内燃機関の排気浄化システム
【課題】燃費や商品性を悪化させることなく選択還元触媒のNOx浄化率を定常的に高く維持できる内燃機関の排気浄化システムを提供すること。
【解決手段】排気浄化システムは、選択還元触媒に流入する排気中のNOxに対するNO2の比率に相当するNO2−NOx比を変化させるNO2−NOx比調整機構と、所定期間の選択還元触媒におけるNO2の吸着を正とし放出を負としたNO2収支が0になるようにNO2−NOx比パータベーション制御を実行するNO2−NOx比パータベーションコントローラを備える。ここで、NO2−NOx比パータベーション制御とは、NO2−NOx比調整機構によりNO2−NOx比を0.5近傍の基準値よりも大きくさせるNO2増大制御と、NO2−NOx比調整機構によりNO2−NOx比を基準値よりも小さくさせるNO2低減制御とを交互に実行する制御として定義される。
【解決手段】排気浄化システムは、選択還元触媒に流入する排気中のNOxに対するNO2の比率に相当するNO2−NOx比を変化させるNO2−NOx比調整機構と、所定期間の選択還元触媒におけるNO2の吸着を正とし放出を負としたNO2収支が0になるようにNO2−NOx比パータベーション制御を実行するNO2−NOx比パータベーションコントローラを備える。ここで、NO2−NOx比パータベーション制御とは、NO2−NOx比調整機構によりNO2−NOx比を0.5近傍の基準値よりも大きくさせるNO2増大制御と、NO2−NOx比調整機構によりNO2−NOx比を基準値よりも小さくさせるNO2低減制御とを交互に実行する制御として定義される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気浄化システムに関する。より詳しくは、還元剤の存在下で排気中の窒素酸化物(NOx)を選択的に還元する選択還元触媒(Selective Catalytic Reduction Catalysts)を備えた、内燃機関の排気浄化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、排気中のNOxを浄化する排気浄化システムの1つとして、アンモニア(NH3)などの還元剤により排気中のNOxを選択的に還元する選択還元触媒を排気通路に設けたものが提案されている。例えば、尿素添加式の排気浄化システムでは、選択還元触媒の上流側からNH3の前駆体である尿素水を供給し、この尿素水から排気の熱で熱分解又は加水分解することでNH3を生成し、このNH3により排気中のNOxを選択的に還元する。このような尿素添加式のシステムの他、例えば、アンモニアカーバイトのようなNH3の化合物を加熱することでNH3を生成し、このNH3を直接添加するシステムも提案されている。以下では、尿素添加式のシステムについて説明する。
【0003】
選択還元触媒におけるNOx浄化率は、流入する排気中のNOxを構成する一酸化窒素(NO)と二酸化窒素(NO2)との割合によって変化することが知られている。より具体的には、流入する排気のNO2−NOx比(NOとNO2を合わせたNOxに対するNO2のモル比)が0.5であるとき、すなわちNOとNO2の比率が1:1であるときに最大となる。
【0004】
特許文献1には、このような選択還元触媒の性能を最大限に生かすため、選択還元触媒に流入する排気のNO2−NOx比が0.5になるようにした排気浄化装置が提案されている。この排気浄化装置では、内燃機関の運転状態から、予め定められたマップを検索することでフィードフォワード的にEGR量や燃料噴射時期などを制御することにより、選択還元触媒に流入する排気のNO2−NOx比が常に0.5に維持されるようにする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−231950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、運転者による要求や車両の状態などに応じて内燃機関の運転状態は常に変動するが、このような状況下でNO2−NOx比を0.5に維持し続けることは、実際には極めて困難なことである。例えば、選択還元触媒の上流側にNOをNO2に酸化する酸化触媒を設けた場合、選択還元触媒に流入する排気のNO2−NOx比は、酸化触媒の温度、酸化触媒における排気の空間速度(SV)、酸化触媒に流入する排気中のNOx量、O2濃度及びHC濃度などに応じて変化するが、NO2−NOx比が0.5となるようにこれらパラメータを全ての運転領域でマッピングすることはできない。
【0007】
また、仮にこのようなマッピングが可能であったとしても、この場合、燃費や商品性の悪化を避けることはできない。例えば、選択還元触媒のNOx浄化率はその温度によっても変化するので、排気温度を上昇させることにより適切な温度に維持する温度制御が行われる。ここでNO2−NOx比が0.7にある状態から最適な0.5まで低下させたときにおける、上記温度制御にかかるエネルギーの変化について検討する。例えば、NO2−NOx比を低下させるために酸化触媒に流入する排気のSVを増加させたとすると、この場合、選択還元触媒に流入する排気の温度も低下するため、温度制御にかかるエネルギーは増加してしまう。また、例えば、NO2−NOx比を低下させるために酸化触媒に流入する排気のNOx量を増加させたとすると、この場合、選択還元触媒における還元剤の消費量が増加するおそれもある。
【0008】
以上のように、特許文献1に示された技術のようなNO2−NOx比を最適値に維持し続ける制御は、実際には困難であるばかりか可能であったとしても燃費や商品性の悪化を避けることはできない。
【0009】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、燃費や商品性を悪化させることなく選択還元触媒のNOx浄化率を定常的に高く維持できる内燃機関の排気浄化システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため本発明は、内燃機関(例えば、後述のエンジン1)の排気通路(例えば、後述の排気管11)に設けられ、還元剤(例えば、後述のNH3)の存在下で排気中のNOxを選択的に還元し、かつ排気中のNO2を吸着する機能を備えたNOx選択還元触媒(例えば、後述の選択還元触媒23)と、前記排気通路のうち前記NOx選択還元触媒より上流側に還元剤又はその前駆体(例えば、後述の尿素水)を供給する還元剤供給手段(例えば、後述の尿素水噴射装置25)と、を備えた内燃機関の排気浄化システム(例えば、後述の排気浄化システム2)を提供する。前記排気浄化システムは、前記NOx選択還元触媒に流入する排気中のNOxに対するNO2の比率に相当するNO2−NOx比を変化させるNO2−NOx比調整機構(例えば、後述のエンジン1、酸化触媒21、CSF22、及び高圧EGR装置26など)と、所定期間の前記NOx選択還元触媒におけるNO2の吸着を正とし放出を負としたNO2収支が目標値になるようにNO2−NOx比パータベーション制御を実行するパータベーション制御手段(例えば、後述のNO2−NOx比パータベーションコントローラ61、及びメインコントローラ7)と、を備える。前記NO2−NOx比パータベーション制御は、前記NO2−NOx比調整機構により前記NO2−NOx比を0.5近傍の基準値よりも大きくさせるNO2増大制御と、前記NO2−NOx比調整機構により前記NO2−NOx比を前記基準値よりも小さくさせるNO2低減制御とを交互に実行する制御として定義される。
【0011】
従来、NOx選択還元触媒における定常的なNOx浄化率は、流入する排気のNO2−NOx比が0.5近傍の基準値にある場合に最大となり、またNO2−NOx比がNO2過多側あるいはNO過多側へ変化してもその定常的なNOx浄化率は低下するとされていた。これに対し、NOx選択還元触媒にNO2を吸着する機能がある場合、NO2−NOx比が上記基準値からNO2過多側又はNO過多側へ大きく変動したとしても、あたかもNO2−NOx比が最適値に維持されるかのようにNO2が吸着又は放出されるため、NOx選択還元触媒に吸着されているNO2の量が適切な範囲内に維持されている間の過渡的なNOx浄化率は高く維持される。
本発明では、このようなNOx選択還元触媒の新たな特性に着目し、所定期間のNOx選択還元触媒におけるNO2収支が目標値になるようにNO2−NOx比パータベーション制御を実行する。すなわち、NOx選択還元触媒に流入する排気のNO2−NOx比を基準値よりも大きくさせるNO2増大制御と、これとは逆にNO2−NOx比を基準値よりも小さくさせるNO2低減制御とを交互に実行する。これにより、NOx選択還元触媒におけるNOx浄化率を定常的に高く維持することができる。
また、本発明のNO2−NOx比パータベーション制御では、所定期間のNO2収支が目標値になるように、NO2−NOx比を上記基準値に対し上下に変動させることから、NO2−NOx比を最適値に合わせ込む制御を行っていた従来技術と比較して、上記所定期間のNO2−NOx比の変動パターンに大きな自由度を持たせることができる。このため、他の要因によるNO2−NOx比の変動をある程度許容することができるので、従来技術のように燃費や商品性が悪化することもない。
また本発明では、NO2−NOx比に対する基準値を0.5近傍、すなわち0.5を含むある程度の拡がりを持った範囲内の値とする。定常的なNOx浄化率が最も高くなるNO2−NOx比は、基本的には0.5である。しかしながら、例えば、選択還元触媒の状態や選択還元触媒に流入する排気の状態など、より具体的には選択還元触媒に付着したHCの量や選択還元触媒に流入する排気中のHCやCOなどのNO2還元成分の量などに応じて、選択還元触媒に流入するNO2−NOx比が変化するため、定常的なNOx浄化率が最大となるNO2−NOx比も実質的には変化する。本発明では、このような選択還元触媒や排気の状態の不定性を見込んで、上記基準値を0.5一定ではなく、0.5近傍の値とする。なお上記基準値は、上述のようなNO2還元成分の存在により、0.5よりも大きい方へ変動しがちであることから、本発明における0.5近傍の値とは、より具体的には0.4以上0.7未満の範囲内の値であるとする。
【0012】
この場合、前記排気浄化システムは、前記NOx選択還元触媒のNO2吸着量を推定するNO2吸着量推定手段(例えば、後述の選択還元触媒状態推定部54)をさらに備え、前記パータベーション制御手段は、前記NO2吸着量に基づいて前記NO2−NOx比パータベーション制御の実行に係る制御パラメータ(後述のNO2−NOx比の目標値、NO2収支の目標値、及び波形パラメータなど)の値を設定することが好ましい。
【0013】
NOx選択還元触媒のNO2吸着量は、内燃機関の運転状態によって常に変化する。また、NOx選択還元触媒の上流側に排気中のCOやHCを浄化するための酸化触媒を設けた場合、この酸化触媒の状態によってはNOx選択還元触媒にHCが流入する場合がある。NOx選択還元触媒にHCが流入した場合、吸着したNO2を還元するため、NO2吸着量は変化する。したがって、選択還元触媒に流入する排気のNO2−NOx比のみでは、このようなNO2吸着量の変化を把握することができない。そこで本発明では、推定したNO2吸着量に基づいて、NO2−NOx比パータベーション制御の実行に係る制御パラメータの値を設定することにより、所定期間のNO2収支がより適切に目標値になるようにNO2−NOx比パータベーション制御を実行することができる。
【0014】
この場合、前記排気浄化システムは、前記NOx選択還元触媒の下流側の排気のNO2濃度を検出するNO2検出手段(例えば、後述のNO2センサ43)をさらに備え、前記パータベーション制御手段は、前記NO2検出手段の出力値に基づいて前記NO2−NOx比パータベーション制御の実行に係る制御パラメータの値を設定することが好ましい。
【0015】
NOx選択還元触媒のNO2吸着量がその許容量に近づくと、吸着しきれなかったNO2が選択還元触媒から排出されることとなるため、上述のようなNO2検出手段を用いることにより、NO2吸着量の絶対値までは正確には把握できずとも、少なくともNO2吸着量が許容量の近傍にあるか否かを判断することはできる。したがって、このようなNO2検出手段の出力値に基づいてNO2−NOx比パータベーション制御の実行に係る制御パラメータの値を設定することにより、所定期間のNO2収支がより適切に目標値になるようにNO2−NOx比パータベーション制御を実行することができる。
【0016】
この場合、前記排気浄化システムは、前記NOx選択還元触媒の下流側の排気のNOx濃度を検出するNOx検出手段(例えば、後述のNOxセンサ)と、前記NO2検出手段及び前記NOx検出手段の出力値に基づいて前記NOx選択還元触媒のNO2吸着量を推定するNO2吸着量推定手段(例えば、後述の選択還元触媒状態推定部54)と、をさらに備え、前記パータベーション制御手段は、前記NO2吸着量に基づいて前記制御パラメータの値を設定することが好ましい。
【0017】
本発明では、NO2検出手段及びNOx検出手段の出力値に基づいてNOx選択還元触媒のNO2吸着量を推定し、さらにこの推定したNO2吸着量に基づいて、NO2−NOx比パータベーション制御の実行に係る制御パラメータの値を設定することにより、上述のように所定期間のNO2収支がより適切に目標値になるようにNO2−NOx比パータベーション制御を実行することができる。
【0018】
この場合、前記パータベーション制御手段は、前記NO2吸着量が所定の上限値と下限値との間に設定されるNOxスリップ抑制範囲内に維持されるように前記NO2収支に対する目標値を設定することが好ましい。ここで、前記NO2吸着量が前記上限値より大きな状態でNO2過多の排気を供給するとNO2スリップが発生し、前記NO2吸着量が前記下限値より小さな状態でNO過多の排気を供給するとNOスリップが発生する。
【0019】
NOx選択還元触媒にNO2を吸着する機能がある場合、過渡的なNOx浄化率については、NO2吸着量が許容量に近くなるとNO2−NOx比のNO2過多側への変動に対するタフネスが低下し、またNO2吸着量が0に近くなるとNO2−NOx比のNO過多側への変動に対するタフネスが低下する。このため、上述のようにNOx選択還元触媒のNO2吸着量は、適切な範囲内に維持されていることが好ましい。そこで本発明では、NO2吸着量に対し上述のような吸着上限値と吸着下限値で規定されたNOxスリップ抑制範囲を設定するとともに、NO2吸着量がこのNOxスリップ抑制範囲内に維持されるように、所定期間のNO2収支に対する目標値を設定する。これにより、NOx選択還元触媒を、NO2−NOx比のNO2過多側又はNO過多側への両方の変動に対するタフネスの高い状態に維持することができるので、NOx浄化率を定常的に高く維持することができる。
【0020】
この場合、前記パータベーション制御手段は、前記NO2吸着量が前記NOx抑制スリップ範囲内にある場合には、前記NO2収支の目標値を0又はその近傍に設定し、前記NO2吸着量が前記NOxスリップ抑制範囲の上限値より大きい場合には、前記NO2吸着量が減少するように前記NO2収支の目標値を負に設定し、前記NO2吸着量が前記NOxスリップ抑制範囲の下限値より小さい場合には、前記NO2吸着量が増加するように前記NO2収支の目標値を正に設定することが好ましい。
【0021】
本発明では、NO2吸着量がNOxスリップ抑制範囲内にある場合には、上記所定期間のNO2収支の目標値を0又はその近傍にし、NO2吸着量の変化量を小さくする。そして、NO2吸着量がNOxスリップ抑制範囲の上限値より大きい場合にはNO2吸着量が減少するようにNO2収支の目標値を負に設定し、NO2吸着量がNOxスリップ抑制範囲の下限値より小さい場合にはNO2吸着量が増加するようにNO2収支の目標値を正に設定する。これにより、NOx選択還元触媒を、NO2−NOx比のNO2過多側又はNO過多側への両方の変動に対するタフネスの高い状態に維持することができるので、NOx浄化率を定常的に高く維持することができる。
【0022】
この場合、前記パータベーション制御手段は、前記内燃機関から排出され前記NOx選択還元触媒に流入するNO2還元成分が多くなるほど、前記NO2低減制御に対し前記NO2増大制御が優先的に実行されるように前記制御パラメータの値を設定することが好ましい。
【0023】
内燃機関からはHCやCOなどのNO2還元成分が排出される。通常、これらNO2還元成分は、例えば内燃機関の直下に設けられた酸化触媒により酸化されるものの、この酸化触媒の状態によって選択還元触媒に流入するものもある。このようなNO2還元成分が選択還元触媒に流入したり付着したりすると、NO2が還元されるため、NO2吸着量は徐々に減少する。そこで本発明では、選択還元触媒に流入するNO2還元成分が多くなるほど、NO2低減制御に対しNO2増大制御が優先的に実行されるように制御パラメータの値を設定することにより、NO2還元成分の流入によるNO2吸着量の低下を補いながら、所定期間のNO2収支をより適切に目標値に制御することができる。
【0024】
この場合、前記パータベーション制御手段は、前記内燃機関から排出され前記NOx選択還元触媒に流入するNO2還元成分が多くなるほど、前記NO2−NOx比に対する基準値をより大きな値に補正することが好ましい。
【0025】
本発明では、選択還元触媒に流入するNO2還元成分が多くなるほど、NO2−NOx比に対する基準値をより大きな値に補正することにより、NO2還元成分の流入によるNO2吸着量の低下を補いながら、所定期間のNO2収支をより適切に目標値に制御することができる。
【0026】
この場合、前記パータベーション制御手段は、前記内燃機関が加速運転状態である場合には、前記NO2−NOx比パータベーション制御の実行を停止することが好ましい。
【0027】
加速運転時、吸気は増大側へ制御されEGR量は減少側へ制御されるので、内燃機関から排出されるNOx量は増加しかつSVも増加する。したがって、内燃機関が加速運転状態にある場合、選択還元触媒に流入する排気のNO2−NOx比もNO過多側に変化することとなるので、あえてNO2−NOx比パータベーション制御を実行する必要はない。また、このような時期にパータベーション制御を実行すると、運転者による加速の要求とパータベーション制御による要求とが干渉した場合、例えば運転者により加速要求されている状態でさらにパータベーション制御によりNO2−NOx比の低減が要求された場合、NO2−NOx比が必要以上に大きく低下してしまい、NOx浄化率が低下してしまうおそれもある。また、このような時期にNO2−NOx比パータベーション制御を実行すると、運転者の要求に応じた適切な加速が得られない場合もある。さらに、制御ロジックの簡素化の観点からも、エンジンが加速運転状態にある場合には、NO2−NOx比パータベーション制御の実行を停止することが好ましい。
【0028】
この場合、前記排気通路のうち前記NOx選択還元触媒の上流側には酸化触媒(例えば、後述の酸化触媒21及びCSF22など)が設けられ、前記パータベーション制御手段は、前記酸化触媒が活性に達していない場合には、前記NO2−NOx比パータベーション制御の実行を禁止することが好ましい。
【0029】
酸化触媒が活性に達していない場合、酸化触媒におけるNO酸化効率は低く、NO2−NOx比パータベーション制御を実行したところで、NO2−NOx比を要求通りに変化させることはできないと考えられる。また、酸化触媒が活性に達していない場合、NO酸化効率が低下しているばかりか、COやHCの酸化効率も低下した状態であり、エンジンも暖機中であると考えられるので、このような時期にパータベーション制御を実行すると、COやHCなどのNOx以外の浄化性能や燃費も悪化するおそれがある。以上のことから、酸化触媒が活性に達していない場合には、NO2−NOx比パータベーション制御の実行を禁止するとともに、酸化触媒や内燃機関の暖機を優先した方が好ましい。
【0030】
この場合、前記NOx選択還元触媒は、NO2を吸着する機能に加えてHCを吸着する機能を有するゼオライトを含むことが好ましい。
【0031】
上述のようにNO2還元成分であるHCは、NOx選択還元触媒においてNO2を還元しNOにすることから、NOx選択還元触媒にHCを吸着する機能があるということは、NOx選択還元触媒のNO2吸着機能を向上させていることと、ほぼ同義であるといえる。したがって、NO2−NOx比パータベーション制御において、NO2−NOx比を変動させることができる領域を広げることができるため、さらにNOx浄化率を定常的に高く維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1実施形態に係るエンジン及びその排気浄化システムの構成を示す模式図である。
【図2】酸化触媒の温度と、酸化触媒におけるNO酸化効率との関係を示す図である。
【図3】酸化触媒及びCSFの各部分におけるCO量、HC量、NO量及びNO2量を示す図である。
【図4】選択還元触媒に流入する排気のNO2−NOx比と定常NOx浄化率との関係を示す図である。
【図5】上記実施形態に係るNO2−NOx比調整機構に対する指令値などの決定に係るブロックの構成を示す図である。
【図6】上記実施形態に係る触媒パラメータ推定装置の構成を示すブロック図である。
【図7】上記実施形態に係る選択還元触媒モデルを模式的に示す図である。
【図8】選択還元触媒のNO2ストレージ率とNO又はNO2のスリップ量との関係を示す図である。
【図9】上記実施形態に係る選択還元触媒状態推定部の構成を示すブロック図である。
【図10】上記実施形態に係るNO2吸着効率を決定するマップの一例を示す図である。
【図11】上記実施形態に係る過渡NOx浄化率を決定するマップの一例を示す図である。
【図12】選択還元触媒に流入するNO2−NOx比の変動パターンと、NO又はNO2のスリップ量との相関を模式的に示す図である。
【図13】上記実施形態に係るパータベーションコントローラの動作の一例を示すタイムチャートである。
【図14】NO2−NOx比の目標値の変化の態様の一例を示す図である。
【図15】上記実施形態に係るパータベーションコントローラの動作の一例を示すタイムチャートである。
【図16】NO2−NOx比と、NO2−NOx比を直接的に変動させる4つのパラメータとの関係を示す図である。
【図17】比較例の試験結果を示す図である。
【図18】上記実施形態に係るNO2−NOx比パータベーション制御を実行した場合における試験結果を示す図である。
【図19】上記実施形態に係るNO2−NOx比パータベーション制御の実行時における実際のNO2−NOx比、フィードNOx量、NO2濃度及びNO濃度の変化を示す図である。
【図20】本発明の第2実施形態に係る触媒パラメータ推定装置の構成を示すブロック図である。
【図21】上記実施形態に係る選択還元触媒状態推定部の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態を、図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る内燃機関(以下、「エンジン」という)1及びその排気浄化システム2の構成を示す模式図である。エンジン1は、リーンバーン運転方式のガソリンエンジン又はディーゼルエンジンであり、図示しない車両に搭載されている。
【0034】
排気浄化システム2は、エンジン1の排気管11に設けられた酸化触媒21と、排気管11に設けられ、排気中のスートを捕集するCSF(Catalyzed Soot Filter)22と、排気管11に設けられ、この排気管11を流通する排気中のNOxを還元剤としてのNH3の存在下で浄化する選択還元触媒23と、排気管11のうち選択還元触媒23の上流側に、アンモニアの前駆体である尿素水を供給する尿素水噴射装置25と、排気管11を流通する排気の一部を吸気管12内に還流する高圧EGR装置26と、電子制御ユニット(以下、「ECU」という)3とを含んで構成される。
【0035】
高圧EGR装置26は、高圧EGR管261と、高圧EGRバルブ262と、を含んで構成される。高圧EGR管261は、排気管11のうち酸化触媒21より上流側と、吸気管12とを接続する。高圧EGRバルブ262は、高圧EGR管261に設けられ、この高圧EGR管261を介して還流される排気の量(以下、「EGR量」という)を制御する。この高圧EGRバルブ262は、図示しないアクチュエータを介してECU3に接続されており、その開度(リフト量)はECU3により電磁的に制御される。
【0036】
酸化触媒21は、排気管11のうちエンジン1の直下であってCSF22よりも上流側に設けられ、排気中のHC及びCOを酸化し浄化する他、排気中のNOを酸化しNO2に変換する。
【0037】
図2は、酸化触媒の温度と、酸化触媒におけるNO酸化効率との関係を示す図である。ここで、NO酸化効率とは、酸化触媒に流入するNO量に対し、この酸化触媒で酸化され流出するNO2量の割合をいい、したがってNO2生成効率ともいうことができる。図2に示すように、酸化触媒におけるNO酸化効率は、酸化触媒の温度に対して上に凸の特性を示し、図2に示す例では300℃近傍において最も効率良くNOを酸化するようになっている。すなわち、酸化触媒におけるNO酸化効率は、酸化触媒の温度が最適値(図2の例では300℃)より低くなると低下し、また最適値より高くなっても低下する。なお、これに対し、酸化触媒におけるCO及びHCの酸化効率は、基本的には酸化触媒の温度とともに上昇する特性がある。すなわち、酸化触媒の温度が高くなる程CO及びHCの酸化効率も高くなる。
【0038】
図1に戻って、CSF22は、排気管11のうち酸化触媒21よりも下流側かつ選択還元触媒23よりも上流側に設けられる。CSF22は、排気がフィルタ壁の微細な孔を通過する際、排気中の炭素を主成分とするスートを、フィルタ壁の表面及びフィルタ壁中の孔に堆積させることによって捕集する。また、このフィルタ壁には、酸化触媒が塗布されているため、上述の酸化触媒21と同様に、排気中のCO、HC、及びNOを酸化する機能を有する。
【0039】
なお、上流側の酸化触媒21と下流側のCSF22とで貴金属組成の異なるものを用いることにより、上流側と下流側とで機能を分担させてもよい。例えば上流側の酸化触媒21にはPtとPdとを混合したものを用いることにより、低温時のHC及びCOの酸化性能を向上し、下流側のCSF22にはPdを少量混合するとともにPtを主体としたものを用いることにより、NOの酸化性能(すなわちNO2の生成性能)を向上することができる。
【0040】
図3は、酸化触媒及びCSFの各部分におけるCO量、HC量、NO量及びNO2量を示す図である。
図3に示すように、エンジンから排出された排気に含まれるCO、HC及びNOは、それぞれ、酸化触媒及びCSFを通過する過程で酸化されるため、上流側から下流側へ向かうに従い各々の量は減少する。また、NOが酸化されることでNO2が生成されるため、上流側から下流側へ向かうに従いNO2量は増加する。
【0041】
また、酸化触媒及びこの酸化触媒とほぼ同じ機能を有するCSFでは、CO、HC及びNOの酸化反応に、CO、HC、NOの順の優先順位がある。すなわち、CO、HC及びNOを含んだ排気が酸化触媒及びCSFを通過する過程において、最も先に(すなわち最も上流側で)COが酸化され、その次にHCが酸化され、最後に(すなわち最も下流側で)NOが酸化されNO2が生成される。すなわち、排気中のNOは、排気中のCOとHCが無くなった後で酸化されNO2が生成されるようになっており、したがって、排気中にCO及びHCが多く含まれていると、酸化触媒及びCSFにおけるCO、HC酸化効率が低下するよりも先に、NO酸化効率が低下する傾向がある。
また、一般的には酸化触媒やCSFでは、排気の空間速度、すなわち酸化する物質(CO、HC、NO)の単位時間当たりの通過量(g/s)が大きくなるに従い、その酸化効率は低下する。さらに、上述のように、排気中のNOは、酸化触媒及びCSFの最も下流側において酸化されるため、エンジンから排出される排気のボリュームが大きくなると、CO、HC酸化効率が低下するよりも先に、NO酸化効率が低下する傾向がある。
【0042】
図1に戻って、尿素水噴射装置25は、尿素水タンク251と、尿素水噴射弁253とを備える。尿素水タンク251は、尿素水を貯蔵するものであり、尿素水供給路254及び図示しない尿素水ポンプを介して、尿素水噴射弁253に接続されている。この尿素水タンク251には、尿素水レベルセンサ255が設けられている。この尿素水レベルセンサ255は、尿素水タンク251内の尿素水の水位を検出し、この水位に略比例する検出信号をECU3に供給する。尿素水噴射弁253は、ECU3に接続されており、ECU3からの制御信号により作動し、この制御信号に応じた量の尿素水を排気管11内に噴射する。
【0043】
選択還元触媒23は、NH3などの還元剤が存在する雰囲気下で、排気中のNOxを選択的に還元する。具体的には、尿素水噴射装置25により尿素水を噴射すると、この尿素水は、排気の熱により熱分解又は加水分解されて還元剤としてのNH3が生成される。生成されたNH3は、選択還元触媒23に供給され、これらNH3により排気中のNOxが選択的に還元される。
【0044】
NH3の存在下にある選択還元触媒23において進行するNO及びNO2の還元反応の反応式は、下記式(1−1)、(1−2)、(1−3)のようになっている。式(1−1)に示す反応は、排気中のNOとNO2とを同時に還元する反応であり、Fast SCR(Slective Catarytic Reduction)と称される。式(1−2)に示す反応は、排気中のNOのみを還元する反応であり、Standard SCRと称される。式(1−3)に示す反応は、排気中のNO2のみを還元する反応であり、Slow SCRと称される。
【数1】
【0045】
選択還元触媒では上記式(1−1)〜(1−3)に示す反応が進行することで、排気中のNO及びNO2がNH3により還元されることとなるが、各反応の進行度合いは、NO2−NOx比に応じて変化する。
【0046】
例えば、NO2−NOx比が0.5である場合、排気中のNOとNO2のモル比が1:1であることから、選択還元触媒では主として上記式(1−1)に示す反応が進行する。このFast SCRは、これら3つの反応の中では最も反応速度が速い。
【0047】
NO2−NOx比が0.5より小さい場合、すなわちNO2よりもNOの方が多い場合、上記式(1−1)に示す反応だけでは還元しきれないNOが残るが、この余剰分のNOは上記式(1−2)に示す反応が進行することで還元される。したがって、NO2−NOx比が0.5より小さい場合には、NO2−NOx比が小さくなるに従い、上記式(1−1)に示す反応の進行度合いが低くなり、上記式(1−2)に示す反応の進行度合いが高くなる。このStandard SCRは、これら3つの反応の中では最も反応速度が遅い。
【0048】
一方、NO2−NOx比が0.5より大きい場合、すなわちNOよりもNO2の方が多い場合、上記式(1−1)に示す反応だけでは還元しきれないNO2が残るが、この余剰分のNO2は上記式(1−3)に示す反応が進行することで還元される。したがって、NO2−NOx比が0.5よりも大きい場合には、NO2−NOx比が大きくなるに従い、上記式(1−1)に示す反応の進行度合いが低くなり、上記式(1−3)に示す反応の進行度合いが高くなる。このSlow SCRの反応速度は、Standard SCRよりは速いが、Fast SCRよりは遅くなっている。
【0049】
図4は、選択還元触媒に流入する排気のNO2−NOx比と定常的なNOx浄化率との関係を示す図である。ここで、定常的なNOx浄化率とは、選択還元触媒を一定の温度に保ちつつ一定のSVで排気を供給し続け、選択還元触媒で進行する反応及びその内部状態が定常的になったときにおけるNOx浄化率を言う。すなわち、この定常的なNOx浄化率には、排気の供給開始直後におけるNOx浄化率の過渡的な変動は考慮されていない。
【0050】
図4に示すように、NO2−NOx比を0.5にすると、選択還元触媒では、反応速度が最も速いFast SCRが主に進行することとなるため、定常的なNOx浄化率は最も高くなる。これに対しNO2−NOx比を0.5から大きくすると、Fast SCRのみでは還元できないNO2の余剰分を還元するため、Fast SCRよりも反応速度の遅いSlow SCRが進行する割合が大きくなるため、定常NOx浄化率は低下する。また逆にNO2−NOx比を0.5から小さくすると、Fast SCRのみでは還元できないNOの余剰分を還元するため、Slow SCRよりもさらに反応速度の遅いStandard SCRが進行する割合が大きくなり、定常的なNOx浄化率は低下する。
また、定常的なNOx浄化率は、選択還元触媒の温度に対して上に凸の特性を示す。図4に示す例によれば、定常的なNOx浄化率は、選択還元触媒の温度が約250℃であるときに最も高くなり、この最適温度より高くなっても低くなっても低下する。
【0051】
図1に戻って、選択還元触媒23は、尿素水から生成したNH3で排気中のNOxを還元する機能を有するとともに、生成したNH3を所定の量だけ貯蔵する機能も有する。以下では、選択還元触媒23において貯蔵されたNH3量をNH3ストレージ量とし、選択還元触媒23において貯蔵できるNH3量を最大NH3ストレージ容量とする。
このようにして選択還元触媒23に貯蔵されたNH3は、排気中のNOxの還元にも適宜消費される。このため、NH3ストレージ量が多くなるに従い、選択還元触媒23におけるNOx浄化率は高くなる。一方、NH3ストレージ量が最大NH3ストレージ容量に近くなり選択還元触媒23が飽和状態になると、NOx浄化率も最高値に近づくものの、NOxの還元に供されず余剰となったNH3が選択還元触媒23の下流側へ排出されるNH3スリップが発生する。このようにして選択還元触媒23の下流側へ排出されたNH3がシステム外に排出されるのを防止するため、選択還元触媒23の下流側にはスリップ抑制触媒24が設けられている。このスリップ抑制触媒24としては、例えば、選択還元触媒23からスリップしたNH3を酸化しN2とH2Oに分解する酸化触媒や、スリップしたNH3を貯蔵するかあるいは排気中のNOxの還元に供する選択還元触媒などを用いることができる。
【0052】
また、この選択還元触媒23はゼオライトを含んでおり、排気中のNO2やHCを吸着し所定の量だけ貯蔵する機能も有する。以下では、選択還元触媒23において貯蔵されたNO2量をNO2ストレージ量とし、選択還元触媒23において貯蔵できるNO2量を最大NO2ストレージ量とする。
このようなNO2吸着機能を備えた選択還元触媒23では、流入する排気がNO2過多(NO2−NOx比>0.5)となった場合に、還元しきれなかったNO2を吸着する。そして、このようにして選択還元触媒23に貯蔵されたNO2は、選択還元触媒23に流入する排気がNO過多(NO2−NOx比<0.5)となった場合に放出され、余分に供給されたNOとともにFast SCRにより還元される。すなわち、NO2吸着機能を備えた選択還元触媒23は、流入する排気のNO2−NOx比が最適値からNO2過多側又はNO過多側に変動した場合であっても、あたかもNO2−NOx比を最適値に維持するかのようにNO2を吸着したり放出したりする。
【0053】
図1に戻って、エンジン1や排気浄化システム2の状態を検出するため、ECU3には、排気温度センサ41、NH3センサ42、NO2センサ43、クランク角度位置センサ14、アクセル開度センサ15、エアフローメータ16などが接続されている。
【0054】
排気温度センサ41は、酸化触媒21及びCSF22の下流側の排気温度を検出し、検出値に略比例した信号をECU3に供給する。ECU3では、この排気温度センサ41の検出値に基づいて選択還元触媒23の温度や酸化触媒21の温度を推定する。なお、本実施形態では、酸化触媒21の温度とCSF22の温度はほぼ等しいものとして扱うが、これに限るものではない。
【0055】
NH3センサ42は、排気管11のうち選択還元触媒23とスリップ抑制触媒24との間における排気のアンモニアの濃度を検出し、検出値に略比例した信号をECU3に供給する。NO2センサ43は、排気管11のうち選択還元触媒23の直下の排気中のNO2の濃度を検出し、検出値に略比例した信号をECU3に供給する。
【0056】
エアフローメータは、図示しない吸気通路を流通する吸入空気量を検出し、検出した吸入空気量に略比例した出力信号をECU3に供給する。クランク角度位置センサ14は、エンジン1のクランク軸の回転角度を検出するとともに、所定のクランク角ごとにパルスを発生し、そのパルス信号をECU3に供給する。ECU3では、このパルス信号に基づいて、エンジン1のエンジン回転数を算出する。アクセル開度センサ15は、車両の図示しないアクセルペダルの踏み込み量(以下、「アクセル開度」という)を検出し、検出したアクセル開度に略比例した検出信号をECU3に供給する。ECU3では、このアクセル開度及び上記エンジン回転数に応じて、エンジン1のエンジン負荷を算出する。また、排気流量は、吸入空気量に略比例したエアフローメータの出力値やエンジン回転数などに基づいて、ECU3により算出される。
【0057】
ECU3は、各種センサからの入力信号波形を整形し、電圧レベルを所定のレベルに修正し、アナログ信号値をデジタル信号値に変換するなどの機能を有する入力回路と、中央演算処理ユニット(以下「CPU」という)とを備える。この他、ECU3は、CPUで実行される各種演算プログラム及び演算結果などを記憶する記憶回路と、エンジン1、高圧EGRバルブ262、及び尿素水噴射弁253などに制御信号を出力する出力回路と、を備える。
【0058】
図5は、ECU3に構成された制御ブロックのうち、NO2−NOx比調整機構8に対する指令値や目標値並びにこれら指令値や目標値のマップ値に対する補正値など(以下、これらをまとめて「指令値」という)の決定に係るブロックの構成を示す図である。ここでNO2−NOx比調整機構8とは、図1に示すような選択還元触媒23が排気管11に設けられた排気浄化システム2を構成する装置のうち、選択還元触媒23に流入する排気のNO2−NOx比を変化させることができる装置をいう。
【0059】
例えば、酸化触媒21及びCSF22は、排気中のNOを酸化しNO2に変換できる能力がありかつそのNO酸化効率は温度によって変化するため、温度を変化させることによりNO2−NOx比を変化させることができる。したがって、これら酸化触媒21及びCSF22は、NO2−NOx比調整機構8に含まれる。
またエンジン1は、例えばその混合気の空燃比を変えることにより、酸化触媒21及びCSF22に流入する排気の酸素濃度、すなわち酸化触媒21及びCSF22におけるNO酸化効率を変化させ、ひいてはNO2−NOx比を変化させることができる。したがって、エンジン1は、NO2−NOx比調整機構8に含まれる。
また高圧EGR装置26は、例えばEGR量を変化させることにより、エンジン1から排出されるNO量及び排気流量、すなわち酸化触媒21及びCSF22におけるNO酸化効率を変化させ、ひいてはNO2−NOx比を変化させることができる。したがって、高圧EGR装置26は、NO2−NOx比調整機構8に含まれる。この他、エンジン1の過給圧や吸入空気量などによっても、選択還元触媒に流入する排気のNO2−NOx比を変化させることができることから、図1には図示されていない過給機やスロットルバルブなどもNO2−NOx比調整機構8に含まれる。
【0060】
図5には、NO2−NOx比調整機構8に対する指令値の具体例として、酸化触媒21の温度に対する目標値(酸化触媒目標温度)、エンジン1の混合気の空燃比に対する目標値(目標空燃比)、高圧EGRバルブ262のリフト量に対する指令値(EGRバルブ指令値)の3つのみを例示列挙するが、本発明はこれらに限るものではない。
【0061】
図5に示すように、ECU3には、NO2−NOx比調整機構8の指令値を決定するためのモジュールとして、選択還元触媒及びその直下の排気の状態を評価するための触媒パラメータ(選択還元触媒から排出されるNO量及びNO2量、並びにNO2ストレージ量)を推定する触媒パラメータ推定装置5と、後述のNO2−NOx比パータベーション制御を実行するNO2−NOx比パータベーションコントローラ6及びメインコントローラ7と、が形成されている。
【0062】
なお、ECU3には、図5に示す制御ブロックの他、例えば、尿素水噴射制御、すなわち尿素水噴射弁253からの尿素水の噴射量を決定する制御ブロックが形成されている。より具体的には、尿素水噴射制御では、選択還元触媒23のNH3ストレージ量及び最大NH3ストレージ容量を推定しながら、このNH3ストレージ量が最大ストレージ容量の近傍に維持されるように、選択還元触媒23の下流側に設けられたNH3センサ42の検出値に基づいて尿素水の噴射量を決定する。このように、NH3ストレージ量を最大NH3ストレージ容量の近傍に維持することにより、選択還元触媒23からのNH3スリップを最小限にとどめつつ、選択還元触媒23におけるNOx浄化率を高く維持することができる。なお、以上のような尿素水噴射制御の詳細なアルゴリズムは、例えば、本願出願人による国際公開第2008/57628などに詳しく記載されているので、ここではこれ以上詳細な説明を省略する。
【0063】
以下、図5中の触媒パラメータ推定装置5、パータベーションコントローラ6、及びメインコントローラ7の構成について順に説明する。
【0064】
<触媒パラメータ推定装置5>
図6は、触媒パラメータ推定装置5の構成を示すブロック図である。
図6に示すように、触媒パラメータ推定装置5は、エンジン直下の排気の状態を推定するエンジン直下推定部51と、酸化触媒及びCSFからなる酸化ブロックの状態を推定する酸化ブロック状態推定部52と、この酸化ブロックの直下の排気の状態を推定する酸化ブロック直下推定部53と、選択還元触媒及びその直下の排気の状態を推定する選択還元触媒状態推定部54と、を含んで構成される。
【0065】
エンジン直下推定部51では、エンジン回転数、エンジン負荷、EGR量、吸入空気量及び混合気の空燃比などのエンジンの運転状態を示すパラメータに基づいて、エンジンから排出される排気、すなわち酸化触媒に流入する排気中に含まれるNO量(又はNO濃度)及びNO2量(又はNO2濃度)を推定する。
【0066】
酸化ブロック状態推定部52は、ポスト噴射量、排気温度及び排気流量などに基づいて、酸化触媒温度、並びにCSFから下流側へ排出される排気中に含まれるHC量(又はHC濃度)を推定する。
酸化ブロック直下推定部53は、エンジン直下推定部51にて推定されたNO量及びNO2量、酸化ブロック状態推定部52にて推定された酸化触媒温度及びHC量、並びに排気流量など、酸化ブロックにおけるNO酸化効率に相関のあるパラメータに基づいて、酸化ブロック直下の排気の状態、すなわち選択還元触媒に流入する排気のNO量(又はNO濃度)及びNO2量(又はNO2濃度)を推定する。なお以下では、この酸化ブロック直下推定部53で推定されたNO量及びNO2量を、NO流入量及びNO2流入量という。
【0067】
選択還元触媒状態推定部54は、酸化ブロック直下推定部53にて推定されたNO量及びNO2量に基づいて、図7に示す選択還元触媒モデルにより選択還元触媒のNO2ストレージ量、選択還元触媒直下の排気のNO量(又はNO濃度)及びNO2量(又はNO2濃度)を推定する。なお以下では、特に選択還元触媒から排出されるNO量及びNO2量を、NOスリップ量及びNO2スリップ量という。
【0068】
図7は、選択還元触媒におけるNOxの浄化とNO2の吸着を模した選択還元触媒モデルを模式的に示す図である。
上述のように、NH3の存在下にある選択還元触媒では、Fast、Slow及びStandardの3種類の反応速度の異なるNOx還元反応が進行する。また、選択還元触媒には排気中のNO2を吸着し所定の量だけ貯蔵する能力があるため、選択還元触媒で進行する反応は、そのNO2ストレージ量及び選択還元触媒に流入する排気のNO2−NOx比に応じて大きく変化する。以下では、流入したNO及びNO2に対し選択還元触媒で進行する反応について、(A)NO2ストレージ量が0又はその近傍である状態と、(B)NO2ストレージ量が最大NO2ストレージ容量又はその近傍である状態と、(C)NO2ストレージ量が0よりも十分に大きくかつ最大NO2ストレージ容量よりも十分に小さく、したがって過不足なくNO2が吸着されている状態と、で場合分けして説明する。
【0069】
(A)NO2ストレージ量が0又はその近傍である状態
NO2ストレージ量が0又はその近傍であり、選択還元触媒にはNO2があまり吸着されていない場合、選択還元触媒にはNO2吸着機能に余裕はあるがNO2放出機能に余裕は無いといえる。
このような状態において、NO2過多(NO2−NOx比>0.5)の排気が流入すると、選択還元触媒では、排気中のNOと、このNOと等量のNO2とを併せて還元すべくFast SCRが進行する。また、ここで余剰となったNO2を還元する反応は、より反応速度の遅いSlow SCRであるため、定常的なNOx(特にNO2)浄化率は低い。しかしながら、NO2吸着機能には余裕があり、還元されなかったNO2を選択還元触媒に吸着できるので、NO2を吸着できる間の過渡的なNOx浄化率は高い。すなわちこの場合、NO2ストレージ量は増加しながら、そのNOx浄化率は高く維持される。
一方、NO過多(NO2−NOx比<0.5)の排気が流入すると、選択還元触媒では、排気中のNO2と、このNO2と等量のNOとを併せて還元すべくFast SCRが進行する。また、ここで余剰となったNOを還元する反応は、より反応速度の遅いStandard SCRであるため、定常的なNOx(特にNO)浄化率は低い。また、NO2放出機能には余裕がなく、上記余剰となったNOと併せてFast SCRを進行させるべく、選択還元触媒から放出されるNO2も少ないため、過渡的にもNOx浄化率も低いままである。
【0070】
(B)NO2ストレージ量が最大NO2ストレージ容量又はその近傍である状態
NO2ストレージ量が最大NO2ストレージ容量又はその近傍であり、選択還元触媒には限界に近い量のNO2が吸着している場合、選択還元触媒にはNO2放出機能に余裕はあるがNO2吸着機能に余裕は無いといえる。
このような状態において、NO2過多の排気が流入すると、選択還元触媒では、排気中のNOと、このNOと等量のNO2とを併せて還元すべくFast SCRが進行する。また、ここで余剰となったNO2を還元する反応は、より反応速度の遅いSlow SCRであるため、定常的なNOx(特にNO2)浄化率は低い。また、NO2吸着機能には余裕がなく、還元されなかったNO2を選択還元触媒で吸着することもできないので、過渡的にもNOx浄化率は低いままである。
一方、NO過多の排気が流入すると、選択還元触媒では、排気中のNO2と、このNO2と等量のNOとを併せて還元すべくFast SCRが進行する。また、ここで余剰となったNOを還元する反応は、より反応速度の遅いStandard SCRであるため、定常的なNOx(特にNO)浄化率は低い。しかしながら、NO2放出機能には余裕があるため、上記余剰となったNOは、上記Standard SCRによりNO単体で還元される割合よりも、Fast SCRにより選択還元触媒から放出されたNO2と併せて還元される割合の方が高くなるため、NO2を放出できる間の過渡的なNOx浄化率は高い。すなわちこの場合、NO2ストレージ量は減少しながら、NOx浄化率は高く維持される。
【0071】
(C)過不足なくNO2が吸着されている状態
選択還元触媒に過不足なくNO2が吸着されている場合、選択還元触媒にはNO2吸着機能及びNO2放出機能ともに余裕があるといえる。
このような状態において、NO2過多の排気が流入すると、選択還元触媒では、排気中のNOと、このNOと等量のNO2とを併せて還元すべくFast SCRが進行する。また、ここで余剰となったNO2を還元する反応は、より反応速度の遅いSlow SCRであるため、定常的なNOx(特にNO2)浄化率は低い。しかしながら、NO2吸着機能には余裕があり、還元されなかったNO2を選択還元触媒に吸着できるので、NO2を吸着できる間の過渡的なNOx浄化率は高い。すなわちこの場合、NO2ストレージ量は増加しながら、NOx浄化率は高く維持される。
一方、NO過多の排気が流入すると、選択還元触媒では、排気中のNO2と、このNO2と等量のNOとを併せて還元すべくFast SCRが進行する。また、ここで余剰となったNOを還元する反応は、より反応速度の遅いStandard SCRであるため、定常的なNOx(特にNO)浄化率は低い。しかしながら、NO2放出機能には余裕があるため、上記余剰となったNOは、上記Standard SCRによりNO単体で還元される割合よりも、Fast SCRにより選択還元触媒から放出されたNO2と併せて還元される割合の方が高くなるため、NO2を放出できる間の過渡的なNOx浄化率は高い。すなわちこの場合、NO2ストレージ量は減少しながら、NOx浄化率は高く維持される。
【0072】
図8は、選択還元触媒のNO2ストレージ率(横軸)とNO又はNO2のスリップ量(縦軸)との関係を示す図である。ここで横軸のNO2ストレージ率とは、最大NO2ストレージ容量に対するNO2ストレージ量の割合をいう。図8において、実線は、NO2過多の排気の供給開始直後におけるNO2スリップ量を示し、破線は、NO過多の排気の供給開始直後におけるNOスリップ量を示す。
【0073】
図8に示すように、NO2ストレージ率が閾値A(例えば、30%)より低くなると、NO過多の排気を供給したときに直ちにNOスリップが発生するようになる。すなわち、上記NO2放出機能が低下した状態(A)は、この図では、NO2ストレージ率が閾値Aよりも小さくなった状態に相当する。また、NO2ストレージ率が閾値B(例えば、70%)より高くなると、NO2過多の排気を供給したときに直ちにNO2スリップが発生するようになる。すなわち、上記NO2吸着機能が低下した状態(B)は、この図では、NO2ストレージ率が閾値Bよりも大きくなった状態に相当する。
したがって、閾値Aを下限値とし閾値Bを上限値とした最適ストレージ範囲内にNO2ストレージ率がある場合、選択還元触媒にNO過多又はNO2過多の排気を供給しても、NO又はNO2が直ちにスリップすることはない。すなわち、上記NO2放出機能及びNO2吸着機能共に余裕がある状態(C)はNO2ストレージ率が閾値Aと閾値Bとの間にある状態に相当する。
【0074】
このように、過渡的なNOx浄化率については、NO2ストレージ量が小さくなるとNO2−NOx比のNO過多側への変動に対するタフネスが低下し、NO2ストレージ量が大きくなるとNO2−NOx比のNO2過多側への変動に対するタフネスが低下するといえる。したがって、選択還元触媒には過不足なくNO2が吸着されていれば、NO2−NOx比のNO過多側及びNO2過多側の両方の変動に対するタフネスが高く、最も好ましい状態であるといえる。
【0075】
なお、以上の説明では、NO2ストレージ率に対して閾値A,B並びに最適ストレージ範囲を設定したが、これら閾値A,Bに最大NO2ストレージ容量を乗算することにより、NO2ストレージ量に対しても同様の最適ストレージ範囲が設定される。したがって、以下の説明では、これら閾値A,B並びに最適ストレージ範囲は、NO2ストレージ量に対しても設定されたものとする。
【0076】
図9は、選択還元触媒状態推定部54の構成を示すブロック図である。
この選択還元触媒状態推定部54は、図7及び図8を参照して説明した選択還元触媒モデルを具現化したものであり、定常スリップ量演算部540と、NO2ストレージモデル演算部545と、NO+吸着NO2浄化モデル演算部546とを含んで構成される。
【0077】
定常スリップ量演算部540は、図6の酸化ブロック直下推定部53にて推定されたNO流入量及びNO2流入量の排気を選択還元触媒に定常的に供給し続けた場合に選択還元触媒から排出されるNO量及びNO2量に相当する定常NOスリップ量及び定常NO2スリップ量を算出する。すなわち、これら定常NOスリップ量及び定常NO2スリップ量は、選択還元触媒にNO2吸着機能及びNO2放出機能も無いと仮定した場合における各々のスリップ量に相当する。
【0078】
定常NO+NO2浄化モデル演算部541は、選択還元触媒ではFast SCRのみが進行するとの仮定の下で、流入したNO及びNO2のうち還元されずに排出されるNO及びNO2の量を、予め定められたマップに基づいて算出する。
定常NO浄化モデル演算部542は、選択還元触媒ではStandard SCRのみが進行するとの仮定の下で、流入したNOのうち還元されずに排出されるNOの量を、予め定められたマップに基づいて算出する。
定常NO2浄化モデル演算部543は、選択還元触媒ではSlow SCRのみが進行するとの仮定の下で、流入したNO2のうち還元されずに排出されるNO2の量を、予め定められたマップに基づいて算出する。
【0079】
定常スリップ量演算部540は、流入するNO及びNO2のうち少ない方の全てに対しFast SCRが進行するとの仮定の下で、推定されたNO流入量及びNO2流入量を、Fast SCRが進行する分(等量NO及び等量NO2)と、Standard SCRが進行する分(余剰NO)と、Slow SCRが進行する分(余剰NO2)とに分けた上、上記定常浄化モデル演算部541,542,543のそれぞれに入力する。なお、流入するNO及びNO2のうち少ない方の全てに対しFast SCRが進行するとの仮定の下では、上記余剰NO及び余剰NO2のうち何れかは0になる。
そして、定常スリップ量演算部540は、上記定常浄化モデル演算部541,542により算出されたNOのスリップ量を合算したものを定常NOスリップ量とし、モデル演算部541,543により算出されたNO2のスリップ量を合算したものを定常NO2スリップ量とする。
【0080】
NO2ストレージモデル演算部545は、選択還元触媒のNO2吸着量に相当するNO2ストレージ量と、選択還元触媒から排出されるNO2量に相当するNO2スリップ量とを推定する。
NO+吸着NO2浄化モデル演算部546は、選択還元触媒に吸着されていたもののうち、選択還元触媒に流入するNOと併せてFast SCRが進行することで消費されるNO2量に相当するNO2消費量と、選択還元触媒から排出されるNO量に相当するNOスリップ量とを推定する。
【0081】
NO2ストレージモデル演算部545は、定常スリップ量演算部540にて推定された定常NO2スリップ量のうち新たに選択還元触媒に吸着されるNO2量(新規NO2吸着量)を正とし、上記NO+吸着NO2浄化モデル演算部546にて推定されたNO2消費量を負とし、これら新規NO2吸着量とNO2消費量とを積算したものをNO2ストレージ量とする。
ここで、新規NO2吸着量は、定常NO2スリップ量に、マップ(図10参照)を検索することで決定されたNO2吸着効率を乗算することにより算出される。また、NO2スリップ量は、定常NO2スリップ量から、上記新規NO2吸着量を減算することで算出される。
【0082】
図10は、NO2吸着効率を決定するマップの一例を示す図である。
流入したNO2のうち選択還元触媒に吸着されるNO2の割合に相当するNO2吸着効率は、図10に示すように、NO2ストレージ量が大きくなるに従い小さくなる。すなわち、選択還元触媒のNO2吸着機能は、NO2ストレージ量が大きくなるに従い低下する。なお、NO2ストレージ量の上限値に相当する最大NO2ストレージ容量は、図10に示すようなマップでは、NO2吸着効率がほぼ0となるNO2ストレージ量として規定される。
【0083】
また、図10には、NO2ストレージ量のみに基づいてNO2吸着効率を決定するマップの具体例を示したが、本発明はこれに限るものではない。NO2ストレージ量とNO2吸着効率との関係及び最大NO2ストレージ容量は、選択還元触媒温度、選択還元触媒の劣化度合い、及びNH3ストレージ量などによっても変化する。特に、選択還元触媒には、NO2のみの状態で吸着するものの他、NH3との化合物の状態で吸着するものもあることが検証されており、またこのことと関連して、選択還元触媒のNO2吸着効率と選択還元触媒に吸着されているNH3の量との間には相関があることも検証されている。したがって、これら選択還元触媒温度、劣化度合い及びNH3ストレージ量など、NO2吸着機能と相関のあるパラメータに応じて、上記マップを修正してもよい。
【0084】
図9に戻って、NO+吸着NO2浄化モデル演算部546は、定常スリップ量演算部540にて推定された定常NOスリップ量、すなわち選択還元触媒にはNO放出機能が無いと仮定した場合に、還元されずにそのまま排出されるNO量のうち、選択還元触媒に吸着されたNO2と併せてFast SCRにより還元されるNO量(NO還元量)を算出する。
ここで、NO還元量は、定常NOスリップ量に、マップ(図11参照)を検索することで決定された過渡NO浄化率を乗算することにより算出される。また、NOスリップ量は、定常NOスリップ量から、上記NO還元量を減算することで算出され、NO2消費量は、Fast SCRにより上記NO還元量のNOと併せて還元されるNO2量として算出される。
【0085】
図11は、過渡NOx浄化率を決定するマップの一例を示す図である。
流入するNOのうち、選択還元触媒から放出されたNO2と併せて還元されるNOの割合に相当する過渡NO浄化率は、NO2ストレージ量が大きくなるに従い小さくなる。すなわち、選択還元触媒のNO2放出機能は、NO2ストレージ量が大きくなるに従い低下する。
【0086】
以上、図9〜図11を参照してNO2ストレージ量、NO2スリップ量及びNOスリップ量を推定する選択還元触媒状態推定部54の構成について説明したが、本発明はこれに限らない。例えば、上述のようにNO2ストレージ量が最大NO2ストレージ容量に近づくに従い、より多くのNO2が排出されることから、選択還元触媒の下流側に設けられたNO2センサの出力値により実際のNO2ストレージ量が実際の最大NO2ストレージ容量に近い状態であることを判断することができる。したがって、NO2ストレージ量が最大ストレージ容量の近傍にあるときに、NO2センサの出力値とNO2スリップ量とのずれに基づいて、NO2ストレージ量を修正してもよい。
【0087】
また、上記NO2センサに加え、選択還元触媒の下流側の排気のNOx濃度を検出するNOxセンサを設けた場合には、このNOxセンサの出力値に基づいてNO2ストレージ量を修正してもよい。現存するNOxセンサは、排気中のNO、NO2及びNH3に対して感応するが、このNOxセンサの出力値からNH3センサ及びNO2センサの出力値を減算することにより、選択還元触媒の下流側に排出されるNO量を推定することができる。したがって、このようにNOxセンサの出力値に基づいて推定したNO量と、上記選択還元触媒状態推定部54により推定されたNOスリップ量とのずれに基づいて、NO2ストレージ量を修正してもよい。
【0088】
次に、図5に戻って、NO2−NOx比パータベーションコントローラ6の構成と、このパータベーションコントローラ6及びメインコントローラ7により実行されるNO2−NOx比パータベーション制御の概念と、について説明する。
【0089】
<NO2−NOx比パータベーション制御>
図8を参照して説明したように、選択還元触媒のNO2吸着機能及びNO2放出機能に着目すると、選択還元触媒のNO2ストレージ量は閾値Aと閾値Bとの間に規定された最適ストレージ範囲内にあれば、NO2−NOx比は最適値である0.5からNO過多側又はNO2過多側へ変動しようとも、NOx浄化率は定常的に高く維持されることが分かる。また、図8に示すように、このような最適ストレージ範囲には有意な幅があることから、NO2ストレージ量は常に一定に保ち続けている必要は無く、この最適ストレージ範囲内で変動していたとしても、NOx浄化率は定常的に高く維持される。
そこで本発明では、NO2ストレージ量を最適ストレージ範囲内に維持しながら、かつその変動をある程度許容するため、所定期間の選択還元触媒におけるNO2の吸着を正とし放出を負としたNO2収支に着目する。
【0090】
図12は、選択還元触媒に流入するNO2−NOx比の変動パターンと、NO又はNO2のスリップ量との相関を模式的に示す図である。図12には、左側から順に、(a)NO2−NOx比をNO過多側で一定にした場合、(b)NO2−NOx比をNO2過多側で一定にした場合、(c)所定期間にわたるNO2収支を0にするとの条件下でNO2−NOx比を様々なパターンで変動させた場合を示す。また、排気の供給開始時におけるNO2ストレージ率は50%程度であったものとする。
【0091】
図12の(a)に示すように、NO過多の排気を定常的に供給し続けた場合、NO2ストレージ量の低下に合わせて、NOスリップ量は増加する。また、図12の(b)に示すように、NO2過多の排気を定常的に供給し続けた場合、NO2ストレージ量の上昇に合わせて、NO2スリップ量は増加する。
【0092】
これに対し、図12の(c)に示すように、所定期間(例えば、1周期)のNO2収支がほぼ0となるように、NO2−NOx比を0.5近傍の基準値を跨いで周期的に変動させた場合、NO2ストレージ量は上記最適ストレージ範囲内に維持されるため、NO及びNO2共にスリップしない。このように、NO2−NOx比を周期的に変動させるとともに、その1周期のNO2収支を0にするという条件下では、この図12の(c)に示すように、NO2−NOx比の変動パターン(NO過多側あるいはNO2過多側への深さや、NO過多側あるいはNO2過多側にする時間など)の詳細によらず、NOx浄化率は定常的に高く維持されることとなる。本発明では、このようにNO2−NOx比を0.5近傍の基準値よりも大きくさせるNO2増大制御と、NO2−NOx比を基準値よりも小さくさせるNO2低減制御とを交互に実行する制御を、NO2−NOx比パータベーション制御と定義する。
【0093】
<NO2−NOx比パータベーションコントローラ6>
図5に戻って、NO2−NOx比パータベーションコントローラ6の具体的な構成について説明する。
NO2−NOx比パータベーションコントローラ61は、触媒パラメータ推定装置5により推定されたNO2ストレージ量、NOスリップ量及びNO2スリップ量などに基づいて、NO2−NOx比の目標値を決定する。より具体的には、NO2−NOx比パータベーションコントローラ61は、所定期間の選択還元触媒のNO2収支が所定の目標値になるように、NO2−NOx比を基準値よりも大きくさせたり小さくさせたりするべく、その目標値を変動させる。
【0094】
図13は、パータベーションコントローラ6の動作の一例を示すタイムチャートである。図13には、上段から順に、NO2−NOx比の目標値、選択還元触媒に流入する排気のNO2−NOx比及びNO2ストレージ量を示す。
図13には、NO2−NOx比の目標値を、基準値(0.5)よりNO2過多側の値と、基準値よりNO過多側の値との間で2値的に変化させた場合を示す。
【0095】
パータベーションコントローラ6は、推定されたNO2ストレージ量がNO2増大閾値以下になったことを契機として、NO2−NOx比の目標値をNO2過多側の値にし、選択還元触媒に流入する排気のNO2−NOx比を基準値よりも大きくさせる(NO2増大制御)。その後、NO2ストレージ量が増加し、NO2低減閾値以上になったことを契機として、NO2−NOx比の目標値をNO過多側の値にし、選択還元触媒に流入する排気のNO2−NOx比を基準値よりも小さくさせる(NO2低減制御)。パータベーションコントローラ6は、以上のようなNO2増大制御とNO2低減制御とを交互に実行する(NO2−NOx比パータベーション制御)。
ここで、図8に示すように、NO2増大閾値を最適ストレージ範囲の下限値とし、NO2低減閾値を最適ストレージ範囲の上限値とすることにより、選択還元触媒のNO2ストレージ量を最適ストレージ範囲内に維持することができる。
【0096】
なお、以上の制御例では、NO2収支とその目標値について明確な演算を経ているわけではないが、NO2増大制御を開始してからNO2低減制御が終了するまでをNO2−NOx比パータベーション制御の1周期とすれば、この1周期の間のNO2収支が0又はその近傍に設定された目標値になるようにNO2−NOx比パータベーション制御を実行することと同義である。
【0097】
また、図13には、NO2ストレージ量と閾値との比較に基づいてNO2増大制御を開始する時期又はNO2低減制御を開始する時期を判断したが、これに限らず、図14に示すように予め定められた態様に基づいてNO2−NOx比の目標値を変化させてもよい。
【0098】
図14は、NO2−NOx比の目標値の変化の態様の一例を示す図である。このような波形は、例えば、以下の7種類の波形パラメータで特徴付けられる。
1.基準値
2.NO2−NOx比パータベーション制御の周期T
3.NO2低減制御の実行時間TlとNO2増大制御の実行時間Trとの比
4.NO2過多側の深さDr(基準値からNO2過多側の最大値までの距離)
5.NO過多側の深さDl(基準値からNO過多側の最小値までの距離)
6.NO2増大時の傾き(図14中、区間a1の傾き)
7.NO2低減時の傾き(図14中、区間a2の傾き)
【0099】
これら波形パラメータの値は、推定されたNO2ストレージ量、NO2スリップ量及びNOスリップ量、NO2センサの出力値、エンジン回転数、及びエンジン負荷などに応じて適宜設定される。以下、その具体的な方針について例示列挙する。
【0100】
これら波形パラメータの値は、例えば、推定されたNO2ストレージ量やNO2センサの出力値に基づいて、NO2スリップ量及びNOスリップ量が最小になるように設定されることが好ましい。
また、これら波形パラメータの値は、例えば、排気温度やエンジン負荷などのエンジンの運転状態を示すパラメータに基づいて、NOスリップ量及びNO2スリップ量がともに最小になるように、又は燃費が最小になるように設定されることが好ましい。
【0101】
とりわけ、上記波形パラメータのうち、基準値、NO2過多側の深さDr及びNO過多側の深さDlは、NOスリップ量及びNO2スリップ量との相関が強くなっているため、エンジンの運転領域ごとにNOxスリップ量が最小になるように設定されることが好ましい。例えば、HCやCOなどのNO2還元成分が、選択還元触媒に多く流入するような運転領域では、これらNO2還元成分が多くなるほど、NO2低減制御に対しNO2増大制御が優先的に実行されるように、基準値や深さDr,Dlなどの値は設定されることが好ましい。すなわち、NO2還元成分が多くなるほど、基準値をより0.5より大きな値へ補正するか、又はNO過多側への深さDlに対するNO2過多側への深さDrの割合が大きくなるように補正することが好ましい。
【0102】
また、図13に示す例では、目標値の変化に合わせて実際のNO2−NOx比も変化した場合を示したが、実際のNO2−NOx比は、常にこのように性質良く変化するとは限らない。例えば、図15に示すように、目標値の変化と実際のNO2−NOx比との変化が一致せず、したがって、NO2ストレージ量が最適ストレージ範囲から大きく外れてしまう場合がある。
【0103】
このような場合、すなわち、NO2ストレージ量が最適ストレージ範囲から外れてしまう場合には、NO2−NOx比パータベーション制御の1周期の間のNO2収支の目標値を0から変化させることで、NO2ストレージ量を最適ストレージ範囲内に維持することができる。
【0104】
例えば、NO2ストレージ量が最適ストレージ範囲内にある場合には、上述のように1周期の間のNO2収支の目標値は0又はその近傍に設定することが好ましい。
これに対し、NO2ストレージ量が最適ストレージ範囲の上限値より大きい場合には、NO2ストレージ量が減少し最適ストレージ範囲内に収まるように、1周期の間のNO2収支の目標値は負に設定することが好ましい。
また、NO2ストレージ量が最適ストレージ範囲の下限値より小さい場合には、NO2ストレージ量が上昇し最適ストレージ範囲内に収まるように、1周期の間のNO2収支の目標値は正に設定することが好ましい。
【0105】
また、図13に示す例では、推定されたNO2ストレージ量に基づいてNO2−NOx比の目標値を変化させたが、本発明はこれに限らない。この他、推定されたNO2スリップ量やNOスリップ量に基づいて、NO2−NOx比の目標値を設定してもよい。すなわち、NOスリップ量が所定の閾値以下になったことを契機として、NO2ストレージ量がNO2増大閾値以下になったと判断し、NO2−NOx比の目標値をNO2過多側の値にし、NO2スリップ量が所定の閾値以上になったことを契機として、NO2ストレージ量がNO2低減閾値以上になったと判断し、NO2−NOx比の目標値をNO過多側の値にするようにしてもよい。
【0106】
また、図13に示す例では、推定されたNO2ストレージ量に基づいてNO2−NOx比の目標値を変化させたが、本発明はこれに限らない。この他、NO2センサの出力値に基づいて、NO2−NOx比の目標値を設定してもよい。
ただし、NO2センサのみでは、NO2ストレージ量がNO2低減閾値以上になったことは判断できるが、NO2ストレージ量がNO2増大閾値以下になったことは判断できない。すなわち、NO2センサのみでは、NO2低減制御を開始する適切な時期は判断できるが、その後NO2増大制御を開始する適切な時期は判断できない。
したがってこの場合、NO2センサの出力値が所定の閾値以上になったことを契機として、NO2ストレージ量がNO2低減閾値以上になったと判断し、NO2−NOx比の目標値をNO過多側の値にし、その後、所定の時間が経過したことを契機として、NO2ストレージ量がNO2増大閾値以下になったと判断し、NO2−NOx比の目標値をNO2過多側の値にするようにしてもよい。
【0107】
なお、以上のように構成されたNO2−NOx比パータベーションコントローラ6において、NO2−NOx比パータベーション制御の実行に係る制御パラメータには、NO2−NOx比の目標値、NO2収支の目標値、及び波形パラメータなどが含まれる。
【0108】
図5に戻って、メインコントローラ7には、以上のようなパータベーションコントローラ6の他、NO2−NOx比に対する上限値及び下限値を設定するNO2−NOx比上限設定部62及びNO2−NOx比下限設定部63が接続されている。
NO2−NOx比上限設定部62は、エンジン回転数及びエンジン負荷などのエンジンの運転状態を示すパラメータに基づいて、NO2−NOx比の上限値を設定する。
NO2−NOx比下限設定部63は、エンジン回転数及びエンジン負荷などのエンジンの運転状態を示すパラメータに基づいて、NO2−NOx比の下限値を設定する。
【0109】
<メインコントローラ7>
図5に戻って、メインコントローラ7は、パータベーションコントローラ6により決定されたNO2−NOx比の目標値、上限設定部62により設定されたNO2−NOx比の上限値、及び下限設定部63により設定されたNO2−NOx比の下限値に基づいて、NO2−NOx比調整機構8に対する指令値(EGRバルブ指令値、目標空燃比、酸化触媒目標温度など)を決定する。NO2−NOx比調整機構8は、メインコントローラ7により決定された指令値に応じて作動し、選択還元触媒に流入する排気のNO2−NOx比を要求に応じて変化させる。
【0110】
図16は、NO2−NOx比と、NO2−NOx比を直接的に変動させる4つのパラメータ(フィードNO濃度(上段左側)、SV(下段左側)、酸素濃度(上段右側)、酸化触媒温度(下段右側))との関係を示す図である。
メインコントローラ7により決定するEGRバルブ指令値、目標空燃比及び酸化触媒目標温度と、これら4つのパラメータとは一意的に対応付けられているわけではないが、EGRバルブ指令値はフィードNO濃度及びSVとの相関が強く、目標空燃比は排気の酸素濃度との相関が強く、酸化触媒目標温度は酸化触媒温度との相関が強い。すなわち、EGRバルブ指令値を変化させると主にフィードNO濃度及びSVが変化し、目標空燃比を変化させると主に酸素濃度が変化し、酸化触媒目標温度を変化させると主に酸化触媒温度が変化する。
【0111】
図16に示すように、フィードNO濃度が高くなると、酸化触媒及びCSFにおけるNO酸化効率が低下するため選択還元触媒に流入するNO2−NOx比は低下する。SVが大きくなると、酸化触媒及びCSFにおけるNO酸化効率が低下するためNO2−NOx比は低下する。酸素濃度が低くなると、酸化触媒及びCSFにおけるNO酸化効率が低下するためNO2−NOx比は低下する。また、酸化触媒温度が低くなると、酸化触媒及びCSFにおけるNO酸化効率が低下するためNO2−NOx比は低下する。
【0112】
また図16に示すように、NO2−NOx比は、酸化触媒温度やSVに対しては全領域でほぼリニアな関係がある。しかしながら、例えばフィードNO濃度に対して、NO2−NOx比は低濃度領域では大きく変化するのに対し、高濃度領域ではさほど変化しない。また、酸素濃度に対して、NO2−NOx比は高濃度領域ではさほど変化しないのに対し、低濃度領域では大きく変化する。メインコントローラ7は、以上のように各パラメータの領域ごとにNO2−NOx比の変化の度合いが異なる点を考慮した上で、パータベーションコントローラ6からの要求に沿ってNO2−NOx比が変化するように、NO2−NOx比調整機構に対する指令値を決定する。
【0113】
次に、NO2−NOx比パータベーション制御の効果について説明する。
図17は、NO2−NOx比パータベーション制御を実行しなかった比較例、より具体的には、選択還元触媒の温度が250℃に保たれるようにNO2−NOx比調整機構を制御した場合における試験結果を示す図である。
図18は、NO2−NOx比パータベーション制御を実行した場合における試験結果を示す図である。なお、これら図17及び18には、上段から順に、選択還元触媒に流入する排気のNO2−NOx比、テールパイプから排出される排気のNO2濃度及びNO濃度を示す。また、参考のため車速も同じ図に示す。
【0114】
図17に示すように、比較例では、NO2−NOx比は0.5よりもNO2過多側を推移するため、選択還元触媒のNO2ストレージ量は常に飽和状態にある。このため、NOに対する浄化率は高く維持されるものの、NO2に対する浄化率は低い。
【0115】
これに対し、図18に示すように、所定期間のNO2収支が0になるようにNO2−NOx比パータベーション制御を実行すると、NO2−NOx比は、0.5をまたいでNO2過多側又はNO過多側へ交互に変化する。これにより、選択還元触媒におけるNO2ストレージ量は最適ストレージ範囲内に維持されるので、NO及びNO2共に浄化率は高く維持されることとなる。
【0116】
ところで、上記試験ではNO酸化性能の高い酸化触媒及びCSFを用いたため、図17に示す比較例におけるNO2−NOx比は0.5よりも大きなNO2過多側を推移する。これはすなわち、酸化触媒やCSFのNO酸化性能を低下させることにより、NO2−NOx比パータベーション制御を実行せずとも、NO2浄化率をある程度は向上できることを意味する。しかしながら、酸化触媒やCSFのNO酸化性能を低下させると、CO及びHCの酸化性能の他、エンジン始動開始時における排気系の暖機性能も低下してしまうこととなる。したがって、以上のような事情を考慮すると、本発明のNO2−NOx比パータベーション制御を実行することにより、選択還元触媒によるNOx浄化率を高くしながらかつCO及びHC浄化率並びに暖機性能も高くすることができる。
【0117】
図19は、NO2−NOx比パータベーション制御の実行時における実際のNO2−NOx比(上段の細線)、エンジンから排出されるNOx量(上段の太線)、テールパイプから排出される排気のNO2濃度(実線)及びNO濃度(破線)の変化を示す図である。なお、この図19に示す制御例では、NO2−NOx比パータベーションコントローラからの要求に応じてNO2−NOx比を変化させるため、上記NO2−NOx比調整機構に対する指令値のうち、特にEGRバルブ指令値を変化させた場合(以下、「EGR調整法」という)を示す。
【0118】
EGR調整法によりNO2−NOx比パータベーション制御を実行すると、NO2増大制御を実行している間はEGR量を低減することにより、フィードNOx濃度を及びSVを低下させる。これにより、酸化触媒及びCSFにおけるNO酸化効率が上昇し、NO2−NOx比が増加する。また、NO2低減制御を実行している間はEGR量を増加することにより、フィードNOx濃度及びSVを上昇させる。これにより、酸化触媒及びCSFにおけるNO酸化効率が低下し、NO2−NOx比が低下する。
【0119】
このように、NO2−NOx比を、0.5をまたいでNO2過多側又はNO過多側へ交互に変化させることにより、NO2浄化率及びNO浄化率をともに同程度まで低下させることができる。なお、図19中、破線で示すように、NO2収支が目標値に合わなくなり、NO2ストレージ量が最適ストレージ範囲から外れると、NO2又はNOがスリップする。
【0120】
次ぎに、以上のようなNO2−NOx比パータベーション制御の実行に適した時期及び適していない時期について検討する。先ず、NO2−NOx比パータベーション制御を実行することにより、NO2−NOx比を最適値に維持し続けなくとも選択還元触媒のNOx浄化率を定常的に高く維持し続けることができるので、特にエンジンが定常運転状態にある場合にはパータベーション制御を継続して実行することが好ましい。
【0121】
しかしながら、エンジンが加速運転状態にある場合には、NO2−NOx比パータベーション制御の実行を一時的に停止することが好ましい。これは、エンジンが加速運転状態にあるときは、吸気は増大側へ制御されEGR量は減少側へ制御されることから、エンジンから排出されるNOx量及び排気ボリュームが増加し、パータベーション制御を実行せずともNO2−NOx比は低下する傾向があるためである。また、このような時期にパータベーション制御を実行すると、運転者による加速の要求とパータベーション制御による要求とが干渉した場合、例えば運転者により加速要求されている状態でさらにパータベーション制御によりNO2−NOx比の低減が要求された場合、NO2−NOx比が必要以上に大きく低下してしまい、選択還元触媒のNO2ストレージ率が最適ストレージ範囲(図8参照)から外れてしまうおそれもある。したがって、このような時期にあえてパータベーション制御を実行する必要性は低いと考えられる。さらに、制御ロジックの簡素化の観点からも、エンジンが加速運転状態にある場合には、NO2−NOx比パータベーション制御の実行を一時的に停止することが好ましい。
【0122】
この他、例えば、エンジンの始動開始直後など、酸化触媒及びCSFが活性に達していない場合、これら酸化ブロックのNO酸化効率は低いため、NO2−NOx比パータベーション制御を実行したところで、選択還元触媒に流入する排気のNO2−NOx比を要求通りに変化させることはできないと考えられる。また、これら酸化ブロックが活性に達していない場合には、NO酸化効率が低下しているばかりか、COやHCの酸化効率も低下した状態であり、エンジンも暖機中であると考えられるので、このような時期にパータベーション制御を実行するとHCやCOなどのNOx以外の浄化性能や燃費も悪化するおそれがある。以上のことから、酸化触媒及びCSFが活性に達していない場合には、NO2−NOx比パータベーション制御の実行を禁止するとともに、これら酸化ブロックの暖機制御を優先し、CO及びHC浄化性能を速やかに向上させ、かつNO2−NOx比パータベーション制御を速やかに開始できるようにする方が好ましい。
【0123】
ここで、選択還元触媒に流入する排気のNO2−NOx比を最適値(例えば、0.5)に維持し続ける従来の制御における課題について検討する。
上述のように、実際にはNO2−NOx比を最適値に維持し続けることは困難であるため、一時的にNO2−NOx比が最適値から外れる場合がある。そこで、NO2過多(例えば、0.6)となった状態が一時的に続いた後、最適値へ向けて復帰させる状況を想定する。
このようなNO2−NOx比の復帰時、従来の制御によれば、できるだけNO過多の状態へアンダーシュートさせることなくNO2−NOx比を最適値へ向けて低減させる。しかしながら、選択還元触媒のNO2吸着機能に着目すると、上述のようにNO2過多の状態が一時的に続いたのであれば、選択還元触媒のNO2ストレージ率は高くなっており、そのNO2過多側への変動に対するタフネスは低くなっていると考えられる。また、この状態から従来の制御のようにNO2−NOx比を最適値へ向けて低減させたところで、吸着されていたNO2の放出が促進されることもないので、NO2−NOx比が最適値に制御されたとしても、選択還元触媒はNO2過多側への変動に対するタフネスの低い状態であることには変わりない。したがって、NO2−NOx比の最適値への復帰後、何らかの事情によりNO2−NOx比がNO2過多側へ少しでも振れた場合には、このNO2の余剰分は直ちにスリップしてしまうこととなる。
これに対し、本発明のNO2−NOx比パータベーション制御では、NO2収支が目標値(例えば、0)となるようにNO2−NOx比を上記最適値に対し意図的にアンダーシュートさせる。したがって、選択還元触媒は、NO2過多側又はNO過多側への変動に対するタフネスの高い状態に維持される。
【0124】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態を、図面を参照して説明する。なお、以下の説明において、第1実施形態と同じ構成については同じ符号を付し、その説明を省略する。
上述のように、ゼオライトを含む選択還元触媒には、NO2を吸着する機能に加えてHCを吸着機能も有する。また、選択還元触媒に吸着されたHCはNO2を還元するため、選択還元触媒におけるNOx浄化率やNO2ストレージ量を変化させる要因となる。本実施形態では、このような選択還元触媒におけるHCの吸着を考慮する点で、上記第1実施形態と異なる。
【0125】
図20は、触媒パラメータ推定装置5Aの構成を示すブロック図である。
本実施形態は、触媒パラメータ推定装置5Aの選択還元触媒状態推定部54Aの構成が、第1実施形態と異なる。図20に示すように、選択還元触媒状態推定部54Aは、酸化ブロック直下推定部53にて推定されたNO流入量及びNO2流入量、並びにエンジン直下推定部51にて推定されたHC量(以下、「HC流入量」という)に基づいて、選択還元触媒のNO2ストレージ量、選択還元触媒直下の排気のNO量(又はNO濃度)及びNO2量(又はNO2濃度)を推定する。
【0126】
図21は、選択還元触媒状態推定部54Aの構成を示すブロック図である。
この選択還元触媒状態推定部54Aは、定常スリップ量演算部540と、NO2ストレージモデル演算部545と、NO+吸着NO2浄化モデル演算部546と、HCストレージモデル演算部547Aと、HC浄化モデル演算部548Aとを含んで構成される。
【0127】
HCストレージモデル演算部547Aは、選択還元触媒のHC吸着量に相当するHCストレージ量と、選択還元触媒から排出されるHC量に相当するHCスリップ量とを推定する。
HC浄化モデル演算部548Aは、選択還元触媒に吸着されていたもののうち、新たに流入したNO2を還元することで酸化されるHC量に相当するHC消費量と、この反応で還元されたNO2の量に相当する還元NO2量と、この反応でNO2を還元することによりに新たに生成されたNOの量に相当する生成NO量とを推定する。
【0128】
HCストレージモデル演算部547Aは、エンジン直下推定部51にて推定されたHC流入量のうち新たに選択還元触媒に吸着されるHC量(新規HC吸着量)を正とし、上記HC浄化モデル演算部548Aにて推定されたHC消費量を負とし、これら新規HC吸着量とHC消費量とを積算したものをHCストレージ量とする。
ここで、新規HC吸着量は、HC流入量に、所定のマップを検索することで決定されたHC吸着効率を乗算することにより算出される。なお、このHC吸着効率を決定するマップは、上述のNO2吸着効率を決定するマップ(図10参照)と同様の構成であるので、その図示を省略する。すなわち、選択還元触媒のHC吸着機能は、HCストレージ量が大きくなるに従い低下する。また、HCスリップ量は、HC流入量から、上記新規HC吸着量を減算することで算出される。
【0129】
HC浄化モデル演算部548Aは、新たに流入したNO2と選択還元触媒に吸着されていたHCとの間で下記式(2)に示すNO2の還元反応が進行するとの仮定の下で、還元NO2量と、生成NO量と、HC消費量とを予め定められたマップを検索することにより算出する。
【数2】
【0130】
定常スリップ量演算部540には、酸化ブロック直下推定部53にて推定されたNO流入量に上記生成NO量を合算したものと、酸化ブロック直下推定部53にて推定されたNO2流入量から上記還元NO2量を減算したものとが入力される。
【0131】
なお、本発明は上述した実施形態に限るものではなく、種々の変形が可能である。
例えば、上記実施形態では、エンジン直下推定部51、酸化ブロック直下推定部53及び選択還元触媒状態推定部54において、それぞれエンジン直下、酸化ブロック直下及び選択還元触媒直下の排気のNO量(又はNO濃度)及びNO2量(又はNO2濃度)を推定するようにしたが、本発明はこれに限らない。これらNO量及びNO2量の代わりに、これらと等価なNOx量(又はNOx濃度)及びNO2−NOx比を推定するようにしてもよい。
【0132】
また上記実施形態では、NO2ストレージ率に対する最適ストレージ範囲を30〜70%としたが、本発明はこれに限るものではない。NO2ストレージ率が50%にある場合には、NO2の吸着側及び放出側の両方に対し同程度の余裕があり、したがってNO2過多側及びNO過多側の両方の変動に対するタフネスが最も高いといえることから、上記最適ストレージ範囲を、50%を中心としたより狭い範囲(例えば、40〜60%)に限定してもよい。
【符号の説明】
【0133】
1…エンジン(内燃機関、NO2−NOx比調整機構)
11…排気管(排気通路)
2…排気浄化システム
21…酸化触媒(酸化触媒、NO2−NOx比調整機構)
22…CSF(酸化触媒、NO2−NOx比調整機構)
23…選択還元触媒(NOx選択還元触媒)
25…尿素水噴射装置(還元剤供給手段)
26…高圧EGR装置(NO2−NOx比調整機構)
3…ECU
42…NH3センサ
43…NO2センサ(NO2検出手段)
5,5A…触媒パラメータ推定装置
54,54A…選択還元触媒状態推定部(NO2吸着量推定手段)
6…NO2−NOx比パータベーションコントローラ(パータベーション制御手段)
7…メインコントローラ(パータベーション制御手段)
8…NO2−NOx比調整機構(NO2−NOx比調整機構)
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気浄化システムに関する。より詳しくは、還元剤の存在下で排気中の窒素酸化物(NOx)を選択的に還元する選択還元触媒(Selective Catalytic Reduction Catalysts)を備えた、内燃機関の排気浄化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、排気中のNOxを浄化する排気浄化システムの1つとして、アンモニア(NH3)などの還元剤により排気中のNOxを選択的に還元する選択還元触媒を排気通路に設けたものが提案されている。例えば、尿素添加式の排気浄化システムでは、選択還元触媒の上流側からNH3の前駆体である尿素水を供給し、この尿素水から排気の熱で熱分解又は加水分解することでNH3を生成し、このNH3により排気中のNOxを選択的に還元する。このような尿素添加式のシステムの他、例えば、アンモニアカーバイトのようなNH3の化合物を加熱することでNH3を生成し、このNH3を直接添加するシステムも提案されている。以下では、尿素添加式のシステムについて説明する。
【0003】
選択還元触媒におけるNOx浄化率は、流入する排気中のNOxを構成する一酸化窒素(NO)と二酸化窒素(NO2)との割合によって変化することが知られている。より具体的には、流入する排気のNO2−NOx比(NOとNO2を合わせたNOxに対するNO2のモル比)が0.5であるとき、すなわちNOとNO2の比率が1:1であるときに最大となる。
【0004】
特許文献1には、このような選択還元触媒の性能を最大限に生かすため、選択還元触媒に流入する排気のNO2−NOx比が0.5になるようにした排気浄化装置が提案されている。この排気浄化装置では、内燃機関の運転状態から、予め定められたマップを検索することでフィードフォワード的にEGR量や燃料噴射時期などを制御することにより、選択還元触媒に流入する排気のNO2−NOx比が常に0.5に維持されるようにする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−231950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、運転者による要求や車両の状態などに応じて内燃機関の運転状態は常に変動するが、このような状況下でNO2−NOx比を0.5に維持し続けることは、実際には極めて困難なことである。例えば、選択還元触媒の上流側にNOをNO2に酸化する酸化触媒を設けた場合、選択還元触媒に流入する排気のNO2−NOx比は、酸化触媒の温度、酸化触媒における排気の空間速度(SV)、酸化触媒に流入する排気中のNOx量、O2濃度及びHC濃度などに応じて変化するが、NO2−NOx比が0.5となるようにこれらパラメータを全ての運転領域でマッピングすることはできない。
【0007】
また、仮にこのようなマッピングが可能であったとしても、この場合、燃費や商品性の悪化を避けることはできない。例えば、選択還元触媒のNOx浄化率はその温度によっても変化するので、排気温度を上昇させることにより適切な温度に維持する温度制御が行われる。ここでNO2−NOx比が0.7にある状態から最適な0.5まで低下させたときにおける、上記温度制御にかかるエネルギーの変化について検討する。例えば、NO2−NOx比を低下させるために酸化触媒に流入する排気のSVを増加させたとすると、この場合、選択還元触媒に流入する排気の温度も低下するため、温度制御にかかるエネルギーは増加してしまう。また、例えば、NO2−NOx比を低下させるために酸化触媒に流入する排気のNOx量を増加させたとすると、この場合、選択還元触媒における還元剤の消費量が増加するおそれもある。
【0008】
以上のように、特許文献1に示された技術のようなNO2−NOx比を最適値に維持し続ける制御は、実際には困難であるばかりか可能であったとしても燃費や商品性の悪化を避けることはできない。
【0009】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、燃費や商品性を悪化させることなく選択還元触媒のNOx浄化率を定常的に高く維持できる内燃機関の排気浄化システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため本発明は、内燃機関(例えば、後述のエンジン1)の排気通路(例えば、後述の排気管11)に設けられ、還元剤(例えば、後述のNH3)の存在下で排気中のNOxを選択的に還元し、かつ排気中のNO2を吸着する機能を備えたNOx選択還元触媒(例えば、後述の選択還元触媒23)と、前記排気通路のうち前記NOx選択還元触媒より上流側に還元剤又はその前駆体(例えば、後述の尿素水)を供給する還元剤供給手段(例えば、後述の尿素水噴射装置25)と、を備えた内燃機関の排気浄化システム(例えば、後述の排気浄化システム2)を提供する。前記排気浄化システムは、前記NOx選択還元触媒に流入する排気中のNOxに対するNO2の比率に相当するNO2−NOx比を変化させるNO2−NOx比調整機構(例えば、後述のエンジン1、酸化触媒21、CSF22、及び高圧EGR装置26など)と、所定期間の前記NOx選択還元触媒におけるNO2の吸着を正とし放出を負としたNO2収支が目標値になるようにNO2−NOx比パータベーション制御を実行するパータベーション制御手段(例えば、後述のNO2−NOx比パータベーションコントローラ61、及びメインコントローラ7)と、を備える。前記NO2−NOx比パータベーション制御は、前記NO2−NOx比調整機構により前記NO2−NOx比を0.5近傍の基準値よりも大きくさせるNO2増大制御と、前記NO2−NOx比調整機構により前記NO2−NOx比を前記基準値よりも小さくさせるNO2低減制御とを交互に実行する制御として定義される。
【0011】
従来、NOx選択還元触媒における定常的なNOx浄化率は、流入する排気のNO2−NOx比が0.5近傍の基準値にある場合に最大となり、またNO2−NOx比がNO2過多側あるいはNO過多側へ変化してもその定常的なNOx浄化率は低下するとされていた。これに対し、NOx選択還元触媒にNO2を吸着する機能がある場合、NO2−NOx比が上記基準値からNO2過多側又はNO過多側へ大きく変動したとしても、あたかもNO2−NOx比が最適値に維持されるかのようにNO2が吸着又は放出されるため、NOx選択還元触媒に吸着されているNO2の量が適切な範囲内に維持されている間の過渡的なNOx浄化率は高く維持される。
本発明では、このようなNOx選択還元触媒の新たな特性に着目し、所定期間のNOx選択還元触媒におけるNO2収支が目標値になるようにNO2−NOx比パータベーション制御を実行する。すなわち、NOx選択還元触媒に流入する排気のNO2−NOx比を基準値よりも大きくさせるNO2増大制御と、これとは逆にNO2−NOx比を基準値よりも小さくさせるNO2低減制御とを交互に実行する。これにより、NOx選択還元触媒におけるNOx浄化率を定常的に高く維持することができる。
また、本発明のNO2−NOx比パータベーション制御では、所定期間のNO2収支が目標値になるように、NO2−NOx比を上記基準値に対し上下に変動させることから、NO2−NOx比を最適値に合わせ込む制御を行っていた従来技術と比較して、上記所定期間のNO2−NOx比の変動パターンに大きな自由度を持たせることができる。このため、他の要因によるNO2−NOx比の変動をある程度許容することができるので、従来技術のように燃費や商品性が悪化することもない。
また本発明では、NO2−NOx比に対する基準値を0.5近傍、すなわち0.5を含むある程度の拡がりを持った範囲内の値とする。定常的なNOx浄化率が最も高くなるNO2−NOx比は、基本的には0.5である。しかしながら、例えば、選択還元触媒の状態や選択還元触媒に流入する排気の状態など、より具体的には選択還元触媒に付着したHCの量や選択還元触媒に流入する排気中のHCやCOなどのNO2還元成分の量などに応じて、選択還元触媒に流入するNO2−NOx比が変化するため、定常的なNOx浄化率が最大となるNO2−NOx比も実質的には変化する。本発明では、このような選択還元触媒や排気の状態の不定性を見込んで、上記基準値を0.5一定ではなく、0.5近傍の値とする。なお上記基準値は、上述のようなNO2還元成分の存在により、0.5よりも大きい方へ変動しがちであることから、本発明における0.5近傍の値とは、より具体的には0.4以上0.7未満の範囲内の値であるとする。
【0012】
この場合、前記排気浄化システムは、前記NOx選択還元触媒のNO2吸着量を推定するNO2吸着量推定手段(例えば、後述の選択還元触媒状態推定部54)をさらに備え、前記パータベーション制御手段は、前記NO2吸着量に基づいて前記NO2−NOx比パータベーション制御の実行に係る制御パラメータ(後述のNO2−NOx比の目標値、NO2収支の目標値、及び波形パラメータなど)の値を設定することが好ましい。
【0013】
NOx選択還元触媒のNO2吸着量は、内燃機関の運転状態によって常に変化する。また、NOx選択還元触媒の上流側に排気中のCOやHCを浄化するための酸化触媒を設けた場合、この酸化触媒の状態によってはNOx選択還元触媒にHCが流入する場合がある。NOx選択還元触媒にHCが流入した場合、吸着したNO2を還元するため、NO2吸着量は変化する。したがって、選択還元触媒に流入する排気のNO2−NOx比のみでは、このようなNO2吸着量の変化を把握することができない。そこで本発明では、推定したNO2吸着量に基づいて、NO2−NOx比パータベーション制御の実行に係る制御パラメータの値を設定することにより、所定期間のNO2収支がより適切に目標値になるようにNO2−NOx比パータベーション制御を実行することができる。
【0014】
この場合、前記排気浄化システムは、前記NOx選択還元触媒の下流側の排気のNO2濃度を検出するNO2検出手段(例えば、後述のNO2センサ43)をさらに備え、前記パータベーション制御手段は、前記NO2検出手段の出力値に基づいて前記NO2−NOx比パータベーション制御の実行に係る制御パラメータの値を設定することが好ましい。
【0015】
NOx選択還元触媒のNO2吸着量がその許容量に近づくと、吸着しきれなかったNO2が選択還元触媒から排出されることとなるため、上述のようなNO2検出手段を用いることにより、NO2吸着量の絶対値までは正確には把握できずとも、少なくともNO2吸着量が許容量の近傍にあるか否かを判断することはできる。したがって、このようなNO2検出手段の出力値に基づいてNO2−NOx比パータベーション制御の実行に係る制御パラメータの値を設定することにより、所定期間のNO2収支がより適切に目標値になるようにNO2−NOx比パータベーション制御を実行することができる。
【0016】
この場合、前記排気浄化システムは、前記NOx選択還元触媒の下流側の排気のNOx濃度を検出するNOx検出手段(例えば、後述のNOxセンサ)と、前記NO2検出手段及び前記NOx検出手段の出力値に基づいて前記NOx選択還元触媒のNO2吸着量を推定するNO2吸着量推定手段(例えば、後述の選択還元触媒状態推定部54)と、をさらに備え、前記パータベーション制御手段は、前記NO2吸着量に基づいて前記制御パラメータの値を設定することが好ましい。
【0017】
本発明では、NO2検出手段及びNOx検出手段の出力値に基づいてNOx選択還元触媒のNO2吸着量を推定し、さらにこの推定したNO2吸着量に基づいて、NO2−NOx比パータベーション制御の実行に係る制御パラメータの値を設定することにより、上述のように所定期間のNO2収支がより適切に目標値になるようにNO2−NOx比パータベーション制御を実行することができる。
【0018】
この場合、前記パータベーション制御手段は、前記NO2吸着量が所定の上限値と下限値との間に設定されるNOxスリップ抑制範囲内に維持されるように前記NO2収支に対する目標値を設定することが好ましい。ここで、前記NO2吸着量が前記上限値より大きな状態でNO2過多の排気を供給するとNO2スリップが発生し、前記NO2吸着量が前記下限値より小さな状態でNO過多の排気を供給するとNOスリップが発生する。
【0019】
NOx選択還元触媒にNO2を吸着する機能がある場合、過渡的なNOx浄化率については、NO2吸着量が許容量に近くなるとNO2−NOx比のNO2過多側への変動に対するタフネスが低下し、またNO2吸着量が0に近くなるとNO2−NOx比のNO過多側への変動に対するタフネスが低下する。このため、上述のようにNOx選択還元触媒のNO2吸着量は、適切な範囲内に維持されていることが好ましい。そこで本発明では、NO2吸着量に対し上述のような吸着上限値と吸着下限値で規定されたNOxスリップ抑制範囲を設定するとともに、NO2吸着量がこのNOxスリップ抑制範囲内に維持されるように、所定期間のNO2収支に対する目標値を設定する。これにより、NOx選択還元触媒を、NO2−NOx比のNO2過多側又はNO過多側への両方の変動に対するタフネスの高い状態に維持することができるので、NOx浄化率を定常的に高く維持することができる。
【0020】
この場合、前記パータベーション制御手段は、前記NO2吸着量が前記NOx抑制スリップ範囲内にある場合には、前記NO2収支の目標値を0又はその近傍に設定し、前記NO2吸着量が前記NOxスリップ抑制範囲の上限値より大きい場合には、前記NO2吸着量が減少するように前記NO2収支の目標値を負に設定し、前記NO2吸着量が前記NOxスリップ抑制範囲の下限値より小さい場合には、前記NO2吸着量が増加するように前記NO2収支の目標値を正に設定することが好ましい。
【0021】
本発明では、NO2吸着量がNOxスリップ抑制範囲内にある場合には、上記所定期間のNO2収支の目標値を0又はその近傍にし、NO2吸着量の変化量を小さくする。そして、NO2吸着量がNOxスリップ抑制範囲の上限値より大きい場合にはNO2吸着量が減少するようにNO2収支の目標値を負に設定し、NO2吸着量がNOxスリップ抑制範囲の下限値より小さい場合にはNO2吸着量が増加するようにNO2収支の目標値を正に設定する。これにより、NOx選択還元触媒を、NO2−NOx比のNO2過多側又はNO過多側への両方の変動に対するタフネスの高い状態に維持することができるので、NOx浄化率を定常的に高く維持することができる。
【0022】
この場合、前記パータベーション制御手段は、前記内燃機関から排出され前記NOx選択還元触媒に流入するNO2還元成分が多くなるほど、前記NO2低減制御に対し前記NO2増大制御が優先的に実行されるように前記制御パラメータの値を設定することが好ましい。
【0023】
内燃機関からはHCやCOなどのNO2還元成分が排出される。通常、これらNO2還元成分は、例えば内燃機関の直下に設けられた酸化触媒により酸化されるものの、この酸化触媒の状態によって選択還元触媒に流入するものもある。このようなNO2還元成分が選択還元触媒に流入したり付着したりすると、NO2が還元されるため、NO2吸着量は徐々に減少する。そこで本発明では、選択還元触媒に流入するNO2還元成分が多くなるほど、NO2低減制御に対しNO2増大制御が優先的に実行されるように制御パラメータの値を設定することにより、NO2還元成分の流入によるNO2吸着量の低下を補いながら、所定期間のNO2収支をより適切に目標値に制御することができる。
【0024】
この場合、前記パータベーション制御手段は、前記内燃機関から排出され前記NOx選択還元触媒に流入するNO2還元成分が多くなるほど、前記NO2−NOx比に対する基準値をより大きな値に補正することが好ましい。
【0025】
本発明では、選択還元触媒に流入するNO2還元成分が多くなるほど、NO2−NOx比に対する基準値をより大きな値に補正することにより、NO2還元成分の流入によるNO2吸着量の低下を補いながら、所定期間のNO2収支をより適切に目標値に制御することができる。
【0026】
この場合、前記パータベーション制御手段は、前記内燃機関が加速運転状態である場合には、前記NO2−NOx比パータベーション制御の実行を停止することが好ましい。
【0027】
加速運転時、吸気は増大側へ制御されEGR量は減少側へ制御されるので、内燃機関から排出されるNOx量は増加しかつSVも増加する。したがって、内燃機関が加速運転状態にある場合、選択還元触媒に流入する排気のNO2−NOx比もNO過多側に変化することとなるので、あえてNO2−NOx比パータベーション制御を実行する必要はない。また、このような時期にパータベーション制御を実行すると、運転者による加速の要求とパータベーション制御による要求とが干渉した場合、例えば運転者により加速要求されている状態でさらにパータベーション制御によりNO2−NOx比の低減が要求された場合、NO2−NOx比が必要以上に大きく低下してしまい、NOx浄化率が低下してしまうおそれもある。また、このような時期にNO2−NOx比パータベーション制御を実行すると、運転者の要求に応じた適切な加速が得られない場合もある。さらに、制御ロジックの簡素化の観点からも、エンジンが加速運転状態にある場合には、NO2−NOx比パータベーション制御の実行を停止することが好ましい。
【0028】
この場合、前記排気通路のうち前記NOx選択還元触媒の上流側には酸化触媒(例えば、後述の酸化触媒21及びCSF22など)が設けられ、前記パータベーション制御手段は、前記酸化触媒が活性に達していない場合には、前記NO2−NOx比パータベーション制御の実行を禁止することが好ましい。
【0029】
酸化触媒が活性に達していない場合、酸化触媒におけるNO酸化効率は低く、NO2−NOx比パータベーション制御を実行したところで、NO2−NOx比を要求通りに変化させることはできないと考えられる。また、酸化触媒が活性に達していない場合、NO酸化効率が低下しているばかりか、COやHCの酸化効率も低下した状態であり、エンジンも暖機中であると考えられるので、このような時期にパータベーション制御を実行すると、COやHCなどのNOx以外の浄化性能や燃費も悪化するおそれがある。以上のことから、酸化触媒が活性に達していない場合には、NO2−NOx比パータベーション制御の実行を禁止するとともに、酸化触媒や内燃機関の暖機を優先した方が好ましい。
【0030】
この場合、前記NOx選択還元触媒は、NO2を吸着する機能に加えてHCを吸着する機能を有するゼオライトを含むことが好ましい。
【0031】
上述のようにNO2還元成分であるHCは、NOx選択還元触媒においてNO2を還元しNOにすることから、NOx選択還元触媒にHCを吸着する機能があるということは、NOx選択還元触媒のNO2吸着機能を向上させていることと、ほぼ同義であるといえる。したがって、NO2−NOx比パータベーション制御において、NO2−NOx比を変動させることができる領域を広げることができるため、さらにNOx浄化率を定常的に高く維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1実施形態に係るエンジン及びその排気浄化システムの構成を示す模式図である。
【図2】酸化触媒の温度と、酸化触媒におけるNO酸化効率との関係を示す図である。
【図3】酸化触媒及びCSFの各部分におけるCO量、HC量、NO量及びNO2量を示す図である。
【図4】選択還元触媒に流入する排気のNO2−NOx比と定常NOx浄化率との関係を示す図である。
【図5】上記実施形態に係るNO2−NOx比調整機構に対する指令値などの決定に係るブロックの構成を示す図である。
【図6】上記実施形態に係る触媒パラメータ推定装置の構成を示すブロック図である。
【図7】上記実施形態に係る選択還元触媒モデルを模式的に示す図である。
【図8】選択還元触媒のNO2ストレージ率とNO又はNO2のスリップ量との関係を示す図である。
【図9】上記実施形態に係る選択還元触媒状態推定部の構成を示すブロック図である。
【図10】上記実施形態に係るNO2吸着効率を決定するマップの一例を示す図である。
【図11】上記実施形態に係る過渡NOx浄化率を決定するマップの一例を示す図である。
【図12】選択還元触媒に流入するNO2−NOx比の変動パターンと、NO又はNO2のスリップ量との相関を模式的に示す図である。
【図13】上記実施形態に係るパータベーションコントローラの動作の一例を示すタイムチャートである。
【図14】NO2−NOx比の目標値の変化の態様の一例を示す図である。
【図15】上記実施形態に係るパータベーションコントローラの動作の一例を示すタイムチャートである。
【図16】NO2−NOx比と、NO2−NOx比を直接的に変動させる4つのパラメータとの関係を示す図である。
【図17】比較例の試験結果を示す図である。
【図18】上記実施形態に係るNO2−NOx比パータベーション制御を実行した場合における試験結果を示す図である。
【図19】上記実施形態に係るNO2−NOx比パータベーション制御の実行時における実際のNO2−NOx比、フィードNOx量、NO2濃度及びNO濃度の変化を示す図である。
【図20】本発明の第2実施形態に係る触媒パラメータ推定装置の構成を示すブロック図である。
【図21】上記実施形態に係る選択還元触媒状態推定部の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態を、図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る内燃機関(以下、「エンジン」という)1及びその排気浄化システム2の構成を示す模式図である。エンジン1は、リーンバーン運転方式のガソリンエンジン又はディーゼルエンジンであり、図示しない車両に搭載されている。
【0034】
排気浄化システム2は、エンジン1の排気管11に設けられた酸化触媒21と、排気管11に設けられ、排気中のスートを捕集するCSF(Catalyzed Soot Filter)22と、排気管11に設けられ、この排気管11を流通する排気中のNOxを還元剤としてのNH3の存在下で浄化する選択還元触媒23と、排気管11のうち選択還元触媒23の上流側に、アンモニアの前駆体である尿素水を供給する尿素水噴射装置25と、排気管11を流通する排気の一部を吸気管12内に還流する高圧EGR装置26と、電子制御ユニット(以下、「ECU」という)3とを含んで構成される。
【0035】
高圧EGR装置26は、高圧EGR管261と、高圧EGRバルブ262と、を含んで構成される。高圧EGR管261は、排気管11のうち酸化触媒21より上流側と、吸気管12とを接続する。高圧EGRバルブ262は、高圧EGR管261に設けられ、この高圧EGR管261を介して還流される排気の量(以下、「EGR量」という)を制御する。この高圧EGRバルブ262は、図示しないアクチュエータを介してECU3に接続されており、その開度(リフト量)はECU3により電磁的に制御される。
【0036】
酸化触媒21は、排気管11のうちエンジン1の直下であってCSF22よりも上流側に設けられ、排気中のHC及びCOを酸化し浄化する他、排気中のNOを酸化しNO2に変換する。
【0037】
図2は、酸化触媒の温度と、酸化触媒におけるNO酸化効率との関係を示す図である。ここで、NO酸化効率とは、酸化触媒に流入するNO量に対し、この酸化触媒で酸化され流出するNO2量の割合をいい、したがってNO2生成効率ともいうことができる。図2に示すように、酸化触媒におけるNO酸化効率は、酸化触媒の温度に対して上に凸の特性を示し、図2に示す例では300℃近傍において最も効率良くNOを酸化するようになっている。すなわち、酸化触媒におけるNO酸化効率は、酸化触媒の温度が最適値(図2の例では300℃)より低くなると低下し、また最適値より高くなっても低下する。なお、これに対し、酸化触媒におけるCO及びHCの酸化効率は、基本的には酸化触媒の温度とともに上昇する特性がある。すなわち、酸化触媒の温度が高くなる程CO及びHCの酸化効率も高くなる。
【0038】
図1に戻って、CSF22は、排気管11のうち酸化触媒21よりも下流側かつ選択還元触媒23よりも上流側に設けられる。CSF22は、排気がフィルタ壁の微細な孔を通過する際、排気中の炭素を主成分とするスートを、フィルタ壁の表面及びフィルタ壁中の孔に堆積させることによって捕集する。また、このフィルタ壁には、酸化触媒が塗布されているため、上述の酸化触媒21と同様に、排気中のCO、HC、及びNOを酸化する機能を有する。
【0039】
なお、上流側の酸化触媒21と下流側のCSF22とで貴金属組成の異なるものを用いることにより、上流側と下流側とで機能を分担させてもよい。例えば上流側の酸化触媒21にはPtとPdとを混合したものを用いることにより、低温時のHC及びCOの酸化性能を向上し、下流側のCSF22にはPdを少量混合するとともにPtを主体としたものを用いることにより、NOの酸化性能(すなわちNO2の生成性能)を向上することができる。
【0040】
図3は、酸化触媒及びCSFの各部分におけるCO量、HC量、NO量及びNO2量を示す図である。
図3に示すように、エンジンから排出された排気に含まれるCO、HC及びNOは、それぞれ、酸化触媒及びCSFを通過する過程で酸化されるため、上流側から下流側へ向かうに従い各々の量は減少する。また、NOが酸化されることでNO2が生成されるため、上流側から下流側へ向かうに従いNO2量は増加する。
【0041】
また、酸化触媒及びこの酸化触媒とほぼ同じ機能を有するCSFでは、CO、HC及びNOの酸化反応に、CO、HC、NOの順の優先順位がある。すなわち、CO、HC及びNOを含んだ排気が酸化触媒及びCSFを通過する過程において、最も先に(すなわち最も上流側で)COが酸化され、その次にHCが酸化され、最後に(すなわち最も下流側で)NOが酸化されNO2が生成される。すなわち、排気中のNOは、排気中のCOとHCが無くなった後で酸化されNO2が生成されるようになっており、したがって、排気中にCO及びHCが多く含まれていると、酸化触媒及びCSFにおけるCO、HC酸化効率が低下するよりも先に、NO酸化効率が低下する傾向がある。
また、一般的には酸化触媒やCSFでは、排気の空間速度、すなわち酸化する物質(CO、HC、NO)の単位時間当たりの通過量(g/s)が大きくなるに従い、その酸化効率は低下する。さらに、上述のように、排気中のNOは、酸化触媒及びCSFの最も下流側において酸化されるため、エンジンから排出される排気のボリュームが大きくなると、CO、HC酸化効率が低下するよりも先に、NO酸化効率が低下する傾向がある。
【0042】
図1に戻って、尿素水噴射装置25は、尿素水タンク251と、尿素水噴射弁253とを備える。尿素水タンク251は、尿素水を貯蔵するものであり、尿素水供給路254及び図示しない尿素水ポンプを介して、尿素水噴射弁253に接続されている。この尿素水タンク251には、尿素水レベルセンサ255が設けられている。この尿素水レベルセンサ255は、尿素水タンク251内の尿素水の水位を検出し、この水位に略比例する検出信号をECU3に供給する。尿素水噴射弁253は、ECU3に接続されており、ECU3からの制御信号により作動し、この制御信号に応じた量の尿素水を排気管11内に噴射する。
【0043】
選択還元触媒23は、NH3などの還元剤が存在する雰囲気下で、排気中のNOxを選択的に還元する。具体的には、尿素水噴射装置25により尿素水を噴射すると、この尿素水は、排気の熱により熱分解又は加水分解されて還元剤としてのNH3が生成される。生成されたNH3は、選択還元触媒23に供給され、これらNH3により排気中のNOxが選択的に還元される。
【0044】
NH3の存在下にある選択還元触媒23において進行するNO及びNO2の還元反応の反応式は、下記式(1−1)、(1−2)、(1−3)のようになっている。式(1−1)に示す反応は、排気中のNOとNO2とを同時に還元する反応であり、Fast SCR(Slective Catarytic Reduction)と称される。式(1−2)に示す反応は、排気中のNOのみを還元する反応であり、Standard SCRと称される。式(1−3)に示す反応は、排気中のNO2のみを還元する反応であり、Slow SCRと称される。
【数1】
【0045】
選択還元触媒では上記式(1−1)〜(1−3)に示す反応が進行することで、排気中のNO及びNO2がNH3により還元されることとなるが、各反応の進行度合いは、NO2−NOx比に応じて変化する。
【0046】
例えば、NO2−NOx比が0.5である場合、排気中のNOとNO2のモル比が1:1であることから、選択還元触媒では主として上記式(1−1)に示す反応が進行する。このFast SCRは、これら3つの反応の中では最も反応速度が速い。
【0047】
NO2−NOx比が0.5より小さい場合、すなわちNO2よりもNOの方が多い場合、上記式(1−1)に示す反応だけでは還元しきれないNOが残るが、この余剰分のNOは上記式(1−2)に示す反応が進行することで還元される。したがって、NO2−NOx比が0.5より小さい場合には、NO2−NOx比が小さくなるに従い、上記式(1−1)に示す反応の進行度合いが低くなり、上記式(1−2)に示す反応の進行度合いが高くなる。このStandard SCRは、これら3つの反応の中では最も反応速度が遅い。
【0048】
一方、NO2−NOx比が0.5より大きい場合、すなわちNOよりもNO2の方が多い場合、上記式(1−1)に示す反応だけでは還元しきれないNO2が残るが、この余剰分のNO2は上記式(1−3)に示す反応が進行することで還元される。したがって、NO2−NOx比が0.5よりも大きい場合には、NO2−NOx比が大きくなるに従い、上記式(1−1)に示す反応の進行度合いが低くなり、上記式(1−3)に示す反応の進行度合いが高くなる。このSlow SCRの反応速度は、Standard SCRよりは速いが、Fast SCRよりは遅くなっている。
【0049】
図4は、選択還元触媒に流入する排気のNO2−NOx比と定常的なNOx浄化率との関係を示す図である。ここで、定常的なNOx浄化率とは、選択還元触媒を一定の温度に保ちつつ一定のSVで排気を供給し続け、選択還元触媒で進行する反応及びその内部状態が定常的になったときにおけるNOx浄化率を言う。すなわち、この定常的なNOx浄化率には、排気の供給開始直後におけるNOx浄化率の過渡的な変動は考慮されていない。
【0050】
図4に示すように、NO2−NOx比を0.5にすると、選択還元触媒では、反応速度が最も速いFast SCRが主に進行することとなるため、定常的なNOx浄化率は最も高くなる。これに対しNO2−NOx比を0.5から大きくすると、Fast SCRのみでは還元できないNO2の余剰分を還元するため、Fast SCRよりも反応速度の遅いSlow SCRが進行する割合が大きくなるため、定常NOx浄化率は低下する。また逆にNO2−NOx比を0.5から小さくすると、Fast SCRのみでは還元できないNOの余剰分を還元するため、Slow SCRよりもさらに反応速度の遅いStandard SCRが進行する割合が大きくなり、定常的なNOx浄化率は低下する。
また、定常的なNOx浄化率は、選択還元触媒の温度に対して上に凸の特性を示す。図4に示す例によれば、定常的なNOx浄化率は、選択還元触媒の温度が約250℃であるときに最も高くなり、この最適温度より高くなっても低くなっても低下する。
【0051】
図1に戻って、選択還元触媒23は、尿素水から生成したNH3で排気中のNOxを還元する機能を有するとともに、生成したNH3を所定の量だけ貯蔵する機能も有する。以下では、選択還元触媒23において貯蔵されたNH3量をNH3ストレージ量とし、選択還元触媒23において貯蔵できるNH3量を最大NH3ストレージ容量とする。
このようにして選択還元触媒23に貯蔵されたNH3は、排気中のNOxの還元にも適宜消費される。このため、NH3ストレージ量が多くなるに従い、選択還元触媒23におけるNOx浄化率は高くなる。一方、NH3ストレージ量が最大NH3ストレージ容量に近くなり選択還元触媒23が飽和状態になると、NOx浄化率も最高値に近づくものの、NOxの還元に供されず余剰となったNH3が選択還元触媒23の下流側へ排出されるNH3スリップが発生する。このようにして選択還元触媒23の下流側へ排出されたNH3がシステム外に排出されるのを防止するため、選択還元触媒23の下流側にはスリップ抑制触媒24が設けられている。このスリップ抑制触媒24としては、例えば、選択還元触媒23からスリップしたNH3を酸化しN2とH2Oに分解する酸化触媒や、スリップしたNH3を貯蔵するかあるいは排気中のNOxの還元に供する選択還元触媒などを用いることができる。
【0052】
また、この選択還元触媒23はゼオライトを含んでおり、排気中のNO2やHCを吸着し所定の量だけ貯蔵する機能も有する。以下では、選択還元触媒23において貯蔵されたNO2量をNO2ストレージ量とし、選択還元触媒23において貯蔵できるNO2量を最大NO2ストレージ量とする。
このようなNO2吸着機能を備えた選択還元触媒23では、流入する排気がNO2過多(NO2−NOx比>0.5)となった場合に、還元しきれなかったNO2を吸着する。そして、このようにして選択還元触媒23に貯蔵されたNO2は、選択還元触媒23に流入する排気がNO過多(NO2−NOx比<0.5)となった場合に放出され、余分に供給されたNOとともにFast SCRにより還元される。すなわち、NO2吸着機能を備えた選択還元触媒23は、流入する排気のNO2−NOx比が最適値からNO2過多側又はNO過多側に変動した場合であっても、あたかもNO2−NOx比を最適値に維持するかのようにNO2を吸着したり放出したりする。
【0053】
図1に戻って、エンジン1や排気浄化システム2の状態を検出するため、ECU3には、排気温度センサ41、NH3センサ42、NO2センサ43、クランク角度位置センサ14、アクセル開度センサ15、エアフローメータ16などが接続されている。
【0054】
排気温度センサ41は、酸化触媒21及びCSF22の下流側の排気温度を検出し、検出値に略比例した信号をECU3に供給する。ECU3では、この排気温度センサ41の検出値に基づいて選択還元触媒23の温度や酸化触媒21の温度を推定する。なお、本実施形態では、酸化触媒21の温度とCSF22の温度はほぼ等しいものとして扱うが、これに限るものではない。
【0055】
NH3センサ42は、排気管11のうち選択還元触媒23とスリップ抑制触媒24との間における排気のアンモニアの濃度を検出し、検出値に略比例した信号をECU3に供給する。NO2センサ43は、排気管11のうち選択還元触媒23の直下の排気中のNO2の濃度を検出し、検出値に略比例した信号をECU3に供給する。
【0056】
エアフローメータは、図示しない吸気通路を流通する吸入空気量を検出し、検出した吸入空気量に略比例した出力信号をECU3に供給する。クランク角度位置センサ14は、エンジン1のクランク軸の回転角度を検出するとともに、所定のクランク角ごとにパルスを発生し、そのパルス信号をECU3に供給する。ECU3では、このパルス信号に基づいて、エンジン1のエンジン回転数を算出する。アクセル開度センサ15は、車両の図示しないアクセルペダルの踏み込み量(以下、「アクセル開度」という)を検出し、検出したアクセル開度に略比例した検出信号をECU3に供給する。ECU3では、このアクセル開度及び上記エンジン回転数に応じて、エンジン1のエンジン負荷を算出する。また、排気流量は、吸入空気量に略比例したエアフローメータの出力値やエンジン回転数などに基づいて、ECU3により算出される。
【0057】
ECU3は、各種センサからの入力信号波形を整形し、電圧レベルを所定のレベルに修正し、アナログ信号値をデジタル信号値に変換するなどの機能を有する入力回路と、中央演算処理ユニット(以下「CPU」という)とを備える。この他、ECU3は、CPUで実行される各種演算プログラム及び演算結果などを記憶する記憶回路と、エンジン1、高圧EGRバルブ262、及び尿素水噴射弁253などに制御信号を出力する出力回路と、を備える。
【0058】
図5は、ECU3に構成された制御ブロックのうち、NO2−NOx比調整機構8に対する指令値や目標値並びにこれら指令値や目標値のマップ値に対する補正値など(以下、これらをまとめて「指令値」という)の決定に係るブロックの構成を示す図である。ここでNO2−NOx比調整機構8とは、図1に示すような選択還元触媒23が排気管11に設けられた排気浄化システム2を構成する装置のうち、選択還元触媒23に流入する排気のNO2−NOx比を変化させることができる装置をいう。
【0059】
例えば、酸化触媒21及びCSF22は、排気中のNOを酸化しNO2に変換できる能力がありかつそのNO酸化効率は温度によって変化するため、温度を変化させることによりNO2−NOx比を変化させることができる。したがって、これら酸化触媒21及びCSF22は、NO2−NOx比調整機構8に含まれる。
またエンジン1は、例えばその混合気の空燃比を変えることにより、酸化触媒21及びCSF22に流入する排気の酸素濃度、すなわち酸化触媒21及びCSF22におけるNO酸化効率を変化させ、ひいてはNO2−NOx比を変化させることができる。したがって、エンジン1は、NO2−NOx比調整機構8に含まれる。
また高圧EGR装置26は、例えばEGR量を変化させることにより、エンジン1から排出されるNO量及び排気流量、すなわち酸化触媒21及びCSF22におけるNO酸化効率を変化させ、ひいてはNO2−NOx比を変化させることができる。したがって、高圧EGR装置26は、NO2−NOx比調整機構8に含まれる。この他、エンジン1の過給圧や吸入空気量などによっても、選択還元触媒に流入する排気のNO2−NOx比を変化させることができることから、図1には図示されていない過給機やスロットルバルブなどもNO2−NOx比調整機構8に含まれる。
【0060】
図5には、NO2−NOx比調整機構8に対する指令値の具体例として、酸化触媒21の温度に対する目標値(酸化触媒目標温度)、エンジン1の混合気の空燃比に対する目標値(目標空燃比)、高圧EGRバルブ262のリフト量に対する指令値(EGRバルブ指令値)の3つのみを例示列挙するが、本発明はこれらに限るものではない。
【0061】
図5に示すように、ECU3には、NO2−NOx比調整機構8の指令値を決定するためのモジュールとして、選択還元触媒及びその直下の排気の状態を評価するための触媒パラメータ(選択還元触媒から排出されるNO量及びNO2量、並びにNO2ストレージ量)を推定する触媒パラメータ推定装置5と、後述のNO2−NOx比パータベーション制御を実行するNO2−NOx比パータベーションコントローラ6及びメインコントローラ7と、が形成されている。
【0062】
なお、ECU3には、図5に示す制御ブロックの他、例えば、尿素水噴射制御、すなわち尿素水噴射弁253からの尿素水の噴射量を決定する制御ブロックが形成されている。より具体的には、尿素水噴射制御では、選択還元触媒23のNH3ストレージ量及び最大NH3ストレージ容量を推定しながら、このNH3ストレージ量が最大ストレージ容量の近傍に維持されるように、選択還元触媒23の下流側に設けられたNH3センサ42の検出値に基づいて尿素水の噴射量を決定する。このように、NH3ストレージ量を最大NH3ストレージ容量の近傍に維持することにより、選択還元触媒23からのNH3スリップを最小限にとどめつつ、選択還元触媒23におけるNOx浄化率を高く維持することができる。なお、以上のような尿素水噴射制御の詳細なアルゴリズムは、例えば、本願出願人による国際公開第2008/57628などに詳しく記載されているので、ここではこれ以上詳細な説明を省略する。
【0063】
以下、図5中の触媒パラメータ推定装置5、パータベーションコントローラ6、及びメインコントローラ7の構成について順に説明する。
【0064】
<触媒パラメータ推定装置5>
図6は、触媒パラメータ推定装置5の構成を示すブロック図である。
図6に示すように、触媒パラメータ推定装置5は、エンジン直下の排気の状態を推定するエンジン直下推定部51と、酸化触媒及びCSFからなる酸化ブロックの状態を推定する酸化ブロック状態推定部52と、この酸化ブロックの直下の排気の状態を推定する酸化ブロック直下推定部53と、選択還元触媒及びその直下の排気の状態を推定する選択還元触媒状態推定部54と、を含んで構成される。
【0065】
エンジン直下推定部51では、エンジン回転数、エンジン負荷、EGR量、吸入空気量及び混合気の空燃比などのエンジンの運転状態を示すパラメータに基づいて、エンジンから排出される排気、すなわち酸化触媒に流入する排気中に含まれるNO量(又はNO濃度)及びNO2量(又はNO2濃度)を推定する。
【0066】
酸化ブロック状態推定部52は、ポスト噴射量、排気温度及び排気流量などに基づいて、酸化触媒温度、並びにCSFから下流側へ排出される排気中に含まれるHC量(又はHC濃度)を推定する。
酸化ブロック直下推定部53は、エンジン直下推定部51にて推定されたNO量及びNO2量、酸化ブロック状態推定部52にて推定された酸化触媒温度及びHC量、並びに排気流量など、酸化ブロックにおけるNO酸化効率に相関のあるパラメータに基づいて、酸化ブロック直下の排気の状態、すなわち選択還元触媒に流入する排気のNO量(又はNO濃度)及びNO2量(又はNO2濃度)を推定する。なお以下では、この酸化ブロック直下推定部53で推定されたNO量及びNO2量を、NO流入量及びNO2流入量という。
【0067】
選択還元触媒状態推定部54は、酸化ブロック直下推定部53にて推定されたNO量及びNO2量に基づいて、図7に示す選択還元触媒モデルにより選択還元触媒のNO2ストレージ量、選択還元触媒直下の排気のNO量(又はNO濃度)及びNO2量(又はNO2濃度)を推定する。なお以下では、特に選択還元触媒から排出されるNO量及びNO2量を、NOスリップ量及びNO2スリップ量という。
【0068】
図7は、選択還元触媒におけるNOxの浄化とNO2の吸着を模した選択還元触媒モデルを模式的に示す図である。
上述のように、NH3の存在下にある選択還元触媒では、Fast、Slow及びStandardの3種類の反応速度の異なるNOx還元反応が進行する。また、選択還元触媒には排気中のNO2を吸着し所定の量だけ貯蔵する能力があるため、選択還元触媒で進行する反応は、そのNO2ストレージ量及び選択還元触媒に流入する排気のNO2−NOx比に応じて大きく変化する。以下では、流入したNO及びNO2に対し選択還元触媒で進行する反応について、(A)NO2ストレージ量が0又はその近傍である状態と、(B)NO2ストレージ量が最大NO2ストレージ容量又はその近傍である状態と、(C)NO2ストレージ量が0よりも十分に大きくかつ最大NO2ストレージ容量よりも十分に小さく、したがって過不足なくNO2が吸着されている状態と、で場合分けして説明する。
【0069】
(A)NO2ストレージ量が0又はその近傍である状態
NO2ストレージ量が0又はその近傍であり、選択還元触媒にはNO2があまり吸着されていない場合、選択還元触媒にはNO2吸着機能に余裕はあるがNO2放出機能に余裕は無いといえる。
このような状態において、NO2過多(NO2−NOx比>0.5)の排気が流入すると、選択還元触媒では、排気中のNOと、このNOと等量のNO2とを併せて還元すべくFast SCRが進行する。また、ここで余剰となったNO2を還元する反応は、より反応速度の遅いSlow SCRであるため、定常的なNOx(特にNO2)浄化率は低い。しかしながら、NO2吸着機能には余裕があり、還元されなかったNO2を選択還元触媒に吸着できるので、NO2を吸着できる間の過渡的なNOx浄化率は高い。すなわちこの場合、NO2ストレージ量は増加しながら、そのNOx浄化率は高く維持される。
一方、NO過多(NO2−NOx比<0.5)の排気が流入すると、選択還元触媒では、排気中のNO2と、このNO2と等量のNOとを併せて還元すべくFast SCRが進行する。また、ここで余剰となったNOを還元する反応は、より反応速度の遅いStandard SCRであるため、定常的なNOx(特にNO)浄化率は低い。また、NO2放出機能には余裕がなく、上記余剰となったNOと併せてFast SCRを進行させるべく、選択還元触媒から放出されるNO2も少ないため、過渡的にもNOx浄化率も低いままである。
【0070】
(B)NO2ストレージ量が最大NO2ストレージ容量又はその近傍である状態
NO2ストレージ量が最大NO2ストレージ容量又はその近傍であり、選択還元触媒には限界に近い量のNO2が吸着している場合、選択還元触媒にはNO2放出機能に余裕はあるがNO2吸着機能に余裕は無いといえる。
このような状態において、NO2過多の排気が流入すると、選択還元触媒では、排気中のNOと、このNOと等量のNO2とを併せて還元すべくFast SCRが進行する。また、ここで余剰となったNO2を還元する反応は、より反応速度の遅いSlow SCRであるため、定常的なNOx(特にNO2)浄化率は低い。また、NO2吸着機能には余裕がなく、還元されなかったNO2を選択還元触媒で吸着することもできないので、過渡的にもNOx浄化率は低いままである。
一方、NO過多の排気が流入すると、選択還元触媒では、排気中のNO2と、このNO2と等量のNOとを併せて還元すべくFast SCRが進行する。また、ここで余剰となったNOを還元する反応は、より反応速度の遅いStandard SCRであるため、定常的なNOx(特にNO)浄化率は低い。しかしながら、NO2放出機能には余裕があるため、上記余剰となったNOは、上記Standard SCRによりNO単体で還元される割合よりも、Fast SCRにより選択還元触媒から放出されたNO2と併せて還元される割合の方が高くなるため、NO2を放出できる間の過渡的なNOx浄化率は高い。すなわちこの場合、NO2ストレージ量は減少しながら、NOx浄化率は高く維持される。
【0071】
(C)過不足なくNO2が吸着されている状態
選択還元触媒に過不足なくNO2が吸着されている場合、選択還元触媒にはNO2吸着機能及びNO2放出機能ともに余裕があるといえる。
このような状態において、NO2過多の排気が流入すると、選択還元触媒では、排気中のNOと、このNOと等量のNO2とを併せて還元すべくFast SCRが進行する。また、ここで余剰となったNO2を還元する反応は、より反応速度の遅いSlow SCRであるため、定常的なNOx(特にNO2)浄化率は低い。しかしながら、NO2吸着機能には余裕があり、還元されなかったNO2を選択還元触媒に吸着できるので、NO2を吸着できる間の過渡的なNOx浄化率は高い。すなわちこの場合、NO2ストレージ量は増加しながら、NOx浄化率は高く維持される。
一方、NO過多の排気が流入すると、選択還元触媒では、排気中のNO2と、このNO2と等量のNOとを併せて還元すべくFast SCRが進行する。また、ここで余剰となったNOを還元する反応は、より反応速度の遅いStandard SCRであるため、定常的なNOx(特にNO)浄化率は低い。しかしながら、NO2放出機能には余裕があるため、上記余剰となったNOは、上記Standard SCRによりNO単体で還元される割合よりも、Fast SCRにより選択還元触媒から放出されたNO2と併せて還元される割合の方が高くなるため、NO2を放出できる間の過渡的なNOx浄化率は高い。すなわちこの場合、NO2ストレージ量は減少しながら、NOx浄化率は高く維持される。
【0072】
図8は、選択還元触媒のNO2ストレージ率(横軸)とNO又はNO2のスリップ量(縦軸)との関係を示す図である。ここで横軸のNO2ストレージ率とは、最大NO2ストレージ容量に対するNO2ストレージ量の割合をいう。図8において、実線は、NO2過多の排気の供給開始直後におけるNO2スリップ量を示し、破線は、NO過多の排気の供給開始直後におけるNOスリップ量を示す。
【0073】
図8に示すように、NO2ストレージ率が閾値A(例えば、30%)より低くなると、NO過多の排気を供給したときに直ちにNOスリップが発生するようになる。すなわち、上記NO2放出機能が低下した状態(A)は、この図では、NO2ストレージ率が閾値Aよりも小さくなった状態に相当する。また、NO2ストレージ率が閾値B(例えば、70%)より高くなると、NO2過多の排気を供給したときに直ちにNO2スリップが発生するようになる。すなわち、上記NO2吸着機能が低下した状態(B)は、この図では、NO2ストレージ率が閾値Bよりも大きくなった状態に相当する。
したがって、閾値Aを下限値とし閾値Bを上限値とした最適ストレージ範囲内にNO2ストレージ率がある場合、選択還元触媒にNO過多又はNO2過多の排気を供給しても、NO又はNO2が直ちにスリップすることはない。すなわち、上記NO2放出機能及びNO2吸着機能共に余裕がある状態(C)はNO2ストレージ率が閾値Aと閾値Bとの間にある状態に相当する。
【0074】
このように、過渡的なNOx浄化率については、NO2ストレージ量が小さくなるとNO2−NOx比のNO過多側への変動に対するタフネスが低下し、NO2ストレージ量が大きくなるとNO2−NOx比のNO2過多側への変動に対するタフネスが低下するといえる。したがって、選択還元触媒には過不足なくNO2が吸着されていれば、NO2−NOx比のNO過多側及びNO2過多側の両方の変動に対するタフネスが高く、最も好ましい状態であるといえる。
【0075】
なお、以上の説明では、NO2ストレージ率に対して閾値A,B並びに最適ストレージ範囲を設定したが、これら閾値A,Bに最大NO2ストレージ容量を乗算することにより、NO2ストレージ量に対しても同様の最適ストレージ範囲が設定される。したがって、以下の説明では、これら閾値A,B並びに最適ストレージ範囲は、NO2ストレージ量に対しても設定されたものとする。
【0076】
図9は、選択還元触媒状態推定部54の構成を示すブロック図である。
この選択還元触媒状態推定部54は、図7及び図8を参照して説明した選択還元触媒モデルを具現化したものであり、定常スリップ量演算部540と、NO2ストレージモデル演算部545と、NO+吸着NO2浄化モデル演算部546とを含んで構成される。
【0077】
定常スリップ量演算部540は、図6の酸化ブロック直下推定部53にて推定されたNO流入量及びNO2流入量の排気を選択還元触媒に定常的に供給し続けた場合に選択還元触媒から排出されるNO量及びNO2量に相当する定常NOスリップ量及び定常NO2スリップ量を算出する。すなわち、これら定常NOスリップ量及び定常NO2スリップ量は、選択還元触媒にNO2吸着機能及びNO2放出機能も無いと仮定した場合における各々のスリップ量に相当する。
【0078】
定常NO+NO2浄化モデル演算部541は、選択還元触媒ではFast SCRのみが進行するとの仮定の下で、流入したNO及びNO2のうち還元されずに排出されるNO及びNO2の量を、予め定められたマップに基づいて算出する。
定常NO浄化モデル演算部542は、選択還元触媒ではStandard SCRのみが進行するとの仮定の下で、流入したNOのうち還元されずに排出されるNOの量を、予め定められたマップに基づいて算出する。
定常NO2浄化モデル演算部543は、選択還元触媒ではSlow SCRのみが進行するとの仮定の下で、流入したNO2のうち還元されずに排出されるNO2の量を、予め定められたマップに基づいて算出する。
【0079】
定常スリップ量演算部540は、流入するNO及びNO2のうち少ない方の全てに対しFast SCRが進行するとの仮定の下で、推定されたNO流入量及びNO2流入量を、Fast SCRが進行する分(等量NO及び等量NO2)と、Standard SCRが進行する分(余剰NO)と、Slow SCRが進行する分(余剰NO2)とに分けた上、上記定常浄化モデル演算部541,542,543のそれぞれに入力する。なお、流入するNO及びNO2のうち少ない方の全てに対しFast SCRが進行するとの仮定の下では、上記余剰NO及び余剰NO2のうち何れかは0になる。
そして、定常スリップ量演算部540は、上記定常浄化モデル演算部541,542により算出されたNOのスリップ量を合算したものを定常NOスリップ量とし、モデル演算部541,543により算出されたNO2のスリップ量を合算したものを定常NO2スリップ量とする。
【0080】
NO2ストレージモデル演算部545は、選択還元触媒のNO2吸着量に相当するNO2ストレージ量と、選択還元触媒から排出されるNO2量に相当するNO2スリップ量とを推定する。
NO+吸着NO2浄化モデル演算部546は、選択還元触媒に吸着されていたもののうち、選択還元触媒に流入するNOと併せてFast SCRが進行することで消費されるNO2量に相当するNO2消費量と、選択還元触媒から排出されるNO量に相当するNOスリップ量とを推定する。
【0081】
NO2ストレージモデル演算部545は、定常スリップ量演算部540にて推定された定常NO2スリップ量のうち新たに選択還元触媒に吸着されるNO2量(新規NO2吸着量)を正とし、上記NO+吸着NO2浄化モデル演算部546にて推定されたNO2消費量を負とし、これら新規NO2吸着量とNO2消費量とを積算したものをNO2ストレージ量とする。
ここで、新規NO2吸着量は、定常NO2スリップ量に、マップ(図10参照)を検索することで決定されたNO2吸着効率を乗算することにより算出される。また、NO2スリップ量は、定常NO2スリップ量から、上記新規NO2吸着量を減算することで算出される。
【0082】
図10は、NO2吸着効率を決定するマップの一例を示す図である。
流入したNO2のうち選択還元触媒に吸着されるNO2の割合に相当するNO2吸着効率は、図10に示すように、NO2ストレージ量が大きくなるに従い小さくなる。すなわち、選択還元触媒のNO2吸着機能は、NO2ストレージ量が大きくなるに従い低下する。なお、NO2ストレージ量の上限値に相当する最大NO2ストレージ容量は、図10に示すようなマップでは、NO2吸着効率がほぼ0となるNO2ストレージ量として規定される。
【0083】
また、図10には、NO2ストレージ量のみに基づいてNO2吸着効率を決定するマップの具体例を示したが、本発明はこれに限るものではない。NO2ストレージ量とNO2吸着効率との関係及び最大NO2ストレージ容量は、選択還元触媒温度、選択還元触媒の劣化度合い、及びNH3ストレージ量などによっても変化する。特に、選択還元触媒には、NO2のみの状態で吸着するものの他、NH3との化合物の状態で吸着するものもあることが検証されており、またこのことと関連して、選択還元触媒のNO2吸着効率と選択還元触媒に吸着されているNH3の量との間には相関があることも検証されている。したがって、これら選択還元触媒温度、劣化度合い及びNH3ストレージ量など、NO2吸着機能と相関のあるパラメータに応じて、上記マップを修正してもよい。
【0084】
図9に戻って、NO+吸着NO2浄化モデル演算部546は、定常スリップ量演算部540にて推定された定常NOスリップ量、すなわち選択還元触媒にはNO放出機能が無いと仮定した場合に、還元されずにそのまま排出されるNO量のうち、選択還元触媒に吸着されたNO2と併せてFast SCRにより還元されるNO量(NO還元量)を算出する。
ここで、NO還元量は、定常NOスリップ量に、マップ(図11参照)を検索することで決定された過渡NO浄化率を乗算することにより算出される。また、NOスリップ量は、定常NOスリップ量から、上記NO還元量を減算することで算出され、NO2消費量は、Fast SCRにより上記NO還元量のNOと併せて還元されるNO2量として算出される。
【0085】
図11は、過渡NOx浄化率を決定するマップの一例を示す図である。
流入するNOのうち、選択還元触媒から放出されたNO2と併せて還元されるNOの割合に相当する過渡NO浄化率は、NO2ストレージ量が大きくなるに従い小さくなる。すなわち、選択還元触媒のNO2放出機能は、NO2ストレージ量が大きくなるに従い低下する。
【0086】
以上、図9〜図11を参照してNO2ストレージ量、NO2スリップ量及びNOスリップ量を推定する選択還元触媒状態推定部54の構成について説明したが、本発明はこれに限らない。例えば、上述のようにNO2ストレージ量が最大NO2ストレージ容量に近づくに従い、より多くのNO2が排出されることから、選択還元触媒の下流側に設けられたNO2センサの出力値により実際のNO2ストレージ量が実際の最大NO2ストレージ容量に近い状態であることを判断することができる。したがって、NO2ストレージ量が最大ストレージ容量の近傍にあるときに、NO2センサの出力値とNO2スリップ量とのずれに基づいて、NO2ストレージ量を修正してもよい。
【0087】
また、上記NO2センサに加え、選択還元触媒の下流側の排気のNOx濃度を検出するNOxセンサを設けた場合には、このNOxセンサの出力値に基づいてNO2ストレージ量を修正してもよい。現存するNOxセンサは、排気中のNO、NO2及びNH3に対して感応するが、このNOxセンサの出力値からNH3センサ及びNO2センサの出力値を減算することにより、選択還元触媒の下流側に排出されるNO量を推定することができる。したがって、このようにNOxセンサの出力値に基づいて推定したNO量と、上記選択還元触媒状態推定部54により推定されたNOスリップ量とのずれに基づいて、NO2ストレージ量を修正してもよい。
【0088】
次に、図5に戻って、NO2−NOx比パータベーションコントローラ6の構成と、このパータベーションコントローラ6及びメインコントローラ7により実行されるNO2−NOx比パータベーション制御の概念と、について説明する。
【0089】
<NO2−NOx比パータベーション制御>
図8を参照して説明したように、選択還元触媒のNO2吸着機能及びNO2放出機能に着目すると、選択還元触媒のNO2ストレージ量は閾値Aと閾値Bとの間に規定された最適ストレージ範囲内にあれば、NO2−NOx比は最適値である0.5からNO過多側又はNO2過多側へ変動しようとも、NOx浄化率は定常的に高く維持されることが分かる。また、図8に示すように、このような最適ストレージ範囲には有意な幅があることから、NO2ストレージ量は常に一定に保ち続けている必要は無く、この最適ストレージ範囲内で変動していたとしても、NOx浄化率は定常的に高く維持される。
そこで本発明では、NO2ストレージ量を最適ストレージ範囲内に維持しながら、かつその変動をある程度許容するため、所定期間の選択還元触媒におけるNO2の吸着を正とし放出を負としたNO2収支に着目する。
【0090】
図12は、選択還元触媒に流入するNO2−NOx比の変動パターンと、NO又はNO2のスリップ量との相関を模式的に示す図である。図12には、左側から順に、(a)NO2−NOx比をNO過多側で一定にした場合、(b)NO2−NOx比をNO2過多側で一定にした場合、(c)所定期間にわたるNO2収支を0にするとの条件下でNO2−NOx比を様々なパターンで変動させた場合を示す。また、排気の供給開始時におけるNO2ストレージ率は50%程度であったものとする。
【0091】
図12の(a)に示すように、NO過多の排気を定常的に供給し続けた場合、NO2ストレージ量の低下に合わせて、NOスリップ量は増加する。また、図12の(b)に示すように、NO2過多の排気を定常的に供給し続けた場合、NO2ストレージ量の上昇に合わせて、NO2スリップ量は増加する。
【0092】
これに対し、図12の(c)に示すように、所定期間(例えば、1周期)のNO2収支がほぼ0となるように、NO2−NOx比を0.5近傍の基準値を跨いで周期的に変動させた場合、NO2ストレージ量は上記最適ストレージ範囲内に維持されるため、NO及びNO2共にスリップしない。このように、NO2−NOx比を周期的に変動させるとともに、その1周期のNO2収支を0にするという条件下では、この図12の(c)に示すように、NO2−NOx比の変動パターン(NO過多側あるいはNO2過多側への深さや、NO過多側あるいはNO2過多側にする時間など)の詳細によらず、NOx浄化率は定常的に高く維持されることとなる。本発明では、このようにNO2−NOx比を0.5近傍の基準値よりも大きくさせるNO2増大制御と、NO2−NOx比を基準値よりも小さくさせるNO2低減制御とを交互に実行する制御を、NO2−NOx比パータベーション制御と定義する。
【0093】
<NO2−NOx比パータベーションコントローラ6>
図5に戻って、NO2−NOx比パータベーションコントローラ6の具体的な構成について説明する。
NO2−NOx比パータベーションコントローラ61は、触媒パラメータ推定装置5により推定されたNO2ストレージ量、NOスリップ量及びNO2スリップ量などに基づいて、NO2−NOx比の目標値を決定する。より具体的には、NO2−NOx比パータベーションコントローラ61は、所定期間の選択還元触媒のNO2収支が所定の目標値になるように、NO2−NOx比を基準値よりも大きくさせたり小さくさせたりするべく、その目標値を変動させる。
【0094】
図13は、パータベーションコントローラ6の動作の一例を示すタイムチャートである。図13には、上段から順に、NO2−NOx比の目標値、選択還元触媒に流入する排気のNO2−NOx比及びNO2ストレージ量を示す。
図13には、NO2−NOx比の目標値を、基準値(0.5)よりNO2過多側の値と、基準値よりNO過多側の値との間で2値的に変化させた場合を示す。
【0095】
パータベーションコントローラ6は、推定されたNO2ストレージ量がNO2増大閾値以下になったことを契機として、NO2−NOx比の目標値をNO2過多側の値にし、選択還元触媒に流入する排気のNO2−NOx比を基準値よりも大きくさせる(NO2増大制御)。その後、NO2ストレージ量が増加し、NO2低減閾値以上になったことを契機として、NO2−NOx比の目標値をNO過多側の値にし、選択還元触媒に流入する排気のNO2−NOx比を基準値よりも小さくさせる(NO2低減制御)。パータベーションコントローラ6は、以上のようなNO2増大制御とNO2低減制御とを交互に実行する(NO2−NOx比パータベーション制御)。
ここで、図8に示すように、NO2増大閾値を最適ストレージ範囲の下限値とし、NO2低減閾値を最適ストレージ範囲の上限値とすることにより、選択還元触媒のNO2ストレージ量を最適ストレージ範囲内に維持することができる。
【0096】
なお、以上の制御例では、NO2収支とその目標値について明確な演算を経ているわけではないが、NO2増大制御を開始してからNO2低減制御が終了するまでをNO2−NOx比パータベーション制御の1周期とすれば、この1周期の間のNO2収支が0又はその近傍に設定された目標値になるようにNO2−NOx比パータベーション制御を実行することと同義である。
【0097】
また、図13には、NO2ストレージ量と閾値との比較に基づいてNO2増大制御を開始する時期又はNO2低減制御を開始する時期を判断したが、これに限らず、図14に示すように予め定められた態様に基づいてNO2−NOx比の目標値を変化させてもよい。
【0098】
図14は、NO2−NOx比の目標値の変化の態様の一例を示す図である。このような波形は、例えば、以下の7種類の波形パラメータで特徴付けられる。
1.基準値
2.NO2−NOx比パータベーション制御の周期T
3.NO2低減制御の実行時間TlとNO2増大制御の実行時間Trとの比
4.NO2過多側の深さDr(基準値からNO2過多側の最大値までの距離)
5.NO過多側の深さDl(基準値からNO過多側の最小値までの距離)
6.NO2増大時の傾き(図14中、区間a1の傾き)
7.NO2低減時の傾き(図14中、区間a2の傾き)
【0099】
これら波形パラメータの値は、推定されたNO2ストレージ量、NO2スリップ量及びNOスリップ量、NO2センサの出力値、エンジン回転数、及びエンジン負荷などに応じて適宜設定される。以下、その具体的な方針について例示列挙する。
【0100】
これら波形パラメータの値は、例えば、推定されたNO2ストレージ量やNO2センサの出力値に基づいて、NO2スリップ量及びNOスリップ量が最小になるように設定されることが好ましい。
また、これら波形パラメータの値は、例えば、排気温度やエンジン負荷などのエンジンの運転状態を示すパラメータに基づいて、NOスリップ量及びNO2スリップ量がともに最小になるように、又は燃費が最小になるように設定されることが好ましい。
【0101】
とりわけ、上記波形パラメータのうち、基準値、NO2過多側の深さDr及びNO過多側の深さDlは、NOスリップ量及びNO2スリップ量との相関が強くなっているため、エンジンの運転領域ごとにNOxスリップ量が最小になるように設定されることが好ましい。例えば、HCやCOなどのNO2還元成分が、選択還元触媒に多く流入するような運転領域では、これらNO2還元成分が多くなるほど、NO2低減制御に対しNO2増大制御が優先的に実行されるように、基準値や深さDr,Dlなどの値は設定されることが好ましい。すなわち、NO2還元成分が多くなるほど、基準値をより0.5より大きな値へ補正するか、又はNO過多側への深さDlに対するNO2過多側への深さDrの割合が大きくなるように補正することが好ましい。
【0102】
また、図13に示す例では、目標値の変化に合わせて実際のNO2−NOx比も変化した場合を示したが、実際のNO2−NOx比は、常にこのように性質良く変化するとは限らない。例えば、図15に示すように、目標値の変化と実際のNO2−NOx比との変化が一致せず、したがって、NO2ストレージ量が最適ストレージ範囲から大きく外れてしまう場合がある。
【0103】
このような場合、すなわち、NO2ストレージ量が最適ストレージ範囲から外れてしまう場合には、NO2−NOx比パータベーション制御の1周期の間のNO2収支の目標値を0から変化させることで、NO2ストレージ量を最適ストレージ範囲内に維持することができる。
【0104】
例えば、NO2ストレージ量が最適ストレージ範囲内にある場合には、上述のように1周期の間のNO2収支の目標値は0又はその近傍に設定することが好ましい。
これに対し、NO2ストレージ量が最適ストレージ範囲の上限値より大きい場合には、NO2ストレージ量が減少し最適ストレージ範囲内に収まるように、1周期の間のNO2収支の目標値は負に設定することが好ましい。
また、NO2ストレージ量が最適ストレージ範囲の下限値より小さい場合には、NO2ストレージ量が上昇し最適ストレージ範囲内に収まるように、1周期の間のNO2収支の目標値は正に設定することが好ましい。
【0105】
また、図13に示す例では、推定されたNO2ストレージ量に基づいてNO2−NOx比の目標値を変化させたが、本発明はこれに限らない。この他、推定されたNO2スリップ量やNOスリップ量に基づいて、NO2−NOx比の目標値を設定してもよい。すなわち、NOスリップ量が所定の閾値以下になったことを契機として、NO2ストレージ量がNO2増大閾値以下になったと判断し、NO2−NOx比の目標値をNO2過多側の値にし、NO2スリップ量が所定の閾値以上になったことを契機として、NO2ストレージ量がNO2低減閾値以上になったと判断し、NO2−NOx比の目標値をNO過多側の値にするようにしてもよい。
【0106】
また、図13に示す例では、推定されたNO2ストレージ量に基づいてNO2−NOx比の目標値を変化させたが、本発明はこれに限らない。この他、NO2センサの出力値に基づいて、NO2−NOx比の目標値を設定してもよい。
ただし、NO2センサのみでは、NO2ストレージ量がNO2低減閾値以上になったことは判断できるが、NO2ストレージ量がNO2増大閾値以下になったことは判断できない。すなわち、NO2センサのみでは、NO2低減制御を開始する適切な時期は判断できるが、その後NO2増大制御を開始する適切な時期は判断できない。
したがってこの場合、NO2センサの出力値が所定の閾値以上になったことを契機として、NO2ストレージ量がNO2低減閾値以上になったと判断し、NO2−NOx比の目標値をNO過多側の値にし、その後、所定の時間が経過したことを契機として、NO2ストレージ量がNO2増大閾値以下になったと判断し、NO2−NOx比の目標値をNO2過多側の値にするようにしてもよい。
【0107】
なお、以上のように構成されたNO2−NOx比パータベーションコントローラ6において、NO2−NOx比パータベーション制御の実行に係る制御パラメータには、NO2−NOx比の目標値、NO2収支の目標値、及び波形パラメータなどが含まれる。
【0108】
図5に戻って、メインコントローラ7には、以上のようなパータベーションコントローラ6の他、NO2−NOx比に対する上限値及び下限値を設定するNO2−NOx比上限設定部62及びNO2−NOx比下限設定部63が接続されている。
NO2−NOx比上限設定部62は、エンジン回転数及びエンジン負荷などのエンジンの運転状態を示すパラメータに基づいて、NO2−NOx比の上限値を設定する。
NO2−NOx比下限設定部63は、エンジン回転数及びエンジン負荷などのエンジンの運転状態を示すパラメータに基づいて、NO2−NOx比の下限値を設定する。
【0109】
<メインコントローラ7>
図5に戻って、メインコントローラ7は、パータベーションコントローラ6により決定されたNO2−NOx比の目標値、上限設定部62により設定されたNO2−NOx比の上限値、及び下限設定部63により設定されたNO2−NOx比の下限値に基づいて、NO2−NOx比調整機構8に対する指令値(EGRバルブ指令値、目標空燃比、酸化触媒目標温度など)を決定する。NO2−NOx比調整機構8は、メインコントローラ7により決定された指令値に応じて作動し、選択還元触媒に流入する排気のNO2−NOx比を要求に応じて変化させる。
【0110】
図16は、NO2−NOx比と、NO2−NOx比を直接的に変動させる4つのパラメータ(フィードNO濃度(上段左側)、SV(下段左側)、酸素濃度(上段右側)、酸化触媒温度(下段右側))との関係を示す図である。
メインコントローラ7により決定するEGRバルブ指令値、目標空燃比及び酸化触媒目標温度と、これら4つのパラメータとは一意的に対応付けられているわけではないが、EGRバルブ指令値はフィードNO濃度及びSVとの相関が強く、目標空燃比は排気の酸素濃度との相関が強く、酸化触媒目標温度は酸化触媒温度との相関が強い。すなわち、EGRバルブ指令値を変化させると主にフィードNO濃度及びSVが変化し、目標空燃比を変化させると主に酸素濃度が変化し、酸化触媒目標温度を変化させると主に酸化触媒温度が変化する。
【0111】
図16に示すように、フィードNO濃度が高くなると、酸化触媒及びCSFにおけるNO酸化効率が低下するため選択還元触媒に流入するNO2−NOx比は低下する。SVが大きくなると、酸化触媒及びCSFにおけるNO酸化効率が低下するためNO2−NOx比は低下する。酸素濃度が低くなると、酸化触媒及びCSFにおけるNO酸化効率が低下するためNO2−NOx比は低下する。また、酸化触媒温度が低くなると、酸化触媒及びCSFにおけるNO酸化効率が低下するためNO2−NOx比は低下する。
【0112】
また図16に示すように、NO2−NOx比は、酸化触媒温度やSVに対しては全領域でほぼリニアな関係がある。しかしながら、例えばフィードNO濃度に対して、NO2−NOx比は低濃度領域では大きく変化するのに対し、高濃度領域ではさほど変化しない。また、酸素濃度に対して、NO2−NOx比は高濃度領域ではさほど変化しないのに対し、低濃度領域では大きく変化する。メインコントローラ7は、以上のように各パラメータの領域ごとにNO2−NOx比の変化の度合いが異なる点を考慮した上で、パータベーションコントローラ6からの要求に沿ってNO2−NOx比が変化するように、NO2−NOx比調整機構に対する指令値を決定する。
【0113】
次に、NO2−NOx比パータベーション制御の効果について説明する。
図17は、NO2−NOx比パータベーション制御を実行しなかった比較例、より具体的には、選択還元触媒の温度が250℃に保たれるようにNO2−NOx比調整機構を制御した場合における試験結果を示す図である。
図18は、NO2−NOx比パータベーション制御を実行した場合における試験結果を示す図である。なお、これら図17及び18には、上段から順に、選択還元触媒に流入する排気のNO2−NOx比、テールパイプから排出される排気のNO2濃度及びNO濃度を示す。また、参考のため車速も同じ図に示す。
【0114】
図17に示すように、比較例では、NO2−NOx比は0.5よりもNO2過多側を推移するため、選択還元触媒のNO2ストレージ量は常に飽和状態にある。このため、NOに対する浄化率は高く維持されるものの、NO2に対する浄化率は低い。
【0115】
これに対し、図18に示すように、所定期間のNO2収支が0になるようにNO2−NOx比パータベーション制御を実行すると、NO2−NOx比は、0.5をまたいでNO2過多側又はNO過多側へ交互に変化する。これにより、選択還元触媒におけるNO2ストレージ量は最適ストレージ範囲内に維持されるので、NO及びNO2共に浄化率は高く維持されることとなる。
【0116】
ところで、上記試験ではNO酸化性能の高い酸化触媒及びCSFを用いたため、図17に示す比較例におけるNO2−NOx比は0.5よりも大きなNO2過多側を推移する。これはすなわち、酸化触媒やCSFのNO酸化性能を低下させることにより、NO2−NOx比パータベーション制御を実行せずとも、NO2浄化率をある程度は向上できることを意味する。しかしながら、酸化触媒やCSFのNO酸化性能を低下させると、CO及びHCの酸化性能の他、エンジン始動開始時における排気系の暖機性能も低下してしまうこととなる。したがって、以上のような事情を考慮すると、本発明のNO2−NOx比パータベーション制御を実行することにより、選択還元触媒によるNOx浄化率を高くしながらかつCO及びHC浄化率並びに暖機性能も高くすることができる。
【0117】
図19は、NO2−NOx比パータベーション制御の実行時における実際のNO2−NOx比(上段の細線)、エンジンから排出されるNOx量(上段の太線)、テールパイプから排出される排気のNO2濃度(実線)及びNO濃度(破線)の変化を示す図である。なお、この図19に示す制御例では、NO2−NOx比パータベーションコントローラからの要求に応じてNO2−NOx比を変化させるため、上記NO2−NOx比調整機構に対する指令値のうち、特にEGRバルブ指令値を変化させた場合(以下、「EGR調整法」という)を示す。
【0118】
EGR調整法によりNO2−NOx比パータベーション制御を実行すると、NO2増大制御を実行している間はEGR量を低減することにより、フィードNOx濃度を及びSVを低下させる。これにより、酸化触媒及びCSFにおけるNO酸化効率が上昇し、NO2−NOx比が増加する。また、NO2低減制御を実行している間はEGR量を増加することにより、フィードNOx濃度及びSVを上昇させる。これにより、酸化触媒及びCSFにおけるNO酸化効率が低下し、NO2−NOx比が低下する。
【0119】
このように、NO2−NOx比を、0.5をまたいでNO2過多側又はNO過多側へ交互に変化させることにより、NO2浄化率及びNO浄化率をともに同程度まで低下させることができる。なお、図19中、破線で示すように、NO2収支が目標値に合わなくなり、NO2ストレージ量が最適ストレージ範囲から外れると、NO2又はNOがスリップする。
【0120】
次ぎに、以上のようなNO2−NOx比パータベーション制御の実行に適した時期及び適していない時期について検討する。先ず、NO2−NOx比パータベーション制御を実行することにより、NO2−NOx比を最適値に維持し続けなくとも選択還元触媒のNOx浄化率を定常的に高く維持し続けることができるので、特にエンジンが定常運転状態にある場合にはパータベーション制御を継続して実行することが好ましい。
【0121】
しかしながら、エンジンが加速運転状態にある場合には、NO2−NOx比パータベーション制御の実行を一時的に停止することが好ましい。これは、エンジンが加速運転状態にあるときは、吸気は増大側へ制御されEGR量は減少側へ制御されることから、エンジンから排出されるNOx量及び排気ボリュームが増加し、パータベーション制御を実行せずともNO2−NOx比は低下する傾向があるためである。また、このような時期にパータベーション制御を実行すると、運転者による加速の要求とパータベーション制御による要求とが干渉した場合、例えば運転者により加速要求されている状態でさらにパータベーション制御によりNO2−NOx比の低減が要求された場合、NO2−NOx比が必要以上に大きく低下してしまい、選択還元触媒のNO2ストレージ率が最適ストレージ範囲(図8参照)から外れてしまうおそれもある。したがって、このような時期にあえてパータベーション制御を実行する必要性は低いと考えられる。さらに、制御ロジックの簡素化の観点からも、エンジンが加速運転状態にある場合には、NO2−NOx比パータベーション制御の実行を一時的に停止することが好ましい。
【0122】
この他、例えば、エンジンの始動開始直後など、酸化触媒及びCSFが活性に達していない場合、これら酸化ブロックのNO酸化効率は低いため、NO2−NOx比パータベーション制御を実行したところで、選択還元触媒に流入する排気のNO2−NOx比を要求通りに変化させることはできないと考えられる。また、これら酸化ブロックが活性に達していない場合には、NO酸化効率が低下しているばかりか、COやHCの酸化効率も低下した状態であり、エンジンも暖機中であると考えられるので、このような時期にパータベーション制御を実行するとHCやCOなどのNOx以外の浄化性能や燃費も悪化するおそれがある。以上のことから、酸化触媒及びCSFが活性に達していない場合には、NO2−NOx比パータベーション制御の実行を禁止するとともに、これら酸化ブロックの暖機制御を優先し、CO及びHC浄化性能を速やかに向上させ、かつNO2−NOx比パータベーション制御を速やかに開始できるようにする方が好ましい。
【0123】
ここで、選択還元触媒に流入する排気のNO2−NOx比を最適値(例えば、0.5)に維持し続ける従来の制御における課題について検討する。
上述のように、実際にはNO2−NOx比を最適値に維持し続けることは困難であるため、一時的にNO2−NOx比が最適値から外れる場合がある。そこで、NO2過多(例えば、0.6)となった状態が一時的に続いた後、最適値へ向けて復帰させる状況を想定する。
このようなNO2−NOx比の復帰時、従来の制御によれば、できるだけNO過多の状態へアンダーシュートさせることなくNO2−NOx比を最適値へ向けて低減させる。しかしながら、選択還元触媒のNO2吸着機能に着目すると、上述のようにNO2過多の状態が一時的に続いたのであれば、選択還元触媒のNO2ストレージ率は高くなっており、そのNO2過多側への変動に対するタフネスは低くなっていると考えられる。また、この状態から従来の制御のようにNO2−NOx比を最適値へ向けて低減させたところで、吸着されていたNO2の放出が促進されることもないので、NO2−NOx比が最適値に制御されたとしても、選択還元触媒はNO2過多側への変動に対するタフネスの低い状態であることには変わりない。したがって、NO2−NOx比の最適値への復帰後、何らかの事情によりNO2−NOx比がNO2過多側へ少しでも振れた場合には、このNO2の余剰分は直ちにスリップしてしまうこととなる。
これに対し、本発明のNO2−NOx比パータベーション制御では、NO2収支が目標値(例えば、0)となるようにNO2−NOx比を上記最適値に対し意図的にアンダーシュートさせる。したがって、選択還元触媒は、NO2過多側又はNO過多側への変動に対するタフネスの高い状態に維持される。
【0124】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態を、図面を参照して説明する。なお、以下の説明において、第1実施形態と同じ構成については同じ符号を付し、その説明を省略する。
上述のように、ゼオライトを含む選択還元触媒には、NO2を吸着する機能に加えてHCを吸着機能も有する。また、選択還元触媒に吸着されたHCはNO2を還元するため、選択還元触媒におけるNOx浄化率やNO2ストレージ量を変化させる要因となる。本実施形態では、このような選択還元触媒におけるHCの吸着を考慮する点で、上記第1実施形態と異なる。
【0125】
図20は、触媒パラメータ推定装置5Aの構成を示すブロック図である。
本実施形態は、触媒パラメータ推定装置5Aの選択還元触媒状態推定部54Aの構成が、第1実施形態と異なる。図20に示すように、選択還元触媒状態推定部54Aは、酸化ブロック直下推定部53にて推定されたNO流入量及びNO2流入量、並びにエンジン直下推定部51にて推定されたHC量(以下、「HC流入量」という)に基づいて、選択還元触媒のNO2ストレージ量、選択還元触媒直下の排気のNO量(又はNO濃度)及びNO2量(又はNO2濃度)を推定する。
【0126】
図21は、選択還元触媒状態推定部54Aの構成を示すブロック図である。
この選択還元触媒状態推定部54Aは、定常スリップ量演算部540と、NO2ストレージモデル演算部545と、NO+吸着NO2浄化モデル演算部546と、HCストレージモデル演算部547Aと、HC浄化モデル演算部548Aとを含んで構成される。
【0127】
HCストレージモデル演算部547Aは、選択還元触媒のHC吸着量に相当するHCストレージ量と、選択還元触媒から排出されるHC量に相当するHCスリップ量とを推定する。
HC浄化モデル演算部548Aは、選択還元触媒に吸着されていたもののうち、新たに流入したNO2を還元することで酸化されるHC量に相当するHC消費量と、この反応で還元されたNO2の量に相当する還元NO2量と、この反応でNO2を還元することによりに新たに生成されたNOの量に相当する生成NO量とを推定する。
【0128】
HCストレージモデル演算部547Aは、エンジン直下推定部51にて推定されたHC流入量のうち新たに選択還元触媒に吸着されるHC量(新規HC吸着量)を正とし、上記HC浄化モデル演算部548Aにて推定されたHC消費量を負とし、これら新規HC吸着量とHC消費量とを積算したものをHCストレージ量とする。
ここで、新規HC吸着量は、HC流入量に、所定のマップを検索することで決定されたHC吸着効率を乗算することにより算出される。なお、このHC吸着効率を決定するマップは、上述のNO2吸着効率を決定するマップ(図10参照)と同様の構成であるので、その図示を省略する。すなわち、選択還元触媒のHC吸着機能は、HCストレージ量が大きくなるに従い低下する。また、HCスリップ量は、HC流入量から、上記新規HC吸着量を減算することで算出される。
【0129】
HC浄化モデル演算部548Aは、新たに流入したNO2と選択還元触媒に吸着されていたHCとの間で下記式(2)に示すNO2の還元反応が進行するとの仮定の下で、還元NO2量と、生成NO量と、HC消費量とを予め定められたマップを検索することにより算出する。
【数2】
【0130】
定常スリップ量演算部540には、酸化ブロック直下推定部53にて推定されたNO流入量に上記生成NO量を合算したものと、酸化ブロック直下推定部53にて推定されたNO2流入量から上記還元NO2量を減算したものとが入力される。
【0131】
なお、本発明は上述した実施形態に限るものではなく、種々の変形が可能である。
例えば、上記実施形態では、エンジン直下推定部51、酸化ブロック直下推定部53及び選択還元触媒状態推定部54において、それぞれエンジン直下、酸化ブロック直下及び選択還元触媒直下の排気のNO量(又はNO濃度)及びNO2量(又はNO2濃度)を推定するようにしたが、本発明はこれに限らない。これらNO量及びNO2量の代わりに、これらと等価なNOx量(又はNOx濃度)及びNO2−NOx比を推定するようにしてもよい。
【0132】
また上記実施形態では、NO2ストレージ率に対する最適ストレージ範囲を30〜70%としたが、本発明はこれに限るものではない。NO2ストレージ率が50%にある場合には、NO2の吸着側及び放出側の両方に対し同程度の余裕があり、したがってNO2過多側及びNO過多側の両方の変動に対するタフネスが最も高いといえることから、上記最適ストレージ範囲を、50%を中心としたより狭い範囲(例えば、40〜60%)に限定してもよい。
【符号の説明】
【0133】
1…エンジン(内燃機関、NO2−NOx比調整機構)
11…排気管(排気通路)
2…排気浄化システム
21…酸化触媒(酸化触媒、NO2−NOx比調整機構)
22…CSF(酸化触媒、NO2−NOx比調整機構)
23…選択還元触媒(NOx選択還元触媒)
25…尿素水噴射装置(還元剤供給手段)
26…高圧EGR装置(NO2−NOx比調整機構)
3…ECU
42…NH3センサ
43…NO2センサ(NO2検出手段)
5,5A…触媒パラメータ推定装置
54,54A…選択還元触媒状態推定部(NO2吸着量推定手段)
6…NO2−NOx比パータベーションコントローラ(パータベーション制御手段)
7…メインコントローラ(パータベーション制御手段)
8…NO2−NOx比調整機構(NO2−NOx比調整機構)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられ、還元剤の存在下で排気中のNOxを選択的に還元し、かつ排気中のNO2を吸着する機能を備えたNOx選択還元触媒と、
前記排気通路のうち前記NOx選択還元触媒より上流側に還元剤又はその前駆体を供給する還元剤供給手段と、を備えた内燃機関の排気浄化システムであって、
前記NOx選択還元触媒に流入する排気中のNOxに対するNO2の比率に相当するNO2−NOx比を変化させるNO2−NOx比調整機構と、
前記NO2−NOx比調整機構により前記NO2−NOx比を0.5近傍の基準値よりも大きくさせるNO2増大制御と、前記NO2−NOx比調整機構により前記NO2−NOx比を前記基準値よりも小さくさせるNO2低減制御とを交互に実行する制御をNO2−NOx比パータベーション制御と定義し、
所定期間の前記NOx選択還元触媒におけるNO2の吸着を正とし放出を負としたNO2収支が目標値になるように前記NO2−NOx比パータベーション制御を実行するパータベーション制御手段と、を備えることを特徴とする内燃機関の排気浄化システム。
【請求項2】
前記NOx選択還元触媒のNO2吸着量を推定するNO2吸着量推定手段をさらに備え、
前記パータベーション制御手段は、前記NO2吸着量に基づいて前記NO2−NOx比パータベーション制御の実行に係る制御パラメータの値を設定することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の排気浄化システム。
【請求項3】
前記NOx選択還元触媒の下流側の排気のNO2濃度を検出するNO2検出手段をさらに備え、
前記パータベーション制御手段は、前記NO2検出手段の出力値に基づいて前記NO2−NOx比パータベーション制御の実行に係る制御パラメータの値を設定することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の排気浄化システム。
【請求項4】
前記NOx選択還元触媒の下流側の排気のNOx濃度を検出するNOx検出手段と、
前記NO2検出手段及び前記NOx検出手段の出力値に基づいて前記NOx選択還元触媒のNO2吸着量を推定するNO2吸着量推定手段と、をさらに備え、
前記パータベーション制御手段は、前記NO2吸着量に基づいて前記制御パラメータの値を設定することを特徴とする請求項3に記載の内燃機関の排気浄化システム。
【請求項5】
前記パータベーション制御手段は、前記NO2吸着量が所定の上限値と下限値との間に設定されるNOxスリップ抑制範囲内に維持されるように前記NO2収支に対する目標値を設定し、
前記NO2吸着量が前記上限値より大きな状態でNO2過多の排気を供給するとNO2スリップが発生し、
前記NO2吸着量が前記下限値より小さな状態でNO過多の排気を供給するとNOスリップが発生することを特徴とする請求項2又は4に記載の内燃機関の排気浄化システム。
【請求項6】
前記パータベーション制御手段は、
前記NO2吸着量が前記NOx抑制スリップ範囲内にある場合には、前記NO2収支の目標値を0又はその近傍に設定し、
前記NO2吸着量が前記NOxスリップ抑制範囲の上限値より大きい場合には、前記NO2吸着量が減少するように前記NO2収支の目標値を負に設定し、
前記NO2吸着量が前記NOxスリップ抑制範囲の下限値より小さい場合には、前記NO2吸着量が増加するように前記NO2収支の目標値を正に設定することを特徴とする請求項5に記載の内燃機関の排気浄化システム。
【請求項7】
前記パータベーション制御手段は、前記内燃機関から排出され前記NOx選択還元触媒に流入するNO2還元成分が多くなるほど、前記NO2低減制御に対し前記NO2増大制御が優先的に実行されるように前記制御パラメータの値を設定することを特徴とする請求項2から6の何れかに記載の内燃機関の排気浄化システム。
【請求項8】
前記パータベーション制御手段は、前記内燃機関から排出され前記NOx選択還元触媒に流入するNO2還元成分が多くなるほど、前記NO2−NOx比に対する基準値をより大きな値に補正することを特徴とする請求項2から6の何れかに記載の内燃機関の排気浄化システム。
【請求項9】
前記パータベーション制御手段は、前記内燃機関が加速運転状態である場合には、前記NO2−NOx比パータベーション制御の実行を停止することを特徴とする請求項1から8の何れかに記載の内燃機関の排気浄化システム。
【請求項10】
前記排気通路のうち前記NOx選択還元触媒の上流側には酸化触媒が設けられ、
前記パータベーション制御手段は、前記酸化触媒が活性に達していない場合には、前記NO2−NOx比パータベーション制御の実行を禁止することを特徴とする請求項1から9の何れかに記載の内燃機関の排気浄化システム。
【請求項11】
前記NOx選択還元触媒は、NO2を吸着する機能に加えてHCを吸着する機能を有するゼオライトを含むことを特徴とする請求項1から10の何れかに記載の内燃機関の排気浄化システム。
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられ、還元剤の存在下で排気中のNOxを選択的に還元し、かつ排気中のNO2を吸着する機能を備えたNOx選択還元触媒と、
前記排気通路のうち前記NOx選択還元触媒より上流側に還元剤又はその前駆体を供給する還元剤供給手段と、を備えた内燃機関の排気浄化システムであって、
前記NOx選択還元触媒に流入する排気中のNOxに対するNO2の比率に相当するNO2−NOx比を変化させるNO2−NOx比調整機構と、
前記NO2−NOx比調整機構により前記NO2−NOx比を0.5近傍の基準値よりも大きくさせるNO2増大制御と、前記NO2−NOx比調整機構により前記NO2−NOx比を前記基準値よりも小さくさせるNO2低減制御とを交互に実行する制御をNO2−NOx比パータベーション制御と定義し、
所定期間の前記NOx選択還元触媒におけるNO2の吸着を正とし放出を負としたNO2収支が目標値になるように前記NO2−NOx比パータベーション制御を実行するパータベーション制御手段と、を備えることを特徴とする内燃機関の排気浄化システム。
【請求項2】
前記NOx選択還元触媒のNO2吸着量を推定するNO2吸着量推定手段をさらに備え、
前記パータベーション制御手段は、前記NO2吸着量に基づいて前記NO2−NOx比パータベーション制御の実行に係る制御パラメータの値を設定することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の排気浄化システム。
【請求項3】
前記NOx選択還元触媒の下流側の排気のNO2濃度を検出するNO2検出手段をさらに備え、
前記パータベーション制御手段は、前記NO2検出手段の出力値に基づいて前記NO2−NOx比パータベーション制御の実行に係る制御パラメータの値を設定することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の排気浄化システム。
【請求項4】
前記NOx選択還元触媒の下流側の排気のNOx濃度を検出するNOx検出手段と、
前記NO2検出手段及び前記NOx検出手段の出力値に基づいて前記NOx選択還元触媒のNO2吸着量を推定するNO2吸着量推定手段と、をさらに備え、
前記パータベーション制御手段は、前記NO2吸着量に基づいて前記制御パラメータの値を設定することを特徴とする請求項3に記載の内燃機関の排気浄化システム。
【請求項5】
前記パータベーション制御手段は、前記NO2吸着量が所定の上限値と下限値との間に設定されるNOxスリップ抑制範囲内に維持されるように前記NO2収支に対する目標値を設定し、
前記NO2吸着量が前記上限値より大きな状態でNO2過多の排気を供給するとNO2スリップが発生し、
前記NO2吸着量が前記下限値より小さな状態でNO過多の排気を供給するとNOスリップが発生することを特徴とする請求項2又は4に記載の内燃機関の排気浄化システム。
【請求項6】
前記パータベーション制御手段は、
前記NO2吸着量が前記NOx抑制スリップ範囲内にある場合には、前記NO2収支の目標値を0又はその近傍に設定し、
前記NO2吸着量が前記NOxスリップ抑制範囲の上限値より大きい場合には、前記NO2吸着量が減少するように前記NO2収支の目標値を負に設定し、
前記NO2吸着量が前記NOxスリップ抑制範囲の下限値より小さい場合には、前記NO2吸着量が増加するように前記NO2収支の目標値を正に設定することを特徴とする請求項5に記載の内燃機関の排気浄化システム。
【請求項7】
前記パータベーション制御手段は、前記内燃機関から排出され前記NOx選択還元触媒に流入するNO2還元成分が多くなるほど、前記NO2低減制御に対し前記NO2増大制御が優先的に実行されるように前記制御パラメータの値を設定することを特徴とする請求項2から6の何れかに記載の内燃機関の排気浄化システム。
【請求項8】
前記パータベーション制御手段は、前記内燃機関から排出され前記NOx選択還元触媒に流入するNO2還元成分が多くなるほど、前記NO2−NOx比に対する基準値をより大きな値に補正することを特徴とする請求項2から6の何れかに記載の内燃機関の排気浄化システム。
【請求項9】
前記パータベーション制御手段は、前記内燃機関が加速運転状態である場合には、前記NO2−NOx比パータベーション制御の実行を停止することを特徴とする請求項1から8の何れかに記載の内燃機関の排気浄化システム。
【請求項10】
前記排気通路のうち前記NOx選択還元触媒の上流側には酸化触媒が設けられ、
前記パータベーション制御手段は、前記酸化触媒が活性に達していない場合には、前記NO2−NOx比パータベーション制御の実行を禁止することを特徴とする請求項1から9の何れかに記載の内燃機関の排気浄化システム。
【請求項11】
前記NOx選択還元触媒は、NO2を吸着する機能に加えてHCを吸着する機能を有するゼオライトを含むことを特徴とする請求項1から10の何れかに記載の内燃機関の排気浄化システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2012−219662(P2012−219662A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−83960(P2011−83960)
【出願日】平成23年4月5日(2011.4.5)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月5日(2011.4.5)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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