説明

内燃機関の炭化水素排出量低減装置

【課題】構成の煩雑化を抑制しつつ、炭化水素の排出量を効果的に低減することができる内燃機関の炭化水素排出量低減装置を提供する。
【解決手段】エンジン10の吸気管11にはサージタンク13が設けられ、そのサージタンク13の内周面にはHC吸着材17が付着されている。また、EGR装置として、排気管24の触媒25よりも下流側と、吸気管11のスロットル弁12及びサージタンク13の間とを接続するようにしてEGR通路27が設けられており、そのEGR通路27の途中にEGR制御弁28が設けられている。エンジン10始動後において、高温のEGRガスによりHC吸着材17が加熱され、吸着HCの離脱が促される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関からの炭化水素(以下「HC」とも言う)の排出量を低減する内燃機関の炭化水素排出量低減装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関においては、燃料噴射弁から漏れ出る燃料(油密漏れ)、燃焼室からの燃料吹き戻し、PCV(Positive Crankcase Ventilation)通路からの燃料流入等によって吸気ポート近傍に燃料(HC)が残留し、内燃機関の運転停止後もその燃料(HC)が残留したままとなる。多気筒内燃機関にあっては、吸気マニホールドに燃料(HC)が残留する。この残留HCを放置しておくと、次回の機関始動時において、スタータモータ等によるクランキングに伴い吸気ポート近傍の浮遊炭化水素が燃焼室に吸入され更に未燃のまま排出されてしまうという不都合が生じる。
【0003】
そこで、上記不都合を解消する従来技術として、特許文献1や特許文献2が提案されている。特許文献1では、内燃機関のスロットル弁と機関本体との間の吸気通路に吸着材を設け、この吸着材により燃料噴射弁より漏れ出た燃料を吸着するようにしている。また、特許文献2では、内燃機関の吸気通路にHC吸着材を設け、このHC吸着材により吸気通路内に残留するHCを除去するようにしている。かかる場合、HC吸着材に吸着されたHCは、内燃機関の始動後に吸入空気の通過に伴い放出される。
【0004】
しかしながら、HC吸着材に吸着されたHCを放出する場合、吸入空気の流れだけではHC吸着材からHCを完全に離脱させることができず、HC放出が不十分になると考えられる。特に、内燃機関の運転中において燃焼室からの燃料吹き戻しやPCV通路からの燃料流入(特に燃料中のエンジンオイル流入)等によって吸気ポート近傍に高沸点分のHCが増え、その高沸点分のHCがHC吸着材に付着する場合には、高沸点分のHCが放出されずに残ってしまう。これにより、HC吸着材のHC吸着性能が著しく低下してしまい、十分なHC低減効果が得られなくなるという問題が生じる。
【0005】
また、特許文献3では、HC吸着材を内燃機関の吸気通路に設けると共に、吸入空気を加熱することができる加熱手段をHC吸着材の上流側に設ける技術が開示されている。加熱手段の具体的手段としては、燃焼式ヒータにより吸入空気を温めること、内燃機関周囲のホットエアを導入すること、電気的なヒータで加熱すること、内燃機関を循環する冷却水で加熱することが開示されている。こうして吸入空気を加熱することにより、HC吸着材に吸着されたHCの離脱が促進されるようになっている。
【0006】
しかしながら、特許文献3の場合、何れの構成であってもHC吸着材の加熱のためだけに新規な構成(燃焼式ヒータ、ホットエア通路、電気的ヒータ)が必要となる。そのため、構成の煩雑化を招くと共に、実現のためには費用がかかるという問題があった。また、冷却水による加熱では、加熱が不十分でHCを速やかに離脱させることができないという問題があった。
【特許文献1】特開平11−82192号公報
【特許文献2】特開2001−227421号公報
【特許文献3】特開2003−106225号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、構成の煩雑化を抑制しつつ、炭化水素の排出量を効果的に低減することができる内燃機関の炭化水素排出量低減装置を提供することを主たる目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明では、内燃機関の吸気通路に炭化水素吸着材を設置し、該炭化水素吸着材の上流側に内燃機関の排気の一部を環流させるようにしている。この場合、排気(すなわちEGRガス)によって吸気温度が上昇し炭化水素吸着材が加熱されるため、当該吸着材に吸着された炭化水素が離脱しやすくなり、炭化水素の放出を確実に行うことができる。仮に炭化水素吸着材に高沸点分の炭化水素が吸着している場合にもその高沸点分の炭化水素を確実に放出することができる。冷却水温により炭化水素吸着材を加熱する従来構成では、炭化水素を速やかに離脱させることが困難であるが、排気は冷却水に比して高温であるため、炭化水素吸着材の離脱を促進することができる。また本構成では、内燃機関に通常設けられる排気環流装置(EGR装置)の構成を流用するものであるため、従来技術のように炭化水素放出のために新たな構成を要しない。その結果、構成の煩雑化を抑制しつつ、炭化水素吸着材の吸着能力の低下を抑制し炭化水素の排出量を効果的に低減することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を具体化した一実施の形態を図面に従って説明する。本実施の形態は、車両に搭載される多気筒ガソリン噴射エンジンを対象に炭化水素排出量低減装置を具体化するものであり、図1は、本エンジン制御システムの概要を示す構成図である。
【0010】
図1において、エンジン10の吸気管11には、図示しないアクセルペダルの踏込み操作量に応じて開度調節されるスロットル弁12が設けられている。スロットル弁12の下流側にはサージタンク13が設けられ、そのサージタンク13の下流側にはエンジン10の各気筒に空気を導入するための吸気マニホールド14が接続されている。吸気マニホールド14には、各気筒の吸気ポート近傍に燃料を噴射供給する電磁駆動式の燃料噴射弁16が設けられている。サージタンク13には、その内周面ほぼ全体に活性炭、ゼオライト、HC吸着作用を有する触媒成分(例えばPd)等よりなるHC吸着材17が付着されている。
【0011】
各気筒の吸気ポートでは吸入空気と燃料噴射弁16による噴射燃料とが混合されて混合気が形成され、この混合気が吸気弁21の開放に伴い各気筒の燃焼室22に導入されて燃焼に供される。燃焼室22で燃焼に供された混合気は、排気弁23の開放に伴い排気として排気管24を介して排出される。排気管24には、排気を浄化するための触媒25が設けられている。
【0012】
また本構成では、EGR装置として、排気管24の触媒25よりも下流側と、吸気管11のスロットル弁12及びサージタンク13の間とを接続するようにしてEGR通路27が設けられており、そのEGR通路27の途中にEGR制御弁28が設けられている。本実施の形態では、EGR装置が「加熱手段」に相当する。
【0013】
ECU30は、CPU、ROM、RAM等よりなるマイクロコンピュータを主体として構成されており、ROMに記憶された各種の制御プログラムを実行することで、その都度のエンジン運転状態に応じて燃料噴射制御や点火時期制御等を実施する。また、ECU30は、エンジン暖機後においてEGR制御弁28の開度を制御することによりEGRを実施する。
【0014】
エンジン10においては、燃料噴射弁16から漏れ出る燃料(油密漏れ)、燃焼室22からの燃料吹き戻し、PCV通路からの燃料(ブローバイガス)の流入等によって吸気マニホールド14や吸気ポート近傍などにHCが残留し、エンジン10の運転停止後もそのHCが残留したままとなる。この残留HCを放置しておくと、次回のエンジン始動時においてクランキングに伴い吸気ポート近傍等の残留HCが燃焼室22に吸入され更に未燃のまま排出されてしまうという不都合が生じる。
【0015】
そこで本実施の形態では、エンジン停止中に吸気ポート近傍等の残留HCをサージタンク13のHC吸着材17に吸着させ、それによりエンジン始動時におけるHC排出を抑制することとしている。
【0016】
また、エンジン始動後には、EGRガスの環流によりHC吸着材17を加熱し、HC吸着材17の吸着HCの離脱を促すようにしている。すなわち、図2に示すように、タイミングt1でエンジン10が始動されると、エンジン水温が上昇し始め、水温が所定温度(例えば60℃)に達すると、EGR制御弁28が開放される。t2以降、エンジン運転状態に基づいてEGR制御が実施される。このとき、高温のEGRガスが吸気管11に供給されるために吸入空気の温度が上昇し、その吸入空気によりHC吸着材17が加熱される。それにより、HC吸着材17の吸着HCが離脱しやすくなり、HC放出が確実に行われる。仮にHC吸着材17に高沸点分のHCが吸着している場合にも、その高沸点分のHCを確実に放出することができる。HC吸着材17からHC(特に高沸点分のHC)が確実に放出されることにより、HC吸着材17のHC吸着能力の低下が抑制できる。
【0017】
以上詳述した本実施の形態によれば、EGRガスの導入によりHC吸着材17を加熱するようにしたため、HC吸着材17のHC吸着能力の低下が抑制され、HC排出量を効果的に低減することができるようになる。
【0018】
なお、本発明は上記実施の形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施しても良い。
【0019】
図3には、HC排出量低減装置の別の構成を示す。図3では、HC吸着材17を加熱するための加熱手段として、前記図1のEGR装置に代えてヒータ40を設けている。このヒータ40は、サージタンク13の周囲に付設されており、ECU30からの指令に基づきONされる。本構成では、エンジン始動後にヒータ40を一時的にONすることにより、HC吸着材17が加熱される。これにより、HC吸着材17の吸着HCが離脱しやすくなり、HC放出が確実に行われる。
【0020】
ヒータ40をサージタンク13の周囲に設ける構成に代えて、同サージタンク13の周囲に、エンジン冷却水や潤滑油を循環させるための配管を設ける構成としても良い。この場合、冷却水配管等からの受熱によりHC吸着材17が加熱される。これにより、前記同様、HC吸着材17の吸着HCが離脱しやすくなり、HC放出が確実に行われる。
【0021】
サージタンク13の周囲にヒータ40を設ける構成や、同サージタンク13の周囲に冷却水配管等を設ける構成を、前記図1の構成(加熱手段としてのEGR装置を具備する構成)に付加することも可能である。これにより、吸着HCの離脱をより一層促進できる。
【0022】
上記実施の形態では、サージタンク13にHC吸着材17を設けたが、その構成を変更し、サージタンク13以外の吸気通路部分(例えば吸気管11や吸気マニホールド14)にHC吸着材17を設けても良い。かかる構成であっても、EGRガス等によりHC吸着材を加熱する構成とすれば、HC排出量を効果的に低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】発明の実施の形態におけるエンジン制御システムの概略を示す構成図である。
【図2】エンジン始動時のEGR動作を示すタイムチャートである。
【図3】HC排出量低減装置の別の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0024】
10…エンジン、11…吸気管、12…スロットル弁、13…サージタンク、14…吸気マニホールド、24…排気管、27…EGR通路、28…EGR制御弁、30…ECU、40…ヒータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の吸気通路に炭化水素吸着材を設けた構成において、
前記吸気通路に前記炭化水素吸着材を設置し、該炭化水素吸着材の上流側に内燃機関の排気の一部を環流させる構成としたことを特徴とする内燃機関の炭化水素排出量低減装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−17010(P2006−17010A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−194319(P2004−194319)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】