説明

内燃機関の制御装置

【課題】バルブタイミングの固定時にスモーク排出量が増大することを抑制することができる内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】エンジンシステム1は、エンジン100の吸気弁22、排気弁23のバルブタイミングを変更する電動VVT機構26、油圧VVT機構27と、電動VVT機構26または油圧VVT機構27の作動が禁止される間にバルブタイミングを特定角に固定する位相固定機構26aおよび27aと、エンジン100のEGR量を制御するEGRバルブ162と、を備える。エンジンECU10は、エンジン100の燃焼室へ流入するガス中の酸素濃度に基づいてEGRバルブ162の開度を制御し、かつ、位相固定機構26aおよび27aがバルブタイミングを特定角に固定する間は、エンジン100の吸入空気量に基づいてEGRバルブ162の開度を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の運転状態に応じてバルブタイミング(開閉時期)やバルブリフト量などの吸気弁、排気弁のバルブ特性を変更する機構が実用化されている。特に、車両に搭載される内燃機関においては、たとえばクランク軸に対するカム軸の相対回転位相を変更することで吸気弁または排気弁のバルブタイミングを可変とする可変動弁機構が広く採用されている。
【0003】
また、内燃機関(特にディーゼル機関)において、燃焼室から排出される窒素酸化物(NOx)の量を低減するために、排ガスの一部を燃焼室に導入する排ガス還流(Exhaust Gas Recirculation:EGR)を行う技術が知られている。例えば、内燃機関の排気通路と吸気通路とを連結するEGR通路を設けて、排気通路を流通する排ガスの一部を吸気通路に流入させるEGR装置が広く知られている。このようなEGR装置は、一般的に、EGR通路の途中にEGRバルブを有し、設定されたEGR率に基づいてEGRバルブの開度をフィードバック制御(以下、F/B制御と略記する)している。内燃機関のNOx生成量は燃焼室に流入するガス中の酸素濃度と相関が強いために、EGR率は内燃機関の酸素濃度の目標値(目標酸素濃度)に基づいて設定される。
【0004】
可変動弁機構とEGR装置とを備える内燃機関としては、可変動弁機構の故障時にターボ過給圧を増大し、EGRバルブを徐々に閉鎖し、スロットル弁を徐々に開いて吸入空気量を確保することで、内燃機関のスモーク悪化を抑制する技術が特許文献1に開示されている。
【0005】
また、その他本発明と関連性があると考えられる技術が特許文献2および3に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−100462号公報
【特許文献2】特開2002−070654号公報
【特許文献3】特開平10−141147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
可変動弁機構は、内燃機関の潤滑油の圧力・温度が低い領域では作動性が極端に悪化し、場合によっては作動不能となることが知られている。そのため、近年、低油圧・低油温の運転領域においてバルブタイミングを特定角に固定するロック機構が適用されつつある。このようなロック機構は、可変動弁機構が故障したと判断された場合にもバルブタイミングを特定角に固定する。
【0008】
バルブタイミングが特定角に固定されると、吸気弁または排気弁の開閉弁の位相が目標位相とずれるために、内燃機関の燃焼室に流入するガスの量が減少する。そのため、EGRを行う運転領域でバルブタイミングが特定角に固定されると、燃焼室に流入するガスの総量が減少するにも関わらずEGR率が変わらないために、吸入空気量が大幅に減少してしまう。このように、可変動弁機構の故障等によりバルブタイミングが特定角に固定されると、目標酸素濃度と吸入空気量との関係性が崩れて吸入空気量が減少するために、内燃機関のスモーク排出量が増大してしまう。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、バルブタイミングの固定時にスモーク排出量が増大することを抑制することができる内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の内燃機関の制御装置は、内燃機関の吸気弁または排気弁のバルブタイミングを変更する可変動弁手段と、前記可変動弁手段の作動が禁止される間に前記バルブタイミングを特定角に固定する位相固定手段と、前記内燃機関の排気側から吸気側への排ガスの還流量を制御する排ガス還流量制御手段と、を備え、前記排ガス還流量制御手段が、前記内燃機関の燃焼室へ流入するガス中の酸素濃度に基づいて排ガスの還流量を制御し、かつ、前記位相固定手段が前記バルブタイミングを特定角に固定する間は、前記内燃機関の吸入空気量に基づいて排ガスの還流量を制御することを特徴とする。
【0011】
上記の構成により、バルブタイミングが特定角に固定される間に内燃機関の吸入空気量が減少することを抑制することができる。よって、バルブタイミングの固定時にスモーク排出量が増大することを抑制することができる。
【0012】
特に、本発明の内燃機関の制御装置は、前記排ガス還流量制御手段が、前記位相固定手段が前記バルブタイミングを特定角に固定する間は、前記内燃機関の吸入空気量が目標量を充足するよう排ガスの還流量を制御する構成とすることができる。
【0013】
上記の構成により、バルブタイミングが特定角に固定される間も内燃機関の吸入空気量が目標量を充足することから、吸入空気量の減少によるスモーク排出量の増大を抑制することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の内燃機関の制御装置によれば、バルブタイミングの固定時にスモーク排出量が増大することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例のエンジンシステムの一構成例を示した図である。
【図2】実施例のエンジンの一気筒の構成例を示した断面図である。
【図3】エンジンの運転領域におけるEGR領域を示している。
【図4】W/EGR領域におけるエンジンの燃焼室へのガス流入量を示している。
【図5】DPFの再生処理の一例を示している。
【図6】エンジンECUの処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態を図面と共に詳細に説明する。
【実施例】
【0017】
本発明の実施例について図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の内燃機関の制御装置を搭載したエンジンシステム1の一構成例を示した図である。なお、図1にはエンジンの一部の構成のみを示している。
【0018】
図1に示すエンジンシステム1は、動力源であるエンジン100を備えており、エンジン100の運転動作を総括的に制御するエンジンECU(Electronic Control Unit)10を備えている。また、エンジンシステム1は、エンジン100の排気側と吸気側とを連通するEGR通路16と、EGR通路16を通じて還流される外部EGR量を調節するEGRバルブ162とを備えている。そして、エンジンシステム1は、エンジン100の吸気弁22および排気弁23のバルブタイミングを変更する電動VVT機構26および油圧VVT機構27を備えている。更に、エンジンシステム1は、エンジン100の吸気弁22および排気弁23のバルブタイミングを特定角に固定する位相固定機構26aおよび27aを備えている。
【0019】
図2は、実施例のエンジン100の一気筒の構成例を示した断面図である。エンジン100は、車両に搭載される4気筒ディーゼルエンジンであって、各気筒は燃焼室を構成するピストンを備えている。各燃焼室のピストンは、エンジン100のシリンダに摺動自在に嵌合されており、それぞれコネクティングロッドを介して出力軸部材であるクランクシャフト21に連結されている。
【0020】
エンジンECU10は、エアフロメータ44からの吸入空気量、クランク角センサ43からのピストンの位置等の情報に基づき、燃料の噴射量および噴射タイミングを決定しインジェクタ17に信号を送る。インジェクタ17は、エンジンECU10の信号に従って、指示された燃料噴射量および噴射タイミングで燃焼室内に燃料を噴射する。インジェクタ17より噴射された燃料は、燃焼室内で霧化し、吸気弁の開弁に伴って燃焼室内へ流入する吸入空気と混合気を形成する。そして、混合気は、ピストンの上昇運動により燃焼室内で圧縮されて着火することで燃焼し、燃焼室内を膨張させてピストンを下降させる。この下降運動がコネクティングロッドを介してクランクシャフト21の軸回転に変更されることにより、エンジン100は動力を得る。この場合、エンジン100は、4気筒に限定されず、多気筒ディーゼルエンジンを適用することができる。また、本実施例のエンジン100は、軽油を燃料とするディーゼルエンジンとしているが、これに限定されない。
なお、エンジン100は、本発明の内燃機関の一構成例である。
【0021】
エンジン100のシリンダブロック51の下部には、エンジン100の各部位に供給される潤滑油を貯留するオイルパン52が取り付けられており、オイルパン52には潤滑油の温度を測定するための油温センサ41が設けられている。油温センサ41は、オイルパン52内部の潤滑油の温度を検出して結果をエンジンECU10へ送信する。それにより、エンジンECU10はエンジン100の潤滑油の温度を認識する。この場合、油温センサ41は、オイルパン52に限られずに、エンジン100内部を循環する潤滑油の温度を検出可能な任意の位置に設けることができる。また、エンジンECU10は、油温センサ41の検出結果に代えて、排ガス温度等の他の検出温度から潤滑油温を認識してもよいし、エンジン100の運転履歴から潤滑油温を推定する構成であってもよい。
【0022】
オイルパン52に貯留された潤滑油は、潤滑機構53を介して油圧VVT機構27を含むエンジン100の各部に供給される。エンジン100の各部を循環した潤滑油は、再びオイルパン52に戻される。潤滑機構53には潤滑油の圧力を測定するための油圧センサ42が設けられている。油温センサ41は、潤滑機構53を流れる潤滑油の圧力を検出して結果をエンジンECU10へ送信する。それにより、エンジンECU10はエンジン100の潤滑油の圧力を認識する。この場合、油温センサ41は、潤滑機構53に限られずに、エンジン100内部を循環する潤滑油の圧力を検出可能な任意の位置に設けることができる。
【0023】
クランクシャフト21の軸の近傍には、クランク角センサ43が設けられている。クランク角センサ43は、クランクシャフト21軸の回転角度を検出するように構成されており、検出結果をエンジンECU10に送信する。それにより、エンジンECU10は、運転時のクランクシャフト21軸の回転数や回転角速度など、クランク角に関する情報を取得する。そして、エンジンECU10は、取得したクランクシャフト21軸の回転数や回転角速度に基づきエンジン回転数やエンジントルクを算出してエンジン100の出力を認識する。
【0024】
各燃焼室には複数の吸気弁、排気弁が設けられている。図2には吸気弁、排気弁をそれぞれ1つずつ示している。燃焼室の各吸気ポートには、それぞれ吸気弁22が配置されており、吸気弁22を開閉駆動させるための吸気カムシャフト24が配置されている。更に、燃焼室の各排気ポートには、それぞれ排気弁23が配置されており、排気弁23を開閉駆動させるための排気カムシャフト25が配置されている。
【0025】
吸気弁22および排気弁23はクランクシャフト21の回転が連結機構(例えばタイミングベルト、タイミングチェーンなど)により伝達された吸気カムシャフト24および排気カムシャフト25の回転により開閉され、吸気ポートおよび排気ポートと燃焼室とを連通・遮断する。なお、吸気弁22、および排気弁23の位相は、クランク角を基準にして表される。
【0026】
吸気カムシャフト24は可変動弁機構(以下、VVT機構という)である電動VVT機構26を有している。この電動VVT機構26はエンジンECU10の指示により電動モータでベーンロータを回転させることで、ベーンロータに同期した吸気カムシャフト24を回転させる。それにより吸気カムシャフト24のクランクシャフト21に対する回転位相が変更されることから、吸気弁22のバルブタイミングが変更される。この場合、吸気カムシャフト24の回転位相は、吸気カム角センサ46にて検出され、エンジンECU10へと出力される。それにより、エンジンECU10は、吸気カムシャフト24の位相を取得することができるとともに、吸気弁22の位相を取得することができる。また、吸気カムシャフト24の位相は、クランク角を基準にして表される。本実施例の電動VVT機構26は電動式であるが、排気カムシャフト25と同様の油圧駆動式であってもよい。
なお、電動VVT機構26は、本発明の可変動弁手段の一構成例である。
【0027】
電動VVT機構26には位相固定機構26aが設けられている。位相固定機構26aは、電動VVT機構26のベーンロータに対するハウジングロータの回転を規制して、吸気弁22のバルブタイミングを最進角と最遅角との間にある特定角に固定する。吸気弁22を固定する特定角としては、例えば電動VVT機構26による位相の変更がないときの開閉弁タイミング(ベースタイミング)を適用することができる。
【0028】
位相固定機構26aは、電動VVT機構26のベーンロータ側に設けられたロックピンと、ハウジングロータ側に設けられたロック穴を有している。エンジンECU10の指示によりオイルコントロールバルブ(以下、OCVという)が開放されて潤滑油が供給されると、その油圧によってロックピンがロック穴側に移動する。そして、ロックピンとロック穴との周方向の位置が一致した状態で油圧がかかるとロックピンがロック穴と係合し、それによって電動VVT機構26のベーンロータとハウジングロータとが互いに固定される。OCVが閉鎖されて油圧の供給が停止すると、スプリングの付勢力によりロックピンがロック穴から離脱し、電動VVT機構26のベーンロータとハウジングロータとの固定が解除され、これらの相対的な回転が許容される。
なお、位相固定機構26aは、本発明の位相固定手段の一構成例である。
【0029】
排気カムシャフト25は油圧VVT機構27を有している。この油圧VVT機構27はエンジンECU10の指示によりOCVでベーンロータを回転させることで、ベーンロータに同期した排気カムシャフト25を回転させる。それにより排気カムシャフト25のクランクシャフト21に対する回転位相が変更されることから、排気弁23のバルブタイミングが変更される。この場合、排気カムシャフト25の回転位相は、排気カム角センサ47にて検出され、エンジンECU10へと出力される。それにより、エンジンECU10は、排気カムシャフト25の位相を取得することができるとともに、排気弁23の位相を取得することができる。また、排気カムシャフト25の位相は、クランク角を基準にして表される。本実施例の油圧VVT機構27は油圧駆動式であるが、吸気カムシャフト24と同様の電動式であってもよい。
なお、油圧VVT機構27は、本発明の可変動弁手段の一構成例である。
【0030】
油圧VVT機構27には位相固定機構27aが設けられている。位相固定機構27aは、位相固定機構26aと同様に、油圧VVT機構27のベーンロータに対するハウジングロータの回転を規制して、排気弁23のバルブタイミングを最進角と最遅角との間にある特定角に固定する。排気弁23を固定する特定角としては、例えば油圧VVT機構27による位相の変更がないときの開閉弁タイミング(ベースタイミング)を適用することができる。位相固定機構27aは位相固定機構26aと同様の構成であるために、その具体的な説明は省略する。
なお、位相固定機構27aは、本発明の位相固定手段の一構成例である。
【0031】
図1に戻り、エンジン100は、インジェクタ17、コモンレール18、低圧燃料ポンプ、高圧燃料ポンプ等より構成されるコモンレール式燃料噴射システムを備えている。燃料タンクより低圧燃料ポンプにより吸引された燃料は、高圧燃料ポンプにてコモンレール18へ高圧で吐出し蓄圧される。
【0032】
コモンレール18は、インジェクタ17に供給する高圧燃料を蓄圧する容器である。高圧燃料ポンプから圧送された燃料は、コモンレール18内で噴射に必要な圧力まで蓄圧され、高圧配管を通じて各燃焼室のインジェクタ17に供給される。また、コモンレール18にはレール圧センサおよび減圧弁が設けられている。エンジンECU10は、レール圧センサから出力されたコモンレール18内部の燃圧が規定値を超えた場合に、減圧弁を開放するように指示する。そして、減圧弁より燃料を排出することで、コモンレール圧が常に規定値以下になるよう調整する。減圧弁より排出された燃料は、リリーフ配管を通って燃料タンクへと戻される。
【0033】
各燃焼室には、それぞれインジェクタ17が装着されている。コモンレール18より高圧配管を通じて供給された燃料は、エンジンECU10の指示によりインジェクタ17にてエンジン気筒内の燃焼室に噴射供給される。エンジンECU10は、エアフロメータ44からの吸入空気量、およびクランク角センサ43からのピストンの位置の情報等に基づき、燃料噴射量と噴射タイミングを決定しインジェクタ17に信号を送る。インジェクタ17はエンジンECU10の信号に従って、指示された燃料噴射量・噴射タイミングにて燃焼室内へ燃料を高圧噴射する。インジェクタ17のリーク燃料は、リリーフ配管を通じて燃料タンクへと戻される。この場合、インジェクタ17は、エンジン100の仕様に応じて燃焼室の任意の位置に装着することができる。
【0034】
エンジン100の各燃焼室には、それぞれの燃焼室と連通する吸気マニホルド11が接続されている。吸気マニホルド11は、吸気通路12によってエアフロメータ44、ディーゼルスロットル19、インタークーラ、ターボチャージャ14のコンプレッサを介してエアクリーナに連結されており、エンジン100の外部から取り込まれた吸入空気を各燃焼室内へ導入する。
【0035】
ディーゼルスロットル19にはスロットルポジションセンサ45が設けられている。エアフロメータ44およびスロットルポジションセンサ45は、それぞれ吸気通路12を通過する吸入空気量、およびディーゼルスロットル19の弁開度を検出し、検出結果をエンジンECU10に送信する。エンジンECU10は、送信された検出結果に基づいて吸気マニホルド11へ導入される吸入空気量を認識し、ディーゼルスロットル19の弁開度を調節することでエンジン100の運転に必要な吸入空気を燃焼室へ導入する。
ディーゼルスロットル19は、ステップモータを用いたスロットルバイワイヤ方式を適用することが好ましいが、ディーゼルスロットル19の弁開度を任意に変更可能なその他の機構を適用してもよい。
【0036】
更に、エンジン100の各燃焼室には、それぞれの燃焼室と連通する排気マニホルド13が接続されている。排気マニホルド13は、排気通路15によってターボチャージャ14の排気タービンを介して排気浄化装置30に連結されており、燃焼後の排ガスをエンジン100の外部へと排出させる。
【0037】
ターボチャージャ14は、排ガスの運動エネルギを利用して排気タービンを回転させ、エアクリーナを通過した吸入空気を圧縮してインタークーラへと送り込む。圧縮された吸入空気は、インタークーラで冷却された後に吸気マニホルド11へと導入される。
ターボチャージャ14は、可変ノズル式ターボチャージャ(Variable Nozzle Turbo,以下、VNTと略記する)であって、排気タービン側に可変ノズルベーン機構141が設けられている。この可変ノズルベーン機構141の開度を調整することにより、タービンインペラ翼への排ガスの流入角度を制御して、吸気マニホルド11へ導入する吸入空気の過給圧を調節する。例えば、可変ノズルベーン機構141の開度をより小さくすると、より多くの排ガスがタービンインペラ翼に流入するために排ガスのエネルギ利用率が高くなって過給効率が向上する。また、可変ノズルベーン機構141の開度をより大きくすると、タービンインペラ翼に流入する排ガス量がより少なくなるために排ガスのエネルギ利用率が低くなって過給効率が低下する。この場合、ターボチャージャ14はVNTに限られず、ウェイストゲートによって過給圧の調節(排ガスのエネルギ利用率の制御)を行う構成であってもよい。
【0038】
排気浄化装置30は、エンジン100の排ガスを浄化するものであって、排ガス中のNOx、HCおよびCOを浄化する浄化触媒31と、煤などの粒子状物質(PM)を捕集するDPF32とを有している。この場合、排気浄化装置30は、パティキュレートフィルタにNOx吸蔵還元触媒を組み合わせたDPNR(Diesel Particlate NOx Reduction system)を適用してもよい。
【0039】
排気浄化装置30の上流側の排気通路15には、エンジン100の空燃比を検出するA/Fセンサ46が設けられている。これによって、エンジンECU10は、様々な負荷状態におけるエンジン100の空燃比を認識することができる。
【0040】
排気マニホルド13は、EGR通路16によって吸気マニホルド11と連通されている。EGR通路16へと流入した排ガスは、EGRクーラ161にて冷却された後にEGRバルブ162で流量を調節されつつ吸気マニホルド11へ進み、吸入空気とともに燃焼室内へ導入される。EGRバルブ162は、エンジンECU10の指令に従ってバルブ開度を調節することで、吸気マニホルド11への排ガスの還流量を適切な量へと調節する。これらEGR通路16、EGRクーラ161およびEGRバルブ162は、排気マニホルド13を流通する排ガスの一部を吸気マニホルド11に還流供給するための外部EGRとして機能する。
なお、EGRバルブ162は、本発明の排ガス還流量制御手段の一構成例である。
【0041】
エンジンECU10は、演算処理を行うCPU(Central Processing Unit)と、プログラム等を記憶するROM(Read Only Memory)と、データ等を記憶するRAM(Random Access Memory)やNVRAM(Non Volatile RAM)と、を備えるコンピュータである。エンジンECU10は、エンジン100の各部に備えられた複数のセンサの検出結果を読み込み、それら検出結果に基づいてエンジン100の運転動作を統合的に制御する。
【0042】
特に、本実施例のエンジンECU10は、電動VVT機構26または油圧VVT機構27の作動が禁止される間に吸気弁22または排気弁23のバルブタイミングを特定角に固定する制御を実行する。そして、エンジンECU10は、吸気弁22または排気弁23のバルブタイミングを特定角に固定する間は、エンジン100の吸入空気量に基づいてEGR量をF/B制御する。以下に、エンジンECU10が実行する制御について説明する。
【0043】
まず、本実施例のエンジンECU10が実行するバルブタイミングの固定制御について説明する。
エンジンECU10は、エンジン100の運転中、受信した油温センサ41、油圧センサ42、吸気カム角センサ46および排気カム角センサ47の検出結果に基づいて、電動VVT機構26または油圧VVT機構27の作動を禁止するか否かを判断する。
【0044】
具体的には、エンジンECU10は、エンジン100の油温が油圧VVT機構27の作動不良を引き起こす可能性があるほど低いとき(例えば0℃未満)、または、油圧が油圧VVT機構27の作動不良を引き起こす可能性があるほど低いとき(例えば、100kPa)に、油圧VVT機構27の作動を禁止すると判断する。また、エンジンECU10は、電動VVT機構26へ指令した位相と吸気弁22の実位相とが一致しないときに電動VVT機構26が故障していると判断し、電動VVT機構26の作動を禁止すると判断する。同様に、エンジンECU10は、油圧VVT機構27へ指令した位相と排気弁23の実位相とが一致しないときに油圧VVT機構27が故障していると判断し、油圧VVT機構27の作動を禁止すると判断する。
【0045】
エンジンECU10は、電動VVT機構26の作動を禁止すると判断すると、位相固定機構26aに指令して吸気弁22のバルブタイミングを特定角に固定する。また、エンジンECU10は、油圧VVT機構27の作動を禁止すると判断すると、位相固定機構27aに指令して排気弁23のバルブタイミングを特定角に固定する。これによって、電動VVT機構26および油圧VVT機構27の故障や作動不良によってバルブタイミングが目標タイミングから大きくずれてしまうことを抑制する。
なお、バルブタイミングを固定する特定角については前述したために、その詳細な説明は省略する。
【0046】
次に、本実施例のエンジンECU10が実行するEGR量のF/B制御について説明する。図3は、エンジン100の運転領域におけるEGR領域を示している。エンジンシステム1は、エンジン100のNOx生成量が多い低回転・低負荷領域(W/EGR領域)でEGRバルブ162を開いてEGRを導入する。すなわち、エンジンECU10は、エンジン100の運転中、受信したクランク角センサ43の検出結果に基づいて、エンジン100の運転領域がW/EGR領域にあるか否かを判断する。エンジン100の運転領域がW/EGR領域にない場合、エンジンECU10はEGRバルブ162に閉鎖を指令する。
【0047】
エンジン100の運転領域がW/EGR領域にある場合は、エンジンECU10は、位相固定機構26aまたは位相固定機構27aによってバルブタイミングが特定角に固定されているか否かを判断する。バルブタイミングが特定角に固定されていない場合、エンジンECU10は、燃焼室へ流入するガス中の酸素濃度に基づいてEGR率を設定する。具体的には、エンジンECU10は、エンジン100の現在の運転領域においてNOx生成量が最小となる酸素濃度の目標値(目標酸素濃度)を設定する。そして、設定した目標酸素濃度を充足するようEGR率を設定する。
【0048】
一方、バルブタイミングが特定角に固定されている場合は、エンジンECU10は、エンジン100の吸入空気量に基づいてEGR率を設定する。具体的には、エンジンECU10は、エンジン100の出力から吸入空気量の目標値(目標吸入空気量)を設定する。そして、設定した目標吸入空気量を充足するようEGR率を設定する。
【0049】
エンジンECU10は、設定したEGR率に応じてEGRバルブ162の開度を調節することで、燃焼室に導入されるEGR量を制御する。エンジンECU10は、エンジン100の運転中に上記の制御を繰り返すことでEGR量をF/B制御する。
なお、エンジンECU10は、本発明の排ガス還流量制御手段の一構成例である。
【0050】
図4は、W/EGR領域におけるエンジン100の燃焼室へのガス流入量を示している。電動VVT機構26および油圧VVT機構27が正常に作動している場合(図4(a)参照)は、バルブタイミングが目標タイミングと一致しているためにエンジン100の運転状態に応じた適切な量のガスが燃焼室へ流入する。この場合、燃焼室に流入するガス中の酸素濃度に基づいてEGR率を設定することで、エンジン100のNOx排出量を適切に低減することができる。
【0051】
一方、バルブタイミングが特定角に固定されると、吸気弁22または排気弁23の開閉弁の位相が目標位相とずれるために、エンジン100の燃焼室に流入するガスの総量が減少する(図4(b)参照)。この場合、燃焼室に流入するガス中の酸素濃度に基づいてEGR率を設定すると、燃焼室に流入するガスの総量が減少するにも関わらずEGR率が変わらないために、吸入空気量が大幅に減少してしまう。そのため、吸入空気量不足による不完全燃焼によってエンジン100のスモーク排出量が増大してしまう。
【0052】
そこで、本実施例のエンジンシステム1は、バルブタイミングが特定角に固定される間は、エンジン100の吸入空気量に基づいてEGR量をF/B制御する。すなわち、エンジン100の吸入空気量が目標量を充足するようEGR率を設定する。これによって、バルブタイミングが特定角に固定される間も燃焼室に充分な量の吸入空気が流入する(図4(c)参照)ために、エンジン100のスモーク排出量が増大することを抑制することができる。また、スモーク悪化を抑制できる吸入空気量を維持しつつ燃焼室にEGRを導入することができることから、EGR量の不足による燃焼騒音の悪化を抑制することができる。
【0053】
本実施例における発明の他の効果を説明する。図5は、DPF32の再生処理の一例を示している。エンジン100のDPF32は、堆積したPMを焼成するために所定の走行距離毎に再生処理が行われる。この場合、従来のEGR制御によれば、バルブタイミングが特定角に固定されると吸入空気量不足による不完全燃焼によってスモーク排出量が増大するために、DPF32にPMが過堆積する。そして、再生処理が実行されるとDPF32が過度に昇温するために、再生処理を繰り返すことでDPF32の耐久性が低下してしまう。
【0054】
一方、本実施例のF/B制御によれば、バルブタイミングが特定角に固定される間もスモーク排出量が増大しないために、DPF32へのPMの過堆積を抑制することができる。よって、DPF32の耐久性の低下を抑制することができる。
【0055】
つづいて、エンジンECU10の制御の流れに沿って、エンジンシステム1の動作を説明する。図6は、エンジンECU10の処理の一例を示すフローチャートである。本実施例のエンジンシステム1は、エンジン100の燃料室へ流入するガス中の酸素濃度に基づいてEGR量をF/B制御し、かつ、吸気弁22または排気弁23のバルブタイミングを特定角に固定する間は、エンジン100の吸入空気量に基づいてEGR量をF/B制御する。
【0056】
エンジンECU10の制御は、イグニッションスイッチがONされてエンジン100が始動されると開始し、エンジン100の運転中に以下の制御の処理を繰り返す。
【0057】
まず、エンジンECU10はステップS1で、クランク角センサ43の検出結果に基づいて、エンジン100の運転領域がW/EGR領域にあるか否かを判断する。エンジン100の運転領域がW/EGR領域にない場合(ステップS1/NO)、エンジンECU10は、燃焼室へEGRを導入する必要がないと判断し、ステップS6に進んでEGRバルブ162に閉鎖を指令した後に制御の処理を終了する。エンジン100の運転領域がW/EGR領域にある場合(ステップS1/YES)は、エンジンECU10は、燃焼室へEGRを導入する必要があると判断し、次のステップS2へ進む。
【0058】
ステップS2で、エンジンECU10は、位相固定機構26aまたは位相固定機構27aによってバルブタイミングが特定角に固定されているか否かを判断する。バルブタイミングが特定角に固定されている場合(ステップS2/YES)、エンジンECU10は、ステップS4へ進む。バルブタイミングが特定角に固定されていない場合(ステップS2/NO)は、エンジンECU10は、次のステップS3へ進む。
【0059】
ステップS3で、エンジンECU10は、エンジン100の燃焼室へ流入するガス中の酸素濃度に基づいてEGR率を設定する。具体的には、エンジンECU10は、エンジン100の現在の運転領域においてNOx生成量が最小となる目標酸素濃度を充足するようEGR率を設定する。エンジンECU10は、ステップS3の処理を終えると、ステップS5へ進む。
【0060】
ステップS2の判断結果がYESの場合、エンジンECU10はステップS4へ進む。ステップS4で、エンジンECU10は、エンジン100の吸入空気量に基づいてEGR率を設定する。具体的には、エンジンECU10は、エンジン100の出力に応じて設定した目標吸入空気量を充足するようEGR率を設定する。エンジンECU10は、ステップS4の処理を終えると、次のステップS5へ進む。
【0061】
ステップS3、またはステップS4の処理を終えると、エンジンECU10はステップS5へ進む。ステップS5で、エンジンECU10は、ステップS3、またはステップS4で設定されたEGR率に応じてEGRバルブ162の開度を調節し、燃焼室へ導入されるEGR量を調節する。エンジンECU10は、ステップS5の処理を終えると、制御の処理を終了する。
【0062】
上記の制御を実行することにより、バルブタイミングの固定時にエンジン100のスモーク排出量が増大することを抑制することができる。また、バルブタイミングが固定されていない時にはNOx生成量が最小となる適切なEGR率を設定することができる。
【0063】
以上のように、本実施例のエンジンシステムは、エンジンの吸気弁、排気弁のバルブタイミングを変更する電動VVT機構、油圧VVT機構と、電動VVT機構または油圧VVT機構の作動が禁止される間にバルブタイミングを特定角に固定する位相固定機構と、エンジンのEGR量を制御するEGRバルブと、を備え、エンジンECUが、エンジンの燃焼室へ流入するガス中の酸素濃度に基づいてEGRバルブの開度を制御し、かつ、位相固定機構がバルブタイミングを特定角に固定する間は、エンジンの吸入空気量に基づいてEGRバルブの開度を制御する。
これによって、バルブタイミングが特定角に固定される間にエンジンの吸入空気量が減少することを抑制することができる。よって、バルブタイミングの固定時にスモーク排出量が増大することを抑制することができる。
【0064】
また、本実施例のエンジンシステムは、位相固定機構がバルブタイミングを特定角に固定する間は、エンジンの吸入空気量が目標量を充足するようEGRバルブの開度を制御する。これによって、バルブタイミングが特定角に固定される間もエンジンの吸入空気量が目標量を充足することから、吸入空気量の減少によるスモーク排出量の増大を抑制することができる。
【0065】
上記実施例は本発明を実施するための一例にすぎない。よって本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0066】
1 エンジンシステム
10 エンジンECU(排ガス還流量制御手段)
16 EGR通路
22 吸気弁
23 排気弁
26 電動VVT機構(可変動弁手段)
26a 位相固定機構(位相固定手段)
27 油圧VVT機構(可変動弁手段)
27a 位相固定機構(位相固定手段)
41 油温センサ
42 油圧センサ
43 クランク角センサ
46 吸気カム角センサ
47 排気カム角センサ
100 エンジン(内燃機関)
162 EGRバルブ(排ガス還流量制御手段)



【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の吸気弁または排気弁のバルブタイミングを変更する可変動弁手段と、
前記可変動弁手段の作動が禁止される間に前記バルブタイミングを特定角に固定する位相固定手段と、
前記内燃機関の排気側から吸気側への排ガスの還流量を制御する排ガス還流量制御手段と、を備え、
前記排ガス還流量制御手段は、前記内燃機関の燃焼室へ流入するガス中の酸素濃度に基づいて排ガスの還流量を制御し、かつ、前記位相固定手段が前記バルブタイミングを特定角に固定する間は、前記内燃機関の吸入空気量に基づいて排ガスの還流量を制御することを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記排ガス還流量制御手段は、前記位相固定手段が前記バルブタイミングを特定角に固定する間は、前記内燃機関の吸入空気量が目標量を充足するよう排ガスの還流量を制御することを特徴とする請求項1記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−241581(P2012−241581A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−111285(P2011−111285)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】