説明

六方晶窒化ホウ素粉末及び六方晶窒化ホウ素粉末含有樹脂組成物。

【課題】 本発明の六方晶窒化ホウ素粉末含有樹脂組成物は、加工落ちによる性能低下がなく、絶縁性に優れている。特に、絶縁電線に使用する絶縁ワニスに好適に使用することができる。
【解決手段】 アスペクト比が3.0〜7.0、比表面積が25〜60m/g、かつ以下に定義される表面酸素量に対する内部酸素量の質量比(内部酸素量/表面酸素量の質量比)が0.30〜0.60である六方晶窒化ホウ素粉末を含有してなる樹脂組成物。
[内部酸素量の定義]
酸素/窒素同時分析装置を用い、試料をヘリウム雰囲気中、昇温速度4.6℃/秒で室温から3000℃まで加熱しながら酸素量と窒素量を測定した場合、窒素が検出される間に検知された酸素量の総和。
[表面酸素量の定義]
上記測定において、窒素が検出されない間に検知された酸素量の総和。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は六方晶窒化ホウ素粉末及び六方晶窒化ホウ素粉末を含有してなる樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コイルに使用する絶縁電線として、アルミニウムや銅などの導体の外周に各種エナメル塗料を塗布焼付したエナメル線、ガラス糸を巻き回したガラス巻線、これらを組み合わせたエナメルガラス巻線、絶縁テープを巻回した絶縁テープ巻線等、各種構造のものが知られており、その使用条件やコイル巻き条件に合わせて選択使用されている。
【0003】
とくに近年、各種電気機器として適用電圧が高いタイプのものが増える傾向にあり、高電圧の印加により絶縁層が侵されるため、早期に絶縁破壊を生じて絶縁電線ひいては電気機器の寿命が短くなるという問題があった。
【0004】
そこで従来においては絶縁物の高電圧に対する耐性、すなわち絶縁破壊電圧を高めて絶縁破壊に至るまでの寿命時間を延ばす手段として、絶縁層の表面に半導電層を設ける(特許文献1)ことが提案されている。
【0005】
しかしながら、上記前者の半導電層を設ける手段では、同じ層の厚さで半導電層のない絶縁電線と比較した場合、コロナ破壊に対する耐性である耐コロナ性は向上するが、絶縁層の厚みが小さくなるために絶縁破壊電圧が低下するという難点があった(特許文献2)。
【0006】
この様な難点に対し、絶縁層の厚さを厚くすることで絶縁破壊電圧を向上することは可能であるが、絶縁電線の外形を大きくして機器の小型化を妨げるといった問題点を有する。そのため、近年では絶縁性を有する薄い塗料、いわゆる絶縁ワニスにて電線に薄い塗膜をつくることにて絶縁電線の小型化を達成している。
【0007】
しかしながら、絶縁ワニスを施した絶縁電線をコイル巻きにする過程おいて、機器との擦れ、ワイヤの捩れ、曲げ等の加工が加えられると、絶縁電線から絶縁ワニスが剥がれ落ちしたり崩れ落ちたりする、いわゆる加工落ちを生じ、本来具備していた絶縁性能が損なわれる問題がある。
【特許文献1】特開平2−189814号公報
【特許文献2】特開平11−130993号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、特定の六方晶窒化ホウ素粉末を含有してなる樹脂組成物である。特に、絶縁電線に使用する絶縁ワニスに本樹脂組成物を用いた場合には、絶縁ワニスを施した絶縁電線の巻き取り時に潤滑性を与え、加工落ちによる性能低下をすることがない、絶縁性に優れた高電圧の用途に使用可能な絶縁ワニスを提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の手段を採用する。
(1)アスペクト比が3.0〜7.0、比表面積が25〜60m/g、かつ以下に定義される表面酸素量に対する内部酸素量の質量比(内部酸素量/表面酸素量の質量比)が0.30〜0.60である六方晶窒化ホウ素粉末を含有してなることを特徴とする樹脂組成物。
[内部酸素量の定義]
酸素/窒素同時分析装置を用い、試料をヘリウム雰囲気中、昇温速度4.6℃/秒で室温から3000℃まで加熱しながら酸素量と窒素量を測定した場合、窒素が検出される間に検知された酸素量の総和。
[表面酸素量の定義]
上記測定において、窒素が検出されない間に検知された酸素量の総和。
(2)ポリイミド樹脂又はポリウレタン樹脂を含有してなることを特徴とする前記(1)に記載の樹脂組成物。
(3)六方晶窒化ホウ素粉末60〜80質量%、ポリイミド樹脂又はポリウレタン樹脂20〜40質量%含有してなることを特徴とする前記(2)に記載の樹脂組成物。
(4)前記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の樹脂組成物を用いたことを特徴とする絶縁ワニス。
(5)アスペクト比が3.0〜7.0、比表面積が25〜60m/g、かつ以下に定義される表面酸素量に対する内部酸素量の質量比(内部酸素量/表面酸素量の質量比)が0.30〜0.60であることを特徴とする絶縁ワニスに用いる六方晶窒化ホウ素粉末。
[内部酸素量の定義]
酸素/窒素同時分析装置を用い、試料をヘリウム雰囲気中、昇温速度4.6℃/秒で室温から3000℃まで加熱しながら酸素量と窒素量を測定した場合、窒素が検出される間に検知された酸素量の総和。
[表面酸素量の定義]
上記測定において、窒素が検出されない間に検知された酸素量の総和。
【発明の効果】
【0010】
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末含有樹脂組成物は、巻き取り時の潤滑性に優れ、加工落ちによる性能低下がなく、絶縁性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、さらに詳しく本発明について説明する。
本発明は六方晶窒化ホウ素粉末含有樹脂組成物に関するものであり、特定のアスペクト比、比表面積、及び内部酸素量と表面酸素量の比を有する六方晶窒化ホウ素粉末を用いた樹脂組成物が絶縁ワニスに好適であることを見出したものである。
【0012】
本発明で使用する窒化ホウ素粉末は、アスペクト比が3〜7、比表面積が25〜60m/g、かつ表面酸素量に対する内部酸素量の質量比(内部酸素量/表面酸素量の質量比)が0.30〜0.60を有する六方晶窒化ホウ素粉末である。製品の具体例としては、電気化学工業(株)製のHGP7、SP7等を用いることができる。
【0013】
六方晶窒化ホウ素粉末のアスペクト比は3.0〜7.0である。アスペクト比が3.0未満であると六方晶窒化ホウ素の鱗片結晶が未発達のため、潤滑性が損なわれ、絶縁電線の巻き取り時に加工落ちし易くなる。また、アスペクト比が7.0を超えると、樹脂組成物の内部組織の空隙が増加し、ひいては樹脂組成物の絶縁性を損なうことになる。
アスペクト比の測定方法は、二次電子組成像を画像処理システム(日本アビオニクス社製「SPICOA−2」)によって2値化し、300個の粒子についてそれぞれの二次元画像により長軸及び短軸を測定し平均アスペクト比を求めた。
【0014】
六方晶窒化ホウ素粉末の比表面積は25〜60m/gである。比表面積が25m/g未満であると凝集粒子の存在により樹脂組成物の内部組織の空隙が増加し、ひいては絶縁性を損なうことになる。また、比表面積が60m/gを超えると六方晶窒化ホウ素粉末が樹脂組成物に用いる樹脂を吸い込み、仕上がった樹脂組成物は脆く、加工落ちし易くなる。
比表面積は、流動法BET一点法比表面積測定装置(ユアサアイオニクス社製「MONOSORB」)にて測定した。
【0015】
六方晶窒化ホウ素粉末の表面酸素量に対する内部酸素量の質量比(内部酸素量/表面酸素量の質量比)は0.30〜0.60である。内部酸素量/表面酸素量の質量比が0.30未満であると表面の酸化膜の膜厚が過剰となり、樹脂組成物の絶縁性が損なわれる。また、内部酸素量/表面酸素量の質量比が0.60を超えると六方晶窒化ホウ素粉末が樹脂組成物に用いる樹脂を吸い込み、仕上がった樹脂組成物は脆く、加工落ちし易くなる。
表面酸素量及び内部酸素量は、酸素/窒素同時分析装置(堀場製作所社製「EMGA−640W」)にて測定し、以下の定義から表面酸素量及び内部酸素量を求めた。
[内部酸素量の定義]
酸素/窒素同時分析装置を用い、試料をヘリウム雰囲気中、昇温速度4.6℃/秒で室温から3000℃まで加熱しながら酸素量と窒素量を測定した場合、窒素が検出される間に検知された酸素量の総和。
[表面酸素量の定義]
上記測定において、窒素が検出されない間に検知された酸素量の総和。
【0016】
六方晶窒化ホウ素粉末の比表面積の調整及び表面酸素の付与は、通常の大気雰囲気(窒素=約79容量%、酸素=約21容量%)下、ジェット粉砕機又は撹拌混合機、好ましくは上羽根と下羽根を有する撹拌混合機などの回転式の粉砕機又は混合機にて特定条件下で凝集粒子の解砕及び表面酸化を行うことにより達成される。ジェット粉砕機又は撹拌混合機に、六方晶窒化ホウ素粉末を充填し、処理する。これにより、凝集粒子の解砕による比表面積の増加及び表面の酸化により表面にのみ酸素を付与させることができる(特開2007−191337号公報参照)。表面の酸化を行わないと、使用する樹脂に対し、六方晶窒化ホウ素粉末を多く配合したスラリー、例えば60〜80質量%配合したスラリーを製造することが難しい。
【0017】
使用する樹脂としては、ポリイミド、ポリウレタン、ポリビニルアセタール、ポリエステルなどが使用できる。この中でも、ポリイミド樹脂又はポリウレタン樹脂を用いることがBNの高充填の観点から好ましい。
六方晶窒化ホウ素粉末含有樹脂組成物の配合は、六方晶窒化ホウ素粉末が60〜80質量%、ポリイミド樹脂又はポリウレタン樹脂が20〜40質量%であることが好ましい。六方晶窒化ホウ素粉末の含有量が60質量%未満になると、樹脂に対する六方晶窒化ホウ素粉末の含有量が少なくなるため、絶縁性を損ねる恐れがある。一方、六方晶窒化ホウ素粉末の含有量が80質量%を超えると、樹脂組成物が脆くなり、絶縁電線の巻き取りが難しくなる。
【0018】
加工落ちのし易さは樹脂組成物のピール強度で決まる。ピール強度が小さければ、樹脂組成物は他のモノと弱く接触しても、剥がれ易くなる。樹脂組成物のピール強度の評価方法は、JIS K 6854に基づく方法で行った。
【0019】
樹脂組成物の絶縁破壊電圧の評価方法は、JIS C 2110に基づく方法で評価を行った。
【実施例】
【0020】
以下、実施例、比較例を挙げてさらに具体的に本発明を説明する。
実施例1
カワタ製ヘンシェルミキサーにて六方晶窒化ホウ素粉末(電気化学工業製HGP7)を回転数1700rpmで15分間混合し、六方晶窒化ホウ素粉末の表面に酸化処理を施し、その粉末をポリイミド樹脂PETI−330(宇部興産製)に62質量%混和させ、370℃で1時間加熱して硬化させた。これらの条件で得られたピール強度と絶縁破壊電圧を表1に示す。
実施例2
六方晶窒化ホウ素粉末に電気化学工業製SP7を用いたことと、酸化処理した粉末を樹脂に70質量%混和させたこと以外は実施例1と同様である。
実施例3
セイシン企業製シングルトラックジェットミルにて六方晶窒化ホウ素粉末(電気化学工業製HGP7)を回転圧0.5MPaで六方晶窒化ホウ素粉末の表面に酸化処理を施し、その粉末をポリイミド樹脂PETI−330(宇部興産製)に80質量%混和させ、370℃で1時間加熱して硬化させた。これらの条件で得られたピール強度と絶縁破壊電圧を表1に示す。
実施例4
六方晶窒化ホウ素粉末に電気化学工業製SP7を用いたことと、酸化処理した粉末を樹脂に68質量%混和させたこと以外は実施例2と同様である。
実施例5
樹脂に出光ポリウレタン(出光興産製)、硬化剤にR−4(日本ポリウレタン製)を用い、120℃で1時間加熱後、70℃で15時間加熱して硬化させた以外は実施例1と同様である。
実施例6
樹脂を出光ポリウレタン(出光興産製)、硬化剤にR−4(日本ポリウレタン製)を用い、120℃で1時間加熱後、70℃で15時間加熱して硬化させた以外は実施例3と同様である。
【0021】
比較例1
六方晶窒化ホウ素粉末(HGP7)の表面に酸化処理を施さなかったこと以外は実施例1と同様である。この条件下では粘度が非常に高く混和させることができなかったため、ピール強度と絶縁破壊電圧は計測不可である。
比較例2
徳寿工作所製Wコーンブレンダーにて六方晶窒化ホウ素粉末(HGP7)を回転数60rpmで六方晶窒化ホウ素粉末の表面に酸化処理を施したこと以外は実施例1と同様である。この条件下では粘度が非常に高く混和させることができなかったため、ピール強度と絶縁破壊電圧は計測不可である。
比較例3
六方晶窒化ホウ素粉末に電気化学工業製SP−3を用いたこと以外は実施例3と同様である。これらの条件で得られたピール強度と絶縁破壊電圧を表1に示す。
比較例4
六方晶窒化ホウ素粉末に電気化学工業製HGPEを用いたこと以外は実施例3と同様である。これらの条件で得られたピール強度と絶縁破壊電圧を表1に示す。
比較例5
六方晶窒化ホウ素粉末に電気化学工業製SP−2を用いたこと以外は実施例4と同様である。これらの条件で得られたピール強度と絶縁破壊電圧を表1に示す。
比較例6
シングルトラックジェットミルにて六方晶窒化ホウ素粉末(SP−3)を実施例2よりも回転圧を高くした0.2MPaで六方晶窒化ホウ素粉末に実施例2よりも比表面積を多くしたこと以外は実施例2と同様である。これらの条件で得られたピール強度と絶縁破壊電圧を表1に示す。
比較例7
シングルトラックジェットミルにて六方晶窒化ホウ素粉末を実施例2よりも回転圧を高くした0.8MPaで六方晶窒化ホウ素粉末に実施例2よりも多い表面酸素を施したこと以外は実施例2と同様である。これらの条件で得られたピール強度と絶縁破壊電圧を表1に示す。
比較例8
シングルトラックジェットミルにて六方晶窒化ホウ素粉末を実施例2よりも回転圧を低くした0.2MPaで六方晶窒化ホウ素粉末に実施例2よりも少ない表面酸素を施したこと以外は実施例2と同様である。これらの条件で得られたピール強度と絶縁破壊電圧を表1に示す。
【0022】
使用材料
(1)ポリイミド樹脂(宇部興産製:PETI−330)
(2)ポリウレタン樹脂(出光興産製:出光ポリウレタン)
(3)ポリウレタン硬化剤(日本ポリウレタン製:R−4)
(4)六方晶窒化ホウ素粉末A(電気化学工業製:HGP7、平均粒径:2μm)
(5)六方晶窒化ホウ素粉末B(電気化学工業製:SP7、平均粒径:1μm)
(6)六方晶窒化ホウ素粉末C(電気化学工業製:SP−3、平均粒径:4μm)
(7)六方晶窒化ホウ素粉末D(電気化学工業製:HGPE、平均粒径:5μm)
(8)六方晶窒化ホウ素粉末E(電気化学工業製:SP−2、平均粒径:3μm)
【0023】
【表1】



【0024】
表1の実施例と比較例のピール強度と絶縁破壊電圧が示すように、本発明の六方晶窒化ホウ素粉末含有樹脂組成物は、加工落ちによる性能低下がなく、絶縁性に優れている。従って、本発明の六方晶窒化ホウ素粉末含有樹脂組成物は絶縁ワニスに好適に使用することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスペクト比が3.0〜7.0、比表面積が25〜60m/g、かつ以下に定義される表面酸素量に対する内部酸素量の質量比(内部酸素量/表面酸素量の質量比)が0.30〜0.60である六方晶窒化ホウ素粉末を含有してなることを特徴とする樹脂組成物。
[内部酸素量の定義]
酸素/窒素同時分析装置を用い、試料をヘリウム雰囲気中、昇温速度4.6℃/秒で室温から3000℃まで加熱しながら酸素量と窒素量を測定した場合、窒素が検出される間に検知された酸素量の総和。
[表面酸素量の定義]
上記測定において、窒素が検出されない間に検知された酸素量の総和。
【請求項2】
ポリイミド樹脂又はポリウレタン樹脂を含有してなることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
六方晶窒化ホウ素粉末60〜80質量%、ポリイミド樹脂又はポリウレタン樹脂20〜40質量%含有してなることを特徴とする請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の樹脂組成物を用いたことを特徴とする絶縁ワニス。
【請求項5】
アスペクト比が3.0〜7.0、比表面積が25〜60m/g、かつ以下に定義される表面酸素量に対する内部酸素量の質量比(内部酸素量/表面酸素量の質量比)が0.30〜0.60であることを特徴とする絶縁ワニスに用いる六方晶窒化ホウ素粉末。
[内部酸素量の定義]
酸素/窒素同時分析装置を用い、試料をヘリウム雰囲気中、昇温速度4.6℃/秒で室温から3000℃まで加熱しながら酸素量と窒素量を測定した場合、窒素が検出される間に検知された酸素量の総和。
[表面酸素量の定義]
上記測定において、窒素が検出されない間に検知された酸素量の総和。


【公開番号】特開2009−280720(P2009−280720A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−135319(P2008−135319)
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】