説明

内燃機関の暖機制御装置

【課題】エンジン10の暖機性能を高めるための適切なアフタグローを行うことのできる内燃機関の暖機制御装置を提供する。
【解決手段】エンジン10の自動停止中において、エンジン10の筒内温度が所定温度範囲の下限値以下となる場合にグロープラグ32に対する通電を開始し、筒内温度が所定温度範囲の上限値以上となる場合にグロープラグ32に対する通電を停止することで、筒内温度を前記所定温度範囲に維持する温度維持制御処理を行う。そして、エンジン10の自動停止中におけるエンジン10の冷却水温の低下速度が高かったり、エンジン10の再始動時における冷却水温が低かったりするほど、アイドルストップ制御によってエンジン10の燃焼が再開されてからのグロープラグ32に対する通電時間を長く設定するアフタグロー制御処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料の着火を補助すべく通電操作されるグロープラグを備える内燃機関に適用される内燃機関の暖機制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1に見られるように、各気筒に対応したグロープラグを備える内燃機関に適用され、内燃機関の温度が低い場合において内燃機関の燃焼の開始に先立ち、グロープラグによって気筒(燃焼室)を予熱する技術が知られている。この技術によれば、圧縮行程終盤における燃焼室の吸気の温度を上昇させて内燃機関の着火性を高めることができ、ひいては内燃機関の暖機性能を高めることができる。
【0003】
また、グロープラグによって暖機性能を高める技術としては、上記技術の他に、内燃機関の燃焼が開始された後においてグロープラグによる加熱を継続させる技術であるいわゆるアフタグローも知られている。アフタグローによれば、内燃機関の暖機性能を更に高めることができ、内燃機関の始動直後において内燃機関の燃焼に伴い発生する騒音を低減させたり、排気特性の悪化を回避したりすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−176569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、内燃機関の雰囲気温度等、内燃機関の周囲の環境は、内燃機関の始動時における内燃機関の燃焼状態に影響を及ぼし得る。このため、アフタグローが行われる場合、内燃機関の暖機性能を高める上では、内燃機関の周囲の環境に応じてグロープラグによる加熱態様を適切なものとすることが要求される。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、内燃機関の暖機性能を高めるための適切なアフタグローを行うことのできる内燃機関の暖機制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
【0008】
請求項1記載の発明は、燃料の着火を補助すべく通電操作されるグロープラグを備える内燃機関に適用され、前記内燃機関を始動させるべく該内燃機関の燃焼を開始させる始動時制御手段と、前記始動時制御手段によって前記内燃機関の燃焼を開始させる場合の機関温度が低いほど、前記内燃機関の燃焼が開始されてからの前記グロープラグによる加熱量を多く設定するベース加熱量設定手段と、前記内燃機関の燃焼を開始させる場合における該内燃機関から外部への単位時間あたりの放熱量が多いほど、前記ベース加熱量設定手段によって設定された加熱量を増大補正する加熱量補正手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
内燃機関の燃焼が開始される場合の機関温度が低いほど、圧縮行程終盤の燃焼室の吸気の温度が低くなる傾向にある。このため、上記機関温度が低いほど、内燃機関の燃焼開始直後の燃焼状態が悪化するおそれがある。この点に鑑み、上記発明では、ベース加熱量設定手段を備えることで、内燃機関の燃焼が開始される場合の機関温度が低いほど、内燃機関の燃焼が開始されてからのグロープラグによる加熱量を多く設定する。
【0010】
ここで、機関温度を用いてグロープラグによる加熱量を設定する場合であっても、内燃機関の燃焼を開始させる場合における燃焼状態の悪化を必ずしも抑制することができないことがある。つまり、内燃機関の周囲の温度が低いこと等によって、内燃機関の燃焼にて発生した熱が内燃機関のシリンダブロック等を介して外部に奪われる量が多くなったり、外部から燃焼室に供給される吸気の温度が低くなったりする状況が生じ得る。こうした状況下においては、圧縮行程終盤における燃焼室の吸気の温度がより低くなる傾向にある。このため、機関温度が低いほどグロープラグによる加熱量を多く設定する上述した手法を採用する場合であっても、圧縮行程終盤における燃焼室の吸気の温度が燃焼状態の悪化を回避可能な温度を下回るおそれがある。
【0011】
ここで、内燃機関の周囲の温度が低い等の状況は通常、内燃機関から外部への単位時間あたりの放熱量が多い状況であると考えられる。この点に鑑み、上記発明では、内燃機関の燃焼を開始させる場合における内燃機関から外部への単位時間あたりの放熱量が多いほど、上記ベース加熱量設定手段によって設定されたグロープラグによる加熱量を増大補正する。このため、アフタグローが行われる場合におけるグロープラグによる加熱量を内燃機関の周囲の環境に応じて適切に設定することができる。これにより、内燃機関の燃焼開始直後の燃焼状態の悪化を回避することができ、ひいては内燃機関の暖機性能を好適に高めることができる。
【0012】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、所定の停止条件が成立する場合に前記内燃機関を自動停止させる自動停止制御手段を更に備え、前記始動時制御手段は、前記自動停止制御手段による前記内燃機関の自動停止の後、所定の再始動条件が成立する場合、前記内燃機関を再始動させるべく該内燃機関の燃焼を再開させ、前記加熱量補正手段は、前記内燃機関の自動停止中における機関温度の低下速度が高いほど、前記内燃機関の燃焼が再開されてからの前記グロープラグによる加熱量を増大補正することを特徴とする。
【0013】
上記発明では、アイドルストップ制御を行うべく、内燃機関を自動停止及び再始動させる処理を行う。ここで、自動停止制御手段によって内燃機関の燃焼が停止されて内燃機関が自動停止されると、内燃機関から外部へと熱が放出されることで機関温度が徐々に低下することとなる。この低下速度は、内燃機関から外部への単位時間あたりの放熱量が多いほど高くなる傾向にある。この点に鑑み、上記発明では、内燃機関の自動停止中における機関温度の低下速度が高いほど、内燃機関の燃焼が再開されてからのグロープラグによる加熱量を増大補正する。これにより、内燃機関が再始動される場合におけるアフタグローでの加熱量を適切に設定することができる。
【0014】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、前記ベース加熱量設定手段は、前記グロープラグによる加熱時間を長く設定することで前記加熱量を多く設定し、前記加熱量補正手段は、前記ベース加熱量設定手段によって設定された加熱時間を伸長補正することで前記加熱量を増大補正することを特徴とする。
【0015】
上記発明では、グロープラグによる加熱量の調節を内燃機関の燃焼が開始されてからのグロープラグによる加熱時間によって調節する。このため、内燃機関の周囲の温度が低い等、内燃機関の燃焼状態に不利な状況においてグロープラグによって燃焼室の吸気の加熱時間を長くすることができる。このため、内燃機関の燃焼の開始直後における燃焼を安定させることができ、例えば内燃機関の出力軸の回転変動が大きくなる事態を回避することができる。
【0016】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の発明において、所定の停止条件が成立する場合に前記内燃機関を自動停止させる自動停止制御手段を更に備え、前記始動時制御手段は、前記自動停止制御手段による前記内燃機関の自動停止の後、所定の再始動条件が成立する場合、前記内燃機関を再始動させるべく該内燃機関の燃焼を再開させ、前記内燃機関の自動停止中において前記グロープラグの通電操作によって前記内燃機関の筒内温度を所定温度範囲に維持する温度維持手段を更に備えることを特徴とする。
【0017】
上記発明では、温度維持手段を備えることで、内燃機関に自動停止中においてグロープラグの通電操作によって筒内温度を所定温度範囲に維持する。これにより、内燃機関の再始動時における筒内温度が過度に低くなることを回避することができ、アイドルストップ制御によって内燃機関の燃焼を再開させる場合における着火性を好適に高めることができる。
【0018】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の発明において、前記温度維持手段は、前記筒内温度が前記所定温度範囲の下限値以下となる場合に前記グロープラグに対する通電を開始し、前記筒内温度が前記所定温度範囲の上限値以上となる場合に前記グロープラグに対する通電を停止することで、前記筒内温度を前記所定温度範囲に維持することを特徴とする。
【0019】
上記発明では、内燃機関の自動停止中において上記態様にてグロープラグを通電操作することで、筒内温度を所定温度範囲に簡易かつ適切に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】一実施形態にかかるシステム構成図。
【図2】一実施形態にかかるグロープラグ通電制御処理の手順を示すフローチャート。
【図3】一実施形態にかかるグロープラグ通電制御処理の一例を示すタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明にかかる暖機制御装置を多気筒圧縮着火式内燃機関(ディーゼルエンジン)が搭載された車両(自動車)に適用した一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0022】
図1に、本実施形態にかかるシステムの全体構成を示す。
【0023】
図示されるように、エンジン10の吸気通路12は、エンジン10の各気筒の燃焼室14と接続されている。
【0024】
エンジン10の各気筒には、先端部が燃焼室14に突出する電磁駆動式の燃料噴射弁16が備えられている。燃料噴射弁16には、図示しない蓄圧容器(コモンレール)から高圧の燃料(軽油)が供給され、燃料噴射弁16から燃焼室14に高圧の燃料が噴射供給される。
【0025】
エンジン10の各気筒の吸気ポート及び排気ポートのそれぞれは、吸気バルブ18及び排気バルブ20のそれぞれにより開閉される。ここでは、吸気バルブ18の開弁によって吸気通路12からの吸気が燃焼室14に導入され、導入された吸気と、燃料噴射弁16から噴射供給された燃料とが燃焼に供される。燃焼によって発生するエネルギは、ピストン22を介してエンジン10の出力軸(クランク軸24)の回転エネルギとして取り出される。なお、燃焼に供された吸気及び燃料は、排気バルブ20の開弁によって排気として排気通路26に排出される。また、クランク軸24付近には、クランク軸24の回転角度を検出するクランク角度センサ28が設けられている。さらに、エンジン10には、エンジン10を冷却する冷却水温(機関温度)を検出する水温センサ30が設けられている。
【0026】
エンジン10には、各気筒に対応したグロープラグ32が備えられている。グロープラグ32は、その先端が燃焼室14に突出して配置され、通電されることで発熱して気筒(燃焼室14)を加熱する機能を有する。
【0027】
グロープラグ32には、グロープラグ32の発熱量を調節するためのグロープラグ駆動ユニット(以下、GDU34)が接続されている。本実施形態では、GDU34は、グロープラグ32に対する印加電圧を可変設定する機能と、GDU34が備える図示しないスイッチング素子(例えばMOSFET)のオンオフ操作によって車載バッテリ36からグロープラグ32への通電又は通電の停止を切り替える機能とを有し、これら機能によってグロープラグ32の発熱量を調節する。なお、GDU34には、グロープラグ32に対する印加電圧を検出する電圧検出回路34aと、グロープラグ32を流れる電流を検出する電流検出回路34bとが備えられている。また、本実施形態では、上記バッテリ36として、所定の電圧(例えば12V)を有する鉛蓄電池を採用している。
【0028】
クランク軸24には、スタータ40が接続されている。スタータ40には、ユーザの図示しないイグニッションスイッチのオン操作等によりスイッチ42がオン状態とされることでバッテリ36の電力が供給される。これにより、スタータ40が回転駆動され、エンジン10を始動させるべくクランク軸24に初期回転が付与される(クランキングが行われる)。
【0029】
電子制御装置(ECU43)は、上記システムを操作対象とし、周知のCPU、ROM、RAM等よりなるマイクロコンピュータを主体として構成されている。ECU43には、ユーザのアクセル操作量を検出するアクセルセンサ44や、ユーザのブレーキ操作量を検出するブレーキセンサ46、車両の走行速度を検出する車速センサ48、外気温を検出する外気温センサ50、バッテリ36の電圧を検出する電圧センサ52、クランク角度センサ28、水温センサ30、更には電圧センサ52の出力信号等が逐次入力される。ECU43は、上記各センサからの入力信号に基づき、ROMに記憶された各種の制御プログラムを実行することで、燃料噴射弁16による燃料噴射制御処理等のエンジン10の燃焼制御処理や、アイドルストップ制御処理、更にはGDU34を介したグロープラグ32の通電制御処理を行う。
【0030】
上記燃料噴射制御処理について説明すると、まず、クランク角度センサ28の出力値に基づくエンジン回転速度と、アクセルセンサ44の出力値に基づくアクセル操作量とから、エンジン10の要求トルク(以下、エンジン要求トルク)を算出する。ここでは通常、アクセル操作量が大きいほど、エンジン要求トルクを大きく算出する。そして、算出されたエンジン要求トルクに基づき燃料噴射弁16の指令値を算出し、この指令値に基づき燃料噴射弁16を通電操作する。これにより、燃料噴射弁16からの多段噴射等によって上記指令値に相当する量の燃料が燃料噴射弁16から噴射される。
【0031】
次に、アイドルストップ制御処理について説明すると、この処理は、所定の自動停止条件が成立する場合にエンジン10を自動停止させ、その後所定の再始動条件が成立する場合にエンジン10を再始動させる処理である。
【0032】
ちなみに、ECU43は、後に詳述するグロープラグ32の通電制御処理で用いるエンジン10の筒内温度を都度推定する筒内温度推定処理を行う。詳しくは、この処理は、ユーザのイグニッションスイッチのオン操作によるエンジン10の始動(初回始動)が開始されてからのエンジン10の燃焼により発生する熱と、グロープラグ32への通電によって発生する熱と、エンジン10から放出される熱との収支に基づき、都度の筒内温度を推定する処理となる。具体的には、エンジン負荷の推移(例えば、燃料噴射弁16からの燃料噴射量の推移)等に基づきエンジン10の燃焼により発生する熱を把握してかつ、外気温センサ50によって検出される外気温やエンジン10の自動停止時間等に基づきエンジン10から放出される熱を把握しつつ、都度の筒内温度を推定する。ここでは、例えば、外気温が低かったり、燃料噴射量が少なかったり、エンジン10の自動停止時間が長かったりするほど筒内温度が低く推定される傾向にある。なお、筒内温度推定処理は、エンジン10の自動停止中においても実行される。
【0033】
次に、本実施形態にかかるグロープラグ32の通電制御処理について説明する。本実施形態では、上記通電制御処理として、エンジン10の自動停止中における筒内温度を所定温度範囲に維持する温度維持制御処理、及びエンジン10の再始動時のアフタグローにおける気筒の加熱量を調節するアフタグロー制御処理を行う。以下、図2を用いて、これら処理について詳述する。
【0034】
図2に、本実施形態にかかるグロープラグ32の通電制御処理の手順を示す。この処理は、ECU43によって例えば所定周期で繰り返し実行される。
【0035】
この一連の処理では、まずステップS10において、アイドルストップ制御におけるエンジン10の自動停止条件のうち、停車しているとの条件、ブレーキ操作がなされているとの条件、及び電圧センサ52によって検出されるバッテリ36の電圧Vbatが所定電圧Vstart以上であるとの条件の論理積が真であるとの条件が成立しているか否かを判断する。ここで、上記所定電圧Vstartは、エンジン10の再始動時において要求されると想定されるクランキングのためのスタータ40の電力を確保可能な観点から設定すればよい。なお、停車しているか否かは、例えば、車速センサ48の出力値に基づき判断すればよい。また、ブレーキ操作がなされているか否かは、例えば、ブレーキセンサ46の出力値に基づき判断すればよい。
【0036】
ステップS10において肯定判断された場合には、ステップS12に進み、上記自動停止条件のうち、バッテリ36の電圧Vbatが規定電圧Vα未満であるとの条件が成立するか否かを判断する。この処理は、エンジン10の自動停止中におけるグロープラグ32の要求電力を確保可能か否かを判断するための処理である。なお、上記規定電圧Vαは、上記所定電圧Vstartよりも高い電圧であり、具体的には例えば、上述したエンジン10の再始動時において要求されると想定されるクランキングのためのスタータ40の電力に加えて、後に詳述する温度維持制御処理において要求されると想定されるグロープラグ32の電力を確保可能な観点から設定すればよい。
【0037】
ステップS12においてバッテリ36の電圧Vbatが規定電圧Vα未満であると判断された場合には、ステップS14に進み、上記自動停止条件のうち、上記筒内温度推定処理によって推定された筒内温度Tccが第1の規定温度Tα以上であるとの条件、及び水温センサ30によって検出された冷却水温THwが第2の規定温度Tβ以上であるとの条件の論理積が真であるとの条件が成立するか否かを判断する。この処理は、上記温度維持制御処理において要求されると想定されるグロープラグ32の電力が少ないか否かを判断するための処理である。ここで、上記第1の規定温度Tαは、例えば、エンジン10の定常運転時における平均的な筒内温度よりも低い温度であってかつ、後述する温度維持制御処理で用いる上限温度THよりも高い温度に設定すればよい。また、上記第2の規定温度Tβは、例えば、エンジン10の定常運転時における平均的な冷却水温よりもやや低い温度に設定すればよい。こうした規定温度の設定によれば、エンジン10の冷間始動時等、グロープラグ32の要求電力が大きくなると想定される状況においてエンジン10が自動停止されることを抑制できる。
【0038】
ステップS12においてバッテリ36の電圧Vbatが規定電圧Vα以上であると判断された場合や、ステップS14において肯定判断された場合には、自動停止条件が成立したと判断し、ステップS16に進む。ステップS16では、エンジン10の自動停止処理を行ってかつ、停止指示フラグFの値を「1」にする。ここで、上記自動停止処理は、具体的には、燃料噴射弁16からの燃料噴射の停止等によってエンジン10を停止させる処理となる。なお、停止指示フラグFは、「1」によってエンジン10の停止が指示されていることを示し、「0」によって停止が指示されていないことを示す。
【0039】
続くステップS18、S20では、アイドルストップ制御におけるエンジン10の再始動条件が成立すると判断されるまで、下限温度TL及び上限温度THで規定される所定温度範囲に筒内温度Tccを維持すべく、グロープラグ32を通電操作する温度維持制御処理を行う。ここで、本実施形態では、この処理として、筒内温度Tccが下限温度TL以下となる場合にグロープラグに対する通電を開始し、筒内温度Tccが上限温度TH以上となる場合にグロープラグ32に対する通電を停止する処理とする。この処理によれば、エンジン10を再始動させる場合の着火性を高めることができる。
【0040】
なお、本実施形態では、上記再始動条件を、ユーザによってアクセル操作がなされているとの条件とする。ここで、アクセル操作がなされたか否かは、例えば、アクセルセンサ44の出力値に基づき判断すればよい。
【0041】
ちなみに、エンジン10からの放熱又はエンジン10に対する加熱に伴う筒内温度の変化速度は、冷却水温の変化速度よりも高い。また、本実施形態にかかる温度維持制御処理によって筒内温度を所定温度範囲に維持すべくグロープラグ32が通電操作される場合であっても、エンジン温度(冷却水温)は上昇しない。
【0042】
さらに、エンジン10の自動停止時間が長くなり、自動停止中における温度維持制御処理等によってバッテリ36の電圧Vbatが過度に低下する場合、エンジン10の再始動時におけるクランキングを適切に行う観点から、強制的にエンジンを再始動させてもよい。なお、この場合、クランク軸24及び駆動輪の間に備えられる図示しない変速装置をニュートラルにする処理等、クランク軸24と駆動輪との間の動力伝達を遮断させる処理を併せて行うことが望ましい。
【0043】
続くステップS22、S24では、グロープラグ32のアフタグロー通電時間Tagを設定する。詳しくは、まず、ステップS22において、冷却水温THwが低いほど、基本となるアフタグロー通電時間であるベース通電時間TBを長く設定する。こうした設定は、エンジン10の暖機を促進させ、エンジン10の燃焼が再開されてからの燃焼状態を良好なものとするための設定である。
【0044】
続くステップS24では、エンジン10の自動停止中における冷却水温THwの低下速度ΔTfallが高いほど、補正係数Kgを大きく設定する。本実施形態では、上記低下速度ΔTfallとして、エンジン10の自動停止期間における上記低下速度の平均値を用いる。また、補正係数Kgを、低下速度ΔTfallが規定速度γを上回る場合、低下速度ΔTfallが高いほど大きくてかつ1よりも大きい値に設定し、低下速度ΔTfallが規定速度γ以下となる場合に1に設定する。ここで、規定速度γは、例えば、エンジン10の自動停止中において想定される冷却水温の低下速度ΔTfallの最小値として設定すればよい。
【0045】
そして、上記補正係数Kgをベース通電時間TBに乗算することで、アフタグロー通電時間Tagを設定する。ここで、ベース通電時間TBに加えて、補正係数Kgを用いてアフタグロー通電時間Tagを設定するのは、以下の理由による。
【0046】
エンジン10の冷却水温が低いほど、圧縮行程終盤における燃焼室14の吸気温度が低くなる傾向にある。このため、エンジン10の冷却水温が低いほど、グロープラグ32への通電時間(ベース通電時間TB)を長くすることで、圧縮行程終盤における燃焼室14の吸気温度を上昇させ、基本的にはエンジン10の燃焼再開直後における燃焼状態の悪化を回避することはできる。
【0047】
しかしながら、低温環境下においてエンジン10の自動停止の後にエンジン10の再始動がなされる状況等においては、冷却水温のみに基づきグロープラグ32への通電時間を設定しても、グロープラグ32による燃焼室14の吸気の加熱量が燃焼状態の悪化を回避可能な加熱量に対して不足することがある。これは、上記状況においては、燃焼室14の吸気から奪われる熱が多くなったり、吸気通路12を介して燃焼室14に供給される吸気の温度が低くなったりすることで、圧縮行程終盤の燃焼室14の吸気温度が低くなるためである。
【0048】
ここで、本発明者らは、グロープラグ32による燃焼室14の吸気加熱量が不足する状況が、エンジン10から外部への単位時間あたりの放熱量が多くなる状況であることに着目し、さらに、上記放熱量が多くなる状況が冷却水温の低下速度ΔTfallが高くなる状況であることに着目した。このため、本実施形態では、冷却水温の低下速度ΔTfallに基づき上記態様にて補正係数Kgを設定し、この補正係数Kgをアフタグロー通電時間の設定に用いる。
【0049】
なお、アフタグロー通電時間Tagが過度に長くなることを回避すべく、上記通電時間に上限値を設けてもよい。ここで、アフタグロー通電時間Tagが上記上限値となる場合であっても、アフタグローにおいて要求されるグロープラグ32による加熱量を実現できないときには、グロープラグ32に対する印加電圧を高くしてもよい。
【0050】
続くステップS26では、エンジン10の再始動処理を行ってかつ、停止指示フラグFの値を「0」とする。ここで、エンジン10の再始動処理は、スイッチ42のオンによってクランキングを行うとともに、燃料噴射弁16からの燃料噴射を開始する処理となる。
【0051】
続くステップS28、S30では、エンジン10の再始動処理が開始されてからアフタグロー通電時間Tagが経過するまでグロープラグ32への通電を継続する。なお、本実施形態では、アフタグローにおいて単位時間あたりに要求されるグロープラグ32による加熱量が上記温度維持制御処理において単位時間あたりに要求される加熱量よりも多くなる傾向にあることから、アフタグロー時におけるグロープラグ32に対する印加電圧を温度維持制御処理時における印加電圧よりも高く設定している。
【0052】
なお、上記ステップS10、S14において否定判断された場合や、ステップS30で肯定判断された場合には、この一連の処理を一旦終了する。
【0053】
次に、図3に、本実施形態にかかるグロープラグ32の通電制御処理の一例を示す。詳しくは、図3(a)に、停止指示フラグFの値の推移を示し、図3(b)に、グロープラグ32の通電電流値の推移を示し、図3(c)に、筒内温度Tccの推定値の推移を示し、図3(d)に、エンジン10の冷却水温THwの推移を示す。
【0054】
図示されるように、時刻t1においてイグニッションスイッチがオンされることで、エンジン10の初回始動が開始される。そして、時刻t1から時刻t2において初回始動時におけるグロープラグ32の通電制御処理がなされる。
【0055】
その後、時刻t3において、エンジン10の自動停止条件が成立すると判断されることで、エンジン10が自動停止される。エンジン10が自動停止されると、冷却水温THwは徐々に低下するものの、筒内温度Tccは、温度維持制御処理によって下限温度TL及び上限温度THによって規定される所定温度範囲に維持される。詳しくは、上述したように、筒内温度Tccが上限温度TH以上であると判断されてから下限温度TL以下になると判断されるまでの期間(時刻t3〜t4、t5〜t6等)においてグロープラグ32への通電が停止され、筒内温度Tccが下限温度TL以下になると判断されてから上限温度TH以上になると判断される期間(時刻t4〜t5、t6〜t7)においてグロープラグ32に通電される。
【0056】
その後、エンジン10の再始動条件が成立すると判断される時刻t8において、エンジン10の再始動処理が開始される。ここでは、エンジン10の自動停止中における冷却水温の低下速度ΔTfallと、再始動時の冷却水温THwとに基づく上述したアフタグロー制御処理によってアフタグロー通電時間Tag(時刻t8〜t9)が設定される。
【0057】
このように、本実施形態では、温度維持制御処理及びアフタグロー制御処理を行うことで、エンジン10を再始動させる場合における着火性及びエンジン10の暖機性能を高めることができる。
【0058】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0059】
(1)エンジン10の自動停止中における冷却水温の低下速度ΔTfallが高かったり、エンジン10の再始動時における冷却水温THwが低かったりするほど、アフタグロー通電時間Tagを長く設定するアフタグロー制御処理を行った。これにより、エンジン温度及びエンジン10の周囲の環境の双方を反映したアフタグローにおけるグロープラグ32による加熱量を設定することができ、エンジン10の暖機性能を好適に高めることができる。
【0060】
さらに、グロープラグ32に対する通電時間を調節することで、アフタグローにおける加熱量を調節するため、エンジン10の燃焼の再開直後における吸気の加熱等を継続させることができる。これにより、燃焼を安定させることができ、例えば燃焼再開直後においてエンジン回転速度の変動が大きくなる事態を回避することができる。
【0061】
なお、エンジン10から外部への単位時間あたりの放熱量に影響を及ぼすパラメータとして、外気温以外のパラメータがある場合、上記態様のアフタグロー制御処理の利用価値が高いと考えられる。これは、以下の理由による。
【0062】
例えば、上記パラメータとして、エンジン10の周囲の空気流が考えられる。車両のフロントグリル等からエンジンルームに流入する風量が大きい等、エンジン10の周囲の空気流が大きいと、エンジン10から外部への単位時間あたりの放熱量が多くなると考えられる。しかしながら、車両には通常、上記空気流を検出するセンサが備えられない。ここで、エンジン10の冷却水温の低下速度は、上記空気流の大小を反映したものになっていると考えられる。このため、低下速度ΔTfallを用いた上記アフタグロー制御処理によれば、エンジン10の周囲の環境の影響を適切に反映したグロープラグ32による加熱量を設定できると考えられる。
【0063】
(2)エンジン10の自動停止中において、筒内温度Tccが下限温度TL以下となる場合にグロープラグ32に対する通電を開始し、筒内温度Tccが上限温度TH以上となる場合にグロープラグ32に対する通電を停止することで、筒内温度Tccを所定温度範囲に維持する温度維持制御処理を行った。これにより、アイドルストップ制御によってエンジン10の燃焼を再開させる場合における着火性を好適に高めることができる。
【0064】
(その他の実施形態)
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0065】
・ベース通電時間の補正手法としては、エンジン10の自動停止中における冷却水温の低下速度ΔTfallを用いたものに限らない。例えば、冷却水温の低下速度ΔTfallに代えて、エンジンオイルの温度(油温)の低下速度が高いほど、ベース通電時間を伸長補正する手法であってもよい。また、例えば、外気温が低いほどベース通電時間を伸長補正する手法であってもよい。この手法は、外気温が低いほど、エンジン10から外部への単位時間あたりの放熱量が多いことに基づくものである。
【0066】
・上記実施形態では、アイドルストップ制御によってエンジン10を再始動させる場合においてアフタグロー制御処理を行ったがこれに限らない。例えば、エンジン10を初回始動させる場合においてアフタグロー制御処理を行ってもよい。この場合、具体的には例えば、イグニッションスイッチがオンされた時点の冷却水温THwが低かったり、外気温が低かったりするほど、アフタグロー通電時間Tagを長く設定すればよい。こうした手法は、エンジン10の初回始動時における冷却水温THwと外気温とが大きく相違する状況におけるアフタグロー通電時間Tagの設定に有効であると考えられる。なお、エンジン10の初回始動時において冷却水温THwと外気温とが大きく相違する状況としては、例えば、ユーザのイグニッションスイッチのオフ操作によってエンジン10が前回停止されてからの経過時間が短い状況下において、イグニッションスイッチのオン操作によってエンジン10が再び始動される状況がある。
【0067】
・本願発明が適用される車両としては、アイドルストップ制御が行われるものに限らず、この制御が行われないものであってもよい。この場合、エンジン10の初回始動時において、上述した外気温に基づくアフタグロー通電時間Tagの設定処理を行えばよい。
【0068】
・上記実施形態では、アフタグロー通電時間Tagを調節することで、アフタグローにおけるグロープラグ32による加熱量を調節したがこれに限らない。例えば、アフタグローにおけるグロープラグ32への通電時間を固定値とし、グロープラグ32に対する印加電圧を調節することでグロープラグ32による加熱量を調節してもよい。具体的には例えば、エンジン10の自動停止中における冷却水温THwの低下速度ΔTfallが高いほど、グロープラグ32に対する印加電圧を高くすればよい。なお、この場合、低下速度ΔTfallに応じた印加電圧の目標値をECU43からGDU34に出力することで、制御量としての上記印加電圧(電圧検出回路34aの検出値)が目標値に制御される構成を採用すればよい。
【0069】
ちなみに、グロープラグ32による加熱量を調節するための上記制御量としては、グロープラグ32に対する印加電圧に限らず、グロープラグ32を流れる電流値(電流検出回路34bの検出値)であってもよい。
【0070】
・アフタグロー通電時間Tagの設定手法としては、上記実施形態に例示したものに限らない。例えば、上記補正係数Kgに代えて、冷却水温の低下速度ΔTfallが高いほど大きく設定される補正時間(>0)を算出し、算出された補正時間をベース通電時間TBに加算することでアフタグロー通電時間Tagを設定してもよい。また、例えば、冷却水温THw及び上記低下速度ΔTfallと関係付けられたアフタグロー通電時間Tagが規定されるマップや数式を用いてアフタグロー通電時間Tagを設定してもよい。
【0071】
・エンジン10の自動停止条件としては、上記実施形態に例示したものに限らない。例えば、先の図2のステップS12を削除してかつ、ステップS14における第1の規定温度Tα及び第2の規定温度Tβをバッテリ36の電圧Vbatが低いほど高く設定してもよい。ここでは、例えば、バッテリ36の電圧Vbatが上記所定電圧Vstartとなる場合に、第1の規定温度Tα,第2の規定温度Tβを、エンジン10の定常運転時における平均的な筒内温度Tcc,冷却水温THwよりもやや高い温度とする。こうした設定によれば、例えば、バッテリ36の電圧Vbatが所定電圧Vstart近傍となる状況でステップS10において肯定判断される場合には、第1の規定温度Tα及び第2の規定温度Tβが高く設定されることから、ステップS14において否定判断されてエンジン10の自動停止されないこととなる。一方、バッテリ36の電圧Vbatが所定電圧Vstartに対して十分高い状態でステップS10において肯定判断される場合には、第1の規定温度Tα及び第2の規定温度Tβが低く設定されることから、ステップS14において肯定判断されてエンジン10が自動停止されることとなる。
【0072】
・上記実施形態において、温度維持制御処理が行われない制御ロジックを採用してもよい。この場合、エンジン10の再始動時において、冷却水温THwに代えて、筒内温度Tccが低いほどベース通電時間TBを長く設定してもよい。
【0073】
また、この場合、冷却水温の低下速度ΔTfallに代えて、エンジン10の自動停止中における筒内温度Tccの低下速度が高いほど、上記補正係数を大きく設定してもよい。
【0074】
・上記実施形態では、筒内温度Tccを推定したがこれに限らない。例えば、筒内温度を直接検出するセンサを備え、このセンサによって筒内温度を検出してもよい。
【符号の説明】
【0075】
10…エンジン、14…燃焼室、30…水温センサ、32…グロープラグ、34…GDU、36…バッテリ、40…スタータ、43…ECU(内燃機関の暖機制御装置の一実施形態)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料の着火を補助すべく通電操作されるグロープラグを備える内燃機関に適用され、
前記内燃機関を始動させるべく該内燃機関の燃焼を開始させる始動時制御手段と、
前記始動時制御手段によって前記内燃機関の燃焼を開始させる場合の機関温度が低いほど、前記内燃機関の燃焼が開始されてからの前記グロープラグによる加熱量を多く設定するベース加熱量設定手段と、
前記内燃機関の燃焼を開始させる場合における該内燃機関から外部への単位時間あたりの放熱量が多いほど、前記ベース加熱量設定手段によって設定された加熱量を増大補正する加熱量補正手段とを備えることを特徴とする内燃機関の暖機制御装置。
【請求項2】
所定の停止条件が成立する場合に前記内燃機関を自動停止させる自動停止制御手段を更に備え、
前記始動時制御手段は、前記自動停止制御手段による前記内燃機関の自動停止の後、所定の再始動条件が成立する場合、前記内燃機関を再始動させるべく該内燃機関の燃焼を再開させ、
前記加熱量補正手段は、前記内燃機関の自動停止中における機関温度の低下速度が高いほど、前記内燃機関の燃焼が再開されてからの前記グロープラグによる加熱量を増大補正することを特徴とする請求項1記載の内燃機関の暖機制御装置。
【請求項3】
前記ベース加熱量設定手段は、前記グロープラグによる加熱時間を長く設定することで前記加熱量を多く設定し、
前記加熱量補正手段は、前記ベース加熱量設定手段によって設定された加熱時間を伸長補正することで前記加熱量を増大補正することを特徴とする請求項1又は2記載の内燃機関の暖機制御装置。
【請求項4】
所定の停止条件が成立する場合に前記内燃機関を自動停止させる自動停止制御手段を更に備え、
前記始動時制御手段は、前記自動停止制御手段による前記内燃機関の自動停止の後、所定の再始動条件が成立する場合、前記内燃機関を再始動させるべく該内燃機関の燃焼を再開させ、
前記内燃機関の自動停止中において前記グロープラグの通電操作によって前記内燃機関の筒内温度を所定温度範囲に維持する温度維持手段を更に備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の内燃機関の暖機制御装置。
【請求項5】
前記温度維持手段は、前記筒内温度が前記所定温度範囲の下限値以下となる場合に前記グロープラグに対する通電を開始し、前記筒内温度が前記所定温度範囲の上限値以上となる場合に前記グロープラグに対する通電を停止することで、前記筒内温度を前記所定温度範囲に維持することを特徴とする請求項4記載の内燃機関の暖機制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−100782(P2013−100782A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245447(P2011−245447)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】