説明

共重合ポリエステルの製造方法

【課題】リン化合物の存在下で共重合ポリエステルを連続的に製造する方法において、経済性の高い方法で、かつ得られる共重合ポリエステルの品質を低下させることなく、該共重合ポリエステルの製造工程で留出されるグリコールを回収し循環再使用できる方法を提供すること。
【解決手段】芳香族ジカルボン酸と2種以上のグリコールとを原料として、リン化合物の存在下で共重合ポリエステルを連続的に製造する方法で、該工程より留出する留出分を蒸留塔で水を主体とした低沸点留分を分留除去して得た水分量が5質量%以下の残留分を回収グリコールとして循環再使用する方法において、該回収グリコールとして共重合ポリエステル製造工程に供給されるリン原子の供給量と新規のリン化合物溶液として共重合ポリエステル製造工程に供給されるリン原子との総リン原子の供給量が一定になるように共重合ポリエステル製造工程への新規のリン化合物溶液の供給量を調整する共重合ポリエステルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は共重合ポリエステルの連続製造方法に関する。さらに詳しくは、経済的に実施することができて、かつ高品質な共重合ポリエステルが安定して得られる共重合ポリエステルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等に代表されるポリエステルは、機械的特性および化学的特性に優れており、それぞれのポリエステルの特性に応じて、例えば衣料用や産業資材用の繊維、包装用、磁気テープ用、光学用などのフィルムやシート、中空成形品であるボトル、電気・電子部品のケーシング、その他エンジニアリングプラスチック成形品等の広範な分野において使用されている。
【0003】
近年、市場多様化により、上記ポリエステルに他のグリコール成分を共重合した共重合ポリエステルが注目されている。特に、ネオペンチルグリコールや1,4−シクロヘキサンジメタノールの共重合体は非晶質でガラス転移点が高いという特徴を有しており、フィルム分野等で広く使用されており、これらの共重合ポリエステルの製造方法が開示されている(例えば、特許文献1〜14等参照)。
【特許文献1】特開2004−67733号公報
【特許文献2】特開2004−83620号公報
【特許文献3】特開2004−123984号公報
【特許文献4】特開2004−137292号公報
【特許文献5】特開2003−96169号公報
【特許文献6】特開2003−119267号公報
【特許文献7】特開2003−221435号公報
【特許文献8】特開2003−292592号公報
【特許文献9】特開2004−35657号公報
【特許文献10】特開2004−35658号公報
【特許文献11】特開2004−35659号公報
【特許文献12】特開2004−35660号公報
【特許文献13】特開2004−43733号公報
【特許文献14】特開2004−256819号公報
【0004】
上記共重合ポリエステルの用途の一つにフィルムやシート分野がある。該分野においては、フィルムやシートの厚みの均一性が極めて重要な特性であり、この特性をいかにして確保するか、及び、生産性の面では、生産性がキャスティング速度に直接依存するため、生産性の向上のためにキャスティング速度をいかにして高めるかが重要な課題となる。
【0005】
この課題を解決するためには、T−ダイスから溶融押出したシート状物を回転冷却ドラム面で急冷する際に、該シート状物とドラム表面との密着性を高めることが必要となる。このシート状物とドラム表面の密着性を高める方法として、T−ダイスと回転冷却ドラムの間にワイヤー状の電極を設けて高電圧を印加し、未固化のシート状物面に静電気を析出させて該シートを冷却体表面に密着させながら急冷する方法(静電密着キャスト法)が有効である。
【0006】
静電密着キャスト法を効果的に行うためには、シート状物とドラム表面との静電密着性を高めることが必要であり、そのためには、シート状物表面にいかに多くの電荷量を析出させるかが重要である。電荷量を多くするためには、ポリエステルを改質して比抵抗を低くすることが有効であり、従来から多くの検討がなされている。例えば、共重合ポリエステルに関しても上記の特許文献1、5、6、8、9、10、11および14等において該静電密着性を高める方法が開示されている。
【0007】
一方、これらの共重合ポリエステルは、反応性を高めるために酸成分に対してグリコール成分を過剰に用いて、エステル化反応あるいはエステル交換反応により両末端にグリコールが縮合されたオリゴマーとして、これを高温、減圧下でエステル交換による脱グリコール反応、いわゆる重縮合反応により高分子量の共重合ポリエステルを得る2段階反応の方法がとられている。また、近年、製造コストが安いことより、芳香族ジカルボン酸とグリコールを原料とする、いわゆる直接エステル化法が主流になってきている。そして、それぞれ別の反応槽が用いられており、エステル化反応および重縮合反応ともに均一に段階的に反応を進行させるために、これらの反応装置はそれぞれ複数の反応槽を有している。
【0008】
直接エステル化法においては、共重合ポリエステルの製造は芳香族ジカルボン酸とグリコールをスラリー調合槽でスラリーを調合しエステル化反応槽に供給されエステル化反応が行われる。芳香族ジカルボン酸が固体でありグリコールに不溶であることより、これらの原料はスラリー状でエステル化反応槽に供給されるが、このスラリーの流動性を確保するため、理論必要量以上のグリコールを原料として供給し、過剰部分を回収する方法が一般的である。また、エステル化されたオリゴマーは重縮合反応槽で脱グリコール反応によりポリエステルが生成される。これらの過剰使用のグリコールや重縮合反応により生ずるグリコールは回収され再使用する必要がある。これらのグリコールの回収、再使用の方法はポリエステルの製造コストに大きく影響を及ぼすので、各種方法が開示されている。
【0009】
エステル化反応槽の留出液の低沸点留分を精留除去しスラリー調合槽に循環し再使用する方法(特許文献15参照)、エステル化反応槽から排出されるエチレングリコールの低沸点留分を精留除去しエチレングリコール貯槽に供給するとともに、この一部を重縮合反応槽に設けられた湿式コンデンサーの循環液として用い凝縮液をエチレングリコール貯槽に供給し、該エチレングリコール貯槽に滞留したエチレングリコールをスラリー調合用に再使用する方法(特許文献16参照)、重縮合反応槽より発生する留出液を湿式コンデンサーにて凝縮し、エステル化反応槽に設けられた蒸留塔へ送り低沸点留分を除いた後、スラリー調合槽に戻して再使用する方法(特許文献17参照)、重縮合反応槽で発生する留出液を連続的に単蒸留し、この連続単蒸留缶の底部抜き出し液を回分式単蒸留缶に送液して単蒸留を行い、初留部分を除いた蒸留液を重縮合反応ガスの凝縮用冷媒液の一部と使用する方法(特許文献18参照)、エステル化反応槽留出液および重縮合反応槽留出液の一部は低沸点留分を精留除去し、重縮合反応槽留出液の残りの一部は低沸点留分と高沸点留分を除去し、スラリー調合に循環し再使用する方法(特許文献19参照)、エステル化反応2段階目の反応槽から排出される留出液を蒸留精製せずに直接、原料の一部、または全量として再使用する方法(特許文献20参照)、重縮合反応槽からの留出液をフラッシュ蒸留により低沸点留分を精留除去して原料グリコールの一部として再使用する方法(特許文献21参照)が開示されている。
【特許文献15】特開昭53−126096号公報
【特許文献16】特開昭55−56120号公報
【特許文献17】特開昭60−163918号公報
【特許文献18】特開平8−325363号公報
【特許文献19】特許第3424755号公報
【特許文献20】特開平10−279677号公報
【特許文献21】WO01/083582号公報
【0010】
上記技術の中で特許文献17で開示されている方法は、ポリエステル品質とグリコールの回収コストのバランス、すなわちコストパフォーマンスが優れているが、例えば、回収グリコールの移送ラインの詰まり発生が起こることがある等の長期にわたり安定して運転することに関しては課題が残されていた。
【0011】
上記特許文献において開示されている方法はいずれもがグリコール成分が単一成分よりなるホモポリエステルに関する技術であり共重合ポリエステルの製造方法におけるグリコールの回収技術は見当たらない。
【0012】
また、ポリエステルの製造においては、エステル化やエステル交換反応触媒に用いられる金属化合物の封鎖、ポリエステル製造工程で例えば金属化合物との反応により微粒子を析出させるいわゆる内部粒子法あるいはポリエステルに静電密着性を付与するために添加する金属化合物の封鎖や静電密着特性の向上のため等にリン化合物が添加される場合が多い。これらのリン化合物はその一部が留出グリコールに混入する。該留出グリコールに混入したリン化合物は再使用の際に上記反応に影響するのでその混入を阻止あるいは制御する必要があるが、上記の特許文献において開示された技術では、循環再使用されるグリコールへのリン化合物の混入に関しては全く配慮がなされていない。
【0013】
例えば、特定構造のリン化合物を用いた内部粒子法によるポリエチレンテレフタレートの製造方法おいて、リン化合物の一部がエチレングリコールと共に系外に留出し、このエチレングリコールを再使用すると、エステル交換反応や析出粒子の粒子径や粒子量が変化しフィルムとした時、望みの表面特性を与えるポリエステルが再現よく得られないという課題が知られている。該課題を解決する方法として、ポリエステルの製造工程より留出したエチレングリコールをアルカリ化合物の存在下で加熱処理後蒸留したエチレングリコールを使用する方法(特許文献22)、留出エチレングリコールを同容量以上の水を加えて加熱して、混入したリン化合物を水と共に留去させて得たエチレングリコールを使用する方法(特許文献23参照)および留出エチレングリコールに対して0.2〜10wt%の水を添加し加熱処理した後、蒸留して回収したエチレングリコールを使用する方法(特許文献24参照)が開示されている。
【特許文献22】特開昭57−14619号公報
【特許文献23】特開昭57−14620号公報
【特許文献24】特開昭59−96124号公報
【0014】
上記方法はリン化合物の回収エチレングリコールに混入を阻止する方法としては有効な方法であるが、経済性の点で不利であるという問題を有する。従って、リン化合物の存在下で共重合ポリエステルを連続的に製造する方法において、共重合ポリエステルの製造工程で留出されるグリコールを経済性の高い方法で循環再使用できる方法の確立が嘱望されている。
【0015】
近年、上記共重合ポリエステルに関しても、その使用用途や使用量の拡大に伴い製造コストの低減に対する要求が強くなってきている。該要求を満たす一つの方法として過剰使用のグリコールや重縮合反応により生ずるグリコールを回収して循環再使用する方法がある。このような背景において、得られる共重合ポリエステルの品質低下することなく経済性の高い方法でグリコールを回収し、循環再使用できる共重合ポリエステルの製造方法の確立が強く嘱望されている。
【0016】
また、一般に直接エステル化法によるポリエステルの製造は、エステル化反応と重縮合反応の2段階で行われる。ポリエチレンテレフタレートの製造において、製造工程を安定化させるためには、エステル化反応によって得られる中間体である低重合体のカルボキシル末端基とヒドロキシル末端基の比率(以下「末端基比」と記載)を調整することが重要とされている。
【0017】
例えば、末端基比が大きく変動すると重縮合工程において重縮合反応の進行速度が変動するために、エチレングリコール除去の負荷変動を生じたり、ポリマーが所定の重合度に到達しない等の問題が発生する。品質においてはポリマーの色相が変化するような現象が生じる。
【0018】
一般にポリエステル製造方法においては、得られるポリエステルのカルボキシル末端基濃度が高くなるとポリエステルの加水分解性等の安定性が悪化することや該ポリエステルのカルボキシル末端基濃度は、ポリエステルの製造において重縮合反応工程へ供給される最終エステル化反応生成物であるオリゴマーのカルボキシル末端基濃度の影響を大きく受けることより、該オリゴマーのカルボキシル末端基濃度を低くした状態で重縮合工程に供給することにより製造されている。例えば、エステル化反応率が90〜98%になるように、エステル化反応時の温度、圧力、滞留時間およびエチレングリコール供給量からなる群より選ばれる少なくとも1種の反応条件を調節し、重縮合反応後のポリエステルのカルボキシル末端基濃度を20〜50eq/tonの範囲内の一定量となるように制御する方法(特許文献25参照)、エステル化反応率が92〜98%の範囲であり、かつ全末端基中のカルボキシル末端基の割合が35%以下のオリゴマーとし、これを減圧下に重縮合反応させてポリエステル中のカルボキシル末端基濃度を35eq/ton以下にする方法(特許文献26参照)、第1段重縮合反応時の温度、滞留時間及びエチレングリコール供給量からなる群より選ばれる少なくとも1種の反応条件を調節するか、もしくはエステル化反応物のエステル化反応率と共に第1段重縮合反応条件を調節し、重縮合反応後のポリエステルのカルボキシル末端基量を15〜50eq/tonの範囲内の一定値となるように制御する方法(特許文献27参照)、最終反応容器へ供給されるポリエステル低重合体のカルボキシル末端基濃度を9〜30eq/tonとする方法(特許文献28)が開示されている。
【特許文献25】特開平10−176043号公報
【特許文献26】特開平10−251391号公報
【特許文献27】特開平11−106498号公報
【特許文献28】特開2001−329058号公報
【0019】
しかしながら、ポリエステル製造に用いられる重縮合触媒系の種類やポリエステルを限定された用途に用いる場合に、上記した方法が必ずしも最適でなく、重縮合反応工程に供給される最終エステル化反応槽出口のポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度を高くした方法が、重縮合活性が高かったり、あるいは高品質のポリエステルが得られるということがある。これらの場合においては、上記方法に比べてオリゴマーのカルボキシル末端基濃度の変動が後続の重縮合反応の反応進行やポリエステル品質に対して極めて大きく影響するために、該オリゴマーのカルボキシル末端基濃度の変動をより高精度に抑制する必要がある。
【0020】
一方、製品ポリマーの色調を測定し、その測定値の目標値に対する偏差に応じてエステル化工程でのエステル化率を調節する方法、製品ポリマーの色調を測定し、その測定値の目標値に対する偏差に応じて第1重縮合反応時の滞留時間を調節する方法および製品ポリマーの色調および極限粘度を測定してその測定値の目標値に対する偏差に応じて第1段重縮合反応缶へのエチレングリコールの供給量を調節することにより、製造されるポリエステルの色調(b値)の標準偏差が平均値の0.05倍以内に保ち、かつ極限粘度の標準偏差が平均値の0.005倍以内に保つ方法が開示されている(特許文献29〜31参照)。
【特許文献29】特許3375403号公報
【特許文献30】特開2004−75955号公報
【特許文献31】特開2004−75957号公報
【0021】
しかし、上記の方法では、製品ポリマーの色調を測定した時点では、すでに重縮合反応が進行しているので、エステル化率の調節が遅れるために、上記問題が解消されているとはいえない。
【0022】
上記課題を解決する方法として、エステル化反応生成物の電気伝導度をオンライン測定してその結果によりエステル化反応を制御する方法が開示されている(例えば、特許文献32〜35等参照)。該方法は、エステル化反応生成物の電気伝導度とエステル化反応度が比例することを利用してエステル化反応を制御する方法であり、エステル化反応度を直接測定している点で、前記した方法よりは一歩前進した制御方式である。しかしながら、該方法は、エステル化反応により生ずる水や未反応のエチレングリコールの影響でエステル化反応生成物の電気伝導度に変動を与える等の外乱の影響が大きいという課題を有している。
【特許文献32】特公昭51−41679号公報
【特許文献33】特開昭48−103537号公報
【特許文献34】特開昭52−19634号公報
【特許文献35】特公平5−32385号公報
【0023】
上記課題を解決する方法として、ポリエステルの製造工程中の原料、反応中間生成物または最終生成物のうち1種以上についての近赤外線特性を連続的に測定し、得られた分光スペクトルから測定物中の物性を解析し、解析データに基づいて製造工程中の反応条件を制御する方法が開示されている(特許文献36参照)該特許文献において、ポリエステル連続製造工程の重縮合槽の底部に設けられた抜き出し口に近赤外線吸収スペクトルの検出端子を設置して、常時抜き出し口を通過するポリエステルのカルボキシル末端基濃度を連続的に測定すると供に、第2エステル化反応槽の出口にも近赤外線吸収スペクトルの検出端子を設置して、該検出端子部を通過するポリエステルオリゴマーのエステル化率を連続測定し、目標エステル化率になるように第2エステル化反応槽温度調節器へフィードバックし、生成ポリエステルのカルボキシル末端基濃度変化を抑制する方法や、赤外線分光吸収を連続測定し反応を制御する方法(特許文献37参照)が開示されている。これらの方法は、ポリエステルのカルボキシル末端基濃度を安定化する制御方法としては有効な方法であるが、長期にわたり連続生産をした場合は、検出器の汚染や検出部の温度や圧力等の環境変化等により測定の変動が発生する等の課題があり長期連続運転における信頼性が劣ことがあるという課題を有する。そのために、より単純化された制御方法で精度よく、かつ長期運転した時の信頼性の高い方法の構築が嘱望されている。
【特許文献36】特開平11−315137号公報
【特許文献37】特開平5−222178号公報
【0024】
該単純化された制御方法として、ポリエステルの製造工程へ供給するテレフタル酸とエチレングリコールとからなるスラリーの密度や濃度を連続測定して、該測定値より求められるスラリー中のテレフタル酸に対するエチレングリコールのモル比に基づいてエステル化反応を制御する方法やスラリー濃度の変化に応じてスラリー中のテレフタル酸とエチレングリコールとの比率の変動を制御する方法が開示されている(特許文献38および39参照)。例えば、特許文献38において、5日運転した時の、供給スラリーのエチレングリコール/テレフタル酸のモル比の変動が1.51±0.66%に制御され、結果として第1段エステル化後のエステル化反応率が85.0±1.0%に、第2段エステル化後のエステル化反応率が95.0±0.5%になることが開示されている。
【特許文献38】特開平6−247899号公報
【特許文献39】特開2004−75956号公報
【0025】
これらの方法はエステル化反応の変動を抑制する方法として有効な方法であり、エステル化反応率に関しては高い精度で制御が可能であるが、長時間の連続運転を行う場合には、スラリー濃度検出器部がスラリー中の固形分であるジカルボン酸により閉塞する事態の生ずる場合があり、前記方法の課題が完全に解決するに至っていない。例えば、特許文献14において、スラリー濃度計を並列に2式備え、それらのいずれかを使用するように切り替え可能として、一定時間毎に交互に使用する方法が開示されている。また、該方法を共重合ポリエステルの製造方法の制御方法として採用した場合は、グリコール組成の変動の影響を受けるので制御精度が悪化するという課題が付加される。
【0026】
以上の特許文献において開示されている技術は、いずれもがグリコール成分が単一成分よりなるホモポリエステルに関するものであるが、本発明の目的としている共重合ポリエステルの製造方法にも当てはまる課題であり、極めて単純で精度および信頼性の高い方法でエステル化反応を制御する方法の確立が強く嘱望されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
本発明は従来技術の問題を背景になされたもので、リン化合物の存在下で共重合ポリエステルを連続的に製造する方法において、経済性の高い方法で、かつ得られる共重合ポリエステルの品質を低下させることなく、該共重合ポリエステルの製造工程で留出されるグリコールを回収し循環再使用でき、さらにエステル化反応の安定化等により得られる共重合ポリエステルの品質変動方法が抑制された共重合ポリエステルの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明は上記課題を解決するため、鋭意研究した結果、遂に本発明を完成するに到った。即ち本発明は、リン化合物の存在下で芳香族ジカルボン酸と2種以上のグリコールとを原料として、共重合ポリエステルを連続的に製造する共重合ポリエステルの製造方法において、製造工程より留出する留出分を蒸留塔で水を主体とした低沸点留分を分留除去して得た、水分量が5質量%以下の残留分を回収グリコールとして循環再使用し、かつ該回収グリコールとして共重合ポリエステル製造工程に供給される該回収グリコールに含まれるリン原子の供給量と、新規のリン化合物溶液として共重合ポリエステル製造工程に供給されるリン原子との総リン原子の供給量が一定になるように、共重合ポリエステル製造工程への新規のリン化合物溶液の供給量を調整することを特徴とする共重合ポリエステルの製造方法である。
この場合において、上記残留分の水分量が1質量%以上で、かつX±2.0質量%(但しXは2以上3以下の数を表す)を同時に満足する範囲を満たすことが好ましい。
また、この場合において、上記分留において、蒸留塔の中段温度を設定値±3℃以内に制御することが好ましい。
また、この場合において、上記蒸留塔の底部より取り出される残留分の一部を該蒸留塔に循環することが好ましい。
また、この場合において、上記の残留分の一部を第2エステル化反応槽以降の反応槽に供給することが好ましい。
また、この場合において、第1エステル化反応槽内に滞留する反応物の単位時間当たりの熱量を設定値の±3.0%以内になるように制御することが好ましい。
また、この場合において、重縮合反応開始前にアルカリ土類金属化合物および/またはアルカリ金属化合物を添加することが好ましい。
また、この場合において、得られた共重合ポリエステルの溶融比抵抗が0.5×10Ω・cm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明による共重合ポリエステルの製造方法は、リン化合物の存在下で共重合ポリエステルを連続的に製造する方法において、該共重合ポリエステルの製造工程で留出されるグリコール中に混入するリン化合物による共重合ポリエステルの品質に対する悪影響を経済性の高い方法で回避し循環再使用できるので、共重合ポリエステルの製造コストを大幅に低減することができるという利点を有する。また、該製造方法において、共重合組成比やカルボキシル末端基濃度等の品質変動が抑制され、かつ高品質、特に静電密着性の優れた共重合ポリエステルが安定して製造できるという極めて顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の共重合ポリエステルは、芳香族ジカルボン酸と2種以上のグリコールとよりなる共重合ポリエステルである。
【0031】
本発明で用いられる芳香族ジカルボン酸としては、例えばオルソフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、5−(アルカリ金属)スルホイソフタル酸、ジフェニン酸、1,3−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、4、4’−ビフェニルジカルボン酸、4、4’−ビフェニルスルホンジカルボン酸、4、4’−ビフェニルエーテルジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−p,p’−ジカルボン酸、パモイン酸、アントラセンジカルボン酸などが挙げられる。
また、全ジカルボン酸に対して30モル%以下であればジカルボン酸としては、蓚酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、テトラデカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸、1,3−シクロブタンジカルボン酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、2,5―ノルボルナンジカルボン酸、ダイマー酸などに例示される飽和脂肪族ジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸などに例示される不飽和脂肪族ジカルボン酸を併用してもよい。
【0032】
また、本発明の共重合ポリエステルには、例えばトリメリット酸、ピロメリット酸、グリセロール等の三官能以上の多官能化合物あるいは安息香酸、イソシアン酸フェニル等の単官能化合物等の化合物を全ジカルボン酸に対して5モル%以下の範囲で用いることができる。
【0033】
また、ヒドロキシカルボン酸を併用しても良い。該ヒドロキシカルボン酸としては、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、ヒドロキシ酢酸、3―ヒドロキシ酪酸、p−ヒドロキシ安息香酸、p―(2―ヒドロキシエトキシ)安息香酸、4―ヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸が挙げられる。
【0034】
上記芳香族ジカルボン酸の中でテレフタル酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸の使用が好ましい。
【0035】
グリコールとしては、エチレングリコール(EG)、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール(NPG)、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、プロピレングリコール等より選ばれた2種以上のグリコールよりなる。
【0036】
上記グリコール以外に、全グリコールの5モル%以下であれば多価アルコールを併用しても良い。該多価アルコールとしては、トリメチロールメタン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、グリセロール、ヘキサントリオールなどが挙げられる。
【0037】
また、環状エステルの併用も許容される。該環状エステルとしては、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、β−メチル−β−プロピオラクトン、δ−バレロラクトン、グリコリド、ラクチドなどが挙げられる。
【0038】
上記グリコールの中で、主グリコール成分をEGとして、該EGとNPGおよび/または1,4−シクロヘキサンジメタノールとの組み合わせが好ましい。当然であるが、反応の副生物であるジエチレングリコールの含有は許容されるし、上記組成に対して積極的にジエチレングリコールを添加した方がよい場合もある。
【0039】
上記組成における組成比は限定されない。共重合ポリエステルの使用目的に応じて適宜選定すればよいが、EGが50モル%以上であることが好ましい。60モル%以上がより好ましい。EGが50モル%未満では重合度が上がりにくくなり、所定固有粘度に到達するまでに著しく時間を要する。そのために、その間の熱履歴により色調が悪化するので好ましくない。
【0040】
本発明の共重合ポリエステルの製造は重縮合触媒の存在下で行われる。
本発明において使用される重縮合触媒は、公知の反応触媒であり、例えばアンチモン化合物、チタン化合物、スズ化合物、ゲルマニウム化合物およびアルミニウム化合物等を用いることができる。
【0041】
アンチモン化合物としては、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、酢酸アンチモン、アンチモングリコキサイドなどが好適であり、特に好ましくは三酸化アンチモンである。また、ゲルマニウム化合物としては、二酸化ゲルマニウム、四塩化ゲルマニウムなどが好適であり、特に好ましくは二酸化ゲルマニウムである。二酸化ゲルマニウムとしては、結晶性のものと非晶性のものもいずれもが使用できる。
【0042】
チタン化合物としては、テトラ−n−プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトライソブチルチタネート、テトラ−tert−ブチルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラベンジルチタネート、蓚酸チタン酸リチウム、蓚酸チタン酸カリウム、蓚酸チタン酸アンモニウム、酸化チタン、チタンとケイ素やジルコニウムやアルカリ金属やアルカリ土類金属などとの複合酸化物、チタンのオルトエステルまたは縮合オルトエステル、チタンのオルトエステルまたは縮合オルトエステルとヒドロキシカルボン酸からなる反応生成物、チタンのオルトエステルまたは縮合オルトエステルとヒドロキシカルボン酸とリン化合物からなる反応生成物、チタンのオルトエステルまたは縮合オルトエステルと少なくとも2個のヒドロキシル基を有する多価アルコール、2−ヒドロキシカルボン酸および塩基からなる反応生成物などが挙げられ、このうちチタンとケイ素の複合酸化物、チタンとマグネシウムの複合酸化物、チタンのオルトエステルまたは縮合オルトエステルとヒドロキシカルボン酸とリン化合物からなる反応生成物が好ましい。
【0043】
またスズ化合物としては、ジブチルスズオキサイド、メチルフェニルスズオキサイド、テトラエチルスズ、ヘキサエチルジスズオキサイド、トリエチルスズハイドロオキサイド、モノブチルヒドロキシスズオキサイド、トリイソブチルスズアセテート、ジフェニルスズジラウレート、モノブチルスズトリクロライド、ジブチルスズサルファイド、ジブチルヒドロキシスズオキサイド、メチルスタンノン酸、エチルスタンノン酸などが挙げられ、特にモノブチルヒドロキシスズオキサイドの使用が好ましい。
【0044】
また、アルミニウム化合物としては、ギ酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、塩基性酢酸アルミニウム、プロピオン酸アルミニウム、シュウ酸アルミニウム、アクリル酸アルミニウム、ラウリン酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、安息香酸アルミニウム、トリクロロ酢酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、クエン酸アルミニウム、酒石酸アルミニウム、サリチル酸アルミニウムなどのカルボン酸塩、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、炭酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、ホスホン酸アルミニウムなどの無機酸塩が挙げられる。これらのうちカルボン酸塩が特に好ましい。
【0045】
このような触媒を供給する位置や供給方法については、特に限定されるものではなく、製造条件に対応して適宜決定すればよい。
【0046】
上記重縮合触媒の中でリン化合物による重縮合触媒活性への影響の少ないアンチモン化合物やゲルマニウム化合物およびこれらと他の化合物との複合系の使用が好ましい。また、該重縮合触媒の共重合ポリエステル製造工程への添加は最終エステル化反応槽以降で行うのが好ましい。該方法の実施により後述の回収グリコール中に含まれて循環されるリン化合物による重縮合触媒活性の低下を抑制することが可能となる。
【0047】
本発明では、リン化合物の使用が必須である。リン化合物としては、特に限定はされないが、リン酸ならびにトリメチルリン酸、トリエチルリン酸、フェニルリン酸、トリフェニルリン酸等のリン酸エステル、亜リン酸ならびにトリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)4,4’−ビフェニレンジホスファイト等の亜リン酸エステルなどが挙げられる。
【0048】
本発明においては、アルカリ土類金属化合物の使用が好ましい。さらに、アルカリ金属化合物の併用がより好ましい。
【0049】
アルカリ金属としては、Li、Na、K、Rb、Csであり、特に好ましくはNaまたはK化合物の使用である。アルカリ土類金属としては、Be、Mg、Ca、Sr、Baから選択される少なくとも1種であることが好ましく、特に高度な静電密着性を付与するためには、Mg化合物またはCa化合物を使用することが好ましい。
【0050】
上記のアルカリ金属やアルカリ土類金属などの金属化合物としては、例えば、これら金属のギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、蓚酸などの飽和脂肪族カルボン酸塩、アクリル酸、メタクリル酸などの不飽和脂肪族カルボン酸塩、安息香酸などの芳香族カルボン酸塩、トリクロロ酢酸などのハロゲン含有カルボン酸塩、乳酸、クエン酸、サリチル酸などのヒドロキシカルボン酸塩、炭酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホスホン酸、炭酸水素、リン酸水素、硫化水素、亜硫酸、チオ硫酸、塩酸、臭化水素酸、塩素酸、臭素酸などの無機酸塩、1−プロパンスルホン酸、1−ペンタンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸などの有機スルホン酸塩、ラウリル硫酸などの有機硫酸塩、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、iso−プロポキシ、n−ブトキシ、tert−ブトキシなどのアルコキサイド、アセチルアセトネートなどとのキレート化合物、水素化物、酸化物、水酸化物などが挙げられる。
【0051】
これらのアルカリ金属、アルカリ土類金属などの化合物のうち、水酸化物等のアルカリ性の強いものを用いる場合、これらはEG等のジオールもしくはアルコール等の有機溶媒に溶解しにくい傾向があるため、水溶液で重合系に添加しなければならず重合工程上問題となる場合が有る。さらに、水酸化物等のアルカリ性の強いものを用いた場合、重合時に共重合ポリエステルが加水分解等の副反応を受け易くなるとともに、重合した共重合ポリエステルが着色し易くなる傾向があり、耐加水分解性も低下する傾向がある。
【0052】
従って、本発明で好適に使用することのできるアルカリ金属化合物あるいはアルカリ土類金属化合物としては、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の飽和脂肪族カルボン酸塩、不飽和脂肪族カルボン酸塩、芳香族カルボン塩、ハロゲン含有カルボン酸塩、ヒドロキシカルボン酸塩、硫酸、硝酸、リン酸、ホスホン酸、リン酸水素、硫化水素、亜硫酸、チオ硫酸、塩酸、臭化水素酸、塩素酸、臭素酸から選ばれる無機酸塩、有機スルホン酸塩、有機硫酸塩、キレート化合物、および酸化物である。これらの中でもさらに、取り扱い易さや入手のし易さ等の観点から、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属などの金属の飽和脂肪族カルボン酸塩、特に酢酸塩の使用が好ましい。
【0053】
上記のアルカリ土類金属化合物、アルカリ金属化合物およびリン化合物を添加することにより、共重合ポリエステルの静電密着性を向上させることができる。共重合ポリエステルの静電密着性とは、例えば、共重合ポリエステルをフィルムやシートに溶融押出し法で成型する場合のキャスティング時に必要な特性である。すなわち、押出口金から溶融押出したフィルム状物を回転冷却ドラムで急冷する際、該フィルム状物の表面に静電荷を析出させ、フィルム状物を冷却ドラムの表面に静電力で密着させる静電密着法が知られている。しかし、この方法においては、生産能力を高めるために冷却ドラムの回転速度を上げるとフィルム状物と冷却ドラムとの密着力が減少し、フィルム状物と冷却ドラムとの間に気体を噛み込むようになるピンナーバブルの発生がおこり、厚み斑や外観不良発生の原因となる。静電密着性とは、この静電密着法において、大きな静電密着力が付与でき、高速でキャスティングしても厚み精度の高い製膜製品が得られる共重合ポリエステル樹脂の特性である。
近年共重合ポリエステルフィルムやシートに対する品質に対する要求特性はますます厳しくなり、それに伴い厚み精度を向上させることが必要な条件となってきており、共重合ポリエステルの重要な特性の一つである。
【0054】
この静電密着性は共重合ポリエステルの溶融比抵抗と相関しており、共重合ポリエステルの溶融比抵抗により静電密着キャスト法においてピンナーバブルの発生を抑制しながらキャストできる最高のキャスティング速度、すなわち静電密着性が変化する。溶融比抵抗が低い共重合ポリエステルほど、高速でキャスティングすることが可能となり、フィルム生産性の面から非常に重要である。
【0055】
共重合ポリエステルの溶融比抵抗は、0.5×10Ω・cm以下であることが好ましい。溶融比抵抗が0.5×10Ω・cmより高ければ、静電密着性が悪化し、キャスティング速度が遅くなり生産性が悪くなる。好ましくは、0.4×10Ω・cm以下、さらに好ましくは、0.3×10Ω・である。一方、耐熱性や着色の点から、下限値は0.05×10Ω・cmとすることが好ましく、特に好ましくは0.09×10Ω・cmである。
【0056】
共重合ポリエステルに溶融比抵抗に付与する方法としては、上記のアルカリ土類金属化合物、アルカリ金属化合物およびリン化合物を共重合ポリエステルに添加し、これらの原子の原子比を特定範囲にすることが好ましい実施態様である。この場合、リン原子の量により共重合ポリエステルの溶融比抵抗が大きく変化するので厳密な制御が必要である。
【0057】
アルカリ土類金属化合物は、アルカリ土類金属原子の残存量として、共重合ポリエステルに対し3〜300ppmとなるように反応系に添加することが好ましい。アルカリ土類金属原子の残存量が3ppm未満では、共重合ポリエステルの溶融比抵抗が大きくなり、静電密着性が悪化しやすくなる。一方、300ppmを超えた場合は、共重合ポリエステルの熱安定性が低下しやすくなり、共重合ポリエステルの着色が増大しやすくなる。
【0058】
共重合ポリエステル中のアルカリ土類金属原子の残存量は、静電密着性の点から、下限値を5ppmに制御することがより好ましく、さらに好ましくは10ppm、特に好ましくは15ppmに制御する。一方、熱安定性の点から、上限値を160ppmに制御することがより好ましく、さらに好ましくは120ppm、特に好ましくは100ppmに制御する。
【0059】
また、アルカリ金属化合物は、アルカリ金属原子の残存量として、共重合ポリエステルに対し0.5〜20ppmとなるように反応系に添加することが好ましい。アルカリ金属原子の残存量が0.5ppm未満では、共重合ポリエステルの溶融比抵抗が大きくなり、静電密着性が悪化しやすくなる。さらに、副反応であるグリコール成分同士の縮合反応が増加し、例えば、グリコール成分としてEGを用いた場合は、ジエチレングリコールの副生が増大する。該副反応の増大により、共重合ポリエステルの融点低下や熱酸化安定性等の品質が低下しやすくなる。一方、50ppmを超えた場合は、共重合ポリエステルの溶融比抵抗の低下やグリコール成分同士の縮合反応の抑制効果が頭打ちになり、かつ共重合ポリエステルの着色が増大により色調の低下が起こりやすくなる。
【0060】
共重合ポリエステル中のアルカリ金属原子の残存量は、静電密着性、副生成物による融点低下や熱酸化安定性の点から、下限値を1ppmに制御することがより好ましく、さらに好ましくは2ppm、特に好ましくは3ppmに制御する。一方、色調の点から、上限値を40ppmに制御することがより好ましく、さらに好ましくは30ppm、特に好ましくは20ppmに制御する。
【0061】
また、リン化合物は、共重合ポリエステル中の残存量として、リン原子/アルカリ土類金属原子の原子数比で0.1〜5.0の範囲となるように、添加量を制御することが好ましい。
【0062】
また、リン化合物は、共重合ポリエステル中の残存量として、リン原子/アルカリ土類金属原子の原子数比で0.1〜5.0の範囲となるように、添加量を制御することが好ましい。
【0063】
リン原子/アルカリ土類金属原子(残存原子数比)が、0.10未満では共重合ポリエステルの熱安定性が低下しやすくなる。一方、リン原子/アルカリ土類金属原子(原子数比)が5.0を超えた場合は、共重合ポリエステルの溶融比抵抗が大きくなり、静電密着性が悪化しやすくなる。リン原子/アルカリ土類金属原子(残存原子数比)は、熱安定性の点から、下限値を0.15に制御することがより好ましく、特に好ましくは0.20に制御する。一方、静電密着性の点から、上限値を4.0に制御することがより好ましく、特に好ましくは3.0に制御する。
【0064】
また、本発明においては、共重合ポリエステル中の上記リン原子の含有量の変動範囲は設定値±15ppm以内が好ましい。該対応により共重合ポリエステルの溶融比抵抗の変動を抑制することができる。
【0065】
また、本発明においては、共重合ポリエステルの色調を改善するために、コバルト化合物を含有させても良い。コバルト化合物をリン化合物と併用する場合には、コバルト化合物とリン化合物を等モル含有させることが好ましい。
【0066】
前記コバルト化合物としては、酢酸コバルト、塩化コバルト、安息香酸コバルト、クロム酸コバルト等が挙げられる。なかでも、酢酸コバルトが好ましい。コバルト化合物は、生成する共重合ポリエステルに対して通常50ppm以下となるように含有させるが、使用する重合触媒の種類に応じて適宜変更することが好ましい。
【0067】
また、本発明の共重合ポリエステルの製造時に、本発明の目的を妨げない限り、酸化チタン、シリカ、炭酸カルシウムなどの不活性粒子、顔料、耐熱・酸化安定剤、離型剤、UV吸収剤、着色剤などを必要に応じて添加してもよい。
【0068】
本発明における共重合ポリエステルの製造方法は連続式重縮合法であることが重要である。連続式重縮合法は回分式重縮合法に比して品質の均一性や経済性において有利である。該方法におけるエステル化工程および重縮合工程の反応槽の個数やサイズは限定なく適宜選択できる。また、各工程の製造条件は、前記した重縮合触媒や静電密着性向上のための添加剤の種類や量、反応槽の個数やサイズ等により適宜選択できる。
【0069】
代表例として、芳香族ジカルボン酸としてテレフタル酸をグリコールとしてEGとNPGを用いた場合の製造法を以下に例示する。
テレフタル酸1モルに対して1.02〜1.5モル、好ましくは1.03〜1.4モルのEGとNPGを含むスラリ−を調製し、これをエステル化反応工程に連続的に供給する。
【0070】
エステル化反応は、複数のエステル化反応槽を直列に連結した多段式装置を用いて、反応によって生成した水を精留塔で系外に除去しながら実施する。第1段のエステル化反応の温度は240〜270℃、好ましくは245〜265℃、圧力は常圧〜290KPa、好ましくは20〜190KPaである。最終段階のエステル化反応の温度は通常250〜290℃好ましくは255〜275℃であり、圧力は通常は第1段目と同じ範囲が好ましい。3段階以上で実施する場合には、中間段階のエステル化反応の反応条件は、上記範囲の間で適宜設定するのが好ましい。最終的にはエステル化反応率は90%以上、好ましくは93%以上に達することが望ましい。
【0071】
引き続き重縮合反応槽に移送し重縮合を行う。該重縮合工程の反応槽数も限定されない。一般には初期重縮合、中期重縮合および後期重縮合の3段階方式が取られている。重縮合反応条件は、第1段階目の重縮合の反応温度は250〜290℃、好ましくは260〜280℃であり、圧力は6.5〜0.27KPa、好ましくは2.7〜0.40KPaで、最終段階の重縮合反応の温度は265〜300℃、好ましくは275〜295℃であり、圧力は1.3〜0.013KPa、好ましくは0.65〜0.065KPaである。3段階以上で実施する場合には、中間段階の重縮合反応の反応条件は、上記第1段目の反応条件と最終段目の反応条件の間の条件である。これらの重縮合反応工程の各々において到達される極限粘度の上昇の度合は滑らかに分配されることが好ましい。
【0072】
エステル化反応槽および重縮合反応槽はそれぞれ1基であってもよい。
【0073】
本発明においては、上記の芳香族ジカルボン酸と2種以上のグリコールとを原料として、リン化合物の存在下で共重合ポリエステルを連続的に製造する方法で、該工程より留出する留出分を蒸留塔で水を主体とした低沸点留分を分留除去して得た水分量が5質量%以下の残留分を回収グリコールとして循環再使用する方法において、該回収グリコールとして共重合ポリエステル製造工程に供給されるリン原子の供給量と新規のリン化合物溶液として共重合ポリエステル製造工程に供給されるリン原子との総リン原子の供給量が一定になるように共重合ポリエステル製造工程への新規のリン化合物溶液の供給量を調整することが重要である。
【0074】
前述のごとく、特許文献17で開示されている方法は、ポリエステル品質とグリコールの回収コストのバランス、すなわちコストパフォーマンスが優れているが、リン化合物の存在下における共重合ポリエステルの製造方法に適用した場合は、共重合ポリエステルの製造工程に供給したリン化合物の一部がグリコールと共に留出し、かつ該留出したリン化合物はグリコールよりも高沸点成分に変質しており、上記方法で分留した回収グリコールに混入し、共重合ポリエステル工程に循環されるので生産の進行に従いリン化合物の蓄積が進み共重合ポリエステルの品質、特に静電密着性や重縮合触媒活性に対して悪影響を及ぼすので回避する必要がある。該課題を回避する方法として、上記分留の精度を上げて、リン化合物を分留除去しリン化合物を含まない回収グリコールを得る方法が挙げられるが回収コストの上昇に繋がるので好ましくない。
【0075】
そこで、本発明者等は、グリコールの回収コストを上昇させることなく、かつ上記課題を回避する方法について検討し、上記した方法により解決できることを見出し、本発明を完成した。上記方法において、新規リン化合物の供給量の調整は、回収グリコール中のリン化合物の濃度の尺度であるリン原子の含有量を測定して、該測定値に見合った量のリン化合物を供給するようにフィードバック制御するのが好ましい。しかし、該方法で実施する場合は、該フィードバック制御システムが必要となり工程管理が複雑になるという課題を有する。本発明者等はこの課題解決について検討し、後述の共重合ポリエステルの工程条件を本発明の範囲で制御することにより、回収グリコール中のリン原子の含有量はほぼ一定で安定化できるので、該回収グリコールとして循環されるリン原子の含有量分だけ新規に供給するリン化合物の供給量を減じて供給することで、上記課題が回避でき高品質の共重合ポリエステルが安定して得られることを見出した。従って、上記の新規のリン化合物の供給量の調整は、回収グリコールを使用しない方法や、回収グリコール中のリン化合物量をほぼ完全に除去した場合の適正添加量より回収グリコールとして循環されるリン原子の含有量分だけ新規に供給するリン化合物の供給量を減じて供給する方法で実施するのが好ましい実施態様である。勿論、回収グリコール中のリン化合物の濃度の尺度であるリン原子の含有量を測定して、該測定値に見合った量のリン化合物を供給するようにフィードバック制御する方法で実施しても構わない。なお、上記の好ましい実施態様の方法で実施する場合においても、1〜2回/日程度の頻度で回収グリコール中のリン原子含有量を計測して新規のリン化合物の供給量の微調整をするのがより好ましい実施態様である。
【0076】
一方、上記方法により回収された回収グリコール中の水分量は1質量%以上で、かつX±2.0質量%(但しXは2以上3以下の数を表す)を同時に満足する範囲を満たすことがより好ましい。該水分量が5質量%を超えた場合は、スラリーの流動性の向上効果が飽和すると共に、エステル化反応が不安定になり共重合ポリエステルオリゴマーの特性変動が大きくなり、結果として最終共重合ポリエステルのカルボキシル末端基濃度や色調等の品質変動が大きくなるので好ましくない。逆に1質量%未満では、該グリコールの回収コストが上昇すると共に、スラリーの流動性向上効果が低下するので好ましくない。上記変動範囲は±1.5質量%以内がより好ましく、±1.0質量%以内がさらに好ましい。一方、変動範囲の下限は無変動である±0%が最も好ましいが、コストパフォーマンスの点より、±0.1質量%が好ましく、±0.3質量%がより好ましい。水分量を該範囲に制御することにより、前記した水分量によるエステル化反応への影響の安定化と回収コストとのバランスが取れる。
【0077】
本発明における留出グリコールの分留方法は、上記要件を満たせば限定されない。例えば、蒸留塔の本数は1基で全量を処理してもよいし、複数基を用いて分割処理をしてもよい。エステル化反応槽から留出するグリコールおよび該グリコールに含まれる水分量は後段になるに従い少なくなる。また、重縮合工程で発生するグリコールは水分含有量がさらに少なくなる。特に、第1エステル化反応槽からグリコールは共重合ポリエステルの製造工程で発生するグリコールの約70%以上を占めることが多く、かつ水分量も圧倒的に多い。従って、第1エステル化反応槽よりから留出グリコールと第2エステル化反応槽以降で留出するグリコールとは区分してそれぞれ別個の蒸留塔で分留した方が留出液の全量を1基の蒸留塔で分留する前記特許文献16や17で開示されている方法よりも蒸留塔を分割することにより、それぞれの反応槽で発生するグリコール量および水分量に見合った性能とサイズが設定できるので回収グリコールの品質安定化において有利である。該蒸留塔の塔数は限定されないが2基が好ましい。3基以上でも構わない。特に、新規のリン化合物の添加を共重合ポリエステルの製造工程のできるだけ工程の後の方で行うようにして、該新規のリン化合物を添加する前の反応槽より留出する留出分と該新規のリン化合物を添加した反応槽以降の反応槽より留出する留出分とを区分して分留するのが好ましい。該方法により上記した利点に加えて回収グリコール中のリン原子含有量の変動が抑制されるという利点が付加される。また、回収グリコールとして循環されるリン化合物は高沸点の化合物に変質しているので、新規のリン化合物を添加する前の反応槽より留出したグリコールからの回収グリコール中のリン原子の含有量は極わずかである。従って、後述の第2エステル化へ供給する回収グリコールとして好ましい。
【0078】
上記方法に用いられる蒸留塔の性能は限定されないが、8〜18段が好ましい。9〜15段がより好ましい。泡鐘カラムおよび充填カラムのどちらでもよい。蒸留塔を複数設けて実施する場合は、全蒸留塔を同じ性能のものを用いてもよいし、それぞれの性能を変えてもよい。複数基の蒸留塔で分割して分留する時は工程の進行に従ってその段数を低くするのが経済性の点より好ましい。
【0079】
本発明においては、上記分留の蒸留塔の底部より抜き出した残留分の一部を該蒸留塔に循環させること(以下、蒸留塔液循環法と称する)が好ましい実施態様である。該方法の実施により、該残留分の送液ラインのライン詰りの発生が抑制され、長期の安定生産が可能となる。共重合ポリエステル製造工程で留出するグリコール中には、飛沫同伴等により共重合のオリゴマー類等よりなるグリコールに難溶性あるいは不溶性の固形分が含まれる。該固形分は、当然のことであるが上記蒸留において、蒸留塔残留分中に含まれ共重合ポリエステル製造工程に循環される。従って、共重合ポリエステルの製造を長期に渡り連続して実施した場合に、該残留分の送液ラインにおいて、残留分中に存在する固形分あるいは送液ライン中で析出する固形分により該送液ラインの送液性の低下やライン詰まりが発生し安定運転が困難な場合があるという課題を有しておりその改善が嘱望されていた。本発明は上記の極めて単純な方法で該課題を解決したものである。上記蒸留塔液循環法の実施により上記課題が解決される理由は明確でないが、残留分の送液流量および流速の増加、液温度維持、該温度変動抑制および残留分の蒸留塔内の滞留延長による固形分の構造変化等の複数の要因の総和により固形分の析出が抑制されることにより引き起こされるものと推察される。ここで、構造変化は、化学変化と物理変化の両方の効果が加味されていると推察される。すなわち、化学変化としては、固形分中のオリゴマーのグリコリシスによる低分子量化によりグリコールへの溶解性の向上および結晶性低下等が、また、物理変化としては固形分の結晶性等の等の変化が考えられる。また、蒸留塔液循環法の実施は、ライン詰りの抑制に加えて分留精度の向上にも繋がる。
【0080】
従って、残留分の液温および該温度範囲の設定、蒸留塔底部の残留分の貯留容量、循環液の戻し位置および循環量等が重要となる。該条件は限定されないが、以下の方法が好ましい。例えば、循環液の戻し位置は、蒸留塔の中段から蒸留塔底部の残留分の貯留部の最上部が好ましい。蒸留精度向上の点では蒸留塔の中段への戻しが好ましいが、温度管理の点では不利になる。両者のバランスにおいて適宜決定される。また、該循環液の蒸留塔への供給は該液を噴霧状態で供給するのが好ましい。該対応により分留効率の増進や蒸留塔トレイの飛沫同伴による汚染防止効果が付加される上に該供給液の供給量の安定化ができ、循環液の流量変動による循環ラインの詰まり発生が抑制できる。さらに、該循環ライン内での詰まり発生防止のために該循環ラインの配管内面をバフ研磨、または電解研磨処理をしたり、該配管の曲がり半径を大きくする等の対応をするのが好ましい。循環に用いるポンプはリバース形とノンリバース形のどちらでもよいが、リバース形が好ましい。貯留量は循環量に対し25〜70質量%に保つことが好ましい。該循環量は残留分の30〜75質量%が好ましい。また、循環液温度は、160〜180℃がより好ましい。164〜173℃がより好ましく、168〜175℃がさらに好ましい。該温度維持および温度制御のために循環ラインに温度調整機能を付加するのが好ましい。該温度が160℃未満の場合は、ライン詰り頻度が高くなる。逆に、180℃を超えた場合は、エネルギーロスの増加に繋がり経済的に不利となる。また、蒸留精度の低下に繋がる。
【0081】
本発明において、エステル化反応槽からの留出物の低沸点留分の分留除去は、留出物自体が有する熱により連続的に行うことが好適である。このことにより、運転経費の節減と設備の簡略化をより高めることができる。必要に応じて、配管の加熱や熱交換により補助加熱してもよい。
【0082】
一方、重縮合反応槽からの留出物は、湿式コンデンサーで冷却凝縮して回収されるので、加熱して蒸留塔に供給することが必要となる。
【0083】
上記方法で回収されたグリコールは回収グリコールをそのままスラリー調製に用いて、スラリー調製におけるグリコールの組成の調整はスラリー調製時に新規グリコールの組成を変更させることにより行ってもよし、回収グリコールの組成を測定して、新規グリコールを用いてスラリー調製に必要な組成に予め調整しておいてスラリー調製槽に供給してもよい。該回収グリコールのグリコール組成評価方法は、ガスクロマトグラフィー分析、遠赤外線吸分光法およびNMR分析法等で行うのが好ましい。
【0084】
上記蒸留塔による分留の条件は限定されない。それぞれの蒸留塔の性能や必要とされる分留精度等により適宜設定すればよいが、蒸留塔の圧力および温度の制御を行い、蒸留塔底部より取り出される分留の残留分中の水分量を制御するのが好ましい。
【0085】
蒸留塔の圧力は限定されないが、該蒸留塔の圧力調整により該蒸留塔に供給されるグリコールの発生源であるエステル化反応槽の圧力設定を行うのが好ましい。該圧力設定は、エステル化反応への影響および蒸留効率と蒸留に要するエネルギーとのバランス等の総合的なパフォーマンスより常圧から微加圧状態で実施するのが好ましい。
【0086】
上記方法においては、蒸留塔の塔頂圧力を常圧〜300kPa(絶対圧、以下圧力は絶対圧で表示する)に保つことが好ましい。20〜280kPaがより好ましく、40〜260kPaがさらに好ましい。減圧下では、蒸留塔の温度管理精度の低下に繋がる。一方、300kPaを超えた場合は、分留精度の低下に繋がる。また、該塔頂圧力でエステル化反応槽の圧力調整をする方法においては、エステル化反応工程におけるジエチレングリコールの副生が増大に繋がるので好ましくない。さらに、エステル化反応槽の圧力の増大により、圧力変動によるエステル化反応に対する影響度が大きくなるためにエステル化反応の変動が増大するので好ましくない。
【0087】
上記の蒸留塔の塔頂圧力の制御方法は限定されない。例えば、蒸留塔のベーパーラインに調圧弁を設置し、該調圧弁で調整する方法や蒸留塔のベント配管を水封し、該水封の液面あるいは水封部分の配管の位置変更で調整する方法などが挙げられる。水封方式は制御精度の点で優れているが設定圧力に比例して水封高さが大きくなるので、例えば、ベーパーラインに絞りを入れて制御用の水封高さを低くして制御するのが好ましい。
【0088】
本発明においては、蒸留塔の中段温度を設定値±3℃以内に制御することが好ましい。±2℃以内に制御することがより好ましい。一般に蒸留塔の制御は蒸留塔の塔頂温度で管理されるが、該塔頂温度で管理して、蒸留塔の底部より取り出される残留分中の水分量に制御するには、極めて狭い範囲の温度制御をする必要がある。一方、例えば、特許文献15で開示されている塔底部の温度で管理した場合は、塔頂温度が成り行き任せとなり、塔頂より取り出される水を主体とした低沸点留分中のグリコール量の変動が大きくなる。一般に、該低沸点留分は廃棄処分されるので該低沸点留分中のグリコール量の変動が大きくなると廃液の処理負荷の変動に繋がり、環境負荷が増大するので好ましくない。蒸留塔中段の温度管理をすることにより、上記課題のバランスが取れる。なお、中段温度とは、蒸留塔の棚段のほぼ中央部を意味している。すなわち、棚段数が奇数段の場合は中央の棚段部に、偶数の場合は、2分割した各分割部の中央側の棚段のいずれかの部分の温度を指す。
【0089】
上記の設定値は共重合ポリエステルに用いられるグリコールの種類や組成比により異なるが、共重合ポリエステルとしてEGとNPGのモル比が7:3である共重合ポリエステルを製造する場合は、蒸留塔の中段温度を130℃に設定して、130±3℃以内に制御することが好ましい。該温度範囲は130±2℃以内がより好ましい。該温度が130℃未満では、残留分中の水分量が上記範囲より多くなるので好ましくない。一方、130℃を超えた場合は、残留分中の水分量が上記範囲より少なくなり、かつ低沸点留分中のグリコール量が増大し、該低沸点留分を廃液処理する場合の負荷が増大するので好ましくない。また、変動範囲が±3℃を超えた場合は回収グリコール中の水分量の変動範囲が前記した範囲を超えるので好ましくない。
【0090】
本発明においては、上記方法で回収された回収グリコールの一部を第2エステル化反応槽以降のエステル化反応槽に供給するのが好ましい。該供給により、得られる共重合ポリエステル中のグリコールの組成比の変動が抑制されるとともに、エステル化反応の安定化にも繋がり、共重合ポリエステルの品質変動が抑制される。該供給量は共重合ポリエステルのジカルボン酸残基1質量部に対して0.01〜0.12質量部が好ましい。0.03〜0.08質量部がより好ましい。また、該供給量を調整することによってエステル化反応の制御を行ってもよい。上記供給は一箇所で行ってのよいし、二箇所以上に分割して行ってもよい。該回収グリコールはリン化合物を添加する前の反応槽よりの留出グリコールからなるリン化合物含有量が低い回収グリコールを用いるのが好ましい。
【0091】
回収グリコールの使用割合は制限がなく、適宜設定して使用することができる。全量を回収グリコール用いて共重合ポリエステルを製造してもよい。
【0092】
本発明におけるエステル化条件や生成物のオリゴマーの特性および重縮合反応条件は、共重合ポリエステルの品質や生産性を考慮し適宜設定すればよいが、本発明においては、
回収グリコールを循環し再使用するので、該回収グリコール中の水分量を上記範囲に制御したとしても、従来公知の回収グリコールを循環し再使用しない製造方法に比べて、エステル化反応の変動が増大するので、エステル化反応の変動抑制を取り入れるのが好ましい。
【0093】
本発明においては、第1エステル化反応槽内に滞留する反応物の単位時間当たりの熱量を設定値の±3.0%以内になるように制御することが好ましい。
【0094】
前記した特許文献等で開示されている技術においては、ポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基は重縮合工程に供給されるポリエステルオリゴマーの値に注目されその制御がなされている。該重縮合工程に供給されるポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度により、後続の重縮合反応の進行やポリエステル品質に対して大きな影響を及ぼすことより当然の帰結である。
【0095】
本発明者等は、最終エステル化反応槽出口の共重合ポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度の変動を抑制する方法について鋭意検討し、該最終エステル化反応槽出口の共重合ポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度の変動は、第1エステル化反応槽出口の共重合ポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度によりほぼ支配されることおよび該第1エステル化反応槽出口の共重合ポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度は、第1エステル化反応槽内に滞留する反応物の単位時間当たりの熱量の変動の影響を大きく受け、さらに該第1エステル化反応槽内に滞留する反応物の単位時間当たりの熱量は、第1エステル化反応槽に供給されるスラリーの熱量の影響を大きく受けるので、第1エステル化反応槽内に滞留する反応物温度、スラリー温度およびスラリー流量を計測し、第1エステル化反応槽内に滞留する反応物の単位時間当たりの熱量が一定になるようにスラリーにより持ち込まれる熱量を制御することにより、第1エステル化反応槽出口の共重合ポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度の変動が抑制でき、結果として後続の重縮合反応や共重合ポリエステル品質に対して大きな影響を及ぼす最終エステル化反応槽出口の共重合ポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度変動が抑制されることを見出した。当然のことであるが、第1エステル化反応槽以降のエステル化反応条件により最終エステル化反応槽出口の共重合ポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度が変化するので、該反応条件は一定範囲に制御する必要があるが、該制御は従来公知の方法を適用し制御するレベルで、本発明方法で得られる高度なカルボキシル末端基濃度の制御が可能となる。
【0096】
上記の第1エステル化反応槽内に滞留する反応物の単位時間当たりの熱量の変動範囲は±1.7%以内がより好ましく、±1.4%以内がさらに好ましい。下限は無変動である±0%が最も好ましいが、コストパフォーマンスの点より±0.3%が好ましく、±0.5%がより好ましい。
【0097】
上記第1エステル化反応槽内に滞留する反応物の単位時間当たりの熱量の制御方法は限定されない。例えば、以下に示すような方法が挙げられる。
【0098】
その第1の方法は、第1エステル化反応槽内に滞留する反応物温度および流量、スラリー温度および流量を計測し、第1エステル化反応槽内に滞留する反応物の単位時間当たりの熱量が一定になるようにスラリーの持ち込む単位時間当たりの熱量を制御することにより行うのが好ましい。該方法において、スラリーの持ち込む単位時間当たりの熱量の制御方法としては、スラリー温度、スラリー供給量および両者を制御する方法があるが、スラリー供給量を変更すると第1エステル化反応槽の液面変動等のエステル化反応に影響を及ぼす要因の変動を引き起こすことになるので、スラリー流量は一定になるようにして、スラリー温度を制御するのが好ましい。該方法で実施する場合は、スラリー供給量を設定値±3%以内に制御することが好ましい。±2.5%以内がより好ましく、±2.0%以内がさらに好ましい。下限は無変動である±0%が最も好ましいが、コストパフォーマンスの点より±0.3%が好ましく、±0.5%がより好ましい。該スラリーの供給量の制御方法は限定されない。例えば、流量計を用いて設定流量になるように送液ポンプ回転数を変更する方法、送液ラインの送液ポンプの後に、スラリー調合槽に戻るバイパスラインを設け、送液ポンプの回転数を一定回転とし、送液ラインに設けた流量計の流量が一定になるようにバイパスラインに設けたコントロール弁の開度を調整する方法、スラリー調製槽と第1エステル化反応槽の位置に高低差を設けて、ヘッド圧でスラリーの送液を行い、該送液ラインに設けた流量計の流量が一定になるように送液ラインに設けたコントロール弁の開度調整により行う等が挙げられる。流量計の種類は限定されない。例えば、ローター流量計、ローターピストン流量計、オーバル流量計およびマイクロモーション流量計等が挙げられる。また、第1エステル化反応槽の液面レベルが一定になるように調整してもよい。また、反応槽内に滞留する反応物温度は、反応槽の底部の缶壁より200〜400mm内部の温度を測定するのが好ましい。
【0099】
また、第1エステル化反応槽を通過する反応物の通過量は高温用の流量計を用いて第1エステル化反応槽出口の反応物流量を計測する、あるいは該第1エステル化反応槽に供給されるスラリー供給量と第1エステル化反応槽の液面レベルより算出する方法等が挙げられる。
【0100】
第2の方法は、第1エステル化反応槽内に滞留する反応物の温度および液面レベルをそれぞれ設定値の±3.0%以内および±0.2%以内になるように制御した上で、エステル化反応槽に供給するスラリーの単位時間当たりの熱量を設定値の±2.0%以内になるように制御する方法である。
【0101】
第1エステル化反応槽出口の共重合ポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度の変動は第1エステル化槽の温度および滞留時間(限定された共重合ポリエステル製造ラインにおいては、反応槽の液面レベル)の影響を受けるので、該要因は上記範囲に制御するのが好ましい。例えば、温度は設定値±2.0%以内がより好ましい。一方、下限は無変動である±0%が最も好ましいが、コストパフォーマンスの点より、±0.2%が好ましく、±0.5%がより好ましい。また、液面レベルは設定値±0.2%以内が好ましく、±0.1%以内がより好ましい。一方、下限は無変動である±0%が最も好ましいが、コストパフォーマンスの点より、±0.02%が好ましく、±0.05%がより好ましい。該液面レベルの制御は前記のスラリー流量制御を上記範囲にすることにより制御が可能である。
【0102】
上記要件を満たした上で、エステル化反応槽に供給するスラリーの単位時間当たりの熱量を設定値の±2.0%以内になるように制御するのが好ましい。±1.7%以内がより好ましく、±1.4%以内がさらに好ましい。下限は無変動である±0%が最も好ましいが、コストパフォーマンスの点より±0.3%が好ましく、±0.5%がより好ましい。
【0103】
上記の第1エステル化反応槽内に供給するスラリーの単位時間当たりの熱量の制御方法は限定されない。例えば、第1エステル化反応槽に供給するスラリーの温度およびスラリー流量を計測し、スラリー温度および/またはスラリー流量を制御する方法が挙げられるが、スラリー流量を制御する方法は第1エステル化反応槽内の反応物の液面変動等のエステル化反応に影響する要因の変動に繋がるので、スラリー流量は一定になるようにして、スラリー温度を制御するのが好ましい。該方法で実施する場合は、スラリー供給量を設定値±3.0%以内に制御することが好ましい。±2.5%以内がより好ましく、±2.0%以内がさらに好ましい。下限は無変動である±0%が最も好ましいが、コストパフォーマンスの点より±0.3%が好ましく、±0.5%がより好ましい。該スラリーの供給量の制御方法は限定されない。例えば、流量計を用いて設定流量になるように送液ポンプ回転数を変更する方法、送液ラインの送液ポンプの後に、スラリー調合槽に戻るバイパスラインを設け、送液ポンプの回転数を一定回転とし、送液ラインに設けた流量計の流量が一定になるようにバイパスラインに設けたコントロール弁の開度を調整する方法、スラリー調製槽と第1エステル化反応槽の位置に高低差を設けて、ヘッド圧でスラリーの送液を行い、該送液ラインに設けた流量計の流量が一定になるように送液ラインに設けたコントロール弁の開度調整により行う等が挙げられる。流量計の種類は限定されない。例えば、ローター流量計、ローターピストン流量計、オーバル流量計およびマイクロモーション流量計等が挙げられる。また、第1エステル化反応槽の液面レベルが一定になるように調整してもよい。
【0104】
第3の方法は、第2の方法と同様に第1エステル化反応槽内に滞留する反応物の温度および液面レベルをそれぞれ設定値の±3.0%以内および±0.2%以内になるように制御した上で、第1エステル化反応槽内に滞留している反応物温度と第1エステル化反応槽供給されるスラリー温度との温度差とスラリー流量およびスラリー比熱より求められ該第1エステル化反応槽供給されるスラリーの単位時間当たりの熱量を設定値の±2.0%以内になるように制御することが好ましい。該上記方法で求められる第1エステル化反応槽内に供給するスラリーの単位時間当たりの熱量の変動範囲は±1.7%以内がより好ましく、±1.4%以内がさらに好ましい。下限は無変動である±0%が最も好ましいが、コストパフォーマンスの点より±0.3%が好ましく、±0.5%がより好ましい。
【0105】
該方法は、第1エステル化反応槽内に滞留する反応物の単位時間当たりの熱量変動は第1エステル化反応槽内に滞留している反応物温度で近似でき、かつ該熱量の変動は第1エステル化反応槽内に滞留している反応物温度と第1エステル化反応槽供給されるスラリー温度との温度差とスラリー流量およびスラリー比熱より求められ該第1エステル化反応槽供給されるスラリーの単位時間当たりの熱量変動を小さくすることで抑制できることを見出したことに基づいている。すなわち、第1エステル化反応槽へ供給されるスラリーにより持ち込まれる熱量の変動を抑制すれば第1エステル化反応槽内に滞留する反応物の単位時間当たりの熱量変動抑制ができるとともに、該第1エステル化反応槽へ供給されるスラリーにより持ち込まれる熱量の変動が大きくなると第1エステル化反応槽の温度制御の過応答が起こることがあり、第1エステル化反応槽内に滞留している反応物温度制御が困難となるがあるが、該方法により該過応答の回避に繋がり、第1エステル化反応槽におけるエステル化反応の変動が抑制され、第1エステル化反応槽出口の共重合ポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度の変動が抑制される。
【0106】
上記方法における第1エステル化反応槽内に供給するスラリーの単位時間当たりの熱量の制御方法は限定されない。例えば、第1エステル化反応槽内に供給するスラリーの温度およびスラリー流量を計測し、スラリー温度および/またはスラリー流量を制御する方法が挙げられるが、スラリー流量を制御する方法は第1エステル化反応槽内の反応物の液面変動等のエステル化反応に影響する要因の変動に繋がるので、スラリー流量は一定になるようにして、スラリー温度を制御するのが好ましい。該方法で実施する場合は、スラリー供給量を設定値±3.0%以内に制御することが好ましい。±2.5%以内がより好ましく、±2.0%以内がさらに好ましい。下限は無変動である±0%が最も好ましいが、コストパフォーマンスの点より±0.3%が好ましく、±0.5%がより好ましい。該スラリーの供給量の制御方法は限定されない。例えば、流量計を用いて設定流量になるように送液ポンプ回転数を変更する方法、送液ラインの送液ポンプの後に、スラリー調合槽に戻るバイパスラインを設け、送液ポンプの回転数を一定回転とし、送液ラインに設けた流量計の流量が一定になるようにバイパスラインに設けたコントロール弁の開度を調整する方法、スラリー調製槽と第1エステル化反応槽の位置に高低差を設けて、ヘッド圧でスラリーの送液を行い、該送液ラインに設けた流量計の流量が一定になるように送液ラインに設けたコントロール弁の開度調整により行う等が挙げられる。流量計の種類は限定されない。例えば、ローター流量計、ローターピストン流量計、オーバル流量計およびマイクロモーション流量計等が挙げられる。また、第1エステル化反応槽の液面レベルが一定になるように調整してもよい。
【0107】
上記方法で実施する場合のスラリー温度の制御方法は限定されない。例えば、上記スラリー調製槽の温度および/または芳香族ジカルボン酸温度を検出し、該調製槽に供給されるグリコール温度にフィードバックし制御するのが好ましい。また、スラリー温度制御はスラリー調製槽やスラリーの移送ラインに熱交換器を設置して制御してもよい。また、スラリー調製槽に循環ラインを設けてスラリー調製槽中のスラリーを循環させて温度制御の精度向上を図ってもよい。該方法の場合は、循環ラインにも温度制御機能を付加するのが好ましい。以上の方法を単独でおこなってもよいし、複数の方法を組み合わせて行ってもよい。また、スラリー調製槽出口からエステル化反応槽供給するまでの間にスラリー貯留槽を設けてスラリー温度制御の精度を高めてもよい。該方法の場合に、スラリー貯留槽に温度制御機構を付加してもよい。該スラリー貯留槽を設ける方法はスラリー調製槽におけるスラリー調整はバッチ式で実施してもよい。バッチ式スラリー調製法は、スラリー調製における重要工程管理項目であるスラリーの芳香族ジカルボン酸とグリコールとの組成比の管理が容易となるので該管理の制御系を簡略化することができるという利点にも繋がる。また、該方法の場合は、スラリー貯留槽において、上記の芳香族ジカルボン酸とグリコールとの組成比の調整が実施できるので、該組成比の変動抑制に繋げることもできるという利点を有する。該方法においては、スラリー調製を連続法やセミバッチ法で実施してもよい。また、該方法と前者の方法を組み合わせて実施してもよい。
【0108】
上記のスラリー温度の設定値は限定されないが室温から180℃が好ましい。本発明においては、インプラントで回収された回収グリコールが循環再使用される。該回収グリコールは、エネルギー効率の点より加温状態で循環するのが好ましい。従って、回収グリコールは加温状態にあるので、該設定温度は加温状態が好ましく70〜150℃がより好ましい。本発明においては、該循環再使用される回収グリコールの温度変動はスラリー温度変動に影響する。従って、該回収グリコールの温度管理や供給量管理は重要管理項目となる。
【0109】
本発明においては、第1エステル化反応槽圧力を設定値±4%以内になるように制御するのが好ましい。±3%以内がより好ましい。±2%以内がより好ましい。一方、下限は無変動である±0%が最も好ましいが、コストパフォーマンスの点より、±0.2%が好ましく、±0.5%がより好ましい。該第1エステル化反応槽圧力が設定値±4%を超えた場合は、前記制御をしても第1エステル化反応槽出口のオリゴマーのカルボキシル末端基濃度の変動が後述の範囲を超えることがあるので好ましくない。
【0110】
上記第1エステル化反応槽圧力の設定値は限定されないが、前述のごとく大気圧〜300kPaが好ましい。20〜280kPaが好ましく、40〜260kPaがさらに好ましく、蒸留塔の塔頂圧力調整法で調整するのが好ましい。
【0111】
また、該スラリーの中の芳香族ジカルボン酸とグリコールとのモル比もエステル化反応に影響するので一定範囲に制御することが好ましい。該変動範囲は、前記した公知技術の範囲で十分である。設定値±0.3%以内が好ましい。設定値±0.25%以内がより好ましく、設定値±0.2%以内がさらに好ましい。一方、下限は無変動である±0%が最も好ましいが、コストパフォーマンスの点より、±0.01%が好ましく、±0.02%がより好ましい。
【0112】
第1エステル化反応槽出口の共重合ポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度を設定値±10%以内に抑制するのが重要である。±9%以内が好ましく、±8%以内がより好ましく、±6%以内がさらに好ましい。該範囲にすることにより最終エステル化反応槽出口のオリゴマーのカルボキシル末端基濃度の変動を好ましい範囲に抑制することが可能となり、後続の重縮合反応や得られる共重合ポリエステルの品質の安定化に繋げることができるので好ましい。一方、下限は無変動である±0%が最も好ましいが、コストパフォーマンスの点より、±0.5%が好ましく、±1.0%がより好ましい。
【0113】
上記第1エステル化反応槽出口の共重合ポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度の設定値は限定されないが、前記した最終エステル化反応槽出口の共重合ポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度や第2エステル化反応槽以降のエステル化反応槽の反応条件により適宜設定すればよい。後述のごとく、一般に最終エステル化反応槽出口の共重合ポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度は設定値で250〜900eq/tonの範囲が好ましい。該範囲にするには、第1エステル化反応槽出口の共重合ポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度の設定値は800〜3700eq/tonの範囲にするのが好ましい。1000〜3400eq/tonがより好ましく、1200〜3000eq/tonがさらに好ましい。第1エステル化反応槽出口の共重合ポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度の設定値が3700eq/tonを超えた場合は、該オリゴマーによる移送ライン等の配管詰りが発生することがある。
【0114】
該第1エステル化反応槽出口の共重合ポリエステルオリゴマーカルボキシル末端基濃度を上記範囲に設定する方法が限定されない。例えば、エステル化反応装置の構造等の製造装置要因や、エステル化反応槽に供給するスラリーのジカルボン酸とグリコールの組成比、エステル化反応温度、エステル化反応圧、エステル化反応時間等のエステル化反応条件等を適宜設定することにより行えばよい。また、エステル化反応工程に水を添加して調整してもよい。
【0115】
また、該第1エステル化反応槽出口の共重合ポリエステルオリゴマーカルボキシル末端基濃度の変動は、前記した方法の実施により達成することが可能となる。
【0116】
また、本発明においては、最終エステル化反応槽出口のオリゴマーのカルボキシル末端基濃度を設定値±6%以内にするのが好ましい。±5%以内がより好ましく、±4%以内がさらに好ましく、±3%以内が特に好ましい。該カルボキシル末端基濃度変動が±5%を超えた場合は前記した課題の変動が増大して得られる共重合ポリエステルの品質の均一性が低下するので好ましくない。一方、下限は無変動である±0%が最も好ましいが、コストパフォーマンスの点より、±0.2%が好ましく、±0.5%がより好ましい。
【0117】
カルボキシル末端基濃度の設定値は限定されないが150〜900eq/tonの範囲が好ましい。170〜800eq/tonの範囲がより好ましく、190〜700eq/tonの範囲がさらに好ましい。カルボキシル末端基濃度の設定値が150eq/ton未満になると、重縮合活性の低下や重縮合工程でのジエチレングリコールの生成の増大が起こるので好ましくない。特に、重縮合反応活性に対して共重合ポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度の影響の大きい重縮合触媒系を用いた場合に重縮合触媒活性が著しく低下するので好ましくない。逆に、カルボキシル末端基濃度の設定値が900eq/tonを超えた場合は、後続の重縮合反応の進行が不安定になり得られる共重合ポリエステルの重合度の変動が大きくなるので好ましくない。また、得られる共重合ポリエステルのカルボキシル末端基濃度が高くなり、共重合ポリエステルの加水分解安定性等の安定性低下に繋がるので好ましくない。
【0118】
上記対応により、本発明の回収グリコールを循環再使用する方法においても、エステル化反応の変動が好ましい範囲に抑制することが可能となり、結果として得られる共重合ポリエステル品質の均質性が満たされる。
【0119】
なお、本発明においては、回収PETボトルの化学分解回収法で得られたテレフタル酸、あるいはEG等のリサイクル原料を用いることは、省資源や環境保護に役立つので好ましい実施態様である。
【0120】
本発明方法により得られた共重合ポリエステルを減圧下あるいは不活性ガス気流下で共重合ポリエステル樹脂を加熱し、さらに重縮合を進めたり、該共重合ポリエステル樹脂中に含まれている環状3量体等のオリゴマーやアセトアルデヒド等の副生成物を除去する等の手段を取ることも何ら制約を受けない。また、例えば超臨界圧抽出法等の抽出法で共重合ポリエステル樹脂を精製し前記の副生成物等の不純物を除去する等の処理を行うことを取り入れても良い。
【0121】
本発明の共重合ポリエステル中には、有機系、無機系、及び有機金属系のトナー、ならびに蛍光増白剤などを含むことができ、これらを一種もしくは二種以上含有することによって、共重合ポリエステルの黄み等の着色をさらに優れたレベルにまで抑えることができる。また他の任意の重合体や制電剤、消泡剤、染色性改良剤、染料、顔料、艶消剤、蛍光増白剤、安定剤、酸化防止剤、その他の添加剤が含有されていてもよい。酸化防止剤としては、芳香族アミン系、フェノール系等の酸化防止剤が使用可能であり、安定剤としては、リン酸やリン酸エステル系等のリン系、硫黄系、アミン系等の安定剤が使用可能である。
【0122】
これらの添加剤は、共重合ポリエステルの重縮合時もしくは重縮合後、あるいは共重合ポリエステルの成形時の任意の段階で添加することが可能であり、どの段階が好適かは対象とする共重合ポリエステルの構造や得られる共重合ポリエステルの要求性能に応じてそれぞれ適宜選択すれば良い。
【実施例】
【0123】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、評価法は以下の方法で実施した。
【0124】
1、固有粘度(IV)の測定
フェノール/テトラクロロエタン(60:40、重量比)混合溶媒を用いて、30℃で測定した。
【0125】
2、共重合ポリエステルの溶融比抵抗(ρi)
275℃で溶融した共重合ポリエステル中に2枚の電極板を置き、120Vの電圧を印加した時の電流値(i)を測定し、比抵抗値ρiを次式により求める。
ρi(Ω・cm)=A/l×V/ i
ここで、A=電極面積(cm)、l=電極間距離(cm)、V=電圧(V)である。
【0126】
3、静電密着性
押出機の口金部と冷却ドラムの間にタングステンワイヤー製の電極を設け、電極とキャスティングドラム間に10〜15KVの電圧を印加してキャスティングを行い、得られたキャスティング原反の表面を肉眼で観察し、ピンナーバブルの発生が起こり始めるキャスティング速度で評価する。キャスティング速度が大きいポリマー程、静電密着性が良好である。
【0127】
4、共重合ポリエステルの組成比
サンプル約5mgを重クロロホルムとトリフルオロ酢酸の混合溶液(9/1:体積比)0.7mlに溶解し、H−NMR(Varian製、UNITY500)を使用して求めた。
【0128】
5、回収グリコールの組成分析
試料液に30容量%のジメチルスルホキサイドを添加し、H−NMRおよびC−NMR測定を行い評価した。
【0129】
6、回収グリコール中のリン原子量の定量
試料を硝酸マグネシウム共存下、550℃で灰化後、1.2M塩酸溶液としてから高周波プラズマ発光分析法により定量した。
【0130】
実施例1
以下の実施例は回収グリコールの影響が定常化した定常状態における条件で記述する。
〔スラリー調合〕
スラリー調合槽にテレフタル酸を1質量部、後述の方法で留出物(A)より回収した水分3.4質量%、EG70.8質量%、NPG25.8質量%よりなる回収グリコール0.464質量部、および留出物(B)より回収された回収グリコールおよび/または新規のEGと新規のNPGよりなるEG45.7質量%とNPG54.3質量%からなる混合グリコールを0.325質量部、未使用のEGを0.044質量部ずつ供給し攪拌しながらテレフタル酸のグリコールスラリーを調合した。
【0131】
〔エステル化および重縮合〕
エステル化反応装置として、攪拌装置、蒸留塔、原料仕込口および生成物取り出し口を有する3段の完全混合槽よりなる連続エステル化反応装置を使用し、上記方法で調製したテレフタル酸のグリコールスラリー1651kg/Hrと共にジエチレングリコールを2kg/Hrずつ、第一のエステル化反応槽に供給し、絶対圧122kpa・温度258℃・平均滞留時間6時間でエステル化反応を行った。
【0132】
第1のエステル化反応槽内の液面が一定となるように反応生成物を取り出し、第2のエステル化反応槽に投入した。第2のエステル化反応槽の別の投入口からは、後述方法で第1および第2エステル化反応槽より留出したグリコールを蒸留塔で分留して得た残留分を0.055質量部で投入し、絶対圧122kpa・温度247℃・平均滞留時間1.5時間でエステル化反応を行った。上記残留分(A’)の組成は水分3.4質量%、EG70.8質量%、NPG25.8質量%であった。第1のエステル化反応槽出口のオリゴマー酸価は平均値で1950eq/トンであった。
【0133】
該第1エステル化反応槽内に滞留する反応物温度および反応物の通過量および反応物の比熱より第1エステル化反応槽内に滞留する反応物の単位時間当たりの熱量を算出し、該熱量が一定になるように、該第1エステル化反応槽に供給されるスラリーの単位時間当たりの熱量を制御した。なお、反応槽内に滞留する反応物温度は、反応槽の底部の缶壁より300mm内部に入った位置で測定した。また、第1エステル化反応槽の反応物の通過量は第1反応槽に供給されるスラリー供給量と第1エステル化反応槽の液面レベルより算出した。また、スラリー熱量は、スラリー供給量の変動をロータリーピストン流量計を用いて送液ポンプの回転数を変えて設定値の±2.0%以内になるように制御した上でスラリー温度を調整することにより行った。該スラリー温度制御はスラリー調製槽内温度と該調製槽に供給するグリコール温度を連続的に監視しながら、フィードバック回路により連続的にグリコール添加温度を熱交換器を用いて変更することとスラリー調製槽に温度調整機能を付加してスラリー温度調整精度を上げる方法で実施した。第1エステル化反応槽内に滞留する反応物の単位時間当たりの熱量変動は±1.9%であった。なお、第1エステル化反応槽に供給するスラリー温度は110℃を中心値として熱量制御をした。また、熱量計算の単位時間は1時間当たりで算出した。また、グリコールとテレフタル酸をモル比は、±0.25%以内に制御した。該モル比の調整は、近赤外線分光光度計を用いてスラリーのテレフタル酸量を計測して、スラリー調製槽に供給するグリコール量を調整することにより行った。また、第1エステル化反応槽の圧力変動は±1.3%以内に制御した。また、第1エステル化反応槽の液面レベルの変動は±0.2%以内であった。
【0134】
第2エステル化反応槽内の液面が一定となるように反応生成物を取り出し、第3のエステル化反応槽に投入した。第3のエステル化反応槽の別の添加口からは、酢酸マグネシウム4水和物のEG溶液(濃度4.3質量%)を0.051質量部、リン酸トリメチルのEG溶液(濃度5.9質量%)を0.013質量部、酢酸ナトリウムのEG溶液(濃度1.0質量%)を0.009質量部、酢酸コバルト4水和物のEG溶液(濃度1.76質量%)を0.003質量部、三酸化アンチモンのEG溶液(三酸化アンチモン濃度1.3wt%)を41kg/Hrずつ投入し、圧力は常圧・温度253℃・平均滞留時間1.0時間でエステル化反応を行った。第3エステル化反応槽出口オリゴマーの酸価は平均値で350eq/トンであった。
【0135】
第3エステル化反応槽内の液面が一定となるように反応生成物を取り出し、初期重縮合反応槽に投入し圧力5.3kpa・温度261℃・平均滞留時間1.5時間で初期重縮合反応を行った。
【0136】
初期重縮合反応槽内の液面が一定となるように反応生成物を取り出し、中期重縮合反応槽に投入した。圧力0.45kpa・温度272℃・平均滞留時間1.2時間で中期重縮合反応を行った。
【0137】
中期重縮合反物の液面が一定となるように反応性生成物を取り出し、後期中縮合反応槽に投入した。温度272℃・平均滞留時間1.2時間で、反応生成物の平均極限粘度が0.74となるように真空度(圧力)を調節した。圧力は0.06〜0.15kpaの範囲で調整した。
【0138】
後期重縮合反応内の液面が一定となるように共重合ポリエステルをストランド状に取り出し、ストランドカッターでペレット化した。
【0139】
得られた共重合ポリエステルの極限粘度は0.74、全グリコール成分に対するNPGの含有量は30モル%、ジエチレングリコールの含有量は1.5モル%、酸価は13eq/トン、融点(流動点)は181℃、溶融比抵抗は0.21×10Ω・cm、また共重合ポリエステル中のテレフタル酸とEGの環状3量体の含有量は3700ppm、テレフタル酸とNPGの環状2量体の含有量は2200ppmであった(いずれも平均値)。また、10日間の連続運転した時の12時間毎に測定した時のオリゴマーおよび共重合ポリエステル特性値の変動範囲を表1に示す。本実施例で得られたオリゴマーおよび共重合ポリエステルの品質は良好であり、かつその変動範囲は小さく高品質であった。
【0140】
〔グリコールの回収〕
上記共重合ポリエステル製造工程におけるグリコールの流れを図1に示す。
第1エステル化反応槽3および第2エステル化反応槽4より留出する留出分(留出分A)は段数が15段の泡鐘タイプの蒸留塔9に、第3エステル化反応槽5および3基の重縮合反応槽6〜8よりから留出する留出分留出する留分(留出分B)は段数が9段の泡鐘タイプの蒸留塔10に供給され水を主体として低沸点留分を除去する。両蒸留塔ともに、底部より取り出される残留分の一部をそれぞれの蒸留塔の中間部に循環させた。該循環液の温度は168℃近辺で安定していた。該循環により蒸留塔底部より取り出される残留液(本実施例の場合は回収グリコール)の送液ラインの詰まりは発生しなかった。蒸留塔9は、7段目に設置した温度検出器で検出した温度が130±2℃になるよう制御した。得られた残留分はグリコール貯層14に供給される。得られた回収グリコールの組成は平均値で水分3.4質量%、EG70.8質量%、NPG25.8質量%であった。得られた回収グリコールをスラリー調製に用いた。また、その一部を第2エステル化反応槽に供給した。
【0141】
蒸留塔10は5段目に設置した温度検出器で検出した温度が120±2℃になるよう制御した。得られた残留分はグリコール貯層15に供給される。得られた回収グリコールの組成は平均値で水分86.7質量%、EG4.9質量%、NPG8.4質量%であった。また、該蒸留塔10の塔底留分中(残留分B’)にはリン原子が200ppm含まれていた。得られた回収グリコールをスラリー調製に用いた。
【0142】
なお、エステル化反応槽3〜5からの留出分に関しては、蒸留に必要な熱は留出分自体が有する熱量で足りるので加熱の必要はない。なお、蒸留塔の塔頂の圧力を100kPa±1.3%以内に制御した。該圧力は蒸留塔ベント配管に設置した調圧弁で制御した。
【0143】
3基の重縮合反応槽6〜8よりから留出する留出分は減圧系で発生するため各反応槽に設置された湿式コンデンサー11〜13で凝縮させてグリコール凝縮液貯槽16〜18に供給された後に蒸留塔10に供給される。そのために、熱交換器23で蒸留のための熱量が供給される。この時、湿式コンデンサーに噴霧されるグリコール液の温度の上昇を抑えるために冷却器19〜21で冷却し湿式コンデンサーに供給される。この凝縮液は各湿式コンデンサーで凝縮された凝縮液自体の自己循環で実施されるが、必要に応じて新規EGを供給してもよい。
【0144】
比較例1
実施例1の方法において、第3のエステル化反応槽へのリン酸トリメチルのEG溶液の添加量を、回収グリコールを循環使用しない場合や回収グリコール中のリン化合物をほぼ完全に除去した場合の適正添加量である0.018質量部に変更する以外は、実施例1と同様にして重縮合を行い、共重合ポリエステルを得た。結果を表2に示す。本比較例で得られた共重合ポリエステルの溶融比抵抗は0.88×10Ω・cmと高く、最大キャスチング速度は28m/分であり、静電密着性が著しく劣っていた。
【0145】
比較例2
比較例1の方法において、蒸留塔9の棚段数を7段として、温度検出器の位置を4段目の空間に変更し、該温度を130±5℃で管理するよう変更する以外は、比較例1同様の方法で共重合ポリエステルを得た。回収エチレングリコール中の水分量は3±2.2質量%であった。結果を表2に示す。本比較例で得られた共重合ポリエステルは、比較例1で得られた共重合ポリエステルの課題に加えて、共重合ポリエステルの品質変動が増大した。
【0146】
比較例3
比較例1の方法において、スラリー調製時のエステル化反応槽内に滞留する反応物の単位時間当たりの熱量が一定になる制御を止め、単に、スラリー調製槽内温度と該調製槽に供給するグリコール温度を連続的に監視しながら、フィードバック回路により連続的にグリコール添加温度を、熱交換器を用いて変更しスラリー調製槽内のスラリー温度が一定になるように調整するのみに変更する以外は、比較例1と同様の方法で共重合ポリエステルを得た。第1エステル化反応槽内に滞留する反応物の単位時間当たりの熱量変動は±3.5%であった。結果を表2に示す。本比較例で得られた共重合ポリエステルは、比較例1で得られた共重合ポリエステルの課題に加えて、共重合ポリエステルの品質変動が増大した。
【0147】
比較例4
比較例1の方法において、蒸留塔9および10に設けた蒸留塔底部より抜き出した残留分の蒸留塔への循環ラインを取り外し、該循環を取りやめて残留分の全量をそれぞれの供給先に送液するように変更した。本比較例で実施した場合は、蒸留塔底部から抜き出した残留分の送液ラインにおいて、時々固形分析出によるライン詰りが起こり、長期に渡り安定生産をすることができなかった。
【0148】
実施例2
実施例1の方法において、スラリー調製槽からエステル化反応槽への移送ラインの途中に攪拌機および温度調整機能を有したスラリー貯留槽を設けて、該スラリー貯留槽においてもスラリーの温度制御を行いスラリー温度の調整精度を上げるように変更する以外は、実施例1同様の方法で共重合ポリエステルを得た。第1エステル化反応槽内に滞留する反応物の単位時間当たりの熱量変動は±0.6%に向上した。結果を表1に示す。
本実施例におけるオリゴマーのカルボキシル末端基濃度や共重合ポリエステル特性の変動は実施例1の方法よりもさらに抑制されており、得られる共重合ポリエステルの品質が向上した。
【0149】
実施例3
実施例1の方法において、蒸留塔9の温度制御精度を±1%に向上させてかつ、スラリー中の水分量管理を近赤外線分光光度計を用いて行うように強化することにより、スラリー中の水分量が1.8±0.1%以内になるように変更する以外は、実施例1同様の方法で共重合ポリエステルを得た。結果を表1に示す。
本実施例におけるオリゴマーのカルボキシル末端基濃度や共重合ポリエステル特性の変動は実施例1の方法よりもさらに抑制されており、得られる共重合ポリエステルの品質が向上した。
【0150】
実施例4
実施例1の方法において、第1エステル化反応槽の温度および液面レベルの変動を±1.3%以内および±0.2%以内に制御し、実施例1と同様の方法で第1エステル化反応槽に供給するスラリーの単位時間当たりの熱量変動を±1.9%になるように制御するように変更する以外は、実施例1同様の方法で共重合ポリエステルを得た。結果を表1に示す。
本実施例で得られたオリゴマーのカルボキシル末端基濃度の変動や共重合ポリエステルの特性は実施例1で得られたものと同等であり高品質であった。なお、熱量計算の単位時間は1時間当たりで算出した。
【0151】
実施例5
実施例1の方法において、第1エステル化反応槽の温度および液面レベルの変動を±1.3%以内および±0.2%以内に制御し、第1エステル化反応槽内に滞留している反応物温度と第1エステル化反応槽供給されるスラリー温度を計測してこれらの温度差とスラリー流量およびスラリー比熱より算出される該スラリーにより持ち込まれる単位時間当りの熱量が一定になるように実施例1と同様の方法でスラリー温度を制御することにより、第1エステル化反応槽に供給するスラリーの単位時間当たりの熱量変動を±1.7%に制御するように変更する以外は、実施例1同様の方法で共重合ポリエステルを得た。結果を表1に示す。なお、熱量計算の単位時間は1時間当たりで算出した。また、反応槽内に滞留する反応物温度は、反応槽の底部の缶壁より300mm内部に入った位置で測定した。
【0152】
実施例6
実施例1の方法において、第1および第2エステル化反応槽より留出したグリコールを蒸留塔で分留して得た残留分(A’)の第1エステル化反応槽への供給を取りやめ、新規のEGを供給するように変更する以外は、実施例1と同様にして実施例6の共重合ポリエステルを得た。結果を表1に示す。10日間連続運転をした時の共重合ポリエステル特性の平均値は同等であったが、NPG含有量の変動は12時間毎に測定した時のNPGの含有量の変動範囲は26〜34モル%であった。
【0153】
【表1】

【0154】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0155】
本発明による共重合ポリエステルの製造方法は、リン化合物の存在下で共重合ポリエステルを連続的に製造する方法において、該共重合ポリエステルの製造工程で留出されるグリコール中に混入するリン化合物による共重合ポリエステルの品質に対する悪影響を経済性の高い方法で回避し循環再使用できるので、共重合ポリエステルの製造コストを大幅に低減することができるという利点を有する。また、該製造方法において、共重合組成比やカルボキシル末端基濃度等の品質変動が抑制され、かつ高品質、特に静電密着性の優れた共重合ポリエステルが安定して製造できるという極めて顕著な効果を奏する。従って、産業界に寄与することが大である。
【図面の簡単な説明】
【0156】
【図1】実施例および比較例における共重合ポリエステル製造工程のグリコールの流れ図である。
【符号の説明】
【0157】
1:計量タンク
2:スラリー調合槽
3:第1エステル化反応槽
4:第2エステル化反応槽
5:第3エステル化反応槽
6:第1重縮合反応槽
7:第2重縮合反応槽
8:第3重縮合反応槽
9および10:蒸留塔
11〜13:湿式コンデンサー
14および15:回収グリコール貯槽
16〜18:グリコール凝縮液貯槽
19〜21:冷却器
22:熱交換器
23〜39:ポンプ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン化合物の存在下で芳香族ジカルボン酸と2種以上のグリコールとを原料として、共重合ポリエステルを連続的に製造する共重合ポリエステルの製造方法において、製造工程より留出する留出分を蒸留塔で水を主体とした低沸点留分を分留除去して得た、水分量が5質量%以下の残留分を回収グリコールとして循環再使用し、かつ該回収グリコールとして共重合ポリエステル製造工程に供給される該回収グリコールに含まれるリン原子の供給量と、新規のリン化合物溶液として共重合ポリエステル製造工程に供給されるリン原子との総リン原子の供給量が一定になるように、共重合ポリエステル製造工程への新規のリン化合物溶液の供給量を調整することを特徴とする共重合ポリエステルの製造方法。
【請求項2】
上記残留分の水分量が1質量%以上で、かつX±2.0質量%(但しXは2以上3以下の数を表す)を同時に満足する範囲を満たすことを特徴とする請求項1に記載の共重合ポリエステルの製造方法。
【請求項3】
上記分留において、蒸留塔の中段温度を設定値±3℃以内に制御することを特徴とする請求項1または2に記載の共重合ポリエステルの製造方法。
【請求項4】
上記蒸留塔の底部より取り出される残留分の一部を該蒸留塔に循環することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の共重合ポリエステルの製造方法。
【請求項5】
上記の残留分の一部を第2エステル化反応槽以降の反応槽に供給することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の共重合ポリエステルの製造方法。
【請求項6】
第1エステル化反応槽内に滞留する反応物の単位時間当たりの熱量を設定値の±3.0%以内になるように制御することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の共重合ポリエステルの製造方法。
【請求項7】
重縮合反応開始前にアルカリ土類金属化合物および/またはアルカリ金属化合物を添加することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の共重合ポリエステルの製造方法。
【請求項8】
得られた共重合ポリエステルの溶融比抵抗が0.5×10Ω・cm以下であることを特徴とする請求項7に記載の共重合ポリエステルの製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2008−308569(P2008−308569A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−157074(P2007−157074)
【出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】