説明

内燃機関の燃料噴射装置

【課題】ガソリン用噴射弁とCNG用噴射弁を吸気通路に配置した内燃機関の燃料噴射装置において、ガソリン用噴射弁にデポジットが付着及び堆積し難くする。
【解決手段】ガソリン用噴射弁7とCNG用噴射弁6が吸気通路に配置される内燃機関の燃料噴射装置において、ガソリン用噴射弁7がCNG用噴射弁6に比して燃焼室から離間した位置に配置することにより、燃焼室から吸気通路へ既燃ガスが逆流した場合に、高温な既燃ガスがガソリン用噴射弁7まで到達しないようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数種の燃料を個別の燃料噴射弁から噴射させる内燃機関の燃料噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液体燃料と圧縮天然ガス(CNG:Compressed Natural Gas)を使用可能な内燃機関が提案されている。このような内燃機関の噴射装置として、ガソリン用の噴射弁とCNG用の噴射弁を吸気通路に配置するとともに、ガソリン用噴射弁をCNG用噴射弁に比して燃焼室寄りに配置するものが知られている(たとえば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−329165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年では、吸気のポンプ損失を低減するために可変動弁機構を利用する場合がある。そのため、吸気バルブの開き始めに燃焼室内の既燃ガスが吸気通路へ逆流する可能性がある。既燃ガスが吸気通路へ逆流すると、吸気通路に配置された燃料噴射弁が高温の既燃ガスに曝され、燃料噴射弁の噴孔にデポジットが付着または堆積する可能性もある。
【0005】
特に、ガソリン用噴射弁とCNG用噴射弁を備えた内燃機関において、ガソリン用噴射弁の停止中(内燃機関がCNGを使用して運転されている期間)に、CNGの既燃ガスが吸気通路へ逆流すると、ガソリン用噴射弁の噴孔にデポジットが付着及び堆積し易い。
【0006】
よって、上記した従来の技術のように、ガソリン用噴射弁がCNG用噴射弁に比して燃焼室寄りの吸気通路に配置されると、ガソリン用噴射弁にデポジットが付着及び堆積し易くなる可能性があった。
【0007】
本発明は、上記した実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ガソリン用噴射弁とCNG用噴射弁を吸気通路に配置した内燃機関の燃料噴射装置において、ガソリン用噴射弁にデポジットが付着及び堆積し難くすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記した課題を解決するために、内燃機関の吸気通路にガソリン用噴射弁とCNG用噴射弁が配置される内燃機関の燃料噴射装置において、ガソリン用噴射弁をCNG用噴射弁に比して燃焼室から離間した位置に配置するようにした。
【0009】
詳細には、本発明に係わる内燃機関の燃料噴射装置は、
内燃機関の吸気通路に配置され、該吸気通路内に圧縮天然ガス(CNG)を噴射するCNG用噴射弁と、
前記CNG用噴射弁より上流側の吸気通路に配置され、該吸気通路内にガソリンを噴射するガソリン用噴射弁と、
を備えるようにした。
【0010】
本発明によれば、ガソリン用噴射弁は、CNG用噴射弁に比べ、燃焼室から離れた位置
に配置されることになる。そのため、燃焼室の既燃ガスが吸気通路へ逆流した場合に、該既燃ガスがガソリン用噴射弁まで到達し難くなる。また、既燃ガスがガソリン用噴射弁まで到達する場合であっても、既燃ガスがガソリン用噴射弁に到達するまでに低温な吸気によって冷却されるため、ガソリン用噴射弁が高温な雰囲気に曝されにくい。さらに、燃焼室から吸気通路の壁面を経てガソリン用噴射弁に伝達される熱量も、CNG用噴射弁より少なくなる。
【0011】
したがって、ガソリン用噴射弁の停止中(内燃機関がCNG用噴射弁から噴射されるCNGのみを使用して運転される期間)などに、CNGの既燃ガスが吸気通路へ逆流してもガソリン用噴射弁が高温な既燃ガスに曝されにくい。その結果、ガソリン用噴射弁に付着又は堆積するデポジットの量を少なく抑えることができる。
【0012】
本発明にかかる内燃機関の燃料噴射装置は、ガソリン用噴射弁とCNG用噴射弁の双方から燃料を噴射する必要がある場合(内燃機関がガソリンとCNGの混合燃料を使用して運転される場合)に、ガソリン用噴射弁とCNG用噴射弁の作動時期が相互に重複しないようにガソリン用噴射弁及びCNG用噴射弁を制御する制御部を更に備えるようにしてもよい。
【0013】
ガソリン用噴射弁とCNG用噴射弁の作動時期が相互に重複すると、ガソリン用噴射弁から噴射されたガソリンの噴霧とCNG用噴射弁から噴射されたCNGの噴霧が相互に干渉する可能性がある。その場合、ガソリンの噴霧が吸気通路内で飛散して吸気通路の壁面などに付着する可能性がある。すなわち、ガソリンの壁面付着量が増加する可能性がある。その結果、気筒内へ吸入されるガソリンの量が少なくなり、混合気の空燃比が目標値と異なる虞もある。
【0014】
これに対し、ガソリン用噴射弁とCNG用噴射弁の作動時期が相互に重複しなければ、ガソリンの噴霧とCNGの噴霧が相互に干渉しなくなるため、ガソリンの壁面付着量の増加を抑制することができる。
【0015】
ただし、CNGがガソリンより先に噴射されると、CNGが他気筒へ回り込んだり、ガソリンが気筒内へ流入する時間(筒内流入遅れ)が長くなったりする可能性がある。よって、制御部は、先ずガソリン用噴射弁からガソリンを噴射させ、ガソリン用噴射弁の噴射終了後にCNG用噴射弁からCNGを噴射させることが望ましい。このようにガソリン用噴射弁及びCNG用噴射弁の噴射時期が制御されると、CNGの他気筒への回り込みやガソリンの筒内流入遅れの増加などを抑制しつつ、ガソリンの壁面付着量の増加を抑制することができる。
【0016】
なお、制御部は、上記したようにガソリン用噴射弁とCNG用噴射弁の噴射時期を制御する際に、ガソリン用噴射弁の噴射時期を吸気バルブが開弁する前の排気行程中に設定し、CNG用噴射弁の噴射開始時期をガソリン用噴射弁の噴射終了時期に設定するようにしてもよい。
【0017】
このようにガソリン用噴射弁とCNG用噴射弁の噴射時期が制御されると、ガソリン用噴射弁から噴射されたガソリンは、吸気バルブが開弁する前に吸気通路内で気化されるとともに、吸気と混合するようになる。また、CNG用噴射弁の噴射中あるいは噴射終了直後に吸気バルブが開弁するため、CNG用噴射弁から噴射されたCNGが気筒内の負圧を受けて速やかに気筒内へ吸入されるようになる。その結果、CNGが他気筒へ回り込み難くなる。したがって、吸気バルブの開弁後におけるガソリンの筒内流入遅れを短縮させつつ、CNGの他気筒への回り込みをより確実に抑制することができる。
【0018】
なお、CNGは、ガソリンに比して空気と混ざり難いため、CNGが噴射される運転領域では気筒内に均質混合気が形成され難くなる可能性がある。そこで、気筒内に吸気の旋回流を生成する形状の吸気ポート(たとえば、ヘリカルポートやタンブルポート)を採用しても良い。その場合、CNGと空気の混合が促進されるため、CNGが噴射される運転領域であっても気筒内に均質混合気を形成することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ガソリン用噴射弁とCNG用噴射弁を吸気通路に配置した内燃機関の燃料噴射装置において、ガソリン用噴射弁にデポジットが付着及び堆積し難くなる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明を適用する内燃機関のシリンダヘッド周辺の概略構成を示す図である。
【図2】機関負荷と各燃料の噴射時期との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の具体的な実施形態について図面に基づいて説明する。本実施形態に記載される構成部品の寸法、材質、形状、相対配置等は、特に記載がない限り発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0022】
図1は、本発明を適用する内燃機関のシリンダヘッド周辺の概略構成を示す図である。なお、図1に示すシリンダヘッド1は、火花点火式内燃機関のシリンダヘッドである。
【0023】
シリンダヘッド1には、気筒内へ吸気を導く吸気ポート2と、気筒内の既燃ガスを排出するための排気ポート3が設けられている。吸気ポート2と排気ポート3の開口端は、吸気バルブ4と排気バルブ5によりそれぞれ開閉される。吸気バルブ4と排気バルブ5は、吸気用カムシャフト40と排気用カムシャフト50によりそれぞれ開閉駆動される。なお、吸気用カムシャフト40には、吸気バルブ4の開閉タイミングを変更する可変動弁機構400が設けられている。
【0024】
吸気ポート2には、該吸気ポート2内に圧縮天然ガス(CNG)を噴射するCNG用噴射弁6が取り付けられている。また、吸気ポート2の上流に接続される吸気マニホールド20には、前記吸気ポート2内へ向けてガソリンを噴射するガソリン用噴射弁7が配置される。
【0025】
前記したCNG用噴射弁6、ガソリン用噴射弁7、可変動弁機構400などは、電子制御ユニット(ECU)8により電気的に制御されるようになっている。ECU8は、アクセルポジションセンサ9やクランクポジションセンサ10などの各種センサの出力信号に基づいて前記した各種機器を制御する。
【0026】
たとえば、ECU8は、吸気のポンプ損失を低減するために、吸気バルブ4と排気バルブ5のオーバーラップ期間が拡大するように可変動弁機構400を制御する。ところで、オーバーラップ期間が拡大されると、吸気のポンプ損失を低減することができるが、吸気バルブ4の開き始めに気筒内の既燃ガスが吸気ポート2へ一時的に逆流する可能性がある。その場合、CNG用噴射弁6やガソリン用噴射弁7が高温な既燃ガスに曝される可能性がある。特に、内燃機関がCNGのみを利用して運転されているときに、ガソリン用噴射弁7がCNGの既燃ガスに曝されると、該ガソリン用噴射弁7の噴孔近傍にデポジットが付着及び堆積する可能性がある。
【0027】
このような問題に対し、本実施例では、ガソリン用噴射弁7がCNG用噴射弁6に比べ
燃焼室から離間した位置(図1に示す例では、吸気マニホールド20)に配置されるため、高温な既燃ガスがガソリン用噴射弁7まで到達し難くなる。また、既燃ガスがガソリン用噴射弁まで到達する場合であっても、既燃ガスがガソリン用噴射弁7に到達するまでに低温な吸気によって冷却されるため、ガソリン用噴射弁7が高温な雰囲気に曝され難い。
【0028】
したがって、ガソリン用噴射弁7の停止中(内燃機関がCNGのみを利用して運転される期間)などに、CNGの既燃ガスが吸気ポート2へ逆流してもガソリン用噴射弁7が高温な既燃ガスに曝されにくい。その結果、ガソリン用噴射弁7に付着又は堆積するデポジットの量を少なく抑えることができる。
【0029】
次に、ECU8は、アクセルポジションセンサ9やクランクポジションセンサ10の出力信号に基づいて内燃機関の運転状態を特定し、特定された運転状態に応じてCNG用噴射弁6及びガソリン用噴射弁7のそれぞれの噴射量や噴射時期を決定する。
【0030】
たとえば、ECU8は、内燃機関の運転状態がCNGとガソリンの双方を使用する運転領域にあるときは、CNG用噴射弁6の噴射期間とガソリン用噴射弁7の噴射期間が相互に重複しないように、各噴射弁6,7の噴射時期を決定する。これは、CNG用噴射弁6の噴射期間とガソリン用噴射弁7の噴射期間が相互に重複すると、各噴射弁から噴射された燃料の噴霧が相互に干渉し、ガソリンの壁面付着燃料量が増加する可能性があるからである。
【0031】
よって、CNG用噴射弁6の噴射期間とガソリン用噴射弁7の噴射期間が相互に重複しなくなると、ガソリンの噴霧とCNGの噴霧が相互に干渉しなくなるため、ガソリンの壁面付着量の増加を抑制することができる。
【0032】
ところで、CNGがガソリンより先に噴射されると、CNGが他気筒へ回り込んだり、ガソリンが気筒内へ流入する時間(筒内流入遅れ)が長くなったりする可能性がある。そこで、ECU8は、先ずガソリン用噴射弁7からガソリンを噴射させ、ガソリン用噴射弁7の噴射終了後にCNG用噴射弁6からCNGを噴射させるようにした。
【0033】
ここで、各噴射弁の噴射時期と機関負荷との関係を図2に示す。図2中の斜線の噴射期間はガソリン用噴射弁7の噴射期間を示し、黒塗りの噴射期間はCNG用噴射弁6の噴射期間を示している。
【0034】
図2に示すように、ガソリン用噴射弁7の噴射終了時期とCNG用噴射弁6の噴射開始時期は、機関負荷の高低にかかわらず、吸気バルブ4が開弁する前の一定時期(図2中のT)に固定される。一定時期Tは、ガソリン用噴射弁7の目標燃料噴射量が最大となる場合の噴射開始時期が過早とならず、且つCNG用噴射弁6の目標燃料噴射量が最大となる場合の噴射終了時期が過遅とならないように定められる時期であって、予め実験などを利用した適合処理によって定められた時期である。
【0035】
このようにCNGの噴射期間がガソリンの噴射期間より後に設定されると、CNGが他気筒の吸気ポート2に回り込み難くなるとともに、ガソリンの筒内流入遅れの増加や壁面付着量の増加が抑制される。
【0036】
特に、ガソリンの噴射期間が吸気バルブ4の開弁前に設定されると、ガソリン用噴射弁7から噴射されたガソリンは、吸気バルブ4が開弁する前に吸気ポート2内で気化されるとともに、吸気と混合するようになる。また、CNG用噴射弁6の噴射中あるいは噴射終了直後に吸気バルブが開弁するため、CNG用噴射弁6から噴射されたCNGが気筒内の負圧を受けて速やかに気筒内へ吸入されるようになる。その結果、CNGの他気筒への回
り込みをより確実に抑制することができるとともに、ガソリンの筒内流入遅れの増加や壁面付着量の増加をより確実に抑制することができる。
【0037】
ところで、CNGは、ガソリンに比して空気を混ざり難いため、CNGが噴射される運転領域では気筒内に均質混合気が形成され難くなる可能性がある。そこで、気筒内に吸気の旋回整流を生成する形状の吸気ポート(たとえば、ヘリカルポートやタンブルポート)を採用しても良い。その場合、CNGと空気の混合が促進されるため、CNGが噴射される運転領域であっても気筒内に均質混合気を形成することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 シリンダヘッド
2 吸気ポート
3 排気ポート
4 吸気バルブ
5 排気バルブ
6 CNG用噴射弁
7 ガソリン用噴射弁
8 ECU
20 吸気マニホールド
40 吸気用カムシャフト
50 排気用カムシャフト
400 可変動弁機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の吸気通路に配置され、該吸気通路内に圧縮天然ガスを噴射するCNG用噴射弁と、
前記CNG用噴射弁より上流側の吸気通路に配置され、該吸気通路内にガソリンを噴射するガソリン用噴射弁と、
を備える内燃機関の燃料噴射装置。
【請求項2】
請求項1において、前記CNG用噴射弁と前記ガソリン用噴射弁の双方から燃料を噴射させる場合に、前記CNG用噴射弁の噴射時期と前記ガソリン用噴射弁の噴射弁が相互に重複しないように、前記CNG用噴射弁及び前記ガソリン用噴射弁を制御する制御部を更に備える内燃機関の燃料噴射装置。
【請求項3】
請求項2において、前記制御部は、吸気バルブが開弁する前の排気行程中に前記ガソリン用噴射弁からガソリンを噴射させ、前記ガソリン用噴射弁の噴射終了後に前記CNG用噴射弁から圧縮天然ガスを噴射させる内燃機関の燃料噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−57260(P2013−57260A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194922(P2011−194922)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】