差角を考慮する必要がなく、1組の警報灯(2灯)を各道路から見通すことができる位置に設置することによって、各道路の通行者、車両に対して明確に踏切警報を発することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)は、本発明の全方位踏切警報灯の1実施例を示す中央横断面図、(b)は中央縦断面図である。
【図2】基板取付枠にLED実装基板を取付ける要領を示す図である。
【図3】多面発光体1の1実施例を示す図である。
【図4】本発明による全方位踏切警報灯を踏切警報機に取付けた1実施例の状態を示す図である。
【図5】本発明による全方位踏切警報灯に背板を取付けた例を示すもので、(a)は底面図、(b)は正面図、(c)警報灯を30°転回させたときの背板の見え方を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
全方位に対して円形に発光させるという目的を、発光体となるLED実装基板を多角形の立体構造に組み立て、その立体構造を多面発光体として球状レンズを用いたグローブ内に設置することによって実現した。
【実施例1】
【0017】
以下に本発明の実施例を図によって説明する。図1において、本発明による全方位踏切警報灯は、多面発光体1と、グローブ2との組み合わせからなるものである。多面発光体1はせん光灯であり、グローブ2は、多面発光体1を包む器具で赤色透明または無色透明の球面レンズを用いている。なお、レンズ面には、ブラスト加工またはカット加工または両加工を施して多面発光体1の形状が外部から見えないようにしておくことが望ましい。
【0018】
本発明において、多面発光体1は、多面体を構成する赤色発光のLED実装基板の組立体であり、組立体の各面のLED実装基板はせん光灯の発光面として全方位に向けられている。多面発光体1は、多角形の立体構造に組み立てられたLEDの発光体である。
【0019】
以下の実施例では、多面発光体1を9面の多角形の立体構造に構成した例を説明する。図2において、多面発光体1は、胴部が9面の多面体構造に組み立てられた基板取付枠3の表面に、スペーサ4を介してLED実装基板5を取り付けたものである。
【0020】
なお、図2において仕切板7は、120°の角度をなして放射状に3方向に伸びる板状体であり、円形のフランジ8の下面に取付けられ、基板取付枠3を支え、各面を形成する胴部形成部分3aを数個ずつ、この実施例では、3個ずつを1区画として互いの区画を相互に隔離するものであり、フランジ8は、天板13に多面発光体1を取り付けるためのものである。
【0021】
図3において、基板取付枠3は、胴部形成部分3a、上傾部分3b、下傾部分3cをユニットして組み立てられた多角形の構造体であり、仕切板7によって支えられている。この実施例では図2に示すように、胴部形成部分3aは9個の組合せによって九角形の中空の多面体を形成し、上傾部分3bと下傾部分3cは台形(あるいは三角形)をなし、胴部形成部分3aの上下縁から、中空多面体の軸心方向に上傾方向または下傾方向に伸び、中空多面体の上下の開口の少なくとも一部を覆うものである。
【0022】
同様に、図3においてLED実装基板5は、基板取付枠3の胴部形成部分3aの各面にそれぞれ取り付ける長方形のセグメント5aと、上傾部分3bおよび下傾部分3cにそれぞれ別個に取り付ける台形セグメント5b(5c)との組み合わせである。この実施例において、長方形セグメント5aの板面には、赤色発光のLED9が複数個実装され、行間にはスペーサ取付穴10が適宜開口されている。同様に台形セグメント5b(5c)は、この実施例では等脚台形で、赤色発光のLED9が複数個実装され、行間にはスペーサ取付穴10が形成されている。
【0023】
また、図3において、基板取付枠3にLED実装基板5を取付けるに際しては、スペーサ取付穴10が開口された長方形セグメント5a、台形セグメント5b、5cを用い、各スペーサ取付穴10内にスペーサ4を差し込んで、それぞれを基板取付枠3の胴部形成部分3a、上傾部分3b、下傾部分3cに固定し、基板取付枠3の胴部、上傾部分及び下傾部分にそれぞれ9面の多角形の面を有する多面発光体1に組み立てる。
【0024】
組立てられた多面発光体1をグローブ2の中空内に挿入し、図1(b)に示すように、灯受6を取り付けた天板13とフランジ8を固定し、灯器としてその2灯を対にし、図4に示す例のように踏切警報機12の警報機柱14に取り付いているブラケット11にそれぞれ吊り下げる。
【0025】
以上実施例においては、基板取付枠3の9面の胴部形成部分3aと、各胴部形成部分3aの上下の9面の上傾部分3bおよび9面の下傾部分3cにそれぞれ長方形セグメント5a及び台形セグメント5bおよび5cとして合計27面にLED実装基板5を取付けた例を示した。
【0026】
表1に、輝度の最高値を100%としたとき、発光体の面の数(4面〜12面)に対する最低輝度の比較(理論計算値)を示す。
【0027】
【表1】

【0028】
表1に明らかなように発光体の面数が増えるほど最低輝度は増大するが、実用上、12面の発光体では、球状レンズの大きさや組立性の問題から制約を受けるため、実質的に発光体には、胴部が9面以下の多角形の多面発光体を採用するのが望ましい。
【0029】
胴部形成部分が9面の発光体によれば、図1に示すように仕切板7の120°の区画の範囲に3面ずつを無理なく収めることができる。なお、仕切板7は、グローブ2内を遮光するためにも必要である。グローブ2内を太陽光が透過すると、いわゆる擬似点灯の虞があるが、仕切板7によって、グローブ2内に入射した太陽光が、LED実装基板5と、基板取付枠3との間の隙間を通って反対側から出射するのが阻止される。
【0030】
図5は、本発明による警報灯に背板を設ける例である。この実施例において、背板は、図1に示す仕切板7の延長上で図5(a)に示すように中心角120°毎にグローブ2の外周から放射方向に三方に張り出させている(背板を15a、15b、15cとして示す)。したがって、警報灯を正面から見たときには、図5(b)に示すようにグローブ2は、背板15a、15b(または15b、15c、または15c、15a)に囲まれ、グローブの形状は円形となる。
【0031】
また、図5(c)は、正面から一定角度(例えば30°)回転させた方向から見たときには、片側の背板はグローブ2の外縁に沿い、他側の背板は、グローブの球面を縦断する方向に現れるが、中心角120°のためグローブの形状は円形から少し変形するが、その変形の程度は小さく、実質的に円形と認識される。
【0032】
なお、JRS(旧規格)では警報灯の円形レンズの外径はφ170mmに決められていたため、現在でも円形レンズの外径はこれを踏襲して同じ大きさとなっており、本発明による用いる球形グローブもφ170mmの大きさを確保する必要がある。外径がφ170mmの球形グローブではその一部が背板で隠されてしまうため、見かけ上はφ170mm以下となる。このため球形グローブをφ170mmよりも大きくすることで、背板による影響を低減することが出来る。
【0033】
以上のように本発明は、LEDを実装した基板を立体の多面体に配置することで球体発光を実現し、また、LEDの多面体を球形レンズによるグローブ内に設置することで、低い楕円率を実現するものである。もっとも、必要により特定方向を遮光するといった対応が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0034】
現在、警報灯を複数組設置している区間を1組の警報灯の設置で済ませることが可能となり、設置コスト(設置費用、施工工事)を大幅に低減でき、消費電流も低減できるので環境にも配慮している。
【符号の説明】
【0035】
1 多面発光体、2 グローブ、3 基板取付枠、3a 胴部形成部分、3b 上傾部分、3c 下傾部分、4 スペーサ、5 LED実装基板、5a 長方形セグメント、5b 台形セグメント、5c 台形セグメント、 6 灯受、7 仕切板、8 フランジ、9 LED、10 スペーサ取付穴、11 ブラケット、12 踏切警報機、13 天板、14 警報機柱、15 背板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多面発光体を有する全方位踏切警報灯であって、
多面発光体は、多面体を構成する赤色発光のLED実装基板の組立体であり、
組立体の各面のLED実装基板はせん光灯の発光面として多面体の全方位に向けられているものであることを特徴とする全方位踏切警報灯。
【請求項2】
LED実装基板は、多角形の立体構造の基板取付枠に取付けられたものであり、少なくとも長方形のセグメントを有し、
基板取付け枠は、多角形の立体構造の各面を形成する胴部形成部分を有し、
長方形のセグメントは、胴部形成部分の各面に取付けられてせん光灯の発光面として多角形の全方位に向けられているものであることを特徴とする請求項1に記載の全方位踏切警報灯。
【請求項3】
基板取付枠は、各胴部形成部分と、上傾部分と、下傾部分とを有し、
胴部形成部分は、中空の多面体を形成する部分であり、
上傾部分と下傾部分とは、台形あるいは三角形をなし、胴部形成部分の上下縁から、多面体の軸心方向に上傾方向または下傾方向に伸び、中空多面体の上下の開口の少なくとも一部を覆うものであり、
LED実装基板は、長方形のセグメントと、台形セグメントとの組合せであり、
長方形のセグメントは、基板取付枠の胴部形成部分に取り付ける部分であり、
台形セグメントは、基板取付枠の上傾部分および下傾部分にそれぞれ別個に取り付ける部分であることを特徴とする請求項2に記載の全方位踏切警報灯。
【請求項4】
各LED実装基板は、基板取付枠にスペーサを介して取付けられていることを特徴とする請求項2または3のいずれか1に記載の全方位踏切警報灯。
【請求項5】
前記基板取付枠は、仕切板に取付けられ、
仕切板は、各面を形成する胴部形成部分を数個ずつを1区画として互いの区画を相互に隔離するものであり、フランジに取付けられているものであることを特徴とする請求項2または3のいずれか1に記載の全方位踏切警報灯。
【請求項6】
多面発光体をグローブに内装した全方位踏切警報灯であって、
グローブは、赤色透明または無色透明の球面レンズであり、せん光灯の発光面として多面体の全方位に向けられた多面発光体を分散して発光させるものであることを特徴とする請求項1に記載の全方位踏切警報灯。
【請求項7】
グローブは背板を有し、
背板は、グローブの上縁から底部に掛けて中心角120°の角度でグローブの外周から3箇所に放射方向に張り出させてグローブの背面からの光をさえぎり、視認性を向上させることを特徴とする請求項6に記載の全方位踏切警報灯。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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