説明

内燃機関の燃焼状態判定装置

【課題】内燃機関の各気筒における燃料の燃焼状態の適否をより的確に判断できるようにする。
【解決手段】内燃機関のクランクシャフトの回転速度を30°CA毎に反復的に検出するとともに、過去に検出したクランクシャフトの回転速度の時系列znTを自己回帰モデルに入力して将来のクランクシャフトの回転速度xnを推算し、クランクシャフトの回転速度の推算値xnと実測値xRとの差異に基づいて気筒1における燃料の燃焼の適否を判断することとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の気筒における燃料の燃焼の状態を判断する燃焼状態判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、アイドル運転時にエンジン回転数を所望のアイドル回転数に収束させる制御手法として、クランクシャフトの回転速度を所定回転角度毎に反復的に検出し、その実測回転速度がアイドル回転数に対応した目標角速度となるように点火時期を進角/遅角補正するフィードバック制御を実行することが知られている(下記特許文献を参照)。
【0003】
一般に、車両等に搭載される内燃機関は複数の気筒を有している。各気筒での燃料の燃焼の状態、そしてその燃焼により発生する爆発力は、全気筒において等しいわけではなく、気筒間でばらつきがある。故に、エンジン回転数に爆発一次振動が出現する。
【0004】
とりわけ、二気筒の4ストローク機関では、爆発燃焼の間隔が360°CA(クランク角度)毎と長く、微視的に見て機関の出力トルクが大きく増減し、クランクシャフトの回転速度もまた速くなったり遅くなったりを繰り返す。そのような内燃機関の各気筒における燃焼状態の適否を判断し、機関の回転変動ひいては機関の振動を抑制することは容易ではない。
【0005】
上記の問題は、圧縮自己着火方式の内燃機関、即ちディーゼル機関やHCCI(Homogeneous−Charge Compression Ignition)機関についても当てはまる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−324877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、内燃機関の各気筒における燃料の燃焼状態の適否をより的確に判断できるようにすることを所期の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、内燃機関のクランクシャフトの回転速度を所定回転角度毎に反復的に検出するとともに、過去に検出したクランクシャフトの回転速度の時系列を自己回帰(AutoRegressive)モデルに入力して将来のクランクシャフトの回転速度を推算し、クランクシャフトの回転速度の推算値と実測値との差異に基づき気筒における燃料の燃焼の適否を判断することを特徴とする内燃機関の燃焼状態判定装置を構成した。
【0009】
本発明に係る燃焼状態判定装置は、回転速度の変動が比較的大きい内燃機関、例えば二気筒の機関や、ディーゼル機関またはHCCI機関等の運転制御への適用に好適である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、内燃機関の各気筒における燃料の燃焼状態の適否をより的確に判断することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態における内燃機関の全体構成を示す図。
【図2】同実施形態の燃焼状態判定装置を用いて内燃機関の回転速度を制御する例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。図1に、本実施形態における車両用内燃機関の概要を示す。この内燃機関は、筒内直接噴射式のものであり、複数の気筒1(図1には、そのうち一つを図示している)と、各気筒1内に燃料を噴射するインジェクタ11と、各気筒1に吸気を供給するための吸気通路3と、各気筒1から排気を排出するための排気通路4と、吸気通路3を流通する吸気を過給する排気ターボ過給機5と、排気通路4から吸気通路3に向けてEGRガスを還流させる外部EGR装置2とを具備している。
【0013】
本実施形態における内燃機関は、二気筒の4ストローク機関であり、第一気筒1の行程と第二気筒1の行程との間には360°CAの位相差が存在する。つまり、第一気筒1のピストン12と第二気筒1のピストン12とは同時に上昇し、また同時に下降する。
【0014】
吸気通路3は、外部から空気を取り入れて気筒1の吸気ポートへと導く。吸気通路3上には、エアクリーナ31、過給機5のコンプレッサ51、インタクーラ32、電子スロットルバルブ33、サージタンク34、吸気マニホルド35を、上流からこの順序に配置している。
【0015】
排気通路4は、気筒1内で燃料を燃焼させた結果発生した排気を気筒1の排気ポートから外部へと導く。この排気通路4上には、排気マニホルド42、過給機5の駆動タービン52及び三元触媒41を配置している。加えて、タービン52を迂回する排気バイパス通路43、及びこのバイパス通路43の入口を開閉するバイパスバルブであるウェイストゲートバルブ44を設けてある。ウェイストゲートバルブ44は、アクチュエータに制御信号lを入力することで開閉操作することが可能な電動ウェイストゲートバルブであり、そのアクチュエータとしてDCサーボモータを用いている。
【0016】
排気ターボ過給機5は、駆動タービン52とコンプレッサ51とを同軸で連結し連動するように構成したものである。そして、駆動タービン52を排気のエネルギを利用して回転駆動し、その回転力を以てコンプレッサ51にポンプ作用を営ませることにより、吸入空気を加圧圧縮(過給)して気筒1に送り込む。
【0017】
外部EGR装置2は、いわゆる高圧ループEGRを実現するものである。外部EGR通路の入口は、排気通路4におけるタービン52の上流の所定箇所に接続している。外部EGR通路の出口は、吸気通路3におけるスロットルバルブ33の下流の所定箇所、具体的にはサージタンク34に接続している。外部EGR通路上にも、EGRクーラ21及びEGRバルブ22を設けてある。
【0018】
内燃機関の運転制御を司るECU(Electronic Control Unit)0は、プロセッサ、メモリ、入力インタフェース、出力インタフェース等を有したマイクロコンピュータシステムである。
【0019】
入力インタフェースには、車速を検出する車速センサから出力される車速信号a、クランクシャフトの回転角度及びエンジン回転数を検出するエンジン回転センサから出力されるエンジン回転信号b、アクセルペダルの踏込量またはスロットルバルブ33の開度をアクセル開度(いわば、要求負荷)として検出するアクセル開度センサから出力されるアクセル開度信号c、吸気通路3(特に、サージタンク34)内の吸気温を検出する温度センサから出力される吸気温信号d、吸気通路3内の吸気圧(または、過給圧)を検出する圧力センサから出力される吸気圧信号e、内燃機関の冷却水温を検出する水温センサから出力される冷却水温信号f、吸気カムシャフトの複数のカム角にてカム角センサから出力される排気カム信号g等が入力される。エンジン回転センサは、10°CA毎にパルス信号bを発する。カム角センサは、720°CAを気筒数で割った角度、二気筒エンジンであれば360°CA毎にパルス信号gを発する。
【0020】
出力インタフェースからは、インジェクタ11に対して燃料噴射信号h、点火プラグ(のイグニッションコイル)に対して点火信号i、EGRバルブ22に対して開度操作信号j、スロットルバルブ33に対して開度操作信号k、ウェイストゲートバルブ44に対して開度操作信号l等を出力する。
【0021】
ECU0のプロセッサは、予めメモリに格納しているプログラムを解釈、実行し、運転パラメータを演算して内燃機関の運転を制御する。ECU0は、内燃機関の運転制御に必要な各種情報a、b、c、d、e、f、gを入力インタフェースを介して取得し、エンジン回転数を知得するとともに気筒1に充填される吸気量を推算する。そして、それらエンジン回転数及び吸気量に基づき、要求される燃料噴射量、燃料噴射タイミング(一度の燃焼に対する燃料噴射の回数を含む)、燃料噴射圧、点火タイミング、EGR量(または、EGR率)といった各種運転パラメータを決定する。運転パラメータの決定手法自体は、既知のものを採用することが可能であるので説明を割愛する。しかして、運転パラメータに対応した各種制御信号h、i、j、k、lを出力インタフェースを介して印加する。
【0022】
本実施形態の燃焼状態判定装置たるECU0は、エンジン回転センサを介して内燃機関のクランクシャフトの回転速度を所定回転角度毎に反復的に検出しており、過去に検出したクランクシャフトの回転速度の時系列を自己回帰モデルに入力して将来のクランクシャフトの回転速度を推算する。その上で、クランクシャフトの回転速度の推算値と実測値との差異に基づき、各気筒1において訪れる膨張行程の機会毎に、燃焼室内での燃料の爆発燃焼の状態が適正であるか否かの判断を下す。
【0023】
自己回帰モデルは、目的変数である将来のクランクシャフトの回転速度xnを、説明変数である過去のクランクシャフトの回転速度xn-1、xn-2、……によって推定するものである。本実施形態にあって、xn-1、xn-2、……は、30°CA毎にエンジン回転数(または、クランクシャフトが30°CA回転するのに要した時間)を計測することによって得るものとする。無論、計測間隔は30°CAよりも短くてもよいし、長くてもよい。
【0024】
ここでは、モデルの次数を四次とし、エンジン回転数の直近の過去四回分の実測値[xn-1,xn-2,xn-3,xn-4]をモデルの入力znTとする。入力znT=[xn-1,xn-2,xn-3,xn-4]に対し、自己回帰係数即ちモデルのパラメータをaT=[a1,a2,a3,a4]とおくと、次回の計測機会において計測されるであろうエンジン回転数xnを、下式に則って推測することができる。
n=a1n-1+a2n-2+a3n-3+a4n-4
モデルのパラメータaTは、各気筒1毎に個別に同定するものとし、当該気筒1における燃料の燃焼状態が適正、良好である状況の下での値とする。aTの同定は、オフライン(設計ないし製造段階での適合)で行ってもよく、オンライン(運転の最中に実時間で同定)で行ってもよい。何れにせよ、aTは、そのときの内燃機関の要求負荷(吸気量及び燃料噴射量)、オルタネータやエアコンディショナのコンプレッサといった補機の負荷、外部環境(大気圧、車両が走行している路面の傾斜、他)等の諸条件により異なる。ECU0は、同定された気筒毎1のaTと、その同定されたaTの前提となる条件を規定する情報とを関連付けてメモリに格納する。aTに関しては、
N+1=aN+kN+1(xN+1−zN+1TN
N+1=PNN+1(1+zN+1TNN+1-1
N+1=(I−kN+1N+1T)PN
が成立する。
【0025】
内燃機関の運転制御において、ECU0は、現在の機関の要求負荷、補機負荷及び外部環境等、並びに、間もなく膨張行程を迎えるかまたは最近膨張行程を開始した気筒1に対応するモデルパラメータaTをメモリから読み出し、クランクシャフトの回転速度xnを推算する。
【0026】
図2に例示するように、二気筒の4ストローク機関であれば、第一気筒1の圧縮上死点から第一気筒1の膨張行程を経て第二気筒1の圧縮上死点に至るまでの360°CA分の期間について、第一気筒1に関して同定されたモデルパラメータaTを用い、クランクシャフトの回転速度の30°CA毎の推算値xnを得る。翻って、第二気筒1の圧縮上死点から第二気筒1の膨張行程を経て第一気筒1の圧縮上死点に至るまでの360°CA分の期間については、第二気筒1に関して同定されたモデルパラメータaTを用い、クランクシャフトの回転速度の30°毎の推算値xnを得る。
【0027】
そして、ECU0は、30°毎に計測したクランクシャフトの回転速度の実測値xRを上記の推算値xnと比較することにより、各気筒1における燃料の燃焼状態の適否を判断する。図2中、破線は自己回帰モデルに基づく推算値xnを表し、実線は計測による実測値xRを表している。
【0028】
推算値xn>実測値xRである場合には、当該気筒1における燃焼の爆発力が想定より低いということである。このような燃焼状態の悪化または機関の回転の悪化を検出した場合には、当該気筒1における次回の燃焼時に機関の出力をより高めるための補正、例えば燃料噴射量の増量補正や、点火時期の進角補正等を加える。
【0029】
逆に、xn<xRである場合には、当該気筒1における燃焼の爆発力が想定より高いということである。このような機関の出力トルクの過剰を検出した場合には、当該気筒1における次回の燃焼時に出力トルクをより低く抑えるための補正、例えば燃料噴射量の減量補正や、点火時期の遅角補正等を加える。
【0030】
本実施形態では、内燃機関のクランクシャフトの回転速度を所定回転角度毎に反復的に検出するとともに、過去に検出したクランクシャフトの回転速度の時系列znTを自己回帰モデルに入力して将来のクランクシャフトの回転速度xnを推算し、クランクシャフトの回転速度の推算値xnと実測値xRとの差異に基づき気筒1における燃料の燃焼の適否を判断することを特徴とする内燃機関の燃焼状態判定装置0を構成した。
【0031】
本実施形態によれば、二気筒機関のような元々回転速度の変動の度合いが大きい機関における、気筒1毎の燃焼状態のばらつきや出力トルクの変動を精度よく検出することができる。そして、機関の不意の回転変動や、機関自体の燃焼一次振動を抑制することが可能となる。
【0032】
加えて、気筒1の出力トルクが過剰な場合に燃料噴射量を低減したり、気筒1の出力トルクが不足な場合に点火時期を進角したりすることを通じて、燃費効率の一層の向上にも寄与し得る。
【0033】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。上記実施形態では、内燃機関として二気筒の機関を想定していたが、単気筒または三気筒等の少数気筒の機関の制御に本発明を適用しても構わない。
【0034】
また、内燃機関は火花点火式内燃機関には限定されない。やはり回転速度の変動の度合いが大きい圧縮自己着火方式の内燃機関、即ちディーゼル機関やHCCI機関の制御に本発明を適用することも当然に許容される。
【0035】
その他各部の具体的構成は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、車両等に搭載される内燃機関の制御に利用できる。
【符号の説明】
【0037】
0…燃焼状態判定装置(ECU)
1…気筒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のクランクシャフトの回転速度を所定回転角度毎に反復的に検出するとともに、
過去に検出したクランクシャフトの回転速度の時系列を自己回帰モデルに入力して将来のクランクシャフトの回転速度を推算し、
クランクシャフトの回転速度の推算値と実測値との差異に基づき気筒における燃料の燃焼の適否を判断する
ことを特徴とする内燃機関の燃焼状態判定装置。
【請求項2】
前記内燃機関は、気筒数が二気筒の機関、ディーゼル機関またはHCCI機関である請求項1記載の燃焼状態判定装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−113099(P2013−113099A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256882(P2011−256882)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】