説明

内燃機関のシリンダ潤滑方法

【課題】シリンダ油の供給量を必要最小限に抑制し得る内燃機関のシリンダ潤滑方法を提供する。
【解決手段】舶用2サイクルディーゼル機関(内燃機関)のシリンダライナ3の適宜位置にシリンダ油を供給してシリンダライナ3とピストンリング2との間の潤滑を行う方法に関し、シリンダライナ3とピストンリング2との間の油膜形成が不完全な場合に生じる現象として、シリンダライナ3の温度の閾値を超える上昇、又はドレン油中の鉄分濃度の閾値を超える上昇(或いはシリンダライナ3の温度及びドレン油中の鉄分濃度の両方の閾値を超える上昇)を検出し、その検出時にのみシリンダ油の供給を行い且つ非検出時はシリンダ油の供給を停止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のシリンダ潤滑方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図4は舶用2サイクルディーゼル機関の一例を示すもので、ここに図示している例では、ピストン1及び該ピストン1に外嵌装着されたピストンリング2がシリンダライナ3の内部を上下に往復摺動するようになっており、このシリンダライナ3は、クランクケース4上部に組み付けられたシリンダ外衣5により固定され、更に、前記シリンダライナ3の上部には、シリンダカバー6及び排気弁箱7が取り付けられている。
【0003】
また、クランクケース4の内部では、クロスヘッドガイドシュー8が上下方向に往復摺動し得るようガイドされていると共に、該クロスヘッドガイドシュー8には、連接棒9の上端部のクロスヘッド10が回動自在に取り付けられており、一方、前記連接棒9の下端部は、クランク軸12における偏心したアーム部先端に回動自在に取り付けられている。
【0004】
そして、前記クロスヘッド10には、ピストン棒11を介してピストン1が連結されており、該ピストン1の上下の往復摺動が、ピストン棒11、クロスヘッド10、連接棒9を介して前記クランク軸12の回転運動に変換されるようになっている。
【0005】
ここで、前記ピストン棒11は、シリンダ外衣5の底部のピストンスタッフィングボックス13により摺動自在にシールされており、給気口14からシリンダ外衣5内に導入される給気をピストン1の下降時に掃気孔3’からシリンダライナ3内に取り込み、これをピストン1の上昇により圧縮して燃料と共に燃焼させ、該燃焼により生じた排気ガスを前記排気弁箱7の排気弁15から排出させるようにしてある。
【0006】
また、前記シリンダライナ3の適宜位置に注油ノズル16が設けられており、該注油ノズル16に対し油タンク17からのシリンダ油が注油器18のブースターポンプ19により加圧されて送り込まれるようになっていて、該注油器18のブースターポンプ19は、モータ20駆動の作動油ポンプ21により送り込まれる作動油を電磁弁22により切り換えることで往復動するようになっている。
【0007】
尚、注油ノズル16から供給されたシリンダ油は、その全てが潤滑に供されるわけではなく、燃料と共に燃焼したり、ランタンスペース23に掻き落とされてドレン油として排油管24から排出されるようになっている。
【0008】
一方、クランク軸12には、クランク軸付き歯車25が取り付けられており、該クランク軸付き歯車25の外周部に対し近接配置されている回転数検出器26及びタイミング検出器27からの検出信号26a,27aが制御装置28に入力されるようになっている。
【0009】
また、この制御装置28においては、回転数検出器26により検出される機関の回転数に基づき負荷を算出して必要な注油量が求められると共に、タイミング検出器27により検出されるピストン1位置に基づき最適な注油タイミングが求められ、制御信号20a,22aにより作動油ポンプ21のモータ20及び注油器18の電磁弁22が適切に制御されるようになっている。
【0010】
ここで、従来より周知である通り、クランク軸付き歯車25の外周部には、ギヤ歯の如き多数の突起が刻まれており、回転数検出器26及びタイミング検出器27に備えられたコイルに通電することで磁界をつくり、クランク軸付き歯車25の突起が通過した時に、その通過を前記回転数検出器26及びタイミング検出器27の側に発生する誘導起電力の電圧変化として捕え、その電圧変化を制御装置28側で判断してエンジン回転数やクランク角度などの情報として処理するようにしてある。
【0011】
尚、回転数検出器26が対象とするクランク軸付き歯車25には、その外周部の全周に亘り均等に突起を刻んでおけば良く、また、タイミング検出器27が対象とするクランク軸付き歯車25には、その外周部の一部に突起の無いノッチを形成しておき、このノッチを基準とすることでクランク軸12の回転角度が判別できるようにしておけば良い。
【0012】
更に、前述の注油量の制御につき補足して説明すると、注油率(g/kW−h)は100%負荷にて任意の注油量を確保できるように制御装置28で設定され、例えば、負荷に対し図5のグラフの中に実線で示すような注油率に設定しておき、この数値を初期擦り合わせ時の値として、機関の就航後に潤滑状態を見ながら注油率の設定値を下げられるようにしてある。
【0013】
即ち、従来の舶用2サイクルディーゼル機関におけるピストン1、ピストンリング2、シリンダライナ3の潤滑では、機関の出力をベースとして連続的にシリンダ油を供給するようにしており、シリンダ油の供給量を減少する場合は、ピストンリング2、シリンダライナ3の状況を見ながら注油率を低下して対応することしかできない。
【0014】
尚、本発明に関連する先行技術文献情報としては下記の特許文献1や特許文献2等が既に存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2000−213322号公報
【特許文献2】特開2006−241989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、このような機関の出力をベースとして連続的にシリンダ油を供給する方式では、既に供給済みのシリンダ油により十分な潤滑が得られていても、注油率を低下してシリンダ油の供給量を減少させることしかできず、不必要な注油が継続されてしまうことが避けられなかったため、シリンダ油の消費量が必要以上に嵩んでコストの高騰を招く虞れがあった。
【0017】
本発明は上述の実情に鑑みてなしたもので、シリンダ油の供給量を必要最小限に抑制し得る内燃機関のシリンダ潤滑方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、内燃機関のシリンダライナの適宜位置にシリンダ油を供給してシリンダライナとピストンリングとの間の潤滑を行う方法であって、シリンダライナとピストンリングとの間の油膜形成が不完全な場合に生じる現象を検出し、該現象の検出時にのみシリンダ油の供給を行い且つ非検出時はシリンダ油の供給を停止することを特徴とするものである。
【0019】
而して、このようにすれば、シリンダライナとピストンリングとの間の油膜形成が不完全な場合に生じる現象を検出し、該現象の検出時にのみシリンダ油の供給を行うようにしているので、無給油状態を基本として、シリンダライナとピストンリングとの間の潤滑状況が悪化しないよう監視しながら必要な時にのみ給油を実行し、シリンダ油の供給量を必要最小限に抑制することが可能となる。
【0020】
更に、本発明をより具体的に実施するに際しては、シリンダライナの温度を検出し、その検出温度が所定の閾値を超えた時にシリンダライナとピストンリングとの間の油膜形成が不完全であると看做してシリンダ油の供給を行うようにしたり、或いは、ランタンスペースのドレン油中に鉄分濃度を検出し、その検出濃度が所定の閾値を超えた時にシリンダライナとピストンリングとの間の油膜形成が不完全であると看做してシリンダ油の供給を行うようにしたりすることが可能である。
【0021】
また、本発明をより具体的に実施するに際しては、内燃機関として舶用2サイクルディーゼル機関に適用することが可能である。
【発明の効果】
【0022】
上記した本発明の内燃機関のシリンダ潤滑方法によれば、シリンダライナとピストンリングの潤滑状況をフィードバックし、必要な時のみ注油する方式を採用しているので、従来の如き内燃機関の出力をベースとして連続的にシリンダ油を供給する方式と比較して、シリンダ油の供給量を必要最小限に抑制することができ、コストの大幅な削減を図ることができるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明を実施する形態の一例を示す概略図である。
【図2】温度センサ及び鉄分濃度計の検出信号と注油との関係を示すグラフである。
【図3】注油停止試験時のシリンダライナ温度変化を示すグラフである。
【図4】従来例を示す概略図である。
【図5】従来例における負荷と注油率の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0025】
図1〜図3は本発明を実施する形態の一例を示すもので、図4と同一の符号を付した部分は同一物を表わしている。
【0026】
図1に示している通り、本形態例においては、先に図4で説明したものと略同様に構成した舶用2サイクルディーゼル機関を対象としているが、シリンダライナ3の上部に該シリンダライナ3の温度を検出する温度センサ29が新たに装備されている点と、ランタンスペース23からドレン油を抜き出す排油管24の途中に前記ドレン油中に含まれる鉄分の濃度を検出する鉄分濃度計30が新たに装備されている点で相違している。
【0027】
そして、これら温度センサ29と鉄分濃度計30の検出信号29a,30aが制御装置28に入力されるようになっており、図2にグラフで示すように、温度センサ29の検出温度、又は鉄分濃度計30の検出濃度(或いは温度センサ29の検出温度と鉄分濃度計30の検出濃度の両方)が所定の閾値を超えている期間t1,t2,t3でだけシリンダ油の供給が行われ、これ以外の期間ではシリンダ油の供給が停止されて無給油状態となる制御が作動油ポンプ21のモータ20及び注油器18の電磁弁22に向け制御信号20a,22aにより実行されるようにしてある。
【0028】
即ち、前記温度センサ29及び鉄分濃度計30は、シリンダライナ3とピストンリングとの間の油膜形成が不完全な場合に生じる現象を検出する手段として採用されているものであり、シリンダライナ3とピストンリング2との間の油膜形成が不完全な場合に、シリンダライナ3の温度やドレン油の鉄分濃度が上昇することが知見として得られているので、このような現象を捕えてシリンダライナ3とピストンリング2との間の潤滑状況の悪化を把握するようにしている。
【0029】
図3のグラフは、シリンダ油の供給を停止してから機関を起動し、シリンダライナ3の温度が時間的にどのように変化するかを記録した試験結果であり、起動後約4時間ほど経過したあたりでシリンダライナ3の大幅な温度上昇が始まることがグラフから読み取れるが、この試験結果は、シリンダ油の一度の供給であっても時間単位で長く潤滑され続けることを意味しており、無給油の状態が時間単位で長くなっても良いことが判る。
【0030】
ここで、シリンダ油を供給する場合の注油量の制御は、図4の例の場合と同様に、負荷に対する注油率(図5参照)を予め設定しておき、回転数検出器26により検出される機関の回転数に基づき負荷を算出して注油率を決めるようにすれば良いが、温度センサ29の検出温度、又は鉄分濃度計30の検出濃度が閾値を超える度合に応じて注油率を増加するような措置を施しても良い。
【0031】
而して、シリンダライナ3の温度を温度センサ29により検出すると共に、ランタンスペース23から排出されるドレン油中の鉄分濃度を鉄分濃度計30により検出し、シリンダライナ3とピストンリング2との間の油膜形成が不完全な場合に生じる現象として、シリンダライナ3の温度の閾値を超える上昇、又はドレン油中の鉄分濃度の閾値を超える上昇(或いはシリンダライナ3の温度及びドレン油中の鉄分濃度の両方の閾値を超える上昇)が検出された時にのみシリンダ油の供給を行うようにすれば、無給油状態を基本として、シリンダライナ3とピストンリング2との間の潤滑状況が悪化しないよう監視しながら必要な時にのみ給油を実行し、シリンダ油の供給量を必要最小限に抑制することが可能となる。
【0032】
従って、上記形態例によれば、シリンダライナ3とピストンリング2の潤滑状況をフィードバックし、必要な時のみ注油する方式を採用しているので、従来の如き機関の出力をベースとして連続的にシリンダ油を供給する方式と比較して、シリンダ油の供給量を必要最小限に抑制することができ、コストの大幅な削減を図ることができる。
【0033】
尚、本発明の内燃機関のシリンダ潤滑方法は、上述の形態例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0034】
1 ピストン
2 ピストンリング
3 シリンダライナ
20 モータ
20a 制御信号
21 作動油ポンプ
22 電磁弁
22a 制御信号
28 制御装置
29 温度センサ
29a 検出信号
30 鉄分濃度計
30a 検出信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のシリンダライナの適宜位置にシリンダ油を供給してシリンダライナとピストンリングとの間の潤滑を行う方法であって、シリンダライナとピストンリングとの間の油膜形成が不完全な場合に生じる現象を検出し、該現象の検出時にのみシリンダ油の供給を行い且つ非検出時はシリンダ油の供給を停止することを特徴とする内燃機関のシリンダ潤滑方法。
【請求項2】
シリンダライナの温度を検出し、その検出温度が所定の閾値を超えた時にシリンダライナとピストンリングとの間の油膜形成が不完全であると看做してシリンダ油の供給を行うことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関のシリンダ潤滑方法。
【請求項3】
ランタンスペースのドレン油中に鉄分濃度を検出し、その検出濃度が所定の閾値を超えた時にシリンダライナとピストンリングとの間の油膜形成が不完全であると看做してシリンダ油の供給を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関のシリンダ潤滑方法。
【請求項4】
内燃機関として舶用2サイクルディーゼル機関に適用したことを特徴とする請求項1、2又は3に記載の内燃機関のシリンダ潤滑方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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