説明

共鳴エネルギー移動中における蛍光の信号検出を改善する方法

本発明は蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)中の蛍光信号の検出を改善するための、蛍光偏光現象の使用に関する。特に本発明はFRET測定における信号/雑音比を改善するための方法に関する。また本発明は測定媒体中でドナー蛍光化合物及びアクセプター蛍光化合物間のエネルギー移動後に蛍光を測定するための装置に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共鳴エネルギー移動中の蛍光(FRET)の信号検出を改善するための蛍光偏光現象の使用に関する。特に本発明は、FRET測定における信号/雑音比を改善するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)は生物学的事象の検出、特に分子相互作用の検出に幅広く使われる分光学的手法である。
【0003】
多くの場合、エネルギー移動に関与することになるドナー及びアクセプター蛍光分子が一緒に接近することを要求するFRETは、生物学的相互作用の検出における強力な手法であることが判っている。これは分子生物学、酵素現象のin-vitro又はin-cellulo検出(ペプチド切断、リン酸化反応)又はタンパク質間の相互作用のような様々な分野で使用できる(引用文献1、2、3)。
【0004】
FRET現象の検出はドナーもしくはアクセプターのいずれかにより、又は両方の分子により放射される蛍光信号の様々なパラメータを測定することによって行うことができる。最も一般的な手法の中で特に以下が挙げられる。
・FRET現象により誘起されたドナー蛍光の減少量測定(引用文献4)
・FRETを経由したドナー起源のエネルギーによって誘起されたアクセプター蛍光の増加量測定(引用文献5)
・(アクセプター蛍光増加量/ドナー蛍光減少量)比の決定(引用文献6)
・FRET現象により誘起されたドナー蛍光寿命の減少量測定(引用文献7)(後者は特に「蛍光寿命イメージング顕微鏡」(FLIM)法により測定される。)
・アクセプターの光退色後にFRETに関与したドナー蛍光の増加量測定(引用文献8)(この光退色法は光退色後蛍光回復(FRAP)として知られている。)
【0005】
長寿命の蛍光ドナーを用いて可能となるFRET及び時間分解検出を組み合わせた手法(例えばHTRF)はともかくとして、FRET現象は蛍光強度測定に基づく多くの応用において検出が複雑であると判っている。ドナー及びアクセプター間にかなりのエネルギー互換性が必要であるため、比較的類似した蛍光放射スペクトルを有する分子を使用することが多い。生じたドナー及びアクセプタースペクトルの重なりによって、ドナー又はアクセプターについて記録された信号の変化を正確に測定することが非常に困難となる(引用文献9)。
【0006】
最も使用されるシアン蛍光タンパク質(CFP)/黄色蛍光タンパク質(YFP)ドナー/アクセプター対のような、緑色蛍光タンパク質(GFP)に由来する蛍光タンパク質をFRET実験に使用した場合に、このことが特に当てはまる。多くの種類の細胞中に蛍光体の形態で発現させることが可能なこれらの分子は、数多くの細胞内事象の検出を可能にする。しかしながら蛍光スペクトルの顕著な重なりが後者の間に存在するため、ドナー分子の励起ビームによるアクセプターの寄生的な直接励起が生じる。そのためこのドナー/アクセプター対を用いて行われるFRET実験の信号/雑音比は低く、しばしば1.5未満である(引用文献1)。その結果、得られた結果を解釈可能とするためには、数多くの実験コントロールを含む複雑な実験手順を実施する必要がある。
【0007】
従って解決すべき技術課題には、FRET測定を補正するための簡単で再現性のある方法、特に信号/雑音比の改善による方法の提供が含まれる。
【0008】
FRET測定を補正するために、ドナー及びアクセプターの蛍光放射スペクトルの強い重なりの影響を、これら化合物の偏光特性を用いて顕著に低減できることが見出された。
【0009】
2つの蛍光分子間でのエネルギー移動が現れると、ドナー準位及びアクセプター準位の両方において偏光の変化が生じることが記載されている。すなわちFRETに関与しているドナー偏光は増加し(引用文献10)、一方FRETに関与しているアクセプター偏光は減少する(引用文献11)。
【0010】
このように2つの蛍光プローブ間のこのエネルギー移動を検出する目的で、ドナー及びアクセプターの相対的な偏光に及ぼすFRETの影響が異なる分子系に使用されてきた。
【0011】
特に2つのGFP分子間のホモFRETは、これらの偏光解消を測定することにより検出されている(引用文献12)。レクチンに結合したローダミンの偏光解消測定は、フルオレセイン及びローダミン間に生じるFRETの検出に使用された(引用文献5)。またコンカナバリンA−フルオレセインドナーの偏光増加量の測定により、リンパ球膜における分子クラスタの生成の指標となるFRETが検出可能になった(引用文献10)。
【0012】
以上、これまでに使用されてきた偏光測定は2分子間のFRETの存在を検出することを目的としていた。
【0013】
驚くべきことに、蛍光信号の偏光測定はFRETに関与するドナー及びアクセプターにより特異的に放射される信号を良好に分離可能とし、そのため行われる試験の信号/雑音比が増大することが見出されている。
【0014】
実際にGFPタイプの蛍光タンパク質は例えば、その構造及び分子量に起因して強く偏光した分子である。それらがエネルギー移動に関与する場合の偏光度は様々である。つまりFRET現象を通じて、ドナー分子に関してはその偏光がいくらか増大し、一方アクセプター分子に関しては強い偏光解消を受ける。
【0015】
ドナー蛍光化合物及びアクセプター蛍光化合物を含む媒体中で、ドナー励起波長で媒体を励起した後にこれら2つの化合物間でエネルギー移動が起こる場合、アクセプター放射波長で測定される信号には以下のものが含まれる。
・FRETに由来する偏光解消信号(測定されることになる特異的信号)
・ドナー励起を意図した光線による直接励起の結果として、アクセプターにより放射される非常に偏光した信号(寄生信号)
・ドナー励起の結果として、ドナーによって放射される非常に偏光した信号(寄生信号)
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0016】
従って本発明の方法は、FRET測定のスペクトル選択性を改善するために、ドナー及びアクセプター間の偏光のこの顕著な変化を使用することに基づく。実際に本発明の変形の1つによれば、ドナー分子の偏光状態及びアクセプター分子の偏光状態によって、偏光した励起光と平行な偏光面内又は偏光した励起光と直交する偏光面内のいずれかで、放射された蛍光信号の測定が行われる。
【0017】
従って本発明は、測定媒体中に存在するドナー蛍光化合物及びアクセプター蛍光化合物間のエネルギー移動の検出方法に関し、ここではエネルギー移動測定の選択性はそのドナー及びアクセプター蛍光化合物の偏光特性を用いて改善される。
【0018】
エネルギー移動は、波長λ3でアクセプター蛍光化合物の放射する蛍光から生じる信号を測定することによって検出される。この放射は、波長λ1にて測定媒体中で励起されたドナー蛍光化合物及びそのアクセプター蛍光化合物間のエネルギー移動から生じる。
【0019】
「測定媒体」とはドナー及びアクセプター蛍光化合物を含む溶液を意味する。この溶液は生物学的サンプルであってよく、あるいは生物学的現象を調べるのに必要な要素を含んでいてもよい。
【0020】
測定媒体は適当な培地に置かれた生体組織のサンプル又は生体細胞であってもよい。この場合ドナー及びアクセプター蛍光化合物はその組織のサンプル又はその細胞の培地の中、又は組織自体もしくは細胞の中のいずれかに存在する。
【0021】
最終的に測定媒体は、ドナー及びアクセプター蛍光化合物が投与された生体、動物、特にほ乳類によって構成されてもよい。ドナー及びアクセプター蛍光化合物の生きている動物への投与は、単純にその化合物を動物と接触させることによって局所的に行ってもよく、ドナー及びアクセプター蛍光化合物を動物に注射してもよく、ドナー及びアクセプター蛍光化合物を遺伝子工学により動物の生体内で直接生産させてもよい。
【0022】
この記載で以下示すように、本発明の一般的な方法は低スペクトル選択性のドナー及びアクセプター蛍光化合物の使用に関係した問題を解決し、特に一方ではアクセプターの放射波長でのドナーによる光放射に関連し、及び他方ではエネルギー移動に関与しないアクセプターによる光放射(この場合アクセプターは励起光によって直接励起している)に関連した雑音を制限することを可能にする。
【0023】
第1の態様によれば、本発明は測定媒体中に存在するドナー蛍光化合物及びアクセプター蛍光化合物間のエネルギー移動の検出方法に関し、この方法は、
(i)該ドナー蛍光化合物が励起される波長である波長λ1で偏光した光線により該測定媒体を励起し、及び
(ii)その励起光の偏光面と異なる偏光面内の、該アクセプター蛍光化合物の蛍光が放射される波長である波長λ3で放射された蛍光から生じる信号を測定する
段階を含み、
(iii)該ドナー蛍光化合物の蛍光が放射される波長である波長λ2で放射された蛍光から生じる信号を測定し、及び
(iv)波長λ3で該アクセプター蛍光化合物によって放射された該蛍光から生じる該信号を、波長λ2で該ドナー蛍光化合物によって放射された該蛍光から生じる該信号により補正する段階をさらに含むこと、その励起光が偏光していること、並びに該波長λ3で放射された該蛍光から生じる該信号を該励起光の偏光面と異なる面内で測定することを特徴とする。
【0024】
励起光の偏光面と異なる(すなわち平行でない)面内でアクセプター蛍光化合物の放射波長で放射された信号の測定は、強く偏光解消した種によって放射された信号、特にエネルギー移動に関与したアクセプターからの信号の測定を可能にし、こうしてエネルギー移動に由来しない測定信号の一部を低減する。測定が行われる面は励起光の偏光面と直交する面が優先する。また他の面における測定も適当な場合がある。
【0025】
上記段階(iv)の補正は、例えば波長λ3で測定した蛍光強度と波長λ2で測定した蛍光強度との比を計算することからなっていてもよい。
【0026】
ドナーの放射波長(λ2)で蛍光測定が行われる場合、放射された蛍光から生じる信号測定を励起光と平行又は異なる面内、好ましくは励起光の面と直交する面内で行うことができる。
【0027】
第2の実施態様では、エネルギー移動に起因する偏光変化の決定を意図した方法においてエネルギー移動測定の選択性を改善するために、ドナー及びアクセプター蛍光化合物の偏光特性を使用する。上述した第1の方法と同じくこの方法は測定選択性の改善を可能とし、その測定選択性は検出されるエネルギー移動現象とより良好に相関している。
【0028】
この第2の実施態様は、
(i)該ドナー蛍光化合物が励起される波長である波長λ1で偏光した光線によって該測定媒体を励起し、
(ii)その励起光の面と平行な面内の、該ドナー蛍光化合物の光が放射される波長である波長λ2で放射された全蛍光強度(It//λ2を測定し、
(iii)該励起光の該偏光面と異なる面内の、該波長λ2で放射された全蛍光強度(Itλ2を測定し、
(iv)該励起光の該面と平行な面内の、該アクセプター蛍光化合物の光が放射される波長である波長λ3で放射された全蛍光強度(It//λ3を測定し、
(v)該励起光の該偏光面と異なる面内の、該波長λ3で放射された全蛍光強度(Itλ3を測定し、
(vi)該ドナー蛍光化合物及びアクセプター蛍光化合物間の該エネルギー移動に起因する偏光Pを次式に従って計算し、並びに
【数1】

(ここで、
・Aは該励起光の該面と平行な面内の、該ドナー単独により波長λ2及びλ3で放射された該蛍光から生じる該信号間の比例定数を表し、
・Bは該励起光の該偏光面と異なる面内の、該ドナー単独により波長λ2及びλ3で放射された該蛍光から生じる該信号間の比例定数を表し、n=1又は2である。n=1の場合は偏光測定という用語を使用し、n=2の場合は異方性が問題となっている。
・Gは平行及び直交面内の検出感度の差を補正可能にする係数である。この係数は製造業者によって提供されるか、あるいは既知の偏光を有する物質の偏光を当業者が測定することによって容易に決定できる。特定の実施において、Gは0.1〜2の間に含まれ、好ましくはGは0.8〜1.2の間に含まれ、特にG=1である。)
(vii)そのPの計算値を該エネルギー移動が起こっていないコントロール測定媒体中で得られたものと比較して、Pの減少量をエネルギー移動の指標とする
段階を含む。
【0029】
好ましい実施態様によれば、A及びBは次のように計算される。
A=(Id//λ3−(Id//λ2
B=(Idλ3−(Idλ2
((Id//λ3、(Id//λ2、(Idλ3、(Idλ2は、そのドナー蛍光化合物を含むがアクセプター蛍光化合物を含まない測定媒体による、励起光の偏光面と平行又は異なる面内で波長λ2又はλ3にて放射された蛍光強度に相当する。)
【0030】
記載した第1の方法のように、励起光の偏光面と異なる面内で行われる測定は、励起光の偏光面と直交する面内で優先的に行われる。選択した面が励起光の偏光面と平行な面ではないとき、他の面における測定も適当な場合がある。
【0031】
従って、本発明の方法によりドナー化合物及びアクセプター化合物間のエネルギー移動現象の測定選択性を改善することが可能となる。このことはドナー及びアクセプター間のスペクトル選択性が最適でない場合、すなわち以下の場合に特に有利である。
・ドナー及びアクセプターの放射スペクトルが重なり合う場合。本発明の方法は5nm<λ3−λ2<100nm(λ3−λ2は波長λ3及びλ2の差を表す。)の場合に特に効果的である。
・アクセプターの寄生的な直接励起がドナーの励起波長(λ1)で可能な場合。
【0032】
本発明の方法は数多くのドナー及びアクセプター蛍光化合物を用いて実施できる。これらの化合物は蛍光タンパク質又は有機フルオロフォアから選択できる。
【0033】
ドナー及びアクセプターは、GFP(緑色蛍光タンパク質)、CFP(シアン蛍光タンパク質)、YFP(黄色蛍光タンパク質)及び一般にGFP誘導体(BFP、eGFP)に加えて、DsRed HcRedのような一群のサンゴ蛍光タンパク質(RCFP)から選択される蛍光タンパク質であってよい。
【0034】
またドナー及びアクセプターは有機フルオロフォアであってよく、例えばローダミン類、シアニン類、スクアライン類(squaraines)、フルオレセイン類、bodipy類、一群のAlexa Fluor化合物、及びこれら誘導体、又は国際公開WO2003104685に記載の蛍光化合物であってもよい。
【0035】
最後にドナー及びアクセプターは量子ドット型の蛍光ミクロスフェア又はナノクリスタルであってもよい。
【0036】
ドナー及びアクセプター間のFRET系における、これら蛍光化合物及びその使用は文献に幅広く記載されている。さらに当業者は数多くのドナー/アクセプター対を用いて本出願の主題である方法を使用できる。
【0037】
好ましい態様では、ドナー及びアクセプター蛍光化合物は高い偏光を有しており、特に50mPより大きく、好ましくは100mPより大きい。固有偏光が50mP未満のドナー及びアクセプター化合物は、キャリア分子(有機分子、タンパク質、ペプチド、抗体又は以下記載する他の分子)に結合又は吸着させてよい。このことはフルオロフォアの見かけの偏光を増加する効果をもたらして、本発明の方法でそれを使用可能にする。
【0038】
他の好ましい態様では、ドナーの励起波長λ1で励起した後にドナーの放射波長λ2でアクセプターからの放射が検出されないように、ドナー及びアクセプター蛍光化合物が選択される。
【0039】
従って本発明の方法はエネルギー移動現象の検出をかなり改善することが可能であり、特により正確に生物学的相互作用を調べることが可能になる。
【0040】
このように本発明の方法は、ドナー及びアクセプター蛍光化合物間の距離が測定媒体中で起こる生物学的事象の関数として変化する生体系に使用できる。
【0041】
好ましい実施においては、ドナー及びアクセプター蛍光化合物は、ペプチド、タンパク質、抗体、抗原、細胞間情報伝達物質、細胞内情報伝達物質、ハプテン、レクチン、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジン、毒素、炭水化物、オリゴ糖、多糖、核酸を含む群から選択される分子と結合する。ドナー及び/又はアクセプター蛍光化合物が蛍光タンパク質の場合、当業者に周知の遺伝子組み換え技術により生成する、融合タンパク質の形態でそれらを他のタンパク質と結合させてもよい。
【0042】
これは例えばドナー及びアクセプター化合物が直接又は間接的に加水分解性の基質に結合している場合であってもよい。測定媒体が例えばその基質を切断可能な酵素を含む場合、FRETの発生の検出は酵素活性と相関させることができる。酵素活性におけるその影響を調べることになる化合物をそのような系に添加し、FRETの変化、従って酵素活性の変化を測定媒体に添加した化合物の関数として観察可能である。
【0043】
基質への蛍光化合物の直接的又は間接的結合とは、必要に応じてスペーサーアームを介した共有結合、又は互いに結合可能な分子対による非共有結合を意味する。そのような間接的結合には、例えば蛍光化合物が共有結合的にビオチンに結合し、基質がストレプトアビジン群を含む場合、又は蛍光化合物が6his、flag群などのような基質上に存在するタグに特異的な抗体と結合している場合が含まれる。
【0044】
また2つの化合物間の相互作用の場合のFRETの変化を調べるために本発明の方法を実施できる。この場合ドナー及びアクセプター蛍光化合物は、互いに認識可能な2つの分子に共有結合的に結合している。例えばドナー化合物は抗体又は抗体フラグメントに結合していてよく、アクセプター化合物はこの抗体が認識する抗原に結合していてよい。あるいはドナー及びアクセプター化合物はリガンド受容体対の一方と、もしくは互いに相互作用している2つのタンパク質とそれぞれ結合しており、又はドナーはタンパク質の活性を調節する化合物と結合し、かつアクセプター化合物はそのタンパク質と結合している。
【0045】
最後に2つの化合物X及びYの第3の化合物Zへの結合を調べるためにもまた、本発明の方法を実施できる。これは異なるタンパク質間での複合体認識現象を調べるのに有用な場合がある。この場合、化合物Xはドナー蛍光化合物に共有結合的に結合し、化合物Yはアクセプター蛍光化合物に結合し、かつエネルギー移動はX及びYが分子Zに結合している場合に起こる。
【0046】
好ましい態様ではドナー及びアクセプター蛍光化合物が異なる。
【0047】
最後に本発明は本発明の方法を実施するのに適した測定装置に関する。
【0048】
そのような装置には以下の要素が含まれる。
・偏光させた励起光により測定媒体を照射する手段。例えば偏光子と組み合わせたレーザー、フラッシュ又は連続ランプ。
・様々な波長にて、かつ様々な偏光面内、特に該励起光の偏光面と平行の又は非平行の、優先的には直交する面内で、該測定媒体により放射された蛍光を収集する手段。その検出手段は適当な偏光子の配置箇所の前にある光電子増倍管、CCDカメラ又は高感度カメラであってよい。
・ドナー蛍光化合物の放射波長で測定された信号により、アクセプター蛍光化合物の放射波長で測定された信号を補正可能にする計算手段。特にアクセプターの放射波長で収集した信号強度の、ドナーの放射波長で収集した信号強度との比を計算可能なコンピュータプログラム。
【0049】
本発明の方法を実施可能にする他の装置には以下が含まれる。
・偏光させた励起光により測定媒体を照射する手段。例えば偏光子と組み合わせたレーザー、フラッシュ又は連続ランプ。
・様々な波長にて、かつ様々な偏光面内、特に該励起光の偏光面と平行の又は非平行の、優先的には直交する面内で、該測定媒体により放射された蛍光を収集する手段。その検出手段は適当な偏光子の配置箇所の前にある光電子増倍管、CCDカメラ又は高感度カメラであってよい。
・上述の方法に従って、該測定媒体中で起こるエネルギー移動に特異的に起因する該測定媒体の偏光を計算可能にする計算手段。
【0050】
これらの装置は例えばサンプルの放射した蛍光強度の測定を可能にする顕微鏡であってよい。
【0051】
本発明の方法、その異なる実施方法に加えてこの方法の実施を可能にする装置によって、複雑な測定媒体、特にタンパク質、動物もしくは植物細胞、動物もしくは植物細胞に由来する膜、又は人工膜の混合物を含有する生体媒体で起こるFRET現象を正確に調べることが可能となる。
【0052】
基本的にエネルギー移動(FRET)測定の最適化を可能にする本発明の方法は、FRET測定に基づく全ての手法に完全に適している。
【0053】
例えば「FLIM」(蛍光寿命イメージング顕微鏡)型の手法により得られたデータを精緻化するために本発明の方法を実施することもできる。この目的のためには、調べる細胞又は生物学的サンプルのイメージ取得、及びエネルギー移動現象の測定の両方を可能にする顕微鏡装置(特に共焦点顕微鏡システム)を用いて本発明の方法を実施する。
【0054】
蛍光寿命イメージング顕微鏡(FLIM)は、ドナー及び/又はアクセプターの蛍光寿命中に誘起された変化を介して高感度でFRETの定量的監視を可能にする。より一般的には、蛍光プローブの近接環境における物理化学的パラメータの変化を知る手段を提供する。
【0055】
以下の例は本発明を非限定的に説明するものである。
【実施例】
【0056】
例1.様々な蛍光分子の偏光量の決定
【0057】
様々な蛍光分子をこの実験で使用した。
・A647(Alexa Fluor 647(Molecular Probes))
・HEK293細胞中に発現させたeGFP(緑色蛍光タンパク質)タンパク質
・HEK293細胞中に発現させたV1a−YFP(黄色蛍光タンパク質)受容体融合タンパク質
・HEK293細胞中に発現させたCXCR4−CFP(シアン蛍光タンパク質)受容体融合タンパク質
・次の構造のCAM融合タンパク質:CFP−ペプチドリンカー−YFP(この構造は、Zhou et al. The Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics, 305: 460 -466, 2003, "Direct interaction between the heterotrimeric G protein subunit Gβ35 and the G protein γ subunit-like domain containing regulator of G protein signaling 11: Gain of function of cyan fluorescent protein-tagged Gγ3"に記載されている。)この融合タンパク質もHEK293細胞中に発現させた。ペプチドリンカーはアミノ酸が何であるかに関わらずおよそ9個のアミノ酸を有する任意のペプチドであってよい。
【0058】
HEK293細胞における様々な融合タンパク質の発現は次のように実現した。
【0059】
様々な融合タンパク質をコードするプラスミドを用いたエレクトロポレーションによってHEK細胞を一過性にトランスフェクトする。次に調節した媒体中で細胞を37℃に置く。24時間後細胞を回収し、PBSバッファー中で洗浄し、数を数え、及びパラホルムアルデヒド系溶液に固定する。
【0060】
全ての蛍光分子をPBS又はPO4(A647について)バッファー中体積100μLで黒色のCostarマイクロプレートに分配した。A647の濃度は10nMであった。様々な蛍光タンパク質の偏光量を測定するために、様々な分子を含む50000個のHEK293細胞をマイクロプレートの別々のウェルに分配した。同量のコントロール細胞(蛍光タンパク質を含まない)を「コントロール」ウェルに分配した。
【0061】
マイクロプレート蛍光リーダーであるAnalyst(Molecular Devices)を用いて偏光量を測定した。検出する蛍光分子に応じてAnalystに次のフィルター(全てOmega Optical製)を装着した。
【0062】
【表1】

【0063】
励起源及びサンプル間(励起偏光子)又はサンプル及び検出器間(放射偏光子)のいずれか一方に挿入された偏光子の存在下、放射された同一ウェルの蛍光を連続的に測定することによって分子の偏光量が計算可能になる。このように次の2種類の蛍光強度測定が行われる。
・励起偏光子と同じ面内にある放射偏光子を用いて測定した蛍光強度に相当する、いわゆる「平行」蛍光強度(I//
・励起偏光子と直交する面内にある放射偏光子を用いて測定した蛍光強度に相当する、いわゆる「直交」蛍光強度(I
【0064】
各蛍光分子の偏光量(P)は次式によって得られる。
P=[(I//−I)/(I//+I)]×1000(PはmP単位で表される。)
【0065】
以下の表1は測定した様々な分子について得られた偏光量を示すものである。
【0066】
【表2】

【0067】
得られた値は、Alexa Fluor 647(−17mP)のような小さい有機分子の偏光と比較して、本実験で用いた様々な蛍光タンパク質の偏光が非常に高い(>200mP)ことを示している。
【0068】
例2.細胞内FRET実験の信号/雑音(S/N)比の決定
【0069】
次の融合タンパク質をこの実験で使用した。
・HEK293細胞中に発現させたV1a−YFP融合タンパク質受容体(YFP=黄色蛍光タンパク質)
・HEK293細胞中に発現させたCXCR4−CFP融合受容体タンパク質(CFP=シアン蛍光タンパク質)
・次の構造のCAM融合タンパク質:CFP−ペプチドリンカー−YFP:この融合タンパク質もHEK293細胞中に発現させた。
【0070】
これら様々なタンパク質の発現は例1に記載したように行った。
【0071】
CAMを含む細胞はCFP(ドナー分子)及びYFP(アクセプター分子)間のFRET測定を可能にするものである。マイクロプレートの異なったいわゆる「ポジティブ」ウェルに、あらかじめPBSバッファーに希釈したCAMを含む25000個の細胞を体積で100μL分配した。
【0072】
マイクロプレートの異なったいわゆる「ネガティブ」ウェルに、V1a−YFPを含む50000個の細胞及びCXCR4−CFPを含む50000個の細胞をPBSバッファー中総体積100μLで分配した。この場合、CFP及びYFP間の近接の欠如はこれら2つの分子間のFRETを妨げ、蛍光雑音のみが測定される。
【0073】
2つの連続する蛍光測定を次のフィルターを用いAnalyst上で行った。
【0074】
【表3】

【0075】
480nm(I480nm)又は535nm(I535nm)におけるこれら2つの蛍光測定は偏光子の存在下又は不存在下で行う。偏光子の存在下で例1に定義したいわゆる「直交」蛍光強度(I)のみを測定する。
【0076】
次にR=(I535nm/I480nm)の比を、ポジティブ又はネガティブウェルについて、及び全蛍光測定(偏光子無し)又は直交蛍光測定(偏光子有り)について計算する。
【0077】
その後この実験の信号/雑音(S/N)を、偏光子有り無しで行った測定について次のように計算する。
(S/N)=(R535/480ポジティブ/R535/480ネガティブ
【0078】
図1に表示したグラフは偏光子の不存在下又は存在下で得られた信号/雑音値を示す。
【0079】
このことは、検出系に偏光子を使用すると実験の信号/雑音比を大幅に増大(+48%)できることを示している。
【0080】
実際に、いわゆる「直交」蛍光測定は、FRET現象に関与しない蛍光ドナー又はアクセプターによって放射された蛍光信号(非常に偏光した蛍光)と比較して、エネルギー移動後のアクセプターによって放射された信号(偏光解消された蛍光)の検出を促す。
【0081】
例3.FRET検出のためのアクセプターの偏光度測定−測定した蛍光信号におけるドナー混成の補正及びFRETの定量化
【0082】
この例で使用した融合タンパク質は例2に記載したものと同一である。それらの発現は例1に記載したように行った。
【0083】
CXCR4−CFPを含む50000個の細胞をPBSバッファー中総体積100μLで分配した。これらのいわゆる「コントロール」ウェルは、波長535nmでCFPにより放射される蛍光信号について、この波長での蛍光信号を補正するために使用される係数A及びBの決定を可能にする。
【0084】
マイクロプレートの異なったいわゆる「ネガティブ」ウェルに、V1a−YFPを含む50000個の細胞及びCXCR4−CFPを含む50000個の細胞をPBSバッファー中総体積100μLで分配した。CFP及びYFP間の近接の欠如はこれら2つの分子間のFRETを妨げる。
【0085】
あらかじめPBSバッファー中に希釈してあり、CFP(ドナー)及びYFP(アクセプター)間のFRET測定を可能にするCAMを含む25000個の細胞を、体積で100μL、マイクロプレートの異なったいわゆる「ポジティブ」ウェルに分配した。
【0086】
あらかじめPBSバッファーに希釈したCAMを含む様々な量の細胞、及びCXCR4−CFPを含む様々な量の細胞を、体積で100μL、マイクロプレートの異なったいわゆる「混成した」ウェルに分配した。混合物は次の比率で作った。
【0087】
【表4】

【0088】
いわゆる「混成した」ウェルの各組は、様々な比率のFRETに関与する分子(CAM)及び自由ドナー(CFP)を含む。
【0089】
アクセプターの偏光度を決定するために、4つの連続した蛍光測定を以下の表に記載したフィルター及び偏光子を用いてAnalyst上で行う。
【0090】
【表5】

【0091】
異なるサンプルについての535nmにおける全体の偏光量(Poverall)は次式によって得られる。
overall=[(I535nm//−I535nm⊥)/(I535nm//+I535nm⊥)]×1000(PはmPで表される。)
【0092】
535nm//はポジティブウェルあるいはネガティブウェルのいずれか一方、又は混成したウェルにおいて測定3の最中に得られた蛍光強度である。
【0093】
535nm⊥はポジティブウェルあるいはネガティブウェルのいずれか一方、又は混成したウェルにおいて測定4の最中に得られた蛍光強度である。
【0094】
535nmで測定された全体の偏光度は、FRETに関与したYFPアクセプターの偏光度、及びこの波長での強いCFP信号混成に起因して535nmで測定されたCFPドナーの偏光度の合計を表している。
【0095】
FRETに関与したYFPアクセプターの偏光度の決定は、535nmでの蛍光測定(測定3及び4)において得られた信号からCPFドナーに由来する信号の部分を差し引くことにより可能である。
【0096】
これは、異なる偏光子を用いて480nmでCFPにより放射された信号(測定1及び2)と、上述のコントロールウェルにおいて535nmで放射する信号との間の比を定めることによって行うことができる。この目的のため次式を用いる。
A=(It535nm///It480nm//
B=(It535nm⊥/It480nm⊥
【0097】
It480nm//はコントロールウェルにおいて測定1の最中に得られた蛍光強度の平均である。
【0098】
It480nm⊥はコントロールウェルにおいて測定2の最中に得られた蛍光強度の平均である。
【0099】
It535nm//はコントロールウェルにおいて測定3の最中に得られた蛍光強度の平均である。
【0100】
It535nm⊥はコントロールウェルにおいて測定4の最中に得られた蛍光強度の平均である。
【0101】
偏光子の異なる配置を用いて535nmで得られる、FRETに関与したYFPアクセプターの蛍光信号(If535nm//及びIf535nm⊥)は、試験した異なるサンプルについて次式を用いて計算する。
If535nm//=I535nm//−(I480nm//×A)
If535nm⊥=I535nm⊥−(I480nm⊥×B)
【0102】
480nm//はポジティブウェルあるいはネガティブウェルのいずれか一方、又は混成したウェルにおいて測定1の最中に得られた蛍光強度である。
【0103】
480nm⊥はポジティブウェルあるいはネガティブウェルのいずれか一方、又は混成したウェルにおいて測定2の最中に得られた蛍光強度である。
【0104】
535nm//はポジティブウェルあるいはネガティブウェルのいずれか一方、又は混成したウェルにおいて測定3の最中に得られた蛍光強度である。
【0105】
535nm⊥はポジティブウェルあるいはネガティブウェルのいずれか一方、又は混成したウェルにおいて測定4の最中に得られた蛍光強度である。
【0106】
次にFRETに関与したYFPアクセプターの偏光度(Pf)を次式を用いてポジティブ、ネガティブ、又は混成したウェルについて計算する。
Pf=[(If535nm//−If535nm⊥)/(If535nm//+If535nm⊥)]×1000(PfはmPで表される。)
【0107】
以下の表2は異なるサンプルについて全体の偏光度(Poverall)及びFRETに関与したYFPアクセプターの偏光度(Pf)を示すものである。
【0108】
【表6】

【0109】
上の表2に示した値は、たとえサンプルがエネルギー移動に関与しない大量のCFPドナーを含む場合であっても、上述の式により異なる偏光した蛍光測定からFRETに関与したアクセプターの偏光度を再計算できることを示している。
【0110】
本発明者の実験では−50mP辺りに位置している、FRETにおけるYFPの偏光度もまた、FRETに関与している場合にYFPアクセプターが強く偏光解消している(例1に見られる初期偏光値は222mP)ことを裏付けている。
【0111】
引用文献:
1.Sato et al. (2002) Nature Biotechnology, 20, 287-294
2.Giulano et al. (1998) Tibtech, 16, 135-140
3.Miyawaki (2003) Developmental Cell, 4, 295-305
4.Sokol et al. (1998) PNAS, 95, 11538-11543
5.Chan et al. (1979) J Histochem Cytochem, 27-1, 56-64
6.Miyawaki et al. (1997) Nature, 388, 882-887
7.Bastiaens (2000) Patent WO00/43780
8.He et al. (2003) Cytometry part A, 53A, 39-54
9.Gaits et al. (2003) Science's STKE,
www.stke.org/cgi/content/full/sigtrans;2003/165/pe3
10.Yishai et al. (2003) Phys. Med. Biol, 48, 2255-2268
11.Clayton et al. (2002) Biophysical Journal, 83, 1631-1649
12.Ventre et al. (2003) Molecular Microbiology, 48(1), 187-198
13.Knight et al. (2002) J. Biochem. Biophys. Methods, 51, 165-177
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】偏光子の不存在下又は存在下で得られた信号/雑音値を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定媒体中に存在するドナー蛍光化合物及びアクセプター蛍光化合物間のエネルギー移動を検出する方法であって、
(i)該ドナー蛍光化合物が励起される波長である波長λ1の光線により該測定媒体を励起し、及び
(ii)該アクセプター蛍光化合物の蛍光が放射される波長である波長λ3で放射された蛍光から生じる信号を測定する
段階を含み、
(iii)該ドナー蛍光化合物の蛍光が放射される波長である波長λ2で放射された蛍光から生じる信号を測定し、及び
(iv)該波長λ3で該アクセプター蛍光化合物によって放射された該蛍光から生じる該信号を、該波長λ2で該ドナー蛍光化合物によって放射された該蛍光から生じる該信号により補正する
段階をさらに含むこと、
その励起光が偏光していること、並びに該波長λ3で放射された該蛍光から生じる該信号を該励起光の偏光面と異なる面内で測定すること
を特徴とする方法。
【請求項2】
前記波長λ2で放射された前記蛍光から生じる前記信号もまた、前記励起光の前記偏光面と異なる面内で測定することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記波長λ3で前記アクセプター蛍光化合物によって放射された前記蛍光から生じる前記信号を、前記波長λ2で前記ドナー蛍光化合物によって放射された前記蛍光から生じる前記信号により補正することが、波長λ3及びλ2で測定された前記信号比を決定することを含むことを特徴とする、請求項1又は2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
波長λ2及び/又はλ3で放射された前記蛍光から生じる前記信号が、前記励起光の前記偏光面と直交する面内で測定されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
(i)前記ドナー蛍光化合物が励起される波長である前記波長λ1で偏光した光線によって前記測定媒体を励起し、
(ii)前記励起光の前記面と平行な面内の、前記ドナー蛍光化合物の光が放射される波長である前記波長λ2で放射された全蛍光強度(It//λ2を測定し、
(iii)前記励起光の前記偏光面と異なる面内の、前記波長λ2で放射された全蛍光強度(Itλ2を測定し、
(iv)前記励起光の前記面と平行な面内の、前記アクセプター蛍光化合物の光が放射される波長である前記波長λ3で放射された全蛍光強度(It//λ3を測定し、
(v)前記励起光の前記偏光面と異なる面内の、前記波長λ3で放射された全蛍光強度(Itλ3を測定し、
(vi)前記ドナー蛍光化合物及びアクセプター蛍光化合物間の前記エネルギー移動に起因する偏光Pを次式に従って計算し、並びに
【数1】

(ここで、
・Aは前記励起光の前記面と平行な面内の、前記ドナー単独により波長λ2及びλ3で放射された前記蛍光から生じる前記信号間の比例定数を表し、
・Bは前記励起光の前記偏光面と異なる面内の、前記ドナー単独により波長λ2及びλ3で放射された前記蛍光から生じる前記信号間の比例定数を表し、
・n=1又は2であり、
・Gは0.1〜2の間の、使用する測定装置に固有の感度補正係数である。)
(vii)そのPの計算値を前記エネルギー移動が起こっていないコントロール測定媒体中で得られたものと比較して、Pの減少量をエネルギー移動の指標とする
段階を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
段階(vi)において、前記偏光Pを次式に従って計算することを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【数2】

(ここで、
・n=1又は2であり、
・Gは0.1〜2の間の、使用する測定装置に固有の感度補正係数であり、
・A=(Id//λ3−(Id//λ2
・B=(Idλ3−(Idλ2であって、
(Id//λ3、(Id//λ2、(Idλ3、(Idλ2は、前記ドナー蛍光化合物を含むが前記アクセプター蛍光化合物を含まない測定媒体による、前記励起光の前記面と平行(//)又は異なる(⊥)面内の、波長λ2又はλ3で放射された前記蛍光強度に相当する。)
【請求項7】
前記励起光の前記偏光面と異なる前記面が、前記励起光の前記偏光面と直交する面であることを特徴とする、請求項5又は6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
5nm<λ3−λ2<100nmであることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
前記ドナー及びアクセプター蛍光化合物が蛍光タンパク質、有機フルオロフォアから選択されることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1つに記載の方法。
【請求項10】
前記ドナー及びアクセプター蛍光化合物が、ローダミン類、シアニン類、スクアライン類(squaraines)、bodipy類、フルオレセイン類、GFP、CFP、YFP、BFP、eGFP、RCFP類、DsRed HcRed、Alexa Fluor類、及びこれら誘導体から選択されることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1つに記載の方法。
【請求項11】
前記ドナー及びアクセプター蛍光化合物の偏光が50mPより大きいことを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1つに記載の方法。
【請求項12】
前記ドナー及びアクセプター蛍光化合物の偏光が100mPより大きいことを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ドナー及びアクセプター蛍光化合物が、前記ドナーの前記励起波長λ1で励起した後に前記ドナーの前記放射波長λ2で前記アクセプターの放射が検出されないように選択されることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか1つに記載の方法。
【請求項14】
前記ドナー及びアクセプター化合物間の距離が、前記測定媒体中で起こる生物学的事象の関数として変化可能であることを特徴とする、請求項1〜13に記載の方法。
【請求項15】
前記ドナー及びアクセプター蛍光化合物が、ペプチド、タンパク質、抗体、抗原、細胞間情報伝達物質、細胞内情報伝達物質、ハプテン、レクチン、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジン、毒素、炭水化物、オリゴ糖、多糖、核酸を含む群から選択される分子と結合していることを特徴とする、請求項1〜14に記載の方法。
【請求項16】
前記ドナー及びアクセプター化合物が加水分解性の基質と直接又は間接的に結合していることを特徴とする、請求項1〜15のいずれか1つに記載の方法。
【請求項17】
前記ドナー及びアクセプター化合物が、互いに認識可能な2つの分子に共有結合的にそれぞれ結合していることを特徴とする、請求項1〜16のいずれか1つに記載の方法。
【請求項18】
前記ドナー及びアクセプター化合物が、前記測定媒体中に存在する第3の分子を認識可能な2つの分子にそれぞれ結合していることを特徴とする、請求項1〜17のいずれか1つに記載の方法。
【請求項19】
前記ドナー及びアクセプター蛍光化合物が異なることを特徴とする、請求項1〜18のいずれか1つに記載の方法。
【請求項20】
測定媒体中に存在するドナー蛍光化合物及びアクセプター蛍光化合物間のエネルギー移動から生じる蛍光を測定可能にする装置であって、
・偏光した励起光により測定媒体を照射する手段、
・様々な波長にて、かつ該励起光の偏光面と平行の又は非平行の、優先的には直交する様々な偏光面内で、該媒体により放射された蛍光を収集する手段、並びに
・該ドナー蛍光化合物の放射波長で測定された信号により、該アクセプター蛍光化合物の放射波長で測定された信号を補正可能にする計算手段
を含む装置。
【請求項21】
測定媒体中に存在するドナー蛍光化合物及びアクセプター蛍光化合物間のエネルギー移動から生じる蛍光を測定可能にする装置であって、
・偏光した励起光により該媒体を照射する手段、
・様々な波長にて、かつ該励起光の偏光面と平行の又は非平行の、優先的には直交する様々な偏光面内で、該媒体により放射された蛍光を収集する手段、
・請求項3〜7のいずれか1つに記載の方法により、該測定媒体中で起こる該エネルギー移動に特異的に起因する該測定媒体の偏光を計算可能にする計算手段
を含む装置。
【請求項22】
前記装置が顕微鏡であることを特徴とする、請求項20又は21のいずれかに記載の装置。

【図1】
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【公表番号】特表2008−504517(P2008−504517A)
【公表日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−517367(P2007−517367)
【出願日】平成17年6月27日(2005.6.27)
【国際出願番号】PCT/FR2005/001618
【国際公開番号】WO2006/010839
【国際公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【出願人】(501358080)シ ビオ アンテルナショナル (1)
【Fターム(参考)】