説明

内燃機関用過給機のすべり軸受

【課題】 銅合金のマトリクス中に分散したMn−Si系化合物の粒子間距離を制御し、耐焼付性に優れた内燃機関用過給機のすべり軸受を提供する。
【解決手段】 銅合金のマトリクスに分散した晶出型Mn−Si系化合物の平均粒子間距離を20〜80μmとすると、すべり軸受の摺動面における銅合金マトリクスの全体が、晶出型Mn−Si系化合物との熱膨張量の差による影響を受けるようになるため、均質に活性状態となり、銅合金のマトリクスの表面に早期に非金属である硫化膜を形成することが可能となる。このため、相手軸表面と金属面同士の摺動となることを防ぎ、すべり軸受の耐焼付性を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐焼付性に優れた内燃機関の過給機に好適なすべり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、内燃機関用過給機のすべり軸受には、耐食性や耐摩耗性が要求されており、すべり軸受の材料として、マトリクス中にMn−Si系化合物の粒を分散させた黄銅が用いられている。また、この種のすべり軸受には、特許文献1に示すように、黄銅に晶出する晶出型Mn−Si系化合物の伸長方向が、すべり軸受の摺動面においてすべり軸受が支承する回転軸の軸線方向となるように配設したものが提案されている。この特許文献1に示される技術を模式図的に示したのが図3である。この晶出型Mn−Si系化合物の方向性により、すべり軸受の耐摩耗性が向上するという効果が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−42145号公報(図6)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に開示される技術は、すべり軸受の摺動面における回転軸の軸線方向に伸長させた晶出型Mn−Si系化合物について、粒の大きさ(伸長長さ)を大きくするほど耐摩耗性が高められる反面、耐焼付性が低下してしまうことが確認された。
【0005】
内燃機関の過給機は、その作動時に軸受使用環境が高温となり、潤滑油の粘度が低下する。そして、潤滑油の粘度が低下し過ぎると、すべり軸受の摺動面と相手軸との隙間に十分な油膜の形成がなされなくなり、すべり軸受の摺動面と相手軸との表面が直接接触するようになる。上記した特許文献1に開示されるすべり軸受は、すべり軸受の摺動面における黄銅のマトリクス表面に硫化膜が形成され難くなっているため、黄銅のマトリクスと相手軸との金属同士の接触が起こり、耐焼付性が低下してしまう。
【0006】
本発明は、上記した事情に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、耐焼付性に優れた内燃機関用過給機のすべり軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するために、請求項1に係る発明は、Znが25〜45質量%、Siが0.3〜2.0質量%、Mnが1.5〜6.0質量%、残部がCu及び不可避的不純物からなる銅合金によって構成し、回転軸を支承する円筒形状に形成された内燃機関用過給機のすべり軸受において、銅合金のマトリクス中には、すべり軸受の摺動面における回転軸の軸線方向に伸張する晶出型Mn−Si系化合物を分散させており、晶出型Mn−Si系化合物の平均粒子間距離を20〜80μmとすることを特徴とする。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の内燃機関用過給機のすべり軸受において、晶出型Mn−Si系化合物に加えて析出型Mn−Si系化合物を分散させており、晶出型Mn−Si系化合物及び析出型Mn−Si系化合物を含むMn−Si系化合物の平均粒子間距離を5〜30μmとすることを特徴とする。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2記載の内燃機関用過給機のすべり軸受において、銅合金は、さらにFe、Al、Ni、Sn、Cr、Ti、Mo、Co、Zr、Sbより選択される少なくとも1種以上を総量で5質量%以下含有することを特徴とする。
【0010】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の内燃機関用過給機のすべり軸受において、銅合金は、さらにPb、Biより選択される少なくとも1種以上を総量で5質量%以下含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明は、銅合金のマトリクス中に、すべり軸受の摺動面における回転軸の軸線方向に伸張する晶出型Mn−Si系化合物を分散させている。この晶出型Mn−Si系化合物とは、Mn原子5個とSi原子3個からなる化合物であり、銅合金のマトリクス中に針状の粒の形態で分散している。すなわち、本発明の「すべり軸受の摺動面における回転軸の軸線方向に伸張する晶出型Mn−Si系化合物」とは、図1に示すように、晶出型Mn−Si系化合物の針状の粒の長径を、すべり軸受の摺動面における回転軸の軸線方向に向いて配設した状態であり、このようにすると、すべり軸受の耐摩耗性が高まる。なお、本発明は、少なくともすべり軸受の摺動面において、晶出型Mn−Si系化合物が、すべり軸受の摺動面における回転軸の軸線方向に向いて配設するようにしても良い。ただし、この構成及び効果は、本発明の特有な構成でなく、その効果も上記した特許文献1に開示されているため、詳細な説明は省略する。また、晶出型Mn−Si系化合物は、平均の伸長長さ(長径)が10μm未満であると、すべり軸受の耐摩耗性が向上するという効果が失われることが実験で確認された。このため、本発明のすべり軸受は、晶出型Mn−Si系化合物の平均の伸長長さ(長径)を10μm以上とする必要がある。
【0012】
また、銅合金のマトリクスに晶出型Mn−Si系化合物を分散したすべり軸受は、過給機の作動時に銅合金の温度が上昇すると、銅合金マトリクスと晶出型Mn−Si系化合物との熱膨張量の差により、Mn−Si系化合物の周囲の銅合金のマトリクスを構成する金属原子の配列に欠陥(歪み)が生じる。原子の配列に欠陥(歪み)が生じた銅合金のマトリクスは、活性状態となり、潤滑油中に存在する硫黄成分と反応が起き易くなる。
【0013】
そして、請求項1に係る発明のように、銅合金のマトリクス中に分散した晶出型Mn−Si系化合物の平均粒子間距離を20〜80μmとすると、すべり軸受の摺動面における銅合金のマトリクスの全体が、晶出型Mn−Si系化合物との熱膨張量の差による影響を受けるようになるため、均質に活性状態となり、銅合金のマトリクスの表面に早期に硫化膜を形成することが可能となる。なお、平均粒子間距離とは、銅合金のマトリクス中に分散したMn−Si系化合物の粒の表面と、その粒が最も近接する他のMn−Si系化合物の粒の表面との間の距離の平均値であり、Mn−Si系化合物の粒間に存在する銅合金のマトリクスの平均の長さを表すことになる。このように、本発明のすべり軸受は、銅合金のマトリクス中に、すべり軸受の摺動面における回転軸の軸線方向に伸張する晶出型Mn−Si系化合物を分散させたという構成に加えて、銅合金のマトリクス中に分散した晶出型Mn−Si系化合物の平均粒子間距離を20〜80μmとするという特徴的な構成によって、過給機の作動時に銅合金のマトリクスの表面に早期に非金属である硫化膜が形成されるため、相手軸表面との金属面同士の摺動となることを防ぎ、すべり軸受の耐焼付性を高めることができる。
【0014】
なお、晶出型Mn−Si系化合物の平均粒子間距離が20μm未満では、その平均の伸長長さ(長径)が10μm未満となることが実験で確認されている。この場合、上記したように、すべり軸受の耐摩耗性が向上するという効果が失われてしまう。一方、晶出型Mn−Si系化合物の平均粒子間距離が80μmを超えると、Mn−Si系化合物の粒間の中央部付近の銅合金のマトリクスが、過給機の作動時にMn−Si系化合物との熱膨張量の差による影響を受け難くなるため、銅合金のマトリクスの表面に硫化膜が形成し難くなる。
【0015】
請求項2に係る発明は、銅合金のマトリクス中に、晶出型Mn−Si系化合物に加えて析出型Mn−Si系化合物の粒を分散させている。銅合金の鋳造時には、銅合金の溶湯中にMnとSiとの化合物(晶出型Mn−Si系化合物)が晶出する。銅合金の溶湯の冷却速度を遅くした場合には、銅合金が含有するMnとSiの殆どが化合物として晶出するので、銅合金のマトリクス中には、図1に示すように、晶出型Mn−Si系化合物が分散するようになる。一方、銅合金の溶湯の冷却速度を速くした場合には、銅合金が含有するMnとSiの一部が化合物として晶出することなく、銅合金のマトリクス中に過飽和に固溶するので、銅合金のマトリクス中には、図2に示すように、析出型Mn−Si系化合物が、晶出型Mn−Si系化合物の間の銅合金のマトリクス中に分散するようになる。本願の析出型Mn−Si系化合物は、針状の晶出型Mn−Si系化合物よりも相対的に小さく、ほぼ球状の粒の形態で分散するため、耐摩耗性への影響は小さいが、晶出型Mn−Si系化合物の間の銅合金のマトリクス中に分散するため、Mn−Si系化合物の平均粒子間距離を短くできる。なお、析出型Mn−Si系化合物の分散状態は、鋳造条件の適正化や熱処理を施すことにより、制御が可能であることを実験で確認している。
【0016】
そして、請求項2に係る発明のように、銅合金のマトリクス中に分散した晶出型Mn−Si系化合物及び析出型Mn−Si系化合物を含むMn−Si系化合物の平均粒子間距離を5〜30μmとすると、すべり軸受の摺動面における銅合金マトリクスの全体が、晶出型Mn−Si系化合物及び析出型Mn−Si系化合物との熱膨張量の差による影響を受け易くなるため、銅合金のマトリクスの全面に早期に硫化膜を形成することが可能となる。
【0017】
なお、晶出型Mn−Si系化合物及び析出型Mn−Si系化合物を含むMn−Si系化合物の平均粒子間距離が5μm未満では、晶出型Mn−Si系化合物の伸長長さ(長径)が10μm未満となることが実験で確認されている。これは、析出型Mn−Si系化合物を多く分散させて平均粒子間距離を短くする場合、鋳造時の溶湯の冷却速度をさらに速くする必要があり、晶出型Mn−Si系化合物が大きく成長しないためと考えられる。
【0018】
Znは、耐食性に寄与する元素であり、25〜45質量%含有させている。Znが25質量%未満では、耐食性が十分でなく、45質量%を越えると、材料が脆くなる。より好ましくは、Znの含有量が28〜40質量%の範囲である。
【0019】
Siは、Mnと反応し、耐摩耗性の向上に寄与する化合物を形成する元素であり、0.3〜2.0質量%含有させている。Siが0.3質量%未満では、Mn−Si系化合物の形成量が少ないため、耐摩耗性が不十分となる。また、Siが2.0質量%を越えると、過剰にMn−Si系化合物が形成され、材料が脆くなる。より好ましくは、Siの含有量が0.6〜1.4質量%の範囲である。
【0020】
Mnは、Siと反応し、耐摩耗性の向上に寄与する化合物を形成する元素であり、1.5〜6.0質量%含有させている。Mnが1.5質量%未満では、Mn−Si系化合物の形成量が少ないため、耐摩耗性が不十分となる。また、Mnが6.0質量%を越えると、材料が脆くなる。より好ましくは、Mnの含有量が2.0〜4.0質量%の範囲である。
【0021】
銅合金には、請求項3に係る発明のように、さらにFe、Al、Ni、Sn、Cr、Ti、Mo、Co、Zr、Sbより選択される少なくとも1種以上を総量で5質量%以下含有させてもよい。これらの元素は、銅合金のマトリクスの強化に寄与する元素であるが、0.1質量%未満であるとその効果がなく、5質量%を越えると、材料が脆くなる。また、これらの元素は、MnやSiと結合し、化合物を形成することもある。本発明における晶出型Mn−Si系化合物又は析出型Mn−Si系化合物は、上記の元素との化合物であってもよい。
【0022】
銅合金には、請求項4に係る発明のように、さらにPb、Biより選択される少なくとも1種以上を総量で5質量%以下含有させてもよい。これらの元素は、潤滑性の向上に寄与する元素であるが、0.1質量%未満であるとその効果がなく、5質量%を越えると、材料が脆くなる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】銅合金のマトリクス中に晶出型Mn−Si系化合物を分散したすべり軸受の摺動面を示す模式図である。
【図2】銅合金のマトリクス中に晶出型Mn−Si系化合物及び析出型Mn−Si系化合物を分散したすべり軸受の摺動面を示す模式図である。
【図3】従来例として銅合金のマトリクス中に晶出型Mn−Si系化合物を分散したすべり軸受の摺動面を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本実施形態に係るMn−Si系化合物を分散した銅合金を用いた実施例A〜Fと比較例A〜Cについて、Mn−Si系化合物の平均粒子間距離を測定すると共に、硫化膜形成の評価及び焼付試験を行った。実施例A〜F及び比較例A〜Cの成分組成を表1に示す。実施例A〜F及び比較例A〜Cは全て、鋳造法により表1に示す成分組成の銅合金鋳物を作製した後、熱間押出加工を施し円筒形状のすべり軸受を作製した。また、鋳造時においては、銅合金のマトリクス中にMn−Si系化合物を晶出させた。この銅合金鋳物は、熱間押出加工を施すことにより、晶出型Mn−Si系化合物が、すべり軸受の摺動面における相手軸の軸線方向に伸張するように配設した。また、銅合金鋳物を作製するときの鋳造条件や熱間押出加工時の条件を変えることにより、すべり軸受の摺動面における銅合金のマトリクス中に分散したMn−Si系化合物の平均粒子間距離が表1に示す距離となるように制御した。
【0025】
【表1】

【0026】
実施例A〜Cは、Znが35質量%、Siが0.3〜2.0質量%、Mnが1.5〜6.0質量%、残部がCuからなる合金成分で鋳造し、鋳造条件や押出加工条件を適正にすることにより、銅合金のマトリクス中に分散した晶出型Mn−Si系化合物の平均粒子間距離が20〜80μmの範囲内となるように制御した。なお、実施例A〜FにおけるZnの含有量を25〜45質量%の範囲内とした場合にも、晶出型Mn−Si系化合物の平均粒子間距離が20〜80μmの範囲内となるように制御が可能であることを実験で確認している。
【0027】
実施例D,Eは、それぞれ実施例A,Cと同じ合金成分であるが、実施例A〜Cよりも銅合金の溶湯の冷却速度を速くし、銅合金が含有するMnとSiの一部をMn−Si系化合物として晶出させることなく、銅合金のマトリクス中に過飽和に固溶させることにより、銅合金のマトリクス中に晶出型Mn−Si系化合物だけでなく析出型Mn−Si系化合物が分散するように制御すると共に、晶出型Mn−Si系化合物及び析出型Mn−Si系化合物を含むMn−Si系化合物の平均粒子間距離が5〜30μmの範囲内となるように制御した。
【0028】
実施例Fは、実施例AにFe、Al、Ni、Sn、Pb、Biを添加した合金成分で鋳造し、実施例A〜Cと同条件で作製することにより、銅合金のマトリクス中に分散した晶出型Mn−Si系化合物の平均粒子間距離が20〜80μmの範囲内となるように制御した。なお、実施例Fの元素に限定されず、本願の銅合金にCr、Ti、Mo、Co、Zr、Sbを添加した場合にも、晶出型Mn−Si系化合物の平均粒子間距離が20〜80μmの範囲内となるように制御が可能であることを実験で確認している。
【0029】
比較例A,Bは、それぞれ実施例A,Cと同じ合金成分であるが、耐摩耗性を極めて高めるため、鋳造時に晶出型Mn−Si系化合物を粗大に成長させている。その結果、晶出型Mn−Si系化合物の平均粒子間距離が80μmよりも大きくなったものである。
【0030】
比較例Cは、実施例A〜CよりもMnやSiの含有量が少ないため、Mn−Si系化合物の晶出量も少なく、実施例A〜Cと同条件で作製しても、晶出型Mn−Si系化合物の平均粒子間距離が80μmよりも大きくなったものである。
【0031】
Mn−Si系化合物の平均粒子間距離は、銅合金のマトリクス中に分散したMn−Si系化合物の粒の表面と、その粒が最も近接する他のMn−Si系化合物の粒の表面との間の距離の平均値である。この平均粒子間距離は、電子顕微鏡を用いて軸受摺動表面の組成像を倍率200倍で撮影し、得られた組成像から一般的な画像解析手法(解析ソフト:Image−Pro Plus(Version4.5);(株)プラネトロン製等)を用いて測定した。その測定結果を表1に示す。
【0032】
次に、実施例A〜F及び比較例A〜Cのすべり軸受について、硫化膜形成の評価を実施した。まず、実施例A〜F及び比較例A〜Cのすべり軸受は、摺動面が金属光沢(黄銅合金の場合には黄金色)を呈していることを目視で確認した。そして、実施例A〜F及び比較例A〜Cのすべり軸受について、軸受試験機を用い、表2に示す条件で摺動テストを行なった。摺動テスト後のすべり軸受の摺動面を目視で観察することにより、摺動面が金属光沢を呈しているか否かを確認し、硫化膜形成の有無を評価した。評価基準は、摺動テスト後のすべり軸受の摺動面の全面が金属光沢を失っている場合を硫化膜形成が「有り」とし、摺動面の一部に金属光沢が残っている場合を硫化膜形成が「無し」とした。その結果を表1に示す。
【0033】
【表2】

【0034】
実施例A〜Fには、何れもすべり軸受の摺動面における銅合金のマトリクスの表面に均一な硫化膜が形成されたのに対し、比較例A〜Cには、摺動面の大部分に金属光沢を呈する部分が残っており、すべり軸受の摺動面における銅合金のマトリクスの表面の全体には硫化膜が形成されていなかった。これは、実施例A〜C,Fについて、銅合金のマトリクス中に分散した晶出型Mn−Si系化合物の平均粒子間距離が20〜80μmの範囲内となる構成とし、実施例D,Eについて、銅合金のマトリクス中に分散した晶出型Mn−Si系化合物及び析出型Mn−Si系化合物を含むMn−Si系化合物の平均粒子間距離が5〜30μmの範囲内となる構成とした。このため、すべり軸受の摺動面における銅合金マトリクスの全体が、Mn−Si系化合物との熱膨張量の差による影響を受けるようになるため、均質に活性状態となり、銅合金のマトリクスの表面に均一な硫化膜が形成されたためである。
【0035】
これに対し、比較例A〜Cについては、銅合金のマトリクス中に分散した晶出型Mn−Si系化合物の平均粒子間距離が80μmを超える構成としたことにより、Mn−Si系化合物の粒間の中央部付近の銅合金のマトリクスが、Mn−Si系化合物との熱膨張量の差による影響を受け難くなり、銅合金のマトリクスの表面に均一な硫化膜が形成されなかったためである。
【0036】
次に、実施例A〜F及び比較例A〜Cのすべり軸受について、軸受試験機を用い、表3に示す条件で焼付試験を行なった。なお、すべり軸受の背面温度が250℃となった場合を焼付と判断し、焼付が起こらなかった限界の負荷(面圧)を表1に示す。
【0037】
【表3】

【0038】
硫化膜形成の評価にてすべり軸受の摺動面における銅合金のマトリクスの表面に早期に硫化膜が形成された実施例A〜Fについては、耐焼付性が高いのに対し、早期に硫化膜が形成されなかった比較例A〜Cについては、耐焼付性が低い。これは、実施例A〜Fについて、すべり軸受の摺動面における銅合金のマトリクスの表面に早期に非金属である硫化膜が形成されることにより、相手軸表面と金属面同士の摺動となることを防ぐためである。また、実施例D,Eについては、銅合金のマトリクス中に晶出型Mn−Si系化合物だけでなく析出型Mn−Si系化合物が分散することにより、晶出型Mn−Si系化合物及び析出型Mn−Si系化合物を含むMn−Si系化合物の平均粒子間距離が短く、より早期に硫化膜が形成されるため、特に耐焼付性が高くなったと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Znが25〜45質量%、Siが0.3〜2.0質量%、Mnが1.5〜6.0質量%、残部がCu及び不可避的不純物からなる銅合金によって構成し、回転軸を支承する円筒形状に形成された内燃機関用過給機のすべり軸受において、
前記銅合金のマトリクス中には、前記すべり軸受の摺動面における前記回転軸の軸線方向に伸張する晶出型Mn−Si系化合物を分散させており、前記晶出型Mn−Si系化合物の平均粒子間距離を20〜80μmとすることを特徴とする内燃機関用過給機のすべり軸受。
【請求項2】
前記銅合金のマトリクス中には、前記晶出型Mn−Si系化合物に加えて析出型Mn−Si系化合物を分散させており、前記晶出型Mn−Si系化合物及び前記析出型Mn−Si系化合物を含むMn−Si系化合物の平均粒子間距離を5〜30μmとすることを特徴とする請求項1記載の内燃機関用過給機のすべり軸受。
【請求項3】
前記銅合金は、さらにFe、Al、Ni、Sn、Cr、Ti、Mo、Co、Zr、Sbより選択される少なくとも1種以上を総量で5質量%以下含有することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の内燃機関用過給機のすべり軸受。
【請求項4】
前記銅合金は、さらにPb、Biより選択される少なくとも1種以上を総量で5質量%以下含有することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の内燃機関用過給機のすべり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−179600(P2011−179600A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−44753(P2010−44753)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【出願人】(591001282)大同メタル工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】