説明

内燃機関に用いられるピストンおよび該ピストンを製造するための方法

内燃機関に用いられるピストン(1)であって、ピストンヘッド(5)の近傍でかつ半径方向外側に配置された環状チャンネル(4)が設けられていて、該環状チャンネル(4)が、ピストンヘッド側に環状の開口(21)を有しており、該開口(21)の断面が、ピストンヘッドとは反対の方向に向かって円錐状に先細りになった辺を有する台形の形状を有しており、前記開口(21)が、環状の閉鎖エレメント(3)によって閉じられており、該閉鎖エレメント(3)の断面が、前記開口(21)と同じ台形形状を有していて、閉鎖エレメント(3)が、前記開口(21)内に摩擦溶接法を用いて固定可能であるピストン(1)が提案される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念部に記載の形式の、内燃機関に用いられるピストン、すなわちピストンヘッドと、該ピストンヘッドの近傍でかつピストンの半径方向の外面に配置されたリング部分と、ピストンヘッドの近傍でかつ半径方向外側に配置された環状チャンネルとが設けられていて、該環状チャンネルが、ピストンヘッド側に環状の開口を有しており、該開口の断面が、ピストンヘッドとは反対の方向に向かって円錐状に先細りになった辺を有する台形の形状を有しており、環状チャンネルが、オイル流入開口およびオイル流出開口を介してピストン内室に接続されており、さらにピストンヘッドとは反対の方向でリング部分に続いた、互いに向かい合って位置したスカートエレメントと、該スカートエレメントに結合された、互いに向かい合って位置したピンボスとが設けられていて、該ピンボスが、それぞれ1つのピン孔を有している形式のものに関する。さらに本発明は、請求項5の上位概念部に記載の形式の、内燃機関に用いられるピストンを製造するための方法、すなわち以下の方法ステップ:
−ピストン内室のための切欠きを有するピストンブランクを鍛造し、
−該ピストンブランクを、ピン孔と、リング部分と、スカートエレメントの半径方向外側の面との製作のために1種または数種の切削式の製作法の使用下に精密加工し、
−ピストン軸線の方向で位置する、ピストンヘッド側の環状の開口を有する環状チャンネルとして使用するための切欠きを、ピストンヘッドを起点として切削式の製作法を用いて加工成形し、ただし前記開口の断面が、ピストンヘッドとは反対の方向に向かって円錐状に先細りになった辺を有する台形の形状を有するようにし、
−環状チャンネルにオイル流入開口およびオイル流出開口を設ける
を実施する形式の方法に関する。
【0002】
ピストンヘッドおよびリング部分を冷却するためのオイルの収容に役立つ環状チャンネルを有するピストンは、公知先行技術から十分に知られている。この場合、環状チャンネルは、ピストンヘッドを起点として切削式の製作法を用いてピストンボディに導入され、引き続き閉じられる。
【0003】
ドイツ連邦共和国特許出願公開第2017925号明細書およびドイツ連邦共和国特許第1251588号明細書から、ピストンボディに設けられた環状チャンネルを環状の閉鎖エレメントで閉じることが知られている。この場合、環状の閉鎖エレメントは環状チャンネルに、電荷担体溶接法(Ladungstraeger-Schweissverfahren)を使用して取り付けられる。この溶接法の欠点は、時間とエネルギの消費が極めて大きく、かつこの場合に考慮されるべき大量のパラメータに基づき極めて複雑であることである。
【0004】
ドイツ連邦共和国特許第1025221号明細書、英国特許第853382号明細書および米国特許第3181514号明細書からは、ピストンヘッドに設けられた環状チャンネルを、まず環状エレメントによって閉じ、これによって、その上に位置する溝内に装入された、環状チャンネルを閉鎖するための液状の金属が、環状チャンネルに流入しないようにすることが知られている。このためには複数の方法ステップが必要となり、これらの方法ステップは、環状チャンネルを製造するための方法を極めて複雑でかつ時間的に手間のかかるものにしている。
【0005】
これらの公知先行技術から出発して、本発明の課題は、公知先行技術における上述の欠点を回避し、簡単でかつ時間的およびエネルギ的に僅かな手間をかけるだけで実施可能となるような、ピストンヘッドおよびリング部分の冷却のための冷却オイルを収容するための環状チャンネルを有するピストンを製造するための方法を提供することである。
【0006】
本発明の課題は、請求項1の特徴部に記載の特徴、すなわち開口が、環状の閉鎖エレメントによって閉じられており、該閉鎖エレメントの断面が、前記開口と同じ台形形状を有していて、閉鎖エレメントが、前記開口内に摩擦溶接法を用いて固定可能であること、および請求項5の特徴部に記載の特徴、すなわち開口と同じ半径方向の直径および前記開口と同じ横断面形状を有する環状の閉鎖エレメントを製造し、該閉鎖エレメントを摩擦溶接法の使用下に前記開口内に固定する、を実施することによって解決される。本発明の有利な実施態様は請求項2以下に記載されている。
【0007】
これに関連して、本発明によるピストンの製造に使用される摩擦溶接法の利点は、その単純さのために自動化に適していて、かつ溶接時間が短いことであり、これによりピストン全体の製造時間もが短縮される。
【0008】
以下に本発明の実施例を図面につき詳しく説明する。図面は、環状の冷却通路、つまりクーリングチャンネルを有する、内燃機関に用いられるピストンを示している。この場合、クーリングチャンネルは、ピストンヘッド側で環状の閉鎖エレメントによって閉じられている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】内燃機関に用いられる、環状のクーリングチャンネルを有するピストン1を示す図である。
【0010】
図1には、内燃機関に用いられるピストン1が、ピン軸線2に対して直交する横方向の断面図で示されている。この断面図には、精密加工後のピストン1の輪郭と、環状チャンネル4を閉鎖するための、保持部6を有する環状の閉鎖エレメント3とが描かれている。閉鎖エレメント3は、この保持部6を介して摩擦溶接装置(図示せず)内に緊締される。保持部6は、断面矢印形の形状を有していて、その先端部分は閉鎖エレメント3によって形成される。
【0011】
ピストン1は、ピストンヘッド5を有している。このピストンヘッド5は、該ピストンヘッド5内に加工成形された燃焼キャビティ7を有している。半径方向外側ではピストンヘッド5の近傍において、円筒状のピストン1の周壁面8に、3つのピストンリング溝から成るリング部分(Ringpartie)9が加工形成されている。燃焼キャビティ7とリング部分9との間には、閉じられた環状チャンネル4が配置されている。この環状チャンネル4は、ピストンヘッド側で閉鎖エレメント3によって閉じられている。閉鎖エレメント3の断面は、ピストンヘッド5とは反対の方向に向かって円錐状に先細りになった側面16,17を有する等辺台形の形状を有している。これらの側面16,17を介して、閉鎖エレメント3は摩擦溶接法を用いてピストンヘッド5と溶接されている。環状チャンネル4は、オイル流入開口19と、オイル流出開口20とを有している。オイル流入開口19とオイル流出開口20とは、環状チャンネル4をピストン内室18に接続している。
【0012】
ピストンヘッド5とは反対の方向で、リング部分9には、互いに向かい合って位置する2つのスカートエレメント10,11が続いている。これらのスカートエレメント10,11は、それぞれ両側で結合ウェブ12,13を介して、互いに向かい合って位置する2つのピンボスに結合している。図示の図面の断面の断面位置に基づき、両ピンボスのうち、ピン孔15を有するピンボス14だけが平面図で図示されている。
【0013】
ピストン1と閉鎖エレメント3とは、スチールから製造されている。これによって、ピストン1には比較的に大きな強度と耐負荷性とが付与される。製造プロセスの枠内では、まず燃焼キャビティ7およびピストン内室18のための切欠きを有するピストン1の大まかな輪郭を有するブランクがスチールから鍛造される。次いで、旋削加工、フライス加工およびボーリング加工のような切削式の製作法を使用してピストン1の精密加工が行われる。これによって、ピン孔15、ピストンリング溝を有するリング部分9、スカートエレメント10の半径方向外側の面および燃焼キャビティ7が形成される。
【0014】
引き続き、切削式の製作法を用いて、燃焼キャビティ7とピストンヘッド5の外縁部との間のピストンヘッド5の半径方向外側の領域内に、ピストン軸線22の方向で切欠きが成形される。この切欠きは環状チャンネル4の形状を有していて、ピストンヘッド側に環状の開口21を有している。この開口21の横断面は、閉鎖エレメント3と同じ台形形状を有している。こうして形成された環状チャンネル4に、ピストン内室18の側から、オイル流入開口19と、オイル流出開口20とが穿孔される。
【0015】
次いで、摩擦溶接法を使用して環状チャンネル4が閉じられる。この場合、仕上げ加工されたピストン1は、摩擦溶接装置の定位置のチャック内に緊締され、閉鎖エレメント3を備えた保持部6は、摩擦溶接装置の回転可能なチャック内に緊締される。回転可能なチャックが回転させられ、回転している閉鎖エレメント3が、位置固定されているピストン1のピストンヘッド5に設けられた環状の開口21内に押し込まれ、この際に、閉鎖エレメント3の側面16,17と、開口21の半径方向の外面とが、ピストン1と閉鎖エレメント3との間の相対運動によって摩擦熱を発生させる。十分な熱発生の後に、相対運動が停止され、閉鎖エレメント3は、高められた力を受けて、開口21内に嵌め込まれる。これにより生じたピストンヘッド5と閉鎖エレメント3との間の溶接結合に基づいて、環状チャンネル4の開口21が閉じられる。
【0016】
摩擦溶接法の利点は、該溶接法が自動化に好適であり、かつ溶接時間が比較的に短いことである。
【0017】
最後の製造ステップにおいて、保持部6が閉鎖エレメント3から分離されて、ピストンヘッド5の表面が平滑化される。
【符号の説明】
【0018】
1 ピストン
2 ピン軸線
3 閉鎖エレメント
4 環状チャンネル
5 ピストンヘッド
6 閉鎖エレメント3の保持部
7 燃焼キャビティ
8 周壁面
9 リング部分
10,11 スカートエレメント
12,13 結合ウェブ
14 ピンボス
15 ピン孔
16,17 閉鎖エレメントの側面
18 ピストン内室
19 オイル流入開口
20 オイル流出開口
21 環状の開口
22 ピストン軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に用いられるピストン(1)であって、ピストンヘッド(5)と、該ピストンヘッド(5)の近傍でかつピストン(1)の半径方向の外面に配置されたリング部分(9)と、ピストンヘッド(5)の近傍でかつ半径方向外側に配置された環状チャンネル(4)とが設けられていて、該環状チャンネル(4)が、ピストンヘッド側に環状の開口(21)を有しており、該開口(21)の断面が、ピストンヘッドとは反対の方向に向かって円錐状に先細りになった辺を有する台形の形状を有しており、環状チャンネル(4)が、オイル流入開口(19)およびオイル流出開口(20)を介してピストン内室(18)に接続されており、さらにピストンヘッドとは反対の方向でリング部分(9)に続いた、互いに向かい合って位置したスカートエレメント(10,11)と、該スカートエレメント(10,11)に結合された、互いに向かい合って位置したピンボス(14)とが設けられていて、該ピンボス(14)が、それぞれ1つのピン孔(15)を有している形式のものにおいて、前記開口(21)が、環状の閉鎖エレメント(3)によって閉じられており、該閉鎖エレメント(3)の断面が、前記開口(21)と同じ台形形状を有していて、閉鎖エレメント(3)が、前記開口(21)内に摩擦溶接法を用いて固定可能であることを特徴とする、内燃機関に用いられるピストン。
【請求項2】
前記開口(21)および閉鎖エレメント(3)の断面が、等辺台形の形状を有している、請求項1記載のピストン。
【請求項3】
ピストン(1)がスチールから成っている、請求項1または2記載のピストン。
【請求項4】
閉鎖エレメント(3)がスチールから成っている、請求項1から3までのいずれか1項記載のピストン。
【請求項5】
内燃機関に用いられるピストン(1)を製造するための方法であって、以下の方法ステップ:
−ピストン内室(18)のための切欠きを有するピストンブランクを鍛造し、
−該ピストンブランクを、ピン孔(15)と、リング部分(9)と、スカートエレメント(10,11)の半径方向外側の面との製作のために1種または数種の切削式の製作法の使用下に精密加工し、
−ピストン軸線(22)の方向で位置する、ピストンヘッド側の環状の開口(21)を有する環状チャンネル(4)として使用するための切欠きを、ピストンヘッド(5)を起点として切削式の製作法の使用下に加工成形し、ただし前記開口(21)の断面が、ピストンヘッドとは反対の方向に向かって円錐状に先細りになった辺を有する台形の形状を有するようにし、
−環状チャンネル(4)にオイル流入開口(19)およびオイル流出開口(20)を設ける
を実施する形式の方法において、以下の方法ステップ:
−前記開口(21)と同じ半径方向の直径および前記開口(21)と同じ横断面形状を有する環状の閉鎖エレメント(3)を製造し、
−該閉鎖エレメント(3)を摩擦溶接法の使用下に前記開口(21)内に固定する、
を実施することを特徴とする、内燃機関に用いられるピストンを製造するための方法。-
【請求項6】
ピストンブランクを鍛造するためにスチールを使用する、請求項5記載の方法。
【請求項7】
閉鎖エレメント(3)を製造するためにスチールを使用する、請求項5または6記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2009−540199(P2009−540199A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−514631(P2009−514631)
【出願日】平成19年6月8日(2007.6.8)
【国際出願番号】PCT/DE2007/001010
【国際公開番号】WO2007/143967
【国際公開日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(506292974)マーレ インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (186)
【氏名又は名称原語表記】MAHLE International GmbH
【住所又は居所原語表記】Pragstrasse 26−46, D−70376 Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】