説明

共重合ポリエステル樹脂組成物およびその製造方法ならびにそれからなる二軸配向フィルム

【課題】二軸配向フィルムに成形した際に、温度や湿度の変化に対する優れた寸法安定性と、優れた表面粗さとを兼備し、高密度磁気記録媒体として極めて好適なフィルムが得られる共重合ポリエステル樹脂組成物の提供。
【解決手段】式(I)および(II)で表される芳香族ジカルボン酸残基(式(I)中のRは炭素数2〜10のアルキレン基、Rは2,6−ナフタレンジイル基をあらわし、式(II)中のRはフェニレン基またはナフタレンジイル基を表す。)と炭素数2〜4のアルキレングリコール残基とからなり、式(I)で表される芳香族ジカルボン酸残基の割合が5モル%以上50モル%未満である共重合ポリエステルに、式(A)で表されるリン化合物と金属化合物との反応物を含有させた共重合ポリエステル樹脂組成物。−(O)C−R−ORO−R−C(O)−(I)−(O)C−R−C(O)−(II)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寸法安定性に優れると共に平坦性に優れ、特に磁気記録媒体用として好適な二軸配向フィルムが得られる新規なポリエステル樹脂組成物およびそれからなる二軸配向フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートやポリエチレン−2,6−ナフタレートに代表されるポリエステルは優れた機械的特性、寸法安定性および耐熱性を有することから、フィルムなどに幅広く使用されている。特にポリエチレン−2,6−ナフタレートは、ポリエチレンテレフタレートよりも優れた機械的特性、寸法安定性および耐熱性を有することから、それらの要求の厳しい用途、例えば高密度磁気記録媒体などのベースフィルムなどに使用されている。しかしながら、近年の高密度磁気記録媒体などでの寸法安定性、特に温度や湿度の変化に対する寸法安定性の要求はますます高くなってきており、さらなる特性の向上が求められている。
【0003】
一方、特許文献1〜5には6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸を主とする酸成分と、ジオール成分とのエステル単位からなるポリエステルが提案されている。しかし、これらの文献に開示されたポリエステルは、融点が非常に高く、また結晶性も非常に高く、フィルムなどに成形しようとすると、溶融状態での流動性が乏しく、押出しが不均一化したり、押出した後に延伸しようとしても結晶化が進んで高倍率で延伸すると破断したりするなどの問題があった。
【0004】
【特許文献1】特開昭60−135428号公報
【特許文献2】特開昭60−221420号公報
【特許文献3】特開昭61−145724号公報
【特許文献4】特開平6−145323号公報
【特許文献5】国際公開第2008/010607号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、かかる問題を解消するために研究を進めた結果、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を特定割合で共重合すれば湿度膨張係数を小さくでき、しかも温度膨張係数は延伸によりヤング率を高めることができるので小さくできることを知見し、先に提案した。しかしながら、このように優れた特性を有する二軸配向フィルムではあるが、その表面粗さをみたとき、10μm程度の非常に長い周期で、従来のPETやPENでは見られなかった大きなうねりのような凹凸が形成されることが判明した。
【0006】
本発明は、上記を背景になされたもので、その目的は、二軸配向フィルムに成形した際に優れた寸法安定性特に温度や湿度の変化に対する寸法安定性と、表面粗さとを兼備し、例えば高密度磁気記録媒体として極めて好適なフィルムが得られる新規な共重合ポリエステル樹脂組成物およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために検討を重ねた結果、特定のリン化合物と金属化合物との反応物を含有させれば、温度膨張係数(αt)および湿度膨張係数(αh)などの共重合ポリエステルが有する優れた性能を維持しながら、上記うねりのような表面凹凸が抑制された二軸配向フィルが容易に得られることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
かくして本発明によれば、下記式(I)および(II)で表される芳香族ジカルボン酸残基と炭素数2〜4のアルキレングリコール残基とからなり、下記式(I)で表される芳香族ジカルボン酸残基の共重合割合が全ジカルボン酸成分を基準として5モル%以上50モル%未満である共重合ポリエステル中に、下記式(A)で表されるリン化合物と金属化合物との反応物を含有する共重合ポリエステル樹脂組成物が提供される。
−(O)C−R−ORO−R−C(O)− (I)
−(O)C−R−C(O)− (II)
(式(I)中のRは炭素数2〜10のアルキレン基、Rは2,6−ナフタレンジイル基をあらわし、式(II)中のRはフェニレン基またはナフタレンジイル基を表す。)
【0009】
【化1】

(上記式中のRは、炭素数1〜12個の炭化水素基であるアルキル基、アリール基またはベンジル基を表し、R、Rは、それぞれ独立に水素原子または炭素数の1〜12個の炭化水素基であるアルキル基、アリール基またはベンジル基を表す。)
【0010】
また、本発明によれば、下記式(III)および(IV)で表される芳香族ジカルボン酸成分であって、下記式(III)で表される芳香族ジカルボン酸成分の割合が全ジカルボン酸成分を基準として5モル%以上50モル%未満である芳香族ジカルボン酸成分と、炭素数2〜4のアルキレングリコールとをエステル化反応またはエステル交換反応させ、次いで重縮合反応させて共重合ポリエステルを製造するに際し、重縮合反応が完了する以前の任意の段階で、上記式(A)で表されるリン化合物と金属化合物とを予め反応させた反応物を添加するか、または、上記式(A)で表されるリン化合物と金属化合物とを別々または同時に添加する共重合ポリエステル樹脂組成物の製造方法も提供される。
O(O)C−R−ORO−R−C(O)OR (III)
O(O)C−R−C(O)OR (IV)
(式(III)中のRは炭素数2〜10のアルキレン基、Rは2,6−ナフタレンジイル基、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、式(IV)中のRはフェニレン基またはナフタレンジイル基、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
【発明の効果】
【0011】
本発明の共重合ポリエステル樹脂組成物を用いて得られる二軸配向フィルムは、温度膨張係数(αt)および湿度膨張係数(αh)が低く、機械的強度なども高いことから、温度や湿度などの環境変化に対する優れた寸法安定性を具備し、しかも10μm程度の長周期の表面うねりも抑制されているので、磁気記録媒体のベースフィルムなどに好適に用いることができる。
また本発明の製造方法によれば、上記の共重合ポリエステル樹脂組成物を効率よく提供できるので、工業的価値は極めて大である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の樹脂組成物の構成成分である共重合ポリエステルは、後述の芳香族ジカルボン酸残基と炭素数2〜4のアルキレングリコール残基とから形成される。
【0013】
〔芳香族ジカルボン酸残基〕
本発明にかかる共重合ポリエステルの芳香族ジカルボン酸残基は、5モル%以上50モル%未満が前記式(I)で表され、50モル%を超え95モル%以下が前記式(II)で表されるものである。
【0014】
式(I)中、Rは炭素数2〜10のアルキレン基である。アルキレン基としてエチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基等が挙げられる。
【0015】
式(I)で表される芳香族ジカルボン酸残基は、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸、6,6’−(トリメチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸および6,6’−(ブチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸由来のジカルボン酸残基が好ましく、なかでもRの炭素数が偶数のものが好ましく、特に6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸由来のジカルボン酸残基が、機械的特性を維持しながら湿度膨張係数に優れた二軸配向フィルムを得やすいことから好ましい。
【0016】
かかる式(I)で表される芳香族ジカルボン酸残基の割合は、全芳香族ジカルボン酸残基を基準として、上限は50モル%(50モル%を含まず)、好ましくは45モル%、より好ましくは40モル%、さらに好ましくは35モル%、特に好ましくは30モル%である。一方下限は、5モル%、好ましくは7モル%、より好ましくは10モル%、特に好ましくは15モル%である。したがって、式(I)で表されるジカルボン酸残基の割合は、5モル%以上50モル%未満である必要があり、好ましくは例えば5〜45モル%、より好ましくは7〜40モル%、さらに好ましくは10〜35モル%、特に好ましくは15〜30モル%の範囲である。
【0017】
本発明における共重合ポリエステルは、芳香族ジカルボン酸残基の5モル%以上50モル%未満の割合が前記式(I)で表される残基であることを特徴とする。式(I)で示される単位の割合が下限未満では、該ジカルボン酸残基を共重合することによる湿度膨張係数(αh)の低減効果などが発現し難くなる。一方、上限よりも少なくすることにより、フィルムに成形する際の製膜性に優れ、温度膨張係数(αt)などを小さくしやすいという利点がある。式(I)で表される残基による湿度膨張係数(αh)の低減効果は、少量で非常に効率的に発現されるので、本発明の共重合ポリエステルを用いることにより、温度膨張係数(αt)と湿度膨張係数(αh)の両方がともに低いフィルムを製造することができる。
【0018】
一方、前記式(II)で表される芳香族ジカルボン酸残基は、式中、Rはフェニレン基またはナフタレンジイル基であり、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸に由来する芳香族ジカルボン酸残基をあげることができる。なかでも、テレフタル酸または2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する酸残基が好ましく、特に2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する酸残基が好ましい。なお、これらは1種のみであっても、二種以上が組合わされていてもよい。
【0019】
[アルキレングリコール残基]
本発明にかかる共重合ポリエステルのアルキレングリコール残基は、−OC2nO−(nは2〜4の整数)で表され、エチレングリコール、トリメチレングリコールまたはテトラメチレングリコールに由来する残基である。中でもエチレングリコールが、フィルムに成形した際の機械的特性に優れることから好ましい。
【0020】
[共重合ポリエステル]
上記ジカルボン酸残基とアルキレングリコール残基とからなる共重合ポリエステルは、P−クロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(重量比40/60)の混合溶媒を用いて35℃で測定した固有粘度が0.4〜3dl/gの範囲が好ましく、さらには0.4〜1.5dl/g、特に0.5〜1.2dl/gの範囲が好ましい。
【0021】
また、DSCで測定した融点は、200〜260℃の範囲が好ましく、さらには210〜255℃、特に220〜253℃の範囲が好ましい。この融点が上限を越えると、溶融押出して成形する際に、流動性を高めるにはより高温にすることが必要になって熱劣化しやすくなり、一方、下限未満になると、製膜性は優れるものの、ポリエステルの持つ機械的特性などが損なわれやすくなる。
【0022】
さらに、DSCで測定したガラス転移温度(Tg)は、好ましくは80〜125℃、より好ましくは95〜123℃、特に好ましくは110〜120℃の範囲である。Tgがこの範囲にあると、耐熱性および寸法安定性に優れたフィルムなどの成形体を得ることができる。なお、融点およびガラス転移温度は、共重合成分の種類と共重合割合を制御することにより容易に調整できる。
【0023】
なお、本発明にかかる共重合ポリエステルには、本発明の効果を損なわない範囲で、それ自体公知の他の共重合成分を、例えば全酸成分を基準として10モル%以下、特に5モル%以下の範囲でさらに共重合していてもよい。
【0024】
また、本発明にかかる共重合ポリエステルは、式(I)で表される芳香族ジカルボン酸残基を含有する繰り返し単位と、該残基を含有しない繰り返し単位とが隣接する割合を抑制することで、より高温下で成形加工する際の伸びを抑制できるので好ましい。
【0025】
具体的には、前記式(I)で表される芳香族ジカルボン酸残基とアルキレングリコール残基とから形成される繰り返し単位(B)と、前記式(II)で表される芳香族ジカルボン酸残基とアルキレングリコール残基とから形成される繰り返し単位(C)とからなり、繰り返し単位(B)と(C)とが隣り合う割合(CB−C)が、下記式(1)
(CB−C)/2(C)*(C)<0.90 (1)
(上記式(1)中の、(C)は繰り返し単位(B)と(C)の合計モル数を基準としたときの繰り返し単位(B)の割合、(C)は繰り返し単位(B)と(C)の合計モル数を基準としたときの繰り返し単位(C)の割合、(CB−C)は繰り返し単位(B)と(C)、(B)と(B)および(C)と(C)が隣り合う合計のモル数を基準としたときの、繰り返し単位(B)と(C)とが隣り合う割合を意味する。)
を満足する共重合ポリエステルであることが好ましい。
【0026】
ここで、前述の式(1)における分母は、確率的に繰り返し単位(B)と(C)が隣り合う割合である。したがって、繰り返し単位(B)と(C)を形成するための芳香族ジカルボン酸成分とグリコール成分とを一緒にエステル化反応またはエステル交換反応させてから重縮合反応させると、ほぼこの値近くになる。そして、前述の式(1)の範囲にするということは、繰り返し単位(B)と(C)とが隣り合って結合する割合を少なくし、繰り返し単位(B)同士が隣り合う割合(CB−B)や繰り返し単位(C)同士が隣り合う割合(CC−C)を多くすることを意味する。そして、前述の式(1)の値を上限以下にすることで、前述の温度膨張係数や湿度膨張係数などの環境変化に対する寸法安定性の向上効果を損なうことなく、加工時に受けるような高温下で張力がかかったときの伸びをより抑制しやすくなる。このような共重合ポリエステルは、単純に繰り返し単位(B)と(C)を形成する芳香族ジカルボン酸成分とグリコール成分とを一緒にエステル化反応またはエステル交換反応および重縮合反応させるのではなく、例えば繰り返し単位(C)を主たる繰り返し単位とするポリエステルと、繰り返し単位(B)を主たる繰り返し単位とするポリエステルとを用意し、それらを溶融混練させることなどにより製造できる。もちろん、溶融混練で完全にエステル交換が進行してしまうと、前述の確率的に計算される割合に近づくため、溶融混練を比較的低温で短時間にすることが好ましい。なお、前述の式(1)で示される比の下限は特に制限されないが、少なくとも2種のポリエステルを溶融混練するときにエステル交換反応が進むことから、通常0.4以上になりやすく、緊密に混練しようとすると0.6以上になりやすい。
【0027】
[組成物]
本発明の共重合ポリエステル樹脂組成物は、上記の共重合ポリエステルに、下記式(A)で表されるリン化合物と金属化合物との反応物を含有していることが肝要である。好ましくは、共重合ポリエステル樹脂組成物の質量を基準として、金属元素量が10〜150質量ppm、特に20〜100質量ppmの範囲が好ましく、リン化合物と金属化合物との割合は前者:後者(モル比)で1:1〜2:1の範囲が好ましい。かくすることにより、フィルムに製膜した際、10μm程度の長周期の表面うねりが抑制され、特に磁気記録媒体のベースフィルムなどに好適なフィルムが得られる。
【0028】
【化2】

(上記式中のRは、炭素数1〜12個の炭化水素基であるアルキル基、アリール基またはベンジル基を表し、R、Rは、それぞれ独立に水素原子または炭素数の1〜12個の炭化水素基であるアルキル基、アリール基またはベンジル基を表す。)
【0029】
なお、リン化合物と金属化合物との反応物は、別途調整して共重合ポリエステルに添加してもよく、また共重合ポリエステルを製造する際、重縮合反応が完了する以前の段階でリン化合物と金属化合物とを同時にまたは別々に添加し、ポリエステルの製造反応時にこれらを反応させて形成してもよい。なかでも、エステル交換反応と重縮合反応とを経由して共重合ポリエステルを製造する際に、エステル交換反応触媒として後述するマンガン化合物、亜鉛化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物など金属化合物を用い、エステル交換反応が完了した後に該触媒の失活剤(安定剤)として上記のリン化合物を反応させるのが好ましい。
【0030】
本発明にかかる共重合ポリエステルにおいては、前述のとおり、前記繰り返し単位(B)が主体であるポリエステルと前記繰り返し単位(C)が主体であるポリエステルとを溶融ブレンドして製造したものであってもよいが、両ポリエステルの結晶性に差がある場合、この結晶性の差に起因して得られるフィルムの表面うねりが大きくなりやすくなる。本発明においては、この共重合ポリエステルにリン化合物と金属化合物との反応物を含有させているので、その詳細な理由は分からないが、フィルム表面のうねり発生が抑制され、より平坦化することができる。
【0031】
[リン化合物]
上記式(A)で表されるリン化合物としては、例えばフェニルホスホン酸、フェニルホスホン酸メチル、フェニルホスホン酸ジメチル、フェニルホスホン酸エチル、フェニルホスホン酸ジエチル、(2−ヒドロキシエチル)フェニルホスホネート、ビス(2−ヒドロキシエチル)フェニルホスホネート、ベンジルホスホン酸、ベンジルホスホン酸メチル、ベンジルホスホン酸ジメチル、ベンジルホスホン酸エチル、ベンジルホスホン酸ジエチル、1−ナフチルホスホン酸、1−ナフチルホスホン酸メチル、1−ナフチルホスホン酸ジメチル、1−ナフチルホスホン酸エチル、2−ナフチルホスホン酸、2−ナフチルホスホン酸メチル、2−ナフチルホスホン酸エチル、2−ナフチルホスホン酸ジエチル、1−ナフチルホスホン酸ジエチル、4−ヒドロキシベンジルホスホン酸、4−ヒドロキシベンジルホスホン酸メチル、4−ヒドロキシベンジルホスホン酸ジメチル、4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル、4−ヒドロキシベンジルホスホン酸ジエチル、4−ビフェニルホスホン酸、4−ビフェニルホスホン酸メチル、4−ビフェニルホスホン酸ジメチル、4−メチルベンジルホスホン酸ジメチル、4−ビフェニルホスホン酸エチル、4−メチルベンジルホスホン酸ジエチルなどを挙げることができる。これらのなかで、特にフェニルホスホン酸が好ましい。
【0032】
[金属化合物]
上記のリン化合物と反応させる金属化合物は特に限定されず、マンガン化合物、亜鉛化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物、コバルト化合物、セリウム化合物が挙げられ、この中でもマンガン化合物、亜鉛化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物などが好ましく、特にこれらの水酸化物、酢酸塩、炭酸塩などが好ましい。なかでも、マンガンまたは亜鉛の酢酸塩が最も好ましい。これらの金属化合物と前記のリン化合物との反応物が、共重合ポリエステル樹脂組成物からなるフィルムを製膜する際の均一性を向上させ、得られる二軸配向フィルムの表面うねりを抑制するものと推定される。
なお、上記金属化合物とリン化合物とを予め反応させてもよく、その場合には、例えば水酸化物、酢酸塩、炭酸塩などとリン化合物とをモル比1:1〜1:2で、エチレングリコール中、100〜190℃の温度に加熱することにより容易に得られる。
【0033】
もちろん、本発明の共重合ポリエステル樹脂組成物には、例えばフィルムに製膜する際の走行性や巻取り性などの観点から、それ自体公知の滑剤、例えば不活性粒子を添加してもよい。また、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の熱可塑性ポリマー、紫外線吸収剤等の安定剤、酸化防止剤、可塑剤、難燃剤、離型剤、顔料、核剤、充填剤あるいはガラス繊維、炭素繊維、層状ケイ酸塩などを必要に応じて配合してもよい。なお他の熱可塑性ポリマーとしては、液晶性樹脂、脂肪族ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリエーテルイミド、ポリイミドなどが挙げられる。
【0034】
[共重合ポリエステル樹脂組成物の製造方法]
以上に説明した本発明の共重合ポリエステル樹脂組成物は、例えば以下の方法によって製造することができる。まず、本発明で用いられる前記の共重合ポリエステルは、従来公知のポリエステル製造方法にしたがって製造することができる。以下、アルキレングリコールがエチレングリコールの場合を例として説明するが、他のアルキレングリコールも同様の方法で製造することができる。すなわち、下記式(III)で表される6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸もしくはそのエステル形成性誘導体と、下記式(IV)で表される、例えば2,6−ナフタレンジカルボン酸やテレフタル酸もしくはこれらのエステル形成性誘導体と、エチレングリコールとをエステル化反応もしくはエステル交換反応させ、ポリエステル前駆体を製造する。そして、得られたポリエステル前駆体を重縮合触媒の存在下で重縮合し、さらに必要に応じて固相重合することにより製造することができる。
O(O)C−R−ORO−R−C(O)OR (III)
O(O)C−R−C(O)OR (IV)
(式(III)中のRは炭素数2〜10のアルキレン基、Rは2,6−ナフタレンジイル基、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、式(IV)中のRはフェニレン基またはナフタレンジイル基、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
【0035】
なお、前述の式(I)と(II)で表される芳香族ジカルボン酸残基の割合が異なる2種類のポリエステルを作り、前述の式(I)と(II)の割合が目的となるようにそれらを溶融混練してもよい。
【0036】
上記ポリエステル前駆体を製造する工程では、エチレングリコールを全酸成分のモル数に対して、1.1〜6倍モル、さらに2〜5倍モル、特に3〜5倍モル用いることが生産性の点から好ましい。
【0037】
また、ポリエステル前駆体を製造する際の反応温度としては、エチレングリコールの沸点以上で行うことが好ましく、特に190〜250℃の範囲で行なうことが好ましい。190℃よりも低いと反応が十分に進行しにくく、250℃よりも高いと副反応物であるジエチレングリコールが生成しやすい。また、反応を常圧下で行うこともできるが、さらに生産性を高めるために加圧下で行ってもよい。
【0038】
このポリエステル前駆体を製造する工程では、公知のエステル化もしくはエステル交換反応触媒を用いてもよい。例えばアルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、チタン化合物などがあげられる。
【0039】
つぎに、重縮合反応の温度は270〜300℃の範囲が好ましく、また重縮合反応中の圧力は100Pa以下の減圧下が好ましい。重縮合反応中の圧力が100Paより高いと重縮合反応に要する時間が長くなり且つ重合度の高い共重合芳香族ポリエステルを得ることが困難になる。
【0040】
重縮合触媒としては、少なくとも一種の金属元素を含む金属化合物が挙げられる。なお、重縮合触媒はエステル化反応やエステル交換反応の触媒として併用してもよい。金属元素としては、チタン、ゲルマニウム、アンチモン、アルミニウム、ニッケル、亜鉛、スズ、コバルト、ロジウム、イリジウム、ジルコニウム、ハフニウム、リチウム、カルシウム、マグネシウムなどが挙げられる。より好ましい金属としては、チタン、ゲルマニウム、アンチモン、アルミニウム、スズなどであり、中でも、チタン化合物はエステル化反応やエステル交換反応と重縮合反応との双方の反応で、高い活性を発揮するので好ましい。
【0041】
これらの触媒は単独でも、あるいは併用してもよい。かかる触媒量は、共重合ポリエステルの繰り返し単位のモル数に対して、0.001〜0.5モル%、さらには0.005〜0.2モル%が好ましい。
【0042】
本発明の共重合ポリエステル樹脂組成物は、前記式(A)で表されるリン化合物と金属化合物とを予め反応させた反応物を、前記共重合ポリエステルの重縮合反応が完了する前の任意の段階もしくは重縮合反応が完了した後に添加混合してもよく、また、該リン化合物と金属化合物とを予め反応させることなくこれらを同時にもしくは別々に共重合ポリエステルの重縮合反応が完了する前の任意の段階もしくは重縮合反応が完了した後に添加し、これらを反応させてもよい。なかでも、重縮合反応が完了する以前の任意の段階で、該リン化合物と金属化合物とを別々または同時に添加するのが好ましい。特に、金属化合物として例えばマンガン、亜鉛、マグネシウム、カルシウムなどの水酸化物、酢酸塩、炭酸塩など、エステル交換反応触媒能を有するものを用い、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸のエステル形成性誘導体と、2,6−ナフタレンジカルボン酸もしくはテレフタル酸のエステル形成性誘導体と、エチレングリコールとをエステル交換反応させ、エステル交換反応が完了した後に、前記リン化合物を添加して該エステル交換反応触媒(金属化合物)と反応させ、次いで重縮合反応触媒を用いて重縮合反応させる方法が、簡便でしかも本発明の効果が大きいので好ましい。
【0043】
[二軸配向フィルム]
本発明の二軸配向フィルムは、上述の共重合ポリエステル樹脂組成物を溶融製膜して、シート状に押し出すことにより得られる。すなわち、本発明の共重合ポリエステル樹脂組成物は、溶融時の流動性、その後の結晶性、製膜性に優れ、厚み斑のない均一なフィルムを得ることができる。さらに本発明の二軸配向フィルムは、式(II)を含有する芳香族ポリエステルの有する、優れた機械的特性をも有する。
【0044】
なお、二軸配向フィルムの面方向とはフィルムの厚みに直交する面の方向であり、フィルムの製膜方向(縦方向)をMachine Direction(MD)、フィルムの幅方向(横方向)とはフィルムの製膜方向(MD)に直交する方向であり、Transverse Direction(TD)方向という。
【0045】
[温度膨張係数:αt]
本発明の二軸配向フィルムは、フィルムの幅方向の温度膨張係数(αt)が、好ましくは14×10−6/℃以下、より好ましくは10×10−6/℃以下、さらに好ましくは7×10−6℃以下、特に好ましくは5×10−6/℃以下の範囲であることが、雰囲気の温度変化による寸法変化に対して優れた寸法安定性を発現できることから好ましい。
【0046】
本発明における二軸配向フィルムの幅方向の温度膨張係数(αt)の下限は、好ましくは−15×10−6/℃、より好ましくは−10×10−6/℃、さらに好ましくは−7×10−6/℃である。フィルムの幅方向の温度膨張係数が上記範囲であることで、磁気テープにしたときの寸法変化を抑制しやすくなる。
【0047】
なお、特許文献3によれば、ポリアルキレン−6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエートを共重合したポリエステルフィルムの温度膨張係数(αt)は大きくなることが予想される。しかし、本発明によれば、特定の共重合比のポリエステルを採用し、かつ延伸することにより、温度膨張係数(αt)を小さくすることができる。
【0048】
[湿度膨張係数:αh]
本発明の二軸配向フィルムは、フィルムの幅方向の湿度膨張係数(αh)が1×10−6〜7×10−6/%RH、さらに1×10−6〜6×10−6/%RHの範囲にあることが好ましい。αhがこの範囲にあると、磁気記録テープにしたときの寸法安定性が良好となる。
【0049】
[ヤング率:Y]
本発明の二軸配向フィルムは、フィルムの製膜方向のヤング率が、好ましくは4.5GPa以上、より好ましくは5GPa以上であることが、高温加工時の伸びを抑制する点から好ましい。フィルムの製膜方向のヤング率(Y)の上限は12GPa程度がフィルムの幅方向にも十分なヤング率を具備させやすいことから好ましい。
【0050】
一方、本発明の二軸配向フィルムは、フィルムの幅方向のヤング率が、6〜14GPa、より好ましくは7〜12GPaの範囲にあることが、フィルムの幅方向の温度膨張係数や湿度膨張係数を上記範囲内に調整しやすいことから好ましい。
【0051】
[長周期のうねり値]
非接触式三次元表面粗さ計(ZYGO社製:New View5022)を用いて測定倍率10倍、測定面積283μm×213μm(=0.06mm)の条件にて測定し、該粗さ計に内蔵された表面解析ソフトMetro Proにより周波数解析を実施し、波長10μmの最大振幅をもってうねり値とした。この値は、0.60nm以下であることが好ましく、さらに0.40nm以下であることが好ましい。このうねり値が上記の範囲にあることにより、磁気記録テープとしたときの電磁変換特性に優れる。
【0052】
本発明の共重合ポリエステル樹脂組成物は、前記式(A)で表されるリン化合物と金属化合物との反応物を含有しているので、極めて高度の平坦性が要求される磁気記録テープなどのベースフィルム用として用いたとき、延伸の均一性が向上するためと推定されるが長周期のうねり状の凹凸発生が抑制できる。
【0053】
[二軸配向フィルムの製造方法]
まず、前述の共重合ポリエステル樹脂組成物を乾燥後、該共重合ポリエステルの融点(Tm:℃)ないし(Tm+50)℃の温度に加熱された押出機に供給して溶融し、例えばTダイなどのダイよりシート状に押出し、押出されたシート状物を回転している冷却ドラムなどで急冷固化して未延伸フィルムとする。
【0054】
前述のαt、αh、ヤング率などを達成するためには、その後の延伸を進行させやすくすることが大切であり、そのような観点から冷却ドラムによる冷却は非常に速やかに行なうことが好ましく、そのような観点から、特許文献3に記載されるような80℃といった高温ではなく、20〜60℃という低温で行なうことが好ましい。このような低温で行なうことで、未延伸フィルムの状態での結晶化が抑制され、その後の延伸をよりスムーズに行なうことが可能となる。
【0055】
本発明においては、上記のようにして得られた未延伸フィルムを二軸延伸する。二軸延伸としては、逐次二軸延伸でも同時二軸延伸でもよいが、ここでは、逐次二軸延伸で、縦延伸、横延伸および熱処理をこの順で行なう製造方法を一例として説明する。まず、最初の縦延伸は、共重合ポリエステルのガラス転移温度(Tg:℃)ないし(Tg+40)℃の温度で、3〜10倍、好ましくは4〜8倍に延伸し、次いで横方向に先の縦延伸よりも高温で(Tg+10)〜(Tg+50)℃の温度で3〜11倍、より好ましくは5〜10倍に延伸し、さらに熱処理としてポリマーの融点以下の温度でかつ(Tg+50)〜(Tg+150)℃の温度で1〜20秒間、好ましくは1〜15秒間熱固定処理する。
縦延伸と横延伸とを同時に行なう同時二軸延伸の場合には、上述の逐次二軸延伸の延伸倍率や延伸温度などを参考にすればよい。
【0056】
なお、本発明の共重合ポリエステル樹脂組成物は、他のポリマーとの積層フィルムとすることもできる。例えば2種以上の溶融ポリエステルをダイ内で積層してからフィルム状に押出すことができる。また2種以上の溶融ポリエステルをダイから押出した後に積層し、急冷固化して積層未延伸フィルムとすることもできる。押し出し温度は、好ましくはそれぞれのポリエステルの融点(Tm:℃)ないし(Tm+70)℃の温度である。
【0057】
ついで上述の単層フィルムの場合と同様な方法で二軸延伸および熱処理を行なえばよい。また、塗布層を設ける場合、未延伸フィルムまたは一軸延伸フィルムの片面または両面に所望の塗布液を塗布し、後は前述の単層フィルムの場合と同様な方法で二軸延伸および熱処理を行なうことが好ましい。
【実施例】
【0058】
以下に実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明では、以下の方法により、その特性を測定および評価した。また、実施例における部は重量部を表す。
【0059】
(1)固有粘度
得られた共重合ポリエステルの固有粘度はP−クロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(40/60重量比)の混合溶媒を用いてポリマーを溶解して35℃で測定して求めた。
【0060】
(2)ガラス転移点および融点
ガラス転移点および融点はDSC(TAインスツルメンツ社製、商品名:Q100)により昇温速度20℃/minで測定した。
【0061】
(3)共重合量
(グリコール成分)試料10mgをp−クロロフェノール:1,1,2,2−テトラクロロエタン=3:1(容積比)混合溶液0.5mlに80℃で溶解し、イソプロピルアミンを加えて十分に混合した後に、600MHzのH−NMRを日本電子株式会社製、JEOL A600を用いて80℃で測定し、それぞれのグリコール成分量を求めた。
(酸成分)試料60mgをp−クロロフェノール:1,1,2,2−テトラクロロエタン=3:1(容積比)混合溶液0.5mlに140℃で溶解し、150MHzの13C−NMRを日本電子株式会社製、JEOL A600を用いて140℃で測定し、それぞれの酸成分量を求めた。
【0062】
(4)ヤング率
得られたフィルムを試料巾10mm、長さ15cmで切り取り、チャック間100mm、引張速度10mm/分、チャート速度500mm/分の条件で万能引張試験装置(東洋ボールドウィン製、商品名:テンシロン)にて引っ張り、得られた荷重―伸び曲線の立ち上がり部の接線よりヤング率を計算した。
【0063】
(5)温度膨張係数(αt)
得られたフィルムを、フィルムのTD方向(またはMD方向)が測定方向となるように幅4mmに切り出し、セイコーインスツル株式会社製、商品名TMA/SS6000に測定長20mmでセットし、窒素雰囲気下(0%RH)、80℃で30分前処理し、その後室温まで降温させた。その後30℃から80℃まで2℃/minで昇温して、各温度でのサンプル長を測定し、次式より温度膨張係数(αt)を算出した。なお、測定方向が切り出した試料の長手方向であり、5回測定し、その平均値を用いた。
αt={(L60−L40)}/(L40×△T)}+0.5×10−6
ここで、上記式中のL40は40℃のときのサンプル長(mm)、L60は60℃のときのサンプル長(mm)、△Tは20(=60−40)℃、0.5×10−6(/℃)は石英ガラスの温度膨張係数(αt)である。
【0064】
(6)湿度膨張係数(αh)
得られたフィルムを、フィルムのTD方向(またはMD方向)が測定方向となるように幅5mmに切り出し、ブルカー・エイエックスエス株式会社製、商品名TMA4000SAに測定長15mmでセットし、30℃の窒素雰囲気下で、湿度20%RHと湿度80%RHにおけるそれぞれのサンプルの長さを測定し、次式にて湿度膨張係数(αh)を算出した。なお、測定方向が切り出した試料の長手方向であり、5回測定し、その平均値をαhとした。
αh=(L80−L20)/(L20×△H)
ここで、上記式中のL20は20%RHのときのサンプル長(mm)、L80は80%RHのときのサンプル長(mm)、△H:60(=80−20)%RHである。
【0065】
(7)長周期うねりの測定
得られた二軸配向フィルムを、非接触式三次元表面粗さ計(ZYGO社製:New View5022)を用いて測定倍率10倍、測定面積283μm×213μm(=0.06mm)の条件にて測定し、表面平均粗さ(Ra)を求めた。そして、該粗さ計に内蔵された表面解析ソフトMetro Proにより周波数解析を実施し、周波数10μmの最大振幅を持ってうねり値とした。
【0066】
(8)(CB−B)、(CC−C)、(CB−C)の割合
試料60mgをP−クロロフェノール:1,1,2,2−テトラクロロエタン=3:1の混合溶媒に140℃で溶解した。完全に溶解したことを確認後、150MHzの13C−NMRを日本電子株式会社製、JEOL A600を用いて140℃で測定した。なお、グリコール成分の両端に繰り返し単位(B)の酸成分が結合しているものと、グリコール成分の両端に繰り返し単位(C)の酸成分が結合しているものと、グリコール成分の一方の端に繰り返し単位(B)の酸成分が結合し、他方に繰り返し単位(C)の酸成分が結合しているものとでは、グリコール成分のピークの位置が異なる。したがって、(CB−B)、(CC−C)、(CB−C)の割合は、検出される、異なる位置に出てくるグリコール成分のピーク面積比から求めた。
【0067】
[参考例1]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル24.3部、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸ジメチル100部そしてエチレングリコール70部に、酢酸マンガン4水和物0.022部を加え、内圧0.2MPaコントロールの下エステル交換反応を行い、250℃まで昇温した後、フェニルホスホン酸0.042部さらに三酸化アンチモン0.019部を添加し、引き続いて重縮合反応を行って、固有粘度0.66dl/g、酸成分の30モル%が2,6−ナフタレンジカルボン酸成分、酸成分の70モル%が6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分、グリコール成分の98モル%がエチレングリコール成分、2モル%がジエチレングリコール成分である共重合ポリエステルA1を得た。
【0068】
[参考例2]
フェニルホスホン酸の代わりにトリエチルホスホノアセテート0.04部を添加した以外は、参考例1と同様に作製し、固有粘度0.64dl/gの共重合ポリエステルA2を得た。
【0069】
[参考例3]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル100部、エチレングリコール50.8部に、酢酸マンガン4水和物0.03部を加え、常圧下エステル交換反応を行い、240℃まで昇温した後、フェニルホスホン酸0.052部さらに三酸化アンチモン0.024部を添加し、引き続いて重縮合反応を行って、固有粘度0.62dl/gの、グリコール成分の98モル%がエチレングリコール成分、2モル%がジエチレングリコール成分であるポリエステルB1を得た。
【0070】
[参考例4]
フェニルホスホン酸の代わりにトリエチルホスホノアセテート0.049部を添加した以外は、参考例1と同様にし、固有粘度0.62dl/gのポリエステルB2を得た。
【0071】
[実施例1]
参考例1で作られたポリエステルA1と参考例3で作られたポリエステルB1を重量比1:1でブレンドしたものを、押し出し機に供給して290℃でダイから溶融状態で回転中の温度50℃の冷却ドラム上にシート状に押し出し未延伸フィルムを得た。ついで、製膜方向に沿って回転速度の異なる二組のローラー間で、上方よりIRヒーターにてフィルム表面温度が135℃になるように加熱して縦方向(製膜方向)に延伸倍率5.6倍で延伸して一軸延伸フィルムとなし、さらにこの一軸延伸フィルムをステンターに導き、145℃で横方向(幅方向)に延伸倍率8.5倍で延伸し、その後200℃で5秒間熱固定処理を行い、厚さ5μmの二軸延伸フィルムを得た。得られた二軸配向ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0072】
[実施例2]
参考例2で作られたポリエステルA2と参考例3で作られたポリエステルB1を使用したこと以外は、実施例1と同様に二軸延伸フィルムを得た。得られた二軸配向ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0073】
[比較例1]
参考例2で作られたポリエステルA2と参考例4で作られたポリエステルB2を使用したこと以外は、実施例1と同様に二軸延伸フィルムを得た。得られた二軸配向ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0074】
[実施例3]
参考例1で作られたポリエステルA1と参考例3で作られたポリエステルB1を重量比1:1.9でブレンドしたものを、押し出し機に供給して290℃でダイから溶融状態で回転中の温度50℃の冷却ドラム上にシート状に押し出し未延伸フィルムを得た。次いで、製膜方向に沿って回転速度の異なる二組のローラー間で、上方よりIRヒーターにてフィルム表面温度が135℃になるように加熱して縦方向(製膜方向)に延伸倍率5.0倍で延伸して一軸延伸フィルムとなし、さらにこの一軸延伸フィルムをステンターに導き、150℃で横方向(幅方向)に延伸倍率8.0倍で延伸し、その後205℃で5秒間熱固定処理を行い、厚さ5μmの二軸延伸フィルムを得た。得られた二軸配向ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0075】
[実施例4]
参考例2で作られたポリエステルA2と参考例3作られたポリエステルB1を使用したこと以外は、実施例2と同様に二軸延伸フィルムを得た。得られた二軸配向ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0076】
[比較例2]
参考例3で作られたポリエステルA3と参考例5で作られたポリエステルB2を使用したこと以外は、実施例2と同様に二軸延伸フィルムを得た。得られた二軸配向ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0077】
[実施例5]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル100部、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸ジメチル38.7部、そしてエチレングリコール73.1部に、酢酸マンガン4水和物0.037部を加え、内圧0.2MPaコントロールの下エステル交換反応を行い、250℃まで昇温した後、フェニルホスホン酸0.063部さらに三酸化アンチモン0.029部を添加し、引き続いて重縮合反応を行って、固有粘度0.66dl/g、酸成分の82モル%が2,6−ナフタレンジカルボン酸成分、酸成分の18モル%が6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分、グリコール成分の98モル%がエチレングリコール成分、2モル%がジエチレングリコール成分である共重合ポリエステルを得た。これを押し出し機に供給して290℃でダイから溶融状態で回転中の温度50℃の冷却ドラム上にシート状に押し出し未延伸フィルムを得た。次いで、製膜方向に沿って回転速度の異なる二組のローラー間で、上方よりIRヒーターにてフィルム表面温度が135℃になるように加熱して縦方向(製膜方向)に延伸倍率5.0倍で延伸して一軸延伸フィルムとなし、さらにこの一軸延伸フィルムをステンターに導き、150℃で横方向(幅方向)に延伸倍率8.0倍で延伸し、その後205℃で5秒間熱固定処理を行い、厚さ5μmの二軸延伸フィルムを得た。得られた二軸配向ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0078】
[比較例3]
フェニルホスホン酸の代わりにトリエチルホスホノアセテート0.06部を添加した以外は、実施例5と同様に実施し、厚さ5μmの二軸延伸フィルムを得た。得られた二軸配向ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0079】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の共重合ポリエステル樹脂組成物を用いて得られる二軸配向フィルムは、従来のポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートやポリアルキレン−6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエートでは達成できなかったような低い温度膨張係数(αt)および低い湿度膨張係数(αh)を有し、しかも機械的強度なども高いことから、温度や湿度などの環境変化に対して優れた寸法安定性を具備し、しかも10μm程度の長周期の表面うねりも抑制されているので、磁気記録媒体のベースフィルムなどに好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)および(II)で表される芳香族ジカルボン酸残基と炭素数2〜4のアルキレングリコール残基とからなり、下記式(I)で表される芳香族ジカルボン酸残基の共重合割合が全ジカルボン酸残基を基準として5モル%以上50モル%未満である共重合ポリエステル中に、下記式(A)で表されるリン化合物と金属化合物との反応物を含有する共重合ポリエステル樹脂組成物。
−(O)C−R−ORO−R−C(O)− (I)
−(O)C−R−C(O)− (II)
(式(I)中のRは炭素数2〜10のアルキレン基、Rは2,6−ナフタレンジイル基をあらわし、式(II)中のRはフェニレン基またはナフタレンジイル基を表す。)
【化1】

(上記式中のRは、炭素数1〜12個の炭化水素基であるアルキル基、アリール基またはベンジル基を表し、R、Rは、それぞれ独立に水素原子または炭素数の1〜12個の炭化水素基であるアルキル基、アリール基またはベンジル基を表す。)
【請求項2】
金属化合物が、マンガン、亜鉛、マグネシウムまたはカルシウムの、水酸化物、酢酸塩または炭酸塩から選ばれる少なくとも1種の金属化合物である請求項1に記載の共重合ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
リン化合物がフェニルホスホン酸である請求項1または2に記載の共重合ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
式(A)で表されるリン化合物と金属化合物とのモル比が1:1〜2:1(前者:後者)である請求項1〜3のいずれかに記載の共重合ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
前記式(II)で表わされる芳香族ジカルボン酸残基が、2,6−ナフタレンジカルボン酸残基である請求項1〜4のいずれかに記載の共重合ポリエステル樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の共重合ポリエステル樹脂組成物からなる二軸配向フィルム。
【請求項7】
下記式(III)および(IV)で表される芳香族ジカルボン酸成分であって、下記式(III)で表される芳香族ジカルボン酸成分の割合が全ジカルボン酸成分を基準として5モル%以上50モル%未満である芳香族ジカルボン酸成分と、炭素数2〜4のアルキレングリコールとをエステル化反応またはエステル交換反応させ、次いで重縮合反応させて共重合ポリエステルを製造するに際し、重縮合反応が完了する以前の任意の段階で、下記式(A)で表されるリン化合物と金属化合物とを予め反応させた反応物を添加するか、または、下記式(A)で表されるリン化合物と金属化合物とを別々または同時に添加する共重合ポリエステル樹脂組成物の製造方法。
O(O)C−R−ORO−R−C(O)OR (III)
O(O)C−R−C(O)OR (IV)
(式(III)中のRは炭素数2〜10のアルキレン基、Rは2,6−ナフタレンジイル基、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、式(IV)中のRはフェニレン基またはナフタレンジイル基、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
【化2】

(上記式中のRは、炭素数1〜12個の炭化水素基であるアルキル基、アリール基またはベンジル基を表し、R、Rは、それぞれ独立に水素原子または炭素数の1〜12個の炭化水素基であるアルキル基、アリール基またはベンジル基を表す。)

【公開番号】特開2010−31139(P2010−31139A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−194446(P2008−194446)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】