説明

内燃機関の動弁構造

【課題】圧入部を径方向に大型化することなく、かつ、突出部の変形が抑制されたシグナルロータを備える内燃機関の動弁構造を提供することを課題とする。
【解決手段】
本発明は、カムシャフト3に圧入されて、カムシャフト3の端部に取り付けられるシグナルロータ4を備える内燃機関の動弁構造であって、カムシャフト3は、端部側に、カムシャフト3の軸方向に沿って形成された被圧入部11を有し、シグナルロータ4は、被圧入部に圧入される穴部21を有する圧入部20と、圧入部20に対して穴部21の開口方向Aと反対側に併設され、外周面に突出部31を有する信号部30と、を備え、圧入部20の穴部21に圧入されてシグナルロータ4が取り付けられたカムシャフト3の被圧入部11は、圧入部20と信号部30との境界Dよりも開口方向に位置することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カムシャフトに圧入されるシグナルロータを備えた内燃機関の動弁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から車両等に搭載される内燃機関は、シリンダヘッドに設けられたロッカアームの一端がバルブに当接し、他端がカムシャフトに設けられたカムで押圧されて、ロッカアームが傾動し、バルブを開閉させる動弁構造を有している。
【0003】
また、近年の内燃機関においては、可変バルブタイミング機構を採用しており、カムシャフトの回転位相を変化させ、吸気バルブや排気バルブの開閉タイミングやバルブリフト量を制御するために、カムシャフトの回転角が検出されている。そのほか、ピストンの位置が上死点等にあるか否かを判断するため、Top Dead Centreセンサ(以下、「tdcセンサ」)を設けて、カムシャフトの回転角を検出する場合もある。
【0004】
ここで、下記特許文献1によれば、カムシャフトの回転角を検出するため、カムシャフトに圧入される圧入部と、圧入部外周面に設けられた突出部を有する信号部とを備えたシグナルロータがカムシャフトに取り付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−087781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のシグナルロータは、カムシャフトの圧入により内径が拡大するような荷重を受け、圧入部が変形する要因となっていた。
そして、圧入部の変形は、外周面に設けられた突出部が傾倒するなど、突出部の変形を引き起し、センサのセンシングに影響を与える可能性があった。
【0007】
また、この突出部の変形を回避するために、圧入部を径方向に大型化することが考えられる。しかし、圧入部を径方向に大型化すると、シグナルロータも大型化し、エンジン内部に占める割合が大きくなり、エンジン全体のレイアウトに制限を与えてしまう。
また、圧入部を径方向に大型化すると、慣性モーメントが増加して、スリップトルクも増加してしまう。さらには、増加したスリップトルクに対応するために、シグナルロータとカムシャフトとの締め代を増加しなければならないという非効率な結果を招いてしまう。
【0008】
そこで、本発明は、前記する背景に鑑みて創案された発明であって、圧入部を径方向に大型化することなく、突出部の変形が抑制されたシグナルロータを備える内燃機関の動弁構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本願発明に係る内燃機関の動弁構造は、カムシャフトに圧入されて、前記カムシャフトの端部に取り付けられるシグナルロータを備える内燃機関の動弁構造であって、前記カムシャフトは、前記端部側に、前記カムシャフトの軸方向に沿って形成された被圧入部を有し、前記シグナルロータは、前記被圧入部に圧入される穴部を有する圧入部と、前記圧入部に対して前記穴部の開口方向と反対側に併設され、外周面に突出部を有する信号部と、を備え、前記圧入部の穴部に圧入されて前記シグナルロータが取り付けられた前記カムシャフトの被圧入部は、前記圧入部と前記信号部との境界よりも前記開口方向に位置していることを特徴とする。
【0010】
本願発明に係る内燃機関の動弁構造によれば、シグナルロータの圧入部は、カムシャフトの被圧入部に圧入されて、穴部が拡大するような荷重を受けるため、シグナルロータとカムシャフトとが強固に結合している。
一方で、シグナルロータの信号部は、カムシャフトの被圧入部が圧入部と信号部との境界よりも開口方向に位置しているため、被圧入部に圧入されない。
そのため、カムシャフトの圧入により生じる荷重が、信号部に作用することを低減でき、突出部の変形が抑制される。したがって、本発明によれば、突出部を読み取るセンサは、精度の高いセンシングを行うことができる。
また、本願発明に係る動弁構造によれば、シグナルロータの信号部は、穴部の開口方向と反対側に併設され、圧入部を径方向に大型化する構成でないため、慣性モーメントの増加や、エンジン全体のレイアウトに制限を与える等の不利益を回避できる。
【0011】
また、前記圧入部の外周面には、平面状の固定面が形成され、前記内燃機関には、前記固定面に当接して前記カムシャフトの回転を係止する固定具を挿入するための凹部が設けられ、前記凹部は、前記固定面の延長線上に配置されていることが好ましい。
【0012】
前記する構成によれば、例えば、伝達機構をカムシャフトに組み付ける時などに、カムシャフトを係止する固定具を挿入できる凹部が内燃機関に設けられている。また、凹部は、固定面の延長線上に設けられている。よって、凹部に固定具を挿入することで、固定具が固定面に当接して、カムシャフトの回転を係止する。そのため、伝達機構をカムシャフトに組み付ける作業が容易となる。
また、圧入部は、カムシャフトに圧入されているため、剛性が強化されている。よって、圧入部と固定具との間で負荷が生じたとしても、圧入部の変形、つまり固定面の変形を防止でき、より確実にカムシャフトを係止させることができる。
【0013】
また、前記固定面は、前記圧入部の外周面から前記信号部の外周面に亘って形成されているとともに、前記シグナルロータの周方向に複数形成されていることが好ましい。
【0014】
前記する構成によれば、固定面が圧入部の外周面から信号部の外周面に亘って形成されている。そのため、シグナルロータの外周面の一部に、つまり、圧入部の外周面のみに固定面を形成する場合に比べて、固定面の形成が容易になる。
【0015】
また、前記する構成によれば、周方向に複数の固定面が形成されている。ここで、シグナルロータの外周面に固定面が一つ形成された場合、その固定面が形成された箇所でのみ、外周面の周方向の外径が変化する。そのため、シグナルロータの信号部の外径の変化を読み取るカムセンサに対し、外周面に形成された一つの固定面が、外周面の他の部分と異なる信号を与えてしまう。
よって、固定面を周方向に複数形成することによって、外周面の一部が他の部分と異なる信号をカムセンサに与えることを回避し、シグナルロータのセンシング特性に影響を及ぼすことを抑制できる。
【0016】
また、前記凹部は、前記圧入部の固定面に対して、前記開口方向寄りに設けられていることが好ましい。
【0017】
前記する構成によれば、凹部に挿入された固定具が、圧入部の固定面の開口方向寄りに当接する。そのため、固定具が開口部の反対側にある突出部に接触して、突出部が変形するおそれを回避できる。
【0018】
また、前記カムシャフトは、前記圧入部に隣接する工具係合部を有することが好ましい。
【0019】
前記する構成によれば、工具係合部が圧入部に隣接しているため、その圧入部の外周面の固定面に対しても隣接し、作業性の向上を図れる。
【発明の効果】
【0020】
以上、本発明によれば、圧入部を径方向に大型化することなく、かつ、突出部の変形が抑制されたシグナルロータを備える内燃機関の動弁構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施形態に係るエンジンの動弁構造の一部を上方から見た平面図である。
【図2】図1に示すエンジンの動弁構造の一部を矢印A方向から見た側面図である。
【図3】図2のB―B矢視断面図である。
【図4】(a)は、変形例のカムシャフトとシグナルロータとの断面を示す断面図、(b)は、(a)の破線Cで囲まれた範囲を拡大した拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の実施形態に係るエンジンについて、図面を適宜参照しながら説明する。なお、実施形態に係るエンジンについて、シリンダの軸線方向を上下方向と規定して説明する。また、実施形態のエンジンの説明において、技術的に同一要素であるものについては、同一の符号を付している。
【0023】
(エンジン)
図1は、実施形態に係るエンジンの動弁構造の一部を上方から見た平面図である。
実施形態のエンジン1は、ロッカアームの一端にバルブが当接し、ロッカアームの傾動に対応してバルブが開閉する動弁構造の内燃機関である。
また、エンジン1は、図1に示すように、ロッカアーム等を支持するシリンダヘッド2と、ロッカアームの他端を押圧して傾動させるカムシャフト3と、カムシャフト3ともに回転するシグナルロータ4とを備える。そして、エンジン1は、シグナルロータ4の信号を基に、カムシャフト3の回転角を算出し、カムシャフト3の位相を変化させて、バルブが開閉するタイミングを変化させている。なお、以下において、カムシャフト3が延在している方向を単に「軸方向」を称する。
【0024】
(シリンダヘッド)
シリンダヘッド2は、シリンダブロックと組み合わせて、エンジン本体を構成する部品である。また、シリンダヘッド2は、図1に示すように、固定具6が差し込まれる凹部2aを備える。なお、凹部2aについては後述する。
【0025】
(カムシャフト)
図2は、図1に示すエンジンの動弁構造の一部をカムシャフト3の軸方向の一方方向である矢印A方向から見た側面図である。
図3は、図2のB―B矢視断面図である。
カムシャフト3は、図1及び図2に示すように、略円筒状に形成された吸気用のカムシャフトであり、カムホルダ5に軸支されて、シリンダヘッド2上で回転可能となっている。
また、カムシャフト3には、図1及び図3に示すように、シグナルロータ4が取り付けられる一端側に、被圧入部11と、工具係合部12とが形成されている。
【0026】
被圧入部11は、図3に示すように、カムシャフト3の一端側端部に形成され、シグナルロータ4の穴部21に圧入される円筒状の部位である。被圧入部11は、図3に示すように、軸方向に沿って形成されており、また、圧入代を確保するために、シグナルロータ4の穴部21の内径よりも大きい外径を有するように形成されている。
【0027】
工具係合部12は、図1に示すように、外周面が断面視で略六角形に形成されている。これにより、例えば、六角レンチなどの工具を工具係合部12に嵌合させて、カムシャフト3の回転角の調整が可能になる。
また、工具係合部12は、図3に示すように、被圧入部11に対して、軸方向他端側に隣接して設けられている。そのため、カムシャフト3の被圧入部11がシグナルロータ4に圧入された場合、図1に示すように、工具係合部12がシグナルロータ4の圧入部20と軸方向に隣接することとなる。
また、工具係合部12は、被圧入部11に比べて大径となっている。そのため、カムシャフト3において、被圧入部11と工具係合部12との間には、段付きが形成される。これは、工具係合部12が鋳肌で形成される一方で、被圧入部11が加工により形成されるためである。
【0028】
(シグナルロータ)
シグナルロータ4は、図1に示すように、カムシャフト3に取り付けられてカムシャフト3と一体となって回転するとともに、カムセンサ(不図示)に対して、カムシャフト3の回転角度となる信号を与える部品である。
また、シグナルロータ4は、図3に示すように、有底筒状になっており、穴部21が設けられた圧入部20と、外周面に突出部31が設けられた信号部30とが一体に形成されている。
【0029】
圧入部20は、図3に示すように、円筒状に形成され、その中心部に穴部21を有している。また、圧入部20は、円筒状の長さが、カムシャフト3の被圧入部11の軸方向の長さに対応するように形成されている。
【0030】
穴部21は、カムシャフト3に圧入される穴であって、圧入代を確保するために、カムシャフト3の被圧入部11の外径よりも小さくなるように形成されている。なお、穴部21の深さ(軸方向の長さ)は、図3に示すように、圧入部20と同等の長さを有しており、圧入部20と信号部30との境界Dに到達する程度に形成されている。
そして、圧入部20は、図3に示すように、穴部21の開口方向からカムシャフト3に圧入されて、カムシャフト3の被圧入部11が圧入部20の内周面を径方向外向きに押圧し、カムシャフト3とシグナルロータ4とが強固に結合している。
【0031】
信号部30は、図1〜図3に示すように、軸方向から見て略八角形状に形成され、その外周面に突出部31と、軸方向に凹む凹部32が設けられている。そして、信号部30は、その端面が、圧入部20の穴部21を塞閉するように、圧入部20に対して、穴部21の開口方向の反対側に併設されている。
【0032】
突出部31は、図2に示すように、信号部30の外周面から径方向外向に突出するように形成されている。また、突出部31は、カムシャフト3における回転軸を中心として、90度間隔で周方向に4つ設けられている。これによれば、信号部30の径方向の変化を読み取る図示しないカムセンサに対し、カムシャフト3の回転角の信号を90度単位で与えることができる。
凹部32は、図示しない圧入治具に対してシグナルロータ4のセンタリングをとるための位置決め用の部位であって、図3に示すように、信号部30の軸方向の端面であって、圧入部20が設けられた反対側の端面上に形成されており、また、その端面の中心、つまり、圧入部20に圧入されたカムシャフト3の回転軸線上に位置している。
【0033】
また、圧入部20と信号部30は、図1に示すように、外周面に固定面22が形成されている。この固定面22は、図1に示すように、カムシャフト3の回転軸と平行に形成された平面であり、圧入部20の外周面から信号部30の外周面に亘って形成されている。そのため、図2に示すように、シグナルロータ4を軸方向から見た場合、面一となっている。
また、固定面22は、図2に示すように、圧入部20と信号部30の外周面に4つ形成されており、また、カムシャフト3の回転軸を中心として90度間隔で周方向にずらして形成されている。
そして、固定面22は、図2に示すように、複数の突出部31の間に介在するように、信号部30の突出部31に対しては、45度周方向にずらして形成されている。
【0034】
シリンダヘッド2の凹部2aは、図1及び図2に示すように、伝達機構をカムシャフト3に組み付ける時において、固定面22に当接してカムシャフト3を係止する固定具6を挿入するための凹みである。この凹部2aは、図2に示すように、固定具6に当接する固定面22の延長線上に設けられており、挿入された固定具6が固定面22に当接するようになっている。また、凹部2aは、図1に示すように、固定面22に対して、開口方向寄りに設けられている。そのため、凹部2aに挿入された固定具6は、信号部30の突出部31から離れて固定面22に当接する。
【0035】
以上、本実施形態に係るエンジン1の動弁構造について説明したが、実施形態のエンジン1の動弁構造によれば、シグナルロータ4の取り付けに関し、シグナルロータ4の圧入部20が、穴部21の開放方向から穴部21の底面に突き当たるように、カムシャフト3に圧入されることにより、カムシャフト3とシグナルロータ4とが強固に結合する。
また、カムシャフト3の被圧入部11が圧入部20と信号部30との境界Dよりも開口方向に位置しているため、圧入部20の開口方向の反対側に併設されたシグナルロータ4の信号部30は、被圧入部11に圧入されない。
そのため、実施形態に係るシグナルロータ4によれば、カムシャフト3の圧入により生じる荷重が、信号部30に作用することを低減でき、突出部31の変形が抑制される。したがって、突出部31を読み取るカムセンサ(不図示)は、精度の高いセンシングを行うことができる。
さらに、実施形態の信号部30は、図3に示すように、中実となっているため、筒状に形成された場合に比べて、剛性が強く、変形が生じ難い。
【0036】
また、実施形態のシグナルロータ4の信号部30によれば、圧入部20に対して開口方向の反対側に並設されているため、圧入部を径方向に大型化させる構成ではない。よって、
シグナルロータ4が径方向に拡大することにより生じる、慣性モーメントの増加やエンジン全体のレイアウトが制限される等の不利益を回避できる。
【0037】
また、実施形態に係るエンジン1の動弁構造によれば、図2に示すように、伝達機構をカムシャフト3に組み付ける時において、凹部2aに固定具6を差し込むことにより、固定具6がシグナルロータ4の固定面22に当接し、カムシャフト3が係止される。そのため、伝達機構をカムシャフト3に組み付ける作業を容易とすることができる。
また、シグナルロータ4の圧入部20は、カムシャフト3が圧入されて剛性が強化されているため、固定具6とシグナルロータ4の固定面22とがより確実に当接できる。
【0038】
また、実施形態に係るエンジン1の動弁構造によれば、図1に示すように、凹部2aに差し込まれた固定具6は、信号部30の突出部31から離れて、固定面22の開口方向寄りに当接する。
そのため、カムシャフト3が回転し、シグナルロータ4の固定面22の開口方向寄りに、当接する固定具6から荷重を受けたとしても、信号部30はその荷重がかかる部分から離れているため、信号部30に作用する荷重が低減される。そのため、突出部31の変形が抑制され、良好なセンシングを行うことが可能となる。
また、固定具6と、信号部30の突出部31とが離れているため、固定具6を凹部2aに挿入する際に、作業者が誤って突出部31に接触させて変形させる可能性を低減できる。
【0039】
また、実施形態に係るシグナルロータ4の固定面22は、圧入部20の外周面から信号部30の外周面に亘って面一となるように形成されているため、シグナルロータ4の外周面の一部に、つまり、圧入部20の外周面のみに固定面22を形成した場合に比べて、形成が容易になる。
【0040】
また、実施形態に係るシグナルロータ4は、信号部30の突出部31同士の間に介在するように、固定面22が4つ形成されている。ここで、シグナルロータ4の外周面に固定面22が一つ形成された場合、その固定面22が形成された箇所で、外周面の周方向における外径が変化する。そのため、シグナルロータ4の信号部30の外径の変化を読み取るカムセンサに対し、外周面に形成された一つの固定面22が、外周面の他の部分と異なる信号を与える可能性がある。
よって、4つの固定面22を、信号部30の突出部31同士の間に介在するように、複数形成することによって、突出部31が形成されていない外周面の一部が他の部分と異なる信号をカムセンサに与える可能性を低減でき、センシング特性に影響を及ぼすことが抑制される。
【0041】
また、実施形態に係るカムシャフト3によれば、図1に示すように、工具係合部12とシグナルロータ4の固定面22とが隣接しているため、作業性の向上を図れる。
【0042】
次に、実施形態のエンジン1を構成するカムシャフト3とシグナルロータ4との変形例について、図4を参照して説明する。
なお、図4は、(a)が変形例のカムシャフトとシグナルロータとの断面を示す断面図であり、(b)が(a)の破線Cで囲まれた範囲を拡大した拡大図である。
【0043】
変形例に係るカムシャフト3aは、図4に示すように、カムシャフト3の構成要素である工具係合部12のほかに、さらに縮径部10(図4(b)参照)と被圧入部11aを備えている。
また、変形例に係るシグナルロータ4aは、シグナルロータ4の構成要素である信号部30のほかに、穴部21aを有する圧入部20aを備えている。
以下、変形例に係るカムシャフト3aとシグナルロータ4aについて説明するが、前記した実施形態に係るカムシャフト3及びシグナルロータ4と同一の構成についての説明は省略する。
【0044】
シグナルロータ4aの圧入部20aは、図4に示すように、穴部21aを有しているが、この穴部21aの深さ(軸方向の長さ)は、圧入部20aと信号部30との境界Dを超えて穿設されている。なお、圧入代を確保するために、カムシャフト3aの被圧入部11aの外径よりも小さくなるように形成されている。
【0045】
カムシャフト3aの縮径部10は、図4(b)に示すように、カムシャフト3aの端部であり、かつ、穴部21aの径よりも小さい外径を有するように形成された部位である。
縮径部10は、カムシャフト3aの軸方向に沿って平ら(カムシャフト3aの軸方向に平行)となるように形成されている。
そして、縮径部10の軸方向の長さは、カムシャフト3aが圧入部20aの穴部21の底面に付き当てられるように圧入された場合に、穴部21の底面から境界Dを超えて、圧入部20aの略中間部分に到達するように、所定の長さを有するように形成されている。
【0046】
カムシャフト3aの被圧入部11aは、図4(a)に示すように、縮径部10に対して、他端側に隣接して設けられており、カムシャフト3aを圧入部20aの穴部21の底面に付き当てられるように圧入した場合に、圧入部20aの略中間部分から開口部分までとなるように形成されている。なお、圧入代を確保するために、穴部21aの内径よりも大きい外径を有するように形成されている。
【0047】
そして、変形例に係るシグナルロータ4aの圧入部20aが、穴部21aの開放方向から穴部21aの底面に突き当たるように、カムシャフト3aに圧入されて、カムシャフト3aとシグナルロータ4aとが強固に結合している。
【0048】
以上、変形例に係るカムシャフト3aとシグナルロータ4aについて説明したが、カムシャフト3aによれば、縮径部10が形成されており、穴部21aに向けて圧入し易いため、取り付け作業が容易となる。
【0049】
そして、信号部30は、図4に示すように、穴部21aが形成されて、カムシャフト3aの縮径部10が挿入されているが、この縮径部10が穴部21aよりも径が小さく形成されている。そのため、信号部30は、縮径部10により径方向外向に押圧されない。
また、カムシャフト3aの被圧入部11aが径方向外向に押圧する部分は、圧入部20aの略中間部分から開口部分までであって、信号部30と離間している。そのため、カムシャフト3aの圧入により圧入部20aに生じた荷重が、信号部30に作用することが低減される。
そのため、変形例に係るカムシャフト3aとシグナルロータ4aによれば、信号部30に作用する荷重がより低減されるため、突出部が変形する可能性が極めて低く、突出部31を読み取るセンサは、より精度の高いセンシングを行うことができる。
【0050】
なお、変形例に係るカムシャフト3aにおいて、縮径部10が、穴部21aの底面から境界Dを超えて、圧入部20aの略中間部分に到達するように形成されていたが、本発明はこれに限定されるものでない。
縮径部10は、穴部21aの底面から境界Dを超えて、圧入部20aの略中間部分に到達しなくてもよく、例えば、境界Dに到達するように形成されてもよい。このような変形例であれば、縮径部10に隣接する被圧入部11aが、信号部30を径方向外向に押圧しないため、突出部31の変形を抑制できるからである。
【0051】
以上、実施形態に係るエンジン1の動弁構造について説明したが、本発明は実施形態と変形例に限るものでない。たとえば、シリンダヘッド2の凹部2aは、カムシャフト3の軸方向に形成されてもよい。これによれば、凹部2aに挿入された固定具6は、カムシャフト3と平行になって固定面22に当接し、カムシャフト3の回転を係止できる。
また、シリンダヘッド2の凹部2aは、複数形成されていてもよい。複数の凹部2aが形成されれば、シグナルロータ4を固定できる角度が増えるため、カムシャフト3に形成されたカムの固定角度も増えて、作業性の向上が図れる。
【0052】
また、実施形態及び変形例において、カムシャフト3は、一端部がシグナルロータ4の穴部21の底面に突き当たるまで圧入されているが、本発明はこれに限定されるものでない。穴部21の底面に対し、たとえば、1mmなどの所定の間隔を空けて圧入されてもよい。
【0053】
また、実施形態に係るエンジン1においては、ロッカアームを介して、バルブの開閉を行っているが、本発明はこれに限られるものでない。例えば、カムシャフト3に形成されたカム自体が直接バルブを開閉するエンジンであっても適用できる。
また、実施形態において、吸気用のカムシャフト3を用いて説明したが、本発明はこれに限定されるものでなく、排気用のカムシャフト、又は、吸排気用のカムシャフトであってもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 エンジン(内燃機関)
2 シリンダヘッド
2a 凹部
3、3a カムシャフト
4、4a シグナルロータ
6 固定具
10 縮径部
11 押圧部
12 工具係合部
20、20a 圧入部
21、21a 穴部
22 固定面
30 信号部
31 突出部
32 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カムシャフトに圧入されて、前記カムシャフトの端部に取り付けられるシグナルロータを備える内燃機関の動弁構造であって、
前記カムシャフトは、
前記端部側に、前記カムシャフトの軸方向に沿って形成された被圧入部を有し、
前記シグナルロータは、
前記被圧入部に圧入される穴部を有する圧入部と、
前記圧入部に対して前記穴部の開口方向と反対側に併設され、外周面に突出部を有する信号部と、を備え、
前記圧入部の穴部に圧入されて前記シグナルロータが取り付けられた前記カムシャフトの被圧入部は、前記圧入部と前記信号部との境界よりも前記開口方向に位置していることを特徴とする内燃機関の動弁構造。
【請求項2】
前記圧入部の外周面には、平面状の固定面が形成され、
前記内燃機関には、前記固定面に当接して前記カムシャフトの回転を係止する固定具を挿入するための凹部が設けられ、
前記凹部は、前記固定面の延長線上に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の動弁構造。
【請求項3】
前記固定面は、前記圧入部の外周面から前記信号部の外周面に亘って形成されているとともに、前記シグナルロータの周方向に複数形成されていることを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の動弁構造。
【請求項4】
前記凹部は、前記圧入部の固定面に対して、前記開口方向寄りに設けられていることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の内燃機関の動弁構造。
【請求項5】
前記カムシャフトは、前記被圧入部に隣接する工具係合部を有することを特徴とする請求項2乃至請求項4のいずれか1項に記載の内燃機関の動弁構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−113169(P2013−113169A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258308(P2011−258308)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】