説明

内燃機関の排気浄化装置

【課題】従来に比してRhの使用量が少ないにも関わらず、高い排気浄化率が得られる触媒コンバータを備える内燃機関の排気浄化装置を提供すること。
【解決手段】エンジン1の排気管13に設けられ、排気を浄化する触媒コンバータを備え、触媒コンバータは、上流側触媒コンバータ31と、上流側触媒コンバータ31よりも下流側に設けられた下流側触媒コンバータ33と、を含むエンジン1の排気浄化装置3であって、上流側触媒コンバータ31は、支持体315と、支持体315に担持され、酸素を貯蔵して放出する機能を有するOSC材、Al及びPdを含む第1触媒310と、を備え、前記第1触媒310は、支持体315上に設けられ、OSC材のみにPdが担持された第1下層触媒311と、第1下層触媒311上に設けられ、OSC材とAlのそれぞれにPdが担持された第1上層触媒312と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気浄化装置に関する。詳しくは、内燃機関の排気を浄化する触媒コンバータを備えた排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、内燃機関の排気系には、排気を浄化する触媒コンバータを備えた排気浄化装置が設けられている。触媒コンバータは、排気中に含まれる一酸化炭素(以下、「CO」という)、非メタン炭化水素(以下、「NMOG(Non Methane Organic Gas)」という)及び窒素酸化物(以下、「NOx」という)を浄化する排気浄化触媒を備える。
【0003】
従来一般的な触媒コンバータは、支持体と、この支持体に担持された排気浄化触媒とから形成される。より詳しくは、従来一般的な触媒コンバータは、セラミクス又は金属で形成され、内部に複数のセルを備えるハニカム構造の支持体に、白金(以下、「Pt」という)、パラジウム(以下、「Pd」という)及びロジウム(以下、「Rh」という)等の貴金属を含む排気浄化触媒を担持させることで形成される(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ところで、Pt、Pd及びRh等の貴金属は、非常に高価であることが知られている。このため、排気浄化触媒のコスト削減の観点から、その使用量を出来る限り少なくすることが求められる。ここで、図12は、Pt、Pd及びRhの年度別の価格の推移を示す図である。図12に示すように、これら貴金属の中でもRhは、最も平均価格が高いうえに価格の変動幅が大きいため、その使用量の低減が強く求められる。
【0005】
そこで本出願人は、排気浄化率を低下させることなく、Rhの使用量を低減する技術を提案している(例えば、特許文献2参照)。この特許文献2の技術では、排気を浄化する触媒コンバータを、上流触媒コンバータと下流触媒コンバータの2段構成とし、上流触媒コンバータよりも下流触媒コンバータの方により多くのRhを配置する。排気中に含まれるリンや硫黄によるRhの被毒は上流側であるほど顕著であり、Rhの浄化性能を低下させる原因となるところ、この技術によれば、上流側のRh使用量を少なくすることでRhの被毒を抑制でき、Rhの使用量を低減できる。
【0006】
また特許文献2の技術では、上流触媒コンバータ内の排気浄化触媒を3層構造とし、最表層以外にRhを配置する。上述のRhの被毒は表層側であるほど顕著であるところ、この技術によれば、最表層以外にRhを配置することでRhの被毒を抑制でき、Rhの使用量を低減できる。
【0007】
また特許文献2の技術では、下流触媒コンバータよりも上流触媒コンバータの方により多くの酸素貯蔵材(以下、「OSC(Oxygen Storage Component)材」という)を配置する。OSC材は、酸化雰囲気下で酸素を吸蔵し、還元雰囲気下で酸素を放出する特性を有するところ、この技術によれば、上流側にOSC材を多く配置することで、下流触媒コンバータに流入する排気の空燃比を安定してストイキ近傍に制御でき、下流触媒コンバータの排気浄化率が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−278100号公報
【特許文献2】国際公開第2010/61804号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2の技術では、例えば上流触媒コンバータ内のRh使用量をゼロとした場合には、テールパイプエミッション(大気放出される有害物質)が増加するという問題があった。即ち、特許文献2の技術では、排気浄化率を低下させることなく、Rhの使用量を低減するのには限界があった。
【0010】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、その目的は、従来に比してRhの使用量が少ないにも関わらず、高い排気浄化率が得られる触媒コンバータを備える内燃機関の排気浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため本発明は、内燃機関(例えば、後述のエンジン1)の排気通路(例えば、後述の排気管13)に設けられ、該内燃機関の排気を浄化する触媒コンバータを備え、前記触媒コンバータは、上流側触媒コンバータ(例えば、後述の上流側触媒コンバータ31)と、該上流側触媒コンバータよりも下流側に設けられた下流側触媒コンバータ(例えば、後述の下流側触媒コンバータ33)と、を含む内燃機関の排気浄化装置(例えば、後述の排気浄化装置3)を提供する。本発明に係る内燃機関の排気浄化装置では、前記上流側触媒コンバータは、支持体(例えば、後述の支持体315)と、該支持体に担持され、酸素を貯蔵して放出する機能を有するOSC材、Al及びPdを含む第1触媒(例えば、後述の第1触媒310)と、を備え、前記第1触媒は、前記支持体上に設けられ、OSC材のみにPdが担持された第1下層触媒(例えば、後述の第1下層触媒311)と、該第1下層触媒上に設けられ、OSC材とAlのそれぞれにPdが担持された第1上層触媒(例えば、後述の第1上層触媒312)と、を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明では、上流側触媒コンバータが備える排気浄化触媒を、酸素を貯蔵して放出する機能を有するOSC材、Al及びPdを含む第1触媒で構成した。また、この第1触媒を、支持体上に設けられてOSC材のみにPdが担持された第1下層触媒と、該第1下層触媒上に設けられてOSC材とAlのそれぞれにPdが担持された第1上層触媒とで構成した。即ち、貴金属としてはPdのみを用いて、上流側触媒コンバータが備える排気浄化触媒を構成した。
Pdは、Rhに比して酸素吸蔵放出能が劣ることが知られているところ、本発明によれば、第1下層触媒中のPdをOSC材のみに担持させたため、OSC材の酸素吸蔵放出能を最大限に発揮させることができる。このため、下流側触媒コンバータに流入する排気の空燃比を安定してストイキ近傍に制御でき、下流側触媒コンバータの排気浄化率を向上できる。
また、Pdは、Rhに比して低温時の排気浄化性能が劣ることが知られているところ、本発明によれば、第1上層触媒中のPdをOSC材とAlのそれぞれに担持させたため、Pdの分散性を高めることができ、低温時においても高い排気浄化性能を発揮させることができる。このため、特に始動直後等の低温時における上流側触媒コンバータの排気浄化率を向上できる。
従って、本発明に係る排気浄化装置によれば、従来に比してRhの使用量が少ないにも関わらず、高い排気浄化率が得られる。
【0013】
この場合、前記第1上層触媒中のPd含有量は、前記第1下層触媒中のPd含有量よりも少ないことが好ましい。
【0014】
この発明では、第1上層触媒中のPd含有量を、第1下層触媒中のPd含有量よりも少なく設定した。
Pdは、Rh以上に、リンや硫黄による被毒に弱いことが知られており、表層側であるほど被毒は顕著である。そこでこの発明によれば、第1上層触媒中のPd含有量を少なく設定したため、Pdの被毒を抑制でき、排気浄化率の低下を抑制できる。
【0015】
この場合、前記第1上層触媒及び前記第1下層触媒は、いずれもBaを含有することが好ましい。
【0016】
この発明では、第1上層触媒及び第1下層触媒中のそれぞれに、Baを含有させた。
Baは、OSC材やAlのリン被毒を抑制する効果を有していることが知られている。そこでこの発明によれば、第1上層触媒及び第1下層触媒中のそれぞれにBaを含有させたため、第1上層触媒及び第1下層触媒中のOSC材やAlのリン被毒を抑制でき、排気浄化率の低下を抑制できる。
【0017】
この場合、前記第1上層触媒中のOSC材含有量とAl含有量の合計量は、前記第1下層触媒中のOSC材含有量とAl含有量の合計量よりも少ないことが好ましい。
【0018】
この発明では、第1上層触媒中のOSC材含有量とAl含有量の合計量を、第1下層触媒中のOSC材含有量とAl含有量の合計量よりも少なく設定した。
これにより、第1上層触媒の熱容量が小さくなり、第1上層触媒の昇温性能が向上する。このため、第1上層触媒のライトオフ性能が向上し、低温時の排気浄化性能をより向上できる。
【0019】
この場合、前記第1下層触媒中のAl含有量に対するOSC材含有量の比率は、前記第1上層触媒中のAl含有量に対するOSC材含有量の比率よりも大きいことが好ましい。
【0020】
この発明では、第1下層触媒中のAl含有量に対するOSC材含有量の比率を、第1上層触媒中のAl含有量に対するOSC材含有量の比率よりも、大きく設定した。
これにより、第1下層触媒中にOSC材が多く配置されるため、第1下層触媒の酸素吸蔵放出能をより向上できる。このため、下流側触媒コンバータに流入する排気の空燃比をより安定してストイキ近傍に制御でき、下流側触媒コンバータの排気浄化率をより向上できる。
【0021】
この場合、前記下流側触媒コンバータは、支持体(例えば、後述の支持体335)と、該支持体に担持され、酸素を貯蔵して放出する機能を有するOSC材、Al、Pd及びRhを含む第2触媒(例えば、後述の第2触媒330)と、を備え、前記第2触媒中のPdの含有量とRhの含有量の合計量は、前記第1触媒中のPdの含有量よりも少ないことが好ましい。
【0022】
この発明では、下流側触媒コンバータが備える排気浄化触媒を、OSC材、Al、Pd及びRhを含む第2触媒で構成するとともに、第2触媒中のPdの含有量とRhの含有量の合計量を、第1触媒中のPdの含有量よりも少なく設定した。
これにより、高い排気浄化率を維持しつつ、Rhの使用量をさらに低減できる。
【0023】
この場合、前記第2触媒は、前記支持体上に設けられ、OSC材とAlのそれぞれにPdが担持された第2下層触媒(例えば、後述の第2下層触媒331)と、該第2下層触媒上に設けられ、OSC材とAlのそれぞれにRhが担持された第2上層触媒(例えば、後述の第2上層触媒332)と、を備え、前記第2下層触媒中のOSC材含有量とAl含有量の合計量は、前記第2上層触媒中のOSC材含有量とAl含有量の合計量よりも多いことが好ましい。
【0024】
この発明では、第2触媒を、OSC材とAlのそれぞれにPdが担持された第2下層触媒と、該第2下層触媒上に設けられ、OSC材とAlのそれぞれにRhが担持された第2上層触媒と、を含んで構成した。また、第2下層触媒中のOSC材含有量とAl含有量の合計量を、第2上層触媒中のOSC材含有量とAl含有量の合計量よりも多く設定した。
これにより、第2上層触媒において、Rhが本来有する高い排気浄化性能を発揮させることができる。また、第2上層触媒の熱容量が小さくなり第2上層触媒の昇温性能が向上するため、第2上層触媒のライトオフ性能が向上し、低温時の排気浄化性能をさらに向上できる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、従来に比してRhの使用量が少ないにも関わらず、高い排気浄化率が得られる触媒コンバータを備える内燃機関の排気浄化装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態に係る内燃機関の排気浄化装置の構成を示す図である。
【図2】上記実施形態に係る上流側触媒コンバータの構成を示す図であり、(A)は、上流側触媒コンバータの斜視図、(B)は、上流側触媒コンバータを径方向に切断したときの部分拡大端面図である。
【図3】上記実施形態に係る第1触媒の構成を示す模式図である。
【図4】上記実施形態に係る第1下層触媒の構成を示す模式図である。
【図5】上記実施形態に係る第1上層触媒の構成を示す模式図である。
【図6】上記実施形態に係る第2触媒の構成を示す模式図である。
【図7】従来例1及び従来例2のNMOG排出量及びNOx排出量を示す図である。
【図8】Rh及びPdの酸化速度を示す図である。
【図9】従来例1の上流触媒コンバータの前段、上流触媒コンバータの後段及び下流触媒コンバータの後段における排気の空燃比A/Fを示す図である。
【図10】Rh、Pd及びPtの温度とNOx浄化率との関係を示す図である。
【図11】実施例1及び比較例1のNMOG排出量及びNOx排出量を示す図である。
【図12】Pt、Pd及びRhの年度別の価格の推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら、詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る内燃機関1(以下、「エンジン」という)及びその排気浄化装置3の構成を示す図である。
【0028】
排気浄化装置3は、エンジン1の排気管13に設けられた上流側触媒コンバータ31と、この上流側触媒コンバータ31の下流側の排気管13に設けられた下流側触媒コンバータ33とを備える。
上流側触媒コンバータ31及び下流側触媒コンバータ33はいずれも、ハニカム構造の支持体に、排気浄化触媒として三元触媒を担持させることで形成される。
【0029】
図2は、上流側触媒コンバータ31の構成を示す図であり、(A)は、上流側触媒コンバータ31の斜視図、(B)は、上流側触媒コンバータ31を径方向に切断したときの部分拡大端面図である。
図2の(A)に示すように、上流側触媒コンバータ31は、円筒形状のハニカム構造の支持体315を備える。支持体315は、セラミクス又は金属で形成され、その内部に複数のセル317を備える。また、図2の(B)に示すように、支持体315内のセル317の内壁には、排気浄化触媒としての第1触媒310が担持されている。
エンジン1から排出された排気は、排気管13を介して上流側触媒コンバータ31の上流側端面から各セル317内に導入され、各セル317内を流通することで第1触媒310により浄化される。浄化された排気は、排気管13を介して後述する下流側触媒コンバータ33に導入される。
【0030】
図3は、第1触媒310の構成を示す模式図である。
図3に示すように、第1触媒310は、支持体315に担持されている。第1触媒310は三元触媒であり、貴金属としてPdのみを含む。また、その他に、酸素を貯蔵して放出する機能を有するOSC材、Al及びBaを含む。
第1触媒310は、支持体315上に設けられた第1下層触媒311と、第1下層触媒311上に設けられた第1上層触媒312との2層で構成されている。
【0031】
第1下層触媒311は、Pd、OSC材、Al及びBaを含む。OSC材としては、CeO、ZrO及びCeとZrの複合酸化物からなる群より選択される少なくとも1種が用いられる。
図4は、第1下層触媒311の構成を示す模式図である。図4に示すように第1下層触媒311では、貴金属のPdはOSC材のみに担持されている。担持方法としては従来公知の含浸法等が用いられ、以下においても同様である。
【0032】
第1上層触媒312は、第1下層触媒311と同様に、Pd、OSC材、Al及びBaを含む。OSC材としては、CeO、ZrO及びCeとZrの複合酸化物からなる群より選択される少なくとも1種が用いられる。
図5は、第1上層触媒312の構成を示す模式図である。図5に示すように第1上層触媒312では、貴金属のPdはOSC材とAlのそれぞれに担持されている。
【0033】
ここで、第1上層触媒312中のPd含有量は、第1下層触媒311中のPd含有量よりも少なく設定されている。
また、第1上層触媒312中のOSC材含有量とAl含有量の合計量は、第1下層触媒311中のOSC材含有量とAl含有量の合計量よりも少なく設定されている。
また、第1下層触媒311中のAl含有量に対するOSC材含有量の比率は、第1上層触媒312中のAl含有量に対するOSC材含有量の比率よりも大きく設定されている。
【0034】
下流側触媒コンバータ33は、上述の上流側触媒コンバータ31と同様の支持体を備える。また、支持体内のセルの内壁には、排気浄化触媒としての第2触媒330が担持されている。
上流側触媒コンバータ31で浄化された排気は、排気管13を介して下流側触媒コンバータ33の上流側端面から各セル内に導入され、各セル内を流通することで第2触媒330により浄化される。下流側触媒コンバータ33で浄化された排気は、排気管13を介して大気に排出される。
【0035】
図6は、第2触媒330の構成を示す模式図である。
図6に示すように、第2触媒330は、支持体335に担持されている。第2触媒330は三元触媒であり、貴金属としてPd及びRhを含む。また、その他に、酸素を貯蔵して放出する機能を有するOSC材及びAlを含む。
第2触媒330は、支持体335上に設けられた第2下層触媒331と、第2下層触媒331上に設けられた第2上層触媒332との2層で構成されている。
【0036】
第2下層触媒331は、Pd、OSC材及びAlを含む。OSC材としては、CeO、ZrO及びCeとZrの複合酸化物からなる群より選択される少なくとも1種が用いられる。
なお、第2下層触媒331では、貴金属のPdはOSC材及びAlのそれぞれに担持されている。
【0037】
第2上層触媒332は、Rh、OSC材及びAlを含む。OSC材としては、CeO、ZrO及びCeとZrの複合酸化物からなる群より選択される少なくとも1種が用いられる。
なお、第2上層触媒332では、貴金属のRhはOSC材とAlのそれぞれに担持されている。
【0038】
ここで、第2触媒330中のPdの含有量とRhの含有量の合計量は、第1触媒310中のPdの含有量よりも少なく設定されている。
また、第2下層触媒331中のOSC材含有量とAl含有量の合計量は、第2上層触媒332中のOSC材含有量とAl含有量の合計量よりも多く設定されている。
【0039】
以上の構成を備える上流側触媒コンバータ31及び下流側触媒コンバータ33は、次のような手順で調製される。
先ず、第1下層触媒又は第2下層触媒の構成成分を水等の溶媒中に分散してスラリーを作製する。次いで、このスラリー中に支持体を浸漬し、引き上げて乾燥した後、焼成することで、支持体上にウォッシュコート層(第1下層触媒又は第2下層触媒)を形成する。このとき、スラリーの濃度は、所定のウォッシュコート層厚になるように適宜調製する。次いで、第1上層触媒及び第2上層触媒は、上述と同様の工程を繰り返すことで、既に形成されたウォッシュコート層上に形成される。
以上のようにして、上流側触媒コンバータ31及び下流側触媒コンバータ33は形成される。
【0040】
以上の構成を備える本実施形態に係る排気浄化装置3では、上流側触媒コンバータ31において、Rh使用量をゼロとし、貴金属としてPdのみを使用することを特徴とする。そこで、Rhの使用量をゼロとし、その代替としてPdを使用したときの排気浄化性能への影響について、以下に説明する。
【0041】
表1の従来例1は、上述した特許文献2の排気浄化装置が備える触媒コンバータを示し、従来例2は、この従来例1に対して、上流触媒コンバータ中のRh含有量をゼロとし、そのRh含有量分をPdに置き換えた触媒コンバータを示している。これら従来例1及び2の各触媒コンバータをテスト車に装着し、全て同一条件として米国法規のLA−4モード(都市内走行と高速道路走行とを合わせたモード)走行を実施したときのテールパイプエミッションの計測結果を図7に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
図7は、従来例1及び従来例2のNMOG排出量及びNOx排出量を示す図である。この図7に示すように、上流触媒コンバータ中のRh含有量をゼロとした従来例2は、従来例1に比して、NOx排出量が増加していることが分かる。この結果から、NOxの浄化において、Rh含有量をゼロとしたことによる影響は大きいことが分かる。
【0044】
上述のように、Rh使用量をゼロとし、その代替としてPdを使用した場合において、排気浄化性能が低下する原因としては、第一に、PdはRhに対して酸素吸蔵放出能が劣ることが挙げられる。
図8は、Rh及びPdの酸化速度を示す図である。具体的には、Rh及びPdについて、Oパルス試験を実施したときの経時におけるO消費率を示す図である。この図8に示すように、PdはRhに比してOの消費率が少ないことが分かる。これは、PdはRhに比して酸化速度が遅く、Pdは、Rhに比してOSC材に酸素を吸蔵放出させる能力が低いことを意味している。
【0045】
ここで、従来例1の上流触媒コンバータの前段にLAFセンサを配置し、上流触媒コンバータの後段(上流触媒コンバータと下流触媒コンバータの間)と下流触媒コンバータの後段のそれぞれにOセンサを配置して、各位置における排気の空燃比A/Fを調べた結果を図9に示す。この図9に示すように、上流触媒コンバータの前段に比して、上流触媒コンバータの後段では排気の空燃比A/Fが安定していることが分かる。また、下流触媒コンバータの後段では、排気の空燃比A/Fの安定性が最も高いことが分かる。このように、従来例1の触媒コンバータでは、上流触媒コンバータ中のRhの酸素吸蔵放出能が高いため、触媒コンバータ内を通過する排気の空燃比A/Fがストイキ近傍に安定化される。これにより、従来例1の触媒コンバータでは、触媒コンバータ内の三元触媒が効率良く排気を浄化できるようになっている。
これに対して、従来例2の触媒コンバータでは、Pdの酸素吸蔵放出能が低い結果、従来例1に比して、触媒コンバータ内を通過する排気の空燃比A/Fをストイキ近傍に安定化できない。このため、従来例2の触媒コンバータでは、従来例1に比して、触媒コンバータ内の三元触媒が効率良く排気を浄化できず、排気浄化率が低下する。
【0046】
第二に、PdはRhに比して、低温時の排気浄化性能が劣ることが挙げられる。
図10は、Rh、Pd及びPtの温度とNOx浄化率との関係を示す図である。この図10に示すように、Pdは、Rhに比して低温時のNOx浄化率が大きく劣っていることが分かる。このため、従来例2の触媒コンバータでは、従来例1に比して排気浄化率が低下する。
【0047】
第三に、PdはRhに比して、排気中のリン等による被毒に対して弱いことが挙げられる。このため、従来例2の触媒コンバータでは、Pdが排気中のリン等により被毒されて十分な排気浄化性能を発揮できず、従来例1に比して排気浄化率が低下する。
【0048】
本実施形態に係る排気浄化装置3によれば、以下の効果が奏される。
本実施形態では、上流側触媒コンバータ31が備える三元触媒を、酸素を貯蔵して放出する機能を有するOSC材、Al及びPdを含む第1触媒310で構成した。また、この第1触媒310を、支持体315上に設けられてOSC材のみにPdが担持された第1下層触媒311と、該第1下層触媒311上に設けられてOSC材とAlのそれぞれにPdが担持された第1上層触媒312とで構成した。即ち、貴金属としてはPdのみを用いて、上流側触媒コンバータ31が備える三元触媒を構成した。
Pdは、Rhに比して酸素吸蔵放出能が劣ることが知られているところ、本実施形態によれば、第1下層触媒311中のPdをOSC材のみに担持させたため、OSC材の酸素吸蔵放出能を最大限に発揮させることができる。このため、下流側触媒コンバータ33に流入する排気の空燃比を安定してストイキ近傍に制御でき、下流側触媒コンバータ33の排気浄化率を向上できる。
また、Pdは、Rhに比して低温時の排気浄化性能が劣ることが知られているところ、本実施形態によれば、第1上層触媒312中のPdをOSC材とAlのそれぞれに担持させたため、Pdの分散性を高めることができ、低温時においても高い排気浄化性能を発揮させることができる。このため、特に始動直後等の低温時における上流側触媒コンバータ31の排気浄化率を向上できる。
従って、本実施形態に係る排気浄化装置3によれば、従来に比してRhの使用量が少ないにも関わらず、高い排気浄化率が得られる。
【0049】
また本実施形態では、第1上層触媒312中のPd含有量を、第1下層触媒311中のPd含有量よりも少なく設定した。
Pdは、Rh以上に、リンや硫黄による被毒に弱いことが知られており、表層側であるほど被毒は顕著である。そこで本実施形態によれば、第1上層触媒312中のPd含有量を少なく設定したため、Pdの被毒を抑制でき、排気浄化率の低下を抑制できる。
【0050】
また本実施形態では、第1上層触媒312及び第1下層触媒311中のそれぞれに、Baを含有させた。
Baは、OSC材やAlのリン被毒を抑制する効果を有していることが知られている。そこでこの発明によれば、第1上層触媒312及び第1下層触媒311中のそれぞれにBaを含有させたため、第1上層触媒312及び第1下層触媒311中のOSC材やAlのリン被毒を抑制でき、排気浄化率の低下を抑制できる。
【0051】
また本実施形態では、第1上層触媒312中のOSC材含有量とAl含有量の合計量を、第1下層触媒311中のOSC材含有量とAl含有量の合計量よりも少なく設定した。
これにより、第1上層触媒312の熱容量が小さくなり、第1上層触媒312の昇温性能が向上する。このため、第1上層触媒312のライトオフ性能が向上し、低温時の排気浄化性能をより向上できる。
【0052】
また本実施形態では、第1下層触媒311中のAl含有量に対するOSC材含有量の比率を、第1上層触媒312中のAl含有量に対するOSC材含有量の比率よりも、大きく設定した。
これにより、第1下層触媒311中にOSC材が多く配置されるため、第1下層触媒311の酸素吸蔵放出能をより向上できる。このため、下流側触媒コンバータ33に流入する排気の空燃比をより安定してストイキ近傍に制御でき、下流側触媒コンバータ33の排気浄化率をより向上できる。
【0053】
また本実施形態では、下流側触媒コンバータ33が備える三元触媒を、OSC材、Al、Pd及びRhを含む第2触媒330で構成するとともに、第2触媒330中のPdの含有量とRhの含有量の合計量を、第1触媒310中のPdの含有量よりも少なく設定した。
これにより、高い排気浄化率を維持しつつ、Rhの使用量をさらに低減できる。
【0054】
また本実施形態では、第2触媒330を、OSC材とAlのそれぞれにPdが担持された第2下層触媒331と、該第2下層触媒331上に設けられ、OSC材とAlのそれぞれにRhが担持された第2上層触媒332と、を含んで構成した。また、第2下層触媒331中のOSC材含有量とAl含有量の合計量を、第2上層触媒332中のOSC材含有量とAl含有量の合計量よりも多く設定した。
これにより、第2上層触媒332において、Rhが本来有する高い排気浄化性能を発揮させることができる。また、第2上層触媒332の熱容量が小さくなり第2上層触媒332の昇温性能が向上するため、第2上層触媒332のライトオフ性能が向上し、低温時の排気浄化性能をさらに向上できる。
【0055】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例】
【0056】
次に、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0057】
[実施例1及び比較例1]
上記実施形態に係る触媒コンバータを備える排気浄化装置を実施例1とし、従来の特許文献2の触媒コンバータ(表1の従来例1に相当)を備える排気浄化装置を比較例1とした。実施例1及び比較例1の各触媒コンバータの貴金属含有量は表2に示す通りとした。
【0058】
【表2】

【0059】
また、実施例1の触媒コンバータの触媒組成は、表3に示す通りとした。なお、OSC材としてはCeOを用い、第1上層触媒及び第1下層触媒のいずれにも、Baを含有させた。また、第1下層触媒では、PdをOSC材のみに担持させ、第1上層触媒では、PdをOSC材とAlのそれぞれに担持させた。また、第2下層触媒では、PdをOSC材とAlのそれぞれに担持させ、第2上層触媒では、RhをOSC材とAlのそれぞれに担持させた。
【0060】
【表3】

【0061】
実施例1及び比較例1の各触媒コンバータを、テスト車に装着した後、全て同一の条件で米国法規のLA−4モード(都市内走行と高速道路走行とを合わせたモード)走行を実施し、このときのテールパイプエミッションを計測した。計測結果を図11に示す。
【0062】
図11に示すように、実施例1の触媒コンバータは、比較例1の触媒コンバータに比してNMOG排出量及びNOx排出量いずれも少ないことが分かった。この結果から、本発明の構成によれば、従来に比してRhの使用量が少ないにも関わらず、高い排気浄化率が得られることが確認された。
【符号の説明】
【0063】
1…エンジン(内燃機関)
3…排気浄化装置
13…排気管(排気通路)
31…上流側触媒コンバータ
33…下流側触媒コンバータ
310…第1触媒
311…第1下層触媒
312…第1上層触媒
330…第2触媒
331…第2下層触媒
332…第2上層触媒
315、335…支持体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられ、該内燃機関の排気を浄化する触媒コンバータを備え、
前記触媒コンバータは、上流側触媒コンバータと、該上流側触媒コンバータよりも下流側に設けられた下流側触媒コンバータと、を含む内燃機関の排気浄化装置であって、
前記上流側触媒コンバータは、支持体と、該支持体に担持され、酸素を貯蔵して放出する機能を有するOSC材、Al及びPdを含む第1触媒と、を備え、
前記第1触媒は、前記支持体上に設けられ、OSC材のみにPdが担持された第1下層触媒と、該第1下層触媒上に設けられ、OSC材とAlのそれぞれにPdが担持された第1上層触媒と、を備えることを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】
前記第1上層触媒中のPd含有量は、前記第1下層触媒中のPd含有量よりも少ないことを特徴とする請求項1記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項3】
前記第1上層触媒及び前記第1下層触媒は、いずれもBaを含有することを特徴とする請求項1又は2記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項4】
前記第1上層触媒中のOSC材含有量とAl含有量の合計量は、前記第1下層触媒中のOSC材含有量とAl含有量の合計量よりも少ないことを特徴とする請求項1から3いずれか記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項5】
前記第1下層触媒中のAl含有量に対するOSC材含有量の比率は、前記第1上層触媒中のAl含有量に対するOSC材含有量の比率よりも大きいことを特徴とする請求項1から4いずれか記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項6】
前記下流側触媒コンバータは、支持体と、該支持体に担持され、酸素を貯蔵して放出する機能を有するOSC材、Al、Pd及びRhを含む第2触媒と、を備え、
前記第2触媒中のPdの含有量とRhの含有量の合計量は、前記第1触媒中のPdの含有量よりも少ないことを特徴とする請求項1から5いずれか記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項7】
前記第2触媒は、前記支持体上に設けられ、OSC材とAlのそれぞれにPdが担持された第2下層触媒と、該第2下層触媒上に設けられ、OSC材とAlのそれぞれにRhが担持された第2上層触媒と、を備え、
前記第2下層触媒中のOSC材含有量とAl含有量の合計量は、前記第2上層触媒中のOSC材含有量とAl含有量の合計量よりも多いことを特徴とする請求項6記載の内燃機関の排気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−177324(P2012−177324A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40266(P2011−40266)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】