共振器
【課題】簡易に半導体集積回路上に形成可能な共振器を提供する。
【解決手段】共振器は、半導体基板と、第1の音響波伝播層と、第1の音響波反射層と、を備える。前記第1の音響波伝播層は、前記半導体基板に、第1の方向に長辺、前記第1の方向とは異なる第2の方向に短辺をそれぞれ有する形状で形成される。前記第1の音響波反射層は、少なくとも前記第1の音響波伝播層の前記第1の方向の両端に形成される。前記第1の音響波反射層の前記第1の方向の幅は、前記第1の音響波伝播層と前記第1の音響波反射層との界面での音響波の音の強さ反射係数または音の強さ透過係数が所定値以上となるよう形成される。
【解決手段】共振器は、半導体基板と、第1の音響波伝播層と、第1の音響波反射層と、を備える。前記第1の音響波伝播層は、前記半導体基板に、第1の方向に長辺、前記第1の方向とは異なる第2の方向に短辺をそれぞれ有する形状で形成される。前記第1の音響波反射層は、少なくとも前記第1の音響波伝播層の前記第1の方向の両端に形成される。前記第1の音響波反射層の前記第1の方向の幅は、前記第1の音響波伝播層と前記第1の音響波反射層との界面での音響波の音の強さ反射係数または音の強さ透過係数が所定値以上となるよう形成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、共振器に関する。
【背景技術】
【0002】
共振器として、水晶の圧電効果を利用した水晶振動子が広く用いられている。水晶振動子の機械系振動を利用することで、電気系振動のみを用いたインダクタンスより大きなインダクタンス成分を実現できる。ところが、水晶振動子を半導体集積回路上に形成することは極めて困難である。
【0003】
半導体集積回路においても、MEMS(Micro Electro Mechanical System)共振器のように、機械系振動を利用したデバイスを半導体基板上に形成することもできるが、特殊なプロセスが必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】G. Weinreich, Physical Review, 104 (1956) pp. 321 - 324
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
簡易に半導体集積回路上に形成可能な共振器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態によれば、共振器は、半導体基板と、第1の音響波伝播層と、第1の音響波反射層と、を備える。前記第1の音響波伝播層は、前記半導体基板に、第1の方向に長辺、前記第1の方向とは異なる第2の方向に短辺をそれぞれ有する形状で形成される。前記第1の音響波反射層は、少なくとも前記第1の音響波伝播層の前記第1の方向の両端に形成される。前記第1の音響波反射層の前記第1の方向の幅は、前記第1の音響波伝播層と前記第1の音響波反射層との界面での音響波の音の強さ反射係数または音の強さ透過係数が所定値以上となるよう形成される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】第1の実施形態に係る共振器100の上面図。
【図2】第1の実施形態に係る共振器100の斜視図。
【図3】第1の実施形態に係る共振器100の断面図。
【図4】ある領域nにおいて、入射波および反射波が存在する様子を示す図。
【図5】領域1〜3に音響波が存在する様子を示す図。
【図6】SiO2膜2の幅wと透過係数TIとの関係を示すグラフ。
【図7】SiO2膜2の幅wと反射係数RIとの関係を示すグラフ。
【図8】共振器100の一例を示す断面図。
【図9】共振器100の第1の変形例を示す斜視図。
【図10】共振器100の第2の変形例を示す断面図。
【図11】第2の実施形態に係る共振器101の断面図。
【図12】第3の実施形態に係る共振器102の断面図。
【図13】第4の実施形態に係る共振器103の断面図。
【図14】第5の実施形態に係る共振器104の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0009】
(第1の実施形態)
図1〜図3はそれぞれ、第1の実施形態に係る共振器100の上面図、斜視図および断面図である。共振器100は、シリコン基板(半導体基板)10と、p型拡散層(第1の音響波伝播層)1と、SiO2膜(第1の音響波反射層)2と、nウェル3と、コンタクト4と、配線5とを備えている。
【0010】
シリコン基板10の表面には、例えば不純物としてリンあるいはヒ素がドーピングされたnウェル3が形成される。nウェル3の内側に、例えば不純物としてホウ素がドーピングされたp型拡散層1が形成される。
【0011】
nウェル3の内側で、p型拡散層1を囲うように溝6がシリコン基板10に形成され、その中にSiO2膜2が埋め込まれている。SiO2膜2は、いわゆるSTI(Shallow Trench Isolation)と呼ばれる構造であり、p型拡散層1をシリコン基板10上に形成される他の素子と電気的に分離する。コンタクト4は、p型拡散層1上に形成され、p型拡散層1と配線5とを電気的に接続する。配線5は他の素子(不図示)と接続される。
【0012】
図1〜図3の共振器100は簡易な構造であるため、通常のCMOSプロセスにより形成できる。
【0013】
一般に、キャリアを有する半導体中では、電荷密度が変化すると体積が変化し、体積が変化すると電荷密度が変化すること、すなわち、電気と機械振動との相互作用が知られている。より具体的には、ρを電荷密度、Φを体積変化に比例する変数、cを半導体中の音速とすると、下記の方程式が成立する。
【数1】
【0014】
上式の左辺は音響波の伝搬を表す方程式であり、電荷密度ρの変化があると(右辺)、音速cの音響波が伝播する(左辺)ことを示している。
【0015】
このことを図1〜図3の共振器100に当てはめる。共振器100では、p型拡散層1にキャリアとしてホールが存在する。コンタクト4から電気入力が与えられるとp型拡散層1の電荷密度が変化し、その結果、p型拡散層1が音響波伝播層となって音響波が伝播する。一方、SiO2膜2は音響波反射層として機能する。すなわち、音響波はp型拡散層1とSiO2膜2との界面で反射し、p型拡散層1に音響定在波が生じる。この音響定在波の周波数はp型拡散層1の長辺の長さとp型拡散層1中の音速cとに応じて定まる。
【0016】
したがって、共振器100は特定の周波数のみで共振する共振器となる。p型拡散層1の長辺の長さが短いほど定在波の波長は短くなるため、p型拡散層1の長辺の長さに応じて、共振周波数を調整できる。また、シリコン基板10、nウェル3あるいはp型拡散層1にバイアスを印加することにより共振周波数を調整することもできる。
【0017】
音響波はp型拡散層1とSiO2膜2との界面で全反射するわけではなく、一部はSiO2膜2およびnウェル3へ透過する。そこで、以下に説明するように、SiO2膜2の幅(p型拡散層1の長辺方向の長さ、以下同じ)wを適切に形成することで、効率よく音響波をp型拡散層1に閉じ込めることができる。
【0018】
図4は、ある領域nにおいて、入射波および反射波が存在する様子を示す図である。以下、入射波および反射波の進行方向をx軸とする。
【0019】
入射波および反射波の音圧の実効値をそれぞれpin(x),prn(x)とし、領域nの密度および音速をそれぞれρn,cnとする。密度と音速との積は音響インピーダンス(固有インピーダンス)Znと呼ばれる量であり、下記(1)式で定義される。
ρn * cn = Zan ・・・(1)
【0020】
領域nでは、入射波および反射波が重畳されているため、領域nの位置xにおける音圧pn(x)は複素表示で下記(2)式により表される。
pn(x) = (pin * e-jknx + prn * ejknx) * ejωt ・・・(2)
ここで、knは波数であり、下記(3)式で表される。
kn = ω / cn ・・・(3)
【0021】
一方、領域nの位置xにおける粒子速度vn(x)は、下記(4)式で表される。
【数2】
【0022】
上記(4)式に(1)〜(3)式を代入することにより、粒子速度vnは、下記(5)式で表される。
vn(x) = Zan-1 (pin * e-jknx - prn * ejknx) * ejωt ・・・(5)
【0023】
続いて、以上の議論を図1〜図3の共振器100に当てはめる。図5は、p型拡散層1が形成される領域(以下、領域1)、SiO2膜2が形成される領域(以下、領域2)およびnウェル3が形成される領域(以下、領域3)に音響波が存在する様子を示す図である。
【0024】
領域1には、入射波と、領域2との界面(x=−w)で反射された反射波とが存在する。領域2には、入射波と、領域3との界面(x=0)で反射された反射波とが存在する。また、領域3は無限に長いと仮定しており、領域3には領域2から透過した透過波のみが存在する。
【0025】
そして、領域1,2,3の位置xにおける音圧p1(x),p2(x),p3(x)は、上記(2)式を用いて下記(6)〜(8)式でそれぞれ表される。
p1(x) = (pi1 * e-jk1x + pr1 * ejk1x) * ejωt ・・・(6)
p2(x) = (pi2 * e-jk2x + pr2 * ejk2x) * ejωt ・・・(7)
p3(x) = (pt3 * e-jk3x) * ejωt ・・・(8)
ここで、上記(2)式中のnに代わる数字1,2,3は領域名を表している。また、領域3には透過波しか存在せず、その音圧の実効値をpt3としている。
【0026】
境界条件として、x=−wにおいて領域1と領域2とは連続しているので、音圧p1(x)と音圧p2(x)は等しくなる。つまり、p1(−w)=p2(−w)であるから、下記(9)式が成立する。
pi1 * ejk1w + pr1 * e-jk1w = pi2 * ejk2w + pr2 * e-jk2w ・・・(9)
【0027】
同様に、p2(0)=p3(0)となるから、下記(10)式が成立する。
pi2 + pr2 = pt3・・・(10)
【0028】
一方、領域1,2,3の位置xにおける粒子速度v1(x),v2(x),v3(x)は、上記(5)式を用いて下記(11)〜(13)式でそれぞれ表される。
v1(x) = Za1-1 (pi1 * e-jk1x - pr1 * ejk1x) * ejωt ・・・(11)
v2(x) = Za2-1 (pi2 * e-jk2x - pr2 * ejk2x) * ejωt ・・・(12)
v3(x) = Za3-1 (pt3 * e-jk3x) * ejωt ・・・(13)
ここで、上記(5)式中のnに代わる数字1,2,3は領域名を表している。さらに、説明を簡略化するために、p型拡散層1およびnウェル3の両領域の密度および音速が等しいと仮定すると、上記(1)式よりZa1=Za3である。
【0029】
境界条件として、x=−wにおいて領域1と領域2とは連続しているので、粒子速度v1(x)と粒子速度v1(x)は等しくなる。つまり、v1(−w)=v2(−w)であるから、下記(14)式が成立する。
Za1-1 (pi1 * ejk1w - pr1 * e-jk1w) = Za2-1 (pi2 * ejk2w - pr2 * e-jk2w) ・・・(14)
【0030】
同様に、v2(0)=v3(0)となるから、Za1=Za3を考慮すると下記(15)式が成立する。
Za2-1 (pi2 - pr2) = Za1-1 * pt3 ・・・(15)
【0031】
上記(9),(10),(14),(15)式を変形すると、下記の(16),(17)式が得られる。
【数3】
【数4】
【0032】
この2式より、音圧反射係数Rpおよび音圧透過係数Tpはそれぞれ下記(18),(19)式のようになる。
【数5】
【数6】
【0033】
一方、粒子速度反射係数Rvおよび粒子速度透過係数Tvはそれぞれ下記(20),(21)式のようになる。
【数7】
【数8】
【0034】
以上から、音の強さ反射係数RI(=Rp*Rv、以下、単に反射係数RI)および音の強さ透過係数TI(=Tp*Tv、以下、単に透過係数TI)はそれぞれ下記(22),(23)式のようになる。
【数9】
【数10】
【0035】
上記(23),(24)式におけるk2wは、(3)式より下記(24)式の関係が成立する。
k2 * w = ω / cn * w = 2π * w / λ2 ・・・(24)
ここで、λ2は、SiO2膜2中の音響波の波長であり、共振器100の共振周波数とSiO2膜2での音速c2により依存する値である。SiO2膜2について、音速c2=5.9*105cm/sec、密度ρ2=2.2g/cm3とし、p型拡散層1およびnウェル3の音速c1,c3および密度ρ1,ρ3は、シリコン基板10の音速および密度とそれぞれ等しく、音速c1=c3=8.43*105cm/sec、密度ρ1=ρ3=2.33g/cm3として、それぞれ音響インピーダンスZa1,Za2を算出し、透過係数TIおよび反射係数RIを計算する。
【0036】
図6は、SiO2膜2の幅wと透過係数TIとの関係を示すグラフであり、図7は、SiO2膜2の幅wと反射係数RIとの関係を示すグラフである。図6および図7の横軸は、SiO2膜2の幅wを音響波の波長λ2で正規化したw/λ2である。
【0037】
図6および図7に示すように、SiO2膜2の幅wがλ2/2の整数倍である場合に、透過係数TIが最大となり、反射係数RIが最小となる。また、mを正の整数として下記(25)式が成立する場合、すなわち、SiO2膜2の幅wがλ2/4の奇数倍である場合に、反射係数RIが最大となり、透過係数TIが最小となる。
w = (2m - 1) * λ2 / 4 ・・・(25)
【0038】
図8は、上記(25)式を満たす共振器100の一例を示す断面図である。p型拡散層1とSiO2膜2との界面で音響波が反射するが、SiO2膜2の幅wをλ2/4あるいはその奇数倍とすることにより反射係数RIが最大となり、効率よく音響波を閉じ込めることができる。
【0039】
また、必ずしもSiO2膜2の幅wをちょうどλ2/4の奇数倍としなくてもよく、所望の反射係数RIを得るための幅wを上記(22)式あるいは図7から定めてもよい。例えば、反射係数RIを0.1以上にしたい場合は、w/λ2を約0.13〜0.37等にすればよい。あるいは、SiO2膜2の幅wがλ2/4の奇数倍となるよう設計しておけば、多少製造ばらつきがあったとしても、反射係数RIを大きくできる。
【0040】
このように、第1の実施形態では、共振器100はシリコン基板10上のp型拡散層1およびSiO2膜2により構成されるため、簡易に共振器100を半導体集積回路上に形成することができる。さらに、SiO2膜2の幅wを適切に設定することにより、反射係数RIを大きくすることができ、効率よく音響波を閉じ込めることができる。
【0041】
なお、共振器100の構造は図1〜図3に限定されるものではない。音響波をp型拡散層1内に効率よく閉じ込めるためには、図1〜図3に示すように不純物拡散層を取り囲むように音響波反射層が設けられるのが望ましいが、少なくとも、不純物拡散領域の長辺方向の両端に音響波反射層が形成されていればよい。例えば、図9に示すように、SiO2膜2をp型拡散層1の長辺方向の両端にのみ形成し、短辺方向にはnウェル3が形成されていてもよい。また、音響波はシリコン基板10に対して垂直方向にも伝播するため、図10に示すように、SiO2膜2を十分深くまで形成することにより、効率よく音響波を閉じ込めることができる。
【0042】
(第2の実施形態)
上述した第1の実施形態は、共振器100が、1つのp型拡散層1と、その両端に形成されるSiO2膜2を備えるものであった。これに対し、第2の実施形態は、複数のp型拡散層を形成するものである。以下、第1の実施形態との共通点は省略し、相違点を中心に説明する。
【0043】
図11は、第2の実施形態に係る共振器101の断面図である。共振器101は、p型拡散層(第1の音響波伝播層)1aと、その両端に形成されるSiO2膜(第1の音響波反射層)2a,2bと、その両端に形成されるp型拡散層(第2の音響波伝播層)1b,1cと、その両端に形成されるSiO2膜(第2の音響波反射層)2c,2dとを備えている。SiO2膜2a,2bは、図2に示すようにp型拡散層1aを取り囲むように一体に形成されてもよいし、図9に示すように分離して形成されてもよい。SiO2膜2c,2dも同様である。
【0044】
第1の実施形態と同様に、SiO2膜2a,2bの幅をλ2/4の奇数倍にすることで、p型拡散層1aとSiO2膜2a,2bとの界面での音響波の反射係数RIを大きくすることができる。ただし、図7に示すように、反射係数RIが1になるわけではなく、音響波の一部はp型拡散層1aからSiO2膜2a,2bへ透過してしまう。
【0045】
そこで、この透過波をさらにp型拡散層1aに反射させるべく、SiO2膜2a,2bの外側にp型拡散層1b,1cを形成する。そして、その幅をλ1/4の奇数倍にすることにより、SiO2膜2a,2bとp型拡散層1b,1cとのそれぞれの界面での反射係数を大きくすることができる。なお、λ1は、p型拡散層1b,1c中の音響波の波長であり、共振器101の共振周波数とp型拡散層1b,1cでの音速すなわちシリコン中の音速c1に依存する値である。
【0046】
そして、SiO2膜2a,2bからp型拡散層1b,1cへ透過する音響波を、さらにp型拡散層1aに反射させるべく、p型拡散層1b,1cの外側にSiO2膜2c,2dを形成する。そして、その幅をλ2/4の奇数倍にすることにより、p型拡散層1b,1cとSiO2膜2c,2dとのそれぞれの界面での反射係数を大きくすることができる。
【0047】
このように、第2の実施形態では、p型拡散層1aの外側にSiO2膜2a〜2dおよびp型拡散層1b,1cを設けるため、さらに効率よく音響波を閉じ込めることができる。
【0048】
なお、図11の共振器101は3つのp型拡散層1a〜1cを備える例を示しているが、共振器101の外側にさらにp型拡散層およびSiO2膜を形成してもよい。
【0049】
(第3の実施形態)
上記(22)式によると、p型拡散層1の音響インピーダンスZa1と、SiO2膜2の音響インピーダンスZa2との差が大きいほど、反射係数RIが大きくなる。そのため、SiO2膜2に代えて、これより音速および密度が大きい材料、例えばSiN等を音響波反射層として設けることにより、反射係数RIをさらに大きくできる。
【0050】
また、さらに音響インピーダンスを大きくするため、p型拡散層1の両端を空気層とするデバイス構造にしてもよい。図12は、第3の実施形態に係る共振器102の断面図である。本実施形態の共振器102は、図3等におけるSiO2膜2が形成されず、p型拡散層1は空気層2’と接して形成され、空気層2’が音響波反射層となる。
【0051】
空気層の音響インピーダンス(およそ4.09*102Ns/m3)は、p型拡散層1(シリコン)の音響インピーダンス(およそ1.92*107Ns/m3)と比べて非常に小さいため、上記(22)式より、0.0001≦w/λ2≦0.4999という広い範囲で反射係数RIを0.99以上とすることができる。
【0052】
このように、第3の実施形態では、p型拡散層1と音響インピーダンスが大きく異なる空気層2’を音響波反射層とするため、反射係数RIを大きくすることができる空気層の幅の範囲を広げることができる。
【0053】
(第4の実施形態)
上述した第1〜第3の実施形態は、シリコン基板10の水平方向に音響波を閉じ込めることを念頭に置いていた。これに対し、第4の実施形態は、垂直方向にも音響波を閉じ込めるものである。
【0054】
図13は、第4の実施形態に係る共振器104の断面図である。図3と共通する構成部分には同一の符号を付しており、以下では相違点を中心に説明する。
【0055】
共振器103は、p型拡散層1およびSiO2膜2の下に、さらにSiO2層(第3の音響波反射層)7を備えている。SiO2層7は、例えばSOI(Silicon on Insulator)プロセスにより製造できる。
【0056】
SiO2層7により、垂直方向に音響波を閉じ込めることができる。SiO2層7の厚さdは反射係数RIが大きくなるようにするのが望ましく、第1の実施形態と同様の考察により、λ1/4の奇数倍にすることにより、特に効率よく音響波を閉じ込めることができる。
【0057】
SOI基板は、例えばSIMOX(Separation by Implanted Oxygen)法により製造される。すなわち、シリコン基板に酸素イオンを打ち込み、その後熱処理を行ってSiO2層が形成される。このとき、打ち込む酸素イオンの量に応じてSiO2層の厚さを制御できる。したがって、反射係数RIが大きくなるよう、酸素イオンを打ち込めばよい。
【0058】
このように、第4の実施形態では、SiO2層7上にp型拡散層1およびSiO2膜2を形成するため、垂直方向にも音響波を閉じ込めることができる。
【0059】
(第5の実施形態)
第5の実施形態は、p型拡散層を多く形成して、取り出せる信号の数を増やすものである。
【0060】
図14は、第5の実施形態に係る共振器104の断面図である。共振器104は、複数(同図では3つ)のp型拡散層(第1および第2の音響波伝播層)1と、これらを互いに分離する位置に形成されるSiO2膜(第1の音響波反射層)21と、p型拡散層1の両端に形成されるSiO2膜(第2の音響波反射層)22とを備えている。
【0061】
SiO2膜21の幅は、他の実施形態とは異なりλ2/2の整数倍とする。その結果、図6および図7に示すように、反射係数RIは0となり、透過係数TIが1となる。すなわち、SiO2膜21により、p型拡散層1どうしは電気的には分離されるが、音響波は通過する。一方、SiO2膜22の幅は、他の実施形態同様にλ2/4の奇数倍とする。
【0062】
これにより、両端のSiO2膜22間に、効率よく音響波を閉じ込めることができる。
【0063】
本実施形態では、複数のp型拡散層1を形成するため、共振器104からp型拡散層1と同数の共振信号を取り出すことができる。
【0064】
なお、上述した各実施形態で説明した構造を組み合わせてもよい。また、各実施形態の共振器は、nウェル3およびp型拡散層1を形成しているが、導電型を逆にし、pウェル3’およびn型拡散層1’を形成してもよい。共振器は、例えば発振器やフィルタに用いることができる。発振器に用いる場合、共振周波数が共振器の形状で定まるため、周波数精度を高くできる。
【0065】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0066】
1,1a〜1c p型拡散層
2,2a〜2d,21,22 SiO2膜
3 nウェル
4 コンタクト
5 配線
6 溝
10 シリコン基板
100〜104 共振器
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、共振器に関する。
【背景技術】
【0002】
共振器として、水晶の圧電効果を利用した水晶振動子が広く用いられている。水晶振動子の機械系振動を利用することで、電気系振動のみを用いたインダクタンスより大きなインダクタンス成分を実現できる。ところが、水晶振動子を半導体集積回路上に形成することは極めて困難である。
【0003】
半導体集積回路においても、MEMS(Micro Electro Mechanical System)共振器のように、機械系振動を利用したデバイスを半導体基板上に形成することもできるが、特殊なプロセスが必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】G. Weinreich, Physical Review, 104 (1956) pp. 321 - 324
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
簡易に半導体集積回路上に形成可能な共振器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態によれば、共振器は、半導体基板と、第1の音響波伝播層と、第1の音響波反射層と、を備える。前記第1の音響波伝播層は、前記半導体基板に、第1の方向に長辺、前記第1の方向とは異なる第2の方向に短辺をそれぞれ有する形状で形成される。前記第1の音響波反射層は、少なくとも前記第1の音響波伝播層の前記第1の方向の両端に形成される。前記第1の音響波反射層の前記第1の方向の幅は、前記第1の音響波伝播層と前記第1の音響波反射層との界面での音響波の音の強さ反射係数または音の強さ透過係数が所定値以上となるよう形成される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】第1の実施形態に係る共振器100の上面図。
【図2】第1の実施形態に係る共振器100の斜視図。
【図3】第1の実施形態に係る共振器100の断面図。
【図4】ある領域nにおいて、入射波および反射波が存在する様子を示す図。
【図5】領域1〜3に音響波が存在する様子を示す図。
【図6】SiO2膜2の幅wと透過係数TIとの関係を示すグラフ。
【図7】SiO2膜2の幅wと反射係数RIとの関係を示すグラフ。
【図8】共振器100の一例を示す断面図。
【図9】共振器100の第1の変形例を示す斜視図。
【図10】共振器100の第2の変形例を示す断面図。
【図11】第2の実施形態に係る共振器101の断面図。
【図12】第3の実施形態に係る共振器102の断面図。
【図13】第4の実施形態に係る共振器103の断面図。
【図14】第5の実施形態に係る共振器104の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0009】
(第1の実施形態)
図1〜図3はそれぞれ、第1の実施形態に係る共振器100の上面図、斜視図および断面図である。共振器100は、シリコン基板(半導体基板)10と、p型拡散層(第1の音響波伝播層)1と、SiO2膜(第1の音響波反射層)2と、nウェル3と、コンタクト4と、配線5とを備えている。
【0010】
シリコン基板10の表面には、例えば不純物としてリンあるいはヒ素がドーピングされたnウェル3が形成される。nウェル3の内側に、例えば不純物としてホウ素がドーピングされたp型拡散層1が形成される。
【0011】
nウェル3の内側で、p型拡散層1を囲うように溝6がシリコン基板10に形成され、その中にSiO2膜2が埋め込まれている。SiO2膜2は、いわゆるSTI(Shallow Trench Isolation)と呼ばれる構造であり、p型拡散層1をシリコン基板10上に形成される他の素子と電気的に分離する。コンタクト4は、p型拡散層1上に形成され、p型拡散層1と配線5とを電気的に接続する。配線5は他の素子(不図示)と接続される。
【0012】
図1〜図3の共振器100は簡易な構造であるため、通常のCMOSプロセスにより形成できる。
【0013】
一般に、キャリアを有する半導体中では、電荷密度が変化すると体積が変化し、体積が変化すると電荷密度が変化すること、すなわち、電気と機械振動との相互作用が知られている。より具体的には、ρを電荷密度、Φを体積変化に比例する変数、cを半導体中の音速とすると、下記の方程式が成立する。
【数1】
【0014】
上式の左辺は音響波の伝搬を表す方程式であり、電荷密度ρの変化があると(右辺)、音速cの音響波が伝播する(左辺)ことを示している。
【0015】
このことを図1〜図3の共振器100に当てはめる。共振器100では、p型拡散層1にキャリアとしてホールが存在する。コンタクト4から電気入力が与えられるとp型拡散層1の電荷密度が変化し、その結果、p型拡散層1が音響波伝播層となって音響波が伝播する。一方、SiO2膜2は音響波反射層として機能する。すなわち、音響波はp型拡散層1とSiO2膜2との界面で反射し、p型拡散層1に音響定在波が生じる。この音響定在波の周波数はp型拡散層1の長辺の長さとp型拡散層1中の音速cとに応じて定まる。
【0016】
したがって、共振器100は特定の周波数のみで共振する共振器となる。p型拡散層1の長辺の長さが短いほど定在波の波長は短くなるため、p型拡散層1の長辺の長さに応じて、共振周波数を調整できる。また、シリコン基板10、nウェル3あるいはp型拡散層1にバイアスを印加することにより共振周波数を調整することもできる。
【0017】
音響波はp型拡散層1とSiO2膜2との界面で全反射するわけではなく、一部はSiO2膜2およびnウェル3へ透過する。そこで、以下に説明するように、SiO2膜2の幅(p型拡散層1の長辺方向の長さ、以下同じ)wを適切に形成することで、効率よく音響波をp型拡散層1に閉じ込めることができる。
【0018】
図4は、ある領域nにおいて、入射波および反射波が存在する様子を示す図である。以下、入射波および反射波の進行方向をx軸とする。
【0019】
入射波および反射波の音圧の実効値をそれぞれpin(x),prn(x)とし、領域nの密度および音速をそれぞれρn,cnとする。密度と音速との積は音響インピーダンス(固有インピーダンス)Znと呼ばれる量であり、下記(1)式で定義される。
ρn * cn = Zan ・・・(1)
【0020】
領域nでは、入射波および反射波が重畳されているため、領域nの位置xにおける音圧pn(x)は複素表示で下記(2)式により表される。
pn(x) = (pin * e-jknx + prn * ejknx) * ejωt ・・・(2)
ここで、knは波数であり、下記(3)式で表される。
kn = ω / cn ・・・(3)
【0021】
一方、領域nの位置xにおける粒子速度vn(x)は、下記(4)式で表される。
【数2】
【0022】
上記(4)式に(1)〜(3)式を代入することにより、粒子速度vnは、下記(5)式で表される。
vn(x) = Zan-1 (pin * e-jknx - prn * ejknx) * ejωt ・・・(5)
【0023】
続いて、以上の議論を図1〜図3の共振器100に当てはめる。図5は、p型拡散層1が形成される領域(以下、領域1)、SiO2膜2が形成される領域(以下、領域2)およびnウェル3が形成される領域(以下、領域3)に音響波が存在する様子を示す図である。
【0024】
領域1には、入射波と、領域2との界面(x=−w)で反射された反射波とが存在する。領域2には、入射波と、領域3との界面(x=0)で反射された反射波とが存在する。また、領域3は無限に長いと仮定しており、領域3には領域2から透過した透過波のみが存在する。
【0025】
そして、領域1,2,3の位置xにおける音圧p1(x),p2(x),p3(x)は、上記(2)式を用いて下記(6)〜(8)式でそれぞれ表される。
p1(x) = (pi1 * e-jk1x + pr1 * ejk1x) * ejωt ・・・(6)
p2(x) = (pi2 * e-jk2x + pr2 * ejk2x) * ejωt ・・・(7)
p3(x) = (pt3 * e-jk3x) * ejωt ・・・(8)
ここで、上記(2)式中のnに代わる数字1,2,3は領域名を表している。また、領域3には透過波しか存在せず、その音圧の実効値をpt3としている。
【0026】
境界条件として、x=−wにおいて領域1と領域2とは連続しているので、音圧p1(x)と音圧p2(x)は等しくなる。つまり、p1(−w)=p2(−w)であるから、下記(9)式が成立する。
pi1 * ejk1w + pr1 * e-jk1w = pi2 * ejk2w + pr2 * e-jk2w ・・・(9)
【0027】
同様に、p2(0)=p3(0)となるから、下記(10)式が成立する。
pi2 + pr2 = pt3・・・(10)
【0028】
一方、領域1,2,3の位置xにおける粒子速度v1(x),v2(x),v3(x)は、上記(5)式を用いて下記(11)〜(13)式でそれぞれ表される。
v1(x) = Za1-1 (pi1 * e-jk1x - pr1 * ejk1x) * ejωt ・・・(11)
v2(x) = Za2-1 (pi2 * e-jk2x - pr2 * ejk2x) * ejωt ・・・(12)
v3(x) = Za3-1 (pt3 * e-jk3x) * ejωt ・・・(13)
ここで、上記(5)式中のnに代わる数字1,2,3は領域名を表している。さらに、説明を簡略化するために、p型拡散層1およびnウェル3の両領域の密度および音速が等しいと仮定すると、上記(1)式よりZa1=Za3である。
【0029】
境界条件として、x=−wにおいて領域1と領域2とは連続しているので、粒子速度v1(x)と粒子速度v1(x)は等しくなる。つまり、v1(−w)=v2(−w)であるから、下記(14)式が成立する。
Za1-1 (pi1 * ejk1w - pr1 * e-jk1w) = Za2-1 (pi2 * ejk2w - pr2 * e-jk2w) ・・・(14)
【0030】
同様に、v2(0)=v3(0)となるから、Za1=Za3を考慮すると下記(15)式が成立する。
Za2-1 (pi2 - pr2) = Za1-1 * pt3 ・・・(15)
【0031】
上記(9),(10),(14),(15)式を変形すると、下記の(16),(17)式が得られる。
【数3】
【数4】
【0032】
この2式より、音圧反射係数Rpおよび音圧透過係数Tpはそれぞれ下記(18),(19)式のようになる。
【数5】
【数6】
【0033】
一方、粒子速度反射係数Rvおよび粒子速度透過係数Tvはそれぞれ下記(20),(21)式のようになる。
【数7】
【数8】
【0034】
以上から、音の強さ反射係数RI(=Rp*Rv、以下、単に反射係数RI)および音の強さ透過係数TI(=Tp*Tv、以下、単に透過係数TI)はそれぞれ下記(22),(23)式のようになる。
【数9】
【数10】
【0035】
上記(23),(24)式におけるk2wは、(3)式より下記(24)式の関係が成立する。
k2 * w = ω / cn * w = 2π * w / λ2 ・・・(24)
ここで、λ2は、SiO2膜2中の音響波の波長であり、共振器100の共振周波数とSiO2膜2での音速c2により依存する値である。SiO2膜2について、音速c2=5.9*105cm/sec、密度ρ2=2.2g/cm3とし、p型拡散層1およびnウェル3の音速c1,c3および密度ρ1,ρ3は、シリコン基板10の音速および密度とそれぞれ等しく、音速c1=c3=8.43*105cm/sec、密度ρ1=ρ3=2.33g/cm3として、それぞれ音響インピーダンスZa1,Za2を算出し、透過係数TIおよび反射係数RIを計算する。
【0036】
図6は、SiO2膜2の幅wと透過係数TIとの関係を示すグラフであり、図7は、SiO2膜2の幅wと反射係数RIとの関係を示すグラフである。図6および図7の横軸は、SiO2膜2の幅wを音響波の波長λ2で正規化したw/λ2である。
【0037】
図6および図7に示すように、SiO2膜2の幅wがλ2/2の整数倍である場合に、透過係数TIが最大となり、反射係数RIが最小となる。また、mを正の整数として下記(25)式が成立する場合、すなわち、SiO2膜2の幅wがλ2/4の奇数倍である場合に、反射係数RIが最大となり、透過係数TIが最小となる。
w = (2m - 1) * λ2 / 4 ・・・(25)
【0038】
図8は、上記(25)式を満たす共振器100の一例を示す断面図である。p型拡散層1とSiO2膜2との界面で音響波が反射するが、SiO2膜2の幅wをλ2/4あるいはその奇数倍とすることにより反射係数RIが最大となり、効率よく音響波を閉じ込めることができる。
【0039】
また、必ずしもSiO2膜2の幅wをちょうどλ2/4の奇数倍としなくてもよく、所望の反射係数RIを得るための幅wを上記(22)式あるいは図7から定めてもよい。例えば、反射係数RIを0.1以上にしたい場合は、w/λ2を約0.13〜0.37等にすればよい。あるいは、SiO2膜2の幅wがλ2/4の奇数倍となるよう設計しておけば、多少製造ばらつきがあったとしても、反射係数RIを大きくできる。
【0040】
このように、第1の実施形態では、共振器100はシリコン基板10上のp型拡散層1およびSiO2膜2により構成されるため、簡易に共振器100を半導体集積回路上に形成することができる。さらに、SiO2膜2の幅wを適切に設定することにより、反射係数RIを大きくすることができ、効率よく音響波を閉じ込めることができる。
【0041】
なお、共振器100の構造は図1〜図3に限定されるものではない。音響波をp型拡散層1内に効率よく閉じ込めるためには、図1〜図3に示すように不純物拡散層を取り囲むように音響波反射層が設けられるのが望ましいが、少なくとも、不純物拡散領域の長辺方向の両端に音響波反射層が形成されていればよい。例えば、図9に示すように、SiO2膜2をp型拡散層1の長辺方向の両端にのみ形成し、短辺方向にはnウェル3が形成されていてもよい。また、音響波はシリコン基板10に対して垂直方向にも伝播するため、図10に示すように、SiO2膜2を十分深くまで形成することにより、効率よく音響波を閉じ込めることができる。
【0042】
(第2の実施形態)
上述した第1の実施形態は、共振器100が、1つのp型拡散層1と、その両端に形成されるSiO2膜2を備えるものであった。これに対し、第2の実施形態は、複数のp型拡散層を形成するものである。以下、第1の実施形態との共通点は省略し、相違点を中心に説明する。
【0043】
図11は、第2の実施形態に係る共振器101の断面図である。共振器101は、p型拡散層(第1の音響波伝播層)1aと、その両端に形成されるSiO2膜(第1の音響波反射層)2a,2bと、その両端に形成されるp型拡散層(第2の音響波伝播層)1b,1cと、その両端に形成されるSiO2膜(第2の音響波反射層)2c,2dとを備えている。SiO2膜2a,2bは、図2に示すようにp型拡散層1aを取り囲むように一体に形成されてもよいし、図9に示すように分離して形成されてもよい。SiO2膜2c,2dも同様である。
【0044】
第1の実施形態と同様に、SiO2膜2a,2bの幅をλ2/4の奇数倍にすることで、p型拡散層1aとSiO2膜2a,2bとの界面での音響波の反射係数RIを大きくすることができる。ただし、図7に示すように、反射係数RIが1になるわけではなく、音響波の一部はp型拡散層1aからSiO2膜2a,2bへ透過してしまう。
【0045】
そこで、この透過波をさらにp型拡散層1aに反射させるべく、SiO2膜2a,2bの外側にp型拡散層1b,1cを形成する。そして、その幅をλ1/4の奇数倍にすることにより、SiO2膜2a,2bとp型拡散層1b,1cとのそれぞれの界面での反射係数を大きくすることができる。なお、λ1は、p型拡散層1b,1c中の音響波の波長であり、共振器101の共振周波数とp型拡散層1b,1cでの音速すなわちシリコン中の音速c1に依存する値である。
【0046】
そして、SiO2膜2a,2bからp型拡散層1b,1cへ透過する音響波を、さらにp型拡散層1aに反射させるべく、p型拡散層1b,1cの外側にSiO2膜2c,2dを形成する。そして、その幅をλ2/4の奇数倍にすることにより、p型拡散層1b,1cとSiO2膜2c,2dとのそれぞれの界面での反射係数を大きくすることができる。
【0047】
このように、第2の実施形態では、p型拡散層1aの外側にSiO2膜2a〜2dおよびp型拡散層1b,1cを設けるため、さらに効率よく音響波を閉じ込めることができる。
【0048】
なお、図11の共振器101は3つのp型拡散層1a〜1cを備える例を示しているが、共振器101の外側にさらにp型拡散層およびSiO2膜を形成してもよい。
【0049】
(第3の実施形態)
上記(22)式によると、p型拡散層1の音響インピーダンスZa1と、SiO2膜2の音響インピーダンスZa2との差が大きいほど、反射係数RIが大きくなる。そのため、SiO2膜2に代えて、これより音速および密度が大きい材料、例えばSiN等を音響波反射層として設けることにより、反射係数RIをさらに大きくできる。
【0050】
また、さらに音響インピーダンスを大きくするため、p型拡散層1の両端を空気層とするデバイス構造にしてもよい。図12は、第3の実施形態に係る共振器102の断面図である。本実施形態の共振器102は、図3等におけるSiO2膜2が形成されず、p型拡散層1は空気層2’と接して形成され、空気層2’が音響波反射層となる。
【0051】
空気層の音響インピーダンス(およそ4.09*102Ns/m3)は、p型拡散層1(シリコン)の音響インピーダンス(およそ1.92*107Ns/m3)と比べて非常に小さいため、上記(22)式より、0.0001≦w/λ2≦0.4999という広い範囲で反射係数RIを0.99以上とすることができる。
【0052】
このように、第3の実施形態では、p型拡散層1と音響インピーダンスが大きく異なる空気層2’を音響波反射層とするため、反射係数RIを大きくすることができる空気層の幅の範囲を広げることができる。
【0053】
(第4の実施形態)
上述した第1〜第3の実施形態は、シリコン基板10の水平方向に音響波を閉じ込めることを念頭に置いていた。これに対し、第4の実施形態は、垂直方向にも音響波を閉じ込めるものである。
【0054】
図13は、第4の実施形態に係る共振器104の断面図である。図3と共通する構成部分には同一の符号を付しており、以下では相違点を中心に説明する。
【0055】
共振器103は、p型拡散層1およびSiO2膜2の下に、さらにSiO2層(第3の音響波反射層)7を備えている。SiO2層7は、例えばSOI(Silicon on Insulator)プロセスにより製造できる。
【0056】
SiO2層7により、垂直方向に音響波を閉じ込めることができる。SiO2層7の厚さdは反射係数RIが大きくなるようにするのが望ましく、第1の実施形態と同様の考察により、λ1/4の奇数倍にすることにより、特に効率よく音響波を閉じ込めることができる。
【0057】
SOI基板は、例えばSIMOX(Separation by Implanted Oxygen)法により製造される。すなわち、シリコン基板に酸素イオンを打ち込み、その後熱処理を行ってSiO2層が形成される。このとき、打ち込む酸素イオンの量に応じてSiO2層の厚さを制御できる。したがって、反射係数RIが大きくなるよう、酸素イオンを打ち込めばよい。
【0058】
このように、第4の実施形態では、SiO2層7上にp型拡散層1およびSiO2膜2を形成するため、垂直方向にも音響波を閉じ込めることができる。
【0059】
(第5の実施形態)
第5の実施形態は、p型拡散層を多く形成して、取り出せる信号の数を増やすものである。
【0060】
図14は、第5の実施形態に係る共振器104の断面図である。共振器104は、複数(同図では3つ)のp型拡散層(第1および第2の音響波伝播層)1と、これらを互いに分離する位置に形成されるSiO2膜(第1の音響波反射層)21と、p型拡散層1の両端に形成されるSiO2膜(第2の音響波反射層)22とを備えている。
【0061】
SiO2膜21の幅は、他の実施形態とは異なりλ2/2の整数倍とする。その結果、図6および図7に示すように、反射係数RIは0となり、透過係数TIが1となる。すなわち、SiO2膜21により、p型拡散層1どうしは電気的には分離されるが、音響波は通過する。一方、SiO2膜22の幅は、他の実施形態同様にλ2/4の奇数倍とする。
【0062】
これにより、両端のSiO2膜22間に、効率よく音響波を閉じ込めることができる。
【0063】
本実施形態では、複数のp型拡散層1を形成するため、共振器104からp型拡散層1と同数の共振信号を取り出すことができる。
【0064】
なお、上述した各実施形態で説明した構造を組み合わせてもよい。また、各実施形態の共振器は、nウェル3およびp型拡散層1を形成しているが、導電型を逆にし、pウェル3’およびn型拡散層1’を形成してもよい。共振器は、例えば発振器やフィルタに用いることができる。発振器に用いる場合、共振周波数が共振器の形状で定まるため、周波数精度を高くできる。
【0065】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0066】
1,1a〜1c p型拡散層
2,2a〜2d,21,22 SiO2膜
3 nウェル
4 コンタクト
5 配線
6 溝
10 シリコン基板
100〜104 共振器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板と、
前記半導体基板に、第1の方向に長辺、前記第1の方向とは異なる第2の方向に短辺をそれぞれ有する形状で形成される第1の音響波伝播層と、
少なくとも前記第1の音響波伝播層の前記第1の方向の両端に形成される第1の音響波反射層と、を備え、
前記第1の音響波反射層の前記第1の方向の幅は、前記第1の音響波伝播層と前記第1の音響波反射層との界面での音響波の音の強さ反射係数または音の強さ透過係数が所定値以上となるよう形成されることを特徴とする共振器。
【請求項2】
前記第1の音響波反射層の前記第1の方向の幅は、前記第1の音響波反射層での音響波の波長に応じて定められることを特徴とする請求項1に記載の共振器。
【請求項3】
前記第1の音響波反射層の前記第1の方向の幅は、前記第1の音響波反射層での音響波の波長の1/4の奇数倍または1/2の整数倍であることを特徴とする請求項1または2に記載の共振器。
【請求項4】
前記第1の音響波反射層は、二酸化ケイ素、窒化ケイ素または空気層であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の共振器。
【請求項5】
前記第1の音響波伝播層は、前記半導体基板に形成された不純物拡散層であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の共振器。
【請求項6】
前記第1の音響波反射層の両端に形成される第2の音響波伝播層と、
前記第2の音響波伝播層の両端に形成される第2の音響波反射層と、を備えることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の共振器。
【請求項7】
前記第2の音響波伝播層の前記第1の方向の幅は、前記第1の音響波伝播層での音響波の波長の1/4の奇数倍であることを特徴とする請求項6に記載の共振器。
【請求項8】
前記第2の音響波反射層の前記第1の方向の幅は、前記第2の音響波反射層での音響波の波長の1/4の奇数倍であることを特徴とする請求項6または7に記載の共振器。
【請求項9】
前記第1の音響波反射層の前記第1の方向の幅は、前記第1の音響波反射層での音響波の波長の1/2の整数倍であることを特徴とする請求項6に記載の共振器。
【請求項10】
前記第1の音響波伝播層の下に形成された第3の音響波反射層を備えることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の共振器。
【請求項11】
前記第3の音響波反射層の厚さは、前記第1の音響波伝播層での音響波の波長の1/4の奇数倍であることを特徴とする請求項10に記載の共振器。
【請求項12】
半導体基板と、
前記半導体基板に、長辺および短辺を有する形状で形成され、少なくとも前記長辺方向の側面が空気層と接している音響波伝播層と、を備えることを特徴とする共振器。
【請求項1】
半導体基板と、
前記半導体基板に、第1の方向に長辺、前記第1の方向とは異なる第2の方向に短辺をそれぞれ有する形状で形成される第1の音響波伝播層と、
少なくとも前記第1の音響波伝播層の前記第1の方向の両端に形成される第1の音響波反射層と、を備え、
前記第1の音響波反射層の前記第1の方向の幅は、前記第1の音響波伝播層と前記第1の音響波反射層との界面での音響波の音の強さ反射係数または音の強さ透過係数が所定値以上となるよう形成されることを特徴とする共振器。
【請求項2】
前記第1の音響波反射層の前記第1の方向の幅は、前記第1の音響波反射層での音響波の波長に応じて定められることを特徴とする請求項1に記載の共振器。
【請求項3】
前記第1の音響波反射層の前記第1の方向の幅は、前記第1の音響波反射層での音響波の波長の1/4の奇数倍または1/2の整数倍であることを特徴とする請求項1または2に記載の共振器。
【請求項4】
前記第1の音響波反射層は、二酸化ケイ素、窒化ケイ素または空気層であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の共振器。
【請求項5】
前記第1の音響波伝播層は、前記半導体基板に形成された不純物拡散層であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の共振器。
【請求項6】
前記第1の音響波反射層の両端に形成される第2の音響波伝播層と、
前記第2の音響波伝播層の両端に形成される第2の音響波反射層と、を備えることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の共振器。
【請求項7】
前記第2の音響波伝播層の前記第1の方向の幅は、前記第1の音響波伝播層での音響波の波長の1/4の奇数倍であることを特徴とする請求項6に記載の共振器。
【請求項8】
前記第2の音響波反射層の前記第1の方向の幅は、前記第2の音響波反射層での音響波の波長の1/4の奇数倍であることを特徴とする請求項6または7に記載の共振器。
【請求項9】
前記第1の音響波反射層の前記第1の方向の幅は、前記第1の音響波反射層での音響波の波長の1/2の整数倍であることを特徴とする請求項6に記載の共振器。
【請求項10】
前記第1の音響波伝播層の下に形成された第3の音響波反射層を備えることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の共振器。
【請求項11】
前記第3の音響波反射層の厚さは、前記第1の音響波伝播層での音響波の波長の1/4の奇数倍であることを特徴とする請求項10に記載の共振器。
【請求項12】
半導体基板と、
前記半導体基板に、長辺および短辺を有する形状で形成され、少なくとも前記長辺方向の側面が空気層と接している音響波伝播層と、を備えることを特徴とする共振器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2013−9153(P2013−9153A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140482(P2011−140482)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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