説明

内燃機関の早期暖機制御方法

【課題】潤滑油を循環させる潤滑系統のリリーフ弁により油圧が所定以上に高くなるとリリーフ弁を開成し、潤滑油をオイルパンに戻しているが、暖機運転短縮のためリリーフ油路を新たに設けると、冷却系の設計に制約が生じ、開発設計にかかるコストが上昇し、又製造上のコストの増加、内燃機関の始動、暖機、及び低負荷の油温が低い場合、潤滑油の粘性が高くオイルポンプの負荷が大きくなり、燃費が低下する問題がある。
【解決手段】シリンダ内を往復作動するピストンを有し、少なくともピストンの往復作動に対して潤滑油を供給するとともにピストンを冷却するためにピストンの内側に潤滑油を吐出するオイルジェット制御弁を含む潤滑油供給システムを備える内燃機関において、内燃機関の温度を検出し、検出した内燃機関の温度が所定値未満である場合に、オイルジェット制御弁からの潤滑油の吐出量が多くなるようにオイルジェット制御弁を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストンを潤滑油により冷却するオイルジェットを備える内燃機関における内燃機関の早期暖機制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、暖機運転の時間を短縮するために、内燃機関の潤滑油を利用することが知られている。例えば特許文献1に記載のものでは、オイルパンと連通する潤滑油路により各潤滑部にオイルポンプで潤滑油を供給するとともに、潤滑油路にリリーフ弁を設け、そのリリーフ弁に連通するリリーフ油路をシリンダヘッドからシリンダブロックにかけて形成し、冷間始動時にリリーフ弁からリリーフ油路を経由して潤滑油を戻すことで、シリンダブロックなどを暖めて、暖機運転時間を短縮するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6‐317133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、通常の内燃機関では、リリーフ弁は潤滑油の油圧が所定以上に高くなると開成し、潤滑油をオイルパンに直接戻すように設けられている。したがって、特許文献1に記載のものの構成は、通常の内燃機関の場合には、リリーフ油路を新たに設ける必要がある。このため、このようなリリーフ油路を設けると、冷却水の取り回しの設計に制約が生じることで開発設計にかかるコストが上昇するとともに、製造上のコストが増加するという問題が生じた。またさらに、内燃機関の始動から暖機完了まで、及び低負荷の潤滑油温が低い場合に、潤滑油の粘性が高くオイルポンプの内燃機関に対する負荷が大きくなるために、実燃費が低下するという不具合も生じた。
【0005】
そこで本発明は、このような不具合を解消することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明の内燃機関の早期暖機制御方法は、シリンダ内を往復作動するピストンを有し、少なくともピストンの往復作動に対して潤滑油を供給するとともにピストンを冷却するためにピストンの内側に潤滑油を吐出するオイルジェット制御弁を含む潤滑油供給システムを備える内燃機関において、内燃機関の温度を検出し、検出した内燃機関の温度が所定値未満である場合に、オイルジェット制御弁からの潤滑油の吐出量が多くなるようにオイルジェット制御弁を制御することを特徴とする。
【0007】
このような構成であれば、内燃機関の温度が所定値以上に上昇していない低温時に、オイルジェット制御弁を制御してオイルジェット制御弁から吐出される潤滑油の吐出量を多くするので、吐出された潤滑油はピストンの内側に接触してピストンを冷却する。これにより潤滑油はピストンから受熱し、吐出量が増量されて受熱した潤滑油により全体の潤滑油が暖められることで、内燃機関の暖機運転に要する時間を短縮することが可能になる。
【0008】
オイルジェット制御弁から吐出する潤滑油の吐出量を精度よく増加させるためには、内燃機関の機関回転数を検出し、検出した内燃機関の温度と機関回転数とに基づいて潤滑油の油圧調整用油量を推定し、推定した油圧調整用油量に応じてオイルジェット制御弁を制御するものが好適である。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、以上説明したような構成であり、内燃機関の温度が所定値未満の低温時に、オイルジェット制御弁を制御して潤滑油の吐出量を多くし、吐出されてピストンから受熱した潤滑油が全体の潤滑油を暖めるので、内燃機関の暖機運転に要する時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態の概略構成を示す構成説明図。
【図2】同実施形態の制御手順の概略を示すフローチャート。
【図3】本発明の他の実施形態の制御手順の概略を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0012】
図1に1気筒の構成を概略的に示した多気筒のエンジン100は、例えば自動車に搭載される火花点火式のガソリンエンジンである。このエンジン100は、吸気系1、シリンダ2及び排気系3を備えている。吸気系1には、図示しないアクセルペダルに応じて開閉するスロットル弁4が設けてあり、そのスロットル弁4の下流には、サージタンク5を一体に有する吸気マニホルド6が取り付けてある。シリンダ2上部に形成される燃焼室7の天井部には、点火プラグ8が取り付けてある。吸気マニホルド6の吸気ポート側端部には、燃料噴射弁9が取り付けてある。この燃料噴射弁9は、後述する電子制御装置10により制御される。
【0013】
このエンジン100には、カムジャーナルやクランクジャーナルなどの各潤滑部に潤滑油を循環させる潤滑系統が設けてある。具体的には、オイルパンに貯留される潤滑油をオイルポンプによりオイルストレーナを介して吸い上げ、オイルフィルタを介してメインギャラリ、吸気及び排気カムシャフト、オイルジェット制御弁11に送り込まれる。オイルポンプとオイルフィルタとの間には、リリーフ弁が設けてあり、潤滑油の油圧が一定圧以上上昇した場合に、リリーフ弁を介して潤滑油をオイルパンに還流させることにより、潤滑油の油圧を調整している。
【0014】
オイルジェット制御弁11は、メインギャラリに連通している。オイルジェット制御弁11は、シリンダブロックの内壁面から突出して、その先端がピストン12の内面に向く吐出ノズル13に連通している。オイルジェット制御弁11は、暖機運転中は、後述する早期暖機プログラムによりその開度が制御され、暖機後の運転状態にあっては、ほぼ一定量の潤滑油がピストン12に向かって吐出されるように開成される。すなわち、オイルジェット制御弁11は、その開度を所望の開度に制御することができる型式のもので、開度を変えることにより吐出ノズル13からの潤滑油の吐出量を制御することができるものである。そして、オイルジェット制御弁11により制御された吐出量の潤滑油が、シリンダ2内において往復作動するピストン12が例えば上死点から下がり始めてから下死点に達するまでの間、ピストン12の内側、特にはピストン12の頂面の裏面に連続的に達する。
【0015】
電子制御装置10は、マイクロコンピュータ10aと、メモリ10bと、入力インターフェース10cと、出力インターフェース10dとを備えて構成されている。マイクロコンピュータ10aは、メモリ10bに格納された、以下に説明する種々のプログラムを実行して、エンジン100の運転を制御するものである。マイクロコンピュータ10aには、エンジン100の運転制御に必要な情報が入力インターフェース10cを介して入力されるとともに、マイクロコンピュータ10aは、燃料制御弁9、オイルジェット制御弁11などに対して制御信号を、出力インターフェース10dを介して出力する。
【0016】
具体的には、入力インターフェース10cには、サージタンク5内の圧力を検出するための吸気圧センサ14から出力される吸気圧信号a、エンジン回転数を検出するための回転数センサ15から出力される回転数信号b、車速を検出するための車速センサ16から出力される車速信号c、スロットルバルブ4の開閉状態を検出するためのアイドルスイッチ17からのLL信号d、エンジン100の冷却水温度を検出するための水温センサ18から出力される水温信号f、O2センサ19から出力される電圧信号hなどが入力される。一方、出力インターフェース10dからは、点火プラグ8に対して点火信号m、燃料制御弁9に対して燃料噴射信号n、オイルジェット制御弁11に対して開閉信号oなどが出力される。
【0017】
このような構成において、電子制御装置10は、吸気圧センサ14から出力される吸気圧信号aと回転数センサ15から出力される回転数信号bとを主な情報として、運転状態に応じて設定される係数を用いて燃料噴射量を演算し、燃料噴射量に対応する燃料噴射時間つまり燃料噴射弁9に対する通電時間を決定し、その決定された通電時間により燃料噴射弁9を制御して、燃料を吸気系1に噴射させる。このような燃料噴射制御自体は、この分野で知られているものを適用するものであってよい。
【0018】
また、電子制御装置10には、エンジン100の温度としての冷却水温度を検出し、検出した冷却水温度が所定値未満である場合に、オイルジェット制御弁11からの潤滑油の吐出量が多くなるようにオイルジェット制御弁11を制御する早期暖機制御プログラムが格納されている。この潤滑油を用いて暖機を促進する、早期暖機制御プログラムの概略手順を図2に示して説明する。この早期暖機制御プログラムは、暖機運転中に所定の間隔で繰り返し実行するものである。
【0019】
図2において、まずステップS1では、水温センサ18から出力される水温信号fに基づいて冷却水温度を検出する。ステップS2では、検出した冷却水温度が所定値未満か否かを判定する。冷却水温度は、潤滑油の粘度を推定するためである。所定値は、潤滑油の温度が低い場合にその粘度が高く、その結果、潤滑油の油圧が高くなってリリーフ弁が開くので、リリーフ弁が閉じる際の冷却水温度に基づいて設定する。例えば冷間時の始動のように、冷却水温度が上昇しておらずに所定値未満であると判定した場合は、ステップS3を実行し、例えば再始動のように、冷却水温度が上昇して所定値以上である場合は、ステップS4を実行する。
【0020】
ステップS3では、オイルジェット制御弁11を、潤滑油の吐出量が多くなるように、その操作量を多くして大きな開度で開成する。すなわち、オイルジェット制御弁11から潤滑油を吐出することで、リリーフ弁が開成しない状態、言い換えればオイルジェット制御弁11を開成してリリーフ弁の機能を代替させて、潤滑油を循環させるものである。したがって、オイルジェット制御弁11の大きくする操作量は少なくとも、リリーフ弁が開成しない状態にする量とする。これにより、リリーフ弁を開成する潤滑油の油圧であってもリリーフ弁は開成せずに、潤滑油はオイルジェット制御弁11から吐出する。なお、この場合、ピストン12が上死点から下がり始めてから下死点に達するまでの間、ピストン12の頂面の裏面に潤滑油が到達する吐出圧が必要であるので、冷却水温度が低い場合は、オイルジェット制御弁11の開度を大きくすることができるが、冷却水温度が上昇するに応じてオイルジェット制御弁11の開度を小さくして、ピストン12に潤滑油が到達する吐出圧を維持するものである。
【0021】
ステップS4では、オイルジェット制御弁11を所定の開度に維持して開成する。これにより、暖機後の運転状態において、オイルジェット制御弁11からほぼ一定量の潤滑油がピストンの内側に向かって吐出される。なお、オイルジェット制御弁11の開度もしくは吐出量は、上限開度もしくは上限量を設定しておき、エンジン100の他の潤滑部に対する潤滑油の供給不足に陥らないようにしておく。
【0022】
このように、例えば冷間時の始動の際に、冷却水温度が所定値未満つまり所定値まで上昇していない運転状態(ステップS2における「Yes」)では、潤滑油の粘度が高くリリーフ弁を開成する油圧になるが、オイルジェット制御弁11を大きく開成して(ステップS3)、その時点の潤滑油の油圧により、ピストン12の内側に向かって吐出ノズルから潤滑油を吐出させる。これにより、潤滑油がピストン12の頂面の裏面に接触し、頂面の熱を受熱する。頂面は、ピストン12の部分でも温度が高くなる部位であるので、ピストン12を効果的に冷却し、潤滑油は効率よく暖められる。そして、このようにして暖められた潤滑油がオイルパンに存在する潤滑油に混合するので、潤滑油全体の温度が急速に上昇する。
【0023】
したがって、暖機運転の完了を促進することができ、暖機完了までの時間を短縮することができる。この結果、暖機時間が短くなることで、実燃費を向上させることができる。
【0024】
次に、オイルジェット制御弁の操作量をさらに精度よく制御する早期暖機制御プログラムを、図3を交えて説明する。
【0025】
まず、上述の実施形態と同様に、ステップS11において、冷却水温度を検出し、続いてステップS12において、検出した冷却水温度が所定値未満か否かを判定する。そして、冷却水温度が所定値未満であると判定した場合は、ステップS13において、回転数センサ15から出力される回転数信号bに基づいてエンジン100の機関回転数を検出する。
【0026】
ステップS14では、検出した冷却水温度と機関回転数とに基づいて、オイルジェット制御弁11を早期暖機制御していない際にリリーフ弁から還流される潤滑油量つまり油圧調整用油量を推定する。この油圧調整用油量は、潤滑油の粘度と、その時点のオイルポンプの回転数したがって機関回転数とに基づいて決まるものであるので、潤滑油の粘度を冷却水温度から推定するとともに、機関回転数からオイルポンプの回転数を推定して、油圧調整用油量を推定するものである。
【0027】
ステップS15では、推定した油圧調整用油量に応じてオイルジェット制御弁11の開度を設定して、潤滑油の吐出量が多くなるように開成する。つまり、油圧調整用油量に対応する量の潤滑油を吐出するのに十分なオイルジェット制御弁11の開度を設定する。
【0028】
ステップS12において、冷却水温度が所定値以上であると判定した場合は、ステップS16において、オイルジェット制御弁11を所定の開度を維持して開成し、暖機後の運転状態において、オイルジェット制御弁11からほぼ一定量の潤滑油がピストン12の内側に向かって吐出される。このステップS16は、上述の実施形態のステップS4に相当する。
【0029】
このように、油圧調整用油量に基づいてオイルジェット制御弁11の開度したがってオイルジェット制御弁11から吐出ノズルを介して吐出する潤滑油量を設定するので、その時点のエンジン100の運転状態に対応した最適な潤滑油の吐出量に精度よく制御することができる。
【0030】
なお、エンジンの温度として、潤滑油の温度やシリンダブロック自体の温度を適用するものであってもよい。
【0031】
また、上述の実施形態にあっては、ガソリンエンジンにおけるものを説明したが、シリンダ内を往復作動するピストンを有する他のエンジン、例えばディーゼルエンジンに適用するものであってもよい。
【0032】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の活用例として、オイルパンを備えて潤滑油を各潤滑部に供給する潤滑系統を備える内燃機関に適用することができる。
【符号の説明】
【0034】
2…シリンダ
10…電子制御装置
10a…マイクロコンピュータ
10b…メモリ
10c…入力インターフェース
10d…出力インターフェース
11…オイルジェット制御弁
12…ピストン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ内を往復作動するピストンを有し、少なくともピストンの往復作動に対して潤滑油を供給するとともにピストンを冷却するためにピストンの内側に潤滑油を吐出するオイルジェット制御弁を含む潤滑油供給システムを備える内燃機関において、内燃機関の温度を検出し、
検出した内燃機関の温度が所定値未満である場合に、オイルジェット制御弁からの潤滑油の吐出量が多くなるようにオイルジェット制御弁を制御する内燃機関の早期暖機制御方法。
【請求項2】
内燃機関の機関回転数を検出し、
検出した内燃機関の温度と機関回転数とに基づいて潤滑油の油圧調整用油量を推定し、
推定した油圧調整用油量に応じてオイルジェット制御弁を制御する請求項1記載の内燃機関の早期暖機制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−127571(P2011−127571A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−289218(P2009−289218)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】