説明

共重合体および該共重合体を用いる位相差フィルム

【課題】負の固有複屈折値を示し、面内位相差の波長分散が大きい位相差フィルムおよびそのような位相差フィルムが得られる共重合体を提供する。
【解決手段】特定のアクリレート系繰り返し単位、特定のビニル系繰り返し単位および特定のアクリロニトリル系繰り返し単位を含む共重合体であり、該アクリレート系繰り返し単位の含有割合が該共重合体を構成する繰り返し単位の全量に対して1〜30mol%であり、該アクリロニトリル系繰り返し単位の含有割合が該共重合体を構成する繰り返し単位の全量に対して10〜35mol%であり、該アクリレート系繰り返し単位、該ビニル系繰り返し単位および該アクリロニトリル系繰り返し単位を含む共重合体で表される繰り返し単位の合計の含有割合が該共重合体を構成する繰り返し単位の全量に対して70mol%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共重合体および該共重合体を用いる位相差フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
可視光領域のすべての光について所定の位相差を示す位相差板として、面内の固有複屈折値が正の光学異方性層と固有複屈折値が負の光学異方性層とを、互いの光軸が平行になるように積層してなる積層位相差板が知られている。しかし、固有複屈折値が負の光学材料は、知られている数が比較的少なく、上記積層位相差板を作製する際、材料選択の余地が狭いという問題点がある。
【0003】
また、上記積層位相差板は、短波長側の位相差が小さく、長波長側の位相差が大きいといういわゆる逆波長分散特性を実現するために作製されることが多い。したがって、固有複屈折値が正の光学異方性層は、可視光領域における面内位相差の波長分散が小さいものが求められ、一方、固有複屈折値が負の光学異方性層は、同波長分散の大きいものが求められる。このように、可視光領域における波長分散が大きくかつ固有複屈折値が負の光学材料が求められている。
【特許文献1】特開2002−156525
【特許文献2】特開2006−208604
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、負の固有複屈折値を示し、面内位相差の波長分散が大きい位相差フィルムおよびそのような位相差フィルムが得られる共重合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の共重合体は、下記一般式(I)で表されるアクリレート系繰り返し単位、下記一般式(II)で表されるビニル系繰り返し単位および下記一般式(III)で表わされるアクリロニトリル系繰り返し単位を含む共重合体であり、該一般式(I)で表されるアクリレート系繰り返し単位の含有割合が該共重合体を構成する繰り返し単位の全量に対して1〜30mol%であり、該一般式(III)で表わされるアクリロニトリル系繰り返し単位の含有割合が該共重合体を構成する繰り返し単位の全量に対して10〜35mol%であり、該一般式(I)、(II)および(III)で表される繰り返し単位の合計の含有割合が該共重合体を構成する繰り返し単位の全量に対して70mol%以上である。
【化1】

ここで、Rは、水素原子またはメチル基であり、Rは、−O−CH−CH−O−または酸素原子である。
【化2】

【化3】

ここで、Rは、水素原子またはメチル基である。
【0006】
本発明の別の局面によれば、位相差フィルムが提供される。本発明の位相差フィルムは、上記共重合体を含む高分子フィルムを延伸して得られる。
【0007】
好ましい実施形態においては、上記位相差フィルムは、屈折率分布がnx=nz>nyである。
【0008】
好ましい実施形態においては、上記位相差フィルムは、波長480nmにおける面内位相差(Re(480))と波長550nmにおける面内位相差(Re(550))とが1.045<Re(480)/Re(550)の関係を満足する。
【0009】
好ましい実施形態においては、上記位相差フィルムは、固有複屈折値が負の光学特性を示す。
【0010】
本発明の別の局面によれば、偏光板が提供される。本発明の偏光板は、上記位相差フィルムを偏光子保護フィルムとして含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、上記一般式(I)〜(III)で表わされる繰り返し単位を所定の割合で含む共重合体を含む高分子フィルムを延伸することで、負の固有複屈折値を示し、面内位相差の波長分散が大きい位相差フィルムを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(用語および記号の定義)
本明細書における用語および記号の定義は下記の通りである:
(1)「nx」は面内の屈折率が最大になる方向(すなわち、遅相軸方向)の屈折率であり、「ny」は面内で遅相軸に垂直な方向(すなわち、進相軸方向)の屈折率であり、「nz」は厚み方向の屈折率である。また、例えば「nx=nz」は、nxとnzが厳密に等しい場合のみならず、nxとnzが実質的に等しい場合も包含する。本明細書において「実質的に等しい」とは、フィルムの光学特性に実用上の影響を与えない範囲でnxとnzが異なる場合も包含する趣旨である。
(2)面内位相差Re(λ)
面内位相差Re(λ)は、23℃で波長λnmにおけるフィルム面内の位相差値をいう。Reは、フィルムの厚みをd(nm)としたとき、Re=(nx−ny)×dによって求められる。
(3)厚み方向の位相差Rth(λ)
厚み方向の位相差Rth(λ)は、23℃で波長λnmにおけるフィルムの厚み方向の位相差値をいう。Rthは、フィルムの厚みをd(nm)としたとき、Rth=(nx−nz)×dによって求められる。
(4)Nz係数
Nz係数は、Nz=Rth/Reによって求められる。
【0013】
A.共重合体の合成
本発明の共重合体は、下記一般式(I)で表されるアクリレート系繰り返し単位、下記一般式(II)で表されるビニル系繰り返し単位および下記一般式(III)で表されるアクリロニトリル系繰り返し単位を含む。
【化1】

ここで、Rは、水素原子またはメチル基である。Rは、−O−CH−CH−O−または酸素原子である。
【化2】

【化3】

ここで、Rは、水素原子またはメチル基である。
【0014】
上記一般式(I)で表されるアクリレート系繰り返し単位の含有割合は、共重合体を構成する繰り返し単位の全量に対して、1〜30mol%であり、好ましくは5〜20mol%、さらに好ましくは10〜15mol%である。このような含有割合であれば、得られた共重合体を用いた位相差フィルムは耐熱性に優れる。
【0015】
上記一般式(III)で表されるアクリロニトリル系繰り返し単位の含有割合は、共重合体を構成する繰り返し単位の全量に対して、10〜35mol%であり、好ましくは15〜30mol%、さらに好ましくは20〜30mol%である。このような含有割合であれば、得られた共重合体を用いた位相差フィルムは後述のように固有複屈折値が負の光学的特性を示し、かつ大きな波長分散特性を示す。したがって、該位相差フィルムと固有複屈折値が正の光学材料とを組み合わせれば、優れた逆波長分散特性を示す積層位相差板を得ることができる。なお、逆波長分散特性とは、短波長側の位相差が小さく、長波長側の位相差が大きい特性をいう。
【0016】
上記一般式(I)で表されるアクリレート系繰り返し単位、上記一般式(II)で表されるビニル系繰り返し単位および上記一般式(III)で表されるアクリロニトリル系繰り返し単位の含有量はそれらの合計が、上記共重合体を構成する繰り返し単位の全量に対して70mol%以上であり、好ましくは75%以上、さらに好ましくは80mol%以上である。
【0017】
上記共重合体は、さらに目的に応じて適切な他の単量体を含んで重合してもよい。他の単量体は、例えば、(メタ)アクリレート系単量体、N−ビニルカルバゾールなどが挙げられる。(メタ)アクリレート系単量体の具体例としては、メチル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレートのエチレンオキシド付加物(例えば、新中村化学社製、商品名「M−230G」)、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート(例えば、日立化成社製、商品名「FA−P270A」)が挙げられる。アルキル(メタ)アクリレートを含んで重合した場合、重合性を向上させることができ、分子量の大きい高分子フィルムを得ることができる。N−ビニルカルバゾールを含んで重合した場合、波長分散の大きい位相差フィルムを得ることができる。メチル(メタ)アクリレートのエチレンオキシド付加物を含んで重合した場合、可とう性に優れる位相差フィルムを得ることができる。ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートを含んで重合した場合、フィルム強度に優れる位相差フィルムを得ることができる。
【0018】
上記共重合体は、任意の適切な方法により、製造され得る。製造方法としては、例えば、上記一般式(I)で表される単量体、上記一般式(III)で表される単量体および酢酸ビニル単量体を溶液重合し、得られた重合体をケン化する方法が挙げられる。この方法によれば、酢酸ビニル繰り返し単位がケン化されて得られる上記一般式(II)で表される繰り返し単位を有する上記共重合体を得ることができる。なお、該ケン化反応後に酢酸ビニル繰り返し単位が残留していもよい。酢酸ビニル繰り返し単位の残留量としては、共重合体の全量に対して、好ましくは10mol%以下、さらに好ましくは5mol%以下である。
【0019】
B.位相差フィルムの製造方法
本発明の位相差フィルムは、上記共重合体を含む高分子フィルムを延伸することによって製造される。
【0020】
上記高分子フィルムは、任意の適切な成形加工法によって製造され得る。具体例としては、圧縮成形法、トランスファー成形法、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、粉末成形法、FRP成形法、キャスト法等が挙げられる。圧縮成形法により、上記共重合体をシート状に成形することが好ましい。
【0021】
上記高分子フィルムは、任意の適切な添加剤をさらに含有し得る。上記添加剤としては、例えば、酸化防止剤、可塑剤、熱安定剤、光安定剤、滑剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤、難燃剤、着色剤、帯電防止剤、相溶化剤、架橋剤、及び増粘剤等が挙げられる。上記添加剤の含有量は、好ましくは、上記共重合体に対し、0〜10mol%である。
【0022】
上記高分子フィルムを延伸する方法は、任意の適切な延伸方法を採用し得る。延伸方法の具体例としては、横一軸延伸、自由端一軸延伸、固定端二軸延伸、固定端一軸延伸、逐次二軸延伸が挙げられる。好ましくは、自由端一軸延伸である。
【0023】
上記高分子フィルムを延伸する温度(延伸温度)は、好ましくは80〜200℃であり、より好ましくは90〜160℃、さらに好ましくは100〜140℃である。上記延伸温度が80℃より低いと、高分子フィルムが破断してしまうおそれがある。上記延伸温度が200℃を超えると、高分子フィルムが溶融し始めるおそれがある。
【0024】
上記高分子フィルムを延伸する倍率(延伸倍率)は、好ましくは1.5〜5倍であり、さらに好ましくは1.5〜3倍である。1.5倍未満であると位相差発現性が悪くなるおそれがあり、5倍を超えて延伸すると高分子フィルムが破断するおそれがある。
【0025】
上記高分子フィルムを延伸する速度(延伸速度)は、好ましくは1〜7mm/secであり、さらに好ましくは3〜5mm/secである。
【0026】
C.位相差フィルムの特性
本発明の位相差フィルムは、nx=nz>nyの屈折率分布を有する。また、上記位相差フィルムは、好ましくは固有複屈折値が負の光学特性を示す。「固有複屈折値」とは、結合鎖(主鎖)が延びきって理想状態まで配向した時の複屈折率の値(すなわち、理想配向条件下での複屈折率の値)である。「固有複屈折値が負の光学特性」とは、高分子フィルムを一方向に延伸した場合に、フィルム面内の屈折率が大きくなる方向(遅相軸方向)が、延伸方向と実質的に直交するものをいう。したがって、本発明において上記高分子フィルムを一軸延伸する場合、得られる位相差フィルムの遅相軸方向は、延伸方向と実質的に直交する。
【0027】
上記位相差フィルムのRe(550)は、好ましくは60nm以上、より好ましくは60〜200nmであり、さらに好ましくは70〜160nmであり、特に好ましくは90〜160nmである。
【0028】
上記位相差フィルムは、nxとnzが厳密に等しくない場合には、厚み方向の位相差Rth(590)が存在し得る。この場合、Rth(590)は、好ましくは−10〜10nmであり、より好ましくは−8〜4nmであり、さらに好ましくは−5〜2nmであり、最も好ましくは−2〜1nmである。
【0029】
上記位相差フィルムのNz係数は、好ましくは−0.2〜0.2であり、さらに好ましくは−0.1〜0.1であり、特に好ましくは−0.06〜0.05である。
【0030】
上記位相差フィルムの厚みは、本発明の効果を奏する限りにおいて、任意の適切な厚みが採用され得る。代表的には、厚みは、所望の位相差に応じて変化し得る。具体的には、厚みは、好ましくは10〜200μm、さらに好ましくは50〜100μmである。本発明の位相差フィルムは、位相差発現性に優れるので、このように厚みの薄い位相差フィルムを用いても所望の位相差を得ることができ、薄型が望まれる液晶表示装置に好適な位相差フィルムとなり得る。
【0031】
上記位相差フィルムの波長分散Re(480)/Re(550)は、1.045<Re(480)/Re(550)であり、好ましくは1.045<Re(480)/Re(550)≦1.15、さらに好ましくは1.06<Re(480)/Re(550)≦1.15である。また、波長分散Re(550)/Re(650)は、好ましくは1.045<Re(550)/Re(650)であり、さらに好ましくは1.045<Re(550)/Re(650)≦1.15、より好ましくは1.06<Re(550)/Re(650)≦1.15である。このような範囲の位相差フィルムを用いることにより、該位相差フィルムと固有複屈折値が正の光学材料とを組み合わせて積層位相差板を作製する際に、優れた逆波長分散特性の積層位相差板を得ることができる。
【0032】
上記位相差フィルムの光弾性係数の絶対値C(550)(m/N)は、好ましくは30×10−12/N以下であり、さらに好ましくは20×10−12/N以下であり、最も好ましくは−10×10−12〜10×10−12/Nである。このような範囲の位相差フィルムを用いることにより、バックライトの熱による表示ムラのない画像表示装置を得ることができる。
【0033】
上記位相差フィルムのガラス転移温度は、80〜180℃であり、好ましくは100〜160℃であり、さらに好ましくは110〜140℃である。本発明の位相差フィルムは、このようにガラス転移温度が高く、耐熱性に優れており、高温環境下における使用にも耐え得る。
【0034】
D.偏光板
本発明の偏光板は、本発明の位相差フィルムを偏光子保護フィルムとして含む。好ましくは、ポリビニルアルコール系樹脂から形成される偏光子と本発明の位相差フィルムとを含む偏光板であって、該偏光子は接着層を介して該位相差フィルムに接着される。
【0035】
上記偏光子としては、自然光又は偏光を直線偏光に変換するものであれば、適切なものが採用され得る。上記偏光子は、好ましくは、ヨウ素又は二色性染料を含有するポリビニルアルコール系樹脂を主成分とする延伸フィルムである。上記偏光子の厚みは、通常、5μm〜50μmである。
【0036】
上記接着層は、隣り合う部材の面と面とを接合し、実用上十分な接着力と接着時間で、一体化させるものであれば、任意の適切なものが選択され得る。上記接着層を形成する材料としては、例えば、接着剤、粘着剤、アンカーコート剤が挙げられる。上記接着層は、被着体の表面にアンカーコート剤層が形成され、その上に接着剤層または粘着剤層が形成されたような多層構造であってもよいし、肉眼的に認知できないような薄い層(ヘアーラインともいう)であってもよい。偏光子の一方の側に配置された接着層と他方の側に配置された接着層は、それぞれ同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0037】
上記偏光板の、偏光子と位相差フィルムと貼着する角度は、目的に応じて、適宜、設定され得る。上記偏光板は、例えば、円偏光板として用いられる場合は、上記偏光子の吸収軸方向と上記位相差フィルムの遅相軸方向とのなす角度が、好ましくは25°〜65°であり、さらに好ましくは35°〜55°である。なお、円偏光板として用いられる場合の位相差フィルムの面内位相差は、好ましくは、可視光の波長の約1/4である。視野角拡大フィルムとして用いられる場合は、上記偏光板は、上記偏光子の吸収軸方向と上記位相差フィルムの遅相軸方向とのなす角度が、実質的に平行又は実質的に直交である。本明細書において「実質的に平行」とは、偏光子の吸収軸方向と位相差フィルムの遅相軸方向とのなす角度が、0°±10°の範囲を包含し、好ましくは0°±5°である。「実質的に直交」とは、偏光子の吸収軸方向と位相差フィルムの遅相軸方向とのなす角度が、90°±10°の範囲を包含し、好ましくは90°±5°である。
【0038】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例には限定されない。評価は以下のようにして行った。
【0039】
(1)位相差値(Re、Rth):
位相差フィルムの屈折率nx、nyおよびnzを、自動複屈折測定装置(王子計測機器株式会社製、自動複屈折計KOBRA−WPR)により計測し、面内位相差Reおよび厚み方向位相差Rthを算出した。測定温度は23℃、測定波長は550nmであった。波長分散特性に関しては、480、550および650nmで測定した。
(2)光弾性係数の絶対値(C(550))の測定方法:
分光エリプソメーター[日本分光(株)製 製品名「M−220」]を用いて、サンプル(サイズ2cm×10cm)の両端を挟持して応力(5〜15N)をかけながら、サンプル中央の位相差値(23℃/波長590nm)を測定し、応力と位相差値の関数の傾きから算出した。
(3)ガラス転移温度:
示差走査熱量計[Seiko Instrument社製 製品名「DSC−6200」]を用いて、JIS K 7121(1987)(プラスチックの転移温度の測定方法)に準じた方法により求めた。具体的には、3mgの粉末サンプルを、窒素雰囲気下(ガスの流量;80ml/分)で昇温(加熱速度;10℃/分)させて2回測定し、2回目のデータを採用した。熱量計は、標準物質(インジウム)を用いて温度補正を行なった。
【実施例1】
【0040】
共重合体の合成1
還流冷却器、攪拌機を備えた1Lのセパラブルフラスコに、ジシクロペンタニルメタクリレート(日立化成社製、商品名「FA−513M」)65.5g(11.5mol%)、酢酸ビニルモノマー99.5g(45mol%)、N−ビニルカルバゾール24.7g、メチルメタクリレート17.8g、メチルメタクリレートEO付加物(新中村化学社製、商品名「M−230G」)33.5g、2、2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(Wako社製、商品名「V−65」)の5%トルエン溶液7.17g、t−ブタノール32.25gを加えて、攪拌しながら90℃まで昇温させた。続いて、その反応溶液にそれぞれ別々の滴下ノズルから、メチルメタクリレート17.8g、アクリロニトリル32.1g(23.5mol%)、2、2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)の5%トルエン溶液7.5g、トルエン11g、t−ブタノール20.9gの滴下を同時に開始した。滴下は連続的に行われ、滴下速度は一定に保った。それぞれの滴下時間は、メチルメタクリレートおよびアクリロニトリルを60分間、2、2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、t−ブタノールおよびトルエンを240分間とした。2、2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)の滴下終了後、110℃で90分間熟成し、重合を完結した。重合完結後、重合反応液を冷却し、別に用意した水酸化ナトリウムの1.5%メタノール溶液49.3gを10分間かけて滴下し、40℃で1時間攪拌し、ケン化を行った。そのケン化液に対して大量のメタノールによる再沈殿を行い、沈殿物をろ取した。ろ取物を減圧乾燥し、薄黄色個体の共重合体(a)140gを得た。
【実施例2】
【0041】
共重合体の合成2
還流冷却器、攪拌機を備えた1Lのセパラブルフラスコに、ジシクロペンタニルメタクリレート112g(15mol%)、酢酸ビニルモノマー117g(40mol%)、メチルメタクリレート25.5g、2、2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)の5%トルエン溶液7.47g、t−ブタノール37.17gを加えて、攪拌しながら90℃まで昇温させた。続いて、その反応溶液にそれぞれ別々の滴下ノズルから、メチルメタクリレート25.5g、アクリロニトリル54g(30mol%)、2、2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)の5%トルエン溶液5.9g、トルエン11g、t−ブタノール20.1gの滴下を同時に開始した。滴下は連続的に行われ、滴下速度は一定に保った。それぞれの滴下時間は、メチルメタクリレートおよびアクリロニトリルを60分間、2、2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、t−ブタノールおよびトルエンを240分間とした。2、2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)の滴下終了後、110℃で90分間熟成し、重合を完結した。重合完結後、重合反応液を冷却し、別に用意した水酸化ナトリウムの1.5%メタノール溶液52.2gを10分間かけて滴下し、40℃で1時間攪拌し、ケン化を行った。そのケン化液に対して大量のメタノールによる再沈殿を行い、沈殿物をろ取した。ろ取物を減圧乾燥し、薄黄色個体の共重合体(b)165gを得た。
【実施例3】
【0042】
共重合体の合成3
還流冷却器、攪拌機を備えた1Lのセパラブルフラスコに、ジシクロペンタニルメタクリレート73g(11mol%)、酢酸ビニルモノマー143.3g(55mol%)、N−ビニルカルバゾール6.0g、メチルメタクリレート13.6g、実施例1で用いたものと同様のメチルメタクリレートEO付加物16g、2、2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)の5%トルエン溶液9.06g、t−ブタノール27.3gを加えて、攪拌しながら90℃まで昇温させた。続いて、その反応溶液にそれぞれ別々の滴下ノズルから、メチルメタクリレート13.6g、アクリロニトリル37.6g(23.5mol%)、2、2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)の5%トルエン溶液6.0g、トルエン10g、t−ブタノール14.7gの滴下を同時に開始した。滴下は連続的に行われ、滴下速度は一定に保った。それぞれの滴下時間は、メチルメタクリレートおよびアクリロニトリルを60分間、2、2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、t−ブタノールおよびトルエンを240分間とした。2、2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)の滴下終了後、110℃で90分間熟成し、重合を完結した。重合完結後、重合反応液を冷却し、別に用意した水酸化ナトリウムの1.5%メタノール溶液71.03gを10分間かけて滴下し、40℃で1時間攪拌し、ケン化を行った。そのケン化液に対して大量のメタノールによる再沈殿を行い、沈殿物をろ取した。ろ取物を減圧乾燥し、薄黄色個体の共重合体(c)166gを得た。
【実施例4】
【0043】
共重合体の合成4
還流冷却器、攪拌機を備えた1Lのセパラブルフラスコに、ジシクロペンタニルメタクリレート114.5g(15mol%)、酢酸ビニルモノマー177.5g(59.5mol%)、N−ビニルカルバゾール6.5g、メチルメタクリレート15.6g、実施例1で用いたものと同様のメチルメタクリレートEO付加物10.6g、ポリプロピレングリコール#700ジアクリレート(日立化成社製、商品名「FA−P270A」)3.0g、2、2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)の5%トルエン溶液9.52g、t−ブタノール42gを加えて、攪拌しながら90℃まで昇温させた。続いて、その反応溶液にそれぞれ別々の滴下ノズルから、メチルメタクリレート15.6g、アクリロニトリル27.8g(15mol%)、ポリプロピレングリコール#700ジアクリレート3.0g、2、2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)の5%トルエン溶液7.8g、トルエン10g、t−ブタノール14gの滴下を同時に開始した。滴下は連続的に行われ、滴下速度は一定に保った。それぞれの滴下時間は、メチルメタクリレート、アクリロニトリルおよびポリプロピレングリコール#700ジアクリレートを60分間、2、2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、t−ブタノールおよびトルエンを240分間とした。2、2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)の滴下終了後、110℃で90分間熟成し、重合を完結した。重合完結後、重合反応液を冷却し、別に用意した水酸化ナトリウムの1.5%メタノール溶液87.9gを10分間かけて滴下し、40℃で1時間攪拌し、ケン化を行った。そのケン化液に対して大量のメタノールによる再沈殿を行い、沈殿物をろ取した。ろ取物を減圧乾燥し、薄黄色個体の共重合体(d)218gを得た。
【実施例5】
【0044】
実施例1で得られた共重合体(a)をポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製、商品名「カプトンV」)にて上下挟み込み、小型伝熱プレス機(東洋精機製)を用いて220℃、35MPaで熱プレスを行った。プレス後に室温まで急冷を行った後、ポリイミドフィルムをプレスした共重合体を剥がし、プレスによりフィルム化した高分子フィルムを得た。得られた高分子フィルムの膜厚を表1に示す。次に得られた高分子フィルムを幅80mm×長さ120mmの短冊状に切断し、延伸装置で120℃の温度条件で4mm/secの引っ張り速度で2倍の一軸延伸を行い、位相差フィルムを得た。得られた位相差フィルムの特性を表1に示す。
【実施例6】
【0045】
延伸倍率を2.5倍とした以外は、実施例5と同様の条件および方法で、位相差フィルムを作製した。得られた位相差フィルムの特性を表1に示す。
【実施例7】
【0046】
延伸倍率を3倍とした以外は、実施例5と同様の条件および方法で、位相差フィルムを作製した。得られた位相差フィルムの特性を表1に示す。
【実施例8】
【0047】
実施例2で得られた共重合体(b)を用い、延伸倍率を2.3倍とした以外は、実施例5と同様の条件および方法で、位相差フィルムを作製した。得られた位相差フィルムの特性を表1に示す。
【実施例9】
【0048】
延伸倍率を2.5倍とした以外は、実施例8と同様の条件および方法で、位相差フィルムを作製した。得られた位相差フィルムの特性を表1に示す。
【実施例10】
【0049】
延伸倍率を2.8倍とした以外は、実施例8と同様の条件および方法で、位相差フィルムを作製した。得られた位相差フィルムの特性を表1に示す。
【実施例11】
【0050】
実施例3で得られた共重合体(c)を用い、延伸倍率を1.5倍とした以外は、実施例5と同様の条件および方法で、位相差フィルムを作製した。得られた位相差フィルムの特性を表1に示す。また得られた位相差フィルムのH−NMR測定の結果を図1に示す。なお、H−NMRスペクトル測定は重クロロホルム溶液を用いてTMSを内部標準として測定した。
【実施例12】
【0051】
延伸倍率を2倍とした以外は、実施例11と同様の条件および方法で、位相差フィルムを作製した。得られた位相差フィルムの特性を表1に示す。
【実施例13】
【0052】
実施例4で得られた共重合体(d)を用い、延伸倍率を1.8倍とした以外は、実施例5と同様の条件および方法で、位相差フィルムを作製した。得られた位相差フィルムの特性を表1に示す。
【実施例14】
【0053】
延伸倍率を2.1倍とした以外は、実施例13と同様の条件および方法で、位相差フィルムを作製した。得られた位相差フィルムの特性を表1に示す。
【0054】
〔比較例1〕
共重合体の合成5
還流冷却器、攪拌機を備えた1Lのセパラブルフラスコに、ジシクロペンタニルメタクリレート110g(15mol%)、酢酸ビニルモノマー86g(30mol%)、メチルメタクリレート20g、2、2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)の5%トルエン溶液5.33g、t−ブタノール36.2gを加えて、攪拌しながら90℃まで昇温させた。続いて、その反応溶液にそれぞれ別々の滴下ノズルから、メチルメタクリレート30g、アクリロニトリル70.9g(40mol%)、2、2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)の5%トルエン溶液8.0g、トルエン17.8g、t−ブタノール17.8gの滴下を同時に開始した。滴下は連続的に行われ、滴下速度は一定に保った。それぞれの滴下時間は、メチルメタクリレートおよびアクリロニトリルを60分間、2、2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、t−ブタノールおよびトルエンを240分間とした。2、2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)の滴下終了後、110℃で90分間熟成し、重合を完結した。重合完結後、重合反応液を冷却し、別に用意した水酸化ナトリウムの1.5%メタノール溶液25.57gを10分間かけて滴下し、40℃で1時間攪拌し、ケン化を行った。そのケン化液に対して大量のメタノールによる再沈殿を行い、沈殿物をろ取した。ろ取物を減圧乾燥し、薄黄色個体の共重合体(e)144gを得た。
【0055】
〔比較例2〕
比較例1で得られた共重合体(e)を用い、延伸倍率を2.1倍とした以外は、実施例5と同様の条件および方法で、位相差フィルムを作製した。得られた位相差フィルムの特性を表1に示す。
【0056】
〔比較例3〕
延伸倍率を2.4倍とした以外は、比較例2と同様の条件および方法で、位相差フィルムを作製した。得られた位相差フィルムの特性を表1に示す。
【0057】
〔比較例4〕
ポリスチレンを用い、延伸倍率を1.5倍とした以外は、実施例5と同様の条件および方法で、位相差フィルムを作製した。得られた位相差フィルムの特性を表1に示す。
【0058】
〔比較例5〕
延伸倍率を2倍とした以外は、比較例4と同様の条件および方法で、位相差フィルムを作製した。得られた位相差フィルムの特性を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
表1に示した結果から明らかなように、本願発明の位相差フィルムは、優れた位相差発現性を有し、波長分散が大きく優れた位相差フィルムであることが確認された。さらに、本発明の位相差フィルムは、nx=nz>nyで表される関係を満たすいわゆるネガティブAプレートとして機能することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の位相差フィルムは、各種画像表示装置(液晶表示装置、有機EL表示装置、PDP等)に好適に用いることができる。より具体的には、液晶表示装置のλ/4板、λ/2板、視野角拡大フィルム、フラットパネルディスプレイ用反射防止フィルム、偏光子保護フィルムとして用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の実施例7において得られた位相差フィルムのH−NMR測定結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表されるアクリレート系繰り返し単位、下記一般式(II)で表されるビニル系繰り返し単位および下記一般式(III)で表わされるアクリロニトリル系繰り返し単位を含む共重合体であり、
該一般式(I)で表されるアクリレート系繰り返し単位の含有割合が該共重合体を構成する繰り返し単位の全量に対して1〜30mol%であり、
該一般式(III)で表わされるアクリロニトリル系繰り返し単位の含有割合が該共重合体を構成する繰り返し単位の全量に対して10〜35mol%であり、
該一般式(I)、(II)および(III)で表される繰り返し単位の合計の含有割合が該共重合体を構成する繰り返し単位の全量に対して70mol%以上である、共重合体。
【化1】

ここで、Rは、水素原子またはメチル基であり、Rは、−O−CH−CH−O−または酸素原子である。
【化2】

【化3】

ここで、Rは、水素原子またはメチル基である。
【請求項2】
請求項1に記載の共重合体を含む高分子フィルムを延伸して得られる、位相差フィルム。
【請求項3】
屈折率分布がnx=nz>nyである、請求項2に記載の位相差フィルム。
【請求項4】
波長480nmにおける面内位相差(Re(480))と波長550nmにおける面内位相差(Re(550))とが1.045<Re(480)/Re(550)の関係を満足する、請求項2または3に記載の位相差フィルム。
【請求項5】
固有複屈折値が負の光学特性を示す、請求項2から4のいずれかに記載の位相差フィルム。
【請求項6】
請求項2から5までのいずれかに記載の位相差フィルムを偏光子保護フィルムとして含む、偏光板。

【図1】
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【公開番号】特開2009−126911(P2009−126911A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−301858(P2007−301858)
【出願日】平成19年11月21日(2007.11.21)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】