内燃機関のクランク軸用すべり軸受
【課題】異物排出性および潤滑性に優れた内燃機関のクランク軸用のすべり軸受を提供すること。
【解決手段】内燃機関のクランク軸用のすべり軸受10であって、互いに組み合わされてすべり軸受を形成する一対の半円筒形状軸受14、16と、各半円筒形状軸受の内周面の各円周方向端部領域に、半円筒形状軸受の軸線方向の全幅に亘って軸受壁厚を減ずることによって形成されたクラッシュリリーフ12とを有するすべり軸受において、クラッシュリリーフの軸受壁厚減少量である逃し深さRDが、半円筒形状軸受の円周方向において各端部で最大で、円周方向中央に向かって漸減しており、且つ半円筒形状軸受の軸線方向において中央で最大で、軸線方向両端部に向かって漸減しているすべり軸受が提供される。
【解決手段】内燃機関のクランク軸用のすべり軸受10であって、互いに組み合わされてすべり軸受を形成する一対の半円筒形状軸受14、16と、各半円筒形状軸受の内周面の各円周方向端部領域に、半円筒形状軸受の軸線方向の全幅に亘って軸受壁厚を減ずることによって形成されたクラッシュリリーフ12とを有するすべり軸受において、クラッシュリリーフの軸受壁厚減少量である逃し深さRDが、半円筒形状軸受の円周方向において各端部で最大で、円周方向中央に向かって漸減しており、且つ半円筒形状軸受の軸線方向において中央で最大で、軸線方向両端部に向かって漸減しているすべり軸受が提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の半円筒形状軸受を組み合わせて円筒形状に構成される、内燃機関のクランク軸用のすべり軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関のクランク軸は一般に、そのジャーナル部において、内燃機関のシリンダブロック下部に設けた一対の半円筒形状軸受から成る主軸受によって支持される。この主軸受を潤滑するために、潤滑油がオイルポンプによって、シリンダブロック壁内に形成されたオイルギャラリーおよび主軸受の壁部に形成された貫通口を通して、主軸受の内周面に円周方向に形成された潤滑油溝内に供給される。クランク軸はまた、ジャーナル部を半径方向に貫通する第1潤滑油路であって、その両端開口が主軸受の潤滑油溝と連通する第1潤滑油路と、この第1潤滑油路から分岐してクランクアーム部を通して延びる第2潤滑油路と、第2潤滑油路に接続された第3潤滑油路であって、その両端がクランクピンの外周面上で開口するようにクランクピンを半径方向に貫通する第3潤滑油路とを有し、それによって主軸受の潤滑油溝内に供給された潤滑油は、これら第1潤滑油路、第2潤滑油路および第3潤滑油路を通して、クランク軸のクランクピン部用のコンロッド軸受の内周面に円周方向に形成された潤滑油溝内にさらに供給される(特許文献1)。
【0003】
内燃機関の初期運転時には、上述した主軸受およびコンロッド軸受といったクランク軸用すべり軸受に供給される潤滑油中に、潤滑油路内に残留した異物、すなわち油路を切削加工した時の金属加工屑や鋳造時の鋳砂等が混入しがちである。これら異物は、クランク軸の回転に伴い軸受上の潤滑油の流れに付随するが、従来の内燃機関用すべり軸受では、軸受の円周方向端部に形成したクラッシュリリーフや面取等によって形成される、軸部との隙間を通して潤滑油と共に軸受外部に排出される。
【0004】
上述したクラッシュリリーフは、図12に示すように、半円筒形状軸受80の円周方向端部領域において壁部の厚さを回転中心と同心である本来の内周面82(主要円弧)から半径方向に逃し深さRDだけ減じることによって形成される逃し空間84のことであり、例えば一対の半円筒形状軸受をクランク軸のジャーナル部またはコンロッドに組み付けた時に生じ得る半円筒形状軸受の突き合せ端面の位置ずれや変形を吸収するために形成される。したがってクラッシュリリーフが形成された半円筒形状軸受の円周方向端部領域での軸受内周面の曲率中心位置は、その他の領域における軸受内周面(主要円弧)の曲率中心位置と異なる(SAE J506(項目3.26および項目6.4)、DIN1497、セクション3.2、JIS D3102参照)。クラッシュリリーフはまた、半円筒形軸受の円周方向両端を下端面として水平面上に置いた時の水平面からクラッシュリリーフ形成領域の上縁までの高さとして表される逃し長さRLを有し、逃し深さRDは、この逃し長さRLに亘って、軸受の円周方向端部から中央部に向かって次第に小さくなされている。
【0005】
従来の構成において、クラッシュリリーフの逃し長さRLおよび逃し深さRDは、半円筒形状軸受の軸線方向(幅方向)の全体に沿って一定であった(特許文献2の段落0043、0045、0047等、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平08−277831号公報
【特許文献2】特開2008−095858号公報
【特許文献3】特開2005−069283号公報
【特許文献4】実開平04−063810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年の内燃機関では、低燃費化を目的としてオイルポンプの小型化が図られており、そのため軸受摺動面への潤滑油の供給量が過去の内燃機関に比して減少している。したがって従来のようなクラッシュリリーフを形成すると、そこから異物は排出されるが、潤滑油の漏れ量が増大することにより、軸受摺動面に対する潤滑油の供給不足が生じる。
【0008】
図13はこの従来の油の流れを示したもので、クラッシュリリーフの逃し長さRLが軸線方向に亘って一定である場合、軸受中央の油の流れFCは軸と軸受の相対回転に伴ってクラッシュリリーフを越えて直進するが、軸線方向端部側の油の流れFSでは、軸線方向端部までの距離が短いため、外部へ排出される流れFS’が増加し、直進する流れFS”が少なくなり、これは軸受内周面の良好な油膜形成を困難にする。
【0009】
この従来のクラッシュリリーフからの油漏れ対策として、クラッシュリリーフの軸線方向両側に(軸受内周面によって形成される)クラッシュリリーフ非形成領域を単純に設けて軸表面と軸受内周面との間の隙間を実質的に閉鎖すれば、油の漏れ量は少なくなる。しかし、この場合には、油中に混入する異物が排出され難くなるという問題がある。多量の異物が排出されずにクラッシュリリーフを通り越して図13の流れFS”方向に進み軸受摺動面に入り込むと、摺動面に焼付や摩耗等の不具合が起こるおそれがある。
【0010】
したがって本発明の目的は、主軸受およびコンロッド軸受といったクランク軸用すべり軸受において、軸受摺動面での油膜形成を促進するため油の漏れ量が少なく、且つ潤滑油に含まれる異物の排出性に優れた、改良されたクラッシュリリーフを有するクランク軸用すべり軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した目的を達成するために、本発明の1つの観点によれば、内燃機関のクランク軸用のすべり軸受であって、互いに組み合わされてすべり軸受を形成する一対の半円筒形状軸受と、各半円筒形状軸受の内周面の各円周方向端部領域に、半円筒形状軸受の軸線方向の全幅に亘って軸受壁厚を減ずることによって形成されたクラッシュリリーフとを有するすべり軸受において、クラッシュリリーフの軸受壁厚減少量である逃し深さRDが、半円筒形状軸受の円周方向において各端部で最大で、円周方向中央に向かって漸減しており、且つ半円筒形状軸受の軸線方向において中央で最大で、軸線方向両端部に向かって漸減していることを特徴とするすべり軸受が提供される。
【0012】
本発明によるすべり軸受は、好適には、各半円筒形状軸受を、その円周方向両端面が下端面となるように水平面上に置いた場合の水平面から軸受内周面上のクラッシュリリーフの上縁までの高さとして表されるクラッシュリリーフの逃し長さRLが、軸線方向中央で最大RL1であり、この軸線方向中央から軸線方向全幅の1/4に相当する距離だけ離れた各軸線方向位置でのクラッシュリリーフ逃し長さRL3が、最大逃し長さRL1の60〜90%である。
【0013】
本発明によるすべり軸受は、好適には、半円筒形状軸受の軸線方向中央でのクラッシュリリーフの逃し長さRL1が3〜15mmであり、軸線方向各端部でのクラッシュリリーフの逃し長さRL3が0.1〜2mmである。さらに、本発明によるすべり軸受は、好適には、半円筒形状軸受の円周方向各端部におけるクラッシュリリーフの逃し深さRDが、軸線方向中央部で0.01〜0.05mmであり、軸線方向各端部で0.005〜0.02mmである。
【0014】
本発明によれば、クラッシュリリーフの上縁は、軸受内周面上で弧を描くように構成されていてもよく、あるいは軸受内周面上で直線状に構成されていてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の改良されたクラッシュリリーフを有する内燃機関のクランク軸用のすべり軸受によれば、潤滑油中に混入した異物を適切に排出することができ、且つクラッシュリリーフ形成部分からの潤滑油の排出量を低減することができる。それによりすべり軸受の摺動面の焼付きや摩耗等の不具合のリスクを低減しつつ、軸受内周面の油膜形成を良好にすることができる。
【0016】
また本発明の改良されたクラッシュリリーフを有する内燃機関のクランク軸用のすべり軸受によれば、軸受と軸の相対回転に伴って円周方向に流れる潤滑油がクラッシュリリーフ形成部分を通り過ぎる際、油の流れが軸線方向中央に向かって集まり易くなり、それによって軸受内周面の油膜形成をさらに良好にすることができる。また、本発明による好適な寸法とされたクラッシュリリーフにより、油の流れは軸線方向中央に向かって集まり易く、しかし中央に集まりすぎないので、クラッシュリリーフの軸線方向中央で油が過度に高圧になることがなく、したがって中央での油の流れが阻害されないすべり軸受が提供される。
【0017】
本発明の他の目的、特徴および利点は添付図面に関する以下の本発明の実施例の記載から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施例に係るクラッシュリリーフを有するすべり軸受の側面図。
【図2】図1に示すすべり軸受の一方の半円筒形状軸受を内周面側から見た図。
【図3】図1に示すすべり軸受の一方の半円筒形状軸受の円周方向端部の拡大側面図。
【図4】図3に示すすべり軸受の円周方向端部を回転中心側から見た図。
【図5】図2に示す半円筒形状軸受の円周方向端部の拡大図。
【図6】図1に示すすべり軸受の接合部を回転中心側から見たX矢視図。
【図7】すべり軸受のクラッシュリリーフ形成部分と軸との間の油の流れを説明するための模式図。
【図8】すべり軸受のクラッシュリリーフ形成部分と軸との間の油の流れを説明するための別の模式図。
【図9】本発明によるすべり軸受の円周方向端部を回転中心側から見た図4と同様の図。
【図10】本発明の第2の実施例に係るすべり軸受の半円筒形状軸受の円周方向端部の拡大図。
【図11】本発明の第2の実施例に係るすべり軸受の接合部を回転中心側から見た図。
【図12】従来のクラッシュリリーフが形成された半円筒形状軸受の円周方向端部の拡大側面図。
【図13】図12に示す従来のクラッシュリリーフを備えたすべり軸受の接合部分を内周面側から見た図。
【実施例1】
【0019】
図1は、本発明の一実施例に係るクラッシュリリーフ12を備えたすべり軸受10を示す。この場合、すべり軸受10は一対の半円筒形状軸受14、16から成るコンロッド軸受であり、内燃機関のコンロッド(図示せず)とクランク軸のクランクピン部18との間に配置される。図1の矢印Aは、クランクピン部18の回転方向を示す。クランクピン部18の内部には潤滑油路20が形成され、そこから軸受摺動面に潤滑油が供給される。尚、図1ではクランクピン部18とすべり軸受10の内周面との間の隙間が実際の縮尺よりも大きく示されているが、図1は模式図に過ぎず、実際には適切な隙間が当業者には選択可能であることに留意されたい。
【0020】
図2〜5から理解されるように、クラッシュリリーフ12は、半円筒形状軸受14の円周方向端部領域において壁部の厚さを軸受の本来の内周面(主要円弧)22から半径方向に逃し深さRDだけ減じることによって軸受の幅Wに亘って形成される。半円筒形状軸受14の円周方向端部におけるクラッシュリリーフ12の逃し深さRDは、軸線方向中央部で最大(RD1)で、そこから軸線方向端部に向かって漸減し、軸線方向端部で最小(RD2)になっている(図5)。この逃し深さRDは円周方向中央部に向かって漸減し、クラッシュリリーフ12の上縁24で0になる(図3および図4)。
【0021】
また図3および図4に示すように、半円筒形軸受14の円周方向両端を下端面として水平面H上に置いた時の水平面Hからクラッシュリリーフ12の上縁までの高さであるクラッシュリリーフの逃し長さRLは、軸線方向中央部で最大(RL1)で、そこから軸線方向端部に向かって漸減し、軸線方向端部で最小(RL2)になっている。クラッシュリリーフ12の逃し深さRDが図5に示すように弧を描くように形成されるこの実施例の場合、クラッシュリリーフ12の上縁24もまた軸受内周面上に弧を描くように構成される。
【0022】
図6は、図1に示すすべり軸受10のクラッシュリリーフ12の部分を内周面側から見たX矢視図であり、潤滑油の主要な流れを実線の矢印で、一部の流れを点線の矢印で示している。軸受の摺動面に供給された潤滑油は、クランク軸のクランクピン部18の回転に伴って上側の半円筒形状軸受14の内周面から下側の半円筒形状軸受16の内周面へと流れる。このとき、内周面の軸線方向中央部を流れてきた潤滑油FCは、下側内周面の中央部へ向かって流れる。内周面の軸線方向端部側を流れてきた潤滑油FS2は、内周面とクラッシュリリーフ12の縁部を通り過ぎると、主要な部分は軸線方向の中央部へ流れ、一部(FS2’)が軸線方向端部側へ流れる。このとき、クラッシュリリーフ12は、その逃し長さRLおよび逃し深さRDが軸受の軸線方向の中央部で最大で、軸受の軸線方向の両端部へ向かって次第に小さいので、軸線方向の両端部におけるクラッシュリリーフ12の解放部からの油の漏れ量は少ない。下側半円筒形状軸受16の軸線方向中央部に向かって流れた潤滑油は、クラッシュリリーフ12を越えて下側半円筒形状軸受16の内周面上を流れる間に軸受の軸線方向へ向かうので、従来の流れ(図13)に比べて軸線端部から排出される量が少なくなり、軸受内周面の油膜形成が良好になる。尚、この場合も異物は流れFS2’によってクラッシュリリーフ12が形成された領域で軸線方向端部へと流れ、外部へ排出されることができる。
【0023】
本実施例において、好適には、クラッシュリリーフ12の軸線方向中央部での逃し長さRL1は3〜15mmであり、これは従来のすべり軸受に形成される一般的なクラッシュリリーフ逃し長さRLであって、軸線方向に一定である従来の逃し長さRLの寸法と同様である。その理由は、逃し長さRL1が3mm未満であると、一対の半円筒形状軸受を組み合わせることにより円周方向端面同士の位置がずれて軸受の内周面側に段差が生じた場合、この段差による油膜切れを緩和する効果が不十分となることがあるからである。また逃し長さRL1を15mm以下とする理由は、クラッシュリリーフ逃し長さRL1を過度に大きくすると、クランク軸からの負荷を受ける軸受の内周面の面積が小さくなるためである。
【0024】
一方、クラッシュリリーフ12の軸線方向端部での逃し長さRL2は、好適には0.1〜2mmである。このクラッシュリリーフ12の軸線方向端部での逃し長さRL2は、軸受の軸線向端部からの油の漏れ量を少なくするため、異物が排出される限りできるだけ小さくすることが好ましい。
【0025】
また、各半円筒形状軸受の円周方向端部における、クラッシュリリーフ12の軸線方向中央部での逃し深さRD1は、好適には0.01〜0.05mmであり、これは従来のすべり軸受に形成される一般的なクラッシュリリーフ逃し深さRDであって、軸線方向に一定である従来の逃し深さRDの寸法と同様である。その理由は、逃し深さRD1が0.01mm未満であると、一対の半円筒形状軸受を組み合わせることにより円周方向端面同士の位置がずれて軸受の内周面側に段差が形成した場合、この段差による油膜切れを緩和する効果が小さいからである。また、図7に示すように、軸線方向端部におけるクラッシュリリーフ12の最大逃し深さRD1が適切であると、クラッシュリリーフ12の底面50と相手軸表面52との間の潤滑油は、矢印によって示すように回転する軸の表面に付随して円周方向へ送られるが、図8に示すように相手軸表面52とクラッシュリリーフ12の底面50’を過度に離間させすぎると、底部の潤滑油に相手軸表面からの作用が小さくなり、軸受の前方の内周面(摺動面)へ流れる潤滑油量が減り、軸受の軸線方向端部から漏れ出る量が多くなってしまう。そこでクラッシュリリーフの最大逃し深さRD1を0.05mm以下とすることにより、クラッシュリリーフ12の底面50と相手軸表面52との間の潤滑油の全体に亘って相手軸表面からの作用が及び、軸受の前方の内周面(摺動面)への潤滑油の供給が十分になる。
【0026】
一方、各半円筒形状軸受の円周方向端部における、クラッシュリリーフ12の軸線方向端部での逃し深さRD2は、好適には0.005〜0.02mmである。この逃し深さRD2は、潤滑油の漏れ量を少なくするために、潤滑油中に混入する異物が軸受外部へ排出される限りできるだけ小さいことが好ましい。尚、この場合、クラッシュリリーフ12の逃し深さRD1とRD2とは重複する範囲を含むが、これは軸受の内径サイズが大きいほど逃し深さを大きくする必要があるからであり、しかし逃し深さRD1とRD2とは、それぞれの数値範囲内で、RD1>RD2とすべきことは明らかである。
【0027】
図6に示すように上側の半円筒形状軸受14の内周面を流れてきた潤滑油を下側の半円筒形状軸受16の内周面の軸線方向の中央部に向かって流すために、より好適には、半円筒形状軸受の軸線方向端部からの距離が半円筒形状軸受の軸線方向長さ(幅)Wの1/4である各軸線方向位置QP(すなわち、軸線方向中央部位置CPと軸線方向端部位置EPとの間の中央部位置QP)におけるクラッシュリリーフの逃し長さRL3が、軸線方向中央部でのクラッシュリリーフ逃し長さRL1の60〜90%である(図9)。その理由は、逃し長さRL3が逃し長さRL1の60%未満であると、下側の半円筒形状軸受16の内周面においてクラッシュリリーフの軸線方向断面積の減少が急激となり、下側の半円筒形状軸受16のクラッシュリリーフの軸線方向中央の先端部TPで潤滑油の圧が高くなり過ぎて、かえって潤滑油が中央部へ集まり難くなるためであり、一方、逃し長さRL3が逃し長さRL1の90%を越えると、潤滑油が円周方向に流れ易くなり、中央部に向かって流れ難くなるからである。
【実施例2】
【0028】
図10および図11は、本発明の第2の実施例によるすべり軸受を示す。図10に示すように逃し深さRDが直線状を描くようにクラッシュリリーフ12の底部が形成されると、図11に示すようにクラッシュリリーフ12の上縁24もまた軸受内周面上に直線状になる。しかしこの場合も、上述したように上側の半円筒形状軸受14の内周面を流れてきた潤滑油を下側の半円筒形状軸受16の内周面の軸線方向の中央部に向かって流すために、半円筒形状軸受の軸線方向端部からの距離が半円筒形状軸受の軸線方向長さ(幅)Wの1/4である各軸線方向位置QPにおけるクラッシュリリーフの逃し長さRL3は、軸線方向中央部でのクラッシュリリーフ逃し長さRL1の60〜90%になされていることに留意すべきである。
【0029】
以上の実施例において、軸受内周面の円周方向に形成される従来の潤滑油溝は示されておらず、あるいは必ずしも形成されなくてもよいことに留意すべきである。またすべり軸受の幅寸法は内燃機関の容量により決まるものであり、それゆえ本発明で制限する必要はない。さらに、すべり軸受には、クラッシュリリーフとは別に、製造および組み立てを容易にする目的で、通常の面取りを各縁部に形成してもよいことは明らかである。
【0030】
上記記載はいくつかの実施例についてなされたが、本発明はそれに限らず、本発明の精神と添付の請求の範囲の範囲内で種々の変更および修正をすることができることは当業者に明らかである。
【符号の説明】
【0031】
10 すべり軸受
12 クラッシュリリーフ
14 半円筒形状軸受
16 半円筒形状軸受
18 クランク軸のクランクピン部
20 潤滑油路
22 本来の内周面(主要円弧)
24 上縁
50 底面
52 相手軸表面
80 半円筒形状軸受
82 本来の内周面(主要円弧)
84 逃し空間、クラッシュリリーフ
RL 逃し長さ
RD 逃し深さ
W 軸受の幅
H 水平面
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の半円筒形状軸受を組み合わせて円筒形状に構成される、内燃機関のクランク軸用のすべり軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関のクランク軸は一般に、そのジャーナル部において、内燃機関のシリンダブロック下部に設けた一対の半円筒形状軸受から成る主軸受によって支持される。この主軸受を潤滑するために、潤滑油がオイルポンプによって、シリンダブロック壁内に形成されたオイルギャラリーおよび主軸受の壁部に形成された貫通口を通して、主軸受の内周面に円周方向に形成された潤滑油溝内に供給される。クランク軸はまた、ジャーナル部を半径方向に貫通する第1潤滑油路であって、その両端開口が主軸受の潤滑油溝と連通する第1潤滑油路と、この第1潤滑油路から分岐してクランクアーム部を通して延びる第2潤滑油路と、第2潤滑油路に接続された第3潤滑油路であって、その両端がクランクピンの外周面上で開口するようにクランクピンを半径方向に貫通する第3潤滑油路とを有し、それによって主軸受の潤滑油溝内に供給された潤滑油は、これら第1潤滑油路、第2潤滑油路および第3潤滑油路を通して、クランク軸のクランクピン部用のコンロッド軸受の内周面に円周方向に形成された潤滑油溝内にさらに供給される(特許文献1)。
【0003】
内燃機関の初期運転時には、上述した主軸受およびコンロッド軸受といったクランク軸用すべり軸受に供給される潤滑油中に、潤滑油路内に残留した異物、すなわち油路を切削加工した時の金属加工屑や鋳造時の鋳砂等が混入しがちである。これら異物は、クランク軸の回転に伴い軸受上の潤滑油の流れに付随するが、従来の内燃機関用すべり軸受では、軸受の円周方向端部に形成したクラッシュリリーフや面取等によって形成される、軸部との隙間を通して潤滑油と共に軸受外部に排出される。
【0004】
上述したクラッシュリリーフは、図12に示すように、半円筒形状軸受80の円周方向端部領域において壁部の厚さを回転中心と同心である本来の内周面82(主要円弧)から半径方向に逃し深さRDだけ減じることによって形成される逃し空間84のことであり、例えば一対の半円筒形状軸受をクランク軸のジャーナル部またはコンロッドに組み付けた時に生じ得る半円筒形状軸受の突き合せ端面の位置ずれや変形を吸収するために形成される。したがってクラッシュリリーフが形成された半円筒形状軸受の円周方向端部領域での軸受内周面の曲率中心位置は、その他の領域における軸受内周面(主要円弧)の曲率中心位置と異なる(SAE J506(項目3.26および項目6.4)、DIN1497、セクション3.2、JIS D3102参照)。クラッシュリリーフはまた、半円筒形軸受の円周方向両端を下端面として水平面上に置いた時の水平面からクラッシュリリーフ形成領域の上縁までの高さとして表される逃し長さRLを有し、逃し深さRDは、この逃し長さRLに亘って、軸受の円周方向端部から中央部に向かって次第に小さくなされている。
【0005】
従来の構成において、クラッシュリリーフの逃し長さRLおよび逃し深さRDは、半円筒形状軸受の軸線方向(幅方向)の全体に沿って一定であった(特許文献2の段落0043、0045、0047等、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平08−277831号公報
【特許文献2】特開2008−095858号公報
【特許文献3】特開2005−069283号公報
【特許文献4】実開平04−063810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年の内燃機関では、低燃費化を目的としてオイルポンプの小型化が図られており、そのため軸受摺動面への潤滑油の供給量が過去の内燃機関に比して減少している。したがって従来のようなクラッシュリリーフを形成すると、そこから異物は排出されるが、潤滑油の漏れ量が増大することにより、軸受摺動面に対する潤滑油の供給不足が生じる。
【0008】
図13はこの従来の油の流れを示したもので、クラッシュリリーフの逃し長さRLが軸線方向に亘って一定である場合、軸受中央の油の流れFCは軸と軸受の相対回転に伴ってクラッシュリリーフを越えて直進するが、軸線方向端部側の油の流れFSでは、軸線方向端部までの距離が短いため、外部へ排出される流れFS’が増加し、直進する流れFS”が少なくなり、これは軸受内周面の良好な油膜形成を困難にする。
【0009】
この従来のクラッシュリリーフからの油漏れ対策として、クラッシュリリーフの軸線方向両側に(軸受内周面によって形成される)クラッシュリリーフ非形成領域を単純に設けて軸表面と軸受内周面との間の隙間を実質的に閉鎖すれば、油の漏れ量は少なくなる。しかし、この場合には、油中に混入する異物が排出され難くなるという問題がある。多量の異物が排出されずにクラッシュリリーフを通り越して図13の流れFS”方向に進み軸受摺動面に入り込むと、摺動面に焼付や摩耗等の不具合が起こるおそれがある。
【0010】
したがって本発明の目的は、主軸受およびコンロッド軸受といったクランク軸用すべり軸受において、軸受摺動面での油膜形成を促進するため油の漏れ量が少なく、且つ潤滑油に含まれる異物の排出性に優れた、改良されたクラッシュリリーフを有するクランク軸用すべり軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した目的を達成するために、本発明の1つの観点によれば、内燃機関のクランク軸用のすべり軸受であって、互いに組み合わされてすべり軸受を形成する一対の半円筒形状軸受と、各半円筒形状軸受の内周面の各円周方向端部領域に、半円筒形状軸受の軸線方向の全幅に亘って軸受壁厚を減ずることによって形成されたクラッシュリリーフとを有するすべり軸受において、クラッシュリリーフの軸受壁厚減少量である逃し深さRDが、半円筒形状軸受の円周方向において各端部で最大で、円周方向中央に向かって漸減しており、且つ半円筒形状軸受の軸線方向において中央で最大で、軸線方向両端部に向かって漸減していることを特徴とするすべり軸受が提供される。
【0012】
本発明によるすべり軸受は、好適には、各半円筒形状軸受を、その円周方向両端面が下端面となるように水平面上に置いた場合の水平面から軸受内周面上のクラッシュリリーフの上縁までの高さとして表されるクラッシュリリーフの逃し長さRLが、軸線方向中央で最大RL1であり、この軸線方向中央から軸線方向全幅の1/4に相当する距離だけ離れた各軸線方向位置でのクラッシュリリーフ逃し長さRL3が、最大逃し長さRL1の60〜90%である。
【0013】
本発明によるすべり軸受は、好適には、半円筒形状軸受の軸線方向中央でのクラッシュリリーフの逃し長さRL1が3〜15mmであり、軸線方向各端部でのクラッシュリリーフの逃し長さRL3が0.1〜2mmである。さらに、本発明によるすべり軸受は、好適には、半円筒形状軸受の円周方向各端部におけるクラッシュリリーフの逃し深さRDが、軸線方向中央部で0.01〜0.05mmであり、軸線方向各端部で0.005〜0.02mmである。
【0014】
本発明によれば、クラッシュリリーフの上縁は、軸受内周面上で弧を描くように構成されていてもよく、あるいは軸受内周面上で直線状に構成されていてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の改良されたクラッシュリリーフを有する内燃機関のクランク軸用のすべり軸受によれば、潤滑油中に混入した異物を適切に排出することができ、且つクラッシュリリーフ形成部分からの潤滑油の排出量を低減することができる。それによりすべり軸受の摺動面の焼付きや摩耗等の不具合のリスクを低減しつつ、軸受内周面の油膜形成を良好にすることができる。
【0016】
また本発明の改良されたクラッシュリリーフを有する内燃機関のクランク軸用のすべり軸受によれば、軸受と軸の相対回転に伴って円周方向に流れる潤滑油がクラッシュリリーフ形成部分を通り過ぎる際、油の流れが軸線方向中央に向かって集まり易くなり、それによって軸受内周面の油膜形成をさらに良好にすることができる。また、本発明による好適な寸法とされたクラッシュリリーフにより、油の流れは軸線方向中央に向かって集まり易く、しかし中央に集まりすぎないので、クラッシュリリーフの軸線方向中央で油が過度に高圧になることがなく、したがって中央での油の流れが阻害されないすべり軸受が提供される。
【0017】
本発明の他の目的、特徴および利点は添付図面に関する以下の本発明の実施例の記載から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施例に係るクラッシュリリーフを有するすべり軸受の側面図。
【図2】図1に示すすべり軸受の一方の半円筒形状軸受を内周面側から見た図。
【図3】図1に示すすべり軸受の一方の半円筒形状軸受の円周方向端部の拡大側面図。
【図4】図3に示すすべり軸受の円周方向端部を回転中心側から見た図。
【図5】図2に示す半円筒形状軸受の円周方向端部の拡大図。
【図6】図1に示すすべり軸受の接合部を回転中心側から見たX矢視図。
【図7】すべり軸受のクラッシュリリーフ形成部分と軸との間の油の流れを説明するための模式図。
【図8】すべり軸受のクラッシュリリーフ形成部分と軸との間の油の流れを説明するための別の模式図。
【図9】本発明によるすべり軸受の円周方向端部を回転中心側から見た図4と同様の図。
【図10】本発明の第2の実施例に係るすべり軸受の半円筒形状軸受の円周方向端部の拡大図。
【図11】本発明の第2の実施例に係るすべり軸受の接合部を回転中心側から見た図。
【図12】従来のクラッシュリリーフが形成された半円筒形状軸受の円周方向端部の拡大側面図。
【図13】図12に示す従来のクラッシュリリーフを備えたすべり軸受の接合部分を内周面側から見た図。
【実施例1】
【0019】
図1は、本発明の一実施例に係るクラッシュリリーフ12を備えたすべり軸受10を示す。この場合、すべり軸受10は一対の半円筒形状軸受14、16から成るコンロッド軸受であり、内燃機関のコンロッド(図示せず)とクランク軸のクランクピン部18との間に配置される。図1の矢印Aは、クランクピン部18の回転方向を示す。クランクピン部18の内部には潤滑油路20が形成され、そこから軸受摺動面に潤滑油が供給される。尚、図1ではクランクピン部18とすべり軸受10の内周面との間の隙間が実際の縮尺よりも大きく示されているが、図1は模式図に過ぎず、実際には適切な隙間が当業者には選択可能であることに留意されたい。
【0020】
図2〜5から理解されるように、クラッシュリリーフ12は、半円筒形状軸受14の円周方向端部領域において壁部の厚さを軸受の本来の内周面(主要円弧)22から半径方向に逃し深さRDだけ減じることによって軸受の幅Wに亘って形成される。半円筒形状軸受14の円周方向端部におけるクラッシュリリーフ12の逃し深さRDは、軸線方向中央部で最大(RD1)で、そこから軸線方向端部に向かって漸減し、軸線方向端部で最小(RD2)になっている(図5)。この逃し深さRDは円周方向中央部に向かって漸減し、クラッシュリリーフ12の上縁24で0になる(図3および図4)。
【0021】
また図3および図4に示すように、半円筒形軸受14の円周方向両端を下端面として水平面H上に置いた時の水平面Hからクラッシュリリーフ12の上縁までの高さであるクラッシュリリーフの逃し長さRLは、軸線方向中央部で最大(RL1)で、そこから軸線方向端部に向かって漸減し、軸線方向端部で最小(RL2)になっている。クラッシュリリーフ12の逃し深さRDが図5に示すように弧を描くように形成されるこの実施例の場合、クラッシュリリーフ12の上縁24もまた軸受内周面上に弧を描くように構成される。
【0022】
図6は、図1に示すすべり軸受10のクラッシュリリーフ12の部分を内周面側から見たX矢視図であり、潤滑油の主要な流れを実線の矢印で、一部の流れを点線の矢印で示している。軸受の摺動面に供給された潤滑油は、クランク軸のクランクピン部18の回転に伴って上側の半円筒形状軸受14の内周面から下側の半円筒形状軸受16の内周面へと流れる。このとき、内周面の軸線方向中央部を流れてきた潤滑油FCは、下側内周面の中央部へ向かって流れる。内周面の軸線方向端部側を流れてきた潤滑油FS2は、内周面とクラッシュリリーフ12の縁部を通り過ぎると、主要な部分は軸線方向の中央部へ流れ、一部(FS2’)が軸線方向端部側へ流れる。このとき、クラッシュリリーフ12は、その逃し長さRLおよび逃し深さRDが軸受の軸線方向の中央部で最大で、軸受の軸線方向の両端部へ向かって次第に小さいので、軸線方向の両端部におけるクラッシュリリーフ12の解放部からの油の漏れ量は少ない。下側半円筒形状軸受16の軸線方向中央部に向かって流れた潤滑油は、クラッシュリリーフ12を越えて下側半円筒形状軸受16の内周面上を流れる間に軸受の軸線方向へ向かうので、従来の流れ(図13)に比べて軸線端部から排出される量が少なくなり、軸受内周面の油膜形成が良好になる。尚、この場合も異物は流れFS2’によってクラッシュリリーフ12が形成された領域で軸線方向端部へと流れ、外部へ排出されることができる。
【0023】
本実施例において、好適には、クラッシュリリーフ12の軸線方向中央部での逃し長さRL1は3〜15mmであり、これは従来のすべり軸受に形成される一般的なクラッシュリリーフ逃し長さRLであって、軸線方向に一定である従来の逃し長さRLの寸法と同様である。その理由は、逃し長さRL1が3mm未満であると、一対の半円筒形状軸受を組み合わせることにより円周方向端面同士の位置がずれて軸受の内周面側に段差が生じた場合、この段差による油膜切れを緩和する効果が不十分となることがあるからである。また逃し長さRL1を15mm以下とする理由は、クラッシュリリーフ逃し長さRL1を過度に大きくすると、クランク軸からの負荷を受ける軸受の内周面の面積が小さくなるためである。
【0024】
一方、クラッシュリリーフ12の軸線方向端部での逃し長さRL2は、好適には0.1〜2mmである。このクラッシュリリーフ12の軸線方向端部での逃し長さRL2は、軸受の軸線向端部からの油の漏れ量を少なくするため、異物が排出される限りできるだけ小さくすることが好ましい。
【0025】
また、各半円筒形状軸受の円周方向端部における、クラッシュリリーフ12の軸線方向中央部での逃し深さRD1は、好適には0.01〜0.05mmであり、これは従来のすべり軸受に形成される一般的なクラッシュリリーフ逃し深さRDであって、軸線方向に一定である従来の逃し深さRDの寸法と同様である。その理由は、逃し深さRD1が0.01mm未満であると、一対の半円筒形状軸受を組み合わせることにより円周方向端面同士の位置がずれて軸受の内周面側に段差が形成した場合、この段差による油膜切れを緩和する効果が小さいからである。また、図7に示すように、軸線方向端部におけるクラッシュリリーフ12の最大逃し深さRD1が適切であると、クラッシュリリーフ12の底面50と相手軸表面52との間の潤滑油は、矢印によって示すように回転する軸の表面に付随して円周方向へ送られるが、図8に示すように相手軸表面52とクラッシュリリーフ12の底面50’を過度に離間させすぎると、底部の潤滑油に相手軸表面からの作用が小さくなり、軸受の前方の内周面(摺動面)へ流れる潤滑油量が減り、軸受の軸線方向端部から漏れ出る量が多くなってしまう。そこでクラッシュリリーフの最大逃し深さRD1を0.05mm以下とすることにより、クラッシュリリーフ12の底面50と相手軸表面52との間の潤滑油の全体に亘って相手軸表面からの作用が及び、軸受の前方の内周面(摺動面)への潤滑油の供給が十分になる。
【0026】
一方、各半円筒形状軸受の円周方向端部における、クラッシュリリーフ12の軸線方向端部での逃し深さRD2は、好適には0.005〜0.02mmである。この逃し深さRD2は、潤滑油の漏れ量を少なくするために、潤滑油中に混入する異物が軸受外部へ排出される限りできるだけ小さいことが好ましい。尚、この場合、クラッシュリリーフ12の逃し深さRD1とRD2とは重複する範囲を含むが、これは軸受の内径サイズが大きいほど逃し深さを大きくする必要があるからであり、しかし逃し深さRD1とRD2とは、それぞれの数値範囲内で、RD1>RD2とすべきことは明らかである。
【0027】
図6に示すように上側の半円筒形状軸受14の内周面を流れてきた潤滑油を下側の半円筒形状軸受16の内周面の軸線方向の中央部に向かって流すために、より好適には、半円筒形状軸受の軸線方向端部からの距離が半円筒形状軸受の軸線方向長さ(幅)Wの1/4である各軸線方向位置QP(すなわち、軸線方向中央部位置CPと軸線方向端部位置EPとの間の中央部位置QP)におけるクラッシュリリーフの逃し長さRL3が、軸線方向中央部でのクラッシュリリーフ逃し長さRL1の60〜90%である(図9)。その理由は、逃し長さRL3が逃し長さRL1の60%未満であると、下側の半円筒形状軸受16の内周面においてクラッシュリリーフの軸線方向断面積の減少が急激となり、下側の半円筒形状軸受16のクラッシュリリーフの軸線方向中央の先端部TPで潤滑油の圧が高くなり過ぎて、かえって潤滑油が中央部へ集まり難くなるためであり、一方、逃し長さRL3が逃し長さRL1の90%を越えると、潤滑油が円周方向に流れ易くなり、中央部に向かって流れ難くなるからである。
【実施例2】
【0028】
図10および図11は、本発明の第2の実施例によるすべり軸受を示す。図10に示すように逃し深さRDが直線状を描くようにクラッシュリリーフ12の底部が形成されると、図11に示すようにクラッシュリリーフ12の上縁24もまた軸受内周面上に直線状になる。しかしこの場合も、上述したように上側の半円筒形状軸受14の内周面を流れてきた潤滑油を下側の半円筒形状軸受16の内周面の軸線方向の中央部に向かって流すために、半円筒形状軸受の軸線方向端部からの距離が半円筒形状軸受の軸線方向長さ(幅)Wの1/4である各軸線方向位置QPにおけるクラッシュリリーフの逃し長さRL3は、軸線方向中央部でのクラッシュリリーフ逃し長さRL1の60〜90%になされていることに留意すべきである。
【0029】
以上の実施例において、軸受内周面の円周方向に形成される従来の潤滑油溝は示されておらず、あるいは必ずしも形成されなくてもよいことに留意すべきである。またすべり軸受の幅寸法は内燃機関の容量により決まるものであり、それゆえ本発明で制限する必要はない。さらに、すべり軸受には、クラッシュリリーフとは別に、製造および組み立てを容易にする目的で、通常の面取りを各縁部に形成してもよいことは明らかである。
【0030】
上記記載はいくつかの実施例についてなされたが、本発明はそれに限らず、本発明の精神と添付の請求の範囲の範囲内で種々の変更および修正をすることができることは当業者に明らかである。
【符号の説明】
【0031】
10 すべり軸受
12 クラッシュリリーフ
14 半円筒形状軸受
16 半円筒形状軸受
18 クランク軸のクランクピン部
20 潤滑油路
22 本来の内周面(主要円弧)
24 上縁
50 底面
52 相手軸表面
80 半円筒形状軸受
82 本来の内周面(主要円弧)
84 逃し空間、クラッシュリリーフ
RL 逃し長さ
RD 逃し深さ
W 軸受の幅
H 水平面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のクランク軸用のすべり軸受であって、
互いに組み合わされて前記すべり軸受を形成する一対の半円筒形状軸受と、
前記各半円筒形状軸受の内周面の各円周方向端部領域に、前記半円筒形状軸受の軸線方向の全幅に亘って軸受壁厚を減ずることによって形成されたクラッシュリリーフと
を有するすべり軸受において、
前記クラッシュリリーフの軸受壁厚減少量である逃し深さRDが、前記半円筒形状軸受の円周方向において各端部で最大で、円周方向中央に向かって漸減しており、且つ前記半円筒形状軸受の軸線方向において中央で最大で、軸線方向両端部に向かって漸減していることを特徴とするすべり軸受。
【請求項2】
前記各半円筒形状軸受を、その円周方向両端面が下端面となるように水平面上に置いた場合の該水平面から前記軸受内周面上のクラッシュリリーフの上縁までの高さとして表されるクラッシュリリーフの逃し長さRLが、軸線方向中央で最大RL1であり、該軸線方向中央から前記軸線方向全幅の1/4に相当する距離だけ離れた各軸線方向位置でのクラッシュリリーフ逃し長さRL3が、前記最大逃し長さRL1の60〜90%である請求項1に記載のすべり軸受。
【請求項3】
前記半円筒形状軸受の軸線方向中央での前記クラッシュリリーフの逃し長さRL1が3〜15mmであり、軸線方向各端部での前記クラッシュリリーフの逃し長さRL2が0.1〜2mmである請求項1または請求項2に記載のすべり軸受。
【請求項4】
前記半円筒形状軸受の円周方向各端部における前記クラッシュリリーフの逃し深さRDは、軸線方向中央部で0.01〜0.05mmであり、軸線方向各端部で0.005〜0.02mmである請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のすべり軸受。
【請求項5】
前記クラッシュリリーフの上縁が、前記軸受内周面上で弧を描くように構成されている請求項2に記載のすべり軸受。
【請求項6】
前記クラッシュリリーフの上縁が、前記軸受内周面上で直線状に構成されている請求項2に記載のすべり軸受。
【請求項1】
内燃機関のクランク軸用のすべり軸受であって、
互いに組み合わされて前記すべり軸受を形成する一対の半円筒形状軸受と、
前記各半円筒形状軸受の内周面の各円周方向端部領域に、前記半円筒形状軸受の軸線方向の全幅に亘って軸受壁厚を減ずることによって形成されたクラッシュリリーフと
を有するすべり軸受において、
前記クラッシュリリーフの軸受壁厚減少量である逃し深さRDが、前記半円筒形状軸受の円周方向において各端部で最大で、円周方向中央に向かって漸減しており、且つ前記半円筒形状軸受の軸線方向において中央で最大で、軸線方向両端部に向かって漸減していることを特徴とするすべり軸受。
【請求項2】
前記各半円筒形状軸受を、その円周方向両端面が下端面となるように水平面上に置いた場合の該水平面から前記軸受内周面上のクラッシュリリーフの上縁までの高さとして表されるクラッシュリリーフの逃し長さRLが、軸線方向中央で最大RL1であり、該軸線方向中央から前記軸線方向全幅の1/4に相当する距離だけ離れた各軸線方向位置でのクラッシュリリーフ逃し長さRL3が、前記最大逃し長さRL1の60〜90%である請求項1に記載のすべり軸受。
【請求項3】
前記半円筒形状軸受の軸線方向中央での前記クラッシュリリーフの逃し長さRL1が3〜15mmであり、軸線方向各端部での前記クラッシュリリーフの逃し長さRL2が0.1〜2mmである請求項1または請求項2に記載のすべり軸受。
【請求項4】
前記半円筒形状軸受の円周方向各端部における前記クラッシュリリーフの逃し深さRDは、軸線方向中央部で0.01〜0.05mmであり、軸線方向各端部で0.005〜0.02mmである請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のすべり軸受。
【請求項5】
前記クラッシュリリーフの上縁が、前記軸受内周面上で弧を描くように構成されている請求項2に記載のすべり軸受。
【請求項6】
前記クラッシュリリーフの上縁が、前記軸受内周面上で直線状に構成されている請求項2に記載のすべり軸受。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−17783(P2012−17783A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−154475(P2010−154475)
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【出願人】(591001282)大同メタル工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【出願人】(591001282)大同メタル工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】
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