説明

全芳香族液晶ポリエステル樹脂およびそれを含む組成物

【課題】成形品のブリスターの発生が少ない、即ち、耐ブリスター性に優れた、全芳香族液晶ポリエステル樹脂および全芳香族液晶ポリエステル樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】式[I]で表される繰返し単位を含む5種類の特定な単量体を縮重合して得られる全芳香族液晶ポリエステル樹脂であって、剪断速度1000sec−1の条件下で測定した結晶融解温度における溶融粘度(P1)と、同条件下で測定した結晶融解温度+20℃における溶融粘度(P2)の比(P1/P2)が3.0以下であり、かつ荷重たわみ温度(DTUL)が230℃以上である全芳香族液晶ポリエステル樹脂:


[式中、pは、各繰返し単位の液晶ポリエステル樹脂中での組成比(モル%)を示し、以下の条件を満たす:25≦p≦45、全体が100]。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形品のブリスターの発生が少ない全芳香族液晶ポリエステル樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
サーモトロピック液晶ポリエステル樹脂(以下、単にLCPとも称する)は、耐熱性、剛性等の機械物性、耐薬品性、寸法精度等に優れているため、成形品用途のみならず、繊維やフィルムといった各種用途にその使用が拡大しつつある。
【0003】
特にパーソナル・コンピューターや携帯電話等の情報・通信分野においては、部品の高集積度化、小型化、薄肉化、低背化が急速に進んでおり、非常に薄い肉厚部が形成されるケースが多い。そこで、LCPはその優れた成形性、すなわち流動性が良好であり、かつバリが出ないという他の樹脂にない特徴を生かして、その使用量が大幅に増大している。
【0004】
しかしながら、近年、はんだの鉛フリー化により、コネクターなどの電子部品用途において、リフロー温度が高温化しており、液晶ポリエステル樹脂の成形品においても高温でのリフロー処理により生じるブリスターと呼ばれる成形品表面の膨れの発生が問題となっている。
【0005】
かかるブリスターの発生は、金型ないしホッパー内に存在する空気や、樹脂に内包される分解ガス、空気ないし水分が原因であると考えられている。
【0006】
また、リフロー温度が高温化した場合には、液晶ポリエステル樹脂の成形品に反りが生じやすくなる問題があり、反りの発生を抑制するために液晶ポリエステル樹脂にタルクなどの充填材を配合することが知られている。
【0007】
しかし、タルクは微量の水分を含有しているために、タルクを含有する液晶ポリエステル樹脂組成物においては、成形品の反りの発生は抑制されるものの、ブリスターの発生がより増加しやすくなる問題を有するものである。
【0008】
このような、液晶ポリエステル樹脂の成形品のブリスター発生の問題を解消する方法について多数の方法が提案されている。具体的には、シリコーンゴム、リン化合物、ホウ素化合物などを添加剤として配合する方法(特許文献1〜8を参照)、射出成形時のスクリュー圧縮比を調整する方法(特許文献9を参照)、または液晶ポリエステル樹脂と無機充填材を溶融混練する場合のスクリュー噛合率を調整する方法(特許文献10を参照)などが知られている。
【0009】
しかしながら、ブリスターの発生を抑制するために各種の添加剤を配合する方法については、ブリスター発生の抑制効果は改善の余地のあるものであり、添加剤によっては液晶ポリエステル樹脂組成物の機械物性が大きく低下する問題がある。
【0010】
また、射出成形時や、液晶ポリエステル樹脂と無機充填材との溶融混練時のスクリューの設定を調整する方法については、添加剤を配合する方法と比較し、大きな作業負担がかかる問題がある。
【0011】
これらの事情から、液晶ポリエステル樹脂において、成形時などのスクリューの設定の調整などの操作を行わず、かつ、添加剤の配合によらずに、成形品のブリスターの発生を抑制する方法の開発が強く望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平02−075653号公報
【特許文献2】特開平06−032880号公報
【特許文献3】特開平10−036641号公報
【特許文献4】特開平10−158482号公報
【特許文献5】特開平11−140283号公報
【特許文献6】特開平11−199761号公報
【特許文献7】特開2003−096279号公報
【特許文献8】特開2004−196886号公報
【特許文献9】特開平11−048278号公報
【特許文献10】特開2003−211443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、成形時やハンダ工程時等における、成形品のブリスターの発生が少ない、即ち、耐ブリスター性に優れた、全芳香族液晶ポリエステル樹脂および全芳香族液晶ポリエステル樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、鋭意検討の結果、特定の繰返し単位を与える単量体を所定の割合で縮重合することによって、得られる液晶ポリエステル樹脂が、耐熱性、機械物性等の他の特性を損なうことなく、耐ブリスター性が著しく改善されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、下記式[I]〜[V]で表される繰返し単位を与える単量体を縮重合して得られる全芳香族液晶ポリエステル樹脂であって、剪断速度1000sec−1の条件下で測定した結晶融解温度における溶融粘度(P1)と、同条件下で測定した結晶融解温度+20℃における溶融粘度(P2)の比(P1/P2)が3.0以下であり、かつ荷重たわみ温度(DTUL)が230℃以上であることを特徴とする全芳香族液晶ポリエステル樹脂を提供する:
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

[式中、p、q、r、sおよびtは、各繰返し単位の液晶ポリエステル樹脂中での組成比(モル%)を示し、以下の条件を満たす:
25≦p≦45;
2≦q≦10;
10≦r≦20;
10≦s≦20;
20≦t≦40;
r>s;
p+q+r+s+t=100]。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の全芳香族液晶ポリエステル樹脂は、異方性溶融相を形成するポリエステル樹脂であり、当業者にサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂と呼ばれるものであれば特に限定されない。
【0017】
異方性溶融相の性質は直交偏向子を利用した通常の偏向検査法、すなわちホットステージにのせた試料を窒素雰囲気下で観察することにより確認できる。
【0018】
本発明の全芳香族液晶ポリエステル樹脂は、芳香族オキシカルボニル繰返し単位、芳香族ジオキシ繰返し単位および芳香族ジカルボニル繰返し単位から構成される。
【0019】
本発明の全芳香族液晶ポリエステル樹脂は、芳香族オキシカルボニル繰返し単位として、以下に示す式[I]で表されるp−オキシベンゾイル繰返し単位および式[II]で表される6−オキシ−2−ナフトイル繰返し単位を必須に含むものである:
【化6】

【化7】

[pおよびqはそれぞれ、本発明の全芳香族液晶ポリエステル樹脂における全繰り返し単位中の式[I]および式[II]で表される繰返し単位のモル%を示す]。
【0020】
本発明の全芳香族液晶ポリエステル樹脂は、式[I]で表される繰返し単位を全繰返し単位に対して25〜45モル%、好ましくは30〜45モル%、さらに好ましくは30〜40モル%含み、かつ、式[II]で表される繰返し単位を全繰返し単位に対して2〜10モル%、好ましくは3〜9モル%、さらに好ましくは3〜6モル%含むものである。
【0021】
式[I]で表される繰返し単位を与える単量体としては、p−ヒドロキシ安息香酸ならびに、そのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性の誘導体が挙げられる。
【0022】
式[II]で表される繰返し単位を与える単量体としては、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ならびに、そのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性の誘導体が挙げられる。
【0023】
本発明の全芳香族液晶ポリエステル樹脂は、芳香族ジオキシ繰返し単位として、以下の式[III]および式[IV]で表される繰返し単位を必須に含むものである:
【化8】

【化9】

[rおよびsはそれぞれ、本発明の全芳香族液晶ポリエステル樹脂における全繰り返し単位中の式[III]および式[IV]で表される繰返し単位のモル%を示し、r>sの関係を満たす]。
【0024】
本発明の全芳香族液晶ポリエステル樹脂は、式[III]で表される繰返し単位を、全繰返し単位に対して10〜20モル%、好ましくは13〜20モル%、より好ましくは13.5〜18.5モル%、さらに好ましくは16〜18モル%含み、かつ、式[IV]で表される繰返し単位を、全繰返し単位に対して10〜20モル%、好ましくは10〜17モル%、より好ましくは11.5〜15.5モル%、さらに好ましくは12〜14モル%含むものである。
【0025】
また、本発明の全芳香族液晶ポリエステル樹脂は、式[III]で表される繰返し単位の全芳香族液晶ポリエステル樹脂における組成比(モル%)が、式[IV]で表される繰返し単位の全芳香族液晶ポリエステル樹脂における組成比(モル%)よりも多いものである。
【0026】
式[III]で表される繰返し単位を与える単量体としては、ハイドロキノン、ならびにそのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0027】
式[IV]で表される繰返し単位を与える単量体としては、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ならびにそのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0028】
本発明の全芳香族液晶ポリエステル樹脂は、さらに以下に示す式[V]で表される芳香族ジカルボニル繰返し単位を必須に含むものである:
【化10】

[tは、本発明の全芳香族液晶ポリエステル樹脂における全繰り返し単位中の式[V]で表される繰返し単位のモル%を示す]。
【0029】
本発明の全芳香族液晶ポリエステル樹脂は、芳香族ジカルボニル繰返し単位として、式[V]で表される繰返し単位を20〜40モル%、好ましくは25〜35モル%、さらに好ましくは28〜32モル%含むものである。
【0030】
式[V]で表される繰返し単位を与える単量体としては、テレフタル酸ならびに、そのエステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性の誘導体が挙げられる。
【0031】
本発明の全芳香族液晶ポリエステル樹脂においては、p+q+r+s+t=100である。
【0032】
また、本発明の全芳香族液晶ポリエステル樹脂において、式[III]および式[IV]で表される芳香族ジオキシ繰返し単位の含有量と、式[V]で表される芳香族ジカルボニル繰返し単位の含有量は、実質的に等モルであるのが好ましい。
【0033】
このような式[I]〜式[V]で表される繰返し単位からなる本発明の全芳香族液晶ポリエステル樹脂は、剪断速度1000sec−1の条件下で測定した、結晶融解温度における溶融粘度(P1)が15〜150Pa・s、好ましくは30〜90Pa・sであり、同剪断速度条件下で測定した、結晶融解温度より20℃高い温度における溶融粘度(P2)が5〜50、好ましくは10〜30Pa・sである。なお、本発明において、全芳香族液晶ポリエステル樹脂の溶融粘度は、0.7mmφ×10mmのキャピラリーを用いて、剪断速度1000sec−1の条件下で測定されるものとする。
【0034】
本発明の全芳香族液晶ポリエステル樹脂において、剪断速度1000sec−1の条件下で測定した結晶融解温度における溶融粘度(P1)と、同条件下で測定した結晶融解温度+20℃における溶融粘度(P2)の比、即ち、P1/P2で表される値は、溶融粘度の温度依存性の指標であり、3.0以下、好ましくは2.7以下、より好ましくは2.5以下、さらに好ましくは2.3以下を示すものである。
【0035】
P1/P2の値が3.0を上回る場合、金型内での剪断発熱によって樹脂温度が上昇した際、粘度が極端に低下することに起因してジェッティング(キャビティ内における樹脂の蛇行流れによる乱れ現象)が発生し、金型内の空気を巻き込んでブリスターが発生し易くなる。P1/P2の値の下限は1.0であり、1.0に近いほどジェッティングが抑制され、ブリスターが発生し難くなるため好ましい。
【0036】
なお、本発明において、結晶融解温度(以下、Tmとも称する)は示差操作熱量計により測定されるものであり、具体的には、結晶融解温度は以下の方法により測定されるものである。示差操作熱量計を用いて、試料を室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)を測定した後、Tm1より20〜50℃高い温度で10分間保持する。次いで、20℃/分の降温条件で室温まで試料を冷却し、さらに再度20℃/分の昇温条件で測定した際の吸熱ピークを観測し、そのピークトップを示す温度を結晶融解温度(Tm)とする。
【0037】
また本発明の全芳香族液晶ポリエステル樹脂は、荷重たわみ温度が230℃以上、好ましくは230〜320℃、より好ましくは230〜300℃、さらに好ましくは235〜280℃である。
【0038】
なお、本発明において、荷重たわみ温度は、試料の、長さ127mm、幅12.7mm、厚さ3.2mmの短冊状試験片を用いて、ASTM D648に準拠して測定される、荷重1.82MPa、昇温速度2℃/分で所定たわみ量(2.54mm)になる温度をいう。
【0039】
荷重たわみ温度が230℃を下回る場合、耐熱性が十分ではなく、リフロー時の加熱により熱変形や反りを生じやすい。また荷重たわみ温度が320℃を上回る場合には、通常、使用する液晶ポリエステル樹脂の結晶融解温度が高くなりすぎるため、成形加工性に問題が生じるおそれがある。
【0040】
以下、本発明の全芳香族液晶ポリエステル樹脂の製造方法について説明する。
【0041】
本発明の全芳香族液晶ポリエステル樹脂の製造方法に特に制限はなく、上述の式[I]〜式[V]で表される繰返し単位を与える単量体を、溶融アシドリシス法、スラリー重合法などの公知のポリエステル重縮合方法によって重縮合することにより製造することができる。
【0042】
溶融アシドリシス法とは、本発明の全芳香族液晶ポリエステル樹脂の製造方法に用いるのに好ましい方法であり、この方法は、最初に単量体を加熱して反応物質の溶融液を形成し、続いて反応を続けて溶融ポリマーを得るものである。なお、縮合の最終段階で副生する揮発物(例えば、酢酸、水等)の除去を容易にするために真空を適用してもよい。
【0043】
スラリー重合法とは、熱交換流体の存在下で反応させる方法であって、固体生成物は熱交換媒質中に懸濁した状態で得られる。
【0044】
溶融アシドリシス法およびスラリー重合法の何れの場合においても、全芳香族液晶ポリエステル樹脂を製造する際に使用する重合性単量体成分は、ヒドロキシル基をアシル化した変性形態、すなわち低級アシル化物として反応に供することもできる。低級アシル基は炭素原子数2〜5のものが好ましく、炭素原子数2または3のものがより好ましい。特に好ましくは前記単量体のアセチル化物を反応に用いる方法が挙げられる。
【0045】
単量体のアシル化物は、別途アシル化して予め合成したものを用いてもよいし、全芳香族液晶ポリエステル樹脂の製造時に単量体に無水酢酸等のアシル化剤を加えて反応系内で生成せしめることもできる。
【0046】
溶融アシドリシス法またはスラリー重合法の何れの場合においても反応時、必要に応じて触媒を用いてもよい。
【0047】
触媒の具体例としては、ジアルキルスズオキシド(たとえばジブチルスズオキシド)、ジアリールスズオキシドなどの有機スズ化合物;二酸化チタン、三酸化アンチモン、アルコキシチタンシリケート、チタンアルコキシドなどのチタン化合物;カルボン酸のアルカリまたはアルカリ土類金属塩(たとえば酢酸カリウム);無機酸塩類(たとえば硫酸カリウム);ルイス酸(例えば三フッ化硼素);ハロゲン化水素(例えば塩化水素)などの気体状酸触媒などが挙げられる。
【0048】
触媒の使用割合は、通常、単量体に対して1〜1000ppm、好ましくは2〜100ppmである。
【0049】
このようにして重縮合反応されて得られた本発明の全芳香族液晶ポリエステル樹脂は、溶融状態で重合反応槽より抜き出された後に、ペレット状、フレーク状、または粉末状に加工される。
【0050】
ペレット状、フレーク状、または粉末状の全芳香族液晶ポリエステル樹脂は、所望により、耐熱性を高めるなどの目的で、真空下、または窒素、ヘリウムなどの不活性ガス雰囲気下において固相状態で熱処理を行ってもよい。
【0051】
上記のようにして得られた、本発明の全芳香族液晶ポリエステル樹脂には、繊維状、板状または粉末状の無機充填材、以下に説明するその他の添加剤、および他の樹脂成分から選択される一種以上を配合して、全芳香族液晶ポリエステル樹脂組成物としてもよい。
【0052】
本発明の全芳香族液晶ポリエステル樹脂に配合してもよい、無機充填材としては、たとえばガラス繊維、ミルドガラス、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、アラミド繊維、チタン酸カリウムウイスカ、ホウ酸アルミニウムウイスカ、ウォラストナイト、タルク、マイカ、グラファイト、炭酸カルシウム、ドロマイト、クレイ、ガラスフレーク、ガラスビーズ、硫酸バリウム、および酸化チタンからなる群から選択される1種以上が挙げられる。これらの中では、ガラス繊維が物性とコストのバランスが優れている点で好ましい。
【0053】
本発明の全芳香族液晶ポリエステル樹脂組成物における、無機充填材の配合量は、全芳香族液晶ポリエステル樹脂100重量部に対して、1〜200重量部、好ましくは5〜100重量部であるのがよい。
【0054】
前記の無機充填材の配合量が200重量部を超える場合には、成形加工性が低下したり、成形機のシリンダーや金型の磨耗が大きくなる傾向がある。
【0055】
本発明の全芳香族液晶ポリエステル樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の添加剤、例えば、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸金属塩(ここで高級脂肪酸とは炭素原子数10〜25のものをいう)、ポリシロキサン、フッ素樹脂などの離型改良剤;染料、顔料などの着色剤;酸化防止剤;熱安定剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤;界面活性剤などから選ばれる1種または2種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0056】
これらの他の添加剤の配合量は、全芳香族液晶ポリエステル樹脂100重量部に対して、0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜5重量部であるのがよい。これらの他の添加剤の配合量が10重量部を超える場合には、成形加工性が低下したり、熱安定性が悪くなる傾向がある。
【0057】
高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸金属塩、フルオロカーボン系界面活性剤などの外部滑剤効果を有するものについては、全芳香族液晶ポリエステル樹脂またはそれを含む組成物を成形するに際して、予め、全芳香族液晶ポリエステル樹脂またはそれを含む組成物のペレットの表面に付着せしめてもよい。
【0058】
また、本発明の全芳香族液晶ポリエステル樹脂には、本発明の目的を損なわない範囲で、本発明の全芳香族液晶ポリエステル樹脂と同様の温度域で成形加工可能である他の樹脂成分を配合してもよい。他の樹脂成分としては、たとえばポリアミド、ポリエステル、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテル、およびその変性物、ならびにポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミドなどの熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられる。他の樹脂成分は、単独で、あるいは2種以上を組み合わせて配合することができる。他の樹脂成分の配合量は特に限定的ではなく、全芳香族液晶ポリエステル樹脂組成物の用途や目的に応じて適宜定めればよい。典型的には全芳香族液晶ポリエステル樹脂組成物中の全芳香族液晶ポリエステル樹脂100重量部に対して、他の樹脂の合計配合量が0.1〜100重量部、特に0.1〜80重量部となる範囲で添加される。
【0059】
これらの無機充填剤、その他の添加剤、並びに他の樹脂成分などは、全芳香族液晶ポリエステル樹脂中に添加され、バンバリーミキサー、ニーダー、一軸もしくは二軸押出機などを用いて、全芳香族液晶ポリエステル樹脂の結晶融解温度近傍ないし結晶融解温度+20℃で溶融混練して全芳香族液晶ポリエステル樹脂組成物とすることができる。
【0060】
このようにして得られた、本発明の全芳香族液晶ポリエステル樹脂またはそれを含む組成物は、射出成形機、押出機などを用いる公知の成形方法によって、成形品、フィルム、シート、および不織布などに加工される。
【0061】
本発明の全芳香族液晶ポリエステル樹脂および全芳香族液晶ポリエステル樹脂組成物は、耐ブリスター性に優れるとともに、耐熱性、曲げ強度やIzod衝撃強度などの機械的性質に優れるため、アンテナ、コネクター、基板などの電子部品の材料として特に好適に用いられる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例中の結晶融解温度、溶融粘度、荷重たわみ温度、ブリスター発生評価、曲げ強度およびIzod衝撃強度の測定、評価は以下に記載の方法で行った。
【0063】
〈結晶融解温度〉
示差走査熱量計としてセイコーインスツルメンツ株式会社製Exstar6000を用いて、試料を室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)を測定した後、Tm1より20〜50℃高い温度で10分間保持する。次いで、20℃/分の降温条件で室温まで試料を冷却し、さらに再度20℃/分の昇温条件で測定した際の吸熱ピークを観測し、そのピークトップを示す温度を結晶融解温度(Tm)とした。
【0064】
〈溶融粘度〉
溶融粘度測定装置(東洋精機(株)製キャピログラフ1D)により、0.7mmφ×10mmのキャピラリーを用いて、剪断速度1000sec−1の条件下、試料の結晶融解温度(Tm)での溶融粘度(P1)及び結晶融解温度(Tm)+20℃での溶融粘度(P2)をそれぞれ測定した。なお、ガラス繊維を配合した試料については、1.0mmφ×10mmのキャピラリーを用いた。
【0065】
〈荷重たわみ温度〉
射出成形機(日精樹脂工業(株)製UH1000−110)を用いて長さ127mm、幅12.7mm、厚さ3.2mmの短冊状試験片を成形し、これを用いてASTM D648に準拠し、荷重1.82MPa、昇温速度2℃/分で所定たわみ量(2.54mm)になる温度を測定した。
【0066】
〈ブリスター発生評価〉
127×12.7×0.8mmの試験片をギアオーブンにて260℃で10分間加熱処理を行い、冷却後、目視により表面に膨れ(ブリスター)の発生した個数を観察した。一回の試験につき10本の試験片を評価し、膨れの発生個数が0〜1個の試験片については○、2〜3の試験片については△、4個以上の試験片については×とした。
【0067】
〈曲げ強度〉
型締め圧15tの射出成形機(住友重機械工業株式会社製 MINIMAT M26/15)を用いて融点+20℃のシリンダ温度、金型温度70℃で射出成形し、12.7×64×2.0mmの短冊状曲げ試験片を作成した。曲げ試験は、3点曲げ試験をINSTRON5567(インストロンジャパンカンパニイリミティッド社製万能試験機)を用いて、スパン間距離40.0mm、圧縮速度1.3mm/minで行った。
【0068】
〈Izod衝撃強度〉
曲げ強度測定に用いた試験片と同じ試験片を用いて、ASTM D256に準拠して測定した。
【0069】
実施例および比較例において下記の略号は以下の化合物を表す。
POB:パラヒドロキシ安息香酸
BON6:6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸
BP:4,4−ジヒドロキシビフェニル
HQ:ハイドロキノン
TPA:テレフタル酸
【0070】
実施例1
トルクメーター付き攪拌装置および留出管を備えた反応容器に、POB、BON6、BP、HQおよびTPAを表1に示す組成比にて、総量6.5molとなるように仕込み、さらに全モノマーの水酸基量(モル)に対して1.03倍モルの無水酢酸を仕込み、次の条件で脱酢酸重合を行った。
【0071】
窒素ガス雰囲気下に室温〜150℃まで1時間で昇温し、同温度にて30分間保持した。次いで、副生する酢酸を留去させつつ350℃まで7時間かけ昇温した後、80分かけて5mmHgにまで減圧した。所定のトルクを示した時点で重合反応を終了し、反応容器内容物を取り出し、粉砕機により液晶ポリエステル樹脂のペレットを得た。重合時の留出酢酸量は、ほぼ理論値どおりであった。
【0072】
得られた全芳香族液晶ポリエステル樹脂の示差走査熱量計により測定された結晶融解温度は335℃であった。この全芳香族液晶ポリエステル樹脂の溶融粘度、荷重たわみ温度、ブリスター発生評価、曲げ強度およびIzod衝撃強度の測定、評価結果を表2に示す。
【0073】
実施例2〜3および比較例1〜5
反応容器に仕込むモノマーの種類および組成比、昇温温度、150℃から昇温温度までの到達時間を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして全芳香族液晶ポリエステル樹脂を得た。得られた全芳香族液晶ポリエステル樹脂の結晶融解温度、溶融粘度、荷重たわみ温度、ブリスター発生率、曲げ強度およびIzod衝撃強度の測定、評価結果を表2に示す。
【0074】
実施例4
全芳香族液晶ポリエステル樹脂として実施例1の樹脂を用い、全芳香族液晶ポリエステル樹脂100重量部に対して表2に記載の重量部のガラス繊維を配合し、二軸押出機(池貝鉄工株式会社製 PCM−30)にて溶融混練したものをペレット化し、全芳香族液晶ポリエステル樹脂組成物を調製した。
【0075】
比較例6
全芳香族液晶ポリエステル樹脂として比較例1の樹脂を用い、実施例4と同様にしてペレット化し、全芳香族液晶ポリエステル樹脂組成物を調製した。
【0076】
実施例の全芳香族液晶ポリエステル樹脂および樹脂組成物は、いずれもブリスターの発生がなく、荷重たわみ温度にて示される耐熱性が高く、曲げ強度やIzod衝撃強度などの機械的特性を損なうことなく、耐ブリスター性が著しく改善されたものであった。
【0077】
一方、比較例の全芳香族液晶ポリエステル樹脂および樹脂組成物は、曲げ強度やIzod衝撃強度などの機械的特性は実施例と同等であるものの、ブリスターの発生が確認されるものであった。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式[I]〜[V]で表される繰返し単位を与える単量体を縮重合して得られる全芳香族液晶ポリエステル樹脂であって、剪断速度1000sec−1の条件下で測定した結晶融解温度における溶融粘度(P1)と、同条件下で測定した結晶融解温度+20℃における溶融粘度(P2)の比(P1/P2)が3.0以下であり、かつ荷重たわみ温度(DTUL)が230℃以上であることを特徴とする全芳香族液晶ポリエステル樹脂:
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

[式中、p、q、r、sおよびtは、各繰返し単位の液晶ポリエステル樹脂中での組成比(モル%)を示し、以下の条件を満たす:
25≦p≦45;
2≦q≦10;
10≦r≦20;
10≦s≦20;
20≦t≦40;
r>s;
p+q+r+s+t=100]。
【請求項2】
請求項1に記載の全芳香族液晶ポリエステル樹脂100重量部に対し、繊維状、板状または粉末状の無機充填材を1〜200重量部含む、全芳香族液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
無機充填材が、ガラス繊維、ミルドガラス、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、アラミド繊維、チタン酸カリウムウイスカ、ホウ酸アルミニウムウイスカ、ウォラストナイト、タルク、マイカ、グラファイト、炭酸カルシウム、ドロマイト、クレイ、ガラスフレーク、ガラスビーズ、硫酸バリウム、および酸化チタンからなる群から選択される1種以上である、請求項2に記載の全芳香族液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
無機充填材がガラス繊維である、請求項3に記載の全芳香族液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の全芳香族液晶ポリエステル樹脂あるいは請求項2〜4の何れかに記載の全芳香族液晶ポリエステル樹脂組成物を成形して得られた成形品。

【公開番号】特開2012−126842(P2012−126842A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280436(P2010−280436)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(000189659)上野製薬株式会社 (76)
【Fターム(参考)】