説明

内燃機関の制御装置

【課題】同軸上に配置された第1カム軸及び第2カム軸の回転位相を独立して変更可能な可変動弁機構を備えた内燃機関において、クランク軸に対する第1カム軸及び第2カム軸の回転位相を目標回転位相に近づける制御性を向上させる。
【解決手段】クランク軸に対する第1カム軸及び第2カム軸の回転位相を第1の目標回転位相に近づけるためのフィードバック制御で使用する第1の制御ゲインを、第1カム軸の回転位相θ1と第2カム軸の回転位相θ2との位相差に応じた第1の補正係数で補正する。また、クランク軸に対する第2カム軸の回転位相を第2の目標回転位相に近づけるためのフィードバック制御で使用する第2の制御ゲインを、クランク軸に対する第1カム及び第2カムの制御方向(進角側/遅角側)に応じた第2の補正係数で補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の可変動弁機構を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
バルブタイミングを変更可能な可変動弁機構の制御装置では、特開2004−44602号公報(特許文献1)に記載されるように、クランク軸に対するカム軸の目標回転位相と現在の回転位相との位相差に基いて、可変動弁機構へのフィードバック制御を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−44602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、同軸上に配置された第1カム及び第2カムのバルブタイミングを独立して変更可能な可変動弁機構を用いた場合、各気筒における2つの吸気弁(排気弁)の間で回転位相差が生じる。2つの吸気弁の間で回転位相差が生じると、従来の可変動弁機構では生じ得なかった現象、即ち、吸気弁からカムへと作用する反力(カムトルク)が変化してしまう。このため、従来技術の制御装置をそのまま適用しただけでは、反力が小さくなる場合には、フィードバック制御に係る制御ゲインが大きくなってしまい、例えば、オーバーシュートやハンチングが起こり易くなってしまうおそれがあった。また、反力が大きくなる場合には、フィードバック制御に係る制御ゲインが小さくなってしまい、応答性が低下してしまうおそれがあった。要するに、クランク軸に対するカム軸の回転位相を目標回転位相に近づけるフィードバック制御の制御性が低下してしまうおそれがあった。
【0005】
そこで、本発明は従来技術の問題点に鑑み、制御性を向上させた、内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
同軸上に第1カム軸及び第2カム軸が配置され、クランク軸と第1カム軸及びクランク軸と第2カム軸の回転位相を変更可能な第1可変動弁機構と、クランク軸と第2カム軸との回転位相を、第1可変動弁機構によって制御される第1カム軸とクランク軸との回転位相と独立して変更可能な第2可変動弁機構と、を備えた内燃機関の制御装置が、第1カム軸の回転位相と第2カム軸の回転位相との偏差に応じて少なくとも第1可変動弁機構の操作量を設定する。
【発明の効果】
【0007】
第1可変動弁機構及び第2可変動弁機構の制御性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】車両用エンジンのシステム構成図である。
【図2】可変動弁機構の一例を示す説明図である。
【図3】電子制御装置に実装される各機能の一例を説明するブロック図である。
【図4】制御プログラムの処理内容の一例を示すフローチャートである。
【図5】制御プログラムの処理内容の一例を示すフローチャートである。
【図6】第2の制御ゲインを設定するためのマップの説明図である。
【図7】第1の補正係数を設定するためのマップの説明図である。
【図8】第1カム軸と第2カム軸とに回転位相差がない場合の作用を示し、(A)は吸気弁のリフト特性の説明図、(B)はカムトルクの説明図である。
【図9】第1カム軸と第2カム軸とに回転位相差がある場合の作用を示し、(A)は吸気弁のリフト特性の説明図、(B)はカムトルクの説明図である。
【図10】応用例における低回転時の作用を示し、(A)は吸気弁のバルブタイミングの説明図、(B)は吸気弁のリフト特性の説明図
【図11】応用例における高回転時の作用を示し、(A)は吸気弁のバルブタイミングの説明図、(B)は吸気弁のリフト特性の説明図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付された図面を参照し、本発明を実施するための実施形態について詳述する。
図1は、本実施形態に係る内燃機関の制御装置が適用される、車両用エンジンのシステム構成を示す。
【0010】
エンジン10は、例えば、直列4気筒ガソリンエンジンであり、各気筒に吸気(吸入空気)を導入するための吸気管12には、エンジン10の負荷の一例としての吸気流量Qを検出する吸気流量センサ14が取り付けられている。吸気流量センサ14としては、例えば、エアフローメータなどの熱線式流量計を使用することができる。
【0011】
各気筒の燃焼室16の吸気口18を開閉する吸気弁20が設けられ、吸気弁20の吸気上流側に位置する吸気管12には、燃料噴射弁22が取り付けられている。燃料噴射弁22は、電磁コイルへの通電によって磁気吸引力が発生すると、スプリングによって閉弁方向に付勢されている弁体がリフトして開弁し、燃料を噴射する、電磁式の噴射弁である。燃料噴射弁22には、その開弁時間に比例する燃料が噴射されるように、所定圧力に調圧された燃料が供給されている。
【0012】
燃料噴射弁22から噴射された燃料は、吸気弁20を介して燃焼室16内に吸気と共に吸引され、点火プラグ24の火花点火によって着火燃焼し、その燃焼による圧力がピストン26をクランク軸(図示省略)に向けて押し下げることで、クランク軸を回転駆動させる。
【0013】
また、燃焼室16の排気口28を開閉する排気弁30が設けられ、排気弁30が開弁することで、排気が排気管32に排出される。排気管32には、触媒コンバータ34が配設されており、排気中の有害物質は、触媒コンバータ34によって無害成分に浄化された後、排気管34の終端開口から大気中に放出される。ここで、触媒コンバータ34としては、例えば、排気中のCO,HC及びNOxを同時に浄化する三元触媒を使用することができる。
【0014】
吸気弁20は、気筒ごとに2つ設けられ、同軸上に配置された第1カム36及び第2カム38のバルブタイミングを独立して変更可能な可変動弁機構40により開閉駆動される。可変動弁機構40は、図2に示すように、クランク軸に対する第1カム36及び第2カム38のバルブタイミングを変更する第1可変バルブタイミング機構(VTC)40Aと、クランク軸に対する第2カム38のバルブタイミングを変更する第2VTC40Bと、を有する。第1VTC40Aは、第1カム36が一体化されると共に第2カム38が相対回転可能に取り付けられた第1カム軸42を回転させることで、クランク軸に対する第1カム軸42及び中空の第1カム軸42に内挿された第2カム軸43(制御軸)の回転位相を変更する。第2VTC40Bは、第2カム軸43を回転させることで、クランク軸に対する第2カム軸43の回転位相を変更する。
【0015】
なお、可変動弁機構40としては、図2に示す構成のものに限らず、第1カム36及び第2カム38のバルブタイミングを独立して変更可能であれば如何なる構成をなしていてもよい。また、可変動弁機構40は、吸気弁20に限らず、吸気弁20及び排気弁30の少なくとも一方に備え付けられていればよい。
【0016】
燃料噴射弁22、点火プラグ24及び可変動弁機構40は、マイクロコンピュータを内蔵した電子制御装置44によって制御される。電子制御装置44は、各種センサからの信号を入力し、予め記憶された制御プログラムに従って、燃料噴射弁22、点火プラグ24及び可変動弁機構40の各操作量を決定し出力する。燃料噴射弁22による燃料噴射制御においては、各気筒の吸気行程に合わせて個別の燃料噴射を行う、いわゆる「シーケンシャル噴射制御」が行われる。なお、可変動弁機構40の制御は、電子制御装置44とは異なる別体の電子制御装置で行うようにしてもよい。
【0017】
電子制御装置44には、吸気流量センサ14に加え、エンジン10の潤滑油温度(油温)Tを検出する油温センサ46、エンジン10の回転速度Neを検出する回転速度センサ48、クランク軸に対する第1カム軸42及び第2カム軸43の回転位相θ1及びθ2を検出するカム角度センサ50の各信号が入力される。
【0018】
電子制御装置44は、後述する可変動弁機構40の制御に加え、次のように、燃料噴射弁22及び点火プラグ24を制御する。即ち、電子制御装置44は、吸気流量センサ14及び回転速度センサ48から吸気流量Q及び回転速度Neを読み込み、これらに基いてエンジン運転状態に応じた基本燃料噴射量を演算する。また、電子制御装置44は、基本燃料噴射量を水温などで補正した燃料噴射量を演算する。そして、電子制御装置44は、エンジン運転状態に応じたタイミングで、燃料噴射弁22から燃料噴射量に応じた燃料を噴射し、点火プラグ24を適宜作動させて燃料と吸気との混合気を着火燃焼させる。このとき、電子制御装置44は、図示省略の空燃比センサから空燃比を読み込み、排気中の空燃比が理論空燃比に近づくように、燃料噴射弁22をフィードバック制御する。
【0019】
電子制御装置44は、ROM(Read Only Memory)などに格納された制御プログラムを実行することで、図3に示すように、第1の目標回転位相設定部44A、第1の制御ゲイン設定部44B、位相差算出部44C、第1の補正係数設定部44D、第1の制御ゲイン補正部44E、第1のフィードフォワード操作量演算部44F、第1のフィードバック操作量演算部44G、第1VTC制御部44H、第2の目標回転位相設定部44I、第2の制御ゲイン設定部44J、第2の補正係数設定部44K、第2の制御ゲイン補正部44L、第2のフィードフォワード操作量演算部44M、第2のフィードバック操作量演算部44N及び第2VTC制御部44Oを夫々具現化する。
【0020】
第1の目標回転位相設定部44Aは、吸気流量Q及び回転速度Neに応じた第1の目標回転位相、即ち、クランク軸に対する第1カム軸42及び第2カム軸43の目標回転位相を設定する。
【0021】
第1の制御ゲイン設定部44Bは、油温T及び回転速度Neに応じた第1の制御ゲイン、即ち、クランク軸に対する第1カム軸42及び第2カム軸43の回転位相を変更する第1VTC40Aのフィードバック制御で使用する制御ゲインを設定する。
【0022】
位相差算出部44Cは、第1カム軸42の回転位相θ1と第2カム軸43の回転位相θ2との位相差を算出する。
第1の補正係数設定部44Dは、位相差に応じた第1の補正係数、即ち、第1の制御ゲインを補正するための補正係数を設定する。
【0023】
第1の制御ゲイン補正部44Eは、第1の制御ゲインに対して第1の補正係数を乗算することで、第1の制御ゲインを補正する。
第1のフィードフォワード操作量演算部44Fは、第1の目標回転位相に対してデジタルフィルタ、例えば、IIR(Infinite Impulse Response)フィルタを適用することで、高応答性を発揮する第1のフィードフォワード操作量を演算する。
【0024】
第1のフィードバック操作量演算部44Gは、第1の目標回転位相と第1カム軸42の回転位相θ1との偏差に対して、第1の制御ゲイン補正部44Eにより補正された第1の制御ゲインを使用したPI制御を施すことで、この偏差がなくなるようにするための第1のフィードバック操作量を演算する。
【0025】
第1VTC制御部44Hは、第1のフィードフォワード操作量と第1のフィードバック操作量との加算値に基いて、第1VTC40Aを制御する。
第2の目標回転位相設定部44Iは、吸気流量Q及び回転速度Neに応じた第2の目標回転位相、即ち、クランク軸に対する第2カム軸43の目標回転位相を設定する。
【0026】
第2の制御ゲイン設定部44Jは、回転速度Ne及び油温Tに応じた第2の制御ゲイン、即ち、クランク軸に対する第2カム軸43の回転位相を変更する第2VTC40Bのフィードバック制御で使用する制御ゲインを設定する。
【0027】
第2の補正係数設定部44Kは、第1カム軸42の回転位相θ1に応じて第2の補正係数、即ち、第2の制御ゲインを補正するための補正係数を設定する。
第2の制御ゲイン補正部44Lは、第2の制御ゲインに対して第2の補正係数を乗算することで、第2の制御ゲインを補正する。
【0028】
第2のフィードフォワード操作量演算部44Mは、第2の目標回転位相に対してデジタルフィルタを適用することで、高応答性を発揮する第2のフィードフォワード操作量を演算する。
【0029】
第2のフィードバック操作量演算部44Nは、第2の目標回転位相と第2カム軸43の回転位相θ2との偏差に対して、第2の制御ゲイン補正部44Lにより補正された第2の制御ゲインを使用したPI制御を施すことで、この偏差がなくなるようにするための第2のフィードバック操作量を演算する。
【0030】
第2VTC制御部44Oは、第2のフィードフォワード操作量と第2のフィードバック操作量との加算値に基いて、第2VTC40Bを制御する。
図4及び図5は、エンジン10が始動されたことを契機として、電子制御装置44が所定時間ごとに繰り返し実行する制御プログラムの処理内容の一例を示す。
【0031】
ステップ1(図では「S1」と略記する。以下同様。)では、第1の目標回転位相設定部44Aが、例えば、吸気流量及び回転速度に対応した目標回転位相が設定されたマップを参照し、吸気流量Q及び回転速度Neに応じた第1の目標回転位相、即ち、第1VTC40Aの目標回転位相を設定する。
【0032】
ステップ2では、第2の目標回転位相設定部44Iが、例えば、吸気流量及び回転速度に対応した目標回転位相が設定されたマップを参照し、吸気流量Q及び回転速度Neに応じた第2の目標回転位相、即ち、第2VTC40Bの目標回転位相を設定する。
【0033】
ステップ3では、位相差算出部44Cが、第1カム軸42の回転位相θ1と第2カム軸43の回転位相θ2との位相差を算出する。
【0034】
ステップ4では、第1の制御ゲイン設定部44Bが、油温及び回転速度に対応した制御ゲインが設定されたマップを参照し、油温T及び回転速度Neに応じた第1の制御ゲインを設定する。
【0035】
ステップ5では、第2の制御ゲイン設定部44Jが、図6に示すように、油温ごとに回転速度の上昇に伴って正比例関係をもって大きくなる制御ゲインが設定されたマップを参照し、回転速度Ne及び油温Tに応じた第2の制御ゲインを設定する。なお、図6においては、回転速度に応じた制御ゲインが設定された1つのマップを示しているが、実際には、例えば、離散的な油温ごとに複数のマップが設定されている。
【0036】
ステップ6では、第1の補正係数設定部44Dが、図7に示すように、第1カム軸42及び第2カム軸43の回転位相差が大きくなるにつれて正比例関係をもって小さくなる補正係数が設定されたマップを参照し、位相差算出部44Cにより算出された位相差に応じた第1の補正係数を設定する。
【0037】
ステップ7では、第2の補正係数設定部44Kが、第1VTC40Aによる第1カム軸42及び第2カム軸43の制御方向が進角側又は遅角側のいずれであるかを判定する。ここで、制御方向が進角側又は遅角側のいずれかであるかは、例えば、第1カム軸42の回転位相の前回値と今回値との比較、要するに、進角量変化又は差から判定することができる。そして、第2の補正係数設定部44Kは、第1VTC40Aの制御方向が進角側であると判定すれば処理をステップ8へと進める一方(Yes)、第1VTC40Aの制御方向が遅角側であると判定すれば処理をステップ9へと進める(No)。
【0038】
ステップ8では、第2の補正係数設定部44Kが、1より大きい値を有する第2の補正係数を設定する。
ステップ9では、第2の補正係数設定部44Kが、1未満の値を有する第2の補正係数を設定する。
【0039】
ステップ10では、第1の制御ゲイン補正部44Eが、第1の制御ゲイン設定部44Bにより設定された第1の制御ゲインに対して、第1の補正係数設定部44Dにより設定された第1の補正係数を乗算することで、第1の制御ゲインを補正する。
【0040】
ステップ11では、第1のフィードフォワード操作量演算部44Fが、第1の目標回転位相設定部44Aにより設定された第1の目標回転位相に対してデジタルフィルタを適用することで、第1のフィードフォワード操作量を演算する。
【0041】
ステップ12では、第1のフィードバック操作量演算部44Gが、第1の目標回転位相設定部44Aにより設定された第1の目標回転位相と第1カム軸42の回転位相θ1との偏差に対して、第1の制御ゲイン補正部44Eにより補正された第1の制御ゲインを使用したPI制御を施すことで、この偏差がなくなるようにするための第1のフィードバック操作量を演算する。
【0042】
ステップ13では、第1VTC制御部44Hが、第1のフィードフォワード操作量演算部44Fにより演算された第1のフィードフォワード操作量と第1のフィードバック操作量演算部44Gにより演算された第1のフィードバック操作量とを加算した加算値に基いて、第1VTC40Aを制御する。
【0043】
ステップ14では、第2の制御ゲイン補正部44Lが、第2の制御ゲイン設定部44Jにより設定された第2の制御ゲインに対して、第2の補正係数設定部44Kにより設定された第2の補正係数を乗算することで、第2の制御ゲインを補正する。
【0044】
ステップ15では、第2のフィードフォワード操作量演算部44Mが、第2の目標回転位相設定部44Iにより設定された第2の目標回転位相に対してデジタルフィルタを適用することで、第2のフィードフォワード操作量を演算する。
【0045】
ステップ16では、第2のフィードバック操作量演算部44Nが、第2の目標回転位相設定部44Iにより設定された第2の目標回転位相と第2カム軸43の回転位相θ2との偏差に対して、第2の制御ゲイン補正部44Lにより補正された第2の制御ゲインを使用したPI制御を施すことで、この偏差がなくなるようにするための第2のフィードバック操作量を演算する。
【0046】
ステップ17では、第2VTC制御部44Oが、第2のフィードフォワード操作量演算部44Mにより演算された第2のフィードフォワード操作量と第2のフィードバック操作量演算部44Nにより演算された第2のフィードバック操作量とを加算した加算値に基いて、第2VTC40Bを制御する。
【0047】
かかる内燃機関の制御装置によれば、クランク軸に対する第1カム軸42及び第2カム軸43の回転位相を変更する第1VTC40Aは、吸気流量Q及び回転速度Neに応じた第1の目標回転位相に近づくように、第1カム軸42を回転させる。このとき、フィードバック制御において、油温T及び回転速度Neに応じた第1の制御ゲインは、第1カム軸42と第2カム軸43との回転位相差に応じて補正される。即ち、第1カム軸42と第2カム軸43との回転位相差が0のときには、図8(A)に示すように、第1カム36及び第2カム38による吸気弁20のリフトタイミングが同時となるため、同図(B)に示すように、カムトルクのピークが大きくなる。しかし、第1カム軸42と第2カム軸43との回転位相差が発生すると、図9(A)に示すように、第1カム36及び第2カム38による吸気弁20のリフトタイミングが異なるため、同図(B)に示すように、カムトルクのピークが小さくなる。カムトルクのピークが小さくなると、クランク軸に対する第1カム軸42及び第2カム軸43の回転位相を遅角方向へと変更するカムトルクが小さくなってしまう。このため、第1カム軸42と第2カム軸43との回転位相差に応じて第1の制御ゲインを補正することで、特定の回転位相において応答遅れが発生することが抑制され、高応答性を発揮させることができる。よって、第1VTC40Aにおけるフィードバック制御の制御性を向上させることができる。
【0048】
また、第1カム軸42の回転位相と第2カム軸43の回転位相とに差が生じている状態で第1VTC40Aを遅角側に向けて制御するときは、前述したように、カムトルク発生タイミングがずれることからカムトルクのピークが小さくなり、遅角方向に作用するカムトルクが小さくなる。第1VTC40Aを遅角側に向けて制御するときは、カムトルクが遅角制御をアシストするように作用するため、カムトルクのピークが小さくなると、第1VTC40Aの作動応答が低下する傾向となる。また、第1VTC40Aは第1カム軸42と第2カム軸43とからカムトルクを受けるため、第2VTC40Bと比較して第1VTC40Aが受けるカムトルクが大きくなり、第1カム軸42の回転位相と第2カム軸43の回転位相との違いによるカムトルクの差が第2VTC40Bに比べて第1VTC40Aの方が大きくなり易い。
【0049】
そこで、第1カム軸42の回転位相と第2カム軸43の回転位相とに差が生じていないときと比較して、第1VTC40Aの操作量を大きくするべく、第1の制御ゲインを大きくすることで、カムトルクのピークが小さくなることによる応答性の低下を抑制することができる。
【0050】
なお、第1カム軸42の回転位相と第2カム軸43の回転位相とに差が生じている状態で、第1VTC40Aを進角側に向けて制御するときは、遅角方向へのカムトルクが反力となるものの、そのピークが第1カム軸42の回転位相と第2カム軸43の回転位相とに差が生じていない(又は差がより小さい)時よりも小さくなるから、第1VTC40Aの進角制御時の制御応答が速くなる。
【0051】
そこで、応答速度を安定させるために、第1VTC40Aの操作量を第1カム軸42の回転位相と第2カム軸43の回転位相に差が生じていないときと比較して小さくしてよい。即ち、第1VTC40Aの操作量を小さくすべく、第1の制御ゲインを小さく設定する。これにより、制御応答が速くなるのを抑制し、第1カム軸42の回転位相と第2カム軸43の回転位相とに差が生じても、第1VTC40Aの応答性を安定させることができる。
【0052】
また、クランク軸に対する第2カム軸43の回転位相を変更する第2VTC40Bは、吸気流量Q及び回転速度Neに応じた第2の目標回転位相に近づくように、第1カム軸42に内挿された第2カム軸43を回転させる。このとき、フィードバック制御において、回転速度Ne及び油温Tに応じた第2の制御ゲインは、第1VTC40Aの制御方向に応じて補正される。カムトルクは進角方向に作用するので、第1VTC40Aが遅角側に向けて制御されるときには、カムトルクの作用と第1VTC40Aの作動とによって、第2カム軸43の作動力が大きくなり易い。
【0053】
そこで、第2VTC40Bを遅角制御するときは操作量を小さくするために第2の制御ゲインを小さくすることで、第2VTC40Bの作動応答性を得ることができる。また、応答性のバラツキを抑制することができ、安定した作動応答を得ることができる。さらに、第1VTC40Aが遅角側に向けて制御されるときに第2VTC40Bを進角制御するときは、第1VTC40Aによる作動方向と逆方向となるため、第2カム軸43の作動力が低下する分、第2VTC40Bを遅角制御するときよりも大きい操作量とすべく、第2の制御ゲインを大きく設定することで、応答性のバラツキを抑制することができる。
【0054】
一方、第1VTC40Aが進角側に向けて制御され、かつ、第2VTC40Bを遅角制御するときは、カムトルクが第1VTC40Aに反力として作用し、また、第2カム軸43は、第1VTC40Aで進角変化しつつ、第2VTC40Bで遅角制御することになるため、第1VTC40Aと第2VTC40Bとの作動方向が逆となり、第2カム軸43の作動応答性が低下する傾向となる。
【0055】
従って、第1VTC40Aが遅角側に制御されるときよりも比較的大きい操作量となるように、第2VTC40Bの操作量を設定して第2VTC40Bを遅角制御することが好ましい。即ち、第2の制御ゲインを、第1VTC40Aが遅角制御されているときの制御ゲインより大きい制御ゲインに設定する。
【0056】
このようにすることで、第2カム軸43の回転位相の作動応答を得ることができると共に、応答性のバラツキを抑制することができ、安定した作動応答を得ることができる。
また、第1VTC40Aを進角側に向けて制御しつつ、第2VTC40Bを進角制御するときは、第1VTC40A及び第2VTC40Bにはカムトルクが反力として作用するため、第1VTC40Aを進角制御しつつ第2VTC40Bを遅角制御するときと比較して、第2VTC40Bにもカムトルクが反力として作用することによる第2VTC40Bの作動応答性が低下する傾向となる。
【0057】
従って、第2VTC40Bの操作量を大きくするため、より大きな第2の制御ゲインを設定することで、第1VTC40A及び第2VTC40Bに作用するカムトルクの反力を考慮した操作量を設定することができ、第2カム軸43の回転位相の作動応答を得ることができると共に、応答性のバラツキを抑制することができ、安定した作動応答を得ることができる。
【0058】
なお、第1VTC40Aは進角制御されることにより第2カム軸43が進角側に駆動されるので、第1VTC40Aの作動力を考慮して第2VTC40Bの進角時の制御量を設定してもよい。
【0059】
これにより、第2VTC40Bの制御性を向上させることができる。
このように、第1VTC40Aによる第2カム軸43の駆動方向によって、第2操作量を設定することで、第2VTC40Bの作動応答を安定させることが可能となり、更に、カムトルクが作用する状態を考慮して第2操作量を設定することで、より第2VTC40Bの制御精度を向上させることができる。
【0060】
ここで、第1の制御ゲイン及び第2の制御ゲインは、夫々、油温T及び回転速度Neに基いて設定されるため、潤滑油の粘性と関連性がある油温、及び、潤滑油の圧力と関連性がある回転速度によって応答性が低下することを回避しつつ、特定の回転位相及びその変化方向によって応答遅れが発生することを抑制することができる。
【0061】
なお、油温Tは、エンジン10の機関温度と密接に関連し、回転速度Nは、エンジン10により回転駆動される潤滑用のオイルポンプの吐出能力と密接に関連する。このため、油温Tは機関温度を、回転速度Neは潤滑用のオイルポンプの吐出能力を夫々示す。
【0062】
以上説明した内燃機関の制御装置は、例えば、次のようなことに応用できる。
エンジン10の回転速度Neが所定値未満の低回転時には、図10に示すように、第1カム軸42と第2カム軸43との回転位相差を0とすることで、吸気弁20の開期間を短くし、その開時期を下死点前にする。そして、一度吸入した混合気の吹き戻しを抑制することで、トルクを向上させる。
【0063】
一方、エンジン10の回転速度Neが所定値以上の高回転時には、図11に示すように、クランク軸に対する第1カム軸42及び第2カム軸43の回転位相を進角させつつ、第1カム軸42と第2カム軸43との回転位相差を大きくする。そして、吸気弁20の開期間を長くすることで、吸気量を増大させてトルクを向上させる。また、慣性過給効果による充填効率の向上を通して、トルクを更に向上させる。
【0064】
他の応用例として、吸気行程において、吸気弁20の閉弁時期を遅らせて熱効率を向上させた、ミラーサイクルを実現することも考えられる。
なお、以上説明した実施形態では、エンジン10の負荷として吸気流量Qを使用したが、吸気圧力、燃料噴射量、アクセル開度、過給圧力、スロットル開度など、エンジントルクと密接に関連する状態量を使用することもできる。
ここで、上記実施形態から把握し得る請求項以外の技術的思想について、以下に効果と共に記載する。
【0065】
(イ)同軸上に配置された第1カム及び第2カムのバルブタイミングを独立して変更可能な可変動弁機構を備えた内燃機関の制御装置において、
クランク軸に対する前記第1カム軸及び前記第2カム軸の回転位相を第1の目標回転位相に近づけるためのフィードバック制御で使用する第1の制御ゲインを、前記第1カム軸と前記第2カム軸との回転位相差に応じて補正する、内燃機関の制御装置。
上記構成によれば、クランク軸に対する第1カム軸及び第2カム軸の回転位相を第1の目標回転位相に近づける第1の制御ゲインは、第1カム軸と第2カム軸との回転位相差に応じて補正されるので、フィードバック制御の制御性を向上させることができる。
【0066】
(ロ)前記第1カム軸と前記第2カム軸との回転位相を第2の目標回転位相に近づけるためのフィードバック制御で使用する第2の制御ゲインを、前記クランク軸に対する前記第1カム軸及び前記第2カム軸の回転方向に応じて補正する、(イ)に記載の内燃機関の制御装置。
上記構成によれば、第1カム軸と第2カム軸との回転位相を第2の目標回転位相に近づける第2の制御ゲインは、クランク軸に対する第1カム軸及び第2カム軸の回転方向に応じて補正されるので、カムトルクに応じた反力を考慮した制御を行うことができる。
【0067】
(ハ)前記第1の制御ゲイン又は前記第2の制御ゲインは、内燃機関の温度及び潤滑用オイルポンプの吐出能力に基づいて設定される、(イ)又は(ロ)に記載の内燃機関の制御装置。
上記構成によれば、第1の制御ゲイン又は第2の制御ゲインを、内燃機関温度及び潤滑油オイルポンプの吐出能力に応じて設定することができる。
【符号の説明】
【0068】
10 エンジン
20 吸気弁
30 排気弁
36 第1カム
38 第2カム
40 可変動弁機構
40A 第1VTC
40B 第2VTC
42 第1カム軸
43 第2カム軸
44 電子制御装置
44A 第1の目標回転位相設定部
44B 第1の制御ゲイン設定部
44C 位相差算出部
44D 第1の補正係数設定部
44E 第1の制御ゲイン補正部
44F 第1のフィードフォワード操作量演算部
44G 第1のフィードバック操作量演算部
44H 第1VTC制御部
44I 第2の目標回転位相設定部
44J 第2の制御ゲイン設定部
44K 第2の補正係数設定部
44L 第2の制御ゲイン補正部
44M 第2のフィードフォワード操作量演算部
44N 第2のフィードバック操作量演算部
44O 第2VTC制御部
46 油温センサ
48 回転速度センサ
50 カム角度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同軸上に第1カム軸及び第2カム軸が配置され、クランク軸と前記第1カム軸及び前記クランク軸と前記第2カム軸の回転位相を変更可能な第1可変動弁機構と、
前記クランク軸と前記第2カム軸との回転位相を、前記第1可変動弁機構によって制御される前記第1カム軸と前記クランク軸との回転位相と独立して変更可能な第2可変動弁機構と、
を備えた内燃機関に適用される制御装置において、
前記第1カム軸の前記回転位相と前記第2カム軸の前記回転位相との偏差に応じて少なくとも前記第1可変動弁機構の操作量を設定する、ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記第1可変動弁機構によって制御される前記第1カム軸及び前記第2カム軸の前記クランク軸に対する回転位相の制御方向に応じて、前記第2可変動弁機構の操作量を設定する、ことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−68135(P2013−68135A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−206519(P2011−206519)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】