説明

内燃機関のEGR制御装置

【課題】EGR開度CPU指令値の分解能を1stepとして、フィードバック補正量の分解能を1より細かくすると、EGRバルブの基本開度(分解能は1step)と前記フィードバック補正量との和であるEGR開度CPU指令値がハンチングしてしまう場合がある。
【解決手段】EGR開度CPU指令値(分解能は1step)を算出する手前で、高分解能のEGR開度CPU指令値(分解能は1stepよりも小さい)を設け、フィードバック演算全体を高分解能(分解能は1stepよりも小さくする)で演算する。更に、前記高分解能のEGR開度CPU指令値(分解能は1stepよりも小さい)をエンジンの運転状態に応じて切替えて前記EGR開度CPU指令値(分解能は1step)として算出する。前記切替え処理は、エンジンの加速,減速,定常状態,燃費領域における加速を判定して切り上げ,切り下げ,四捨五入を切替えるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気ガスに含まれるNOx等の低減のためにEGR流量を制御するEGR制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
排気ガスに含まれる窒素化合物(NOx)を低減するには燃焼温度を低下させることが有効であり、排気ガスの一部を吸気側に戻して燃焼制御を行う排気ガス再循環(EGR)制御が従来より行われている。
【0003】
内燃機関のEGR制御装置として、例えば下記の特許文献1に記載されているとおり、目標EGR還流量と実EGR還流量の差分によりEGRバルブ開度を帰還制御する技術が開示されている。また、EGRバルブを駆動させるためにCPUを通じてドライバに指令されるEGR開度CPU指令値は、基本EGR開度と臨界圧外補正量との和で算出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO08/153198
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術のソフトウェアを作成する過程で、出力となるEGR開度CPU指令値と、基本EGR開度の分解能(LSB(Least Significant Bit)とも呼ぶ)を1stepとして、臨界圧外補正量の分解能を1より細かくすると、前記基本EGR開度と前記臨界圧外補正量との和である前記EGR開度CPU指令値がハンチングしてしまう場合がある。
【0006】
例えば、臨界圧外補正量の分解能を1/256とし、実EGR還流量に対するEGRバルブ開度の実step数が6stepの状態で、目標EGR還流量に対するEGRバルブ開度の目標step数が5.5step相当で一定とした場合、目標EGR還流量と実EGR還流量との差を埋めようとして臨界圧外補正により実step数が1よりも小さい値で下げられた途端、小数点が切り捨てられるため、実step数は6stepから5stepに変化する。次のEGR制御起動周期において、目標5.5stepに対して実step数は5stepのため、臨界圧外補正により実step数を上げようとするが、出力の分解能が1stepであるため小数点が切り捨てられ、実step数が6stepとなるまでフィードバック補正量の積算処理が実施される。以後、この繰り返しにより前記EGR開度CPU指令値のハンチングが発生してしまう課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
EGRバルブを駆動させるための指令値よりも分解能を細かくした高分解能のEGR開度CPU指令値を用いて帰還制御全体を高分解能で行い、EGRバルブを駆動させるためのEGR開度CPU指令値は前記高分解能の指令値を数値処理して分解能が粗いものを出力する。前記数値処理は、内燃機関の運転状態に応じて、切り上げ,切り下げ,四捨五入を切替えるようにする。
【発明の効果】
【0008】
EGRバルブを駆動させるためのEGR開度指令値よりも高分解能のEGR開度指令値を帰還制御に用いて帰還制御全体を高分解能で演算することにより高精度で帰還制御される。また、前記EGRバルブを駆動させるためのEGR開度指令値を算出する際の数値処理により、定常時もしくは燃費領域における加速時においては、前記高分解能のEGR開度指令値を切り上げてEGR開度指令値を算出することで、実step数が上がり、EGR還流量を増やし、ポンピングロス低減による燃費改善,NOx抑制を図ることができる。
【0009】
また、加速もしくは減速時には、前記高分解能のEGR開度指令値を切り下げてEGR開度指令値を算出することで、実step数が下がり、EGR還流量を減らして失火防止を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係るEGR制御手段を備えた内燃機関の一例のブロック図。
【図2】本発明に係るEGR制御手段の概要を示すブロック図。
【図3】本発明に係るEGR制御手段を備えた内燃機関の制御装置が搭載されたエンジンの制御に係る主要部。
【図4】本発明に係るEGR制御手段を備えた内燃機関の制御装置の内部構成の一例。
【図5】図2のブロック201〜210のブロックを詳細に表した一例。
【図6】図2のブロック211〜213のブロックを詳細に表した一例。
【図7】図2のブロック214のブロックを詳細に表した一例。
【図8】図7のブロック702の設定を表した一例。
【図9】図7のブロック702の設定を表した一例。
【図10】図7のブロック702の設定を表した一例。
【図11】図2のブロック214のブロックを詳細に表した一例。
【図12】図2のブロック215のブロックを詳細に表した一例。
【図13】エンジン回転数とエンジン負荷に応じたエンジンの運転領域の一例。
【図14】本発明に係るEGR制御手段を備えた内燃機関の制御装置のオペレーション時における各変数挙動を表した一例。
【図15】本発明の図1の制御ブロック図の燃料計算関係の詳細なフローチャートの一例。
【図16】本発明の図1の制御ブロック図の点火時期計算関係の詳細なフローチャートの一例。
【図17】本発明の図2のブロック201〜210の詳細なフローチャートの一例。
【図18】本発明の図2のブロック211〜213の詳細なフローチャートの一例。
【図19】本発明の図7のブロックの詳細なフローチャートの一例。
【図20】本発明の図11のブロックの詳細なフローチャートの一例。
【図21】本発明の図2のブロック215の詳細なフローチャートの一例。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施例を、以下、図を参照して説明する。
【0012】
図1は、本発明に係るEGR制御手段を備えた内燃機関の制御装置の一例を示すブロック図である。ブロック101は、エンジン回転数計算手段であり、エンジンの所定のクランク角度位置に設定されたクランク角度センサからの電気的信号であるパルス信号の単位時間当たりの入力数をカウントする演算処理により、エンジンの単位時間当りの回転数を計算する。
【0013】
ブロック102は、ブロック101で演算されたエンジンの回転数とエンジン負荷からエンジンの要求する基本燃料を計算する。エンジン負荷としては、吸気管に設置された吸気管圧力センサの出力を演算処理して吸気管圧力に変換したものを用いるか、または、熱式空気流量計等で計測されたエンジンの吸入空気量で代表させてもよい。
【0014】
ブロック103は、ブロック101で演算されたエンジンの回転数と前記のエンジン負荷により、ブロック102で計算された基本燃料に対するエンジンの各運転領域における補正係数をマップにより得て計算する。ブロック104は、前記エンジン回転数と前記エンジン負荷により、エンジンの各領域における最適の基本点火時期をマップにより得て計算する。
【0015】
ブロック105は、吸気管に設定された弁であって、エンジンの吸入空気量を調節するスロットル絞り弁の開度を検出し、運転者が望むエンジンの状態を判定する。判定される状態は、アイドル状態であるか否か、加減速状態であるか否かである。ブロック106は、ブロック104で検索された最適の基本点火時期を、ブロック105で判定されたエンジンの状態に応じて補正する。
【0016】
ブロック107は、前記のエンジン回転数と前記のエンジン負荷によりエンジンの各領域における最適の目標空燃比をマップ検索等で決定する。ブロック108は、ブロック107で決定された目標空燃比となるように、排気管に設定された酸素濃度センサの出力により、PID制御による帰還制御係数(空燃比フィードバック係数)を計算する。
【0017】
ブロック109は、前記のエンジン回転数,前記のエンジン負荷,スロットル絞り弁の開度,吸気温度,始動時エンジン冷却水温等により、最適のEGR開度を計算する。ブロック110は、ブロック102で計算された基本燃料に対し、前記の基本燃料補正係数,前記のエンジン冷却水温,前記の空燃比フィードバック係数により補正を施す。
【0018】
ブロック111〜114は、前記のブロック110で補正された燃料量をエンジンに供給する燃料噴射手段である。ブロック115〜118は、前記のブロック106で補正されたエンジンの要求点火時期に応じてシリンダに流入した燃料混合気を点火する点火手段である。
【0019】
図2は、本発明に係る内燃機関のEGR制御手段の概要を示すブロック図である。ブロック201は、検出されたエンジン回転数,エンジン負荷(スロットル開度)により、マップから目標EGR率を検索する。ブロック202では、検出されたエンジン回転数とエンジン負荷により、マップから内部EGR率を検索する。ブロック203は、検出された吸気管圧力とエンジン回転数からエンジンに吸入する空気流量を計算する。この吸入空気量から、後述する実EGR還流量を加算器204で減算し、実吸入空気量を計算する。熱式空気流量計で吸入空気量を計測する場合は、ブロック203と加算器204は必要とされない。
【0020】
ブロック205では、前記の目標EGR率と実吸入空気量から、目標EGR還流量ベース値を演算する。ブロック206では、前記の内部EGR率,実吸入空気量から、排ガス残留量を演算する。ブロック207及び、ブロック208では、前記目標EGR還流量ベース値,排ガス残留量にそれぞれ加重平均を施し、加算器209で差分を取り、目標EGR還流量を計算する。ブロック210では、前記の目標EGR還流量から基本EGR開度を演算する。ブロック215では、前記の基本EGR開度と、後述する臨界圧外還流量補正値から、後述する高分解能EGR開度CPU指令値および、EGR開度CPU指令値を演算する。
【0021】
ブロック211は、前記のエンジン回転数と前記のエンジン負荷により、マップにより排圧を検索する。前記の排圧から前記の吸気管圧力を加算器212で減算し、排圧と吸気管圧力の差圧を計算する。ブロック213では、前記の差圧に応じて、前記EGR開度CPU指令値から実EGR還流量を演算する。ブロック214では、前記の目標EGR率に応じて、前記の目標EGR還流量と前記実EGR還流量から、前記の臨界圧外還流量補正値を演算する。
【0022】
図3は、本発明に係るEGR制御手段を備えた内燃機関の制御装置が搭載されたエンジンの制御に係る主要部を示している。
【0023】
図3には、エンジン本体301の外、エンジンの吸入する空気量を計測する熱式空気流量計301a、吸入する空気量をスロットル絞り弁302をバイパスして吸気管304へ接続された流路の流路面積を制御することによりエンジンのアイドル時の回転数を制御するアイドルスピードコントロールバルブ303、吸気管304内の圧力を検出する吸気管圧力センサ305、エンジンの要求する燃料を供給する燃料噴射弁306、エンジンの所定のクランク角度位置に設定されたクランク角度センサ307、エンジンのシリンダ内に供給された燃料の混合気に点火する点火栓に、エンジン制御装置312からの点火信号に基づいて点火エネルギを供給する点火モジュール308、エンジンのシリンダブロックに設定されエンジンの冷却水温を検出する水温センサ309、エンジンの排気管に設定され排気ガス中の酸素濃度を検出する酸素濃度センサ310、エンジンの運転・停止のメインスイッチであるイグニッションキースイッチ311、排気ガスの一部を吸気管304内へ戻すEGRバルブ313、エンジンの各補器類を制御するエンジン制御装置312が示されている。なお、吸気管圧力センサ305は、吸気の温度を計測する吸気温センサが一体化されている。
【0024】
酸素濃度センサ310は、本実施例では、排気空燃比に対して比例的な信号を出力するものを用いているが、理論空燃比に対して排気ガスがリッチ側/リーン側の2つの信号を出力するものでもよい。なお、本実施例では内燃機関の燃料制御のパラメータとして、吸気管圧力を検出して用いているが、熱式空気流量計で吸入空気量を検出して用いることもできる。
【0025】
図4は、本発明に係るEGR制御手段を備えた内燃機関の制御装置の内部構成の一例を示す。CPU401の内部には、エンジンに設置された各センサの電気的信号をデジタル演算処理用の信号に変換するインターフェイスとして機能するI/O部402が設定されており、本実施例のI/O部402には、水温センサ404,クランク角センサ405,酸素濃度センサ406,吸気管圧力センサ407,スロットル開度センサ408,イグニッションSW409から信号が入力される。なお、熱式空気流量計等で吸入空気量を計測するシステムにおいては、熱線式空気流量計403が設けられる。
【0026】
CPU401からの出力信号は、ドライバ410を介して、燃料噴射弁411〜414,点火コイル415〜418,アイドルスピードコントロール(ISC)バルブへのISC開度指令値419,EGRバルブへのEGR開度指令値420へ送られる。
【0027】
図5は、図2のブロック201〜210のブロックを詳細に表したものである。ブロック501は、予め設定した目標EGR率マップによりエンジン回転数とエンジン負荷、またはエンジン回転数とスロットル開度から目標EGR率EGRRを検索する。ブロック502では、吸気管圧力とエンジン回転数と定数を乗じて、吸入空気量QARを演算する。
【0028】
EGRバルブが開いてEGR還流が始まると、吸気管圧力も上昇するため、演算した吸入空気量QARから後述する実EGR還流量EGRGERを加算器503で減算し、実吸入空気量QERを計算する。なお、本実施例では、吸気管圧力から吸入空気量QARを計算しているが、熱式空気流量計等で吸入空気量を計測するシステムでは、ブロック502,503は不要であり、計測した吸入空気量QARを実吸入空気量QERとして直接使用するが、他のブロックで使用されるエンジン負荷としての吸気管圧力は、ブロック504で吸入空気量QARをエンジン回転数Neで除したエンジン負荷Tpを用いることとなる。
【0029】
本実施例では、前記の実吸入空気量QERは、ブロック505のDジェトロ/Lジェトロ判定ソフトSWに“1”または“0”を設定してブロック506のスイッチブロックで切替える。ブロック507の目標EGR還流量ベース値演算部は、前記の目標EGR率EGRRと前記の実吸入空気量QERから目標EGR還流量ベース値EGRGEBを演算する。
【0030】
数1は、EGR率の基本式を表している。
【0031】
【数1】

【0032】
数1をEGR還流量Geの式に変形し、Geを目標EGR率EGRRとし、吸入空気量Qaを実吸入空気量QERとすると、図5のブロック507内に示した式が得られ、この式により、目標EGR還流量ベース値を演算する。
【0033】
ブロック508は、予め設定した内部EGR率マップによりエンジン回転数とエンジン負荷、またはエンジン回転数とスロットル開度から内部EGR率EGRINRを検索する。
【0034】
尚、本実施例では、内部EGRを考慮しているが、外部のEGRだけを管理したい場合は、ブロック508マップのデータを0設定することで対応できる。
【0035】
前記の数1をEGR還流量Geの式に変形し、Geを内部EGR率EGRINRとし、吸入空気量Qaを実吸入空気量QERとすると、図5のブロック509内に示した式が得られ、この式により、排ガス残留量EGRINMを演算する。
【0036】
加算器510では、前記した目標EGR還流量ベース値EGRGEBに対し、加重平均重みKEGRGEを用いて加重平均を施した値から、前記した排ガス残留量EGRINMに対し、加重平均重みKEGRINを用いて加重平均を施した値を減算し、目標EGR還流量EGRGEを計算する。ブロック513は基本EGR開度演算部であり、ここでは、前記の目標EGR還流量EGRGEからテーブルにより基本EGR開度EGRSTDBを検索する。なお、前記テーブルは、後述の排圧と吸気管圧力の差圧DP1PMが臨界圧状態であるとして予め定める。
【0037】
図6は、図2のブロック211〜214のブロックを詳細に表したものである。ブロック601は、予め設定した排圧マップによりエンジン回転数とエンジン負荷、またはエンジン回転数とスロットル開度から排圧PMEXTを検索する。検索した排圧PMEXTから吸気管圧力を加算器602で減算し、前記の排圧と吸気管圧力の差圧DP1PMを計算する。ブロック603は、実EGR還流量演算部であり、EGRのバルブ開度と還流量の流量特性テーブルを前記の差圧DP1PMに応じて少なくとも2つ以上備えておき、EGR開度CPU指令値EGRSTDから、実EGR還流量EGRGERをテーブル検索する。
【0038】
数2は、EGR還流量の基本式を表している。
【0039】
【数2】

【0040】
上記(1)式は、排圧と吸気管圧力の差圧とEGR還流量の関係式であり、上記(2)式は、上記(1)式を変形して、EGR還流量を演算する式にしたものである。
【0041】
上記(2)式は、EGR開口面積,係数,排圧と吸気管圧力の差圧からEGR還流量を求めることができることを表しており、上記(3)式の非線形な特性を取り込む形で前記の実EGR還流量演算部603の複数の流量特性テーブルで実現されている。
【0042】
本実施例では、前記の実EGR還流量演算部603において、差圧DP1PMに応じて複数の流量特性テーブルを備える構成としているが、この複数のテーブルをマップに置き換えるよう構成しても良いし、実験値からの近似式に置き換えるよう構成しても良い。
【0043】
上記(3)式は、排圧と吸気管圧力の差分(差圧)が臨界圧より小さいときのEGR還流量の演算を表している。排圧に対して吸気管圧力を低くしていくと、排気管と吸気管を結ぶEGR管内のEGR還流量の流速が音速に達し、このときの圧力を臨界圧という。流速が音速を超えることはないので、吸気管圧力を更に低くしてもEGR還流量の流速は変わらない。この場合には、EGR還流量はEGR開口面積により決定される。
【0044】
図7は、図2のブロック214の臨界圧外還流量補正演算部の一例を詳細に表したものである。加算器701では、前記の目標EGR還流量EGRGEから前記の実EGR還流量EGRGERを減算し、臨界圧流量差分defgerを計算する。ブロック702では、前記の臨界圧流量差分defgerで、EGR臨界圧外補正テーブルから、criiを検索する。加算器703では、臨界圧外還流量補正量EGRCRIの前回値と、前記criiを加算して臨界圧外還流量補正量EGRCRIを計算する。ただし、前記の目標EGR率EGRRが0の場合は、スイッチ705で、前記の臨界圧流量差分defgerを0
にし、スイッチ704で臨界圧外還流量補正量EGRCRIを0にして、即座に臨界圧外の補正を0(無効)とする。
【0045】
図8〜図10は、図7のEGR臨界圧外補正テーブルの設定例である。それぞれ縦軸が前記crii、横軸が前記の臨界圧流量差分defgerであり、図の右半分はdefgerが正の領域であり、EGRバルブの開く側を表し、図の左半分はdefgerが負の領域であり、EGRバルブの閉じ側を表す。また、defgerが小さい領域(目標EGR還流量と実EGR還流量の差分が小さい領域)では、criiを0として不感帯を設定し、目標近くでのチャタリングを防止する。
【0046】
図8は、前記の臨界圧流量差分defgerに対して、criiがdeferのプラス側とマイナス側で点対称となるようにEGR臨界圧外補正テーブルを設定した例であるが、このように設定すると、EGR還流量が多くなる程、失火を生じる危険がある。
【0047】
図9は、図8と比較してcriiの傾きをdeferのマイナス側でより急にしてテーブルを設定した例であり、このようにすることで、EGRバルブの閉じ側のcriiを大きくして、臨界圧外におけるEGRバルブの閉じ側の動作を速くすることで、失火を防止している。
【0048】
図10は、criiがステップ的に変化するように、EGR臨界圧外補正テーブルを設定した例である。このように不感帯を段階的に設定することもできる。
【0049】
図11は、図2のブロック214の臨界圧外還流量補正演算部の他の例を詳細に表したものである。加算器1101では、前記の目標EGR還流量EGRGEから前記の実EGR還流量EGRGERを減算し、臨界圧流量差分defgerを演算する。ブロック1102は、前記の臨界圧流量差分defgerからゲイン基準値GAINSTDをテーブル検索する。スイッチ1103は、ブロック1104の開側ゲインOPGAINと、ブロック1105の閉側ゲインCLGAINを、前記の臨界圧流量差分defgerの正負により切替え、ゲイン補正GAINHOSを出力する。なお、開側ゲインと閉側ゲインは、ROM定数などによって設定される値とし、失火を防ぐために閉側ゲインを大きく設定する。
【0050】
乗算器1106は、前記のゲイン基準値GAINSTDに前記のゲイン補正GAINHOSを乗じ、更に乗算器1107で、前記の臨界圧流量差分defgerを乗じて臨界圧外還流量補正量EGRCRIを演算する。
【0051】
ただし、前記の目標EGR率EGRRが0のときは、スイッチ1108で臨界圧外還流量補正量EGRCRIを0として、補正を無効とする。
【0052】
図12は、図2のEGR開度CPU指令値演算部215の一例を詳細に表したものである。加算器1201は、前記の基本EGR開度EGRSTDBと前記の臨界圧外還流量補正量EGRCRIを加算する。ブロック1202は、前記の加算値に定数等で定める上下限値の制限を施し、高分解能EGR開度CPU指令値EGRSTDWを出力する。ブロック1203は、前記高分解能EGR開度CPU指令値EGRSTDWに対して数値処理を実施し、EGRバルブを駆動させるためにDriverに渡す分解能の粗いEGR開度CPU指令値EGRSTDを算出する。
【0053】
ここで、前記EGR開度CPU指令値の分解能を1ステップとし、前記高分解能EGR開度CPU指令値の分解能は1ステップよりも小さく(例えば1/256)する。更に、図2のブロック210の基本EGR開度演算部、ブロック215のEGR開度CPU指令値演算部、ブロック213の実EGR還流量演算部、ブロック214の臨界圧外還流量補正演算部の一連の帰還制御演算を高分解能(分解能は前記EGR開度CPU指令値の1ステップよりも小さくする。例えば1/256)で演算することで、帰還制御演算に関わる部分を高分解能で演算する。
【0054】
前記数値処理は、前記高分解能のEGR開度CPU指令値(分解能は例えば1/256ステップ)をエンジンの運転状態に応じて前記EGR開度CPU指令値の分解能と同じ1ステップ単位にして前記EGR開度CPU指令値を算出する。例えば、エンジンの定常状態,燃費領域における加速時は、前記高分解能EGR開度CPU指令値EGRSTDWを1ステップ単位に切り上げて前記EGR開度CPU指令値EGRSTDを算出する。前記以外のエンジンの加速,減速時は、前記高分解能EGR開度CPU指令値EGRSTDWを1ステップ単位に切り下げて前記EGR開度CPU指令値EGRSTDを算出する。前記以外のエンジン状態の時は、前記高分解能EGR開度CPU指令値EGRSTDWを1ステップ単位に四捨五入して前記EGR開度CPU指令値EGRSTDを算出する。なお、前記定常状態,加速,減速は、スロットル開度もしくはアクセル開度の現在値と過去値(例えば10ms前)の差分と差分の絶対値から算出する。前記差分が所定値(正の値)以上の場合は、加速と判定し、前記差分が所定値(負の値)以下の場合は、減速と判定し、前記差分の絶対値が所定値以下の場合、定常と判定する。また、前記燃費領域は図13に示すよう、エンジン回転数,エンジン負荷により一意的に決まる運転領域である。
【0055】
図13は、エンジン回転数とエンジン負荷による運転領域を示した一例である。エンジン回転数,エンジン負荷が共に低めの領域が燃費領域で、エンジン回転数,エンジン負荷が共に高めの所がエンジンの出力を高めたいパワー領域と呼ぶ。
【0056】
図14は、本発明に係るEGR制御手段を備えた内燃機関の制御装置のオペレーション時における各変数挙動を表した一例である。チャート1401はスロットル開度、チャート1402はエンジン回転数、チャート1405は吸入空気量、チャート1406は吸気管圧力、チャート1408はEGR開度指令値、チャート1409はEGR弁開度の挙動を示す。
【0057】
区間1403はスロットル開度の過渡区間であり、チャート1408は本発明の手法で補正されたEGR開度指令値を示す。1407は吸気管圧力が臨界圧に達する点であり、この点を境として、チャート1408に示すように、本発明の制御がある場合には、ない場合と比較して、EGR開度の指令値を大きくできるので、チャート1409に示すように、本発明の制御がある場合には、ない場合と比較して、EGR弁の開度を大きくすることができる。
【0058】
図15は、図1に示した本発明に係るEGR制御手段を備えた内燃機関の制御装置における燃料計算のフローチャートの一例を示す。
【0059】
ステップ1501は、クランク角度センサからの信号に基づいてエンジン回転数を計算する。ステップ1502はエンジン負荷を読み込む。本実施例では、吸気管負圧または吸入空気量をエンジン回転数で除したものをエンジン負荷としている。ステップ1503は基本燃料量を計算する。ステップ1504では、前記エンジン回転数と前記エンジン負荷により基本燃料量の補正係数を検索する。ステップ1505は、要求される目標空燃比を検索する。ステップ1506は酸素濃度センサの出力を読み込み、ステップ1507は、空燃比が前記目標空燃比となるように、前記酸素濃度センサ出力に基づき空燃比フィードバックを行い、空燃比フィードバック係数を計算する。ステップ1508は、前記エンジン回転数と前記エンジン負荷等からEGR開度指令値を計算する。ステップ1509で前記空燃比フィードバック係数を前記基本燃料量に施す。ステップ1510では、前記補正を施された基本燃料量を燃料噴射手段にセットする。
【0060】
図16は、図1の制御ブロック図の点火時期計算関係の詳細なフローチャートの一例である。ステップ1601でエンジン回転数,エンジン負荷を読み込む。ステップ1602で前記エンジン回転数及びエンジン負荷に基づいて基本点火時期を検索する。ステップ1603でスロットル開度を読み込み、ステップ1604で加減速及びアイドル判定のエンジンの状態判定を行う。ステップ1605で前記判定された状態に基づく点火補正量を計算し、基本点火時期への反映を行い、ステップ1606で点火手段へセットする。なお、図15及び図16で燃料計算と点火時期計算が異なる割り込み周期で計算される例としたが、同じタイミングでも良い。また一定時間割り込みとしているが、エンジンの回転角度に同期したタイミングで実施してもよい。
【0061】
図17は、図2のブロック201〜210の詳細なフローチャートの一例である。ステップ1701でエンジン回転数,スロットル開度,吸気管圧力を読み込む。ステップ1702でエンジン回転数と吸気管圧力から吸入空気量を計算する。また、熱式空気流量計で測定された吸入空気量をそのまま用いても良い。ステップ1703で吸入空気量をエンジン回転数で除したエンジン負荷を計算する。ステップ1704でエンジン回転数とエンジン負荷または、エンジン回転数とスロットル開度で目標EGR率を検索する。ステップ1705でエンジン回転数とエンジン負荷で内部EGR率を検索する。ステップ1706で実EGR還流量を読み込み、ステップ1707で、前記吸入空気量と、実EGR還流量を減算し、実吸入空気量を演算する。なお、前述したが、熱式空気流量計等で吸入空気量を計測するシステムでは、本ステップ1702,1706〜1707は必要ない。ステップ1708で前記目標EGR率と、実吸入空気量で目標EGR還流量ベース値を演算する。ステップ1709で前記内部EGR率と、実吸入空気量で排ガス残留量を演算する。ステップ1710で前記目標EGR還流量ベース値に加重平均を施した値から、前記排ガス残留量に加重平均を施した値を減算し、目標EGR還流量を計算する。ステップ1711で前記目標EGR還流量に基づいて基本EGR開度を演算する。
【0062】
図18は、図2のブロック211〜213の詳細なフローチャートの一例である。ステップ1801でエンジン回転数,エンジン負荷,吸気管圧力を読み込む。ステップ1802でエンジン回転数とエンジン負荷で排圧を検索する。ステップ1803で前述の排圧から吸気管圧力を減算して差圧を計算する。ステップ1804で前記差圧とEGR開度CPU指令値から実EGR還流量を演算する。
【0063】
図19は、図7の臨界圧外還流量補正演算部の詳細なフローチャートの一例である。ステップ1901で、目標EGR率≠0か否かを判断し、もし目標EGR率≠0でなければ、ステップ1902で臨界圧外流量差分を0として出力する。もし目標EGR率≠0であればステップ1903で前述の目標EGR還流量を読み込み、ステップ1904で前述の実EGR還流量を読み込み、ステップ1905で前記目標EGR還流量から前記実EGR還流量を減算して臨界圧外流量差分を計算する。ステップ1906で前記臨界圧外流量差分に基づき臨界圧外補正量をテーブル検索する。ステップ1907で、再度、目標EGR率≠0か否かを判断し、もし目標EGR率≠0でなければ、ステップ1908で臨界圧外補正量を0として出力する。もし目標EGR率≠0であればステップ1909で、前回の臨界圧外補正量と前述のゲインで臨界圧外補正量をフィードバックして演算する。
【0064】
図20は、図11の臨界圧外還流量補正演算部の詳細なフローチャートの一例である。ステップ2001で前述の目標EGR還流量を読み込み、ステップ2002で前述の実EGR還流量を読み込み、ステップ2003で前記目標EGR還流量から実EGR還流量を減算し、臨界圧外流量差分を計算する。ステップ2004で前記臨界圧外流量差分に基づきゲイン基準値を検索する。ステップ2005で前記臨界圧外流量差分が0以上か否かを判断し、0以上でなければステップ2006でゲイン補正値は閉側ゲインを選択し、0以上であればステップ2007で開側ゲインを選択する。なお、閉側ゲイン,開側ゲインは共にROM定数などで設定されるものとし、失火を防ぐために閉側ゲインを大きく設定する。ステップ2008で目標EGR率≠0か否かを判断し、もし目標EGR率≠0でなければ、ステップ2009で臨界圧外補正量を0とする。もし目標EGR率≠0であればステップ2010で前記の臨界圧外流量差分,ゲイン基準値,ゲイン補正値をそれぞれ乗じて臨界圧外補正量を演算する。
【0065】
図21は、図2のブロック215の詳細なフローチャートの一例である。ステップ2101で基本EGR開度EGRSTBを読み込む。ステップ2102で臨界圧外還流量補正量EGRCRIを読み込む。ステップ2103で前記EGR開度EGRSTBと前記臨界圧外還流量補正量EGRCRIとの和から高分解能EGR開度CPU指令値EGRSTDWを計算する。ステップ2104でエンジン状態が定常状態であるかもしくは燃費領域における加速であるかを判断する。もしエンジン状態が定常状態であるかもしくは燃費領域における加速であればステップ2105で前記高分解能EGR開度CPU指令値EGRSTDWを切り上げてEGR開度CPU指令値EGRSTDを計算する。もしエンジン状態が定常状態であるかもしくは燃費領域における加速でなければステップ2106に進み、エンジン状態が加速または減速であるかを判断する。もし、エンジン状態が加速または減速であれば、ステップ2107で前記高分解能EGR開度CPU指令値EGRSTDWを切り下げてEGR開度CPU指令値EGRSTDを計算する。もし、エンジン状態が加速または減速でなければ、前記高分解能EGR開度CPU指令値EGRSTDWを四捨五入してEGR開度CPU指令値EGRSTDを計算する。
【0066】
本発明は、EGRバルブを駆動させるためのEGR開度指令値よりも高分解能のEGR開度指令値を帰還制御に用いて帰還制御全体を高分解能で演算することにより高精度で帰還制御される。また、前記EGRバルブを駆動させるためのEGR開度指令値を算出する際の数値処理により、定常時もしくは燃費領域における加速時においては、前記高分解能のEGR開度指令値を切り上げてEGR開度指令値を算出することで、実step数が上がり、EGR還流量を増やし、ポンピングロス低減による燃費改善,NOx抑制を図ることができる。
【0067】
また、加速もしくは減速時には前記高分解能のEGR開度指令値を切り下げてEGR開度指令値を算出することで、実step数が下がり、EGR還流量を減らして失火防止を図ることができる。
【0068】
以上、本発明の一実施形態について詳述したが、本発明は、前記実施形態に限定されるものではない。また、本発明の特徴的な機能を損なわない限り、各構成要素は上記構成に限定されるものではない。本実施例ではEGRバルブを駆動するためのEGR開度CPU指令値の1ステップより小さい分解能1/256を高分解能の例として用いているが、1/256より粗い1/128でも、1/256より細かい1/65536でも良く、EGRバルブを駆動させるステップ数のダイナミックレンジを確保できる値であれば良い。
【符号の説明】
【0069】
109 EGR制御手段
205 目標EGR還流量ベース値演算部
206 排ガス残留量演算部
210 基本EGR開度演算部
213 実EGR還流量演算部
214 臨界圧外還流量補正演算部
215 EGR開度CPU指令値演算部
305 吸気管圧力センサ
306 インジェクタ
310 酸素濃度センサ
312 エンジン制御装置
313 EGRバルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の状態に基づいて目標EGR率を求める手段と、
エンジンの吸入空気量を得る手段と、
前記吸入空気量と前記目標EGR率より目標EGR還流量を得る手段と、
前記目標EGR還流量に基づいて基本EGRバルブの開度を求める手段と、
EGRバルブの開度から臨界圧時の還流量を求める手段と、
排圧と吸気管圧力の差圧を演算する手段と、
前記EGRのバルブ開度と還流量の関係から前記差圧下の実EGR還流量を求める手段と、
前記目標EGR還流量と前記実EGR還流量の差分に基づいて還流量補正量を求める手段と、
前記基本EGRバルブの開度と前記還流量補正量から前記EGRバルブの開度を求める手段と、
前記目標EGR還流量と前記実EGR還流量の差分により目標EGR還流量に実EGR還流量を近づけるよう帰還制御を高分解能で実施する手段とを備えて、
EGRバルブを駆動させるための開度指令値は高分解能の指令値を数値処理して分解能が粗いものを出力してEGRバルブを制御することを特徴とするEGR制御を有した内燃機関の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載された制御装置において、目標EGR還流量に実EGR還流量を近づけるよう帰還制御を高分解能で実施する手段は、前記EGRバルブを駆動させるための開度指令値よりも分解能を細かくした高分解能の開度指令値を用いて帰還制御全体を高分解能で実施することを特徴とするEGR制御を有した内燃機関の制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載された制御装置において、前記数値処理は、前記高分解能の開度指令値の切り上げ,切り下げ,四捨五入を内燃機関の状態に基づいて切替えて実施し、分解能の粗い開度指令値を算出することを特徴とするEGR制御を有した内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2012−246763(P2012−246763A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116482(P2011−116482)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】