説明

内燃機関用潤滑油組成物

【課題】加水分解安定性に優れ、水分が混入し蓄積しやすい条件においても塩基価の維持性能に優れるとともに、高温清浄性も良好な、ハイブリッド自動車の内燃機関用潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】(A)潤滑油基油に、組成物全量基準で、(B1)サリシレート系清浄剤を金属量として0.005〜0.5質量%、(C2)ホウ素を含有しないコハク酸イミド系無灰分散剤のみからなる(C)コハク酸イミド系無灰分散剤を窒素量として0.005〜0.4質量%、(D)リン含有酸の金属塩をリン量として0.005〜0.2質量%、含有する内燃機関用潤滑油組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハイブリッド自動車の内燃機関用潤滑油組成物に関し、詳しくは電気モーター及びエンジンの両者を備え、そのいずれか一方又は両者で駆動するハイブリッド自動車の内燃機関用潤滑油組成物に関し、特に水分が混入し、蓄積される条件下においても塩基価維持性に優れ、長期にわたって金属系清浄剤を有効に機能させることができ、さらには高温清浄性も良好な該内燃機関用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気モーター及びエンジンの両者を備え、その一方又は両者で駆動するハイブリッド自動車が実用化されるようになってきた。ハイブリッド車には、代表的には、エンジンを発電機の動力として使用し、モーターだけで駆動するシリーズ方式、低速時にはモーターによる駆動が主体、高速時にはエンジンによる駆動が主体であり、発進時・急加速時にエンジン駆動をモーター駆動でアシストするパラレル方式、及び発進・低速時はモーターによる駆動が主体で、速度が上がるとエンジン駆動とモーター駆動とをバランスよく分配するシリーズ・パラレル方式等がある。これらハイブリッド車は、停車時にはエンジンが停止され、モーター駆動のみで走行する場合や制動時にはエンジンの燃料系統がストップされる制御等がなされるため、エンジンは停止と稼動が繰り返されることになる。従って、これらに使用されるエンジン油は従来のエンジンのみで駆動する自動車のエンジン油と比べ特有の使用環境にあるといえる。しかし、このようなハイブリッド自動車用に特化した内燃機関用潤滑油に関する検討は十分になされておらず、また、その知見もほとんど得られていないのが現状である。
【0003】
本発明者は、上記ハイブリッド自動車の内燃機関の特性について調べたところ、従来の内燃機関よりも金属系清浄剤の機能を短期間で損ないやすいことが判明した。また、さらに詳細に検討したところ、ハイブリッド自動車、特にパラレル方式又はシリーズ・パラレル方式のハイブリッド自動車の内燃機関の使用条件においては、潤滑油に混入した水分が蓄積されやすく、金属系清浄剤の加水分解による劣化によって、炭酸カルシウムが粗粒化したり潤滑油の塩基価が著しく低下したりしやすいことも判明した。従って、上記ハイブリッド自動車の内燃機関用に好適な潤滑油としては、加水分解安定性に優れ、高い塩基価維持性能を有することが不可欠であり、また、エンジン性能保持及び潤滑油の長寿命化のためには、新油時に高い高温清浄性を有し、かつ、その性能を維持できるものであることが必要とされる。
【0004】
通常、内燃機関用潤滑油には、摩耗防止剤兼酸化防止剤としてジチオリン酸亜鉛が、酸化安定性、高温清浄性及び酸中和能力を高めるために過塩基性金属系清浄剤や無灰分散剤等の各種添加剤が配合されている。内燃機関用潤滑油は、排ガス浄化装置等への影響を極力回避するために低リン、低灰化が検討されているが、低灰化を目的として過塩基性の金属系清浄剤の単純に低減すると、高温清浄性や酸中和性能が不十分となる。従って、金属系清浄剤を限られた配合量の中で有効に機能させ、高温清浄性や酸中和能力を高いレベルで長期間維持させることが重要である。しかし、ジチオリン酸亜鉛を主として使用する低灰油の場合には、高温清浄性を高めることは困難であり、特に、ハイブリッド自動車の内燃機関のように水分が混入し蓄積されやすい条件においては、過塩基性の金属系清浄剤を長期にわたって有効に機能させることは困難である。
【0005】
近年、高温清浄性や塩基価維持性等のロングドレイン性に極めて優れた潤滑油組成物として、ジアルキルリン酸亜鉛等の硫黄を含まないか、硫黄を減らしたリン化合物を含有する潤滑油が提案されている(例えば特許文献1及び2)。
【特許文献1】特開2002−294271号公報
【特許文献2】特許第3662228号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1や2に記載の潤滑油は、塩基価維持性や高温清浄性が良好な低硫黄の組成物であり、主としてガスエンジン用途に好適に用いることができる。しかし、ジチオリン酸亜鉛を主として使用する場合や金属比の高い金属系清浄剤を使用した場合、あるいは金属系清浄剤の含有量を低減した場合においても良好な高温清浄性や塩基価維持性が求められている。特に、ハイブリッド自動車の内燃機関での使用を考慮すると、水分が混入し蓄積される使用条件、すなわち加水分解条件下での塩基価維持性を高めることが必須である。また、高温清浄性についてもより高く保持することが望ましい。
【0007】
本発明の課題の第1は、以上のような事情に鑑み、加水分解安定性に優れ、水分が混入し、蓄積しやすい条件においても塩基価の維持性能に優れる、電気モーター及び/又はエンジンで駆動するハイブリッド自動車の内燃機関用、特にエンジン停止と稼動が頻繁に繰り返されるパラレル方式又はシリーズ・パラレル方式のハイブリッド自動車の内燃機関用潤滑油組成物を提供することである。
【0008】
また、本発明の課題の第2は、上記性能に優れるとともに、高温清浄性も良好な該内燃機関用潤滑油組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、潤滑油基油に、特定の添加剤を含有する内燃機関用潤滑油組成物が、加水分解安定性に格段に優れており、水分が混入し、蓄積しやすい条件においても高い塩基価を維持できることを見出した。また、特定の潤滑油基油や添加剤をさらに選別し、組み合わせることで、加水分解安定性のみならず高温清浄性にも優れる内燃機関用潤滑油組成物となることも見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明の第1の態様は、(A)潤滑油基油に、組成物全量基準で、(B1)サリシレート系清浄剤を金属量として0.005〜0.5質量%、(C2)ホウ素を含有しないコハク酸イミド系無灰分散剤のみからなる(C)コハク酸イミド系無灰分散剤を窒素量として0.005〜0.4質量%、(D)リン含有酸の金属塩をリン量として0.005〜0.2質量%、含有することを特徴とするハイブリッド自動車の内燃機関用潤滑油組成物を提供して前記課題を解決するものである。
【0011】
また、本発明の第2の態様は、(A)潤滑油基油に、組成物全量基準で、(B1)サリシレート系清浄剤を金属量として0.005〜0.5質量%、(C1)ホウ素含有コハク酸イミド系無灰分散剤をホウ素量として0.001〜0.03質量%、(C2)ホウ素を含有しないコハク酸イミド系無灰分散剤を窒素量として0.005〜0.4質量%、(D)リン含有有機酸の金属塩をリン量として0.005〜0.2質量%、含有することを特徴とするハイブリッド自動車の内燃機関用潤滑油組成物を提供して前記課題を解決するものである。
【0012】
第2の態様において、前記(C1)成分と(C2)成分に起因する合計窒素含有量と前記(C1)成分に起因するホウ素含有量との質量比(B/N比)は、0.05〜0.3であることが好ましい。
【0013】
また、第1及び第2の態様において、前記(B1)成分は、ジアルキルサリチル酸を含むアルキルサリチル酸の金属塩、及び/又はその(過)塩基性塩であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、加水分解安定性に非常に優れており、水分が混入し、蓄積しやすい条件においても、高い塩基価を維持することができる。また、本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、高温清浄性も良好なため、エンジン性能保持及び潤滑油の長寿命化を実現できる。従って、特に電気モーター及び/又はエンジンで駆動するハイブリッド自動車、中でもエンジン停止と稼動が頻繁に繰り返されるパラレル方式又はシリーズ・パラレル方式のハイブリッド自動車の内燃機関用に好適に使用することができるだけでなく、その他、水分が蒸発しにくい条件で運転される船外機等の船舶用内燃機関、水分が多量に混入しやすいガスエンジン、アイドリングストップ制御がなされたガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等にも好適に使用することができる。
【0015】
本発明のこのような作用及び利得は、次に説明する発明を実施するための最良の形態から明らかにされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の潤滑油組成物について詳述する。
本発明の潤滑油組成物における(A)成分は、潤滑油基油であり、通常の潤滑油に使用される鉱油系基油及び/又は合成系基油を使用することができる。
【0017】
鉱油系基油としては、具体的には、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、水素異性化、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製等の処理を1つ以上行って精製したもの、あるいはワックス異性化鉱油、GTL WAX(ガストゥリキッドワックス)を異性化する手法で製造される基油等が例示できる。
【0018】
合成系基油としては、具体的には、ポリブテン又はその水素化物;1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー等のポリ−α−オレフィン又はその水素化物;ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、及びジ−2−エチルヘキシルセバケート等のジエステル;ネオペンチルグリコールエステル、トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、及びペンタエリスリトールペラルゴネート等のポリオールエステル;アルキルナフタレン、アルキルベンゼン、及び芳香族エステル等の芳香族系合成油又はこれらの混合物等が例示できる。
【0019】
本発明における(A)潤滑油基油としては、上記鉱油系基油、上記合成系基油又はこれらの中から選ばれる2種以上の任意混合物等が使用できる。例えば、1種以上の鉱油系基油、1種以上の合成系基油、1種以上の鉱油系基油と1種以上の合成系基油との混合油等を挙げることができる。
【0020】
また、本発明の(A)潤滑油基油としては、その性状に特に制限はないが、その100℃における動粘度は好ましくは1〜8mm/s、より好ましくは3〜6mm/sであり、その40℃動粘度は好ましくは5〜100mm/s、好ましくは15〜40mm/sであり、その粘度指数は好ましくは90以上、より好ましくは100以上であり、その%C(後述)は好ましくは60以上、より好ましくは70以上であり、その%C(後述)は好ましくは40以下、より好ましくは30以下であり、%C/%Cは好ましくは1.5以上、より好ましくは2以上であり、その流動点は−10℃以下、好ましくは−15℃以下であり、そのNOACK蒸発量(後述)は好ましくは2〜70質量%、より好ましくは5〜25質量%であり、そのアニリン点は好ましくは80℃以上、より好ましくは95℃以上であり、その硫黄分は好ましくは0.3質量%以下、より好ましくは0.15質量%以下であり、その窒素分は好ましくは20質量ppm以下、より好ましくは10質量ppm以下であり、そのヨウ素価は好ましくは10以下、より好ましくは6以下である。
【0021】
本発明の(A)潤滑油基油としては、(A1)100℃における動粘度が1〜8mm/s、流動点が−15℃以下、アニリン点が100℃以上、飽和分に占めるパラフィン分が40質量%以上、1環ナフテン分が25質量%以下、2〜6環ナフテン分が35質量%以下、ヨウ素価が2以下であり、構成する全炭素に占める3級炭素の割合が6.3%以上である潤滑油基油を主成分として含有するものであることが好ましい。この場合、(A1)成分の含有量は、潤滑油基油全量基準で、好ましくは50〜100質量%であり、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは85質量%以上である。
【0022】
(A1)成分の100℃における動粘度は、1〜8mm/sであり、好ましくは3〜6mm/s、より好ましくは3.5〜5mm/s、さらに好ましくは3.8〜4.5mm/sであることが望ましい。(A1)成分の100℃における動粘度が8mm/sを超える場合は、低温粘度特性が悪化し、一方、その動粘度が1mm/s未満の場合は、潤滑箇所での油膜形成が不十分であるため潤滑性に劣り、また潤滑油基油の蒸発損失が大きくなるため、それぞれ好ましくない。た、(A1)成分の40℃における動粘度は、同様の理由で、好ましくは5〜100mm/s、より好ましくは10〜40mm/s、さらに好ましくは15〜25mm/s、特に好ましくは16〜22mm/sであることが望ましい。
【0023】
(A1)成分の流動点は−15℃以下であり、好ましくは−17.5℃以下であり、その下限に特に制限はないが、低温粘度特性と脱ろう工程における経済性の点で、好ましくは−45℃以上、より好ましくは−30℃以上、さらに好ましくは−25℃以上、特に好ましくは−20℃以上である。(A1)成分の流動点を−15℃以下とすることで、低温粘度特性に優れた潤滑油組成物を得ることができる。なお、脱ろう工程としては溶剤脱ろう、接触脱ろうのいずれの工程を適用してもよいが、流動点を上記特に好ましい下限値以上としてもより低温粘度特性をより改善できる点、高温清浄性や加水分解安定性に優れる点で接触脱ろう工程であることが特に好ましい。
【0024】
(A1)成分のアニリン点は高温清浄性や加水分解安定性に優れる潤滑油組成物を得ることができる点で100℃以上であり、より好ましくは104℃以上、さらに好ましくは108℃以上であり、その上限に特に制限はなく、本発明の1つの態様として125℃以上でもよいが、添加剤やスラッジの溶解性により優れ、シール材への適合性により優れる点で好ましくは125℃以下、さらに好ましくは120℃以下である。
【0025】
(A1)成分の飽和分に占めるパラフィン分は、高温清浄性や加水分解安定性向上の観点から、40質量%以上であり、好ましくは47質量%以上であり、その上限値に特に制限はなく、本発明の1つの態様として70質量%以上でもよいが、添加剤やスラッジの溶解性により優れる点で好ましくは70質量以下であり、この場合、低温粘度特性、高温清浄性や加水分解安定性により優れる点で、より好ましくは65質量%以下であり、さらに好ましくは60質量%以下、特に好ましくは57質量%以下である。
【0026】
(A1)成分の飽和分に占めるナフテン分(1〜6環ナフテン分)は上記パラフィン分に応じて60質量%以下であり、好ましくは53質量%以下であり、その下限は特に制限はなく、本発明の1つの態様として30質量%以下でもよいが、添加剤やスラッジの溶解性により優れる点で好ましくは30質量%以上であり、この場合、低温粘度特性、高温清浄性や加水分解安定性により優れる点で、より好ましくは35質量%以上であり、さらに好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは43質量%以上である。
【0027】
(A1)成分の飽和分に占める1環ナフテン分は25質量%以下であり、好ましくは23質量%以下であり、その下限は特に制限はなく、本発明の1つの態様として10質量%未満でもよいが、添加剤やスラッジの溶解性により優れる点で好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは18質量%以上である。
【0028】
(A1)成分の飽和分に占める2〜6環ナフテン分は35質量%以下であり、好ましくは32質量%以下であり、その下限に特に制限はなく、本発明の1つの態様として10質量%未満でもよいが、添加剤やスラッジの溶解性により優れる点で好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは25質量%以上である。
【0029】
また、(A1)成分の飽和分に占めるパラフィン分と1環ナフテン分の合計量は、特に制限はないが、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは65質量%以上、特に好ましくは68質量%以上であり、本発明の1つの態様として90質量%以上でもよいが、添加剤やスラッジの溶解性により優れる点で好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、さらに好ましくは76質量%以下である。
【0030】
また、(A1)成分の飽和分に占めるパラフィン分と飽和分に占める1環ナフテン分との比率(パラフィン分/1環ナフテン分)は、特に制限はなく、本発明の1つの態様として10以上でもよいが、添加剤やスラッジの溶解性により優れる点で好ましくは10以下であり、この場合、低温粘度特性により優れる点で、より好ましくは5以下、さらに好ましくは3.5以下であり、特に好ましくは3.0以下である。
【0031】
なお、本発明でいう飽和分に占めるパラフィン分及びナフテン分とは、それぞれASTM D 2786−91に準拠して測定されるアルカン分(単位:質量%)及びナフテン分(測定対象:1環〜6環ナフテン、単位:質量%)を意味する。
【0032】
また、(A1)成分のヨウ素価は、2以下であり、好ましくは1以下、さらに好ましくは0.7以下、さらに好ましくは0.5以下、特に好ましくは0.1以下であり、また、0.001未満であってもよいが、それに見合うだけの効果が小さい点及び経済性との関係から、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.01以上である。潤滑油基油のヨウ素価を2以下とすることで、高温清浄性や加水分解安定性を向上させることができる。なお、本発明でいう「ヨウ素価」とは、JIS K 0070「化学製品の酸価、ケン化価、ヨウ素価、水酸基価及び不ケン化価」の指示薬滴定法により測定したヨウ素価を意味する。
【0033】
また、(A1)成分の構成炭素の全量に占める3級炭素の割合は、6.3%以上であり、好ましくは12%以下であり、より好ましくは6.6〜10%、さらに好ましくは7.2〜9%、特に好ましくは7.5〜8.5%である。3級炭素の割合を上記範囲内とすることで、粘度温度特性及び高温清浄性や加水分解安定性に優れた潤滑油基油を得ることができる。ここで、「3級炭素の割合」とは、構成炭素の全量に占める>CH−(3つの炭素原子と結合しているメチン基)に起因する炭素原子の割合、すなわち分岐又はナフテンに起因する炭素原子の割合を意味する。
【0034】
ここで、「(A1)成分の構成炭素の全量に占める3級炭素の割合」は、13C−NMRにより測定される、全炭素の積分強度の合計に対する3級炭素に起因する積分強度の合計の割合を意味する。すなわち、(a)化学シフト約10〜50ppmの積分強度の合計(全構成炭素に起因する積分強度の合計)、及び(c)化学シフト27.9〜28.1ppm、28.4〜28.6ppm、32.6〜33.2ppm、34.4〜34.6ppm、37.4〜37.6ppm、38.8〜39.1ppm、40.4〜40.6ppmの積分強度の合計(メチル基、エチル基及びその他分岐基が結合した3級炭素及びナフテン3級炭素に起因する積分強度の合計)をそれぞれ測定し、(a)を100%としたときの(c)の割合(%)である。
【0035】
本明細書においては、13C−NMRの測定は、試料0.5gを重クロロホルム3gに溶解したものを、室温下、共鳴周波数100MHzで、ゲート付デカップリング法によって行っているが、(A1)成分の構成炭素の全量に占める3級炭素の割合の算出には、正しい結果が得られれば、他の測定条件を用いてもよく、また、13C−NMRによる測定でなくても、同等の結果が得られるものであればその他の測定方法を用いてもよい。
【0036】
また、(A1)成分の%Cは、特に制限はないが、熱・酸化安定性と粘度温度特性、高温清浄性や加水分解安定性を高めることができる点で2以下であり、好ましくは1以下、さらに好ましくは0.5以下、特に好ましくは0.2以下である。
【0037】
また、(A1)成分の%Cは、特に制限はないが、熱・酸化安定性と粘度温度特性、高温清浄性や加水分解安定性をより高めることができる点で、好ましくは70以上、より好ましくは75以上、さらに好ましくは80以上であり、その上限に特に制限はなく、本発明の1つの態様として90以上でもよいが、添加剤やスラッジの溶解性により優れる点で好ましくは90以下、より好ましくは85以下である。
【0038】
また、(A1)成分の%Cは、特に制限はないが、熱・酸化安定性と粘度温度特性、高温清浄性や加水分解安定性をより高めることができる点で、好ましくは28以下、より好ましくは25以下であり、その下限に特に制限はなく、本発明の1つの態様として10未満でもよいが、添加剤やスラッジの溶解性に優れる点で好ましくは10以上、より好ましくは15以上である。
【0039】
また、前記(A1)成分の%C/%Cは、特に制限はないが、熱・酸化安定性と粘度温度特性をより高めることができる点で、好ましくは2以上、より好ましくは2.4以上であり、特に好ましくは4.0以上であり、その上限に特に制限はなく、本発明の1つの態様として5以上でもよいが、添加剤やスラッジの溶解性により優れる点で好ましくは5以下、より好ましくは4.5以下である。
【0040】
なお、ここでいう%C、%C及び%Cとは、それぞれASTM D 3238−85に準拠した方法(n−d−M環分析)により求められる、芳香族炭素数の全炭素数に対する百分率、パラフィン炭素数の全炭素数に対する百分率及びナフテン炭素数の全炭素数に対する百分率をそれぞれ意味する。
【0041】
(A1)成分の飽和分の含有量については特に制限はないが、熱・酸化安定性と粘度温度特性、高温清浄性や加水分解安定性をより高めることができる点で、好ましくは90質量%以上、より好ましくは94質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上、特に好ましくは99質量%以上である。
【0042】
また、(A1)成分の芳香族分の含有量については特に制限はないが、熱・酸化安定性と粘度温度特性、高温清浄性や加水分解安定性をより高めることができる点で、好ましくは10質量%以下、より好ましくは6質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下、特に好ましくは1質量%以下である。
【0043】
なお、本発明でいう飽和分及び芳香族分の含有量とは、ASTM D 2007−93に準拠して測定される値(単位:質量%)を意味する。
【0044】
(A1)成分の硫黄分については特に制限はないが、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.05質量%以下、さらに好ましくは0.01質量%以下、特に好ましくは0.001質量%以下であることが望ましい。
【0045】
(A1)成分の窒素分については特に制限はないが、より熱・酸化安定性、高温清浄性や加水分解安定性に優れる組成物を得ることができる点で、好ましくは5質量ppm以下であり、より好ましくは3質量ppm以下である。
【0046】
(A1)成分の粘度指数については特に制限はないが、熱・酸化安定性、高温清浄性や加水分解安定性に優れる組成物を得ることができる点で、好ましくは100以上であり、より好ましくは110以上、さらに好ましくは115以上、特に好ましくは120以上であり、本発明の1つの態様として135以上でもよいが、添加剤やスラッジの溶解性により優れる点で好ましくは135以下、より好ましくは130以下である。
【0047】
(A1)成分のNOACK蒸発量については特に制限されないが、好ましくは2〜25質量%、より好ましくは5〜20質量%、さらに好ましくは10〜15質量%である。(A1)成分のNOACK蒸発量を上記範囲とすることで、高温清浄性や加水分解安定性、低温粘度特性、摩耗防止性及び疲労寿命をバランスよく向上できるため特に好ましい。なお、本発明でいうNOACK蒸発量とは、ASTM D 5800−95に準拠して測定された蒸発損失量を意味する。
【0048】
(A1)成分は、上記性状を有する限りにおいてその製造法に特に制限はないが、本発明にかかる潤滑油基油の好ましい例としては、具体的には、以下に示す基油(1)〜(8)を原料とし、この原料油及び/又はこの原料油から回収された潤滑油留分を、所定の精製方法によって精製し、潤滑油留分を回収することによって得られる基油を挙げることができる。
(1)パラフィン基系原油及び/又は混合基系原油の常圧蒸留による留出油
(2)パラフィン基系原油及び/又は混合基系原油の常圧蒸留残渣油の減圧蒸留による留出油(WVGO)
(3)潤滑油脱ろう工程により得られるワックス(スラックワックス等)及び/又はガストゥリキッド(GTL)プロセス等により得られる合成ワックス(フィッシャートロプシュワックス、GTLワックス等)
(4)基油(1)〜(3)から選ばれる1種又は2種以上の混合油及び/又は当該混合油のマイルドハイドロクラッキング処理油
(5)基油(1)〜(4)から選ばれる2種以上の混合油
(6)基油(1)、(2)、(3)、(4)又は(5)の脱れき油(DAO)
(7)基油(6)のマイルドハイドロクラッキング処理油(MHC)
(8)基油(1)〜(7)から選ばれる2種以上の混合油
【0049】
なお、上記所定の精製方法としては、水素化分解、水素化仕上げなどの水素化精製;フルフラール溶剤抽出などの溶剤精製;溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう;酸性白土や活性白土などによる白土精製;硫酸洗浄、苛性ソーダ洗浄などの薬品(酸又はアルカリ)洗浄などが好ましい。本発明では、これらの精製方法のうちの1種を単独で行ってもよく、2種以上を組み合わせて行ってもよい。また、2種以上の精製方法を組み合わせる場合、その順序は特に制限されず、適宜選定することができる。
【0050】
さらに、(A1)成分としては、上記基油(1)〜(8)から選ばれる基油又は当該基油から回収された潤滑油留分について所定の処理を行うことにより得られる下記基油(9)又は(10)が特に好ましい。
(9)上記基油(1)〜(8)から選ばれる基油又は当該基油から回収された潤滑油留分を水素化分解し、その生成物又はその生成物から蒸留等により回収される潤滑油留分について溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう処理を行い、又は当該脱ろう処理をした後に蒸留することによって得られる水素化分解鉱油
(10)上記基油(1)〜(8)から選ばれる基油又は当該基油から回収された潤滑油留分を水素化異性化し、その生成物又はその生成物から蒸留等により回収される潤滑油留分について溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう処理を行い、又は、当該脱ろう処理をしたあとに蒸留することによって得られる水素化異性化鉱油
【0051】
上記(9)又は(10)の潤滑油基油を得るに際して、脱ろう工程としては、熱・酸化安定性と低温粘度特性をより高めることができ、潤滑油組成物の疲労防止性能をより高めることができる点で、接触脱ろう工程を含むことが特に好ましい。また、上記(9)又は(10)の潤滑油基油を得るに際して、必要に応じて溶剤精製処理及び/又は水素化仕上げ処理工程をさらに設けてもよい。
【0052】
上記水素化分解・水素化異性化に使用される触媒については特に制限されないが、分解活性を有する複合酸化物(例えば、シリカアルミナ、アルミナボリア、シリカジルコニアなど)又は当該複合酸化物の1種類以上を組み合わせてバインダーで結着させたものを担体とし、水素化能を有する金属(例えば周期律表第VIa族の金属や第VIII族の金属などの1種類以上)を担持させた水素化分解触媒、あるいはゼオライト(例えばZSM−5、ゼオライトベータ、SAPO−11など)を含む担体に第VIII族の金属のうち少なくとも1種類以上を含む水素化能を有する金属を担持させた水素化異性化触媒が好ましく使用される。水素化分解触媒及び水素化異性化触媒は、積層又は混合などにより組み合わせて用いてもよい。
【0053】
水素化分解・水素化異性化の際の反応条件は特に制限されないが、水素分圧0.1〜20MPa、平均反応温度150〜450℃、LHSV0.1〜3.0hr−1、水素/油比50〜20000scf/bとすることが好ましい。
【0054】
また、接触脱ろう(触媒脱ろう)の場合は、水素化分解・異性化生成油を、適当な脱ろう触媒の存在下、流動点を下げるのに有効な条件で水素と反応させる。接触脱ろうでは、分解/異性化生成物中の高沸点物質の一部を低沸点物質へと転化させ、その低沸点物質をより重い基油留分から分離し、基油留分を分留し、2種以上の潤滑油基油を得る。低沸点物質の分離は、目的の潤滑油基油を得る前に、あるいは分留中に行うことができる。
【0055】
脱ろう触媒としては、分解/異性化生成油の流動点を低下させることが可能なものであれば特に制限されないが、分解/異性化生成油から高収率で目的の潤滑油基油を得ることができるものが好ましい。このような脱ろう触媒としては、形状選択的分子篩(モレキュラーシーブ)が好ましく、具体的には、フェリエライト、モルデナイト、ZSM−5、ZSM−11、ZSM−23、ZSM−35、ZSM−22(シータワン又はTONとも呼ばれる)、シリカアルミノホスフェート類(SAPO)などが挙げられる。これらのモレキュラーシーブは、触媒金属成分と組み合わせて使用することが好ましく、貴金属と組み合わせることがより好ましい。好ましい組み合わせとしては、例えば白金とH−モルデナイトとを複合化したものが挙げられる。
【0056】
脱ろう条件は特に制限されないが、温度は200〜500℃が好ましく、水素圧は10〜200バール(1MPa〜20MPa)がそれぞれ好ましい。また、フロースルー反応器の場合、H処理速度は0.1〜10kg/l/hrが好ましく、LHSVは0.1〜10h−1が好ましく、0.2〜2.0h−1がより好ましい。また、脱ろうは、分解/異性化生成油に含まれる、通常40質量%以下、好ましくは30質量%以下の、初留点が350〜400℃である物質をこの初留点未満の沸点を有する物質へと転換するように行うことが好ましい。
【0057】
本発明の(A)潤滑油基油は、前記(A1)成分からなる潤滑油基油、又は、前記(A1)成分と前記鉱油系基油若しくは合成系基油との混合基油とすることが好ましく、その100℃における動粘度は、前記したとおり、好ましくは1〜8mm/s、より好ましくは3〜6mm/sであるが、より好ましくは3.5〜6mm/s、さらに3.8〜4.5mm/sに調整してなることが好ましく、その粘度指数を好ましくは90以上、より好ましくは100以上、より好ましくは110以上、さらに好ましくは115以上とすることが望ましい。
【0058】
本発明の潤滑油組成物における(B)成分は、金属系清浄剤である。本発明においては、加水分解安定性に特に優れ、さらには高温清浄性にも優れる点で(B1)サリシレート系清浄剤を使用することが必要である。
【0059】
(B1)サリシレート系清浄剤としては、その構造に特に制限はないが、炭素数1〜40のアルキル基を1〜2個有するサリチル酸の金属塩、好ましくはアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩が好ましく用いられる。
【0060】
本発明における(B1)成分としては、高温清浄性や加水分解安定性により優れる点でジアルキルサリチル酸金属塩を含むものが好ましく、すなわち、ジアルキルサリチル酸金属塩の構成比が0を超え100mol%以下、好ましくは5mol%以上、より好ましくは10mol%以上であるサリシレート系清浄剤が望ましい。一方、本発明における(B1)成分としては、低温粘度特性により優れる点で、モノアルキルサリチル酸金属塩の構成比が高い方が好ましく、例えば、モノアルキルサリチル酸金属塩の構成比が85〜100mol%、ジアルキルサリチル酸金属塩の構成比が0〜15mol%であって、3−アルキルサリチル酸金属塩の構成比が40〜100mol%であるアルキルサリチル酸金属塩、及び/又はその(過)塩基性塩であることが好ましい。
【0061】
ここでいうモノアルキルサリチル酸金属塩は、3−アルキルサリチル酸金属塩、4−アルキルサリチル酸金属塩、5−アルキルサリチル酸金属塩等のアルキル基を1つ有するアルキルサリチル酸金属塩を意味し、モノアルキルサリチル酸金属塩の構成比は、アルキルサリチル酸金属塩100mol%に対し、85〜100mol%、好ましくは88〜98mol%、さらに好ましくは90〜95mol%であり、モノアルキルサリチル酸金属塩以外のアルキルサリチル酸金属塩、例えばジアルキルサリチル酸金属塩の構成比は、0〜15mol%、好ましくは2〜12mol%、さらに好ましくは5〜10mol%である。また、3−アルキルサリチル酸金属塩の構成比は、アルキルサリチル酸金属塩100mol%に対し、40〜100mol%、好ましくは45〜80mol%、さらに好ましくは50〜60mol%である。なお、4−アルキルサリチル酸金属塩及び5−アルキルサリチル酸金属塩の合計の構成比は、アルキルサリチル酸金属塩100mol%に対し、上記3−アルキルサリチル酸金属塩、ジアルキルサリチル酸金属塩を除いた構成比に相当し、0〜60mol%、好ましくは20〜50mol%、さらに好ましくは30〜45mol%である。ジアルキルサリチル酸金属塩を少量含むことで高温清浄性、低温特性に優れ、加水分解安定性にも優れる組成物を得ることができ、3−アルキルサリシレートの構成比を40mol%以上とすることで、5−アルキルサリチル酸金属塩の構成比を相対的に低くすることができ、油溶性を向上させることができる。
【0062】
また、(B1)サリシレート系清浄剤を構成するアルキルサリチル酸金属塩におけるアルキル基としては、炭素数10〜40、好ましくは炭素数10〜19又は炭素数20〜30、さらに好ましくは炭素数14〜18又は炭素数20〜26のアルキル基、特に好ましくは炭素数14〜18のアルキル基である。炭素数10〜40のアルキル基としては、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基、ペンタコシル基、ヘキサコシル基、ヘプタコシル基、オクタコシル基、ノナコシル基、及びトリアコンチル基等の炭素数10〜40のアルキル基が挙げられる。これらアルキル基は直鎖状であっても分枝状であってもよく、1級アルキル基、2級アルキル基、3級アルキル基であってもよいが、本発明においては上記所望のサリチル酸金属塩を得やすい点で、2級アルキル基であることが特に好ましい。
【0063】
また、アルキルサリチル酸金属塩における金属としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属等が挙げられ、カルシウム、マグネシウムであることが好ましく、カルシウムであることが特に好ましい。
【0064】
(B1)成分は、公知の方法等で製造することができ、特に制限はないが、例えば、フェノール1molに対し1mol又はそれ以上の、エチレン、プロピレン、ブテン等の重合体又は共重合体等の炭素数10〜40のオレフィン、好ましくはエチレン重合体等の直鎖α−オレフィンを用いてアルキレーションし、炭酸ガス等でカルボキシレーションする方法、あるいはサリチル酸1molに対し1mol又はそれ以上の当該オレフィン、好ましくは当該直鎖α−オレフィンを用いてアルキレーションする方法等により得たモノアルキルサリチル酸を主成分とするアルキルサリチル酸に、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の酸化物や水酸化物等の金属塩基と反応させたり、又はナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩としたり、さらにアルカリ金属塩をアルカリ土類金属塩と置換させること等により得られる。ここで、フェノール又はサリチル酸とオレフィンの反応割合を、好ましくは、例えば1:1〜1.15(モル比)、より好ましくは1:1.05〜1.1(モル比)に制御することでモノアルキルサリチル酸金属塩とジアルキルサリチル酸金属塩の構成比を所望の割合に制御することができ、また、オレフィンとして直鎖α−オレフィンを用いることで、3−アルキルサリチル酸金属塩、5−アルキルサリチル酸金属塩等の構成比を本願所望の割合に制御しやすくなるとともに、本発明において好ましい2級アルキルを有するアルキルサリチル酸金属塩を主成分として得ることができるため特に好ましい。なお、オレフィンとして分岐オレフィンを用いた場合には、ほぼ5−アルキルサリチル酸金属塩のみを得やすいが、本願所望の構成となるように3−アルキルサリチル酸金属塩等を混合して油溶性を改善する必要があり、製造プロセスが多様化するため好ましくない方法である。
【0065】
(B1)成分は、上記のようにして得られたアルカリ金属又はアルカリ土類金サリシレート(中性塩)に、さらに過剰のアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩やアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩基(アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物や酸化物)を水の存在下で加熱することにより得られる塩基性塩や、炭酸ガス又はホウ酸若しくはホウ酸塩の存在下で上記中性塩をアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物等の塩基と反応させることにより得られる過塩基性塩も含まれる。
【0066】
なお、これらの反応は、通常、溶媒(ヘキサン等の脂肪族炭化水素溶剤、キシレン等の芳香族炭化水素溶剤、軽質潤滑油基油等)中で行われ、その金属含有量が1.0〜20質量%、好ましくは2.0〜16質量%のものを用いるのが望ましい。
【0067】
本発明における(B1)成分として最も好ましいものとしては、高温清浄性と加水分解安定性並びに低温粘度特性のバランスに優れる点から、モノアルキルサリチル酸金属塩の構成比が85〜95mol%、ジアルキルサリチル酸金属塩の構成比が5〜15mol%、3−アルキルサリチル酸金属塩の構成比が50〜60mol%、4−アルキルサリチル酸金属塩及び5−アルキルサリチル酸金属塩の構成比が35〜45mol%であるアルキルサリチル酸金属塩、及び/又はその(過)塩基性塩である。ここでいうアルキル基としては、2級アルキル基であることが特に好ましい。
【0068】
本発明において、(B1)成分の塩基価は、通常0〜500mgKOH/g、好ましくは20〜300mgKOH/g、特に好ましくは100〜200mgKOH/g、特に好ましくは150〜200mgKOH/gであり、これらの中から選ばれる1種又は2種以上併用することができる。なお、ここでいう塩基価とは、JIS K2501「石油製品及び潤滑油−中和価試験法」の7.に準拠して測定される過塩素酸法による塩基価を意味する。
【0069】
本発明においては、(B)成分として、サリシレート系清浄剤である(B1)成分と共に他の金属系清浄剤を併用することもでき、他の金属系清浄剤としては、スルホネート系清浄剤、フェネート系清浄剤、カルボキシレート系清浄剤等が挙げられる。
【0070】
スルホネート系清浄剤としては、その構造に特に制限はないが、例えば、分子量100〜1500、好ましくは200〜700のアルキル芳香族化合物をスルホン化することによって得られるアルキル芳香族スルホン酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩が挙げられ、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩が好ましく用いられ、アルキル芳香族スルホン酸としては、具体的にはいわゆる石油スルホン酸や合成スルホン酸等が挙げられる。石油スルホン酸としては、一般に鉱油の潤滑油留分のアルキル芳香族化合物をスルホン化したものやホワイトオイル製造時に副生する、いわゆるマホガニー酸等が用いられる。また合成スルホン酸としては、例えば、洗剤の原料となるアルキルベンゼン製造プラントから副生したり、ポリオレフィンをベンゼンにアルキル化したりすることにより得られる、直鎖状や分枝状のアルキル基を有するアルキルベンゼンを原料とし、これをスルホン化したもの、あるいはジノニルナフタレンをスルホン化したもの等が用いられる。またこれらアルキル芳香族化合物をスルホン化する際のスルホン化剤としては特に制限はないが、通常、発煙硫酸や硫酸が用いられる。
【0071】
また、アルカリ土類金属スルホネートとしては、上記のアルキル芳香族スルホン酸を直接、マグネシウム及び/又はカルシウムのアルカリ土類金属の酸化物や水酸化物等のアルカリ土類金属塩基と反応させたり、又は一度ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩としてからアルカリ土類金属塩と置換させること等により得られる中性アルカリ土類金属スルホネートだけでなく、上記中性アルカリ土類金属スルホネートと過剰のアルカリ土類金属塩やアルカリ土類金属塩基(水酸化物や酸化物)を水の存在下で加熱することにより得られる塩基性アルカリ土類金属スルホネートや、炭酸ガス及び/又はホウ酸若しくはホウ酸塩の存在下で上記中性アルカリ土類金属スルホネートをアルカリ土類金属の塩基と反応させることにより得られる炭酸塩過塩基性アルカリ土類金属スルホネート、ホウ酸塩過塩基性アルカリ土類金属スルホネートも含まれる。
【0072】
本発明では、スルホネート系清浄剤として、上記の中性アルカリ土類金属スルホネート、塩基性アルカリ土類金属スルホネート、過塩基性アルカリ土類金属スルホネート及びこれらの混合物等を用いることができる。スルホネート系清浄剤としては、カルシウムスルホネート系清浄剤、マグネシウムスルホネート系清浄剤が好ましく、カルシウムスルホネート系清浄剤が特に好ましい。
【0073】
スルホネート系清浄剤は、通常、軽質潤滑油基油等で希釈された状態で市販されており、また入手可能であるが、一般的に、その金属含有量が1.0〜20質量%、好ましくは2.0〜16質量%のものを用いるのが望ましい。
【0074】
本発明で用いるスルホネート系清浄剤の塩基価は任意であり、通常0〜500mgKOH/gであるが、高温清浄性に優れる点から、塩基価が0〜400mgKOH/g、好ましくは200〜400mgKOH/g、より好ましくは250〜350mgKOH/gのものを用いるのが望ましい。なおここでいう塩基価は、JIS K2501「石油製品及び潤滑油−中和価試験方法」の7.に準拠して測定される過塩素酸法による塩基価を意味している。
【0075】
フェネート系清浄剤としては、具体的には、炭素数4〜30、好ましくは炭素数6〜18の直鎖状又は分枝状のアルキル基を少なくとも1個有するアルキルフェノールと硫黄を反応させて得られるアルキルフェノールサルファイド又はこのアルキルフェノールとホルムアルデヒドを反応させて得られるアルキルフェノールのマンニッヒ反応生成物のアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩等が好ましく用いられる。フェネート系清浄剤の塩基価は、通常0〜500mgKOH/g、好ましくは20〜450mgKOH/g、より好ましくは150〜300mgKOH/gのものを使用することができる。
【0076】
本発明の潤滑油組成物において、(B)成分の含有量((B1)成分以外の金属系清浄剤も併用する場合は全ての合計量)は、組成物全量基準で金属量として0.005〜0.5質量%であり、好ましくは0.01〜0.3質量%、さらに好ましくは0.04〜0.25質量%、特に好ましくは0.16〜0.24質量%である。
【0077】
本発明の潤滑油組成物における(C)成分はコハク酸イミド系無灰分散剤である。コハク酸イミド系無灰分散剤としては、炭素数が好ましくは40〜400、より好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミド、及び該コハク酸イミドにホウ酸又はホウ酸塩、2〜30のモノカルボン酸(脂肪酸等)、シュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の炭素数2〜30のポリカルボン酸、リン酸、亜リン酸、酸性(亜)リン酸エステル等のリン含有酸、硫黄含有化合物から選ばれる1種又は2種以上の変性を組合せて変性された誘導体を挙げることができる。上記コハク酸イミドとしては、モノタイプでもビスタイプでもよいが、ビスタイプのものが特に好ましい。
【0078】
上記炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基は、直鎖状でも分枝状でもよいが、分枝状であることが好ましく、より具体的には、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン等のオレフィンのオリゴマーやエチレンとプロピレンのコオリゴマーから誘導される炭素数40〜400、好ましくは60〜350の分枝状アルキル基や分枝状アルケニル基等が挙げられる。アルキル基又はアルケニル基の炭素数が40未満の場合は化合物の無灰分散剤としての効果が得にくく、一方、アルキル基又はアルケニル基の炭素数が400を超える場合は、組成物の低温流動性が悪化する傾向にある。
【0079】
本発明の潤滑油組成物における(C)成分の含有量は、高温清浄性と加水分解安定性を両立しやすい点で、組成物全量基準で、窒素量として好ましくは0.005〜0.4質量%、より好ましくは0.01〜0.2質量%、さらに好ましくは0.08〜0.15質量%である。
【0080】
本発明においては、(C)成分として、少なくとも(C2)ホウ素を含有しないコハク酸イミド系無灰分散剤が使用される。
【0081】
(C)成分として(C2)成分のみを使用すると、加水分解安定性に優れ、水分混入下における塩基価維持性能が格段に高められた潤滑油組成物とすることができる。この場合、(C2)成分の含有量は、組成物全量基準で、窒素量として0.005〜0.4質量%であるが、加水分解安定性に特に優れる点で、好ましくは0.01〜0.2質量%、より好ましくは0.08〜0.18質量%、特に好ましくは0.12〜0.15質量%である。
【0082】
また、(C)成分として(C2)成分に加え、(C1)ホウ素含有コハク酸イミド系無灰分散剤を使用することも好ましい。(C2)成分と(C1)成分を併用することによって、水分混入下における塩基価維持性能とともに、高温清浄性も高めることができ、両性能のバランスがとれた潤滑油組成物とすることができる。
【0083】
ここで、(C1)成分におけるホウ素含有量は、特に制限はなく、通常0.01〜4質量%であるが、加水分解安定性と高温清浄性とのバランスで、好ましくは0.1〜2.5質量%、より好ましくは0.2〜1質量%、さらに好ましくは0.4〜0.8質量%であり、また、同様の理由で、(C1)成分におけるホウ素含有量と窒素含有量との質量比(B/N比)は、通常0.01〜2、好ましくは0.1〜1、さらに好ましくは0.2〜0.5、特に好ましくは0.3〜0.4であるものを使用することが望ましい。
【0084】
(C1)成分と(C2)成分を併用する場合の(C1)成分の含有量は、加水分解安定性に優れる点で、組成物全量基準で、ホウ素量として0.03質量%以下とすることが必要であり、より好ましくは0.025質量%以下であり、高温清浄性をより高めることができる点で、ホウ素量として好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.005質量%以上、さらに好ましくは0.01質量%以上、特に好ましくは0.015質量%以上である。ホウ素含有量が0.03質量%を超える場合、加水分解安定性が大幅に悪化するため好ましくない。
【0085】
また、(C1)成分と(C2)成分を併用する場合の(C2)成分の含有量は、組成物全量基準で、窒素量として0.005〜0.4質量%であり、高温清浄性に優れる点で、好ましくは0.01〜0.2質量%、より好ましくは0.03〜0.15質量%、特に好ましくは0.04〜0.08質量%である。
【0086】
(C1)成分及び(C2)成分を併用する場合における、(C1)成分に起因するホウ素含有量と(C1)成分と(C2)成分に起因する合計窒素含有量との質量比(B/N比)は特に制限はないが、水分混入下における塩基価維持性能と、高温清浄性のバランスの観点から、好ましくは0.05〜1.2であり、より好ましくは0.05〜0.3、さらに好ましくは0.1〜0.25、特に好ましくは0.15〜0.2である。
【0087】
本発明の潤滑油組成物における(D)成分は、リン含有酸の金属塩である。リン含有酸の金属塩としては、リンを分子中に含有する酸性化合物の金属塩であれば特に制限はないが、例えば、一般式(1)で表されるリン化合物又はその誘導体の金属塩、一般式(2)で表されるリン化合物又はその誘導体の金属塩、それらの含窒素化合物の塩又は錯体、及びこれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
【0088】
【化1】

【0089】
式(1)において、X、X及びXは、それぞれ個別に酸素原子又は硫黄原子を示し、R10、R11及びR12は、それぞれ個別に水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を示す。
【0090】
【化2】

【0091】
式(2)において、X、X、X及びXは、それぞれ個別に酸素原子又は硫黄原子(X、X及びXの1つ又は2つが単結合又は(ポリ)オキシアルキレン基でもよい。)を示し、R13、R14及びR15は、それぞれ個別に水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を示す。
【0092】
上記R10〜R15で表される炭素数1〜30の炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキル置換シクロアルキル基、アリール基、アルキル置換アリール基、及びアリールアルキル基を挙げることができ、炭素数1〜30のアルキル基又は炭素数6〜24のアリール基であることが好ましく、さらに好ましくは炭素数3〜18、さらに好ましくは炭素数4〜12のアルキル基である。これら炭化水素基は酸素原子、窒素原子、硫黄原子のいずれかを分子中に含んでいてもよいが、炭素と水素からなる炭化水素が望ましい。
【0093】
一般式(1)で表されるリン化合物としては、例えば、亜リン酸、モノチオ亜リン酸、ジチオ亜リン酸、トリチオ亜リン酸;上記炭素数1〜30の炭化水素基を1つ有する亜リン酸モノエステル、モノチオ亜リン酸モノエステル、ジチオ亜リン酸モノエステル、トリチオ亜リン酸モノエステル;上記炭素数1〜30の炭化水素基を2つ有する亜リン酸ジエステル、モノチオ亜リン酸ジエステル、ジチオ亜リン酸ジエステル、トリチオ亜リン酸ジエステル;上記炭素数1〜30の炭化水素基を3つ有する亜リン酸トリエステル、モノチオ亜リン酸トリエステル、ジチオ亜リン酸トリエステル、トリチオ亜リン酸トリエステル;及びこれらの混合物を挙げることができる。
【0094】
一般式(2)で表されるリン化合物としては、例えば、リン酸、モノチオリン酸、ジチオリン酸、トリチオリン酸、テトラチオリン酸;上記炭素数1〜30の炭化水素基を1つ有するリン酸モノエステル、モノチオリン酸モノエステル、ジチオリン酸モノエステル、トリチオリン酸モノエステル、テトラチオリン酸モノエステル;上記炭素数1〜30の炭化水素基を2つ有するリン酸ジエステル、モノチオリン酸ジエステル、ジチオリン酸ジエステル、トリチオリン酸ジエステル、テトラチオリン酸ジエステル;上記炭素数1〜30の炭化水素基を3つ有するリン酸トリエステル、モノチオリン酸トリエステル、ジチオリン酸トリエステル、トリチオリン酸トリエステル、テトラチオリン酸トリエステル;上記炭素数1〜30の炭化水素基を1〜3つ有するホスホン酸、ホスホン酸モノエステル、ホスホン酸ジエステル;炭素数1〜4の(ポリ)オキシアルキレン基を有する上記リン化合物;β−ジチオホスホリル化プロピオン酸やジチオリン酸とオレフィンシクロペンタジエン又は(メチル)メタクリル酸との反応物等の上記リン化合物の誘導体;及びこれらの混合物を挙げることができる。
【0095】
一般式(1)又は(2)で表されるリン化合物の金属塩としては、リン化合物に金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属塩化物等の金属塩基、アンモニア、炭素数1〜30の炭化水素基又はヒドロキシル基含有炭化水素基のみを分子中に有するアミン化合物等の窒素化合物を作用させて、残存する酸性水素の一部又は全部を中和した塩を挙げることができる。
【0096】
上記金属塩基における金属としては、具体的には、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属、亜鉛、銅、鉄、鉛、ニッケル、銀、マンガン、モリブデン等の重金属等が挙げられる。これらの中ではカルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属及び亜鉛が好ましい。
【0097】
上記含窒素化合物としては、具体的には、アンモニア、炭素数1〜30の炭化水素基又はヒドロキシル基含有炭化水素基を分子中に有するアミン化合物、アミド結合含有化合物、イミド結合含有化合物等の窒素化合物、前記した(C)成分及びそれ以外の無灰分散剤等が挙げられる。モノアミン、ジアミン、ポリアミン、アルカノールアミン等のアミン系含窒素化合物、アミド結合を有する窒素含有化合物、イミド結合を有する窒素含有化合物等が挙げられる。これら窒素化合物の中でもデシルアミン、ドデシルアミン、ジメチルドデシルアミン、トリデシルアミン、ヘプタデシルアミン、オクタデシルアミン、オレイルアミン及びステアリルアミン等の炭素数10〜20のアルキル基又はアルケニル基を有する含窒素化合物(これらは直鎖状でも分枝状でもよい。)が好ましい例として挙げることができる。
【0098】
本発明の(D)成分としては、上記のリン含有酸の金属塩として、以下の(D1)及び(D2)から選ばれる少なくとも1種を主成分として本発明の潤滑油組成物に含有させることが特に望ましい。
(D1)ジアルキルジチオリン酸亜鉛
(D2)硫黄含有量が(D1)成分より少ない又は硫黄原子を含有しないリン含有酸と金属塩基との塩
【0099】
上記(D1)成分としては、下記の一般式(3)で表されるもの等が例示できる。
【0100】
【化3】

【0101】
式中R、R、R及びRは同一でも、異なっていてもよく、それぞれ個別に、炭素数1〜30、好ましくは3〜8の2級アルキル基又は1級アルキル基、好ましくは炭素数3〜6の2級アルキル基又は炭素数6〜8の1級アルキル基を示し、同一分子中に異なる炭素数のアルキル基、異なる構造のアルキル基(2級、1級)を有していてもよい。
【0102】
本発明においては、(D1)成分のうち、摩耗防止性により優れる点で、炭素数3〜8から選ばれる2級アルキル基、より好ましくは炭素数4及び/又は6の2級アルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛を含有させることが好ましく、酸化安定性をより向上でき、塩基価維持性能を高めることができる点で、炭素数3〜8から選ばれる1級アルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛を含有させることが好ましい。これらは併用して使用してもよい。
【0103】
なお、ジチオリン酸亜鉛の製造方法としては任意の従来方法が採用可能であって、特に制限されないが、具体的には例えば、前記R、R、R及びRに対応するアルキル基を持つアルコールを五硫化二りんと反応させてジチオリン酸をつくり、これを酸化亜鉛で中和させることにより合成することができる。
【0104】
また、上記(D2)成分は、前記一般式(1)におけるX〜Xの全てが酸素原子(X、X及びXの1つ又は2つが単結合又は(ポリ)オキシアルキレン基でもよい。)であるリン化合物の金属塩、前記一般式(2)におけるX〜Xの全てが酸素原子(X、X及びXの1つ又は2つが単結合又は(ポリ)オキシアルキレン基でもよい。)であるリン化合物の金属塩が代表的な例として挙げられる。これら(D2)成分は、高温清浄性や酸化安定性、塩基価維持性などのロングドレイン性能を格段に高めることができる点で好ましく使用することができる。
【0105】
上記リン化合物の金属塩は、金属の価数やリン化合物のOH基の数に応じその構造が異なり、従ってその構造については何ら限定されない。例えば、酸化亜鉛1モルとリン酸ジエステル(OH基が1つ)2モルを反応させた場合、下記一般式(4)で表される構造の化合物が主成分として得られると考えられるが、ポリマー化した分子も存在していると考えられる。
【0106】
【化4】

【0107】
また、例えば、酸化亜鉛1モルとリン酸モノエステル(OH基が2つ)1モルとを反応させた場合、下記一般式(5)で表される構造の化合物が主成分として得られると考えられるが、ポリマー化した分子も存在していると考えられる。
【0108】
【化5】

【0109】
これらの(D2)成分の中では、炭素数3〜18のアルキル基又はアリール基を2個有する亜リン酸ジエステルと亜鉛との塩、炭素数3〜18のアルキル基又はアリール基を1個有するリン酸のモノエステルと亜鉛との塩、炭素数3〜18のアルキル基又はアリール基を2個有するリン酸のジエステルと亜鉛との塩、炭素数1〜18のアルキル基又はアリール基を2つ有するホスホン酸モノエステルと亜鉛との塩であることが好ましい。中でも、炭素数4〜12、好ましくは炭素数6〜10のアルキル基を有するリン酸モノエステル及び/又はリン酸ジエステルの亜鉛塩を用いることが油溶性、摩耗防止性及び経済性にバランスよく優れる点で特に望ましい。これらの成分は、1種類あるいは2種類以上を任意に配合することができる。
【0110】
本発明の潤滑油組成物におけるリン含有酸の金属塩、好ましくは上記(D1)及び(D2)から選ばれる少なくとも1種の含有量の上限は、リン量として0.2質量%以下、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.08質量%以下、特に好ましくは0.06質量%以下であり、その下限値は、摩耗を抑制しやすい点で、リン量として0.005質量%以上であり、好ましくは0.02質量%以上、特に好ましくは0.04質量%以上である。
【0111】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、上記構成にすることによって、加水分解安定性に優れ、水分混入下における塩基価維持性能に優れるとともに、高温清浄性も良好な組成物とすることができるが、その性能をさらに高める目的で、又は内燃機関用潤滑油組成物として必要な性能をさらに付与する目的で、公知の潤滑油添加剤を加えることができる。添加できる添加剤としては、例えば、(C)成分以外の無灰分散剤、(D)成分以外の極圧添加剤、粘度指数向上剤、摩擦調整剤、酸化防止剤、金属不活性化剤、錆止め剤、腐食防止剤、流動点降下剤、ゴム膨潤剤、消泡剤、着色剤等を挙げることができる。これらは単独で、あるいは数種類組合せて用いることができる。
【0112】
(C)成分以外の無灰分散剤としては、例えば、炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有する、ベンジルアミン、ポリアミン等の含窒素化合物、又はその誘導体若しくは変性品等が挙げられる。炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基は、直鎖状でも分枝状でもよく、好ましいものとしては、具体的には、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン等のオレフィンのオリゴマーやエチレンとプロピレンのコオリゴマーから誘導される分枝状アルキル基や分枝状アルケニル基等が挙げられる。本発明の潤滑油組成物には、これらの中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上の化合物を任意の量で使用することができるが、通常その含有量は、潤滑油組成物全量基準で0.1〜10質量%、好ましくは1〜6質量%である。
【0113】
(D)成分以外の極圧添加剤としては、潤滑油用の極圧添加剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であるが、例えば、ジチオカーバメート類、スルフィド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類等の硫黄系化合物、リン酸、リン酸エステル類、亜リン酸、亜リン酸エステル類及びこれらのアミン塩、硫黄を含有するリン含有酸の金属塩等が挙げられる。本発明においてはこれらの中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上の化合物を任意の量で含有させることができるが、通常その含有量は、潤滑油組成物全量基準で0.01〜5.0質量%である。
【0114】
粘度指数向上剤の具体例としては、具体的には、各種メタクリル酸エステルから選ばれる1種又は2種以上のモノマーの共重合体若しくはその水添物などのいわゆる非分散型粘度指数向上剤、又はさらに窒素化合物を含む各種メタクリル酸エステルを共重合させたいわゆる分散型粘度指数向上剤等が例示できる。他の粘度指数向上剤の具体例としては、非分散型又は分散型エチレン−α−オレフィン共重合体(α−オレフィンとしてはプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン等が例示できる。)又はその水素化物、ポリイソブチレン又はその水添物、スチレン−ジエン水素化共重合体、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体及びポリアルキルスチレン等を挙げることができる。本発明においては、これらの粘度指数向上剤の中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上の化合物を任意の量で含有させることができるが、低温粘度特性と疲労防止性能をより高めることができる点で、非分散型又は分散型ポリメタクリレートが好ましく、中でも非分散型のポリメタクリレートが特に好ましい。
【0115】
本発明に使用される粘度指数向上剤の重量平均分子量(Mw)は通常1万〜100万であるが、せん断安定性に優れるとともに省燃費効果が期待できる点で、好ましくは10万〜60万、より好ましくは20万〜50万である。また、本発明の潤滑油組成物における粘度指数向上剤の含有量は、0.01〜20質量%であり、好ましくは5〜15質量%である。
【0116】
摩擦調整剤としては、潤滑油用の摩擦調整剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であるが、具体的には、炭素数6〜30のアルキル基又はアルケニル基、特に炭素数6〜30の直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基を分子中に少なくとも1個有する無灰摩擦調整剤、例えば、アミン系摩擦調整剤、イミド系摩擦調整剤、アミド系摩擦調整剤、脂肪酸系摩擦調整剤等が挙げられる。
【0117】
アミン系摩擦調整剤としては、炭素数6〜30の直鎖状若しくは分枝状、好ましくは直鎖状の脂肪族モノアミン、炭素数6〜30の直鎖状若しくは分枝状、好ましくは直鎖状の脂肪族アルカノールアミン、直鎖状若しくは分枝状、好ましくは直鎖状の脂肪族ポリアミン、又はこれら脂肪族アミンのアルキレンオキシド付加物等の脂肪族アミン系摩擦調整剤等が例示できる。
【0118】
イミド系摩擦調整剤としては、炭素数6〜30、好ましくは、炭素数8〜18の直鎖状若しくは分枝状、好ましくは分枝状の炭化水素基を1つ又は2つ有するモノ及び/又はビスコハク酸イミド、当該コハク酸イミドにホウ酸や(亜)リン酸、炭素数1〜20のカルボン酸あるいは硫黄含有化合物から選ばれる1種又は2種以上を反応させたコハク酸イミド変性化合物等のコハク酸イミド系摩擦調整剤等が例示できる。
【0119】
アミド系摩擦調整剤としては、炭素数7〜31の直鎖状又は分枝状、好ましくは直鎖状の脂肪酸とアンモニア、脂肪族モノアミン又は脂肪族ポリアミンとのアミド等の脂肪酸アミド系摩擦調製剤等が例示できる。
【0120】
脂肪酸系摩擦調整剤としては、炭素数7〜31の直鎖状又は分枝状、好ましくは直鎖状の脂肪酸、該脂肪酸と脂肪族1価アルコール又は脂肪族多価アルコールとのエステル等の脂肪酸エステル、該脂肪酸のアルカリ土類金属塩(マグネシウム塩、カルシウム塩等)や亜鉛塩等の脂肪酸金属塩等が挙げられる。
【0121】
本発明においては、これらの摩擦調整剤の中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上の化合物を任意の割合で含有させることができるが、通常その含有量は、潤滑油組成物全量基準で0.01〜5.0質量%であり、好ましくは0.03〜3.0質量%である。
【0122】
酸化防止剤としては、フェノール系化合物やアミン系化合物等、潤滑油に一般的に使用されているものであれば使用可能である。具体的には、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール等のアルキルフェノール類、メチレン−4,4−ビスフェノール(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール)等のビスフェノール類、フェニル−α−ナフチルアミン等のナフチルアミン類、ジアルキルジフェニルアミン類、(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)脂肪酸(プロピオン酸等)と1価又は多価アルコール、例えば、メタノール、オクタデカノール、1,6ヘキサジオール、ネオペンチルグリコール、チオジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ペンタエリスリトール等とのエステル、フェノチアジン類、モリブデンや銅、亜鉛等の有機金属系酸化防止剤及びこれらの混合物等を挙げることができる。本発明においては高温清浄性に優れるとともに、水分混入下における塩基価維持性能をより高めることができる点でアミン系酸化防止剤が特に好ましい。本発明においてはこれらの中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上の化合物を任意の量で含有させることができるが、通常その含有量は、潤滑油組成物全量基準で0.01〜5.0質量%である。
【0123】
金属不活性化剤としては、チアゾール化合物やチアジアゾール化合物が挙げられ、チアジアゾール化合物が好ましく用いられる。チアジアゾール化合物としては、炭素数6〜24の直鎖又は分枝アルキル基を有する、2,5−ビス(アルキルチオ)−1,3,4−チアジアゾール、炭素数6〜24の直鎖又は分枝アルキル基を有する、2,5−ビス(アルキルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、炭素数6〜24の直鎖又は分枝アルキル基を有する、2−(アルキルチオ)−5−メルカプト−1,3,4−チアジアゾール、炭素数6〜24の直鎖又は分枝アルキル基を有する、2−(アルキルジチオ)−5−メルカプト−1,3,4−チアジアゾール及びこれらの混合物等が挙げられる。これらの中でも、2,5−ビス(アルキルジチオ)−1,3,4−チアジアゾールが特に好ましい。これら金属系不活性化剤の含有量は、組成物全量基準で0.005〜0.5質量%である。
【0124】
錆止め剤としては、例えば、アルケニルコハク酸、アルケニルコハク酸エステル、多価アルコールエステル、石油スルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート等を挙げることができる。腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、イミダゾール系の化合物等を挙げることができる。流動点降下剤としては、例えば、使用する潤滑油基油に適合するポリメタクリレート系のポリマー等を挙げることができる。ゴム膨潤剤としては、芳香族系やエステル系のゴム膨潤剤等が挙げられる。消泡剤としては、例えば、ジメチルシリコーンやフルオロシリコーン等のシリコーン類を挙げることができる。これらの添加剤の含有量は任意であるが、通常組成物全量基準で、腐食防止剤の含有量は0.005〜0.2質量%、消泡剤の含有量は0.0005〜0.01質量%、その他の添加剤の含有量は、それぞれ0.005〜10質量%程度である。
【0125】
本発明の潤滑油組成物の100℃における動粘度は、通常2〜25mm/s、好ましくは4〜15mm/s、より好ましくは5〜10mm/s、さらに好ましくは6.5〜8mm/sである。また、本発明の潤滑油組成物の粘度指数は、通常160以上、好ましくは180以上、さらに好ましくは200以上である。
【0126】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、加水分解安定性に非常に優れており、水分が混入し、蓄積しやすい条件においても高い塩基価を維持することができる。また、本発明の内燃機関用潤滑油組成物は高温清浄性も良好なため、エンジン性能保持及び潤滑油の長寿命化を実現できる。従って、電気モーター及び/又はエンジンで駆動するハイブリッド自動車、特にエンジン停止と稼動が頻繁に繰り返されるパラレル方式又はシリーズ・パラレル方式のハイブリッド自動車の内燃機関用に好適に使用することができる。また、その他水分が蒸発しにくい条件で運転される船外機等の船舶用内燃機関、水分が多量に混入しやすいガスエンジン、アイドリングストップ制御がなされたガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等に好適に使用することができる。
【0127】
また、本発明の潤滑油組成物は、上記内燃機関用以外の用途にも使用することができ、自動車、建設機械、農業機械等の自動変速機用、無段変速機用あるいは手動変速機用、ディファレンシャルギヤ用の潤滑油、工業用ギヤ油、タービン油、圧縮機油等にも好適に使用することができる。
【実施例】
【0128】
以下、本発明の内容を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0129】
表1は、本発明の実施例で用いた潤滑油基油1〜3の性状である。これらの潤滑油基油を用いて、表2の組成となるように、試料番号1〜8の計8種の潤滑油組成物を調製した。基油の割合は基油全量基準、各添加剤の添加量は組成物全量基準である。これらの潤滑油組成物について、以下の評価方法によって高温清浄性及び加水分解安定性について評価した。評価結果もあわせて表2に示す。
(1)加水分解試験
ASTM D 2619に準拠して加水分解試験を行い、加水分解試験後の試験油について塩基価(塩酸法)を測定した加水分解試験後の試験油につき塩基価(塩酸法)を測定し、新油の塩基価に対する塩基価低下率を求めた。
【0130】
(2)ホットチューブ試験でみた高温清浄性
JPI−5S−5599に準拠し、ホットチューブ試験を行った。評点は無色透明(汚れなし)を10点、黒色不透明を0点とし、この間をあらかじめ1刻みで作成した標準チューブを参照して評価した。290℃において当該評点が6.0以上であれば、潤滑油として清浄性に優れたものであり、評点が8.0以上のものは清浄性が特に優れているといえる。
【0131】
【表1】

【0132】
【表2】

【0133】
表2から明らかなように、本発明にかかる試料番号1〜5の潤滑油組成物は、高い新油高温清浄性を示しつつも、加水分解試験後の塩基価低下率が非常に低く、水分混入下においても金属系清浄剤の性能を長期間維持しやすいことがわかる。特に、試料番号2〜4、中でも試料番号2、3の潤滑油組成物は、加水分解試験と高温清浄性試験の両方において非常に優れた結果を示した。
【0134】
以上、現時点において、最も実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う内燃機関用潤滑油組成物もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)潤滑油基油に、組成物全量基準で、
(B1)サリシレート系清浄剤を金属量として0.005〜0.5質量%、
(C2)ホウ素を含有しないコハク酸イミド系無灰分散剤のみからなる(C)コハク酸イミド系無灰分散剤を窒素量として0.005〜0.4質量%、
(D)リン含有酸の金属塩をリン量として0.005〜0.2質量%、
含有することを特徴とするハイブリッド自動車の内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項2】
(A)潤滑油基油に、組成物全量基準で、
(B1)サリシレート系清浄剤を金属量として0.005〜0.5質量%、
(C1)ホウ素含有コハク酸イミド系無灰分散剤をホウ素量として0.001〜0.03質量%、
(C2)ホウ素を含有しないコハク酸イミド系無灰分散剤を窒素量として0.005〜0.4質量%、
(D)リン含有有機酸の金属塩をリン量として0.005〜0.2質量%、
含有することを特徴とするハイブリッド自動車の内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項3】
前記(C1)成分と(C2)成分に起因する合計窒素含有量と前記(C1)成分に起因するホウ素含有量との質量比(B/N比)が0.05〜0.3であることを特徴とする請求項2に記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項4】
前記(B1)成分が、ジアルキルサリチル酸を含むアルキルサリチル酸の金属塩、及び/又はその(過)塩基性塩であることを特徴とする請求項1又は2のいずれかの項に記載の内燃機関用潤滑油組成物。

【公開番号】特開2008−144019(P2008−144019A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−331831(P2006−331831)
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】