内燃機関用ピストン
ピストン1において、燃焼室10の裏面10aおよび冷却空洞11の内壁11aの表面粗さを6.3S以下にし(2点鎖線部a′,b′の箇所)、さらに、当該表面粗さ6.3S以下とされた箇所に対して自己浄化性触媒の被膜を表面コーティングした。このため、表面コーティングした部分にオイルが残溜し難くなってオイルのコーキングを抑制でき、熱伝達係数の悪化が防止されて温度の上昇を抑制でき、この結果コーキングによるピストン強度の低下を防止できる。したがって、エンジン高出力化に伴う冷却油量やオイルクーラの容量増大が不要になり、構造が簡単で、場積やコストの増大を招くことなくエンジンの出力向上に容易に対応可能な内燃機関用ピストン1,30が得られる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用ピストンに係り、特には、エンジンオイルによるピストン冷却装置を有した高速、高出力ディーゼルエンジンに採用されるピストンの冷却性能向上手段に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高出力のディーゼルエンジンにおけるピストン冷却装置については、例えば特許文献1に記載された内燃機関用ピストン冷却装置がある。
【0003】
図1は、上記特許文献1に記載された内燃機関用ピストンおよびピストン冷却装置の構成を示す側面断面図であり、図2は、図1のX矢視図である。そして、図1は図2のA−A矢視図である。
図1、図2において、第1の従来例としてのピストン1は鋳造品(例えばFCD:球状黒鉛鋳鉄)である。ピストン1の頂面2には上方に開口した凹型の燃焼室10が設けられ、燃焼室10とピストンリング溝4を有するピストン1の上部外周部3との間には、環状の冷却空洞11が設けられている。
【0004】
冷却空洞11には、ほぼT字状に直交してピストン1の裏面側に連通される取入口12と、この取入口12からほぼ90〜180度隔離した位置で、同じく前記冷却空洞11にほぼT字状に直交してピストン1の裏面側に連通される吐出口13とが設けられている。また、ピストン1の内部には、取入口12とピストン1のスカート5の下端部6との間を連通するガイドパイプ14が設けられており、このガイドパイプ14が冷却用のエンジンオイルの通路になっている。ガイドパイプ14の上部には、燃焼室10の裏面10aに向けて冷却オイルを噴出するための噴油口15が穿設されている。
【0005】
ピストン1下方の図示しないシリンダブロックには、オイルポンプ21からエンジンオイルの供給を受ける冷却油供給通路22が形成され、冷却油供給通路22には、ガイドパイプ14の下端部14aを指向するクーリングノズル23が取り付けられている。そして、これらオイルポンプ21、冷却油供給通路22、およびクーリングノズル23により、冷却装置20が構成されている。
【0006】
次に動作について説明する。
図1において、冷却用のエンジンオイルはオイルポンプ21から冷却油供給通路22を通り、クーリングノズル23に圧送される。クーリングノズル23からガイドパイプ14の下端部14aに向けて噴射されたエンジンオイルは、ガイドパイプ14内を上昇し、矢印で示すように取入口12から冷却空洞11に入り、左右に分流して冷却空洞11の内壁11aを冷却した後、吐出口13から図示しないシリンダブロック内に放出される。また、ガイドパイプ14内を上昇したエンジンオイルの一部は、噴油口15から矢印で示すように燃焼室10の裏面10aに向けて噴射され、裏面10aを冷却した後、図示しないシリンダブロック内に放出される。
【0007】
これにより、燃焼室10の裏面10aに向けて噴射されるエンジンオイルは、図示しないコンロッドやピンボスに邪魔されることなく、燃焼室10の裏面10aを確実に冷却する。また、クーリングノズル23の出口とガイドパイプ14の下端部14aとの距離が十分に小さくなっており、このためにエンジンオイルの捕捉率が向上し、冷却油量を小さくできる。さらに、クーリングノズル23が1本ですみ、構造が簡単でコストも安価にできる。したがって、このピストンは高速、高出力のエンジンに好適であるとしている。
【0008】
図3には、第2の従来例として、アーティキュレートピストン30の側面断面図が示されている。
図3において、アーティキュレートピストン30は、例えば鉄の鍛造製のピストンヘッド31と、アルミニウム製のピストンスカート40とから構成され、ピストンヘッド31とピストンスカート40とはコンロッド41と共に、ピストンピン42に対して揺動自在に連結されている。ピストンヘッド31の外周部32には、複数個のピストンリング33が取り付けられている。ピストンヘッド31の頂面34には上方に開口した凹型の燃焼室35が設けられ、ピストンヘッド31の外周部32と燃焼室35との間には環状の冷却溝36が設けられている。
【0009】
このようなアーティキュレートピストン30では、コンロッド41の大端部41Dと小端部41Sを連通する油孔41Aを設け、コンロッド41のクランクピン部41Cからオイルを取り入れ、前記油孔41Aを通してコンロッド41の小端部41Sへ導き、このオイルを小端部41Sの先端に設けた孔41Hから燃焼室35の裏面35aに噴射する。また、図示しないクーリングノズルおよびガイドパイプを採用した冷却装置により、オイルを冷却溝36の内壁36aに噴射する。具体的には、冷却溝36の下方がバッフルプレート37で仕切られており、ガイドパイプからのオイルがバッフルプレート37に設けられた取入パイプ38を介して冷却溝36内に供給される。これにより、第1の従来例と同様な効果が得られるようになっている。
【0010】
【特許文献1】特開平11−132101号公報(第3〜4頁、図1、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記構成においては以下のような問題点がある。
図1において、前述のように、エンジン運転中に冷却用のエンジンオイルは、冷却空洞11および燃焼室10の裏面10aに供給され、高温になったピストン1の頭部を冷却する。エンジン停止時にはエンジンオイルの供給も停止される。したがって、エンジン停止時には、冷却用のエンジンオイルがピストン1に付着しており、このオイルが高温になる。
【0012】
特に温度の高い冷却空洞11の内壁11aの2点鎖線部a、および燃焼室10の裏面10aの2点鎖線部bに残溜して付着したエンジンオイルは、カーボン化して焼き付くといったコーキングを引き起こす。これを繰り返すことにより、コーキングオイルが層状をなして堆積し、熱伝達係数が悪化して冷却不良となり、この部分が高温になって強度が低下し、亀裂が生じるおそれがある。この傾向はエンジンを高出力化するほど大きくなる。また、内壁11a、裏面10aの表面粗さが粗いほどコーキングしたオイルが付着し易く、堆積し易い傾向にある。この問題を解決するためには冷却油量を増加すればよいが、そのためにオイルポンプが大型化したり、あるいはエンジンオイル冷却用のオイルクーラの容量が必要になったりなど、場積やコストの増大を招く。
【0013】
このような問題は、図3に示したアーティキュレートピストン30においても同様に生じる。すなわち、図3に示した2点鎖線部a,bにおいて、オイルのコーキングが発生すするのである。
【0014】
本発明は、上記の問題点に着目してなされたもので、ピストンをエンジンオイルで冷却する際に、エンジンオイルがコーキングして堆積するおそれが少ないうえに、構造が簡単で、しかも場積やコストが増大することもなく、エンジン高出力化に容易に対応可能な内燃機関用ピストンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の請求項1に係る内燃機関用ピストンは、オイルにより冷却される内燃機関用ピストンにおいて、頂面に凹んで設けられ、かつ裏面が前記オイルにより冷却される燃焼室と、燃焼室の外周部側に設けられ、かつ内壁が前記オイルにより冷却される環状の冷却空洞または環状の冷却溝とを備え、前記燃焼室の裏面、前記冷却空洞の内壁、および前記冷却溝の内壁うちの少なくともいずれかの表面粗さは、6.3S以下であることを特徴とする。
【0016】
本発明の請求項2に係る内燃機関用ピストンは、オイルにより冷却される内燃機関用ピストンにおいて、頂面に凹んで設けられ、かつ裏面が前記オイルにより冷却される燃焼室と、燃焼室の外周部側に設けられ、かつ内壁が前記オイルにより冷却される環状の冷却空洞または環状の冷却溝とを備え、前記燃焼室の裏面、前記冷却空洞の内壁、および前記冷却溝の内壁うちの少なくともいずれかの表面には、オイルコーキング防止用の表面コーティングが施されていることを特徴とする。
【0017】
本発明の請求項3に係る内燃機関用ピストンは、オイルにより冷却される内燃機関用ピストンにおいて、頂面に凹んで設けられ、かつ裏面が前記オイルにより冷却される燃焼室と、燃焼室の外周部側に設けられ、かつ内壁が前記オイルにより冷却される環状の冷却空洞または環状の冷却溝とを備え、前記燃焼室の裏面、前記冷却空洞の内壁、および前記冷却溝の内壁うちの少なくともいずれかの表面粗さは、6.3S以下であり、かつ当該いずれかの表面には、オイルコーキング防止用の表面コーティングが施されていることを特徴とする。
【0018】
本発明の請求項4に係る内燃機関用ピストンは、請求項2又は請求項3に記載の内燃機関用ピストンにおいて、前記表面コーティングが自己浄化性触媒(Self−Cleaning Catalyst)の薄膜であることを特徴とする。
【0019】
本発明の請求項5に係る内燃機関用ピストンは、請求項2又は請求項3に記載の内燃機関用ピストンにおいて、前記表面コーティングがホーロー(琺瑯)コーティング(Enamel Coating)の薄膜であることを特徴とする。
【0020】
本発明の請求項6に係る内燃機関用ピストンは、請求項2又は請求項3に記載の内燃機関用ピストンにおいて、前記表面コーティングがポリシラザン(ペルヒドロポリシラザン)・シリカコーティングの薄膜であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
以上において、請求項1の発明によれば、ピストンの冷却空洞、冷却溝、燃焼室の裏面の少なくともいずれかの表面粗さを6.3S以下とするため、その部分にオイルが残溜し難くなってオイルのコーキングを抑制でき、熱伝達係数の悪化が防止されて温度の上昇を抑制でき、この結果コーキングによるピストン強度の低下を防止できる。したがって、エンジン高出力化に伴う冷却油量やオイルクーラの容量増大が不要になり、構造が簡単で、場積やコストの増大を招くことなくエンジンの出力向上に容易に対応可能な内燃機関用ピストンが得られる。
なお、ここでの表面粗さとは、ピストンの金属面の表面粗さのことをいう。
【0022】
請求項2の発明によれば、ピストンの冷却空洞、冷却溝、燃焼室の裏面の少なくともいずれかの表面にオイルコーキング防止用の表面コーティングを施すので、やはりその部分にオイルが残溜し難くなってオイルのコーキングを抑制でき、熱伝達係数の悪化が防止されて温度の上昇を抑制でき、この結果コーキングによるピストン強度の低下を防止できる。したがって、容易に、かつ低コストでエンジン高出力化に対応できる内燃機関用ピストンが得られる。
【0023】
請求項3の発明によれば、ピストンの冷却空洞、冷却溝、燃焼室の裏面の少なくともいずれかの表面粗さを6.3S以下とするうえ、当該いずれかの表面にオイルコーキング防止用の表面コーティングを施すから、付着したままのエンジンオイルを一層少なくでき、コーキングをさらに生じ難くでき、コーキングによるピストン強度の低下をより確実に防止できる。したがって、容易に、かつ低コストでエンジン高出力化に対応できる内燃機関用ピストンが得られる。
なお、ここでの表面粗さとは、表面コーティングを施す以前の表面粗さであり、ピストンの金属面の表面粗さのことをいう。
【0024】
請求項4の発明によれば、表面コーティングを自己浄化触媒の薄膜とした。そのため、コーキングしたオイルを酸化させてCO2として排出し、表面に付着させないようにでき、また、表面コーティングを薄膜としたために、熱伝達係数の悪化を少なくできる。
【0025】
請求項5の発明によれば、表面コーティングをホーローコーティングの薄膜としたので、表面を一層滑らかにでき、コーキングオイルを付着し難くできるとともに、薄膜にすることで熱伝達係数の悪化を少なくできる。
【0026】
請求項6の発明によれば、表面コーティングをポリシラザン・シリカコーティングの薄膜としたので、極めて薄い皮膜コーティングができ、熱伝達係数の悪化を一層少なくし、かつ表面を一層滑らかにしてコーキングオイルを付着し難くできる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
[図1]第1の従来例の内燃機関用ピストンおよびピストン冷却装置の構成を示す側面断面図。
【図2】図1のX矢視図。
【図3】第2の従来例のピストンの構成を示す側面断面図。
【図4】本発明の第1実施形態に係る鋳造一体型のピストンヘッドを示す側面断面図。
【図5】第1実施形態のアーティキュレート型のピストンヘッドを示す側面断面図。
【図6】第2実施形態を示す断面図。
【図7】第3実施形態を示す断面図。
【図8】第4実施形態を説明するための図。
【符号の説明】
【0028】
1,30…ピストン、10,35…燃焼室、10a,35a…裏面、11…冷却空洞、11a,36a…内壁、36…冷却溝、50…自己浄化性触媒の薄膜、60…ホーローコーティングの薄膜。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の各実施形態を図面に基づいて説明する。
なお、各実施形態においては、図1ないし図3に示された従来のピストン1,30に対して、その一部位が異なるだけであり、ピストン形状や構造に関しては違いがないため、各実施形態を説明するにあたっても、図1ないし図3での符号をそのまま用いることとする。
【0030】
〔第1実施形態〕
図4は、本発明の第1実施形態に係る鋳造一体型のピストンヘッドを示す側面断面図、図5は、アーティキュレート型のピストンヘッドを示す側面断面図である。
本実施形態では、図4において、ピストン1の燃焼室10の裏面10aおよび冷却空洞11の内壁11aの表面粗さを6.3Sにする。また、図5においては、アーティキュレートピストン30の燃焼室35の裏面35aおよび冷却溝36の内壁36aの表面粗さを6.3S以下にする。具体的には、図4、図5に示した少なくとも2点鎖線部a′,b′の箇所の表面粗さが6.3S以下になっている。2点鎖線部a′,b′の箇所は、図1、図3の2点鎖線部a,bの箇所に対応している。
【0031】
ただし、ピストン1,30の温度上昇の度合いによっては、燃焼室10,35の裏面10a,35aのみの表面粗さを6.3S以下にしたり、冷却空洞11の内壁11aや冷却溝36の内壁36aのみの表面粗さを6.3S以下にしたりすることも考えられる。
【0032】
ここで表面粗さとは、JIS(Japan Industrial Standard:日本工業規格)での最大高さRz(JIS B 0601−2001)として規定されるものであり、本実施形態での「6.3S以下」とは、最大高さRzが6.3μm以下であることを意味している。
【0033】
表面粗さを6.3S以下にする方法としては、例えば、ショットピーニング、サンドブラスト加工、液体ホーニング、グラインダ加工、旋盤やフライス盤等の工作機械を用いた機械加工等により、鋳造後の鋳肌の表面(ピストン1の場合)や鍛造後の表面(ピストン30の場合)を加工することが挙げられる。また、鋳造で製造する場合には、鋳造自体を精密鋳造で行うことが挙げられる。その他、バフ仕上げ、ペーパ仕上げ、ラップ仕上げ、化学研磨、電解研磨等を行って6.3S以下の表面粗さに仕上げてもよい。
【0034】
〔第2実施形態〕
本発明の第2実施形態では、第1実施形態と同様に、ピストン1にあっては、燃焼室10の裏面10aおよび/または冷却空洞11の内壁11aの表面粗さを6.3S以下にし、ピストン30にあっては、燃焼室35の裏面35aおよび/または冷却溝36の内壁36aの表面粗さを6.3S以下にし、さらに、当該表面粗さ6.3以下とされた部位に対してオイルコーキング防止用の表面コーティングを施してある。
【0035】
本実施形態での表面コーティングは、図6に示す自己浄化性触媒の薄膜50である。
自己浄化性触媒の薄膜50は、触媒、耐熱性結合材(フリット)、多孔質(マット)形成材からなり、付着したオイルを触媒作用により無炎状態で酸化燃焼させ、水蒸気と炭酸ガスとに変化させる機能を有する。そして、エンジンが運転されており、ピストン1,30が通常通りに連続的にオイル冷却される場合には、供給されるオイルの絶対量が多いために、オイルは触媒反応によって酸化燃焼するよりも、冷却作用に専ら供されることとなる。一方、エンジンが停止し、ピストン1,30の冷却も停止した場合には、表面に付着残溜するオイルの絶対量が冷却時に比べて格段に少なくなるため、付着したオイルは冷却作用に供されず、触媒反応によって酸化燃焼し、薄膜50上から除かれてコーキングが防止されるのである。
【0036】
このような自己浄化触媒の薄膜50は、図6に示すように、ピストン1,30の金属表面上に形成されたホーロー組成の下塗り層51、下塗り層51上に形成された多孔質でかつホーロー組成の触媒層52からなり、触媒層52には触媒53が担持されている。また、薄膜50の厚さは、熱伝達係数の悪化がオイルによる冷却効果へ及ぼす影響を勘案して適宜に決められる。なお、必要に応じて金属表面と下塗り層51との間にアルミナイズド処理による耐食層を形成してもよい。
【0037】
用いられる触媒としては、例えば酸化用としてγ−MnO2、Zn−Mn系フェライトがあり、分解用としてα−Al2O3、ゼオライト(アルミノケイ酸塩)があり、共に微粉末状で用いられる。
ホーロー用の耐熱性結合材としては、例えばSiO2、B2O3、NaO、K2O、Li2O、CaO、Al2O3を合成した組成のものであり、ピストン1,30の材質の軟化温度を考慮すると、580℃以下の低温で焼成可能な低温ホーロー型が用いられる。
【0038】
薄膜50の形成方法は以下のように、2コート(塗布)1ファイア(焼成)で行う。
すなわち、先ず、ピストン1,30を脱脂、洗浄し、コーティング箇所に下塗り用の耐熱性結合材をミル引きして塗布し、3〜30μmの遠赤外波長による遠赤外線乾燥を行う。さらに、下塗りされた耐熱性結合材上には、触媒および耐熱性結合材を合わせてミル引きして塗布し、同様に遠赤外線乾燥を行う。この後、ステイプルを塗布して全体を焼き付けて焼成させ、下塗り層51および触媒層52からなる薄膜50を得る。
【0039】
〔第3実施形態〕
本発明の第3実施形態では、図7に示すように、表面コーティングとして第2実施形態での自己浄化触媒の薄膜50の代わりに、触媒を含まないホーローコーティングの薄膜60を採用している。この薄膜60は、触媒を含まないホーロー部分からなる単層で形成されている。ホーローの組成は、第2実施形態での耐熱結合材と同じ組成であってもよいが、その他、低温ホーロー型のホーロー引きに一般に使用される組成を適用できる。薄膜60の厚さはやはり、冷却効果への影響を勘案して決められるが、概ね2〜1000μmである。
【0040】
〔第4実施形態〕
本発明の第4実施形態では、表面コーティングとしてポリシラザン・シリカコーティングの薄膜を採用している。薄膜の形成箇所は、第2、第3実施形態と同じである。
この薄膜は、0.1〜1.0μm程度の単層で極めて薄く形成されており、図8に示すように、SiH2NHを基本ユニットとするポリシラザンの有機溶媒溶液を塗布液として用いるとともに、大気中または水蒸気含有雰囲気において450℃程度で焼成することにより、水分や酸素と反応して得られる緻密な高純度シリカ(アモルファスSiO2)膜である。
【0041】
このようなポリシラザンのコーティング材料は、クライアントジャパン社から供給を受けることが可能である。ポリシラザンの塗布方法は、スプレー塗布、ウェスを用いた手塗りによる塗り込み、フローコート、ロールコーター等、任意の方法であってよい。このポリシラザン・シリカコーティングによれば、セラミック化した極めて硬くて薄く、かつ非常に滑らかなシリカ膜が形成されるため、オイルの残溜を有効に防止でき、コーキングを確実に防止できる。
【0042】
なお、本発明は、前記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる他の構成等を含み、以下に示すような変形等も本発明に含まれる。
例えば、図1、図2、図4に示した鋳造一体型のピストン1においても、図3に示すアーティキュレートピストン30のように、コンロッドを通るオイルで燃焼室10の裏面10aを冷却してもよく、反対に、ピストン30での燃焼室35の裏面35aをも、クーリングノズルを通してガイドパイプから噴射されるオイルで冷却してもよい。
【0043】
また、そのようなクーリングノズルやガイドパイプは、ピストン1個当たり2組設けてもよく、この場合、1組を燃焼室外周側の冷却空洞や冷却溝に向けてオイルを噴射するのに用い、他の1組を燃焼室の裏面にオイルを噴射するのに用いることができる。
【0044】
前記第2実施形態ないし第4実施形態では、表面コーティングする箇所の表面粗さが6.3S以下であったが、本発明の請求項3を引用しない(請求項2のみを引用する)場合の請求項4ないし請求項6では、表面粗さが6.3Sより大きくてもよい。表面粗さが6.3Sよりも大きい場合でも、表面コーティングを施すことで、オイルが残溜し難くなり、コーキングを十分に抑制できるのである。ただし、表面粗さを6.3S以下としておけば、オイルの残溜をより確実に防止でき、一層効果的である。
【0045】
本発明を実施するための最良の構成、方法などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示され、かつ説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、形状、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。
したがって、上記に開示した形状、数量などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状、数量などの限定の一部もしくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、ディーゼルエンジンやガソリンエンジン等の内燃機関に用いられるあらゆるピストンに利用可能である。
【図1】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用ピストンに係り、特には、エンジンオイルによるピストン冷却装置を有した高速、高出力ディーゼルエンジンに採用されるピストンの冷却性能向上手段に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高出力のディーゼルエンジンにおけるピストン冷却装置については、例えば特許文献1に記載された内燃機関用ピストン冷却装置がある。
【0003】
図1は、上記特許文献1に記載された内燃機関用ピストンおよびピストン冷却装置の構成を示す側面断面図であり、図2は、図1のX矢視図である。そして、図1は図2のA−A矢視図である。
図1、図2において、第1の従来例としてのピストン1は鋳造品(例えばFCD:球状黒鉛鋳鉄)である。ピストン1の頂面2には上方に開口した凹型の燃焼室10が設けられ、燃焼室10とピストンリング溝4を有するピストン1の上部外周部3との間には、環状の冷却空洞11が設けられている。
【0004】
冷却空洞11には、ほぼT字状に直交してピストン1の裏面側に連通される取入口12と、この取入口12からほぼ90〜180度隔離した位置で、同じく前記冷却空洞11にほぼT字状に直交してピストン1の裏面側に連通される吐出口13とが設けられている。また、ピストン1の内部には、取入口12とピストン1のスカート5の下端部6との間を連通するガイドパイプ14が設けられており、このガイドパイプ14が冷却用のエンジンオイルの通路になっている。ガイドパイプ14の上部には、燃焼室10の裏面10aに向けて冷却オイルを噴出するための噴油口15が穿設されている。
【0005】
ピストン1下方の図示しないシリンダブロックには、オイルポンプ21からエンジンオイルの供給を受ける冷却油供給通路22が形成され、冷却油供給通路22には、ガイドパイプ14の下端部14aを指向するクーリングノズル23が取り付けられている。そして、これらオイルポンプ21、冷却油供給通路22、およびクーリングノズル23により、冷却装置20が構成されている。
【0006】
次に動作について説明する。
図1において、冷却用のエンジンオイルはオイルポンプ21から冷却油供給通路22を通り、クーリングノズル23に圧送される。クーリングノズル23からガイドパイプ14の下端部14aに向けて噴射されたエンジンオイルは、ガイドパイプ14内を上昇し、矢印で示すように取入口12から冷却空洞11に入り、左右に分流して冷却空洞11の内壁11aを冷却した後、吐出口13から図示しないシリンダブロック内に放出される。また、ガイドパイプ14内を上昇したエンジンオイルの一部は、噴油口15から矢印で示すように燃焼室10の裏面10aに向けて噴射され、裏面10aを冷却した後、図示しないシリンダブロック内に放出される。
【0007】
これにより、燃焼室10の裏面10aに向けて噴射されるエンジンオイルは、図示しないコンロッドやピンボスに邪魔されることなく、燃焼室10の裏面10aを確実に冷却する。また、クーリングノズル23の出口とガイドパイプ14の下端部14aとの距離が十分に小さくなっており、このためにエンジンオイルの捕捉率が向上し、冷却油量を小さくできる。さらに、クーリングノズル23が1本ですみ、構造が簡単でコストも安価にできる。したがって、このピストンは高速、高出力のエンジンに好適であるとしている。
【0008】
図3には、第2の従来例として、アーティキュレートピストン30の側面断面図が示されている。
図3において、アーティキュレートピストン30は、例えば鉄の鍛造製のピストンヘッド31と、アルミニウム製のピストンスカート40とから構成され、ピストンヘッド31とピストンスカート40とはコンロッド41と共に、ピストンピン42に対して揺動自在に連結されている。ピストンヘッド31の外周部32には、複数個のピストンリング33が取り付けられている。ピストンヘッド31の頂面34には上方に開口した凹型の燃焼室35が設けられ、ピストンヘッド31の外周部32と燃焼室35との間には環状の冷却溝36が設けられている。
【0009】
このようなアーティキュレートピストン30では、コンロッド41の大端部41Dと小端部41Sを連通する油孔41Aを設け、コンロッド41のクランクピン部41Cからオイルを取り入れ、前記油孔41Aを通してコンロッド41の小端部41Sへ導き、このオイルを小端部41Sの先端に設けた孔41Hから燃焼室35の裏面35aに噴射する。また、図示しないクーリングノズルおよびガイドパイプを採用した冷却装置により、オイルを冷却溝36の内壁36aに噴射する。具体的には、冷却溝36の下方がバッフルプレート37で仕切られており、ガイドパイプからのオイルがバッフルプレート37に設けられた取入パイプ38を介して冷却溝36内に供給される。これにより、第1の従来例と同様な効果が得られるようになっている。
【0010】
【特許文献1】特開平11−132101号公報(第3〜4頁、図1、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記構成においては以下のような問題点がある。
図1において、前述のように、エンジン運転中に冷却用のエンジンオイルは、冷却空洞11および燃焼室10の裏面10aに供給され、高温になったピストン1の頭部を冷却する。エンジン停止時にはエンジンオイルの供給も停止される。したがって、エンジン停止時には、冷却用のエンジンオイルがピストン1に付着しており、このオイルが高温になる。
【0012】
特に温度の高い冷却空洞11の内壁11aの2点鎖線部a、および燃焼室10の裏面10aの2点鎖線部bに残溜して付着したエンジンオイルは、カーボン化して焼き付くといったコーキングを引き起こす。これを繰り返すことにより、コーキングオイルが層状をなして堆積し、熱伝達係数が悪化して冷却不良となり、この部分が高温になって強度が低下し、亀裂が生じるおそれがある。この傾向はエンジンを高出力化するほど大きくなる。また、内壁11a、裏面10aの表面粗さが粗いほどコーキングしたオイルが付着し易く、堆積し易い傾向にある。この問題を解決するためには冷却油量を増加すればよいが、そのためにオイルポンプが大型化したり、あるいはエンジンオイル冷却用のオイルクーラの容量が必要になったりなど、場積やコストの増大を招く。
【0013】
このような問題は、図3に示したアーティキュレートピストン30においても同様に生じる。すなわち、図3に示した2点鎖線部a,bにおいて、オイルのコーキングが発生すするのである。
【0014】
本発明は、上記の問題点に着目してなされたもので、ピストンをエンジンオイルで冷却する際に、エンジンオイルがコーキングして堆積するおそれが少ないうえに、構造が簡単で、しかも場積やコストが増大することもなく、エンジン高出力化に容易に対応可能な内燃機関用ピストンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の請求項1に係る内燃機関用ピストンは、オイルにより冷却される内燃機関用ピストンにおいて、頂面に凹んで設けられ、かつ裏面が前記オイルにより冷却される燃焼室と、燃焼室の外周部側に設けられ、かつ内壁が前記オイルにより冷却される環状の冷却空洞または環状の冷却溝とを備え、前記燃焼室の裏面、前記冷却空洞の内壁、および前記冷却溝の内壁うちの少なくともいずれかの表面粗さは、6.3S以下であることを特徴とする。
【0016】
本発明の請求項2に係る内燃機関用ピストンは、オイルにより冷却される内燃機関用ピストンにおいて、頂面に凹んで設けられ、かつ裏面が前記オイルにより冷却される燃焼室と、燃焼室の外周部側に設けられ、かつ内壁が前記オイルにより冷却される環状の冷却空洞または環状の冷却溝とを備え、前記燃焼室の裏面、前記冷却空洞の内壁、および前記冷却溝の内壁うちの少なくともいずれかの表面には、オイルコーキング防止用の表面コーティングが施されていることを特徴とする。
【0017】
本発明の請求項3に係る内燃機関用ピストンは、オイルにより冷却される内燃機関用ピストンにおいて、頂面に凹んで設けられ、かつ裏面が前記オイルにより冷却される燃焼室と、燃焼室の外周部側に設けられ、かつ内壁が前記オイルにより冷却される環状の冷却空洞または環状の冷却溝とを備え、前記燃焼室の裏面、前記冷却空洞の内壁、および前記冷却溝の内壁うちの少なくともいずれかの表面粗さは、6.3S以下であり、かつ当該いずれかの表面には、オイルコーキング防止用の表面コーティングが施されていることを特徴とする。
【0018】
本発明の請求項4に係る内燃機関用ピストンは、請求項2又は請求項3に記載の内燃機関用ピストンにおいて、前記表面コーティングが自己浄化性触媒(Self−Cleaning Catalyst)の薄膜であることを特徴とする。
【0019】
本発明の請求項5に係る内燃機関用ピストンは、請求項2又は請求項3に記載の内燃機関用ピストンにおいて、前記表面コーティングがホーロー(琺瑯)コーティング(Enamel Coating)の薄膜であることを特徴とする。
【0020】
本発明の請求項6に係る内燃機関用ピストンは、請求項2又は請求項3に記載の内燃機関用ピストンにおいて、前記表面コーティングがポリシラザン(ペルヒドロポリシラザン)・シリカコーティングの薄膜であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
以上において、請求項1の発明によれば、ピストンの冷却空洞、冷却溝、燃焼室の裏面の少なくともいずれかの表面粗さを6.3S以下とするため、その部分にオイルが残溜し難くなってオイルのコーキングを抑制でき、熱伝達係数の悪化が防止されて温度の上昇を抑制でき、この結果コーキングによるピストン強度の低下を防止できる。したがって、エンジン高出力化に伴う冷却油量やオイルクーラの容量増大が不要になり、構造が簡単で、場積やコストの増大を招くことなくエンジンの出力向上に容易に対応可能な内燃機関用ピストンが得られる。
なお、ここでの表面粗さとは、ピストンの金属面の表面粗さのことをいう。
【0022】
請求項2の発明によれば、ピストンの冷却空洞、冷却溝、燃焼室の裏面の少なくともいずれかの表面にオイルコーキング防止用の表面コーティングを施すので、やはりその部分にオイルが残溜し難くなってオイルのコーキングを抑制でき、熱伝達係数の悪化が防止されて温度の上昇を抑制でき、この結果コーキングによるピストン強度の低下を防止できる。したがって、容易に、かつ低コストでエンジン高出力化に対応できる内燃機関用ピストンが得られる。
【0023】
請求項3の発明によれば、ピストンの冷却空洞、冷却溝、燃焼室の裏面の少なくともいずれかの表面粗さを6.3S以下とするうえ、当該いずれかの表面にオイルコーキング防止用の表面コーティングを施すから、付着したままのエンジンオイルを一層少なくでき、コーキングをさらに生じ難くでき、コーキングによるピストン強度の低下をより確実に防止できる。したがって、容易に、かつ低コストでエンジン高出力化に対応できる内燃機関用ピストンが得られる。
なお、ここでの表面粗さとは、表面コーティングを施す以前の表面粗さであり、ピストンの金属面の表面粗さのことをいう。
【0024】
請求項4の発明によれば、表面コーティングを自己浄化触媒の薄膜とした。そのため、コーキングしたオイルを酸化させてCO2として排出し、表面に付着させないようにでき、また、表面コーティングを薄膜としたために、熱伝達係数の悪化を少なくできる。
【0025】
請求項5の発明によれば、表面コーティングをホーローコーティングの薄膜としたので、表面を一層滑らかにでき、コーキングオイルを付着し難くできるとともに、薄膜にすることで熱伝達係数の悪化を少なくできる。
【0026】
請求項6の発明によれば、表面コーティングをポリシラザン・シリカコーティングの薄膜としたので、極めて薄い皮膜コーティングができ、熱伝達係数の悪化を一層少なくし、かつ表面を一層滑らかにしてコーキングオイルを付着し難くできる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
[図1]第1の従来例の内燃機関用ピストンおよびピストン冷却装置の構成を示す側面断面図。
【図2】図1のX矢視図。
【図3】第2の従来例のピストンの構成を示す側面断面図。
【図4】本発明の第1実施形態に係る鋳造一体型のピストンヘッドを示す側面断面図。
【図5】第1実施形態のアーティキュレート型のピストンヘッドを示す側面断面図。
【図6】第2実施形態を示す断面図。
【図7】第3実施形態を示す断面図。
【図8】第4実施形態を説明するための図。
【符号の説明】
【0028】
1,30…ピストン、10,35…燃焼室、10a,35a…裏面、11…冷却空洞、11a,36a…内壁、36…冷却溝、50…自己浄化性触媒の薄膜、60…ホーローコーティングの薄膜。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の各実施形態を図面に基づいて説明する。
なお、各実施形態においては、図1ないし図3に示された従来のピストン1,30に対して、その一部位が異なるだけであり、ピストン形状や構造に関しては違いがないため、各実施形態を説明するにあたっても、図1ないし図3での符号をそのまま用いることとする。
【0030】
〔第1実施形態〕
図4は、本発明の第1実施形態に係る鋳造一体型のピストンヘッドを示す側面断面図、図5は、アーティキュレート型のピストンヘッドを示す側面断面図である。
本実施形態では、図4において、ピストン1の燃焼室10の裏面10aおよび冷却空洞11の内壁11aの表面粗さを6.3Sにする。また、図5においては、アーティキュレートピストン30の燃焼室35の裏面35aおよび冷却溝36の内壁36aの表面粗さを6.3S以下にする。具体的には、図4、図5に示した少なくとも2点鎖線部a′,b′の箇所の表面粗さが6.3S以下になっている。2点鎖線部a′,b′の箇所は、図1、図3の2点鎖線部a,bの箇所に対応している。
【0031】
ただし、ピストン1,30の温度上昇の度合いによっては、燃焼室10,35の裏面10a,35aのみの表面粗さを6.3S以下にしたり、冷却空洞11の内壁11aや冷却溝36の内壁36aのみの表面粗さを6.3S以下にしたりすることも考えられる。
【0032】
ここで表面粗さとは、JIS(Japan Industrial Standard:日本工業規格)での最大高さRz(JIS B 0601−2001)として規定されるものであり、本実施形態での「6.3S以下」とは、最大高さRzが6.3μm以下であることを意味している。
【0033】
表面粗さを6.3S以下にする方法としては、例えば、ショットピーニング、サンドブラスト加工、液体ホーニング、グラインダ加工、旋盤やフライス盤等の工作機械を用いた機械加工等により、鋳造後の鋳肌の表面(ピストン1の場合)や鍛造後の表面(ピストン30の場合)を加工することが挙げられる。また、鋳造で製造する場合には、鋳造自体を精密鋳造で行うことが挙げられる。その他、バフ仕上げ、ペーパ仕上げ、ラップ仕上げ、化学研磨、電解研磨等を行って6.3S以下の表面粗さに仕上げてもよい。
【0034】
〔第2実施形態〕
本発明の第2実施形態では、第1実施形態と同様に、ピストン1にあっては、燃焼室10の裏面10aおよび/または冷却空洞11の内壁11aの表面粗さを6.3S以下にし、ピストン30にあっては、燃焼室35の裏面35aおよび/または冷却溝36の内壁36aの表面粗さを6.3S以下にし、さらに、当該表面粗さ6.3以下とされた部位に対してオイルコーキング防止用の表面コーティングを施してある。
【0035】
本実施形態での表面コーティングは、図6に示す自己浄化性触媒の薄膜50である。
自己浄化性触媒の薄膜50は、触媒、耐熱性結合材(フリット)、多孔質(マット)形成材からなり、付着したオイルを触媒作用により無炎状態で酸化燃焼させ、水蒸気と炭酸ガスとに変化させる機能を有する。そして、エンジンが運転されており、ピストン1,30が通常通りに連続的にオイル冷却される場合には、供給されるオイルの絶対量が多いために、オイルは触媒反応によって酸化燃焼するよりも、冷却作用に専ら供されることとなる。一方、エンジンが停止し、ピストン1,30の冷却も停止した場合には、表面に付着残溜するオイルの絶対量が冷却時に比べて格段に少なくなるため、付着したオイルは冷却作用に供されず、触媒反応によって酸化燃焼し、薄膜50上から除かれてコーキングが防止されるのである。
【0036】
このような自己浄化触媒の薄膜50は、図6に示すように、ピストン1,30の金属表面上に形成されたホーロー組成の下塗り層51、下塗り層51上に形成された多孔質でかつホーロー組成の触媒層52からなり、触媒層52には触媒53が担持されている。また、薄膜50の厚さは、熱伝達係数の悪化がオイルによる冷却効果へ及ぼす影響を勘案して適宜に決められる。なお、必要に応じて金属表面と下塗り層51との間にアルミナイズド処理による耐食層を形成してもよい。
【0037】
用いられる触媒としては、例えば酸化用としてγ−MnO2、Zn−Mn系フェライトがあり、分解用としてα−Al2O3、ゼオライト(アルミノケイ酸塩)があり、共に微粉末状で用いられる。
ホーロー用の耐熱性結合材としては、例えばSiO2、B2O3、NaO、K2O、Li2O、CaO、Al2O3を合成した組成のものであり、ピストン1,30の材質の軟化温度を考慮すると、580℃以下の低温で焼成可能な低温ホーロー型が用いられる。
【0038】
薄膜50の形成方法は以下のように、2コート(塗布)1ファイア(焼成)で行う。
すなわち、先ず、ピストン1,30を脱脂、洗浄し、コーティング箇所に下塗り用の耐熱性結合材をミル引きして塗布し、3〜30μmの遠赤外波長による遠赤外線乾燥を行う。さらに、下塗りされた耐熱性結合材上には、触媒および耐熱性結合材を合わせてミル引きして塗布し、同様に遠赤外線乾燥を行う。この後、ステイプルを塗布して全体を焼き付けて焼成させ、下塗り層51および触媒層52からなる薄膜50を得る。
【0039】
〔第3実施形態〕
本発明の第3実施形態では、図7に示すように、表面コーティングとして第2実施形態での自己浄化触媒の薄膜50の代わりに、触媒を含まないホーローコーティングの薄膜60を採用している。この薄膜60は、触媒を含まないホーロー部分からなる単層で形成されている。ホーローの組成は、第2実施形態での耐熱結合材と同じ組成であってもよいが、その他、低温ホーロー型のホーロー引きに一般に使用される組成を適用できる。薄膜60の厚さはやはり、冷却効果への影響を勘案して決められるが、概ね2〜1000μmである。
【0040】
〔第4実施形態〕
本発明の第4実施形態では、表面コーティングとしてポリシラザン・シリカコーティングの薄膜を採用している。薄膜の形成箇所は、第2、第3実施形態と同じである。
この薄膜は、0.1〜1.0μm程度の単層で極めて薄く形成されており、図8に示すように、SiH2NHを基本ユニットとするポリシラザンの有機溶媒溶液を塗布液として用いるとともに、大気中または水蒸気含有雰囲気において450℃程度で焼成することにより、水分や酸素と反応して得られる緻密な高純度シリカ(アモルファスSiO2)膜である。
【0041】
このようなポリシラザンのコーティング材料は、クライアントジャパン社から供給を受けることが可能である。ポリシラザンの塗布方法は、スプレー塗布、ウェスを用いた手塗りによる塗り込み、フローコート、ロールコーター等、任意の方法であってよい。このポリシラザン・シリカコーティングによれば、セラミック化した極めて硬くて薄く、かつ非常に滑らかなシリカ膜が形成されるため、オイルの残溜を有効に防止でき、コーキングを確実に防止できる。
【0042】
なお、本発明は、前記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる他の構成等を含み、以下に示すような変形等も本発明に含まれる。
例えば、図1、図2、図4に示した鋳造一体型のピストン1においても、図3に示すアーティキュレートピストン30のように、コンロッドを通るオイルで燃焼室10の裏面10aを冷却してもよく、反対に、ピストン30での燃焼室35の裏面35aをも、クーリングノズルを通してガイドパイプから噴射されるオイルで冷却してもよい。
【0043】
また、そのようなクーリングノズルやガイドパイプは、ピストン1個当たり2組設けてもよく、この場合、1組を燃焼室外周側の冷却空洞や冷却溝に向けてオイルを噴射するのに用い、他の1組を燃焼室の裏面にオイルを噴射するのに用いることができる。
【0044】
前記第2実施形態ないし第4実施形態では、表面コーティングする箇所の表面粗さが6.3S以下であったが、本発明の請求項3を引用しない(請求項2のみを引用する)場合の請求項4ないし請求項6では、表面粗さが6.3Sより大きくてもよい。表面粗さが6.3Sよりも大きい場合でも、表面コーティングを施すことで、オイルが残溜し難くなり、コーキングを十分に抑制できるのである。ただし、表面粗さを6.3S以下としておけば、オイルの残溜をより確実に防止でき、一層効果的である。
【0045】
本発明を実施するための最良の構成、方法などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示され、かつ説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、形状、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。
したがって、上記に開示した形状、数量などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状、数量などの限定の一部もしくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、ディーゼルエンジンやガソリンエンジン等の内燃機関に用いられるあらゆるピストンに利用可能である。
【図1】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルにより冷却される内燃機関用ピストンにおいて、
頂面に凹んで設けられ、かつ裏面が前記オイルにより冷却される燃焼室と、
燃焼室の外周部側に設けられ、かつ内壁が前記オイルにより冷却される環状の冷却空洞または環状の冷却溝とを備え、
前記燃焼室の裏面、前記冷却空洞の内壁、および前記冷却溝の内壁うちの少なくともいずれかの表面粗さは、6.3S以下である
ことを特徴とする内燃機関用ピストン。
【請求項2】
オイルにより冷却される内燃機関用ピストンにおいて、
頂面に凹んで設けられ、かつ裏面が前記オイルにより冷却される燃焼室と、
燃焼室の外周部側に設けられ、かつ内壁が前記オイルにより冷却される環状の冷却空洞または環状の冷却溝とを備え、
前記燃焼室の裏面、前記冷却空洞の内壁、および前記冷却溝の内壁うちの少なくともいずれかの表面には、オイルコーキング防止用の表面コーティングが施されている
ことを特徴とする内燃機関用ピストン。
【請求項3】
オイルにより冷却される内燃機関用ピストンにおいて、
頂面に凹んで設けられ、かつ裏面が前記オイルにより冷却される燃焼室と、
燃焼室の外周部側に設けられ、かつ内壁が前記オイルにより冷却される環状の冷却空洞または環状の冷却溝とを備え、
前記燃焼室の裏面、前記冷却空洞の内壁、および前記冷却溝の内壁うちの少なくともいずれかの表面粗さは、6.3S以下であり、
かつ当該いずれかの表面には、オイルコーキング防止用の表面コーティングが施されている
ことを特徴とする内燃機関用ピストン。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の内燃機関用ピストンにおいて、
前記表面コーティングが自己浄化性触媒の薄膜である
ことを特徴とする内燃機関用ピストン。
【請求項5】
請求項2又は請求項3に記載の内燃機関用ピストンにおいて、
前記表面コーティングがホーローコーティングの薄膜である
ことを特徴とする内燃機関用ピストン。
【請求項6】
請求項2又は請求項3に記載の内燃機関用ピストンにおいて、
前記表面コーティングがポリシラザン・シリカコーティングの薄膜である
ことを特徴とする内燃機関用ピストン。
【請求項1】
オイルにより冷却される内燃機関用ピストンにおいて、
頂面に凹んで設けられ、かつ裏面が前記オイルにより冷却される燃焼室と、
燃焼室の外周部側に設けられ、かつ内壁が前記オイルにより冷却される環状の冷却空洞または環状の冷却溝とを備え、
前記燃焼室の裏面、前記冷却空洞の内壁、および前記冷却溝の内壁うちの少なくともいずれかの表面粗さは、6.3S以下である
ことを特徴とする内燃機関用ピストン。
【請求項2】
オイルにより冷却される内燃機関用ピストンにおいて、
頂面に凹んで設けられ、かつ裏面が前記オイルにより冷却される燃焼室と、
燃焼室の外周部側に設けられ、かつ内壁が前記オイルにより冷却される環状の冷却空洞または環状の冷却溝とを備え、
前記燃焼室の裏面、前記冷却空洞の内壁、および前記冷却溝の内壁うちの少なくともいずれかの表面には、オイルコーキング防止用の表面コーティングが施されている
ことを特徴とする内燃機関用ピストン。
【請求項3】
オイルにより冷却される内燃機関用ピストンにおいて、
頂面に凹んで設けられ、かつ裏面が前記オイルにより冷却される燃焼室と、
燃焼室の外周部側に設けられ、かつ内壁が前記オイルにより冷却される環状の冷却空洞または環状の冷却溝とを備え、
前記燃焼室の裏面、前記冷却空洞の内壁、および前記冷却溝の内壁うちの少なくともいずれかの表面粗さは、6.3S以下であり、
かつ当該いずれかの表面には、オイルコーキング防止用の表面コーティングが施されている
ことを特徴とする内燃機関用ピストン。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の内燃機関用ピストンにおいて、
前記表面コーティングが自己浄化性触媒の薄膜である
ことを特徴とする内燃機関用ピストン。
【請求項5】
請求項2又は請求項3に記載の内燃機関用ピストンにおいて、
前記表面コーティングがホーローコーティングの薄膜である
ことを特徴とする内燃機関用ピストン。
【請求項6】
請求項2又は請求項3に記載の内燃機関用ピストンにおいて、
前記表面コーティングがポリシラザン・シリカコーティングの薄膜である
ことを特徴とする内燃機関用ピストン。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【国際公開番号】WO2005/066481
【国際公開日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【発行日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516848(P2005−516848)
【国際出願番号】PCT/JP2004/019504
【国際出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】
【国際公開日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【発行日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【国際出願番号】PCT/JP2004/019504
【国際出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】
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